(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】中空部材の加工方法および中空部材
(51)【国際特許分類】
B29C 70/54 20060101AFI20240708BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240708BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20240708BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240708BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240708BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/16
B29C70/32
B29K101:12
B29K105:08
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2021044537
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】592253345
【氏名又は名称】中部エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】平山 友貴
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊嗣
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 竜也
(72)【発明者】
【氏名】原田 真
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059038(JP,A)
【文献】特開昭59-062124(JP,A)
【文献】特開平10-225987(JP,A)
【文献】特開2018-038463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 51/00-51/46
B29C 33/00-33/76
B29C 55/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化熱可塑性樹脂により形成された中空部材の加工方法であって、
前記中空部材の加工対象部分の内部に
前記加工対象部分の先端から末端にかけてその径が太-細-太の順に変化する所定形状の芯材を挿入し、
前記加工対象部分の熱可塑性樹脂が塑性変形可能になるまで前記加工対象部分を加熱し、
前記加工対象部分に
引っ張り応力を付与することにより、前記加工対象部分を前記所定形状に対応した形状に加工することを特徴とする中空部材の加工方法。
【請求項2】
前記中空部材は、
連続強化繊維が熱可塑性樹脂と混繊されたテープ状のフィラメントを使用してフィラメントワインディング法により製造された管状
の部材であり、
前記加工対象部分の熱可塑性樹脂が塑性変形可能になるまで前記加工対象部分を加熱した前記中空部材をその軸線方向に引っ張ることにより、前記加工対象部分を前記所定形状に対応した形状に加工することを特徴とする請求項1に記載の中空部材の加工方法。
【請求項3】
前記芯材は、
前記加工対象部分に挿入する部分の前記軸線と直交する断面形状が多角形であり、
前記加工対象部分の前記軸線と直交する断面形状が多角形になるように加工することを特徴とする請求項2に記載の中空部材の加工方法。
【請求項4】
前記芯材は、
前記加工対象部分に挿入する部分の最大径が非加工対象部分に挿入する部分の最大径よりも小さく、
前記加工対象部分の最大径が非加工対象部分の最大径よりも小さくなるように加工することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の中空部材の加工方法。
【請求項5】
前記芯材は、
前記加工対象部分に挿入され、前記所定形状の少なくとも一部の形状に形成された第1芯材と、
少なくとも一部が非加工対象部分に挿入される第2芯材と、を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の中空部材の加工方法。
【請求項6】
前記第1芯材および第2芯材は、相互に着脱可能に接続されることを特徴とする請求項5に記載の中空部材の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された中空部材を加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂をマンドレルに巻き付けてFRP筒体を製造する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、強化繊維のパイプの軸方向両端部における巻角度Aを±80~90°、中央部における巻角度Bを±5~20°にそれぞれ設定し、両端部と中央部との間における巻角度を巻角度Aから巻角度Bに徐々に変化する巻角度Cに設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述した従来の方法は、円筒状のマンドレルに強化繊維を巻くため、円筒状のものしか製造することができないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するために創出されたものであって、円筒状のもの以外の中空部材を製造することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明に係る中空部材の加工方法は、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された中空部材の加工方法であって、中空部材の加工対象部分の内部に前記加工対象部分の先端から末端にかけてその径が太-細-太の順に変化する所定形状の芯材を挿入し、加工対象部分の熱可塑性樹脂が塑性変形可能になるまで加工対象部分を加熱し、加工対象部分に引っ張り応力を付与することにより、加工対象部分を所定形状に対応した形状に加工することを第1の特徴とする。
【0007】
熱可塑性樹脂が塑性変形可能になった加工対象部分に引っ張り応力を付与すると、加工対象部分は、応力が発生した方向に塑性変形し、その内部に挿入された芯材の外周面に密着し、所定形状に変形する。つまり、加工対象部分は、その内部に挿入された芯材の加工対象部分の先端から末端にかけてその径が太-細-太の順に変化する所定形状に対応した形状に加工される。
【0008】
また、本発明に係る中空部材の加工方法は、前述の第1の特徴において、中空部材は、連続強化繊維が熱可塑性樹脂と混繊されたテープ状のフィラメントを使用してフィラメントワインディング法により製造された管状の部材であり、加工対象部分の熱可塑性樹脂が塑性変形可能になるまで加工対象部分を加熱した中空部材をその軸線方向に引っ張ることにより、加工対象部分を所定形状に対応した形状に加工することを第2の特徴とする。
【0009】
中空部材をその軸線方向に引っ張ると、加工対象部分の熱可塑性樹脂には、引っ張り応力が作用するとともに、ポアソン効果による圧縮力が作用し、引っ張り方向および軸線と交差する方向に塑性変形して伸び、かつ、外径が小さくなり、その内部に挿入された芯材の外周面に密着し、所定形状に変形する。つまり、加工対象部分は、その内部に挿入された芯材の所定形状に対応した形状に加工される。
【0010】
また、本発明に係る中空部材の加工方法は、前述の第2の特徴において、芯材は、加工対象部分に挿入する部分の軸線と直交する断面形状が多角形であり、加工対象部分の軸線と直交する断面形状が多角形になるように加工することを第3の特徴とする。
【0011】
加工対象部分の軸線と直交する断面形状が多角形の中空部材を製造することができる。
【0012】
また、本発明に係る中空部材の加工方法は、前述の第1ないし第3のいずれか1つの特徴において、芯材は、加工対象部分に挿入する部分の最大径が非加工対象部分に挿入する部分の最大径よりも小さく、加工対象部分の最大径が非加工対象部分の最大径よりも小さくなるように加工することを第4の特徴とする。
【0013】
加工対象部分の最大径が非加工対象部分の最大径よりも小さい中空部材を製造することができる。
【0014】
また、本発明に係る中空部材の加工方法は、前述の第1ないし第4のいずれか1つの特徴において、芯材は、加工対象部分に挿入され、所定形状の少なくとも一部の形状に形成された第1芯材と、少なくとも一部が非加工対象部分に挿入される第2芯材と、を備えていることを第5の特徴とする。
【0015】
芯材が、加工対象部分に挿入され、所定形状の少なくとも一部の形状に形成された第1芯材と、少なくとも一部が非加工対象部分に挿入される第2芯材とに分かれているため、各芯材を個別に製造することができる。
「所定形状の少なくとも一部の形状に形成された第1芯材」とは、第1芯材が芯材の所定形状の少なくとも一部を構成する形状に形成されていても良いし、所定形状の総てを構成する形状に形成されていても良いことを意味する。
【0016】
また、本発明に係る中空部材の加工方法は、前述の第5の特徴において、第1芯材および第2芯材は、相互に着脱可能に接続されることを第6の特徴とする。
【0017】
第1芯材および第2芯材は、相互に着脱可能に接続されるため、第1芯材および第2芯材を相互に接続された状態で中空部材に挿入することができる。また、中空部材に挿入された第1芯材および第2芯材の相対的な位置関係がずれ難い。さらに、中空部材を加工した後で、第1芯材および第2芯材の相互に接続された状態を解除してから、中空部材から第1芯材および第2芯材を個別に取り出すことができる。
【0018】
また、本発明に係る中空部材は、前述の第1ないし第6のいずれか1つの特徴を有する中空部材の加工方法によって加工された中空部材であって、中空部材の軸線に対する繊維の配向角度が、非加工対象部分よりも加工対象部分の方が小さいことを特徴とする。
【0019】
中空部材は、中空部材の軸線に対する繊維の配向角度が、非加工対象部分よりも加工対象部分の方が小さいため、軸線と交差する方向に対する加工対象部分の曲げ弾性率を非加工対象部分よりも高くすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、円筒状のもの以外の中空部材を製造することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る中空部材の説明図であり、(A)は加工前の中空部材の平面図、(B)は(A)のA-A矢視断面図、(C)は加工後の中空部材の平面図、(D)は(C)のB-B矢視断面図。
【
図2】中空部材の加工対象部分を形成している連続炭素繊維の配向角度の説明図であり、(A)は加工前の連続炭素繊維の説明図、(B),(C)は加工前の連続炭素繊維の配向角度の説明図、(D)は加工後の連続炭素繊維の説明図、(E),(F)は加工後の連続炭素繊維の配向角度の説明図。
【
図3】芯材の説明図であり、(A)は芯材の平面図、(B)は(A)のC-C矢視断面図。
【
図4】芯材の説明図であり、(A)は第1芯材の斜視図、(B)は第2芯材の斜視図、(C)は(B)のD-D矢視断面図、(D)は第2芯材の左側面図、(E)は右側面図。
【
図5】芯材が中空部材に挿入された状態を示す説明図であり、(A)は加工前の説明図、(B)は加工後の説明図。
【
図6】第1実施形態に係る加工装置の平面説明図であり、(A)は中空部材を加工する前の説明図、(B)は中空部材を加工した後の説明図。
【
図7】第2実施形態の説明図であり、(A)は第1芯材および第2芯材の斜視図、(B)は(A)のE-E矢視断面図、(C)は加工された中空部材を軸線と直交する方向に切断して示す斜視図、(D)は(C)に示す中空部材の平面図、(E)は(D)に示す中空部材の右側面図。
【
図8】第3実施形態の説明図であり、(A)は第1芯材および第2芯材の斜視図、(B)は(A)のE-E矢視断面図、(C)は加工された中空部材を軸線と直交する方向に切断して示す斜視図、(D)は(C)に示す中空部材の平面図、(E)は(D)に示す中空部材の右側面図。
【
図9】実験結果を示す説明図であり、(A)は四角柱のマンドレルを用いて製造した中空部材の断面図、(B)は第2実施形態の製造方法により製造した中空部材の断面図、(C)は六角柱のマンドレルを用いて製造した中空部材の断面図、(D)は第3実施形態の製造方法により製造した中空部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〈第1実施形態〉
本発明の第1実施形態に係る中空部材の加工方法および中空部材について図を参照しつつ説明する。
[中空部材]
最初に、本実施形態の中空部材について説明する。本実施形態の中空部材は、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics:炭素繊維強化熱可塑性樹脂)により形成されている。
図1(A)に示すように、本実施形態の中空部材10は、縦断面形状が円形の円筒形状(中空パイプ状)に形成されている。中空部材10の長手方向の中央には、加工対象部分Pが設定されており、その加工対象部分Pを挟んで長手方向の両端には、非加工対象部分UPがそれぞれ設定されている。中空部材10の全長はL、外径はφ1である。本実施形態では、
図1(C),(D)に示すように、中空部材10の加工対象部分Pを、小径部11と、この小径部11の両端にそれぞれ形成されたテーパ部12とを有する形状に加工する。つまり、絞り加工する。小径部11は、加工前の加工対象部分Pの外径φ1よりも小さい外径φ2を有する円筒状に形成されている。また、各テーパ部12は、それぞれ円錐台状に形成されている。
【0023】
中空部材10は、フィラメントワインディング法(FW法)により製造した。この製造では、連続PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維が熱可塑性エポキシ樹脂繊維と混繊されたテープ状のフィラメントを使用した。連続強化繊維および熱可塑性エポキシ樹脂の体積含有率は、それぞれ50%である。フィラメントの幅は、8~10mmであり、厚さは0.2mmである。また、旭化成エンジニアリング株式会社製のフィラメントワインディング装置を使用した。フィラメントワインディングでは、加熱により、フィラメントに含まれる熱可塑性エポキシ樹脂を溶融させながら、ヘリカル巻きによりマンドレルに3層巻回し、自然冷却により熱可塑性エポキシ樹脂を固化させ、中空部材10を製造した。
【0024】
[芯材]
次に、中空部材10の加工に使用する芯材について図を参照しつつ説明する。
図5(B)に示すように、芯材20は、中空部材10の加工対象部分Pを、前述した小径部11および各テーパ部12を有する形状に加工するための形状に形成されている。本実施形態では、芯材20は、炭素鋼などの金属により形成されている。小径部11および両端の各テーパ部12が呈する形状は、本発明の「所定形状」の一例である。
図3に示すように、芯材20は、加工対象部分P(
図1)に挿入する第1芯材21と、非加工対象部分UPに挿入する1対の第2芯材22とを備えている。
図4(A)に示すように、第1芯材21は、円柱状に形成された本体部21aと、この本体部21aの長手方向の一端から本体部21aの軸線方向に突出した第1突出部21bと、本体部21aの長手方向の他端から本体部21aの軸線方向に突出した第2突出部21cとを備えている。本体部21aの形状は、中空部材10の加工対象部分Pの小径部11を形成するための部分であり、本発明の「所定形状の少なくとも一部の形状」の一例である。第1突出部21bおよび第2突出部21cは、それぞれ断面円形の棒状に形成されており、外周面には、それぞれ雄ネジが形成されている。
【0025】
第2芯材22は、円筒状に形成された本体部22aと、この本体部22aの一端に形成されたテーパ部22bと、本体部22aの他端から、本体部22aの軸線方向に突出した装着部22cとを備えている。テーパ部22bは、円錐台状に形成されており、本体部22aの軸線に直交する断面形状が円形である。テーパ部22bの外径は、本体部22aの一端から、本体部22aの軸線方向に沿って離れるにつれて小さくなっており、テーパ部22bの外周面はテーパ面を形成している。テーパ部22bは、中空部材10の加工対象部分Pのテーパ部12を形成するための部分である。
図4(C)に示すように、テーパ部22bの一端には、第1芯材21の第1突出部21bまたは第2突出部21cを挿入するための挿入口22dが開口形成されている。本体部22aの他端および装着部22cの内部には、挿入口22dから挿入された第1突出部21bまたは第2突出部21cの雄ネジと噛み合う雌ネジ22eが形成されている。装着部22cは、中空部材10の非加工対象部分UPに挿入された第2芯材22を取り出すための工具を装着する部分である。本実施形態では、装着部22cは六角ナット状に形成されている。
【0026】
図3に示すように、第1芯材21の最大径は、第2芯材22の最大径よりも小さい。
図5(A)に示すように、第1芯材21の両端に第2芯材22がそれぞれ着脱可能に接続された芯材20は、中空部材10を加工する前に、中空部材10の内部に挿入される。このとき、第1芯材21は加工対象部分Pに配置され、各第2芯材22はそれぞれ非加工対象部分UPに配置される。また、各第2芯材22の各テーパ部22bは、加工対象部分Pの範囲にそれぞれ入っている。換言すると、各第2芯材22の各テーパ部22bは、加工対象部分Pの範囲にそれぞれ挿入されており、テーパ部22bを除く本体部22aは非加工対象部分UPに挿入されている。第2芯材22のうち、テーパ部22bを除く本体部22aは、本発明の「少なくとも一部が非加工対象部分に挿入される第2芯材」における「少なくとも一部」の一例である。
そして、中空部材10の加工対象部分Pは、後述する加工方法により、
図5(B)に示すように、芯材20の外形に対応した形状に加工される。
【0027】
[加工装置]
次に、中空部材10の加工に使用する加工装置について図を参照しつつ説明する。
中空部材10は、
図6に示す加工装置30を使用して加工する。加工装置30は、中空部材10の長手方向の一端を挟持する第1挟持装置31と、第1挟持装置31が回転可能に取付けられた第1取付部33と、第1挟持装置31を回転させる第1モータ35と、中空部材10の長手方向の他端を挟持する第2挟持装置32と、第2挟持装置32が回転可能に取付けられた第2取付部34と、第2挟持装置32を回転させる第2モータ36と、第1取付部33を中空部材10の軸線方向に移動させる移動装置37と、中空部材10の加工対象部分Pを加熱する加熱装置38と、加工対象部分Pの温度を測定する温度測定装置39と、制御装置40とを備えている。
【0028】
第1挟持装置31および第2挟持装置32としては、管状部材をクランプする公知のクランプ装置やチャック装置を用いることができる。第1挟持装置31は、第1取付部33に設けられた第1モータ35の駆動により、中空部材10の軸線を回転中心にして回転する。また、第2挟持装置32は、第2取付部34に設けられた第2モータ36の駆動により、中空部材10の軸線を回転中心にして回転する。第1挟持装置31および第2挟持装置32は、中空部材10を一定の方向に回転させる。加熱装置38によって加工対象部分Pを加熱するときに、中空部材10を回転させることにより、加工対象部分Pの外周面を均一に加熱することができ、加工対象部分Pを形成している熱可塑性エポキシ樹脂を均一に塑性変形可能な状態にすることができる。
【0029】
移動装置37は、第1取付部33を
図6(A)において矢印F1にて示す方向、つまり、中空部材10の軸線方向に沿った方向へ移動(変位)させる。移動装置37には、公知のボールネジ機構などの移動機構を用いることができる。移動装置37の移動速度および移動量は、中空部材10の加工対象部分Pの形状、加工対象部分Pの長手方向の長さ、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維および熱可塑性エポキシ樹脂の体積含有率、フィラメントの幅、フィラメントの巻回数などの各種のパラメータによって変更することができる。加熱装置38は、ハロゲンヒータやカーボンヒータなど、目標温度までの到達時間が相対的に短いヒータである。温度測定装置39は、赤外線サーモグラフィカメラなど、応答性が相対的に高い非接触式の温度測定装置である。
【0030】
制御装置40は、第1モータ35、第2モータ36、移動装置37および加熱装置38などを制御する。制御装置40は、制御プログラムが記憶された記憶部(図示省略)と、この記憶部に記憶された制御プログラムに従って上記の各モータおよび装置を制御するCPU(図示省略)とを備えている。上記制御プログラムには、第1モータ35および第2モータ36の回転速度、移動装置37の移動速度および移動量などが書き換え可能にプログラムされている。
【0031】
[加工方法]
次に、中空部材10の加工方法について図を参照しつつ説明する。
先ず、CFRTPにより形成された中空部材10と、第1芯材21の両端に第2芯材22がそれぞれ着脱可能に接続された芯材20とを用意する。続いて、
図5(A)に示すように、芯材20を中空部材10に挿入する。このとき、第1芯材21は加工対象部分Pに配置され、各第2芯材22は加工対象部分Pの両端の非加工対象部分UPにそれぞれ配置される。このとき、各第2芯材22の各テーパ部22bは、加工対象部分Pにそれぞれ配置される。続いて、
図6(A)に示すように、芯材20が挿入された中空部材10の一端を第1挟持装置31に挟持し、他端を第2挟持装置32に挟持する。続いて、制御装置40に設けられたモータ回転スイッチ(図示省略)をオンし、第1モータ35および第2モータ36を駆動し、第1挟持装置31および第2挟持装置32を回転させる。つまり、中空部材10をその軸線を回転中心にして回転させる。
【0032】
続いて、制御装置40に設けられた加熱開始スイッチ(図示省略)をオンし、加熱装置38を駆動する。つまり、回転している中空部材10の加工対象部分Pの外周面を均一に加熱する。そして、加工対象部分Pの温度が目標温度に達し、加工対象部分Pを形成している熱可塑性エポキシ樹脂が塑性変形可能な状態になるまで溶融したときに、制御装置40に設けられた移動開始スイッチ(図示省略)をオンし、移動装置37を駆動(変位)し、移動装置37を矢印F1(
図6(A))にて示す方向、つまり、中空部材10をその軸線方向に引っ張る。換言すると、中空部材10の加工対象部分Pに応力を付与する。これにより、加工対象部分Pを形成している熱可塑性エポキシ樹脂の流動性が大きくなり、加工対象部分Pには、引っ張り応力が作用するとともに、ポアソン効果による圧縮力が作用し、引っ張り方向および軸線Gと交差する方向に塑性変形して伸び、かつ、外径が小さくなり、その内部に挿入された芯材20の外周面に密着し、芯材20の外形に対応した形状に変形する。つまり、加工対象部分Pは、その内部に挿入された芯材20の外形に対応した形状に加工される。換言すると、加工対象部分Pは、芯材20の外形に対応した形状に絞り加工される。
【0033】
移動装置37は、予め設定された移動量に達したときに自動的に停止する。また、中空部材10の加工対象部分Pが変形する様子を目視し、加工対象部分Pが所望の形状に変形したときに手動で停止させることもできる。また、加熱装置38は、移動装置37が停止したときに駆動停止する。加工された中空部材10は、所定時間、自然冷却した後に、第1挟持装置31および第2挟持装置から取り外す。そして、第2芯材22の装着部22cに装着する工具(図示省略)を中空部材10の一端から挿入し、一方の第2芯材22を回転させ、第2芯材22を第1芯材21から取り外し、中空部材10の一端から取り出す。他方の第2芯材22は、第1芯材21に締結された状態で中空部材10の他端から取り出す。なお、芯材20が第1芯材21および第2芯材22を一体化したものである場合は、第2芯材22の外径が小径部11の外径よりも大きいため、中空部材10から取り出すことができない。
【0034】
図5(B)に示すように、加工された中空部材10の加工対象部分Pは、芯材20の外形に対応した形状に加工され、加工対象部分Pの外径が加工前よりも小さくなる。また、
図2(B),(C)に示すように、加工前は、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維Sの中空部材10の軸線Gに対する配向角度がθ1および(-θ1)であったが、加工後は、
図2(E),(F)に示すように、θ1よりも小さいθ2および(-θ2)に変化している。このように、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維Sの中空部材10の軸線Gに対する配向角度が小さくなった分、軸線Gと交差する方向に対する加工対象部分Pの曲げ弾性率が、加工前よりも高くなっている。また、連続炭素繊維Sの中空部材10の軸線Gに対する配向角度は、加工対象部分Pの方が非加工対象部分UPよりも小さいため、加工対象部分Pの上記曲げ弾性率を非加工対象部分UPよりも高くすることができる。
また、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維Sの軸線に対する配向角度が小さくなった分、中空部材10が軸線Gの方向に伸び、全長Lが2ΔL(=ΔL×2)分長くなる。
【0035】
[第1実施形態の効果]
(1)上述した第1実施形態によれば、加工対象部分Pを形成している熱可塑性エポキシ樹脂が塑性変形可能になるまで加熱された中空部材10をその軸線方向に引っ張ることにより、加工対象部分Pには、引っ張り応力が作用するとともに、ポアソン効果による圧縮力が作用し、引っ張り方向および軸線Gと交差する方向に塑性変形して伸び、かつ、外径が小さくなり、その内部に挿入された芯材20の外周面に密着し、芯材20の外形に対応した形状に変形する。つまり、加工対象部分Pを、その内部に挿入された芯材20の外形に対応した形状に加工することができる。
【0036】
(2)また、前述した第1実施形態によれば、加工対象部分Pの軸線Gと直交する断面形状が多角形の中空部材10を製造することができる。
(3)さらに、前述した第1実施形態によれば、加工対象部分Pの最大径が非加工対象部分UPの最大径よりも小さい中空部材10を製造することができる。
【0037】
(4)さらに、前述した第1実施形態によれば、芯材20が、加工対象部分Pに挿入され、所定形状の少なくとも一部の形状に形成された第1芯材21と、少なくとも一部が非加工対象部分UPに挿入される第2芯材22とに分かれているため、各芯材を個別に製造することができる。
【0038】
(5)さらに、前述した第1実施形態によれば、第1芯材21および第2芯材22は、相互に着脱可能に接続されるため、第1芯材21および第2芯材22を相互に接続された状態で中空部材10に挿入することができる。また、中空部材10に挿入された第1芯材21および第2芯材22の相対的な位置関係がずれ難い。さらに、中空部材10を加工した後で、第1芯材21および第2芯材22の相互に接続された状態を解除してから、中空部材10から第1芯材21および第2芯材22を個別に取り出すことができる。
【0039】
(6)さらに、前述した第1実施形態によれば、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維Sの中空部材10の軸線Gに対する配向角度が小さくなるため、軸線Gと交差する方向に対する加工対象部分Pの曲げ弾性率を加工前よりも高くすることができる。また、加工対象部分Pが加工された中空部材10は、中空部材10の軸線Gに対する連続炭素繊維Sの配向角度が、非加工対象部分UPよりも加工対象部分Pの方が小さいため、加工対象部分Pの上記曲げ弾性率を非加工対象部分UPよりも高くすることができる。
【0040】
(7)前述した第1実施形態によれば、中空部材10を、加工前の中空部材10よりも小径に形成された小径部11と、この小径部11の両端にそれぞれ形成されたテーパ部12とを有する形状に加工することができる。つまり、前述した第1実施形態によれば、円筒状のもの以外の中空部材10を製造することができる技術を提供することができる。
さらに、前述した第1実施形態によれば、円筒状の中空部材10を円筒状以外の形状に加工することができるため、中空部材10の意匠性を高めることもできる。
(8)連続PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維に混繊する材料として熱可塑性エポキシ樹脂繊維を使用するため、中空部材を加熱したときに中空部材の表面に焼けが発生し難いので、美的外観に優れた中空部材を製造することができる。
【0041】
〈第2実施形態〉
次に、本発明の第2実施形態について図を参照しつつ説明する。
図7に示すように、本実施形態において使用する芯材50は、加工対象部分P(
図1)に挿入する第1芯材51と、少なくとも一部を非加工対象部分UPに挿入する1対の第2芯材52とを備えている。図では、一方の第2芯材52のみを示している。第1芯材51は、四角柱状に形成された本体部51aと、この本体部51aの長手方向の一端から、本体部51aの軸線方向に突出した第1突出部51bと、本体部51aの長手方向の他端から、本体部51aの軸線方向に突出した第2突出部51cとを備えている。本体部51aの形状は、中空部材60の加工対象部分Pを小径部61(
図7(C))に加工するための部分であり、本発明の「所定形状の少なくとも一部の形状」の一例である。第1突出部51bおよび第2突出部51cは、それぞれ断面円形の棒状に形成されており、外周面には、それぞれ雄ネジが形成されている。
【0042】
第2芯材52は、円筒状に形成された本体部52aと、この本体部52aの一端に形成されたテーパ部52bと、本体部52aの他端から、本体部52aの軸線方向に突出した装着部52cとを備えている。テーパ部52bは、四角錐台状に形成されており、本体部52aの軸線に直交する断面形状が四角形である。テーパ部52bの外径は、本体部52aの一端から、本体部52aの軸線方向に沿って離れるにつれて小さくなっており、テーパ部52bの外周面は4つのテーパ面から構成されている。テーパ部52bは、中空部材60の加工対象部分Pをテーパ部62(
図7(C))に加工するための部分である。
テーパ部52bの一端には、第1芯材51の第1突出部51bまたは第2突出部51cを挿入するための挿入口(図示省略)が開口形成されている。本体部52aの他端および装着部52cの内部には、上記挿入口から挿入された第1突出部51bまたは第2突出部51cの雄ネジと噛み合う雌ネジ(図示省略)が形成されている。装着部52cは、中空部材60の非加工対象部分UPに挿入された第2芯材52を取り出すための工具を装着する部分である。本実施形態では、装着部52cは六角ナット状に形成されている。
【0043】
第1芯材51の最大径は、第2芯材52の最大径よりも小さい。中空部材60を加工する前に、第1芯材51の両端に第2芯材52をそれぞれ接続して構成した芯材50を中空部材60に挿入する。そして、第1実施形態において説明した加工装置30(
図6)に中空部材60をセットし、第1実施形態において説明した加工方法により、中空部材60の加工対象部分Pを加工する。
これにより、
図7(C)~(E)に示すように、中空部材60の加工対象部分Pが芯材50の外形に対応した形状に加工される。
図6(C)は加工された中空部材60をその軸線と直交する方向に切断して示す斜視図である。
【0044】
加工された中空部材60の加工対象部分Pは、芯材50の外形に対応した形状に加工され、加工対象部分Pの外径が加工前よりも小さくなる。また、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維の中空部材60の軸線Gに対する配向角度が小さくなった分、軸線Gと交差する方向に対する加工対象部分Pの曲げ弾性率が、加工前よりも高くなっている。また、連続炭素繊維の中空部材60の軸線Gに対する配向角度は、加工対象部分Pの方が非加工対象部分UPよりも小さいため、加工対象部分Pの上記曲げ弾性率を非加工対象部分UPよりも高くすることができる。
【0045】
上述したように、第2実施形態によれば、中空部材60を、加工前の中空部材60よりも小径に形成されており、かつ、軸線Gと直交する断面形状が四角形に形成された小径部61と、この小径部61の両端にそれぞれ形成されたテーパ部62とを有する形状に加工することができる。つまり、前述した第2実施形態によれば、円筒状のもの以外の中空部材60を製造することができる技術を提供することができる。さらに、前述した第2実施形態によれば、円筒状の中空部材60を円筒状以外の形状に加工することができるため、中空部材60の意匠性を高めることもできる。
【0046】
〈第3実施形態〉
次に、本発明の第3実施形態について図を参照しつつ説明する。
図8に示すように、本実施形態において使用する芯材70は、加工対象部分P(
図1)に挿入する第1芯材71と、少なくとも一部を非加工対象部分UPに挿入する1対の第2芯材72とを備えている。図では、一方の第2芯材72のみを示している。第1芯材71は、六角柱状に形成された本体部71aと、この本体部71aの長手方向の一端から、本体部71aの軸線方向に突出した第1突出部71bと、本体部71aの長手方向の他端から、本体部71aの軸線方向に突出した第2突出部71cとを備えている。本体部71aの形状は、中空部材80の加工対象部分Pを小径部81(
図8(C))に加工するための部分であり、本発明の「所定形状の少なくとも一部の形状」の一例である。第1突出部71bおよび第2突出部71cは、それぞれ断面円形の棒状に形成されており、外周面には、それぞれ雄ネジが形成されている。
【0047】
第2芯材72は、円筒状に形成された本体部72aと、この本体部72aの一端に形成されたテーパ部72bと、本体部72aの他端から、本体部72aの軸線方向に突出した装着部72cとを備えている。テーパ部72bは、六角錐台状に形成されており、本体部72aの軸線に直交する断面形状が六角形である。テーパ部72bの外径は、本体部72aの一端から、本体部72aの軸線方向に沿って離れるにつれて小さくなっており、テーパ部72bの外周面は6つのテーパ面から構成されている。テーパ部72bは、中空部材80の加工対象部分Pをテーパ部82(
図8(C))に加工するための部分である。
テーパ部72bの一端には、第1芯材71の第1突出部71bまたは第2突出部71cを挿入するための挿入口(図示省略)が開口形成されている。本体部72aの他端および装着部72cの内部には、上記挿入口から挿入された第1突出部71bまたは第2突出部71cの雄ネジと噛み合う雌ネジ(図示省略)が形成されている。装着部72cは、中空部材80の非加工対象部分UPに挿入された第2芯材72を取り出すための工具を装着する部分である。本実施形態では、装着部72cは六角ナット状に形成されている。
【0048】
第1芯材71の最大径は、第2芯材72の最大径よりも小さい。中空部材80を加工する前に、第1芯材71の両端に第2芯材72をそれぞれ接続して構成した芯材70を中空部材80に挿入する。そして、第1実施形態において説明した加工装置30(
図6)に中空部材80をセットし、第1実施形態において説明した加工方法により、中空部材80の加工対象部分Pを加工する。
これにより、
図8(C)~(E)に示すように、中空部材80の加工対象部分Pが芯材70の外形に対応した形状に加工される。
図8(C)は加工された中空部材80をその軸線と直交する方向に切断して示す斜視図である。
【0049】
加工された中空部材80の加工対象部分Pは、芯材70の外形に対応した形状に加工され、加工対象部分Pの外径が加工前よりも小さくなる。また、加工対象部分Pを形成している連続炭素繊維の中空部材80の軸線Gに対する配向角度が小さくなった分、軸線Gと交差する方向に対する加工対象部分Pの曲げ弾性率が、加工前よりも高くなっている。また、連続炭素繊維の中空部材80の軸線Gに対する配向角度は、加工対象部分Pの方が非加工対象部分UPよりも小さいため、加工対象部分Pの上記曲げ弾性率を非加工対象部分UPよりも高くすることができる。
【0050】
上述したように、第3実施形態によれば、中空部材80を、加工前の中空部材80よりも小径に形成されており、かつ、軸線Gと直交する断面形状が六角形に形成された小径部81と、この小径部81の両端にそれぞれ形成されたテーパ部82とを有する形状に加工することができる。つまり、前述した第3実施形態によれば、円筒状のもの以外の中空部材10を製造することができる技術を提供することができる。さらに、前述した第3実施形態によれば、円筒状の中空部材80を円筒状以外の形状に加工することができるため、中空部材80の意匠性を高めることもできる。
【0051】
〈実験〉
次に、本願発明者らが行った実験について説明する。
本願発明者らは、多角形の中空部材を製造した場合の中空部材の肉厚を調べる実験を行った。この実験では、多角形のマンドレルに前述したフィラメントを巻回して製造した中空部材と、本発明の実施形態に係る加工方法により加工した中空部材とを比較した。また、中空部材をX線CT装置によって撮影し、中空部材の高精度のX線断面画像を取得した。
図9に示す各図は、取得したX線断面画像に基づいて描いたものである。
この実験の結果を
図10に示す。
図10において、試料名「四角マンドレル」は、四角柱のマンドレルに前述したフィラメントを巻回して製造した中空部材を示し、試料名「六角マンドレル」は、六角柱のマンドレルに前述したフィラメントを巻回して製造した中空部位を示す。試料名「FW法パイプ絞り(四角)」は、本発明の実施形態に係る加工方法であってFW法(フィラメントワインディング法)により製造した断面四角形の中空部材を示し、試料名「FW法パイプ絞り(六角)」は、本発明の実施形態に係る加工方法であってFW法(フィラメントワインディング法)により製造した断面六角形の中空部材を示す。試料名「SW法パイプ絞り(四角)」は、本発明の実施形態に係る加工方法であってSW法(シートワインディング法)により製造した断面四角形の中空部材を示す。
また、各中空部材の直線部D1(
図9)における肉厚の最大値を各直線部D1ごとに測定し、その平均値を直線部最大肉厚Tmaxとした。また、各中空部材の角部D2(
図9)における肉厚を各角部D2ごとに測定し、その平均値を角部肉厚Tcとした。
また、肉厚の均一性を比較するため、角部肉厚Tcの直線部最大肉厚Tmaxに対する比をTu(=Tc/Tmax)として算出した。Tuが1に近いほど、角部肉厚Tcと直線部最大肉厚Tmaxとの差が小さく、中空部材の全周に亘って肉厚の均一性が高いことを表している。なお、SW法(シートワインディング法)とは、炭素繊維に樹脂が含侵されたプリプレグと呼ばれるシート状の材料をマンドレルに巻回して中空部材を製造する方法のことである。
【0052】
図9(A)は、四角柱のマンドレルに前述したフィラメントを巻回して製造した中空部材90の断面を示す。図示のように、中空部材90の角部D2の肉厚が、4辺を形成する直線部D1の肉厚よりも薄くなっている。この要因としては、フィラメントをマンドレルに巻回するときに、マンドレルに掛かるフィラメントのテンションが、直線部よりも角部の方が大きくなり、角部に巻回されるフィラメントがマンドレルの軸線方向に圧縮されるため、角部の肉厚が薄くなることが考えられる。
図10に示すように、中空部材90である「四角マンドレル」のTuは0.51であり、角部肉厚Tcが直線部最大肉厚Tmaxの約1/2になっており、肉厚の均一性に劣ることが分かった。
図9(B)は、前述した第2実施形態の加工方法により製造した中空部材の小径部61の断面を示す。図示のように、小径部61の角部D2の肉厚は、4辺を形成する直線部D1の肉厚と略等しくなっている。
図10に示すように、小径部61である「FW法パイプ絞り(四角)」のTuは0.74であり、「四角マンドレル」よりも、肉厚の均一性が格段と向上していることが分かった。 つまり、本発明の第2実施形態のように、四角柱状に形成された本体部51aを有する芯材50(
図7(A))を使用し、中空部材を塑性変形可能な状態で軸線方向に引っ張ることにより、加工対象部分Pの断面形状が四角形で肉厚が均一な中空部材を製造することができる。
また、
図10に示すように、「SW法パイプ絞り(四角)」のTuは0.74であり、「四角マンドレル」よりも、肉厚の均一性が格段と向上していることが分かった。
つまり、本発明の中空部材の加工方法によれば、FW法(フィラメントワインディング法)およびSW法(シートワインディング法)のいずれを用いた場合であっても、加工対象部分Pの断面形状が四角形で肉厚が均一な中空部材を製造することができることが分かった。
【0053】
図9(C)は、六角柱のマンドレルに前述したフィラメントを巻回して製造した中空部材91の断面を示す。図示のように、中空部材91の角部D2の肉厚が、6辺を形成する直線部D1の肉厚よりも薄くなっている。また、直線部D1の肉厚が円弧状に形成されており、角部が形成されず、全体が円形になっている。この要因としては、フィラメントをマンドレルに巻回するときに、マンドレルに掛かるフィラメントのテンションが、直線部よりも角部の方が大きくなり、角部に巻回されるフィラメントがマンドレルの軸線方向に圧縮されるため、角部の肉厚が薄くなることが考えられる。
図10に示すように、中空部材91である「六角マンドレル」のTuは0.52であり、角部肉厚Tcが直線部最大肉厚Tmaxの約1/2になっており、肉厚の均一性に劣ることが分かった。
図9(D)は、前述した第3実施形態の加工方法により製造した中空部材の小径部81の断面を示す。図示のように、小径部81の角部D2の肉厚は、6辺を形成する直線部D1の肉厚と略等しくなっている。
図10に示すように、小径部81である「FW法パイプ絞り(六角)」のTuは0.90であり、「六角マンドレル」よりも、肉厚の均一性が格段と向上していることが分かった。
つまり、本発明の第3実施形態のように、六角柱状に形成された本体部71aを有する芯材70(
図8(A))を使用し、中空部材を塑性変形可能な状態で軸線方向に引っ張ることにより、加工対象部分Pの断面形状が六角形で肉厚の均一性の高い中空部材を製造することができる。
上述したように、本発明の実施形態に係る中空部材の加工方法によれば、肉厚の均一性の高い中空部材を製造することができる。
【0054】
〈他の実施形態〉
(1)第2取付部34を中空部材の軸線方向に移動させる移動装置を加工装置30(
図6)に備え、中空部材の両端を軸線方向に引っ張ることにより、加工対象部分Pを芯材の外形に対応した形状に加工することもできる。
【0055】
(2)第1芯材の中空部材の軸線と直交する断面形状は、前述した円形、四角形、六角形の他、五角形、八角形などの多角形、あるいは、楕円形、扁平な楕円形でも良い。
(3)長手方向の両端にテーパ部がそれぞれ形成された第1芯材と、テーパ部が形成されていない第2芯材とを組み合わせた芯材を使用することもできる。
【0056】
(4)アルミニウムやシリコンなどの耐熱性材料により形成されたバルーンを芯材に用いることもできる。このバルーンを使用する場合は、加工対象部分Pが塑性変形可能な状態になったときに、エアコンプレッサから、中空部材に挿入されたバルーンに圧縮空気を送出してバルーンを所定形状に膨らませる。そして、加工終了後にバルーンの空気を抜き、バルーンを中空部材から取り出す。この加工方法を用いる場合、加工前の加工対象部分Pの最大径よりも大きい最大径に膨らむバルーンを加工対象部分Pに挿入し、加工対象部分Pが塑性変形可能になったときにバルーンを膨らませ、加工対象部分Pを加工前の最大径よりも大きい最大径を有する形状に加工することもできる。
また、膨らんだときに外面に凹凸が形成されるバルーンを使用し、加工対象部分Pの外面に凹凸を形成することもできる。形成する凹凸は、何らかの部材を係止したり、何らかの部材を嵌合したりする機能を有するものでも良いし、模様を形成するものでも良い。模様を形成する凹凸を使用する場合は、中空部材の意匠性を高めることができる。このように、バルーンを使用すれば、加工後にバルーンの空気を抜くことにより、バルーンを中空部材から容易に取り出すことができる。
【0057】
(5)押圧面に所定の模様が形成された押圧部材(例えば、金型)と、この押圧部材を進退させる進退装置とを加工装置30に備え、塑性変形可能になった加工対象部分Pを上記の押圧部材によって押圧し、加工対象部分Pの外面に上記所定の模様を形成することもできる。また、上記の押圧部材を複数設け、加工対象部分Pの複数個所に同じ模様または異なる模様を形成することもできる。この場合、複数の押圧部材は、それぞれ加工対象部分Pの外周面と対向させて任意の位置に配置することができる。例えば、加工対象部分Pの外周面の形状に対応した凹状の押圧面を有する一対の押圧部材を相対向して設け、各押圧部材の各押圧面によって加工対象部分Pの外周面を挟持することにより、その外周面に模様を形成することもできる。
(6)連続PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維がポリアミド樹脂繊維と混繊されたフィラメントを使用することもできる。
(7)PAN系炭素繊維に代えてピッチ系炭素繊維を用いることもできる。
(8)熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ABS、PES、PEEK、ポリイミド、PMMAなどを用いることもできる。
(9)炭素繊維に代えてガラス繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、フッ素繊維、鉱物繊維などを用いることもできる。
(10)フィラメントワインディング法(FW法)に代えて、シートワインディング法またはブレーディング法により中空部材を製造することもできる。
【符号の説明】
【0058】
10,60,80 中空部材
11,61,81 小径部
12,62,82 テーパ部
20,50,70 芯材
21,51,71 第1芯材
22,52,72 第2芯材
30 加工装置
37 移動装置
38 加熱装置
G 軸線
P 加工対象部分
UP 非加工対象部分
S 連続炭素繊維
θ1,θ2 配向角度