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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】細胞保存用水溶液
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20240705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240705BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20240705BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20240705BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20240705BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20240705BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/10
C12N5/09
C12N5/0775
C12N5/0786
C12N5/077
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022100286
(22)【出願日】2022-06-22
(65)【公開番号】P2023007455
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】10 2021 116 694.2
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】319015902
【氏名又は名称】プロモセル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラント ハーゲン
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-273549(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047941(WO,A1)
【文献】特表2019-506878(JP,A)
【文献】特表2010-539970(JP,A)
【文献】特表2016-519142(JP,A)
【文献】特表2002-530293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.0185% w/v塩化カリウムと、
0.0185% w/vリン酸カリウム
0.8695% w/v塩化ナトリウムと、
0.1064% w/vリン酸ナトリウム
0.0925% w/vグルコース
0.1203% w/vアスコルビン酸
0.0028% w/vシステイン
0.0925% w/vグルタチオン
0.1013% w/vメチルセルロースと、
8.25% w/v DMSOと
を含む、細胞保存用水溶液。
【請求項2】
フェノールレッドさらに含む、請求項1記載の細胞保存用水溶液。
【請求項3】
保存される細胞をさらに含む、請求項1または2記載の細胞保存用水溶液。
【請求項4】
保存される細胞が哺乳動物細胞である、請求項3記載の細胞保存用水溶液。
【請求項5】
哺乳動物細胞が、ヒト誘導多能性幹細胞(hipSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC-BM)、ヒト末梢血由来単核細胞(hMNC-PB/PBMC)、ヒト成人皮膚由来皮膚線維芽細胞(NHDF-a)、ヒト成人皮膚由来皮膚メラノサイト(NHEM-a)、ヒト大動脈由来平滑筋細胞(HAoSMC)、またはヒト癌細胞株ある、請求項4記載の細胞保存用水溶液。
【請求項6】
凍結保護剤としての、請求項1または2記載の細胞保存用水溶液の使用。
【請求項7】
薬学的製造物または賦形剤として使用するための、請求項1または2記載の細胞保存用水溶液。
【請求項8】
(a)容器内で請求項1または2記載の細胞保存用水溶液に細胞を分散させる工程;および
(c)容器を凍結保存に供する工程
を含む、細胞を保存する方法。
【請求項9】
(a)請求項1または2記載の細胞保存用水溶液に凍結細胞が分散し凍結している容器を融解する工程;および
(b)融解された細胞を該細胞に適した培養培地に添加する工程
を含む、請求項1または2記載の細胞保存用水溶液に分散させかつ凍結させた細胞を解凍する方法。
【請求項10】
i) リン酸カリウムが、無水リン酸二水素カリウムであり、
ii) リン酸ナトリウムが、無水リン酸水素ナトリウムであり、
iii) グルコースが、無水D(+)-グルコースであり、
iv) アスコルビン酸が、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムであり、
v) システインが、L-システインHCl×H 2 Oであり、かつ
vi) グルタチオンが、還元型グルタチオンである、
請求項1または2記載の細胞保存用水溶液。
【請求項11】
i) リン酸カリウムが、無水リン酸二水素カリウムであり、
ii) リン酸ナトリウムが、無水リン酸水素ナトリウムであり、
iii) グルコースが、無水D(+)-グルコースであり、
iv) アスコルビン酸が、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムであり、
v) システインが、L-システインHCl×H 2 Oであり、かつ
vi) グルタチオンが、還元型グルタチオンである、
請求項3記載の細胞保存用水溶液。
【請求項12】
i) リン酸カリウムが、無水リン酸二水素カリウムであり、
ii) リン酸ナトリウムが、無水リン酸水素ナトリウムであり、
iii) グルコースが、無水D(+)-グルコースであり、
iv) アスコルビン酸が、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムであり、
v) システインが、L-システインHCl×H 2 Oであり、かつ
vi) グルタチオンが、還元型グルタチオンであり、
かつ
フェノールレッドナトリウム塩をさらに含む、
請求項1記載の細胞保存用水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、好ましくは、哺乳動物細胞のための、細胞保存用水溶液に関する。本発明は、凍結保護剤としての、または薬学的製造物もしくは賦形剤として使用するための、本発明による細胞保存用水溶液の使用にさらに関する。さらに、本発明は、本発明による細胞保存用水溶液を使用して細胞を保存する方法、および本発明による水溶液中の凍結されている細胞を解凍する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準
哺乳動物細胞の凍結保存は、原理的には、凍結過程のスピードが異なる、2つの異なる方式、即ち、いわゆる「緩慢凍結」およびガラス化において実施され得る。
【0003】
緩慢凍結(毎分0.3~10℃の温度降下)
学術的な領域において使用されるこの方法、凍結速度の調節なしの凍結の最も単純な変法の代表例は、広く普及している「ミスターフロスティ(Mr.Frosty)」である:容器の構造およびイソプロパノールの充填が、ドライアイスまたは-80℃凍結庫における、毎分およそ1℃での細胞の比較的均一な冷却、即ち、受動的ではあるが均一な凍結過程を確実にする。にも関わらず、外部の影響(ドライアイス容器の位置、-80℃凍結庫の開放等)を排除することができないため、このタイプの冷却は、調節されているとは言えない。哺乳動物細胞の凍結保存において、このタイプの凍結装置によって達成され得る結果は、最適ではないが、しばしば、ルーチンの適用には十分である。材料のコストが低いため、この方法は、研究において使用される最も優勢な方法である。
【0004】
調節された凍結速度(明確であるが可変性の温度降下/時間)による凍結、いわゆる「速度調節された緩慢凍結」は、産業的な領域またはセルバンクにおいて広く普及している。凍結培地に再懸濁させられた細胞は、コンピュータ調節下で、調節された(必ずしも一定ではない)冷却速度で凍結される。標準化された条件に加えて、凍結過程中の温度プロファイルの変化によって、最適な結果が達成される。有害な氷晶が形成される可能性のある臨界相への冷却(「過冷却」)は、毎分1~3℃で緩徐に行われるが、試料は、この相を通過した後、毎分約10℃で、より急速に冷却される。理想的には、いくつかのプローブを介して、試料温度と目標温度の間で、目標/実際の比較が実施される。特に、細胞の商業的/産業的な凍結保存において、調節された緩慢凍結は、物理技術的利点に加えて、各凍結過程の標準化および機械的ロギングのための最適な可能性をさらに提供するため、最も頻繁に使用されている方法である。
【0005】
ガラス化(「瞬間凍結」;調節されない温度降下:毎秒数百℃)
ガラス化(「ガラス固化」のラテン語)は、液体窒素中での生物学的試料の急速凍結を意味することが理解される。とりわけ、ガラス化は、精子、卵子、および胚の凍結保存において通例であるが、最近では、いくつかの多能性幹細胞についてもそうである。この場合、試料材料は、クライオバイアルではなく、特殊なプラスチックから作られ、両側が溶接された細いチューブ、いわゆる「ストロー」に充填される。非常に急速な冷却の結果として、有害な結晶が形成されることなく、数分の1秒で、試料が非晶質ガラス状態に凝固する。この方法の利点は、液体窒素によって、複雑な実験室またはクライオテクノロジーのない「現場」またはその他の領域においても使用され得るということである。このため、主に生殖医療(ヒト/動物)において従来使用されており、結果として、これらの適用のために主に最適化された。
【0006】
ガラス化の限界は、約200μlまでの極めて少量の試料にしか適していないこと、ガラス化培地中の高い凍結保護剤(CPA)含量のため、緩慢凍結用のクライオメディアより、融解過程がはるかに重要であることである[2]。さらに、技術自体は標準化の高い可能性を提供するが、凍結過程の機械ロギングが可能でない点が短所である。従って、科学的領域および産業的領域におけるこの方法の普及率は比較的低い。
【0007】
「緩慢凍結」によって凍結保存された細胞/試料の保管
凍結保存過程中、試料は-80~-90℃に冷却される。しかしながら、いわゆる「ガラス転移」、即ち、ガラス様組成物、非晶質組成物、および結晶性組成物の形態へのCPA混合物の完全な凝固は、約-130℃でしか起こらないため、この時点では凍結過程は未だ完了していない。従って、実際には、凍結過程は、凍結庫から液体窒素へ細胞を移すことによってのみ終了する[3]。
【0008】
ここでの重要な要素は、-130℃を超える全ての温度では、氷晶の形成によって、緩徐にではあるが絶えず細胞が損傷を受け続けることである。この現象は、-80℃で保存された時、たとえこれが中断なしに行われたとしても、凍結保存された細胞が生存能および機能性を失う理由でもある。無傷の組織片は、-130℃未満では、生物学的機能性を維持しながら数年間保管され得るが、-100℃で保管された場合には、2年以内に徐々に機能が失われる。例えば、定期的に起こるある種の事象のため、そのような加熱過程が保管期間中に一時的かつ周期的に続く場合、有害な効果が蓄積される。このため、凍結保存された細胞を長期保管する場合には、-130℃を超える温度への曝露を可能な限り最小限に抑えるよう注意しなければならない[3]。
【0009】
細胞を保存するための種々の培地が、当技術分野において従来公知であるが、これらの培地は、例えば、少数の細胞のみが融解後に増殖する、または融解された細胞が極めて緩徐に増殖する、1つまたは他の短所を有する。
【0010】
従って、理想的に穏和な凍結保存を容易にする、即ち、具体的には、生存力および生細胞数の損失が最小である凍結、または高い生存率での穏和な融解を容易にする、細胞を保存するための、さらなる理想的に改善された培地が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】EP 1 950 283
【発明の概要】
【0012】
課題
本発明の基礎をなす課題は、細胞を保存するための理想的に改善された培地を提供することである。
【0013】
この基礎をなす課題は、特許請求の範囲の主題、本明細書に記載される態様、または実施例によって達成される。
【0014】
発明の主題
基礎をなす本発明は、
塩化カリウムと、
リン酸カリウム、好ましくは、無水リン酸二水素カリウムと、
塩化ナトリウムと、
リン酸ナトリウム、好ましくは、無水リン酸水素ナトリウムと、
グルコース、好ましくは、無水D(+)-グルコースと、
アスコルビン酸、好ましくは、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムと、
システイン、好ましくは、L-システインHCl×H2Oと、
グルタチオン、好ましくは、還元型グルタチオンと、
メチルセルロースと、
ジメチルスルホキシド(DMSO)と
を含む、細胞保存用水溶液に関する。
【0015】
「細胞保存」または「細胞の保存」は、好ましくは、細胞凍結保存または細胞の凍結保存を含む。凍結保存とは、0℃未満、具体的には、-20℃~-200℃での、一般的には長期の、細胞の保管を意味することが理解される。凍結は、一般に、1℃/分で実施される。
【0016】
本発明は、好ましくは、
0.0185% w/v塩化カリウムと、
0.0185% w/vリン酸カリウム、好ましくは、無水リン酸二水素カリウムと、
0.8695% w/v塩化ナトリウムと、
0.1064% w/vリン酸ナトリウム、好ましくは、無水リン酸水素ナトリウムと、
0.0925% w/vグルコース、好ましくは、無水D(+)グルコースと、
0.1203% w/vアスコルビン酸、好ましくは、L-アスコルビン酸2-リン酸マグネシウムと、
0.0028% w/vシステイン、好ましくは、L-システインHCl×H2Oと、
0.0925% w/vグルタチオン、好ましくは、還元型グルタチオンと、
0.1013% w/vメチルセルロースと、
8.25% w/v DMSOと
を含む、本発明による細胞保存用水溶液に関する。
【0017】
特に好ましい態様において、本発明による細胞保存用水溶液は、以下のように調製される:
【0018】
本発明による細胞保存用水溶液は、好ましくは、細胞を保存するための「緩慢凍結」法のために使用される。好ましくは、本発明による細胞保存用水溶液は、ガラス化を適用する方法のためには使用されない。
【0019】
好ましくは、本発明による細胞保存用水溶液は、フェノールレッド、好ましくは、フェノールレッドナトリウム塩をさらに含むことができる。
【0020】
本発明による細胞保存用水溶液は、好ましくは、保存される細胞をさらに含む。これらの保存される細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞である。「細胞」という用語には、細胞凝集物も含まれる。
【0021】
好ましい哺乳動物細胞は、リンパ球、脾細胞、胸腺細胞、動物細胞、体性幹細胞、間葉系幹細胞、非ヒト胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、または癌幹細胞である。
【0022】
特に好ましい哺乳動物細胞は、ヒト誘導多能性幹細胞(hipSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC-BM)、ヒト末梢血由来単核細胞(hMNC-PB/PBMC)、ヒト成人皮膚由来皮膚線維芽細胞(NHDF-a)、ヒト成人皮膚由来皮膚メラノサイト(NHEM-a)、またはヒト大動脈由来平滑筋細胞(HAoSMC)である。
【0023】
さらなる特に好ましい哺乳動物細胞は、ヒト癌細胞株、例えば、ヒト乳癌細胞株MCF-7である。
【0024】
保存される細胞は、組織から新鮮に単離された細胞、またはインビトロで既に培養された、もしくは増大させられた細胞の両方であり得る。
【0025】
保存される細胞懸濁液1ミリリットル当たりの細胞数は、好ましくは、100,000~1億個である。
【0026】
好ましくは、細胞は、本発明による細胞保存用水溶液の助けを借りて保存される前に、培養または単離の培地/緩衝液から分離される。全ての作業が、好ましくは、無菌条件下で実施される。
【0027】
本発明は、凍結保護剤としての、本発明による細胞保存用水溶液の使用にさらに関する。
【0028】
本発明は、同様に、医薬または賦形剤として使用するための、本発明による細胞保存用水溶液に関する。
【0029】
さらに、本発明は、
(a)容器内で本発明による細胞保存用水溶液に細胞を分散させる工程;および
(b)容器を凍結保存に供する工程
を含む、細胞を保存する方法に関する。
【0030】
さらに、本発明は、
(a)本発明の細胞保存用水溶液に凍結細胞が分散し凍結している容器を融解する工程;および
(b)融解された細胞を該細胞に適した培養培地に添加する工程
を含む、本発明による細胞保存用水溶液に分散させかつ凍結させた細胞を解凍する方法に関する。
[本発明1001]
塩化カリウムと、
リン酸カリウム、好ましくは、無水リン酸二水素カリウムと、
塩化ナトリウムと、
リン酸ナトリウム、好ましくは、無水リン酸水素ナトリウムと、
グルコース、好ましくは、無水D(+)-グルコースと、
アスコルビン酸、好ましくは、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムと、
システイン、好ましくは、L-システインHCl×H 2 Oと、
グルタチオン、好ましくは、還元型グルタチオンと、
メチルセルロースと、
DMSOと
を含む、細胞保存用水溶液。
[本発明1002]
0.0185% w/v塩化カリウムと、
0.0185% w/vリン酸カリウム、好ましくは、無水リン酸二水素カリウムと、
0.8695% w/v塩化ナトリウムと、
0.1064% w/vリン酸ナトリウム、好ましくは、無水リン酸水素ナトリウムと、
0.0925% w/vグルコース、好ましくは、無水D(+)グルコースと、
0.1203% w/vアスコルビン酸、好ましくは、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウムと、
0.0028% w/vシステイン、好ましくは、L-システインHCl×H 2 Oと、
0.0925% w/vグルタチオン、好ましくは、還元型グルタチオンと、
0.1013% w/vメチルセルロースと、
8.25% w/v DMSOと
を含む、本発明1001の細胞保存用水溶液。
[本発明1003]
フェノールレッド、好ましくは、フェノールレッドナトリウム塩をさらに含む、本発明1001または1002の細胞保存用水溶液。
[本発明1004]
保存される細胞をさらに含む、本発明1001~1003のいずれかの細胞保存用水溶液。
[本発明1005]
保存される細胞が哺乳動物細胞である、本発明1004の細胞保存用水溶液。
[本発明1006]
哺乳動物細胞が、ヒト誘導多能性幹細胞(hipSC)、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC-BM)、ヒト末梢血由来単核細胞(hMNC-PB/PBMC)、ヒト成人皮膚由来皮膚線維芽細胞(NHDF-a)、ヒト成人皮膚由来皮膚メラノサイト(NHEM-a)、ヒト大動脈由来平滑筋細胞(HAoSMC)、またはヒト癌細胞株、例えば、ヒト乳癌細胞株MCF-7である、本発明1005の細胞保存用水溶液。
[本発明1007]
凍結保護剤としての、本発明1001~1006のいずれかの細胞保存用水溶液の使用。
[本発明1008]
薬学的製造物または賦形剤として使用するための、本発明1001~1006のいずれかの細胞保存用水溶液。
[本発明1009]
(a)容器内で本発明1001~1006のいずれかの細胞保存用水溶液に細胞を分散させる工程;および
(c)容器を凍結保存に供する工程
を含む、細胞を保存する方法。
[本発明1010]
(a)本発明1001~1006のいずれかの細胞保存用水溶液に凍結細胞が分散し凍結している容器を融解する工程;および
(b)融解された細胞を該細胞に適した培養培地に添加する工程
を含む、本発明1001~1006のいずれかの細胞保存用水溶液に分散させかつ凍結させた細胞を解凍する方法。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0031】
使用された材料
【0032】
実施例1:凍結される細胞の培養培地からの分離
接着増殖細胞、および懸濁液中で増殖する非接着細胞の両方が、凍結され得る。ここで、「細胞」という用語は、個々の細胞、および数百個もの細胞の細胞凝集物をさす。
【0033】
実施例1A:接着増殖細胞の剥離
接着増殖細胞を剥離させるためには、まず、培養培地を吸引によって除去する。次いで、細胞層を、多量の(Ca2+/Mg2+を含まない)PBS緩衝液で2回洗浄し、再度吸引によって除去する。適当な剥離剤、例えば、アキュターゼ(https://www.accutase.com/accutase.html)またはトリプシン-EDTA/TNSを添加した後、製造業者の仕様に従って、細胞を剥離させる。剥離過程を顕微鏡下でモニタリングする。細胞が丸くなり始めたら直ぐに、細胞培養容器を軽く叩くことによって、完全に剥離させる。剥離した細胞をサンプルチューブに移し、細胞の濃度および総数を細胞計数によって決定する。遠心分離(例えば、300×g、室温で3分間)によって細胞をペレット化した後、吸引によって慎重に上清を除去する。サンプルチューブ内には細胞ペレットが残存し、それを、実施例2に記載されるようなさらなる処理に供する。
【0034】
実施例1B:非接着懸濁細胞の採集
懸濁液中に存在する、または増殖中の細胞を、培地と共にチューブに移す。次いで、細胞の濃度および総数を、細胞計数によって決定する。遠心分離(例えば、300×g、室温で3分間)によって細胞をペレット化した後、吸引によって慎重に上清を除去する。サンプルチューブ内には細胞ペレットが残存し、それを、実施例2に記載されるようなさらなる処理に供する。
【0035】
実施例2:本発明による細胞保存用水溶液による細胞の凍結
実施例1において作製された細胞ペレットを、相当量(下記参照)の本発明による細胞保存用水溶液に室温で取込み、セロロジカルピペットを使用して上下に注意深くピペッティングすることによって再懸濁させる。細胞懸濁液1ミリリットル当たりの細胞数は、100,000~1億個でなければならない。それぞれの場合において、1mlの細胞懸濁液を、凍結チューブに迅速に分配する。
【0036】
次いで、チューブを、コンピュータによって調節された凍結庫(IceCube 14M)に遅滞なく移す。これは、2つの参照温度プローブ(試料プローブおよび機械の凍結チャンバー
のためのプローブ)を有し、それらを、凍結過程の開始前に適所に設置する。その後、調節された自動凍結過程が、適当な凍結プロトコルによって開始される。凍結過程は、試料が-80℃以下の温度に達した時に完了する。
【0037】
あるいは、2-プロパノールが充填された凍結容器、例えば、「ミスターフロスティ」において、少なくとも4時間、ドライアイス上で、細胞を凍結保存してもよい。
【0038】
凍結された細胞を含むチューブを、その後、凍結庫または凍結容器から取り出す。それらを、冷却チェーンを中断することなく、-80℃のドライアイスで保管場所まで輸送し、液体窒素中に一時的に保管する。それらは無期限にそこに維持され得る。
【0039】
本発明による細胞保存用水溶液は、以下のように調製される:
【0040】
実施例3:細胞の融解および播種
最初に9mlの培養培地(室温)をチューブに投入する。さらに、適当な培養容器に相当量の培養培地(例えば、培養面積1cm2当たり0.2~0.3mlのヘパリン)を充填し、この培養容器を、37℃および5%CO2のインキュベーター内で少なくとも30分間予備平衡化する。
【0041】
凍結保存された細胞を含むチューブを、液体窒素から取り出し、ドライアイスで輸送する。融解を、37℃の温度調節された水浴中で連続的な旋回の動きによって2分間行う。チューブを70%(v/v)エタノールで消毒し、無菌ベンチ下に移す。そこで、融解された細胞を含むチューブを開け、細胞を、チューブ内に置かれた9mlの培養培地に迅速に移す。任意で、最適な播種密度のために必要とされる正確な細胞数を決定するため、生細胞数を、この時点で決定することができる。
【0042】
その後、細胞を遠心分離(例えば、300×g、室温で3分間)によってペレット化し、上清を吸引によって除去する。細胞ペレットを適量の新鮮な培養培地に取込み、細胞懸濁液を(それぞれの細胞型について推奨される播種密度を考慮して)予備平衡化された培養容器に移す。さらなるインキュベーションを、37℃および5%CO2のインキュベーター内で行う。