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特許7515815低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム
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  • 特許-低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム 図1
  • 特許-低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム 図2
  • 特許-低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム 図3
  • 特許-低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム 図4
  • 特許-低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
G21G4/08 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024075307
(22)【出願日】2024-05-07
【審査請求日】2024-05-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524171220
【氏名又は名称】Chemical Design Labo.合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524171231
【氏名又は名称】イノヴェイティブ・フュエル・ソリューションズ・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Innovative Fuel Solutions LLC
【住所又は居所原語表記】5907 Rose Sage St, North Las Vegas, NV, 89031, USA
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 克嘉
(72)【発明者】
【氏名】エドワード マウゾルフ
(72)【発明者】
【氏名】エリック ブイ.ジョンストン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第5427483(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液中に含まれる、当該モリブデン99の崩壊により生成された娘核種テクネチウム99mを、活性炭で分離させて回収する方法であって、
前記活性炭は、流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に充填され、撹拌により流動している前記モリブデン溶液中に浸漬されることで、その中の微量なテクネチウム99mを選択的に吸着する、
ことを特徴とする低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法。
【請求項2】
前記モリブデン溶液は、天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される放射性核種モリブデン99を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法で回収されたテクネチウム99mが吸着された活性炭の細孔中に残留するモリブデンを水洗し、
その活性炭からアルカリ溶液で溶出させたテクネチウム99mを含む溶液を強酸性陽イオン交換樹脂が充填されたIERカラムに通液させてアルカリ成分を除去し、
さらにアルミナを充填したALカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉し、
前記アルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させることで、不純物が除去されたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液として精製する、
ことを特徴とするテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法。
【請求項4】
前記活性炭を収容する容器、前記IERカラム、及び前記ALカラムは、オートクレーブ滅菌処理可能な材質を用いる、
ことを特徴とする請求項3に記載のテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法。
【請求項5】
天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液を生成する手段と、
前記モリブデン溶液中にモリブデン99の崩壊によって娘核種テクネチウム99mを生成させる手段と、
流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に活性炭を充填し、撹拌により流動している前記モリブデン溶液中に前記活性炭を浸漬させる手段と、
テクネチウム99mが吸着された前記活性炭から残留するモリブデン99を水洗する手段と、
水洗された前記活性炭からアルカリ溶液を用いてテクネチウム99mを溶出させ、それを強酸性陽イオン交換樹脂カラムに通液させてアルカリ成分を除去した後の溶液を、アルミナカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉する手段と、
前記アルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させ、精製されたテクネチウム99mを回収する手段と、を有する、
ことを特徴とする天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低比放射能の放射性モリブデン99(99Mo)を原料とする放射性医薬品及びその標識化合物原料としての放射性テクネチウム99m(99mTc)の回収、濃縮、精製分離プロセス及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
Tc(テクネチウム)は、第7族、第5周期に位置する原子番号43の遷移金属である。Tcの同位体のうち、99mTc(テクネチウム99m)は、画像診断に適した短い半減期(6時間)と体外計測に適した弱いエネルギー(140keV)のγ(ガンマ)線のみを放射し、さらに99Mo(モリブデン99)との放射平衡を利用したジェネレータ(99Mo/99mTcジェネレータ)で生成されて核医学画像診断に広く用いられている。99mTcは、短半減期のため、通常その親核種の99Mo(半減期66時間)を得て、99Moから99mTcを得る方法で使われている。
【0003】
99Moを得る方法としては、これまで核分裂性ウラニウム(235U;ウラン)の中性子照射による核分裂法を利用して製造される比放射能(放射性同位元素を含有する物質の単位質量あたりの放射能の強さ)が非常に高い99Moを生成させ、同時に生成される核分裂生成物から分離して用いるFission法(核分裂法)が実用技術として世界中で用いられてきた。その場合は、99Moの比放射能が高いため、その吸着体として一般的に医療用で使われる酸化アルミニウム(アルミナ)を用いて、そのMo飽和吸着以下のMo(99Mo)を担持させ、アルミナカラムに吸着させたMo(99Mo)から生成する99Moの娘核種の99mTcを生理食塩水で溶出(ミルキング)させることによって99mTcを得る方法が、実際の製造技術として使われている。
【0004】
一方、99Moを得るための原料としてウランを用いず、モリブデン化合物を原料として、その同位体の一種として含まれる98Moの中性子放射化(n,γ)反応(中性子nが照射された物質が核反応を起こし、放射性物質に変化した際にγ線を放出する中性子捕獲反応)を利用することで、目的とする99Moを生成する方法があり、この(n,γ)法で生成する99MoはFission法に比べると、その99Moの比放射能が約1万分の1と極端に低く、そのため(n,γ)法を実用化するには大量の非放射性Mo中に含まれる微量の99Moから生成する娘核種としての微量の99mTcを分離し精製回収する必要がある。これまで、(n,γ)法として検討や実用化された方法としては、ゾルゲル法、MEK法、昇華法が知られている。本件発明者等は、別途、(n,γ)法としてのゾルゲル法の一種のPZC(ポリジルコニウム化合物)法を開発し提案している。
【0005】
特許文献1には、テクネチウムの親核種である放射性モリブデン99Moを、天然同位体のMoを原料として原子炉で中性子照射することで98Mo(n,γ)反応により生成し、99Moを含むMo溶液を活性炭(AC)カラムの中を通液させることで、99Moの娘核種である99mTcを選択的にACに吸着させて捕集し、ACカラムの空隙やACの細孔中に残る活性炭非吸着性のMo(99Mo含む)を水で洗い流し、その後、アルカリ(苛性ソーダNaOHなど)溶液を用いてACに吸着している99mTcをACから溶出させ、さらに、99mTc回収液中に含まれるMo、99Mo、放射性不純物やその他の不純物などをACカラムの後段に配置した酸化アルミニウム(アルミナ)を充填したALカラムに通液させて除去することで、99mTc回収液を精製する方法と装置が記載されている。
【0006】
特許文献2には、特許文献1と同様に、天然同位体のMoを原料として原子炉で中性子照射することで98Mo(n,γ)反応により生成された99Moからその娘核種である99mTcを、球状の活性炭(BAC)を用いて99mTcを回収する方法、99Mo含むMo溶液をACカラムにポンプで押し込む加圧フローあるいはポンプで吸い込む減圧フローで通液させる方法を比較検討し、その後、ACカラムの空隙やACの細孔中に残る活性炭非吸着性のMo(99Mo含む)を水で洗い流した後、アルカリ(苛性ソーダNaOHなど)溶液を用いてACに吸着された99mTcをACから溶出させる方法として、80℃程度に加熱して溶出を促進させる方法を検討し、その後、99mTc回収液中に含まれるMo、99Mo、放射化不純物やその他の不純物などを、ACカラムの後段に配置したALを充填させたカラムで除去することで99mTc回収液を精製する方法と装置が記載されている。
【0007】
特許文献3には、特許文献1及び特許文献2と同様に、天然同位体のMoを原料として原子炉で中性子照射することで98Mo(n,γ)反応により生成された99Moからその娘核種である99mTcを、ACを用いて回収する方法として、主に、99Moから放出されるγ線等の放射線を遮蔽して放射性物質の漏洩を防ぐために二重の隔壁セルの内部に設置した99Moを含むMo溶液タンクから、放射線遮蔽能力の低いACカラムを設置した外部セルに配管し、Mo溶液を外部セルに設置したACカラムに配管し再度内部のMo溶液タンクに戻るように循環通液させることで、99mTcを選択的に吸着捕集して外部への放射線漏洩を防ぐ構造とし、その後、ACカラムの空隙やACの細孔中に残る活性炭非吸着性のMo(99Mo含む)を水で洗い流した後、アルカリ(苛性ソーダNaOHなど)溶液を用いてACに吸着された99mTcをACから溶出させ、最終的に、99mTc回収液中に含まれるMo、99Mo、放射性不純物やその他の不純物などを、ACカラムの後段に配置したALを充填したカラムに通液させて除去することで、99mTc回収液を精製する方法と装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5427483号公報
【文献】特許第5916082号公報
【文献】特許第6355462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3に記載の従来技術は、99Moを含むMo溶液中に生成された99mTcを回収するために、Mo溶液の流入部と流出部が接続された金属製円筒状容器(カラム)の内部に、99mTcを選択的に吸着可能なACを充填内蔵させておいて、そのカラムにMo溶液を通液させるものである。
【0010】
従来方式において、ACカラムに通液させてMo溶液に含まれる99mTcを完全に吸着捕集するには、Mo(99Mo)溶液を流通式のACカラムに流す際の流量に制限を設ける必要がある。具体的には、低比放射能Mo溶液では99Mo濃度が低いため、目的とする量の99mTcを回収するには、多量のMo(99Mo)溶液をACカラムに通液させる必要があり、例えば、5gのACを充填したACカラムに通液させる単位時間あたりの流量として最大50~100mL/分の場合に、2.0LのMo(99Mo)溶液を通液させるには、20~40分以上の時間が必要となり、短半減期の99mTcを短時間で回収して診断利用するには作業効率性が課題である。
【0011】
しかし、Mo(99Mo)溶液量が、例えば、5~20Lになると、99mTcを吸着捕集するためにACカラムに通液させる時間が2~5時間以上要することになり、作業効率が低下し、回収した短半減期の99mTcが変質して99gTcになり医薬品原料として使用不可になるおそれがある。なお、99gTc(テクネチウム99grand)は、99mTcから生成される半減期21.11万年のTcの放射性同位体の一つで、医薬品原料99mTcの抽出分離後の経過時間に比例して生成されていき、多すぎると医薬品原料99mTcの不純物となる。
【0012】
放射性医薬品原料としての放射性モリブデン99(99Mo)を含む高濃度Mo溶液中から、該高濃度Mo溶液中に99Moの崩壊により生成され含まれている99Moの娘核種であるテクネチウム99m(99mTc)を回収するために、Mo(99Mo)の原子数の比が1016以上存在してもその中の微量な99mTcを選択的に吸着回収可能なACを用いれば良い。
【0013】
高濃度Mo溶液中に形成される99Moの娘核種99mTcを選択的に分離回収する方法として、Mo溶液中にACを内蔵した金属網状円筒容器を浸漬させ、周囲のMo溶液を撹拌流動させてMo溶液中の99mTcを吸着捕集する方式であれば、流量制限が必要なACカラムに通液させる必要は無くなる。すなわち、Mo溶液中に含まれる99mTcを、Mo溶液に浸漬されたACに吸着させて捕集すれば、ACカラムへの通液で長時間かけずに済む。
【0014】
そこで、本発明は、モリブデン溶液の量に影響されず、短時間で低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mを抽出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明である低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法は、比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液中に含まれる、当該モリブデン99の崩壊により生成された娘核種テクネチウム99mを、活性炭で分離させて回収する方法であって、前記活性炭は、前記モリブデン溶液中に浸漬され、モリブデンの原子数の比が1016以上存在してもその中の微量なテクネチウム99mを選択的に吸着する、ことを特徴とする。
【0016】
前記低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法において、前記モリブデン溶液は、天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される放射性核種モリブデン99を含む、ことを特徴とする。
【0017】
前記低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法において、前記活性炭は、流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に充填され、撹拌により流動している前記モリブデン溶液中に浸漬される、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明であるテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法は、前記低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法で回収されたテクネチウム99mが吸着された活性炭の細孔中に残留するモリブデンを水洗し、その活性炭からアルカリ溶液で溶出させたテクネチウム99mを含む溶液を強酸性陽イオン交換樹脂が充填されたIERカラムに通液させてアルカリ成分を除去し、さらにアルミナを充填したALカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉し、前記アルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させることで、不純物が除去されたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液として精製する、ことを特徴とする。
【0019】
前記テクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法において、前記活性炭を収容する容器、前記IERカラム、及び前記ALカラムは、オートクレーブ滅菌処理可能な材質を用いる、ことを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明である天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システムは、天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液を生成する手段と、前記モリブデン溶液中にモリブデン99の崩壊によって娘核種テクネチウム99mを生成させる手段と、流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に活性炭を充填し、撹拌により流動している前記モリブデン溶液中に前記活性炭を浸漬させる手段と、テクネチウム99mが吸着された前記活性炭から残留するモリブデン99を水洗する手段と、水洗された前記活性炭からアルカリ溶液を用いてテクネチウム99mを溶出させ、それを強酸性陽イオン交換樹脂カラムに通液させてアルカリ成分を除去した後の溶液を、アルミナカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉する手段と、前記アルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させ、精製されたテクネチウム99mを回収する手段と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、放射性99Moを含む高濃度Mo溶液を生成し、24時間程度放置することで99Moから99mTcが生成され放射平衡(親核種と娘核種の放射能の比が一定に釣り合っている)で混在している状態とし、従来のようにACカラムに通液させるのではなく、撹拌流動しているMo溶液中にAC充填金属網状円筒容器を浸漬させることで、常時99mTcをACに吸着させて捕捉することができる。
【0022】
高濃度Mo溶液の量が、例えば、0.1Lと少量であっても5~20Lと大量であっても、99Moから99mTcが生成され放射平衡になる経過時間又は希望する99mTc量が生成される時間において、目的量の99mTcがACへ選択的に吸着捕集されるので、特に短時間の半減期(6時間)の99mTcの回収には有効である。
【0023】
金属網状円筒容器中のACに吸着捕集された99mTcを脱着処理する際に、ACに非吸着残留するMo(99Mo)も99mTcと同時に溶脱してくるが、99mTc回収液をアルミナカラムに通液させることで、Mo(99Mo)など放射能不純物の混入なく、医薬品原料として高純度の99mTcを精製回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明である低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システムの概要を示す図である。
図2】従来のモリブデン溶液を活性炭カラムに通液させる方法を示す図である。
図3】本発明である低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システムの構成を示す図である。
図4】本発明である低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法と従来方法のプロセスを比較した図である。
図5】本発明であるテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法の短時間製造のプロセス条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
99Moを含むMo溶液をACカラムに通して99mTcを回収するのではなく、ACを充填した円筒形の金属(例えば、ステンレスなど)製の網状容器を、99Mo溶液タンクに常に浸漬させておき、AC容器を浸したMo溶液を撹拌して流動させることにより、常にACが99mTcを吸着可能な状態にする。
【0026】
所定又は任意のタイミングでAC容器をMo溶液から引き抜き、AC細孔に残留しているAC非吸着性の99Moを水で洗浄除去した後、99mTcが吸着されているACをアルカリ溶液で処理することで、ACが捕集した99mTcを溶出させ、その溶液を強酸性陽イオン交換樹脂(IER)とアルミナ(AL)で精製することで高純度99mTcを回収する。
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、99mTcは、放射性核種テクネチウム99mであり、99Moは、放射性核種モリブデン99である。99Moが親核種で、99mTcが娘核種の関係にある。ACは、活性炭であり、IERは、イオン交換樹脂であり、ALは、アルミナ(酸化アルミニウム)である。
【0028】
図1、3は、低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法、その方法を用いたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法、及び天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システムを示す図である。99Moを含むMo溶液をACカラムに通液させる方法に代えて、AC充填金属網状円筒容器でMo溶液中の99mTcを吸着捕集し、99mTcを精製回収する。
【0029】
図2は、従来のモリブデン溶液を活性炭カラムに通液させる方法を示す図である。図4は、本発明である低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法と従来方法のプロセスを比較した図である。図5は、テクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法の短時間製造のプロセス条件を示す図である。
【0030】
低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの抽出方法は、比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液中に含まれる、当該モリブデン99の崩壊により生成された娘核種テクネチウム99mを、活性炭で分離させて回収する。
【0031】
活性炭は、流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に充填され、撹拌により流動しているモリブデン溶液中に浸漬され、モリブデンの原子数の比が1016以上存在してもその中の微量なテクネチウム99mを選択的に吸着する。なお、モリブデン溶液は、天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される放射性核種モリブデン99を含む。
【0032】
テクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液の生成方法は、低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法で回収されたテクネチウム99mが吸着された活性炭の細孔中に残留するモリブデンを水洗し、その活性炭からアルカリ溶液で溶出させたテクネチウム99mを含む溶液を強酸性陽イオン交換樹脂が充填されたIERカラムに通液させてアルカリ成分を除去し、さらにアルミナを充填したALカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉し、アルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させることで、不純物が除去されたテクネチウム99mを含む生理的食塩水溶液として精製する。
【0033】
天然モリブデンからのテクネチウム99mの回収システムは、天然同位体モリブデンの中性子捕獲(n,γ)反応により生成される比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液を生成する手段、モリブデン溶液中にモリブデン99の崩壊によって娘核種テクネチウム99mを生成させる手段、流量が制限されるカラムではない金属網状円筒容器内に活性炭を充填し、撹拌により流動しているモリブデン溶液中に前記活性炭を浸漬させる手段、テクネチウム99mが吸着された活性炭から残留するモリブデン99を水洗する手段、水洗された活性炭からアルカリ溶液を用いてテクネチウム99mを溶出させ、それを強酸性陽イオン交換樹脂カラムに通液させてアルカリ成分を除去した後の溶液を、アルミナカラムに通液させてテクネチウム99mを捕捉する手段、及びアルミナカラムから生理食塩水を用いてテクネチウム99mを溶出させ、精製されたテクネチウム99mを回収する手段を有する。
【実施例1】
【0034】
図1に示すように、Mo溶液を貯留したタンク100は、99Moの放射線量が高いため放射線を遮蔽するホットセル内に設置される。Mo溶液タンク100の内部には、溶液を撹拌する機能として撹拌機110を備え、ACを収容した金属網状円筒容器120を溶液中で保持するための支持具130も設ける。ホットセル内に複数のタンク100を設置しても良い。
【0035】
放射性医薬品原料99mTcを生成するために、放射性核種99Moを含んだMo溶液として、Na 99MoO溶液をタンク100に供給する。前もって原子炉で天然同位体MoOに中性子照射すると99Moが生成される。99Moが含まれるMoOをアルカリ(NaOH)溶液で溶解させると、pH中性のNa 99MoO溶液となる。
【0036】
放射性99Moを含むMo溶液は、例えば、2L中に500gのMo(MoOとしては750g)を含む高濃度Mo溶液である。1回500Ci(キュリー)程度の99mTcを得るために、2L中に500gのMoを含む高濃度Mo溶液が必要となるが、その10分の1量の200mL中に50gのMo(MoOとしては75g)を含む高濃度Mo溶液や、又は10倍量の20L中に5kgのMo(MoOとしては7.5kg)を含む高濃度で大量のMo溶液でも良い。
【0037】
99Moを含むMo溶液を入れたタンク100の中に、ACを収容した金属網状円筒容器120を入れ、それを支持具130でMo溶液中に保持した状態で、撹拌機110や循環ポンプの水流などを用いてMo溶液を撹拌する。この状態を保つことで、Mo溶液中で生成された99mTcがACに吸着捕集される。
【0038】
99Moから生成される99mTcは、約24時間で放射平衡状態となるため、その経過時間を待って、金属網状円筒容器120をMo溶液中から引き上げても良いし、放射平衡に至る前の任意のタイミングで引き上げても良い。金属網状円筒容器120をMo溶液中に浸漬してから引き上げるまでの間は、99mTcをACで吸着可能である。
【0039】
図2に示すように、従来型のTcMM(テクネチウム99mマスターミルカー)は、Mo溶液中の99mTcをACに吸着させるために、Mo溶液を全量ACカラムに通液させる方式である。ACカラムは、筒状容器にACを充填させたもので、入口から出口まで筒内を液体が通過しながらACと接触する。この方式だと、ACカラム内を通過するMo溶液の流量が制限されるため、ACカラムがMo溶液を処理する能力が制限されることになり、半減期(寿命)が短時間である99mTcの回収技術としては問題がある。
【0040】
図3に示すように、低比放射能Mo溶液から99mTcを高濃縮・精製回収するシステムは、高放射線を遮蔽するために厚い遮蔽壁で隔離されたホットセル140内に設置される。予め、放射化99MoOをアルカリで溶解させて99MoO溶液を生成しておく。ホットセル140内に複数設けた容量1~20Lの貯槽タンク100に99MoO溶液を供給して、99Moの放射能が500Ciの高濃度Mo溶液を貯留する。
【0041】
ACを収容内蔵させた金属網状円筒容器120を、フック及びキャリー等を用いてタンク100内に入れ、支持具130で99Moを含むMo溶液中に保持する。なお、放射性99Moが崩壊することで99mTcに変化し、99mTcを含むMo溶液となる。
【0042】
金属網状円筒容器120がMo溶液に含侵されたら、撹拌機110でMo溶液を撹拌して、Mo溶液を効率的にACに接触させると良い。Mo溶液中に生成された99mTcがACに吸着捕集される。金属網状円筒容器120をタンク100から引き上げ、99mTcが吸着されているACを回収する。そして、ACをカラムに収容して水洗することで、ACに非吸着残留する99Mo等を洗浄除去する。
【0043】
AC収容カラムに、アルカリ(NaOH)溶液を流量及び温度を調節しながら供給して通液させる。アルカリ溶液で処理することで、ACからアルカリ溶液に99mTcが溶出し、排出された99mTcを含むアルカリ溶液をIERカラム150に通液させる。IERカラム150で強酸性陽イオン交換樹脂にアルカリ成分が捕捉され、排出された99mTcを含む溶液をALカラム160に通液させる。
【0044】
ALカラム160でアルミナに99mTcが捕捉され、不純物は排出される。その後、ALカラム160にNaCl濃度0.9%程度の生理食塩水を通液させることで、アルミナから生理食塩水に99mTcが溶出する。99mTcO溶液となって生理食塩水とともに排出されるので、それを高純度に精製された99mTcを含む生理的食塩水溶液として回収することで、放射性医薬品や標識化合物の原料となる。
【0045】
高濃度Mo溶液から高純度99mTcを精製回収する過程で生じる廃棄物や廃液については、それらに付着した放射能を自然減衰させて低レベル化してから固化処理などを行えば良い。それに伴い生じる様々な放射性・非放射性の廃棄物等を保管収容するスペースをホットセル140等に設けても良い。
【0046】
ACを収容する容器(金属網状円筒容器120、ACを水洗するためのAC収容カラム)、IERカラム150、ALカラム160については、オートクレーブ(121℃、2気圧)滅菌処理が可能な材質及び内容物(AC、IER、AL)とするのが好ましい。
【0047】
図4に示すように、従来方式と本発明のプロセスを対比する。従来方式は、ACカラムに通液させてMo溶液に含まれる99mTcを吸着捕集するフロー方式のTcMMである。本発明は、Mo溶液をACカラムに通液させるのではなく、ACを収容内蔵させた金属網状円筒容器120を高濃度Mo溶液が流動している中に浸漬させることで、Mo溶液中に生成された99mTcをACに吸着させるバッチ方式の改良型TcMMである。
【0048】
従来方式では、Mo溶液をACカラムに通液させてMo溶液に含まれる99mTcを完全に吸着捕集するには、Mo溶液を流すためにACカラムに流量制限を設ける必要があった。具体的には、低比放射能Mo溶液では、99Moの濃度が低いため、目的とする量の99mTcを回収するには、多量のMo溶液をACカラムに通液させる必要がある。例えば、ACカラムに通液させる単位時間あたりの流量が最大50~100mL/分とした場合、2.0LのMo溶液を通液させるには、20~40分以上の時間を要し、短半減期の99mTcを短時間で回収して診断利用するには作業効率が良くない。
【0049】
しかも、低濃度Mo溶液の場合は、より低濃度の99mTcになるため、99mTcをACカラムで吸着捕集する際に、より多量のMo溶液をACカラムに通液させることになる。例えば、Mo溶液の量が5~20Lになると、ACカラムへの通液に2~5時間以上要することになり、回収した99mTcが変質して99gTcになり、医薬品原料として使用できなくなるおそれがある。
【0050】
それに対し、本発明では、金属網状円筒容器120に収容させるACが、放射性99Moを含む高濃度Mo溶液中で99Moの崩壊により生じた娘核種である99mTcに対して99Moの原子数の比が1016以上存在していても、その中の微量な99mTcを選択的に分離して回収可能である。
【0051】
Mo溶液中にACを内蔵した金属網状円筒容器120を浸漬させ、Mo溶液を撹拌して金属網状円筒容器120の周囲を流動させることで、Mo溶液中の99mTcがACに吸着されやすくなる。ACカラムに通液させるためにMo溶液の流量を調整する必要はなく、常に金属網状円筒容器120の周囲に存在するMo溶液全体から99mTcがACに吸着されるため、短時間で99mTcを捕集することが可能となる。
【0052】
図5に示すように、Mo溶液中にACを収容内蔵した金属網状円筒容器120を浸漬させ、99mTcを吸着捕集したACから医薬品原料として精製した99mTcを回収するステップ毎の所要時間は、従来方式より大幅に短縮される。Mo溶液量や99Moの放射能の多少に関わらず、ACが常時99mTcを吸着捕集するので、それに要するプロセス時間はゼロである。その後、ACから99mTcを精製して回収する時間は約10分であり、常に一定時間と同じプロセスで操作可能となるため、厳格な品質や出荷態勢が要求される医薬品原料製造技術として最適の方法である。
【実施例2】
【0053】
非常に多量のMo(2,500g)を含むMoO(3,750g)を、6M(モル濃度mol/L)のNaOH(1.75~1.8L)で溶解した後、HOを添加してpH8~9のMo溶液(10L)を作製した。そのMo溶液を15L容量のビーカーに入れて、99mTc(500Ci)の代替元素としてRe(レニウム)0.1mgを添加し、そのMo溶液にAC(4.5g)が充填されたステンレス網の金属網状円筒容器(直径1.6cm、長さ6cm、容量12cc)を浸漬させ、撹拌機の回転羽をMo溶液中で6時間回転(30rpm)させて撹拌した。撹拌後、金属網状円筒容器をMo容器から取り出し、水洗してACの細孔に非吸着で残留しているMoを洗浄除去し、1.3MのNaOH(30mL)でACに吸着されているReをACから溶出させた。その溶液を強酸性陽イオン交換樹脂が充填されたIERカラムに通液させ、さらに活性アルミナ(6g)が収容されたALカラムに通液させ、Reをアルミナに吸着させて捕捉した。Reが吸着されているALカラムに生理食塩水(0.9%のNaCl)20mLを通液させ、Reを含む生理的食塩水溶液(pH4.8~5.2)を回収した。
【0054】
なお、99Moの半減期は65.94時間であり、99mTcの半減期は6.01時間である。99Mo(500Ci)の量は1.04mgで、Mo(500g)に対して50万分の1であり、99mTc(500Ci)の量は0.095mgで、Mo(500g)に対して500万分の1であった。μCiテストレベルにおいて、99Moの放射能は5×10Bq(ベクレル)未満で、Mo(500g)に対する重量比は6e-15未満であり、99mTcの放射能は6×10Bq(ベクレル)未満で、Mo(500g)に対する重量比は6e-16未満であった。μCiレベルから80Ciレベルの高範囲な放射能試験と500Ci相当の非放射能試験(Mo500g以上)のTcMM試験の結果、ACによるMoとTcの分離係数(Tcの選択吸着)は10e16以上であった。
【0055】
Reの回収量は0.092~0.096mgであり、Reの回収率は約94%であった。99mTc(500Ci)相当のReであることから、ACが充填された金属網状円筒容器をMo溶液中に浸漬させて99mTcをACで吸着捕集する場合も同様の結果が得られると考えられる。この結果は、高濃度Mo溶液中に99Moの崩壊により生じる娘核種99mTcに対して99Moの原子数の比が1016以上存在していても、その中の微量な99mTcをACが選択的に吸着することを示している。
【0056】
本発明によれば、放射性99Moを含む高濃度Mo溶液を生成し、24時間程度放置することで99Moから99mTcが生成され放射平衡(親核種と娘核種の放射能の比が一定に釣り合っている)で混在している状態とし、従来のようにACカラムに通液させるのではなく、撹拌流動しているMo溶液中にAC充填金属網状円筒容器を浸漬させることで、常時99mTcをACに吸着させて捕捉することができる。
【0057】
高濃度Mo溶液の量が、例えば、0.1Lと少量であっても5~20Lと大量であっても、99Moから99mTcが生成され放射平衡になる経過時間又は希望する99mTc量が生成される時間において、目的量の99mTcがACへ選択的に吸着捕集されるので、特に短時間の半減期(6時間)の99mTcの回収には有効である。
【0058】
金属網状円筒容器中のACに吸着捕集された99mTcを脱着処理する際に、ACに非吸着残留するMo(99Mo)も99mTcと同時に溶脱してくるが、99mTc回収液をアルミナカラムに通液させることで、Mo(99Mo)など放射能不純物の混入なく、医薬品原料として高純度の99mTcを精製回収することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
100:Mo溶液タンク
110:撹拌機
120:金属網状円筒容器
130:支持具
140:ホットセル
150:IERカラム
160:ALカラム
【要約】
【課題】モリブデン溶液の量に影響されず、短時間で低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mを抽出する。
【解決手段】低比放射能モリブデン99からのテクネチウム99mの回収方法は、比放射能の低いモリブデン99を含む高濃度モリブデン溶液中に含まれる、当該モリブデン99の崩壊により生成された娘核種テクネチウム99mを、活性炭で分離させて回収する方法であって、前記活性炭は、前記モリブデン溶液中に浸漬され、モリブデン99の原子数の比が1016以上存在してもその中の微量なテクネチウム99mを選択的に吸着する、ことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5