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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/00 20180101AFI20240705BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20240705BHJP
   B60R 19/03 20060101ALI20240705BHJP
   F21V 3/06 20180101ALI20240705BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08G 64/18 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F21S41/00
B60R13/02 B
B60R19/03 C
F21V3/06 110
B60J1/00 G
C08G64/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022543299
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2021023099
(87)【国際公開番号】W WO2022038883
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020137923
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】中▲崎▼ 智大
(72)【発明者】
【氏名】今里 健太
(72)【発明者】
【氏名】小森 千晶
(72)【発明者】
【氏名】武田 強
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-174945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0081884(US,A1)
【文献】特開2020-114893(JP,A)
【文献】特開2012-153824(JP,A)
【文献】特開2011-046913(JP,A)
【文献】特開2011-046911(JP,A)
【文献】特表2003-529637(JP,A)
【文献】特開2011-026576(JP,A)
【文献】特表2018-510953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/18
F21S 41/00
B60R 13/02
B60R 19/03
F21V 3/06
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートブロック(A-1)とポリシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を成形して得られる自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓であって、前記樹脂の比重が1.10以下であり、前記樹脂のガラス転移温度が100~190℃であり、前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして8~70重量%であることを特徴とする、自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項2】
前記ポリカーボネートブロック(A-1)が、下記式(1)で表される構造単位を含む、請求項1に記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【化1】
(上記式(1)において、R及びRは夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【化2】
(上記式(2)においてR11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、R19及びR20は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、gは1~10の整数、hは4~7の整数である。)
【請求項3】
前記ポリシロキサンブロック(A-2)が、下記式(3)で表される構造単位を含む、請求項1又は2に記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【化3】
(上記式(3)において、R23、R24、R25及びR26は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、及び炭素原子数6~12の置換又は無置換のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、R21及びR22は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、pは1~150の自然数である。Xは炭素原子数2~8の二価脂肪族基である。)
【請求項4】
前記ポリカーボネートブロック(A-1)が下記式(4)で表される構造単位を含む、請求項1~3のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【化4】
(上記式(4)において、R27、R28は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、i及びjは夫々1~4の整数であり、Yは下記式(5)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【化5】
(上記式(5)において、R29、R30、R31は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、kは1~3の整数である。)
【請求項5】
前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンのうち少なくとも一つから誘導される単位を含む、請求項1~4のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項6】
前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして10~50重量%である、請求項1~5のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項7】
前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される単位を含み、前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして30~70重量%である、請求項1~4のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項8】
前記ポリシロキサンブロック(A-2)の平均シロキサン繰り返し数が5~100である、請求項1~7のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項9】
前記ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂のポリシロキサンドメインの平均サイズが1~20nmである、請求項1~8のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項10】
前記樹脂を2mm厚に成形した成形品の全光線透過率が80%以上である、請求項1~9のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【請求項11】
鉛筆硬度がHB以上である、請求項1~10のいずれかに記載の自動車ランプレンズ、自動車内外装部材、照明カバー、又は樹脂窓
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モビリティ分野において、環境負荷低減、航続距離向上を目的に、車体重量の低減が求められており、部材の樹脂化が検討されている。また、近年では、樹脂部材が占める領域が拡大する傾向にあり、比重の低い樹脂材料が求められている。特に、ガラスを代替する樹脂グレージングは、優れた透明性、耐熱性、耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂が使用されており、ガラスに比べて比重が低く、射出成形等の加工方法を選択することで形状の自由度が高く、複数部品の一体化が可能なことから、車体の軽量化、車体のデザインや生産性の向上が期待されている。
【0003】
車体の更なる軽量化を目的に、従来のポリカーボネート樹脂の優れた特性を維持しつつ、更に低比重化されたポリカーボネート樹脂が要求されるようになった。
【0004】
特許文献1には、特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂が検討されている。しかし、低温下での衝撃性が不十分であり、特に高緯度圏や山岳地などの寒冷地で十分な耐衝撃性が発揮されないという課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/009076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度に優れ、かつ低比重性をも両立したポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造単位を含むポリカーボネートブロックとポリシロキサンブロックとを含むポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂が、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度に優れ、なおかつ低比重性をも両立することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、発明の課題は下記により達成される。
【0008】
1.ポリカーボネートブロック(A-1)とポリシロキサンブロック(A-2)を含むポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂であって、前記樹脂の比重が1.10以下であり、前記樹脂のガラス転移温度が100~190℃であることを特徴とする、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0009】
2.前記ポリカーボネートブロック(A-1)が、下記式(1)で表される構造単位を含む、前項1に記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0010】
【化1】
【0011】
(上記式(1)において、R及びRは夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【0012】
【化2】
【0013】
(上記式(2)においてR11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、R19及びR20は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、gは1~10の整数、hは4~7の整数である。)
【0014】
3.前記ポリシロキサンブロック(A-2)が、下記式(3)で表される構造単位を含む、前項1又は2に記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0015】
【化3】
【0016】
(上記式(3)において、R23、R24、R25及びR26は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、及び炭素原子数6~12の置換又は無置換のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、R21及びR22は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、pは1~150の自然数である。Xは炭素原子数2~8の二価脂肪族基である。)
【0017】
4.前記ポリカーボネートブロック(A-1)が下記式(4)で表される構造単位を含む、前項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0018】
【化4】
【0019】
(上記式(4)において、R27、R28は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、i及びjは夫々1~4の整数であり、Yは下記式(5)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【0020】
【化5】
【0021】
(上記式(5)において、R29、R30、R31は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、kは1~3の整数である。)
【0022】
5.前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンのうち少なくとも一つから誘導される単位を含む、前項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0023】
6.前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして5~50重量%である、前項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0024】
7.前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される単位を含み、前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして30~70重量%である、前項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0025】
8.前記ポリシロキサンブロック(A-2)の平均シロキサン繰り返し数が5~100である、前項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0026】
9.前記ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂のポリシロキサンドメインの平均サイズが1~20nmである、前項1~8のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0027】
10.前記樹脂を2mm厚に成形した成形品の全光線透過率が80%以上である、前項1~9のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0028】
11.鉛筆硬度がHB以上である、前項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂。
【0029】
12.前項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を成形して得られる成形品。
13.前項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を成形して得られるフィルム又はシート。
14.前項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂からなる自動車ランプレンズ又は自動車内外装部材。
15.前項1~11のいずれかに記載のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂からなる照明カバー、樹脂窓又は前面板。
【発明の効果】
【0030】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度に優れ、なおかつ低比重性をも両立するため、車体用の部材として好適に使用できることから、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
<ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂>
本発明において、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、ポリカーボネートブロック(A-1)と、ポリシロキサンブロック(A-2)とを含有する。
そして、本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、比重が1.10以下であり、且つガラス転移温度が100~190℃であることを特徴とする。
【0033】
(比重)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂の比重は、1.10以下であり、1.09以下が好ましく、1.08以下がより好ましく、1.07以下がさらに好ましい。比重が小さいほど軽量化の観点で好ましい。比重は、JIS K7112 プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法(C法 浮沈法)に準拠し測定される。
【0034】
(ガラス転移温度)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂のガラス転移温度は、90~190℃の範囲であり、好ましくは100~180℃の範囲であり、より好ましくは110~175℃の範囲であり、さらに好ましくは120~170℃の範囲である。下限以上の範囲であると、成形体として使用した際に、耐熱安定性が良好であり好ましい。上限以下の範囲であると、成形加工時において適度な溶融粘度を有するため、薄肉の部材や、樹脂窓等の大面積の部材を成形しやすく、熱劣化等の不具合が抑制されるため、好ましい。
【0035】
ガラス転移温度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製2910型DSCを使用し、昇温速度20℃/minにて測定される。
【0036】
(ポリカーボネートブロック(A-1))
本発明において、ポリカーボネートブロック(A-1)は、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂において含まれるポリカーボネート重合体の部分である。
具体的には、ポリカーボネートブロック(A-1)は、下記式(1)で表される構造単位を含むものが好ましい。
【0037】
【化6】
【0038】
上記式(1)において、R及びRは夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。R及びRが夫々複数ある場合は、それらは同一でも異なっていても良い。
【0039】
ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0040】
炭素原子数1~18のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0041】
炭素原子数1~18のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキトキシ基、オクトキシ基等が挙げられる。炭素原子数1~6のアルコキシ基が好ましい。
【0042】
炭素原子数6~20のシクロアルキル基として、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素原子数6~12のシクロアルキル基が好ましい。
【0043】
炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基として、好ましくはシクロヘキシルオキシ基、シクロオクチルオキシ基等が挙げられる。炭素原子数6~12のシクロアルコキシ基が好ましい。
【0044】
炭素原子数2~10のアルケニル基として、メテニル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。炭素原子数2~6のアルケニル基が好ましい。
【0045】
炭素原子数6~14のアリール基として、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素原子数6~14のアリールオキシ基として、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0046】
炭素原子数7~20のアラルキル基として、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基として、ベンジルオキシ基、フェニルエチルオキシ基等が挙げられる。
e及びfは夫々独立に1~4の整数である。
【0047】
Wは、単結合もしくは下記式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0048】
【化7】
【0049】
上記式(2)においてR11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表わす。
【0050】
炭素原子数1~18のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0051】
炭素原子数6~14のアリール基として、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。これらは置換されていてもよい。置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素原子数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0052】
炭素原子数7~20のアラルキル基として、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
【0053】
19及びR20は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表す。複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良い。
【0054】
ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0055】
炭素原子数1~18のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0056】
炭素原子数1~10のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基等が挙げられる。炭素原子数1~6のアルコキシ基が好ましい。
【0057】
炭素原子数6~20のシクロアルキル基として、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素原子数6~12のシクロアルキル基が好ましい。
【0058】
炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基として、シクロヘキシルオキシ基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素原子数6~12のシクロアルコキシ基が好ましい。
【0059】
炭素原子数2~10のアルケニル基として、メテニル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられる。炭素原子数1~6のアルキル基が好ましい。
【0060】
炭素原子数6~14のアリール基として、フェニル基、ナフチル基等挙げられる。炭素原子数6~14のアリールオキシ基として、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0061】
炭素原子数7~20のアラルキル基として、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基として、ベンジルオキシ基、フェニルエチルオキシ基等が挙げられる。
【0062】
gは1~10の整数であり、好ましくは1~6の整数である。hは4~7の整数であり、好ましくは4~5の整数である。
【0063】
前記ポリカーボネートブロック(A-1)としては、特に下記式(4)で表される構造単位を含むものが好ましい。
【0064】
【化8】
【0065】
上記式(4)において、R27、R28は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基である。R27、R28がそれぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良い。
i及びjは夫々1~4の整数である。
【0066】
Yは下記式(5)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0067】
【化9】
【0068】
上記式(5)において、R29、R30、R31は夫々独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基である。
kは1~3の整数である。
【0069】
(ポリシロキサンブロック(A-2))
本発明において、ポリシロキサンブロック(A-2)は、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂において含まれるポリシロキサン系の部分であり、特にその種類は限定されない。
【0070】
具体的には、ポリシロキサンブロックは、下記式(3)で表される構造単位を含むものが好ましい。
【0071】
【化10】
【0072】
上記式(3)において、R23、R24、R25及びR26は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、及び炭素原子数6~12の置換又は無置換のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0073】
炭素数1~12のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0074】
炭素数6~12の置換又は無置換のアリール基として、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基などの炭素原子数1~6のアルキル基が挙げられる。
23、R24、R25、R26はメチル基であることが特に好ましい。
【0075】
21及びR22は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基及び炭素原子数1~10のアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基であり、ハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0076】
炭素原子数1~10のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基である。
【0077】
炭素原子数1~10のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オクトキシ基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~6のアルコキシ基である。
21及びR22は、水素原子又はメトキシ基であることが特に好ましい。
【0078】
pは1~150の自然数であり、好ましくは5~100の自然数であり、より好ましくは10~80の自然数であり、特に好ましくは20~50の自然数である。該平均鎖長pは核磁気共鳴(NMR)測定により算出される。
【0079】
pの繰り返し単位には、R23、24が異なる単位をいくつも含んでいてもよい。例えば下記式(6)のようにpとpの繰り返し単位があってもよく、その場合、pとpの繰り返し単位の合計がpとなり、この時のpとpの繰り返し単位はランダムでもよい。
【0080】
【化11】
【0081】
かかる特定の鎖長範囲を満足するために、異なる2種類又はそれ以上の平均鎖長pを有するヒドロキシアリール末端ポリシロキサン原料を混合して調製しても良い。ポリシロキサン原料の混合調製の方法としては、末端をヒドロキシアリール変性させた適当なポリシロキサン原料同士を混合する方法でも、末端をヒドロキシアリール変性させる前の適当な平均鎖長を有するポリシロキサン前駆体同士を予め混合した後に、末端をヒドロキシアリール変性させる方法のどちらでも良い。
【0082】
Xは、炭素数2~8の二価脂肪族基である。二価脂肪族基として、炭素数2~8のアルキレン基が挙げられる。アルキレン基としてエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。
【0083】
(その他の樹脂)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を含んでもよい。中でも、本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂との相溶性の観点から、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0084】
(ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂の製造方法)
本発明におけるポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、工程(I)及び工程(II)により製造することができる。
【0085】
(工程(I))
工程(I)は水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において、下記式(7)で表される二価フェノールとホスゲンとを反応させ、末端クロロホーメート基を有するカーボネートオリゴマーを含有する溶液を調製する工程である。
【0086】
【化12】
(式中、R、R、e、f及びWは前記式(1)と同じである。)
【0087】
上記式(7)で表される二価フェノールとしては、例えば、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラフルオロ-4,4’-ビフェノール、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(以下“BPM”と略することがある)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下“BPZ”と略することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“BPTMC”と略することがある)、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“BPOCTMC”と略することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下“BPA”と略することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下“BPC”と略することがある)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(以下“BP26XA”と略することがある)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシー3-フェニルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(2,3-ジメチルー4-ヒドロキシフェニル)デカン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(以下“BPAF”と略することがある)、6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、7,7’-ジメチル-6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、7,7’-ジフェニル-6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、及び2,2-ビス(3,5-ジフルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、及び2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0088】
上記の中でも、BPM、BPZ、BPTMC、BPOCTMC、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、BPA、BPC、BP26XA、BPAF、6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。耐衝撃性、耐熱性、低比重性及び入手可能性の観点から、BPZ、BPTMC、BPOCTMC、BPA、BPC、BP26XA、BPAFがより好ましく、BPTMC、BPOCTMC、BPA、BPC、BP26XAが特に好ましい。これらの二価フェノールは、1種のみを用いても良く、2種類以上併用して用いても良い。
【0089】
(工程(II))
工程(II)は、下記式(8)で表されるヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと工程(I)で調整したカーボネートオリゴマーとを界面重合させ、本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を得る工程である。
【0090】
【化13】
(式中R21~R26、X、pは前記式(3)と同じである。)
【0091】
上記式(8)で表されるヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしては、例えば次に示すような化合物が好適に用いられる。
【0092】
【化14】
【0093】
ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、オレフィン性の不飽和炭素-炭素結合を有するフェノール類、好適にはビニルフェノール、2-アリルフェノール、イソプロペニルフェノール、2-メトキシ-4-アリルフェノールを所定の重合度を有するポリシロキサン鎖の末端に、ハイドロシリレーション反応させることにより容易に製造される。なかでも、(2-アリルフェノール)末端ポリシロキサン、(2-メトキシ-4-アリルフェノール)末端ポリシロキサンが好ましく、殊に(2-アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサン、及び(2-メトキシ-4-アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサンが好ましい。ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンは、1種のみを用いても良く、2種類以上併用して用いても良い。
【0094】
また高度な透明性を実現するために、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンの平均シロキサン繰り返し数pは好ましくは1~150、より好ましくは5~100、さらに好ましくは特に好ましくは10~80、特に好ましくは20~50である。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、透明性に優れる。該平均鎖長pは1H-NMR測定により算出することができる。
【0095】
上記下限以上の樹脂は、凝集力の低いポリシロキサン部位の導入によるレオロジー特性の改質効果が高く、構造粘性指数を高くしやすい。その結果、剪断流動時の高い流動性を保持し成形性が良い。上記上限以下の樹脂は、ポリシロキサンドメインの平均サイズを小さくしやすい。その結果高温で長時間シリンダー内に滞留される成形条件下にあっても、優れた透明性を有する樹脂成形品を得ることができる。上記上限以下のポリシロキサン単位は、その単位重量あたりのモル数が増加し、ポリカーボネート中に該単位が均等に組み込まれやすくなる。シロキサンの繰り返し数が大きいと、ポリシロキサン単位のポリカーボネート中への組み込みが不均等になるとともに、ポリマー分子中のポリシロキサン単位の割合が増加するため、該単位を含むポリカーボネートと、含まないポリカーボネートとが生じやすく、かつ相互の相溶性が低下しやすくなる。その結果として大きなポリシロキサンドメインが生じやすくなる。一方で、成形性、耐衝撃性の観点からは、ポリシロキサンドメインがある程度大きい方が有利であることから、上記の如く好ましい繰り返し数の範囲が存在する。
【0096】
なお、本発明においてポリシロキサンドメインとは、ポリカーボネートのマトリックス中に分散したポリシロキサンを主成分とするドメインをいい、他の成分を含んでもよい。上述の如く、ポリシロキサンドメインは、マトリックスたるポリカーボネートとの相分離により構造が形成されることから、必ずしも単一の成分から構成されない。
【0097】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂における、樹脂全重量に占めるポリシロキサン成分含有量は1~70重量%が好ましい。かかるポリシロキサン成分含有量の下限は、好ましくは3重量%以上、5重量%以上、8重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上で含んでいても良い。上限は、好ましくは60重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下で含んでいてもよい。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、成形条件の影響を受けにくい安定した透明性が得られやすい。かかるポリシロキサン含有量は、1H-NMR測定により算出することが可能である。
【0098】
また、本発明の製造方法の妨げにならない範囲で、上記二価フェノール、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサン以外の他のコモノマーを併用することもできる。
【0099】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、分岐化剤を上記の二価フェノール系化合物と併用して分岐化ポリカーボネート樹脂とすることができる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、又は4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、又はトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0100】
かかる分岐化ポリカーボネート樹脂の製造方法は、クロロホルメート化合物の生成反応時にその混合溶液中に分岐化剤が含まれる方法であっても、該生成反応終了後の界面重縮合反応時に分岐化剤が添加される方法であってもよい。分岐化剤由来のカーボネート構成単位の割合は、該樹脂を構成するカーボネート構成単位全量中、好ましくは0.005~1.5モル%、より好ましくは0.01~1.2モル%、特に好ましくは0.05~1.0モル%である。なお、かかる分岐構造量については1H-NMR測定により算出することが可能である。
【0101】
工程(I)おいて末端クロロホルメート基を有する二価フェノールのオリゴマーを含む混合溶液を得た後、該混合溶液を攪拌しながら上記式(8)であるヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを二価フェノールの仕込み量に対して0.004モル当量/min以下の速度で加え、該ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンと該オリゴマーを界面重縮合させることにより、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を得る。
【0102】
本発明の製造において、溶媒としては、公知のポリカーボネートの製造に使用されるものなど各種の反応に不活性な溶媒を1種単独であるいは混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、キシレンの如き炭化水素溶媒、並びに、塩化メチレン及びクロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。特に塩化メチレンの如きハロゲン化炭化水素溶媒が好適に用いられる。二価フェノールの濃度は、好ましくは500g/L以下、より好ましくは450g/L以下、更に好ましくは300g/L以下である。二価フェノールの濃度は、製造効率の観点から、その下限は150g/L以上が好ましい。
【0103】
界面重縮合反応の際は、酸結合剤を反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜追加してもよい。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン等の有機塩基あるいはこれらの混合物などが用いられる。具体的には、上記式(3)を導くヒドロキシアリール末端ポリシロキサン、又は上記の如く二価フェノールの一部を添加モノマーとしてこの反応段階に添加する場合には、後添加分の二価フェノールとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとの合計モル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより過剰量のアルカリを用いることが好ましい。
【0104】
二価フェノールのオリゴマーとヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとの界面重縮合反応による重縮合は、上記混合液を激しく攪拌することにより行われる。
【0105】
かかる重合反応においては、末端停止剤或いは分子量調節剤が通常使用される。末端停止剤としては一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられ、通常のフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、トリブロモフェノールなどの他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、ヒドロキシフェニルアルキル酸エステル、アルキルエーテルフェノールなどが例示される。その使用量は用いる全ての二価フェノール系化合物100モルに対して、100~0.5モル、好ましくは50~2モルの範囲であり、二種以上の化合物を併用することも当然に可能である。
【0106】
重縮合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又は第四級アンモニウム塩などの触媒を添加してもよい。
【0107】
かかる重合反応の反応時間は、未反応ポリシロキサン成分を低減するためには比較的長くする必要がある。好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上である。一方、長時間の反応溶液の撹拌によってポリマーの析出が発生し得るため、好ましくは180分以下、更に好ましくは90分以下である。
【0108】
反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧もしくは反応系の自圧程度で好適に行いえる。
【0109】
反応温度は-20~50℃の範囲から選ばれ、多くの場合は重合に伴い発熱するので水冷又は氷冷することが望ましい。
【0110】
所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0111】
(粘度平均分子量)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは15,000~40,000、より好ましくは16,000~35,000、さらに好ましくは17,000~30,000、特に好ましくは18,000~25,000である。上述の範囲内であると、多くの分野において実用上の機械強度が獲得しやすく、成形加工時においては適度な溶融粘度を有するため熱劣化等の不具合が抑制されるとともに随時混合するポリカーボネート樹脂との溶融粘度差が小さく混錬性が良好となる。さらには、樹脂製造時の水洗工程の効率が良好であり、生産性に優れる。
【0112】
本発明におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出したものである。
ηSP/c=[η]+0.45×[η] (但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
【0113】
(鉛筆硬度)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂の鉛筆硬度は、2B以上であることが好ましい。耐傷性に優れるという点で、HB以上であることがより好ましく、F以上であることがさらに好ましい。なお、鉛筆硬度は4H以下で充分な機能を有する。本発明において、鉛筆硬度とは、本発明の樹脂を特定の鉛筆硬度を有する鉛筆で樹脂を擦過した場合に擦過しても擦過痕が残らない硬さのことであり、JIS K-5600に従って測定できる塗膜の表面硬度試験に用いる鉛筆硬度を指標とすることが好ましい。鉛筆硬度は、9H、8H、7H、6H、5H、4H、3H、2H、H、F、HB、B、2B、3B、4B、5B、6Bの順で柔らかくなり、最も硬いものが9H、最も軟らかいものが6Bである。
【0114】
(耐衝撃性)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、JIS K7211-2に即して実施された高速面衝撃試験において、その破壊形態が延性破壊であることが好ましい。
【0115】
(全光線透過率)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂の全光線透過率の値は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは88%以上である。また、ヘーズ値は好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは2.0以下である。上記の値とすることで成形品とした際の外観に優れ好ましい。全光線透過率及びヘーズは、得られた樹脂プレートの厚み2.0mm部において日本電色工業(株)製Haze Meter NDH 2000を用い、ASTM D1003に準拠し測定できる。
【0116】
(ドメインサイズ)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂において、ポリシロキサンドメインの平均サイズは、好ましくは1~20nmの範囲であり、より好ましくは2~15nmの範囲である。かかる範囲の下限未満では、耐衝撃性が十分に発揮されず、かかる範囲の上限を超えると透明性が安定して発揮されない。
【0117】
(好ましい態様(1))
本発明において、好ましい態様(1)としては、前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンのうち少なくとも一つから誘導される単位を含むことが好ましい。
【0118】
また、上記単位を含むポリカーボネートブロック(A-1)とした場合、前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして1~70重量%が好ましく、3~60重量%がより好ましく、5~50重量%がさらに好ましい。
【0119】
(好ましい態様(2))
本発明において、好ましい態様(2)としては、前記ポリカーボネートブロック(A-1)の構造単位として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される単位を含み、前記ポリシロキサンブロック(A-2)の含有量が、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂全体を基準にして30~70重量%が好ましく、35~60重量%がより好ましく、40~50重量%がさらに好ましい。
【0120】
(その他の成分)
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は本発明の効果を損なわない範囲で通常ポリカーボネート樹脂に配合される各種の難燃剤、強化充填材、添加剤を配合することができる。
【0121】
本発明において、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、例えば単軸押出機、二軸押出機の如き押出機を用いて、溶融混練することによりペレット化することができる。かかるペレットを作製するにあたり、各種難燃剤、強化充填剤、添加剤を配合することもできる。
【0122】
難燃剤としては、従来、熱可塑性樹脂、特に芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃剤として知られる各種の化合物が適用できるが、より好適には、有機金属塩系難燃剤(例えば、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ホウ酸金属塩系難燃剤、及び錫酸金属塩系難燃剤など)、有機リン系難燃剤(例えば、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物及びホスファゼンなど)、シリコーン化合物からなるシリコーン系難燃剤、フィブリル化PTFE等である。その中でも、有機金属塩系難燃剤、有機リン系難燃剤が特に好ましい。尚、かかる化合物の配合は難燃性の向上をもたらすが、それ以外にも各化合物の性質に基づき、例えば帯電防止性、流動性、剛性、及び熱安定性の向上などがもたらされる。
【0123】
(成形品)
本発明において、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、通常前記の如く製造されたペレットを射出成形して各種成形品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、押出機で溶融混練された樹脂を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、及び射出成形品にすることも可能である。
【0124】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、及び超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式及びホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0125】
また本発明において、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、及びフィルムなどの形で利用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
【0126】
更に本発明において、ポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常のポリカーボネート樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。
【0127】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度、低比重性を高度に両立しており、光学部品、電気・電子機器分野、モビリティ分野において幅広く使用することができる。特に、主に射出成形等により成形される自動車ランプレンズや自動車内外装部材、主に押出成形等により成形される照明カバー、樹脂窓又は前面板用途に好適に使用される。
【実施例
【0128】
以下に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。特記しない限り、実施例中の部は重量部である。なお、評価は下記の方法に従った。
【0129】
(1)ポリマー組成比
日本電子株式会社製 JNM-AL400のプロトンNMRにて各繰り返し単位を測定し、ポリマー組成比(モル比)を算出した。
【0130】
(2)ポリシロキサン成分の含有量及び平均シロキサン繰り返し数
日本電子株式会社製 JNM-AL400のプロトンNMRを用い、得られた樹脂の1H-NMRスペクトルを測定し、二価フェノール由来のピーク(例えばBPAの場合は、1.4~1.8ppm)の積分曲線とポリシロキサン由来のピーク(-0.2~0.3ppm)の積分曲線から算出した積分比よりポリシロキサン成分含有量を算出した。さらに同様に、ヒドロキシアリール末端由来のピークの積分曲線とポリシロキサン由来のピークの積分曲線から算出した積分比を比較することにより平均ポリシロキサン繰り返し数を算出した。
【0131】
(3)粘度平均分子量(Mv)
次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに試料0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出した。
ηSP/c=[η]+0.45×[η] (但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
【0132】
(4)ガラス転移温度
試料8mgを用いてティー・エイ・インスツルメント(株)製の熱分析システム DSC-2910を使用して、JIS K7121に準拠して窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0133】
(5)成形性
樹脂を射出成形機(日本製鋼所製J-75E3)により、シリンダ温度300℃、金型温度80℃の条件で、保圧時間20秒及び冷却時間20秒にて幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)である3段型樹脂プレートを成形し、各種評価を実施した。上記の条件で3段型樹脂プレートが得られた場合には成形性「〇」、溶融流動性が悪く3段型樹脂プレートが得られなかった場合には成形性「×」として評価した。成形性「×」の場合、以下の真空熱プレス成形を実施した。
【0134】
(6)真空熱プレス成形(比較例5,6,12)
樹脂を真空熱プレス成形機(神藤金属工業所(株)製 圧縮成形機:SFV-10、真空ポンプユニット:GXD-360)を用いて、厚さ2mm、直径5cmの円盤型樹脂プレートを成形し、各種評価を実施した。プレス成形条件は、金型温度300℃、1次圧:1MPa(30秒)、2次圧:1.5MPa(5分)とした。
【0135】
(7)比重
樹脂プレートを用いJIS K7112 プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法(C法 浮沈法)に準拠し測定した。
【0136】
(8)全光線透過率及びヘーズ
樹脂プレートの厚み2.0mm部位における全光線透過率(%)、ヘイズ(%)を日本電色工業(株)製Haze Meter NDH 2000を用い、ASTM D1003に準拠し測定した。
【0137】
(9)耐衝撃性
高速衝撃試験機 島津HYDROSHOTHITS-P10(島津製作所)を使用し、試験温度23℃あるいは-30℃で、試験速度7m/sec、ストライカー径1/2インチ、受け径1インチの条件にて、樹脂プレート厚み2mm部における耐衝撃性を評価した。試験を5回実施し、その時の破壊形態を目視で観察し、以下に記載の基準に沿って判定した。
「〇」:延性破壊を示す回数が5回中3回以上。
「×」:延性破壊を示す回数が5回中2回以下。
【0138】
(10)ドメインサイズ
3段型樹脂プレートをミクロトーム(Leica Microsystems社製 EM UC6)を用いて樹脂の流動方向に対して垂直に切削することにより超薄切片を作成し、グリッド(日本電子株式会社製 EM FINE GRID No.2632 F-200-CU 100PC/CA)に付着させ、日本電子株式会社製 透過型電子顕微鏡TEM JEM-2100を用いて加速電圧200kVで観察した。観察倍率は20,000倍とした。
【0139】
得られた顕微鏡写真を画像解析ソフトWin ROOF Ver.6.6(三谷商事(株))を用いて粒子解析を行い、試料薄片中のポリシロキサンドメインの平均サイズ及び粒径分布(頻度分布)を得た。ここで各ドメインのサイズとして最大長径(粒子の外側輪郭線上の任意の2点を、その間の長さが最大になるように選んだ時の長さ)を利用した。5枚の試料切片で同様の解析を行い、その平均値を各試料の値とした。
【0140】
(11)鉛筆硬度
JIS K5600に基づき、雰囲気温度23℃の恒温室内で樹脂プレートの表面に対して、鉛筆を45度の角度を保ちつつ750gの荷重をかけた状態で線を引き、表面状態を目視にて評価した。
荷重:750g
測定速度:50mm/min
測定距離:7mm
鉛筆:三菱鉛筆製Hi―uni
【0141】
<樹脂の製造>
(製造例1)
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水13698部、25%水酸化ナトリウム水溶液3712部を入れ、二価フェノールとしてBPA2739部、及びハイドロサルファイト5.48部を溶解した後、塩化メチレン10954部、25%水酸化ナトリウム水溶液1650部を加え、撹拌下16~24℃でホスゲン(以下“FH”と略することがある)1480部を70分要して吹き込んだ。25%水酸化ナトリウム水溶液1031部を加え、さらにp-tert-ブチルフェノール83.2部を塩化メチレン5477部に溶解した溶液を加え、攪拌しながらヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとして、ポリジメチルシロキサン(以下、“PDMS”と略することがある)KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製)2757部を塩化メチレン5514部に溶解した溶液を作製し、該溶液を加えて乳化状態とした後、再度激しく撹拌した。かかる攪拌下、反応液が28℃の状態でトリエチルアミン3.3部を加えて温度26~31℃において1時間撹拌を続けて反応を終了した。反応終了後有機相を分離し、塩化メチレンで希釈して水洗を繰り返し、洗浄液が中性になったところで塩酸酸性水にて水洗した。その後、イオン交換水で繰り返し洗浄し水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで温水を張ったニーダーに投入して、攪拌しながら塩化メチレンを蒸発し、樹脂のパウダーを得た。脱水後、熱風循環式乾燥機により100℃で12時間乾燥した。得られた樹脂の粘度平均分子量は18,500、ガラス転移温度は124℃、ポリシロキサン成分の含有量は47.7重量%であった。
【0142】
(製造例2)
二価フェノールとしてBPTMC3456部、p-tert-ブチルフェノール57.5部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))2558部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,100、ガラス転移温度は148℃、ポリシロキサン成分含有量は40.8重量%であった。
【0143】
(製造例3)
二価フェノールとしてBPTMC3631部、p-tert-ブチルフェノール57.5部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))816部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,400、ガラス転移温度は190℃、ポリシロキサン成分含有量は17.5重量%であった。
【0144】
(製造例4)
二価フェノールとしてBPTMC771部及びBPC2243部、p-tert-ブチルフェノール43.2部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))784部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は22,900、ガラス転移温度は121℃、ポリシロキサン成分含有量は19.7重量%であった。
【0145】
(製造例5)
二価フェノールとしてBPOCTMC3202部及びBPC586部、p-tert-ブチルフェノール43.2部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))357部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,200、ガラス転移温度は166℃、ポリシロキサン成分含有量は8.1重量%であった。
【0146】
(製造例6)
二価フェノールとしてBP26XA3214部、p-tert-ブチルフェノール57.5部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))570部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,000、ガラス転移温度は167℃、ポリシロキサン成分含有量は13.4重量%であった。
【0147】
(製造例7)
二価フェノールとしてBPA2942部、p-tert-ブチルフェノール82.9部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は22,500、ガラス転移温度は148℃であった。
【0148】
(製造例8)
二価フェノールとしてBPA2930部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))160部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,300、ガラス転移温度は143℃、ポリシロキサン成分含有量は4.2重量%であった。
【0149】
(製造例9)
二価フェノールとしてBPA2904部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))519部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は21,500、ガラス転移温度は135℃、ポリシロキサン成分含有量は13.5重量%であった。
【0150】
(製造例10)
二価フェノールとしてBPA2889部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))719部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は19,400、ガラス転移温度は129℃、ポリシロキサン成分含有量は17.2重量%であった。
【0151】
(製造例11)
二価フェノールとしてBPTMC3713部、p-tert-ブチルフェノール57.5部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例
1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,000、ガラス転移温度は233℃であった。
【0152】
(製造例12)
二価フェノールとしてBPTMC3683部、p-tert-ブチルフェノール57.5部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))297部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,200、ガラス転移温度は218℃、ポリシロキサン成分含有量は7.1重量%であった。
【0153】
(製造例13)
二価フェノールとしてBPC2944部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は24,000、ガラス転移温度は124℃であった。
【0154】
(製造例14)
二価フェノールとしてBPC1472部及びBPTMC1785部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,400、ガラス転移温度は173℃であった。
【0155】
(製造例15)
二価フェノールとしてBPC2355部及びBPTMC714部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は22,500、ガラス転移温度は141℃であった。
【0156】
(製造例16)
二価フェノールとしてBPC1914部及びBPOCTMC1417部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は20,900、ガラス転移温度は147℃であった。
【0157】
(製造例17)
二価フェノールとしてBPC2355部及びBPOCTMC810部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は19,100、ガラス転移温度は181℃であった。
【0158】
(製造例18)
二価フェノールとしてBP26XA3266部、p-tert-ブチルフェノール74.3部に変更し、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンを使用しなかった以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は19,600、ガラス転移温度は194℃であった。
【0159】
(製造例19)
二価フェノールとしてBPC2856部、p-tert-ブチルフェノール74.3部、ヒドロキシアリール末端ポリシロキサンとしてPDMS KF-2201(p=35(信越化学工業(株)製))1069部に変更した以外は、製造例1と同様の方法で製造した。得られた樹脂の粘度平均分子量は19,500、ガラス転移温度は96℃であった。
【0160】
[実施例1~6]
上記製造例1~6で得られた樹脂を、射出成形して3段型樹脂プレートを作製し、成形性、比重、全光線透過率、ヘーズ、耐衝撃性、ドメインサイズ、鉛筆硬度を評価した。評価結果を表1に示した。
【0161】
[比較例1~13]
上記製造例7~19で得られた樹脂を、射出成形して3段型樹脂プレートを作製し、成形性、比重、全光線透過率、ヘーズ、耐衝撃性、ドメインサイズ、鉛筆硬度を評価した。評価結果を表2、3に示した。比較例5、6、12については溶融流動性が悪く、射出成形できなかった。
【0162】
[比較例5、6、12]
比較例5、6、12について、上記製造例11、12、18で得られた樹脂を、真空熱プレス成形して円盤型樹脂プレートを作製し、比重、全光線透過率、ヘーズ、鉛筆硬度を測定した。評価結果を表2、3に示した。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
【表3】
【0166】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度、低比重性を高度に両立していることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明のポリカーボネート-ポリシロキサン樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性、鉛筆硬度、低比重性を高度に両立しており、光学部品、電気・電子機器分野、モビリティ分野において幅広く使用することができる。