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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/08 20060101AFI20240705BHJP
   H03K 17/082 20060101ALI20240705BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20240705BHJP
   H03K 17/567 20060101ALI20240705BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H03K17/08 Z
H03K17/082
H03K17/16 M
H03K17/567
H03K17/16 Z
H02M1/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023123895
(22)【出願日】2023-07-28
(62)【分割の表示】P 2019234486の分割
【原出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2023138603
(43)【公開日】2023-10-02
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109014
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 充
(74)【代理人】
【識別番号】100141988
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182154
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘生
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-339152(JP,A)
【文献】特開2013-026838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0352316(US,A1)
【文献】特開2002-171746(JP,A)
【文献】特開2016-086511(JP,A)
【文献】特開2000-232347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/08
H03K 17/082
H03K 17/16
H03K 17/567
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力半導体素子を駆動するゲート駆動回路であって、
前記電力半導体素子がターンオフする際、前記電力半導体素子のコレクタ-エミッタ間電圧が所定の電圧に到達した場合、前記電力半導体素子のコレクタ-エミッタ間電圧を前記所定の電圧でクランプするとともに、前記電力半導体素子のゲート端子に所定の電流を供給するアクティブクランプ回路、
を備え、前記アクティブクランプ回路は、
前記電力半導体素子のコレクタ端子に一方端が接続される定電圧ダイオードと、
前記定電圧ダイオードの他方端と、マイナス電源との間に接続されたインピーダンス回路と、
前記電力半導体素子の前記ゲート端子に接続される出力端子と、
一方端が前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点に接続し、他方端が、前記出力端子に接続されるダイオードと、
一方端が前記電力半導体素子の前記ゲート端子に接続し、他方端がマイナス電源に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、外部からの開閉信号に基づき、前記前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第1スイッチと第1抵抗との直列回路からなる第1引き抜き回路と、
一方端が前記電力半導体素子の前記ゲート端子に接続し、他方端がマイナス電源に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、前記開閉信号に基づき、前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第2スイッチと第2抵抗との直列回路からなる第2引き抜き回路と、
前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点の電圧に基づき、前記電力半導体素子のターンオフする際におけるコレクタ電圧の時間による上昇率を求め、前記上昇率が所定の閾値を超えた場合に、スイッチ開信号を出力する検出回路と、
を有し、
前記定電圧ダイオードは、その両端子間に並列容量が存在し、
前記インピーダンス回路は、少なくとも抵抗とコンデンサの並列回路を含み、
前記第2スイッチは、前記スイッチ開信号を受信すると、導通状態から非導通状態となることによって、前記電力半導体素子のゲート電荷を引き抜くための抵抗値を前記第1抵抗と前記第2抵抗の並列値から、前記第1抵抗の値に上げることによって、前記ゲート電荷の前記マイナス電源への引き抜きを低下させて、前記電力半導体素子のターンオフを緩和しつつゲート電荷を引き抜くことを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項2】
請求項1記載のゲート駆動回路であって、
前記アクティブクランプ回路は、
前記電力半導体素子をターンオフするときに発生するサージ電圧が、前記電力半導体素子のコレクタ-エミッタ間電圧の最大定格電圧に又はその近傍電圧となったとき、その電圧でコレクタ-エミッタ間電圧をクランプし、また同時に前記電力半導体素子のゲートに電流を供給することでサージ電圧を低減し、電圧破壊を防止するアクティブクランプ回路であることを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項3】
請求項1記載のゲート駆動回路であって、
前記定電圧ダイオードの前記並列容量は、前記定電圧ダイオードに寄生する並列容量を含む
ことを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のゲート駆動回路であって、
第2引き抜き回路から、第n引き抜き回路までのn-1種類の第n引き抜き回路と、
第2検出回路から、第n検出回路までのn-1種類の第n検出回路と、
を備え、前記nは3以上の自然数であり、
前記第n引き抜き回路は、前記電力半導体素子の前記ゲート端子に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、前記開閉信号に基づき、前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第nスイッチと第n抵抗との直列回路からなり、
前記第n検出回路は、前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点の電圧に基づき、前記電力半導体素子のターンオフする際におけるコレクタ電圧の時間による上昇率を求め、前記上昇率が所定の第nの閾値を超えた場合に、第nのスイッチ開信号を出力し、
前記第nスイッチは、前記第nのスイッチ開信号を受信すると、導通状態から非導通状態となることによって、前記電力半導体素子のゲート電荷を引き抜くための抵抗値を上げて、前記電力半導体素子のターンオフを緩和しつつゲート電荷を引き抜くことを特徴とするゲート駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュール等の電力半導体スイッチを駆動するためのゲート駆動回路に関する。特に、IGBTのコレクタ-エミッタ耐圧の保護に関する。
【背景技術】
【0002】
<背景>
本発明は、IGBTに代表される大電力半導体スイッチの駆動技術に関するものである。IGBT等の半導体スイッチは数100~数1000Aの大電流、数100~1000V以上の高電圧をスイッチングするため、IGBT等半導体スイッチが破壊してしまうと、その影響は大きく、半導体スイッチの周囲にまで及ぶ。すなわち、IGBTそのものだけでなくその周辺の制御回路も破壊され、システム回路全体の故障を引き起こす恐れがある。
そこで、これらIGBT等の半導体スイッチを破壊から保護するため、いろいろな保護手段が採用されてきた。半導体は、電流、電圧、電力、温度に対して最大定格が決められており、これらの最大定格値を一瞬でも超えると、その半導体スイッチが破損する可能性がある。
本発明は、IGBT等の半導体スイッチの最大定格の内、コレクタ-エミッタ間電圧を最大定格値以内で使用するための技術に関するものである。
【0003】
<従来の保護手段>
IGBT等の半導体スイッチがON/OFFを繰り返している場合において、IGBTが飽和状態のとき、そのコレクタ端子に流れる電流は、IGBTのコレクタ端子に接続した配線や負荷のインダクタンス成分に電磁エネルギーを蓄積する。その後、IGBTがターンオフすると、蓄積された電磁エネルギーはサージ電圧としてIGBTのコレクタ-エミッタ間に発生する。このサージ電圧Eは、配線や負荷のインダクタンス成分をLとし、コレクタ端子に流れる電流をI(t)としたとき、下記の式(1A)で表される。
【0004】
【数1A】

サージ電圧Eは、インダクタンス成分の値が大きいほど、また、電流の変化率が大きいほど高い電圧となる。このサージ電圧Eの電圧が、IGBTの最大定格を超えると、IGBTを破壊する。そこで、サージ電圧Eを最大定格未満に抑え込むために、サージ電圧Eが最大定格を超える前に、サージ電圧Eを低減する措置を講じる必要がある。
【0005】
従来から、このサージ電圧Eを低減する方法として、図6に示すようなスナバ回路が使用されている。図示されていない駆動回路が出力する制御信号は、IGBT10のゲート端子に供給され、IGBT10のON/OFF状態が制御される。IGBT10のコレクタ端子と、高電圧電力系との間に負荷12が接続され、IGBT10のON/OFF状態によって、負荷12に供給される電力が制御される。スナバ回路14は、コンデンサCと抵抗Rとの並列回路と、ダイオードDとを直列に接続して構成されている(図6参照)。このスナバ回路14は、高電圧電力系と、IGBT10のコレクタ端子との間に接続されている。
図6に示すスナバ回路14は、サージ電圧Eの一部をダイオードDを介してコンデンサCに蓄えて、抵抗Rにより熱に変換して消費し、サージ電圧Eを低減する一般的な回路である。
【0006】
さらに最近では、アクティブクランプ方式と呼ばれる方法が採用される場合がある。この方法の原理図が図7に示されている。図7においても、図6と同様に、IGBT10のコレクタ端子と高電圧電力系との間に負荷12が設けられている。そして、IGBT10のコレクタ端子とゲート端子との間にアクティブクランプ回路16が接続されている。アクティブクランプ回路16は、ダイオードD1と、定電圧ダイオードDと、制限抵抗Rとの直列回路である。なお、定電圧ダイオードDは、複数個の定電圧ダイオードを直列に接続した構成であってもよい(図7参照)。
この方法は、IGBT10のコレクタ-エミッタ間電圧が定電圧ダイオードDのツェナー電圧を超えたとき、定電圧ダイオードDが導通して、その導通電流が制限抵抗Rを通じてIGBT10のゲート端子に流入させる方法である。これによって、IGBT10のターンオフ動作を緩和する効果が得られる。
ターンオフ動作が緩和されると、コレクタ電流の減少率が低下して、上記式(1)に従って、サージ電圧Eが低下方向に向かう。また、定電圧ダイオードDが導通することでコレクタ-エミッタ間電圧がクランプされて、定電圧ダイオードDのツェナー電圧以上にならない。これらの効果を合わせることで、IGBT10のコレクタ-エミッタ間電圧を最大定格以内で使用することができるものである。
【0007】
先行特許技術
例えば、後述する特許文献1(特許第4230190号公報)には、従来のアクティブクランプ回路が開示されている。特に複数の定電圧素子を直列に接続して保護回路を構成する場合に、いずれかの定電圧素子に短絡故障が発生したことを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4230190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した従来の方式では、以下の問題がある。
図6のスナバ回路を使用する方法では、発生するサージ電圧Eのエネルギーはそのままで減少することはなく、スナバ回路内で(つまり抵抗Rで)消費されるので、スナバ回路の抵抗Rの発熱が問題となる可能性がある。また、スナバ回路のダイードDにはIGBTのON/OFFに伴い急峻な電流が流れる。そのため、ダイオードDがノイズの発生源にもなる可能性がある。
【0010】
また、図7に示すアクティブクランプ方式では、スナバ回路と同様の原因により、定電圧ダイオードDにおける発熱が問題となる可能性がある。
【0011】
また、定電圧ダイオードDは内部の抵抗成分により過大な電流が流れるとその分クランプレベルを外れてしまう可能性がある。その対策のために、ツェナー電圧を低く設定することが考えられるが、ツェナー電圧を低く設定するとIGBTに印加できる電圧が下がってしまうという問題がある。そのため、要求される回路の仕様を満足させるためにIGBTの耐圧を上昇させなければならない等の設計上の問題がある。
【0012】
本発明は、このような発熱問題及びノイズの発生という課題に鑑みなされたもので、その目的は、IGBTのコレクタ-エミッタ間の保護することができる、アクティブクランプ回路を備えたゲート駆動回路であって、定電圧ダイオードの発熱がより抑制され、また、よりノイズの発生も小さい、IGBTのゲート駆動回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明は、上記課題を解決するために、電力半導体素子を駆動するゲート駆動回路であって、前記電力半導体素子がターンオフする際、前記電力半導体素子のコレクタ-エミッタ間電圧が所定の電圧に到達した場合、前記電力半導体素子のコレクタ-エミッタ間電圧を前記所定の電圧でクランプするとともに、前記電力半導体素子のゲート端子に所定の電流を供給するアクティブクランプ回路、を備え、前記アクティブクランプ回路は、前記電力半導体素子のコレクタ端子に一方端が接続される定電圧ダイオードと、前記定電圧ダイオードの他方端と、マイナス電源との間に接続されたインピーダンス回路と、前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点に接続し、前記電力半導体素子の前記ゲート端子に接続される出力端子と、一方端が前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点に接続し、他方端がマイナス電源に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、外部からの開閉信号に基づき、前記前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第1スイッチと第1抵抗との直列回路からなる第1引き抜き回路と、一方端が前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点に接続し、他方端がマイナス電源に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、前記開閉信号に基づき、前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第2スイッチと第2抵抗との直列回路からなる第2引き抜き回路と、前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点の電圧に基づき、前記電力半導体素子のコレクタ電圧の変化率を求め、前記変化率が所定の閾値を超えた場合に、スイッチ開信号を出力する検出回路と、を有し、前記第2スイッチは、前記スイッチ開信号を受信すると、導通状態から非導通状態となることによって、前記電力半導体素子のゲート電荷を引き抜くための抵抗値を上げて、前記電力半導体素子のターンオフを緩和しつつゲート電荷を引き抜くことを特徴とするゲート駆動回路である。
【0014】
(2)また、本発明は、(1)記載のゲート駆動回路であって、前記アクティブクランプ回路は、前記電力半導体スイッチング素子をターンオフするときに発生するサージ電圧が、前記電力半導体スイッチング素子IGBTのコレクタ-エミッタ間電圧の最大定格電圧に又はその近傍電圧となったとき、その電圧でコレクタ-エミッタ間電圧をクランプし、また同時に自信のゲートに電流を供給することでサージ電圧を低減し、電圧破壊を防止するアクティブクランプ回路であることを特徴とするゲート駆動回路である。
【0015】
(3)また、本発明は、(1)又は(2)記載のゲート駆動回路であって、前記定電圧ダイオードは、前記定電圧ダイオードに寄生する並列容量を有し、前記インピーダンス回路は、少なくとも抵抗とコンデンサの並列回路を含むことを特徴とするゲート駆動回路である。
【0016】
(4)また、本発明は、(1)から(3)のいずれか1項に記載のゲート駆動回路であって、第2引き抜き回路から、第n引き抜き回路までのn-1種類の第n引き抜き回路と、第2検出回路から、第n検出回路までのn-1種類の第n検出回路と、を備え、前記nは3以上の自然数であり、前記第n引き抜き回路は、前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点に接続し、前記電力半導体素子がターンオフする際、前記開閉信号に基づき、前記電力半導体素子のゲート端子から電荷を引き抜くための第nスイッチと第n抵抗との直列回路からなり、前記第n検出回路は、前記定電圧ダイオードと前記インピーダンス回路との接続点の電圧に基づき、前記電力半導体素子のコレクタ電圧の変化率を求め、前記変化率が所定の第nの閾値を超えた場合に、第nのスイッチ開信号を出力し、
前記第nスイッチは、前記第nのスイッチ開信号を受信すると、導通状態から非導通状態となることによって、前記電力半導体素子のゲート電荷を引き抜くための抵抗値を上げて、前記電力半導体素子のターンオフを緩和しつつゲート電荷を引き抜くことを特徴とするゲート駆動回路である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、IGBTを駆動するゲート駆動回路であって、発熱も少なく、また、ノイズも小さい、ゲート駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態1におけるゲート駆動回路の回路図である。
図2】定電圧ダイオードZD1と、抵抗R4と、インピーダンス回路Z1とからなる回路部分を近似した等価回路である。
図3】本実施形態2におけるゲート駆動回路の回路図である。
図4】具体的な実施例におけるゲート駆動回路の回路図である。
図5】具体的な実施例について実験した実験データを示すグラフである。
図6】従来のスナバ回路の回路図の一例である。
図7】従来のアクティブクランプ回路図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づき説明する。
1.実施形態1
図1には、本実施形態にかかるゲート駆動回路100の特徴的な構成を示す回路図が示されている。本実施形態にかかるゲート駆動回路100は、予測型アクティブクランプ回路102を備えることを特徴とする。ゲート駆動回路100には、その他、ゲートを駆動するためのドライバ半導体素子や電源回路等が含まれてよいが、それらの構成は従来と同様であるので図1では省略して図示されていない。
負荷ZL104は、IGBT106が駆動する負荷で、電力ラインと、IGBT106のコレクタ端子との間に設けられている。IGBT106は、ゲート駆動回路100の駆動対象であるIGBT106であり、そのゲート端子には、ゲート駆動回路100からの制御信号が供給されている。なお、負荷ZL104及び(駆動対象である)IGBT106は、ゲート駆動回路100の構成には含まれない。
ここで、IGBTは、請求の範囲の電力半導体素子の好適な一例に相当する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態において特徴的な構成は、予測型アクティブクランプ回路102である。この予測型アクティブクランプ回路は、従来のアクティブクランプ回路に、コレクタ-エミッタ間の上昇率に応じてゲート引き抜き回路のSWをOPENにする回路を追加したことを特徴とする。このアクティブクランプ回路102の出力端子102aから制御信号がIGBT106のゲート端子に供給される。また、アクティブクランプ回路102の検出端子102bとIGBT106のコレクタ端子とが接続されている。
【0021】
検出端子102bには、電流の逆流を防止するダイオードD1のアノード端子が接続され、ダイオードD1のカソード端子は、定電圧ダイオードZD1のカソード端子に接続されている。定電圧ダイオードZD1のアノード端子は、抵抗R4を介して、インピーダンス回路Z1が接続されている(図1参照)。また、インピーダンス回路Z1の他方端は、マイナス電源Veeに接続されている。
なお、定電圧ダイオードZD1は、定電圧特性を示す理想定電圧ダイオードVと、その両端子間に存在する並列容量Cによって、図1に示すような等価回路で表すことができる。
ここで、予測型アクティブクランプ回路102は、請求の範囲のアクティブクランプ回路の好適な一例に相当する。また、定電圧ダイオードZD1は、請求の範囲の定電圧ダイオードの好適な一例に相当する。定電圧ダイオードZD1の上記並列容量Cには、請求の範囲の並列容量の好適な一例に相当する。本実施形態では、部品コストや実装面積を考慮して寄生する並列容量Cを用いたが、定電圧ダイオードVと並列に別途コンデンサを接続してもよい。後述する図4の並列容量Cにおいても同様である。この場合のコンデンサも、請求の範囲の並列容量の好適な一例に相当する。
また、インピーダンス回路Z1は、請求の範囲のインピーダンス回路の好適な一例に相当する。出力端子102a(及び後述する202a、302a)は、請求の範囲の出力端子の好適な一例に相当する。
【0022】
スイッチSW1及びスイッチSW2は、IGBT106のゲート電荷を引き抜くためのスイッチである。
スイッチSW1と、抵抗R1との直列回路が、IGBT106のゲート端子と、マイナス電源Veeとの間に接続されている。スイッチSW1が閉(ON)にされると抵抗R1がマイナス電源Veeに接続されてIGBT106のゲート電荷を放電する。
このスイッチSW1と抵抗R1との直列回路は、請求の範囲の第1引き抜き回路の好適な一例に相当する。スイッチSW1は、請求の範囲の第1スイッチの好適な一例に相当する。抵抗R1は、請求の範囲の第1抵抗の好適な一例に相当する。
同様に、スイッチSW2と、抵抗R2との直列回路が、IGBT106のゲート端子と、マイナス電源Veeとの間に接続されている。スイッチSW2が閉(ON)すると抵抗R2がマイナス電源Veeに接続されてIGBT106のゲート電荷を放電する。
このスイッチSW2と抵抗R2との直列回路は、請求の範囲の第2引き抜き回路の好適な一例に相当する。スイッチSW2は、請求の範囲の第2スイッチの好適な一例に相当する。抵抗R2は、請求の範囲の第2抵抗の好適な一例に相当する。
【0023】
スイッチSW1、スイッチSW2の開閉は、原則として、図示されていない所定の制御回路からの信号である開閉信号により行われる。IGBT106をターンオフするときは、当該制御回路から閉(ON)の開閉信号がスイッチSW1及びスイッチSW2に送信され、両スイッチが閉(ON)となる。なお、本文では、開閉信号は、lowのとき「開」を表し、highのとき「閉」を表すものとするが、利用するスイッチ素子の極性(Pチャネル、Nチャネル)によっては逆であってもよい。
また、図1において、インピーダンス回路Z2は、IGBT106のゲートの終端インピーダンス回路である。
抵抗R4とインピーダンス回路Z1との接続点には、ダイオードD2のアノード端子が接続されている。そして、ダイオードD2のカソード端子は、出力端子102に接続している。つまり、抵抗R1の、スイッチSW1とは反対側の端子は、ダイオードD2のアノード端子に接続している。同様に、抵抗R2の、スイッチSW2とは反対側の端子も、ダイオードD2のアノード端子に接続している(図1参照)。このダイオードD2も、ダイオードD1と同様に、電流の逆流を防止するダイオードである。
【0024】
検出回路DET2は、インピーダンス回路Z1に発生する電圧(端子間電圧)を監視する検出回路である。検出回路DET2は、あらかじめ設定した閾値(正の所定値)より、インピーダンス回路Z1の端子間電圧が高い場合、制御回路からの開閉信号に関わらず、スイッチSW2を開(OFF)するように、SW2開信号をスイッチSW2に供給する。スイッチSW2は、スイッチSW2を開くことを指示するSW2開信号を受信した場合、制御回路からの開閉信号の値にかかわらず、スイッチを開(OFF:非導通状態)にする。
定電圧ダイオードZD1のアノード端子と、インピーダンス回路Z1との間に接続されている抵抗R4は、制限抵抗であり、IGBT106のコレクタ電圧が上昇して、定電圧ダイオードZD1が導通した時にIGBT106のゲート端子に流入する電流を制限するものである。
ここで、検出回路DET2は、請求の範囲の検出回路の好適な一例に相当する。SW2開信号は、請求の範囲のスイッチ開信号の好適な一例に相当する。
【0025】
IGBT106をターンオフするために、制御回路から開閉信号がスイッチSW1及びスイッチSW2に送信されて、両スイッチが閉(ON)すると、IGBT106のゲート電荷は、抵抗R1と抵抗R2の合成抵抗値(R1R2/(R1+R2))を通じて引き抜かれる。この合成抵抗値の式において、R1、R2は、それぞれ抵抗R1の抵抗値、抵抗R2の抵抗値を表すものとする。
このようにして、IGBT106のゲート電荷が引き抜かれると、IGBT106はターンオフしようとする。その結果、IGBT106のコレクタ電流は急激に減少して、IGBT106のコレクタ電圧は、後述する式(3)に従って上昇を開始する。IGBT106の負荷ZLが一定の値であれば、IGBT106のコレクタ電圧の上昇率は、コレクタ電流の減少率に大略比例すると考えられる。
【0026】
インピーダンス回路Z1は、IGBT106のコレクタ電圧の上昇率を計測するためのインピーダンスを提供する。このインピーダンス回路Z1を、例えば抵抗RとコンデンサCの並列回路と仮定する。さらに上昇率を計測するメカニズムを図2のように簡略化して等価することができる。図2は、図1の予測型アクティブクランプ回路102の中の定電圧ダイオードZD1と、抵抗R4と、インピーダンス回路Z1とからなる回路部分を近似した等価回路が示されている。
図2に示すように、定電圧ダイオードZD1は、非道通状態では図2に示すように、コンデンサCで近似することができる。また、抵抗R4が十分小さい値である場合は、これを省略することができる。また、インピーダンス回路Z1は、上述したように、抵抗RとコンデンサCとの並列回路で近似することができる。
【0027】
このような近似を行った結果、図2に示す回路のインピーダンス回路Z1の端末間電圧は、図2中V、すなわちインピーダンス回路Z1と定電圧ダイオードZD1との接続点で表すことができる。検出回路DET2は、このVとマイナス電源Veeとから、端子間電圧を検出することができる。このような近似の結果、IGBT106のコレクタ電圧VCE(t)の上昇率
【数1B】

と、インピーダンス回路Z1の端子間電圧Vとの関係は、次の式(2)で表される。
【数2】

ここで、tは時間を表す。さて、t≪R(C+C)の場合は、Vはほぼ「0」と等しくなり、検出回路DET2は動作しない。検出回路DET2の閾値は正の電圧値であるので、ほぼ0Vの電圧は閾値を超えないからである。すなわち、R(C+C)の値を調整することにより、パルス幅の短いノイズを除去できることを意味する。つまり、t≫R(C+C)の時間帯においては、端子間電圧Vは、下記の式(3A)で表され、インピーダンス回路Z1の端子間電圧Vは、コレクタ電圧VCE(t)の上昇率に比例する値となる。
【数3A】

インピーダンス回路Z1の端子間電圧Vの値が高いことは、IGBT106のコレクタ電流の減少率が大きいことを意味する。すなわち、IGBT106のゲート電荷の引き抜き量が大きすぎることを意味する。
【0028】
コレクタ電流の減少率が大き過ぎて、その結果コレクタ電圧VCE(t)の電圧上昇率が高く、最終的にIGBT106の最大定格値を超えると予測できる端子間電圧Vの値を
予め求めておくことができる。本実施形態1において特徴的なことは、この予測値を、端子間電圧Vの限界値として検出回路DET2の閾値にあらかじめ設定しておくことである。
このように閾値を検出回路DET2に設定しておけば、限界値に達した時、検出回路DET2が動作して(端子間電圧Vが閾値を超えたことを検出して)、SW開信号を出力する。スイッチSW2は、そのSW開信号を受信して、開(OFF)となり、IGBT106のゲート電荷の引き抜き抵抗の値を(R1R2/(R1+R2))からR1にすることができる。つまり、引き抜き抵抗の値を高くすることができる。
【0029】
このような動作によって、ゲート電荷引き抜き用の抵抗値の合成抵抗値が増大し、IGBT106のゲート電荷引き抜き量が減少して、上記式(3A)に従ってサージ電圧が低減する。
なお、図1に示す例では、抵抗R1と抵抗R1とが等価的にみて並列接続されるが、直列接続するように構成してもよい。この場合、直列に接続された抵抗R1、R2の抵抗直列回路の一方端を出力端子102aに接続し、他方端とVeeとの間にスイッチSW1を接続し、抵抗R1とR2の接続点と、Veeと、の間にスイッチSW2を接続し、スイッチの切り替えによって合成抵抗値を調整できるように構成してもよい。
このようにインピーダンス回路Z1の端子間電圧Vの限界値を適正に選定することで、サージ電圧により定電圧ダイオードZD1が導通することなく、IGBT106を保護できる。仮に、定電圧ダイオードZD1が導通したとしても定電圧ダイオードZD1の導通電流値や時間幅を少なくすることができるので定電圧ダイオードZD1の発熱を抑えることができる。さらに、IGBT106のコレクタ電圧VCE(t)の急峻な上昇やIGBT106のコレクタ電流の急峻な減少を事前に緩和できることから、それらに伴うノイズの低減にも効果を発揮する。
【0030】
2.実施形態2
実施形態2では、検出回路DETを2個設けた例を説明する。
上記実施形態1では、検出回路DET2を設けて、ゲート電荷引き抜き用の抵抗値を変化させる例を説明した。この検出回路DETは、閾値を異ならせた複数の検出回路DETを設ければより精密な制御が可能となると考えられる。
そこで、本実施形態2では、上記実施形態1で説明した図1の検出回路DET2に加えて、検出回路DET3を設けた回路例を説明する。図3には、このように検出回路DET2、検出回路DET3を備えた回路が示されている。
この図3に示した回路例は、具体的には、実施形態1において説明した図1の回路に、検出回路DET3と、スイッチSW3と、抵抗R3と、が加えられた構成であり、その他の構成は図1と全く同様である。
【0031】
スイッチSW3は、スイッチSW1、2と同様に、IGBT106のゲート電荷を引き抜くためスイッチであり、スイッチSW1等と同様に、図示されていない制御回路からの開閉信号に基づき、開閉動作を実行するスイッチである。
スイッチSW3と、抵抗R3との直列回路が、IGBT106のゲート端子と、マイナス電源Veeとの間に接続されている。スイッチSW3が閉(ON)にされると抵抗R3がマイナス電源Veeに接続されてIGBT106のゲート電荷を放電する。この動作そのものは、これまで説明したスイッチSW1、2と同様である。
抵抗R3は、ゲート電荷を放電するための抵抗であり、抵抗R1、R2と同様の趣旨の抵抗である。
スイッチSW3と、抵抗R3との直列回路は、請求の範囲の第n引き抜き回路の好適な一例に相当する(n=3の場合)。スイッチSW3は、請求の範囲の第nスイッチ(n=3の場合)の好適な一例に相当する。抵抗R3は、請求の範囲の第n抵抗(n=3の場合)の好適な一例に相当する
【0032】
検出回路DET3は、検出回路DET2と同様の回路であり、後述するように閾値の値のみが異なる回路である。
この検出回路DET3も、上記インピーダンス回路Z1の端子間電圧V1を検出して、予め設定されている閾値を超える場合は、SW開信号を出力する。スイッチSW3は、スイッチSW3を開状態とする指示であるSW3開信号を受信すると、開状態となり、抵抗R3をマイナス電源Veeから切り離す。このように検出回路DET3は、閾値が異なることを除き、検出回路DET2と同様の回路である。
この検出回路DET3は、請求の範囲の第n検出回路の好適な一例に相当する(n=3の場合)。SW3開信号は、請求の範囲の第nのスイッチ開信号の好適な一例に相当する。
【0033】
実施形態1と同様に、IGBT106をターンオフするために、制御回路から開閉信号がスイッチSW1及びスイッチSW2に加えてスイッチSW3にも送信されて、全スイッチが閉じる。スイッチSW3も、ON状態(閉じる)に移行する。
この状態では、IGBT106のゲート電荷が、抵抗R1と抵抗R2と抵抗R3の合成抵抗値(1/((1/R1)+(1/R2)+(1/R3)))を通じて引き抜かれる。この合成抵抗値の式において、R1、R2、R3は、それぞれ抵抗R1の抵抗値、抵抗R2の抵抗値、抵抗R3の抵抗値、を表すものとする。
【0034】
このようにして、IGBT106のゲート電荷が引き抜かれると、IGBT106はターンオフを開始し、IGBT106のコレクタ電流は急激に減少していく。その結果は上述したようにIGBT106のコレクタ電圧は、上記式(3A)に従って上昇を開始する。IGBT106の負荷ZL104が一定の値であれば、IGBT106のコレクタ電圧の上昇率は、コレクタ電流の減少率に大略比例すると考えられる。
【0035】
また、既に説明したように、インピーダンス回路Z1の端子間電圧Vは、コレクタ電圧VCE(t)の上昇率に比例する値となる。したがって、コレクタ電流の減少率が大き過ぎて、その結果コレクタ電圧VCE(t)の電圧上昇率が高く、最終的にIGBT106の最大定格値を超えると予測できる端子間電圧Vの値を予め求めておくことができる。
このとき、最大定格値を超えてしまうことを防止するために、予測した端子間電圧Vの値より小さい閾値を検出回路DET2に設定しておくことが好ましい。
一方、コレクタ電圧VCE(t)の電圧上昇率が高い場合は、より一層ゲート電荷引き抜き用抵抗の値を大きくする必要がある可能性もある。
【0036】
そこで、検出回路DET3の閾値として予測した端子間電圧Vの値より大きい電圧を設定しておけば、検出回路DET2による抵抗R2の切り離しだけでは、十分にゲート電荷引き抜き用の抵抗の値を大きくできない場合でも、より一層、抵抗値を大きくすることができる。
本実施形態2では、このように、検出回路DET2には少し小さい閾値を設定し、早めに抵抗R2を切り離して、ゲート電荷引き抜き用の抵抗の値を早めに大きくしている。
さらに、検出回路DET3には、少し大きい閾値を設定し、コレクタ電圧VCE(t)の電圧上昇率が非常に高い場合は、抵抗R2に加えて抵抗R3も切り離している。その結果、ゲート電荷引き抜き用の抵抗はR1だけとなり、より一層ゲート電荷引き抜き用抵抗の値を大きくすることができる。
なお、図3に示す例では、抵抗R1と、R2と、R3とが等価的にみて並列接続されるが、それらを直列接続するように構成してもよい。この場合、直列に接続された抵抗R1、R2、R3の抵抗直列回路の一方端を出力端子202aに接続し、他方端とVeeとの間にスイッチSW1を接続し、抵抗R1とR2の接続点と、Veeと、の間にスイッチSW2を接続し、抵抗R2とR3の接続点と、Veeとの間にスイッチSW3を接続し、スイッチの切り替えによって合成抵抗値を調整できるように構成してもよい。
【0037】
本実施形態2で説明する図3のゲート駆動回路200の予測型アクティブクランプ回路202は、このように2種の検出回路を備えているため、実施形態1の図1の回路に比べてより精密な制御を実行することができる。
【0038】
3.具体的な実施例
図4には、具体的な予測型アクティブクランプ回路302を含むゲート駆動回路300の回路図が示されている。実際のゲート駆動回路300は、図4の予測型アクティブクランプ回路302以外にも、電源回路や、ドライバ素子等、種々の回路が含まれている。
図1図3と同様に、アクティブクランプ回路302は、実線で囲まれた部分であり、その出力端子302aには、駆動対象であるIGBT106のゲート端子が接続されている。また、負荷104は、図1図3と同様に、IGBT106と電力ラインとの間に接続され、IGBT106によって電力供給が制御されている。アクティブクランプ回路302は、検出端子302bが設けられており、この検出端子302bは、IGBT106のコレクタ端子に接続する。
【0039】
図4中、Veeは、これまで説明したとおり、ゲート駆動回路300のマイナス電源であり、Vdcはプラス電源である。
アクティブクランプ回路300には、3種類の入力端子IN1、IN2、IN3が設けられている。
入力端子IN1(及びIN2、IN3)には、外部の制御回路から開閉信号が入力される。入力端子IN1(及びIN2、IN3)に入力する開閉信号がlowの場合、トランジスタQ4がON作動して、IGBT106はON作動する。そして、入力端子IN2、IN3(及びIN1)に入力する開閉信号がhighの場合、トランジスタQ2、Q3がON作動して、IGBT106がOFF作動する。
【0040】
本実施例においては、IN1と、IN2及びIN3に加えられる開閉信号を同相の信号としているが、利用するスイッチ素子の極性によっては、IN2、IN3に加えられる開閉信号の極性を、IN1に加えられる開閉信号とは逆にしてもよい。
【0041】
入力端子IN1(及びIN2、IN3)に入力する開閉信号がlowとなるとトランジスタQ4がON作動して、Vdcより抵抗R7を経由して、出力端子302aに接続するIGBT106のゲート端子に電流を供給する。この結果、IGBT106はON作動する。
トランジスタQ4は、ゲート駆動回路300のハイサイドスイッチであるが、上述した図1図3では省略して図示されていない。
【0042】
他方、入力端子IN2、IN3(及びIN1)に入力する制御信号がhighになると、トランジスタQ4がOFF作動すると共に、トランジスタQ2及びQ3がON作動して、抵抗R5及び抵抗R6を通してIGBT106のゲート電荷を引き抜く。その結果、IGBT106は、OFF作動する。
【0043】
なお、トランジスタQ2は、図1図3)におけるスイッチSW2に相当し、トランジスタQ3は、図1図3)におけるスイッチSW1に相当する。また、図4の抵抗R4は、図1の電流検出用インピーダンス回路Z1に相当する。そして、図4のZD1~ZD6 は、図1の定電圧ダイオードZD1に相当するダイオードである。また、図4のCは、図1の並列容量Cに相当する。
【0044】
また、図4のトランジスタQ1は、図1の検出回路DET2に相当し、その閾値電圧は、トランジスタQ1のゲート-ソース間のスレッシュホールド電圧VQ1THが該当する。トランジスタQ1がON作動すると、トランジスタQ2は、入力端子IN3に入力する制御信号の信号状態にかかわらず、OFF作動する。
すなわち、抵抗R4の端子間の電圧がスレッシュホールド電圧VQ1THに達すると、トランジスタQ1がON作動する。トランジスタQ1がON作動すると、次に、トランジスタQ2はOFF作動する。つまり、スイッチSW2に相当するスイッチがOFF(非道通)になる。したがって、IGBT106のゲート電荷を引き抜く回路が、抵抗R6とトランジスタQ3との直列回路だけになるので、電荷の引き抜きが穏やかになり、IGBT106のコレクタ端子に発生するサージ電圧を小さくすることができる。
【0045】
抵抗R3は、本実施形態における新規な効果と、従来のアクティブクランプ回路方式の効果と、の影響の相対的比率を調整するための抵抗である。従来のアクティブクランプ回路方式とは、定電圧ダイオードZD1の電流をIGBT106のゲート端子へ直接流入させる方式である。
【0046】
ここで、本実施形態における新規な効果とは、
・ゲート電荷引き抜き用の抵抗値の合成抵抗値が増大し、IGBT106のゲート電荷引き抜き量が減少して、式(3A)に従ってサージ電圧が低減する。
・定電圧ダイオードZD1の発熱を抑えることができる。
・コレクタ電流の急峻な減少を緩和できるので、それに伴うノイズの低減を図ることができる。
等を意味する。
また、従来のアクティブクランプ回路方式の効果とは、
・サージ電圧の低減
である。抵抗R3の値を大きくすれば、コレクタ電圧VCE(t)の検出感度が下がるので、相対的に、従来のアクティブクランプ回路方式の効果の方が大きくなる。逆に、抵抗R3の値を小さくすれば、コレクタ電圧VCE(t)の検出感度が上がるので、本実施形態における特徴的な効果(新規な効果)が従来の効果より相対的により大きく得られる。
【0047】
ダイオードD3は、トランジスタQ1のゲート電荷の引き抜き用ダイオードである。
IGBT106のコレクタ電圧VCE(t)の上昇率は下記式(3B)であらわされる。
【数3B】

したがって、図4の本実施例のパラメータで表現すると、下記式(4)のように表される。
【数4】

ここで、Rは、以下の式(5)で表される。
= R1 + R3 + R4 (5)
【0048】
次に、図4の回路動作波形を図5に示す。図5のグラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は種々の信号を表している。
開閉信号は、これまで説明したとおり、外部の制御回路から出力される信号であり、スイッチSW1、スイッチSW2を開閉させる信号である。開閉信号は、図4の入力端子IN2、IN3、及びIN1に供給される。
SW1は、スイッチSW1の開閉状況を示す信号であり、lowであれば開状態(非導通)状態を表し、highが導通状態を表す。SW2も同様に、スイッチSW1の開閉状況を示す信号であり、lowであれば開状態(非導通)状態を表し、highが導通状態を表す。
Vgeは、IGBT106のゲート電圧を表す。また、VCEは、IGBT106のコレクタ電圧VCE(t)を表す。また、Icは、IGBT106のコレクタ電流を表す。
【0049】
このグラフは、開閉信号がlowからhighに変化する際の動作を示している。このとき、IGBT106は、ON状態から、OFF状態に移行し、スイッチSW1及びスイッチSW2は、基本的には、開状態(非道通状態)から閉(導通状態)に移行する。
【0050】
まず、開閉信号がlowからhighに変更されると、トランジスタQ4がOFF作動して非導通状態に移行する。それとともに、スイッチSW1及びSW2はON動作し、ゲート電荷を引き抜き始める。これによって、IGBT106はON状態からOFF状態への移行を開始する。
スイッチSW1及びSW2がゲート電荷を引き抜くので、IGBTは非導通状態に移行を始める。その結果、コレクタ電圧VCEは上昇を開始する。図5のグラフでは、この上昇の傾きを「傾き1」と表している。
本実施例では、傾き1を観測することによって、ノイズや発熱が生じると予測されるタイミングで、トランジスタQ1(図1の検出回路DET2に相当)がON動作する。
これまで説明してきたように、この傾き1が大きければ、トランジスタQ1がON動作するタイミングは早くなり、傾き1が小さければ、トランジスタQ1がON動作するタイミングは遅くなる。
【0051】
トランジスタQ1(検出回路DET2)がON動作すると、スイッチSW2が「開」状態(非導通状態)となり(図5参照)、その分、ゲート電圧Vgeが上昇する。そして、スイッチSW2が「開」状態となった結果、ゲート電荷の引き抜きが低速となり、コレクタ電圧VCEの上昇速度が遅くなる。その結果、コレクタ電圧VCEの上昇の傾きは「傾き2」となる(図5参照)。
その後、ゲート電荷が引き抜かれると、IGBT106がOFF動作になり、非導通状態に向かう。その際、コレクタ電圧VCEは、クランプ回路である定電圧ダイオードZD1によってクランプされているので、サージ電圧等を抑制することができる。図5中、ZZD1導通期間として示される期間は、定電圧ダイオードZD1が導通してサージ電圧等が抑制されている期間である。この期間は、定電圧ダイオードZD1が導通しているのでそれによって、出力端子102aの制御信号が、定電圧ダイオードZD1の導通により上昇する。これによってサージ電圧等が抑制される。
【0052】
その後、IGBT106のコレクタ電圧VCEが定電圧ダイオードZD1のツェナー電圧以下になると、定電圧ダイオードZD1が非導通状態に移行する。
定電圧ダイオードZD1が非道通状態となると、検出回路DET2が閾値を越える電圧を検出しなくなるので、スイッチSW2も閉状態(導通状態)に復帰する。
以上のような動作を実行する。これによって、図4の回路によれば、IGBT106のコレクタ電圧VCE(t)の急峻な上昇やIGBT106のコレクタ電流の急峻な減少を緩和することができる。また、定電圧ダイオードZD1の導通時間を短くなるので定電圧ダイオードZD1の発熱を抑制することができる。また、それらに伴うノイズの低減を図ることができる。
【0053】
4.効果その他
以上説明したように、本実施形態におけるゲート駆動回路は、アクティブクランプ回路を利用しながら、コレクタ電圧の急峻な変化を観測することにより、サージ電圧の発生を予測して、ゲート電荷を引き抜くための抵抗値を変化させている(抵抗値を上げている)ので、サージ電圧の抑制を図れると共に、アクティブクランプ回路中の定電圧ダイオードの発熱を抑制することができる。また、IGBTのコレクタ電圧の急峻な上昇、コレクタ電流の急峻な減少も緩和することができる。それらの結果、ノイズの低減を図ることができる。
【0054】
実施形態1では、1個の検出回路DET2を用い、実施形態2では、2個の検出回路DET1、DET2を用いているが、3個以上設けてもよい。
【0055】
また、以上説明した実施形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は本実施形態の態様に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態においては、駆動対象である電力半導体スイッチとしてIGBTを主として説明したが、他の電力半導体スイッチ(例えばMOSFET)を駆動するゲート駆動回路でも適用することができる。また、上で説明した実施形態、実施例では、その回路図には、主としてNチャネルMOSFET、PチャネルMOSFETを用いているが、PチャネルMOSFETのかわりにNチャネルMOSFETを用いて回路構成してもよいし、その逆でもよい。また、他の種類の素子を用いてもよい。例えば、バイポーラトランジスタを用いて回路構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10、106 IGBT
12、ZL104 負荷
14 スナバ回路
16 アクティブクランプ回路
100、200 ゲート駆動回路
102、202、302 予測型アクティブクランプ回路
102a、202a、302a 出力端子
102b、202b、302b 検出端子
コンデンサ
コンデンサ
並列容量
ダイオード
定電圧ダイオード
DET2、DET3 検出回路
R1、R2、R3 抵抗
抵抗
抵抗
制限抵抗
SW1、SW2、SW3 スイッチ
理想定電圧ダイオード
Z1、Z2 インピーダンス回路
ZD1 定電圧ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7