IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インクの特許一覧

特許7515699位相連続性を維持するコヒーレントDASにおける偏波ダイバーシティ合成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】位相連続性を維持するコヒーレントDASにおける偏波ダイバーシティ合成方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20240705BHJP
   H04B 7/10 20170101ALI20240705BHJP
【FI】
G01D5/353 B
H04B7/10 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023512454
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 US2021056110
(87)【国際公開番号】W WO2022087312
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】63/094,361
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/506,471
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ホ、 ジュンチャン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ユエ-カイ
(72)【発明者】
【氏名】イプ、 エズラ
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/070229(WO,A1)
【文献】特開2007-86008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0249076(US,A1)
【文献】国際公開第2016/021689(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26-5/38
G01B 11/00-11/30
G02B 6/00
G01M 11/00-11/02
G01J 9/00-9/04
H04B 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバと、
光パルスを生成し、それら光パルスを前記光ファイバに取り込み、前記光ファイバからレイリー反射信号を受信する光インタロゲータユニットと、
前記レイリー反射信号から情報を抽出するように構成されたコヒーレント受信ユニットと、を有するDOFS/DASシステムのために、偏波ダイバーシティ合成および空間ダイバーシティ合成を採用する分散型光ファイバセンシング(DOFS)/分散型音響センシング(DAS)方法であって、
前記DOFS/DASシステムを操作して、前記光ファイバに沿った複数の位置についてそれぞれのビート積のセットを取得することと、
前記ビート積のセットのそれぞれについて偏波ダイバーシティ合成を実行することと、
前記ビート積のセットのそれぞれについて前記偏波ダイバーシティ合成を使用し、前記光ファイバに沿った前記複数の位置の各々に対して空間ダイバーシティを実行することと、を含み、
前記偏波ダイバーシティ合成は、
各ビート積の時間平均積を決定することと、
最大平均電力を有するものを決定することと、
位相シフトの最大平均電力を有するものを回転させて基準を生成することと、
前記基準と比較して各ビート積の位相差を決定することと、
すべてのビート積が適切に整列した位相を示すように位相差を補正することと、
前記ビート積を合成することと、を含む方法。
【請求項2】
前記空間ダイバーシティ合成は、
各位置の前記合成されたビート積を使用して、時間平均電力を決定することと、
最大の平均電力を有する位置を決定することと、
結果を合成し、該合成した結果の指標を提供することと、を含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本開示は、2020年10月21日に出願された米国仮特許出願第63/094,361号の利益を主張し、その全内容は、本明細書において詳細に記載されているかのように参照により組み込まれる。
【0002】
本開示は一般に、分散型光ファイバセンシング(DOFS)システム、方法、および構造に関する。より詳細には、本開示は、偏波ダイバーシティと空間ダイバーシティの両方を含む、コヒーレント分散型音響センシング(DAS)システムにおけるビート積(beating products)の偏波ダイバーシティ合成に関する。
【背景技術】
【0003】
光ファイバ内のコヒーレントレイリー後方散乱を用いた分散型音響センシング(DAS)は、多くの安全性、セキュリティ、および完全性監視システムにおけるその有用な応用により、リアルタイムで複数の動的事象を監視するユビキタスな技術となっている。そのため、本技術の改善は、歓迎すべきものであろう。
【発明の概要】
【0004】
位相連続性を維持するコヒーレントDASにおける偏波ダイバーシティ合成のための方法を対象とする本開示の態様により、技術の進歩がなされる。
【0005】
従来技術とは対照的に、本開示の態様による方法は、有利には、
【数1】
である位置内のビート積を考慮する(i=1,2,・・・,d、ここで、dは偏波ダイバーシティの数、すなわち4、nは時間)。この方法では、最初に、最大平均電力を示すものを決定し、次いで、他の全てのダイバーシティ項を回転させて、それと整合させる。有利には、最大電力が
【数2】
から
【数3】
に変化するときに位相連続性を維持するために、本方法は、回転結果
【数4】
を基準として使用して、他のビート積との位相差を決定する。
【数5】
の位相回転
【数6】
は、
【数7】
が最大平均電力を有する限り、一定
【数8】
のままである。
【0006】
空間ダイバーシティ合成に関して、本開示の態様による方法は、各位置(すなわち、
【数9】
)からの合成出力
【数10】
を利用して、個々の複素平均(complex average)
【数11】
を決定し、次いで、他の全ての位置を、最大平均電力を示すものと同じ指示方向に回転させる。最大平均電力パワーを有するものを
【数12】
とすると、
【数13】
の回転は角度
【数14】
となる。最大電力がある位置(
【数15】
)から別の位置(
【数16】
)に変化するとき、位相連続性を維持するために、本発明は、同じアプローチ、すなわち、
【数17】
の回転方向を基準として利用し、他のすべての位置を合成前にこの基準方向に向けさせる。
【0007】
さらなる利点として、周波数(ラムダを含む)ダイバーシティは、レイリーフェージングを解決するための別のスキームであるので、本開示の態様による本方法は、有利には、偏波ダイバーシティと同じ方法で周波数ダイバーシティ合成に適用され、F*dビート積についても同じステップで一緒に処理され得る。ここで、Fは周波数またはラムダの数であり、dは偏波の組合せの数である
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のより完全な理解は、添付図面を参照することによって実現され得る。
【0009】
図1】本開示の態様による例示的な偏波ダイバーシティ合成方法の概略フローチャート図である。
【0010】
図2】本開示の態様による例示的な空間ダイバーシティ合成方法の概略フローチャート図である。
【0011】
図3(A)】本開示の態様による、出力を決定するための2つの項の偏波合成を示す一連の図である。
図3(B)】本開示の態様による、出力を決定するための2つの項の偏波合成を示す一連の図である。
図3(C)】本開示の態様による、出力を決定するための2つの項の偏波合成を示す一連の図である。
図3(D)】本開示の態様による、出力を決定するための2つの項の偏波合成を示す一連の図である。
【0012】
図4】本開示の態様による位相シフトされた基準を使用する位相差の比較を示す図である。
【0013】
図5】本開示の態様による空間ダイバーシティの合成を示す図である。
【0014】
図6(A)】空間ダイバーシティ合成を用いたスパイク抑制を示す一連のプロットであって、空間合成なしの振動出力を示す。
図6(B)】空間ダイバーシティ合成を用いたスパイク抑制を示す一連のプロットであって、3つの隣接位置を用いた空間合成による振動出力を示す。
図6(C)】空間ダイバーシティ合成を用いたスパイク抑制を示す一連のプロットであって、本開示による静かな領域におけるスパイクの改善を示すために、図6(A)のプロットについて図を拡大して表示している。
図6(D)】空間ダイバーシティ合成を用いたスパイク抑制を示す一連のプロットであって、本開示による静かな領域におけるスパイクの改善を示すために、図6(B)のプロットについて図を拡大して表示している。
【0015】
図7】本開示の態様による、インタロゲータとコヒーレント受信機と分析システムを含む例示的なDFSシステムの概略ブロック図である。
【0016】
例示的な実施形態は、図面および詳細な説明によってより完全に説明される。しかしながら、本開示による実施形態は様々な形態で実施することができ、図面および詳細な説明に記載された特定のまたは例示的な実施形態に限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0018】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0019】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0020】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0021】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0022】
レイリー後方散乱の差分検出は、分散型音響センシング(DAS)で使用される周知の技術であることに留意されたい。動作をより良く理解するために、r(z)は、ファイバに沿った位置zにおけるレイリー後方反射のスカラー値であると考える。2つの点zと点z+Δzとの間のσの縦方向応力により、その光学距離はδz=σEΔzだけ伸びる。ここで、Eはファイバを構成するガラスのヤング率である。σ(t)の時変縦応力(time-varying longitudinal stress)を引き起こす音響振動が存在する場合、レイリー後方散乱の微分積が位相変調される可能性がある。
【数18】
ここで、nはファイバの位相速度指標であり、λはインタロゲーションの波長である。
【0023】
従来のDASシステムでは、インタロゲータは矩形パルスp(t)=rect(t/T)を被測定ファイバ(FUT)に送信する。ここで、パルス幅Tはzres=(c/2neff)Tの空間分解能に対応し、cは光速であり、neffはファイバを伝播するパルスの群指標(group index)である。受信されたレイリー後方散乱は、畳み込み
【数19】
によって与えられ、飛行時間(time-of flight)tは、z=(c/2neff)tによってファイバ位置に関連付けられる。FUTが長手方向に延伸されると、各微小のレイリー反射成分r(t)は、式(1)に従って位相シフトを受ける。出力q(t)は、成分r(t)が相殺的に加算されるときに振幅フェージングを受ける。したがって、Tiを干渉計の遅延とした遅延干渉積q(t)q*(t-Ti)は、位相変調を持つだけでなく、「レイリーフェージング」の影響も受ける。|q(t)|または|q(t-Ti)|のいずれかがゼロに近づくと、受信機ノイズにより遅延干渉積の位相が位相ノイズと位相不連続の影響を受けやすくなる。
ダイバーシティ合成
【0024】
「ダイバーシティ」を使用することによってレイリーフェージングを軽減することが可能である。ダイバーシティを実現する方法には、以下が含まれる。
【0025】
(i)偏波ダイバーシティ:伝播中の送信パルスとレイリー後方散乱の両方の偏波回転は、受信信号
【数20】
が2つの偏波成分を有することを意味する。4つの遅延干渉積x(t)x*(t-Ti)、x(t)y*(t-Ti)、y(t)x(t-Ti)およびy(t)y*(t-Ti)を構成し、それらを合成してフェージングを軽減することができる。
【0026】
(ii)空間ダイバーシティ:近傍内のファイバ位置{z1,…,zk}に対して、
【数21】
に基づく遅延干渉積を合成することができる。残念ながら、これは空間分解能を犠牲にする。
【0027】
(iii)周波数ダイバーシティ:
【数22】
に基づく遅延干渉積が独立してフェードするように、十分に離れた異なる波長のパルスを送信することができる。これには、受信機において、より多くのハードウェアとより多くのデジタル信号処理が必要になる場合がある。
【0028】
手法(i)~(iii)またはこれらの手法の組合せのいずれを用いるかにかかわらず、様々な発生源から生じる遅延干渉積を合成する方法が必要である。
【数23】
は、合成されるべきNb遅延干渉積を表すとする。ここで、lは位置指標(position index)であり、mは、パルス繰り返し周期に等しいTfのレートで音響振動がサンプリングされると仮定した時間指標(time index)である。全てのbk[l,m]項は、そのファイバ位置での縦振動(すなわち、式(1)のような
【数24】
)によって同じように位相変調される。ただし、個々の|bk[l,m]|の振幅が特定の時間指標mでフェードすることがある。ダイバーシティ合成では、
【数25】
を計算する。
【0029】
ここで、
【数26】
は、ベクトルbk[l,m]を建設的に加算し、結果として得られるベクトル
【数27】
の振幅および信号対雑音比(SNR)を最大化する位相を求めるものである。
【0030】
コヒーレントDASは、(mが正の整数であるm個のサンプルによって離間された)2つのファイバ位置毎の位相差を使用して、2つの位置間の動き(例えば、振動)を検出する。この手順はビーティングと呼ばれ、その出力はファイバセクションに沿った累積歪みを決定する。このプロセスでは、偏波ダイバーシティを使用して4つのビート積
【数28】
を生成する。低速でランダムな偏波スイッチングのため、4つの積の間の振幅および位相関係はともにランダムである。改善されたSNR(信号対雑音比)の向上と半端スイッチングの耐性を両立させるために、4つの積を1つの出力に合成する方法が必要とされる。この方法は、多偏波状態(MPSC)合成プロセスと呼ばれ、4つのビート結果を1つの
【数29】
のみに合成する。
【0031】
当業者には理解および認識されるように、MPSC法は、様々な用途に対応するために信号周波数要素を維持しながら、偏波変化を追跡し、合成前に異なるダイバーシティ項の位相を揃える必要がある。このような偏波追跡は、位相の動きに追従し、信号がある偏波から別の偏波に切り替わるときの位相ジャンプを回避しなければならない。加えて、レイリーフェージングを解決するには空間平均化が好ましく、これは、信号がしばらく消失する可能性がある。以下に示し説明するように、本願の発明の方法は、少なくともこれらの要件の全てを有利に満たす方法を記載する。
【0032】
本発明の方法を理解するために、ある位置内のビート積を
【数30】
(i=1,2,...d、ここでdは偏波ダイバーシティの数、すなわち本発明の場合は4、nは時間)とする。本発明では、最初に、最大平均電力を有するものを探し、次いで、他の全てのダイバーシティ項を回転させて、それと整合させる。
【0033】
最大電力のものが
【数31】
から
【数32】
に変化するときに位相連続性を維持するために、本発明では、回転結果
【数33】
を基準として使用して、他のビート積との位相差を計算する。
【数34】
の位相回転
【数35】
は、
【数36】
が最大平均電力を有する限り、一定
【数37】
のままである。
【0034】
空間ダイバーシティ合成に関して、本発明は、各ファイバ位置(
【数38】
と名付ける)から合成出力
【数39】
を取得し、個々のものの複素平均(complex average)
【数40】
を計算し、次いで、最大平均電力を有するものと同じ指示方向に他のすべての位置を回転させる。
【0035】
最大平均電力を有するものを
【数41】
とすると、
【数42】
の回転は角度
【数43】
になる。最大電力がある位置
【数44】
から別の位置
【数45】
に変化するときに位相連続性を維持するために、本発明は、
【数46】
の回転方向を基準とし、合成前に他の全ての位置をこの基準方向に向けるという、上記と実質的に同じアプローチを使用する。
【0036】
周波数(ラムダを含む)ダイバーシティは、レイリーフェージングを解決するための別のスキームである。提案する解決策は、偏波ダイバーシティと同じ方法で周波数ダイバーシティ合成に適用でき、F*dビート積に対して同じステップで一緒に処理することができる。ここで、Fは周波数またはラムダの数であり、dは偏波の組み合わせの数である。
【0037】
ある位置内での偏波ダイバーシティ合成の場合、最後のサイクルの位相シフト値によって最大平均電力を有するビート積を回転させ、それを他のビート積の基準として使用し、他のものをその基準方向に回転させる。これにより、基準ビート積を変更するときの位相ジャンプが回避される。
【0038】
空間ダイバーシティ合成では、各位置からの出力を使用し、その複素平均を取得する。次に、最大平均電力を有するものを基準として使用し、複素平均(または平均位相)を使用して、各他の位置の基準位置との間の位相差を計算する。各位置を対応する差分だけ回転させる。位相連続性を維持するために、まず、基準をその最後のサイクルの位相シフト値だけ回転させる。
【0039】
空間ダイバーシティ合成では、「現在位置」(合成位置の中心位置)の最後の回転値のみが保存されるので、メモリの複雑さは0(1)である。
【0040】
本開示に関連する可能性のある先行議論の要素は、本出願人の「複数位置のビート項合成を用いた短パルスコヒーレント分散型音響センシングによるレイリーフェージング緩和」と題された米国特許出願第16/879,505号および本出願人の「相関ベースのダイバーシティ合成およびバイアス除去によるレイリーベースの位相OTDRの性能の改善」と題された米国特許出願第16/897,407号に見出すことができ、これらは各々、詳細に記載されているかのように、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
図1は、本開示の態様による例示的な偏波ダイバーシティ合成方法の概略フローチャート図である。
【0042】
以下では、時間平均(またはローパスフィルタリングされた値)に
【数47】
を使用し、複素共役(complex conjugate)にx*を使用する。
【0043】
図1を参照すると、第1のステップは、位置内偏波ダイバーシティ合成であることに留意されたい。最初に、全てのビート積を0度回転させる(回転なし)。次に、後続の各サンプルについて、以下の手順を使用する。
【0044】
この手順は、位置ごとに繰り返されることに留意されたい。この手順では、ステップ3で、最後のサイクルからの回転を使用することによって基準を調整する。この回転は、
【数48】
が最大平均電力を示す場合には変化しない。ステップ4および5では、基準と比較して位相差を計算する。最後に、ステップ6-この手順では、その差を補正して、合成前にすべてのビート積の平均位相が適切に調整されるようにする。
【0045】
図2は、本開示の態様による例示的な空間ダイバーシティ合成方法の概略フローチャート図である。
【0046】
この図を参照すると、次の操作は、上記の出力
【数49】
を使用した位置間空間合成であることに留意されたい。現在計算中の位置が位置cであり、偏波ダイバーシティ合成からのその複素出力(complex output)が
【数50】
であると仮定し、以下の処理手順を使用する。
【0047】
コヒーレントDASにおけるダイバーシティ合成は、偏波回転とレイリーフェージングに対する耐性を提供する。なお、信号を打ち消すのではなく、信号を強化するために、合成前にビート積を適切に整列させる必要がある。最初に、最大電力を有する項を見つけ、次いで、他の項をそれと相関させて位相差を計算する。この差は平均化され、互いの項を整列させるために使用される。
【0048】
例えば、図3(A)および図3(B)のように、
【数51】

【数52】
の2つの項の偏波ダイバーシティ合成を考慮して、
【数53】
の出力を計算する。平均は、3つの隣接するサンプル
【数54】
および
【数55】
からのものである。
【数56】
は、
【数57】
よりも高い平均電力を有する。
【0049】
第1ステップ(図3(A))では、
【数58】
を用いて、
【数59】

【数60】
との間の複合方向差(complex direction difference)を計算する。第2のステップ(図3(B))では、
【数61】
から平均
【数62】
を計算し、それに対応する角度
【数63】
を計算する。図3(C)の第3のステップでは、
【数64】

【数65】
だけ回転させて
【数66】
とし、これは
【数67】
と位相が揃えられているいるため、2つの項を加算して出力
【数68】
とすることができる(図3(D))。
【0050】
この方法では、最高電力項が互いに変更すると、新しい項と古い項との間に位相差がある場合に、位相不連続が発生する。例えば、図3(A)~図3(D)において、次のサイクル
【数69】
がより高い平均電力を有する場合、上記の方法を使用すると、
【数70】

【数71】
と整列するように回転するため、出力
【数72】
は、
【数73】
とは異なる位相オフセットを有する。この問題を解決するために、位相回転値を基準として、他の項との位相差を計算する。図3では、次のサイクル
【数74】
がより高い平均電力を有する場合、
【数75】
を得る。
【0051】
これは、
【数76】
との差を計算するために使用する基準であり、
【数77】
となる。
【0052】
この概念を図4に示す。、平均をとる場合は、サイクルの対応する基準
【数78】
からサイクル(n+k)について計算された
【数79】
を使用する(
【数80】
は、サイクル(n+k)の最大平均電力を有するものであり、サイクル(n+k-1)のその位相シフトは、
【数81】
である。)。位相差を計算した後のその後のステップは、図3(B)~図3(D)と同じである。
【0053】
【数82】
を計算する場合、k≧1の場合、
【数83】
は利用できないので、回避策としてk≦0を使用することに留意されたい。あるいは、各サンプルについて、位相がわずかな変化しか有さないことを考慮すると、k≧1について
【数84】
を使用することができる。
【0054】
実際の実施では、位相オフセット/回転は、角度を使用するのではなく、複素領域(complex domain)で実現することができる。平均化は、FIR(移動平均を含む)またはIIRのいずれかのローパスフィルタ(LPF)を使用して実現することができる。より一般的なケースとして、任意の数のダイバーシティ項を有する場合を考える。サイクルnのi番目の項の回転を
【数85】
とし、最大電力を有するものをm番目の項とする。そして、
【数86】
は、以下を用いて計算することができる。
【数87】
【0055】
ここで、
【数88】
は、その最後のサイクルの位相シフト値だけ
【数89】
を回転させて基準として使用し、
【数90】
はこの基準を用いて
【数91】
の位相差を計算し、最終的に回転した信号を全て同じ方向に整列させる。おおよその単位振幅を得るために、式(3)は以下のように、
【数92】
および
【数93】
の振幅で正規化することによって修正することができる。
【数94】
【0056】
合成出力は、以下のようになる。
【数95】
【0057】
1つの位置内での偏波ダイバーシティ合成の上記のステップは、図1に見ることができる。なお、この手順は、処理資源に制限がなければ、周波数/ラムダダイバーシティ合成、および他のダイバーシティ合成にも使用できることに留意されたい。
【0058】
超短パルスの使用は、(必要とされるよりも細いパルス幅と比較して)空間分解能を犠牲にすることによって、空間合成によるレイリーフェージング問題を解決することが期待される。例えば、図5では、空間ダイバーシティ合成が5つの隣接する位置を使用すると仮定し、位置(l-1)からの出力については、位置[l-3,l+1]から合成することができ、位置lは、位置[l-2,l+2]などからの合成出力とすることができる。
【数96】
を計算する場合、位置cを「現在の」位置と呼ぶ。
【0059】
しかしながら、上記の偏波ダイバーシティ合成方法では、各位置の出力における位相オフセットがその隣接位置と異なる場合がある。偏波合成と同じ方法で空間合成を行うことができるが、式(4)から、各位置はそれが関与するものの内部状態をバッファリングする必要があり、したがって、複雑さ(complexity)はL倍になる。ここでは、複雑さを低減するために、以下のステップを有する解決策を説明する。
【0060】
まず、各位置の偏波合成出力から時間平均電力を取得し、最大電力の位置を基準位置mとして使用する。
【0061】
次に、各位置lからの偏波ダイバーシティ合成出力
【数97】
について、その時間平均
【数98】
を計算する。
【0062】
最後に、
【数99】

【数100】
の差を計算し、各
【数101】

【数102】
と同じ方向に回転させて合成する。
【0063】
上記で提案した位置のイントラ合成方法と同様に、最大電力位置が別の位置に変化するときに位相連続性を維持するために、比較する他の位置の基準は、その最後のサイクルの位相シフトによって回転された
【数103】
である。この位相シフト値は、「現在の」位置ごとに異なる。例えば、図5のサイクルnにおいて、
【数104】

【数105】
の両方を計算するときに、位置l-1が最大平均電力を有する(すなわち、サイクルnにおいて[l-3,l+3]の中で最も高い)と仮定する。その場合、
【数106】

【数107】
の計算に使用されるその位相シフト値は異なる場合がある。このため、各サイクルで位置ごとに保存される位相回転値は、常に現在の位置の位相回転値(
【数108】
を計算するときはRc(n))となる。一方、基準位置の位相シフト値は一定である必要があり、これは
【数109】
を意味する。
【0064】
c(n)を保存することにより、実際の位相差の比較は、互いの位置と現在の位置との間で、以下を使用して行われる。
【数110】
【0065】
これは、各位置(cを含む)の回転値であるので、式(6)および(7)から、次式を得ることができる。
【数111】
【0066】
c(n)がユニット円に正規化されると仮定すると、式(8)から次式を得ることができる。
【数112】
【0067】
これは、Rc(n)がどのように更新されるを示す。Rc(n)を更新すると、次のステップでは、
【数113】
を使用して各位置を回転させる。
【0068】
そして、各合成合位置について上記の結果を合計して、最終出力を得る。なお、
【数114】
が小さくなり、精度が限られているために誤差が大きくなる可能性がある場合は、事前定義された値でスケーリング/拡大する必要がある。
【0069】
または、各位置について、最後のサイクルから計算された最大電力位置とその回転値を使用し、その後、これらのフィールドを更新し、次のサイクルのために更新値を保存することもできる。例えば、サイクルnにおいて、空間平均位置のうち、位置mはサイクル(n-1)からの最大平均電力を有し、回転値
【数115】
でm(n-1)とマークされる。関係する各位置lは、
【数116】
だけ回転する。その後、新しい最大位置がm(n)として計算され、その回転値
【数117】
が次のサイクルで使用するために保存される。
【0070】
図6(A)、図6(B)、図6(C)、および図6(C)は、空間合成を使用した場合と使用しない場合の比較結果である。その結果は、まずダイバーシティ合成信号をラップされていない位相に変換し、次にローパスフィルタでDC因子を除去し、さらにローパスフィルタで高周波ノイズを除去することによって、「振動振幅」と見做される。空間合成を行わない場合(図6(A)、図6(C))、振動出力にくつかのスパイクが観察されるが、3個所の空間合成を行う場合には、性能が大幅に改善される。
【0071】
図7は、本開示の態様による、センサファイバに光学的に接続されたインタロゲータ、コヒーレント受信機、および分析/解析器を含むDASシステムを示す概略図である。
【0072】
いくつかの具体例を用いて本開示を示したが、当業者であれば、本教示がそのように限定されないことを認識するのであろう。したがって、本開示は、本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6(A)】
図6(B)】
図6(C)】
図6(D)】
図7