IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピグメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-接合用組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】接合用組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20240705BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240705BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240705BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240705BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240705BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20240705BHJP
   B22F 9/30 20060101ALI20240705BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20240705BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 K
B22F1/052
B22F1/054
B22F9/00 B
B22F9/24 F
B22F9/30 Z
H01B1/22 A
B22F7/08 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024023594
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592093730
【氏名又は名称】日本ピグメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100073483
【弁理士】
【氏名又は名称】八鍬 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100230695
【弁理士】
【氏名又は名称】阪口 正行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大地
(72)【発明者】
【氏名】坂田 文
(72)【発明者】
【氏名】高田 歩
(72)【発明者】
【氏名】坂本 真一
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-195592(JP,A)
【文献】特開2021-138991(JP,A)
【文献】特開2013-159830(JP,A)
【文献】特開2013-149566(JP,A)
【文献】特開2008-166086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/05,1/052,1/054,1/10,
1/102,9/00,9/24,9/30
H01B 1/00,1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)と、動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が1000nm~30000nmであり脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されている銀粒子(b)と、沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)と、沸点150~270℃の少なくとも、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルオキシエタノール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレン、プロピオン酸オクチル、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ポリエチレングリコールモノブチルエーテルのうちいずれか1種類以上を含む有機溶剤から構成される有機溶剤群(d)と、を含み、前記有機溶剤群(c)と前記有機溶剤群(d)とには合計して3種類以上の有機溶剤が含まれていることを特徴とする接合用組成物。
【請求項2】
前記銀微粒子(a)表面の一部または全体を被膜しているアミンは、第2級アミンを含むことを特徴とする請求項に記載の接合用組成物。
【請求項3】
前記第2級アミンが第2級アミノアルコールであることを特徴とする請求項に記載の接合用組成物
【請求項4】
前記銀微粒子(a)表面の一部または全体を被膜しているアミンは炭素数8~20の第1級アミンを含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の接合用組成物。
【請求項5】
ノニオン性の界面活性剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の接合用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に金属部材、特に半導体素子等の電子部品を接合するために使用する接合用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材と金属部材とを接合するために、鉛はんだをはじめとする接合用組成物が用いられている。例えば、LEDやパワーモジュールといった半導体装置の内部は、基板の上に半導体素子が接合された構造となっている。半導体素子等の電子部品を回路上に接合する際には、鉛はんだを用いた方法が広く使用されている。
【0003】
半導体材料として近年開発が盛んに進められている炭化ケイ素(SiC)半導体においては、半導体装置使用時に半導体素子に対して大電流が負荷されることで、半導体素子の発熱量が大きくなる場合がある。この場合、従来のようにはんだ材で半導体素子を接合する構造では、半導体装置の駆動温度よりもはんだ材の融点が低くなることで半導体装置の故障につながる可能性があり実装が困難である。
【0004】
そこで、はんだ材の代替として、銀などの金属粒子を用いた導電性接着剤等が提案されている。例えば、特許文献1には平均粒子径100nm以下の金属ナノ粒子、とくに銀ナノ粒子からなる接合用組成物が示されている。このように平均粒子径の小さい銀ナノ粒子からなる接合用組成物は、比較的低温条件で焼結することができ、かつ、焼結後に形成される接合層の融点は銀単体の融点と同等となる。このため、銀ナノ粒子を用いた接合用組成物の焼結体からなる接合層は耐熱性に優れており、高温環境下や大電流負荷時においても安定して使用することが可能である。
【0005】
この銀粒子からなる接合用組成物において、特許文献2に示されるように平均粒子径の小さいナノ粒子だけでなくより平均粒子径の大きな数百ナノ~数十マイクロメートルの銀粒子を添加したものも考案されている。このように接合用組成物中の銀粒子の粒子径を調整することで、焼結後の接合層の高密度化とそれに伴う接合強度、熱的信頼性の向上が期待される。
【0006】
しかし、粒子径の大きな銀粒子はナノ粒子よりも表面エネルギーが低いため低温焼結性に乏しく、銀粒子-銀粒子間または銀粒子-接合部材間で焼結が進行しない問題が発生するおそれがあった。また、粒子径の大きな銀粒子は、接合用組成物内部での流動性が粒子径の小さいナノ粒子よりも低い。そのため、焼結時に接合部材と接合用組成物との界面に移動し接合部材内に拡散して接合する能力が低く、結果として銀-接合部材間での接合強度の低下につながるおそれがあった。
【0007】
一方で、粒子径の小さいナノ粒子を多く使用すると粒子径由来の焼結性悪化は緩和されるが、その表面エネルギーの高さから保存安定性を確保するために樹脂や高分子分散剤などの表面保護剤が多く必要となってしまい、結果として表面保護剤による焼結性の低下につながってしまうおそれがあった。また、ペースト中の溶剤や添加剤の割合が増加し銀割合が減少することで、焼結時の銀接合層の収縮とそれに伴う歪みが、粒子径の大きい銀粒子を使用したペーストよりも顕著に生じてしまうおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/007402号
【文献】国際公開第2019/142633号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
SiC半導体の実用化が進み、高温環境用の銀粒子を用いた接合用組成物が使用され始めている状況では、ナノ粒子よりも安価かつ収縮による熱応力を生じにくい粒子径の大きな銀粒子入りペーストの焼結性改善が非常に重要な課題となっている。本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、複雑な製造工程を必要とせずに粒子径の大きな銀粒子を密接に接合可能であるような接合用組成物の配合および製造方法について提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の接合用組成物は、動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)と、動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が1000nm~30000nmであり脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されている銀粒子(b)と、沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)と、沸点150~270℃の少なくとも、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルオキシエタノール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレン、プロピオン酸オクチル、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ポリエチレングリコールモノブチルエーテルのうちいずれか1種類以上を含む有機溶剤から構成される有機溶剤群(d)と、を含み、前記有機溶剤群(c)と前記有機溶剤群(d)とには合計して3種類以上の有機溶剤が含まれていることを特徴としている。
【0011】
本発明の接合用組成物は、動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)と動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が1000nm~30000nmであり脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されている銀粒子(b)を含んでおり、銀微粒子(a)表面にはカチオン性であるアミン由来の正電荷が分布し、銀粒子(b)表面にはアニオン性である脂肪酸由来の負電荷が分布している。これらの銀微粒子(a)表面の正電荷と銀粒子(b)表面の負電荷が焼結時に静電引力を引き起こし、表面エネルギーの高く焼結性の良好な銀微粒子(a)が銀粒子(b)近傍に接近、付着してから焼結することで、本来表面エネルギーが低く焼結性の低い銀粒子(b)を銀接合層内で高密度かつ強固に接合することが可能となる。
【0012】
また、本発明の接合用組成物は沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)と、沸点150~270℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(d)と、を含み、前記有機溶剤群(c)と有機溶剤群(d)には合計して3種類以上の有機溶剤が含まれていることを特徴としている。このように焼結時の温度と比較して高い沸点を有する有機溶剤と低い沸点を有する有機溶剤を複数種類混合して使用することで、焼結時の有機溶剤の揮発を緩やかにして粗大な空隙の発生を抑制する効果が得られる。
【0013】
また、低沸点溶剤が揮発した後も溶剤が完全には揮発しない状態とすることで、溶剤の揮発により銀粒子間の距離が狭まり前記静電引力が強まった状態で高沸点溶剤内を銀微粒子が流動することが可能となり、それにより静電引力による銀微粒子の銀粉への付着を促進させることで、より強固な接合層を形成することが可能となる。
【0014】
また、本発明では前記銀微粒子(a)表面の一部または全体を被膜しているアミンが第2級アミンを含んでいることが好ましい。
【0015】
また、本発明では前記第2級アミンが第2級アミノアルコールであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の接合用組成物は炭素数8~20の第1級アミンを含んでいることが好ましい。
【0018】
また、本発明の接合用組成物はノニオン性の界面活性剤をさらに含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面エネルギーの低い粒子径の大きな銀粉を使用した場合でも、強固な接合層を形成することが可能な接合用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例および比較例の接合用組成物の配合及び測定結果についてまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書では、「動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)」を「銀微粒子(a)」、「脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されており体積平均径が1000nm~30000nmである銀粒子(b)」を「銀粒子(b)」、「沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)」を「有機溶剤群(c)」、「沸点150~270℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(d)」を「有機溶剤群(d)」と略記することがある。
【0022】
本発明の接合用組成物は、アミンで被膜された銀微粒子(a)と脂肪酸で被膜された銀粒子(b)と有機溶剤群(c)及び有機溶剤群(d)を含有することを特徴とする。アミンで被膜された銀微粒子(a)に、脂肪酸で被膜された銀粒子(b)を所定量組み合わせると、接合用組成物の焼結時に銀の表面処理剤の違いによる静電引力が生じ、銀微粒子(a)と銀粒子(b)がヘテロ凝集する。これにより、比較的焼結性の低い銀粒子(b)が焼結性の高い銀微粒子(a)を介して接合することで、強固な銀接合層を形成し、優れた接合強度や熱的信頼性を発揮する。また、沸点の異なる溶剤を組み合わせて使用することで、接合用組成物の印刷時に接合部材に対して良好な印刷性を持たせることができるほか、高沸点溶剤により焼結時の銀微粒子(a)に流動性を持たせることができ、上記ヘテロ凝集の効果を促進することが可能となる。
【0023】
<銀微粒子(a)>
銀微粒子(a)は、特定の平均粒子径の範囲にあることで、接合用組成物の焼結温度である150℃から350℃の温度範囲で粒子同士が焼結する機能を有し、その結果、接合部材同士を接合するに至る。以下、接合部材の間に存在する銀微粒子(a)及び銀粒子(b)が焼結することで形成される部位を接合層と呼ぶ。
【0024】
本発明では、特定の平均粒子径を有する銀微粒子(a)を用いることが重要である。本明細書でいう「平均粒子径」とは、実施例に記載した測定方法によって求められた体積基準の50%積算分布粒子径(d50)を意味する。銀微粒子(a)の平均粒子径は10nm~200nmであり、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上である。また、銀微粒子(a)の平均粒子径は、好ましくは150nm以下、より好ましくは130nm以下である。銀微粒子(a)の平均粒子径が10nm以下である場合には、銀微粒子(a)の表面エネルギーが高くなり、経時安定性をもたせるために多量の添加剤が必要となってしまう。また銀微粒子(a)の平均粒子径が200nm以上である場合には、表面エネルギーが低くなり低温焼結性が失われてしまう。
【0025】
銀微粒子(a)は任意の形状のものを使用することができるが、好ましくは球状である。
【0026】
銀微粒子(a)は表面の一部または全体をアミンで被膜されている。表面をアミンで被膜されていることによって、銀微粒子(a)同士の凝集が抑えられ、接合用組成物の保存安定性が増す。また、アミンで被膜されることにより上記ヘテロ凝集による強固な接合層の形成が可能となる。表面を被膜するアミンとしては任意のアミンを用いることが可能である。また、表面を被膜するアミンは1種または2種以上を併用してもよい。また、銀微粒子(a)表面の一部または全体を被膜しているアミンは後述する銀微粒子(a)の製造時に付着させてもよいし、接合用組成物の調製時にアミンを混合することで付着させてもよい。
【0027】
前記銀微粒子(a)は表面の一部または全体を被膜しているアミンには、炭素数が3~20のアミノ基を1つ有する脂肪族アミンが含まれていることが好ましい。炭素数が3~20のアミノ基を1つ有する脂肪族アミンとしては、炭素数が3~20の範囲にあれば直鎖状であっても側鎖を有していてもよい。また、アミノ基以外の官能基を有していてもよい。例として、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ステアリルアミン、2-アミノエタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、トリエチルアミンなどが挙げられるがこれらに限定されない。銀微粒子(a)の保護性能や焼結時の揮発性が良好であるという観点から、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンなどの炭素数8~20の第1級脂肪族アミンが好ましい。
【0028】
銀微粒子(a)はその表面エネルギーの高さから、銀微粒子の製造時に同時に表面をアミンで保護することが可能である湿式還元法により製造することが好ましい。以下、製造工程の例を挙げる。酢酸銀をはじめとする有機銀塩に対して任意のアミンを添加することで銀のアミン錯体を合成する。このアミン錯体に対してギ酸やアスコルビン酸などの還元性の成分を含む還元液を添加して加熱することで、アミンが表面保護剤として被膜された銀微粒子が製造できる。この銀微粒子に対して水や有機溶剤を加えて撹拌し上澄みを廃棄する工程を繰り返すことで、余剰の塩などを取り除いたアミン被膜銀微粒子を製造することが可能である。
【0029】
上記銀微粒子の製造工程において使用するアミンは、塩基性やアミン錯体の安定性の影響で反応温度が50~100℃の範囲内に収まり取り扱いが容易である第2級アミンを使用することが好ましい。また、沸点や銀微粒子洗浄時の除去しやすさから、ヒドロキシ基を含む第2級アミノアルコールであることがさらに好ましい。第2級アミノアルコールとしては例として、ジエタノールアミン、2-メチルアミノエタノール、2-イソプロピルアミノエタノールなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
<銀粒子(b)>
銀粒子(b)は、特定の平均粒子径の範囲にあることで、銀微粒子(a)とともに焼結した際に強固な銀接合層を形成することが可能となる。また、銀微粒子(a)よりも平均粒子径の大きな銀粒子(b)を添加することで、銀粒子(b)同士の間に微小な空隙が生じ、そこから有機溶剤が揮発していくことで焼結時の揮発溶剤による空隙の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
本発明では、特定の平均粒子径を有する銀粒子(b)を用いることが重要である。銀粒子(b)の平均粒子径は1000~30000nmであり、好ましくは2000nm以上である。また、銀粒子(b)の平均粒子径は、好ましくは10000nm以下、より好ましくは5000nm以下である。銀粒子(b)の平均粒子径がこの範囲にない場合、銀微粒子(a)とともに密な接合層を形成することができなくなる。
【0032】
銀粒子(b)は任意の形状のものを使用することができるが、好ましくは球状である。
【0033】
銀粒子(b)は表面の一部または全体を脂肪酸で被膜されている。表面を脂肪酸で被膜されていることによって凝集が抑えられ、接合用組成物の保存安定性が増す。また、脂肪酸で被膜されることにより上記ヘテロ凝集による強固な接合層の形成が可能となる。表面を被膜する脂肪酸としては任意の脂肪酸を用いることが可能であり、炭素数が3~20の脂肪酸であることが好ましい。また、表面を被膜する脂肪酸は1種または2種以上を併用してもよい。
【0034】
炭素数が3~20の脂肪酸としては、炭素数が3~20の範囲にあれば直鎖状であっても側鎖を有していてもよい。また、カルボキシ基以外の官能基を有していてもよい。例として、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リシノール酸などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
銀微粒子(a)及び銀粒子(b)からなる銀成分の接合用組成物中の配合割合は任意の値をとれるが、接合用組成物全体の質量を100%としたとき、銀成分は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、この銀成分は、95%以下であることが好ましい。銀成分は組成物全体の内、この範囲内の質量で含まれていると、印刷での実装に適した粘度で接合用組成物を作製することが可能となる。
【0036】
銀成分中での銀微粒子(a)及び銀粒子(b)の配合比率は好ましくは銀微粒子(a)/銀粒子(b)=10/90~90/10(質量比)の範囲であり、さらに好ましくは銀微粒子(a)/銀粒子(b)=30/70~70/30(質量比)の範囲である。銀成分がこの範囲内にあることで、銀微粒子(a)が銀粒子(b)の間に入り込み、ヘテロ凝集の効果で密に焼結することが可能となる。
【0037】
本発明は接合用組成物中の金属粒子として銀を用いているが、銅や金などの任意の金属粒子について、接合用組成物中の金属成分割合や溶剤の割合を金属成分の密度に合わせて適宜調整することで、上記ヘテロ凝集を利用した焼結性の向上効果を得ることが可能である。
【0038】
<有機溶剤群(c)>
次に有機溶剤群(c)について説明する。有機溶剤群(c)は沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤の混合物である。この有機溶剤群(c)は接合用組成物の焼結温度と比較して高い沸点を有しているため、焼結時の揮発が緩やかであり大きな空隙を生じにくい。そのため、銀接合層を密にしやすくなる効果が得られる。また、高沸点溶剤中を銀微粒子(a)が流動することで銀粒子(b)表面への銀微粒子(a)のヘテロ凝集を促進させ、焼結性を向上させる効果も得られる。有機溶剤群(c)中に含まれる有機溶剤の沸点は好ましくは320℃以下である。
【0039】
有機溶剤群(c)中に含まれる有機溶剤としては沸点270~350℃の任意の有機溶剤が使用できる。具体例として、イソボルニルシクロヘキサノール、安息香酸ベンジル、2-(1-メチル-1-(4-メチル-3-シクロヘキセニル)エトキシ)エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ターピニルオキシエタノール、イソパラフィン系溶剤等があげられるが、これらに限定されない。
【0040】
<有機溶剤群(d)>
次に有機溶剤群(d)について説明する。有機溶剤群(d)は沸点150~270℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤の混合物である。この有機溶剤群(d)は有機溶剤群(c)と比較して低い沸点を有しており、焼結時に有機溶剤群(c)よりも早い段階で揮発する。そのため、有機溶剤群(d)が揮発した段階で銀微粒子(a)及び銀粒子(b)間の距離が縮まり、静電引力が働きやすくなる。また、一般に有機溶剤群(d)中に含まれる有機溶剤は、有機溶剤群(c)中に含まれる有機溶剤よりも低粘度であることが多いため、接合用組成物の取り扱い性を向上させる効果も得られる。有機溶剤群(d)中に含まれる有機溶剤の沸点は、好ましくは180℃以上であり、より好ましくは200℃以上である。また、有機溶剤群(d)中に含まれる有機溶剤の沸点は、好ましくは250℃以下である。
【0041】
有機溶剤群(d)中に含まれる有機溶剤としては沸点150~270℃の任意の有機溶剤が使用できる。具体例として、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピニルオキシエタノール、イソホロン、γ-ブチルラクトン、ジプロピレン、プロピオン酸オクチル,1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル等があげられるが、これらに限定されない。
【0042】
有機溶剤が構造異性体を含んでおり、その構造異性体の沸点の上限値と下限値に挟まれる範囲が270℃を含んでいる場合、最も多い割合で含まれている構造異性体の沸点をその有機溶剤の沸点とし、溶剤の数は1種類とみなす。
【0043】
有機溶剤群(c)と有機溶剤群(d)に合計して3種類以上の有機溶剤が含まれていることで、焼結時の揮発溶剤による空隙の発生を抑制し、ヘテロ凝集による強固で熱的信頼性の高い接合層の形成をより促進させることができる。
【0044】
有機溶剤群(c)及び有機溶剤群(d)は任意の比率で接合用組成物中に含まれていてよいが、有機溶剤群(c) /有機溶剤群(d)=90/10~10/90(質量比)の範囲であることが好ましく、有機溶剤群(c) /有機溶剤群(d)=80/20~20/80(質量比)であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の接合用組成物は、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性、密着性、乾燥性及び印刷性等の機能を付与するために、銀錯体、界面活性剤、増粘剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。しかし、焼結時の銀同士の接合を阻害される可能性があることから、焼結温度において不揮発な成分を含まないことが好ましい。
【0046】
上記銀錯体としては、例えば任意の脂肪酸銀と脂肪族アミンを混合して得られた錯体があげられるが、これらに限定されない。この錯体は焼結時容易に熱分解され微小な銀成分を生成することで、接合部材に対する焼結性を向上させ銀接合層をより密な構造にする効果が得られる。含まれる錯体は1種類でもよく、2種以上の錯体が含まれていてもよい。
【0047】
上記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れかを用いることができ、例えばアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキシド、モノアルキル硫酸塩、アセチレンジオール等があげられるが、これらに限定されない。銀微粒子(a)と銀粒子(b)の間の電荷バランスを崩さないためにノニオン性の界面活性剤が好ましく、アセチレンジオール系のものがさらに好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記増粘剤としては、例えば、アクリルポリマー、キサンタンガム・セルロースなどの天然系増粘剤等があげられるが、これらに限定されない。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
以下、本発明の接合用組成物の調製方法から代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
<接合用組成物の調製>
本発明の接合用組成物を調製するための方法として、例えば、銀微粒子(a)および銀粒子(b)の製造、またそれらの銀成分と有機溶剤群(c)、有機溶剤群(d)及び必要に応じて添加されるその他添加剤との混合などの工程があげられるがこれらに限定されない。
【0051】
本実施形態の平均粒子径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、銀を含むアミン錯体を還元することで銀微粒子を含む溶液を調製し、その銀微粒子を洗浄する方法などがあげられる。
【0052】
平均粒子径が1000nm~30000nmであり脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されている銀粒子(b)の製造についても特に限定されないが、上記銀微粒子(a)の場合と同様に、銀の錯体を脂肪酸存在下で還元させることで銀粒子を含む溶液を調製し、その銀粒子を洗浄する方法などがあげられる。
【0053】
銀微粒子(a)と銀粒子(b)のいずれの銀成分においても、表面保護剤や平均粒子径などの条件を満たすものであれば市販の銀粉を使用することが可能である。また、市販の銀粉の表面保護剤を任意の方法でアミン、または脂肪酸で置換することで、条件を満たす銀成分を製造してもよい。
【0054】
上記銀微粒子(a)と銀粒子(b)を有機溶剤群(c)、有機溶剤群(d)及び必要に応じて添加されるその他添加剤とを混合して接合用組成物を調製する方法としては自公転撹拌機、3本ロール、ビーズミル、超音波分散機、プラネタリーミキサーなどの装置による混合があげられる。
【0055】
<接合用組成物を用いた接合部材の接合方法>
本実施形態の接合用組成物を用いれば、接合部材の接合において高い接合強度及び熱的信頼性を有する接合層を得ることができる。本発明の接合用組成物を第1の接合部材と第2の接合部材との間に任意の手法で塗布する接合用組成物の塗布工程と、第1の接合部材と第2の接合部材との間に塗布した接合用組成物を、例えば、300℃以下200℃以上の温度で焼結して接合する接合工程により、第1の接合部材と第2の接合部材とを接合することが可能である。このとき、接合部材としては任意の材料で構成されたものを使用することが可能であり、例えば金、銀、銅などでメッキされた金属基板を使用することができる。
【0056】
この接合の際には、接合部材に対して垂直方向に加圧しながら焼結することも、加圧を行わずに焼結することも可能である。また、焼結時の接合部材周辺の環境としては窒素雰囲気下でも大気下でも焼結が可能である。
【0057】
接合用組成物を塗布する際の塗布方法としては任意の手法が可能であり、例えばメタルマスク印刷、ディスペンス印刷、スクリーン印刷、スタンピング印刷などの手法をとることが可能である。
【0058】
以下、本発明の実施例を挙げ本発明についてさらに詳細に説明を行うが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
<銀微粒子(a)の製造>
2-メチルアミノエタノール(東京化成工業製)18gに酢酸銀(東京化成工業製)18gを加え撹拌することで銀錯体溶液を得た。次に、ギ酸(東京化成工業製)3gを含む還元液を室温で上記銀錯体溶液に加え、70℃まで昇温し2時間反応させた。その後、得られた反応溶液とメタノールを混合して撹拌し、静置することで銀微粒子を沈殿させた。溶液の上澄みを捨て、再度メタノールを混合して撹拌する作業を繰り返すことで、表面の一部または全体が2-メチルアミノエタノールで被膜された銀微粒子を得た。
【0060】
上記銀微粒子11gとドデシルアミン(東京化成工業製)0.2gをメタノール中で室温で2時間撹拌して、銀微粒子の表面保護剤をドデシルアミンへと置換した。その後、メタノールを加えて静置し上澄みを捨てることで銀微粒子を洗浄する作業を繰り返すことで、表面がドデシルアミンで被膜された銀微粒子(a)を得た。
【0061】
<銀粒子(b)>
銀粒子(b)として、市販されている表面を脂肪酸で被膜された球状銀粉(平均粒子径3μm)を用意した。
【0062】
<銀微粒子(a)の平均粒子径測定>
銀微粒子(a)を超音波を35分間かけることでエタノール中に分散させ、粒子径分布を動的光散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製、SZ-100V2)で測定した。その結果、銀微粒子(a)は平均粒子径が104nmであった。
【0063】
<接合用組成物の調製>
上記のようにして得られた表面がドデシルアミンで被膜された銀微粒子(a)と銀粒子(b)合わせて26gの銀成分と、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)0.6gと、プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)0.6gと、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)0.8gとを混合し、減圧しながら自公転撹拌機で撹拌することで接合用組成物を得た。
【0064】
(実施例2)
ドデシルアミンがオクチルアミン(東京化成工業製)0.3gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0065】
(実施例3)
ドデシルアミンがヘキサデシルアミン(東京化成工業製)0.3gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0066】
(実施例4)
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)0.6gがターピニルオキシエタノール(日本テルペン製)0.6gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0067】
(実施例5)
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)0.6gがジヒドロターピニルオキシエタノール(日本テルペン製)0.6gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0068】
(実施例6)
界面活性剤としてテトラメチルアセチレンジオール(東京化成工業製)0.01gを加えた以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0069】
(比較例1)
ドデシルアミンがオレイン酸(東京化成工業製)0.3gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0070】
(比較例2)
ドデシルアミンがドデカン酸(東京化成工業製)0.2gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0071】
(比較例3)
ドデシルアミンがリシノール酸(東京化成工業製)0.3gになった以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0072】
(比較例4)
イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を不使用とし、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)を1.0g、プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)を1.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0073】
(比較例5)
プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)を不使用とし、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)を1.0g、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を1.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0074】
(比較例6)
プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)及びイソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を不使用とし、ターピニルオキシエタノール(日本テルペン製)を2.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0075】
(比較例7)
プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)、及び2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)を不使用とし、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を2.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0076】
(比較例8)
プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)、及びイソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を不使用とし、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)を2.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0077】
(比較例9)
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(東京化成工業製)及びイソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン製)を不使用とし、プロピオン酸オクチル(ナカライテスク製)を2.0gとした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0078】
(比較例10)
実施例1に記載した銀微粒子(a)を不使用とし、市販されている表面の一部または全体をラウリン酸で被膜された平均粒子径260nmの銀粒子とした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0079】
(比較例11)
実施例1に記載した銀粒子(b)を不使用とし、表面の一部または全体をヘキサン酸で被膜された平均粒子径260nmの銀粒子とした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0080】
(比較例12)
実施例1に記載した銀粒子(b)を不使用とし、市販されている表面の一部または全体をラウリン酸で被膜された平均粒子径260nmの銀粒子とした以外は実施例1と同様にして接合用組成物を得た。
【0081】
以上のように調製した接合用組成物について、以下の方法で粘度及び接合強度の測定を行った。
【0082】
<粘度>
各接合用組成物0.5mLを測り取り、コーンプレート型粘度計(東機産業製、TVE-25H コーンロータ3°×R14)を用いて、24℃の環境下において5rpmの回転速度で測定したときの粘度(Pa・s)を測定した。
【0083】
<接合強度>
各接合用組成物を銅基板上に5mm×5mmの正方形状にメタルマスク印刷(版厚み100μm)で塗布し、その上に5mm×5mmのAuめっきコバールチップ(チップ厚:500μm)を0.8Nの力で搭載した。その後、オーブン(ESPEC製、PHH-202)で240℃、大気下、1時間焼結を行い銅基板とAuめっきコバールチップを接合した。
【0084】
焼結後の接合強度は、シェア強度[MPa]で評価した。接合強度試験機ボンドテスター(オーエルエム製 MFM1500HF)を用い、測定スピード170μm/s、測定高さ60μmでチップを水平方向に押し、シェア強度[MPa]を測定した。
【0085】
上記実施例1~6、比較例1~12の接合用組成物の配合及び測定結果についてまとめたものを図1に示す。測定結果の項目について、粘度は測定器の範囲限界である115Pa・sを超えメタルマスクによる印刷性が悪いものを×、115Pa・s以下の粘度のものを〇とした。また、シェア強度については基準となる実施例1のシェア強度44MPaよりも悪化したものを×、それと同じまたは良いものを〇とした。
【0086】
図1の実施例1、2、3と比較例1、2、3は銀微粒子(a)の表面保護剤を変更した接合用組成物である。表1のとおり脂肪酸を使用した比較例1、2、3の接合用組成物と比べて、アミンを表面保護剤として使用した実施例1、2、3の接合用組成物は印刷性及びシェア強度の少なくともいずれか一方の面で優れた結果が見られた。
【0087】
図1の実施例1、4、5、6と比較例4、5、6、7、8、9は有機溶剤配合を変更した接合用組成物である。溶剤種を1種類または2種類しか使用していない比較例4、5、6、7、8、9の接合用組成物と比較すると、溶剤種を高沸点の溶剤と低沸点の溶剤を組み合わせて計3種類使用した実施例1、4、5の接合用組成物及び界面活性剤を加えた実施例6の接合用組成物は印刷性及びシェア強度の少なくともいずれか一方の面で優れた結果が見られた。
【0088】
図1の実施例1と比較例10、11、12は銀成分の平均粒子径を変更した接合用組成物である。銀微粒子(a)を範囲外の平均粒子径をもつ銀成分に変更した比較例10および銀粒子(b)を範囲外の平均粒子径をもつ銀成分に変更した比較例11、12と比べると、実施例1の接合用組成物は粘度及びシェア強度の少なくともいずれか一方の面で優れた結果が見られた。
【0089】
本実施形態の接合用組成物は、動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が10nm~200nmであり表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)と動的光散乱式粒子径分布測定装置により得られる体積平均径が1000nm~30000nmであり脂肪酸で表面の一部または全体が被膜されている銀粒子(b)を含んでおり、銀微粒子(a)表面にはカチオン性であるアミン由来の正電荷が分布し、銀粒子(b)表面にはアニオン性である脂肪酸由来の負電荷が分布している。これらの銀微粒子(a)表面の正電荷と銀粒子(b)表面の負電荷が焼結時に静電引力を引き起こし、表面エネルギーの高く焼結性の良好な銀微粒子(a)が銀粒子(b)近傍に接近、付着してから焼結することで、本来表面エネルギーが低く焼結性の低い銀粒子(b)を銀接合層内で高密度かつ強固に接合することが可能となる。
【0090】
また、本実施形態の接合用組成物は沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)と、沸点150~270℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(d)と、を含み、前記有機溶剤群(c)と有機溶剤群(d)には合計して3種類以上の有機溶剤が含まれていることを特徴としている。このように焼結時の温度と比較して高い沸点を有する有機溶剤と低い沸点を有する有機溶剤を複数種類混合して使用することで、焼結時の有機溶剤の揮発を緩やかにして粗大な空隙の発生を抑制する効果が得られる。
【0091】
また、低沸点溶剤が揮発した後も溶剤が完全には揮発しない状態とすることで、溶剤の揮発により銀粒子間の距離が狭まり前記静電引力が強まった状態で高沸点溶剤内を銀微粒子が流動することが可能となり、それにより静電引力による銀微粒子の銀粉への付着を促進させることで、より強固な接合層を形成することが可能となる。
【0092】
本実施形態の接合用組成物によれば、表面エネルギーの低い粒子径の大きな銀粉を使用した場合でも、強固な接合層を形成することが可能な接合用組成物を提供することができる。
【0093】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書の記載には、何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0094】
a:銀微粒子
b:銀粒子
c:有機溶剤群
d:有機溶剤群

【要約】
【課題】
平均粒子径の小さい銀微粒子と平均粒子径が大きい銀粒子を含む接合用組成物において、複雑な製造工程を必要とせずに平均粒子径の大きな銀粒子を密接に接合可能であるような接合用組成物の配合について提供することを目的としている。
【解決手段】
所定の平均粒子径を有し表面の一部または全体がアミンで被膜されている銀微粒子(a)と、所定の平均粒子径を有し表面の一部または全体が脂肪酸で被膜されている銀粒子(b)と、沸点270~350℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(c)と、沸点150~270℃の有機溶剤1種類以上から構成される有機溶剤群(d)と、を含み、前記有機溶剤群(c)と有機溶剤群(d)には合計して3種類以上の有機溶剤が含まれる接合用組成物を使用することで、銀粒子同士の相互作用により密で強固な接合層を形成可能となる。
【選択図】図1
図1