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特許7515713生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉の最小化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉の最小化
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/305 20210101AFI20240705BHJP
【FI】
A61B5/305
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023520479
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2021076450
(87)【国際公開番号】W WO2022073781
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】20200589.8
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フランク クリストフ フロリアン
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/162365(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0143275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉を最小化する方法であって、前記方法は、
前記測定デバイスの複数の入力チャネルに付与されたテスト信号に対応する、前記測定デバイスの複数の入力信号のサンプルを受信するステップと、
少なくとも2つの入力チャネルのサンプルの線形結合を記述する少なくとも1つの定義ベクトルを入力するステップと、
少なくとも1つのベクトル信号から計算されたメトリックを最適化するステップであって、前記少なくとも1つのベクトル信号は、受信した前記複数の入力信号のうち少なくとも2つの入力信号のサンプルと前記少なくとも1つの定義ベクトルとに基づいている、最適化するステップと、
前記メトリックを最適化するステップに基づいて、特定の入力チャネルに関連付けられている少なくとも1つのデジタル入力フィルタに対して、少なくとも1セットのフィルタ係数を取得するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
複数の定義ベクトルが入力され、少なくとも1セットのフィルタ係数が特定の定義ベクトルに対して取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メトリックを最適化するステップは、複数の最適化ステップを含み、1つのステップで取得されたフィルタ係数のセットが後続の最適化ステップに対して一定に保たれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記最適化するステップは、フィルタ係数に関して少なくとも1つの線形等式制約を受ける、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの入力チャネルのDCゲイン値を入力するステップと、前記DCゲイン値に基づいて対応する線形等式制約を決定するステップと、を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記最適化するステップは、所与の周波数における特定の入力フィルタのゲインを制限するために、少なくとも1つの非線形不等式制約を受ける、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記最適化するステップは、フィルタ係数に関して少なくとも1つの境界制約を受ける、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルは、前記測定デバイスで生理学的測定を実行するために適用される動作サンプリングレートと比較して、増加されている較正サンプリングレートで受信され、及び/又は、
受信した前記サンプルの較正分解能は、前記生理学的測定を実行するために受信したサンプルの測定分解能とは異なる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記メトリックを最適化するステップは、出力サンプルのペナルティ関数を最小化するステップを含み、前記出力サンプルは、前記フィルタ係数に従ってフィルタリングされた前記入力信号から、及び前記定義ベクトルから計算された少なくとも1つのベクトル信号に対応している、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記最適化するステップは、前記出力サンプルの複数の異なるペナルティ関数を同時に最小化するステップか、又は異なるペナルティ関数のスカラーターゲット関数を最小化するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのペナルティ関数は、凸又は準凸ペナルティ関数である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのペナルティ関数は、ノルムである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
プログラムコード手段を含むコンピュータプログラムであって、前記プログラムコード手段は、前記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されると、前記コンピュータに、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法のステップを実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項14】
生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉を最小化するための較正デバイスであって、前記較正デバイスは、
処理ユニットを含み、
前記処理ユニットは、
前記測定デバイスの複数の入力チャネルに付与されたテスト信号に対応する、前記測定デバイスの複数の入力信号のサンプルを受信することと、
少なくとも2つの入力チャネルのサンプルの線形結合を記述する少なくとも1つの定義ベクトルを入力することと、
少なくとも1つのベクトル信号から計算されたメトリックを最適化することであって、前記少なくとも1つのベクトル信号は、受信した前記複数の入力信号のうち少なくとも2つの入力信号のサンプルと前記少なくとも1つの定義ベクトルとに基づいている、前記メトリックを最適化することと、
前記最適化することに基づいて、特定の入力チャネルに関連付けられている少なくとも1つのデジタル入力フィルタに対して、少なくとも1セットのフィルタ係数を取得することと、
を実行する、較正デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的測定デバイス、特に、心電計(ECG)デバイス又は脳波記録(EEG)デバイスのような電気生理学的測定デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生理学的測定デバイスは通常、「ベクトル」や、特にECGやEEGのコンテキストでは「誘導」と呼ばれることが多い差分値の形式で測定結果をユーザ(医療従事者など)に提示する。差分値は、患者の体の様々な場所で測定された物理量の差から算出される。測定デバイスは、様々な場所で測定された信号のコモンモード成分を可能な限り抑制するように設計されている。
【0003】
国際特許公開WO2018/162365には、測定デバイスの異なるチャネルに関連付けられた異なるアナログ-デジタルコンバータ(ADC)の出力に配置されたデジタルフィルタを含む生理学的測定デバイスが説明されている。フィルタは、コモンモード干渉を低減するために較正されている。対応する較正方法は、基準入力チャネルを決定することと、基準入力チャネルと基準入力チャネル以外の各入力チャネルとの時間領域差を最小化することとを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、入力フィルタのコモンモード除去能力を損なうことなく、コモンモード干渉を更に低減すること及び/又はデジタルフィルタの特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉を最小化する方法が提示される。この方法は、測定デバイスの複数の入力チャネルに付与されたテスト信号に対応する、測定デバイスの複数の入力信号のサンプルを受信するステップと、少なくとも2つの入力チャネルのサンプルの線形結合を記述する少なくとも1つの定義ベクトルを入力するステップと、少なくとも1つのベクトル信号から計算されたメトリックを最適化するステップであって、少なくとも1つのベクトル信号は、受信した複数の入力信号のうち少なくとも2つの入力信号のサンプルと少なくとも1つの定義ベクトルとに基づいている、最適化するステップと、最適化するステップに基づいて、特定の入力チャネルに関連付けられている少なくとも1つのデジタル入力フィルタに対して、少なくとも1セットのフィルタ係数を取得するステップとを含む。入力信号のサンプルだけでなく定義ベクトルにも基づいてメトリックを最適化することによって、基準信号の選択を省略でき、これにより、優れたコモンモード干渉軽減を可能にし、ベクトル信号の所望の(差分など)成分の品質に対する悪影響が特に少ない個々のデジタル入力フィルタによく合ったフィルタ係数のセットがもたらされる。
【0006】
上記の方法は、測定デバイスを較正する較正方法である。この方法は、測定デバイスに適用される製造最終テスト中に実行されてもよい。しかしながら、この方法は特定の使用事例に限定されない。例えば、この方法は、測定デバイスのセルフテスト又自己較正を行うために使用されてもよい。また、この方法を、日常保守タスクなどの最中に使用することもできる。
【0007】
典型的な応用では、較正対象の測定デバイスは、複数のベクトル信号に対応する複数の誘導を有する。したがって、複数の定義ベクトルが入力され、少なくとも1セットのフィルタ係数が特定の入力ベクトルに対して取得され得る。つまり、異なるセットのフィルタ係数を、同じ入力チャネルに対してであるが、異なるベクトル信号に対して使用できる。実施形態では、特定のベクトル信号によって使用されるチャネルに関連付けられている全てのフィルタに関連するフィルタ係数の専用のセットがこのベクトル信号に割り当てられる。異なるベクトル信号に異なるセットのフィルタ係数を使用することは、コモンモード干渉低減を向上させるだけでなく、計算の複雑さの観点から、最適化を単純化することができる。
【0008】
最適化の計算をあまり複雑でないようにする別のアプローチは、最適化を複数の最適化ステップに分割することである。具体的には、メトリックを最適化するステップは、複数の最適化ステップを含み、1つのステップで取得されたフィルタ係数のセットが後続の最適化ステップについて一定に保たれる。
【0009】
入力信号のサンプルと定義ベクトルとの両方に最適化を基づかせることによって、コモンモード干渉低減に関連していない又は直接関連していない少なくとも1つの入力フィルタの特性を制御するために制約を定義できる。例えば、最適化するステップは、フィルタ係数に関して少なくとも1つの線形等式制約を受ける。このような線形等式制約は、DCゲイン又はナイキスト周波数における特定のゲインを取得するために適用される。
【0010】
上記の方法は、少なくとも1つの入力チャネルのDCゲイン値を入力するステップと、DCゲイン値に基づいて対応する線形等式制約を決定するステップとを含んでもよい。入力されたDCゲイン値に基づいて1つの、複数の、又は全てのデジタル入力フィルタのDCゲインを設定する際には、チャネル間の差を相殺できる。実施形態では、1つの入力チャネルのDCゲイン値が入力され、この単一のDCゲイン値に基づいて対応する線形等式制約が決定される。DCゲイン値は、本方法の前に又は本方法と並列に実行される別の測定プロセスによって決定されてもよい。例えばDCゲイン値に基づいて少なくとも1つの線形等式制約を適用することにより、単に全てのフィルタ係数をゼロに設定することによってターゲット関数を最小化する自明なソリューションに達しないようにされる。
【0011】
更に、最適化は、所与の周波数における特定の入力フィルタのゲインを制限するために、少なくとも1つの非線形不等式制約を受ける場合がある。このような制約により、デジタル入力フィルタの周波数応答を少なくともある程度まで制御できる。これらの制約は、例えばアナログフロントエンドの部品の不所望の周波数応答が少なくとも部分的に相殺されるように定義できる。
【0012】
最適化はまた、フィルタ係数に関して少なくとも1つの境界制約を受ける場合がある。フィルタ係数の範囲を限定するこのような制約により、特定のデジタル形式(例えば、浮動小数点形式又は特定の固定小数点形式)に従ってフィルタ係数を保存する際の数値オーバーフローを回避できる。このような制約により、例えば、重要ではない周波数範囲の増幅を回避するために、特定の周波数における特定の入力フィルタのゲインを限定することもできる。
【0013】
サンプルは、測定デバイスで生理学的測定を実行するために適用される動作サンプリングレートと比較して増加されている較正サンプリングレートで受信され、及び/又は受信したサンプルの較正分解能は、生理学的測定を実行するために受信したサンプルの測定分解能とは異なる、好ましくは当該測定分解能を下回る。このように適応されたサンプリングレート及び/又は分解能は、より高い周波数をより正確に考慮できるため、較正によく適しており、その一方で、測定デバイスの通常の動作中に捕捉された測定信号の振幅よりもテスト信号の振幅をうまく制御できるため、より低い分解能が較正中に許容可能である。
【0014】
メトリックを最適化するステップは、出力サンプルのペナルティ関数を最小化することを含み得る。出力サンプルは、少なくとも1つの入力フィルタでフィルタリングされた入力信号とベクトルとから計算された少なくとも1つのベクトル信号に対応している。示差測定に対応しているベクトル信号は「ベクトル」と呼ばれることも多い。更に、較正中に付与されるテスト信号は、全ての入力チャネルで同じである場合がある。したがって、純粋なコモンモード信号が測定デバイスのチャネルに付与される。この場合、少なくとも1つのベクトル信号のノルムを最小化することは、コモンモード低減を最大化することに相当する。出力サンプルは、測定デバイスによってサポートされている単一の、複数の、又は全てのベクトル信号に対応し得る。個々のベクトル信号又は複数のベクトル信号の事前に定義されたグループに専用セットのフィルタ係数を使用する場合、出力サンプルは、それぞれのベクトル信号又はベクトル信号のそれぞれのグループに対応し得る。
【0015】
最適化は、出力サンプルの複数のペナルティ関数を同時に最小化するステップか、又は異なるペナルティ関数のスカラーターゲット関数を最小化するステップを含み得る。つまり、最適化は、多目的最適化である。
【0016】
少なくとも1つのペナルティ関数は、凸又は準凸ペナルティ関数、好ましくはノルムであり得る。例えば、l-無限(最大)ノルム及び別のノルム(好ましくはl2(ユークリッド)ノルム)は、同時に又はスカラーターゲット関数に基づいて最小化される。少なくとも1つのペナルティ関数は、フーバー(Huber)損失関数を含み得る。
【0017】
最適化は、異なるノルム又は他のペナルティ関数のスカラーターゲット関数を最小化して、最適化の計算の複雑さを低減することを含むことも可能である。いくつかの異なるノルム又はペナルティ関数からターゲット関数を構成することは、複数の目的を達成することや、互いに対して異なる目的をトレードオフすることを可能にし得る。例えば、l-無限ノルム及びl-2ノルムの加重和を使用すると、最大偏差(l-無限ノルムによって定量化される)だけでなく、誤差信号のエネルギー含有量(l2ノルムによって定量化される)を最小化し、トレードオフのバランスは重量によって与えられる。
【0018】
本発明の更なる態様では、コンピュータプログラムが提示される。コンピュータプログラムは、コンピュータ(例えばデバイスの処理ユニット)に上記方法を実行させるようにプログラムされたプログラムコードを含み得る。コンピュータプログラムは、上記プログラムを含むコンピュータ可読非一時的記録媒体のようなコンピュータプログラム製品の一部であり得る。コンピュータは、較正デバイスの処理ユニットを含み得る。コンピュータ、特に、較正デバイスの処理ユニットは、測定デバイス内にあるデータにアクセスし、及び/又は本明細書に説明される方法を実行するように測定デバイスを制御するためのI/O操作を実行する入出力(IO)回路を含み得る。
【0019】
本発明の更なる態様では、生理学的測定デバイスにおけるコモンモード干渉を最小化する較正デバイスが提示される。この較正デバイスは、処理ユニットを含む。この処理ユニットは、測定デバイスの複数の入力チャネルに付与されたテスト信号に対応する、測定デバイスの複数の入力信号のサンプルを受信することと、少なくとも2つの入力チャネルのサンプルの線形結合を記述する少なくとも1つの定義ベクトルを入力することと、少なくとも1つのベクトル信号から計算されたメトリックを最適化することであって、少なくとも1つのベクトル信号は、受信した複数の入力信号のうち少なくとも2つの入力信号のサンプルと少なくとも1つの定義ベクトルとに基づいている、最適化することと、最適化することに基づいて、特定の入力チャネルに関連付けられている少なくとも1つのデジタル入力フィルタに対して、少なくとも1セットフィルタ係数を取得することとを実行する。較正デバイスは、生理学的測定デバイスとは別個のデバイスとして実装されてもよい。このような別個の測定デバイスは、製造最終テストに使用できる。或いは、較正デバイスは、生理学的測定デバイスにセルフテスト及び/又は自己較正機能を提供するために、生理学的測定デバイスに統合されるように適応されていてもよい。いずれの場合も、較正デバイス、特にその処理ユニットは、上記の方法を実行できる。
【0020】
本発明の更なる態様では、生理学的測定デバイスが提示される。このデバイスは、複数の、通常はアナログの入力信号を処理するための複数の入力チャネルと、複数セットのフィルタ係数を保存するメモリデバイスであって、複数セットのうちの少なくとも1つは、測定デバイスの少なくとも1つのデジタル入力フィルタに関連しており、入力フィルタは、1つの入力信号のサンプルをフィルタリングして、この入力信号のフィルタリングされたサンプルを取得する、メモリデバイスと、複数のベクトル信号を計算する処理ユニットであって、複数のベクトル信号のうちの1つは、定義ベクトルに基づいて複数のフィルタリングされた入力信号から計算される、処理ユニットとを含み、メモリデバイスは、1つの、つまり、同じ入力チャネルに関連する異なるセットのフィルタ係数を保存し、処理ユニットは、特定のベクトル信号を計算するために異なるセットのフィルタ係数のうちの1つを選択する。実装形態では、複数のベクトル信号が定義され、メモリデバイスは、1つの入力チャネルの異なるセットのフィルタ係数を保存し、少なくともいくつかの、好ましくは各々の保存されたセットのフィルタ係数は、複数のベクトル信号のうちの異なる1つに関連付けられている。
【0021】
本発明の更なる態様では、生理学的測定方法が提示される。この方法は、複数の入力チャネルを介して、複数の、好ましくはアナログの入力信号を処理するステップと、複数セットのフィルタ係数をメモリデバイスに保存するステップであって、複数セットのうちの少なくとも1つは、測定デバイスの少なくとも1つのデジタル入力フィルタに関連しており、入力フィルタは、1つの入力信号のサンプルをフィルタリングして、この入力信号のフィルタリングされたサンプルを取得する、保存するステップと、複数のベクトル信号を計算するステップであって、複数のベクトル信号のうちの1つは、定義ベクトルに基づいて複数のフィルタリングされた入力信号から計算される、計算するステップとを含み、1つの入力チャネルに関連する異なるセットのフィルタ係数がメモリデバイスに保存され、異なるセットのフィルタ係数のうちの1つが特定のベクトル信号を計算するために選択される。
【0022】
本発明の更なる態様では、コンピュータで実行されたときに、本明細書に開示される方法のステップを上記コンピュータに行わせるプログラムコード手段を含む、測定方法に対応するコンピュータプログラムと、プロセッサによって実行されると、本明細書に開示される方法を実行させるコンピュータプログラム製品を保存する非一時的コンピュータ可読記録媒体とを提供する。
【0023】
請求項に係る方法、システム、コンピュータプログラム、及び媒体は、請求項に係るシステムと類似及び/又は同一の好ましい実施形態、特に、従属請求項に定義されているとおり、また、本明細書に開示されているとおりの実施形態を有することが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明する実施形態から明らかになり、また、当該実施形態を参照して説明される。
【0025】
図1図1は、生理学的測定デバイス及び較正デバイスのブロック図を示す。
図2図2は、模範的な測定デバイスを示す。
図3図3は、実施形態による測定デバイス内の信号フローを示す。
図4図4は、較正方法のフローチャートを示す。
図5図5は、実施形態による測定デバイス内の更なる信号フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、較正デバイス13に接続された生理学的測定デバイス11を示している。生理学的測定デバイス11には複数のチャネルがある。簡単にするために、図1には3つのチャネルしか示されていないが、一般的にはNチャネルが存在し得る。各チャネルには、アナログ入力信号s(i=1、・・・、N)を入力するためのアナログ入力部15がある。個々のチャネルの入力部15は、アナログフロントエンド17に接続されている。アナログフロントエンド17には、個々のチャネルに関連付けられたアナログ入力回路19が含まれている。アナログ入力回路19は、1つ以上の増幅器、インピーダンスコンバータ、アナログフィルタなどを含み得る。個々のチャネルの入力回路は、マルチチャネルアナログ-デジタルコンバータ21に接続されている。マルチチャネルアナログ-デジタルコンバータ21は、個々のアナログ入力回路19によって前処理された個々の入力信号sを、個々のチャネルの入力信号sを表すサンプルc(i=1、・・・、N)に変換する。図示する実施形態では、マルチチャネルアナログ-デジタルコンバータ21は、複数のアナログ-デジタルコンバータ(ADC23)を含み、各ADCは特定のチャネルに関連付けられている。別の実施形態では、単一のADC23を複数のチャネルに関連付け、マルチチャネルアナログ-デジタルコンバータ21が、1つのチャネルを対応するADCに選択的に接続するマルチプレクサを含んでいてもよい。マルチプレクサを使用する場合、1つのADC33を使用して、各チャネルの入力信号を次々に変換できる。マルチプレクサを使用すると、1つのADCで複数の入力チャネルを連続的にサンプリングできる。本明細書で説明する較正方法は、このような多重化セットアップで生じる可能性のあるタイミングスキューを相殺できる。可能な実装形態(ECGデバイスなど)では、例えばADCごとに5つのECG入力チャネル(合計で10の入力チャネル)を連続してサンプリングするように動作可能である2つのADCがある。
【0027】
マルチチャネルアナログ-デジタルコンバータ21のデジタルインターフェースは、測定デバイス11の処理ユニット25に接続され、個々の入力信号sのサンプルcが処理ユニット25に転送される。
【0028】
処理ユニット25は、生理学的測定デバイス11による測定を実行するために必要な様々な処理ステップを実行するように動作可能なコンピューティングデバイスを構成する第1のプロセッサ27と第1のメモリデバイス29とを含む。処理ユニット25は、複数のデジタル入力フィルタ31を含む。入力フィルタの数はチャネルの数Nに対応し、1つのデジタル入力フィルタ31を1つの特定のチャネルに割り当てることができる。個々の入力フィルタ31は、列ベクトルx(i=1、・・・、N)で表されるフィルタ係数を有する有限インパルス応答(FIR)フィルタとして実装できる。個々のベクトルxの長さKは、各デジタルフィルタ31のフィルタ係数の数に対応する。デジタルフィルタ31を入力信号sのサンプルcに適用した後にこれらのサンプルから差分出力信号が算出されるため、デジタルフィルタ31は、入力チャネル固有デジタルフィルタ(ICSF)とも呼ばれる。
【0029】
なお、本開示は特定のフィルタトポロジーに限定されないことに留意されたい。FIRフィルタの代わりに、無限インパルス応答(IIR)フィルタなどの他のフィルタを適用してもよい。フィルタ31はソフトウェアで実装できる。即ち、メモリデバイス29に保存されたコンピュータプログラムを、第1のプロセッサ27がフィルタ係数xに基づいてフィルタアルゴリズムを実行するようにプログラムできる。フィルタ係数xは、第1のメモリデバイス29のプログラマブルで不揮発性のセクションに保存できる。処理ユニット25は、較正デバイス13がサンプルxを読み取ってフィルタ係数xをプログラムできるように、較正デバイス13によってアクセス可能である。
【0030】
処理ユニット25は、個々のデジタル入力フィルタ31によってフィルタリングされた個々の入力信号のサンプルcから1つ以上の出力信号y(j=1、・・・、M)を計算するために動作可能である。出力信号yは、ベクトル信号又は単に「ベクトル」とも呼ばれ、複数のチャネルのフィルタリングされたサンプル
【数1】
の線形結合を形成することによって計算でき、それによって少なくとも2つの入力信号sに関して示差測定が実行される。この線形結合は、特定の出力信号yの定義ベクトルvによって指定できる。ここで、1T’*v=0であり、1は1の列ベクトルを表す。即ち、1=[1,・・・,1]であり、「*」はスカラー積を表す。出力信号は
【数2】
である。定義ベクトルによって記述される線形結合は示差測定を指定する。示差測定は、2つ以上のチャネルに基づいて行うことができる。ECGやEEGなどのいくつかの応用では、ベクトル信号は「誘導」とも呼ばれることが多い。
【0031】
生理学では、電圧測定はほとんど常に示差測定である。血圧や体温などの他の物理量は通常、絶対値として測定される(例えば37℃の体温や100mmHgの動脈内圧)が、場合によっては示差測定が興味深いことがある(心拍出量は熱希釈法で測定できる。これは血管内の2つの点で温度差を測定する必要がある)。したがって、本明細書に説明される技術は、電圧測定ではない示差測定にも適用できる。
【0032】
簡単にするために、図1は、入力チャネルごとに1つのデジタルフィルタ31のみを示している。しかしながら、1つの入力チャネルiに対して複数のデジタルフィルタ31を提供することができ、それぞれがサンプルcを処理する。異なるデジタルフィルタ31が、異なる出力信号に関連付けられる。したがって、フィルタリングされた信号の特定の変形
【数3】
を使用して、特定の出力信号yを計算できる。
【0033】
測定デバイス11は、処理ユニット25に結合された出力デバイス33を含むため、出力デバイス33は出力信号yを出力できる。例えば、出力デバイス33には、ディスプレイやプリンタなど、出力信号yを可視化する要素が含まれている。出力デバイス33が出力する前に、1つ以上の出力信号yを処理する1つ以上の後処理ステップが存在していてもよい。
【0034】
生理学的測定デバイス11は、ECGやEEGなどの電気生理学的測定デバイスである。特にチャネル数N及び出力信号数Mに関しては、様々な構成が可能である。
【0035】
比較的簡単な例として、単一の出力信号(単一ベクトル)と、2つの入力部15(2つのチャネル)に接続された2つの電極とを有するECG又はEEGデバイスがある。このような測定デバイス11に必要な定義ベクトルは、v=[1,-1]だけである。
【0036】
図2に示す別の例では、測定デバイス11のN=9個の入力部15に接続された9つの測定電極を有する12誘導ECGが提供されている。したがって、このような測定デバイスは9つのチャネルを持っている。この電極には、3つの四肢電極(右腕RA、左腕LA、左足LL)、6つの胸部電極(V1~V6)が含まれ、これらは測定ケーブル35を介して生理学的測定デバイス11の9つの異なる入力部15に接続されている。
【0037】
出力ベクトル信号y、…、y12は、医療従事者に対して出力デバイス33によって可視化された12誘導に従って定義される。誘導及びそれぞれのベクトル信号には、誘導I(LA-RA)、誘導II(LL-RA)、誘導III(LL-LA)、aVR(RA-0,5*(LA+LL))、aVL(LA-0,5*(RA+LL))、aVF(LL-(RA+LA))、及び(Vn-WCT)(n=1、・・・、6)が含まれる。WCTはウィルソン(Wilson)中心電極電圧に相当し、これは(RA+LA+LL)/3として近似される。
【0038】
本開示は、上記2つの模範的な測定デバイスに限定されるものではない。例えば、15誘導又は18誘導ECGを、本開示に基づいて提供することもできる。また、32以上のチャネルを有する高密度EEGも、本開示に基づいて提供することができる。
【0039】
図3は、フィルタリングされた入力信号sを別のフィルタリングされた入力信号sから差し引くことによって出力信号yが生成される例を示している(定義ベクトル[1,-1])。したがって、出力信号yは、2つの入力信号sとsとに基づく示差測定によって得られた信号に相当する。生理学的測定を実行する際に、入力信号s、sはコモンモード干渉の影響を受ける。理想的な状況では、2つの信号sとsとを互いに差し引くことでコモンモード部分を完全に排除できる。しかしながら、測定デバイス11の実用的な実装では、例えば、個々のチャネルに関連する信号経路の構成要素19、21、23の電気的特性の違いにより、信号yにはある程度コモンモード部分が含まれている。
【0040】
電気生理学では、筋肉細胞や神経細胞の活動により患者の表面上のポイント間で発生する電圧が測定される。関心の信号は通常、マイクロボルト(EEG)からミリボルト(ECG)の範囲内である一方で、信号のコモンモード成分は数十又は数百ミリボルトである可能性がある。医療分野では、他の医療機器、電子通信デバイス、ネットワークデバイス、電力線ノイズなど、様々な干渉(コモンモード干渉を含む)源が考えられる。出力信号yが診断や治療に有用であるためには、電気生理学的測定デバイス11に高いコモンモード除去比(CMRR)が必要である。50Hz又は60Hzの電力線周波数範囲でCMRRを決定するための標準化されたテスト手順があるが、他の周波数でもコモンモード干渉を軽減すべきである。コモンモード干渉を軽減すべき周波数には、特に、記録デバイスが何らかの帯域外処理(電極インピーダンス測定やECGペースメーカパルス検出など)を実行する場合に、ECG/EEG帯域外の周波数が含まれることがある。
【0041】
コモンモード干渉を軽減するために、デジタルフィルタ31は、それぞれの出力信号yのコモンモード部分が最小化されるように設計されている。このために、図1に示す較正デバイス13を適用してフィルタ係数xを決定し、個々の出力信号yのコモンモード成分を最小化することができる。較正デバイス13は、第2のプロセッサ39及び第2のメモリデバイス41を含む更なる処理ユニット37を含む。更なる処理ユニット37には、更なる処理ユニット37を較正デバイス13のテスト信号発生器33と結合する入出力(IO)回路が含まれている。IO回路は、第1のメモリデバイス29、特にその不揮発性セクションにアクセスするため、較正デバイス13はサンプルxを読み取ってフィルタ係数xをプログラムできる。IO回路は、測定デバイス11に存在するデータにアクセスする、及び/又は本明細書に説明される較正方法45を実行するために測定デバイスを制御するためのIO操作を実行する。更なる処理ユニット37は、較正デバイス13のテスト信号発生器33と結合されている。テスト信号発生器43は、IO回路を介して処理ユニット37によって制御されて、較正方法を実行するときに、較正デバイスの個々の入力部15に供給されるテスト信号TSを生成する。更なる処理ユニット37を構成するコンピュータは、本明細書に説明される、生理学的測定デバイス13を較正する方法を実行するようにプログラムされる。対応するプログラムが、例えば、第1のメモリデバイス13に保存される。
【0042】
図4は、生理学的測定デバイス11を較正する方法を示している。方法45は較正デバイス13によって実行される。したがって、更なる処理ユニット37が方法45を実行する。特に、第2のメモリデバイス41に、更なる処理ユニット37といったコンピュータ上で実行されたときに方法45を実行するようにプログラムされたコンピュータプログラムが含まれている。或いは、方法45の少なくとも一部の操作は、測定デバイス11、特に処理ユニット25によって実行されてもよい。
【0043】
方法45は、測定デバイス11に関連する製造最終テストの一部として実行されてもよい。製造最終テスト中、又は一般的に較正を実行するときは、較正デバイス13が測定デバイス11に接続される。テスト信号発生器43と入力部15との間には、テスト信号TSを入力部15に付与するための電気的接続があり、較正デバイスの処理ユニット37と測定デバイスの処理ユニット25との間には、サンプルcを読み取り、以下に説明されるように較正デバイス13によって計算されたフィルタ係数xを書き込むための通信接続がある。
【0044】
方法45の開始47の後、ステップ49において、テスト信号TSが入力部15に付与される。このために、更なる処理ユニット37は、テスト信号発生器43を制御してテスト信号TSを出力させる。テスト信号は、測定デバイスの関心周波数範囲をカバーし、量子化による誤差を最小限に抑えるために、振幅は測定デバイスのADC23の入力範囲の大部分をカバーするのに十分な大きさであるべきである。その後、様々なタイプの信号を使用できる。例えば、チャープ信号やスイープ信号、パルス列信号、矩形波若しくは鋸歯波のような鋭い遷移を伴う周期信号、更には広帯域若しくは帯域制限ノイズである。
【0045】
ステップ51において、方法45は、測定デバイス11によってサポートされている誘導に対応する1つ以上の定義ベクトルv、・・・、vを入力するか、又は他のやり方で決定する。図4に示すように、定義ベクトルは行列V=[v,・・・,v]に配置できる。
【0046】
方法45のステップ53は、特定のチャネルiの少なくとも1つのDCゲイン値DCを入力する。DCゲイン値DCは、製造最終テスト中に実行されてもよい別の測定手順で決定され、特定のチャネル内、特にそのチャネルのアナログ回路19内の周波数0でのゲインを記述する。
【0047】
方法45のステップ55では、較正デバイス13によって、サンプリング周波数fSAMPとADC23の分解能resが設定される。サンプリングレートfSAMPは、測定デバイス11の通常動作時に使用されるサンプリングレートと比較して増加されている。較正方法45中に使用される分解能resは、通常動作時に使用される分解能と比較して低下される。例えば較正中のサンプリングレートは少なくとも2000Hzであり、一般的なECGレコーダは、ECG測定を行う際は、通常、500Hz~2000Hzのサンプリングレートで動作する。較正中の特別なサンプリングレート及び分解能を設定するために、測定デバイス、特にマルチチャネルアナログデジタルコンバータ21及び/又は処理ユニット25を特別な動作モードに切り替えられる。
【0048】
テスト信号TSが付与されている間、測定デバイス11は、全ての入力チャネルのフィルタリングされていないADCサンプルcを記録する。ステップ57において、方法45は、個々のチャネルに関連し、アナログフロントエンド17によって歪んでいるテスト信号TSを表すサンプルc、・・・、cを受信する。図4に示すように、サンプルはL×N行列C=[c,・・・,c]で表される。Lは記録されたサンプルの数である。
【0049】
ステップ59において、記録されたサンプルC及び定義ベクトルVを使用して、目的関数TFを最小化する最適化問題が確立される。ターゲット関数TFは、少なくとも一部、好ましくは全てのフィルタ係数xを含む出力ベクトルXに依存する。フィルタ係数は、N*K要素の長さを有する列ベクトルX=[x ,・・・,x で表され、Kはチャネルあたりのフィルタ係数の数に対応する。したがって、図示する実施形態の全てのフィルタ31は同じ数の係数を有する。しかしながら、個々のフィルタ31は係数の数が異なっていてもよく、較正方法45はそれに応じて適応することができる。
【0050】
一般に、チャネルごとに2つ以上のデジタルフィルタ31がある場合を考慮すると、係数ベクトルXの長さは1・・・imax(N<=imax<=N*M)である。imaxの最小値は、入力チャネルごとに1つの整合フィルタのみの場合を表し、最大値は、入力チャネルごとに1つの整合フィルタ及び可能な出力ベクトルの場合を表す。一般性を失うことなく、以下はimax=Nと仮定する。
【0051】
ターゲット関数TFは、凸又は準凸ペナルティ関数、特にノルム、好ましくはL-無限ノルム(最大ノルム)を含む。L2ノルム(ユークリッドノルム)のような他のノルムを使用してもよい。ステップ59において解決される最適化問題は、サンプル数のために比較的大きいが、最適化問題の既存のソルバーで処理できる。
【0052】
ターゲット関数の引数には、フィルタリングされていないサンプルc、定義ベクトルv、及びフィルタ係数xを含めることができる。フィルタ係数xは、最適化中に決定されるターゲット変数である。最適化に基づいて、最適化の結果としてフィルタ係数の最適値又は準最適値が得られる。最適化は、最適化問題の数値ソルバーを適用することを含む場合もある。
【0053】
ターゲット関数の引数は、ベクトル信号の全てのサンプルの列ベクトルを含み、次のように形式的にモデル化することができる。
【数4】
【0054】
To(ci)はci要素のテプリッツ(Toeplitz)行列であり、サイズ(L-K+1,K)である。最初の列には、ciの最後の(L-K+1)要素が含まれ、最初の行にはciの最初のK要素が逆の順序で含まれている。c=[1 2 3 4 5 6 7 8 9]T、L=9、K=4の例:
【数5】
【0055】
CA=[To(c1) To(c2)・・・To(cN)]は、全ての出力サンプルの便利な計算のための拡大された入力サンプル行列である。CAはハンケル(Hankel)行列から構築することもできる。これは単に要素の順序、したがって出力における整合するフィルタ係数の順序を変更するだけである。

【数6】
はアダマール(要素単位)行列積である

【数7】
:クロネッカー(Kronecker)積

【数8】
:適切な符号及び計数が乗算される、ベクトルiにおいて使用される入力チャネルサンプルのみを保持するサンプル行列。アダマール/要素単位積クロネッカー積の使用に留意されたい。

【数9】
はベクトル信号iの出力サンプルの列ベクトルである。
【0056】
ターゲット関数の引数に基づいて、最適化は多目的最適化として定式化できる:出力サンプルのベクトルのl-無限ノルムを最小化し、また別のノルム(又は、フーバー損失関数のようなノルム様ペナルティ関数で、L1-ノルムの外れ値に対してロバストな挙動を有するが、l1-ノルムがそうではない平滑関数である)、通常、出力サンプルベクトル(優先度は低い)のl2-ノルムを最小化する。即ち、
Xに関して
【数10】

【数11】
を最小化する。
【0057】
一般に、最適化問題は、差分信号の後続の処理が信号エネルギーではなく外れ値(ECGのペースパルス検出など)に敏感な場合、l-無限ノルム(即ち、純粋なコモンモード信号が入力に付与されたときのゼロからの最大絶対偏差)を最小化する必要がある。しかしながら、いくらかのl-無限ノルムの最適性は、小さなl2-ノルム(又はl-無限大以外のノルム)を有するソリューションを見つけるためにトレードされる。使用されるソルバーによっては、l-無限ノルム最適化のソリューションはすでに他のノルムも最小化するようにバイアスされている場合がある。そうでない場合、多目的最適化問題は、
Xに関して
【数12】
を最小化するようにスカラー化するか、第1のl-無限ノルム最適化に分割してから、l-無限ノルムを一定に保ちながら異なるノルムを最小化することができる(最適化アルゴリズムのジョブを単純化するために、最初の最適化の値から多少の偏差を許容することもある)。
【0058】
最適化問題には制約が含まれる場合がある。DCゲインに関しては、個々のチャネル間の差を相殺するために、例えば、1*x=bという形式の線形等式制約が適用される。値bは、ステップ53で得られたDCゲイン値DCから算出される。同様に、ナイキスト周波数における少なくとも1つのデジタルフィルタ31のゲインは、線形等式制約を使用して制約される。
【0059】
少なくとも1つの非線形等式制約を最適化問題に適用して、例えば、デジタルフィルタ31のゲインが値bと等しくなるように制約する。この制約は(sinf*x+(cosf*x=(bの形式を有する。このタイプの制約はまた、正弦値及び余弦値の実数値ベクトルの代わりに複素指数を使って定式化することもできる。この場合、スカラー積を使用して実数値出力が生成される。
【0060】
更に、例えば、所与の周波数におけるデジタルフィルタ31のうちの少なくとも1つのデジタルフィルタのゲインを、値b以下に制約するために、非線形不等式制約を最適化問題に適用できる。この制約は(sinf*x+(cosf*x<=(bの形式を有する。このタイプの制約はまた、正弦値及び余弦値の実数値ベクトルの代わりに複素指数を使って定式化することもできる。この場合、スカラー積を使用して実数値出力が生成される。
【0061】
線形不等式制約の特殊なケースである境界制約は、個々のデジタルフィルタ31の係数値を制約するために適用される。これらの制約は、bmin<=x<=bmaxという形式を有する。これらの制約を使用して、係数を保存する際の数値オーバーフローを回避したり、フィルタ出力を計算する際の数値オーバーフローを回避したりできる。更に、個々のフィルタ31のハイパス挙動が制限される。
【0062】
係数xから計算されたノルムに関連する更なる制約
【数13】
を適用できる。ノルムはフィルタ係数のL2-ノルムであってもよい。このような制約により、フィルタの平均ゲインとフィルタのハイパス動作の量が制限される。この制約は、非線形凸不等式制約に対応する。
【0063】
本開示は、最適化問題に適用される上記の制約に限定されない。例えば少なくともいくつかの係数ベクトルxの値が減少する大きさを有する(これは、フィルタが最小位相(及び最小遅延)系に近づくように強制する)ように制約する他のタイプの制約も含めることができる。
【0064】
最適化問題は、例えば計算の複雑さを軽減するために変更できる。1つのアプローチは、最適化問題を元の問題よりも小さい部分問題に分割することである。例えば、ECG応用では、較正は、最初に四肢誘導(I、II、III、aVR、aVL、aVF)によって形成されたベクトルの整合するフィルタ係数を計算し、次に、最初の係数セットを一定に保ちつつ、各胸部電極の係数を個別に計算する(実際には2つの胸部電極でのベクトルが使用されないため、胸部電極フィルタ係数は胸部電極ごとに個別に計算できる)。これにより7つの小さな最適化問題がもたらされる。
【0065】
或いは、ウィルソン中心電極(WCT)ベクトル信号(RA+LA+LL)/3の計算ではそれ自身の係数を使用することもできる。この場合、胸部電極V1、・・・、V6に関連するチャネルのフィルタ係数は、全てWCTが必要なため、同時に(つまり、1回の最適化実行中)整合させる必要がある。WCTベクトル信号用に特別にフィルタ係数を計算すると、元の問題は2つの小さい部分問題:四肢誘導ベクトル信号RA、LA、LLのための1つの最適化実行と胸部誘導ベクトルV1、・・・、V6のための1つの最適化実行とに分割される。
【0066】
電極ごとに複数の整合フィルタを使用すると、最適化問題を、ソリューション全体の全体的な最適性に悪影響を及ぼすことなく個別に解決できる完全に独立した部分問題に分割できる。
【0067】
最適化の実行が完了すると、方法45のステップ61は、個々のデジタルフィルタのフィルタ係数Xを取得する。
【0068】
ステップ63において、得られたフィルタ係数Xは、測定デバイスの第1のメモリデバイス29の適切な記憶領域に保存される。
【0069】
ステップ65において、方法45は終了する。
【0070】
一実施形態では、各チャネルにはデジタルフィルタ31が1つだけあり、これらのフィルタ31によって生成されたフィルタサンプル
【数14】
を使用して、特定のベクトル又は誘導に対応する各出力信号yを計算する。図5に示されている別の実施形態では、少なくとも1つのチャネルは、異なるデジタルフィルタ31a、31bに対応する少なくとも2セットのフィルタ係数を有している。これらのフィルタを使用して、1つ以上の特定の出力値を計算する。図5に示される例では、デジタルフィルタ31aを使用して出力信号yを計算し、デジタルフィルタ31bを使用して出力信号yを計算する。両方のデジタルフィルタ31a、31bは、1つのチャネルの入力信号sをフィルタリングする。実施形態では、各出力信号yはデジタルフィルタ31の専用のセットを有している。言い換えれば、個々のデジタルフィルタ31に対応するフィルタ係数のセットは、出力信号yに対応する特定のベクトルに対して得られる。
【0071】
要約すると、本較正法は、異なるチャネルの入力部15に付与されたテスト信号のサンプルと、定義ベクトルとの両方に基づいて、ターゲット関数の最適化によってデジタルフィルタ31のフィルタ係数を得る。これにより、基準信号を選択することなく、フィルタ係数を直接決定できる。更に、コモンモード干渉軽減とは関係のないフィルタ31の特性に関する制約を、較正方法に簡単に組み込むことができる。較正方法45は、デジタル領域でサンプリングされた入力信号sをフィルタリングし、フィルタリングされた入力信号に対応するフィルタリングされたサンプルからベクトル信号を計算する測定デバイス11と組み合わせて使用できる。更に、特定のチャネルに関連付けられた複数のデジタル入力フィルタ31を含む測定デバイス11が説明されている。同じチャネルに関連付けられているデジタル入力フィルタ31は、異なるベクトル信号に関連付けられていてもよい。
【0072】
本発明は、図面及び上記の説明に詳細に例示及び説明されているが、このような例示及び説明は、例示的又は模範的と見なされるべきであって、限定的と見なされるべきではない。本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態の他の変形は、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の検討から、請求項に係る発明を実施する際に当業者によって理解され、実行可能である。
【0073】
特許請求の範囲において、語「含む」は、他の要素又はステップを排除するものではなく、単数形は複数を排除するものではない。単一の要素又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されているいくつかのアイテムの機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないことを意味するものではない。
【0074】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される、光記憶媒体又は固体媒体などの適切な非一時的媒体で保存/配布することができるが、インターネット又は他の有線若しくはワイヤレス通信システムを介してなど他の形式で配布することもできる。
【0075】
特許請求の範囲における任意の参照符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5