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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】ブタサーコウイルス2型VLPワクチン
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240708BHJP
   C07K 14/315 20060101ALI20240708BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20240708BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240708BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240708BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240708BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/315
C07K14/01
C12N7/01
C12P21/02 C
C12N15/34
A61K39/12
A61P31/20
A61K38/16
A61K47/68
C12N15/62 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021540647
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024491
(87)【国際公開番号】W WO2021033420
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019150494
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512272948
【氏名又は名称】株式会社ジェクタス・イノベーターズ
(73)【特許権者】
【識別番号】322003710
【氏名又は名称】明治アニマルヘルス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】新川 武
(72)【発明者】
【氏名】玉城 志博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山田 陣也
(72)【発明者】
【氏名】平良 望
(72)【発明者】
【氏名】上藤 洋敬
(72)【発明者】
【氏名】與那嶺 育子
(72)【発明者】
【氏名】原國 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山口 類
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504047(JP,A)
【文献】特表2019-507784(JP,A)
【文献】LI, Yangyang, et al.,Virology Journal,2020年06月09日,Vol. 17, No. 72,pp. 1-9
【文献】KIM, Hyun Jin, et al.,Biotechnology and Bioengineering,2015年09月04日,Vol. 113, No. 2,pp. 268-274
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
C12N 15/62
C07K 14/315
C07K 14/01
C12N 7/01
C12P 21/02
C12N 15/34
A61K 39/12
A61K 38/16
A61K 47/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有し、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインを含む融合タンパク質。
【請求項2】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有し、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、前記カプシドタンパク質のC末端に結合している融合タンパク質。
【請求項3】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有し、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインが2個連結した構造を有する融合タンパク質。
【請求項4】
前記カプシドタンパク質と前記免疫グロブリン結合ドメインとが、リンカーを介して結合している、請求項1~のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の融合タンパク質により形成されている、ウイルス様粒子。
【請求項6】
請求項に記載のウイルス様粒子を含むワクチン。
【請求項7】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質の製造方法であって、
前記ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、
前記発現ベクターを大腸菌に導入し、前記融合タンパク質を発現させる工程、を含み、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインを含む製造方法。
【請求項8】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質の製造方法であって、
前記ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、
前記発現ベクターを大腸菌に導入し、前記融合タンパク質を発現させる工程、を含み、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、前記カプシドタンパク質のC末端に結合している製造方法。
【請求項9】
ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質の製造方法であって、
前記ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、
前記発現ベクターを大腸菌に導入し、前記融合タンパク質を発現させる工程、を含み、
前記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインが2個連結した構造を有する製造方法。
【請求項10】
前記カプシドタンパク質と前記免疫グロブリン結合ドメインとが、リンカーを介して結合している、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質、当該融合タンパク質を含むウイルス様粒子(VLP:virus-like particles)、および当該VLPを含むワクチンに関する。本発明はまた、上記融合タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタサーコウイルス2型(PCV2:porcine circovirus 2)は、ブタに感染すると免疫不全を誘発し、他の感染症への感受性を高めるため、PCV2感染症対策は養豚農家にとって重要である。PCV2に感染したブタは、ブタサーコウイルス関連疾患(PCVAD:porcine circovirus associated diseases)を発症するが、その主要な症状である離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS:postweaning multisystemic wasting syndrome)は、5~6週齢のブタに好発し、臨床的には削痩、皮膚の蒼白、発育不全、呼吸困難、下痢および黄疸を特徴とする(非特許文献2)。PCV2は、この原因ウイルスとして、カナダ西部のPMWSを発症するブタから初めて分離された(非特許文献3)。
【0003】
PCV2は、一本鎖環状DNAをゲノムに持つ直径約20nmのノンエンベロープウイルスである。PCV2は、3つのオープンリーディングフレーム(ORFs(open reading frames):ORF1、ORF2、ORF3)を有し、ORF2がカプシドタンパク質(Cap(capsid protein))をコードしている。Capは、当該単量体60個が会合し、正二十面体の多量体分子として、ウイルス様粒子を形成することが知られている(非特許文献1)。VLPはウイルスゲノムDNAを含まないため増殖できず、PCV2の感染予防のためのワクチンに適用することができる。
【0004】
PCV2の感染予防のためのワクチンとしては、PCV2不活化ワクチン「サーコバック(登録商標)」やPCV1/PCV2キメラウイルス不活化ワクチン「スバキシン(登録商標)PCV2」が上市されている。また、これらの不活化ワクチン以外にも、遺伝子組換えバキュロウイルス・昆虫細胞発現系でCapを産生したVLPワクチン「ポーシリス(登録商標)PCV」(非特許文献4)および「インゲルバックサーコフレックス(登録商標)」(特許文献1)等が実用化されている。
【0005】
さらに、発現系として、ピキア酵母(Pichia pastoris)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)および大腸菌(Escherichia coli)等を用いて、PCV2のCapを産生する試みが行われている(非特許文献1、5~13)。
【0006】
ところで、非特許文献16には、免疫グロブリン結合ドメイン(IBD:immunoglobulin-binding domain)について、これと融合した抗原が、リンパ濾胞へ効率よく運搬され、当該抗原の免疫原性が向上したことが報告されている。
【0007】
また、非特許文献17には、IBDとして、Zドメインが記載されている。Zドメインは、黄色ブドウ球菌のプロテインA由来のIBDであり、3-ヘリックスバンドル(three-helix bundle)と呼ばれる3本のα-ヘリックスが折畳まれて束(bundled)になったタンパク質立体構造を有する。なお、プロテインAは、黄色ブドウ球菌の病原因子のひとつであり、菌体外膜上に存在する42kDaのタンパク質である。また、プロテインAは、一次配列的に類似性の高い5つのIBDs(E、D、A、BおよびCドメイン)を有する。なお、Zドメインは、Bドメインに2ヶ所のアミノ酸置換を導入して作製された人工的な配列である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国公開特許公報「特表2008-526212号公報」
【非特許文献】
【0009】
【文献】Khayat R. et al., J. Virol. 2011, 85, 7856-7862
【文献】Harding J.C.S. et al., Swine Health Prod. 1997, 5, 201-203
【文献】Ellis J. et al., Can. Vet. J. 1998, 39, 44-51
【文献】Liu L.-J. et al., Arch. Virol. 2008, 153, 2291-2295
【文献】Tu Y. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 2013, 97, 2867-2875
【文献】Zaveckas M. et al., J. Chromatogr. B 2015, 991, 21-28
【文献】Marcekova Z. et al., J. Virol. Methods 2009, 162, 133-141
【文献】Liu Q. et al., Protein Expr. Purif. 2001, 21, 115-120
【文献】Yin S. et al., Virol. J. 2010, 7, 166
【文献】Wu PC et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 2012, 95, 1501-1507
【文献】Wu PC et al., J. Biotechnol. 2016, 220, 78-85
【文献】Zhang Y. et al., Arch. Virol. 2016, 161, 1485-1491
【文献】Xi X. et al., J. Biotechnol. 2016, 223, 8-12
【文献】Wang N. et al., J. Virol. Methods 2017, 243, 146-150
【文献】Burroughs A.M. et al., Biol. Direct 2007, 2, 18
【文献】Miyata T. et al., Infect. Immun. 2011, 79, 4260-4275
【文献】Bjorn N. et al., Protein Eng. 1987, 1, 107-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、PCV2の感染予防薬として、幾つかのワクチンが既に上市されているが、PCV2は、培養細胞に感染させても高いウイルス力価を得ることが難しいとの問題がある。
【0011】
また、PCV2のCapを産生するための発現系として、遺伝子組換えバキュロウイルス・昆虫細胞発現系を用いた場合は、コスト面および作業的な煩雑さにおいて課題がある。加えて、当該発現系で産生されたCapから形成されるVLPは、物理化学的負荷に対する分子安定性においても課題があり、長期にわたって安定的に保存することが困難であるとの問題がある。
【0012】
さらに、PCV2のCapを産生するための発現系として、大腸菌発現系を用いた場合、発現タンパク質は、不溶性凝集体(封入体:inclusion bodies)となって菌体内に蓄積されるため、VLPが大腸菌細胞質内で自発的に再構築(自然会合)され、可溶性のVLPタンパク質として回収されたという例は報告されていない。
【0013】
したがって、さらなるPCV2ワクチンの開発が求められている。
【0014】
本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、畜産分野で用いるワクチンとして利用可能であり、且つ、物理化学的負荷に対する高い分子安定性を有するPCV2のVLPおよびその利用技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、(i)PCV2のCapとIBDとの融合タンパク質(Cap-IBD融合タンパク質)が、大腸菌発現宿主の細胞質内で自然会合して、インビトロでの人工的会合工程を経ることなくVLPを形成し得ること、(ii)このようにして形成されたVLPが、加熱処理や長期間の低温・冷凍保存等の物理化学的負荷に対する分子安定性を有すること、(iii)得られたVLPがワクチンとして使用し得ること、等の新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明の一態様は、ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質に関する。
【0017】
また、本発明の別の一態様は、ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質の製造方法であって、上記ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、上記発現ベクターを大腸菌に導入し、上記融合タンパク質を発現させる工程、を含む、製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、畜産分野で用いるワクチンとして利用可能であり、且つ、物理化学的負荷に対する高い分子安定性を有するPCV2のVLPおよびその利用技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】PCV2のCapからのVLP形成における従来技術の問題点および本発明の特徴点を説明する概念図である。
図2】可溶化促進タグ(SUMO)およびIBDs(SpGB、PpLB、Z)のタンパク質構造、並びに、β-graspフォールド構造および3-ヘリックスバンドル構造の模式図である。
図3】実施例で回収された融合タンパク質における、CapおよびIBDs(SpGB1-B2、PpLB1-B2、ZZ)または可溶化促進タグ(SUMO)の配置を示す模式図である。
図4】PCV2 Cap-SpGB1-B2のVLPの電子顕微鏡写真である。
図5】PCV2 Cap-PpLB1-B2のVLPの電子顕微鏡写真である。
図6】PCV2 Cap-ZZのVLPの電子顕微鏡写真である。
図7】PCV2 Cap-SUMOのVLPの電子顕微鏡写真である。
図8】PCV2 Cap-ZZのVLPについての、加熱処理前後のゲルろ過クロマトグラフィーの解析結果を示すクロマトグラムである。
図9】PCV2 Cap-ZZのVLP表層からZZを乖離させた後のVLPについての、加熱処理前後のゲルろ過クロマトグラフィーの解析結果を示すクロマトグラムである。
図10】PBS溶液中4℃で1年間保存した後の、PCV2 Cap-ZZのVLPの電子顕微鏡写真である。
図11】PBS溶液中-30℃で1年間保存した後の、PCV2 Cap-ZZのVLPの電子顕微鏡写真である。
図12】PBS溶液中-80℃で1年間保存した後の、PCV2 Cap-ZZのVLPの電子顕微鏡写真である。
図13】血清中のウイルスコピー数測定結果を示すグラフである。
図14】リンパ節中のウイルスコピー数測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔従来技術の問題点と本発明の概要〕
上述の通り、PCV2ワクチンに関する従来技術には、種々の問題がある。
【0021】
例えば、非特許文献14において報告されているように、大腸菌発現系を用いた場合は、当該発現系で産生されたCapから形成されるVLPが物理化学的負荷に対して分子が不安定になるという問題がある。当該文献によれば、PCV2 CapのVLPを、PBS溶液中で4℃保存したところ、僅か1ヶ月すらその粒子形状を維持できず、長期間保存のためには、15%トレハロース等を含む複数の化合物を混合した特殊な溶液を使用する必要がある。
【0022】
また、非特許文献5に記載されるピキア酵母発現系では、産生されるCapからVLPを形成したという証拠はない。また、非特許文献6に記載される出芽酵母発現系では、産生されるCapから形成されるVLPは、その形状に歪みがある。
【0023】
さらに、非特許文献1、7~13に記載される大腸菌発現系は、コスト面および作業的な簡便性の面において魅力があるが、VLPのような構造的に複雑な多量体分子の発現には、未だに多くの課題がある。
【0024】
具体的には、大腸菌発現系で発現された異種タンパク質は、その大部分が不溶性凝集体(封入体:inclusion bodies)となって菌体内に蓄積されることが多い。そして、封入体となった異種タンパク質は、天然の立体構造をとっていないため、そのほとんどは、効果的なワクチンとして機能しない。封入体となった異種タンパク質を天然の立体構造に巻き戻す方法としては、リフォールディング法が知られており、上述の幾つかの大腸菌発現系においても、封入体から回収したPCV2のCapをグアニジン塩酸塩等の変性剤で可溶化し、透析法等によってリフォールディングすることが試みられている。
【0025】
一方、異種タンパク質を可溶性タンパク質として発現させる方法として、目的タンパク質に可溶化促進タグを融合する方法が一般的に用いられている。このような可溶化促進タグとしては、GST(glutathione S-transferase)およびMBP(maltose-binding protein)、並びに、β-graspフォールド構造(1本のα-ヘリックスが1つのβ-シートに握られた(grasped)ようなタンパク質構造)を有するSUMO(small ubiquitin-like modifier)(非特許文献15)等が知られている。これらの可溶化促進タグを、主に目的タンパク質のN末端に融合させて発現させると、大腸菌発現宿主の可溶性画分から、当該融合タンパク質を回収し得る場合がある。上述の幾つかの大腸菌発現系においても、PCV2のCapのN末端に可溶化促進タグを融合させて、可溶性タンパク質として回収することが試みられている。しかしながら、回収した可溶性Capから、ワクチンとして機能し得るVLPを形成するには、多くの問題がある。
【0026】
例えば、非特許文献1に記載される大腸菌発現系では、可溶性タンパク質として発現させたPCV2のCapから、VLPを形成するために、ニッケルアフィニティー精製やそれに続くインビトロでのバッファー交換等の煩雑な作業工程が必要である。
【0027】
また、非特許文献7に記載される大腸菌発現系では、同じく、可溶性タンパク質としてPCV2のCapを発現させているが、得られたCapにイオン交換クロマトグラフィー等の後処理を施しても、VLPの形成には至っていない。
【0028】
非特許文献8に記載される大腸菌発現系では、PCV2のCapのN末端に、可溶化促進タグとしてGSTまたはMBPを融合させている。しかしながら、GST-Cap融合タンパク質は、分解産物としてしか検出されていない。また、MBP-Cap融合タンパク質は、可溶性タンパク質として発現したが、その後のアフィニティー精製工程を経ても、インビトロでのVLP形成には至っていない。
【0029】
非特許文献9に記載される大腸菌発現系では、PCV2のCapのN末端に、可溶化促進タグとしてSUMOを融合させている。その結果、可溶性のSUMO-Cap融合タンパク質が発現したが、この融合タンパク質は、自然(自己)会合によってはVLPを形成しなかった。そこで、SUMOプロテアーゼによってSUMOタグを切断・除去し、得られたCapに透析処理等の煩雑な後処理を施して、インビトロでVLPを形成することを試みている。しかしながら、形成されたVLPは、天然のPCV2粒子とは形態的に異なり、粒子形状の歪み、および、粒子径の不均一性等の問題を有するものである。
【0030】
非特許文献10および11に記載される大腸菌発現系では、融合タグ等を一切含まない天然のCap配列のみを利用して、VLP形成を試みている。しかしながら、得られるVLPは極めて少量であり、また、ショ糖密度勾配遠心法(非特許文献10)や、ゲルろ過クロマトグラフィー法(非特許文献11)等の精製処理等が必要である。また、形成されたVLPは、非特許文献9のVLPと同様に、形態的に問題を有するものである。
【0031】
非特許文献12に記載される大腸菌発現系においても、発現させた可溶性CapからのVLP形成が試みられているが、上記と同様に、種々の煩雑な作業工程が必要である。
【0032】
非特許文献13に記載される大腸菌発現系は、特定の遺伝子型PCV2のみに限定された方法であり、また、発現させた可溶性Capから、インビトロでのVLP形成を促進するためには、バッファー交換等の作業工程が必須である。
【0033】
すなわち、上述の非特許文献1および7~13の大腸菌発現系は、可溶化促進タグの融合またはその他の操作によって、インビトロでのVLPの再構築を試みるものである。しかしながら、そのいずれにおいても、バッファー交換等の種々の煩雑な作業工程が必須である。また、形成されたVLPの多くは、粒子形状の歪み、粒子径の不均一性、凝集塊の形成等の問題を有するものである。
【0034】
畜産分野で用いるワクチンを製造するためには、煩雑な作業工程の必要なしに、粒子形状の歪み等がない良好な形態を有するVLPを製造し得る、大腸菌発現系の開発が求められている。煩雑な作業工程を省く手段として、大腸菌発現宿主の細胞内で可溶性Capを自然(自己)会合させることにより、大腸菌発現宿主に自発的にVLPを形成させることが考えられる。これにより、インビトロでの人工的会合工程を経ることなしに、良好な形態を有するVLPを回収し得る。
【0035】
天然のPCV2のVLPは、粒子の内腔側にCapのN末端が位置し、表層側にC末端が位置することが報告されている(非特許文献1)。しかし、既報の可溶化促進タグは、CapのN末端に融合されているため、Capを自然会合させるには物理的な制限がある。そのため、このような可溶化促進タグを利用する大腸菌発現系において、Capを自然会合させることは困難である。
【0036】
本発明者らは、上記の問題を解決するべく鋭意検討を進める中で新たな知見を得て、それに基づき、新規のPCV2ワクチンを開発することに成功した。
【0037】
本発明の概要を、図1を用いて、従来技術と比較しながら説明する。
【0038】
図1の上段および中段は、PCV2のCapからのVLP形成における従来技術を示し、図1の下段は、PCV2のCapからのVLP形成における本発明の特徴点を示す。
【0039】
図1の上段に示すように、昆虫細胞または哺乳動物細胞を宿主とするPCV2 Cap発現系では、可溶性Capが発現され、発現宿主の細胞内で自然(自己)会合し、VLPを形成する。しかし、低温長期保存等の物理化学的負荷を与えると、そのVLPは本来の粒子形状を維持できなくなり、Cap単量体への崩壊や凝集体(Cap aggregates)の形成を起こす。
【0040】
また、図1の中段に示すように、大腸菌を宿主とするPCV2 Cap発現系では、たとえCapが可溶性タンパク質として発現したとしても、その細胞内での自然(自己)会合自体が非常に困難であり、インビトロでの煩雑な作業工程なしでは、VLPを形成することができない。
【0041】
一方、図1の下段に示すように、本発明では、大腸菌を宿主とするPCV2 Cap発現系で、Cap-IBD融合タンパク質を発現させたところ、昆虫・哺乳動物細胞発現系と同様に、発現宿主の細胞内で、Capが自然(自己)会合し、VLPを形成することが明らかとなった。さらに、形成されたVLPは、上記昆虫・哺乳動物細胞発現系で形成されたVLPとは異なり、物理化学的負荷に対して良好な分子安定性(長期低温保存安定性等)を有することも明らかとなった。しかし、このようにして形成されたVLPの表層からIBDsを乖離させると、上記昆虫・哺乳動物細胞発現系で形成されたVLPと同様に、物理化学的負荷を与えることによって、VLPは崩壊することが分かった。すなわち、CapにIBDを融合させることで、(1)「VLP形成促進機能」および(2)「VLP崩壊抑制機能」が新たに付与されることが明らかとなった。
【0042】
〔融合タンパク質およびウイルス様粒子(VLP)〕
本発明の一実施形態に係る融合タンパク質は、PCV2のCapと、IBDと、を有する融合タンパク質(「Cap-IBD融合タンパク質」とも称する)である。
【0043】
また、本発明の一実施形態に係るPCV2のVLPは、複数のCap-IBD融合タンパク質が会合することにより形成される多量体分子である。
【0044】
Cap-IBD融合タンパク質は、大腸菌発現系により可溶性タンパク質として発現し、大腸菌発現宿主の細胞内で自然(自己)会合して、自発的にVLPを形成することができる。
【0045】
本明細書において、「VLP」とは、天然のウイルスと類似した形状を有する粒子であって、且つ、非感染性の粒子を指す。VLPは、上述のとおり、天然のウイルスと類似した形状を有する粒子であるため、天然のウイルスと免疫学的な交叉反応性を示し、有効なワクチンとして機能する。なお、VLPは、ウイルスゲノムを欠くため、非増殖性・非感染性であり、安全性が極めて高い。
【0046】
本明細書において、「Cap」とは、PCV2のカプシドタンパク質を意味する。
【0047】
本発明の一実施形態において、Capは、以下の(1)~(3)に示されるタンパク質、以下の(4)または(5)に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子にコードされるタンパク質であり得る:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(4)配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(5)配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0048】
PCV2 CapがVLPを形成する機能を有するタンパク質であるか否かは、当該タンパク質を、本発明の一実施形態におけるIBDと融合タンパク質を形成させて、当該融合タンパク質を大腸菌で発現させたときに、VLPが形成されていれば、VLPを形成する機能を有するタンパク質であると判定することができる。
【0049】
上記(3)のタンパク質に関して、配列同一性は高いほど好ましく、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または、99%以上であってもよい。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、例えば、GENETYX Ver.14(株式会社ゼネティックス社製の商品名)を当該商品のマニュアルに従って使用して算出することができる。なお、後述する下記(8)、(13)および(18)のタンパク質の同一性についても同様である。
【0050】
本明細書における「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸」では、欠失、置換若しくは付加が生じる位置は特に限定されない。
【0051】
また、「1若しくは数個のアミノ酸」が意図するアミノ酸の数は特に限定されないが、50個以内、40個以内、30個以内、20個以内、19個以内、18個以内、17個以内、16個以内、15個以内、14個以内、13個以内、12個以内、11個以内、10個以内、9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、2個以内、または、1個のアミノ酸であり得る。
【0052】
アミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。なお、保存的置換とは、特定のアミノ酸から、当該アミノ酸と同様な化学的性質および/または構造を有する他のアミノ酸に置換されることをいう。化学的性質としては、例えば、疎水性度(疎水性および親水性)、電荷(中性、酸性および塩基性)が挙げられる。構造としては、例えば、側鎖、または、側鎖の官能基として存在する芳香環、脂肪炭化水素基およびカルボキシル基が挙げられる。
【0053】
保存的置換の例としては、例えば、セリンとスレオニンとの置換、リジンとアルギニンとの置換、およびフェニルアラニンとトリプトファンアミノとの置換、が挙げられる。勿論、本発明は、これらの置換に限定されない。
【0054】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」は、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。
【0055】
例えば、一例を示すと、0.25M NaHPO、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM NaHPO、pH7.2、1%SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。
【0056】
他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
【0057】
本明細書において、「IBD」とは、免疫グロブリン結合能を有するポリペプチドの機能単位を指す。本発明において好適に使用されるIBDとしては、β-graspフォールド構造を有するIBD、および、3-ヘリックスバンドル構造を有するIBDが挙げられる。
【0058】
β-graspフォールド構造を有するIBDとしては、プロテインGのBドメイン(SpGB)およびプロテインLのBドメイン(PpLB)が挙げられる。
【0059】
SpGBとしては、プロテインGのB1ドメインおよびB2ドメインが挙げられる。本発明の一実施形態においては、B1ドメインとB2ドメインとを連結したものを特に好ましく用いることができる。
【0060】
本発明の一実施形態において、SpGBは、以下の(6)~(8)に示されるタンパク質、以下の(9)または(10)に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子にコードされるタンパク質であり得る:
(6)配列番号3または5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(7)配列番号3または5で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(8)配列番号3または5で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(9)配列番号4または6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(10)配列番号4または6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0061】
SpGBがVLPを形成する機能を有するタンパク質であるか否かは、当該タンパク質を、本発明の一実施形態におけるPCV2 Capと融合タンパク質を形成させて、当該融合タンパク質を大腸菌で発現させたときに、VLPが形成されていれば、VLPを形成する機能を有するタンパク質であると判定することができる。
【0062】
PpLBとしては、プロテインLのB1ドメインおよびB2ドメインが挙げられる。本発明の一実施形態においては、B1ドメインとB2ドメインとを連結したものを特に好ましく用いることができる。
【0063】
本発明の一実施形態において、PpLBは、以下の(11)~(13)に示されるタンパク質、以下の(14)または(15)に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子にコードされるタンパク質であり得る:
(11)配列番号7または9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(12)配列番号7または9で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(13)配列番号7または9で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(14)配列番号8または10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(15)配列番号8または10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0064】
PpLBがVLPを形成する機能を有するタンパク質であるか否かは、当該タンパク質を、本発明の一実施形態におけるPCV2 Capと融合タンパク質を形成させて、当該融合タンパク質を大腸菌で発現させたときに、VLPが形成されていれば、VLPを形成する機能を有するタンパク質であると判定することができる。
【0065】
3-ヘリックスバンドル構造を有するIBDとしては、プロテインAのZドメイン(Z)が挙げられる。Zは、非特許文献17等に記載される、プロテインAのBドメインに2ヶ所のアミノ酸置換を導入して作製された人工的なポリペプチドである。
【0066】
本発明の一実施形態において、Zは、以下の(16)~(18)に示されるタンパク質、以下の(19)または(20)に示されるポリヌクレオチドからなる遺伝子にコードされるタンパク質であり得る:
(16)配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(17)配列番号11で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(18)配列番号11で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質;
(19)配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、
(20)配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VLPを形成する機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0067】
ZがVLPを形成する機能を有するタンパク質であるか否かは、当該タンパク質を、本発明の一実施形態におけるPCV2 Capと融合タンパク質を形成させて、当該融合タンパク質を大腸菌で発現させたときに、VLPが形成されていれば、VLPを形成する機能を有するタンパク質であると判定することができる。
【0068】
本発明の一実施形態において、Capに融合するIBDは、SpGB、PpLBおよびZからなる群より選択されるドメインを含むことが好ましく、Zを含むことが特に好ましい。
【0069】
図2に、可溶化促進タグ(SUMO)およびIBDs(SpGB、PpLB、Z)のタンパク質構造、並びに、β-graspフォールド構造および3-ヘリックスバンドル構造の模式図を示す。図2に示されるとおり、公知の可溶化促進タグであるSUMO(96アミノ酸残基)は、SpGBおよびPpLBと同様にβ-graspフォールド構造を有する。SpGB、PpLBおよびZは、55~60個のアミノ酸残基から構成されており、一次構造的には、SUMOの半分程度の大きさである。
【0070】
上記IBDは、Capに融合させることによりこれを成熟化させるという、本来の抗体結合能とは全く異なる機能を有することが、本発明により明らかとなった。なお、ここでいうCapの「成熟化」とは、Capが大腸菌発現宿主の細胞質内で自然(自己)会合することによって、天然のPCV2粒子と形態的に酷似したVLPを形成することを意味する。このようなVLPは、PCV2の感染予防のためのワクチンとして好適に用いることができる。また、当該VLPを含むワクチンを対象動物に投与または接種することにより、感染性PCV2に対する高い抗原特異性を備える免疫を誘導し、ウイルス中和抗体誘導能を獲得させることができる。その結果、PCV2のVLPのワクチネーションによって、対象動物のPCV2感染を効果的に抑制することができる。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態において、上記Cap-IBD融合タンパク質を構成するIBDは、同種のドメインが2個連結した構造を有する。このような構造としては、例えば、2個のSpGBが連結した構造(SpGB1-B2:配列番号13(アミノ酸配列)、配列番号14(塩基配列))、2個のPpLBが連結した構造(PpLB1-B2:配列番号15(アミノ酸配列)、配列番号16(塩基配列))、および、2個のZが連結した構造(ZZ:配列番号17(アミノ酸配列)、配列番号18(塩基配列))等が挙げられる。Cap-IBD融合タンパク質を構成するIBDとして、SpGB1-B2、PpLB1-B2またはZZを用いることにより、当該融合タンパク質の可溶性タンパク質としての安定性をより高めることができる。これは、SpGB、PpLBまたはZを2個連結させてなるIBDが、可溶性促進タグ(SUMO)と同等の分子量を有することにより、SUMOに匹敵する可溶化促進機能を獲得したと推測される。なお、IBDにおいて同種のドメインが複数連結される場合、その数は2個に限定されず、例えば、3個、4個、あるいは、5個以上であってもよい。
【0072】
本発明の一実施形態において、Cap-IBD融合タンパク質におけるIBDは、CapのC末端に結合していることが好ましい。IBDがCapのC末端に結合していることにより、IBDのVLP形成促進機能およびVLP崩壊抑制機能がより向上される。すなわち、大腸菌発現宿主の細胞内で、Cap-IBD融合タンパク質が、N末端を粒子の内腔側に、C末端を粒子の表層側にして自然(自己)会合してVLPを形成する。形成されたVLPは、表層にIBDsを有し、物理化学的負荷に対する良好な分子安定性を有する。
【0073】
本発明の一実施形態において、CapとIBDとの連結、および、ドメイン間の連結は、適当なアミノ酸配列からなるリンカーを介していてもよい。
【0074】
本発明の一実施形態において用いられるリンカーとしては、特に限定されないが、好ましくは4~10数アミノ酸残基からなる任意のペプチドが挙げられる。このようなペプチドとしては、GPGP(4アミノ酸残基、配列番号19)、(GS)(15アミノ酸残基、配列番号20)、およびこれらの組み合わせ等の慣用のペプチドが挙げられる。
【0075】
また、リンカー内にトロンビン認識配列(LVPRGS)等を挿入し、所望のタイミングで、CapとIBDとを切断・乖離し得るように設計してもよい。このように設計することにより、例えば、Cap-IBD融合タンパク質がVLPを形成した後で、VLPの表層からIBDを切断・乖離させることができる。
【0076】
また、本明細書の実施例に記載したとおり、GPGPGLVPRGSGPGPG(配列番号21)や、当該配列からトロンビン認識配列(LVPRGS)を除いたGPGPGGSGPGPG(配列番号22)等もリンカーとして使用できる。
【0077】
なお、上記トロンビン認識配列を除いたGPGPGGSGPGPGをリンカーとして用いた場合には、例えば、配列番号29で表されるアミノ酸配列からなる(または、配列番号30で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子にコードされた)Cap-IBD(この場合は、Cap-ZZ)を作製することができる。
【0078】
〔Cap-IBD融合タンパク質の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るPCV2のVLPの製造方法は、上述のCap-IBD融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、当該発現ベクターを大腸菌に導入し、当該Cap-IBD融合タンパク質を発現させる工程、を含む。
【0079】
Capをコードする核酸およびIBD(例えば、SpGB、PpLBおよびZ)をコードする核酸は、例えば、公知の塩基配列(配列番号2、4、6、8、10および12)を基に、常法によって、例えば、PCRクローニング、化学合成等によって調製することができる。
【0080】
また、Cap-IBD融合タンパク質をコードする核酸は、常法によって、例えば、PCRサブクローニング、化学合成等によって調製することができる。
【0081】
Cap-IBD融合タンパク質を製造するための発現ベクターは、公知の手法を用いる組換えDNA技術によって構築することができ、Cap-IBD融合タンパク質をコードする核酸、および、当該核酸に作動可能に連結した調節配列を含む。
【0082】
上記発現ベクターを、宿主細胞となる大腸菌に導入することにより、形質転換細胞を作製することができる。大腸菌の形質転換法は、特に限定されず、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等の公知の方法を用いることができる。
【0083】
作製された形質転換細胞を、Cap-IBD融合タンパク質の発現が可能な条件下で培養することにより、可溶性タンパク質としてCap-IBD融合タンパク質が発現される。可溶性発現したCap-IBD融合タンパク質は、大腸菌発現宿主の細胞内で、自然(自己)会合することにより、自発的にVLPを形成する。
【0084】
〔ワクチン〕
本発明の一実施形態に係るワクチンは、有効成分として、上述のVLPを含む。なお、ワクチンにおける有効成分の含有量は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0085】
本発明の一実施形態において、ワクチンは、VLPの他に、薬学的に許容される添加剤、例えば、担体、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤等を含んでいてもよい。
【0086】
ワクチンの形態も特に限定されず、例えば、注射剤、液剤、懸濁剤、乳剤、散剤、顆粒剤、およびカプセル剤等が挙げられる。ワクチンの投与形態も特に限定されず、経口投与であってもよいし、非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、経鼻投与、静脈内投与、腹腔内投与等)であってもよい。
【0087】
ワクチンが投与される対象動物としては、PCV2に感染し得る非ヒト動物であれば特に限定されないが、好ましくはブタである。
【0088】
本発明の一態様は、以下の発明を包含する。
<1>ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質。
<2>上記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインを含む、上記<1>に記載の融合タンパク質。
<3>上記免疫グロブリン結合ドメインが、上記カプシドタンパク質のC末端に結合している、上記<1>または<2>に記載の融合タンパク質。
<4>上記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインが2個連結した構造を有する、上記<1>~<3>のいずれかに記載の融合タンパク質。
<5>上記カプシドタンパク質と上記免疫グロブリン結合ドメインとが、リンカーを介して結合している、上記<1>~<4>のいずれかに記載の融合タンパク質。
<6>上記<1>~<5>のいずれかに記載の融合タンパク質により形成されている、ウイルス様粒子。
<7>上記<6>に記載のウイルス様粒子を含むワクチン。
<8>ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、を有する融合タンパク質の製造方法であって、
上記ブタサーコウイルス2型のカプシドタンパク質と、免疫グロブリン結合ドメインと、の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを調製する工程、および、
上記発現ベクターを大腸菌に導入し、上記融合タンパク質を発現させる工程、を含む、製造方法。
<9>上記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインを含む、上記<8>に記載の製造方法。
<10>上記免疫グロブリン結合ドメインが、上記カプシドタンパク質のC末端に結合している、上記<8>または<9>に記載の製造方法。
<11>上記免疫グロブリン結合ドメインが、プロテインGのBドメイン、プロテインLのBドメイン、および、プロテインAのZドメインからなる群より選択されるいずれか1種のドメインが2個連結した構造を有する、上記<8>~<10>のいずれかに記載の製造方法。
<12>上記カプシドタンパク質と上記免疫グロブリン結合ドメインとが、リンカーを介して結合している、上記<8>~<11>のいずれかに記載の製造方法。
【0089】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0091】
〔1.Capと可溶化促進タグ(GST、SUMO)との融合化〕
Cap-GST以外の全ての遺伝子コンストラクトについては、大腸菌発現系に最適化した塩基配列(コドン最適化配列)を用いて全遺伝子合成した。なお、Cap-GST融合遺伝子の構築方法は、以下のとおりである。
【0092】
PCRサブクローニングにより、Cap(配列番号41)のC末端に、ペプチドリンカーを介して、可溶性促進タグ(GST)を融合させた融合タンパク質(Cap-GST)をコードする核酸を調製した。具体的には、Cap-ZZをテンプレートとして、primeSTAR(登録商標)(タカラバイオ株式会社製)およびプライマーセット(Cap F(配列番号37:5’-tatacatatgacctatccgcgtcgccgcta-3’);Cap link R(配列番号38:5’-gtataggggaacccggacccggaccagagc-3’))を用いたPCRにより、Cap-linker配列を増幅させた。また、pET-41a(メルク株式会社製)をテンプレートとして、primeSTAR(登録商標)およびプライマーセット(GST F(配列番号39:5’-gggtccgggttcccctatactaggttattg-3’);GST R(配列番号40:5’-agcgagctcttaatccgattttggaggatg-3’))を用いたPCRにより、GST配列を増幅させた。続いて、増幅させたCap-linker配列およびGST配列をテンプレートとして、primeSTAR(登録商標)およびプライマーセット(Cap F;GST R)を用いたオーバーラップPCRにより、Cap-linker-GST配列を増幅させた。制限酵素NdeI(タカラバイオ株式会社製)およびSacI(タカラバイオ株式会社製)で処理したpJexpress441-01(ATUM社製)と、同じく制限酵素NdeIおよびSacIで処理したCap-linker-GST配列とをライゲーションさせたものを用いて、大腸菌DH5α株(タカラバイオ株式会社製)を形質転換させた。形質転換させた大腸菌DH5α株からアルカリSDS法によりpJ4-CapGSTを回収し、大腸菌BL21株(タカラバイオ株式会社製)を形質転換させた。
【0093】
得られた形質転換細胞を、アンピシリンを含むLB培地(ナカライテスク株式会社製)にて濁度(OD600)が0.4~0.6になるまで37℃で振とう培養後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(シグマアルドリッチ社製)を終濃度1mMになるように添加し、さらに37℃で4時間振とう培養することでCap-GSTの発現を試みたところ、Cap-GSTは全く可溶性発現せず、全て封入体となった。
【0094】
次に、上記と同様にして、可溶化促進タグ(SUMO)を、CapのC末端側に融合させた融合タンパク質(Cap-SUMO)の発現を試みた。遠心分離により菌体を回収し、これをBugBuster(登録商標)(メルク株式会社製)で破砕した可溶性画分には、Cap-SUMOが3.2mg/L cultureレベル程度含まれていた。
【0095】
また、上記破砕液について、ゲルろ過クロマトグラフィー(Sephacryl S-300、GE Healthcare社製)解析を行った。期待されるVLPの位置(約40mL付近)に相当するフラクションを回収し、これを電子顕微鏡で撮影した。観察されたVLPは、天然のPCV2粒子とは形態的に異なり、粒子形状に歪みがあり、また、粒子径も極めて不均一であった(図7)。
【0096】
なお、GSTは、一般的に広く使われている分子量25.6kDaの可溶化促進タグであり、β-graspフォールド構造および3-ヘリックスバンドル構造のいずれの構造も有しない。一方、SUMOは、近年よく利用されている分子量11.0kDaの可溶化促進タグであり、β-graspフォールド構造を有する。
【0097】
これらの結果から、GSTは、Cap可溶化促進機能およびVLP形成促進機能のいずれも有しなかった。したがって、単にCapと可溶化促進タグとを融合させるだけでは、大腸菌発現宿主において、可溶性タンパク質としてCapを発現させることはできないことが分かった。また、SUMOは、GSTとは異なり、Cap可溶化促進機能を有するものの、VLP形成促進機能は有しなかった。同じ可溶化促進タグであるにもかかわらず、GSTとSUMOとでCapの可溶性に与える影響が異なる理由は、両者の分子量(GST:25.6kDa;SUMO:11.0kDa)および立体構造等が影響していることが考えられる。
【0098】
〔2.CapとIBDs(SpGB1-B2、PpLB1-B2)との融合化〕
β-graspフォールド構造を有するSUMOが、Cap可溶化促進機能を有するという上述の結果に基づき、同じくβ-graspフォールド構造を有する他のタンパク質として、プロテインGのBドメイン(SpGB)およびプロテインLのBドメイン(PpLB)を用いて、それらのCap可溶化促進機能およびVLP形成促進機能を検証した。
【0099】
CapのC末端に、ペプチドリンカーを介して、SpGBが2個連結した構造を有するIBDを融合させた融合タンパク質(Cap-SpGB1-B2:配列番号23)をコードする核酸(配列番号24)を調製し、上記1.と同様の方法で、大腸菌BL21(DE3)株においてCap-SpGB1-B2の発現を試みた。遠心分離により菌体を回収し、これをBugBuster(登録商標)(メルク株式会社製)で破砕した可溶性画分には、Cap-SpGB1-B2が1.5mg/L cultureレベル程度含まれていた。
【0100】
また、上記破砕液について、ゲルろ過クロマトグラフィー(Sephacryl S-300、GE Healthcare社製)で解析した結果、期待されるVLPの位置(約40mL付近)にピークが認められたので、そのフラクションを回収した。回収したフラクションを電子顕微鏡で撮影した結果、水溶液中に均一にVLPが分散している像が認められた(図4)。観察されたVLPは、天然のPCV2粒子に酷似した粒子形状および粒子径を有し、高い均一性を有していた。
【0101】
PpLBが2個連結した構造を有するIBDを融合させた融合タンパク質(Cap-PpLB1-B2:配列番号25)をコードする核酸(配列番号26)についても同様の操作を行ったところ、破砕液の可溶性画分には、Cap-PpLB1-B2が1.5mg/L cultureレベル程度含まれていた。また、破砕液のゲルろ過クロマトグラフィー解析および電子顕微鏡撮影により、水溶液中に均一にVLPが分散している像が認められた(図5)。観察されたVLPは、天然のPCV2粒子に酷似した粒子形状および粒子径を有し、高い均一性を有していた。
【0102】
これらの結果から、SUMOと同様なβ-graspフォールド構造を有するSpGBおよびPpLBは、SUMOとは異なり、Cap可溶化促進機能に加え、優れたVLP形成促進機能を有することが明らかとなった。
【0103】
〔3.CapとIBD(ZZ)との融合化〕
β-graspフォールド構造を有するIBDsが優れたVLP形成促進機能を有するという上記2.の結果を考慮し、β-graspフォールド構造以外の構造を有するIBDについて、Cap可溶化促進機能およびVLP形成促進機能を検証した。具体的には、上記IBDとして、3-ヘリックスバンドル構造を有するプロテインAのZドメイン(Z)を用いて、そのCap可溶化促進機能およびVLP形成促進機能を検証した。
【0104】
CapのC末端に、ペプチドリンカーを介して、Zが2個連結した構造を有するIBDを融合させた融合タンパク質(Cap-ZZ:配列番号27)をコードする核酸(配列番号28)を調製し、上記1.と同様の方法で、大腸菌BL21(DE3)株においてCap-ZZの発現を試みた。遠心分離により菌体を回収し、これをBugBuster(登録商標)(メルク株式会社製)で破砕した可溶性画分には、Cap-SpGB1-B2およびCap-PpLB1-B2を超えるレベルでCap-ZZが発現していた(6.0mg/L culture)。
【0105】
また、上記破砕液について、ゲルろ過クロマトグラフィー解析を行い、VLPに相当するピークを示すフラクションを回収した。回収したフラクションを電子顕微鏡で撮影した結果、水溶液中に均一にVLPが分散している像が認められた(図6)。
【0106】
観察されたVLPは、天然のPCV2粒子に酷似した粒子形状および粒子径を有し、高い均一性を有していた。
【0107】
これらの結果から、3-ヘリックスバンドル構造を有するZは、極めて優れたCap可溶化促進機能およびVLP形成促進機能をもつことが明らかとなった。
【0108】
なお、図3に、上記で回収された融合タンパク質(Cap-SUMO、Cap-SpGB1-B2、Cap-PpLB1-B2、Cap-ZZ)における、CapおよびIBDs(SpGB1-B2、PpLB1-B2、ZZ)または可溶化促進タグ(SUMO)、並びに、これらの間に存在するリンカー(L)の配置を模式的に示す。
【0109】
〔4.IBD融合分子数がCap可溶化およびVLP形成に及ぼす影響の検証〕
IBD融合分子数の影響を検証するため、プロテインAのZドメイン(Z)1分子のみをCapに融合させた融合タンパク質(Cap-Z:配列番号31)をコードする核酸(配列番号32)を調製し、上記1.と同様の方法で、大腸菌BL21(DE3)株を用いてCap-Zを発現させた結果、その発現レベルは1.3mg/L culture程度であり、Cap-ZZと比較して、可溶性発現レベルの低下が認められた。
【0110】
この結果から、2分子のZを連結することにより、融合タンパク質の可溶性タンパク質としての安定性が高められたと推察される。
【0111】
〔5.IBD融合位置がVLP形成に及ぼす影響の検証〕
VLP形成におけるIBD融合位置の影響を検証するため、ペプチドリンカーを介して、ZZまたはZをCapのN末端に融合させた融合タンパク質(ZZ-Cap:配列番号33、Z-Cap:配列番号35)をコードする核酸(それぞれ、配列番号34および36)を調製し、上記1.と同様の方法で、大腸菌BL21(DE3)株において、ZZ-CapおよびZ-Capの発現を試みた。
【0112】
ZZ-CapおよびZ-Capの形質転換細胞破砕液を非変性環境下で電気泳動(BN-PAGE(インビトロジェン社製))したところ、Cap-ZZやCap-Zでは検出されたVLPのバンドが顕著に薄くなっていた。これは、ZZ-CapやZ-CapがVLPを形成するためには、N末端側に位置するZZやZをVLPの内腔に包含する必要があり、物理的な制限がかかったためと推察される。
【0113】
〔6.高温処理安定性試験:高温処理がVLP維持に及ぼす影響の検証〕
上記2.および3.で得られた融合タンパク質(Cap-SpGB1-B2、Cap-ZZ)のVLPについて、以下の方法によって高温処理安定性試験を行い、高温処理がVLPの形状に及ぼす影響を調べた。
【0114】
Cap-ZZのVLP水溶液を、52℃および97℃でそれぞれ30分間加熱処理し、その後、ゲルろ過クロマトグラフィー(Sephacryl S-300、GE Healthcare社製)解析を行った。
【0115】
Cap-ZZのVLPについての、加熱処理前後のゲルろ過クロマトグラフィーの解析結果を示すクロマトグラムを、図8に示す。
【0116】
図8に示すとおり、Cap-ZZのVLPは、52℃および97℃のいずれの温度でも、30分間加熱処理した後でも、クロマトグラムの形状に大きな変化は生じず、VLPが高温処理に対して高い分子安定性を有することが確認された。また、Cap-SpGB1-B2のVLPについても、同様の結果が得られた。
【0117】
次に、IBDsの存在がVLPの高温処理安定性に与える影響を評価するために、ペプチドリンカー(L)内に存在するトロンビン認識配列(LVPR↓GS(↓:トロンビン特異的切断部位))の部位でCap-IBDs(Cap-SpGB1-B2およびCap-ZZ)をトロンビン処理によって切断し、VLPからIBDsを乖離させた。
【0118】
VLP表層に露出しているIBDsを切断・乖離した後も、VLPはその形状を維持していた。
【0119】
IBDsを切断・乖離させたVLPについて、上記と同様にして、高温処理安定性試験を実施した。Cap-ZZのVLP表層からZZを乖離させた後のVLPについての、加熱処理前後のゲルろ過クロマトグラフィーの解析結果を示すクロマトグラムを、図9に示す。
【0120】
図9に示すとおり、52℃で30分間の加熱処理後のクロマトグラムにおいて、VLPに相当するピークは完全に消失した。したがって、ZZを乖離させた後のVLPは、当該加熱処理により崩壊したと考えられる。Cap-SpGB1-B2のVLP表層からSpGB1-B2を乖離させた後のVLPについても、同様の結果が得られた。
【0121】
これらの結果から、上記IBDsが、高温処理に対する分子安定性を付与する、VLP崩壊抑制機能を有することが確認された。
【0122】
〔7.低温処理安定性試験:低温処理がVLP維持に及ぼす影響の検証〕
上記3.で得られた融合タンパク質(Cap-ZZ)のVLPについて、以下の方法によって低温処理安定性試験を行い、低温処理がVLPの形状維持に及ぼす影響を調べた。
【0123】
Cap-ZZのVLPを分散させたPBS溶液を、4℃、-30℃および-80℃の異なる温度条件下で1年間保存した。保存後のPBS溶液を室温に戻し、電子顕微鏡で観察した。各温度で1年間保存した後のCap-ZZのVLPの電子顕微鏡写真を、図10(4℃)、図11(-30℃)および図12(-80℃)に示す。
【0124】
図10~12に示すとおり、Cap-ZZのVLPは、低温保存後もその形状および均一性を維持しており、いずれの温度条件下においてもVLPの凝集、形状変化、崩壊等による粒子数減少といった現象は認められなかった。
【0125】
これらの結果から、上記IBDが、低温処理に対する分子安定性を付与する、VLP崩壊抑制機能を有することが確認された。
【0126】
〔8.ワクチン抗原調製並びにブタへの免疫および攻撃試験〕
上記3.で得られた融合タンパク質(Cap-ZZ)のVLPを含む水溶液と、オイルアジュバントとを混合し、ワクチン抗原を調製した。このワクチン抗原1mLは、20μg相当のCap抗原を含む。
【0127】
また、PBSとオイルアジュバントとを混合し、Mockワクチン(疑似対照)を調製した。
【0128】
野外農場から購入した4週齢のブタに、2週間隔で2回、頚部筋肉内にCap-ZZワクチン抗原1mLまたはMockワクチンを投与した(1群3~4頭)。2回目投与後の2週目に、10 FAID50/mLの感染性PCV2を含む攻撃用乳剤を鼻腔内および臀部筋肉内に接種することで攻撃した。
【0129】
攻撃後7日目、10日目および14日目に採血し、血清分離後、QIAamp(登録商標) DNA Blood Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてPCV2のDNAを抽出した。また、攻撃後14日目に剖検し、扁桃、鼠径リンパ節および腸間膜リンパ節を採取して10%乳剤を作製し、血清と同様の方法でDNAを抽出した。
【0130】
SYBR Premix Taq(タカラバイオ株式会社製)およびPCV2特異的プライマーセット(CircoDF;CircoDR)を用い、リアルタイムPCR法(バイオラッド社製Chromo4システム)にてPCV2のウイルスコピー数(copies/mLまたはcopies/g)を測定した。
【0131】
なお、検量線作成用のスタンダードには、Cap遺伝子を組み込んだコピー数既知のプラスミドを用いた。本リアルタイムPCRにおけるPCV2のウイルスコピー数の定量限界は、血清で2,000copies/mLであり、組織中で20,000copies/gであった。
【0132】
血清中のウイルスコピー数測定結果を図13に、リンパ節中のウイルスコピー数測定結果を図14に、それぞれ示す。
【0133】
図13および図14に示すとおり、Cap-ZZ免疫群は、Mock群と比較し、血清中(図13)および各リンパ節中(図14)のウイルスコピー数が減少した。この結果は、Cap-ZZ融合タンパク質のVLPが、PCV2感染に対し、効果的なワクチンとして利用可能であることを示している。
【0134】
(まとめ)
上記の実施例で用いたIBDs(SpGB、PpLBおよびZ)、並びに、可溶化促進タグ(GST、SUMO)について、その公知の機能、立体構造、および、本発明により見出された各種機能の評価試験結果(Cap可溶化促進機能、VLP形成促進機能、VLP崩壊抑制機能(分子安定性付与機能)、ワクチン機能)を、以下の表1にまとめた。
【0135】
【表1】
上記の結果から、可溶化促進タグとしてよく知られているGSTやSUMOではなく、IBDsをPCV2のCapと融合させることにより、当該タンパク質をワクチン抗原として成熟化させ得ることが分かった。また、さらに興味深いことに、これらのIBDsは、VLP崩壊抑制機能、すなわち、物理化学的負荷に対する分子安定性を付与する機能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は医薬品分野、特にワクチンの分野において有用である。
図1
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【配列表】
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