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特許7515738リチウムイオン二次電池用正極材料およびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240705BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240705BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023553014
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2022092274
(87)【国際公開番号】W WO2023024581
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】202210478509.1
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】チャン ハン
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンペン
(72)【発明者】
【氏名】チャン シュエチュエン
(72)【発明者】
【氏名】チェン イエンビン
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-118945(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003642(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043190(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用正極材料であって、下記一般式Iを有し:
【化1】
ここで、-0.05≦a≦0.3、0.8≦x≦1、0y≦0.2、0z≦0.2、0≦c≦0.01、0≦d≦0.01、x+y+z+c+d=1、0≦b≦0.05である;
MおよびM'は互いに異なり、それぞれ独立してLa、Cr、Mo、Ca、Fe、Ti、Zn、Y、Zr、W、Nb、V、Mg、B、Al、Sr、BaおよびTaの少なくとも1つから選択される、
Aは、F、Cl、Br、IおよびSのうちの少なくとも1つから選択され、かつ
正極材料の一次粒子の結晶子数Nは10.5~14.5であり、Nは式Iに従って計算される:
【数1】
ここで、DS は、正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の平均粒子径であり、DSは、300~600nmであり、DX は、XRD試験によって測定され、シェラーの式によって計算される正極材料の一次粒子中の結晶子の平均粒子径であり、DXは、30~60nmであり、
D X は、式IIに従って計算される、正極材料:
【数2】
ここで、D (003) は、単一の(003)ピークで表される(003)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D (104) は、単一の(104)ピークで表される(104)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、かつD (003) およびD (104) は、それぞれシェラーの式に従って計算される:
【数3】
ここで
Kはシェラー定数で0.89、
λはX線の波長で、1.54056Åに等しい、
βは、XRDパターンにおける回折ピークD (003) または D (104) の半値全幅であり、
θはXRDパターンの回折ピークD (003) またはD (104) のブラッグ回折角であり、(003)ピークの2θは18.5°から19.5°の範囲にあり、かつ(104)ピークの2θは44.0°から45.0°の範囲にある。
【請求項2】
DSは、400~550nmである、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
D X は、40~50nmである請求項1または2に記載の正極材料
【請求項4】
正極材料の二次粒子のメジアン径D509~20μmである、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項5】
正極材料のタップ密度TDに対する20KNで測定された成形密度PDの比が、1.1≦PD/TD≦1.3を満たす、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項6】
正極材料の安息角αが≦50°である、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項7】
請求項1に記載の正極材料の調製方法であって、以下のステップを含む方法:
ステップi)-1 ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩を含む第1の水溶液と、ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物を含む第2の水溶液と、水性アンモニアとを混合し、かつ得られた混合水溶液の第1のpH値を9~12に調整して、共沈反応を起こさせて結晶を形成させる;
ステップi)-2結晶が2~5μmのメジアン径D50 まで成長したら、混合水溶液の第2のpH値を9~12に調整し、ここで第2のpH値は第1のpH値より大きく、かつその差は0.1~1.0であり、および結晶を9~20μmまで成長させ続け、それによって前駆体を得る;
ステップii)前駆体、リチウム源、および元素Mを含む添加剤を混合し、得られた混合物を650~900℃の一定温度で4~20時間焼成し、混合物を自然冷却し、粉砕、ふるい分け、および鉄除去に供し、それによって第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2を得る。
【請求項8】
以下のステップをさらに含む請求項7に記載の方法:
ステップiii)第1の正極材料Li 1+a Ni x Co y Mn z M c O 2 および元素M'および/またはAを含む第2の添加剤を混合し、得られた混合物を200~700℃の一定温度で3~10時間焼成し、それにより第2の正極材料Li 1+a Ni x Co y Mn z M c M' d O 2-b A b を得る。
【請求項9】
第1のpH値が10.5~11.2であり、かつ第2のpH値が11.2~11.8である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ステップi)-1において、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩が、それぞれ独立して、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、および/または
ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物は、それぞれ独立して、ナトリウムおよびカリウムの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
ステップii)において、リチウム源が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、および/または
元素Mを含む第1の添加剤は、元素Mの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
ステップiii)において、元素M'を含む第2の添加剤が、元素M'の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「カーボン・ピーキング」と「カーボン・ニュートラル」の世界的な普及に伴い、新エネルギー自動車、並びに省エネルギー及び排出ガス削減は自動車産業にとって重要な課題となっており、従来の内燃機関自動車は、よりグリーンで、かつより環境に優しい新エネルギー電気自動車への転換を迫られている。電気自動車では、リチウムイオン電池が有望かつ効率的で環境に優しい電源として広く注目されている。
【0003】
現在、層状三元系材料は、リチウムイオン電池の正極材料の有力な選択肢の一つである。正極材料は、負極や電解質などの構成要素と比較して、容量が低く、比率が高く、コストが高いため、リチウムイオン電池の全体的な性能を制限する重要な要因となっています。
【0004】
層状三元系材料の容量、レート、寿命などの特性は、粒径の調整、構造形態の調整、ドーピング、材料のコーティング改質などの手段によって向上させることができる。特許出願CN111106344Aでは、アルミニウム-マグネシウムリン酸塩複合体を原料として用い、固相法、液相法、および気相法により正極材料の表面を被覆している。熱処理後、内側から外側に向かって順次正極材料-ドープ層-被覆層からなる複合正極材料が得られる。再焼結工程で、少量のリチウムイオンが被覆層に入り、被覆層のイオン伝導性を向上させ、一方、被覆層中の金属の一部が正極の表面に入り、材料の構造を安定化させることにより、より優れた総合性能を有する高容量正極材料が得られる。特許出願CN111217407Aでは、前駆体とリチウム含有化合物を別々に予備焼結した後、混合して焼結している。材料の結晶性が改善され、材料表面の残留アルカリが低減され、表面での副反応の発生が防止されるため、正極材料の容量およびサイクル安定性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許出願CN111106344A
【文献】特許出願CN111217407A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐久走行距離や急速充電などの要求が高まる中、リチウムイオン電池のレート性能、容量、サイクル寿命などを継続的に向上させることが望まれており、層状三元系材料の性能向上が重要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この点に関して、一方では、本開示は、以下の一般式Iを有する、リチウムイオン電池用の正極材料を提供する:
【0008】
【化1】
ここで、-0.05≦a≦0.3、0.8≦x≦1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.2、0≦c≦0.01、0≦d≦0.01、x+y+z+c+d=1、0≦b≦0.05である;
MおよびM'は互いに異なり、それぞれ独立してLa、Cr、Mo、Ca、Fe、Ti、Zn、Y、Zr、W、Nb、V、Mg、B、Al、Sr、BaおよびTaの少なくとも1つから選択され、
Aは、F、Cl、Br、IおよびSのうちの少なくとも1つから選択され、かつ
正極材料の一次粒子の結晶子数Nは約10.5~約14.5であり、Nは式Iに従って計算される:
【数1】
ここで、DS は、正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の平均粒子径であり、DX は、XRD試験によって測定され、シェラーの式によって計算される正極材料の一次粒子中の結晶子の平均粒子径である。
【0009】
本発明によれば、正極材料の一次粒子に制御可能な特定数の結晶子境界を含有させることにより、バルク相におけるリチウムイオンの迅速な拡散経路が提供され、リチウムイオンの拡散係数が増加するため、優れたレート性能および容量発現が達成される。同時に、一次粒子の結晶性のバランスを整え、電池の充放電サイクル中に粒子内部、特に一次粒子内部でのマイクロクラックの発生を回避し、正極材料およびリチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させる。
【0010】
一方、本発明は、本発明による正極材料を調製するための方法も提供し、この方法は、以下の工程を含む:
ステップi)-1 ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩を含む第1の水溶液と、ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物を含む第2の水溶液と、水性アンモニアとを混合し、得られた混合水溶液の第1のpH値を約9~約12に調整して、共沈反応を起こさせて結晶を形成させる;
ステップi)-2結晶が約2~約5μmのメジアン径D50 まで成長したときに、混合水溶液の第2のpH値を約9~約12に調整し、ここで第2のpH値は第1のpH値よりも大きく、かつその差は約0.1~約1.0であり、および結晶を約9~約20μmのメジアン径D50 まで成長させ続けさせ、それによって前駆体を得る;
ステップii)前駆体、リチウム源、および元素Mを含む第1の添加剤を混合し、得られた混合物を約650~約900℃の一定温度で約4~約20時間焼成し、焼成された混合物を室温まで自然冷却し、粉砕、ふるい分け、および鉄除去に供し、それによって第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2を得、かつ任意に
ステップiii)第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2および元素M'および/またはAを含む第2の添加剤を混合し、得られた混合物を約200~約700℃の一定温度で約3~約10時間焼成し、それにより第2の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcM'dO2-bAbを得る。
【0011】
本発明による調製方法は、制御可能で、簡単で、操作が容易である。前駆体の核生成過程および結晶成長中のpH値を制御することにより、前駆体の一次繊維形態および結晶化度が簡単な方法で制御され、その結果、正極材料の一次粒子の結晶子境界の数が制御される。さらに、正極材料の結晶化度と結晶子境界の数の制御は、結晶子境界の成長を制御する機能を有するドーピング元素の種類を選択し、その量を制御することにより、焼結温度の制御と組み合わせて実現される。
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]リチウムイオン二次電池用正極材料であって、下記一般式Iを有し:
【化1】
ここで、-0.05≦a≦0.3、0.8≦x≦1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.2、0≦c≦0.01、0≦d≦0.01、x+y+z+c+d=1、0≦b≦0.05である;
MおよびM'は互いに異なり、それぞれ独立してLa、Cr、Mo、Ca、Fe、Ti、Zn、Y、Zr、W、Nb、V、Mg、B、Al、Sr、BaおよびTaの少なくとも1つから選択される、
Aは、F、Cl、Br、IおよびSのうちの少なくとも1つから選択され、かつ
正極材料の一次粒子の結晶子数Nは約10.5~約14.5であり、Nは式Iに従って計算される:
【数1】
ここで、D S は、正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の平均粒子径であり、D X は、XRD試験によって測定され、シェラーの式によって計算される正極材料の一次粒子中の結晶子の平均粒子径である、正極材料。
[2]D S は、約300~約600nm、好ましくは約400~約550nm、より好ましくは約450~約550nmである、[1]に記載の正極材料。
[3]D X は、式IIに従って計算される、[1]または[2]に記載の正極材料:
【数2】
ここで、D (003) は、単一の(003)ピークで表される(003)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D (104) は、単一の(104)ピークで表される(104)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、かつD (003) およびD (104) は、それぞれシェラーの式に従って計算される:
【数3】
ここで
Kはシェラー定数で0.89、
λはX線の波長で、1.54056Åに等しい、
βは、XRDパターンにおける回折ピークD (003) または D (104) の半値全幅であり、
θはXRDパターンの回折ピークD (003) またはD (104) のブラッグ回折角であり、(003)ピークの2θは約18.5°から約19.5°の範囲にあり、かつ(104)ピークの2θは約44.0°から約45.0°の範囲にあり;
好ましくは、D X は、約30~約60nm、より好ましくは約40~約50nm、さらに好ましくは約40~約45nmである。
[4]正極材料の二次粒子のメジアン径D 50 が約9~約20μmである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の正極材料。
[5]正極材料のタップ密度TDに対する20KNで測定された成形密度PDの比が、1.1≦PD/TD≦1.3 を満たす、[1]~[4]のいずれか1項に記載の正極材料。
[6]正極材料の安息角αが≦50°、好ましくは約30°~約45°である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の正極材料。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の正極材料の調製方法であって、以下のステップを含む方法:
ステップi)-1 ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩を含む第1の水溶液と、ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物を含む第2の水溶液と、水性アンモニアとを混合し、かつ得られた混合水溶液の第1のpH値を約9~約12に調整して、共沈反応を起こさせて結晶を形成させる;
ステップi)-2結晶が約2~約5μmのメジアン径D 50 まで成長したら、混合水溶液の第2のpH値を約9~約12に調整し、ここで第2のpH値は第1のpH値より大きく、かつその差は約0.1~約1.0であり、および結晶を約9~約20μmまで成長させ続け、それによって前駆体を得る;
ステップii)前駆体、リチウム源、および元素Mを含む添加剤を混合し、得られた混合物を約650~約900℃の一定温度で約4~約20時間焼成し、混合物を自然冷却し、粉砕、ふるい分け、および鉄除去に供し、それによって第1の正極材料Li 1+a Ni x Co y Mn z M c O 2 を得、かつ任意に
ステップiii)第1の正極材料Li 1+a Ni x Co y Mn z M c O 2 および元素M'および/またはAを含む第2の添加剤を混合し、得られた混合物を約200~約700℃の一定温度で約3~約10時間焼成し、それにより第2の正極材料Li 1+a Ni x Co y Mn z M c M' d O 2-b A b を得る。
[8]第1のpH値が約10.5~約11.2であり、かつ第2のpH値が約11.2~約11.8である、[7]に記載の方法。
[9]ステップi)-1において、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩が、それぞれ独立して、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩が、すべて硫酸塩であるか、またはすべて硝酸塩であるか、またはすべて酢酸塩である、および/または
ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物は、それぞれ独立して、ナトリウムおよびカリウムの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、[7]または[8]に記載の方法。
[10]ステップii)において、リチウム源が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、および/または
元素Mを含む第1の添加剤は、元素Mの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、三酸化タングステン、三酸化モリブデン、五酸化二ニオブ、三酸化二ランタンおよび五酸化二タンタル、またはそれらの組み合わせである、[7]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]ステップiii)において、元素M'を含む第2の添加剤が、元素M'の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせ、好ましくはアルミナおよび/またはフッ化リチウムからなる群から選択される、[7]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
本発明による正極材料を含むリチウムイオン電池は、電気自動車(自動車など)、地域発電所、携帯機器などに使用することができる。
【0013】
本発明の様々な他の特徴、態様および利点は、以下の添付図面を参照することにより、より明らかになるであろう。これらの図面は縮尺通りに描かれていないが、様々な構造および位置関係を概略的に説明することを意図しており、限定的に解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1で調製した正極材料の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2図2は、実施例1で調製した正極材料の断面のSEM像である。
図3図3は、実施例1で調製した正極材料のXRD試験パターンである。
図4図4は、安息角の算出方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。矛盾がある場合は、本願明細書に記載された定義が優先されるものとする。
【0016】
特に断りのない限り、ここに記載されている数値範囲は、その範囲の端点、およびその範囲内のすべての数値およびすべての小範囲を含むことを意図している。
【0017】
本明細書における材料、内容、工程、装置、図および実施例はすべて例示であり、別段の定めがない限り限定的に解釈されるべきではない。
【0018】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」はすべて、最終的な効果に影響を及ぼさない他の成分または他の工程が含まれてもよいことを示す。これらの用語は、「~からなる」及び「~から本質的になる」の意味を包含する。本発明による製品およびプロセスは、本開示に記載される必須の技術的特徴、ならびに本明細書に記載される追加的および/または任意的な成分、原材料、ステップ、または他の限定的特徴を含むか、またはそれらから構成されていてもよく、あるいは本願に記載される必須の技術的特徴、ならびに本明細書に記載される追加的および/または任意的な成分、原材料、ステップ、または他の限定的特徴から構成されていてもよく、あるいは本願に記載される必須の技術的特徴、ならびに本明細書に記載される追加的および/または任意的な成分、原材料、ステップ、または他の限定的特徴から本質的に構成されていてもよい。
【0019】
本開示で使用されるすべての材料および試薬は、明示的に別段の記載がない限り、市販されているものである。
【0020】
本明細書における操作は、特に指示がない限り、または明らかに矛盾する場合を除き、室温および大気圧で行うことができる。
【0021】
本開示の方法ステップは、特に指示がない限り、または明らかに矛盾する場合を除き、任意の適切な順序で実行することができる。
【0022】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、それが修飾する数値が数値の±10%の範囲内の偏差を有し得ることを意味する。例えば、「約300nm」という用語は、「300±30nm」の範囲を指す。
【0023】
以下、本開示の例を詳細に説明する。
【0024】
[正極材料]
本開示によれば、以下の一般式Iを有する、リチウムイオン電池用の正極材料が提供される:
【0025】
【化2】
【0026】
ここで、-0.05≦a≦0.3、0.8≦x≦1、0≦y≦0.2、0≦z≦0.2、0≦c≦0.01、0≦d≦0.01、x+y+z+c+d=1、および0≦b≦0.05である;
【0027】
MおよびM'は、互いに異なり、それぞれ独立して、La、Cr、Mo、Ca、Fe、Ti、Zn、Y、Zr、W、Nb、V、Mg、B、Al、Sr、BaおよびTaのうちの少なくとも1つから選択され、Aは、F、Cl、Br、IおよびSのうちの少なくとも1つから選択され、かつ
正極材料の一次粒子の結晶子数Nは約10.5~約14.5であり、Nは式Iに従って計算される:
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、DS は、正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される一次粒子の平均粒子径であり、DX は、XRD試験によって測定され、シェラーの式によって計算される正極材料の一次粒子中の結晶子の平均粒子径である。
【0030】
いくつかの実施形態では、一般式Iのdおよびbが0のとき、正極材料は以下の一般式IIを有する:
【0031】
【化3】
ここで、a、x、y、z、c、M、M'およびAは、一般式Iについて上で定義した通りである。
【0032】
層状三元系材料の容量発現とレート性能は、いずれもリチウムイオンの拡散能によって制限される。リチウムイオンの層間拡散および固液界面における交換プロセスに加え、結晶子境界のような欠陥部位におけるリチウムイオンの拡散は、しばしば無視される。本発明による正極材料の一次粒子の内部には、一定数の結晶子が保持されており、結晶子間で結晶子境界を形成している。一定数の結晶子境界は、バルク相におけるリチウムイオンの拡散速度の向上を促進し、それによって正極材料の容量およびレート性能を向上させる。一方、良好な結晶性が維持されるため、充放電を繰り返しても一次粒子が破損するリスクが回避され、正極材料のサイクル寿命が確保される。
【0033】
正極材料は、一次粒子が凝集した二次粒子の構造的特徴を有し、一次粒子とは、周囲の正極材料と明確な境界を有する比較的無傷な個々の粒子を指し、二次粒子とは、複数の前記一次粒子が集積して形成され、外力がなければ分離しない正極材料の大きな球体を指す。正極材料の一次粒子の内部は完全な単結晶構造ではなく、短距離秩序型結晶構造を有する複数の微結晶ドメインが強固に結合して構成されている。微結晶ドメインの相互結合を規定する境界は、SEMなどの外部観察手段では明確に識別できない結晶子境界である。
【0034】
結晶子境界の数Nは、式Iに従って計算される:
【数3】
【0035】
いくつかの実施形態では、DS は約300~約600nm、好ましくは約400~約550nm、より好ましくは約450~約550nmであり、DS は正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される。
【0036】
いくつかの実施形態では、DX は約30~約60 nm、好ましくは約40~約50 nm、より好ましくは約40~約45 nmであり、 DX は式IIに従って計算される:
【0037】
【数4】
ここで、D(003)は、単一の(003)ピークで表される(003)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D(104)は、単一の(104)ピークで表される(104)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D(003)およびD(104)は、それぞれシェラーの式に従って計算される:
【0038】
【数5】
ここで
Kはシェラー定数で0.89、
λはX線の波長で、1.54056Åに等しく、
βは、XRDパターンにおける回折ピークD(003) または D(104) の半値全幅である。
【0039】
θはXRDパターンの回折ピークD(003) またはD(104) のブラッグ回折角であり、(003)ピークの2θは約18.5°から約19.5°の範囲にあり、(104)ピークの2θは約44.0°から約45.0°の範囲にある。
【0040】
いくつかの実施形態では、正極材料の二次粒子のメジアン径D50 は、約9~約20μmであり、D50 は、レーザーパーティクルサイザーによって測定され、体積分布に基づいて計算される。
【0041】
メジアン径D50 とは、粒子の体積分布率が50%に達する粒子径の値をいう。例えば、二次粒子のメジアン径D50 が9μmの場合、二次粒子の50体積%が9μmより大きく、50体積%が9μmより小さいことを意味する。
【0042】
いくつかの実施形態では、正極材料のタップ密度TD に対する20KNで測定された成形密度PDの比は、1.1≦PD/TD≦1.3を満たす。PD/TD比がこのような範囲内であることにより、正極材料が十分に緻密となり、高い圧粉密度を有するリチウムイオン電池用電極シートを得るための加工が容易となり、体積エネルギー密度が増加し、電解液が正極材料を濡らしやすくなるように適切な多孔性を有し、それにより、優れた容量性能およびレート性能がリチウムイオン電池に付与される。
【0043】
いくつかの実施形態において、正極材料の安息角αは≦50°であり、好ましくは約30°~約45°である。安息角αは、アルミナ粉末の安息角を測定するためのGB/T 6609.24-2004に従って測定される。前記範囲内の安息角αは、正極材料に良好な流動性を付与し、これは実用的な製造における加工性に有益である。
【0044】
[正極材料の調製方法]
本発明はまた、リチウムイオン電池用の正極材料を調製するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
ステップi)-1 ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩を含む第1の水溶液と、ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物を含む第2の水溶液と、水性アンモニアとを混合し、得られた混合水溶液の第1のpH値を約9~約12に調整して、共沈反応を起こさせて結晶を形成させる;
ステップi)-2結晶が約2~約5μmのメジアン径D50 まで成長したときに、混合水溶液の第2のpH値を約9~約12に調整し、ここで第2のpH値は第1のpH値よりも大きく、かつその差は約0.1~約1.0であり、および結晶を約9~約20μmのメジアン径D50 まで成長させ続けさせ、それによって前駆体を得る;
ステップii)前駆体、リチウム源、および元素Mを含む添加剤を混合し、得られた混合物を約650~約900℃の一定温度で約4~約20時間焼成し、焼成した混合物を自然冷却(好ましくは室温まで冷却)し、粉砕、ふるい分け、および鉄除去に供し、それによって第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2を得る;および任意選択的に
ステップiii)第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2および元素M'および/またはAを含む第2の添加剤を混合し、得られた混合物を約200~約700℃の一定温度で約3~約10時間焼成し、それにより第2の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcM'dO2-bAbを得る。
【0045】
以上のように、本発明による調製方法は、制御可能で、簡単で、操作が容易である。ナトリウムまたはカリウムを含むアルカリ化合物とアンモニア水とを共調整することにより、前駆体の核生成過程および結晶成長中のpH値を制御し、前駆体の一次繊維の形態および結晶性を制御し、さらに正極材料の一次粒子の結晶子境界の数を制御する。さらに、正極材料の結晶化度と結晶子境界の数の制御は、結晶子境界の成長を制御する機能を有するドーピング元素の種類を選択し、その量を制御することにより、焼結温度の制御と組み合わせて実現される。
【0046】
いくつかの実施形態では、第1のpH値は約10.5~約11.2であり、第2のpH値は約11.2~約11.8である。
【0047】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩は、それぞれ独立して、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩は、すべて硫酸塩であるか、またはすべて硝酸塩であるか、またはすべて酢酸塩である。
【0048】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、ニッケル塩、コバルト塩およびマンガン塩は、第1の正極材料の式Li1+aNixCoyMnzMcO2-bに従って、ニッケル対コバルト対マンガンのモル比で混合される。
【0049】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、第1の水溶液の濃度は1~3mol/Lであり、沈殿剤としての第2の水溶液の濃度は2~12mol/Lであり、かつ錯化剤としてのアンモニア水溶液の濃度は2~10mol/Lである。
【0050】
いくつかの実施形態において、ステップi)-1において、ナトリウム含有アルカリ化合物および/またはカリウム含有アルカリ化合物は、それぞれ独立して、ナトリウムまたはカリウムの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0051】
いくつかの実施形態において、ステップi)-1において、共沈反応は不活性ガスの存在下で行われる。いくつかの実施形態において、不活性ガスは窒素である。
【0052】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、共沈反応の反応系温度は一定であり、好ましくは50~80℃である。
【0053】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、共沈反応の反応時間は40~100時間である。
【0054】
いくつかの実施形態では、ステップi)-1において、共沈反応は撹拌下で行われる。
【0055】
いくつかの実施形態では、ステップi)-2において、結晶成長は撹拌下で行われる。
【0056】
いくつかの実施形態では、ステップi)-2において、共沈反応が完了した後、熟成、分離、洗浄および乾燥からなる群から選択される1つ以上の操作が行われ、それによって前駆体が得られる。
【0057】
いくつかの実施形態では、ステップii)において、リチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは水酸化リチウムである。
【0058】
いくつかの実施形態において、ステップii)において、元素Mを含む第1の添加剤は、元素Mの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせ、好ましくは三酸化タングステン、三酸化モリブデン、五酸化二ニオブ、三酸化二ランタン、五酸化二タンタル、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、ステップii)において、前駆体、リチウム源、および元素Mを含む第1の添加剤は、高速ブレンダーで均一に混合される。
【0060】
いくつかの実施形態では、ステップii)において、焼結は酸素炉内で一定温度で行われる。
【0061】
いくつかの実施形態では、ステップii)において、焼結混合物を室温まで冷却した後、混合物を粉砕、ふるい分け、および鉄除去に供し、それによって正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2を得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、ステップiii)において、元素M'および/またはAを含む第2の添加剤は、元素M'および/またはAの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物、リン酸塩、ホウ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはアルミナおよび/またはフッ化リチウムである。
【0063】
いくつかの実施形態では、ステップiii)において、第1の正極材料Li1+aNixCoyMnzMcO2および元素M'および/またはAを含む第2の添加剤を高速ブレンダーで均一に混合する。
【0064】
いくつかの実施形態において、元素M'および/またはAを含む第2の添加剤は、元素M'を含む化合物と元素Aを含む化合物との混合物であってもよく、または元素M'およびAの両方を含む化合物であってもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、ステップiii)において、焼結は酸素炉内で一定温度で行われる。
【0066】
いくつかの実施形態では、ステップiii)において、材料をコーティングする方法は、乾式コーティング、水で洗浄し乾燥させた後のコーティング、湿式in-situコーティングなどを含む。
【実施例
【0067】
実施例1
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンをモル比83:11:6で純水に溶解し、濃度2mol/Lの第1水溶液を得た。沈殿剤として使用する第2水溶液として、濃度8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を配合した。錯化剤水溶液として、濃度6mol/Lのアンモニア水溶液を配合した。
【0068】
水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液の混合水溶液を反応器に装入した。pHを10.9に調整した。N2を保護のためにパージした。反応系の温度は60℃に制御した。第1の水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液を、別々に液体供給管を通して反応器に導入した。攪拌の回転数は500rpmに維持した。第1の水溶液の液体供給速度は200mL/hに制御した。水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水溶液の流量は、反応系のpHを10.9±0.05に維持するように調整した。
【0069】
反応系中のコア粒子の粒径D50 が3.0μmに成長した後、溶液のpHを11.2±0.05に調整し、第1の水溶液の流量を500mL/hに調整し、攪拌の回転速度を700rpmに上げ、反応温度を変化させなかった。溶液中の粒子の平均粒径D50 が14μmに成長した後、溶液を1時間熟成し、分離、洗浄、乾燥して、前駆体材料Ni0.83Co0.11Mn0.06(OH)2 を得た。
【0070】
上記前駆体、水酸化リチウムおよび三酸化タングステンを、それぞれ1:1.03:0.002のモル比で別々に秤量し、ブレンダーで均一に混合した後、酸素濃度95%以上の酸素炉で一定温度で焼成した。昇温速度は5℃/分であった。焼成温度は800℃、焼成時間は12時間であった。室温まで自然冷却した後、反応混合物を粉砕、ふるい分け、除鉄を行い、正極材料1: Li1.03Ni0.828Co0.110Mn0.060W0.002O2を得た。
【0071】
図1は、実施例1で調製した正極材料のSEM像である。
【0072】
実施例2~5および比較例1~6
実施例1の方法に従って正極材料を調製した。材料組成および具体的な工程条件を表1に示すように変化させて、実施例2~5および比較例1~6をそれぞれ行い、正極材料2~正極材料5、正極材料D1~正極材料D6を調製した。
【0073】
実施例2では、第1の添加剤は五酸化二ニオブであった。
実施例3では、第1の添加剤は三酸化モリブデンであった。
実施例4では、第1の添加剤は三酸化二ランタンで、第2の添加剤は酸化アルミニウムであった。
実施例5では、第1の添加剤は五酸化二タンタルであり、第2の添加剤はフッ化リチウムであった。
【0074】
【表1】
【0075】
[正極材料の性能試験]
実施例1~5および比較例1~6で調製した正極材料について、以下の試験を行い、試験結果を表2に記録した。
【0076】
DS は、正極材料の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像から測定される。図2は、実施例1で調製した正極材料の断面のSEM像である。
DX は式IIに従って計算される:
【0077】
【数6】
ここで、D(003)は、単一の(003)ピークで表される(003)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D(104)は、単一の(104)ピークで表される(104)結晶面に垂直な方向の結晶厚さを表し、D(003)およびD(104)は、それぞれシェラーの式に従って計算される:
【0078】
【数7】
ここで
Kはシェラー定数で0.89、
λはX線の波長で、1.54056Åに等しく、
βは、XRDパターンにおける回折ピークD(003) または D(104) の半値全幅である。
【0079】
θはXRDパターンの回折ピークD(003) またはD(104) のブラッグ回折角であり、(003)ピークの2θは約18.5°から約19.5°の範囲にあり、(104)ピークの2θは約44.0°から約45.0°の範囲にある。
【0080】
図3は、実施例1で調製した正極材料のXRDパターンである。
【0081】
メジアン径D50 はレーザーパーティクルサイザーで測定され、体積分布に基づいて計算される。
【0082】
安息角はGB/T 6609.24-2004(アルミナ粉末の安息角測定法)に従って測定する。測定装置は、ガラス漏斗(吐出口の内径3mm)、ガラスベースプレート(表面は清浄に拭き取られ、プレートは漏斗の下に水平に配置されている)、漏斗を固定するためのホルダー(漏斗は剛性構造であり、漏斗の中心線は水平面に対して垂直である)、高さポジショナー(漏斗の吐出口からガラスベースプレートの表面までの高さを決定するためのもので、高さはここでは60mmである)を含む。試験中、正極材料15gを秤量し、一定速度でガラス漏斗に供給する。供給速度は、粉末材料が排出口を塞がないように制御される。放電が完了したら、底面の円の直径dと、粉末によって形成された円錐の高さhを測定する。逆三角関数α=arctan(2h/d)により、図4に示すように粉末材料の安息角αが求められる。
【0083】
[コイン電池の準備]
実施例1~5及び比較例1~6で調製した正極材料、導電性カーボンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を別々に秤量し、質量比95%:2.5%:2.5%で混合した。そこにN-メチルピロリドン(NMP)を加え、混合物を撹拌して均一なスラリーを形成した。このスラリーをアルミニウム箔に塗布し、削り取り、乾燥させた後、平らに圧延した。得られた材料を100MPaの圧力下で直径12mm、厚さ120μmの正極シートに打ち抜き、120℃の真空オーブンで12時間乾燥した。
【0084】
コイン電池の組み立て工程は、Arで保護されたグローブボックス内で行い、含水率および酸素濃度はいずれも5ppm以下とした。上記で得られた電極シートを正極として用い、直径17mm、厚さ1mmのLi金属シートを負極として用い、厚さ25μmのポリエチレン多孔質膜をセパレータとして用い、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合し、そこに1mol/LのLiPF6 を溶解した溶液を電解質溶液として用い、2025型のコイン電池シェルを電池シェルとして用いた。組み立て後、未活性のハーフ電池を得た。
【0085】
[コイン電池の性能評価]
コイン電池を組み立てた後、2時間放置した。開放電圧が安定した後、0.1C(1C=200mA/g)の定電流でカットオフ電圧4.3Vまで充電し、定電圧で30分間充電した後、0.1Cの定電流でカットオフ電圧3.0Vまで放電した。この充放電サイクルを同様に1回繰り返し、その時点で活性化電池とした。
【0086】
レート性能の測定試験方法:上記の活性化電池について、室温、電圧3.0~4.3V、電流密度0.1C、0.2C、0.33C、0.5C、1C、および2Cで充放電試験をそれぞれ行った。レート性能は、0.1Cのレートでの容量に対する、異なるレートでの容量値の保持率で評価した。結果を表3に示す。
【0087】
サイクル性能試験方法:活性化電池を高温(50℃)、電流密度1C、電圧3.0~4.3Vの範囲で80回サイクルさせ、容量保持率でサイクル性能を評価した。結果を表3に示す。
【0088】
[リチウムイオン拡散係数試験]
本発明の特性材料の性能が向上する理由を説明するために、EIS試験法を用いて粉末材料のリチウムイオン拡散係数の試験を以下のように行った:先に調製した不活性ハーフ電池を2時間放置し、0.1Cの定電流で4.3Vのカットオフ電圧まで充電した後、定電圧で30分間充電し、0.1Cの定電流で3.0Vのカットオフ電圧まで放電し、0.1Cの定電流で4.3Vのカットオフ電圧まで充電した。周波数は100kHz-0.01Hzの範囲で、振幅は10mVであった。以下の式による。
【0089】
【数8】
ω-1/2 に対するZreの適合させた直線の傾き、すなわちσを求めることができる、
ここで、Zre は試験によって得られたインピーダンス分光法の実数部、Rs は溶液抵抗、Rct は電荷移動抵抗、ωは角周波数、fは試験周波数、σはワールブルグ因子である。
【0090】
そして、リチウムイオン拡散係数の計算式に従う:
【数9】
【0091】
計算によって材料バルク相のLi+拡散係数が得られる。ここで、Rは理想気体定数、Tは絶対温度、Aは電極の断面積、nは移動電子数、Fはファラデー定数、Cは電極中のリチウムイオン濃度である。
【0092】
実施例1~5および比較例1~6の正極材料の物理化学的パラメータを表2に示した。
【0093】
【表2】

【0094】
表1及び表2から分かるように、本発明による実施例1~5では、前駆体結晶の成長中の反応系のpHを調整し、結晶子境界の成長を調節する機能を有するドープ元素の種類及び量を選択し、焼結温度を調整することにより、得られた正極材料は、結晶子境界数Nが10.5~14.5の範囲にあり、リチウム拡散係数に優れていた。
【0095】
比較例1では、結晶子境界の成長を規制する効果を有する添加元素の添加量が過剰であると、結晶子の成長や融着が阻害されるため、結晶子のサイズが著しく低下した。また、内部の結晶子境界の数が多すぎるため、正極材料全体の結晶性が悪化し、リチウム拡散係数が低下した。
【0096】
比較例2では、結晶子境界の成長を規制する効果を有する添加元素を添加しない場合、結晶子境界をなくすように結晶子の融合・成長を助長するため、結晶子境界の数が少なくなりすぎ、リチウム拡散係数が著しく低下した。
【0097】
比較例3では、前駆体合成時の第2段階のpHが高すぎると、前駆体の結晶性が悪化し、焼成時に正極材料の一次粒子が成長しやすくなり、結晶子サイズの相対変化が大きくなく、内部の結晶子境界が増加した。前駆体の結晶化度の低下は正極材料に影響を与え、リチウム拡散係数の低下をもたらした。
【0098】
比較例4では、前駆体合成時の第2段階のpHが第1段階のpHよりも低い場合、前駆体の結晶性が良好となり、正極材料の一次粒子が成長しにくく、焼結時の粒径が比較的小さかった。結晶子サイズの相対的な変化は大きくなかった。その結果、内部結晶粒界が減少し、リチウム拡散係数が著しく小さくなった。
【0099】
比較例5では、焼成温度が低すぎると、正極材料の結晶子同士の融合・成長が不十分となり、サイズが著しく小さくなり、結晶子境界が増加した。しかし、正極材料全体の結晶性が悪く、リチウム拡散係数が大きく低下した。
【0100】
比較例6では、焼成温度が高すぎ、正極活物質中の結晶子間の融着や成長が過剰となり、見かけ上サイズが大きくなり、結晶子境界が減少し、リチウム拡散係数が低下した。
【0101】
表3に、上記実施例1~5および比較例1~6の正極材料の性能パラメータを示す。
【0102】
【表3】
【0103】
上記表3からわかるように、本発明の実施例1~5による正極材料は、優れた容量、レート保持率およびサイクル保持率を示した。
【0104】
実施例1と比較して、比較例1~6の正極材料の0.1℃における容量は全体的に低下した。比較例5では、焼結温度が低すぎたため、正極材料の成長・結晶化が不十分となり、容量を発現できなかった。一方、正極材料の結晶子境界数が多すぎると、レート保持率が低下し、サイクル保持率が著しく悪化したことがわかる。主な理由は、一次粒子の結晶子境界が多すぎて、サイクル中に破損しやすかったためである。このことは、正極材料の結晶子数Nを10.5~14.5の範囲に制御することが、高いレート性能と長いサイクル寿命を同時に達成することに寄与することを示す上記の結論と一致する。

図1
図2
図3
図4