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特許7515509高コンシステンシーナノセルロース懸濁液のフィルムを製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】高コンシステンシーナノセルロース懸濁液のフィルムを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 7/01 20060101AFI20240705BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20240705BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B29D7/01
D21H11/18
D21H15/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021559167
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 FI2020050208
(87)【国際公開番号】W WO2020201627
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】20195275
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
【氏名又は名称原語表記】TEKNOLOGIAN TUTKIMUSKESKUS VTT OY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴィナイ クマール
(72)【発明者】
【氏名】アーユシュ クマール ジャイスワル
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527483(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093510(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0002658(US,A1)
【文献】特開平08-120593(JP,A)
【文献】特表2019-501255(JP,A)
【文献】特表2018-504529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00 - 41/52
B29D 7/00
B32B 1/00 - 43/00
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースからフィルムを製造するための方法であって、少なくとも、
飾または非修飾ナノセルロース懸濁液を、添加剤の有無にかかわらず、少なくとも5wt.%の全固形分で、少なくとも1つの基材が多孔質である2つの基材の間に供給して、多層構造を得る、ステップと、
前記多層構造を、制御されたギャップを有する1つ以上のニップに通してフィルムを形成する、ステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ナノセルロース懸濁液は、修飾または非修飾形態で、セルロースナノフィブリル(CNF)、マイクロフィブリルセルロース(MFC)、セルロースナノ結晶(CNC)またはバクテリアセルロース懸濁液、またはこれらの任意の混合物からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノセルロースの質量百分率は、前記ナノセルロース懸濁液の総乾燥質量の少なくとも50%であり、一方、乾燥質量の残りは、添加剤からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フィルム製造に使用される前記ナノセルロース懸濁液のコンシステンシーは、5~60%の範囲にあることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
フィルム製造に使用される前記ナノセルロース懸濁液の前記コンシステンシーは、少なくとも10%であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ニップギャップを調整することによってフィルム厚さを制御することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フィルムは、周囲条件でまたは外部加熱を使用して乾燥されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルムを両方の基材から分離すること、それをいずれかの基材に取り付けたままにすること、または半乾燥もしくは完全に乾燥したフィルムを第3の基材に転写することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高コンシステンシーナノセルロース懸濁液のフィルムを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースフィルムは、包装における仕切り、生物医学、プリンテッドエレクトロニクスおよびセンサーのための基材、濾過膜、オプトエレクトロニクスなどのさまざまな用途に適している(文献[1])。ナノセルロースフィルムは丈夫で透明であり、空気、酸素、鉱油およびグリースに対する優れたバリア特性とともに、官能化能力を示す。それゆえ、これらのフィルムは、上記のさまざまな用途において、非生分解性および石油ベースプラスチックの優れた代替品となる可能性を有する。
【0003】
これまで、このようなフィルムの製造は、低コンシステンシー(0.1~3%)のナノセルロース懸濁液を使用することによってのみ可能であった。これは、高濃度のナノセルロース懸濁液の高粘度と降伏応力がフィルム形成に課題をもたらすためである。高コンシステンシーナノセルロース懸濁液のレオロジー挙動は、ナイフ、ブレード、フレキソグラフィ、リバースグラビアなどの従来のフィルム形成方法には適していないため、それゆえ、材料を希釈してフィルムを製造する。しかしながら、これらの希釈懸濁液は、大きな乾燥能力を必要とし、そのような大きな乾燥セクションは、連続プロセスで構築することがしばしば実行可能ではない。さらに、乾燥中の収縮に関連する問題は、フィルムの品質を低下させる。
【0004】
国際公開第2017/115020号は、高コンシステンシー酵素フィブリル化セルロースからフィルムを製造する方法を記載している(文献[2])。高コンシステンシーナノセルロース原料を用いたこのような方法は、原料が蒸発するのにより少ない水分を含有するため、従来の方法と比較してより少ないエネルギーを消費するプロセスでフィルムの製造を可能にする。しかし、この方法は、例えば、均質で欠陥のない湿式フィルムをいかに確保するかについては言及されていない。さらに、この方法は、原材料を希釈して、金属ベルトにキャストされ得る粘度を達成するか、または押出装置を使用してフィルムを形成することを提案している。
【0005】
国際公開第2016/174348号は、フィブリル化セルロース層を備えるラミネート材料を製造するためのプロセスを記載している(文献[3])。このプロセスでは、5~18%の乾燥繊維マットを得るために、多孔質基材上に材料を堆積させることにより、フィブリル化セルロースの希釈懸濁液(0.1~4%のコンシステンシー)から水を排出する。しかしながら、この方法は、湿式繊維マットの乾燥中の収縮を回避することを扱っていない。加えて、この方法は、スタンドアロンフィルムの製造については記載していない。
【0006】
国際公開第2018/092056号は、多孔質支持体上に希釈懸濁液を排出することによって(ワイヤー形成)または非多孔質基材上に希釈懸濁液をキャストすることによって(キャスト形成)ナノセルロースフィルムを形成するプロセスを記載している(文献[4])。ただし、高コンシステンシー懸濁液の使用については、この方法では言及されていない。加えて、フィルム上のワイヤーマークの繰り返しの問題は取り組まれていない。
【0007】
国際公開第2018/138702号は、国際公開第2018/092056号と同様のプロセスを記載しているが、非多孔質基材の上に湿式ナノセルロースの複数の層をキャストして、相対湿度50%で酸素透過率が10ml/m.day未満の酸素透過率を有するフィルムを得るというわずかな違いを有する(文献[5])。この方法でも、高コンシステンシー懸濁液の使用については言及されていない。
【0008】
したがって、そのようなフィルムのエネルギーおよび費用効率の高い生産を確実にするために、高コンシステンシーナノセルロース懸濁液を使用して、強力で欠陥のないフィルムを製造するための連続プロセスが必要である。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの特定の実施形態は、従属請求項において定義される。
【0010】
本発明の一態様によれば、ナノセルロース懸濁液のフィルムを高コンシステンシーで製造するための方法が提供される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、ナノセルロース懸濁液から連続フィルムを製造するための方法が提供され、これは、セルロースナノフィブリル(CNF)、マイクロフィブリルセルロース(MFC)、セルロースナノ結晶(CNC)またはバクテリアセルロース懸濁液であり得る。
【0012】
ここで、(a)高コンシステンシーの出発材料、(b)特定の表面およびバルク特性を有する基材材料および(c)適切なギャップ内に制限されたフィルム形成の組み合わせは、調整可能な厚さを有するスタンドアロンフィルムの迅速なロールツーロール生産および類似であるが低コンシステンシーの出発材料を使用する既存の方法と比較した乾燥エネルギー需要の減少をもたらす。
【0013】
これらおよび他の態様は、既知の解決策に対するそれらの利点とともに、以下に説明および請求されるように、本発明によって達成される。
【0014】
本発明の方法は、主に、請求項1の特徴的な部分に記載されていることによって特徴づけられる。
【0015】
本発明により、かなりの利点が得られる。例えば、本発明のプロセスは、既存のプロセスインフラストラクチャを利用し、高コンシステンシーの開始懸濁液を使用することによって乾燥エネルギー需要を低減し、フィルム形成プロセスがライン速度によって制限されないナノセルロースからの連続バリアフィルムの製造を可能にする。加えて、製造された連続フィルムは、欠陥がなく、均質であり、十分に制御された特性を有し、それにより、例えば、包装、生物医学、および電子産業によって要求される目的において使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のフィルム形成アセンブリの概略図である。
図2】実施例2のフィルム形成プロセスの概略図である。
図3】実施例3のフィルム形成プロセスの概略図である。図1、2、および3は例示的であり、限定的ではなく、したがって、唯一の可能な機械アセンブリを表すものではない。フィブリル化セルロースフィルムの製造は、本発明の範囲内にとどまりながら、概略的に示されているものとは異なる計測システムの配置を使用することによって達成され得る。
図4a】固形分10%でのCNF材料の外観の例である。
図4b】提示された方法を使用して製造されたナノセルロースフィルムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本技術について、特定の実施形態を参照してより詳細に説明する。
【0018】
(実施形態)
本技術は、10%以上のコンシステンシーで欠陥のないナノセルロースフィルムを製造する方法を提供する。このプロセスにより、スタンドアロンのナノセルロースフィルムの迅速なロールツーロール生産が可能になる。原材料の高いコンシステンシーにより、乾燥エネルギーの需要が減少し、ライン速度に制限されないフィルム形成プロセスが提供される。
【0019】
ナノセルロース:ナノスケールにおいて任意の外寸を備える、主にセルロースから構成される材料または主にセルロースから構成される内部構造もしくは表面構造を備える、ナノスケールにおいて内部構造もしくは表面構造を有する材料。ナノセルロースの代替用語は、セルロースナノ材料である(文献[6])。
【0020】
マイクロ/ナノフィブリルセルロース:マイクロメートルサイズの要素(繊維片)と少なくとも50%の数のナノオブジェクト(つまり、1~100ナノメートルの少なくとも1つの寸法を有するオブジェクト)から構成される不均質なナノ材料。これらのセルロースナノオブジェクトは、マイクロフィブリル(MFC)またはナノフィブリル(NFCまたはCNF)と呼ばれ、通常、3~100nmのオーダーの直径および0.5~100μmの長さを有する(文献[3]、[6])。
【0021】
ナノ結晶セルロース:幅3~50nm、長さ100nmから数マイクロメートルの寸法を有する純粋な結晶構造を有するセルロースナノファイバーの一種。ナノ結晶セルロース(NCC)という用語は、セルロースナノ結晶(CNC)という用語と同義である。
【0022】
ナノセルロース懸濁液:そのコンシステンシーが懸濁液全体中の乾燥物の質量パーセントとして定義される、ナノセルロースの水性または溶媒ベースの懸濁液。
【0023】
添加剤(本文脈において):元の懸濁液の物理的または化学的特性を変更するためにナノセルロース懸濁液に添加され、プロセスで製造されるフィルムに組み込まれる材料。添加剤の例は、結合剤、分散剤、鉱物粒子、金属酸化物、可塑剤、レオロジー調整剤、架橋剤、抗菌剤などであるが、これらに限定されない。
【0024】
基材(本文脈において):プロセス全体を通して、供給材料およびその後に形成されるフィルムを支持する材料ウェブ。基材は、分離またはプロセスの最後に製造したフィルムに取り付けたままのいずれかにされ得る。基材の例は、金属、プラスチック、高分子膜、板紙、織布および不織布またはフェルトなどであるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明は、以下のプロセスステップに基づく。
ナノセルロースは、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびソルビトールなどの選択された添加剤と最適な量で混合され、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%の固形分の懸濁液が得られる。このコンシステンシーでは、懸濁液は高粘度でペースト状の性質を有するため、特殊な粉砕プロセスを使用することで混合が容易になり、軟質繊維のフロックをも分解する。
次に、高コンシステンシー懸濁液は、2つの基材の間に供給され、一方の基材は、好ましくは多孔質であり、他方の基材は非多孔質である。これにより、懸濁液が2つの基材の間にある、多層構造が作成される。したがって、本明細書では、多層構造は、例えば、図1~3に記載されているように、材料供給ならびに基材1および2からなる中間構造として理解されるべきである。多孔質基材の細孔サイズは、事実上、水のみが基材を通過可能にするために、ナノセルロース繊維の寸法より大きくしてはならない。両方の基材を多孔質になるよう選択することもまた可能である。
次に、多層構造は、続いてギャップが減少するか、または連続的に減少するギャップを有する滞留時間が長いニップを有する、1つ以上のニップを通過し、連続フィルムを形成する。フィルム厚さは、フィルム形成時にニップギャップを調整することによって制御される。2つの表面間の地形の違いは、フィルムの広がりおよび形成において重要な役割を果たし、欠陥を排除することに留意されたい。
次に、多層構造は、それ自体で水分を蒸発させることを可能にする多孔質基材での外部加熱およびフィルムにおける収縮を防ぐ2つの基材間へのフィルムの閉じ込めなどで乾燥される。
乾燥した欠陥のないナノセルロースフィルムは、両方の基材を剥がすことで除去され、同じプロセスで複数回再利用され得る。必要に応じて、半乾燥状態(20~70%の乾燥)でも多層構造からフィルムを抽出可能なことに注意しなければならない。
【0026】
したがって、本発明の一実施形態によれば、本方法は、少なくとも、
添加剤の有無にかかわらず、ナノセルロースを使用して、少なくとも5%、好ましくは、10%を超えるコンシステンシーを有する均質な懸濁液を得る、ステップと、
少なくとも1つの基材が多孔質である2つの基材の間に懸濁液を供給して、懸濁液が2つの基材の間に配置されている多層構造を得る、ステップと、
多層構造をギャップが連続的に減少する1つ以上のニップに通過させ、連続フィルム構造を形成する、ステップと、
連続フィルム構造を熱または周囲条件下で乾燥させる、ステップと、
両方の基材を剥がすか、または半乾燥フィルム(20~70%の乾燥度)を第3の基材に転写してフィルムを分離する、ステップと、
を含む。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、ナノセルロース材料は、セルロースナノフィブリル(CNF)、マイクロフィブリルセルロース(MFC)、セルロースナノ結晶(CNC)またはバクテリアセルロース懸濁液のいずれかである。
【0028】
本発明の一実施形態では、添加剤は、ソルビトールおよびカルボキシメチルセルロース(CMC)から選択されるが、添加剤の選択は、これらの材料に限定されない。他の適切な添加剤の例は、グリセロール、ポリビニルアルコール(PVA)、カラギーナン、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、デンプンなどである。
【0029】
本発明の一実施形態では、ナノセルロースまたはマイクロセルロースの質量パーセントは、懸濁液全体の50~100%であり、一方、残りの質量は添加剤からなる。
【0030】
本発明の一実施形態では、フィブリル化セルロースのコンシステンシー、すなわち、フィルム製造に使用される懸濁液の固形分は、5~60重量%の範囲、好ましくは少なくとも10重量%である。
【0031】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの基材は多孔質であり、両方の基材の表面粗さは、0.1~10μmの範囲にある。本明細書では、表面粗さは、供給懸濁液と接触している基材の表面に対して定義される。基材の表面粗さは、フィルムの粗さ、広がりおよび形成に関する重要な要素である。
【0032】
本発明の一実施形態では、プロセスは、ナノセルロースフィルムを製造するための少なくとも2つのローラーニップを備える。ただし、滞留時間が長いニップが1つのみである場合もあり得、ローラーニップと同様の効果を得る。ローラーニップ、長滞留ニップ、およびブレード、ナイフ、ロッドなどの計測要素の組み合わせを使用して、本発明を使用してフィルムを製造することもできる。滞留時間が長いニップまたは複数のローラーニップを使用すると、例えば均質性および滑らかさの点で、製造されたフィルムの特性がさらに改善される。
【0033】
本発明の一実施形態では、フィルムの厚さは、最終製品の所望の厚さに応じてニップギャップを調整することによって制御される。10~500μmの間の最終的なフィルム厚さは、本発明の範囲に属する。
【0034】
本発明の一実施形態では、連続多層構造は、好ましくは接触乾燥、赤外線乾燥および熱風衝突乾燥、あるいはこれらの組み合わせからなる外部加熱で乾燥される。多孔質基材は、それ自体を通して水分を蒸発させることを可能にし、湿式フィルムと多層構造内の基材との間の接着力は、フィルムの収縮を防ぐ。
【0035】
本明細書全体を通して一実施形態または実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所での「in one embodimen(一実施形態において)」または「in an embodiment(実施形態において)」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。例えば、about(約)またはsubstantially(実質的に)などの用語を使用して数値を参照する場合、正確な数値も開示される。
【0036】
本明細書で使用される場合、複数の項目、構造要素、構成要素および/または材料は、便宜上、共通のリストに提示され得る。ただし、これらのリストは、リストの各要素が独立した一意の要素として個別に識別されるように解釈されるべきである。前述の例は、1つ以上の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、当業者には、発明能力の実行なしにおよび本発明の原理および概念から逸脱することなく、実施の形態、使用法、および詳細の多数の変更が行われ得ることが明らかである。したがって、以下に記載される特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0037】
この文書では、「to comprise(備える)」および「to include(含む)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を除外または要求しない非限定的制限として使用される。従属請求項に記載される特徴は、別段の記載がない限り、相互に自由に組み合わせられる。
【0038】
提示された作業例は水平構成で図示されているが、提示された技術の適用可能性は水平構成に限定されない。本発明の技術は、傾斜構成または垂直構成で直接使用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明を使用して製造されたナノセルロースフィルムは、良好な機械的強度を有し、空気、酸素、鉱油およびグリースに対して優れたバリア特性を示す。それらは、パッケージ製品の非生分解性石油ベースのプラスチック層を置き換えるための最有力候補の1つである。さらに、電子機器、生物医学、エネルギー貯蔵、建設、濾過、物流の各業界での用途も見いだされる。
【実施例
【0040】
本発明によるプロセスは、2つの操作に分けられ得る。
1.高コンシステンシー供給混合物の調製
2.フィルム形成法
【0041】
(1.高コンシステンシー供給混合物の調製)
フィルム製造に使用される最終混合物の総コンシステンシーは、5~60%の範囲であり得る。最終混合物中の乾燥物のうち、ナノセルロースの質量パーセントは、50~100%の間であり得、残りの質量は添加剤で構成される。添加剤の性質は、有機または無機であり得る。均質なフィルムを得るためには、添加剤とナノセルロース材料との均質な混合を確保しなければならない。配合例を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(2.フィルム形成法)
提示された方法でフィルムを形成するには、2つの基材が必要である。2つの基材のうち少なくとも1つは多孔質で、平均細孔径が10μm未満でなければならない。基材は、織布または不織布のいずれかであり得る。供給材料は、サンドイッチ構造を作成するために2つの基材の間に抑制され、続いて、サンドイッチ構造は、計測要素を使用して圧縮され、所望の厚さの湿式フィルムを得る。
【実施例1】
【0044】
(1)マイクロフィブリルセルロース(MFC)を、CMCおよびソルビトールの水性懸濁液と乾燥質量比で100:1:20の比率で混合し、10%のコンシステンシーの供給混合物を得た。このコンシステンシーでは、混合物は、非常に粘性が高く、軟質繊維フロックをも分解する高コンシステンシーミキサー(ウィンクワースシグマブレードミキサー)を使用することによって、混合が容易になった。
【0045】
(2)次に、高コンシステンシーの供給混合物を2つの基材(基材1および基材質2)の間に供給した。ここで、基材1は多孔質濾過膜であり、基材2はポリプロピレン(PP)である。こうして、多層構造を作成した。
【0046】
(3)次に、多層構造をローラーニップに通し、ギャップを連続的に減らして、連続的で均一なフィルムを形成した(図1を参照されたい)。過剰な供給材料は、縁からの押し出しによって多層構造を出て、そこで再循環のために収集された。フィルムの厚さを、ローラー1とローラー2との表面間のギャップがローラー2とローラー3との間のギャップよりも大きい、2つのニップ内ギャップを調整することによって制御した。この場合、ニップギャップをそれぞれ1mmと500μmに設定した。現在の例では2つのニップのみが示されているが、複数のニップを使用することも可能である。
【0047】
(4)さらに、多層構造を乾燥セクションに取り入れた。乾燥には、赤外線乾燥と熱風衝突乾燥とを組み合わせて使用した。多孔質基材により、2つの基材間の閉じ込めがフィルムの収縮を回避しながら、それ自体を通して水分を蒸発させ、乾燥が可能となった。
【0048】
(5)次に、乾燥したMFCフィルムを、基材1および基材2を剥がすことによって抽出した。
【実施例2】
【0049】
(1)酵素的フィブリル化されたセルロースをCMCおよびソルビトールの水性懸濁液と混合して、20%のコンシステンシーの供給混合物を得た。ここで、フィブリル化セルロースの質量パーセントは、混合物中の総乾燥質量の82%であった。高コンシステンシーミキサーを使用することによって、混合が容易になった。
【0050】
(2)次に、高コンシステンシーの供給混合物を2つの基材(基材1および基材2)の間に供給した。ここで、基材1は多孔質濾過膜であり、基材2はポリエチレンテレフタレート(PET)である。こうして、多層構造を作成した。
【0051】
(3)現在の例では、ニップおよびナイフのセットは1つしか示されていないが、しかし、複数のニップおよび計測要素を使用することが可能である。
【0052】
(4)次に、多層構造をローラーニップに通し、続いて剛性ナイフを使用した形成で、均一なフィルムを形成した(図2を参照されたい)。過剰な供給材料は、ウェブの縁からの押し出しによってサンドイッチ構造を出て、そこで再循環のために収集された。フィルムの厚さを、ローラー間および計測ナイフの下のギャップを調整することによって制御した。ここで、ローラー間のギャップは、計測要素の下のギャップよりも大きい。この場合、ニップギャップを1mmに設定し、ナイフギャップを500μmに設定した。現在の例では、ニップおよび計測ナイフのセットは1つしか示されていないが、しかし、複数のニップおよび計測要素を使用することが可能である。
【0053】
(5)次に、多層構造を乾燥セクションに取り入れた。乾燥には、赤外線乾燥と熱風衝突乾燥とを組み合わせて使用した。多孔質基材により、2つの基材間の閉じ込めがフィルムの収縮を回避しながら、それ自体を通して水分を蒸発させ、乾燥が可能となった。
【0054】
(6)次に、乾燥したフィブリル化セルロースフィルムを、基材1および基材2を剥がすことによって抽出する。
【実施例3】
【0055】
(1)フィブリル化セルロースをCMCおよびソルビトールの水性懸濁液と混合して、20%のコンシステンシーの供給混合物を得た。ここで、フィブリル化セルロースの質量パーセントは、混合物中の総乾燥質量の82%である。高コンシステンシーミキサーを使用することにより、混合が容易となった。
【0056】
(2)次に、高コンシステンシーの供給混合物を2つの基材(基材1および基材2)の間に供給した。ここで、基材1は多孔質濾過膜であり、基材2はポリエチレンテレフタレート(PET)である。こうして、多層構造を作成した。
【0057】
(3)次に、多層構造は、ギャップが連続的に減少する滞留時間が長いニップを通過し、ここで、最小のギャップが最終的なフィルム厚さを決定する。このセクションは、形成セクションと呼ばれる。現在の例は、滞留時間が長いニップを使用して多層構造をプレスすることによって達成された説明された構成を示す(図3を参照されたい)。過剰な供給材料は、ウェブの端からの押し出しによってサンドイッチ構造を出て、そこで再循環のために収集された。フィルムの厚さを、形成セクションの端にあるニップ内のギャップを調整することによって制御した。現在の例では1つの形成セクションのみが示されているが、複数の形成セクションを使用することも可能である。
【0058】
(4)次に多層構造を乾燥セクションに取り入れた。乾燥には、赤外線乾燥と熱風衝突乾燥とを組み合わせて使用した。多孔質基材により、2つの基材間の閉じ込めがフィルムの収縮を回避しながら、それ自体を通して水分を蒸発させ、乾燥が可能となった。
【0059】
(5)次に、乾燥したフィブリル化セルロースフィルムを、基材1および基材2を剥がすことによって抽出する。
【0060】
図4(b)は、例1で説明したプロセスを使用して製造されたフィルムを示す。このフィルムの坪量は50g/m、空気透過率は0.003μm/Pa・sであることがわかり、これは使用機器(L&W空気透過性試験機SE-166)の検出限界であるにもかかわらず、フィルムがピンホールを有しないことを示していた。KIT値はTAPPI標準(T559)に従って測定され、12であることがわかり、優れたグリースバリアが確認された。酸素透過率(OTR)は、ASTM D 3985-17の手順に従って測定した場合、23°Cおよび相対湿度50%で1cc/m.d.atm未満であった。ひずみ速度10mm/min、スパン長さ10cmで測定したとき、機械方向の平均引張強度は、54.7MPaであった。原材料と他の成分との適切な混合を確保し、材料内に閉じ込められた空気を除去することにより、引張強度をさらに向上させ得る。
【0061】
[先行技術文献]
文献[1]:T. Abitbol et al., “Nanocellulose, a tiny fiber with huge applications,” Current Opinion in Biotechnology, vol. 39, no. Supplement C. pp. 76-88, 2016.
文献[2]:国際公開第2017/115020号(V. Kunnari, J. Pere, J. Hiltunen, and K. Kemppainen, “Method of producing films from high consistency enzyme fibrillated nanocellulose,” WO 2017/115020 A1, 2017.)
文献[3]:米国特許出願公開第2018/141009号明細書(D. Guerin, Y. Rharbi, P. Huber, and V. Meyer, “Process and device for manufacturing a laminated material comprising a fibrillated cellulose layer,” US 2018/141009 A1.)
文献[4]:国際公開第2018/092056号(I. Heiskanen, K. Backfolk, E. Saukkonen, V. Ribu, and K. Lyytikainen, “Method for making a film comprising MFC,” WO 2018/092056 A1, 2018.)
文献[5]:国際公開第2018/138702号(L. Axrup, K. Isabel, C. Aulin, M. Hillergren, and T. Lindstrom, “Method of manufacturing a film comprising microfibrillated cellulose,” WO 2018/138702 A1, 2018.)
文献[6]:ISO, “ISO/TS 20477:2017 Nanotechnologies- Standard terms and their definition for cellulose nanomaterial,” International Organization for Standardization. ISO, 2017.
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】