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  • 特許-パンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】パンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/045 20170101AFI20240705BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20240705BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20240705BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A21D13/045
A21D2/36
A21D8/02
A21D2/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023212743
(22)【出願日】2023-12-18
(62)【分割の表示】P 2023084254の分割
【原出願日】2023-05-23
【審査請求日】2023-12-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523191502
【氏名又は名称】元川 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】110003890
【氏名又は名称】弁理士法人SIPPs
(72)【発明者】
【氏名】元川 淳也
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-269971(JP,A)
【文献】特開平11-266774(JP,A)
【文献】特開2007-267714(JP,A)
【文献】クックパッド [オンライン], 2019.04.14 [検索日 2023.06.12], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/5601418>
【文献】クックパッド [オンライン], 2019.04.26 [検索日 2023.06.12], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/5621761>
【文献】クックパッド [オンライン], 2020.11.05 [検索日 2023.06.12], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/6516880>
【文献】クックパッド [オンライン], 2023.02.23 [検索日 2023.06.12], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/7457218>
【文献】クックパッド [オンライン], 2018.10.21 [検索日 2023.06.12], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/4889307>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 13/045
A21D 2/36
A21D 8/02
A21D 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体原料100質量部に対して、水和剤として120質量部以上の豆乳を混合して混捏することを含み、
記粉体原料は、大豆粉、おからパウダー又はおから、及び水溶性食物繊維を含み、かつ
前記大豆粉及び前記おからパウダー又はおからからなる前記大豆由来原料を30質量%以上で含み、
混捏終了時の生地の表面温度を27℃以下するようにして混捏を行い、
混捏中に、1分以上の高速混捏を行うことを含み、前記高速混捏は、タイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏である、パンの製造方法。
【請求項2】
前記水和剤を、粉体原料100質量部に対して150部以上の豆乳を用いる、請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記粉体原料が、50質量%以上の前記大豆由来原料及び20質量%以上の小麦グルテンを含む、請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項4】
混捏終了時の生地の表面温度を15~25℃に保ちながら混捏を行う、請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項5】
混捏中に、低速混捏、中速混捏、及び高速混捏をこの順に行うことを含み、
前記低速混捏は、ミナト電機工業株式会社製のミナトスタンドミキサーSMX-450に全原料の280gを加えて300rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以下のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記高速混捏は、タイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記中速混捏は、前記低速混捏での前記最大トルクと、前記高速混捏での前記最大トルクとの間のトルクを掛けるようにおこなう混捏である、請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記低速混捏、前記中速混捏、及び前記高速混捏を合計で10分以上行う、請求項5に記載のパンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆を主要原料としたパンの製造方法に関する。特に、本発明は、大豆の香味が良好であり、なおかつ、小麦を主原料として一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感を実現できるパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパン類は、通常小麦粉、イースト及び水を主原料とし、これに食塩、及び水を主原料とし、これに砂糖、乳製品、油脂、その他副原料を配合し、または食品添加物を加え混合した生地を発酵、膨化させ焼成して作られる。小麦粉が水で水和されることで、グルテンが形成されて、粘り気と弾力のある生地が形成される。
【0003】
近年の消費者は食品に対してより健康志向を求める傾向にあり、パンの分野でもその傾向は顕著である。そういった背景から、パンに入れる食材として食物繊維を多量に含み、高栄養価の食材として認知されているおからや、食物繊維、ビタミン類、カリウム、マグネシウム等のミネラル類が豊富なヘルシー飲料として認知される豆乳、おからや豆乳の原料であり高タンパク低糖質でビタミン類やミネラル類が豊富なヘルシー素材として認知される大豆を粉末化した大豆粉が以前より注目されていた。
【0004】
一方で健康志向を求めながらも消費者は広範な嗜好性(例えば、ソフトでモチっとした食感を持ち、弾力や歯切れ感に富むパン類)を要望するため、おからや豆乳、大豆粉をパンに入れた場合に顕実化しやすい、食感が悪い、ボリュームがでない、風味を損ねるなどの課題を抱えてきており、おからや豆乳を配合しながら、香味と食感の両方を高める様々な検討がなされている。
【0005】
例えば、生地におからを用いる例として、特許文献1では、小麦粉及びおからを含むパン類を、おからを乾燥状態とし、かつ消化酵素を加えて、これに水及び塩を加えて製造している。
【0006】
また、特許文献2では、生のおからを湿式粉砕し、75%以上が42メッシュの篩を通過できる粒度にし、その湿式粉砕したおから、小麦粉、水、及びイーストを混捏する工程を含む、パンの製造方法が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3では、小麦粉の一部に最強力粉を使用することによりおからを多量に含み、弾力があり、食感に優れたパン類を得るためのパン生地及びパン類を提供することが可能になったと提案している。
【0008】
例えば、水和剤に豆乳を用いる例として、特許文献4では、小麦粉で製造するパンにおいて豆乳を配合してもボソボソ感のない美味な豆乳添加パンの製造法が開示されている。これによれば、全ての原料を一度に混合させる直捏法では、混捏後に長時間発酵させても食感がボソボソであった。これは豆乳中の何らかの素材又は酵素が、小麦粉のグルテンの形成を阻害するためであると思われた。よって主原料の一部と、水の一部又は全部と、豆乳の一部とを混捏、発酵させて中種を得た後、得られた中種に主原料の残部と、水の残部と、豆乳の残部とを加えて混捏、発酵させることにより、ボソボソ感がなく、美味な豆乳添加パンを得ることが出来ると提案している。
【0009】
また、特許文献5では、小麦粉で製造するパン生地の製法として湯種又は、湯種と水種を併用し、豆乳量を調整することにより、乳化剤無添加でも、ソフトでかつ歯切れが良く、豆乳風味が良く発現することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平2-119740号公報
【文献】特開平11-318322号公報
【文献】特開2007-267714号公報
【文献】特開平11-253095号公報
【文献】特開2006-246758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、大豆の香味が良好である、大豆由来原料を主原料としたパンの製造方法を提供することを目的とする。本発明の最良の形態では、小麦粉を主原料とした一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感が実現される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの実施形態において、本発明は、粉体原料100質量部に対して、水和剤として50質量部以上の豆乳を混合して混捏することを含み、前記粉体原料は、大豆由来原料を30質量%以上で含み、混捏終了時の生地の表面温度を30℃以下するようにして混捏を行う、パンの製造方法である。
【0013】
1つの実施形態において、本発明は、前記水和剤を、粉体原料100質量部に対して100部以上の豆乳を用いる。
【0014】
1つの実施形態において、本発明は、前記粉体原料が、50質量%以上の前記大豆由来原料及び20質量%以上の小麦グルテンを含む。
【0015】
1つの実施形態において、本発明は、さらに水溶性食物繊維を混合して混捏する。
【0016】
これらのパンの製造方法によれば、水和剤として多量の豆乳を使用し、かつ大豆由来原料を多く含む粉体原料を用いることで、高タンパク低糖質でありながら、大豆の香味が良好であり、なおかつ、一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感を実現できる。
【0017】
1つの実施形態において、本発明は、混捏終了時の生地の表面温度を27℃以下するようにして混捏を行う。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は、混捏中に、1分以上の高速混捏を行うことを含み、前記高速混捏は、タイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏である。
【0019】
1つの実施形態において、本発明は、混捏中に、低速混捏、中速混捏、及び高速混捏をこの順に行うことを含み、
前記低速混捏は、ミナト電機工業株式会社製のミナトスタンドミキサーSMX-450に全原料の280gを加えて300rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以下のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記高速混捏は、タイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記中速混捏は、前記低速混捏での前記最大トルクと、前記高速混捏での前記最大トルクとの間のトルクを掛けるようにおこなう混捏である。
【0020】
1つの実施形態において、本発明は、前記低速混捏、前記中速混捏、及び前記高速混捏を合計で10分以上行う。
【0021】
他の1つの実施形態において、本発明は、大豆由来原料を含む粉体原料は用いるパンの製造方法であって、混捏中に、低速混捏、中速混捏、及び高速混捏をこの順に行うことを含み、
前記低速混捏は、ミナト電機工業株式会社製のミナトスタンドミキサーSMX-450に全原料の280gを加えて300rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以下のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記高速混捏は、タイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏であり、
前記中速混捏は、前記低速混捏での前記最大トルクと、前記高速混捏での前記最大トルクとの間のトルクを掛けるようにおこなう混捏であり、かつ
混捏終了時の生地の表面温度を30℃以下するようにして混捏を行う、パンの製造方法である。
【0022】
他の1つの実施形態において、本発明は、前記低速混捏、前記中速混捏、及び前記高速混捏を合計で10分以上行う。
【0023】
さらに、1つの実施形態において、本発明は、パン製造における混捏工程において、パン生地温度を低温に保ち、かつ、高速混捏を含む混捏工程を有するパンの製造方法であって、原料として、大豆粉もしくはきな粉の両方もしくは一方を含み、おからパウダーもしくはおからの両方もしくは一方を含み、大豆由来原料(大豆粉、きな粉、おから、おからパウダー、豆乳など)を主要原料とし、水和剤として豆乳を全部または一部に含み、かつ、加水比率が粉体原料(大豆粉、きな粉、小麦タンパク、小麦粉など)に対して高添加率であり、随意にその他の原料として水溶性食物繊維(難消化性デキストリンなど)を含むパンの製造方法である。
【0024】
これらのパンの製造方法によれば、パン生地を一般的なパンの加水率よりも高い水準で加水し、さらに原料中に水溶性食物繊維を随意に配合し、混捏工程において混捏中の生地を低温に維持しながら高速で混捏することで、ボソボソして食感が悪くなりやすい大豆粉、おから、豆乳といった大豆由来原料を主要原料としたパンでもソフトでモチっとした良好な食感を得ることができる。
【0025】
大豆由来原料を使用した場合、パンの食感が悪くなる考えられる原因として、大豆粉特有のパサつき感やボソボソ感、おから特有のボソボソ感や食感、豆乳特有の固形原料の増加や豆乳中に含まれる何らかの素材又は酵素が、小麦グルテンの形成を阻害するなどの理由が考えられ、その解決のためには強力で粘弾性に優れるグルテンが必要と考えられた。
【0026】
パンの製造方法がこのような場合には、パンの食感に重要な役割を果たす小麦グルテンを強力で粘弾性に優れたグルテンにでき、これにより、小麦粉を主原料とする一般的なパンと比較してもソフトでモチッとした良好な食感のパンを製造することができる。
【0027】
また、この製造方法では、大豆由来原料を主原料としつつ、大豆粉、きな粉、及び/又はおからパウダーを粉体原料とし、かつ、豆乳を水和剤として用いて加水することで、大豆に特有な臭みを押さえ、大豆の良好な香味をパンとして実現することができる。
【0028】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、混捏工程中のパン生地温度を15℃~25℃に保ち、かつ混捏工程時間の5%以上かつ1分以上を高速混捏を含む混捏工程である。
【0029】
混捏工程がこのような条件である場合には、短時間で強力な混捏が可能になり、オーバーミキシングによるパン生地の劣化を回避し、また、高速混捏で生じやすい摩擦熱による生地温度の上昇とそれに伴う過発酵によるパン生地および風味劣化を抑制し、強力で粘弾性に優れるグルテンを形成するため有利である。
【0030】
さらなる実施形態において、原料として大豆を主要原料とする大豆由来原料(大豆粉、きな粉、おから、おからパウダー、豆乳など)が全原料における33~90質量%、望ましくは67質量%を含有し、かつ大豆粉もしくはきな粉の両方もしくは一方が全原料における5~80質量%を含有し、かつおからパウダーもしくはおからの両方もしくは一方が全原料における1~50質量%を含有する。
【0031】
原料中における大豆由来原料がこのような範囲である場合には、パンにおける大豆の香味を良好にすることができるため有利である。
【0032】
粉体原料は、大豆由来原料の他に、小麦粉又は小麦由来原料を含んでいてもよく、米由来原料等を含んでいてもよい。粉体原料は、大豆由来原料を30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上含むことができ、これを80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下で含んでいてもよい。
【0033】
大豆由来原料は、大豆粉及びおからパウダーを含むことが好ましく、この場合、大豆粉に対するおからパウダーの質量比(おからパウダーの質量/大豆粉の質量)は、0.05~1.0又は0.1~0.5とすることできる。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、水和剤として、豆乳を全部または一部に含み、かつ、粉体原料(大豆粉、きな粉、小麦タンパク、小麦粉など)100質量部に対して100質量部以上、望ましくは150質量部以上を添加する。
【0035】
水和剤がこのような範囲である場合には、大豆の香味を良好にし、粘弾性の高いグルテン形成により、小麦粉を主原料として一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感をするために有利である。
【0036】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、原料として、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン、イヌリンなど)を粉体原料(大豆粉、きな粉、小麦タンパク、小麦粉など)粉体原料100質量部に対して1~40質量部、又は3~20質量部を含有する。
【0037】
原料中の水溶性食物繊維がこのような範囲である場合には、グルテン形成の強化を促進し、ソフトでモチっとした優れた食感を作るのに有利である。
【0038】
本発明の方法は、上記のとおり、大豆の香味が良好で食感に優れたパンを製造することができるが、この実施形態によれば、栄養価に優れ人々の健康増進に高く貢献するパンを作ることができるため社会的に非常に有益である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、大豆の香味が良好であり、なおかつ、小麦粉を主原料とした一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感を実現できる、大豆由来原料を主原料としたパンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の1つの実施形態に係る工程図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
《パンの製造方法》
以下、添付図面を参照して、本発明に従うパン及びその製造方法の最良の形態について説明する。図1は、本発明に従うパンの製造方法の一例を簡略的に示す工程図である。
【0042】
パンをつくるには、まず、パン生地の原料の混合を行う。(原料混合工程)。この工程では、大豆由来原料粉体(大豆粉、きな粉、おから、おからパウダー)、小麦タンパク、小麦粉等を粉体原材料とし、さらに砂糖、塩、イースト、水溶性食物繊維(難消化性デキストリンなど)等をその他の原材料とし、水和剤として豆乳を全量もしくは一部に水を加えて混合してパン生地を生成する原材料とし、混合する。
【0043】
大豆由来原料としては、大豆粉やきな粉、おから、おからパウダーであり、いずれも大豆を主原料としている。原料には、大豆粉もしくはきな粉の両方もしくは一方を含み、かつ、おからもしくはおからパウダーの両方もしくは一方を含むことで、大豆の香味を引き出すことができる。
【0044】
小麦グルテンもしくは小麦粉は、パンの骨格形成を果たし、食感に重要な役割をもつ小麦グルテンを形成する。小麦粉を配合する場合はたんぱく質含有量が11.5質量%以上の強力粉を使用することができる。粉体原料は、小麦粉又は小麦グルテンを20質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上含むことが好ましく、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下で含むことが好ましい。ただし、粉体原料として、小麦グルテンを含むことがさらに好ましい。水和剤として豆乳を用いる場合には、強いグルテン膜ができにくくなることがわかった。しかし、粉体原料において小麦グルテンを比較的多く含む場合には、強いグルテン膜ができて、発酵時に発生する炭酸ガスを抱き込みしやすくなり、ふっくらとして食感のパンが得やすくなることがわかった。
【0045】
水溶性食物繊維は、難消化性デキストリン、イヌリン、ペクチンなどであり、パン原料としては一般的には必須原料とはならないが、大豆由来原料を配合する場合においては、混捏中の生地のまとまりを促進し、グルテン形成において良好な影響を及ぼし、ソフトでモチっとした食感をつくることができる。
【0046】
水和剤としては、豆乳を全部もしくは一部に使用し、豆乳を一部とする場合は水と併用する。豆乳を配合することで、パンへの大豆の香味を良好にすることができる。また、加水率を100質量部以上、望ましくは150質量部以上に高めることで、良質なグルテン形成を促進し、ソフトでモチッとした良好な食感をつくることができる。ここで、加水率とは、粉体原料100質量部に対して、加える水和剤の量をいう。通常の小麦粉のパンよりも高い加水率でパン生地を作ることで、モチっとした食感のパンが得られることがわかった。これは、大豆由来原料の方が小麦粉よりも高い吸水率を有するためと考えられる。
【0047】
本発明においては、水和剤として、粉体原料100質量部に対して50質量部以上の豆乳を用いる。この場合において、水和剤は、豆乳のみに限定されるものではなく、さらに水等の水和作用を与えることができる他の液体を併用することができる。水和剤に含まれる豆乳は、粉体原料100質量部に対して、50質量部以上、70質量部以上、100質量部以上、120質量部以上、又は150質量部以上であってもよく、300質量部以下、250質量部以下、200質量部以下、又は150質量部以下であってもよい。
【0048】
ここで、豆乳は、大豆固形分を6質量%以上含むものをいい、好ましくは大豆固形分を7~12質量%又は8~10質量%含む。水和剤が、粉体原料100質量部に対して、150質量部用いられる場合に、その水和剤が4質量部の大豆固形分を含んでいた場合には、その水和剤は、100質量部の水と、大豆固形分濃度が8質量%の豆乳を50質量部含むと考えることができる。
【0049】
パン生地の混合を行うと、混捏を行う(混捏工程)。混捏時には、実施例に記載のように、1000rpm以上の高速混捏を全混捏工程の5%以上又は1分以上実施することができる。このような高速混捏は、通常の小麦粉のパン生地では不適切な混捏であるが、本発明者らは、このような高速混捏を行うことによって、大豆由来原料が多くかつ水和剤として豆乳を含む場合であっても、強いグルテン膜ができて、発酵時に発生する炭酸ガスを抱き込みしやすくなり、ふっくらとして食感のパンが得やすくなることを見出した。これにより、短時間で良質なグルテンを形成することができる。一例においては、回転速度は3段階で混捏することができる。低速は、実施例に記載のミキサーを用いた場合に、例えば50~300rpm(空運転時、以下同様)のスピードで行い、原材料同士が均一な状態で混捏していくのを主目的とし、中速混捏は、例えば300~1000rpmのスピードで行い、原材料を均一な状態で混捏しつつグルテンを徐々に形成し原材料がグルテンに内包していくのを主目的とし、高速混捏は1000rpm以上、例えば1000~5000rpm又は1500~3000rpmのスピードで行い、中速混捏で形成した原材料を包含したグルテンを強化し強力かつ粘弾性の高いグルテンに形成していくのを主目的とする。混捏時間は生地の配合内容や原材料比率等により異なるが、高速混捏は混捏工程全体の5%以上又は1分以上を含む。このように混捏工程を経て、パン生地が生成される。例えば、低速混捏を5分~15分、中速混捏を3分~10分、及び高速混捏を1分~5分で行い、これらを合計で10分以上又は15分以上行うことができる。
【0050】
低速混捏は、実施例に記載のようにミナト電機工業株式会社製のミナトスタンドミキサーSMX-450に全原料の280gを加えて300rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以下のトルクを掛けるように行う混捏である。このように低速混捏は、比較的弱い力又は比較的遅いスピードのミキサーで行う混捏である。「原料に加わる最大トルク」は、このミキサーのブレード先端の最大速度であってもよく、したがって、低速混捏は、上記ミキサーのブレード先端の最大速度以下の最大速度でブレード先端を回転させる混捏であってもよい。上記300rpmは、50rpm、100rpm、200rpm、又は500rpmであってもよい。
【0051】
また、高速混捏は、実施例に記載のようにタイガー魔法瓶株式会社製のマイコンフードプロセッサーSKF-Hに全原料の280gを加えて1000rpmで混捏した場合に、原料に加わる最大トルク以上のトルクを掛けるように行う混捏である。このように高速混捏は、比較的強い力又は比較的速いスピードのミキサーで行う混捏である。「原料に加わる最大トルク」は、このミキサーのブレード先端の最大速度であってもよく、したがって、高速混捏は、上記ミキサーのブレード先端の最大速度以上の最大速度でブレード先端を回転させる混捏であってもよい。上記1000rpmは、500rpm、1500rpm、2000rpm、又は2500rpmであってもよい。
【0052】
中速混捏は、低速混捏での最大トルクと、高速混捏での最大トルクとの間のトルクを掛けるようにおこなう混捏である。また、中速混捏は、低速混捏でのミキサーのブレード先端の最大速度と、高速混捏でのミキサーのブレード先端の最大速度との間の最大速度で、ブレード先端を回転させる混捏であってもよい。
【0053】
混捏工程において、高速混捏と同様に重要なことは、混捏工程全体において、生地温度を27℃以下、又は15~25℃に保ちながら混捏することである。生地温度をこの範囲に保つことでパン酵母の発酵の活性化を防ぎ、生地やグルテンの劣化や風味悪化を抑えることができる。粉体原料に大豆由来原料を多く含む場合には、温度が高い状態で混捏を行うと、過発酵が生じて食感が悪化しやすいことが分かった。このように、本発明の方法では、比較的長い時間を掛けて、かつ低温で混捏工程を行うことが有利である。
【0054】
パン生地のガス抜きが行われる(ガス抜き・分割・丸め工程)。ガス抜きは、パン生地を軽く押さえたり、折りたたんだりして行われる。このガス抜きは、パン生地の発酵の均質化と発酵の促進を促すために行われ、これによってパンのすだちがよくなる。ガス抜きの後に、パン生地をパンの1個ずつの大きさに切分け、丸める。
【0055】
丸め後にパン生地を休める、いわゆるベンチタイムが行われる(ベンチタイム工程)。このベンチタイムは、混捏時の温度条件(15~25℃)もしくはそれ以下の温度環境下
で、15~20分間程度放置することによって行われる。
【0056】
次に、形を整えるパン形状の成形が行われ(成形工程)、このようにして焼成前のパンが形成される。
【0057】
このように成形されたパン生地はホイロ(焙炉)に入れられ、発酵が行われる(発酵工程)。この発酵は、例えば30~35℃の環境下に30~60分間程度置くことによって行われる。この工程によって、パン生地の発酵が完了する。
【0058】
その後、発酵後のパン生地の焼成が行われる(焼成工程)。焼成は、例えば釜(温度が180℃前後である)で20~30分間程度行われ、このようにしてパン生地が焼き上げられてパンが形成される。
【0059】
焼成後に最終工程となる製品化が行われ、まずパンの冷却が行われる。冷却はパンの中心温度が約30℃程度になるまで行われる。次に包装される。パンの包装は、包装器などの機械で行ってもよいし、人が衛生手袋を使用して手作業で包装してもよい。このようにしてパンが製品化され、出荷できる状態となる。
【0060】
このようにして製造されたパンは、次の通りの特徴を有している。第1に、大豆由来原料を多量に含んでおり、大豆の特長であるタンパク質が豊富で低糖質、ビタミンやミネラルが寄与し、従来のパンと比較してそれらの栄養素が豊富なパンとなり、栄養価の高いヘルシーなパンとなる。第2に、大豆粉に加え、おからと豆乳を多量に含むので、大豆特有の青臭さがなく、大豆の独特な風味と濃厚な味が形成され、ボソボソ感なくソフトで食べやすく、一般的な小麦粉を主原料と比較して同等程度の食感を得たパンとなる。
【0061】
以上、本発明に従うパン及びその製造方法の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【実施例
【0062】
【表1】
【0063】
例1として、表1に示すパン原材料を用いて、次の通りにしてパンをつくった。大豆粉50グラム、おからパウダー10グラム、小麦グルテン40グラムからなる粉体原料100グラムに対して豆乳150グラム、難消化デキストリン10グラム、砂糖8グラム、塩2グラム、無塩バター8グラム、ドライイースト2グラムとなるように材料を計量し混合した後、ミキサー(製品名:ミナトスタンドミキサーSMX-450、ミナト電機工業株式会社製、アタッチメント「フック(こね)」)の低速混捏(200rpm)で7分、中速混捏(800rpm)で5分混捏を行った。その後、他のミキサー(製品名:マイコンフードプロセッサーSKF-H、タイガー魔法瓶株式会社製、アタッチメント「パンこねブレード」)に変更して高速混捏(2500rpm)で3分の合計15分の混捏を行った。混捏の間は、温度が低く保たれるようにミキサーを外側から保冷剤で冷却を行い、混捏直後の生地温度は24.1℃であった。混捏後、ガス抜きを行い、生地を80gに分割し、5℃環境下で15分ベンチタイムを置いた。ベンチタイム後、成形を行い35℃の環境下に30分間置いて発酵をした。発酵の後、パン生地を170℃で20分間焼成し、パンの中心温度が約30℃程度になるまで冷却してパンをつくった。
【0064】
例2として、混捏工程時の冷却措置を行わずに混捏した。それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。例2では、混捏工程直後の生地温度が31.2℃と高くなった。また、例3として、混捏工程を低速1分と中速5分(使用ミキサーの取扱説明書記載の混捏方法に準拠)の一般的な小麦粉を主原料とするパンの製法に準じた製法(表中の一般製法)で混捏した。それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。また、例4として、例1の原料から難消化デキストリンを入れない原料配合とし、それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。また、例5として、例1の原料から豆乳を水に置き換えた原料配合とし、それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。また、例6として、例1の原料から豆乳の配合量を2/3の水準の対粉100重量%とし、それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。また、例7として、例1の原料からおからパウダーを入れない原料配合とし、それ以外は例1と同一の条件でパンをつくった。
【0065】
例1~7のパンを試食したところ、例2のパンは混捏工程直後の生地温度が31.2℃と高くなったことから過発酵と思われる現象が発生し、大豆の味・香り面、パンらしい食感の両面とも例1と比較して良好な面が見られなかった。例3のパンは、混捏不足からかパンらしい食感面でボソボソ感が残り、その影響で大豆の味・香り面も例1よりも劣る結果となった。例4のパンは、大豆の味・香り面で大豆特有の青臭さが残り、パンらしい食感面でも咀嚼後の口溶け面でやや難があるなど、例1と比較すると劣後する結果となった。例5~7は、それぞれ豆乳を水に変更、豆乳量1/3減、おからなしという例1に対して原料配合を変更したものであったが、大豆の味・香り面もしくはパンらしい食感のどちらかに欠け、それにより、もう片方の大豆の味・香り面もしくはパンらしい食感も低減してしまうといった結果となった。
【0066】
上述した結果から、パンに大豆の香味をもたせながら、小麦粉を主原料とした一般的なパン同等のソフトでモチッとした食感の特性をもたせるためには、大豆由来原料におからを入れ、豆乳を対粉高加水率で配合し、難消化デキストリンを配合し、混捏工程に1000rpm以上の高速混捏を混捏工程中に生地温度を15~25℃に低温維持しながら実施する混捏工程を経ることで実現できることが確認できた。
【要約】
【課題】 本発明は、大豆の香味が良好であり、なおかつ、小麦粉を主原料とした一般的なパンと同様のソフトでモチっとした食感を実現できる、大豆由来原料を主原料としたパンの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、粉体原料100質量部に対して、水和剤として50質量部以上の豆乳を混合して混捏することを含み、前記粉体原料は、大豆由来原料を50質量%以上で含み、混捏終了時の生地の表面温度を30℃以下するようにして混捏を行う、パンの製造方法に関する。
【選択図】 図1
図1