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特許7515665有機デバイス、表示装置、撮像装置、照明装置および移動体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】有機デバイス、表示装置、撮像装置、照明装置および移動体
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/852 20230101AFI20240705BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 50/805 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 50/816 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 50/818 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 59/38 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 50/854 20230101ALI20240705BHJP
   H10K 50/858 20230101ALI20240705BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240705BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240705BHJP
   H10K 102/10 20230101ALN20240705BHJP
   H10K 102/20 20230101ALN20240705BHJP
【FI】
H10K50/852
H10K50/10
H10K50/805
H10K50/816
H10K50/818
H10K59/38
H10K50/854
H10K50/858
G02B5/20 101
G09F9/30 365
G09F9/30 349Z
H10K102:10
H10K102:20
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2023105335
(22)【出願日】2023-06-27
(62)【分割の表示】P 2019087724の分割
【原出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2023130398
(43)【公開日】2023-09-20
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶本 典史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 希之
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-090923(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02172991(EP,A1)
【文献】特開2008-204948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0123279(US,A1)
【文献】特開2017-195131(JP,A)
【文献】特開2013-051155(JP,A)
【文献】特開2007-234253(JP,A)
【文献】特開2003-161801(JP,A)
【文献】特開2006-156390(JP,A)
【文献】特開2005-064328(JP,A)
【文献】特開2003-029032(JP,A)
【文献】特開2018-056364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/852
H10K 50/10
H10K 50/805
H10K 50/816
H10K 50/818
H10K 59/38
H10K 50/854
H10K 50/858
G02B 5/20
G09F 9/30
H10K 102/10
H10K 102/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する反射電極と、前記反射電極の上に配される有機層と、前記有機層の上に配される半透過電極と、前記半透過電極の上に配される干渉調整層と、を有する有機デバイスであって、
前記有機層は、青色を発光する発光層を含み、かつ、白色発光し、
前記干渉調整層は、前記半透過電極と接する第1層と、前記第1層の上に配される第2層と、前記第2層の上に配される第3層とを含み、
前記第1層は、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化チタン、硫化亜鉛、または、酸化インジウムスズによって構成され、
前記第2層は、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ素樹脂、銀、マグネシウム、または、これらの混合物によって構成され、
前記第3層は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、または、酸化アルミニウムによって構成され、
前記有機層の膜厚が、85nm以上かつ183.4nm以下であり、
前記第1層の膜厚が、10nm以上かつ50nm以下であり、
前記第2層の膜厚が、10nm以上かつ300nm以下であり、
前記有機層の共振波長が、510nm以上かつ550nm以下であり、
前記有機層と前記第1層と前記第2層との界面である反射面との間の光学距離の共振波長が435nm以下であり、前記有機層と前記反射面との間の光学距離における光学干渉の極小値が480nm以上かつ510nm以下であることを特徴とする有機デバイス。
【請求項2】
前記有機層の膜厚が、90nm以上かつ183.4nm以下であり、
前記第1層の膜厚が、10nm以上かつ40nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記第1層の波長λbにおける屈折率が、前記第2層の波長λbにおける屈折率よりも大きく、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記第1層の波長λbにおける屈折率と、前記第2層の波長λbにおける屈折率と、の差分が、0.58以上であり、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項に記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記第3層の波長λbにおける屈折率が、前記第2層の波長λbにおける屈折率よりも大きく、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項6】
前記第1層の光学距離L1が、
L1≦(λb/4)×0.9
を満たし、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項7】
前記有機層の光学距離Lが、
L≧[{(φr+φs)/π}×(λb/4)]×1.3
を満たし、
前記第1層の光学距離L1が、
L1≦(λb/4)×0.8
を満たし、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長、φr[rad]は、波長λbの光の前記反射電極における位相シフト量、φs[rad]は、波長λbの光の前記半透過電極における位相シフト量であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項8】
前記有機層の光学距離Lが、
L≧[{(φr+φs)/π}×(λb/4)]×1.35
を満たし、
前記第1層の光学距離L1が、
L1≦(λb/4)×0.75
を満たし、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長、φr[rad]は、波長λbの光の前記反射電極における位相シフト量、φs[rad]は、波長λbの光の前記半透過電極における位相シフト量であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項9】
前記第3層の波長λbにおける屈折率が、1.9以上であり、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項10】
前記第3層の膜厚が、可視光波長よりも厚いことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項11】
前記第1層の波長λbにおける屈折率が、1.6以上であり、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項12】
前記第1層の波長λbにおける屈折率が、1.9以上であり、
ここで、λb[nm]は、前記青色の発光層の発光のピーク波長であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項13】
前記有機デバイスが、前記干渉調整層の上にカラーフィルタをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項14】
光を反射する反射電極と、前記反射電極の上に配される有機層と、前記有機層の上に配される半透過電極と、前記半透過電極の上に形成される反射面を構成する干渉調整層と、を含む有機デバイスであって、
前記有機層は、青色を発光する発光層を含み、かつ、白色発光し、
前記有機層の共振波長が、510nm以上かつ550nm以下であり、
前記有機層と前記反射面との間の光学距離の共振波長が435nm以下であり、前記有機層と前記反射面との間の光学距離における光学干渉の極小値が480nm以上かつ510nm以下であることを特徴とする有機デバイス。
【請求項15】
前記反射電極が、アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項16】
前記反射電極が、銀を含まないことを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項17】
前記半透過電極の膜厚が、10nm以上かつ16nm以下であることを特徴とする請求項1乃至16の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項18】
請求項1乃至17の何れか1項に記載の有機デバイスと、前記有機デバイスに接続されている能動素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項19】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、画像を表示する表示部と、を有し、
前記表示部は、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部であり、かつ、請求項1乃至17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項20】
光源と、光拡散部および光学フィルムの少なくとも一方と、を有する照明装置であって、
前記光源は、請求項1乃至17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする照明装置。
【請求項21】
機体と、前記機体に設けられている灯具を有し、
前記灯具は、請求項1乃至17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機デバイス、表示装置、撮像装置、照明装置および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光素子を備える有機デバイスが注目されている。有機デバイスの高精細化のために、白色発光する発光素子とカラーフィルタとを用いる方式(以下、白+CF方式と呼ぶ)が知られている。白+CF方式は、有機層を基板全面に成膜するため、メタルマスクを用いて色ごとに有機層を成膜する方式と比較して、画素サイズや画素間のピッチなど高精細化が比較的容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-210677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白+CF方式は、色ごとに光の取り出し構造を最適化することが難しく、光取り出し効率が低くなってしまう場合があるため、発光層を含む有機層を薄膜化することによって駆動電圧を低減し、結果として同じ駆動電圧で高輝度表示を可能とする場合がある。有機層を薄膜化する際に、有機層の膜厚は、光学干渉を用いて光を強め合う干渉が起きる(共振する)膜厚に設計され、また、薄膜化のために最小の干渉次数となるように設計されうる。青色の画素の色度は有機層の膜厚に強く依存し、最小の干渉次数を用いる場合、深い青を表示するための有機層の膜厚は、75nm以下にする必要がある。しかしながら、有機層を100nm程度以下に薄膜化すると、薄膜化とともに異物などに起因する凹凸によるリークやショートが指数関数的に増加し、歩留まりが低下してしまう場合がある。
【0005】
特許文献1には、光取り出し側の半透過電極上に光の干渉を調整するための複数の光路調整層を配し、取り出したい光の波長λに対して、発光層と光路調整層との間の光学距離をλ/4の整数倍にすることが示されている。青色の画素において、歩留まりを向上させるために有機層の膜厚を厚くした場合、特許文献1に示される光路調整層では、有機層の膜厚を厚くしたことによる干渉条件のずれを変調できず、色度が低下してしまう可能性がある。つまり、特許文献1の構造では、歩留まりの向上と色再現性の向上とを両立することが難しい。
【0006】
本発明は、有機デバイスの信頼性の向上と色再現性の向上との両立に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る有機デバイスは、光を反射する反射電極と、前記反射電極の上に配される有機層と、前記有機層の上に配される半透過電極と、前記半透過電極の上に配される干渉調整層と、を有する有機デバイスであって、前記有機層は、青色を発光する発光層を含み、かつ、白色発光し、前記干渉調整層は、前記半透過電極と接する第1層と、前記第1層の上に配される第2層と、前記第2層の上に配される第3層とを含み、前記第1層は、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化チタン、硫化亜鉛、または、酸化インジウムスズによって構成され、前記第2層は、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ素樹脂、銀、マグネシウム、または、これらの混合物によって構成され、前記第3層は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、または、酸化アルミニウムによって構成され、前記有機層の膜厚が、85nm以上かつ183.4nm以下であり、前記第1層の膜厚が、10nm以上かつ50nm以下であり、前記第2層の膜厚が、10nm以上かつ300nm以下であり、前記有機層の共振波長が、510nm以上かつ550nm以下であり、前記有機層と前記第1層と前記第2層との界面である反射面との間の光学距離の共振波長が435nm以下であり、前記有機層と前記反射面との間の光学距離における光学干渉の極小値が480nm以上かつ510nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機デバイスの信頼性の向上と色再現性の向上との両立に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る有機デバイスの構成例を模式的に示す断面図。
図2図1の有機デバイスを用いた表示装置の斜視図。
図3図1の有機デバイスのPLスペクトルを示す図。
図4図1の有機デバイスのカラーフィルタの透過率を示す図。
図5図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの有機層の係数AとB画素の色度(V’)の関係を示す図。
図6図1の有機デバイスの有機層の係数AとB画素の色度(V’)の関係を示す図。
図7図1の有機デバイスの有機層の係数Aと第1層の係数Bとの関係を示す図。
図8図1の有機デバイスの有機層の係数Aと第2層の係数Bとの関係を示す図。
図9】比較例の有機デバイスの共振強度および反射率の波長依存性を示す図。
図10図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの共振強度および反射率の波長依存性を示す図。
図11図1の有機デバイスの有機層の係数Aと、第1層と第2層との屈折率差と、の関係を示す図。
図12図1の有機デバイスの第1層と第2層との屈折率差と、消費電力と、の関係を示す図。
図13図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの有機層の係数AとB画素の色度(V’)の関係を示す図。
図14図1の有機デバイスの有機層の係数Aと第1層の係数Cとの関係を示す図。
図15図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの共振強度および反射率の波長依存性を示す図。
図16図1の有機デバイスの第1層の屈折率と消費電力との関係を示す図。
図17図1の有機デバイスにおける表面プラズモン損失を表す励起子散逸エネルギを示す図。
図18図1の有機デバイスの各構成要素の膜厚およびエキシトン生成割合を示す図。
図19図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの干渉調整層の屈折率を示す図。
図20図1の有機デバイスの干渉調整層の屈折率を示す図。
図21図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの有機層の係数A、第1層の係数B、第2層の係数B、B画素の色度(V’)の関係を示す図。
図22図1の有機デバイスと比較例の有機デバイスとの有機層の係数A、第1層の係数C、B画素の色度(V’)の関係を示す図。
図23図1の有機デバイスを用いた表示装置の一例を示す図。
図24図1の有機デバイスを用いた撮像装置の一例を示す図。
図25図1の有機デバイスを用いた携帯機器の一例を示す図。
図26図1の有機デバイスを用いた表示装置の一例を示す図。
図27図1の有機デバイスを用いた照明装置の一例を示す図。
図28図1の有機デバイスを用いた自動車の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1~22を参照して、本発明の実施形態による有機デバイスの構造ついて説明する。図1は、本実施形態における有機デバイス100の構造を示す断面図である。図2は、有機デバイス100が用いられた表示装置80の1つの実施形態における構成を模式的に示す斜視図である。有機デバイス100は、複数の発光素子10を含む。図2に示されるA-A’の断面が、図1に示される断面図であり、表示装置80の3つの発光素子10によって、カラー表示の1つの画素が構成される。ここで、発光素子10の何れかを特定する場合は、発光素子10「R」のように、参照番号の後に添え字する。他の構成要素についても同様である。図1、2に示される例において、発光素子10はストライプ配列で配されているが、デルタ配列やスクエア配列であってもよい。
【0012】
複数の発光素子10のそれぞれは、基板1の上に配される光を反射する反射電極20と、反射電極20の上に配される有機層30と、有機層30の上に配される半透過電極40と、半透過電極40の上に配される多層構造の干渉調整層50と、を含む。本実施形態の発光素子10は、反射電極20に対して有機層30を挟んで配される半透過性の半透過電極40から光を取り出すトップエミッション型の発光素子である。有機層30は、後述するが、白色発光する。干渉調整層50は、3層以上の多層構造を備える。図1に示される構成において、干渉調整層50は、半透過電極40と接する第1層51、第1層51の上に第1層51に接して配される第2層52、第2層52の上に第2層52に接して配される第3層を含む3層構造を備える。本実施形態において、第3層53は、有機層30を大気に含まれる水分などから保護するための封止層として機能する。
【0013】
有機デバイス100は、干渉調整層50の上にカラーフィルタ60を含む。カラーフィルタ60は、図1に示されるように、それぞれ赤色、緑色、青色の光を透過するカラーフィルタ60R、60G、60Bを含む。これによって、有機デバイス100は、例えば、カラー表示が可能な表示装置の一部を構成することができる。
【0014】
反射電極20は、有機層30の発光波長における反射率が80%以上の金属材料が用いられうる。具体的には、アルミニウム(Al)などの金属や、Alなどの金属にシリコン(Si)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ネオジム(Nd)などを添加した合金が挙げられる。詳細は後述するが、波長450nm程度の青色の光の光強度を高める最も低次の干渉構造を採用するために、表面プラズモン損失の観点からAlなどのプラズモン周波数が紫外領域ある金属が、反射電極20として用いられてもよい。例えば、銀(Ag)や銀合金は、表面プラズモン損失が大きくなるため、反射電極20はAgを含まなくてもよい。
【0015】
また、反射電極20は、高い反射率を有するAlやAlの合金とバリアメタルとの積層膜であってもよい。バリアメタルには、正孔注入性が高い材料が用いられうる。具体的には、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、金(Au)などの金属やその合金が挙げられる。バリアメタルは、例えば、スパッタリング法などを用いて形成することができる。バリアメタルを形成する場合、Alなど表面に酸化膜を形成しやすい金属であっても、表面の酸化膜の形成を抑制し、反射電極20に印加される電圧の高電圧化を抑制することができる。
【0016】
有機層30は、正孔注入輸送層31、有機発光材料を含む発光層32、電子注入輸送層33を含む。したがって、発光素子10は、有機EL発光素子でありうる。正孔注入輸送層31、電子注入輸送層33は、単層構造であってもよいし、複数の層によって構成される積層構造であってもよい。
【0017】
本実施形態において、発光層32は、白色発光する発光層である。発光層32は、1つの層で構成されてもよいし、複数の層によって構成されていてもよい。図1に示される構成において、発光層32は、発光層32aと発光層32bとを積層した構成を示しているが、3つ以上の発光層を備えていてもよい。発光層32を積層構造とする場合、複数の発光層が互いに接していてもよいし、層の間に非発光の中間層を介していてもよい。
【0018】
図1に示されるように、発光層32が2つの発光層32a、32bを有する場合、発光層32a(または発光層32b)は、青色発光材料を有する発光層、発光層32b(または発光層32a)は、緑色発光材料および赤色発光材料を有する発光層であってもよい。また、例えば、発光層32a(または発光層32b)が、緑色発光材料および赤色発光材料を有する発光層、発光層32b(または発光層32a)が青色発光材料を有する発光層であってもよい。また、発光層32が3つの発光層を有する場合、赤色発光材料を有する発光層、青色発光材料を有する発光層、緑色発光材料を有する発光層をそれぞれ別に備えていてもよい。反射電極20の側から、赤色発光材料を有する発光層、青色発光材料を有する発光層、緑色発光材料を有する発光層の順で配置されていてもよいし、逆であってもよいし、青色発光材料を有する発光層が、発光層32の端部に配されていてもよい。また、例えば、赤色発光材料を有する発光層と青色発光材料を有する発光層との間に上述の中間層を有してもよい。
【0019】
発光層32の各層は、1種類の化合物で構成されていてもよいし、複数種類の化合物で構成されていてもよい。具体的には、発光層32が、ホストとゲストとを有していてもよい。ホストは、発光層32内で最も重量比の大きい化合物であり、ゲストは主たる発光を担う化合物(有機発光材料)である。
【0020】
ホストは、公知の有機化合物を用いることができる。例えば、ナフタレン誘導体、クリセン誘導体、ピレン誘導体、フルオレン誘導体、フルオランテン誘導体、金属錯体、トリフェニレン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾフラン誘導体等が、ホストとして挙げられる。ホストは、これら誘導体単独からなる有機化合物であってもよいし、これら誘導体を複数組み合わせた有機化合物であってもよい。ホストとして、ナフタレンとピレンとを有する有機化合物、フルオレンとピレンとを有する有機化合物、クリセンとトリフェニレンとを有する有機化合物が適している。
【0021】
正孔注入輸送層31は、公知の正孔輸送材料を含みうる。例えば、ナフタレン誘導体、フェナンスレン誘導体、クリセン誘導体、ピレン誘導体、フルオレン誘導体、フルオランテン誘導体、金属錯体、トリフェニレン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾフラン誘導体等が、正孔注入輸送層31に用いられる。正孔注入輸送層31は、これら誘導体単独からなる有機化合物であってもよいし、これら誘導体を複数組み合わせた有機化合物であってもよい。また、正孔注入輸送層31は、それぞれの上述の誘導体の間に窒素原子を有してもよい。正孔注入輸送層31として、ナフタレンとクリセンとを有するジアリールアミン、フルオレンとナフタレンとを有するジアリールアミンが適している。
【0022】
半透過電極40は、その表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過反射層として機能する。半透過電極40は、アルカリ金属やアルカリ土類金属、また、これらを含んだ合金によって形成されてもよい。具体的には、マグネシウムや銀などの単体金属、マグネシウムや銀を主成分とする合金が、半透過電極40として用いられてもよい。
【0023】
干渉調整層50のうち第3層53は、上述のように有機層30を水分などから保護する封止層である。第3層53は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。第3層53(封止層)は、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)などで構成されてよい。第3層53は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、原子層堆積法などを用いて形成されうる。第3層53は、後述する波長λb(およそ450nm)において、上述の材料のうち屈折率が1.9以上となる材料が用いられてもよい。
【0024】
カラーフィルタ60は、発光層32で発光した光のうち任意の波長以外の光をカットする、換言すると任意の波長の光を透過するフィルタである。カラーフィルタ60は、公知の方法で形成することができる。図1に示されるように、それぞれの発光素子10の発光色に対応したカラーフィルタが、それぞれ備えられうる。また、有機デバイス100の保護の観点から、カラーフィルタ60の上に保護ガラスなど保護層(不図示)を設けてもよい。
【0025】
本実施形態において、発光素子10は、特に正面方向の輝度が高くなるように有機層30の膜厚を設定することで、光学干渉によって発光色が制御され、より高効率に正面方向に光が放射されるように設計される。ここで、正面方向とは図1の上方向である。また、光学干渉によって光の放射が強められる波長を、以下では共振波長と呼ぶ場合がある。
【0026】
波長λの光に対して、発光層32の発光位置から反射電極20の反射面までの距離dを、d=iλ/4n(i=1、3、5、・・・)に調整することによって、強め合わせの干渉(共振)とすることができる。その結果、波長λの光の放射分布に正面方向の成分が多くなり、正面輝度が向上する。ここで、nは、発光位置から反射面までの層の波長λにおける有効屈折率である。また、屈折率は、本実施形態において、450nmの光の屈折率とする。
【0027】
次いで、波長λの光を共振させるための、発光層32の発光位置から反射電極20の反射面までの間の光学距離Lrについて説明する。ここで、「光学距離」とは、各層の屈折率nと各層の厚さdとの積の総和のことを示す。例えば、図1に示される有機層30の光学距離Lは、
L=Σn×d
=n31×d31+n32a×d32a+n32b×d32b+n33×d33
と表せられる。有機層30以外の他の構成要素の光学距離も、各層の屈折率nと各層の厚さdとの積の総和によって求められる。また、各層の厚さdは、上述のように正面方向の輝度について説明するため、図1に示されるように、基板1の反射電極20が形成される表面に対する法線方向の厚さでありうる。
【0028】
発光層32の発光位置から反射電極20の反射面までの間の光学距離Lrは、波長λの光が反射電極20の反射面で反射する際の位相シフト量の和をφr[rad]とすると、以下の式(1)で示される。
Lr=(2m-(φr/π))×(λ/4)=-(φr/π)×(λ/4)・・・(1)
ここで、mは非負整数である。また、φは負の値である。本実施形態において、有機デバイス100の駆動電圧低減の観点から、最も低次の干渉条件を使用するためm=0とする。φ=-πかつm=0では、Lr=λ/4となる。以後、上記式のm=0の条件をλ/4の干渉条件と記載する場合がある。
【0029】
次に、発光層32の発光位置から半透過電極40の反射面(半透過電極40の基板1の側の面(下面)。)までの間の光学距離Lsは、波長λの光が半透過電極40の反射面で反射する際の位相シフト量の和をφs[rad]とすると、以下の式(2)で示される。
Ls=(2m’-(φs/π))×(λ/4)=-(φs/π)×(λ/4)・・・(2)
ここで、m’は非負整数である。
【0030】
したがって、波長λの光を共振させる(強め合う)有機層30の全層の光学距離Lは、下記式(3)で表される。
L=(Lr+Ls)=(φ/π)×(λ/4)・・・(3)
ここで、φは、波長λの光が反射電極20と半透過電極40とで反射する際の位相シフト量の和(φr+φs)である。式(3)は有機層30の全層干渉と呼ばれる干渉であり、有機層30の全層における波長λの光を強め合うλ/4の干渉条件である。また、有機層30の全層の光学距離は、反射電極から半透過電極までの光学距離ともいえる。この場合、光学距離は、反射電極における半透過電極側の反射面から、半透過電極における反射電極側の反射面までであってよい。
【0031】
有機デバイス100の表示色の広色域化の観点から、本実施形態において、取り出したい光の波長を青色の発光層の発光スペクトルのピーク波長のうち最も短波となる波長λbとする。波長λbは、おおよそ450nmである。この場合、有機層30の屈折率が、1.7~2.0程度であることを踏まえると、式(3)から有機層30の膜厚は、70nm程度となる。有機層30の膜厚が70nm程度と薄くなると、微小異物や発光素子10の間の分離膜といった僅かな凹凸を有機層30で被覆できなくなる場合がある。このため、発光素子10の間で、リークやショートが頻発する場合がある。発明者らの検討の結果、有機層30が90nm程度以下になると、膜厚が薄くなることで指数関数的に有機デバイス100の歩留まりが悪化することが分かった。そのため、発明者らは、後述する多層構造の干渉調整層50を導入することで、青色発光画素(以下、B画素と示す場合がある。)の色度を保持しながら、有機層30を厚膜化できる構造の検討を行い、その構成を見出した。
【0032】
本実施形態における有機層30の全層干渉のλ/4の干渉条件は、青色のスペクトルうち最少となる波長λbに対して、式(3)より
L=(φ/π)×(λb/4)×A・・・(4)
とする。ここで、係数Aは、有機層30の全層での干渉条件で、波長λbのλ/4の干渉条件よりも有機層30がどれだけ厚くなったかを表す指標となる係数である。上述のリークおよびショート防止の観点から、係数Aは1.2以上であってもよい。この場合、
L≧[{(φr+φs)/π}×(λb/4)]×1.2
と表せうる。さらに、係数Aは、1.3以上であってもよい。この場合、
L≧[{(φr+φs)/π}×(λb/4)]×1.3
と表せうる。また、さらに、係数Aは、1.35以上であってもよい。この場合、
L≧[{(φr+φs)/π}×(λb/4)]×1.35
と表せうる。有機層30の膜厚は、この係数Aと上述の屈折率との関係から、例えば、85nm以上であってもよい。また、有機層30の膜厚は、90nm以上であってもよい。さらに、有機層30の膜厚は、100nm以上であってもよい。有機層30の膜厚を厚膜化することによって、発光素子10を製造する際の歩留まりが向上しうる。
【0033】
しかしながら、式(4)の係数Aが大きくなればなるほど、有機層30の特定の波長の光を強め合う共振波長は、波長λbから長波長側にずれる。係数Aが、1.2程度の場合、共振波長は、緑色領域(λ=500nm)を強めることとなる。後述するように、本実施形態の多層構造の干渉調整層50を用いることによって、緑色領域を共振波長とする有機層30の膜厚であっても、青色領域の波長λbの光を強めることができる。
【0034】
次いで、干渉調整層50について説明する。本実施形態において、干渉調整層50に含まれる第1層51、第2層52、第3層53は、何れも誘電体によって構成される。特許文献1には、共振波長をλとしたときに、誘電体多層膜の各層の膜厚は、各層の光学距離が、(2m-1)×λ/4(mは非負整数)となる膜厚とすることが示されている。しかしながら、本実施形態において、共振波長が波長λbから離れた緑色領域にある有機層30に対して、波長λbの光を強めるために、特許文献1に示される膜厚の設定条件から外れるような条件が必要となる。そこで、本実施形態において、第1層51の光学距離L1を式(5)として設定する。
L1=(λb/4)×B・・・(5)
ここで、係数Bは、第1層51での干渉条件で、波長λのλ/4の干渉条件よりも第1層51がどれだけ共振波長を短波長側にシフトさせたかを表す指標となる係数である。また、本実施形態において、第1層51の膜厚変動による有機デバイス100の特性の変動を抑制する観点から、m=0とする。係数Bは、0.9以下であってもよい。この場合、
L1≦(λb/4)×0.9
と表せうる。このとき、上述の係数Aは、1.2以上であってもよい。さらに、係数Bは、0.8以下であってもよい。この場合、
L1≦(λb/4)×0.8
と表せうる。このとき、上述の係数Aは、1.3以上であってもよい。また、さらに係数Bは、0.75以下であってもよい。この場合、
L1≦(λb/4)×0.75
と表せうる。このとき、上述の係数Aは、1.35以上であってもよい。
【0035】
また、本実施形態において、第1層51の波長λbにおける屈折率nが、第2層52の波長λbにおける屈折率nよりも大きくてもよい。また、第3層53の波長λbにおける屈折率n3が、第2層52の波長λbにおける屈折率nよりも大きくてもよい。さらに、後述するが、第1層51の波長λbにおける屈折率nと、第2層52の波長λbにおける屈折率nの屈折率と、の差分が、0.58以上であってもよい。第1層51、第2層52、第3層53の材料に関しては、上述の屈折率の条件を満たせばよく、有機材料が用いられてもよいし、無機材料が用いられてもよい。より具体的には、第1層51および第3層53の材料には、屈折率が大きな材料が用いられうる。第1層51および第3層53の材料として、例えば、SiO(屈折率1.5程度)、SiN(屈折率1.9~2.1程度)、SiON(屈折率1.6~2.0程度)、酸化チタン(TiO)(屈折率2.5程度)、酸化インジウムスズ(ITO)(屈折率1.8~2.0程度)、硫化亜鉛(ZnS)(屈折率2.4程度)、Al(屈折率1.8程度)などの無機材料が用いられてもよいし、トリアミン誘導体などの有機材料が用いられてもよい。また、第2層52の材料には、屈折率が小さい材料が用いられうる。第2層52の材料として、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)(屈折率1.4程度)、フッ化リチウム(LiF)(屈折率1.4程度)などの無機材料が用いられてもよいし、有機化合物(例えば、フッ素樹脂(屈折率1.1~1.4程度)など)が用いられてもよい。また、第2層52は、これらの材料の混合物であってもよい。
【0036】
干渉調整層50に含まれる各層は、誘電体であることに限られることはない。次に、干渉調整層50のうち第1層51および第3層53が誘電体、第2層52が金属である場合について説明する。以下、干渉調整層50に含まれる各層が誘電体である上述の実施形態を「実施形態1」、以下に示す第2層52が金属である実施形態を「実施形態2」と示す場合がある。
【0037】
従来、強めたい波長(共振波長)をλとしたとき、半透過電極40と金属を用いた第2層52との間に設けられた第1層51の膜厚は、(2m-1)*λ/2(mは非負整数)となる膜厚とする。しかしながら、本実施形態において、上述のように共振波長が波長λbから離れた緑色領域にある有機層30に対して、波長λbの光を強めるために、第1層51の光学距離L1’を式(6)として設定する。
L1’=(λb/2)×C・・・(6)
ここで、係数Cは、第1層51の光学条件で、波長λbを強める干渉条件から第1層51がどれだけ短波側へシフトさせたかを表す指標となる係数である。係数Cは0.8以下であってもよい。この場合、
L1’≦(λb/2)×0.8
と表せうる。このとき、上述の係数Aは、1.2以上であってもよい。さらに、係数Cは、0.7以下であってもよい。この場合、
L1’≦(λb/2)×0.7
と表せうる。このとき、上述の係数Aは、1.3以上であってもよい。
【0038】
第2層52が金属の場合、第1層51の屈折率nは、表面プラズモン損失の観点から、1.6以上であってもよい。第1層51、第3層53の材料に関しては、上述の屈折率の条件を満たせばよく、有機材料が用いられてもよいし、無機材料が用いられてもよい。より具体的には、第1層51および第3層53の材料として、例えば、SiN、SiON、TiO、ITO、ZnSなどの無機材料が用いられてもよいし、トリアミン誘導体などの有機材料が用いられてもよい。
【0039】
第2層52は、その表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過反射層として機能する。第2層52の材料には、AgやAgとマグネシウム(Mg)との合金があげられるが、吸収の観点からAgが単体で用いられてもよい。しかし、Agの薄膜では成膜後に膜が凝集する場合があるため、第2層52の被覆率向上の観点から、他の金属との合金およびAg膜の下(第1層51の側)にカルシウム(Ca)などの金属膜を別途設けてもよい。この場合、これらの金属膜の積層構造を以って第2層52といえる。
【0040】
以上が本実施形態の詳細である。青色の発光の最も短波となるピーク波長λbの光を取り出したい場合、有機層30の膜厚が70nmと薄くなってしまい、微小異物や発光素子10の間の分離膜といった僅かな凹凸を有機膜で被覆できなくなるため、歩留まりが低下するという課題があった。一方で、λ/4の干渉条件で有機層30の膜厚を厚くすると、共振波長が長波側へシフトし、B画素の色度が悪化し、色再現範囲が低下する。つまり、有機層30の厚膜化による歩留まりの維持と、B画素の色度と、には明確なトレードオフの関係があった。本実施形態において、多層構造の干渉調整層50を半透過電極40の上に配す。さらに、干渉調整層50のうち第1層51の膜厚(光学距離)を青色の発光の最小のピーク波長λbよりも短い共振波長となる膜厚とすることによって、有機層30の厚膜化にも関わらず、青色の色度を保持できることを見出した。つまり、有機層30と半透過電極40の上に形成される干渉調整層50の反射面との間の光学距離の共振波長を、波長λbよりも短くする。ここで、干渉調整層50の反射面について説明する。後述するように、第2層52は、第1層51よりも光の取り出しに対する影響が比較的小さく、また、第3層53は可視光波長よりも厚く、光学干渉に寄与しないと考える。このため、有機層30と半透過電極40の上に形成される干渉調整層50の反射面とは、第1層51と第2層52との界面(以下、反射面54と示す場合がある。)のことでありうる。これによって、有機層30の厚膜化によって歩留まりを維持し、有機デバイス100の信頼性の向上と色再現範囲とが両立できることを見出した。また、色再現性を向上するためには、青色の色度を向上させることが適している。そのため、例えば、青色発光材料の発光スペクトルが、第1ピーク、および、第1ピークよりも小さい第2ピークを有する場合に、発光素子の干渉スペクトルの極小値の波長が、第1ピークの波長よりも、第2ピークの波長に近い構成であってもよい。第2ピークを弱める構成とすることで、青色の色度を向上させることができる。
【0041】
次いで、シミュレーションを用いて本実施形態の効果について説明する。図3は、本実施形態に用いた赤色を発光する発光ドーパント(以下、RDと示す場合がある。)、緑色を発光する発光ドーパント(以下、GDと示す場合がある。)、青色を発光する発光ドーパント(以下、BDと示す場合がある。)のPLスペクトルである。それぞれのPLスペクトルは、最大ピーク値で規格化している。図4は、本実施形態に用いたカラーフィルタ60R、60G、60Bの透過率と波長の関係である。図3に示される各色のPLスペクトルおよび図4に示されるカラーフィルタ60の各透過率は、例示されたスペクトルを有する材料に限定されず、色域(gamut)などの発光素子10の特性に応じて、適宜、組み合わせて用いればよい。
【0042】
本実施形態では、半透過電極40および正孔注入輸送層31、電子注入輸送層33の膜厚と、BD、GD、RDのそれぞれのエキシトン生成割合γ、γ及びγと、を変数として多目的最適化計算を行った。図18に各電荷輸送層膜厚とBDおよびGDのエキシトン生成割合γの下限値と上限値が示される。以下の解析において、特に言及しない限り、発光層32は、図1に例示したように発光層32aと発光層32bとの積層構成とし、発光層32aはGDとRDとの混合ドーパント(以下、GD+RDと示す場合がある。)を含む発光層、発光層32bをBDを含む発光層とした。発光層32aおよび発光層32bの膜厚は、それぞれ10nmとした。本実施形態において、発光層32は、青色を発光する発光層(BDを含む発光層)を含み、かつ、発光層32全体として白色光を発光すればよく、積層順や構成は、発光素子10に求められる性能に応じて適当な構成を用いることができる。つまり、例えば、発光層32aがBD、発光層32bがGDとRDの混合ドープでもよい。ここでは、BD、GD、RDのバルクでの発光収率をすべて0.82と仮定した。ここで、バルクでの発光収率は、光学干渉が存在しない場合における発光ドーパントの発光収率である。
【0043】
また、本解析の反射電極20は、特に言及しない限り、Al/Tiの積層構造とした。この場合、Alと有機層30との間に配されるバリアメタルであるTiの膜厚は10nmとした。半透過電極40は、MgAg合金電極とした。また、上述の通り、取り出したい波長λb=450nmとし、式(3)のλ/4の干渉条件は、反射電極20がAl電極(以下、Al/Ti積層電極のことを単にAl電極と示す場合がある。)の場合、約145nmとなる。また、反射電極20がAg電極の場合、λ/4の干渉条件は、約135nmとなる。式(4)に示される有機層30の全層での係数Aは、有機層30の光学距離Lとλbとに対するλ/4の干渉条件から算出することができる。
【0044】
光学シミュレーションは、CPS法を用いた。CPS法は、有機ELの分野で広く知られた手法である。多目的最適化アルゴリズムは、NESA+で行い、目的関数として、係数Aが最大、B画素の色度v’が最小となるように多目的最適化計算を行った。多目的最適化の制約関数は、赤色発光画素(以下、R画素と示す場合がある。)の色度u’>0.45、緑色発光画素(以下、G画素と示す場合がある。)の色度u’<0.13とした。また、キャリアバランスを1とし、エキシトン生成割合の和が1(γ+γ+γ=1)となるようそれぞれのγを調整した。
【0045】
パネル消費電力の計算は、それぞれの画素の開口率を50%とし、発光素子10の開口率を赤色、緑色、青色とも一律の16.7%とした。有機デバイス100が、パネルサイズ0.5インチ、色温度6800Kの白色光で且つ輝度200cd/cmを放射するのに必要な電力を計算した。具体的には、白色の色度および発光効率を求め、赤色、緑色、青色の必要電流を算出した。本解析では、駆動電圧を10Vと仮定し、必要電流値から消費電力の計算を行った。
【0046】
まず、実施形態1に関する解析結果について説明する。最初に、多層構造の干渉調整層50が、3層構成ではじめて効果を発現しうることを示す。図5に、図19に示す干渉調整層50の各層の組み合わせに対する係数AとB画素の色度v’のパレート最適解を示す。図19に示されるように、D100は、多層構造の干渉調整層50がない(封止層として機能する第3層53のみの)比較例の発光素子、D101、D102は、第2層52が配されない比較例の発光素子である。また、図19に示される値は、λb=450nmにおける各層の屈折率である。ここで消光係数κは十分小さく、光学特性に影響しないので省略した。また、本実施形態の実施例として、D110とD111を例示している。
【0047】
図5では、BD、GD、RDのそれぞれのエキシトン生成割合γ、γ、γを変数として計算を実施した。つまり、係数Aが最大、B画素の色度v’が最小となるようRGBの発光割合が最適化された結果である。
【0048】
図5に示されるように、干渉調整層50を設けていないD100では、B画素の色度v’=0.16において係数A=1、V画素の色度v’=0.19において係数A=1.2というように、係数Aが大きくなるにつれ、(つまり、有機層30の総膜厚が大きくなるにつれ)、B色度v’が増大することがわかる。B画素の色度v’は、sRGBでは0.158であることを踏まえると、値が大きくなるにつれ色再現範囲が低下することを意味している。つまり、係数AとB画素の色度v’において、明確なトレードオフの関係があることがわかる。以下、B画素の色度の指標値をv’=0.160として議論を行う。
【0049】
第2層52が配されないD101、102は、v’=0.160でそれぞれ、A=1.05、A=1.1となり、B画素の色度v’が同じ値のD100と比較して係数Aの増加は小さい。つまり、D101、D102においても、係数AとB画素の色度v’のトレードオフの関係は、D100とほぼ変わらないことがわかる。
【0050】
一方、本実施形態の実施例であるD110、D111は、B画素の色度v’=0.160で、それぞれ係数A=1.25(D111)、係数A=1.3(D110)となり、係数Aが1.1以下となる比較例に比べ、係数Aが増加することがわかる。つまり、干渉調整層50として第1層51、第2層52および第3層53を配することで、係数AとB画素の色度v’とのトレードオフの関係に変化が生じうる。結果として、有機層30の膜厚を厚くしても、B画素の色度v’増加を抑えることができ、有機デバイス100の信頼性の向上と良好なB画素の色度v’の両立ができることがわかる。
【0051】
次に、本実施形態の効果を発現する第1層51、第2層52の膜厚に関して説明する。第3層53は、上述のように防湿性を保つ封止層として機能するために1μm以上の膜厚を有することが一般的である。第3層53は、可視光波長よりも厚いため、光学干渉に寄与しない非干渉層として考えることができるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
図6は、図20に干渉調整層50の各層の屈折率を変化させたときの実施例D112~D114における係数AとB画素の色度v’のパレート最適解である。また、図7は、図6のパレート最適解の素子構成における第1層51の係数Bである。ここでは、第1層51の膜厚に関する関係を明らかにするため、BD、GD、RDのエキシトン生成割合γ=0.48、γ=0.28、γ=0.24と固定し計算を実施した。
【0053】
図6に示されるD112、D113、D114は、それぞれB画素の色度v’=0.160において係数A=1.55(D112)、係数A=1.38(D113)、係数A=1.25(D114)となる。つまり、D112、D113、D114は、係数A=1であった比較例のD100と比較して係数Aが大きくなることがわかる。つまり、B画素の色度v’を保持しながら、有機層30の膜厚を厚くすることができることを意味している。
【0054】
図7には、図6のパレート最適解における第1層51の係数Bが示される。つまり、有機層30の係数Aと第1層51の係数Bとの関係である。図7から、係数Aが1の場合、第1層51の係数Bは約1となる。つまり、有機層30の膜厚がλb/4の干渉条件となる膜厚において、第1層51の最適膜厚はλb/4である。一方、係数Aが大きくなると、第1層51の係数Bの最適値は小さくなる。つまり、有機層30の膜厚がλb/4の共振波長よりも厚くなる場合、第1層51の膜厚は、λb/4の光学条件よりも小さくなるように第1層51の膜厚を設定するとよい。換言すると、第1層51の共振波長が、波長λbよりも短波長であってもよい。本実施形態において、歩留まりの観点から、係数Aは1.2以上とする場合、図7の計算結果から第1層51の係数Bは0.9以下としてもよい。さらに、有機層30の係数Aが1.3以上で、かつ、第1層51の係数Bが0.8以下としてもよい。第1層51に用いられる上述の材料の屈折率は、1.5~2.4程度である。そのため、第1層51の膜厚は、係数Bと屈折率との関係から、例えば、50nm以下としてもよい。また、第1層51の膜厚は、40nm以下としてもよい。第1層51の膜厚は、例えば、図18に示されるように、10nm以上かつ250nm以下の範囲でありうる。また、第1層51として、例えば上述したSiN、SiON、TiO、ITO、ZnSなど、屈折率が1.6以上の材料が用いられてもよい。
【0055】
図8は、図6のパレート最適解における有機層30の係数Aと、式(4)から求めた第2層52の係数Bとの関係である。第2層52に関しては、係数Aに対する相関は、第1層51よりも影響が小さく、例えば、第2層52の係数Bは0.6以上かつ1.4以下としてもよい。つまり、第2層52の膜厚は、λb/4の光学条件よりも小さくなるように設定されてもよいし、λb/4の光学条件よりも大きくなるように設定されてもよい。第2層52に用いられる上述の材料の屈折率は、1.3~1.5程度である。そのため、第2層52の膜厚は、係数Bと屈折率との関係から、例えば、図18に示されるように、10nm以上かつ300nm以下の範囲でありうる。
【0056】
図9図10は、本実施形態における発光素子10の共振強度の波長依存性を表した図である。図9には、比較例として第1層51、第2層52を設けないD100-a、第1層51、第2層52の係数B=1のD114-aの共振強度の波長依存性の計算結果が示されている。また、図9には、D100-a、D114-aの有機層30の発光層32から出射された光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率の波長依存性の計算結果を示が示されている。図10には、比較例のD100-aおよび本実施形態の実施例である第1層51の係数B=0.64のD114-bの共振強度の波長依存性が示されている。また、図10には、D100-a、D114-bの有機層30の発光層32から出射された光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率の波長依存性の計算結果が示されている。図21は、D100-a、D114-a、D114-bの有機層30の係数A、第1層51の係数B、第2層52の係数Bをまとめたものである。発光素子10の正孔注入輸送層31、電子注入輸送層33、半透過電極40の膜厚はともに、それぞれ20nm、54nm、10nmとして計算した。この場合、有機層30の係数Aは1.26となる。また、第1層51、第2層52、第3層53の波長λb=450nmにおける屈折率は、それぞれ2.2、1.56、1.99とした。D114-a、D114-bの第1層51の係数Bは、上述したように、それぞれ1.00、0.64である。
【0057】
まず、第1層51および第2層52が配されないD100-aは、有機層30の係数A=1.26であり、緑色領域の光を強める光学干渉条件となるため、B画素の色度v’は、0.205となった。第1層51の係数Bが1.0である比較例のD114-aのB画素の色度v’は、0.188であった。一方、本実施形態の実施例であるD114-bのB画素の色度v’は0.160であった。上述したように、有機層30の係数Aが大きい発光素子において、第1層51の係数Bを小さくすることでB画素の色度v’が改善することがわかった。
【0058】
図9に示されるように、D100-aでは、反射電極20と半透過電極40との間の共振強度は、有機層30の係数Aが大きく(膜厚が厚く)なるにつれて波長が長波長化し、A=1.26においては、波長約500nmの光を強める光学干渉となる。D114-aもまた、有機層30の係数A=1.26であるため、反射電極20と半透過電極40との間の共振強度は、同様に波長500nm付近に共振波長を有することがわかる。図9には、D100-a、D114-aの有機層30の発光層32から出射される光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率が、さらに示されている。第1層51、第2層52が配されないD100-aの反射率は、波長依存性が見られない。一方、第1層51の係数Bが1.00であるD114-aの場合、干渉調整層50の多重干渉の影響を受け、反射率のピーク波長は442nmとなり、青色領域の反射率が向上する。つまり、有機層30の上に干渉調整層50が配されることによって、有機層30の発光層32から出射される光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率の共振波長が442nmとなる。そのため、D114-aの青色領域の共振強度が増加し、発光のピーク波長は短波長化し480nmになるが、450nmには届かない。そのため、図21に示されるように、B画素の色度は、(u’、v’)=(0.150、0.188)となり、干渉調整層50によるB画素の色度改善の効果は小さい。
【0059】
一方、本実施形態の実施例であるD114-bの干渉条件が、図10に示される。第1層51の係数Bは0.64であり、反射面54と半透過電極40と接の間の光学距離の共振波長が、BDの発光の最短波長λb=450nmのよりも短波長の側に共振を有する。このため、有機層30の発光層32から出射した光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率のピーク波長は、425nm以下となり、また、反射率の極小値が、470~500nmとなる。そのため、D114-b全体の共振波長は、干渉調整層50が配されないD100-aの500nmから、450nmまで短波長化することができる。また、光学干渉の極小値が480nmから500nmにあるため、素子全体の共振強度は、青色領域で狭帯域化することがわかる。その結果、図21に示されるように、D114-bのB画素の色度は、(u’、v’)=(0.165、0.160)となり、B画素の色度が改善する。発明者らが検討を重ねた結果、有機層30の上に形成される干渉調整層50の第1層51と第2層52との界面である反射面54と半透過電極40との間の光学距離の共振波長が、波長λbよりも短波長となるとB画素の色度が改善される。より具体的には、有機層30の共振波長が、510nm以上かつ550nm以下、有機層30と反射面54との間の光学距離の共振波長が435nm以下、有機層30と反射面54との間の光学距離における光学干渉の極小値が480nm以上かつ510nm以下となると、上述の効果が高いことが分かった。
【0060】
特許文献1に示されるように、第1層51、第2層52の膜厚を(2m-1)λb/4(m=0、1、・・・)とした場合、D114-aのように、有機層30の係数Aが大きい素子において、B画素の色度が低下する。一方、本実施形態では、第1層51の係数Bを小さくする、例えば、B<0.8以下とすることによって、有機層30の係数Aが大きい発光素子10においても、B画素の色度を保持することが可能となる。
【0061】
次に、実施形態1における干渉調整層50の各層の屈折率に関する説明を行う。図11は、δn12と有機層30の係数Aとの関係を示した図である。ここで、δn12は、それぞれ波長λb=450nmにおける第1層51の屈折率nと第2層52の屈折率nとの差分(δn12=n-n)である。図11の有機層30の係数Aの値は、パレート最適解から求めたB画素の色度v’=0.160となる発光素子10の値である。つまり、B画素の色度v’=0.160を満たすことができる発光素子10の有機層30の係数Aの最大値である。
【0062】
図11は、δn12が0(つまり、第1層51、第2層52が配されない条件。)で有機層30の係数A=1付近であるのに対して、δn12が大きくなるにつれ、係数Aの値が、増加する傾向があることがわかる。特に、δn12が0.6付近で屈曲点を持ち、δn12=0.6以上の領域ではその傾きが大きくなる。つまり、干渉調整層50の導入効果がより効果的であることを意味している。発明者らが検討を重ねたところ、第1層51の係数B<0.9を満たすことができれば、δn12>0.2であればよいことが分かった。また、δn12≧0.58であれば、より多層構造の干渉調整層50の導入の効果を得られることが分かった。また、第3層53に関しては、上述の通り、第3層53の波長λbにおける屈折率n3が、第2層52の波長λbにおける屈折率nよりも大きくてもよい。
【0063】
次に、実施形態1における反射電極20について説明を行う。図12は、図11に示される発光素子10の素子構成のパレート最適解の構成における、第1層51と第2層52との屈折率差δn12と、消費電力と、の関係を示した。ここでは、目的関数を、消費電力を最小、有機層30の係数Aを最大化、という2条件の多目的最適化を行っている。制約関数は、R画素の色度u’>0.45、G画素の色度u’<0.13とし、B画素の色度を0.155≦v‘≦0.165とした。図の各プロットは、B画素の色度v’=0.160となる素子構成における消費電力である。つまり、有機層30の係数Aが最大、消費電力が最小、という項の重みづけが1:1となる素子構成である。図12の中実の各プロットは、反射電極20がAl電極の場合、中抜きの各プロットは、反射電極20がAg電極の場合をそれぞれ表している。
【0064】
図12から、反射電極20がAg電極の場合、第1層51の屈折率nが高い発光素子10においても消費電力は約80mWとなり、反射電極20がAl電極の場合に比べ消費電力が高いことがわかる。この消費電力の増加は、反射電極20として用いたAg電極由来の表面プラズモン損失に起因している。より具体的には、反射電極20として用いられるAg電極の表面プラズモンと半透過電極40で発生する表面プラズモンとの波数の差が大きく、発光層32での表面プラズモンが作る電場が大きくなるためである。そのため、反射電極20は、プラズモン周波数が大きなAl電極がより適しているといえる。
【0065】
次に、実施形態2の解析結果について説明する。まず、第1層51と第2層52との導入効果について説明する。本解析では、第1層51は誘電体、第2層52は金属(Ag)としてシミュレーションを行った以外、実施形態1で述べた方法と同様の計算を行った。
【0066】
図13には、実施形態2での有機層30の係数AとB画素の色度v’とのパレート最適解が示される。ここで、第1層51の膜厚に関する有機層30の係数AとB画素の色度v’との関係を明らかにするため、BD、GD、RDのエキシトン生成割合γ、γ、γをそれぞれ0.48、0.28、0.24と固定し計算を実施した。図12は、比較例として第1層51、第2層52が配されない上述の素子D100、本実施形態の実施例としてD201、D202、D203が示されている。D201、D202、D203は、それぞれ、第1層51の屈折率が1.40、1.99、2.40の場合のパレート解である。図13からわかるように、B画素の色度v’=0.16で比較すると、比較例のD100では有機層30の係数A=1となる。これに対して、実施形態2の実施例D201、D202、D203では有機層30の係数A≧1.4となり、多層構造の干渉調整層50の挿入効果が高いことがわかる。有機層30の膜厚は、係数Aと有機層30の屈折率との関係から、例えば、85nm以上であってもよいし、90nm以上であってもよい。さらに、有機層30の膜厚は、100nm以上であってもよい。有機層30の膜厚を厚膜化することによって、発光素子10を製造する際の歩留まりが向上しうる。
【0067】
図14には、図13のパレート最適解の構成における、式(6)から求めた第1層51の係数Cを示した。図12から係数Cの値は、有機層30の係数Aが大きくなるほど小さくなることがわかる。つまり、有機層30の膜厚が、λb/4の干渉条件よりも厚くなる場合、第1層51の膜厚はλb/2の光学条件より小さくなるように第1層51の膜厚を設定するとよいことが分かった。本実施形態において、歩留まりの観点から、有機層30の係数Aを1.2以上とした場合、第1層51の係数Cは0.8以下としてもよい。さらに、有機層30の係数Aを1.3以上とした場合、第1層51の係数Cは0.75以下としてもよい。第1層51の膜厚は、係数Cと上述の第1層51に用いられる材料の屈折率との関係から、110nm以下であってもよい。また、第1層51の膜厚は、90nm以下であってもよい。さらに、第1層51の膜厚は、70nm以下であってもよい。また、第2層52を構成するAg層の膜厚は、10nm以上であればよく、発光素子10の色再現範囲などの観点から、10nm以上かつ16nm以下の範囲であってもよい。また、図18に示されるように、第2層の膜厚は、8nm以上かつ17nm以下の範囲であってもよく、この範囲の中で適宜決定すればよい。
【0068】
次に、実施形態2の効果について説明する。図15に、図22に示す比較例のD100-aと本実施形態の実施例のD202-aの共振強度の波長依存性を示している。図15、22において、正孔注入輸送層31、電子注入輸送層33、半透過電極40の膜厚はともに、それぞれ25nm、54nm、10nmとして計算を行った。この場合、有機層30の係数Aは1.31となる。D202-aの第1層51の屈折率nは、波長λb=450nmにおいて1.98であり、第1層51の係数Cは0.67である。この場合、図22に示されるように、B画素色度は(u’、v’)=(0.163、0.162)であり、第1層51、第2層52を含む多層構造の干渉調整層50の導入効果が発現しているといえる。
【0069】
有機層30の係数Aが1の場合、反射電極20と半透過電極40との間の共振強度は、波長450nmの光に対してピーク強度を有する。しかしながら、係数Aが大きくなるにつれ共振強度のピーク波長は長波長化し、係数A=1.31においては、波長約512nmの光を強めることとなる。図15の実線は、有機層30の発光層32のBDの発光面から出射された光の有機層30よりも干渉調整層50の側における反射率である。第1層51の係数Cが1の場合、450nm付近に反射率のピークが発生する。図15に示されるように、第1層51の係数Cが0.67の場合、半透過電極40によって反射される光のピーク波長は短波側にシフトし、400nm以下になる。その結果、本実施形態の第1層51、第2層52が配された場合の共振強度は、大幅に短波長の側にシフトし、そのピーク波長は450nmとなる。また、図10に示される実施形態1の場合と同様に、反射率の極小値が500nm付近となる。このため、D202-aの共振強度は、青色領域で狭帯域化する。その結果、B画素の色度v’は有機層30の膜厚が厚膜化した場合であっても、色度を保持しやすい。つまり、本実施形態においても、有機デバイス100の信頼性の向上と色再現性の向上とを両立できる。
【0070】
実施形態2において、第1層51が、上述の係数Cを満たせば、有機層30の係数Aに対する第1層51の屈折率の依存性は小さい。しかしながら、実施形態2の場合、第2層52が金属であることに起因して、消費電力に関して第1層51の屈折率依存性が発現する。図16に示される第1層51の屈折率の依存性から、実施形態2の特性をより向上させる構成について説明する。図16には、図22の範囲で求めたパレート最適解の構成における、第1層51の屈折率nと消費電力との関係が示される。ここでは、目的関数を、消費電力を最小、有機層30の係数Aを最大化、という2条件の多目的最適化を行っている。制約関数は、R画素の色度u’>0.45、G画素の色度u’<0.13とし、B画素の色度を0.155≦v’≦0.165とした。図16の各プロットは、B画素の色度v’=0.160となる素子構成における消費電力である。つまり、有機層30の係数Aが最大、消費電力が最小、という項の重みづけが1:1となる素子構成である。図16の中実の各プロットは、反射電極20がAl電極(Al/Ti積層電極)の場合、中抜きの各プロットは、反射電極がAg電極の場合をそれぞれ表している。
【0071】
反射電極20がAg電極の場合、第1層51の屈折率nを2.44としても、消費電力は80mWとなり、反射電極20としてAl電極を用いた場合に比べ消費電力が高いことがわかる。この消費電力の増加は、反射電極20として用いたAg電極由来の表面プラズモン損失に起因している。より具体的には、反射電極20として用いられるAg電極の表面プラズモンと半透過電極40および第2層52で発生する表面プラズモンの波数の差が大きく、発光層32での表面プラズモンが作る電場が大きくなるためである。そのため、反射電極20は、プラズモン周波数が大きなAl電極がより適している。
【0072】
次いで、反射電極20としてAl電極を用いた場合について説明する。反射電極20としてAl電極を用いた場合、消費電力は、反射電極20としてAg電極を用いた場合の消費電力に比べ小さい。反射電極20としてAl電極を用いた発光素子10における第1層51の屈折率nの依存性をみると、第1層51の屈折率nが2.44、2.00、1.60で、それぞれ58mW、64mW、72mWというように、屈折率nが低下することによって、消費電力が増加する傾向がある。さらに、屈折率1.40では、消費電力の増加比率が変化し、第1層51の屈折率n=1.40の場合、消費電力は86mWとなる。つまり、第1層51の屈折率nが1.6付近で、消費電力は、屈曲点を持つことが図16からわかる。
【0073】
図17には、図16の反射電極20がAl電極(Al/Ti積層電極)の場合におけるD201、D202、D203のエネルギ散逸スペクトルを示した。第1層51の屈折率nは、それぞれ1.40、1.99、2.40であり、それぞれの膜厚構成はB画素の色度v’=0.160となる膜厚構成として計算を行った。横軸は、規格化波数であり、発光層32における波数で規格化しており、1以上となる領域が表面プラズモン損失を表している。
【0074】
図17には、D201、D202、D203のTM-1モードと呼ばれる表面プラズモンモードが示されている。半透過電極40と第2層52でそれぞれ発生するLong Range Surface Plasmon(LRSP)、および、反射電極20として用いられるAl電極で発生する表面プラズモンがAntisymmetricに結合したモードである。図16で示したD201における消費電力の増加は、第1層51の屈折率nが低いことに起因した、TM-1モードの増加であることがわかる。
【0075】
このように、TM-1モード抑制の観点から、第1層51の屈折率nは、値が大きいほどよい。また、図16に示される結果から、第1層51には、消費電力の屈曲点よりも高い、屈折率が1.6以上となる材料が用いられてもよい。さらに、消費電力抑制の観点から、第1層51には、屈折率が1.9以上の材料が用いられてもよい。
【0076】
以下、本実施形態の有機デバイス100を表示装置、撮像装置、携帯機器、照明装置、移動体に適用した応用例について図23~28を用いて説明する。図23は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と、下部カバー1009と、の間に、タッチパネル1003、表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、バッテリー1008を有していてもよい。タッチパネル1003および表示パネル1005は、フレキシブルプリント回路FPC1002、1004が接続されている。回路基板1007には、トランジスタなどの能動素子が配される。バッテリー1008は、表示装置1000が携帯機器でなければ、設けなくてもよいし、携帯機器であっても、この位置に設ける必要はない。表示パネル1005に、有機層30が有機ELなどの有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。表示パネル1005として機能する有機デバイス100は、回路基板1007に配されたトランジスタなどの能動素子と接続され動作する。
【0077】
図23に示される表示装置1000は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられてもよい。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してもよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってもよい。
【0078】
図24は、本実施形態の有機デバイス100を用いた撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、筐体1104を有してよい。表示部であるビューファインダ1101に、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。この場合、有機デバイス100は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示などを表示してもよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性などであってよい。
【0079】
撮像に適するタイミングはわずかな時間である場合が多いため、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、上述の有機層30が有機発光材料を含む有機デバイス100がビューファインダ1101に用いられうる。有機発光材料は応答速度が速いためである。有機発光材料を用いた有機デバイス100は、表示速度が求められる、これらの装置に、液晶表示装置よりも適して用いることができる。
【0080】
撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、光学部を通過した光を受光する筐体1104内に収容されている撮像素子(不図示)に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。
【0081】
有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100、は、携帯機器の表示部に適用されてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォンなどの携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイなどが挙げられる。
【0082】
図25は、本実施形態の有機デバイス100を用いた携帯機器の一例を表す模式図である。携帯機器1200は、表示部1201と、操作部1202と、筐体1203を有する。筐体1203には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部1202は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部1202は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する携帯機器は通信機器ということもできる。表示部1201には、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。
【0083】
図26(a)、26(b)は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の一例を表す模式図である。図26(a)は、テレビモニタやPCモニタなどの表示装置である。表示装置1300は、額縁1301を有し表示部1302を有する。表示部1302に、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100、100’、300、400が適用できる。表示装置1300は、額縁1301と表示部1302とを支える土台1303を有していてもよい。土台1303は、図26(a)の形態に限られない。例えば、額縁1301の下辺が土台1303を兼ねていてもよい。また、額縁1301および表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。
【0084】
図26(b)は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の他の例を表す模式図である。図26(b)の表示装置1310は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第1表示部1311、第2表示部1312、筐体1313、屈曲点1314を有する。第1表示部1311と第2表示部1312とには、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。第1表示部1311と第2表示部1312とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第1表示部1311と第2表示部1312とは、屈曲点で分けることができる。第1表示部1311と第2表示部1312とは、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第1表示部と第2表示部とで1つの画像を表示してもよい。
【0085】
図27は、本実施形態の有機デバイス100を用いた照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401と、光源1402と、回路基板1403と、光学フィルム1404と、光拡散部1405と、を有していてもよい。光源1402には、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。光学フィルム1404は光源の演色性を向上させるフィルタであってよい。光拡散部1405は、ライトアップなど、光源の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。照明装置1400は、光学フィルム1404と光拡散部1405との両方を有していてもよいし、何れか一方のみを有していてもよい。
【0086】
照明装置1400は例えば室内を照明する装置である。照明装置1400は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。それらを調光する調光回路を有してよい。照明装置1400は、光源1402として機能する有機デバイス100に接続される電源回路を有していてもよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。また、照明装置1400は、カラーフィルタを有してもよい。また、照明装置1400は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコンなどが挙げられる。
【0087】
図28は、本実施形態の有機デバイス100を用いた車両用の灯具の一例であるテールランプを有する自動車の模式図である。自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作などを行った際に、テールランプ1501を点灯する形態であってもよい。本実施形態の有機デバイス100は、車両用の灯具としてヘッドランプに用いられてもよい。自動車は移動体の一例であり、移動体は船舶やドローン、航空機、鉄道車両などであってもよい。移動体は、機体とそれに設けられた灯具を有してよい。灯具は機体の現在位置を知らせるものであってもよい。
【0088】
テールランプ1501に、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が適用できる。テールランプ1501は、テールランプ1501として機能する有機デバイス100を保護する保護部材を有してよい。保護部材は、ある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネートなどで構成されてもよい。また、保護部材は、ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体などを混ぜてよい。
【0089】
自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してもよい。窓は、自動車の前後を確認するための窓であってもよいし、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、有機層30が有機発光材料を含み発光装置として機能する上述の有機デバイス100が用いられてもよい。この場合、有機デバイス100が有する電極などの構成材料は透明な部材で構成される。
【0090】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0091】
10:発光素子、20:反射電極、30:有機層、32:発光層、40:半透過電極、50:干渉調整層、51:第1層、100:有機デバイス
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