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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】男性ホルモン分泌促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240708BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240708BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 5/26 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240708BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L33/10
A61K31/7076
A61P3/00
A61P5/26
A61P15/00
A61P19/00
A61P21/00
A61P25/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019194834
(22)【出願日】2019-10-27
(65)【公開番号】P2020080857
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018214225
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507416805
【氏名又は名称】株式会社テクノスルガ・ラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】517176973
【氏名又は名称】井口 和明
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】井口 和明
(72)【発明者】
【氏名】長島 浩二
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108719971(CN,A)
【文献】特許第6774377(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第107961308(CN,A)
【文献】特開2016-220669(JP,A)
【文献】特開2010-043042(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106074854(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108208398(CN,A)
【文献】特開2017-105746(JP,A)
【文献】台湾特許出願公開第201212825(TW,A)
【文献】中国特許出願公開第108323618(CN,A)
【文献】特開平09-169661(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108524805(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106616948(CN,A)
【文献】特開2004-131482(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104686208(CN,A)
【文献】特開2002-053488(JP,A)
【文献】特開昭63-088126(JP,A)
【文献】特開平01-186802(JP,A)
【文献】特開2005-341964(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104352552(CN,A)
【文献】特開2014-224083(JP,A)
【文献】岡崎賢志,食品中に含まれるアデノシンの分析,研究報告[online],12号,日本,香川県産業技術センター,2012年06月,p.88-89,https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010833223.pdf,[検索日:2023.2.24]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10 - 33/105
A61K 31/7076
A61P 3/00 - 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシン、又はアデノシンを含有する天然物もしくは食品の乾燥粉末、極性溶媒抽出物もしくはそれらの処理物を含有し、トマトの乾燥粉末、冬虫夏草の抽出物、冬虫夏草の粉砕粉末、マツタケ、マツタケの抽出物、エノキタケの乾燥粉末及びエノキタケの抽出物を含有しない男性ホルモン分泌促進用の食品組成物又は医薬組成物。
【請求項2】
アデノシン、又はアデノシンを含有する天然物もしくは食品の乾燥粉末、極性溶媒抽出物もしくはそれらの処理物を含有し、トマトの乾燥粉末、冬虫夏草の抽出物及び冬虫夏草の粉砕粉末を含有しない男性ホルモン分泌促進用の食品組成物又は医薬組成物であって、
有効成分がアデノシンである食品組成物又は医薬組成物。
【請求項3】
アデノシンを含有する天然物もしくは食品の極性溶媒抽出物のアデノシン含量を高める処理による処理物を含有し、トマトの乾燥粉末、冬虫夏草の抽出物及び冬虫夏草の粉砕粉末を含有しない男性ホルモン分泌促進用の食品組成物又は医薬組成物。
【請求項4】
男性ホルモンの低下に起因する疾患を予防及び/又は改善するために用いられる請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
極性溶媒抽出物を得るための抽出溶媒が水又は水溶液である請求項1又は3記載の組成物。
【請求項6】
水溶液が水混和性有機溶媒を含有する水溶液である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
食品組成物が健康食品、サプリメント、機能性表示食品、栄養補助食品、特定保健用食品、病者用食品又は高齢者用食品である請求項1記載の組成物。
【請求項8】
アデノシン受容体を介して、テストステロン分泌を促進するための請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性ホルモン分泌促進用組成物に関し、詳しくは男性ホルモンの作用に由来する男性機能低下の防止、骨と筋肉の増加増強、脂質代謝の改善、意欲活力の増加に有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴う障害として、女性では閉経に伴う更年期障害が知られているが、一方、近年、男性でも性腺機能の低下による男性更年期症状が表れることがわかってきた。男性ホルモンの主たる作用である骨と筋肉の増加、増強は、加齢により減少し、結果としてロコモーティブシンドローム(運動器症候群)にみられる、筋力や筋肉の減少に伴う歩行や起立の困難を引き起こし、ひいては寝たきりを誘発し、これらを防止することは超高齢化社会において喫緊の課題とされている。また、男性ホルモンは、脂質代謝を改善することから、男性ホルモン量の減少を防ぐことで、メタボリックシンドロームの予防効果が期待できる。更に、男性ホルモンは、意欲、活力といった精神面にも関係することから、加齢による気力減退等の防止には、男性ホルモンの増加が有効と考えられる。男性ホルモンは、ストレスによっても大きく低下することが知られている。このことは、男性ホルモンを増加させることでストレスを軽減できることにも繋がる。また、男性ホルモンは、男性だけに存在するものではなく、女性にも男性の10分の1程度ながら存在し、骨や筋肉の成長には欠かせないとされる。
【0003】
男性ホルモンの減少は、前記の如く、男性更年期として医療的には治療法が徐々に進展しつつあるが、それは本人が病的状態を自覚することから始まるため、自覚症状が軽い場合、あるいは、脱毛等にみられる加齢によるものとして治療が困難と自己判断している場合については治療が行われない。一方、社会的に健康意識も高まる中で、セルフメディケーション(自己治療)という点から、健康維持の方策として、食品に期待が高まっているが、前記のロコモーティブシンドロームやメタボリックシンドロームに男性ホルモン増加が有効であるという知見が蓄積しつつある。
【0004】
一方、アデノシンは多様な疾患との関わりが示唆されているが、そのうちパーキンソン病、痛みと炎症、喘息、循環器系疾患との関わりが最近注目されている(非特許文献1)。
しかしながら、アデノシンの精巣に対する作用ならびに男性ホルモンに対する作用については未解明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】化学と生物、40巻、6号、381~386頁(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加齢による更年期症状の緩和、予防、筋量、筋力の増加、脂質代謝の改善、意欲、活力の増加に有効であり、且つ、安全性が高い経口組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先に、エノキタケの乾燥粉末、抽出物又はそれらの処理物を有効成分とすることで、精巣細胞のテストステロンの分泌を顕著に促進できることを見出し、特願2017-99721として特許出願を行っている。
更に、前記の活性の本体となる成分について、分離分析を行い、LC/MSを用いて構造を明らかにし、アデノシンがその分泌促進活性の本体であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の実施形態は以下の通りである。
(1)アデノシン、又はアデノシンを含有する天然物もしくは食品の乾燥粉末、極性溶媒抽出物もしくはそれらの処理物を有効成分とする男性ホルモン分泌促進用組成物。
(2)有効成分がアデノシンである前記(1)に記載の組成物。
(3)有効成分が、前記極性溶媒抽出物のアデノシン含量を高める処理による処理物である前記(1)に記載の組成物。
(4)男性ホルモンの低下に起因する疾患を予防及び/又は改善するために用いられる前記(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)極性溶媒抽出物を得るための抽出溶媒が水又は水溶液である前記(1)、(3)及び(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)水溶液が水混和性有機溶媒を含有する水溶液である前記(5)に記載の組成物。
(7)食品組成物又は医薬組成物である前記(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)食品組成物が健康食品、サプリメント、機能性表示食品、栄養補助食品、特定保健用食品、病者用食品又は高齢者用食品である前記(7)に記載の組成物。
(9)アデノシン受容体を介して、テストステロン分泌を促進するための前記(1)~(8)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の男性ホルモン分泌促進用組成物は、精巣に直接働き、血中テストステロンを増加させることができる。したがって、本発明の男性ホルモン分泌促進用組成物は、加齢による更年期症状の緩和、予防、筋量、筋力の増加、脂質代謝の改善、意欲、活力の増加に有効である。また、本発明の男性ホルモン分泌促進用組成物は、健康食品、サプリメント、機能性表示食品、栄養補助食品、特定保健用食品、病者用食品又は高齢者用食品を含む種々の非加熱及び加熱加工食品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はマウス精巣初代培養細胞からのテストステロン分泌に対するアデノシン(0.64、3.2及び16μM濃度の添加)の影響を示したグラフである。アデノシンを添加していないものを陰性対照(0μM)としている。
図2図2はマウス精巣初代培養細胞からのテストステロン分泌に対する各種粉末化試料30%エタノール抽出液の影響を示したグラフである。無添加を陰性対照としている。
図3図3はアデノシン濃度とテストステロン分泌促進活性の相関を示したグラフである。
図4図4はアデノシンのテストステロン分泌促進活性に対するカフェインの影響を示したグラフである。
図5図5はエゾユキノシタ抽出液のテストステロン分泌促進活性に対するカフェインの影響を示したグラフである。
図6図6はシスプラチン精巣障害に対するアデノシン摂取の効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、アデノシン、又はアデノシンを含有する天然物もしくは食品の乾燥粉末、極性溶媒抽出物もしくはそれらの処理物を男性ホルモン分泌促進用組成物の有効成分として用いる。
有効成分として用いるアデノシンとしては、天然物からの精製品及び合成品のいずれを用いることもできる。
【0012】
アデノシンの原料となる天然物又は食品としては、アデノシンを含有するものであれば、特に制限はないが、アデノシン濃度が風乾重100g当たり50mgを超えるものが好ましく、アデノシン濃度が風乾重100g当たり70mgを超えるものが更に好ましい。前記天然物の好ましい具体例としては、ハクサイ、ホウレンソウ、カブ、カボチャ、ピーマン等の野菜、エノキタケ、エリンギ、シイタケ、シメジ、マイタケ、ヒラタケ、ナメコ、マツタケ、マッシュルーム、霊芝、冬虫夏草等の食用キノコ類が挙げられる。
アデノシンを含有する食品としては、例えば、アデノシンを含有する天然物を加工した食品が挙げられる。
【0013】
乾燥粉末の調製法としては、好ましくは、原料を、通常55℃以上、好ましくは60~70℃の条件で乾燥するか、あるいは、凍結乾燥し、フードプロセッサー等で細粉する方法が挙げられる。
【0014】
極性溶媒抽出物を得るための抽出溶媒としては、例えば、水、水溶液が挙げられる。水としては、亜臨界水を用いてもよい。水溶液としては、例えば、酸性溶液(例えば、ギ酸、塩酸、酢酸)、水混和性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン)を含有する水溶液が挙げられる。
一方、抽出物の原料となる天然物、例えば、野菜・キノコ類には、多量に存在する多糖類だけでなく、核酸等の低分子化合物等の夾雑物が存在する可能性がある。多糖類はエタノール等の水混和性有機溶媒に溶解しにくく、核酸は酸性溶液に溶解しやすい。
したがって、簡易は操作で夾雑物の混入を防ぐためには、水混和性有機溶媒を含有する水溶液、好ましくは、10~50%、更に好ましくは20~40%のメタノール又はエタノールを含有する水溶液を用いて抽出することが好ましい。
アデノシンは、塩基性物質であり、水、酸性溶液(塩酸、酢酸)、低濃度エタノール水溶液(エタノール濃度50%以下)には、溶解しやすいが、高濃度エタノール水溶液(エタノール濃度60%以上)には、溶解しにくく、無極性溶媒(例えば、ジエチルエーテル、ベンゼン、ヘキサン、塩化メチレン)には、ほとんど溶解しない。
前記の性質を利用して、前記極性溶媒抽出物のアデノシン含量を高めることができる。例えば、酸性溶液又は低濃度エタノール水溶液(エタノール濃度50%以下)で抽出して得られた極性溶媒抽出物を無極性溶媒(例えば、ジエチルエーテル、ベンゼン、ヘキサン、塩化メチレン)で洗浄すれば、脂溶性物質等の不純物を除去することができる。
【0015】
例えば、抽出溶媒として水、酸性溶液、エタノール水溶液等を用いて抽出物を製造する方法としては、前記乾燥粉末を、該乾燥粉末の重量に対し通常0.1倍量以上、好ましくは5倍量以上(例えば5~50倍量、10~50倍量などの範囲で)の水、酸性溶液又はエタノール水溶液(エタノール濃度50%以下)と混合し、通常10~30℃(室温)の温度で抽出処理を行った後、抽出残渣を除去(遠心分離、又はフィルター等でのろ過)する方法等が例示される。
【0016】
また、抽出物の形態は、液状、乾燥粉末状、顆粒状、ペースト状等、どのようなものでも用いることができ、特に限定されるものではない。
【0017】
本発明において、乾燥粉末又は抽出物の処理物における「処理」とは、濃縮、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、発酵、精製、圧搾、抽出、分画、ろ過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色等を任意に選択、組み合わせた処理を示し、前記精製とは、イオン交換樹脂、シリカゲル、吸着剤等を用いたクロマトグラフィー・吸着脱離、イオン交換樹脂を用いた脱塩、濃縮及び/又は冷却を用いた結晶化・沈殿、遠心分離等を用いた固液分離等を任意に選択、組み合わせた処理を示す。
【0018】
前記の処理のうち、吸着クロマトグラフィーを利用して、前記極性溶媒抽出物のアデノシン含量を高める方法としては、例えば、固相抽出担体として用いられる高親水性ポリマー吸着剤を用いる方法が挙げられる。
本発明に用いる高親水性ポリマー吸着剤は、多孔性構造を有する合成物質で、疎水性相互作用により、主に水溶性の生体成分の分離精製に使用されるものである。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンを重合して製造された芳香族系合成吸着剤を極性の水酸基で修飾しカラムに充填したものが挙げられ、市販品としては、EvoluteTMABN(Biotage社製)が挙げられる。
高親水性ポリマー吸着剤を用いる方法では、アデノシンを含有しない、又はアデノシン含有量が少ない画分、例えば、メタノール濃度が10%未満であるメタノール水溶液で溶出された画分を除去し、アデノシン含有量が多い画分、例えば、メタノール濃度が10~40%、好ましくは15~30%であるメタノール水溶液で溶出された画分を採取し、有効成分とすることが好ましい。
【0019】
本発明の対象となる「男性ホルモンの低下に起因する疾患」には、加齢による男性ホルモンの低下を一因とする筋量・筋力の低下、意欲・活力の低下、性欲低下、勃起力低下、ほてり、のぼせ、冷え、動悸、不眠、頭痛、不安、めまい、耳鳴り、発汗、全身倦怠感、物忘れ、認知症、肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、脂質異常症、糖尿病、歯周病、骨密度の低下、骨粗鬆症、動脈硬化、心疾患、脳血管障害、ストレス抵抗力の低下、うつ病などの更年期特有の諸症状や生活習慣病などが含まれる。
【0020】
本発明においては、飲食品等と混合して健康食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品(例えば、男性ホルモン分泌促進用食品、男性更年期障害予防用食品)、栄養補助食品、病者用食品又は高齢者用食品として提供することも可能である。
【実施例
【0021】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
[実施例1]
(活性本体の分離同定)
エノキタケを60℃で20時間通風乾燥した後、フードプロセッサーを用いて粉砕し、エノキタケ粉末を得た。前記エノキタケ粉末の30%エタノール抽出液(5g/100ml)を出発原料とし、これを蒸発乾固したものを水0.2mlに溶解し、更に2%ギ酸を0.4ml追加し、EvoluteTMABN(Biotage社製)カラムに添加した。5%、20%、50%メタノール水溶液、100%メタノールを1mlずつ、順次添加、各溶出液を採取し、これら画分について、実施例2の「テストステロン分泌量の測定」に記載した方法に従って、テストステロン分泌量を測定した。その結果、20%メタノール画分に強いテストステロン分泌促進活性を見出した。この画分を、活性が見られなかった5%メタノール画分を陰性対照として、LC/MS(Bruker Daltonics社製)により分析し、分子量267に相当する顕著なピークを検出した。なお、これ以外に、明確な成分を検出しなかったことから、分子量267に相当する成分が分泌促進活性の主たる成分と判断し、これをデータベース解析し、アデノシンであることを推定した。この結果に基づき、再度、アデノシン(東京化成社製)を、同様のバイオアッセイにて分泌促進活性を検討したところ、実施例2に示すように、明らかな分泌促進活性を見出した。
【0022】
[実施例2]
(マウス精巣由来の初代培養細胞を用いたアデノシンのテストステロン分泌促進活性試験)
(マウス精巣初代培養細胞の調製)
マウス(ddY系、雄、8~10週令)から精巣を採取し、無菌下において細切し、0.05%コラゲナーゼを含むMedium 199培地(10ml)にて撹拌処理(37℃、15分)した後、DME/F-12培地(10ml)にて2回洗浄した。これを10%ウシ胎児血清を含むDME/F-12培地にて懸濁し、ウェル当たり3×10cell/0.4mlに調製し、24ウェルプレートに播種し、一夜、培養し調製した。
【0023】
(テストステロン分泌量の測定)
アデノシン(東京化成社製)26.7mgを0.1M塩酸1mlで溶解し調製した100mM溶液を適宜、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地にて希釈したものをアデノシン希釈試料とした。
【0024】
初代培養細胞のウェルをダルベッコPBS(-)で細胞を2回洗浄し、これに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地0.45mlと共に、アデノシン希釈試料を0.05ml添加した。0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地のみのものを無添加として、対照とした。3時間培養後、培地を採取し、培地中のテストステロン濃度をEIA法により測定した。具体的には、96ウェルマイクロプレートにヤギ抗家兎IgG抗体(2μg/well)を添加し、常温で1時間コーティングした。洗浄後、1%BSAを含む0.01Mリン酸緩衝液(pH7.4)を添加した。約15分後、ウェルを洗浄し、標準希釈液(0.5%BSA,25mM EDTA,0.14M PBS,pH7.4)に溶解したテストステロン又は適宜標準希釈液にて希釈した前記培地試料、ビオチン化テストステロン及び抗テストステロン血清を順次添加し、撹拌し、1時間反応させた。洗浄後、HRP標識アビジン(1万倍希釈)を添加し、30分間反応させた。洗浄後、0.002%オルトフェニレンジアミン溶液(0.0012%過酸化水素を含むリン酸クエン酸緩衝液に溶解)を加えて10分間呈色反応させ、2M硫酸にて反応を停止し、マイクロプレートリーダーで490nmにおける吸光度を測定し、テストステロン分泌量を求めた。
【0025】
(結果)
アデノシンを添加したウェル(0.64、3.2、16μM)におけるテストステロン分泌量は、無添加(0μM)のそれに比し、有意に増加した(図1)。なお、縦軸のテストステロン分泌量は、培地1ml当たりのpmolで表し、4つの平均値±標準誤差で表している。有意差の記号は省略した。
【0026】
[実施例3]
(マウス精巣由来の初代培養細胞を用いた天然物・食品粉末化試料30%エタノール抽出液のテストステロン分泌促進活性試験)
(試料の調製)
アデノシンを含有する野菜・キノコ類から、比較的多く含有するといわれているハクサイ、ホウレンソウ、エノキタケ、シイタケ及び冬虫夏草を選択した。
これらのうち、冬虫夏草を除く野菜・キノコ類(数十グラム)を60℃で20時間通風乾燥した。これら試料をフードプロセッサーを用いて粉砕し、粉末化試料とした。粉末化試料に30%エタノール水溶液を添加(1グラムに対して20ml)し、18~24時間、撹拌した後、遠心分離(7000rpm、15分)し、上澄みを70ミクロンのフィルターで処理し、試料とした。
【0027】
(マウス精巣初代培養細胞の調製)
実施例2と同様の方法により調製した。
(テストステロン分泌量の測定)
実施例2と同様の方法により測定した。但し、アデノシンの代わりに、前記試料を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地にて希釈したものを試料とした。
【0028】
(結果)
ハクサイ、ホウレンソウ、エノキタケ、シイタケ、冬虫夏草、いずれの粉末化試料30%エタノール抽出液を添加したウェル中のテストステロン量も、無添加のそれに比し、有意に高濃度であった。これら試料中の成分がテストステロン分泌を促進させることが明らかになった。これら試料にはアデノシンが多く含まれており、そのことからもアデノシンが活性本体として関与することを示唆している(図2)。なお、縦軸のテストステロン分泌量は、培地1ml当たりのpmolで表し、4つの平均値±標準誤差で表している。有意差の記号は省略した。
【0029】
[実施例4]
(天然物・食品粉末化試料30%エタノール抽出液のアデノシンの定量と活性の比較)
ハクサイ、ホウレンソウ、エノキタケ(エゾユキノシタ)、シイタケ、冬虫夏草及び霊芝(レイシ)について、LC/MS(Bruker Daltonics社製)により定量分析し、それぞれのアデノシン含量を調べた。標準物質はアデノシン(東京化成社製)を用いた。テストステロン分泌促進活性は、実施例2と同様の方法により測定した。但し、アデノシンの代わりに、前記試料を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地にて希釈したものを試料とした。両者の相関を調べた。
【0030】
(結果)
いずれの試料もアデノシンに相当するピークを検出し、それらの面積からアデノシン含量を求めた。これを横軸にプロットし、それぞれのテストステロン分泌促進活性を縦軸にプロットして相関を求めると、相関係数R=0.979と、両者はきわめて高い相関性がみられた(図3)。このことは、天然物抽出液のテストステロン分泌促進活性がアデノシンに基づくものである可能性を強く示している。
【0031】
[実施例5]
(マウス精巣由来の初代ライディッヒ細胞を用いたアデノシンのテストステロン分泌促進活性試験と前記活性に対するカフェインの影響)
実施例2に示した方法により、マウス精巣細胞を調製した後、Percoll(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いる不連続密度勾配法によりライディッヒ細胞を分離し、10%ウシ胎児血清を含むDME/F-12培地にて懸濁し、ウェル当たり1.5×10cell/0.4mlに調製し、24ウェルプレートに播種し、一夜、培養した。ウェルをダルベッコPBS(-)で細胞を2回洗浄し、これに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地0.4mlと共に、アデノシン1μM(最終濃度)及び適宜希釈したカフェイン(1μM~1000μM、最終濃度)を0.1ml添加した。3時間培養後、培地を採取し、培地中のテストステロン濃度を実施例2に示したテストステロンEIA法により測定した。
【0032】
(結果)
マウス初代ライディッヒ細胞にアデノシンを添加したところ、無添加に比し、有意にテストステロン分泌量の増加がみられた(図4)。これに加え、カフェインを添加すると用量依存的にアデノシンのテストステロン分泌促進活性を抑制した。カフェインはアデノシン受容体の特異的阻害剤であることから、アデノシンがテストステロンを分泌するライディッヒ細胞において、アデノシン受容体を介して働いていることを強く示唆した。
【0033】
[実施例6]
(マウス精巣由来の初代精巣細胞を用いたエゾユキノシタ抽出液のテストステロン分泌促進活性に対するカフェインの影響)
実施例2に示した方法により、マウス精巣細胞を調製し、10%ウシ胎児血清を含むDME/F-12培地にて懸濁し、ウェル当たり2×10cell/0.4mlに調製し、24ウェルプレートに播種し、一夜、培養した。ウェルをダルベッコPBS(-)で細胞を2回洗浄し、これに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地0.4mlと共に、エゾユキノシタ30%抽出液(100倍希釈)及び適宜希釈したカフェイン(10μM~1000μM、最終濃度)を0.1ml添加した。3時間培養後、培地を採取し、培地中のテストステロン濃度を実施例2に示したテストステロンEIA法により測定した。
【0034】
(結果)
マウス初代精巣細胞にエゾユキノシタ抽出液を添加したところ、無添加に比し、有意にテストステロン分泌量の増加がみられた(図5)。これに加え、カフェインを添加すると用量依存的にアデノシンのテストステロン分泌促進活性を抑制した。カフェインはアデノシンによるテストステロン分泌促進活性を特異的に阻害することから、エゾユキノシタ抽出液によるテストステロン分泌促進活性がアデノシンによるものであることを強く示唆した。
【0035】
[実施例7]
(アデノシン摂取精巣障害マウスの初代精巣細胞におけるテストステロン分泌促進活性)
マウス(ddY系雄)を3群(各群、3匹)に分け、第1群と第2群はシスプラチン(和光社製、マウス当たり0.2mg)を腹腔に接種した。第2群は、その後、0.32mMアデノシンを含む水を自由飲水させた。第3群は無処置とした。これら3群を、接種1週間後に精巣を採取し、実施例2と同様の方法でマウス精巣細胞を調製し、10%ウシ胎児血清を含むDME/F-12培地にて懸濁し、ウェル当たり3×10cell/0.4mlに調製し、24ウェルプレートに播種し、一夜、培養した。ウェルをダルベッコPBS(-)で細胞を2回洗浄し、これに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むDME/F-12培地0.5mlを添加した。3時間培養後、培地を採取し、培地中のテストステロン濃度を実施例2に示したテストステロンEIA法により測定した。
【0036】
(結果)
マウス精巣初代培養細胞において、シスプラチンのみを接種した群では、シスプラチンによる精巣障害によりテストステロン分泌量は、無処置の群より有意に低値であった(図6)。一方、シスプラチン接種後アデノシンを含む水を摂取した群では、テストステロン分泌量は非摂取群よりわずかながら高いことから、シスプラチン精巣障害において、アデノシンを摂取することで、精巣のテストステロン分泌促進活性を高める効果があることを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6