(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】反射防止フィルムおよび画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20240705BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240705BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240705BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240705BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20240705BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/18
B32B7/023
G09F9/00 313
G02B1/115
(21)【出願番号】P 2023028562
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 一生
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 聖彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 豪彦
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/106797(WO,A1)
【文献】特開2022-079218(JP,A)
【文献】特開2016-122140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
G02B 1/18
B32B 7/023
G09F 9/00
G02B 1/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムと、前記ハードコート層上に順に設けられた反射防止層および防汚層とを備え、
前記反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなり、
それぞれの薄膜の膜厚は5~200nmであり、
前記ハードコート層は、バインダー樹脂、平均粒子径が1~8μmであるマイクロ粒子、および平均一次粒子径が100nm以下であるナノ粒子を含み、
前記防汚層は、膜厚が2~50nmであり、
前記防汚層の表面は、
触針法により測定した前記防汚層の測定長12mmの粗さ曲線から、JIS B0601に準じて算出した凹凸の平均間隔RSmが、120
~250μ
mであり、
原子間力顕微鏡により測定した前記防汚層の1μm×1μmの領域の三次元表面性状から、ISO 25178に準じて算出した算術平均高さSaが、2.0
~10n
mである、
反射防止フィルム。
【請求項2】
前記マイクロ粒子の比重が1.25以上である請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記マイクロ粒子の合計100重量部のうち、比重が1.25以上である粒子の量が85重量部以上である、請求項2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層中の前記マイクロ粒子の量が、前記バインダー樹脂100重量部に対して、0.5~12重量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層中の前記ナノ粒子の量が、前記バインダー100重量部に対して25~120重量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記ナノ粒子の平均一次粒子径が15nm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記防汚層の表面は、触針法により測定した前記防汚層の測定長12mmの粗さ曲線から、JIS B0601に準じて算出した算術平均粗さRaが、30~500nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記反射防止層がスパッタ膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層と前記反射防止層との間に、無機酸化物からなるプライマー層を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
画像表示媒体の視認側表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルムが配置されている、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フィルム基材上に反射防止層を備える反射防止フィルムに関する。さらに、本発明は当該反射防止フィルムを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側表面には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが使用されている。反射防止フィルムは、透明フィルム上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
外光の映り込みによるコントラスト低下を防止するために、防眩(アンチグレア)処理を施す手法がある。例えば、特許文献1~3では、透明フィルム上に微粒子を含むハードコート層を形成した防眩性ハードコートフィルム上に、反射防止層を設けた防眩性反射防止フィルムが開示されている。防眩性反射防止フィルムは、ハードコート層が、粒子径がμmオーダーの微粒子(マイクロ粒子)を含むことにより表面凹凸を形成し、外光を散乱反射させることにより、外光の映り込みを低減している。
【0004】
特許文献1~3では、防眩性ハードコート層が、マイクロ粒子に加えて、平均一次粒子径が100nm以下のナノ粒子を含むことを開示している。特許文献1では、平均一次粒子径が20nmのシリカ粒子を凝集させて不定形の二次粒子とすることにより、表面での光拡散性を高めることが記載されている。特許文献2では、表面が変性されたナノシリカ粒子が、有機微粒子(マイクロ粒子)の沈降を抑制し表面に浮上させる作用を有するため、防眩性を調整可能であることが記載されている。特許文献3(実施例6~8参照)では、防眩性ハードコート層がナノシリカ粒子を含むことにより、ハードコート層の表面に微細な凹凸が形成され、ハードコート層と反射防止層との密着性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-40064号公報
【文献】特開2009-204728号公報
【文献】国際公開第2021/106797号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の防眩性反射防止フィルムは、ハードコート層と反射防止層との密着性が低く、外光に長時間暴露されると、反射防止層(およびその上に設けられている防汚層)が剥離しやすく、使用に伴って光学特性や防汚性が低下するとの課題がある。
【0007】
特許文献3で提案されているように、防眩性ハードコート層の表面にナノ粒子を存在させることにより、ハードコート層と反射防止層との密着性が向上する傾向がある。しかし、特許文献3の実施例6~8の反射防止フィルムは、反射防止層の密着性は良好であるものの、画像表示装置の黒表示時に、外光の反射光が白くぼやけて視認され(白ボケ)、黒表示の色の締まりが悪く、明所コントラストが低いとの課題がある。
【0008】
上記に鑑み、本発明は、防眩性ハードコート層と反射防止層との密着性が高く、かつ反射光の白ボケが少なく良好な視認性を有する反射防止フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の反射防止フィルムは、透明フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムのハードコート層上に、順に設けられた反射防止層および防汚層を備える。ハードコート層は、バインダー、粒子径が1~8μmの微粒子(マイクロ粒子)、および平均一次粒子径が100nm以下である微粒子(ナノ粒子)を含む。
【0010】
反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる。反射防止層を構成する薄膜は、好ましくは無機酸化物である。反射防止層はスパッタにより形成されたスパッタ膜であってもよい。ハードコート層と反射防止層との間には無機酸化物からなるプライマー層が設けられていてもよい。
【0011】
反射防止フィルムの表面(防汚層の表面)は、測定長12mmの粗さ曲線から求めた凹凸の平均間隔RSmが120μm以上であることが好ましく、1μm×1μmの領域の三次元表面性状から求めた算術平均高さSaが2.0nm以上であることが好ましい。反射防止フィルムの表面の測定長12mmの粗さ曲線から求めた算術平均粗さRaは、30~500nmであってもよい。
【0012】
ハードコート層に含まれるマイクロ粒子は、比重が1.25以上であることが好ましい。ハードコート層に2種以上のマイクロ粒子が含まれる場合は、マイクロ粒子の平均比重が1.25以上であることが好ましく、マイクロ粒子の合計100重量部のうち、比重が1.25以上である粒子の比率が85重量部以上であることが好ましい。
【0013】
ハードコート層中のマイクロ粒子の量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0.5~12重量部が好ましい。ハードコート層中のナノ粒子の量は、バインダー100重量部に対して25~120重量部が好ましい。ナノ粒子の平均一次粒子径は15nm以上が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記のSaおよびRSmを有する反射防止フィルムは、ハードコート層と反射防止層との密着性が高く、高い防眩性を発揮するとともに、反射光の白ボケが少なく良好な視認性を有する。画像表示媒体の視認側表面に当該反射防止フィルムを配置した画像表示装置は、優れた防眩性を示し、明所コントラストが高く、かつ反射防止層および防汚層が剥離し難いため、長期使用後も優れた光学特性および防汚性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】反射防止フィルムの積層構成例を示す断面図である。
【
図2】実施例および比較例の反射防止フィルムの反射光の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の反射防止フィルムの積層構成例を示す断面図である。反射防止フィルム101は、ハードコートフィルム1のハードコート層11上に、反射防止層5を備え、反射防止層5上に防汚層7を備える。ハードコートフィルム1は、透明フィルム基材10の一主面上にハードコート層11を備える。反射防止層5は、屈折率の異なる2層以上の無機薄膜の積層体である。ハードコート層11と反射防止層5との間には、プライマー層3が設けられていてもよい。
【0017】
[ハードコートフィルム]
ハードコートフィルム1は、透明フィルム基材10の一主面上に、ハードコート層11を備える。反射防止層5形成面側にハードコート層11が設けられることにより、反射防止フィルムの表面硬度や耐擦傷性等の機械特性を向上できる。
【0018】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材10の可視光透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明フィルム基材10を構成する樹脂材料としては、例えば、透明性、機械強度、および熱安定性に優れる樹脂材料が好ましい。樹脂材料の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0019】
透明フィルム基材の厚みは特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄層性等の観点から、5~300μm程度が好ましく、10~250μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。
【0020】
<ハードコート層>
透明フィルム基材10の主面上にハードコート層11を設けることによりハードコートフィルム1が形成される。ハードコート層11は、バインダー樹脂および微粒子を含み、微粒子として、粒子径が1μm以上であるマイクロ粒子と、粒子径が100nm以下であるナノ粒子を含む。ハードコート層11は、マイクロ粒子により形成された表面凹凸により防眩性を発揮し、ナノ粒子により形成された微細な表面凹凸が反射防止層5の密着性向上に寄与する。
【0021】
ハードコート層11の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するためには、2μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。一方、ハードコート層11の厚みが過度に大きいと、ハードコート層の表面凹凸が適切に形成されない場合や、凝集破壊により膜強度が低下する場合がある。そのため、ハードコート層11の厚みは20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下がさらに好ましい。また、ハードコート層11の厚みは、マイクロ粒子の平均粒子径の1.2~4倍の範囲であることが好ましく、1.5~3倍の範囲内がより好ましい。マイクロ粒子の粒子径とハードコート層の厚みの比が上記範囲であることにより、ハードコート層表面に形成される凹凸形状が、防眩性に優れたものとなりやすい。
【0022】
ハードコートフィルムのヘイズは、1~35%が好ましく、2~30%がより好ましく、3~25%、4~20%、5~17%または6~15%であってもよい。ハードコートフィルムのヘイズが上記範囲であれば、防眩性と画像の鮮明性とを両立できる。ヘイズが過度に小さい場合は防眩性に劣る場合があり、ヘイズが過度に大きい場合は透過光の散乱が大きく、画像の鮮明性が低下する傾向がある。
【0023】
ハードコート層11の表面の1μm×1μmの領域の三次元表面性状から算出される算術平均高さSaは、2.0nm以上が好ましい。ハードコート層11の表面の測定長12mmの粗さ曲線から算出される凹凸の平均間隔RSmは、120μm以上が好ましい。
【0024】
算術平均高さSaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方の観察像から、ISO 25178に準拠して算出される値であり、nmスケールの微細な凹凸の形成の程度を表す指標である。ハードコート層11の算術平均高さSaが大きいほど、反射防止層5の密着性が向上する傾向がある。ハードコート層11に含まれるナノ粒子の粒子径が大きく、ナノ粒子の含有量が多いほど、Saが大きくなる傾向がある。ハードコート層11の算術平均高さSaは、2.3nm以上がより好ましく、2.5nm以上がさらに好ましく、2.7nm以上、2.9nm以上または3.0nm以上であってもよい。
【0025】
一方、ナノ粒子により形成される表面凹凸が粗大になると、十分な密着性を実現できない場合がある。また、ナノ粒子により形成される表面凹凸が大きくなると、マイクロ粒子の形状がハードコート層11の表面形状に反映され難く、防眩性が低下する場合がある。そのため、ハードコート層11の算術平均高さSaは、10nm以下が好ましく、8.0nm以下がより好ましく、7.0nm以下がさらに好ましく、6.0nm以下、5.5nm以下、5.0nm以下または4.5nm以下であってもよい。
【0026】
凹凸の平均間隔RSmは、触針式表面粗さ測定器により測定した長さ12mmの断面曲線にカットオフ値0.8mmの広域フィルタを通して得られた粗さ曲線から、JIS B0601:2001に準拠して算出される粗さ曲線要素の平均長さであり、μmスケールの凹凸の面密度を表す指標である。ハードコート層11の凹凸の平均間隔RSmが小さいほど、マイクロ粒子によりハードコート層の表面に形成される凹凸の密度が高く、防眩性に優れる傾向がある。一方で、RSmが過度に小さくなると、画像表示装置の黒表示時に、外光の反射像が白くボケて視認されやすく、黒色の「締まり」が悪く、明所コントラストが低下する傾向がある(
図2の「比較例2」参照)。
【0027】
ハードコート層11の凹凸の平均間隔RSmが120μm以上であることにより、黒色の締まりがよく、明所コントラストの高い表示を実現できる。ハードコート層11の凹凸の平均間隔RSmは、130μm以上がより好ましく、140μm以上または150μm以上であってもよい。
【0028】
一方、ハードコート層11の凹凸の平均間隔RSmが過度に大きいと、防眩性を十分に発揮できない場合がある。そのため、ハードコート層11の凹凸の平均間隔RSmは、250μm以下が好ましく、220μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましく、180μm以下または170μm以下であってもよい。
【0029】
ハードコート層11の表面の測定長12mmの断面曲線にカットオフ値0.8mmの広域フィルタを通して得られた粗さ曲線から、JIS B0601:2001に準拠して算出される算術平均粗さRaは、30~500nmが好ましい。算術平均粗さRaは、光の散乱に寄与するサブミクロンからμmスケールの高さの凹凸の形成の程度を表す指標であり、ハードコート層11に含まれるマイクロ粒子の粒子径が大きく、マイクロ粒子の含有量が多いほど、Saが大きくなる傾向がある。
【0030】
ハードコート層11の算術平均粗さRaが大きいほど、防眩性に優れる傾向がある。一方、ハードコート層11の算術平均粗さRaが過度に大きい場合は、光散乱が大きく、画像の鮮明性の低下や、反射光の白ボケの原因となり得る。ハードコート層11の算術平均粗さRaは、50~400nmがより好ましく、60~300nmがさらに好ましく、70~250nmまたは80~200nmであってもよい。
【0031】
ハードコート層11の形成に用いられる組成物は、バインダー樹脂(またはその前駆体としての硬化性樹脂)、粒子径が1μm以上であるマイクロ粒子、および粒子径が100nm以下であるナノ粒子を含む。
【0032】
(バインダー樹脂)
ハードコート層11のバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましく用いられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等が挙げられる。これらの中でも、硬度が高く、光硬化が可能であることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましく、中でもアクリル系樹脂およびアクリルウレタン系樹脂が好ましい。バインダー樹脂の屈折率は、一般に1.4~1.6程度である。
【0033】
光硬化性のバインダー樹脂成分は、2個以上の光重合性(好ましくは紫外線重合性)の官能基を有する多官能化合物を含む。多官能化合物はモノマーでもオリゴマーでもよい。光重合性の多官能化合物としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を含む化合物(多官能(メタ)アクリレート)が好ましく用いられる。
【0034】
(マイクロ粒子)
ハードコート層11が、粒子径が1μm以上の微粒子(マイクロ粒子)を含むことにより、ハードコート層の表面に100μm程度の周期の凹凸が形成され、防眩性が付与される。ハードコート層に含まれるマイクロ粒子(粒子径が1μm以上の粒子)の平均粒子径は、1~8μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。マイクロ粒子の粒子径が小さい場合は、防眩性が不足する傾向がある。マイクロ粒子の粒子径が大きい場合は、画像の鮮明度が低下する傾向がある。ハードコート層に2種以上のマイクロ粒子が含まれる場合は、マイクロ粒子(粒子径が1μm以上の粒子)全体の平均粒子径が上記範囲内であることが好ましい。平均粒子径は、コールターカウント法により測定される重量平均粒子径である。
【0035】
マイクロ粒子の形状は特に制限されないが、ギラツキ低減の観点からはアスペクト比が1.5以下の球状粒子が好ましい。球状粒子のアスペクト比は、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.1以下である。
【0036】
マイクロ粒子の材料としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の各種金属酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート、シリコーン等の各種透明ポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子を特に制限なく使用できる。これらの微粒子は、1種または2種以上を適宜に選択して用いることができる。μmオーダーの粒子径を有し、アスペクト比が小さく、粒子径の均一性が高い微粒子を作製可能であり、かつ高密度であることから、マイクロ粒子の材料としては、シリコーンが特に好ましい。
【0037】
マイクロ粒子は、ハードコート層のバインダー樹脂との屈折率差が小さいことが好ましい。バインダーとマイクロ粒子との屈折率差を小さくすることにより、バインダー樹脂とマイクロ粒子との界面での光散乱が低減し、ヘイズが小さくなるため、クリア感の高い表示が可能となる。一方、ハードコート層のヘイズが過度に小さい場合は、防眩性が不充分となる場合がある。ハードコート層に適度のヘイズを持たせつつ、クリア感の高い表示を実現する観点から、バインダー樹脂とマイクロ粒子との屈折率差は、0.01~0.10程度が好ましく、0.02~0.06であってもよい。
【0038】
マイクロ粒子の比重は、1.25以上が好ましく、1.28以上がより好ましく、1.30以上であってもよい。マイクロ粒子の比重は、2.0以下、1.70以下、1.50以下または1.40以下であってもよい。マイクロ粒子の比重は、ナノ粒子の比重よりも大きいことが好ましい。
【0039】
マイクロ粒子の比重が大きい場合は、マイクロ粒子が沈降して透明フィルム基材10の近傍に偏在しやすい。これに伴って、ハードコート層11の表面(反射防止層5またはプライマー層3との界面)近傍にナノ粒子が偏在し、微細な凹凸が面内に均一に形成されるため、反射防止層の密着性が向上する傾向がある。
【0040】
ハードコート層11にマイクロ粒子とナノ粒子が併存する場合において、ハードコート層の表面近傍にマイクロ粒子が存在すると、表面の凹凸の平均間隔RSmが小さくなり、反射光の白ボケにより明所コントラストが低下する傾向がある。比重が大きく沈降しやすいマイクロ粒子を用いることにより、マイクロ粒子の形状を反映してハードコート層の表面に形成される凹凸の間隔が大きくなり、RSmが大きくなる傾向がある。
【0041】
ハードコート層に2種以上のマイクロ粒子が含まれる場合は、マイクロ粒子(粒子径が1μm以上の粒子)平均比重が上記範囲であることが好ましい。マイクロ粒子の平均比重が1.25以上であっても、比重が1.25未満のマイクロ粒子の比率が大きい場合は、ハードコート層の表面近傍に存在するマイクロ粒子の量が多くなり、ハードコート層のRSmが小さくなる傾向がある。そのため、マイクロ粒子の合計100重量部のうち、比重が1.25以上である粒子の量は、85重量部以上が好ましく、90重量部以上がより好ましく、95重量部以上99重量部以上または100重量部であってもよい。
【0042】
ハードコート層におけるマイクロ粒子の含有量は特に制限されない。ハードコート層の表面に均一に凹凸を形成する観点から、マイクロ粒子の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0.5~12重量部が好ましく、1~10重量部がより好ましく、1.5~7重量部または2~5重量部であってもよい。マイクロ粒子の含有量が小さい場合は、ハードコート層のRSmが大きく、防眩性が不足する場合がある。一方、マイクロ粒子の含有量が過度に大きい場合は、高密度のマイクロ粒子を用いても、RSmが小さくなり、反射光の白ボケにより明所コントラストが低下する傾向がある。
【0043】
上記の様に、マイクロ粒子の比重、粒子径および含有量を調整することにより、ハードコート層11の表面形状を調整して、防眩性を付与しつつ、白ボケを低減できる。マイクロ粒子の含有量が多いほど、マイクロ粒子によって形成される凸部の数が多くなるため、RSmが小さくなる傾向がある。また、マイクロ粒子の平均粒子径が大きく、マイクロ粒子の含有量が多いほど、Raが大きくなる傾向がある。マイクロ粒子の比重が小さく、表面近傍に存在するマイクロ粒子の比率が大きい場合は、RSmが小さくなり、Raが大きくなる傾向がある。
【0044】
(ナノ粒子)
ハードコート層11が、粒子径が1μm以上のマイクロ粒子に加えて、粒子径が100nm以下であるナノ粒子を含むことにより、ハードコート層の表面に、マイクロ粒子により形成される凹凸よりも小さなサイズの微細な凹凸が形成され、ハードコート層11と、その上に形成される反射防止層5との密着性が向上する傾向がある。
【0045】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属または半金属の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、低屈折率であり透明性に優れ、かつ密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。中でも、粒子径の均一性が高い微粒子を作製可能であり、分散性に優れ、かつ低密度であることから、ナノ粒子の材料としては、コロイダルシリカが特に好ましい。ナノ粒子の表面には、バインダー樹脂との親和性向上や、ハードコート層の硬度向上等の目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0046】
ナノ粒子の比重は、マイクロ粒子の比重よりも小さいことが好ましい。ナノ粒子が相対的に低比重であることにより、ハードコート層11の表面近傍にナノ粒子が偏在しやすく、微細な凹凸が面内に均一に形成されるため、反射防止層の密着性が向上する傾向がある。ナノ粒子の比重は、1.25未満が好ましく、1.23以下または1.21以下であってもよい。ナノ粒子の比重は、0.80以上、0.90以上、0.95以上または1.00以上であってもよい。コロイダルシリカの比重は、一般に、1.05~1.20程度である。
【0047】
ナノ粒子の粒子径が大きく、ナノ粒子の含有量が多いほど、ナノ粒子により形成されるナノサイズの凹凸の高さおよび面密度が大きく、ハードコート層11の算術平均高さSaが大きくなり、これに伴って反射防止層5の密着性が向上する傾向がある。
【0048】
バインダー中での分散性を高めるとともに、ハードコート層のSaを大きくして反射防止層の密着性を高める観点から、ナノ粒子の平均一次粒子径は15nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、25nm以上または30nm以上であってもよい。一方、密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成するとともに、ハードコート層表面での反射光の色付きを抑制する観点から、ナノ粒子の平均一次粒子径は、90nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、60nm以下、55nm以下または50nm以下であってもよい。
【0049】
ハードコート層におけるナノ粒子の含有量は特に制限されないが、ハードコート層のSaを大きくして反射防止層の密着性を高める観点から、ナノ粒子の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、25重量部以上が好ましく、30重量部以上または35重量部以上であってもよい。一方、ナノ粒子の含有量が過度に大きい場合は、ハードコート層のRSmが小さくなり、反射光の白ボケが生じやすい。そのため、ハードコート層におけるナノ粒子の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、120重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましく、80重量部以下がさらに好ましく、70重量部以下、60重量部以下、55重量部以下、50重量部以下または45重量部以下であってもよい。
【0050】
(ハードコート層の形成)
ハードコート組成物は、上記のバインダー樹脂成分、マイクロ粒子およびナノ粒子を含み、必要に応じて溶媒を含む。バインダー樹脂成分が硬化性樹脂である場合は、組成物中に、適宜の重合開始剤が含まれていることが好ましい。例えば、バインダー樹脂成分が光硬化型樹脂である場合には、組成物中に光重合開始剤が含まれることが好ましい。
【0051】
ハードコート組成物は、上記の他に、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0052】
チクソトロピー剤としては、有機粘土、酸化ポリオレフィン、変性ウレア等が挙げられる。中でも、スメクタイト等の有機粘土が好ましい。チクソトロピー剤の配合は、バインダー100重量部に対して、0.3~5重量部程度が好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系またはシリコーン系のレベリング剤があげられ、レベリング剤の配合量は、バインダー100重量部に対して、0.01~3重量部程度が好ましい。
【0053】
上記のハードコート組成物を、透明フィルム基材10上に塗布し、必要に応じて溶媒の除去および樹脂の硬化を行うことにより、ハードコート層11が形成される。
【0054】
ハードコート組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の加熱温度は、ハードコート組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃~150℃程度である。バインダー樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより光硬化が行われる。照射光の積算光量は、例えば100~500mJ/cm2程度である。
【0055】
ハードコート層11上に反射防止層5を形成する前に、ハードコート層11と反射防止層5との密着性のさらなる向上等を目的として、ハードコート層11の表面処理が行われてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、アルカリ処理、酸処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理が挙げられる。表面処理として真空プラズマ処理を行ってもよい。真空プラズマ等によるドライエッチング処理では、ハードコート層表面の樹脂成分が選択的にエッチングされやすくハードコート層表面およびその近傍におけるナノ粒子の存在比率が高くなるため、ハードコート層表面の算術平均高さSaが大きくなる傾向がある。
【0056】
[反射防止フィルム]
ハードコートフィルム1のハードコート層11上に、必要に応じてプライマー層3を介して、反射防止層5を形成し、反射防止層5上に防汚層7を形成することにより、反射防止フィルムが得られる。
【0057】
<プライマー層>
ハードコート層11と反射防止層5との間には、プライマー層3が設けられることが好ましい。プライマー層3の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属;これらの金属の合金;これらの金属の酸化物、フッ化物、硫化物または窒化物;等が挙げられる。中でも、プライマー層の材料は無機酸化物が好ましく、酸化シリコンまたは酸化インジウムが特に好ましい。プライマー層3を構成する無機酸化物は、酸化インジウム錫(ITO)等の複合酸化物でもよい。
【0058】
プライマー層3が酸化シリコンである場合、光透過率が高く、かつ有機層(ハードコート層)と無機層(反射防止層)の両方に対する接着力が高いことから、化学量論組成よりも酸素量の少ないものが特に好ましい。非化学量論組成のプライマー層3の酸素量は、化学量論組成の60~99%程度が好ましい。例えば、プライマー層3として酸化シリコン(SiOx)層を形成する場合、xは1.20~1.98が好ましい。
【0059】
プライマー層3の厚みは、例えば、1~20nm程度であり、好ましくは3~15nmである。プライマー層の厚みが上記範囲であれば、ハードコート層11との密着性と高い光透過性とを両立できる。
【0060】
<反射防止層>
反射防止層5は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなる。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0061】
反射防止層5を構成する薄膜の材料としては、金属の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層5は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体である。防汚層との界面での反射を低減するために、反射防止層5の最外層として設けられる薄膜54は、低屈折率層であることが好ましい。
【0062】
高屈折率層51,53は、例えば屈折率が1.9以上、好ましくは2.0以上である。高屈折率材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタンまたは酸化ニオブが好ましい。低屈折率層52,54は、例えば屈折率が1.6以下、好ましくは1.5以下である。低屈折率材料としては、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜51,33と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜52,54とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6~1.9程度の中屈折率層が設けられてもよい。
【0063】
高屈折率層および低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5~200nm程度であり、15~150nm程度が好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。例えば、高屈折率層と低屈折率層の積層構成としては、ハードコートフィルム側から、光学膜厚25nm~55nm程度の高屈折率層51、光学膜厚35nm~55nm程度の低屈折率層52、光学膜厚80nm~240nm程度の高屈折率層53、および光学膜厚120nm~150nm程度の低屈折率層54の4層構成が挙げられる。
【0064】
反射防止層5を構成する薄膜の成膜方法は特に限定されず、ウェットコーティング法、ドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着、CVD,スパッタ、電子線蒸等のドライコーティング法が好ましい。中でも、膜厚の均一性に優れ、緻密で高強度な膜を形成しやすいことから、スパッタ法が好ましい。スパッタ法により反射防止層を形成することにより、反射防止層5上に設けられる防汚層7の耐摩耗性が向上する傾向がある。
【0065】
スパッタ法では、ロールトゥーロール方式により、長尺のハードコートフィルムを一方向(長手方向)に搬送しながら、薄膜を連続成膜できる。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、および必要に応じて酸素等の反応性ガスをチャンバー内に導入しながら成膜が行われる。スパッタ法による酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタのいずれでも実施できる。高レートで金属酸化物を成膜するためには、金属ターゲットを用いた反応性スパッタが好ましい。
【0066】
<防汚層>
反射防止フィルムは、反射防止層5上に、最表面層(トップコート層)として防汚層7を備える。最表面に防汚層が設けられることにより、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減できるとともに、表面に付着した汚染物質の除去が容易となる。
【0067】
反射防止層5の反射防止特性を維持するために、防汚層7は、反射防止層5の最表面の低屈折率層54との屈折率差が小さいことが好ましい。防汚層7の屈折率は、1.6以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。
【0068】
防汚層7の材料としては、フッ素含有化合物が好ましい。フッ素含有化合物は、防汚性を付与するとともに、低屈折率化にも寄与し得る。中でも、撥水性に優れ、高い防汚性を発揮できることから、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するフッ素系ポリマーが好ましい。防汚性を高める観点から、剛直に並列可能な主鎖構造を有するパーフルオロポリエーテルが特に好ましい。パーフルオロポリエーテルの主鎖骨格の構造単位としては、炭素数1~4の分枝を有していてもよいパーフルオロアルキレンオキシドが好ましく、例えば、パーフルオロメチレンオキシド、(-CF2O-)、パーフルオロエチレンオキシド(-CF2CF2O-)、パーフルオロプロピレンオキシド(-CF2CF2CF2O-)、パーフルオロイソプロピレンオキシド(-CF(CF3)CF2O-)等が挙げられる。
【0069】
防汚層は、リバースコート法、ダイコート法、グラビアコート法等のウエット法や、真空蒸着法、CVD法等のドライ法により形成できる。防汚層の厚みは、通常、2~50nm程度である。防汚層7の厚みが大きいほど、防汚性が向上する傾向がある。また、防汚層7の厚みが大きいほど摩耗による防汚特定の低下が抑制される傾向がある。防汚層の厚みは、3nm以上が好ましく、5nm以上または7nm以上であってもよい。一方、防汚層の表面に、ハードコート層表面の凹凸形状を反映した表面形状を形成し、防眩性を高める観点から、防汚層の厚みは30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、15nm以下であってもよい。
【0070】
汚染防止性および汚染物質の除去性を高めるために、防汚層7の水接触角は100°以上が好ましく、102°以上がより好ましく、105°以上がさらに好ましい。水接触角が大きいほど撥水性が高く、汚染物質の付着防止効果や汚染物質除去性が向上する傾向がある。水接触角は、一般には125°以下である。
【0071】
<反射防止フィルムの表面形状>
反射防止フィルムの表面、すなわち防汚層7の表面の1μm×1μmの領域の三次元表面性状から算出される算術平均高さSaは、2.0nm以上が好ましい。防汚層7の表面の算術平均高さSaは、2.3nm以上がより好ましく、2.5nm以上がさらに好ましく、2.7nm以上、2.9nm以上または3.0nm以上であってもよい。防汚層7の表面の算術平均高さSaは、10nm以下が好ましく、8.0nm以下がより好ましく、7.0nm以下がさらに好ましく、6.0nm以下、5.5nm以下、5.0nm以下または4.5nm以下であってもよい。
【0072】
ハードコート層11上に形成される反射防止層5および防汚層7は厚みが小さいため、防汚層7の表面には、ハードコート層11の表面形状を反映した凹凸形状が形成されやすい。そのため、ハードコート層11に含まれる粒子の粒子径や配合量等を調整して、ハードコート層の表面形状を調整することにより、上記のSaを有する反射防止フィルムが得られる。また、ハードコート層11に真空プラズマ処理等の表面処理を施すことにより表面形状を調整してもよい。
【0073】
防汚層7の表面の算術平均高さSaが上記範囲である場合は、ハードコート層11の表面も同等のSaを有するため、反射防止フィルムは、ハードコート層11と反射防止層5および防汚層7との密着性に優れる。
【0074】
防汚層7の表面の測定長12mmの粗さ曲線から算出される凹凸の平均間隔RSmは、120μm以上が好ましい。防汚層7の表面のRSmは、130μm以上がより好ましく、140μm以上または150μm以上であってもよい。反射防止フィルムの表面のRSmが上記範囲であることにより、黒表示時の反射光の白ボケが少なく、明所コントラストに優れる表示を実現できる。防汚層7の表面の凹凸の平均間隔RSmは、250μm以下が好ましく、220μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましく、180μm以下または170μm以下であってもよい。
【0075】
防汚層7の表面の測定長12mmの粗さ曲線から算出される算術平均粗さRaは、30~500nmが好ましく、50~400nmがより好ましく、60~300nmがさらに好ましく、70~250nmまたは80~200nmであってもよい。反射防止フィルムの表面のRaが上記範囲であることにより、防眩性に優れる傾向がある。
【0076】
防汚層7の表面には、ハードコート層11の表面形状を反映した凹凸形状が形成されやすいため、ハードコート層11に含まれる粒子の粒子径や配合量等を調整して、ハードコート層の表面形状を調整することにより、上記のRSmおよびRaを有する反射防止フィルムが得られる。
【0077】
[反射防止フィルムの使用形態]
反射防止フィルムは、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の表面に配置して用いられる。例えば、液晶セルや有機ELセル等の画像表示媒体を含むパネルの視認側表面に反射防止フィルムを配置することにより、外光の反射を低減して、画像表示装置の視認性を向上できる。
【0078】
反射防止フィルムは、そのまま画像表示装置の表面に貼り合わせて用いてもよく、他のフィルムと積層してもよい。例えば、透明フィルム基材10のハードコート層非形成面に偏光子を貼り合わせることにより、反射防止層付き偏光板を形成できる。
【0079】
表面の算術平均高さSaおよび凹凸の平均間隔RSmが上記範囲である反射防止フィルムは、反射光の白ボケが生じ難く、優れた視認性を有し、かつ、ハードコート層11と反射防止層5および防汚層7との密着性に優れている。当該反射防止フィルムを備える画像表示装置は、明所コントラストが高く視認性に優れるとともに、反射防止層および防汚層の剥離や摩耗が生じ難く、デバイスを長期使用した場合でも、優れた視認性および防汚性が継続する。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
<防眩性ハードコートフィルムの作製>
(ハードコート組成物の調製)
ウレタンアクリレート系の光硬化型樹脂組成物(荒川化学工業製「ビームセット577」)に、樹脂成分100重量部に対するシリカ粒子の量が40重量部となるように、平均一次粒子径が40nmのコロイダルシリカ(ナノシリカ)の60重量%分散液を添加した。この溶液の固形分100重量部に、シリコーン粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製「トスパール130」、平均粒子径3.0μm、屈折率1.43、真比重1.32)5.0重量部;チクソトロピー剤として有機化スメクタイト(クニミネ工業製「スメクトンSAN」)2.0重量部;光重合開始剤(IGM Resins製「OMNIRAD907」)3.0重量部;ならびにシリコーン系レベリング剤(共栄社化学製「ポリフロー LE303」)0.15重量部を混合し、酢酸エチルで希釈して、固形分濃度30重量%のハードコート組成物を調製した。
【0082】
<ハードコート層の形成>
上記のハードコート組成物を、厚み60μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム製「フジタック TG60UL」)に、コンマコーター(登録商標)を用いて塗布し、60℃で1分間加熱した。その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm2の紫外線を照射し、塗布層を硬化させて、厚み6.0μmの防眩性ハードコート層を形成した。
【0083】
<プライマー層および反射防止層の形成>
ハードコート層が形成されたトリアセチルセルロースフィルムを、ロールトゥーロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、フィルムを走行させながら、ハードコート層の表面にボンバード処理(Arガスによるプラズマ処理)を行った後、プライマー層として、1.5nmのITO層を成膜し、その上に、10.1nmのNb2O5層、27.5nmのSiO2層、105.0nmのNb2O5層および83.5nmのSiO2層を順に成膜した。プライマー層およびSiO2層の成膜にはSiターゲット、Nb2O5層の成膜にはNbターゲットを用いた。SiO2層の成膜およびNb2O5層の成膜においては、プラズマ発光モニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように導入する酸素量を調整した。
【0084】
<防汚層の形成>
パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン化合物を含む固形分濃度20%の防汚コーティング剤(信越化学工業製「KY1903-1」)を乾燥して固化したものを蒸着源として、加熱温度260℃で真空蒸着法により、反射防止層上に厚み8nmの防汚層を形成した。
【0085】
[実施例2、比較例1~5]
ハードコート組成物の調製において、マイクロ粒子の種類および配合量、ならびにシリカ粒子の粒子径および配合量を表1に示す様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、防眩性ハードコートフィルムの作製、プライマー層および反射防止層の形成ならびに防汚層の形成を行った。比較例2では、マイクロ粒子として、架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(積水化成品工業製「テクノポリマー SSX-103」;平均粒子径3.0μm、屈折率1.50、比重1.20)を用いた。比較例3~5では、マイクロ粒子として、シリコーン粒子と架橋PMMA粒子を併用した。
【0086】
[評価]
<表面形状の測定>
反射防止フィルムのトリアセチルセルロースフィルム側の面(反射防止層非形成面)に、厚み20μmのアクリル系粘着剤を介して、厚み1.3mmのスライドガラス(MATSUNAMI製「MICRO SLIDE GLASS」45×50mm)を貼り合わせて測定用試料を作製した。
【0087】
先端部(ダイヤモンド)の曲率半径R=2μmの測定針を有する触針式表面粗さ測定器(小阪研究所製 高精度微細形状測定器「サーフコーダET4000」)を用い、下記の条件により防汚層表面の粗さ曲線を測定し、JIS B0601:2001に準拠して、算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素の平均長さRSmを求めた。
走査速度:0.1mm/秒
測定長:12mm
カットオフ値:0.8mm
【0088】
原子間力顕微鏡(Bruker製「Dimemsion3100」、コントローラ:NanoscopeV)を用い、下記の条件により防汚層表面の三次元表面性状を測定し、ISO 25178に準じて算術平均高さSaを求めた。
測定モード:タッピングモード
カンチレバー:Si単結晶
測定視野:1μm×1μm
【0089】
<反射視認性>
反射防止フィルムのトリアセチルセルロースフィルム側の面(反射防止層非形成面)に、厚み20μmのアクリル系粘着剤を介して、黒色アクリル板を貼り合わせた。この試料の反射防止フィルム側の面に、30cmの距離から、デスクライトの光を1000ルクスの照度で照射し、反射防止フィルムからの反射光を目視にて確認した。正反射光の周辺領域が黒色に視認されたもの(
図2の「実施例1」参照)を〇、全体が白くぼけて視認されたもの(
図2の「比較例2」参照)を×とした。
【0090】
<密着性>
反射防止フィルムのトリアセチルセルロースフィルム側の面(反射防止層非形成面)に、厚み25μmのアクリル系粘着剤を介して、厚み1.3mmのガラス板を貼り合わせ、岩崎電気製の耐候促進性試験機「アイスーパーUVテスター SUV-W161」に試料を投入し、ブラックパネル温度80℃、メタルハライドランプ照射強度150mW/cm2の条件で120時間の促進耐候試験を実施した。
【0091】
促進耐候試験後の試料の防汚層側の表面に1mm間隔で切り目を入れ、100マスの碁盤目を形成し、JIS K 5400 8.5:1990のクロスカット試験法(塗装の密着性試験)に準じて密着性試験を実施した。防汚層および反射防止層がマスの面積の1/4以上の領域ではく離している碁盤目の個数をカウントした。はく離碁盤目数が10マス以上の場合を×、9マス以下の場合を〇とした。
【0092】
[評価結果]
上記の実施例および比較例の反射防止フィルムのハードコート層の構成(ハードコート層の微粒子の種類およびバインダー樹脂100重量部に対する配合量)および反射防止フィルムの評価結果を表1に示す。実施例1および比較例2の反射防止フィルムの反射光の観察写真を
図2に示す。
【0093】
【0094】
マイクロ粒子として5重量部のシリコーン粒子を5重量部配合し、ナノ粒子として粒子径40nmのシリカ粒子を40重量部配合した実施例1は、ハードコート層と反射防止層および防汚層との密着性が高く、かつ反射光の白ボケがない良好な視認性を有していた。ナノシリカ粒子の配合量を30重量部に変更した実施例2も同様であった。ナノ粒子として粒子径10nmのシリカ粒子を40重量部配合した実施例1は、Saが小さく、ハードコート層と反射防止層および防汚層との密着性が不十分であった。
【0095】
マイクロ粒子として3重量部のシリコーン粒子と1重量部のPMMA粒子を配合し、ナノ粒子として粒子径40nmのシリカ粒子を20重量部配合した比較例4は、Saが小さく、比較例1と同様、密着性が不十分であった。ナノ粒子の量を10重量部に変更した比較例5では、比較例5よりもさらにSaが小さく、密着性が不十分であった。
【0096】
比較例1では、ナノ粒子の粒子径が小さく、比較例4,5ではナノ粒子の量が少ないために、ハードコート層の表面にナノスケールの凹凸が十分に形成されず、実施例1,2に比べて密着性が劣っていたと考えられる。
【0097】
マイクロ粒子としてPMMA粒子を15重量部配合し、ナノ粒子として粒子径40nmのシリカ粒子を40重量部配合した比較例2は、ハードコート層と反射防止層および防汚層との密着性は良好であったが、反射光に白ボケが観測され、実施例1,2に比べて視認性に劣っていた。比較例2では、マイクロ粒子の量が多いために、ハードコート層におけるマイクロ粒子の面内密度が高く、凹凸の平均間隔RSmが小さいことが、反射光の白ボケの要因であると考えられる。
【0098】
マイクロ粒子として3重量部のシリコーン粒子と1重量部のPMMA粒子を配合した比較例3も、比較例2と同様、反射光に白ボケが観測された。比較例3も、比較例2と同様、RSmが小さいことが白ボケの要因であると考えられる。比較例3は、マイクロ粒子の配合が比較例4,5と同じであり、実施例1,2よりもマイクロ粒子の量が少ないにも関わらず、凹凸の平均間隔RSmが小さくなっていた。比較例3では、相対的に比重の小さいPMMA粒子がハードコート層の表面近傍に存在しやすく、ハードコート層の表面近傍において、PMMAのマイクロ粒子とナノシリカ粒子が密集しているために、RSmが小さくなったと考えられる。
【0099】
上記の実施例と比較例の対比から、ハードコート層に、マイクロ粒子とナノ粒子を併存させ、これらの粒子の種類、粒子径、配合量等を調整し、nmスケールの表面凹凸の指標であるSaを大きくするとともに、μmスケールの凹凸周期の指標であるRSmを大きくすることにより、ハードコート層と反射防止層および防汚層との密着性に優れ、かつ反射光の白ボケが少なく視認性に優れる反射防止フィルムが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1 ハードコートフィルム
10 透明フィルム基材
11 ハードコート層
3 プライマー層
5 反射防止層
51,53 高屈折率層
52,54 低屈折率層
7 防汚層
101 反射防止フィルム
【要約】 (修正有)
【課題】ハードコート層と反射防止層との密着性が高く、高い防眩性を発揮するとともに、黒表示時の反射光の白ボケが少なく良好な視認性を有する反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】反射防止フィルム101は、透明フィルム基材10の一主面上にハードコート層11を備えるハードコートフィルム1のハードコート層11上に、順に設けられた反射防止層5および防汚層7を備える。ハードコート層は、バインダー樹脂、平均一次粒子径が1~8μmであるマイクロ粒子、および平均一次粒子径が100nm以下であるナノ粒子を含む。反射防止層は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる。反射防止フィルムは、測定長12mmの粗さ曲線から求めた凹凸の平均間隔RSmが120μm以上であり、1μm×1μmの領域の三次元表面性状から求めた算術平均高さSaが、2.0nm以上である。
【選択図】
図1