(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修方法及びその補修構造
(51)【国際特許分類】
C04B 41/70 20060101AFI20240708BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240708BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240708BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20240708BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240708BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240708BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C04B41/70
E04G23/02 A
C04B28/02
C04B28/08
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B22/08 B
C04B20/00 A
(21)【出願番号】P 2022159572
(22)【出願日】2022-10-03
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2021201820
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511076642
【氏名又は名称】福岡北九州高速道路公社
(73)【特許権者】
【識別番号】508001431
【氏名又は名称】西日本高速道路メンテナンス九州株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108904
【氏名又は名称】ダイキ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500128549
【氏名又は名称】エス・エルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】青野 守
(72)【発明者】
【氏名】中石 隆博
(72)【発明者】
【氏名】大津留 玲
(72)【発明者】
【氏名】濱本 耕亮
(72)【発明者】
【氏名】川満 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 志津香
(72)【発明者】
【氏名】天野 佳絵
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-260562(JP,A)
【文献】特開2014-125819(JP,A)
【文献】特開昭60-108385(JP,A)
【文献】特開平03-285882(JP,A)
【文献】特開2020-158371(JP,A)
【文献】米国特許第04559241(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 41/70
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの一部の崩壊によって、又は、崩壊の可能性を有するコンクリートの除去によって、鉄筋の表面が露出したコンクリート構造物の補修方法において、
前記鉄筋の表面、及び、該鉄筋の周辺の残存コンクリートの表面に、亜硝酸塩、消石灰、及び、水分を含むpH11~12の水溶液からなる浸透及び付着防錆材を塗布して防錆プライマー層を形成する第1工程と、
前記防錆プライマー層上に、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、及び、水分を含む下塗り防錆材を塗布して下塗り層を形成する第2工程と、
前記下塗り層上に、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、繊維材、及び、水分を含む上塗り防錆材を塗布して、前記下塗り層より厚く靱性の高い上塗り層を形成する第3工程と、
前記上塗り層上に、被覆用塗料を塗布して被覆層を形成する第4工程とを有し、
前記被覆層の表面を外気に露出させたことを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート構造物の補修方法において、前記下塗り防錆材に含まれるセメント、及び、前記上塗り防錆材に含まれるセメントは高炉セメントであることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
請求項1記載のコンクリート構造物の補修方法において、前記被覆用塗料は水系塗料であることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法において、前記浸透及び付着防錆材は更に、着色材及び水系アクリル共重合体のいずれか一方又は双方を含み、亜硝酸塩が5~38質量%、水分が40~70質量%、着色材に含まれる酸化チタンが7質量%以下、水系アクリル共重合体が50質量%以下、であることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法において、前記下塗り防錆材は、セメントを20~50質量%、亜硝酸塩を2~10質量%、水系アクリル共重合体を6~24質量%、水分を12~43質量%含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法において、前記上塗り防錆材は、セメントを20~50質量%、亜硝酸塩を2~10質量%、水系アクリル共重合体を6~24質量%、繊維材を0.5~1.5質量%、水分を12~43質量%含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【請求項7】
コンクリートの一部の崩壊によって、又は、崩壊の可能性を有するコンクリートの除去によって、鉄筋の表面が露出したコンクリート構造物の補修構造において、
前記鉄筋の表面、及び、該鉄筋の周辺の残存コンクリートの表層部に設けられ、亜硝酸塩、消石灰、及び、水分を含むpH11~12の水溶液からなる浸透及び付着防錆材で形成された防錆プライマー層と、
前記防錆プライマー層上に設けられ、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、及び、水分を含む下塗り防錆材で形成された下塗り層と、
前記下塗り層上に設けられ、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、繊維材、及び、水分を含む上塗り防錆材で形成された、前記下塗り層より厚く靱性が高い上塗り層と、
前記上塗り層上に設けられ、被覆用塗料で形成された被覆層とを有し、
前記被覆層の表面が外気に露出していることを特徴とするコンクリート構造物の補修構造。
【請求項8】
請求項7記載のコンクリート構造物の補修構造において、前記下塗り防錆材に含まれるセメント、及び、前記上塗り防錆材に含まれるセメントは高炉セメントであることを特徴とするコンクリート構造物の補修構造。
【請求項9】
請求項7記載のコンクリート構造物の補修構造において、前記被覆用塗料は水系塗料であることを特徴とするコンクリート構造物の補修構造。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修構造において、前記浸透及び付着防錆材は更に、着色材及び水系アクリル共重合体のいずれか一方又は双方を含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物(例えば、港湾構造物、橋(道路橋、鉄道橋、水道橋等)、梁、柱、側壁等)の補修方法及びその補修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製のコンクリート構造物は、例えば経年変化によって表面のコンクリートが剥離し、又は、コンクリートに亀裂が発生して、内部の鉄筋が露出する。これにより、鉄筋が腐食してコンクリート構造物の強度が著しく低下するため、以下に示す断面修復工法を用いて、補修部位(剥離又は除去したコンクリート部分)の補修を行っている。
まず、劣化したかぶりコンクリート(例えば、鉄筋からコンクリート表面までのコンクリート)を除去して、
図13に示す鉄筋90の表面を露出させる。鉄筋90の表面に亜硝酸塩等の防錆材を塗布し、残存コンクリート91の表面側の補修部位をモルタル(ポリマーセメントモルタル)等の断面修復材92で埋め戻して、元の状態まで修復する。この修復部分の表面を、有機系塗料やシラン系撥水材等の表面被覆材93で被覆し、外的劣化因子の内部への侵入を防止する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した断面修復工法により修復した部分は、長期的には耐久性に問題があり、再劣化した場合はかぶり部(断面修復材92の一部又は全部)が剥落して、それによる被害が懸念されるため、社会問題となっている。これは、コンクリート構造物が鉄筋によって引張力や耐力が担保されているものの、鉄筋が様々な環境要因によって腐食し、かぶり部が鉄筋から付着離れを起こすことによる。
特に、道路橋では、凍結防止剤の散布によるコンクリートの塩害が問題になっている。
更に、環境負荷の観点から、VOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)の低減が望まれる傾向にある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来の断面修復による問題の解消と鉄筋の防錆性能の向上を可能にするコンクリート構造物の補修方法及びその補修構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法は、コンクリートの一部の崩壊によって、又は、崩壊(劣化及び/又は剥離)の可能性を有するコンクリートの除去によって、鉄筋の表面が露出したコンクリート構造物の補修方法において、
前記鉄筋の表面、及び、該鉄筋の周辺の残存コンクリートの表面に、亜硝酸塩、消石灰、及び、水分を含むpH11~12の水溶液からなる浸透及び付着防錆材を塗布して防錆プライマー層を形成する第1工程と、
前記防錆プライマー層上に、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、及び、水分を含む下塗り防錆材を塗布して下塗り層を形成する第2工程と、
前記下塗り層上に、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、繊維材、及び、水分を含む上塗り防錆材を塗布して、前記下塗り層より厚く靱性の高い上塗り層を形成する第3工程と、
前記上塗り層上に、被覆用塗料を塗布して被覆層を形成する第4工程とを有し、
前記被覆層の表面を外気に露出させたことを特徴としている。
【0007】
本発明では、第1~第4工程を順次行って、鉄筋の表面とこの鉄筋の周辺の残存コンクリートの表面に、防錆プライマー層、下塗り層、上塗り層、及び、被覆層を順次形成するので、後述するように、鉄筋の表面と残存コンクリートの表面に強固に接着した補修層を形成できると共に、鉄筋の防錆性能の向上も図れる。これにより、被覆層の表面を外気に露出させた状態にできる(即ち、補修構造を構築できる)。
ここで、被覆層の表面を外気に露出させるとは、従来コンクリート構造物の補修で行われていた断面修復材(モルタル等)による補修(即ち、鉄筋に対し防錆処理等を行った後に補修材で埋め戻して元の状態に復元)を行うことなく、即ち、補修部位を埋め戻すことなく、被覆層の表面を外気に曝した状態に維持することを意味する。
なお、従来使用されている断面修復材には、厚みによる中性化防止(即ち、鉄筋の酸化(腐食)防止)、鉄筋の耐火力の低下抑制、鉄筋の耐力の低下抑制(構造部位によっては座屈を防止)等の機能があるが、以下に示すように、補修部位を、順次積層された(1)防錆プライマー層、(2)下塗り層、(3)上塗り層、及び、(4)被覆層で構成することにより、断面修復材は不要となる。
【0008】
(1)防錆プライマー層は、鉄筋防錆の観点から、この層を形成する浸透及び付着防錆材(以下、浸透・付着防錆材とも記載)が消石灰を含み、水溶液のpHを11~12レベルに保持することで、亜硝酸塩の自己分解を防止できる層である。なお、pHは、少なくとも上記した第2工程の効果が発揮できるまで保持できればよい。
また、浸透・付着防錆材の亜硝酸塩が鉄筋周辺部へ浸透することにより、腐食因子である塩分を弱体化させ、鉄筋表層及び鉄筋裏まで浸透し拡散して不動態皮膜を再生し、腐食劣化を抑制できる。
【0009】
(2)下塗り層は、防錆プライマー層が含有する亜硝酸塩の不足を補填する層である。
下塗り層の形成に使用する下塗り防錆材は、鉄筋と残存コンクリート部の双方に、防錆プライマー層を介して塗布可能なものであり、かつ、異なる基材種に対して付着性を有するものである。この下塗り防錆材は、その粘性により、形状が複雑な鉄筋や残存コンクリートに対しても隅々まで塗布可能であり、防錆効果をより確実なものにでき(防錆プライマー層の防錆性能を持続させることができ)、高いpH値と亜硝酸塩の還元効果により鉄筋等の発錆を抑える自己修復型の防錆塗料である。
【0010】
(3)上塗り層は、従来の断面修復工法を行うことなく(剥落するリスクが高い断面修復材による埋め戻しはせず)、厚膜型の塗装で極力平滑な仕上がりを目指すものである(断面修復材に相当する機能を持たせたものである)。このため、上塗り層の形成に使用する上塗り防錆材が繊維材を含み、粘度を調整することにより、厚膜施工(下塗り層でのピンホール等の発生への対応)を可能にしている。この厚膜施工により、例えば、凹凸を有する異形鉄筋であっても、形成する塗膜厚の高低差を無くすことができ、露出した鉄筋の防錆効果を高めることができる。更に、繊維材は、上塗り防錆材を構成するアルカリ度の高いセメント、亜硝酸塩、及び、水系アクリル樹脂エマルジョン中であっても略均一に分散可能であり、上塗り層中ではセメントと密着するため、上塗り層に荷重がかかっても、上塗り層のひび割れや剥落を抑止する効果がある(下塗り層より靱性が高い)。
【0011】
(4)被覆層は、外的劣化因子の侵入を遮断し、必要に応じて耐候性を付与するものであり、その表面が外気に露出している。
このように、被覆層は補修層に耐候性を付与する層であるため、上塗り層の厚みを過剰に厚くする必要がなくなる。
【0012】
第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法において、前記下塗り防錆材に含まれるセメント、及び、前記上塗り防錆材に含まれるセメントは高炉セメントであることが好ましい。
本発明で使用する高炉セメントは、セメントに高炉スラグを混ぜたものであり、その緻密性から塩化物イオンの浸透を抑制することが知られており、腐食因子となる塩化物イオンの外的侵入を抑止することが可能となる。
【0013】
第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法において、前記被覆用塗料は水系塗料であることが好ましい。
本発明では、防錆プライマー層、下塗り層、及び、上塗り層の3層が水系の材料(即ち、浸透・付着防錆材、下塗り防錆材、及び、上塗り防錆材)で形成されるため、被覆層の形成に水系塗料を使用した場合、4層全てが水系の材料で形成されることになる。これにより、VOCの低減が図れ、環境負荷の低減に寄与できる。
【0014】
第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法において、前記浸透及び付着防錆材は更に、着色材及び水系アクリル共重合体のいずれか一方又は双方を含み、亜硝酸塩が5~38質量%、水分が40~70質量%、着色材に含まれる酸化チタンが7質量%以下、水系アクリル共重合体が50質量%以下、であることが好ましい。
浸透・付着防錆材が水系アクリル共重合体を含む場合、この浸透・付着防錆材が残存コンクリートに浸透することで、アンカー効果により、残存コンクリートと下塗り層との付着性を向上させることができる。はつり後の脆弱化した残存コンクリートにはミクロスケールのクラックが発生するが、浸透・付着防錆材により残存コンクリート表面(表層部)を強化できる。
【0015】
第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法において、前記下塗り防錆材は、セメントを20~50質量%、亜硝酸塩を2~10質量%、水系アクリル共重合体を6~24質量%、水分を12~43質量%含むことが好ましい。
【0016】
第1の発明に係るコンクリート構造物の補修方法において、前記上塗り防錆材は、セメントを20~50質量%、亜硝酸塩を2~10質量%、水系アクリル共重合体を6~24質量%、繊維材を0.5~1.5質量%、水分を12~43質量%含むことが好ましい。
【0017】
前記目的に沿う第2の発明に係るコンクリート構造物の補修構造は、コンクリートの一部の崩壊によって、又は、崩壊(劣化及び/又は剥離)の可能性を有するコンクリートの除去によって、鉄筋の表面が露出したコンクリート構造物の補修構造において、
前記鉄筋の表面、及び、該鉄筋の周辺の残存コンクリートの表層部に設けられ、亜硝酸塩、消石灰、及び、水分を含むpH11~12の水溶液からなる浸透及び付着防錆材で形成された防錆プライマー層と、
前記防錆プライマー層上に設けられ、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、及び、水分を含む下塗り防錆材で形成された下塗り層と、
前記下塗り層上に設けられ、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、繊維材、及び、水分を含む上塗り防錆材で形成された、前記下塗り層より厚く靱性が高い上塗り層と、
前記上塗り層上に設けられ、被覆用塗料で形成された被覆層とを有し、
前記被覆層の表面が外気に露出していることを特徴としている。
【0018】
第2の発明に係るコンクリート構造物の補修構造において、前記下塗り防錆材に含まれるセメント、及び、前記上塗り防錆材に含まれるセメントは高炉セメントであることが好ましい。
【0019】
第2の発明に係るコンクリート構造物の補修構造において、前記被覆用塗料は水系塗料であることが好ましい。
【0020】
第2の発明に係るコンクリート構造物の補修構造において、前記浸透及び付着防錆材は更に、着色材及び水系アクリル共重合体のいずれか一方又は双方を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法及びその補修構造は、鉄筋の表面とこの鉄筋の周辺の残存コンクリートの表面に、防錆プライマー層、下塗り層、上塗り層、及び、被覆層を順次形成するので、鉄筋の防錆性能の向上が図れると共に、被覆層の表面を外気に露出させた状態に維持できる(即ち、本発明に係るコンクリート構造物の補修構造を構築できる)。
従って、従来から行われている断面修復工法による断面修復材を用いた埋め戻しが不要となり、かぶり部に起因した危険性を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の補修構造の説明図である。
【
図2】同コンクリート構造物の補修方法の下処理工程の説明図である。
【
図3】既存コンクリート内の鉄筋の配置位置を示す説明図である。
【
図4】既存コンクリートのはつり状況を示す説明図である。
【
図6】(A)、(B)はそれぞれ供試体の割裂面における亜硝酸塩と浸透・付着防錆材の浸透深さを示す説明図である。
【
図8】練混ぜ水に対する亜硝酸塩濃度及び亜硝酸イオン濃度と中性化深さとの関係を示すグラフである。
【
図10】同梁の曲げ載荷試験に用いる各種ゲージ位置の説明図である。
【
図11】同梁の曲げ載荷試験で得られた荷重たわみ曲線のグラフである。
【
図13】従来例に係るコンクリート構造物の補修構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0024】
本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の補修方法は、
図1に示す本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の補修構造(以下、単に補修構造とも記載)10を構築する方法である。補修構造10は、コンクリート構造物11の鉄筋(異形鉄筋)12表面とこの鉄筋12周辺の残存コンクリート13表面に、防錆プライマー層14、下塗り層15、上塗り層16、及び、被覆層17が順次形成され、これら各層で構成される補修層18を、鉄筋12表面と残存コンクリート13表面に強固に接着できると共に、被覆層17表面を外気に露出させた構造となっている。即ち、従来の断面修復工法を用いた断面修復材による補修部分の埋め戻しを行わない構造となっている。
以下、詳しく説明する。
【0025】
(下処理工程)
まず、コンクリート構造物11の鉄筋12表面を露出させる。
この鉄筋12表面は、既存コンクリートの一部の崩壊によって露出する場合、又は、
図2に示すように、崩壊(劣化及び/又は剥離、以下同じ)の可能性を有する既存コンクリート19(施工前)を除去すること(はつり後)によって露出させる場合、がある。
ここで、既存コンクリート19のはつりの範囲(除去範囲)は、補修する範囲の辺長より、例えば、4~10cm程度長くする。
鉄筋12は、
図3に示すように、既存コンクリート19の表面から、70mm、30mm、10mmの各位置では、腐食の原因が異なるため、その程度に相異がある。
深い位置での腐食は、既存コンクリートの内在塩分が原因と考えられるため、既存コンクリートを鉄筋に沿ってはつり除去する。また、30mm位置近傍の鉄筋腐食については、中性化の影響と軽度の塩害が原因であると予想され、10mm位置近傍の鉄筋腐食については、かぶり部の厚み不足による腐食が原因であると想定される。
【0026】
なお、露出した鉄筋12に対しては、表面に付着している風化コンクリートの撤去と、表面の浮き錆等の除去(動力源を使用した機器:例えばグラインダー等)を行う。
また、既存コンクリート19については、鉄筋12の軸方向に亀裂が発生した部分と、はつり部近傍の中性化した部分の撤去を行う。
これら各処理は、鉄筋12表面と残存コンクリート13表面が3種ケレン相当の清浄度となるように実施する。
具体的には、腐食レベルが鉄筋のリブ及び節が残っている程度の場合、軽度の腐食環境と推定され、亜硝酸塩の浸透効果を期待し、
図4の左側に示すように鉄筋の表層側の既存コンクリートを鉄筋径の1/2レベルまではつり撤去する。
また、鉄筋のリブ及び節まで腐食している場合は、既存コンクリート内の塩分影響を除去することから、
図4の右側に示すように、鉄筋の裏側まで既存コンクリートをはつり撤去する。なお、はつり程度は、鉄筋の腐食状況に応じて適宜判断する。
そして、鉄筋12の表面とこの鉄筋12の周辺の残存コンクリート13の表面を清掃する。
この清掃は、はつり粉や残存コンクリート13が含有する塩分を除去するため、基本的には水洗いとする(環境が許せば、高圧水を用いたウォータージェット工法がよい)。
【0027】
(第1工程)
清掃した鉄筋12表面とこの鉄筋12周辺の残存コンクリート13表面に、後述する浸透・付着防錆材を塗布して乾燥させ、鉄筋12表面と残存コンクリート13表層部に防錆プライマー層14を形成する。
鉄筋12周辺の残存コンクリート13表面への浸透・付着防錆材の塗量は、例えば、150g/m
2~300g/m
2程度(ここでは200g/m
2)とする。
浸透・付着防錆材の塗布は、既存コンクリート19表面から4~10cmの深さ位置に配置された鉄筋12に対して行い、上記した
図4の右図の場合、更に鉄筋と残存コンクリートとの間に防錆モルタル(後述する上塗り防錆材)を塗り込み充填する。
乾燥時間の目安は1~3時間程度である。
【0028】
(第2工程)
鉄筋12表面と残存コンクリート13表層部に形成した防錆プライマー層14上に、後述する下塗り防錆材を均一に塗布して乾燥させ、下塗り層15を形成する。なお、上記した浸透・付着防錆材は残存コンクリート13の表層部に浸透するため、状況によっては、残存コンクリート13表面に下塗り防錆材が直接塗布され、下塗り層15が形成される場合もある。
下塗り層15の厚さは100μm~300μm程度(下塗り防錆材の塗量として300g/m2~700g/m2程度(ここでは500g/m2レベル))とする。
乾燥時間の目安は6時間~1日程度である。
【0029】
(第3工程)
下塗り層15上に、後述する上塗り防錆材を塗布して乾燥させ、上塗り層16を形成する。
上塗り層16の厚さは、下塗り層15より厚く600μm~2200μm程度(上塗り防錆材の塗量として1800g/m2~5500g/m2程度)とする。具体的には、鉄筋12のリブ及び節が隠れるまで塗布することが好ましい。
なお、上塗り防錆材には繊維材が含まれているため、上塗り層16は下塗り層15より高靱性であり、下塗り層15より厚くしても(厚さ2mm程度でも)割れを防止できる。
乾燥時間の目安は6時間~1日程度である。
【0030】
(第4工程)
上塗り層16上に、後述する有機系塗料又は無機系塗料を塗布して乾燥させ、被覆層17を形成する。
被覆層17の厚さは、30μm~80μm程度(塗量として100g/m2~150g/m2程度)とする。
補修層18のうち、上記した上塗り層16と被覆層17により、外部からの腐食成分(水、塩等)の侵入を防止することができる。なお、被覆層17表面への更なる処理は行わないため、被覆層17表面が外気に露出することになる。
乾燥時間の目安は12時間~1日程度である。
【0031】
現状では、上記した補修構造10に類する規格は存在しないが、断面修復工法に準拠した場合、NEXCO:「構造物施工管理要領」における「左官工法による断面修復の性能照査項目」において、コンクリートと断面修復材との付着強度は1.5N/mm2以上とされており、本発明の補修構造10は規格値を満たすものである。
【0032】
続いて、本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の補修構造10を構成する防錆プライマー層14、下塗り層15、上塗り層16、及び、被覆層17の各層について、実施した試験を参照しながら説明する。
【0033】
[防錆プライマー層]
防錆プライマー層14は、鉄筋12表面、及び、この鉄筋12周辺の残存コンクリート13表面に浸透・付着防錆材を塗布することで形成されるものであり、この浸透・付着防錆材は、亜硝酸塩、消石灰、着色材、水系アクリル共重合体(水系アクリル重合体)、及び、水分を含むpH11~12の水溶液である。なお、着色材と水系アクリル共重合体は、必要に応じて、いずれか一方又は双方が含まれなくてもよい。
亜硝酸塩は、腐食因子である塩分の弱体化と鉄筋表層の不働態化を図るためのもの(不動態皮膜を再生するもの)であり、例えば、亜硝酸カルシウム又は亜硝酸リチウム等を、水溶液にして使用できる(亜硝酸カルシウムと亜硝酸リチウムを混合して使用してもよい)。
消石灰は、水溶液のpHを11~12のレベルに保持するための添加材であり、亜硝酸塩の自己分解を防止するものである。
着色材は、浸透・付着防錆材を着色するものであり、塗残しを防ぐ効果がある。着色材としては、コンクリート構造物の補修に通常使用されているものであれば、特に限定されるものではないが、水性インクや亜リン酸カルシウム系の防錆顔料で検証したところ、沈殿、凝集、付着力の低下等が確認されたため、これらの影響が少ない酸化チタンを使用することが好ましい。
水系アクリル共重合体は、水に分散させて水系アクリル樹脂エマルジョン(エマルションとも称す、以下同じ)とすることで、残存コンクリート表層部に浸透し、バインダーとして機能するものであり、例えば、アクリル系エステル共重合体又はアクリル/スチレン共重合体等を使用できる(アクリル系エステル共重合体を主成分にしたエマルジョン又はアクリル/スチレン共重合体エマルジョン等)。
【0034】
(1)防錆プライマー層の塗布と防錆モルタルの充填
塩害により劣化したコンクリート部の補修対策として断面修復を適用する場合、部分的な断面修復と電気化学的な補修対策を併用している。一方、全てを断面修復する場合、鉄筋周囲の母材コンクリート中の塩化物イオンを除去する対策を講じないと、補修効果の長期にわたる持続が期待できないといわれている。
従って、部分的な断面修復をより効果の高いものにするため、残存コンクリートと部分的補修を行った修復部分との境界面の電位差を小さくして腐食電流量を少なくする必要がある。
本発明では、この点に鑑み、断面修復の境界面から約40mm離れた部分の鉄筋表面のアノード化(港湾空港技術研究所報告 第48巻 第43(vol48 No4)報告書より)を小さくすることに着目した。
そのため、この位置に拡散してくる塩化物イオン量を少なくし、鉄筋周辺に浸透・付着防錆材を塗布し、併せて残存コンクリートと鉄筋の間に防錆モルタルを充填することにした。一方、残存コンクリートのはつり面を水洗(ウォータージェット工法は最適)することで、表面のはつり層と塩化物イオン量は減少する。
この結果、後工程で形成する下塗り層や上塗り層との界面の付着強度が向上して、安定した積層を構築できると供に界面の付着強度を一定のレベルに確保できる。なお、残存コンクリートとの境界部には、コテを使用して防錆モルタルを十分に塗り込み充填する。
【0035】
(2)防錆プライマー層の役割
(2-1)役割1
防錆プライマー層の形成に使用する浸透・付着防錆材は、鉄筋防錆の観点から消石灰が添加され、水溶液のpHを11~12レベルに保持することで、亜硝酸塩の自己分解を防止するものである。
以下の表1に示す各組成の材料(構成材料の数値の単位は質量%)を用いて、pH値の測定を行うことで、表2に示すpHの経時変化を確認した。
なお、pHの測定は以下の手順で行った。
手順1:水系アクリル共重合体の水溶液に亜硝酸塩を添加し、ヘラで混ぜる。
手順2:手順1で作製した水溶液に酸化チタンと消石灰を添加し、ヘラで混ぜる。
手順3:手順2で作製した水溶液に他の添加剤を添加し、撹拌機にて600rpmで1分撹拌する。
手順4:手順3で作製した水溶液にリトマス試験紙を0.5秒浸し、時間経過毎にpHを測定する。
【0036】
【0037】
【0038】
上記表2において、経過時間を24h(24時間)としたのは、第2工程の効果が発揮できるまでpHを保持できればよいことによる。また、No.5とNo.6の1h以降のpH値を記載していないのは、着色材として黒色のものを使用したため、リトマス試験紙の識別ができなかったことによる。
上記したNo.1~No.4の結果から、防錆プライマー層は、第2工程の効果が発揮できるまでpHを保持できることを確認できた。
【0039】
(2-2)役割2
防錆プライマー層の形成に使用する浸透・付着防錆材は、鉄筋防錆の観点から、亜硝酸塩により、腐食因子である塩分を弱体化させ、鉄筋表層及び鉄筋裏まで浸透し拡散して不動態皮膜を再生するものである。
また、水系アクリル共重合体により、はつり後の残存コンクリートに発生する、微小クラックで脆弱化した残存コンクリート表層部を強化するものである。この水系アクリル共重合体は、水に分散させて水系アクリル樹脂エマルジョンとすることで、バインダーとして機能し、水の浸透性を小さくするものであるため、その現象を確認するため、以下に示す呈色液を用いた浸透試験を行った。
【0040】
(試験方法)
1)供試体
土木学会のJSCE-K571「表面含浸材の試験方法」を参考にし、
図5に示す寸法100×100×100mmのコンクリートを準備した。
2)呈色液
2, 4-ジイソシアナート(ジイソシアネート)トルエンをトルエンで希釈し、50%溶液としたもの(本来は10%溶液を使用するが、より濃く着色させるため50%溶液を使用)を用いた。
図5に示すように、供試体表面に、水系アクリル共重合体なしの浸透・付着防錆材(亜硝酸塩のみ含有)と水系アクリル共重合体ありの浸透・付着防錆材(亜硝酸塩と水系アクリル共重合体を)をそれぞれ塗布し、
図6(A)、(B)に示すように、2ヶ月経過後に供試体の浸透面を2等分するように割裂して、その割裂面に呈色液を吹きかけて浸透状況を確認した。
なお、呈色液による着色の条件は、一般的に亜硝酸量として2.3kg/m
3レベルの亜硝酸濃度となっている。
【0041】
(試験結果)
(A)亜硝酸塩のみを含有した浸透・付着防錆材を塗布した場合と、(B)亜硝酸塩と水系アクリル共重合体の双方を含有した浸透・付着防錆材を塗布した場合とで、浸透深さを比較すると、(A)では5.4mmとなり、(B)では3mmとなった。
以上のことから、水系アクリル共重合体を含有する場合、水系アクリル共重合体を含有しない亜硝酸塩のみを含有する浸透・付着防錆材を塗布した場合と比較して、55%程度浸透する結果となった。
従って、浸透性を重視した場合は、水系アクリル共重合体を含まない浸透・付着防錆材(亜硝酸塩単独)の使用もあり得る。
【0042】
(2-3)役割3
コンクリート補修工法において、既設コンクリートと補修部が一体化することは、その強度や補修効果の発現性から最も重要なことと考えられる。防錆プライマー層の形成に使用する浸透・付着防錆材は残存コンクリートに浸透して脆弱層を強化することで、残存コンクリートからの補修部の剥落を防止するものである。
以下、
図7に示す付着力試験を用いて、防錆プライマー層の効果を検証した結果について説明する。
(試験方法)
以下の手順で試験片を作製し、建研式引張試験(引張試験)を実施した。
実施例である試験片は、コンクリートモルタル平板(コンクリート平板)に対し、防錆プライマー層(亜硝酸カルシウムと消石灰と水系アクリル樹脂エマルジョンを含む)、前記した下塗り層、上塗り層、及び、被覆層を順次塗装した後、7日間養生(温度:23℃、湿度(RH):50%)した。養生後の表層(被覆層)を研磨した後、40×40×20mmに切れ込みを入れ、エポキシ樹脂(接着剤)でアタッチメントを接着し、引張試験を実施した。なお、比較例として、防錆プライマー層を用いることなく、コンクリートモルタル平板の表面に直接、実施例と同一構成の下塗り層、上塗り層、及び、被覆層を順次塗装した試験片を用いた。
【0043】
(試験結果)
最大荷重は、実施例が3210N程度であったのに対し、比較例が2016N程度であった。
付着力は、実施例が1.95N/mm2程度であったのに対し、比較例が1.26N/mm2程度であった。
なお、破断面は、コンクリートモルタル平板の凝集破壊であった。
以上のことから、防錆プライマー層を用いることで、下塗り層、上塗り層、及び、被覆層を鉄筋表面と残存コンクリート表面に強固に接着できることが分かった。なお、防錆プライマー層は特に、亜硝酸塩を5~38質量%、水系アクリル共重合体を50質量%以下、水分を40~70質量%の範囲内で、それぞれ変更した浸透・付着防錆材(水溶液のpHが11~12となるように、水溶液には消石灰が0.3~1.0質量%添加されている)を用いて形成した場合に、より強固な接着力が得られた。
【0044】
従って、浸透・付着防錆材は、亜硝酸塩を5~38質量%(好ましくは、下限が8質量%、上限が28質量%)、水系アクリル共重合体を0又は0を超え50質量%以下(好ましくは、下限が8質量%、上限が28質量%)、水分を40~70質量%(好ましくは、下限が50質量%、上限が60質量%)、水溶液のpHが11~12となるように消石灰を0.3~1.0質量%(好ましくは、下限が0.5質量%、上限が0.7質量%)含むことが好ましい。この浸透・付着防錆材には更に着色材(例えば、酸化チタン)が0又は0を超え7質量%以下(好ましくは、下限が2質量%、上限が5質量%)や、その他の添加剤が含まれてもよい。
亜硝酸塩が5質量%未満の場合、防錆効果が不足して鉄筋に錆が発生し易くなり、38質量%超の場合、不経済になる傾向にある。
消石灰は、水溶液の溶解性に限界があり、1.0質量%超の場合、沈殿物として残り、付着力を低下させる。
着色材は、浸透・付着防錆材に着色機能を付与するためのものであるため、その量を0超としているが、着色の濃淡を考慮すれば2質量%以上が好ましく、7質量%超では、沈殿物が増加し、また、付着力が低下する傾向にある。
水系アクリル共重合体は、バインダーとしての機能を得るためのものであるため、この機能を発揮するには、その量を8質量%以上とすることが好ましく、50質量%超の場合、バインダーとして更なる効果が望めなくなると共に、浸透性が低下する傾向にある。
水分を40~70質量%にすることで、残存コンクリート表層部へ浸透させ易くなる。
【0045】
[下塗り層]
下塗り層15は、上記した防錆プライマー層14上に下塗り防錆材を塗布することで形成されるものである。この下塗り防錆材は、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、及び、水分を含む微粒子コロイド状のものであり、例えば、国際出願番号PCT/JP2011/054237(国際公開2011/105529)を使用できる。
セメントは、補修層18をアルカリ雰囲気に維持するものであり、例えば、高炉セメント又はポルトランドセメント等を使用できるが、高炉セメントが好ましい。
亜硝酸塩は、浸透・付着防錆材に含まれる亜硝酸塩と同じ機能を有するものであり、例えば、セメントが高炉セメント(B種)である場合は亜硝酸カルシウムであることが好ましく、セメントがポルトランドセメントである場合は亜硝酸リチウムであることが好ましいが、亜硝酸カルシウムと亜硝酸リチウムを混合して使用することもできる。混合することの効果は、亜硝酸塩の保水性の良さと硬化の遅延効果を改良することができることである。
水系アクリル共重合体は、水に分散させて水系アクリル樹脂エマルジョンとすることで、バインダーとして機能するものであり、併せて水の浸透性を小さくするものである。上記した浸透・付着防錆材に含まれる水系アクリル共重合体と同様、例えば、アクリル系エステル共重合体又はアクリル/スチレン共重合体等を使用できる。
【0046】
(1)下塗り層の役割
下塗り層は高アルカリ性であるため、鉄筋表面が不働態化され腐食を抑制できる。
この下塗り層の損傷部分から腐食が進行しようとする場合、亜硝酸塩の還元効果により不働態被膜(Fe2O3)を再構築して錆の成長を抑制するため、損傷部を自己修復できる。
また、下塗り層は、細かな部位にも塗装可能にする粘性と鉄筋表面に対する密着性に優れる。
この下塗り層を形成する下塗り防錆材は水性塗料(水系塗料)であり、脱VOCと脱有害物質を実現できる。
更に、下塗り層は、防錆プライマー層と上塗り層の塗重ね、即ち、相性を良くする重要な役割を果たすものである。
【0047】
(2)下塗り層の概要
下塗り層の形成に使用する下塗り防錆材は、セメントを20~50質量%(好ましくは、下限が30質量%、上限が45質量%)、亜硝酸塩を2~10質量%(好ましくは、下限が5質量%)、水系アクリル共重合体を6~24質量%(好ましくは、下限が10質量%、上限が20質量%)、水分を12~43質量%(好ましくは、下限が15質量%、更には20質量%、上限が40質量%、更には35質量%)含むことが好ましい。
セメントが20質量%未満の場合、付着強度が低下し易くなり、50質量%超の場合、硬化収縮時に下塗り層に亀裂が発生し易くなる。
亜硝酸塩が2質量%未満の場合、防錆効果が不足して促進試験等で錆が発生し易くなり、10質量%超の場合、不経済になると共に、下塗り層の硬化収縮率が大きくなる傾向にある。
水系アクリル共重合体が6質量%未満の場合、下塗り層に亀裂が発生し易くなり、24質量%超の場合、施工性能が低下し易くなる。
水分を12~43質量%にすることで、下塗り防錆材の作製(混錬)がし易くなる。
なお、下塗り防錆材は、例えば、上記した亜硝酸塩の水溶液と水系アクリル共重合体のエマルジョンとを撹拌し混合した後、これにセメントを加えて更に撹拌し混合して、作製するのがよい。
【0048】
この下塗り防錆材には更に、例えば、タルク、炭酸カルシウム、高炉スラグ微粉末(例えば、JIS A6206)、石膏(無水石膏)の微粒子素材、及び、混和剤として減水剤、消泡剤、保水剤、色粉等(例えば、これらのいずれか1つが、又は、2つ以上の合計が、10~25質量%程度)が含まれてもよい。
タルクは、緻密な粉体構成にし易く、併せて水の浸透性を小さくするもの、炭酸カルシウムは、セメントとタルクを橋渡しすると供に、セメントの結合力を向上させるもの、高炉スラグ微粉末は、セメントの早強性向上を図るもの、石膏は、初期の膨張性を向上させるものである。
減水剤は減水効果をもたらすもの、消泡剤は消泡効果を得るもの、保水剤は保水効果を得るもの、色粉はスケ感を解消するものである。
なお、耐水性を向上させるには、ポリマー製造時にカルボン酸の中和剤にアンモニアを使用するのがよい。
【0049】
(3)下塗り層の評価
(試験片の作製)
使用した鋼板は、北九州地区で約1年屋外暴露して錆を発生させたものであり、表面が4種ケレンの清浄度となるように下地処理を実施した。
試験片寸法:150×70~75×3.2mm
塗装方法は、混練した下塗り防錆材を上記した試験片に刷毛で1日1回を基本に塗り重ねたものである。
塗装後の養生は、空調のある室内で、温度:20~25℃、湿度:50~70%RHの条件で行った。なお、養生期間は塗膜の完全硬化のため2週間とした。
【0050】
(評価方法)
評価は、下塗り層上に、前記した上塗り層と被覆層を順次施工したもので行った。
・塩水噴霧試験(SST)
塩水噴霧試験は、JISK5600-7-1「塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性-第1節:耐中性塩水噴霧性」に準じて2000時間で実施した。
試験条件:槽内温度35℃、5%塩水噴霧(噴霧量1~2mL)
・複合サイクル試験(CCT)
以下に示すサイクルAとサイクルDで実施した。
サイクルA(1サイクル8時間:噴霧2時間→乾燥4時間→湿潤2時間)
サイクルD(1サイクル6時間:噴霧0.5時間→乾燥4時間→湿潤1.5時間)
(試験結果)
・サイクルAとサイクルDの各試験の結果に差はなかった。
・付着強度(材令14日)は「>1.0N/mm2」であり、合格判定であった。
・塩水噴霧試験は、クロスカット部の錆幅が2.0mmであり、合格判定であった。
・複合サイクル試験は、クロスカット部の錆幅が1.3mmであり、合格判定であった。
【0051】
[上塗り層]
上塗り層16は、下塗り層15の亜硝酸塩の逸散を防止し、併せて下塗り層15の中性化を改善し、従来のコンクリートかぶり機能に相当した機能を持たせた層である。上塗り層16は、上記した下塗り層15上に上塗り防錆材を塗布することで形成されるものであり、この上塗り防錆材は、セメント、亜硝酸塩、水系アクリル共重合体、繊維材、及び、水分を含むモルタル状のものである。
セメントは、上記した下塗り防錆材に含まれるセメントと同じ機能を有するものであり、例えば、高炉セメント又はポルトランドセメント等を使用できるが、高炉セメントが好ましい。
亜硝酸塩は、上記した浸透・付着防錆材の亜硝酸塩、及び、下塗り防錆材の亜硝酸塩と同じ機能を有するものであり、例えば、亜硝酸カルシウム及び/又は亜硝酸リチウム等を使用でき、セメントの種類に応じて選択することが好ましい(下塗り防錆材の亜硝酸塩と同様)。
水系アクリル共重合体は、上記した下塗り防錆材に含まれる水系アクリル共重合体と同じ機能を有するものであり、例えば、アクリル系エステル共重合体又はアクリル/スチレン共重合体等を使用できる。
繊維材は、割れに対応するため上塗り層16に靱性を付与するものであり、例えば、樹脂製やガラス製、カーボン製で、長さが3~15mm(好ましくは、上限が10mm)程度、径が10~50μm程度の短繊維(ファイバー)等を使用できる。
【0052】
ここで、上塗り防錆材は、セメントを20~50質量%(好ましくは、下限が30質量%、上限が45質量%)、亜硝酸塩を2~10質量%(好ましくは、下限が5質量%)、水系アクリル共重合体を6~24質量%(好ましくは、下限が10質量%、上限が20質量%)、繊維材を0.5~1.5質量%(好ましくは、下限が0.8質量%)、水分を12~43質量%(好ましくは、下限が15質量%、更には20質量%、上限が40質量%)含むことが好ましい。
セメントが20質量%未満の場合、塗布中にダレが発生し易くなり、50質量%超の場合、硬くなって仕上げ感が悪くなる傾向にある。
亜硝酸塩が2質量%未満の場合、防錆効果が低下し易くなり、10質量%超の場合、不経済になる傾向にある。
水系アクリル共重合体が6質量%未満の場合、上塗り層に亀裂が発生し易くなり、24質量%超の場合、セメントの比率との関係でダレが発生し易くなる。
繊維材が0.5質量%未満の場合、亀裂発生に対する抑制機能が低下して必要な靱性を確保できない傾向にあり、1.5質量%超の場合、靱性向上への更なる効果が望めなくなる傾向にある。
水分を12~43質量%にすることで、上塗り防錆材の作製(混錬)がし易くなるが、上塗り防錆材を作製した後に、必要に応じて加水(更に水分を添加)することもできる。
なお、上塗り防錆材は、例えば、上記した亜硝酸塩の水溶液と水系アクリル共重合体のエマルジョンとを撹拌し混合した後、これにセメントを加えて撹拌し混合し、更に、繊維材を加えて撹拌し混合して、作製するのがよい。この上塗り防錆材は、前記した下塗り防錆材に更に繊維材を添加することで作製できるが、下塗り防錆材の各成分とは異なる配合にして作製することもできる。
【0053】
上塗り層16は、上記したように、下塗り層15の機能を補強する役割を期待するものである。即ち、下塗り層15は塗厚が薄く、初期のピンホール等の欠陥部より点錆が発生するため、これを上塗り層16により少なくするものである。
通常、塗膜厚を150μm以上にしなければ、ピンホール等の欠陥が大幅に増加するといわれている。このため、上塗り防錆材を塗厚2mmレベルで塗布し、この欠陥を無くすと同時に塗厚により発生する乾燥割れに対処するため、上塗り防錆材に繊維材(ファイバー)を添加し対応した。
なお、上塗り防錆材の粘度は、前記した下塗り防錆材の粘度よりも高くなっている(例えば、下塗り防錆材の粘度の2倍以上(更には3倍以上)であり、具体的には20Pa・s以上(更には30Pa・s以上)、ここでは50Pa・s程度である)。
また、上塗り防錆材には更に、上記した下塗り防錆材と同様、例えば、タルク、炭酸カルシウム、高炉スラグ微粉末、石膏(無水石膏)の微粒子素材、及び、混和剤として減水剤、消泡剤、保水剤、色粉等(例えば、これらのいずれか1つが、又は、2つ以上の合計が、10~25質量%程度)が含まれてもよい。
以下、防錆塗料施工後のピンホールからの錆汁発生原因を調査した結果について説明する。
【0054】
(錆汁発生原因の解明)
マイクロスコープの写真では、下地に付着した錆が気泡を介して表面に出ていると確認された。なお、洗い処理されないサンプルでは、錆びた場所が多く、気泡の大きさは約30μmであった。
エネルギー分散型X線分析(EDX)では、錆びたところにClとFeが含まれると判明した。この現象は、塩水(海水)で錆びた鉄が下地の水分に溶解され、気泡に透って表面に出ることにより発生したことによるものと考えられる。
なお、従来の断面修復工法では、補修部より浸透した雨水や塩化物イオンにより鉄筋が再爆裂し、断面修復部が剥離して落下する。
このため、本発明は、従来のように鉄筋保護にコンクリートかぶり部を設けることを中止し、鉄筋周辺部をアルカリ雰囲気に保つと同時に、亜硝酸塩を併用することにより、鉄筋の発錆を少なくしている。
【0055】
ここで、上塗り層の靱性(伸び)の効果を検証した結果について説明する。
(試験方法)
試験は、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じてダンベル状の試験片(2号)を作製し、JIS A6021「建築用塗膜防水材」に準じて実施した。なお、ダンベル状の試験片の材料は、以下の手順で作製した。
まず、亜硝酸カルシウムと水系アクリル樹脂エマルジョンを容器に投入し、手動にて均一に撹拌した。次に、高炉セメントを容器に投入し、更に手動にて素早く混ぜ合わせた。
これらを1100rpmの高速回転で1分間撹拌した。
そして、合成樹脂性の繊維材(径:28μm、長さ:10mm)を投入し、更に1100rpmの高速回転で1分30秒撹拌した。
なお、上記した繊維材を含む材料は、実施例である試験片に使用し、繊維材を含まない材料は、比較例である試験片に使用した。
【0056】
(試験結果)
最大変位は、繊維材を含まない比較例が2.47mmであったのに対し、繊維材を含む実施例では、比較例の2~2.5倍程度となり、実施例は比較例と比較して柔軟性があることを確認できた。
伸び率は、実施例が比較例の3倍程度となった。
以上のことから、上塗り層16により、塗膜の耐変形性を大幅に改良できることを確認できた。
【0057】
[被覆層]
被覆層17は、上記した上塗り層16上に塗布することで形成されるものであり、被覆用塗料で形成されている。この被覆用塗料には、有機系塗料又は無機系塗料があり、具体的には、アクリル変性エポキシ樹脂系又はポリウレタン樹脂系等の使用が適しているが、フッ素樹脂系を使用することもできる。
特に、被覆用塗料に水系塗料を使用した場合、補修層18を構成する4層全てが水系の材料で構成されることになるため、VOCの低減が図れ、環境負荷の低減に寄与できる。
被覆層17の役割は、環境中の腐食成分(水、塩等)の浸入を防止することにある。
また、上塗り層16と相性のよい材料の選択が必要である。即ち、適切な被覆層17との組合せにより、補修層18の耐候性(耐久性)を保持することが可能になる。
【0058】
[コンクリート構造物の補修構造の総合評価]
(防錆性評価試験)
・試験片
φ20の異形鉄筋表面に各材料を塗り重ね、以下に示す5種類の試験片を作製した。
仕様A:防錆プライマー層(1層)のみを形成
仕様B:防錆プライマー層と下塗り層(2層)を順次形成
仕様C:防錆プライマー層と下塗り層と上塗り層(3層)を順次形成
仕様D:防錆プライマー層と下塗り層と被覆層(3層)を順次形成
仕様E:防錆プライマー層と下塗り層と上塗り層と被覆層(4層)を順次形成
・試験方法
複合サイクル試験機(CYP-90/スガ試験機(株)製)を使用し、JIS K5621「一般用さび止めペイント」に準じて、サイクル腐食性による腐食促進試験を行った。
噴霧溶液:5%NaCl水溶液(pH7)
サイクル条件:塩水噴霧(30℃、0.5時間)→湿潤(30℃、98%RH、1.5時間)→乾燥(50℃、25%RH、2時間)→乾燥(30℃、25%RH、2時間)
・評価方法
材料を段階的に塗り重ねた鉄筋を促進試験機に暴露し、500時間ごとの塗膜性状(割れ、はがれ、発錆)を目視確認した。
【0059】
・試験結果
以下、1200時間での結果について示す。
防錆プライマー層のみを形成した仕様Aは、他の仕様と比較して錆の進行が見られたため、168時間経過後にラップ(皮膜)で対象部を被覆した。
防錆プライマー層と下塗り層を形成した仕様Bは、400時間経過後、ピンホールから発錆があった。なお、錆の大きさに変化は無く、進行は見られなかった。
上塗り層を形成した仕様C及び仕様Eは、発錆が見られず、良好な結果が得られた。
【0060】
(中性化試験)
40×40×160mmの角柱モルタルを、養生材令1.28日にてCO
2濃度5%、温度20℃、湿度60%RHの環境下に静置し、最大91日目まで中性化促進を行った。
なお、中性化深さは、1%フェノールフタレインアルコール溶液を噴霧し、呈色しなかった範囲とした。
本発明を構成する上塗り層の練り混ぜ水に対する濃度(mol/L)は、次のようになる。なお、「L」は「リットル」である(以下同じ)。
以下は、(粉体+液体)=100部に対する値である。
ポリマーの水分 :15.2%
亜硝酸リチウム水溶液 :4.87%(固型分:1.22%、水分:3.65%)
亜硝酸カルシウム水溶液:4.55%(固型分:1.37%、水分:3.19%)
従って、ポリマー+亜硝酸リチウムの組合せの全水分は18.85%
ポリマー+亜硝酸カルシウムの組合せの全水分は18.39%
練混ぜ水に対する亜硝酸塩の置換率(%)は、亜硝酸リチウム水溶液で24.3%、亜硝酸カルシウム水溶液で23.0%、である。
以上より、練混ぜ水に対する各濃度(mol/L)は、以下のように算出される。
(1)亜硝酸塩濃度
(リチウム) 0.114(mol/L)・・・(a)
(カルシウム) 0.052(mol/L)・・・(b)
(2)亜硝酸イオン濃度
(リチウム) 0.132(mol/L)・・・(c)
(カルシウム) 0.075(mol/L)・・・(d)
上記した上塗り層に換算した値を、
図8に示す練混ぜ水に対する各濃度と中性化深さとの関係に落とし込むと、亜硝酸リチウムの場合、中性化深さは1mm以下となる。また、亜硝酸カルシウムの場合、2mmレベルとなる。なお、
図8は、行徳圭洋、他3名、「亜硝酸塩がポリマーセメントモルタルに与える影響に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、Vol.34.No.1、2012年、p.1684-p.1689、を引用したものである。
前記したように、実施の形態の上塗り層の塗厚は2mm程度であるので、亜硝酸リチウムを使用すれば中性化はしないことになる。
但し、亜硝酸カルシウムを使用すれば、中性化深さは無添加に比較して1/3レベルに低下できる。
通常のコンクリートのかぶり部の厚みが30~50mmと考えると、上塗り層は10~17mm必要となるが、上塗り層上に被覆層を形成することで、耐候性を向上できる。
【0061】
(断面修復工法の評価試験)
まず、
図9、
図10に示す梁の曲げ載荷試験を用いて、断面修復工法により修復したかぶり部(断面修復材)が、梁の曲げ耐力に及ぼす影響について調査した結果について説明する。なお、
図9、
図10中の数値の各単位は「mm」である。
(試験に用いた梁(供試体))
図9に示すCaseA~Cの3種類の梁を使用した。
ここで、CaseAは健全な梁(劣化無し)、CaseBは下部が劣化して断面欠損した梁、CaseCは引張側欠損部(CaseB)をグラウトのみで補修した梁を、それぞれ示している。なお、CaseCは補修の際、コンクリートに対するグラウトの付着を良好にするため、コンクリート表面をチッピングしている。
【0062】
・試験方法
測定及び観察項目は、(1)梁の中央断面(側面)の歪み分布、(2)梁のたわみ、(3)ひび割れ状況、(4)破壊荷重及び破壊形式等である。
曲げ載荷試験に使用した装置(以下、曲げ装置とも言う)は、
図9に示すように、スパン(支持点)間隔1.9m、中央部等曲げモーメント区間0.3mの2点載荷となったものである。ここで、載荷荷重は、0.46tf刻み(ロードセルの読みで10μ刻み)で、破壊まで単調増加させた。
歪みは、
図10に示すように、コンクリートの表面(上面に9箇所、側面に21箇所、底面に9箇所)に貼り付けた歪みゲージで、また、たわみはスパン中央部(3箇所)と両端部(各1箇所)にそれぞれセットした変位計によって、それぞれ測定した。このたわみ値は、梁の長さ方向において、(中央点のたわみ)-(両端部のたわみの平均値)から求めている。なお、
図10は、CaseAの梁を使用して歪みゲージ及び変位計の配置位置を説明しているが、歪みゲージ及び変位計の配置位置は、他の梁(CaseB、C)についても同様である。
【0063】
・試験結果
図11に示すように、CaseA~Cの荷重たわみ曲線は、いずれも同様の傾向を示しているが、健全な梁であるCaseAの破壊荷重が4.09tfであるのに対し、欠損した梁であるCaseBの破壊荷重は3.96tfと、若干低下している。また、引張側欠損部をグラウトのみで補修したCaseCの破壊荷重は3.63tfであり、補修したにも関らずCaseBよりも更に低下している。
以上のことから、引張側欠損部をグラウトで補修しても、鉄筋の量を変えていないため、かぶりは確保できても曲げ耐力が増加しないことが分かった。即ち、曲げ耐力の観点からは、かぶり部が必須の構成ではないことが分かった。
換言すれば、鉄筋の防錆効果を他の方法で確保できれば、かぶり部は必要ないといえる。
【0064】
(VOCの必要性)
・低VOC塗装の必要性
土木工事や建築工事等の屋外塗装におけるVOC排出は、都内のVOC排出量全体の13%と大きな割合を占めている。
しかし、塗膜の防錆性能や経年劣化への懸念と、良好な塗膜を形成させるための施工条件が十分把握されていないため、低VOC塗料の適応が難しく、現場塗装では拝ガス処理装置によるVOCの回収と処理が困難なこともあり、積極的な対策が行われていない。
近年、水性塗料や低溶剤型塗料等、低VOC塗料の製品化が進んだことで、施工箇所と条件によっては、低VOC塗料の採用が可能になりつつある。また、施工現場において、塗料や希釈溶剤を適切に取り扱うことで、VOCの排出抑制が可能である。更に、大気環境の改善に向け、低VOC塗料の積極的な活用と塗装工程の適切な管理が求められている。
・低VOC塗装によるメリット
学校やビル、集合住宅等の建築物や、橋梁・水門等の土木構造物に塗装を行う屋外塗装工事で排出されるVOCは、排ガス処理装置の設置による回収ができないことから、直接大気中に放出される。このため、VOCの排出抑制に配慮した資材の選択が重要である。水性塗料だけでなく、塗料中の不揮発性成分が多いハイソリッド型の低VOC塗料を採用することでも、VOCの排出削減に大きく貢献することができる。
また、塗料缶等の容器の蓋をこまめに閉めるなど、現場での作業改善でも、溶剤の無駄な蒸発を防止することができ、効果的なVOC対策につながる。
これらの取組により、大気環境の改善、工事現場周辺での臭気抑制、作業環境の改善に効果的なだけでなく、環境対策に積極的に取り組むことで、社会的評価が向上する等のメリットがある。
【0065】
(鉄筋に対する付着性試験)
・試験体
図12に示すように、モルタルを15cm×15cm×15cmの型枠に打設した。
この型枠の中央に長さ800mmの鉄筋を配置し、載荷中(試験中)にモルタルが割れるおそれがあるため、直径3mm、ピッチ25mm×5段の鉄製スパイラル(
図12中のバーインコイル)を配筋した。
使用した鉄筋表面には、以下の層が形成されている。
水準1:層なし
水準2:防錆プライマー層と下塗り層(2層)を順次形成
水準3:防錆プライマー層と下塗り層と上塗り層(3層)を順次形成
水準4:防錆プライマー層と下塗り層と被覆層(3層)を順次形成
・試験方法
鉄筋の引抜装置には、JIS B7721「引張試験機・圧縮試験機-力計測系の校正方法及び検証方法」に準じ、鉄筋に対して引張荷重を鉛直に、かつ、偏心しないように加えることができ、鉄筋端部の滑り量を測定するための変位計の取り付けができる構造のものを用いた。なお、載荷速度は。鉄筋の引張応力度の増加が毎分50N/mm
2以下となるようにする規定がある。
【0066】
・試験結果
付着強さ(γb:N/mm2)は、最大荷重(Pmax:N)を、鉄筋の埋め込み長さ(mm)と鉄筋周長(mm)の積で除すことにより算出できる。なお、D19の異形棒鋼(鉄筋)の周長は60mmである。
付着強さは、水準1で9.0N/mm2、水準2で9.3N/mm2、水準3で6.7N/mm2、水準4で8.2N/mm2、という結果が得られた。
【0067】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のコンクリート構造物の補修方法及びその補修構造を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、コンクリート構造物の補修構造を、防錆プライマー層、下塗り層、上塗り層、及び、被覆層の4層で構成した場合について説明したが、この4層を含み、被覆層表面を外気に露出させた構造(5層以上でもよい)であれば、本発明の権利範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法及びその補修構造は、従来の断面修復工法を用いた断面修復材による補修部分の埋め戻しを行わないため、かぶり部が不要になる。これによって、かぶり部に起因した危険性(例えば、かぶり部の落下)を解消できるので、安全に配慮した社会環境を提供できる。
【符号の説明】
【0069】
10:コンクリート構造物の補修構造、11:コンクリート構造物、12:鉄筋、13:残存コンクリート、14:防錆プライマー層、15:下塗り層、16:上塗り層、17:被覆層、18:補修層、19:既存コンクリート