(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌に対する新規抗微生物剤
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240705BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240705BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240705BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240705BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240705BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20240705BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240705BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240705BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240705BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240705BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20240705BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240705BHJP
C12N 9/52 20060101ALN20240705BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20240705BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61L27/22
A61L27/54
A61L31/16
A61L29/16
A61L15/32 100
A61L15/32 110
A61K38/48
A61P31/04
A61P17/02
A01P1/00
A01N63/50
A01P3/00
C12N9/52
C07K14/31
C12N15/57
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2022087717
(22)【出願日】2022-05-30
(62)【分割の表示】P 2019524022の分割
【原出願日】2017-11-20
【審査請求日】2022-06-29
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519120329
【氏名又は名称】ライサンド アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビーブル,マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】グリースル,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン,クリスティン
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0097044(US,A1)
【文献】特表2010-512761(JP,A)
【文献】特許第7112396(JP,B2)
【文献】Becker, S. C. et al.,"Triple-acting Lytic Enzyme Treatment of Drug-Resistant and Intracellular Staphylococcus aureus",Sci. Rep.,2016年04月28日,Vol. 6; 25063,pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号1で示されるLysKエンドリシンのCHAPドメイン、または配列番号1で示される前記LysKエンドリシンのCHAPドメインと、少なくとも95%の配列同一性を示す、前記LysKエンドリシンのCHAPドメインのバリアントと、
ii)配列番号3で示されるリソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインと、
iii)配列番号5で示されるALE-1の細胞壁結合ドメイン(CBD)と、
iv)抗微生物ペプチド、両親媒性ペプチド、カチオン性ペプチド、疎水性ペプチド、スシペプチド、およびデフェンシンからなる群から選択されるさらなるペプチドと、
を含むポリペプチドであって、
各エレメントの順序が、N末端からC末端にかけて:
a)CHAPドメイン、またはCHAPドメインのバリアント/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD/ペプチド、または、
b)ペプチド/CHAPドメイン、またはCHAPドメインのバリアント/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD、
であって、
前記ポリペプチドが黄色ブドウ球菌の細胞壁を分解できることを特徴とする、
ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドに、配列番号1で示されるアミノ酸配列が含まれることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
i)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列、および/または、
iii)配列番号6で示されるアミノ酸配列、
が前記ポリペプチドに含まれることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドに配列番号2のバリアント配列が含まれ、前記配列番号2のバリアント配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、K16E、K27N、H50Q、T85A、G153C、G153Sからなる群から選択される一以上の変異を示し、好ましくは前記バリアント配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、少なくとも変異K16EおよびH50Qを示し、より好ましくは、前記バリアント配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、少なくとも変異K16E、K27N、H50Q、T85A、およびG153Sを示すことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドに配列番号2、配列番号4および配列番号6で示されるアミノ酸配列が含まれることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドに、配列番号8または配列番号9で示されるアミノ酸配列が含まれ、好ましくは、前記ポリペプチドに配列番号9で示されるアミノ酸配列が含まれる、ことを特徴とする請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記ポリペプチドに配列番号8で示されるアミノ酸配列が含まれ、前記バリアント配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、K16E、K27N、H50Q、T85A、G153C、G153Sからなる群から選択される一以上の変異を示すことを特徴とする請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドにタグ、好ましくはHis6タグが含まれることを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記さらなるペプチドが、
i)配列番号40~94からなる群から選択される抗微生物ペプチド、
ii)配列番号98、配列番号99および配列番号100からなる群から選択される両親媒性ペプチド、
iii)配列番号11~39からなる群から選択されるカチオン性ペプチド、
iv)配列番号95に記載のスシペプチド、または、
iii)配列番号96および配列番号97からなる群から選択される疎水性ペプチド、
であることを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記さらなるペプチドが、配列番号38および配列番号94からなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドの長さが500アミノ酸長を超えないことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
配列番号2のバリアント配列と、
配列番号5で示されるALE-1の細胞壁結合ドメイン(CBD)と、
を含むポリペプチドであって、
前記バリアント配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、
前記バリアント配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列と比較して、変異K16E、K27N、H50Q、T85A、G153C、G153Sからなる群から選択される一以上の変異を示し、
前記ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌株DSM346に対して4μg/ml以下の最小発育阻止濃度を示
し、
前記ポリペプチドが、配列番号109または配列番号111で示されるアミノ酸配列と、少なくとも95%の配列同一性を示し、好ましくは配列番号109または配列番号111で示されるアミノ酸配列と、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を示す、
ことを特徴とするポリペプチド。
【請求項13】
前記ポリペプチドに配列番号108または配列番号110で示される配列が含まれていることを特徴とする請求項
12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項15】
請求項
14に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、
請求項
14に記載の核酸、または
請求項
15に記載のベクター、
を含む宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、
請求項
14に記載の核酸、
請求項
15に記載のベクター、および/または、
請求項
16に記載の宿主細胞を含み、
またキャリア、希釈剤、または賦形剤をさらに含むことを特徴とする組成物。
【請求項18】
前記キャリア、希釈剤、または賦形剤が薬学的に許容可能であることを特徴とする請求項
17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が水溶液(好ましくは緩衝溶液または生理溶液)、粉末状、坐薬、エマルション、懸濁液、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、塗り薬、注射剤、シロップ、スプレー、吸入剤、被覆組成物、好ましくはインプラント被覆組成物、ステント被覆組成物、もしくはカテーテル被覆組成物、または、生体材料、好ましくは骨セメントであることを特徴とする請求項
17に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、
請求項
14に記載の核酸、
請求項
15に記載のベクター、
請求項
16に記載の宿主細胞、および/または、
請求項
17~
19の何れか一項に記載の組成物、
を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項21】
前記デバイスが医療デバイスであって、特に前記デバイスがインプラント、ステント、カテーテル、絆創膏、圧定布、または包帯であることを特徴とする請求項
20に記載のデバイス。
【請求項22】
人体もしくは動物体を手術もしくは治療により手当する方法で、または人体もしくは動物体に施される診断方法で使用されることを特徴とする、請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、請求項
14に記載の核酸、請求項
15に記載のベクター、請求項
16に記載の宿主細胞、および/または、請求項
17~
19の何れか一項に記載の組成物。
【請求項23】
対象物の細菌感染症の治療または防止、特に黄色ブドウ球菌による細菌感染症の治療または防止に使用されることを特徴とする、請求項
22に記載のポリペプチド、核酸、ベクター、宿主細胞、または組成物。
【請求項24】
対象物の創傷の治療、特に医原性などの急性創傷、または慢性創傷の治療に使用されるか、または皮膚炎もしくは耳炎の治療に使用されることを特徴とする、請求項
22に記載のポリペプチド、核酸、ベクター、宿主細胞、または組成物。
【請求項25】
無生物の表面、組成物、および/または、無生物の物体を、特に院内環境または診療所で、消毒するための、請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、請求項
14に記載の核酸、請求項
15に記載のベクター、請求項
16に記載の宿主細胞、および/または、請求項
17~
19の何れか一項に記載の組成物、の使用。
【請求項26】
無生物の表面、組成物、および/または、無生物の物体の、細菌による汚染、特に黄色ブドウ球菌による汚染を防止するための、請求項1~
13の何れか一項に記載のポリペプチド、請求項
14に記載の核酸、請求項
15に記載のベクター、請求項
16に記載の宿主細胞、および/または、請求項
17~
19の何れか一項に記載の組成物、の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黄色ブドウ球菌に活性のある抗微生物剤の分野に関する。特に、本発明は、LysKエンドリシンのCHAPドメインと、リソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインと、ALE-1の細胞壁結合ドメインと、抗微生物ペプチド、両親媒性ペプチド、カチオン性ペプチド、疎水性ペプチド、スシペプチド、またはデフェンシンから選択されるさらなるペプチドと、を含むことを特徴とするポリペプチドに関する。さらに、本発明は、そのようなポリペプチドをコードする核酸、そのような核酸を含むベクター、ならびに対応する宿主細胞、組成物、および装置に関連する。最後に、本発明は、本発明によるポリペプチドの、特に医薬分野での利用に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌性病原体は人間の健康に深刻な脅威を与える。殺菌活性または静菌活性を有する様々な種類の薬剤(抗生物質、など)が当技術分野で知られているが、これらに対する微生物耐性、特に抗生物質に対する微生物耐性は確実に高まっている。健康上の懸念を表す病原体の1つに黄色ブドウ球菌がある。黄色ブドウ球菌は、菌血症、感染性心内膜炎に加えて、骨関節感染症の最もありふれた原因の1つである。さらに黄色ブドウ球菌は、皮膚・軟部組織感染症に加えて、食中毒を引き起こす可能性がある。黄色ブドウ球菌は、抗生物質に対する耐性を急速に発現し、これは多剤耐性(multi-drug resistant; MDR)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant staphylococcusaureus;MRSA)、およびバンコマイシン(バンコマイシン中間株)に対する低感受性として説明される。耐性化が高まるにつれ従来の抗生物質の有用性が低くなるため、特に院内環境(病院内の環境)における黄色ブドウ球菌の細菌数をコントロールする新規抗微生物剤に一定の需要がある。黄色ブドウ球菌に高い活性のある薬剤にリソスタフィンがある。リソスタフィンは黄色ブドウ球菌の細胞壁ペプチドグリカンを分解することのできるペプチドグリカンヒドロラーゼである。これはスタフィロコッカス・シミュランス次亜種スタフィロリチカス(staphylolyticus)により産生される。リソスタフィンは、N末端触媒M23エンドペプチダーゼドメインと、C末端細胞壁結合ドメイン(cell wall binding domain; CBD)の、2つのドメインを示す。しかし、黄色ブドウ球菌はまた、リソスタフィンに対して急速に耐性を発現する。近年、ベッカー(Becker)ら(Sci Rep. 2016 Apr 28;6:25063;本明細書に参照として組み込まれる)は、リソスタフィンとLysKエンドリシンの抗菌作用が組み合わされた、融合タンパク質の作製について報告している。得られた融合タンパク質は、耐性株の発現率を大きく低下させた。
【0003】
しかし、黄色ブドウ球菌に対し活性のある新規な抗菌剤になおも一定の需要が存在する。好ましくは、上記の薬剤は耐性株発現の発現率を低下させながら、同時に最小発育阻止濃度(MIC; minimum inhibitory concentration)に反映される高い抗菌作用を示す。本発明により解決される課題はしたがって、耐性株発現の発現率を低下させつつも、同時に高い抗菌作用を示す、黄色ブドウ球菌に対する新規抗菌剤を提供することにある。
【発明の概要】
【0004】
本目的は、下記の特許請求の範囲に規定される主題により解決される。
【0005】
本明細書において使用される「ポリペプチド」という用語は、特に、特定の配列においてペプチド結合によって結合されたアミノ酸残基からなるポリマーを指す。ポリペプチドのアミノ酸残基は、例えば、炭水化物およびリン酸などの種々の基の共有結合性付加によって修飾されてもよい。ヘムまたは脂質など、他の物質がより緩やかにポリペプチドと会合してもよく、本明細書において使用される「ポリペプチド」という用語にまた含まれる複合ポリペプチドを生じさせる。本明細書に用いられる当該用語にはタンパク質も含まれる。したがって、「ポリペプチド」の用語は、例えば2以上のアミノ酸ポリマー鎖からなる錯体も含まれている。「ポリペプチド」との用語には、当技術分野で通常用いられる任意選択的な修飾、例えば、ビオチン化、アセチル化、PEG化、または、アミノ基、SH基、またはカルボキシル基(保護基など)、等の化学変化を示す、ポリペプチドに係る実施形態も含まれている。以下の詳細な説明から明らかになるように、本発明に係るポリペプチドは、非天然由来のポリペプチドである。本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、特定の長さを有するアミノ酸ポリマー鎖に限定されないが、通常は、ポリペプチドは、約250以上のアミノ酸からなる長さを示す。必ずではないが、通常は、本発明の典型的なポリペプチドは、アミノ酸の長さが約750を超えず、好ましくはアミノ酸の長さが約450を超えない。
【0006】
本明細書で用いられる「バリアント配列」との用語は、それぞれの参照配列と比較して、一以上の付加、欠失、挿入、および/または、置換、およびこれらの組み合わせを示すアミノ酸配列のことを指す。これには、例えば、欠失/挿入、挿入/欠失、欠失/付加、付加/欠失、挿入/付加、付加/挿入、等の組み合わせが含まれる。当業者であれば、参照配列のそれぞれ同じ位置に存在するアミノ酸残基とは異なる、バリアント配列の特定の位置におけるアミノ酸残基の存在は、同じ位置における欠失とそれに続く挿入からなる組み合わせなどではなく、本明細書で定められた置換であることを理解するであろう。むしろ、付加、欠失、および置換からなる一以上の組み合わせについて言及される場合には、配列中の異なる位置における変化の組み合わせを意図しており、例えば、N末端部での付加および配列内での欠失について意図している。このようにして得られた配列は各参照配列、例えばある所定の配列番号と、一定レベルの配列同一性を示し、これは好ましくは、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。好ましいバリアント配列は親分子のフラグメントであって、例えば親分子の活性を保持し、つまり一般的なレベルでそれぞれの親分子と同じ活性を示している所定の配列番号である。しかし、上記の活性は、それぞれの親分子と同じとするか、親分子より高くするか、または低くすることができる。また親配列内での保存的アミノ酸置換から生じるバリアント配列もまた好ましく、例えば、所定の配列番号に対し、一般的なレベルで親分子の活性を保持しているバリアント配列などである。
【0007】
本明細書において、「~%の配列同一性」とは以下の通りに理解される。つまり、比較される2つの配列を並べて、配列同士に最大の相関関係が得られるようにする。これには一方または両方の配列に「ギャップ」を挿入することで、アライメントの大きさを高めることが含まれる場合がある。配列同一性%はその後、比較される配列の各々の全長にわたって決定(グローバルアラインメントと呼ばれる)してもよく、これは同じ又は類似する長さの配列に対して特に好適であり、あるいは短い所定の長さにわたって決定(ローカルアラインメントと呼ばれる)することができて、これは長さが異なる配列に対してより好適である。この意味で、クエリーアミノ酸配列に対して例えば少なくとも95%の「配列同一性」を有するアミノ酸配列は、クエリーアミノ酸配列に含まれる100個のアミノ酸に対して、対象となるアミノ酸配列に最大で5回のアミノ酸改変が含まれていることを除いて、対象となるアミノ酸配列の配列がクエリー配列と同一であることを意図している。言い換えると、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有する配列を持つアミノ酸配列を得るためには、対象となる配列に最大で5%(100のうち5)のアミノ酸残基を挿入するか、他のアミノ酸で置換するか、または欠失させることができる。2以上の配列の同一性および相同性を比較する方法は、当技術分野で周知の通りである。2つの配列の同一性の割合は、数学的アルゴリズムなどを利用することで判断可能である。限定されわけではないが、利用可能な好ましい数学的アルゴリズムの例としては、カーリン(Kerlin)らのアルゴリズム((1993),PNASUSA,90:5873-5877)がある。このようなアルゴリズムはBLASTファミリーのプログラム、例えばBLASTまたはNBLASTのプログラムに組み込まれており(Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215, 403-410 or Altschul et al. (1997), Nucleic Acids Res, 25:3389-3402を参照のこと)、NCBLのホームページ(ワールド・ワイド・ウェブサイト「ncbi.nlm.nih.gov」)からアクセス可能であって、またFASTA((Pearson (1 990), Methods Enzymol. 83, 63-98; Pearson and Lipman (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 85, 2444-2448.)にも組み込まれている。他の配列に対してある程度の同一性を有する配列は、これらのプログラムを用いて同定することができる。さらに、ウィスコンシン配列分析パッケージ(Wisconsin Sequence Analysis Package)のバージョン9.1で利用可能なプログラム(Devereux et al, 1984, Nucleic Acids Res., 387-395)、例えばBESTFITおよびGAPのプログラムを利用することで2つのポリペプチド配列の同一性%を判断することができる。BESTFITは(SmithおよびWaterman (1981), J. Mol. Biol. 147, 195-197)の「局所ホモロジー」アルゴリズムを利用し、2つの配列の中で最も類似する単一領域を見出す。本明細書において、参照配列と特定の長さの配列同一性を共有するアミノ酸配列について言及される場合、配列における上記の違いは、好ましくは保存的アミノ酸置換から生じるものである。好ましくは、そのような配列は、例えば、たとえより遅い速度であたっとしても、参照配列の活性を保持している。さらに本明細書において一定割合の配列同一性を「少なくとも」共有する配列について言及されている場合には、100%の配列同一性は、好ましくは含まれない。
【0008】
本明細書で用いられる「さらなるペプチド」との用語は、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列内にあるアミノ酸配列のことを指す。上記配列は、カチオン性ペプチド、カチオン性ポリペプチド、両親媒性ペプチド、疎水性ペプチド、スシペプチド、および/または、抗微生物ペプチドからなる配列とすることができる。当該用語は、His5-タグ、His6-タグ、His7-タグ、His8-タグ、His9-タグ、His10-タグ、His11-タグ、His12-タグ、His16-タグ、およびHis20-タグなどのHis-タグ、Strep-タグ、Avi-タグ、Myc-タグ、Gst-タグ、JS-タグ、システイン-タグ、FLAG-タグ、もしくは当技術分野において公知である他のタグ、チオレドキシン、またはマルトース結合タンパク質(MBP)のような慣習的なタグを指さない。好ましくは、前記さらなるペプチドの配列は、少なくとも約3から最大で約50までのアミノ酸残基の長さ、好ましくは最大で約39までのアミノ酸残基の長さを有する。さらなるペプチド配列そのものがつぎの酵素:エンドペプチダーゼ、キチナーゼ、T4様ムラミニダーゼ、λ様ムラミニダーゼ、N-アセチルムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ(アミダーゼ)、ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ、ムラミダーゼ、溶解性トランスグリコシラーゼ(C)、溶解性トランスグリコシラーゼ(M)、N-アセチル-ムラミダーゼ(リゾチーム)、N-アセチル-グルコサミニダーゼ、または、トランスグリコシラーゼ、の活性のうち、いずれかを提供することはない。通常は、さらなるペプチド配列は酵素活性を一切提供しない。
【0009】
本明細書で使用される「カチオン性ペプチド」という用語は、正に荷電したアミノ酸残基を有するペプチドを指す。好ましくは、カチオン性ペプチドは、9.0またはそれより大きいpKa値を有する。通常は、カチオン性ペプチドのアミノ酸残基のうちの少なくとも4個が、正に荷電することができ、例えば、リシンまたはアルギニンであり得る。「正に荷電した」とは、ほぼ生理学的条件で正味の正電荷を有するアミノ酸残基の側鎖を指す。本明細書において使用される「カチオン性ペプチド」という用語はまた、ポリカチオン性ペプチドも指すが、例えば、20%未満、好ましくは10%未満の正に荷電したアミノ酸残基を含むカチオン性ペプチドもまた含む。
【0010】
本明細書において使用される「ポリカチオン性ペプチド」という用語は、大部分が正に荷電したアミノ酸残基、とりわけリシンおよび/またはアルギニン残基で構成されているペプチドを指す。アミノ酸残基の少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または約100%が、正に荷電したアミノ酸残基、とりわけリシンおよび/またはアルギニン残基である場合に、ペプチドは、大部分が正に荷電したアミノ酸残基で構成されている。正に荷電したアミノ酸残基ではないアミノ酸残基は、中性の電荷のアミノ酸残基、および/または負に荷電したアミノ酸残基、および/または疎水性アミノ酸残基であり得る。好ましくは、正に荷電したアミノ酸残基ではないアミノ酸残基は、中性の電荷のアミノ酸残基、とりわけセリンおよび/またはグリシンである。
【0011】
本明細書において使用される「抗微生物ペプチド」(AMP)という用語は、例えば、細菌、ウイルス、真菌、酵母、マイコプラズマ、および原生動物に対して殺微生物活性および/または静微生物(microbistatic)活性を有する、あらゆる天然由来のペプチドを指す。したがって、本明細書において使用される「抗微生物ペプチド」という用語は、とりわけ、抗細菌、抗真菌、抗糸状菌、抗寄生生物、抗原生動物、抗ウイルス、抗感染性、抗伝染性、および/または殺菌、殺藻、殺アメーバ、殺微生物、殺細菌、殺真菌、殺寄生生物、殺原生動物、殺原虫特性を有する任意のペプチドを指す。抗細菌ペプチドが、好ましい。抗微生物ペプチドは、RNアーゼAスーパーファミリーのメンバー、デフェンシン、カテリシジン、グラニュライシン、ヒスタチン、ソリアシン(psoriasin)、ダームシジン、またはヘプシジンであり得る。抗微生物ペプチドは、昆虫、魚、植物、クモ形類動物、脊椎動物、または哺乳動物に天然に存在し得る。好ましくは、抗微生物ペプチドは、昆虫、魚、植物、クモ形類動物、脊椎動物、または哺乳動物に天然に存在し得る。好ましくは、抗微生物ペプチドは、ラディッシュ、カイコガ、コモリグモ、カエル、好ましくはアフリカツメガエル(Xenopus laevis)、アカガエル属のカエル、より好ましくはウシガエル(Rana catesbeiana)、ヒキガエル、好ましくはアジアヒキガエル(Bufo gargarizans)、ハエ、好ましくはショウジョウバエ属(Drosophila)、より好ましくはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ミツバチ、マルハナバチ(bumblebee)、好ましくはマルハナバチ(Bombus pascuorum)、ニクバエ、好ましくはセンチニクバエ(Sarcophaga peregrine)、サソリ、カブトガニ、ナマズ(catfish)、好ましくはマナマズ(Parasilurus asotus)、雌牛、豚(pig)、ヒツジ、ブタ(porcine)、ウシ、サル、およびヒトに天然に存在し得る。本明細書では、「抗微生物ペプチド」(AMP)は、とりわけ、カチオン性ペプチド、ポリカチオン性ペプチド、両親媒性ペプチド、スシペプチド、デフェンシン、および疎水性ペプチドではないが、それにもかかわらず抗微生物活性を示すペプチドであり得る。
【0012】
本明細書において使用される「スシペプチド」という用語は、短いコンセンサスリピートを有する補体制御タンパク質(CCP)を指す。スシペプチドのスシモジュールは、多くの異なるタンパク質においてタンパク質-タンパク質相互作用ドメインとして機能する。スシドメインを含有するペプチドは、抗微生物活性を有することが示されている。好ましくは、スシペプチドは、天然に存在するペプチドである。
【0013】
本明細書において使用される「デフェンシン」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト内に存在するペプチドを指し、デフェンシンは、感染性細菌および/または感染性ウイルスおよび/または真菌などの、外来性物質の破壊システムとしての自然宿主防御系において役割を果たす。デフェンシンは、抗体でない殺微生物、および/または、殺腫瘍性のタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドである。「デフェンシン」の例は、「哺乳動物デフェンシン」、α-デフェンシン、β-デフェンシン、インドリシジン、およびマガイニンである。本明細書において使用される「デフェンシン」という用語は、動物細胞から単離された形態、または合成的に産生された形態の両方を指し、かつまた、それらの親タンパク質の細胞傷害活性を実質的に保持するが、その配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の挿入または欠失によって変更されている変異体も指す。
【0014】
本明細書において使用される「両親媒性ペプチド」という用語は、親水性官能基および疎水性官能基の両方を有するペプチドを指す。好ましくは、本明細書において使用される「両親媒性ペプチド」という用語は、親水性基および疎水性基の規定された配置を有するペプチドを指し、例えば、両親媒性ペプチドは、例えばαヘリックス状であってもよく、主にヘリックスの一方の側に沿って非極性側鎖を有し、残りの表面に沿って極性残基を有する。
【0015】
本明細書において使用される「疎水性基」という用語は、好ましくは、実質的に水に不溶性であるが、油相において可溶性であり、油相における溶解性が水または水相におけるものよりも高い、アミノ酸側鎖などの、化学基を指す。水中において、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基は、互いに相互作用して非水性環境を形成する。疎水性側鎖を有するアミノ酸残基の例は、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、およびプロリン残基である。
【0016】
本明細書において使用される「疎水性ペプチド」という用語は、好ましくは疎水性基を有するアミノ酸残基で大部分が構成されている疎水性ペプチドを指す。そのようなペプチドは、好ましくは、大部分が疎水性アミノ酸残基で構成されており、すなわち、アミノ酸残基の少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または少なくとも約100%が、疎水性アミノ酸残基である。疎水性ではないアミノ酸残基は、好ましくは中性であり、好ましくは親水性ではない。
【0017】
本明細書で「タグ」という用語は、当技術分野において典型的に、a)アミノ酸配列もしくはポリペプチド全体の発現を改善する、b)アミノ酸配列もしくはポリペプチド全体の精製を容易にする、c)アミノ酸配列もしくはポリペプチド全体の固定化を容易にする、および/またはd)アミノ酸配列もしくはポリペプチド全体の検出を容易にするために、別のアミノ酸配列に融合されるかまたはそれに含まれる、アミノ酸配列を指す。タグの例は、His5-タグ、His6-タグ、His7-タグ、His8-タグ、His9-タグ、His10-タグ、His11-タグ、His12-タグ、His16-タグ、およびHis20-タグなどのHisタグ、Strep-タグ、Avi-タグ、Myc-タグ、GST-タグ、JS-タグ、システイン-タグ、FLAG-タグ、HA-タグ、チオレドキシン、またはマルトース結合タンパク質(MBP)、CAT、GFP、YFPなどである。当業者は、様々な技術的応用に適する莫大な数のタグを知っているであろう。タグは、例えば、そのようなタグ付加されたポリペプチドを、例えば、様々なELISAアッセイ形式における抗体結合または他の技術的応用に適するようにさせることができる。
【0018】
本明細書において使用される「含む」という用語は、「からなる」(すなわち、追加的な他のものの存在を排除する)の意味に限定されると解釈されることはない。むしろ、「含む」とは、任意で追加的なものが存在し得ることを暗示する。「含む」という用語は、その範囲内に入る特に構想される態様として、「からなる」(すなわち、追加的な他のものの存在を排除する)および「含むがそれからならない」(すなわち、追加的な他のものの存在を必要とする)を包含し、前者がより好ましい。
【0019】
本発明の発明者らは驚くことに、高い抗菌作用を示すと同時に、耐性株発現の発現率を低下させる新規ポリペプチド剤を見出した。何れの態様においても、本発明のポリペプチドは、ベッカー(Becker)ら(Sci Rep. 2016 Apr 28;6:25063)のL-K構造に係る最良の融合タンパク質に対して改善点を示している。
【0020】
したがって、本発明は、第1の態様において、
i)LysKエンドリシンのCHAPドメイン(またはLysKエンドリシンのCHAPドメインと少なくとも80%の配列同一性を示すそのバリアント配列)と、
ii)リソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメイン(またはリソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインと少なくとも80%の配列同一性を示すそのバリアント配列)と、
iii)ALE-1の細胞壁結合ドメイン(CBD)(またはALE-1の細胞壁結合ドメイン(CBD)と少なくとも90%の配列同一性を示すそのバリアント配列)と、
iv)抗微生物ペプチド、両親媒性ペプチド、カチオン性ペプチド、疎水性ペプチド、スシペプチド、およびデフェンシンからなる群から選択されるさらなるペプチドと、
を含むポリペプチドに関する。
【0021】
本発明のポリペプチドには少なくとも4つの配列エレメントが含まれる。第1のエレメントはLysKエンドリシン(配列番号1を参照のこと)のCHAPドメイン(cysteine-histidine dependent amido-hydrolase/peptidase domain)またはそのバリアント配列である。本発明のポリペプチドにはLysKのCHAPドメインの他に、対応するより長いLysKの配列エレメントおよび各バリアント配列を含むことができる。例えば、当該ポリペプチドには配列番号2で示される配列を含むことが可能で、これにLysKエンドリシン(CHAPドメインを含む)のN末端部が反映されているが、N末端メチオニンはない。第2のエレメントはリソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメイン(配列番号3を参照のこと)またはそのバリアント配列である。このドメインはバクテリオシンリソスタフィンの触媒ドメインである。本発明のポリペプチドは、リソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインの他に、配列番号4で示される配列のような、より長い配列エレメント(および各バリアント配列)を含んでもよく、これはリソスタフィンのN末端部分を反映している(aa4-152;M23エンドペプチダーゼドメインを含む)。第3の配列エレメントは、ALE-1エンドリシン(配列番号5を参照のこと)の細胞壁結合ドメイン(cell wall binding domain, CBD)またはそのバリアント配列である。これは非触媒ドメインである。本発明のポリペプチドには、ALE-1エンドリシンのCBDの他に、ALE-1エンドリシンのより長い配列エレメント(および各バリアント配列)、例えば配列番号6で示される配列が含まれていてもよく、これにはALE-1エンドリシン(aa 234-327; CBDドメインを含む)のC末端部分が反映されている。2つの触媒ドメイン(CHAP,M23)および(ALE-1)のCBDドメインは、原理的には任意の順序で存在可能である。しかし、好ましくは異なるエレメント(天然由来かバリアント配列かとは関係なく)をつぎの通り:CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD(N末端からC末端にかけて):に配列させることができる。介在配列エレメントなど、他の配列エレメントが存在しても構わない。好ましくは、介在配列は各々の場合に、10アミノ酸長を超えない、より好ましくは5アミノ酸長を超えない、短いリンカー配列である。最も好ましくは、これらは長さが1または2アミノ酸長しかない。リンカー配列は好ましくはフレキシブルな配列であって、一以上のグリシン残基を含む。このようなリンカーの例としては、グリシン・セリンリンカーまたは配列GGGGS(配列番号7)がある。好ましくは、本発明のポリペプチドの第4エレメントである、さらなるペプチドは、当該2つの触媒ドメイン(CHAP、M23)と、(ALE-1)のCBDドメインとにより形成されるユニットのN末端またはC末端に位置しているが、C末端位置がより好ましい。当該2つの触媒ドメイン(CHAP、M23)と、CBDドメインとによりユニットが形成される場合(すなわち、当該ユニットのC末端またはC末端に当該ペプチドがある)、前記ユニットの長さは、好ましくは500アミノ酸長より小さく、好ましくは450アミノ酸長よりも小さい。本発明の第1の態様に係るポリペプチドは、少なくとも、配列番号3(M23)および/または配列番号5(ALE-1)で示されるアミノ酸配列が含まれる場合が好ましい。最も好ましくは、本発明によるポリペプチドは、いずれにせよ配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む。これら最後の2つのエレメント(M23、ALE-1)の好ましい配置は、配列番号8に反映されている。
【0022】
CHAPドメインに関し、本発明は数多くの潜在的なバリアント配列を提供し、つまり配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を厳密的に使用する必要は全くない。潜在的な変異(配列番号2に対して識別)としては例えば、K17E、K28N、H51Q、T86A、G153SまたはG153C、E171G、T172N、またはA173Rが挙げられる。最も好ましくは配列番号2のバリアント配列であって、これには変異K17Eおよび変異H51Qが含まれる。最も好ましくは、前記バリアント配列には、変異K17E、K28N、H51Q、T86AおよびG153Sが含まれている。これら変異は、本発明に係るポリペプチドの抗菌活性を改善し、また熱安定性を高めることが示されている。配列番号2に係る天然由来の配列が採用された場合、本発明の最初の3つのエレメントに係る好ましい配置が、配列番号9(N末端メチオニンなし)および配列番号10に反映されている。本発明で使用されるものとして考えられるものとしてはまた、これらのバリアント配列があり、例えば、配列番号8、配列番号9または配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を有するバリアント配列である。
【0023】
本発明のポリペプチドは、最初の3つのエレメント(CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD)の他に、第4のエレメント、つまり抗微生物ペプチド、両親媒性ペプチド、カチオン性ペプチド、疎水性ペプチド、スシペプチド、およびデフェンシンからなる群から選択されるペプチドが含まれる。好ましくは、さらなるペプチド配列は、LysKエンドリシンのCHAPドメイン、リソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインおよびALE-1の細胞壁結合ドメイン(cell wall binding domain, CBD)に対して異種であって、つまり、このさらなるペプチド配列は、LysKエンドリシン配列、リソスタフィン配列、および/または、ALE-1エンドリシン配列には生じない。好ましくは、本発明のポリペプチドの第4のエレメントは、2つの触媒ドメイン(CHAP,M23)および(ALE-1)のCBDドメインにより形成されたユニットのN末端またはC末端に配置されるが、C末端位置がより好ましい。好適な配列はしたがって、a)CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD/ペプチド、およびb)ペプチド/CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD、である。当該ペプチドは、直接またはリンカー配列などの介在配列を介して、酵素ユニット(CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD)にリンクさせることができる。
【0024】
さらなるペプチドとして使用することのできるカチオン性/ポリカチオン性のアミノ酸配列の例は下記の表に記載されている。
【0025】
【0026】
本発明を実施可能な抗菌性のアミノ酸配列の例は下記の表に記載されている。
【表2-1】
【表2-2】
前記さらなる配列は、Ding JL, Li P, Ho B Cell Mol Life Sci. 2008 Apr;65(7-8):1202-19. 「The Sushi peptides: structural characterization and mode of action against Gram-negative bacteria」に記載されているスシペプチドとすることができる。特に好ましいのは、配列番号95に示されるスシ1ペプチドである。他の好ましいスシペプチドは、スシペプチドS1およびスシペプチドS3、ならびにその多数体(multiple)である;(Tan et al., FASEB J. 2000 Sep;14(12):1801-13)。
【0027】
好ましい疎水性ペプチドは、配列番号96で示されるアミノ酸配列を有するワルマフ(Walmagh)1、およびアミノ酸配列Phe-Phe-Val-Ala-Pro(配列番号97)を有する疎水性ペプチドである。
【0028】
好ましい両親媒性ペプチドは、配列番号98で示されるT4リゾチームのα4ヘリックス、および配列番号99で示されるアミノ酸配列を有するWLBU2-バリアント、および配列番号100で示されるワルマフ2である。
【0029】
より好ましくは、前記さらなるペプチドの配列は、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39および配列番号94からなる群から選択される。最も好ましくは、前記さらなるペプチドの配列は、配列番号38および配列番号94からなる群から選択される。
【0030】
特に、本発明のポリペプチドが宿主細胞により組換えで発現される場合、本発明のポリペプチドがN末端にメチオニン残基を含むのが好ましい。
【0031】
本発明のポリペプチドは、1つまたは複数のタグ配列を追加的に含み得る。このようなタグ配列は、例えば、本発明のポリペプチドのN末端もしくはC末端、またはペプチド配列と酵素ユニット(CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD)の間に位置していてもよい。好ましい実施形態では、1つまたは複数のタグ配列は、酵素ユニット(CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBDのC末端側に位置している。1つまたは複数のタグ配列は、酵素ユニットに、例えば直接または短いリンカーを介して連結されていてもよい(上を参照)。タグについての多数の例が、当技術分野において公知であり、そのうちのいくつかは、既に上述されている。本発明の文脈において、特に好ましいタグ配列は、His-タグ、好ましくは配列番号101記載のHisタグである。酵素ユニット(CHAPドメイン/M23エンドペプチダーゼ/ALE-1のCBD)とタグを含む好ましい配列は、配列番号102および配列番号103である(いずれもN末端に任意選択的にメチオニンを有する)。ペプチド配列は、好ましくは(例えば配列番号102または配列番号103の)C末端に配置され、直接そこにリンクされているか、またはリンカー配列を介してリンクされている。
【0032】
本発明に係るポリペプチドの、特に好ましい例は、配列番号104(N末端メチオニンが含まれる配列番号105)または配列番号106(N末端メチオニンが含まれる配列番号107)の配列を含むポリペプチドである。他の例としては、配列番号108(N末端メチオニンが含まれる配列番号109)および配列番号110(N末端メチオニンが含まれる配列番号111)がある。本発明ではまた、これら8つの配列のうち何れかのバリアント配列、特にこれら8つの配列の何れか1つと、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を示すバリアント配列、を含むポリペプチドを利用することも考えられる。好ましくは、前記ポリペプチドは各参照配列とくらべてより熱安定性があり、および/または、高い活性を示す。好ましくは、前記バリアント配列は、配列番号38または配列番号94で示される配列、および/または、配列番号5または配列番号6で示される配列をさらに含む。変異部位は特に、本発明が適切な変異だと同定した部位である。バリアント配列にN末端メチオニンが欠失していても構わない。
【0033】
さらなる態様において、本発明はLysKの改善されたCHAPドメインを含むポリペプチドに関する。本発明者らは抗菌活性および/または熱安定性を改善する変異を同定した。タンパク質ドメインは、他のドメインとは独立してフォールディングすることができるため、このドメインを他のエンドリシンなどの他のドメインとシャッフリングしたときに、これらの性質が保持され、これを利用することができる。
【0034】
したがって、本発明は本発明の第2の態様において、さらなるペプチドに関し、前記ポリペプチドには配列番号1のバリアント配列が含まれ、前記バリアント配列は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有し、また、配列番号1のアミノ酸配列と比較して、変異H8N、および/または、変異T43Aを示す。前記ポリペプチドは、これら2つの変異のうち少なくとも一方の変異を示す必要があるため、前記ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列と、100%の配列同一性を有さない。好ましくは、本発明の第2の態様に係るポリペプチドは、少なくともH8N変異を示し、また最も好ましくは、両方の変異を示す。
【0035】
第3の態様において、本発明は、配列番号2のバリアント配列を含むさらなるポリペプチドに関し、前記バリアント配列は、配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも80%の配列同一性を有し、また前記バリアント配列は、配列番号2のアミノ酸配列と比較して、K16E、K27N、H50Q、T85A、G153C、G153Sからなる群から選択される一以上の変異を示す。好ましくは、本発明の第3の態様に係るポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と比較して、少なくとも変異K16Eおよび変異H50Qを示すバリアント配列を含んでいる。さらにより好ましくは、本発明の第3の態様に係るポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と比較して、少なくとも変異K16E、K27N、H50Q、T85A、およびG153Cを示すバリアント配列を含んでいる。
【0036】
本発明の第2または第3の態様に係るポリペプチドには、さらなる配列エレメント、特に、(例えば黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌に対して)抗菌活性のある融合タンパク質を提供するドメインなどの、さらなるドメインを含むことができる。例えば、本発明の第2または第3の態様に係るポリペプチドは、ペプチドグリカン加水分解酵素の触媒領域を少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ以上)含むことができる。本発明の第2または第3の態様に係るポリペプチドに1を超える追加ドメインが含まれる場合には、そのドメインは異なるソース、即ち互いに異種であるソースに由来するものとすることができる。
【0037】
本発明の第2または第3の態様に係るポリペプチドの例としては、前記バリアント配列が、配列番号105、配列番号107、配列番号109、または配列番号111で示されるアミノ酸配列と、少なくとも95%の配列同一性を示すポリペプチド、好ましくは、配列番号105、配列番号107、配列番号109、または配列番号111で示されるアミノ酸配列と、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を示すことができる。
【0038】
本発明のあらゆる態様によるポリペプチドの長さは、原則として限定されていないが、好ましくは、長さは過度に長くはない。好ましくは、本発明によるポリペプチドは、約600アミノ酸長を超えない、好ましくは約500アミノ酸長を超えない全体の長さを有する。
【0039】
本発明に係るポリペプチドは、好ましくは黄色ブドウ球菌細菌のペプチドグリカンを分解する機能により特徴づけられる。酵素が活性的な場合にはペプチドグリカン層の分解により混濁が下がり、これは光学的に測定することができる(例えば、Briers et al., J. Biochem. Biophys Methods 70: 531-533, (2007)を参照のこと)。
【0040】
本発明はまた本発明の一以上のポリペプチドをコードする核酸にも関する。本発明の核酸は核酸として考えられるすべての形態をとり得る。特に、本発明による核酸は、RNA、DNAまたはそれらのハイブリッドであり得る。これらは一本鎖でも二本鎖でも構わない。
これらは小さな転写物のサイズ、またはバクテリオファージゲノムなど全ゲノムのサイズを有していても構わない。本明細書において、本発明の一以上のポリペプチドをコードする核酸は、センス鎖を反映している核酸とすることができる。同様にして、アンチセンス鎖もまた包含されている。核酸には、本発明のポリペプチドの発現のために異種プロモーターが包含されていてもよい。
【0041】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明に係る核酸を含むベクターに関する。このようなベクターは、例えば本発明のポリペプチドを発現させる発現ベクターとすることができる。この発現は構造的発現または誘導的な発現とすることができる。本ベクターはまた、クローニングの目的のために本発明のポリペプチドの核酸配列を含むクローニングベクターであり得る。
【0042】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、および/または、本発明に係るベクター、を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、特に細菌細胞および酵母細胞からなる群から選択することができる。特に好ましい宿主細胞は大腸菌(E. coli)細胞である。
【0043】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、および/または、本発明に係る宿主細胞、またさらには適切な希釈剤、賦形剤またはキャリアを含む組成物に関する。好ましい組成物には、本発明に係るポリペプチドが含まれる。好ましくは、本発明に係る組成物は、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、または担体を含む。このような組成物は薬学的組成物とすることができる。さらには、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、および/または、本発明に係る宿主細胞、を含む本発明に係る組成物は、水溶液(好ましくは緩衝溶液または生理溶液)、粉末状、坐薬、エマルション、懸濁液、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、塗り薬、注射剤、シロップ、スプレー、吸入剤または他の医学的に適正なガレヌス組成物もしくはガレヌス製剤、被覆組成物、好ましくはインプラント被覆組成物、ステント被覆組成物もしくはカテーテル被覆組成物、生体材料、好ましくは骨セメントとすることができる。
【0044】
さらなる態様において、本発明はデバイス、特に医療デバイスに関し、当該医療デバイスには、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物が含まれる。このようなデバイス(またはその一部)に、例えば本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物を被覆または含浸させることができる。特に好ましいのは、本発明に係るポリペプチドまたは本発明に係る組成物で、被覆または含浸させることである。このようなデバイスは例えばインプラント、ステントまたはカテーテルである。これらのデバイスは、心臓手術または整形外科手術などに用途を見出すことができる。本発明の他の好適なデバイスとしては、例えば、本発明に係るポリペプチド(または本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)を含む絆創膏、圧定布、または包帯とすることができる。これらは、例えば創傷ケアに用途を見出すことができる。
【0045】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明に係るポリペプチド、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、人体もしくは動物体を手術もしくは治療により手当する方法で用いられる本発明に係る組成物、または人体もしくは動物体に施される診断方法に用いられる本発明に係る組成物に関する。
【0046】
人間もしくは動物に対して実行される診断方法には、対象物からサンプルを取り出し、細菌培養物を確立し、培養物に本発明に係るポリペプチドなどを添加することにより、細菌増殖が抑えられるか否かを分析することが含まれる。この場合、黄色ブドウ球菌が存在する可能性が高い。
【0047】
本発明に係る核酸または本発明に係るベクターがこの文脈で使用される場合には、好ましくは前記核酸またはベクターは、細胞から、本発明のポリペプチドの分泌を提供する。本発明の宿主細胞が使用される場合には、各宿主細胞が本発明のポリペプチドを分泌することが好ましい。
【0048】
本発明はまた、感染症の治療もしくは防止に係る方法で用いられ、特に黄色ブドウ球菌に関連する感染症の治療方法または防止方法に使用される、本発明に係るポリペプチド(また同様にして本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)に関する。この意味で、本発明はまた、皮膚炎(アトピー性皮膚炎など)または耳炎の治療、改善、または防止に係る方法に使用される、本発明に係るポリペプチド(また同様にして、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物))に関する。これらの病態、例えば二次感染症には、黄色ブドウ球菌が関わっていることが多い、
【0049】
本発明はまた、対象物の傷の治療、特に、医原性などの急性創傷、または慢性創傷の治療に係る方法に用いられる、本発明に係るポリペプチド(また同様にして本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)に関する。対象物は動物または人間等とすることができる。
【0050】
本発明はまた、対象物にいる黄色ブドウ球菌を原因とする感染症の治療または防止に係る方法に関し、前記方法には対象物を、本発明に係るポリペプチド(または同様に、本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)に接触させることが含まれている。特に、本発明はまた、対象物にいる黄色ブドウ球菌を原因とする感染症の治療または防止に係る方法に関し、前記方法には対象物を、本発明に係るポリペプチドに接触させることが含まれる。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、本発明に係るポリペプチド(または本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)の、特に院内環境または診療所で、無生物の表面、組成物、および/または、物体を消毒するための、使用に関する。
【0052】
さらなる実施態様において、本発明は無生物の表面、組成物および/または物体が、細菌で汚染されること、特に黄色ブドウ球菌で汚染されることを防止するための、本発明に係るポリペプチド(または本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)の使用に関する。
【0053】
さらなる態様において、本発明は、特に院内環境または診療所で、無生物の表面、組成物、および/または、物体を消毒する方法に関し、前記方法には無生物の表面、組成物、および/または、物体を、本発明に係るポリペプチド(または本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)に接触させることが含まれる。
【0054】
さらなる実施態様において、本発明は無生物の表面、組成物および/または物体が細菌で汚染されること、特に黄色ブドウ球菌で汚染されることを防止する方法に関し、本方法には無生物の表面、組成物および/または物体を、本発明に係るポリペプチド(または本発明に係る核酸、本発明に係るベクター、本発明に係る宿主細胞、および/または、本発明に係る組成物)と接触させることが含まれる。
【実施例】
【0055】
以下において、本発明の実施形態および態様を説明する具体的な実施例が提示される。しかしながら、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本発明の様々な変更は、本明細書に記載されたものに加えて、前述の説明および以下の実施例から当業者に明白であろう。このような変更はすべて添付の特許請求の範囲内に含まれる。
【実施例1】
【0056】
黄色ブドウ球菌に対する本発明の2つの融合タンパク質の抗菌活性
ベッカー(Becker)ら(Sci Rep. 2016 Apr 28;6:25063)は、耐性黄色ブドウ球菌株の発現率が抑えられた融合タンパク質L-Kの形成について報告している。黄色ブドウ球菌に対して他の改良融合タンパク質を提供するために、本発明者らは2つの融合タンパク質を作製し、いずれもLysKエンドリシンのCHAPドメインと、リソスタフィンのM23エンドペプチダーゼドメインと、ALE-1の細胞壁結合ドメイン(CBD)とを含んでいた。加えて、融合プロテインの一方にはカテプシンG(77-83)ペプチド(配列番号94)が含まれ、他方にはカチオン性ペプチドKNK(配列番号38)が含まれていた。得られた融合タンパク質(配列番号105および配列番号107)の抗菌活性および耐性発現を分析した。この目的のために、MIC(最小発育阻止濃度)アッセイ(以下を参照)を、数培養サイクルにわたって行った。
【0057】
MICアッセイ
黄色ブドウ球菌Sp10をルリア-ベルターニ培地で培養し、ミューラー・ヒントン培地に1:10で希釈した。約0.6の光学濃度OD600において、同培地で細菌を1:10に希釈した後、1:500で希釈した。タンパク質緩衝剤(20mM HEPES,500mM NaCl,pH7.4)およびタンパク質またはゲンタマイシンを、様々な濃度のタンパク質/ゲンタマイシンおよび20μlの先端容積(end volume)を用いて、96ウェルプレートに分注した。使用されたタンパク質は、配列番号105および配列番号107に記載の融合タンパク質であった。180μlの細菌細胞または培地(ミューラー・ヒントン)コントロールを96ウェルプレートに与え、混合した。当該プレートを37℃で18~22時間培養し、ウェルのOD600値を測定して細菌増殖を測定した。培地コントロールと同じOD600を示すタンパク質/ゲンタマイシンの最小濃度を持つウェルをMICとした。次のサイクルでは、Sub-MICウェルからの細菌溶液を使用した。Sub-MICウェルとは、MIC濃度の次に低い濃度で試験されたウェルのことであって、つまり、培地コントロールよりも高いOD600を有する最も高いタンパク質/ゲンタマイシンの濃度である。耐性アッセイのさらなるサイクルのため、前サイクルのこのsub-MICウェルからの細菌を、次の一晩培養のために採取した。結果を以下の表3aおよび表3bに示した。
【0058】
【0059】
以下の表3bは、初期MIC(サイクル1)に対する倍率変化としたときの表3aの結果を表している。
【0060】
【0061】
上記の表3bから明らかなように、本発明の融合タンパク質は何れも、ゲンタマイシンと比較して、経時的に耐性株が発現しにくい。さらに、本発明に係る何れの融合タンパク質も、公知技術の融合タンパク質L-K(Becker et al., Sci Rep. 2016 Apr 28;6:25063を参照のこと)で報告された結果と比較して、より多くのサイクルの後で、驚くほどに耐性株の発現率が低く(本発明の両方の融合タンパク質が、12サイクル後Sにおいて1.5倍の倍率変化であるのに対して、ベッカー(Becker)らのL-K融合タンパク質は、10サイクル後に2倍の倍率変化であり(ベッカー(Becker)ら,
図1Bを参照のこと))、また同時により高い抗菌活性を示していた(本発明の融合タンパク質の初期MICが4μg/mlであるのに対して、ベッカー(Becker)らのK-L融合タンパク質は7.8μg/mであった)。
【実施例2】
【0062】
本発明に係るポリペプチドのバリアント
本発明の発明者らはまた、上記ポリペプチドのバリアントを開発した。この目的のため、配列番号105で示される配列に変異を導入した。
【0063】
【0064】
下記の表5は、配列番号105の融合タンパク質に対する、これら変異体の活性に関する結果を表している。本明細書において、DSM346株とは黄色ブドウ球菌株DSM346(ライプニッツ研究所DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)のことを指す。S64とS69は、Rob Lavigne教授(Katholieke Universiteit Leuven、ベルギー)から得られた黄色ブドウ球菌株S64およびS69である。
【0065】
【0066】
全ての変異体が黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を保持していた。上記変異のいくつかをまた、配列番号107で示される配列に対して検証した。さらに、上記変異の一部を組み合わせた。さらに、G154Cの代わりに変異G154Sを使用した。下記の表6は配列番号107で示される融合タンパク質に対して検証した変異を表している。
【0067】
【0068】
下記の表7は、配列番号107の融合タンパク質に対するこれら変異体の活性に関する結果を表している。
【0069】
【0070】
全ての変異体が黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を保持していた。さらに、前記変異体のうち2つの変異体に関して、未改変の融合タンパク質と比較したときの、熱安定性を評価した。黄色ブドウ球菌株DSM346を用いて熱安定性アッセイを行った。当該タンパク質を0,3mg/mlの濃度に希釈し、次いで様々な温度で20分間培養した(以下の表8を参照のこと)。この培養時間後に標準MICアッセイを行った。タンパク質がまだ(高い)活性を示していた後の温度が高ければ高いほど、タンパク質の熱安定性が良好である。
【0071】
【0072】
クローン11および15はしたがって、未改変の融合タンパク質と比較して、より高い熱安定性を示していた。
【配列表】