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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】瘻孔を治療する方法及び材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240705BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240705BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240705BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240705BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P1/00
A61P43/00 105
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
A61K47/34
A61K35/19
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023075932
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2019551614の分割
【原出願日】2018-03-21
(65)【公開番号】P2023099162
(43)【公開日】2023-07-11
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】62/474,483
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーツ,アラン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】フォービアン,ウィリアム エー.
(72)【発明者】
【氏名】ドゾイス,エリック ジェイ.
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516395(JP,A)
【文献】国際公開第2014/63022(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/196774(WO,A1)
【文献】Stem Cells Translational Medicine, 2016, Vol.5, pp.1375-1379
【文献】"Stem Cell Fistula Plug in Perianal Crohn's Desease", [online], 2016.03.10,,[2022.01.17検索], インターネット<https://web.archive.org/web/20160310040347/http://www.mayo.edu:80/research/clinical-trials/cls-20112464>
【文献】Colorectal disease, 2015, Vol.18, pp.37-44
【文献】Dis. Colon Rctum, 2005, Vol.48, pp.1416-1423
【文献】Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 2016, Vol.13, No.10, p.560
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘻孔を治療するためのインプラントを製造する方法であって、
ランダムに配置されたポリマー繊維を含む高度に多孔性の足場を間葉系幹細胞と接触させること、及び
間葉系幹細胞及び高度に多孔性の足場を少なくとも3日間一緒にインキュベートすること
を含み、
前記ランダムに配置されたポリマー繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含み、
I型、III型、V型及び/又はVI型コラーゲンを含む細胞外マトリックスが、インキュベーション間に、間葉系幹細胞により、高度に多孔性の足場のランダムに配置されたポリマー繊維間に分泌される、方法。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が脂肪由来の間葉系幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インキュベートすることが3日間を超えて行われる、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記インキュベートすることが約3日間から約10日間行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記インキュベートすることが約4日間から約6日間行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約60から約70パーセントである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約67パーセントである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約30から約40パーセントである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約33パーセントである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記容器の中で前記足場を血小板由来物材料と接触させることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
インキュベーション後、間葉系幹細胞は、前記ランダムに配置されたポリマー繊維の非存在下で培養した同等の間葉系幹細胞よりも多くの線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)ポリペプチド、エオタキシンポリペプチド、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)ポリペプチド、増殖調節タンパク質(GRO)ポリペプチド及びインターロイキン10(IL-10)ポリペプチドを発現し、前記間葉系幹細胞は前記同等の間葉系幹細胞よりも少ないフラクタルキンポリペプチドを発現する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
インキュベーション後、前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より多くの単球走化性タンパク質3(MCP-3)ポリペプチドを発現する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
インキュベーション後、前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より少ないインターロイキン12(IL-12)p40ポリペプチドを発現する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
インキュベーション後、前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より多いインターロイキン12(IL-12)p70ポリペプチドを発現する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2017年3月21日に出願の米国特許出願第62/474,483号への優先権を主張する。先願出願の開示は本出願の開示の一部とみなされ、その全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
1.技術分野
この文書は、医療デバイス、特に瘻孔(例えば、難治性の痔瘻及び難治性の気管支胸腔瘻孔などの難治性の瘻孔)を治療するデバイス、システム及び方法に一般的に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景情報
未解決の治癒は、医療における重要な問題である。治癒の失敗は、潰瘍(環境に開放された創傷)及び膿瘍につながることがある。膿瘍は、感染した解剖学的窩洞である。瘻孔は、2つの中空の器官の間、又は中空の器官と皮膚の表面の間を走るトンネルによって特徴付けられるタイプの膿瘍窩である。例えば、痔瘻は、直腸と肛門周囲の皮膚の間で発生する感染したトンネルである。一部の痔瘻は、皮膚まで拡散する肛門腺の感染の結果である。クローン病などの炎症性腸疾患も、消化管を巻き込む瘻孔の形成にかなり寄与する。痔瘻のための治療モダリティーは、瘻孔の位置及び複雑性に依存する。瘻孔処置法の一般的な目標は、完全な瘻孔閉鎖を達成すること、再発を予防すること、及び便失禁につながることがある括約筋の損傷を回避することである。膿瘍のできた窩洞を治癒することは、かなりの難問である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
この文書は、瘻孔(例えば、痔瘻、潜在性腺瘻孔、気管支胸腔瘻孔、直腸膣瘻孔、並びに難治性の瘻孔、例えば難治性の痔瘻、難治性の潜在性腺瘻孔、難治性の気管支胸腔瘻孔及び難治性の直腸膣瘻孔)を治療するための方法及び材料を提供する。例えば、この文書は、ポリグリコール酸(PGA)及び炭酸トリメチレン(TMC)のポリマーを含むランダムに配置された繊維を含み、ランダムに配置された繊維の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の(adipose derived)間葉系幹細胞)を播種した合成足場(例えば、瘻孔プラグ)を、哺乳動物(例えば、ヒト)の瘻孔(例えば、難治性の痔瘻)に植え込むための方法及び材料を提供する。そのような合成足場の1つの例は、ランダムに配置された繊維の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種したGORE(登録商標) BIO-A(登録商標)Fistula Plugである。
【0005】
瘻孔を治療するための多くの異なる合成材料及び多くの異なる天然の生物学的材料の開発にもかかわらず、瘻孔、特に難治性の痔瘻などの難治性の瘻孔の良好な治療を向上させる能力は、臨床医及び患者にとって重要な要求のままである。本明細書に記載されるように、多くの異なる合成材料及び天然の生物学的材料を得、脂肪由来の間葉系幹細胞を播種した。これらの組合せの各々をin vitroで調査し、難治性の痔瘻を首尾よく治療する能力について、主候補マトリックスをin vivoでさらに研究した。本明細書に記載される脂肪由来の間葉系幹細胞を播種した試験材料のほとんどは、in vitroで調査したときに劣った細胞播種をもたらした。しかし、本明細書に記載した通りに播種したときの1つの材料は、全ての他の試験材料より有意に勝り、in vitroで調査したときに予想外に高いレベルの細胞播種及び増殖、並びに12例の前の難治性の痔瘻のうちの10例で非常に有効な完全治癒をもたらした。その材料は、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を含む合成足場である、GORE(登録商標)BIO-A(登録商標)Fistula Plugであった。GORE(登録商標)BIO-A(登録商標)Fistula Plugの製造業者は、浸すか又は広げるなどのような作動の準備なしで、使用するのが容易であるとそれを記載する(GORE(登録商標)BIO-A(登録商標)Fistula Plug、Frequently Asked Questions、2010年9月)。
【0006】
将来の瘻孔の再発なしで難治性の瘻孔(例えば、難治性の痔瘻)の80パーセント超を首尾よく治療するために使用することができるインプラントを製造するために、材料を選択し、次にその選択した材料を本明細書に記載される脂肪由来の間葉系幹細胞で播種することができることは、これらの重大な医学的状態のための長く待たれていた治療オプションを臨床医及び患者に提供する。
【0007】
この文書は、創傷(例えば、非治癒創傷又は膿瘍)を治療する方法及び材料も提供する。例えば、この文書は、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維を含み、繊維の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種した合成足場を、哺乳動物(例えば、ヒト)の創傷に適用する方法及び材料を提供する。一部の場合には、本明細書で提供される合成足場は、創傷(例えば、非治癒創傷又は膿瘍)を治療するために使用することができる。
【0008】
一般に、この文書の1つの態様は、哺乳動物における瘻孔を治療する方法を特徴とする。本方法は、瘻孔に足場を植え込むことを含み(又は、それから実質的になる若しくはそれからなる)、足場は繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)及び繊維の間に位置する間葉系幹細胞を含み、繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含む。哺乳動物は、ヒトであってよい。瘻孔は、痔瘻であってよい。瘻孔は、難治性の痔瘻であってよい。瘻孔の最大直径は、25mm未満であってよい。間葉系幹細胞は、脂肪由来の間葉系幹細胞であってよい。ポリグリコール酸は、繊維の約60~約70パーセントであってよい。ポリグリコール酸は、繊維の約67パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約30~約40パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約33パーセントであってよい。足場は、血小板由来物(platelet derivative)材料を含むことができる。
【0009】
別の態様では、この文書は、瘻孔を治療するためのインプラントを製造する方法を特徴とする。本方法は、繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)を含む足場をポリプロピレン容器の中で間葉系幹細胞と接触させることを含み(又は、それから実質的になる若しくはそれからなる)、繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含む。間葉系幹細胞は、脂肪由来の間葉系幹細胞であってよい。ポリプロピレン容器の中で接触させることは、3日間を超えて行うことができる。ポリプロピレン容器の中で接触させることは、約3日間から約10日間行うことができる。ポリプロピレン容器の中で接触させることは、約4日間から約6日間行うことができる。ポリグリコール酸は、繊維の約60~約70パーセントであってよい。ポリグリコール酸は、繊維の約67パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約30~約40パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約33パーセントであってよい。本方法は、容器の中で足場を血小板由来物材料と接触させることを含むことができる。
【0010】
別の態様では、この文書は、繊維及び繊維の間に位置する間葉系幹細胞を含む(又は、それから実質的になる若しくはそれからなる)足場を特徴とし、繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含み(又は、それから実質的になる若しくはそれからなる)、間葉系幹細胞は、繊維の非存在下で培養した同等の間葉系幹細胞よりも多くの線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)ポリペプチド、エオタキシンポリペプチド、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)ポリペプチド、増殖調節タンパク質(GRO)ポリペプチド及びインターロイキン10(IL-10)ポリペプチドを発現し、間葉系幹細胞は同等の間葉系幹細胞よりも少ないフラクタルキンポリペプチドを発現する。間葉系幹細胞は、脂肪由来の間葉系幹細胞であってよい。ポリグリコール酸は、繊維の約60~約70パーセントであってよい。ポリグリコール酸は、繊維の約67パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約30~約40パーセントであってよい。炭酸トリメチレンは、繊維の約33パーセントであってよい。足場は、血小板由来物材料を含むことができる。繊維は、ランダムに配置された繊維であってよい。間葉系幹細胞は、同等の間葉系幹細胞より多くの単球走化性タンパク質3(MCP-3)ポリペプチドを発現することができる。間葉系幹細胞は、同等の間葉系幹細胞よりも少ないインターロイキン12(IL-12)p40ポリペプチドを発現することができる。間葉系幹細胞は、同等の間葉系幹細胞より多くのインターロイキン12(IL-12)p70ポリペプチドを発現することができる。
【0011】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学用語は、この発明が関係する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるそれらに類似するか同等である方法及び材料を使用して、本発明を実施することができ、以下に適する方法及び材料を記載する。本明細書で指摘される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。相反する場合には、定義を含めた本明細書が優先される。さらに、材料、方法及び実施例は例示されるだけであり、限定するものではない。
【0012】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、付随図及び下の記載に示される。本発明の他の特徴、目的及び利点は、記載及び図、及び請求項から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各種の痔瘻を示す解剖学的模式図である。
図2】瘻孔の治療のための固体マトリックス足場デバイスの例の図示である。
図3】本明細書で提供される足場を作製し、植え込むために使用することができる例示的なステップのフローチャートである。
図4】足場に脂肪由来の間葉系幹細胞を播種するための培養システムの写真である。
図5】足場に脂肪由来の間葉系幹細胞を播種した後の時間に対して培地のpHをプロットしたグラフである。「B」は、生物製剤を表す。対照は、付着するための足場のない浮遊する脂肪由来の間葉系幹細胞である。
図6】足場に脂肪由来の間葉系幹細胞を播種した後の時間に対して培地のpHをプロットしたグラフである。「S」は、合成を表す。対照は、付着するための足場のない浮遊する脂肪由来の間葉系幹細胞である。
図7】示した足場材料のための72時間後の足場における細胞数をプロットしたグラフである。「B」は、生物製剤を表し、「S」は、合成を表す。対照は、付着するための足場のない浮遊する脂肪由来の間葉系幹細胞である。水平の破線は、各材料の上にゼロ時に播種された細胞数である(すなわち、250,000個)。播種の72時間後に足場を収集し、各足場における細胞数を判定するために定量DNA分析を実行した。
図8】示した足場に播種された細胞に由来するVEGFのシグナル強度をプロットしたグラフである。
図9】示した足場に播種された細胞に由来するMIP-1aのシグナル強度をプロットしたグラフである。
図10】示した足場に播種された細胞に由来するMCP-1のシグナル強度をプロットしたグラフである。
図11】示した足場に播種された細胞に由来するEGFのシグナル強度をプロットしたグラフである。
図12】MSC結合マトリックスによる治療後の瘻孔形成疾患の臨床的改善を示す図である。模範的試験患者における治療前後(プラグ設置の7カ月後)の画像化(A)。矢印は、治療前及び治療の6カ月後の39才の女性のクローン病患者におけるMR画像化時の串線(seton)がある括約筋間瘻孔、並びにプラグ設置時(上の列)及び経過観察MRIの時の肛囲検査からの画像を示す。(B)Van Aascheスケール、管長及び瘻孔直径の変化の累積結果。P値は、プラグ設置の前及び6カ月後の対応があるt検定を表す。瘻孔直径については、上のP値は試料の全てを表し、下のP値は開始時直径20mm未満の11試料に関するものである。
図13A】ヒト間葉性間質性細胞をポリグリコール酸炭酸トリメチレンマトリックスに結合した後の変更された及び一貫した遺伝子発現変化を示す図である。瘻孔を形成したクローン病の患者からのヒト脂肪6試料を使用して、間葉性間質性細胞を増大させた。細胞を増大させ、直接的に使用したか又はポリグリコール酸炭酸トリメチレンベースの人工マトリックスに結合させた。(A)RNA-SEQデータからの代表的遺伝子の発現値。
図13B】ヒト間葉性間質性細胞をポリグリコール酸炭酸トリメチレンマトリックスに結合した後の変更された及び一貫した遺伝子発現変化を示す図である。瘻孔を形成したクローン病の患者からのヒト脂肪6試料を使用して、間葉性間質性細胞を増大させた。細胞を増大させ、直接的に使用したか又はポリグリコール酸炭酸トリメチレンベースの人工マトリックスに結合させた。(B)マトリックスに付着した後の細胞の遷移に関連した変化を同定するために使用することができる代表的遺伝子。
図14】マトリックスに結合したMSCは、増殖及び細胞周期を低減し、分泌タンパク質を維持し、マトリックス遺伝子発現プロファイルを増加させることを示す図である。マトリックスの上で培養したMSCに対するMSCにおける上位25個の最も高い差別的に発現された遺伝子(A)、及びマトリックスに接着した後の最も高い差別的発現を有する遺伝子(B)。同定された遺伝子の分布及び性質は、マトリックス上の細胞が増殖後の状態に到達したようであること、及びタンパク質合成機構マトリックス発現のために必要とされる遺伝子の発現の増加を示すことを示唆する。後者は、コラーゲンに富む細胞外マトリックス(ECM)の生成を支持するタンパク質同化状態を促進する。本発明者らのmRNA分析に基づき、このECMは、存在度の順で、それぞれI、III、VI及びV型コラーゲンで構成されると予測される。
図15】クローン病患者における瘻孔形成疾患の治療のためのMSC結合瘻孔プラグの調製及び特徴付けを示す図である。MSCを単離し、調製するために、クローン病患者に由来する脂肪組織を使用した。患者(n=7)からの細胞は急速に増殖し、冷凍保存から回収され、マトリックスに高効率で結合した(A)。患者MSCの代表的表現型(B)。収集時の細胞形態及び投与前の調製細胞/マトリックス組合せの例(C)。(D)MSCへの結合後の生存可能細胞(緑色)の実証(左上、Syto13陽性臭化エチジウム陰性)、Goldnerのトリクローム染色(右上)並びに細胞結合の前(左下)及び後(右下)のマトリックスのSEMによって実証されたコラーゲン沈着。
図16A】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図16B】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図16C】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図16D】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図17A】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図17B】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図17C】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
図17D】培地において対照細胞と比較して示される、GORE合成足場又は他の合成材料の上に位置する細胞に由来するポリペプチド分析物の差別的分泌を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この文書は、瘻孔(例えば、難治性の痔瘻などの難治性の瘻孔)を治療するための方法及び材料を提供する。例えば、この文書は、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を含み、ランダムに配置された繊維の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種した合成足場(例えば、瘻孔プラグ)を、哺乳動物(例えば、ヒト)の瘻孔(例えば、難治性の痔瘻)に植え込むための方法及び材料を提供する。
【0015】
本明細書で提供される合成足場は、任意の適当な形及び寸法に設計又は成形される、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維を含むことができる。例えば、本明細書で提供される合成足場は、非治癒創傷又は瘻孔に適合する形及び寸法に設計又は成形することができる。適当な形の例には、限定されずに、パッチ、シート、チューブ、プラグ又はカラムが含まれる。一例では、創傷の表面にシートを適用することができる。別の例では、チューブ状構造に巻きつけるために又は内腔を支持するために、シートを巻いてチューブ様構造を形成することができる。一部の場合には、シート形態の合成足場は、気管支胸腔瘻を治療するために使用することができる。
【0016】
瘻孔は、2つの中空器官の間、又は中空器官と皮膚の表面の間のトンネルである。本明細書に記載されるように、任意の適当な瘻孔を治療することができる。例えば、本明細書に記載されるように、痔瘻、腸皮瘻、気管支胸腔瘻及び膀胱皮膚瘻を治療することができる。一部の場合には、本明細書で提供される方法及び材料は、難治性瘻孔を治療するために使用することができる。本明細書で用いるように、瘻孔に関して使用される用語「難治性」は、医学的及び外科的療法を含む現在の最良の診療にもかかわらず治癒しなかった瘻孔を指す。本明細書に記載される通りに治療することができる難治性の瘻孔の例には、限定されずに、難治性痔瘻及び難治性腸皮瘻が含まれる。
【0017】
図1は、ヒトの下部結腸領域10の解剖学的概略図を提供する。下部結腸領域10は、直腸20、肛門括約筋30及び皮膚表面40を含む。痔瘻50も示される。痔瘻のタイプは、それらの管の経路及びそれらがどれくらい括約筋に近いかに基づいて分類される。例えば、痔瘻50は括約筋貫通瘻孔である。しかし、本明細書で提供される模範的なデバイス、システム及び方法は、他のタイプの痔瘻及び瘻孔全般に適用可能であってよい。痔瘻50は、内部開口部60(直腸20における)、外部開口部70(皮膚表面40上の)及び瘻管80を含む。瘻管80は、内部開口部60を外部開口部70に接続するトンネルである。瘻管80は、膿瘍窩洞のタイプの例である。瘻管80は、本明細書で提供されるデバイス、システム及び方法によって治療することができる。他のタイプの瘻孔を、同様に治療することができる。
【0018】
図2は、図1の痔瘻50などの痔瘻を治療するための瘻孔修復デバイス200(例えば、瘻孔プラグ)の模範的実施形態を示す。瘻孔修復デバイス200は、組織増殖を支持するために固体マトリックス足場を提供する植込み可能な生体吸収性デバイスの例である。固体マトリックス足場を有する瘻孔修復デバイス200などのデバイスは、窩洞の組織再生及び治癒を促進するために瘻孔に植え込むことができる。例えば、体が固体マトリックス足場材料を徐々に吸収するにしたがって、細胞は固体マトリックス足場に移動することができ、組織を生成させることができる。
【0019】
瘻孔修復デバイス200などの本明細書で提供される合成足場(例えば、瘻孔プラグ)は、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を含むことができる。そのような合成足場を作製するために、PGA及びTMCの任意の適当な量を使用することができる。例えば、本明細書で提供される合成足場(例えば、瘻孔プラグ)は、約50パーセント~約80パーセント(約55パーセント~約80パーセント、約60パーセント~約80パーセント、約50パーセント~約70パーセント、又は約65パーセント~約70パーセント)のPGA、及び約20パーセント~約50パーセント(約25パーセント~約50パーセント、約30パーセント~約50パーセント、約20パーセント~約40パーセント又は約30パーセント~約35パーセント)のTMCを含むことができる。一部の場合には、本明細書で提供される合成足場(例えば、瘻孔プラグ)は、約67パーセントのPGA及び約33パーセントのTMCを含むことができる。本明細書に記載される通りに使用することができる合成足場の1つの例は、GORE(登録商標)BIO-A(登録商標)Fistula Plugである。
【0020】
本明細書に記載されるように、模範的瘻孔修復デバイス200などの固体マトリックス足場デバイスは、80パーセントを超える成功率で瘻孔(例えば、難治性痔瘻)を治療するために改善された植込み可能なデバイスを作製するために、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)で含浸させることができる。例えば、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を有する瘻孔修復デバイス200などの本明細書で提供される合成足場(例えば、瘻孔プラグ)は、ランダムに配置された繊維の間の空間に置かれる間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種することができる。
【0021】
一部の場合には、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)を含む合成足場は、繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含むように設計することができ、ここで、細胞は特異なポリペプチド発現プロファイルを有する。例えば、合成足場の細胞は、図13A若しくは図13Bに掲載されるポリペプチドの1つ以上(例えば、1~10、1~15、5~10、5~15、10~15、15~20、20~25、25~30又は30~35個)を、「ctrl」(対照)カラムと比較して「マトリックス」カラムの下で、図13A若しくは図13Bに示す様式で、又は、図16若しくは図17に掲載されるポリペプチドの1つ以上を、培地において対照細胞と比較してGORE合成足場の上に位置する細胞からの分析物の差別的分泌を実証した、図16若しくは図17に示す様式で、発現することができる。一部の場合には、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)を含む合成足場は、繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含むように設計することができ、ここで、細胞は、合成足場と接触していない対照の間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)のランダムな集合において観察されたものより多くのCD44、CD105/ENG、AKT1、CD140B/PDGFRB、GAPDH及び/又はCOL3A1ポリペプチド(及び/又はより少ないCD90/THY1、CD248、ACTB、ネスチン、CyclinB2、MKI67及び/又はHPRT1ポリペプチド)を発現する。一部の場合には、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)を含む合成足場は、繊維(例えば、ランダムに配置された繊維)の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含むように設計することができ、ここで、細胞は、合成足場と接触していない対照の間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)のランダムな集合において観察されたものより高いCOL1A1、COL1A2、VIM、CD140B/PDGFRB及び/又はCOL3A1のRNA発現(及び/又はより低いCD90/THY1、CD73、CD248、ACTB、ネスチン、CyclinB2、MKI67及び/又はHPRT1のRNA発現)を示す。一部の場合には、PGA及びTMCのポリマーを含む繊維を含む合成足場は、繊維の間の空間に位置する間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含むように設計することができ、ここで、細胞は以下のポリペプチドを合成足場の上にない対照細胞より高い速度で分泌した:FGF2、エオタキシン、G-CSG、GRO、IL-1ra及び/又はIL-10(及び/又はフラクタルキン又はsIL-2raの場合はより低い分泌速度で)。
【0022】
一部の場合には、本明細書に記載される植込み可能なデバイスを作製するために使用される間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)は、治療する哺乳動物(例えば、ヒト)に自家であってよい。例えば、脂肪組織試料は、治療する哺乳動物(例えば、ヒト)から得ることができる。その得られる脂肪組織試料は、他の場所に記載されている通りに処理することができ(Bartunekら、Cell Transplantation、20巻(6号):797~811頁(2011年)及びChenら、Transfusion、55巻(5号):1013~1020頁(2015年))、生じる材料は、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)の培養物を得るために培養で増大させることができる。一部の場合には、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)は、約3日から約30日(例えば、約3日から約25日、約3日から約15日、約5日から約30日、約10日から約30日、約5日から約21日、又は約8日から約15日)培養で増大させることができる。一部の場合には、自家細胞の代わりに同種又は異種の間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を使用することができる。
【0023】
PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を有する足場に間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種するために、任意の適当な方法を使用することができる。例えば、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を有する足場(例えば、GORE(登録商標)BIO-A(登録商標)Fistula Plug)は、ポリプロピレン製の又はポリプロピレンコーティングされた容器の中で、ある時間、適当な培地とともに適当な数の生存可能な間葉系幹細胞(例えば、生存可能な脂肪由来の間葉系幹細胞)と組み合わせることができる。ポリプロピレンコーティングされたチューブ、ポリプロピレンコーティングされた皿又はポリプロピレンコーティングされたプレートなどの、任意の適当なポリプロピレン製又はポリプロピレンコーティングされた容器を使用することができる。一般的に、足場に播種するために、足場材料の1cm2につき約50,000~約4,000,000(例えば、約100,000~約4,000,000、約200,000~約4,000,000、約250,000~約4,000,000、約200,000~約3,500,000、約200,000~約3,000,000、約200,000~約2,500,000又は約250,000~約3,000,000)個の生存可能な間葉系幹細胞(例えば、生存可能な脂肪由来の間葉系幹細胞)を使用することができる。本明細書に記載される足場を播種するために使用することができる培地の例には、限定されずに、aMEM、DMEM、RPMI、イーグルのMEM、ADSC、MSCGM及び専門のMSC培地増殖製品が含まれる。これらの培地は、PLTMax(登録商標)(Mill Creek Life Sciences、LLC;Rochester、MN)などのヒト血小板溶解物の由来物からなる培地補助剤を含んでも含まなくてもよい。一般に、播種工程は、約1日から約10日であってよい(例えば、約2日から約10日、約3日から約10日、約1日から約8日、約1日から約6日、約3日から約6日又は約4日から約6日)。足場に細胞を播種するために足場を間葉系幹細胞(例えば、生存可能な脂肪由来の間葉系幹細胞)と培養した後に、瘻孔を治療するために播種した足場を哺乳動物(例えば、ヒト)に植え込むことができる。
【0024】
一部の場合には、例えば適当な共有結合又は非共有結合を通して、1つ以上の治療剤を本明細書で提供される足場と組み合わせることができる。本明細書で提供される足場と組み合わせることができる治療剤の例には、限定されずに、PDGF、FGF又はVEGFなどの増殖因子、及びプールされたヒト血小板由来物又は血小板溶解物材料などの血小板材料が含まれる。治療剤を本明細書で提供される固体マトリックス足場に結合する工程は、一部の実施形態では、その後足場材料と組み合わせて足場材料に治療剤を吸収させることができる各種の溶液又は材料に治療剤を懸濁することによって実行することができる。一部の場合には、細胞播種工程の間に1つ以上の治療剤を足場材料に共有結合又は非共有結合させることができる。一部の場合には、瘻孔修復デバイス200などの足場は、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)だけを、又は間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)及び血小板溶解物材料を懸濁状態で含有する溶液に浸すことができる。
【0025】
図2に関しては、一般に、模範的な瘻孔修復デバイス200(例えば、瘻孔プラグデバイス)は、ディスク部分210及び複数の脚220を含むことができる。複数の脚220は、それらの近位端でディスク部分210に付着させることができ、遠位端230は付着せず、個々に遊離していてよい。複数の脚220は、様々なサイズの瘻管に適合するようにカスタマイズ可能である瘻孔修復デバイス200を提供することができる。すなわち、治療する特定の瘻管のサイズと相関させるために瘻孔修復デバイス200の断面サイズを低減するために、複数の脚220の1つ以上をディスク部分210から切り取ることができる。
【0026】
本明細書で提供される瘻孔修復デバイスの他の実施形態は、様々な異なる物理的構成を有することができる。例えば、一部の場合には、瘻孔修復デバイスは、伸長した円錐形状を有する単一の細長いエレメントであってよい。さらに、一部の場合には、瘻孔修復デバイスは、伸長した円柱形状を有する単一のエレメントであってよい。一部の実施形態では、瘻孔修復デバイスは、デバイスに沿って可変プロファイルを有することができる。一般に、瘻孔修復デバイスは窩洞を充てんするように、及び確実に植え込まれているように成形することができる。一部の場合には、本明細書で提供される瘻孔修復デバイスは、瘻孔の片方又は両方の末端に置かれるシートであってもよい。本明細書に記載されるように、瘻孔修復デバイスはPGA及びTMCの合成ポリマーから、又はそのような材料の複合構築物から作製することができる。
【0027】
間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)(及び/又は血小板溶解物材料)を播種した模範的な瘻孔修復デバイス200は、以下の一般的な例示的な工程によって瘻管に植え込むことができる。最初に、遠位端230を縫合することができる。適する引き寄せデバイスを、瘻管80全体を通して挿入することができる(図1も参照する)。治療する瘻孔の特定の解剖学的構造及びタイプによって、引き寄せデバイスは縫合糸、ガイドワイヤー、止血鉗子などであってよい。内部開口部60の引き寄せデバイスの末端は、瘻孔修復デバイス200の遠位端230に付着させることができる。例えば、縫合糸引き寄せデバイスの場合、縫合糸引き寄せデバイスは遠位端230に縫合すること及び/又は結び付けることができる。又は、止血鉗子引き寄せデバイスの場合、止血鉗子は遠位端230に留めることができる。次に、遠位端230を内部開口部60の方向に引くために、外部開口部70の引き寄せデバイスの他の末端を注意深く引き寄せることができる。遠位端230が内部開口部60に接近するにしたがって、内部開口部60を通して、遠位端230を瘻管80に注意深く誘導することができる。ディスク部分210が内部開口部60と同じ高さになるまで、瘻孔修復デバイス200を瘻孔50の中をずっと引き寄せることができる。ディスク部分210は、次に内部開口部60の所定の位置にそれを固定するために縫合することができるか、又は留めることができる。遠位端230が外部開口部70から突き出ているならば、それらは皮膚表面40と同じ高さに切り取ることができる。
【0028】
間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種した植え込まれた瘻孔修復デバイス200は、軟組織を修復し、それによって瘻孔の治癒及び閉鎖を促進するための足場を提供することができる。PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を含む足場を、ランダムに配置された繊維の間の空間に置かれる播種された間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)と組み合わせることは、PGA及びTMCのポリマー以外の材料から作製される他のデバイスと比較して、向上した瘻孔治療奏効を達成することができるデバイスをもたらすことができる。難治性痔瘻などの難治性瘻孔を治療する場合、その向上した瘻孔治療奏効は80パーセントを超えることができる。
【0029】
図3は、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含有する足場を含むシステムを使用して瘻孔を治療する模範的な工程300を示すフローチャートである。一般的に、模範的な工程300の技術は、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維及び間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を含む足場で瘻孔を充填することを含む。
【0030】
ステップ310では、PGA及びTMCのポリマーを含むランダムに配置された繊維を含む足場が得られる。足場は、GORE(登録商標) BIO-A(登録商標)Fistula Plugであってよい。ステップ320の前に、幹細胞を得ることができる。例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞は、治療する哺乳動物(例えば、ヒト)から得ることができる。ステップ320では、足場に細胞を播種するために、ステップ310で得られる足場を脂肪由来の幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)と接触させることができる。一部の場合には、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)は自家であってよく、すなわち、足場で治療する患者に由来してもよい。一部の場合には、間葉系幹細胞は、工程の管理を提供するための確立されたプロトコールによって、培養及び処理することを必要とすることがある。例えば、臨床使用のための間葉系幹細胞は、ウシ胎児血清などの補助剤、或いはヒト血小板由来物又はヒト血小板溶解物材料を含有する培地における、間葉系幹細胞のex vivoでの増大を必要とするかもしれない。ステップ320では、細胞を処理及び培養する技術を実行することができ、又は、細胞は別の方法で得ることができる。
【0031】
一部の場合には、足場に間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種するための溶液は、血小板由来物(例えば、ヒト血小板由来物)、血小板溶解物材料(例えば、ヒト血小板溶解物材料)、塩、緩衝液、増殖因子、細胞シグナル伝達剤又は小分子モジュレータを限定されずに含む構成成分を含む(細胞に加えて)ように、設計することができる。これらの場合、足場材料は溶液に浸すことができるか、又は別の適する技術を使用して溶液を吸収させることができる。
【0032】
一例では、血小板由来物(例えば、ヒト血小板由来物)又は血小板溶解物材料(例えば、ヒト血小板溶解物材料)を使用する場合、血小板由来物(例えば、ヒト血小板由来物)又は血小板溶解物材料(例えば、ヒト血小板溶解物材料)を含有する溶液に、約3分から約5日(例えば、約5分から約5日、約15分から約5日、約1時間から約5日、約3時間から約5日、約6時間から約5日、約18時間から約5日、約1日から約5日、約2日から約5日、約3日から約5日、又は約4日から約5日)の時間範囲の間、足場材料を浸すことができる。一部の場合には、約3分から約4日(例えば、約3分から約3日、約3分から約2日、約3分から約1日、約3分から約12時間、約3分から約6時間、約3分から約4時間、又は約3分から約2時間)の時間範囲を使用することができ、又は約1時間から約3日(例えば、約2時間から約2日、約2時間から約1日、又は約1日から約3日)の時間範囲を使用することができる。
【0033】
浸すステップは、任意の適当な温度で実行することができる。一例では、浸すステップは、約2℃から約45℃(例えば、約10℃から約40℃、約20℃から約37℃、又は約30℃から約40℃)の温度範囲で実行することができる。別の例では、浸すステップは、約18℃から約26℃(例えば、約20℃から約24℃又は約21℃から約23℃)の温度範囲で実行することができる。別の例では、浸すステップは、約30℃から約44℃(例えば、約33℃から約41℃又は約36℃から約38℃)の温度範囲で実行することができる。別の例では、浸すステップは、約1℃から約7℃(例えば、約3℃から約5℃)の温度範囲で実行することができる。
【0034】
別の例では、固体マトリックス足場材料は、溶液(例えば、血小板溶解物材料を含有する溶液)に約37℃で約24時間浸すことができる。
【0035】
ステップ330では、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来の間葉系幹細胞)を播種した固体マトリックス足場が、治療される瘻孔(例えば、難治性痔瘻などの難治性瘻孔)に植え込まれる。システムが瘻孔内の所定の位置にあると、固体マトリックス足場は、瘻孔の組織増殖及び治癒を促進することができる。
【0036】
本発明は以下の実施例においてさらに記載されるが、それらは請求項に記載される本発明の範囲を限定しない。
【実施例
【0037】
[実施例1]
足場の調査
FDAによって承認された10個の材料を市販されているマトリックスから選択し、in vitroで試験した:FlexHD(生物製剤;脱細胞化ヒト真皮;Musculoskeletal Transplant Foundation)、PuraCol(生物製剤;精製された1型ウシ腱コラーゲン;Medline Industries Inc.)、EZ Derm(生物製剤;アルデヒド架橋脱細胞化ブタ真皮;Molnlycke Inc.)、Cook SIS(生物製剤)、Gore Bio-A(合成)、Osteopore(合成;3D印刷ポリカルポラクトン;Osteopore International Pte Ltd.)、Gore TRM(合成)、Tepha-P4HB(合成;ポリ-4ヒドロキシブチレート;細菌バイオプラスチック;Tepha Corporation)、TIGRマトリックス(合成;ポリグリコール酸、ポリ乳酸及び炭酸トリメチレンのメッシュ;Novus Scientific)、及びVicryl 910(合成;PLGA;Ethicon Inc.)
【0038】
Gore Bio-Aプラグは、PGA:TMCのポリマーから作製されたエレクトロスパン合成プラグであった(図15D、左下のSEM)。プラグは高度に多孔性であり、繊維はランダムに整列する。Gore TRMは、PGA:TMCのポリマーから作製されたエレクトロスパン合成シートであった。構造的に、この材料は、繊維がGoreプラグよりも高密度に詰め込まれている。それは、さらにプラグよりかなり厚く、腹部補強のために臨床的に使用される。Tepha P4HBは、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)から作製されるプラスチックメッシュである。繊維は、編み合わされて大きな孔を形成する。P4HBは、数カ月で生体に吸収される。本来、細菌に由来するこのプラスチックは、生分解性クレジットカードに使用されるためのものであったが、この材料はその特性のために医療用として別の用途に用いられることになった。それは、Gore TRMに類似の補強適用のために臨床的に使用される。Osteoporeは、ポリカルポラクトン(PCL)から作製された3D印刷足場であり、関節/軟骨修復のために主に使用される。TIGRマトリックスは、PGA、ポリ乳酸(PLA)及びTMCの組合せから作製される腹部補強メッシュである。これらの材料は編み合わされて、マクロポーラスメッシュを形成する。より薄い繊維は数週で溶解し、より厚い繊維はin vivoにおいて何カ月もかけて溶解する。Vicryl 910は、グリコール酸-co-乳酸(PLGA)から作製される腹部補強メッシュである。この材料は、補強のために広く使用される。Vicryl-910は織られており、Tepha-P4HB、Osteopore及びTIGRマトリックスと比較してかなりより小さい孔径を有する。PLGAは、in vivoにおいて数週から数カ月の間に加水分解によって吸収される。
【0039】
各材料の8つの1cm×1cmの足場を、250,000個の脂肪由来の間葉系幹細胞及び培地(5%血小板溶解物を含有するa-MEM)を有する15ccのポリエチレン培養試験管に加えた。足場はインキュベーターの中で72時間自由に浮動し、回転し、活発な細胞播種を可能にした(図4)。培地、足場細胞接着及び接着後細胞サイトカイン放出に及ぼす足場の作用に基づいて、動物モデルにおいて使用すべき最高性能のマトリックスを決定するために、データを収集した。
【0040】
培地pHにおいて多少の差が観察された(図5及び6)。Gore TRM、PuraCol及びFlexHDは、脂肪由来の間葉系幹細胞の多少の有効な播種を示したが、Gore BioAプラグは、脂肪由来の間葉系幹細胞のかなりの播種及び増殖を示した(図7)。実際、脂肪由来の間葉系幹細胞の出発量(すなわち、250,000個)より約5倍多くの生存可能な細胞がGore BioAプラグの中に存在した。FlexHD、Gore TRM及びTepha P4HB足場からの細胞は、強力な血管新生ケモカイン放出作用を示した(図8~11)。
【0041】
[実施例2]
マトリックスプラグの上の幹細胞はクローン病関連の肛門周囲瘻孔を治癒させる
製品製造及び治験登録
医学療法にもかかわらず少なくとも3カ月の間単一の排膿瘻孔を有する、磁気共鳴(MR)評価に禁忌でない、年齢18~65歳のクローン病患者、及び抗TNF療法を含む標準療法に失敗した患者が、資格を満たした。MSC収集から6カ月以内の臨床的に重要な共存症、がんの病歴、肝炎又はHIVを有していたか、又は妊娠中若しくは授乳中であった場合、患者は除外された。全ての患者でインフォームドコンセントが得られた。
【0042】
患者は、ベースライン一般検診、並びに差別的完全血球算定(CBC)、C反応性タンパク質(CRP)、赤血球沈降速度(ESR)及び電解質を含む血清学的試験を受けた。瘻管及び構造を確認するために、存在する場合敗血を排液させるために、並びに串線を設置するために、患者は麻酔(EUA)下の検査の予定が組まれた。この手術の時に、無菌条件下で採集された脂肪組織の最大4グラムを得るために、腹壁に2cmの横切開を形成した。マトリックスを収集して詰めるのに十分な細胞を得た後、細胞を低温保存し、表現型(CD44、CD73、CD105、クラスI、CD14、CD45及びクラスII)、マイコプラズマ、培養無菌性(好気的及び嫌気的)及び細胞遺伝学的分析からなる放出試験のために試料を使用した(図15A~B)。患者がプラグ設置のために予定に組まれた場合、放出基準を満たしたMSCを解凍し、ポリプロピレンでコーティングされたバイオリアクターの中のGore(登録商標)Bio-A(登録商標) Fistula Plug存在下での培養に3~6日間戻した。解凍後の生存度は、トリパンブルー排除を使用して計算した。プラグへの細胞投与の後の細胞保持は、上清の試料を除去し、細胞を数え、培地の量を掛け算し、次にバイオリアクターに送達された細胞の百分率で表すことによって計算した(図15A)。
【0043】
患者への投与の前に、細胞/プラグの組合せをインキュベートするために使用した培地をグラム染色で評価し、試料をさらなる無菌試験に送った。プラグを洗浄して未結合の細胞及び培地を除去し、その後、投与のための送達まで乳酸加リンガーに維持した。
【0044】
患者は、MSC収集の概ね6週後に、幹細胞を詰めたプラグ(MSC-MATRIX)の術中設置を受けた。手術は、以前に設置した串線の除去、瘻管の掻爬及びMSC-MATRIX瘻孔プラグの設置を含んだ。プラグを管に通し、4~6本の縫合糸を使用して内部開口部に固定した。十分な排膿を可能にするために、外部開口部を適切に広げた。病院から退院する前に急性の有害事象について患者を6時間観察し、次の日、クリニックで再び診た。以降の診察は、MSC-MATRIX設置の2週後、並びに1、2、3及び6カ月後に行われ、その時に、(a)瘻管の開口部を調査するために、及び(b)深部の触診で瘻管からのいかなる液も明白にしようとするために、臨床検査を実行した。手術の前と3及び6カ月後に、MRIを実行した。
【0045】
肛門周囲瘻孔の検出及び特徴付けのために、トルソ-フェーズドアレイコイルを使用した従来の多重平面、多重シーケンス骨盤MRIを使用した。骨盤MRIの解釈の経験があるGI放射線科医がMRI画像を解釈し、Parkの及びSt. Jamesの分類システムによって瘻孔を分類した。複雑性、延長、T2高強度(hyperintensity)及び他の合併症によって瘻孔活動をグレード分けするVan Asscheスコアを使用して、瘻孔活動を特徴付けた(Van Asscheら、Am. J. Gastroent.、98巻:332~339頁(2003年))。高強度T2管の最大瘻孔直径及び長さを含む、瘻孔活動の代わりの定量マーカーも測定した。瘻孔内のT2強調高強度は液及び顆粒化組織を反映し、瘻孔サイズの低下及び低減は瘻孔の治癒と関連するので、瘻管の中のT2強調高強度の長さ及び直径を測定のために選択した。
【0046】
治療への応答の評価
プライマリーエンドポイント(安全性):
この研究のプライマリーエンドポイントは、難治性肛門周囲瘻孔の治療のためのGore(登録商標)Bio-A(登録商標)Fistula Plugに結合している脂肪由来の自家間葉性間質性細胞(MSC)の使用の安全性及び実現可能性を判定することであった。以下の有害事象について、対象をモニタリングした:
1.研究時に存在したクローン病の悪化(性質、重症度又は頻度の変化)。
2.介入性の病気
3.異常な検査値(これには、試験担当医が臨床的に有意であると考える正常値の範囲内でのベースラインからの臨床的に有意なシフトが含まれた)。
4.検診、生命徴候、体重、肛門周囲瘻孔のための排膿における臨床的に重要な異常。
【0047】
二次エンドポイント(有効性):
24週(6カ月)後の診察時の身体検診で、排膿の臨床評価を実行した。瘻孔閉鎖は、排膿の非存在と規定した(自発的であるか弱い圧迫によるもの)。存在及び活動の評価のためのゴールドスタンダード検査であるMRIによる放射線撮影応答(Gecseら、Gut、63巻:1381~1392頁(2014年))を実行した。
【0048】
この研究のために、瘻孔活動を2つの方法で規定した:臨床的に及び放射線撮影で。臨床的には、部分的応答は排膿及び症状の減少と規定し、完全応答は排膿の完全な停止と規定した(一部の患者は用語「完全閉鎖」の使用を退ける持続的な皮膚欠損を有した)。放射線撮影応答は、治療した瘻孔からの膿瘍又はさらなる分岐の発達がなく、Van Aasche MRIによる肛門周囲瘻孔重症度スコアの変化がない、T2強調急速スピンエコー像の上のT2強調高強度瘻管の直径及び長さの減少(ベースラインからの変化百分率で表される)として規定した。瘻孔サイズの顕著な低減がVan Aascheスコアの変化なしで見られるので、Van Aascheスコアの低下は治療応答のために必要とされなかった。しかし、瘻孔分岐又は膿瘍の増加はスコア構成要素を増加させるので、Van Aascheスコアのいかなる増加も応答の失敗と考えられた。
【0049】
ハイスループットRNA配列決定及びバイオインフォマティクス分析
臨床プロトコールのためにMSCを生成するために使用される標準操作手順と同一のプロトコールを使用して、登録された最初の6人の患者からの細胞試料を増大させた。簡潔には、手術時に得られた脂肪組織をcGMP製造施設に移した。脂肪組織の間質性血管分画からMSCを収集した。得られたMSCは、承認されたプロトコールを使用してcGMP条件下においてex vivoで増大させた。簡潔には、脂肪組織をD-PBSで洗浄し、遠心分離し、細かく切り刻み、D-PBS溶液中の0.075%コラゲナーゼに30~90分の間インキュベートした。溶液を、Advanced MEM(Gibco/Life Technologies、Grand Island、NY)、GlutaMAX(Gibco/Life Technologies)、PLTMax(Mill Creek Life Sciences、Rochester、MN)及びヘパリンを含有するMSC培地で中和した。BD Falcon細胞培養フラスコのMSC培地において、細胞を培養し、増大させた。試料を直接的に採集し(対照MSC)、同等物をGORE(登録商標)BIO-A(登録商標)瘻孔プラグ(マトリックス)に加え、さらなる4日間インキュベートした後に収集した。
【0050】
他の場所に記載されている通り(Dudakovicら、J. Biol. Chem.、288巻:28783~28791頁(2013年))、オリゴdT磁気ビーズを使用して精製された高品質RNAを使用して、TruSeqプラットホーム(Illumina、San Diego、CA)で次世代RNA-seqを実行した。ポリA mRNAに富む得られた分画は、ランダムプライマーを使用して第1及び第2の鎖のcDNA合成に付し、続いてフローセル多重化のために固有のバーコード(セットA及びB)(Illumina)を有する対末端DNAアダプターへのライゲーションに付した。Illumina HiSeq 2000を使用して得られた対末端読み取りは、塩基コーリングのために標準のバイオインフォマティクスパイプライン(IlluminaのRTAバージョン1.17.21.3)に付し、リードアライメント(TopHat 2.0.6)、遺伝子計数(HTSeqソフトウェア)及び発現分析を含む生RNA配列決定データ分析システム(MAPRSeq v.1.2.1)を、edgeR 2.6.2を使用して実行した。100万のマッピングされた読み取り(RPKM)あたりのキロ塩基対あたりの読み取りを、プラスチック又はGORE(登録商標) BIO-A(登録商標)瘻孔プラグの上で増殖させた6人の異なる患者からのMSCについて比較した。遺伝子発現の差は、対応があるスチューデントのt検定、並びに、P値のためのランクオーダー、RPKM、及びGORE(登録商標) BIO-A(登録商標)瘻孔プラグで増殖させたMSCに対して対照MSCにおける変化倍率を使用して判定した。Excel(Microsoft Office)を使用して表及びグラフを作成し、GENE-E(Broad Institute、Boston、MA)で階層的クラスタリングを実行した。遺伝子オントロジー分析は、DAVID6.7、FunRich、Reactome及びGeneMania、並びに注釈が不完全な遺伝子のために集中PubMed検索を使用して実行した。
【0051】
結果
療法のために使用された細胞の増殖動態、表現型及び特徴付け
生存可能な臨床産物を生成することが可能なあらゆる患者生検で、プロトコールが高度に実行可能であることが証明された。1人の患者は、汚染のために脂肪組織の再採取を必要とした。細胞は急速に増殖し、1日につき1.5の平均倍加であった(第2の平板培養の後)。プロトコールは、マトリックスに最近結合した生細胞を投与した。凍結保存時に、放出試験を実行した。解凍後の生存度は、95%を日常的に越えた。マトリックス上の細胞の用量を適切に理解するために、細胞結合の間に上清中の細胞を計数した。全ての試料について、インキュベーションの完了後に細胞の5%未満が上清中に残り、保存後に回復して増殖するそれらの能力を確認した。患者MSCは、CD44、CD73、CD105及びクラスI陽性並びにCD14、CD45及びクラスII陰性によって、古典的なMSC表現型を普遍的に実証した。
【0052】
有効性及び安全性
20人の患者を研究登録のためにスクリーニングし、そのうち12人を治療した。登録された患者は、持続的な難治性疾患を有していた(中央値5年の肛門周囲疾患、及び治療のために平均5.5回の麻酔下の事前検査)。全ての患者は研究登録時に生物製剤療法を受けており、全てはMSC-マトリックス設置の6カ月後に同じ生物製剤療法をまだ受けていた。
【0053】
3つの重大な有害事象があったが、そのいずれもクローン病にもMSC-マトリックスの設置にも関連しておらず、そのいずれも研究中止につながらなかった。脂肪収集部位の漿液腫に関係していた、2つの重大でない有害事象があった。さらなる15個の重大でない事象があったが、そのうち9つは根底にあるクローン病に関係した重大でない有害事象であって、6つは根底にあるクローン病にも研究介入にも関係していない重大でない有害事象であった。
【0054】
12人の患者のうちの9人は3カ月までに完全な臨床治癒を有し、12人の患者のうちの10人(83%)は6カ月後に完全な臨床治癒を有した。臨床治癒のない2人の患者のうち、1人は排膿及び串線設置を必要とする膿瘍を3カ月後に起こし、他は元の瘻孔からの新しい分岐からの持続的な排膿を有し、肛門口唇瘻孔をもたらした。6カ月後までに失禁又は漏出のためにパッドを装着する必要を経験した患者はいなかった。合計4人の患者(33%)は、間欠MRI研究での新しい症状又は所見のために、抗生物質の30日未満のクールを受けた。クローン病の医療管理の変更を受けた患者はいなかった。
【0055】
ベースライン及び6カ月後に、治療した瘻管の特徴を明確に規定するために、MRIを使用した。治療応答のための放射線撮影判定基準は、12人の患者のうちの10人(83%)で実証された。全体として、瘻管の中のT2強調高強度の長さに有意な減少が(中央値減少22%、範囲-5~100%、p=0.01)、及び直径に非有意な減少(中央値減少57%、範囲-36~100%、p=0.27)があり、負の値は2つの治療失敗における瘻孔サイズの増加を表していた。いずれの患者においても、悪化することなく、Van Assche肛門周囲重症度スコアも有意に低下した(中央値13から中央値9、p=0.0008): 1つの治療失敗は、ベースライン時の挙筋上方伸長及び小さい膿瘍のために、21の不変のスコアを有し(治療後には伸長及び別の小さい膿瘍は不変であった)、他の失敗は12の不変のスコアを有し、膿瘍は解消したが、高強度瘻管のサイズは増加した。
【0056】
瘻管の中のT2強調高強度の長さ及び直径の変化の散乱プロット、並びに、ベースライン及び6カ月後の経過観察MR時のVan Asscheスコアを、図12A~Bに示す。10人の応答患者では、Van Asscheスコアは9人で低下し、単一の患者ではVan Asscheスコアは不変であり、T2-高強度及び分枝した括約筋横断瘻孔の長さ及び直径における実質的な減少により応答を実証した。さらに、瘻管の長さ及び直径の平均の絶対変化は、応答患者においてそれぞれ平均23.5及び5.0mm低下し、2つの治療失敗においてはそれぞれ平均0.2及び10mm増加した。1つの治療失敗は、前処置のMRIで直腸炎症及び12mm膿瘍を実証し、6カ月MRIでは、分岐した分枝のサイズが増加して継続的な膿瘍を実証した。第2の治療失敗は経過観察MRIで明白な内部開口部を、及び瘻孔の直径の増加を実証し、MSC瘻孔プラグの転位を潜在的に示している。
【0057】
マトリックスに結合したMSCは、変更された遺伝子発現シグネチャーを示す
Gore(登録商標)Bio-A(登録商標) Fistula Plugに結合したMSCの作用の生物学的特性を理解するために、Gore(登録商標)Bio-A(登録商標) Fistula Plug(「マトリックス」、n=6)に対して通常のポリスチレン組織培養プラスチック(「対照」、n=6)の上で増殖させたMSCにおいて、全ての注釈された遺伝子(n=23,338)についてタンパク質をコードするmRNAの発現レベルを決定するために、RNA-seq分析を実行した。ドット-プロット分析は、対照及びマトリックス試料の両方における全体的RNA発現パターンが両方の実験条件において同等であることを明らかにした。しかし、全12試料(RPKM発現値>0.3でフィルタリングした)の全体のRNA-seqデータセットの階層的クラスタリングは、対照及びマトリックスMSCが対照及びマトリックスMSCに特異的である特徴的遺伝子発現パターンを有する2つの明瞭な生物学的クレードを形成することを示した(図13A~B)。
【0058】
これらの特異的遺伝子シグネチャーを規定するために、いずれかの生物学的条件(RPKM>0.3)において頑強に発現され、対照とマトリックスMSCの間で統計的に異なった(p<0.05)全ての遺伝子のリストを横断(intersect)した。対照及びマトリックスMSCのそれぞれにおいて特異的に検出された、898個及び165個の遺伝子があった。両方の条件で共通に発現した11,548個の遺伝子のうち、半分以上(n=6,131)は発現における統計的差を示した(図13A~B)。したがって、生体材料マトリックス(すなわち、Gore(登録商標)Bio-A(登録商標) Fistula Plug)の上でMSCを培養することは、遺伝子発現における顕著なモジュレーションをもたらした。マトリックス接着に関連し、最適化された機能に生理的に関連していた、上方制御された遺伝子ネットワークに焦点を当てるために、GSEAをその後実行した。
【0059】
対照及びマトリックスMSCの両方における遺伝子の検査は、最も高度に発現されるmRNAが細胞質及び/又は細胞骨格タンパク質をコードすることを明らかにした(図14A)。瘻孔修復のために細胞化インプラントを生成することにおけるMSCの機能とより密接に関係して、ECMタンパク質が多く含まれていた。このセットには、非コラーゲンタンパク質フィブロネクチン(FN)及びオステオネクチン(SPARC)、並びにI、III、VI及びV型コラーゲン(COL1A1、COL1A2、COL3A1、COL6A1、COL6A2、COL5A1、COL5A2)が含まれた(図14A及び14B)。I、III、VI及びV型コラーゲンはマトリックスMSCにおいて最も高度に発現されたが(RPKM>100)、MSCを瘻孔マトリックスの上で増殖させた場合に、COL15A1、COL10A1、COL8A2及びCOL9A2のためのmRNAは最も大きな変化倍率を示した(>10倍)。後者の非繊維性コラーゲンは、中程度のレベル(5~70RPKM)で発現されただけだった(図14B)。重要なことに、全ての他の注釈された遺伝子(n=23,338)と比較した全てのコラーゲン遺伝子(n=43)の相対発現の分析は、コラーゲンは全ての遺伝子のわずか0.18%を占めるだけだが、それらはMSCで発現された全てのmRNAの概ね6%占めることを示した(図14B)。
【0060】
MSCがECM再構築の潜在的能力を有するかどうか調査するために、瘻孔マトリックス(すなわち、Gore(登録商標)Bio-A(登録商標) Fistula Plug)で増殖させたMSCにおいて、マトリックスメタロプロテイナーゼ遺伝子(MMP)の発現を調べた。発現値のヒートマップ分析及び数値的分類は、マトリックスMSCがいくつかの高度発現MMP、例えばMMP1、-2、-3、-13及び-14の高い発現を示すことを明らかにした。これらの及び他のECM再建酵素の発現は、瘻孔修復のために患者へのコラーゲン包埋及びMSC強化インプラントの組み込みを促進することができる。
【0061】
マトリックスMSCは、静止性の及びタンパク質同化性の細胞表現型を有する。マトリックスMSCの生物活性及び表現型分子シグネチャーを規定するために、遺伝子オントロジー分析を実行した(図15)。対照MSCにおいて発現された最も豊富なタンパク質コード転写物は、細胞周期、有糸分裂、増殖及び/又は腫瘍形成促進経路に一般的に関係した遺伝子であった(上位25個の中でn=23)。対照的に、マトリックスMSCにおいて選択的に富化された最も豊富な遺伝子は、糖タンパク質及び/又は不可欠な膜タンパク質をコードするものであった(上位25個の中でn=21)。対照及びマトリックスMSCにおいて選択的に発現され、統計的に異なる全ての遺伝子のより広い分析は、マトリックスMSCにおいて、細胞周期に関連した遺伝子は減少したが、タンパク質翻訳を支持する遺伝子は富化されたことを明らかにした。
【0062】
マトリックス上のMSCの増殖がそれらの分泌特性を変更するかどうか理解するために、既知のサイトカイン、増殖因子、モルフォゲン、リガンド阻害剤及び他のタンパク質リガンドをコードする285遺伝子のリストの発現データを選択した。遺伝子のリストは、遺伝子オントロジー規定及び集中文献調査に基づいて作成した。この遺伝子セットのうちで、両方の試料においてまったく検出されなかった(RPKM=0)52遺伝子(例えば、CCL3、IL2、BMP15、FGF4、WNT3A)及び恣意的な閾値(RPKM<0.3)未満で発現された113遺伝子(例えば、CCL1、IL3、BMP3、FGF3、WNT4)があった。分泌タンパク質のための残りの120遺伝子のうちで、少なくとも2倍選択的に上方制御された12タンパク質だけが検出された(RPKM>0.3、対応があるt検定に基づきP<0.05)。
【0063】
さらに、MSCをマトリックスの上で増殖させた場合に2倍下方制御された分泌因子をコードする、15遺伝子があった(RPKM>0.3、対応があるt検定に基づきP<0.05)。最も顕著なタンパク質はTGFβ標的遺伝子CTGFであって、それは結合組織増殖因子をコードする。
【0064】
これらの結果は、本明細書で提供される方法及び材料がインキュベーションの間に加えられた細胞と異なる生物製剤を生成することができること、及びこの新しい生物製剤が、瘻孔を修復する強力な治療能力を有することを実証する。
【0065】
[実施例3]
マトリックスプラグの上の幹細胞
別の実験では、MSCを異なるタイプのマトリックスで増殖させ、様々なポリペプチドの発現を調査し、培地単独で増殖させたMSCによって示される発現レベルと比較した。結果は、図16A~D及び17A~Dに提供される。
【0066】
他の実施形態
本発明はその詳細な記載と合わせて記載されたが、上述の記載は、添付の請求項の範囲によって規定される本発明の範囲を例示するものであり、限定するものでないことを理解すべきである。他の態様、利点及び改変は、以下の請求項の範囲内である。
(付記)
(付記1)
哺乳動物において瘻孔を治療する方法であって、前記瘻孔に足場を植え込むことを含み、前記足場は繊維及び前記繊維の間に位置する間葉系幹細胞を含み、前記繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含む、方法。
(付記2)
前記哺乳動物がヒトである、付記1に記載の方法。
(付記3)
前記瘻孔が痔瘻である、付記1又は2に記載の方法。
(付記4)
前記瘻孔が難治性の痔瘻である、付記1~3のいずれか一項に記載の方法。
(付記5)
前記瘻孔の最大直径が25mm未満である、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
(付記6)
前記間葉系幹細胞が脂肪由来の間葉系幹細胞である、付記1~5のいずれか一項に記載の方法。
(付記7)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約60から約70パーセントである、付記1~6のいずれか一項に記載の方法。
(付記8)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約67パーセントである、付記1~7のいずれか一項に記載の方法。
(付記9)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約30から約40パーセントである、付記1~8のいずれか一項に記載の方法。
(付記10)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約33パーセントである、付記1~9のいずれか一項に記載の方法。
(付記11)
前記足場が血小板由来物材料を含む、付記1~10のいずれか一項に記載の方法。
(付記12)
前記繊維がランダムに配置された繊維である、付記1~11のいずれか一項に記載の方法。
(付記13)
瘻孔を治療するためのインプラントを製造する方法であって、繊維を含む足場をポリプロピレン容器の中で間葉系幹細胞と接触させることを含み、前記繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含む、方法。
(付記14)
前記間葉系幹細胞が脂肪由来の間葉系幹細胞である、付記13に記載の方法。
(付記15)
前記ポリプロピレン容器の中での前記接触させることが3日間を超えて行われる、付記13~14のいずれか一項に記載の方法。
(付記16)
前記ポリプロピレン容器の中での前記接触させることが約3日間から約10日間行われる、付記13~15のいずれか一項に記載の方法。
(付記17)
前記ポリプロピレン容器の中での前記接触させることが約4日間から約6日間行われる、付記13~16のいずれか一項に記載の方法。
(付記18)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約60から約70パーセントである、付記13~17のいずれか一項に記載の方法。
(付記19)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約67パーセントである、付記13~18のいずれか一項に記載の方法。
(付記20)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約30から約40パーセントである、付記13~19のいずれか一項に記載の方法。
(付記21)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約33パーセントである、付記13~20のいずれか一項に記載の方法。
(付記22)
前記容器の中で前記足場を血小板由来物材料と接触させることを含む、付記13~21のいずれか一項に記載の方法。
(付記23)
前記繊維がランダムに配置された繊維である、付記13~22のいずれか一項に記載の方法。
(付記24)
繊維及び前記繊維の間に位置する間葉系幹細胞を含む足場であって、前記繊維はポリグリコール酸及び炭酸トリメチレンのポリマーを含み、前記間葉系幹細胞は、前記繊維の非存在下で培養した同等の間葉系幹細胞よりも多くの線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)ポリペプチド、エオタキシンポリペプチド、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)ポリペプチド、増殖調節タンパク質(GRO)ポリペプチド及びインターロイキン10(IL-10)ポリペプチドを発現し、前記間葉系幹細胞は前記同等の間葉系幹細胞よりも少ないフラクタルキンポリペプチドを発現する、足場。
(付記25)
前記間葉系幹細胞が脂肪由来の間葉系幹細胞である、付記24に記載の足場。
(付記26)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約60から約70パーセントである、付記24又は25に記載の足場。
(付記27)
前記ポリグリコール酸が前記繊維の約67パーセントである、付記24~26のいずれか一項に記載の足場。
(付記28)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約30から約40パーセントである、付記24~27のいずれか一項に記載の足場。
(付記29)
前記炭酸トリメチレンが前記繊維の約33パーセントである、付記24~28のいずれか一項に記載の足場。
(付記30)
前記足場が血小板由来物材料を含む、付記24~29のいずれか一項に記載の足場。
(付記31)
前記繊維がランダムに配置された繊維である、付記24~30のいずれか一項に記載の足場。
(付記32)
前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より多くの単球走化性タンパク質3(MCP-3)ポリペプチドを発現する、付記24~31のいずれか一項に記載の足場。
(付記33)
前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より少ないインターロイキン12(IL-12)p40ポリペプチドを発現する、付記24~32のいずれか一項に記載の足場。
(付記34)
前記間葉系幹細胞が前記同等の間葉系幹細胞より多いインターロイキン12(IL-12)p70ポリペプチドを発現する、付記24~33のいずれか一項に記載の足場。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図17C
図17D