(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】クライオ電子顕微鏡法のための試料支持及び試料冷却システム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
G01N1/28 W
G01N1/28 F
(21)【出願番号】P 2022520373
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 US2020054272
(87)【国際公開番号】W WO2021067940
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-05-17
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520455092
【氏名又は名称】マイテジェン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】MITEGEN, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】クロス,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】アプカー,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ソーン,ロバート,イー.
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-040871(JP,A)
【文献】特開2007-139510(JP,A)
【文献】特開2011-228283(JP,A)
【文献】特開2005-003682(JP,A)
【文献】特開2015-187974(JP,A)
【文献】特開2008-286694(JP,A)
【文献】特開2008-283892(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03739615(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03786608(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/008502(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0261588(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0364294(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0277573(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143198(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0253907(US,A1)
【文献】L.A. Passmore, et al.,Specimen Preparation for High-Resolution Cryo-EM,Methods in Enzymology,2016年,Vol. 579,p. 51-86,<検索日:2024.02.08>, <DOI: 10.1016/bs.mie.2016.04.011>, <URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27572723/>,上記URLのwebドキュメントでは、p. 1-39
【文献】TED PELLA, INC.,TEM GRIDS & TEM SUPPORT FILMS,2018年09月20日,p. 1-35,<検索日:2024.02.14>, <HTTP: http://web.archive.org/web/20180920170129/https://www.tedpella.com/pdfs_html/TEM-Grids-Ted-Pella.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料支持デバイスであって、
第1表面、第2表面、グリッド厚さ、内側部分及び外側部分を有するグリッドであって、前記内側部分は複数のグリッドバーを有し、前記複数のグリッドバーは、前記グリッドバー間で前記第1表面及び前記第2表面を貫通する複数の孔を画定し、前記複数の孔は第1直径を有する、グリッドと、
前記グリッドの前記第1表面とコンタクトしている試料支持膜であって、前記試料支持膜は前記グリッド厚さより薄い膜厚を有し、前記試料支持膜は、前記試料支持膜を貫通して延在する複数のアパーチャを画定し、
前記複数のアパーチャは第2直径を有し、前記複数のアパーチャの前記第2直径は前記グリッド内の前記複数の孔の前記第1直径よりも小さい
、試料支持膜と、を備え、
前記グリッドは、第1熱伝導率及び第1電気伝導率を有する第1金属材料を含み、前記試料支持膜は、前記第1熱伝導率及び前記第1電気伝導率よりもそれぞれ低い、第2熱伝導率及び第2電気伝導率を有する第2金属材料を含み、したがって、低温流体を有する試料支持デバイスを冷却する間、前記試料支持膜の前記第2熱伝導率は、前記グリッドバーによって画定される前記孔内の前記試料支持膜が前記グリッドバーよりも早く冷却されるようにする一方で、前記グリッドバーから前記試料支持膜への熱伝導を妨げる、
試料支持デバイス。
【請求項2】
前記第2金属材料は、0.1%と10%との間のクロム含有量を有するクロムと金との合金を含む、
請求項1記載の試料支持デバイス。
【請求項3】
前記第2金属材料の前記第2熱伝導率は、前記第1金属材料の前記第1熱伝導率の1/10である、
請求項1又は2記載の試料支持デバイス。
【請求項4】
前記グリッド厚は、
10マイクロメートルと
25マイクロメートルとの間にある、
請求項1乃至3いずれか1項記載の試料支持デバイス。
【請求項5】
前記膜厚は、
10ナノメートルと
100ナノメートルとの間にある、
請求項4記載の試料支持デバイス。
【請求項6】
前記グリッドバーは、リニアインチ当たり
200から400セルを有するメッシュを形成する、
請求項1乃至5いずれか1項記載の試料支持デバイス。
【請求項7】
前記試料支持膜内の前記アパーチャの第2直径は、
0.5マイクロメートルと
2.0マイクロメートルの間にある、
請求項1乃至6いずれか1項記載の試料支持デバイス。
【請求項8】
前記試料支持膜は、貫通孔を有しない固体オーバーラップ領域を有し、
前記固体オーバーラップ領域は前記グリッドバーに重なり合い、前記グリッドバーに隣り合う領域内に位置する、
請求項1乃至7いずれか1項記載の試料支持デバイス。
【請求項9】
前記試料支持膜の前記固体オーバーラップ領域は、グリッドバー幅の
5%の幅又は前記グリッド内の前記孔の前記第1直径の少なくとも2倍の幅を有する前記グリッドバーに隣り合う領域を含む、
請求項8記載の試料支持デバイス。
【請求項10】
試料支持デバイスであって、
第1表面、第2表面、グリッド厚さ、内側部分及び外側部分を有するグリッドであって、前記内側部分は複数のグリッドバーを有し、前記複数のグリッドバーは、前記グリッドバー間で前記第1表面及び前記第2表面を貫通する複数の孔を画定し、前記複数の孔は第1直径を有する、グリッドと、
前記グリッドの前記第1表面とコンタクトしている試料支持膜であって、前記試料支持膜は前記グリッド厚さより薄い膜厚を有し、前記試料支持膜は、前記試料支持膜を貫通して延在する複数のアパーチャを画定し、
前記複数のアパーチャは第2直径を有し、前記複数のアパーチャの前記第2直径は前記グリッド内の前記複数の孔の前記第1直径よりも小さい
、試料支持膜と、を備え、
前記グリッドは、
第1熱伝導率及び第1電気伝導率を有するとともに77ケルビン(K)と300Kとの間で第1平均熱膨張率を有する第1電気伝導性材料を含み、
前記試料支持膜は、
前記第1熱伝導率及び前記第1電気伝導率よりもそれぞれ低い、第2熱伝導率及び第2電気伝導率を有するとともに77Kと
300Kとの間で、前記第1平均熱膨張率より大きい第2平均熱膨張率を有する第2電気伝導性材料を含み、したがって、
低温流体を有する試料支持デバイスを冷却する間、前記試料支持膜の前記第2熱伝導率は、前記グリッドバーによって画定される前記孔内の前記試料支持膜が前記グリッドバーよりも早く冷却されるようにする一方で、前記グリッドバーから前記試料支持膜への熱伝導を妨げるとともに、前記試料支持デバイスを低温温度に冷却することは、前記試料支持膜に張力をかける、
試料支持デバイス。
【請求項11】
グリッド材料の前記第1電気伝導性材料は、タングステン、チタン、モリブデン、タンタル及び/又は、それらの合金を含み、
前記試料支持膜の前記第2電気伝導性材料は、金、銅、ニッケル及び/又は、実質的に金、銅又はニッケルからなる合金を含む、
請求項10記載の試料支持デバイス。
【請求項12】
293Kと
77Kとの間の前記グリッドの前記第1電気伝導性材料の第1熱収縮は、
136Kと
77Kとの間の前記試料支持膜の前記第2電気伝導性材料の第2熱収縮以下である、
請求項10又は11記載の試料支持デバイス。
【請求項13】
293Kと
77Kとの間の前記グリッドの前記第1電気伝導性材料の第1熱収縮は、
136Kと
77Kとの間の非結晶及び六方晶氷の氷熱収縮以下である、
請求項10又は11記載の試料支持デバイス。
【請求項14】
293Kと
77Kとの間の前記グリッドの前記第1電気伝導性材料の第1線形熱収縮は、
293Kと
77Kとの間の前記試料支持膜の前記第2電気伝導性材料の第2線形熱収縮の半分未満である、
請求項10又は11記載の試料支持デバイス。
【請求項15】
293Kと
77Kとの間の前記グリッドの前記第1電気伝導性材料の第1線形熱収縮は、
293Kと
77Kとの間の前記試料支持膜の前記第2電気伝導性材料の第2線形熱収縮の0.26と0.70との間である、
請求項10又は11記載の試料支持デバイス。
【請求項16】
試料支持デバイスであって、
第1表面、第2表面、グリッド厚さ、内側部分及び外側部分を有するグリッドであって、前記内側部分は複数のグリッドバーを有し、前記複数のグリッドバーは、前記グリッドバー間で前記第1表面及び前記第2表面を貫通する複数の孔を画定し、前記複数の孔は第1直径を有する、グリッドと、
前記グリッドの前記第1表面とコンタクトしている試料支持膜であって、前記試料支持膜は前記グリッド厚さより薄い膜厚を有し、前記試料支持膜は、前記試料支持膜を貫通して延在する複数のアパーチャを画定し、
前記複数のアパーチャは第2直径を有し、前記複数のアパーチャの前記第2直径は前記グリッド内の前記複数の孔の前記第1直径よりも小さい
、前記試料支持膜はさらに、第1膜厚を有する第1膜領域と、第1膜厚とは別の第2膜厚を有する第2膜領域とを含む、試料支持膜と、を備え
、
前記グリッドは、第1熱伝導率及び第1電気伝導率を有する第1金属材料を含み、前記試料支持膜は、前記第1熱伝導率及び前記第1電気伝導率よりもそれぞれ低い、第2熱伝導率及び第2電気伝導率を有する第2金属材料を含み、したがって、低温流体を有する試料支持デバイスを冷却する間、前記試料支持膜の前記第2熱伝導率は、前記グリッドバーによって画定される前記孔内の前記試料支持膜が前記グリッドバーよりも早く冷却されるようにする一方で、前記グリッドバーから前記試料支持膜への熱伝導を妨げる、
試料支持デバイス。
【請求項17】
前記第1膜領域及び前記第2膜領域は両方とも、前記アパーチャを有する、
請求項16記載の試料支持デバイス。
【請求項18】
前記試料支持膜の外面は、前記試料支持膜の内部領域より厚い、
請求項16又は17記載の試料支持デバイス。
【請求項19】
前記試料支持膜の前記外面は、アパーチャを有しない、
請求項18記載の試料支持デバイス。
【請求項20】
前記第1膜領域の前記第1膜厚は、
10ナノメートルと
100ナノメートルとの間にある、
請求項16乃至19いずれか1項記載の試料支持デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月4日に出願された米国仮出願62/910511に関連するものであり、その優先権を主張し、その全体は参照により本願明細書に組み込まれたものとする。
【0002】
政府支援の確認
本研究は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health,General Medical Sciences)から、裁定番号R43 GM137720-01の支援を受けている。
【背景技術】
【0003】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関係する。より詳細には、低温電子顕微鏡法のための試料支持体及び試料冷却システムの設計に関係する。
【0004】
単粒子クライオ電子顕微鏡法(クライオEM:cryo‐EM)は、大きな生体分子複合体、膜蛋白質、及びその他の主要な科学的、製薬学的、及びバイオテクノロジー的関心のあるターゲットの原子分解能に近い構造を取得するための強力なアプローチである。高効率、高フレームレートの直接電子検出器、電子ビーム誘導運動(electron-beam-induced motion)のために取得された「ムービー」を補正するためのアルゴリズム、及び105~106の分子画像を分類及び平均化するための計算ツールの開発により、達成可能な解像度とスループットが劇的に向上した。新規のクライオEM設備への巨額の投資と使いやすいソフトウェアの開発は、特に専門家でない人々へのアクセスを大幅に拡大した。X線結晶解析とは異なり、クライオEMは、溶液中に分散された少量の生体分子試料のみを必要とする。これまで結晶化が難しかった系の構造を調べることができるようにし、構造決定の初期の試みとして利用されるようになってきた。
【0005】
X線クライオ結晶学の場合と同様に、単一粒子クライオEMにおける主要な課題は、試料の調製及びハンドリングに関連している。現在使用されている基本的な原理と方法は1980年代に開発され、最近の試料調製技術の開発は、当時開発されたアイデアと方法にしっかりと根ざしている。生体分子試料は発現(expressed)、単離、精製されなければならない。関心のある生体分子の約0.3mg/mLを含む、凍結防止剤フリーの緩衝剤(Cryoprotectant-free buffer)は、10~25nm厚さ、3mm直径金属(通常、銅又は金)グリッドの、200~400メッシュによって支持された、グロー放電クリーニングされて帯電した、10~50nm厚さのカーボン又は金属(多くの場合、金)「箔」上に分配される。界面との相互作用によって優先的に配向される生体分子の割合を制限しながら、画質を最大化するために、生体分子の直径の数倍又は約10~50nmのターゲット厚さで、ブロッティング又は吸い取り(blotting)と蒸発とによって過剰な試料を除去する。最良の画像化のために緩衝剤をガラス化するために、試料を含有する箔+グリッドを、1~2m/sで、T約90Kにおいて液体エタン(液体窒素で冷却されたカップ内でガスを冷却することによって生成される)にプランジする、投入する又は浸す(plunged)。試料はエタンから液体窒素(LN2)に移送され、グリッドボックスにロードされ、追加のコンテナに移送されてから、保管デュワーに移送される。試料は保管デュワーとグリッドボックスから取り除かれ、冷温顕微鏡ステージ内にロードされるか、「クリップ」されて冷温試料カセットにロードされ、その後、ステージ又はカセットが顕微鏡にロードされる。
【0006】
これらの複雑な手順は困難を伴う。グリッド及び特に箔は、多くの手動ハンドリングステップの各々において、日常的に曲げられ、引き裂かれ、その他の方法で損傷される。試料の分配、ブロッティング、蒸発が不正確である。最終的試料の膜厚の制御が不十分である。生体分子は、優先的に配向し又は変性を受ける界面に蓄積する。プランジ冷却された試料は、しばしば顕著な結晶性の氷を形成し、エタン、窒素、及び湿気にさらされた他の冷たい表面上に形成される氷によって汚染される。試料ブロッティング及びプランジ冷却に広く使用されている機器、特にFEIのVitrobotTM、GatanのCryoplungeTM、及びLeicaのEM GPTMは、これらの課題に適切に対処していない。TTP LabTechのChameleonTMやVitroJetTMなどの新世代の機器は、試料分配、ブロッティング/ウィッキング(wicking)、プランジ冷却、及びグリッドボックスへの移送を組み合わせた試料調製プロセスを自動化する。しかしながら、これらの機器は複雑で、およそ50万ドルと高価あり、長期のサービス契約を必要とし、ほとんどの研究グループの範囲を超えている。さらに重要なことに、それらが堅牢かつ柔軟な方法で主要な試料調製の課題に対処していることは明らかではない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、クライオ電子顕微法察用の試料支持体及び試料冷却デバイスの設計、機能及び使用に関する。
【0008】
本出願では、試料支持設計及び試料冷却デバイスのいくつかのイノベーションについて述べる。これらのイノベーションは、試料の調製とハンドリングを簡素化し、誤差を顕著に低減し、結果の再現性を改善し、全体のコストを劇的に削減する。
【0009】
クライオEM用の試料支持体は、炭素(carbon)又は金属の非常に薄い試料支持膜/箔によって頂面上をカバーされた金属グリッドを備える。グリッドは、貫通アパーチャ(through-apertures)のメッシュパターンと、アパーチャのない固体外縁領域(solid, aperture-free outer edge region)とを有する。箔は、はるかに小さな貫通孔のパターンを有する。これらは、尖った先端を有する金属製ピンセットで取り扱われ、ハンドリング時に破損することがしばしばある。
【0010】
本出願は、まず、グリッド、箔、グリッド+箔アセンブリ、及びグリッドをハンドリングするためのツールに対する一連のイノベーションを記載し、これらが一緒になって、機能性及び有用スループットを改善するクライオEM試料保持及びハンドリングシステムを形成する。
【0011】
一実施形態によれば、試料支持膜の下のグリッドは、グリッドが固体又はほぼ固体である一面上に、好ましくはグリッドエリアの少なくとも10%かつ50%未満の実質的なエリア、範囲又は面積(area)を有し、グリッド又は箔を損傷することなく安全にグリッドを把持及び取り扱うことができるエリアを提供する。一実施形態によれば、グリッドは、その外縁部に1つ以上の凹所(indentations)を有し、マッチング把持ツールに対してグリッドを正確に方向付けることができる。
【0012】
一実施形態によれば、グリッドは、別個の固体エリア又は他の構造又はマーキングを有し、それは、グリッドの固体外縁領域よりも小さい、グリッドの中心からの半径において、かつ自動グリッドハンドリングを簡単化するために使用される任意のグリッド「クリップ」の内径よりも小さい半径において、かつ電子顕微鏡で画像化するためにアクセス可能なグリッドの領域内に配置されており、これにより、プランジ冷却中及び電子顕微鏡での後続の測定中に、グリッドの中心軸周りの方向を決定することが可能となる。このマーキングは、好ましくは、肉眼で容易に視認することができる。
【0013】
一実施形態によれば、グリッドは、グリッドの縁部から離れた領域であって、電子顕微鏡で画像化するためにアクセス可能である、「クリップ」によって覆われた任意の領域に、表面マーク又は貫通孔のアレイを有し、個々のグリッドを光学的に又は電子顕微鏡を使用して一意に識別するために使用できるパターン又はコードを形成する。
【0014】
一実施形態によれば、試料支持膜/箔の下のグリッドバーは、グリッドの全エリアの25%未満又は10%未満を含む、グリッドの選択エリア内のグリッドの平面において、縮小された幅を有し、個々に、グリッドエリアの5%未満、好ましくは2%未満を含む。グリッドバーの幅は、好ましくは、300メッシュグリッドで標準の25μm以上から1~10μmに低減されている。幅が低減されたグリッドのエリアは、グリッドがクリップされたときに視認可能なままになるグリッド上の把持エリア又はその他のフィーチャによって示されるように、プランジ冷却中の試料運動(sample motion)の方向に沿って延在する。
【0015】
一実施形態によれば、試料支持膜/箔の下のグリッドバーは、好ましくは全グリッドエリアの25%未満又は10%未満を含む選択されたエリアにおいて、グリッドの平面に対して垂直に低減された厚さを有する。グリッドバーの厚さは、好ましくは、標準10μmから1~5μmに低減され、又は標準25μmから1~10μmに低減される。低減された厚さを有するグリッドのエリアは、好ましくは、プランジ冷却中に、試料運動の方向に沿って延在する。
【0016】
一実施形態によれば、グリッドバーの幅及び/又は厚さは、1つのグリッドの正方形又はセルと同等の小さなエリアでのみ低減され、冷却中に発生する応力によるグリッドの変形が集中する弱いリンクを作成し、その変形によってそれら間のグリッドバーの実質的な動きを可能にし、試料支持膜の応力を解放する。
【0017】
一実施形態によれば、グリッドは、開口とグリッドバーとのパターンを有し、グリッドの中央領域は、好ましくは、全グリッドエリアの25%未満を備え、グリッドの外側部分におけるよりも、より小さな幅、より小さな厚さ、及び/又はより大きなメッシュサイズ、及び/又は、より小さな固体エリア割合を有するグリッドバーを有する。
【0018】
一実施形態によれば、グリッドは、正方形及び六角形のメッシュ領域の両方を有することができ、異なるメッシュサイズ及び開口エリア割合を有する領域を有することができる。
【0019】
一実施形態によれば、グリッドは、形成された後に互いに接合される2つの平面状でありほとんど円形の別々のパーツから組み立てられる。一実施形態によれば、1つのパーツは、より厚く、各々が単一のグリッド正方形(又は六角形)のエリアよりもはるかに大きいエリアを包含する1つ以上の孔/アパーチャを有することができる。一実施形態によれば、より薄いパーツは、より厚いパーツのより大きな孔/アパーチャを覆うグリッドパターン又はメッシュを有する。
【0020】
一実施形態によれば、グリッドは、モリブデン、チタン、タングステン又はタンタル等の導電性材料で形成されており、77Kから300Kの間で小さな平均熱膨張係数を有し、試料支持箔は、実質的により大きい熱収縮を受ける、金、銅又はニッケル等の材料である。
【0021】
一実施形態によれば、試料支持膜又は箔は、固体の把持部分を有するグリッドの一実施形態の固体の把持部分と実質的に重ならないように、サイズ決定及び成形され、その結果、グリッドは、箔に接触又は損傷を与えることなく、固体エリア上に把持され得る。
【0022】
一実施形態によれば、グリッドを覆う箔は、好ましくは、少なくとも2つの異なる厚さを有する領域を有し、これらの領域のうちの1つ以上は、貫通孔のアレイを有する。
【0023】
一実施形態によれば、試料支持箔は、低熱伝導性であるが高電気伝導性の金属合金で作られ、好ましくは10nmと100nmとの間、好ましくは50nmの厚さを有し、0.1μmと5μmとの間、好ましくは1μmの大きさの孔を有し、好ましくは金、銅、チタン、ニッケル、タングステン又はモリブデンで作られたクライオ電子顕微鏡グリッド上に置かれる。
【0024】
一実施形態によれば、低熱伝導率、高導電率の合金は、0.1%と10%との間、好ましくは1%重量のクロム含有量を有するクロムと金の合金である。
【0025】
一実施形態によれば、金属又は炭素の試料支持箔は連続しており、支持体のグリッドバーに一致するパターンを形成する領域に孔を有さず、支持箔はグリッドバーから離れた各開口エリアに孔アレイを有する。一実施形態によれば、孔の中心は、グリッドバー間の開口幅の少なくとも1/8だけグリッドバーの位置から離間する。
【0026】
一実施形態によれば、グリッドバーに登録されるべき試料支持箔の孔の無い領域は、箔の選択領域のみに限定され得るため、グリッドバーを他の場所の箔の下方に視認することができ、したがって、箔とグリッドバーとの整列を容易にする。
【0027】
一実施形態によれば、金属グリッド及び金属箔は、整列ステップを必要とする2つの別々のプロセスではなく単一の製造プロセスで一緒に製造され、したがって自動的に整列される。一実施形態によれば、このプロセスは、基板上に剥離層を堆積するステップ;箔層を堆積するステップ;フォトレジストを堆積するステップ;フォトレジスト中の箔の孔パターンを露光するステップ;箔中の孔パターンをエッチングするステップ;フォトレジストを除去するステップ;フォトレジストの第2層を堆積するステップ;フォトレジスト中のグリッドパターンを露光及び現像するステップ;フォトレジスト中の開口を介して箔上にグリッドを電子形成するステップ;フォトレジストを除去するステップ;及び、基板からの完成したグリッド+箔を剥離するステップ、を含む。
【0028】
本発明はさらに、クライオEMグリッドを保持するためのツール/鉗子の設計を含む。
【0029】
一実施形態によれば、ツール/鉗子は、グリッドの3.05mm幅より小さいがそれと同等の幅を有する実質的に平坦なエリアを有する試料/グリッド把持端部を有する。
【0030】
一実施形態によれば、ツール/鉗子の把持端部は、一実施形態によるグリッドの平坦な把持エリアのみに接触するように成形され、好ましくは、鉗子がグリッドの箔で覆われた部分に接触しないように構成される。
【0031】
一実施形態によれば、ツール/鉗子の把持端部は、グリッドの外側縁部に任意のノッチを含むグリッドの外側縁部に適合する輪郭又は突起部を有し、ツール/鉗子のグリップ端には、グリッドの外縁に一致する輪郭または突起があり、その外縁のノッチを含みます。グリッドエッチングが輪郭または突起に接触する前に、グリップ端がグリップの端を越えて一定の距離だけスライドするようにする。グリッド縁部が輪郭又は突起部にコンタクトする前に、把持端部が把持の縁部を越えて一定の距離スライドするようにし、グリッドが鉗子内で正確に配向されるようにする。一実施形態によれば、グリッドは、把持ツール内のポストと整列する把持領域内に大きな貫通孔を有し得る。
【0032】
一実施形態によれば、ツール/鉗子の把持端部は、ポリマーから作られる。一実施形態によれば、ツール/鉗子本体は金属又はポリマーで作られており、圧迫されるまで開いたまま又は閉じたままにするバネ作用がある。
【0033】
本発明は、さらに、エタン又は他の可燃性の液体低温流体を使用せず、その代わりに冷却及び保存に液体窒素のみを使用する、クライオ電子顕微鏡用の試料を冷却する手段を含む。
【0034】
一実施形態によれば、かかる手段は、1m/sから10m/sの間の速度で試料を液体窒素中にプランジし得る垂直直線試料移動ステージ(vertical linear sample translation stage)と、このステージに取り付けられた把持機構であって、クライオEMグリッドを把持し、その平面を液体窒素の表面に正確に垂直に保持することができる、把持機構と、液体窒素表面上のすべての冷温ガスを除去し、T>273Kのガスと63K<T<77Kの液体窒素との間の急激な(100μm以下の規模の)移行(transition)を確実にするための手段であって、冷温ガスを除去し、乾燥した周囲温度のガス(N2)を流すための吸引/真空部を含むことができる、手段と、液体窒素を入れた断熱容器又はデュワーと、クライオ冷却したクライオEM試料をその中に配置することができる液体窒素中に存在する容器と、を備える。
【0035】
一実施形態によれば、把持機構は、グリッドがプランジ冷却された後に、クライオEMグリッドを保管容器に自動的に解放する。
【0036】
一実施形態によれば、デュワー内の液体窒素のレベルをほぼ一定に維持するための手段が提供さる。
【0037】
一実施形態によれば、試料は、100%までの制御可能な湿度を有する加湿チャンバ内にプランジする前に存在し、試料の脱水を防止又は制御する。
【0038】
一実施形態によれば、グリッドからの過剰な液体の自動又は手動でのブロッティングための手段が提供される。
【0039】
一実施形態によれば、液体窒素を収容するデュワー又は断熱容器は、試料がプランジされる液体窒素を収容する第1容器に置き換えられ、沸騰温度よりも低いが凍結温度よりも低くない温度の液体窒素を収容する第2の容器と良好に熱的にコンタクトし、その結果、第1の容器内液体窒素の温度が沸騰温度よりも低くなる。
【0040】
一実施形態によれば、第1容器は、第2容器内に大部分が配置され、第1容器と第2容器内の液体窒素との間の熱的コンタクトを最大にする。
【0041】
一実施形態によれば、第2容器内の液体窒素の温度は、蒸発冷却によってその沸点よりも低下する。
【0042】
一実施形態によれば、第2容器は、容器内のガスの圧力を低下させ、液体窒素を蒸発冷却するために真空ポンプに接続することができるポートを除いて、大部分が密封され得る。
【0043】
一実施形態によれば、メイン液体窒素チャンバ内の機械式ステージは、標準クライオEM試料ホルダ保管ボックス/カセットを受け入れ、垂直移動ステージによって定義された試料プランジパスに沿って自動的に配置し、したがって、各コールド試料は、垂直移動ステージの垂直方向のみの動作と、試料ホルダ保管ボックスが配置される機械式ステージの水平方向のみの動作の組み合わせによって、各ホルダ内の個別のコンパートメントに配置される。
【0044】
本発明は、さらに、プランジ冷却の前にグリッド及び箔の表面から過剰な試料溶液を除去する手段を含む。
【0045】
一実施形態によれば、濾紙などの吸収性材料は、クライオEMグリッドのサイズ及びエリアに実質的に適合するように切断される。
【0046】
一実施形態によれば、この吸収性ディスクは、グリッドの表面と直接コンタクトするように押圧される。
【0047】
一実施形態によれば、この吸収性ディスクは、隆起したエリアを生成するようにエンボス加工又はパターン化され、その結果、吸収性ディスクがグリッドとコンタクトするように押圧された場合、盛り上がった領域のみがグリッドとコンタクトする。
【0048】
一実施形態によれば、吸収性ディスク上の隆起したエリアは、グリッドの全エリアのわずかな割合、好ましくは25%又は10%未満しか占めないため、グリッドエリアの大部分は吸収性ディスクによってコンタクトされない。
【0049】
一実施形態によれば、グリッド上の試料支持箔は、吸収性材料上のエンボスパターンに適合する、孔有り及び孔無し領域のパターンを有し、したがって、吸収性材料によってコンタクトされる箔の領域は孔を有しない。
【0050】
本発明はさらに、液体エタン又は液体窒素などのクライオ液体を用いてクライオEM試料を冷却する手段を備え、ここで、1つ以上の低温液体のジェットが試料に方向付けられ、その手段は、ジェットチューブ又はノズルからのクライオ液体に先行する低温ガスによる試料の予冷却を防止するために提供される。
【0051】
一実施形態によれば、かかる種の手段は、少なくとも1つのクライオEMグリッドを保持する試料ホルダと、断熱容器内の液体低温流体の供給部と、断熱容器からの1つ以上のチューブ又は導管であって、液体低温流体がそこを流れて通り、かつ液体低温流体はそこから出て試料に向かってジェットとして流れる、チューブ又は導管と、液体低温流体を、容器から管を通って試料に向かって推進するための手段と、低温液体ジェットに先行する冷温ガスガスを排除し、したがって液体ジェットが試料に衝突したときにのみ試料冷却が開始されるようにする、手段と、を備える。
【0052】
一実施形態によれば、液体低温流体を容器から推進する手段は、ピストン、ポンプ、又は容器内に存在する加圧ガスであり得る。
【0053】
一実施形態によれば、液体低温流体は、バルブによってチューブ又は導管から試料へ流出することが防止される。
【0054】
一実施形態によれば、試料は、液体低温流体が試料に向かって流れるときに、(1つ以上の)液体低温流体ジェットを生成する(1つ以上の)導管部分の(1つ以上の)軸に対して静止し得る。
【0055】
一実施形態によれば、試料は、液体低温流体が試料に向かって流れるときに、(1つ以上の)液体低温流体ジェットを生成する(1つ以上の)導管部分の(1つ以上の)軸に対して並進し得る。
【0056】
一実施形態によれば、機械的シャッタ又はブレードは、液体低温流体流が導管から試料に向かって最初に流れ始めたときに、液体低温流体流を最初に遮断し、その後、液体低温流体流が試料に当たるように、道を逸れて急速に移動する(rapidly moved out of the way)。
【0057】
一実施形態によれば、シャッタは、熱的に絶縁性の材料である。一実施形態によれば、0℃と周囲温度との間の温度におけるガスの高速流又は「ブレード」が、液体低温流体流を生成するチューブの出口を横切って方向付けられ、その結果、液体の前方の管から出る冷温ガスが、試料から離れるように偏向される。
【0058】
一実施形態によれば、液体窒素の容器内に冷却した後に試料を並進する手段が提供される。
【0059】
一実施形態によれば、試料は、グリッドカセット又は他のグリッドホルダ内に並進され、その後、断熱容器内の液体窒素又は冷温窒素ガス内に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1(A)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの平面図である。
図1(B)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの平面図である。
図1(C)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの平面図である。
図1(D)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの側面図である。
図1(E)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの側面図である。
図1(F)は、試料支持膜又は箔及び試料で覆われた先行技術のクライオEMグリッドの側面図である。
【
図1(G)】
図1(G)は、自動化された取扱いのために「クリップされた」先行技術のクライオEMグリッドの斜視図である。
【
図2(A)】
図2(A)は、薄い試料支持箔で覆われた300メッシュのクライオEMグリッドの1つのセルの模式図である。矢印は液体低温流体の流れを示す。
【
図2(B)】
図2(B)は、生体分子含有液体試料が、箔の孔を通って流れ、グリッドバーを濡らす模式図である。
【
図3(A)】
図3(A)は、把持及び配向マーキングのための固体エリア及びノッチと、グリッド識別及びトラッキングのためのバーコード又はマーキングとを有するグリッド設計を示す図である。
【
図3(B)】
図3(B)は、把持及び配向マーキングのための固体エリア及びノッチと、グリッド識別及びトラッキングのためのバーコード又はマーキングとを有するグリッド設計を示す図である。
【
図4(A)】
図4(A)は、六角形の孔メッシュ、固体セット、孔無し領域、及び非対称の特徴又はマーキングを有する一実施形態によるクライオEMグリッドを示す図である。
【
図4(B)】
図4(B)は、配向ノッチ及び把持領域を含むグリッドを示す図である。
【
図5(A)】
図5(A)は、従来技術のクライオEMグリッド及びそのグリッドバーパターンのクローズアップを示す図である。
【
図5(B)】
図5(B)は、選択エリアにおいて可変グリッドバー幅及び形状を有する一実施形態によるクライオEMグリッドを示す図である。矢印は、プランジ冷却中の液体低温流体に対するグリッド運動の方向を示す。
【
図5(C)】
図5(C)は、一実施形態による
図5(C)のクライオEMグリッドを拡大して示す図であり、幅が狭くなりグリッドバーが除去された選択エリアを示す。
【
図6】
図6は、一実施形態によるクライオEMグリッドを示す図であり、グリッド領域の選択エリアにおいて、グリッドバーは、グリッドの平面に対して垂直に厚さが減少している。
【
図7】
図7は、一実施形態によるクライオEMグリッドを示す図であり、グリッドの1つ以上の選択エリアにおいて、グリッドパターンは、周囲の領域よりも大きなメッシュサイズ及び/又は大きな開口エリア割合を有する。
【
図8(A)】
図8(A)は、一実施形態による、一体に整列及び結合される2つの部分として製作されたクライオEMグリッドの上部を示す図である。
【
図8(B)】
図8(B)は、一実施形態による、一体に整列及び結合される2つの部分として製作されたクライオEMグリッドの底部を示す図である。
【
図9】
図9は、グリッド上の薄い金属又は炭素の試料支持箔を示す図である。一実施形態によれば、箔は、グリッドバーと重なり合う孔を有しないが、グリッドバーによって囲まれるエリア内に孔の配列を有する。
【
図10(A)】
図10(A)は、一実施形態による、クライオEMグリッドを損傷させることなく、グリッドを把持し、取扱うためのピンセットの斜視図である。
【
図10(B)】
図10(B)は、一実施形態による、ピンセットの底面グリッド把持要素を示す図である。
【
図10(C)】
図10(C)は、一実施形態による、ピンセットの底面グリッド把持要素を示す図である。
【
図11】
図11は、クライオEM試料用の液体窒素のみのプランジ冷却器の概念設計を示す図である。
【
図12】
図12は、従来技術に基づく代替的クライオEM試料冷却器の模式図である。試料グリッドを並進ステージ上に保持し、液体低温流体ジェットは試料に向けて方向付けられており、試料を冷却する。
【
図13(A)】
図13(A)は、本発明の一実施形態による、
図12に類似のクライオEM試料冷却器の模式図であり、冷温ガス及び液体低温流体をブロックするためのシャッタが組み込まれている。
【
図13(B)】
図13(B)は、本発明の一実施形態による、クライオEM試料冷却器の実施形の模式図であり、温かい乾燥ガス流を組み込んで、液体ジェットに先行して発生する低温ガスを試料から遠ざけるように偏向させる。
【
図14(A)】
図14(A)は、一実施形態によるクライオEMグリッドを示す図である。
【
図14(B)】
図14(B)は、吸収性材料から切り取られ、(A)のグリッド設計と一致する表面レリーフを生成するためにエンボス加工されたブロッティングディスクの上面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の目的は、試料支持体、試料ハンドリングツール、及び、冷却機器を含むツールであって、クライオEM試料の信頼性の高いガラス化を可能にし、グリッド及び箔の損傷レートを低下させ、自動試料追跡を容易にするツールを開発することである。
【0062】
科学的動機付け
クライオEM試料支持体及び冷却デバイスの現在の世代は、大部分が1980年代に開発された研究及び原理に基づいている。それ以来、液体低温流体(liquid cryogens)を用いた小型の試料の冷却の物理学の理解、特に低温結晶学(cryocrystallography)の文脈での理解、氷形成の物理学の理解、及び、複雑な構造を妥当なコストで設計し製造する我々の能力において、大きな進展があった。これらの進歩は、クライオEMを用いた生体分子構造決定における重要なボトルネックに対処するための改良された試料調製技術の設計と実装を可能にする。以下に、発明の動機付けとなる重要な概念と課題について概説する。
【0063】
クライオEM試料のガラス化に必要な冷却速度は約220,000K/sである。臨界冷却レート(CCR)、試料のガラス化に必要な最小冷却レート、は、別の方法でガラス化した試料中の最大許容又は検出可能な氷割合(ice fraction)に依存する。さまざまな溶質についてCCR対溶質濃度の測定値をゼロ濃度に外挿することにより、純水のCCRは250,000K/sと確立された(X線法で測定した結晶性氷割合について約1%以下)。CCRは溶質濃度とともに指数関数的に減少するが、溶質は電子密度とEMコントラストを減少させる。CCRは、クライオEM緩衝剤に典型的な約0.5%w/v塩濃度では約220,000K/sである。
【0064】
現在のクライオEM(current cryo-EM)で達成されている冷却レートは、理論限界をはるかに下回っている。最も効果的な液体低温流体の一つである液体エタンを使用し、水をガラス化するためには適度な冷却レートが必要であるにもかかわらず、単粒子クライオEM用の試料は、しばしばかなりの結晶氷エリアを呈する。50nmの金又は12nmの炭素上の50nmの水を含む直径3mmの試料を、約90Kの液体エタン中に2m/sでプランジした場合、境界層近似に基づく熱伝達の近似解析分析では、冷却レートは約107K/sと予測される。核沸騰領域(試料温度が約140K以下に低下したら開始する)においてLN2を用いて計算された冷却レートは、液体エタンのそれと同等であり、100Kの窒素ガスを介してプランジしても、クライオEM試料膜をガラス化するのに十分な約200,000K/sの冷却レートが得られるはずである。2m/sでプランジされた直径30μmの水試料では、液体エタン中の予測冷却レートは約300,000K/sであり、30μmのビーズ熱電対を用いて測定した場合と同等であった。結晶氷はクライオEMで一般に観察されるので、試料の冷却レートはしばしば200,000K/s以下でなければならない。
【0065】
現在のクライオEMグリッドは、可能な限り速い冷却レートを供給するために最適化されていない。クライオEM試料支持体は、金属(銅、金、モリブデン、ニッケル、その他の材料)のグリッド上の、有孔炭素、アモルファス炭素、金、グラフェン又は他の材料の薄膜又は箔を含む。試料支持膜/箔は、典型的には、1μmオーダーの大きさの孔を有し、試料は、これらの孔を介して撮像される。グリッドの直径は3.05mmで、厚さは10μmから25μmの範囲である。グリッドは、例えばピンセット又は鉗子を用いた手動ハンドリングに十分な剛性を有しており、また、液体エタン内へのプランジ冷却又は取扱中に、曲げられたり、損傷を受けたりすることもない。単一粒子のクライオEMでよく使われる300個のメッシュグリッドでは、グリッドバーは概して幅25μmで、58μm間隔で分離されおり、全グリッドエリアの約50%を覆う。直径3mm、厚さ5μmの金又は銅のディスク(300メッシュのグリッドの平均厚さ)が2m/sで液体エタンにプランジされた場合、計算された冷却レートは約105K/sである。結晶性氷の形成が予想され、グリッドバーに隣接する結晶性氷の幅3~5μm(しばしばより広い)の領域がルーチン的に観察さる。
【0066】
クライオEM試料緩衝剤(概して水+約0.5%塩)及び炭素(有孔、アモルファス)は、非常に低い熱伝導率を有する。厚さ約50~100nmのアモルファス炭素膜では、Au/Cuグリッドバーから各グリッド開口の中心の膜へのプランジ冷却中の、計算された熱伝達率は、膜からエタンへの熱伝達率の計算値の約1%である。その結果、各グリッド開口の中心の膜はグリッドバーから熱的に絶縁され、液体低温流体流及び境界層が均一であれば、はるかに速いレートで冷却することができる。
【0067】
しかしながら、いくつかの要因がこの状況を複雑にしている。第一に、約50nmの金箔(金グリッド上)は、ビーム誘起の試料運動を減少させるため、ますますポピュラーになっている。金の熱伝導率はアモルファス炭素のそれから約103であり、グリッドバーからの、そして箔を介した熱伝達は箔からエタンへの熱伝達と同等であり、試料の冷却レートを損なう。
【0068】
第二に、試料は、分配及びブロッティング中に支持箔の孔を介して流れ、箔の裏側に蓄積し、そこでは、グリッドバーが突出するため、ブロッティングがより困難である。箔とグリッドバーとの間のギャップが小さい場合には、実質的な試料をピンで留めることができる。水は、約300Kから約90Kまでの冷却で、単位体積当たりの熱量をAu又はCuとほぼ同じくらい吸収し、熱伝導率ははるかに低い。付着試料(adhered sample)によって提供される余分な熱量及び断熱は、試料、箔、及びグリッドバーの冷却レートを実質的に低下させる。
【0069】
第三に、グリッドバーの実質的な厚さ及び小さな間隔は、複雑な流体の流れを生じさせ、グリッドの裏面上のグリッドバーに隣接するガストラップ/吸い込み(entrainment)を生じさせ、冷却レートを低下させる。最後に、グリッドはしばしば曲げられ(例えばタコスのように)、箔は鉗子を用いた通常の取扱いで座屈し、損傷を受け、エタンの流れを複雑にし、不均一な試料冷却を生じさせる可能性がある。
【0070】
冷却中のグリッドバーと試料+箔との間の大きな温度差は、照射中の試料の動きに寄与する可能性がある。照射中の試料運動は、単一粒子のクライオEMで達成可能な分解能を制限する主要な因子である。運動は、低線量被ばく中でも起こり、放射線損傷が軽度で、最高解像度の構造情報が利用可能である場合、照射開始時に最も速い(線量ベースで)。信号対雑音が十分であれば、試料「ムービー」を分析して運動を補正し、最終分解能を改善することができる。裸の支持体は、支持体及びグリッド材料の冷却中の差動収縮によって生じる応力/歪みのために、実質的なビーム誘起運動を受ける。この運動は、両方に同じ材料(例えば、Au)を使用することによって最小化される。箔の孔を貫通する試料については、一次運動モードは(ドラムヘッドのように)試料膜の「ドーム」に対応し、直径1.2μmの孔については、箔の平面に垂直な試料の放射誘起変位は、約150Åであり、曲率半径は25μmであった。
【0071】
これらの観察は、試料運動が試料応力によって駆動される放射誘起クリープから生じることを示唆した:クリープが進行すると、駆動応力は解放され、クリープレートは低下する。試料応力は、冷却中の試料及び箔支持体の差動収縮によって発生させることができる。室温と水のガラス転移温度Tg約136Kの間で、試料体積は約8%膨張するが、試料は液体であるため、この膨張は箔の収縮から切り離される。Tg未満では、ガラス化水は正の熱膨張係数(六方晶氷と同等)を有するが、試料の収縮は支持箔の収縮と結合する。その後、ガラス質の氷と箔の膨張係数を最終保管温度である77KとTgとの間で一致させることにより、冷却誘起試料応力を低減することができる。アモルファス炭素箔、銅箔、金箔はいずれも、この温度範囲ではガラス質の氷よりも収縮が少なく、金の収縮が最良のマッチを提供する。いずれも試料に引張応力を発生させる。しかしながら、引張試料応力の存在下での放射線誘起クリープは、観察されたドーミングを引き起こさない。
【0072】
放射線誘起試料運動を駆動する応力は、冷却中のグリッドバーと試料+箔との間の一時的な温度差によって部分的に起因する可能性が高い。箔はグリッドバーよりも非常に薄く、機械的に剛性が低いため、その収縮は主にグリッドバーの収縮によって決定される。グリッドバーは、それらの間の箔よりも冷却され収縮が遅いので、箔は一時的な張力を発揮する。試料は、この引張応力が加わった箔上でガラス化し、堅固に付着する。グリッドバーが、箔+試料の最終温度に向かって冷却すると、それらの分離は減少し、箔内の張力は解放され、試料は圧縮応力下に置かれる。試料が緩和時に箔によって拘束されない箔孔では、照射によって誘起されるクリープが「ドーミング(doming)」を発生し、この応力を解放する。直径1.2μmの箔孔で観察された高さ約150Åの「ドーミング」は、試料ガラス化時のグリッドバーと箔との温度差が20K程度であることから生じる可能性がある。
【0073】
現在のクライオEM冷却装置は、使用が複雑であり、可能な限り速い冷却レートを提供するように最適化されていない。液体低温流体の上にある冷温ガスは、試料が底を介してプランジされる際に試料を予冷却する。約1m/sのプランジ速度では、約2cmの厚さの冷温ガス層が、約500μmより小さいタンパク質結晶の冷却を支配する。ほとんどのクライオEM冷却装置は、試料を、液体窒素の大きなカップに囲まれた、液体エタンを含む小さなカップにプランジする。エタンレベルは、カップの頂部の少なくとも数ミリメートル下にあり、少なくともこの厚さの冷温ガス層を保証する。約200,000K/sの冷温N2ガス中での、直径3mm、厚さ50nmの試料の計算冷却レートを用いて、2m/sでプランジされた試料は、Tg約136 K(冷温ガス厚さより小さい距離)以下で冷却する前に、このガスを通ってわずか1.6mm伝播するだけである。その結果、試料がエタンに到達する前に、冷温ガス中ではグリッドバー間の試料及び箔の冷却が大部分発生する可能性がある。ガス層の厚さ及びそれが提供する冷却の割合の変動は、観察された結果の変動に寄与する可能性がある。
【0074】
クライオEM試料は、VitroJetTMの場合と同様に、静止試料に液体エタンのジェットを噴霧することにより冷却することもできる。エタンジェット管内で発生した冷温ガスは、液体に先立って押し出され、同様に試料を予冷却する。
【0075】
本発明の説明
液体エタン又は液体窒素のいずれかを用いた効率的なガラス化を容易にし、ビーム誘起試料運動を最小化し、試料のハンドリング及びトラッキングを簡単にし、試料調製問題の診断を容易にする、単一粒子のクライオEM用試料支持体。
図1(A~F)(Russo and Passmore, Current Opinion in Structural Biology 37, 81~89 (2016))は、クライオEMで使用される現在の試料支持体の設計を示している。試料支持体の剛性ベースは、直径3.05mm、厚さ10~25μmの金属「グリッド」10である。グリッドは、典型的には銅又は金であるが、モリブデン、ニッケル、チタン、又は他の材料であってもよい。グリッドは、孔のメッシュ(典型的には、メッシュの大きさ及び開口エリア割合に応じて、40~200μmの大きさ)を囲む固体境界を有し、200、300及び400のメッシュグリッドが最も一般的である。グリッドは、有孔カーボン(holey carbon)、アモルファスカーボン、金、又は他の導電性材料の、10~50nmの範囲の厚さを有する膜又は「箔」20、又はグラフェンの層で覆われる。この箔は、典型的には0.5~2μmのサイズの孔30のアレイを有する。画像化されるべき生体分子を含む水性緩衝剤は箔上に置かれ、過剰な液体を除去して、厚さ約10~100nmの試料膜40を生成する。試料は、箔の孔において画像化される。クライオEMグリッドは「クリップ」(
図1(G))されており、自動化されたハンドリングがより容易になる。グリッド10は、リング状の支持体50内に配置され、ばね状の金属クリップ60が挿入されて、グリッドが支持体50と強固にコンタクトするように保持される。支持体50は、外径3.51mm、内径2.49mm、厚さ0.40mmである。
【0076】
図2(A)は、グリッドが液体低温流体にプランジされたときに、低温流体70がグリッド10の周囲を流れる様子を示す。典型的な300メッシュのクライオEMグリッドでは、グリッドバーの厚さ(25μm)はグリッドバー間の間隔(58μm)の数倍小さいため、グリッドバーは、箔の裏面を横切る液体低温流体の流れをかき乱す。グリッドが気液低温流体界面を通過するときに引き込まれるか、グリッド表面で液体低温流体の沸騰によって生成される気泡80は、支持箔とグリッドバーとの間に閉じ込められ、そこでの冷却レートを低下させる可能性がある。
図2(B)は、ブロッティング中に箔の孔を介して押圧された試料溶液が、どのようにしてグリッドバーを濡らしてその横に蓄積し、そこでの冷却レートを低下させるかを示す。
【0077】
把持/ハンドリング領域による方向マーキング。
図3は、一実施形態によるグリッド100を示す。単一粒子クライオEMに使用されるグリッド(例えば、Quantifoli
TM、C-flat
TM)は、単純な対称的メッシュパターンを有し、その全体エリアは箔で覆われ、容易に曲がったり損傷したりする可能性がある。
図3(A)では、グリッド100は孔110のメッシュを有し、その上に試料支持箔が配置される。グリッドは、一方の縁部にノッチ又は他の凹状フィーチャ120を、一方の側130に固体エリアを、固体エリアに各グリッドを一意に識別するパターン化されたマーク140及び英数字コード150を有する。識別パターンは、例えば、レーザー又はインクジェット/ドットマトリクス印刷を用いて生成することができる。
図3(B)では、グリッドは、グリッドを介して孔160を形成することによってマークされる。識別マークは、
図1(G)の「クリップ」の内部縁部内に位置しているので、光学的にも電子顕微鏡でも読み取ることができる。
【0078】
グリッドの一方の側の固体エリアは、鉗子、ピンセットで、又は、好ましくはグリッドの平坦領域及び曲線に整合した把持面を有する一実施形態による鉗子を使用して把持することを容易にし、グリッド変形のリスクを低減する。箔がこの固体エリアにかなり重ならない場合、グリッドハンドリング中の箔損傷のリスクは低減される。
【0079】
ノッチ120及び固体エリア域130は、液体低温流体へのプランジ中にグリッドが配向され、電子顕微鏡でその配向が決定されることを可能にする。プランジ冷却中、流体の流れ、熱境界層の厚さ、及び熱伝達率は、グリッド上の位置、特にプランジ経路の方向に沿って変化する。専用把持エリアでは、プランジ冷却中のグリッド配向は固定されるので、したがって、プランジ方向に沿った及びプランジ方向に垂直な位置に対する氷の特性のEM検査を、グリッドにわたる熱伝達を特徴付け、グリッド及び冷却装置の設計を最適化し、良好にガラス化された試料でグリッド領域の識別を高速化するために使用することができる。
【0080】
グリッドスクエアの一握りだけが、完全なデータセットを収集するために必要とされる。冷却レートは、熱境界層が最も薄いグリッドの前縁(leading edge)付近で最大にすべきである。その結果、グリッドエリアのかなりの部分を把持領域のために犠牲にすることができる。好ましいプランジ方向を矢印で
図3に示す。
【0081】
図4(A)は、孔の六角形のメッシュを有する代替的グリッド実施形態200を示す。グリッドは、いったんクリップされると可視のままであるグリッド領域と共に位置する非対称マーク又はフィーチャ210を有する。いくつかの従来技術のグリッドの特徴であるこのマークは、電子顕微鏡を用いて、及び、拡大鏡又は光学顕微鏡を用いて光学的に、グリッドの向き(グリッドの平面に垂直な中心軸周りに回転する向きであって、グリッドのどちら側が上を向いているか)を決定することを可能にする。グリッドは、固体の、孔無し領域220のセットと、グリッドの視覚的な方向付けを支援するために非対称パターンで配置できるサイズの1つ又は複数のグリッドユニットを有する。
図4(B)は、固体把持領域とノッチを有する類似のグリッドを示す。
【0082】
試料トラッキングのバーコード化。
図3の平坦な把持エリア、又は
図4のより小さい固体エリア220は、各グリッドに対して固有の識別子でパターン化することができる。これらは、冷却前に冷却装置内で写真撮影され、EM画像化中に検証され、スプレッドシート又は検査室情報管理システム(LIMS)を使用して個々のグリッドを追跡するために使用することができる。グリッドは、製造後に個別にマーキングすることができ、したがって、製造されたすべてのグリッドは、固有のマーキングを有していた。あるいは、製造に使用されるフォトマスクにエンコードされた有限数の別個のマーキングが存在し得る。個々のマーキングを有する約2000個のグリッドは、単一の6インチマスクから製造することができる。バーコード及び/又はクライオRFIDトラッキング機能を備えたグリッドキャリアと組み合わせたこの有限セットのマークは、ロバストな試料トラッキングに十分である可能性がある。
【0083】
熱勾配を減少させ、冷却中の試料の熱的及び機械的隔離を増加させるグリッドパターン。
単一粒子のクライオEMで使用される電流グリッド(Current grids)は、10μm(Au)又は18~25μm(Cu,Mo)の均一な厚さを有する。グリッド全体の厚さは、手動ハンドリング及びクリッピング中の機械的剛性を損なうことなく、大幅に減少することはできない。しかし、グリッドエリアのごく一部のみが構造決定に十分であるため、グリッドバーの厚さ及び/又は幅は、「クリップされた」グリッド周辺縁部から離れた選択されたエリアで実質的に減少させることができ、グリッドバーの冷却レートを増加させ、グリッドバーの剛性を減少させ、冷却中のグリッドバーと箔との間の収縮の差に応答して、より多くの変形を可能にする。プランジ冷却中のグリッド配向を固定することができるので、厚さが減少されたグリッドバーパターンは、層状液体低温流体流と、試料及び箔からの最大熱伝達率とのための「レーン」を形成するように配置することができる。
【0084】
図5(A)は、標準的なクライオEMグリッド10を示しており、グリッドバー230は均一な厚さと幅を有し、グリッド開口部は固定されたサイズを有する。
図5(B)は、実施形態によるグリッド240を示し、少なくとも4つの正方形のグリッドを含むグリッドの領域において、グリッドバー250が縮小された幅を有し、水平グリッドバー260、すなわち、プランジ中に液体低温流体表面に平行に配向されたグリッドバーが除去され得る。低減した幅は、これらのエリアにおけるグリッドバーの熱容量と熱コンダクタンスを減少させる。このようにすることで、グリッドバーの冷却レートが増加し、液体低温流体による冷却中のグリッドバーと試料+箔との間の温度差が減少するはずである。低減したグリッドバー幅のエリアは、好ましくはプランジ冷却中の試料運動の方向に沿って延在し、グリッドバーによる流れの摂動を減少させ、熱伝達を改善する。グリッドバーが低減された幅を備えるか及び/又はグリッドバーが除去されたエリアは、グリッドの全体的な機械的剛性と堅牢性を大幅に低下させないように、又は箔上のビーム誘起試料運動を増加させるないように、配置、サイズ設定、及び構造化されるべきである。修正されたグリッドの全エリアは、全グリッドエリアの25%未満、好ましくは10%未満であるべきであり、個々の修正されたエリアは、グリッド面積の5%未満、好ましくは2%未満を含むべきである。
【0085】
図6は、一実施形態によるクライオEMグリッド270を示し、少なくとも4つのグリッド正方形を含むグリッド領域の選択された領域において、グリッドバー280がグリッドの平面に対して垂直に減少した厚さを有する。低減した厚さはグリッドバーの熱容量と熱伝導性を減少させ、プランジ冷却中のグリッドバーによるガスのトラッピング及び液体低温流体の摂動を減少させる。これは、グリッドバー冷却レートを増加させ、液体低温流体での冷却中のグリッドバーと試料+箔との間の温度差を減少させるはずである。低減された厚さを有するグリッドのエリアは、好ましくは、プランジ冷却中の試料運動の方向に沿って延在する。低減された厚さのグリッドのエリアは、その縁部で又はグリッド把持のために設計された領域でハンドリングされたときに、グリッドの全体的な機械的剛性と堅牢性を大幅に低下させないように、配置、サイズ設定、及び構造化されるべきである。
【0086】
図7は、一実施形態によるクライオEMグリッド290を示す図であり、グリッドの1つ以上の領域において、グリッドパターンは、周囲の領域よりも大きなメッシュサイズ及び/又はより狭いグリッドバーを有する。選択されたエリアのグリッドバーは、より急速に冷却されるはずである。大きなメッシュ開口部は、グリッドバーから離れて位置する試料+箔の割合を増加させる(例えば少なくとも10μm離れる)。試料+箔のこれらの領域は冷却が速く、ガラス化が起こりやすい。グリッドのより機械的にロバストな部分を取り囲むことにより、損傷を受けることなくグリッドのハンドリングが容易になる。
図7において、グリッドは、アパーチャ及びグリッドバーの六角形パターンを有し、中央領域の面積は、グリッドの面積の約25%である。修正されたグリッドレイアウト300の円形の中央に配置された領域は、冷却中に発生し得る異方性グリッド応力を最小化する。
【0087】
クライオEMグリッドは、典型的には、マンドレル上に均一な厚さの金属の層を堆積する電鋳法(electroforming)を用いて製造される。多層厚グリッド(multi-thickness grid)は、フォトレジスト堆積、パターン形成、及び電鋳の複数の工程を実施することによって、又は2つの別々に電鋳されたグリッドを互いに結合することによって製造することができる。
図8は、一実施形態によるクライオEMグリッドを示し、試料支持箔が配置される頂部グリッド310と、異なる厚さ及び相補的パターンを有する底部グリッド320とを含む。上部と底部は別々に製造され、その後、互いに結合される。底部グリッド320は、孔内結合されたグリッドの厚さが上部グリッドの厚さと同じになるように、アパーチャ330を有することができる。その後、得られた複合グリッドは、機械的剛性を維持しつつ、非常に異なる厚さの領域を有し、非常に異なる速度で冷却することができる。2つのグリッドは、熱収縮マッチングを確実にするために同じ材料のものであってもよく、例えば、目標が、冷却時に頂部グリッドが引張応力を受けることである場合には、異なる材料のものであってもよい。
【0088】
単一粒子のクライオEMで使用されるグリッドは、典型的にはCu又はAuで作られ、アモルファスカーボン(amorphous carbon)又はAuで作られた箔で覆われており、一実施形態によれば、グリッドは、箔材料よりも小さい、77Kから300Kの間の平均熱膨張係数を有する導電性材料で作られている。Au、Cu、Niはかなり大きな膨張係数(それぞれ14、16、13ppm/℃)を有する一方で、W、Mo、Ta、Tiグリッドはすべて小さな熱膨張係数(それぞれ4.3、5、6.5、9ppm/℃)を有する。この組合せでは、グリッドバーに対する試料+箔のより速い冷却は、ビーム誘起試料運動を駆動し得る最終試料温度(77K~120K)での正味圧縮応力を発生するガラス化試料を生じない。冷却中、試料は、そのガラス転移温度Tg 約136 K付近まで液体のままである。いったんガラス化すると、試料+箔をさらに冷却することにより、両方とも収縮したくなるが、初期には収縮に拘束を受ける。グリッドバーがより暖かく収縮が少なく、グリッドバーが試料+箔よりもはるかに剛性が高いからである。グリッドバーは、最終温度に向かって冷えるにつれて収縮し、箔の引張応力を減少させ、これにより、試料は箔の頂部に配置され圧縮され得る。グリッド材料の熱収縮を最小にし、室温から低温までの全体的な収縮をホイルの収縮よりもはるかに小さくし、試料+ホイルは、冷却中に、張力を維持するであろう。好ましくは、室温と77Kとの間のグリッド材料の熱収縮は、136Kと77Kとの間の箔材料の熱収縮と同等か又はそれよりも小さく、136Kと77Kとの間の非晶質及び六方晶氷の熱収縮と同等か又はそれよりも小さい。これは、金箔及びTi、W又はMoグリッドにほぼ当てはまる。ドープされたSiグリッドも、収縮が非常に少なく(他の金属よりもはるかに少ない)、この基準を満たすが、必要な厚さでは脆弱すぎる。
【0089】
最適な試料冷却、最適な画像化、及び最小限の試料動作のための箔材料及びパターン。
Auグリッド上でAu箔を用いると、300Kから77Kまでの冷却時の箔とグリッドの全体的な収縮差が減少した。水のガラス転移温度Tg=136Kと77Kの間のAuの熱収縮はガラス氷の熱収縮とほぼ一致したが、その大きな熱伝導率はグリッドバーから過剰な熱を伝導し、それらの間の箔上の試料のガラス化を妨げる可能性がある。Auの魅力的な熱膨張特性を保持しながら、グリッドバーから試料+箔を熱的に隔離するために、箔は金とクロムの合金から製造することができる。例えば、1%Crを有するAu-Cr合金は、Auの約1/10の熱伝導率を有し、77Kにおいて類似した電気伝導率を有する。他の合金(例えば、1~5%Ptの濃度のAu-Pt)は、良好な電気伝導率を維持しながら熱伝導率を低下させる。他の低熱伝導率、高電気伝導率合金が好適であり得る。
【0090】
液体試料は、試料の堆積及び/又はブロッティング中に、しばしば、箔の孔を介してグリッドバーを濡らす。これは、グリッドバーの近傍の熱量を増加させ、そこでの冷却レートを減少させる。流体の流れ及び湿潤化は、一旦液体が凝固すると、箔をグリッドに強固に取り付け、冷却中にそれらの収縮を強く結合させ、これは、電子ビーム誘起試料運動を引き起こす応力を試料に生じさせる可能性がある。箔及びグリッドにコンタクトする流体を除去することによって、箔は、冷却中にグリッドバー上を自由にスライドすることができる。
【0091】
液体試料の流れとグリッドバーへの濡れを低減する1つの方法は、グリッドバーの真上とその近くに孔無し箔を使用することである。
図9において、グリッド10は、グリッドバーと重なり合う所に孔を有さない箔340と、グリッドバーによって囲まれたエリア内の孔360のアレイとを有する。グリッドバーの縁部と箔の最も近い穴との間のギャップは、グリッドバー間の間隔の少なくとも5%又は数個の孔の直径であるべきであり、グリッドバーを濡らす孔から液体が膨らむ可能性を最小限に抑える。
【0092】
箔の固体領域がグリッドバーと一直線になるように、箔とグリッドの位置合わせを容易にするために、箔には基準点又は他のマークを設けることができる。グリッドバーに登録されるべき孔無し領域は、箔の選択領域のみに限定され得るため、グリッドバーを他の場所の箔の下方に視認することができ、したがって、箔とグリッドバーとの整列を容易にする。
【0093】
グリッドを覆う箔は、0.2~5μmの間の複数の異なる孔サイズを有し、そのエリア全体に分布することができる。このような孔の大きさの多様性は、氷の厚さと冷却レートの多様性をもたらし、最適な画像化条件を得ることを容易にし得る。
【0094】
グリッドを覆う箔は、好ましくは、2つ以上の異なる厚さを有する領域を有し、これらの領域のうちの1つ以上は、貫通孔のアレイの配列を有する。孔の厚さは、試料が適切にブロットされたときの氷の厚さを決定する。同じ箔に2つの厚さがあると、画像化に最適な試料厚さが得られる可能性が高くなり得る。箔の外周は、他のものよりも実質的に厚くすることができ、箔のハンドリング及びグリッドへの配置を簡単にするる。半径が大きくなるにつれて厚さが増す箔は、金属又は炭素の連続的な堆積の際に半径が大きくなるディスク形状のシャドウマスクを用いることによって作製することができた。その場合、最も内側の箔領域は最も薄く、外側の周囲は最も厚くなる。シャドウマスクは、標準的なフォトリソグラフィ及びエッチングプロセスを用いて、例えば厚さ1ミルのCu箔から、又はSU-8又はポリイミドのような露光可能なポリマーから製造することができる。箔アレイのディスクは細いラインで接続する必要がある。これらのラインによるシャドウイングは、連続するマスク上の異なるライン位置を使用することによって、又はマスクを近くに配置して金属若しくは炭素を斜めに堆積させることによって、低減することができる。
【0095】
金属グリッド及び金属箔は、整列ステップを必要とする2つの別々のプロセスではなく単一の製造プロセスで一緒に製造され、したがって自動的に整合されることができる。このプロセスは、基板上に剥離層を堆積するステップ;箔層を堆積するステップ;フォトレジストを堆積するステップ;フォトレジスト中の箔の孔パターンを露光するステップ;箔中の孔パターンをエッチングするステップ;フォトレジストを除去するステップ;フォトレジストの第2層を堆積するステップ;フォトレジスト中のグリッドパターンを露光及び現像するステップ;フォトレジスト中の開口を介して箔上にグリッドを電子形成するステップ;フォトレジストを除去するステップ;基板からの完成したグリッド+箔を剥離するステップ、を含む。
【0096】
グリッドをハンドリングするためのツール本発明はさらに、クライオEMグリッドを損傷することなくハンドリングするためのツール/鉗子の設計を含む。標準的な先端を有するステンレススチール鉗子は、チップが箔に衝撃を与える場合、グリッドが例えば表面とのコンタクトを介して曲げられ、箔が先端に衝撃を与える場合、又は先端の把持が滑る場合に、箔を損傷する可能性がある。先端はグリッドよりもはるかに狭いので、グリッドの側面を、たとえばグリッド保管ボックスのスロットにぶつけると、グリッドが「タコス」のような形に曲がる。
図10に示す実施形態では、(鉗子の2つのアームがほぼ真っ直ぐであるか、「下部」の先端が圧搾端で上部にあるアームに接続されるように交差しているかに応じて、圧搾されていないときに通常開又は通常閉のいずれかの)ばね作用を有する鉗子370の試料端部は、それらの先端近くの各アームに取り付けられた把持要素380及び390を有する。これらの把持要素は、グリッドを把持する部分の内面が平坦であり、それらの幅は、好ましくは、グリッドの直径(3.05mm)と同等であり、即ち±20%以内である。この幅は、グリッドが保持されている間に側面に加えられた力によって曲げられるリスクを最小限にする。把持要素は、グリッドに「嵌合」するように構成することができ、したがって、要素はグリッドの特定の部分、即ち、
図3のグリッドの下部部分上の固体領域、にコンタクトする。例えば、下部把持要素380は、グリッドのプロファイル/輪郭に適合する薄化又は凹部領域400(おそらく、整列「ノーズ」を有する)を備えることができる。この凹部領域は、理想的には、グリッドの厚さよりわずかに浅く、概して、10μm又は25μmのいずれかであるべきである。また、下部グリッド要素は、上部把持要素390に適合孔420を有する突出部410を備えることができ、グリッドを把持要素に対して位置決めするのを助け、グリッドが凹部領域400を越えて滑るのを防止するのと同時に、鉗子を閉じてグリッドをしっかりと把持することを可能にする。
【0097】
鉗子本体/アームは、従来鉗子に使用されているステンレススチールのような金属、又はポリマーであり得る。把持要素は、金属製で、滑らかな(おそらく研磨又は電気メッキされた)内面を有し、箔、ポリマー、又は曲げ可能なガラス又はセラミックの摩耗及び損傷のリスクを最小限に抑えることができる。鉗子把持要素は、わずかな距離(数mm)だけ、鉗子のアーム端部を越えて延在するだけでよい。したがって、把持要素は、ポリイミド、PDMS、又はCOCのような薄く、いくぶん柔軟で、光学的に透明なポリマーであることができ、把持要素内のグリッドの位置を直接見ることができるようにする。より剛性であるが不透明なポリマーSU-8もまた、適切であり得る。これらのポリマーは、標準的なフォトリソグラフィーベースの微細加工方法を用いて、所望の形状に及び厚さに、必要とされるマイクロメートルレベルの許容範囲で加工することができる。射出成形に適した他のポリマーも使用できる。グリッド把持要素は、低温互換性のある接着剤(cryogenic compatible adhesive)を使用して、超音波で、ネジを使用して、又は他の標準的な手段によって、取り付けられ、標準的なバネ負荷された金属又はポリマー鉗子のジョーに取り付けることができる。これらの鉗子は、室温と、グリッドが液体エタンと液体窒素に浸されているときの両方で使用できることが望ましいことに留意されたい。
【0098】
液体窒素のみを用いたクライオEM試料の確実なガラス化のためのベンチトッププランジ冷却システム。
1980年代のDubochetの研究以来、すべてのクライオEM試料冷却デバイスは、冷却媒体としてその融点のすぐ上の保持された液体エタン(又はエタン/プロパン)を使用してきた。可燃性エタンガスは、実験室で保管され、液体窒素(LN2)で冷却したカップに流入させることによって液化し、所望の温度に冷却され、維持されなければならない;プランジ冷却された試料は、保管及び輸送のために空気を介して液体窒素に移さなければならない;残りの液体エタンを蒸発させ、安全に排気しなければならない。プランジ冷却機器の現在の世代では、エタンと窒素は室内の空気に曝され、その結果、水分が霜として凝縮し、それらの中でプランジされ保管されるグリッドの両方を汚染する。
【0099】
現在のクライオEM試料冷却レートは、グリッド設計及び液体エタン上方の冷温ガス中での予冷却によって制限される。さらに、エタンの選択は、LN2よりも20倍の冷却レートの利点を示す、大きな熱電対を使用した誤って解釈及び推定された測定に部分的に基づいている。実際には、小さな試料(タンパク質結晶及びクライオEMグリッド)に対して、液体エタンの冷却レートの利点は最大で約3倍であり、これは適切な冷却装置及びグリッド設計によって容易に補償することができる。MiTeGenは、LN2を用いた高スループットクライオ冷却のための装置であるNanuqTMを開発し、タンパク質結晶解析のための試料の自動保存を行った。膜及び核沸騰領域で、それぞれ50,000K/s及び140,000K/sを超える30μmの熱電対の冷却レートを実現する。商用利用では、試料の凍結保存と保管が劇的に単純化した。この性能は、高速試料移動ステージと、試料プランジ直前のLN2上方の冷温ガスを真空及び温かいメイクアップガスを用いて除去・置換するガス管理マニホールドと、精密液体窒素レベル制御システムを組み合わせたものである。これらの成分は、低温ガス層(ガス温度が273 K未満)を<50μmまで低減し、この低温ガス中の試料の予冷却時間を<25μsに低減し、液体窒素を用いて報告された最大の冷却レートを供給する。NanuqTMを用いた原理実験の証明により、クライオEMグリッド上の薄い緩衝液試料は、冷却媒体としてLN2を用いて完全にガラス化できることが実証された。
【0100】
図11は、一実施形態による、プランジングと顕微鏡ローディングとの間の手動によるグリッドのハンドリングを排除するLN2ベースのベンチトップクライオEMプランジ冷却器の設計を示す。タンパク質結晶試料ホルダと比較したクライオEMグリッドの質量及び衝撃断面積が小さいため、垂直並進ステージ500は最大7m/s(おそらく10m/s)の速度を実現でき、Nanuq
TMと比較した場合の冷却レートは2倍になるはずです。グリッド保持機構510は、グリッドをLN2表面に対して絶対的に垂直に保持し、冷却レートを最大化し、箔損傷を最小化し、好ましくは、プランジ冷却後にグリッドを保管容器に自動的に解放する。グリッド保持機構は、好ましくは、プランジ方向に沿った少なくとも数センチメートルの長さにわたって、最小の流体力学的断面を有する。大きなプランジ速度は、実質的により大きな停止距離(液体エタンを使用する場合は実用的ではなくする。)を必要とするからである。
【0101】
MiTeGenの従来技術のNanuqTMのように、プランジ冷却器は、メインプランジチャンバの上方にガス管理マニホールド520を組み込んでおり、これは、そのプランジボア内に存在する冷温ガスガスを吸引を介して除去し、それを周囲温度の窒素ガスと置き換え、100μm未満の距離にわたって周囲温度のガスと液体窒素との間に遷移を生じさせ、冷温ガス中のグリッドの予冷却を排除する。
【0102】
冷温ガス層の除去を劣化させるLN2表面上の沸騰に関連する波を低減し、LN2が蒸発する前にLN2による熱の吸収をある程度許容することによって冷却性能を改善するために、主試料プランジチャンバ530内のLN2は、LN2がその凍結温度63 Kに向かって蒸発冷却される第2(熱絶縁された)チャンバ540との熱的コンタクトを介して、沸点77 Kより下に冷却される。この第2チャンバは、大気からシールされ、ポートを介して真空ポンプ550又は他の真空源に接続され、第2チャンバ内のLN2より上のガスの圧力を低下させる。
【0103】
初期試料位置は、加湿チャンバ560内又は加湿ガス流内にある。湿度制御システム565は、好ましくは、グリッドからの試料蒸発量の制御を可能にするために、100%飽和の少なくとも数%以内の湿度を生成する。
【0104】
プランジ冷却の後、グリッドは、好ましくは、主プランジチャンバ内に保持された市販の電子顕微鏡カセット又は他のホルダ570内に自動的に配置される。一実施形態では、自動制御下の機械的ステージ580が、市販のクライオ-EM顕微鏡カセット又はカスタム記憶ボックスを受け入れる主チャンバ内に設けられ、それらを垂直並進ステージによって規定される試料プランジ経路に沿って自動的に位置決めし、したがって、各冷温試料が、試料ホルダ保管ボックスが置かれる機械的ステージの水平方向のみの動作と、垂直並進ステージの垂直方向のみの動作との組み合わせによって、各ホルダ内の別個のコンパートメント内に配置され得る。
【0105】
主プランジチャンバと外部チャンバの両方のLN2レベルは、従来技術のNanuqTMなどのようにレベル制御システムを使用して正確に維持される。
【0106】
低温液体ジェットを用いたクライオEM試料の冷却改善。
図12は、従来技術で実施されてきた代替的クライオEM試料冷却器設計を示す。この設計では、クライオEMグリッド試料600は、典型的には加湿チャンバ(図示せず)内の初期位置から自動化された並進ステージ610を介して中間位置へ移動される。次いで、出口チューブ又は導管630(出口端にノズルを有することができる)を出る液体低温流体(通常は液体エタン)の1つ以上のジェット620によって冷却される。一旦冷却されると、試料は、液体窒素を含む断熱容器630に迅速に変換され、次いで、貯蔵ボックス又はカセット640内に移動される。このアプローチの利点は、液体低温流体が、冷却前にグリッドを「クリップ」することができることである。クリップされたグリッドが液体低温流体内にプランジされる場合に、液体低温流体が、試料支持箔への経路の途中でクリップによってブロックされないからである。しかしながら、低温流体流のジェットが先ず試料に向かって開始される場合、管/ノズル内に存在するか、又は液体低温流体とのコンタクトを介して発生する冷温ガス650は、液体低温流体に先行して導管を出る。導管出力と試料との間の距離が小さい場合、この冷温ガスは、最初に試料に到達し、液体低温流体が最終的に試料に着くときに得られるよりもはるかに遅い冷却速度で予冷却する。液体低温流体によって与えられる冷却速度では、試料が室温から100K付近に冷却するのにわずか約0.4ミリ秒しかかからない。典型的なジェット速度が5m/s(グリッド及び箔への衝撃力によって制限される)では、液体はその時間にわずか2mm、又はグリッド直径の約半分しか伝播しない。チューブ中に存在する冷温ガスは、Kriminskiらによる分析に基づけば、おそらく液体低温流体の20分の1のレートで試料を冷却する。その結果、4cmの冷温ガスは、試料を100K付近に冷却するのに十分であり、この冷却は、ガラス化された氷を生成しないより小さなレートで生じる。
【0107】
図13は、
図12に示すタイプの低温流体ジェット冷却器における試料の冷温ガス予冷却の問題を、それが試料に到達しないようにすることによって解決する、本発明の2つの実施形態を示す。(A)の第1の実施形態では、液体低温流体640に先立ってジェットチューブ630から出る冷温ガス650は、非常に高速のシャッタ又はブレード660を使用することによって試料に到達することが防止される。シャッタは、最初に、ガス及び低温流体の流れを遮断し、その後、冷温ガスが取り除かれ、シャッタに対抗する安定した低温流体の流れが確立されると、すぐに進路から外される。シャッタは、例えば、ステッパ又は同期モータ、ソレノイド、圧縮ガス、又は他の標準的手段によって駆動される、線形又は回転運動を有することができる。シャッタがジェット直径(数ミリメートル)と等しい距離を移動する時間は、グリッド全体がジェットに当たるように、少なくとも数メートル/秒の速度に対応する、試料冷却時間<1msに相当するか、又はそれ以下でなければならない。シャッタは、好ましくは、ポリマー、ガラス(例えば、石英)、又はセラミック等の熱的に絶縁された材料で作られ、小さな質量を有し、試料が、液体低温流体の流れの始まりとシャッタの開放との間の短時間の間に、冷温シャッタから生じる導電性、対流性、又は放射性の冷却によって予冷却されないように、十分な厚さを有する。
【0108】
図13(B)に示す第2の実施形態では、水分のない室温ガスのジェット又は「ブレード」は、ジェットチューブからの流れを横切って方向付けられ、冷温ガスを一掃するのに十分な大きさの流速を有するが、液体低温流体の経路(より多くの運動量)ジェットチューブから試料への過剰な摂動はない。この温かいガスの流れは、液体低温流体ジェットが作動する前にオンにすることができ、試料が冷えたらオフにすることができる。温かいガスは、図示のように下方に、又は冷温試料が保管される断熱容器から離れて上方に方向付けられることができる。ガスは、乾燥空気、窒素、ヘリウム、又は液体低温流体の凍結温度を超える沸点を有する他の任意の非可燃性、非反応性ガスであることができる。ガスは、圧縮ガスボンベ又は他の圧縮ガス源から発生することができる。
【0109】
ブロッティングによるグリッドからの過剰な液体の除去における改善。
単一粒子のクライオEMでは、水性緩衝剤中の生体分子が、グリッド上の試料支持箔上に堆積される。初期に堆積された試料の体積は、典型的には、0.1~1ミリリットルであり、得られた液滴は、箔表面上方に数分の1ミリメートル(a fraction of a millimeter)で広がる。電子顕微鏡で十分な画像のコントラストを取得するためには、これを箔の孔にまたがる厚さ約50nmの薄膜に縮小する必要がある。過剰な試料は、制御された湿度環境での蒸発(これは、残りの液体中の生体分子の濃縮につながる)及び吸収性材料、典型的には(例えば、ワットマン製の)濾紙を用いたブロッティングの組み合わせを用いて除去される。両方とも、不正確であり制御が難しい。ブロッティングは、薄い又は細い濾紙片を用いてグリッドに静かに触れることによって手動で行うことができる。Thermo Fisher社のVitrobotTM等の市販のクライオEM冷却器は、直径数センチメートルの円形の吸い取り紙をパッド上で使用し、グリッドの片側又は両側に対して角度を付けて制御された力で、制御された期間押圧される。吸い取り紙の傾斜した着手により、グリッドの片側から液体を引き出すことができ、グリッドバーが除去をより困難にする箔の裏側への箔孔を通った液体の強制力を低減する助けとなる。
【0110】
本発明の一実施形態によれば、クライオEMグリッドのブロッティングは、好ましくは表面レリーフのパターンを有する吸収性材料の、好ましくはグリッドに同等か又はわずかに大きい直径の小さなディスクを使用して行われる。これらのディスクは、好ましくは、ロッドに取り付けられた固体ディスク形状のパッドに取り付けられ、ディスクが常にグリッドの平面に平行になるようにロッドが移動される。ディスクが箔及びグリッドに向かって移動すると、液体が最初に液体メニスカスと接触するときに、最初にディスクの隆起エリアによって液体が吸い取られる又はうぃっキングされる(wicked)。ディスクが箔と直接コンタクトするように押圧されると、液体は、接触を形成するディスクの隆起領域に向かって横方向に引き続ける。同時に、ディスク材料は、柔軟であり、圧力が増加するにつれて、その表面のレリーフが減少し、過剰な液体の除去をさらに助ける。その結果、ディスクのグリッドへの接近があまり速くなければ、箔の穴を通して箔の裏側に押し込むことなく、液体を効率的に除去することができる。さらに、吸収性ディスクはグリッドに対して平坦に押圧されるため、周囲の空気から効果的にシールされ、液体の蒸発を防止する。その結果、液体の除去をより精密に制御することができる。
【0111】
好ましい実施形態では、吸収性材料は、クライオEMグリッドのサイズ及びエリアに実質的に適合するように切断される。グリッドは、例えば、ピンセットでプランジ又はジェット冷却器内で保持されている間に、ブロットされるべきものである場合、吸収性ディスクは有することができ、結果として、ピンセットにコンタクトせず、結果として、ピンセットによって覆われないグリッドの部分に対して平坦に押圧されることができる。
【0112】
好ましい実施形態では、吸収性材料は濾紙(filter paper)であり、これはワットマン等の供給業者から多くのグレードで入手可能である。
【0113】
濾紙の表面レリーフは、マスターのパターンが濾紙に転写されるのに十分な力で濾紙をマスターに押し付けるステップを含むエンボス加工によって作製することができる。典型的なワットマン濾紙は、180μmの厚さを有し、これは、表面レリーフをパターン化することができる空間スケールをおおまかに制限(roughly limits)する。より微細なパターン化を達成するために、エンボス加工前に濾紙を湿らせることができる。それはまた、例えば、水を入れたブレンダーで細断し、マスター内にプレスし、その後乾燥させることができる。
【0114】
他の実施形態では、グリッド上の試料支持箔は、吸収性ディスクの隆起領域に相補的な孔のパターンを有し、その結果、箔は、濾紙が箔にコンタクトするところで連続し、他のところで孔を有する。これにより、液体が箔の孔から裏側に押し出される可能性がさらに低くなる。
【0115】
図14(A)は、本発明の一態様によるクライオEMグリッド(図示しない箔に覆われている)を示し、固体把持領域と、大きな開口エリア割合及び小さなグリッドバー幅を有する小さい中央領域と、を有する。
図14(B)は、グリッドの把持領域を回避するために切断された吸収性ディスク700の上面及び切断側面図を示す。グリッドはエンボス加工されて、メッシュ領域の外側部分の周囲に隆起領域710を生成する。