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特許7515776筋萎縮性側索硬化症の治療におけるコレステロール24―ヒドロラーゼの発現ベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療におけるコレステロール24―ヒドロラーゼの発現ベクター
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240708BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240708BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240708BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K31/7088
A61P21/00
A61P25/02
C12N15/53
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021523208
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019079365
(87)【国際公開番号】W WO2020089154
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】18306411.2
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ピゲ, フランソワーズ
(72)【発明者】
【氏名】カルティエ-ラカーヴ, ナタリー
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Brain,2016年,Vol. 139,p. 953-970
【文献】Gene Ther.,2018年08月,Vol. 25,p. 392-400
【文献】J. Lipid Res.,2017年,Vol. 58,p. 267-278
【文献】Mol. Cell Neurosci.,2018年04月,Vol. 88,p. 308-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置において使用するための組成物であって、ベクターを含み、前記ベクターは、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、組成物
【請求項2】
前記ALSは、少なくとも1種の運動ニューロン関連障害と関連する、請求項1に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項3】
前記ALSは、前頭側頭型認知症と関連する、請求項2に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項4】
前記コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸が、配列番号2のアミノ酸配列をコードする、請求項1~3のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項5】
前記コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸が、配列番号1の配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項6】
前記ベクターが、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項7】
前記ベクターが、AAVベクターである、請求項1~6のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項8】
前記AAVベクターが、AAV9、AAV10ベクター、またはAAVPHP.eBである、請求項7に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項9】
患者の静脈内にまたは脳に直接投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項10】
脊髄および/または運動皮質に投与される、請求項9に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項11】
運動ニューロンに投与される、請求項10に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項12】
血管内、静脈内、鼻内、脳室内または髄腔内注射によって投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するための組成物
【請求項13】
筋萎縮性側索硬化症の処置において使用するための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は、治療上有効な量の、請求項1~12のいずれか1項に規定されるとおりのベクターを含む、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、咀嚼する、歩く、および話す、のような随意筋運動の制御を担うニューロンに主に関係する運動ニューロン障害の群に属する希な神経学的疾患である(Zarei Sら 2015)。ALSは、脳から脊髄へと、および身体中の筋へと延びる運動ニューロンが徐々に低下し、死滅することによって特徴づけられる。ALSは、上位運動ニューロン(運動ニューロンから脳へと脊髄を伝ってメッセージを送る)および下位運動ニューロン(脳の中の運動核)の両方に関係し、それらニューロンは、変性し、結論としてメッセージを筋へと送ることを停止し、筋が徐々に弱り、攣縮し始め、萎縮することになる(Rowland LPら. 2001)。
【0003】
ALSに罹患している大部分の人々は、最初の症状が出現してから3~5年以内に死亡し、通常は、呼吸不全が原因で死亡する。ALSを有する人々のうちのほんの10%が、症状が始まって後10年を超えて生存する。
【0004】
ALSにおいて、いくつかの潜在的リスク因子が関連している:年齢(通常、症状は、55~75歳の間に出現する)、性別(ALSは、男性においてわずかに有病率が高い)、ならびに人種および民族性(ALSは、白色人種かつ非ヒスパニック系が発症する可能性が最も高い)。
【0005】
しかし、ALS症例のうちの大部分(90%)は、孤発性である。対照的に、ALS症例のうちのおよそ10%は、家族性(FALS)である。これらの家族性の症例に関しては、いくつかの遺伝子が、関係があるとされている: C9ORF72、SOD1、FUS、TARDBPおよびより近年になってSMCR8(Greenwayら. 2006; Kabashiら. 2008; Kaurら. 2016; Turner MRら. 2017; Ticozziら. 2011; Valdmanis PNら. 2008)。
【0006】
ALSの病態生理に関しては、いくつかの局面が検討されている最中であり、原則的な理論のうちの1つは、RNAプロセシングと関連し、特に、大部分のALS症例においてTDP-43が、ならびにALSの遺伝的原因として、TARDBPおよびFUSのような遺伝子が含まれるという知見に基づく。これらの遺伝子の両方が、pre-mRNAスプライシング、ならびにRNA輸送および翻訳に関係があるとされる。C9orf72反復を含むpre-mRNAは、核RNA結合タンパク質を隔離し得、従って、他のmRNAの正確なスプライシングに利用不能にする。ALSの別の十分に認識された局面は、ALS患者および動物モデルの両方において観察され得る、SOD1、TDP43、およびFUSを含むタンパク質凝集である。その凝集物は、正常なタンパク質ホメオスタシスを妨げ、細胞ストレスを誘導すると提唱される。さらに、タンパク質凝集物は、RNAまたは正常な細胞機能に必須の他のタンパク質を隔離し得る。
【0007】
現在まで、ALSの公知の治療法は存在しない。ALSに関してFDAが承認した薬物が2種存在するに過ぎない:リルゾールおよびエダラボン。リルゾールは、運動ニューロンに対する損傷を低減し、グルタミン酸のレベルを減少させることを通じて作用すると考えられる。リルゾールは、生存を数カ月間延ばすが、ニューロンに既に存在する損傷を改善しない(Zoccolellaら. 2007)。エダラボンに関しては、毎日の障害の臨床評価を低下させることが示されているに過ぎない(Brooksら. 2018)。従って、ALSにおける治療の新たなストラテジーを開発することは、切実に必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
本発明者らは、ここで、コレステロール代謝経路を調節することによって、より具体的には、標的細胞においてコレステロール24-ヒドロキシラーゼを発現する、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターによって、ALSに対抗することを提唱する。
【0009】
従って、本発明の目的は、筋萎縮性側索硬化症の処置において使用するためのベクターであって、上記ベクターは、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクターを提供することである。
【0010】
一実施形態において、上記ベクターは、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。あるいは、上記ベクターは、配列番号1の核酸配列を含む。
【0011】
一実施形態において、上記ベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、好ましくはAAVベクター、より好ましくはAAV9、AAV10(AAVrh.10)またはAAVPHP.eBベクター、さらにより好ましくはAAVPHP.eB.の群から選択される。
【0012】
一実施形態において、上記ベクターは、患者の脳および/または脊髄に、好ましくは脊髄および/または運動皮質に直接投与される。
【0013】
本発明の別の目的は、筋萎縮性側索硬化症の処置において使用するための薬学的組成物であって、上記薬学的組成物は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを含む薬学的組成物を提供することである。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置において使用するためのベクターであって、前記ベクターは、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクター。
(項目2)
前記ALSは、少なくとも1種の運動ニューロン関連障害と関連する、項目1に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目3)
前記ALSは、前頭側頭型認知症と関連する、項目2に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目4)
配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、項目1~3のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目5)
配列番号1の核酸配列を含む、項目1~4のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目6)
アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの群から選択される、項目1~5のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目7)
AAVベクターである、項目1~6のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目8)
AAV9、AAV10ベクター、例えば、AAVrh.10、またはAAVPHP.eB、好ましくはAAVPHP.eBである、項目7に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目9)
患者の静脈内にまたは脳に直接投与される、項目1~8のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目10)
脊髄および/または運動皮質に投与される、項目9に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目11)
運動ニューロンに投与される、項目10に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目12)
血管内、静脈内、鼻内、脳室内または髄腔内注射によって投与される、項目1~11のいずれか1項に記載のALSの処置において使用するためのベクター。
(項目13)
筋萎縮性側索硬化症の処置において使用するための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物は、治療上有効な量の、項目1~12のいずれか1項に規定されるとおりのベクターを含む、薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1- WTおよびSOD1G93A動物の腰部脊髄において8週間でのコレステロール代謝に関与する遺伝子のmRNAレベルおよび脊髄において15週間での24-OHコレステロールのレベル。(A)mRNAを、8週齢のWTおよびSOD1G93Aマウスの腰部脊髄から抽出した。mRNAレベルを、アクチンハウスキーピング遺伝子に対して正規化した。データを平均±SEMとして表す(n=4~5/群)。(B)UPLC-HRMSによって評価したSOD1G93Aマウスにおける腰部脊髄24S-ヒドロキシコレステロール含有量。データを平均±SEMとして表す(n=7~9/群)。統計分析:スチューデントのt検定。*p<0.05、**p<0.01。
【0015】
図2図2 - 8週間でのWT動物におけるAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの静脈内送達後のCYP46A1-HA発現の評価および低用量、中用量または高用量の注射後3週間での分析。脊髄の頚部、胸部および腰部の切片に対するHA染色。
【0016】
図3図3 - 8週間でのWT動物におけるAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの静脈内送達後の炎症の評価および低用量、中用量または高用量の注射後3週間での分析。脊髄の腰部切片に対するGFAP染色。NI:注射されていない。
【0017】
図4図4 - 防止ステージ(3週間)でのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内投与後のSOD1マウスの行動評価。(A)体重追跡、(B)把持試験(clasping test)および(C)逆さ試験(inverted test)。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。黒色の*は、WT動物に対するp値に、および灰色は、SOD1動物に対するp値に相当する。
【0018】
図5図5- SOD1動物における防止的処置後のAAVPHP.eB-CYP46A1の生体分布および防止的処置後の15週齢での24OHコレステロールレベル定量による標的結合(target engagement)の評価。(A)中枢神経系および(B)末梢器官の生体分布、ならびにUPLC-HRMSによって評価したSOD1G93Aマウスにおいて、(C)腰部脊髄における24S-ヒドロキシコレステロール含有量。結果を平均±SEMとして表す。
【0019】
図6図6 - 防止的処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のCYP46A1-HA発現の15週齢での評価および脊髄の組織学的分析。(A)AAVで処置したSOD1動物の脊髄の頸部、胸部および腰部の切片のHA染色;(B)WT、SOD1およびSOD1 AAV動物の脊髄の頸部、胸部および腰部の切片に対するHAおよびVachTに関する共染色;(C)運動ニューロン数の定量;(D)脊髄の腰部切片に対するルクソール染色、ならびに(E)ミエリンパーセンテージの評価。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。黒色の*は、WT動物に対するp値におよび灰色はSOD1動物に対するp値に相当する。
【0020】
図7図7 - 防止的処置後のAAV処置したSOD1動物における筋表現型の改善。(A)筋における線維サイズを分析するためのヘマトキシリンエオシン呈色。脛骨筋(B)、腓腹筋(D)および四頭筋(F)における平均線維面積、ならびに脛骨筋(C)、腓腹筋(E)および四頭筋(G)における断面サイズに従う線維パーセンテージの再配分を示す。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。
【0021】
図8図8 - 防止的処置後のAAV処置したSOD1動物における神経筋接合部の保存。(A)15週齢のWT、SOD1およびAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後のSOD1処置動物における神経線維(NF)およびブンガロトキシン(BTX)の共染色。(B~C)15週齢でのそれらの神経支配状態およびそれらの完全性に従うNMJのスコア付け。(D)汎NF、ブンガロトキシンおよびVachTに関する三重染色を使用するWTおよびSOD1動物における3週間でのNMJ形成の評価。(E)3週齢での成熟M1~M4のそれらの状態に基づくNMJの定量。
【0022】
図9図9 - 防止的処置において15週間でのNMJの分子分析。脛骨筋(A)および腓腹筋(B)におけるMusk発現の分析、ならびに脛骨筋(C)および腓腹筋(D)におけるnAchR発現定量。
【0023】
図10図10 - 治癒ステージ(8週間)でのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内投与後のSOD1マウスの行動評価。(A)体重追跡、(B)把持試験、(C)逆さ試験および(D)生存。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。黒色の*は、WT動物に対するp値に、灰色は、SOD1動物に対するp値に相当する。
【0024】
図11図11 - SOD1動物における防止的処置後のAAVPHP.eB-CYP46A1の生体分布、および治癒的処置後の15週齢での24OHコレステロールレベル定量による標的結合の評価。(A)中枢神経系および(B)末梢器官における生体分布、ならびに(C)UPLC-HRMSによって評価したSOD1G93Aマウスにおける腰部脊髄の24S-ヒドロキシコレステロール含有量。結果を平均±SEMとして表す。
【0025】
図12図12 - 治癒的処置としてのAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内送達後の脊髄のCYP46A1-HA発現の15週齢での評価および組織学的分析。(A)WT、SOD1およびSOD1 AAV動物の脊髄の腰部切片に対するHAおよびVachTに関する共染色。(B)腰部脊髄切片上での運動ニューロン数の定量、および(C)脊髄の腰部切片に対するルクソール染色。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。黒色の*は、WT動物に対するp値に、灰色は、SOD1動物に対するp値に相当する。
【0026】
図13図13 - 治癒的処置後のAAV処置したSOD1動物における筋表現型の部分的補正。脛骨筋(A)、腓腹筋(C)および四頭筋(E)における平均線維面積、ならびに脛骨筋(B)、腓腹筋(D)および四頭筋(F)におけるそれらの断面サイズに従う線維パーセンテージの再配分を示す。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01。
【0027】
図14図14 - 治癒的処置後のAAV処置したSOD1動物における神経筋接合部の保存。(A)15週齢のWT、SOD1およびAAVPHP.eB-CYP46A1の治癒的静脈内送達後のSOD1処置動物における神経線維(NF)およびブンガロトキシン(BTX)の共染色。(B~C)15週齢でのそれらの神経支配状態およびそれらの完全性に従うNMJのスコア付け。
【0028】
図15図15 - 治癒的処置において15週間でのNMJの分子分析。脛骨筋(A)および腓腹筋(B)におけるMusk発現の分析、ならびに脛骨筋(C)および腓腹筋(D)におけるnAchR発現定量。
【0029】
図16図16 - 高用量での治癒的ステージ(8週間)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内投与後のSOD1マウスの行動評価。把持試験。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。黒色の*は、WT動物に対するp値に、灰色は、SOD1動物に対するp値に相当する。
【0030】
図17図17 - 高用量での防止ステージ(4週間)におけるAAVPHP.eB-CYP46A1の静脈内投与後のC9 ORF72マウスの行動評価。(A)体重追跡および(B)切り欠き付きバーの成績。結果を平均±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。黒色の*は、WT動物に対するp値に、灰色は、C9ORF72動物に対するp値に相当する。
【0031】
図18図18 - (A)SMCR8 WTまたは変異体の過剰発現およびCYP46A1の過剰発現後の細胞におけるp62凝集物の評価。(B)異なる条件におけるニューロン生存を反映する形質導入した細胞(HA)陽性の総数の定量。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明者らは、ALSのマウスモデルにおいてCYP46A1遺伝子を発現するベクターを静脈内に送達すると、運動障害の発生が防止/補正され得ることを示した。より詳細には、本発明者らは、CYP46A1遺伝子を発現するプラスミドを、筋萎縮性側索硬化症病理をモデル化する初代線条体ニューロンに送達すると、SMCR8機能障害の特徴であり、かつオートファジーの障害を通じてALSに関与するp62凝集物の有意な減少が生じ、ニューロンの生存が改善されることを示した。
【0033】
このことに基づいて、本発明者らは、ALSの処置のためのウイルスベクターであって、上記ベクターは、中枢神経系の細胞、特に運動ニューロンおよび運動皮質内のニューロンにおいてCYP46A1を発現するベクターを提供する。このストラテジーは、主に共通の変異遺伝子を通じてある種のALS形態と繋がっている任意の運動ニューロン障害を処置するにあたって有用である。特に、本発明者らは、ALSと関連する前頭側頭型認知症(FTD)の処置のためのウイルスベクターを提供する。
【0034】
筋萎縮性側索硬化症
本発明は具体的に、筋萎縮性側索硬化症の処置に関する。好ましくは、本発明は、孤発性の要因によって引き起こされる、および/または疾患関連タンパク質(すなわち、SOD1、FUS、C9ORF72、TDP43…)が機能変異の獲得を含む場合の、ALSの処置に関する。一実施形態において、本発明は、少なくとも1つの運動ニューロン関連障害と関連するALSの処置に関する。このような関連運動ニューロン障害は、好ましくは、下位運動ニューロン障害または痙性対麻痺を含む上位運動ニューロン障害から選択される。特定の実施形態において、本発明は、前頭側頭型認知症(FTD)と関連するALSの処置に関する。FTDは、言語、人格および行動の進行性の悪化を引き起こす、前頭葉および側頭葉におけるニューロン変性によって特徴づけられる致命的な神経変性疾患である。ALS患者のうちの少なくとも15~20%は、同時にFTDの診断を受ける(Prudencioら. 2015)。別の特定の実施形態において、本発明は、前頭側頭型認知症なしのALSの処置に関する。
【0035】
本発明の文脈において、用語「処置」、「処置する」または「処置すること」は、(1)このような用語が該当する疾患状態もしくは状態の症状の進行、深刻化(aggravation)もしくは悪化を遅らせるか、または停止させる;(2)このような用語が該当する疾患状態もしくは状態の症状を改善するもしくは改善をもたらす;および/または(3)このような用語が該当する疾患状態もしくは状態を改善するもしくは治癒させることを目的とする治療法またはプロセスを特徴づけるために、本明細書で使用される。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「被験体」または「患者」とは、動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくはヒト(成人および小児を含む)に言及する。しかし、用語「被験体」は、非ヒト動物、マウスのような哺乳動物、および非ヒト霊長類にも言及し得る。
【0037】
CYP46A1配列
本発明の第1の目的は、筋萎縮性側索硬化症の処置において使用するためのベクターであって、上記ベクターは、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸の全配列を含む、ベクターに関する。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子」とは、転写または翻訳された後に特定のポリペプチドまたはタンパク質をコードし得る少なくとも1個のオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドに言及する。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「コード配列(coding sequence)」または「特定のタンパク質をコードする配列」とは、適切な調節配列の制御下に配置された場合に、インビトロまたはインビボで転写される(DNAの場合)およびポリペプチドへと翻訳される(mRNAの場合)核酸配列を示す。上記コード配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端における翻訳終止コドンによって決定される。コード配列としては、原核生物または真核生物のmRNAに由来するcDNA、原核生物または真核生物のDNAに由来するゲノムDNA配列、およびさらには合成のDNA配列が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0040】
CYP46A1遺伝子は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする。この酵素は、酵素のシトクロムP450スーパーファミリーのメンバーである。上記酵素は、コレステロールを、BBBを動的に横断し得る24S-ヒドロキシコレステロール(24S-OH-Chol)へと変換し、末梢循環を達成して、身体から排泄され(Bjorkhemら. 1998)、従って、コレステロールホメオスタシスを維持する。CYP46A1のcDNA配列は、Genbankアクセッション番号AF094480(配列番号1)において開示される。そのアミノ酸配列は、配列番号2に示される。
【0041】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症、および必要に応じて、関連運動ニューロン障害(例えば、FTD)の処置のために、配列番号1の配列またはその改変体を含む核酸構築物を利用する。
【0042】
上記改変体は、例えば、個体間のアレル変動(例えば、多型)、選択的スプライシング形態などに起因して、天然に存在する改変体を含む。用語改変体はまた、他の供給源または生物に由来するCYP46A1遺伝子配列を含む。改変体は、好ましくは、配列番号1と実質的に相同であり、すなわち、配列番号1と、代表的には少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%のヌクレオチド配列同一性を示す。CYP46A1遺伝子の改変体はまた、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記で規定されるとおりの配列(またはその相補鎖)とハイブリダイズする核酸配列を含む。代表的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、30℃を上回る、好ましくは35℃を上回る、より好ましくは42℃より高い温度、および/または約500mMを下回る、好ましくは200mMを下回る塩分を含む。ハイブリダイゼーション条件は、温度、塩分、および/または他の試薬(例えば、SDS、SSCなど)の濃度を改変することによって、当業者によって調節され得る。
【0043】
非ウイルスベクター
一実施形態において、本発明に従う使用のためのベクターは、非ウイルスベクターである。代表的には、上記非ウイルスベクターは、CYP46A1をコードするプラスミドであり得る。このプラスミドは、直接、またはリポソーム、エキソソームもしくはナノ粒子によって投与され得る。
【0044】
ウイルスベクター
本発明の実施において有用な遺伝子送達ウイルスベクターは、分子生物学の分野において周知の方法論を利用して構築され得る。代表的には、導入遺伝子を有するウイルスベクターは、上記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチド、適切な調節エレメントおよび細胞形質導入を媒介するウイルスタンパク質の生成に必要なエレメントからアセンブリされる。
【0045】
用語「遺伝子移入」または「遺伝子送達」とは、外来DNAを宿主細胞に信頼性をもって挿入するための方法またはシステムに言及する。このような方法は、組み込まれない移入DNAの一過性の発現、染色体外複製および移入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の発現、または宿主細胞のゲノムDNAへの移入された遺伝物質の組み込みを生じ得る。
【0046】
ウイルスベクターの例としては、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。
【0047】
このような組換えウイルスは、当該分野で公知の技術によって(例えば、パッケージング細胞をトランスフェクトすることによって、またはヘルパープラスミドもしくはウイルスでの一過性のトランスフェクションによって)生成され得る。ウイルスパッケージング細胞の代表的な例としては、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などが挙げられる。このような複製欠損組換えウイルスを生成するための詳細なプロトコールは、例えば、WO95/14785、WO96/22378、US5,882,877、US6,013,516、US4,861,719、US5,278,056およびWO94/19478に見出され得る。
【0048】
好ましい実施形態において、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが使用される。
【0049】
「AAVベクター」とは、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクター(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、AAV10(例えば、AAVrh.10、AAVPHP.eBなど)が挙げられるが、これらに限定されない)を意味する。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子のうちの1種またはこれより多く(好ましくはrepおよび/またはcap遺伝子)が全体的にまたは部分的に欠失していてもよいが、機能的な隣接ITR配列を保持し得る。機能的ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングに必要である。従って、AAVベクターは、上記ウイルスの複製およびパッケージングのためにcisにおいて必要とされるそれら配列(例えば、機能的ITR)を少なくとも含むように本明細書で規定される。上記ITRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、上記配列が機能的なレスキュー、複製およびパッケージングを提供する限りにおいて、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されていてもよい。AAV発現ベクターは、転写の方向において作動可能に連結された構成要素として、転写開始領域を含む制御エレメント、目的のDNA(すなわち、CYP46A1遺伝子)および転写終結領域を少なくとも提供するように、公知の技術を使用して構築される。目的のDNAの2コピーが、自己相補性構築物として含まれ得る。
【0050】
より好ましい実施形態において、上記AAVベクターは、AAV9、AAV10、好ましくはAAVrh.10、AAVPHP.BもしくはAAVPHP.eBベクター、またはこれらの血清型のうちの1つに由来するベクターである。最も好ましい実施形態において、上記AAVベクターは、AAVPHP.eBベクターである。上記AAVPHP.eBベクターは、CNSニューロンを効率的に形質導入する進化したAAV-PHP.B改変体である(Chan KYら. 2017 ; WO2017100671)。他のベクター(例えば、WO2015038958およびWO2015191508に記載されるもの)がまた、使用され得る。
【0051】
制御エレメントは、哺乳動物細胞において機能的であるように選択される。作動可能に連結された構成要素を含む、得られた構築物は、機能的AAV ITR配列と(5’側および3’側で)境界を接する。「アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復(adeno-associated virus inverted terminal repeat)」または「AAV ITR」とは、DNA複製起点としておよびウイルスのパッケージングシグナルとしてcisで一緒に機能するAAVゲノムの各末端において見出される当該分野で認識される領域を意味する。AAV ITRは、AAV repコード領域と一緒に、2つの隣接するITRの間に挟まれたヌクレオチド配列からの効率的な切除およびレスキュー、ならびに哺乳動物細胞ゲノムへのその組み込みを提供する。AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である(例えば、AAV-2配列に関しては、Kotin, 1994; Berns, KI 「Parvoviridae and their Replication」 Fundamental Virology, 第2版, (B. N. Fields and D. M. Knipe,編)を参照のこと)。本明細書で使用される場合、「AAV ITR」は、必ずしも野生型配列を含まなければならないわけではなく、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されていてもよい。さらに、AAV ITRは、いくつかのAAV血清型(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6などが挙げられるが、これらに限定されない)のうちのいずれかに由来し得る。さらに、AAVベクターにおいて選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ ITRは、それらが、意図したとおり、すなわち、宿主細胞ゲノムまたはベクターから目的の配列の切除およびレスキューを可能にする、ならびにAAV Rep遺伝子生成物が細胞に存在する場合に、レシピエント細胞ゲノムへの異種配列の組み込みを可能にするように機能する限りにおいて、必ずしも同一である必要も、同じAAV血清型または単離物に由来する必要もない。
【0052】
哺乳動物中枢神経系(CNS)の細胞、特にニューロンに対する向性および形質導入効率を有するAAV血清型に由来するベクターが、特に好ましい。種々の血清型の形質導入効率の検討および比較は、Davidsonら, 2000に提供される。1つの好ましい例では、AAV2ベースのベクターは、CNS、好ましくは形質導入するニューロンにおける導入遺伝子の長期発現を指向することが示されている。他の非限定的な例では、好ましいベクターとしては、CNSの細胞を形質導入することがまた示されているAAV4およびAAV5血清型に由来するベクターが挙げられる(Davidsonら, 前出)。特に、上記ベクターは、AAV5に由来する(特に、ITRは、AAV5 ITRである)ゲノムおよびAAV5に由来するキャプシドを含むAAVベクターであり得る。
【0053】
本発明の特定の実施形態において、上記ベクターは、偽型化AAVベクターである。具体的には、偽型化AAVベクターは、第1のAAV血清型に由来するAAVゲノムおよび第2のAAV血清型に由来するキャプシドを含む。好ましくは、上記AAVベクターのゲノムは、AAV2に由来する。さらに、キャプシドは、好ましくはAAV5に由来する。偽型化AAVベクターの具体的な非限定的例としては、AAV5に由来するキャプシドの中にAAV2に由来するゲノムを含むAAVベクター、AAVrh.10に由来するキャプシドの中にAAV2に由来するゲノムを含むAAVベクターなどが挙げられる。
【0054】
上記選択されたヌクレオチド配列は、上記被験体においてインビボでその転写または発現を指向するエレメントを制御するように作動可能に連結される。このような制御エレメントは、通常は、上記選択された遺伝子と関連する制御配列を含み得る。特に、このような制御エレメントは、CYP46A1遺伝子のプロモーター、特に、ヒトCYP46A1遺伝子のプロモーターを含み得る(Ohyama Yら, 2006)。
【0055】
あるいは、異種制御配列が使用され得る。有用な異種制御配列は、概して、哺乳動物またはウイルスの遺伝子をコードする配列に由来するものを含む。例としては、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えば、CMV最初期プロモーター領域(CMVIE))、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、非ウイルス遺伝子に由来する配列(例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子)はまた、本明細書での使用が見出される。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego, CA)から市販されている。本発明の目的のために、異種プロモーターおよび他の制御エレメント(例えば、CNS特異的および誘導性プロモーター、エンハンサーなど)の両方が、特に有用である。
【0056】
異種プロモーターの例としては、CMVプロモーターが挙げられる。CNS特異的プロモーターの例としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、シナプシン(例えば、ヒトシナプシン1遺伝子プロモーター)、およびニューロン特異的エノラーゼ(NSE)の遺伝子から単離されたものが挙げられる。
【0057】
誘導性プロモーターの例としては、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素およびオーフィン(aufin)のDNA応答性エレメントが挙げられる。
【0058】
AAV ITRが境界をなす目的のDNA分子を有するAAV発現ベクターは、主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)がそこから切り出されたAAVゲノムへと選択された配列を直接挿入することによって構築され得る。AAVゲノムの他の部分も、ITRの十分な部分が複製およびパッケージング機能を可能にするままである限りにおいて、欠失され得る。このような構築物は、当該分野で周知の技術を使用して設計され得る。例えば、米国特許第5,173,414号および同第5,139,941号;国際公開番号WO 92/01070(1992年1月23日公開)およびWO 93/03769(1993年3月4日公開);Lebkowskiら, 1988; Vincentら, 1990; Carter, 1992; Muzyczka, 1992; Kotin,1994; Shelling and Smith, 1994;およびZhouら, 1994を参照のこと。あるいは、AAV ITRは、上記ウイルスゲノムからまたは上記ウイルスゲノムを含むAAVベクターから切除され得、標準的なライゲーション技術を使用して別のベクターに存在する選択された核酸構築物の5’側および3’側に融合される。ITRを含むAAVベクターは、例えば、米国特許第5,139,941号に記載されている。特に、いくつかのAAVベクターは、その中で記載され、これらは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(「ATCC」)からアクセッション番号53222、53223、53224、53225および53226の下で入手可能である。さらに、キメラ遺伝子が、1またはこれより多くの選択された核酸配列の5’側および3’側に配置されたAAV ITR配列を含むように合成で生成され得る。哺乳動物CNS細胞におけるキメラ遺伝子の発現に適したコドンが、使用され得る。完全なキメラ配列は、標準的な方法によって調製される重複するオリゴヌクレオチドからアセンブリされる(例えば、Edge, 1981; Nambairら, 1984; Jayら, 1984を参照のこと)。rAAVビリオンを生成するために、AAV発現ベクターは、公知の技術を使用して、例えば、トランスフェクションによって、適切な宿主細胞に導入される。多くのトランスフェクション技術が、当該分野において概して公知である(例えば、Grahamら, 1973; Sambrookら. (1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Davisら. (1986) Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier、およびChuら, 1981)を参照のこと)。特に適切なトランスフェクション方法としては、リン酸カルシウム共沈殿(Grahamら, 1973)、培養細胞への直接マイクロインジェクション(Capecchi, 1980)、エレクトロポレーション(Shigekawaら, 1988)、リポソーム媒介性遺伝子移入(Manninoら, 1988)、脂質媒介性形質導入(Felgnerら, 1987)、および高速微小発射体を使用する核酸送達(Kleinら, 1987)が挙げられる。
【0059】
例えば、好ましいウイルスベクター(例えば、AAVPHP.eB)は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸配列に加えて、AAV-2に由来するITRを有するAAVベクターの骨格、プロモーター(例えば、マウスPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)遺伝子、もしくはサイトメガロウイルス最初期遺伝子に由来するエンハンサー、ニワトリβ-アクチン遺伝子に由来するプロモーター、スプライスドナーおよびイントロン、ウサギβ-グロブリンに由来するスプライスアクセプターからなるサイトメガロウイルス/β-アクチンハイブリッドプロモーター(CAG)、または任意のニューロンプロモーター(例えば、野生型または変異形態のウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)ありまたはなしのドパミン-1レセプターまたはドパミン-2レセプターのプロモーター)を含む。
【0060】
ベクターの送達
筋萎縮性側索硬化症の処置方法であって、上記方法は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを、その必要性のある患者に投与する工程を包含する方法が開示される。上記ベクターは、上記被験体の脳および/もしくは脊髄に直接、または血管内、静脈内、鼻内、脳室内もしくは髄腔内注射によって、送達され得る。特定の実施形態において、上記ベクターは、AAVrh10またはAAVPHP.eBであり、静脈内注射によって送達される。
【0061】
特定の実施形態において、被験体において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための方法であって、上記方法は、
(a)コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む上記で定義されるとおりのベクターを提供する工程;ならびに
(b)上記ベクターを、上記被験体の脳および/または脊髄に送達し、それによって上記ベクターは、脳および/または脊髄において細胞を形質導入し、それによってコレステロール24-ヒドロキシラーゼは、上記形質導入された細胞によって治療上有効なレベルにおいて発現される工程、
を包含する方法が提供される。
【0062】
有利なことには、上記ベクターは、ウイルスベクターであり、より有利なことにはAAVベクターであり、さらに有利なことにはAAV9、AAV10、またはAAVPHP.eBからなる群より選択されるAAVベクターである。
【0063】
特定の実施形態において、上記ベクターは、脳に、特に運動皮質に、および/または脊髄に送達される。特定の実施形態において、上記ベクターは、専ら脊髄に送達される。
【0064】
別の特定の実施形態において、上記ベクターは、静脈内注射によって投与される。
【0065】
ニューロンおよび/または星状細胞および/または希突起神経膠細胞および/またはミクログリアへのウイルスベクターの送達、または投与の方法は、一般に、選択されたシナプス接続される細胞集団の細胞の少なくとも一部が形質導入されるように、ベクターを上記細胞に、直接的にまたは造血細胞形質導入を通じて送達するために適した任意の方法を含む。上記ベクターは、中枢神経系の任意の細胞、末梢神経系の細胞、または両方に送達され得る。好ましくは、上記ベクターは、脳および/または脊髄の細胞に送達される。一般に、上記ベクターは、脳(例えば、運動皮質の細胞を含む)、脊髄の細胞もしくはこれらの組み合わせ、またはその任意の適切な部分集団へと送達される。
【0066】
上記ベクターを、特定の領域に、および脳または脊髄の細胞の特定の集団に特異的に送達するために、上記ベクターは、定位微量注入によって投与され得る。例えば、患者は、定位フレーム基部を適所に固定される(頭蓋へとねじ止めされる)。脳と定位フレーム基部(基準マーカーと適合性のMRI)とは、高解像度MRIを使用して画像化される。次いで、上記MRI画像は、定位ソフトウェアを実行するコンピュータに移される。一連の冠状断、矢状断および体軸断の画像は、標的(ベクター注射部位)および軌跡を決定するために使用される。上記ソフトウェアは、その軌跡を、定位フレームに適した3次元座標へと直接変換する。進入部位の上にドリルでバーホールを開け、定位装置を、針を所定の深度に埋め込んで位置づける。次いで、上記ベクターを、最終的には、造影剤と混合して標的部位に注射する。上記ベクターは、ウイルス粒子を生成するというより標的細胞に組み込まれることから、上記ベクターのその後の拡がりは小さく、主に、注入部位からの受動的拡散および当然のことながら、所望の、組み込み前のトランスシナプス輸送の関数である。拡散の程度は、ベクター 対 流体キャリアの割合を調節することによって制御され得る。
【0067】
さらなる投与経路はまた、直接的可視化の下での上記ベクターの局所適用、例えば、皮質表面適用、鼻内適用、または他の非定位適用を含み得る。
【0068】
本発明のベクターの標的細胞は、脊髄の細胞(運動ニューロン)およびALSに罹患した被験体の脳(運動皮質)の細胞、好ましくは神経細胞である。
【0069】
好ましくは、上記被験体は、ヒトであり、概して成人であるが、小児または乳児であってもよい。しかし、本発明は、上記疾患の生物学的モデルへの上記ベクターの送達を包含する。その場合には、上記生物学的モデルは、送達時に任意の発生ステージにある任意の哺乳動物(例えば、胚、胎児、乳児、若年または成人)であってもよいし、好ましくは、成人である。さらに、上記標的細胞は、任意の供給源、特に非ヒト霊長類および他のげっ歯目の哺乳動物(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、食肉目(ネコ、イヌ)、および偶蹄目(ウシ、ブタ、ヒトジ、ヤギ、ウマ)、ならびに任意の他の非ヒト系(例えば、ゼブラフィッシュモデル系)に本質的に由来し得る。
【0070】
好ましくは、本発明の方法は、定位注射による脳内投与を含む。しかし、他の公知の送達法がまた、本発明に従って適合され得る。例えば、上記ベクターの脳を横断するより広い分布に関しては、それは、例えば、腰椎穿刺、大槽または脳室穿刺による脳脊髄液に注射され得る。上記ベクターを脳へ指向するために、それは、脊髄へと、または末梢神経節へと、または目的の身体部分の筋肉組織へと(皮下または筋肉内に)注射され得る。ある特定の状況(ここではAAVPHP.eBを用いる)において、上記ベクターは、血管内アプローチを介して投与され得る。例えば、上記ベクターは、血液脳関門が妨害される状況では、動脈内に(頚動脈に)投与され得る。さらに、より全体的な送達に関しては、上記ベクターは、マンニトールを含む高張性溶液の注入または超音波局所送達によって達成される血液脳関門の「開口」の間に投与され得る。
【0071】
本明細書で使用されるベクターは、任意の適切な送達用ビヒクル中に製剤化され得る。例えば、それらは、薬学的に受容可能な懸濁物、溶液またはエマルジョンに入れられ得る。適切な媒体としては、食塩水およびリポソーム調製物が挙げられる。より具体的には、薬学的に受容可能なキャリアは、滅菌した水性もまたは非水性の溶液、懸濁物、およびエマルジョンを含み得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物性油(例えば、オリーブ油)、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。水性キャリアとしては、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁物(食塩水および緩衝化媒体を含む)が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体および栄養補液、電解質補液(例えば、デキストロース加リンゲル(Ringer’s dextrose)に基づくもの)などが挙げられる。
【0072】
例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性化ガスなどのような保存剤および他の添加剤はまた、存在し得る。
【0073】
コロイド性分散系はまた、標的化遺伝子送達のために使用され得る。コロイド性分散系は、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、および脂質ベースの系(水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームまたはエキソソームが挙げられる)を含む。
【0074】
好ましい用量およびレジメンは、医師によって決定され得、被験体の年齢、性別、体重、および疾患のステージに依存し得る。例としては、ウイルス発現ベクターを使用するコレステロール24-ヒドロキシラーゼの送達に関して、コレステロール24-ヒドロキシラーゼ発現ベクターの各単位投与量は、薬学的に受容可能な流体の中にウイルス発現ベクターを含みかつ組成物1mlあたり1010~1015までのコレステロール24-ヒドロキシラーゼ発現ウイルス粒子を提供する組成物を、2.5~100μl含み得る。
【0075】
上記ベクターは、治癒的処置においておよび/または防止的処置において使用され得る。
【0076】
従って、本発明の目的は、ALSの防止的処置において使用するためにコレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを提供することである。
【0077】
本発明の別の目的は、ALSの治癒的処置において使用するためにコレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを提供することである。
【0078】
薬学的組成物
本発明のさらなる目的は、ALSの処置において使用するための、治療上有効な量の、本発明に従うベクターを含む薬学的組成物に関する。
【0079】
「治療上有効な量」とは、任意の医学的処置に適用可能な、妥当な利益/リスク比にある、本発明のベクターのALSを処置するために十分な量を意味する。
【0080】
本発明の化合物および組成物の合計1日投与量が、妥当な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることは、理解される。任意の特定の患者にとっての具体的な治療上有効な用量レベルは、処置されている障害および上記障害の重篤度;使用される具体的化合物の活性;使用される具体的組成物、患者の年齢、体重、全身的な健康状態、性別および食事;投与時間、投与経路、ならびに使用される具体的化合物の排出速度;処置の継続時間;使用される具体的ポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬物;ならびに医療分野で周知の類似の要因を含む種々の要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされるものより低いレベルにおいて化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまでその投与量を徐々に増大させることは、十分に当該分野の技術範囲内である。しかし、上記生成物の1日投与量は、1日あたり成人1人あたり、広い範囲にわたって変動し得る。投与されるべき本発明に従うベクターの治療上有効な量、ならびに本発明のウイルスもしくは非ウイルス粒子の数および/または薬学的組成物での、病的状態の処置のための投与量は、患者の年齢および状態、病気(disturbance)または障害の重篤度、投与の方法および頻度、ならびに使用されるべき特定のペプチドを含む多くの要因に依存する。
【0081】
本発明に従うベクターを含む薬学的組成物の提示は、筋肉内、脳内、鼻内、髄腔内、脳室内または静脈内投与に適した任意の形態にあり得る。筋肉内、鼻内、静脈内、脳内、髄腔内または脳室内投与のための本発明の薬学的組成物において、有効成分は、単独で、または別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態において、従来の薬学的支持物質との混合物として、動物およびヒトに投与され得る。
【0082】
好ましくは、上記薬学的組成物は、注射され得る製剤のために薬学的に受容可能であるビヒクルを含む。これらは、特に、等張性の滅菌食塩溶液(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムなど、またはこのような塩の混合物)、または場合に応じて、滅菌水または生理食塩水の添加の際に、滅菌注射用液剤の構成を可能にする乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であり得る。
【0083】
製剤化すると、液剤は、投与製剤と適合性の様式において、および治療上有効であるような量において投与される。上記製剤は、種々の投与形態(例えば、注射用液剤のタイプ)において容易に投与されるが、薬物放出カプセル剤などがまた、使用され得る。
【0084】
多数の用量がまた、投与され得る。
【0085】
CYP46A1を活性化し得る低分子(例えば、エファビレンツ(Mast Nら. 2013 ; Mast Nら. 2017 ; Mast Nら. 204 ; Mast Nら. 2017))または逆に、CYP46A1を阻害し得、従って、必要であれば、遺伝子治療アプローチを停止させる方法である抗真菌薬(Mast Nら. 2013 ; Fourgeuxら. 2014))での治療的アプローチを関連付けることも可能である。
【0086】
本発明は、以下の実施例によってさらに例証される。しかし、この実施例および添付の図面は、本発明の範囲を限定するとはいかようにも解釈されるべきではない。
【実施例
【0087】
この実験において、ALSのインビトロモデルを、C9ORF72およびWDR1と複合体を形成し、RAB8およびRAB39bのGDP/GTP交換因子として作用し、従って、オートファジーフラックスを制御するSMCR8 D928V(SMCR8の変異体)の過剰発現に基づいて生成した(Sellierら. 2016)。WT SMCR8または変異体SMCR8(これは、SMCR8のためのsiRNAの発現としてオートファジーを変化させる)のいずれかを、過剰発現させた。
【0088】
材料および方法
動物
2匹の雄性B6SJL-Tg(SOD1*G93A)1Gur/Jを、Jackson Laboratories(ストック002726)から得、C57BL/6マウスと交配して、コロニーを生成した。
【0089】
3匹の雄性FVB/NJ-Tg(C9orf72)500Lpwr/JをJackson Laboratories(ストック029099)から得、FVB/NJマウスと交配して、コロニーを生成した。
【0090】
マウスを温度制御した部屋の中で飼育し、12時間明/暗サイクルで維持した。飼料および水を自由に摂取させた。実験を、実験動物の管理と使用に関する欧州共同体理事会指令(2010/63/EU)に従って行った。
【0091】
AAVプラスミド設計およびベクター生成
AAVベクターを、Atlantic Gene therapies(INSERM U1089, Nantes, France)が生成および精製した。ベクター生成は、他の箇所で記載されている(Hudry Eら. 2010)。AAVPHP.eB-CYP46A1-HAのウイルス構築物は、AAV2の逆方向末端反復(ITR)配列によって囲まれたCMV初期エンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)合成プロモーター(CAG)によって駆動されるヒトCyp46a1遺伝子からなる発現カセットを含んだ。バッチの最終力価は、1.5~2.1013vg/mlの間であった。
【0092】
遺伝子型決定
マウスを、SOD1G93Aマウス系統に関してはJackson研究室手順(https://www2.jax.org/protocolsdb/f?p=116:5:0::NO:5:P5_MASTER_PROTOCOL_ID,P5_JRS_CODE:24173,002726)に、およびC9ORF72 500r系統に関してはhttps://www2.jax.org/protocolsdb/f?p=116:5:0::NO:5:P5_MASTER_PROTOCOL_ID,P5_JRS_CODE:30889,029099に従う遺伝子型であった。
【0093】
静脈内注射
ALSマウスモデルにおいて注射するAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの用量を決定するために、C57BL6動物に、8週齢において、3用量、合計2.5.1011vg(低用量)、合計5.1011vg(中用量)および合計1.1012vg(高用量)(n=3/群)を注射した。
【0094】
防止的処置に関して、3週齢のSOD1G93Aまたは4週齢のC9ORF72 500rマウスを、4%のイソフルランで麻酔を誘導し、次いで、80%空気および20%酸素を用いて2%において維持した。SOD1動物は、眼窩後注射によって静脈内に、合計2.5.1011vg(低用量)または合計5.1011vg(中用量)の注射(100μl 容積)を受けた。WTおよび注射しなかったSOD1動物は、100μlの食塩溶液の注射を受けた。
【0095】
防止群の詳細:
- SOD1研究: n=10 WT; n=12 SOD1およびn=14 SOD1 AAV(合計2.5.1011vg)
- C9研究: n=16 WT; n=16 C9およびn=17 C9 AAV(合計5.1011vg)
【0096】
治癒的処置に関して、8週齢のSOD1G93Aまたは16週齢のC9ORF72 500rマウスを、4%のイソフルランで麻酔を誘導し、次いで、80%空気および20%酸素を用いて2%において維持した。SOD1動物は、眼窩後注射によって静脈内に、合計2.5.1011vg(低用量)または合計5.1011vg(中用量)の注射(100μl 容積)を受けた。WTおよび注射しなかったSOD1動物は、100μlの食塩溶液の注射を受けた。
【0097】
治癒群の詳細:
- SOD1研究:
・ n=24 WT; n=27 SOD1およびn=22 SOD1 AAV(合計2.5.1011vg)
・ n=5 WT; n=5 SOD1およびn=7 SOD1 AAV(合計5.1011vg)
- C9研究: n=14 WT; n=13 C9およびn=12 C9 AAV(合計5.1011vg)
【0098】
行動試験
体重追跡
全ての動物を注射の前に体重測定し、SOD1動物については各週に、およびC9ORF72動物については2週間ごとに体重測定した。
【0099】
把持試験
把持試験は、協調を評価し、ALS評価にとって古典的なものである。動物を、注射の前にスコア付けし、次いで、6週間または8週間から15週間まで、2週間ごとにスコア付けした。動物を尾部から支え、そのスコアは、マウスが攣縮している場合に1であり、次いで、1ポイントを、各後肢の把持についてスコアに追加する。結果を、各群に関して平均±SEMとして各試験に対して示し、t検定分析を行った。
【0100】
逆さ試験
逆さ試験は、強さを評価し、ALS評価の典型である。動物を、注射の前にスコア付けし、次いで、6週間または8週間から15週間まで、2週間ごとにスコア付けした。動物をグリッドの上に置き、グリッドを反転し、そのグリッド上に取り付いている残りの足の即座のスコア付けを行う(短時間反転)。結果を、各群に関して平均±SEMとして各試験に対して示し、t検定分析を行った。
【0101】
C9モデルに関して、マウスを、より強固な結果を得るために、各試行の間に15分間の回復を設けて、各5分間の3回の試行による逆さ試験に対して、さらにチャレンジさせた。各試行に関して、それらが取り付いたままである時間をスコア付けし、平均を各動物について計算する。
【0102】
切り欠き付きバー
協調を、以前に記載されるように(Piguet Fら. 2018)、切り欠き付きバー試験(上肢または後肢の落下の回数をスコア付け)を使用して評価した。
【0103】
生存評価
マウスを、毎日観察し、それらがエンドポイント基準(後肢を引きずるまたは体重の≧20% 喪失)を満たせば直ぐに安楽死させた。
【0104】
組織収集
マウスを、ペントバルビタール(Euthasol 180mg/kg)溶液で麻酔し、リン酸緩衝化食塩水(PBS)で心臓を経て灌流した。脳、脊髄および坐骨神経ならびに末梢器官(肝臓、心臓、肺、腎臓、脾臓)を収集し、PFA 4%で後固定し、その後、組織学用にパラフィン封入した(ミクロトームで6~10μmに切断)か、または生体分子分析のために液体窒素中で即座に凍結した。
【0105】
肢の筋を解剖し、4% PFA/PBS中で、4℃において一晩後固定した。サンプルをPBS中で3回すすぎ、20% スクロース/PBS中で48時間、低温保護した。組織をクリオマトリクス(cryomatrix)(Thermoscientific)中に包埋し、クリオスタット(Leica CM3050S)を使用して切断(20μm)した。凍結切片を室温において乾燥させ、-20℃で貯蔵した。
【0106】
腓腹筋、脛骨筋、四頭筋および脊髄の一部を解剖し、液体窒素中で凍結した。
【0107】
種々の組織を液体窒素中ですり潰し/粉砕し、RNAまたはDNA発現を分析するために分離した。
【0108】
初代線条体細胞培養およびトランスフェクション
初代線条体ニューロンを、以前に記載される(Charvin Dら. 2005 ; Deytsら. 2009)ように、妊娠Swissマウス(Janvier)の14日目の胚から解剖した。インビトロで7日後に、線条体細胞の一過性のトランスフェクションを、LipofectamineTM 2000(Invitrogen)で行った。このステージにおいて、ごく少量のグリア細胞が観察された(55%;データは示さず)。細胞を、5つの条件(CYP46A1-HA; SMWR8 WT-HA; SMCR8 D928V-HA, SMWR8 WT-HA + CYP46A1-HA; SMCR8 D928V-HA + CYP46A1HA)に従ってトランスフェクトし、トランスフェクトしなかった細胞を、コントロールとして使用した。N=6の複製を、各条件について行った。8ウェル labtekチャンバー中、各プラスミドにつき100ngのDNAを用いたLipofectamineでの16時間のトランスフェクション、その後、細胞固定。
【0109】
一次抗体
免疫組織化学(IHC)分析に使用した抗体を、以下の表1に列挙する。
表1: 免疫蛍光および免疫組織化学(IHC)分析において使用した抗体
【表1】
【0110】
免疫染色
【0111】
細胞に対して
免疫蛍光手順を、PFA中で15分間、細胞を固定することによって開始した。3回洗浄した後、その細胞を、PBS/0.3% Triton X-100中で透過処理し、次いで、5% 正常ヤギ血清(NGS, Gibco)を含むPBS/0.1% Triton X-100中で、室温において1時間ブロックした。次いで、その細胞を、それぞれの一次抗体とともに一晩、4℃においてインキュベートした。3回洗浄した後、その細胞を、PBS/0.1% Triton X-100中で希釈した対応する二次抗体(1:1000;Vector Laboratories Inc., CA, USA)とともに、室温において1時間、インキュベートした。3回洗浄した後、その細胞を乾燥させ、DAPIを含む封入剤中でマウントした。
【0112】
パラフィン切片に対して
筋: 筋の凍結切片を、加工前に、PBS中の0.1M グリシンで30分間処理した。PBS中で洗浄した後、切片を、PBS/0.3% TritonX-100で10分間透過処理し、PBS/0.3% Triton/10% BSAで45分間飽和させた。一次抗体を飽和溶液中で希釈し、4℃において一晩インキュベートした。PBS/0.1% Triton中で洗浄した後、二次抗体およびα-ブンガロトキシンをPBS/0.1% Triton/10% BSA中で希釈し、室温において1時間添加した。PBS/0.1% Triton中で洗浄した後、そのスライドを、蛍光水性封入剤(F4680, Sigma)でマウントした。
【0113】
免疫蛍光用の一次抗体は、マウス抗汎神経線維(1:1000; Biolegend, 837904)、ウサギ抗小胞アセチルコリントランスポーター(VAChT; 1:1000 ; sigma, 2000559)であった。二次抗体を、1:1000希釈し、ロバ抗ウサギ/AlexaFluor 594、抗マウス/AlexaFluor Cy3(Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)であった。
【0114】
α-ブンガロトキシン-Alexa594(1:2000; Life Technologies, B13422)を、上記二次抗体と共にインキュベートした。共焦点SP8 Leica DLS倒立顕微鏡(Carl Zeiss, Zaventem, Belgium)で写真を撮影した。全ての画像について、明るさおよびコントラストを、獲得後にImageJソフトウェアで調節して、観察に合わせた。
【0115】
脊髄: 免疫蛍光に関して、脊髄を、10mM Tris/1mM EDTA/0,1% Tween pH8.75で、95℃において45分間処理した。PBS中で洗浄した後、切片を、透過処理溶液(PBS/0.3% TritonX-100)とともに15分間、次いで、飽和溶液(PBS/0,1%TritonX-100/10% ウマ血清)とともに1時間、インキュベートした。一次抗体を、10% ウマ血清/PBS/0,1%Triton X-100中で希釈し、組織切片上で一晩、4℃においてインキュベートした。PBS/0,1% TritonX-100中で洗浄した後、切片を、二次抗体(ロバ抗ウサギAlexa 594およびロバ抗マウスalexa 488, 1 :1000, Life Technologies)とともにインキュベートした。
【0116】
免疫組織化学標識を、ABC法を使用して行った。簡潔には、組織切片を、ペルオキシドで30分間処理して、内因性ペルオキシダーゼを阻害した。PBS中で洗浄した後、切片を、10mM Tris/1mM EDTA/0,1% Tween pH8.75で、95℃において45分間処理した(抗HAに関してのみ)。PBS中で洗浄した後、切片を、ブロッキング溶液(10% ヤギ血清またはPBS/0.3% TritonX-100中のヤギ血清)とともに1時間インキュベートした。一次抗体をブロッキング溶液中で希釈し、組織切片上で一晩、4℃においてインキュベートした。PBS中で洗浄した後、切片を、ビオチンと結合体化したヤギ抗ウサギまたはヤギ抗マウス抗体(Vector Laboratories)とともに、30分間、室温において順次インキュベートし、続いて、ABC複合体(Vector Laboratories)と順次インキュベートした。PBS中で洗浄した後、ペルオキシダーゼ活性を、ジアミノベンジジンを色素原として使用して検出した(Dako, Carpinteria, CA)。いくつかの場合には、そのスライドをヘマトキシリンで対比染色した。そのスライドを、Depex(VWR International)でマウントした。
【0117】
ルクソール染色
脊髄切片上のミエリンを、古典的なルクソール染色で染色/可視化した。
【0118】
画像獲得
免疫蛍光スライドの画像を、室温において、マクロスコープ(Leica)およびLAS V3.8(Leica)ソフトウェアで、Leica DFC310FXデジタルカメラを装備したLeica DM 5000B顕微鏡で獲得した。比較用の写真を、同一の画像獲得条件下で撮影し、明るさおよびコントラストの全ての調節を、細胞培養分析用の全ての画像に対して一様に適用した。
【0119】
筋に関して、VachT写真を、ZEN 2.6ソフトウェアまたはナノズーマー付きのaxioscan(Zeiss)で獲得した。全ての画像に関して、明るさおよびコントラストを、撮影後にImageJソフトウェアで調節して、観察に合わせた。
【0120】
全てのIHCおよびカラー化のために、Hamamatsuスライドスキャナーを使用してスライスを獲得した。
【0121】
筋線維分析
前脛骨筋(TA)、腓腹筋(gastro)および四頭筋(quadri)を、15週間で解剖した。それらをホルマリン固定し、パラフィン包埋し、切断し(10mm)、ヘマトキシリン/エオシンで染色した。写真を、ZEN 2.6ソフトウェア付きのaxioscan(Zeiss)で獲得した。筋線維断面積(CSA)を、ImageJソフトウェアを使用して、各動物(n=4~13)において、TA、Gastro、Quadriに関して最低150の線維に対して測定した。
【0122】
神経筋接合部分析
NMJ形態を、3匹の異なる動物の最低100のTA接合部に対して定量した。終板分布を6つのカテゴリーに分類した:(1)正常な終板、(2)改変された終板、(3)断片化した終板、(4)分解された終板、(5)孔のない終板および(6)異所性の終板。最低100の接合部を、各動物につき分析した(n=3~4)。運動終板成熟を、以前に記載された基準(Audouardら)に基づいて、P21マウスにおいて評価した。
【0123】
運動ニューロン定量
頸部、胸部および腰部の脊髄切片における運動ニューロン数を、VAChTに対する免疫組織化学後に定量した。形質導入された運動ニューロンの数を、HAに対する免疫組織化学後に定量した。運動ニューロンの計数を、各マウス(n=3)につき、3個の脊髄切片の左腹側および右腹側に対して行った。
【0124】
ルクソール定量
ミエリンの総面積を、Fijiソフトウェアを使用して腰部脊髄に対して測定し、全脊髄面積によって正規化した。次いで、ミエリンパーセンテージを、WTにおいて100%として報告し、結果を、WT動物と比較して報告する。
【0125】
DNA抽出
DNAを、クロロホルム/フェノールプロトコールを使用して、脳、脊髄および末梢器官から抽出した。
【0126】
RNA抽出
全RNAを、TrizolまたはTriReagent(Sigma)を使用して、マウスの腰部脊髄、腓腹筋、脛骨筋および四頭筋の一部、ならびに患者の腰部脊髄から抽出した。1μgの全RNAを、Transcriptor First Strand cDNA合成キット(Roche)で、製造業者の説明書に従ってcDNAへと転写した。
【0127】
q-PCR
cDNAを、SyberGreen(Roche)で増幅した。RT-qPCR用のプライマーは、上記の表であった。全プライマーの増幅プロトコール、ホットスタート(95℃、5分間)、45増幅サイクル(95℃で15秒、60℃で1分間)および融解曲線分析。データを、各遺伝子に関する効率係数(efficiency factor)でLightcycler 480ソフトウェアを使用して分析し、アクチンに対して正規化した。
【表2】
【0128】
ベクターゲノムコピー数を、DRG、脊髄(頸部、胸部、および腰部レベル)、脳、小脳および末梢器官から抽出したゲノムDNAに対して、Light Cycler 480 SYBR Green I Master(Roche, France)を使用して、qPCRによって測定した。結果(ベクターゲノムコピー数/細胞)を、内部標準としてAdck3遺伝子コピー(2Nゲノムに関するウイルスゲノムコピー数)に対して、導入遺伝子配列コピー数におけるn倍率差として表した。
【0129】
コレステロールおよびオキシステロール測定
コレステロールおよびオキシステロール分析は、自動酸化人工産物の形成を最小限にするために、「至適基準」法25に倣った。簡潔には、マウス線条体組織サンプルを秤量し、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT, 50μg/ml)およびEDTA(0.5M)を含む500μl 溶液中、Tissue Lyser II装置(Qiagen)でホモジナイズした。この時点で、内部標準のミックス[エピコプロスタノール、2H7-7-ラトステロール、2H6-デスモステロール、2H6-ラノステロールおよび2H7-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール](Avanti Polar Lipids)を添加した。Ar下で、0.35M エタノール性KOHを使用して、2時間、室温においてアルカリ加水分解を行った。リン酸でその溶液を中和した後、ステロールをクロロホルム中で抽出した。その下側の層を集め、窒素流下で乾燥させ、その残渣をトルエンに溶解した。次いで、オキシステロールを、100mg Isoluteシリカカートリッジ(Biotage)上でコレステロールおよびその前駆体から分離し;コレステロールを、ヘキサン中の0.5% プロパン-2-オール中で溶離し、続いて、オキシステロールを、ヘキサン中の30% プロパン-2-オールで溶離した。上記ステロールおよびオキシステロール画分を、以前に記載される26ように、Regisil(登録商標) + 10% TMCS[ビス(トリメチルシリル)トリフルオロ-アセトアミド + 10% トリメチルクロロシラン](Regis technologies)で独立してシリル化した。ステロールおよびオキシステロールのトリメチルシリルエーテル誘導体を、中程度の極性のキャピラリーカラムRTX-65(65% ジフェニル 35% ジメチルポリシロキサン、長さ30m、直径0.32mm、フィルム厚 0.25μm; Restesk)においてガスクロマトグラフィー(Hewlett-Packard 6890シリーズ)によって分離した。ガスクロマトグラフィーと直列にした質量分析計(Agilent 5975 inert XL)を、陽イオンの検出のために設定した。イオンを、70eVの電子衝突モードにおいて生成した。それらを、スキャンモードでフラグメントグラム(fragmentogram)によって特定し、適切な内部標準および外部標準での正規化および較正後に、具体的イオンの選択的モニタリングによって定量した[エピコプロスタノール m/z 370、2H7-7-ラトステロール m/z 465、2H6-デスモステロール m/z 358、2H6-ラノステロール m/z 504、2H7-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 553、コレステロール m/z 329、7-ラトステロール m/z, 7-デヒドロコレステロール m/z 325、8-デヒドロコレステロール m/z 325、デスモステロール m/z 343、ラノステロール m/z 393および24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 413]。
【0130】
ニューロン生存の免疫蛍光定量分析
ニューロン生存を、Leica顕微鏡で倍率10×において、条件ごとに5ウェルにおいて、多様な条件の細胞HA陽性の直接定量によって評価した。
【0131】
統計分析
独立スチューデントt検定を使用して統計分析を行った。結果を、平均±SEMとして表す。有意な閾値を、本文中で定義されるように、P<0.05、P<0.01およびP<0.001に設定した。全ての分析を、GraphPad Prism(GraphPad Software, La Jolla, USA)を使用して行った。
【0132】
結果
SOD1動物におけるコレステロール経路の基本的評価
コレステロール経路のうちのいくつかの遺伝子の発現レベルを、8週齢のSOD1G93AおよびWT動物の腰部脊髄において定量した(図1)。CYP46A1およびApoEの有意な減少を(図1A)、ならびにSREBP1、SREBP2およびHMGCRについてはその傾向(図1A)を観察した。さらに、24-ヒドロキシコレステロールの測定を、15週齢において、SOD1G93AおよびWT動物の腰部脊髄で行ったところ、WT動物と比較して、SOD1G93Aにおいてその含有量の重大な減少が示された(およそ60%減少)(図1B)。これらの結果は、ALS表現型をレスキューするために、ALSモデルにおいてCYP46A1を調節するという仮説を確認する。
【0133】
ALSのための良好なベクターとしてのAAVPHP.eBの検証
本発明者らは先ず、AAVPHP.eBがALSの良好なベクターであるか否かを調査する。この目的のために;8週齢のWT動物に、低用量(2.5.1011vg)、中用量(5.1011vg)または高用量(1.1012vg)の、CYP46A1-HAをコードするAAVPHP.eBを注射した。低用量と高用量との間に大きな差異はなく、50~60%の形質導入率(図2)で、その3つの用量で運動ニューロンの良好な標的化が強調された(図2)。
【0134】
この大きな形質導入は、GFAP(図3)およびIba1(示されないデータ)染色評価で評価されるように、高用量群においてすら、脊髄におけるいかなる免疫応答とも関連せず、いかなるミクログリオーシスもアストログリオーシスももたらさなかった(図3)。
【0135】
これらの結果は、低用量のベクターでの追求を動機づけた。
【0136】
ALSのSOD1G93AマウスモデルにおけるALS表現型の防止
CYP46A1過剰発現は、防止的処置で、ALSのマウスモデルにおいて行動変化を防止する。
【0137】
本発明者らは、コレステロール代謝経路のアップレギュレーションが、CYP46A1のレベルの増大を経て、ALSのインビボモデル:SOD1G93Aモデルにおいて運動変化を改善し得るか否かを調査した。3週齢のマウスにおけるAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの防止的静脈内投与によるCYP46A1の過剰発現は、そのマウスモデルにおいて運動変化を明瞭に防止する。第1に、AAV処置したSOD1G93Aマウスは、改善した成長曲線を有する(図4A)。防止的AAVPHP.eB-CYP46A1-HA送達は、把持試験によって測定した運動障害を有意に補正し(図4B)、逆さ試験によって測定された変化を完全に防止する(図4C)。
【0138】
生体分布研究は、脊髄の全レベルにおいておよそ1ベクターゲノムコピー(VGC)を、および脳において2~4の間のコピーを(図5A)、ならびに心臓では最大0.4 VGCおよび他の末梢器官では0.1 VGC未満で、末梢組織の非常に低い形質導入を(図5B)明らかにした。標的結合を、動物の腰部脊髄における24 ヒドロキシコレステロールの定量で検証したところ、WT動物と比較して、処置した動物において3倍増大が明らかになった(図5C)。
【0139】
24OHコレステロールにおけるこの増大は、脊髄の全レベルにおいて、特に運動ニューロン(MN)においてCYP46A1-HAの大きな発現と完全に相関し(図6A)、また、WT動物において以前に得られた結果を確認した(図2)。
【0140】
MNの部分的保存は、VachTおよびHAでの共染色(図6BおよびC)の定量によって評価される腰部レベルにおいて示され(WTと比較しておよそ60%)、胸部切片では、MN数はWTと比較して類似であり、頸部レベルでは差異がなかった(図6C)。この60%の保存は、ルクソール染色およびミエリンパーセンテージの定量(図6DおよびE)で示されるように、腰部脊髄の脱髄を回避するには十分である。AAV処置SOD1動物は、WT動物に等しく、かつSOD1非処置動物より有意に高いミエリンパーセンテージを有した。
【0141】
本発明者らが調査したかった他の局面は、筋表現型であった。実際に、筋は、神経支配および神経筋接合部(NMJ)の喪失に主に起因して、MNの喪失に引き続いて、ALSにおいて重度に影響される。
【0142】
それらをまず、筋構造の有意な保存が平均線維面積の測定によって評価されることを示した(図7A)。SOD1処置動物の脛骨筋は、非処置動物と比較して、平均線維面積の有意な増大を示し(図7B)、線維断面積に従う再配分は、大きな断面の線維の保存を明らかに示した(図7B)。腓腹筋(図7DおよびE)および四頭筋(図7Fおよび7G)に関しても類似の結果が観察された。
【0143】
次いで、NMJ表現型に焦点を当てると、非処置SOD1動物と比較して、処置した動物において神経支配された接合部の数の増大が示され(図8AおよびB)、正常な終板またはより厚みのある終板を有するNMJの数が顕著により多く、異所性のおよび断片化した終板の数が減少した、NMJの構造の改善が示された(図8C)。
【0144】
この結果は、特に重要であり、治療上意義深い。なぜなら本発明者らが、WTおよびSOD1G93A非処置動物において3週間でNMJの状態を評価したところ、NMJは、3週間で、WTと比較して、SOD1動物において未成熟接合部の数が増大して、既に病的であることを明らかにしたからである(図8DおよびE)。これは、AAV-CYP46A1が注射される場合すら、NMJが適切に形成さない場合に、処置した動物の表現型を有意に改善することはなお可能であることを意味する。
【0145】
研究を完了するために、本発明者らはまた、15週齢で脛骨筋においてMuskの発現レベルを定量した。Muskは、シナプスの安定化およびNMJの維持の両方に関与するアグリンおよびnAchR(アセチルコリンのレセプター)との結合に関与するレセプターである。MuSKおよびnAchR両方の発現レベルは、脛骨筋および腓腹筋において改善される(図9)。
【0146】
CYP46A1過剰発現は、治癒的処置後にALSのマウスモデルにおいて行動変化を緩和する
動物における防止的処置に基づいて、コレステロール代謝経路のアップレギュレーションが、CYP46A1のレベルの増大を通じて、ALSの症候後インビボモデル:SOD1G93Aモデルにおいてに運動変化を改善し得るか否かを決定するために調査を行った。8週齢のマウスでのAAVPHP.eB-CYP46A1-HAの静脈内投与によるCYP46A1の過剰発現は、そのマウスモデルにおいて運動変化を明らかに緩和する。マウスは、非処置動物と比較して、改善した成長を有する(図10A)。
【0147】
治癒的なAAVPHP.eB-CYP46A1投与は、把持試験による運動障害尺度を明らかに減少させ(図10B)、逆さ試験によって測定される変化を緩和する(図10C)。さらに、上記処置は、非処置動物と比較して、平均14日間の余命の増大とともに、処置したマウスの生存の増大をもたらす(図10D)。
【0148】
マウスを、組織学および分子分析のために15週齢で安楽死させた。
【0149】
生体分布研究によって、脊髄の全レベルにおいておよそ3~4ベクターゲノムコピー(VGC)、および脳において10~20の間のコピー(図11A)、ならびに末梢組織の非常に低い形質導入(肝臓において最大0.5 VGC、および他の末梢器官において0.2 VGC未満)が明らかにされた(図11B)。標的結合を、動物の腰部脊髄において24 ヒドロキシコレステロールの定量で検証したところ、WT動物と比較して、処置動物において1.3倍の増大が明らかにされた(図11C)。
【0150】
MNの部分的保存は、VachTおよびHAでの共染色の定量によって評価した場合、防止的処置の結果(図6C)に類似して、腰部レベルで示された(WTと比較しておよそ60%)(図12AおよびB)。
【0151】
この60%の保存は、ここで繰り返すと、ルクソール染色およびミエリンパーセンテージの定量で示される(図12C)ように、腰部脊髄の脱髄を回避するために十分である。AAV処置SOD1動物は、WT動物に等しく、SOD1非処置動物より有意に高いミエリンパーセンテージを有した。
【0152】
平均線維面積の測定(図13)による筋構造評価から、非処置動物と比較して、処置動物において表現型の明瞭な改善が明らかにされた。SOD1処置動物の四頭筋は、非処置動物と比較して、平均線維面積の有意な増大を示す(図13EおよびF)。脛骨筋(図13AおよびB)、腓腹筋(図13CおよびD)に関しても類似の結果が観察された。
【0153】
次いで、NMJ表現型に焦点を当てると、非処置SOD1動物と比較して、処置した動物において神経支配された接合部の数の増大が示され(図14AおよびB)、正常な終板のあるNMJの数が顕著に増大し、断片化したおよび成熟していない終板の数が減少した、NMJの構造の改善が示された(図14C)。
【0154】
最後に、MuSKおよびnAchRの両方の発現レベルに対する処置の効果は、防止的処置においてより軽度である(図15)が、腓腹筋におけるように改善される(図15D)。
【0155】
まとめると、これらのデータは、ALSにおける関連標的としてのCYP46A1を強く裏付ける。次いで、本発明者らは、AAV-CYP46A1用量の増大が、有益な効果をなお改善し得るか否かを評価することを決定し、SOD1G93A動物のコホートに、治癒的処置での5.1011vgを注射した。行動に関する予備的な結果は、把持スコアで測定した行動の強い効果および明瞭な改善を示唆する(図16)。マウスは、12週間で存在しており、生存に関して評価される。
【0156】
最後に、本発明者らは、CYP46A1が、家族性および孤発性両方の携帯のALSの関連標的であり得るので、SOD1変異患者のみならず、TARDP患者のC9ORF72変異患者をも標的とすることを主張した。その目的のために、本発明者らは、ALSの他のモデル(その最初のモデルは、GGGGCCの500の反復を有するC9ORF72マウスモデルである)に対して本発明者らの治療ストラテジーを試験することを決定した。
【0157】
本発明者らは、C9ORF72モデルにおいて4週間で防止的処置として5.1011vg AAV-CYP46A1-HAを投与した。現在、16週間までの追跡を行った。成長曲線に関して差異は観察されなかった(図17A)。運動成績の明瞭な改善が、切り欠き付きバー試験に基づいて示された(図17B)。マウス追跡が進行中であり、生存が評価される。
【0158】
全体として、これらのデータは、CYP46A1過剰発現が、治療的特性、神経生理、特に、ALSのインビトロモデルにおけるオートファジー(図18)の改善の促進を有することを裏付ける。処置の症候後送達に関するデータは、症状が既に発生した場合に、ALSの処置を奨励する。
【化1】
【化2】
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