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特許7515821水分の吸脱着器及び脱着方法、水採取システム並びに水採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】水分の吸脱着器及び脱着方法、水採取システム並びに水採取方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/26 20060101AFI20240708BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 5/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B01D53/26 210
B01J20/22 A
B01D5/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020116617
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2022014342
(43)【公開日】2022-01-19
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩林 弘久
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171604(US,A1)
【文献】特表2019-504271(JP,A)
【文献】特開2007-051112(JP,A)
【文献】特開2019-162574(JP,A)
【文献】国際公開第2020/034008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26-53/28、
53/02-53/12、
1/00- 8/00
B01B 1/00- 1/08
B01J 20/00-20/28、
20/30-20/34
E03B 3/28
F24F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱板と、
平均粒径が100nm以上であり、500nm以下である粉末状の金属有機構造体を含み、前記伝熱板の一主面に接する層と、
前記層に接するように配置され、前記金属有機構造体の粉末を通過させず水蒸気を通過させる開口を複数有することで、前記粉末状の前記金属有機構造体の全てを固着することなく、前記金属有機構造体の落下や偏在を抑制する、メッシュと、
を備えることを特徴とする、水分の吸脱着器。
【請求項2】
前記伝熱板の前記一主面に凹部を有し、前記凹部に前記金属有機構造体が入り込んでいることを特徴とする、請求項1に記載の吸脱着器。
【請求項3】
前記メッシュの一部分が前記凹部に入り込んでいることを特徴とする、請求項2に記載の吸脱着器。
【請求項4】
前記メッシュはカーボンメッシュを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸脱着器。
【請求項5】
前記金属有機構造体の一部のみが、前記伝熱板に接着剤で固定されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸脱着器。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の吸脱着器に吸着された水分を脱着させる脱着方法であって、前記伝熱板の前記一主面に対向するもう一つの主面に対し、太陽光を照射させる工程を含むことを特徴とする、水分の脱着方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に前記吸脱着器と、前記吸脱着器を配置可能な大きさを有し、かつ、内外の換気が可能な密閉容器と、を備えることを特徴とする水採取システム。
【請求項8】
前記密閉容器の内部の空間を冷却する冷却要素を備えることを特徴とする、請求項7に記載の水採取システム。
【請求項9】
請求項8に記載の水採取システムを使用した、空間中の水分を採取する水採取方法であって、
前記密閉容器の蓋を開いて、前記金属有機構造体に前記水分を吸着させる工程と、
前記密閉容器の前記蓋を閉じて、前記伝熱板の前記一主面に対向するもう一つの主面に太陽光を照射させて、前記金属有機構造体が吸着した前記水分を脱着させる工程と、
脱着した前記水分を、前記冷却要素を使用して凝縮させて採取する工程と、を備えることを特徴とする、水採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分の吸脱着器及び脱着方法、水採取システム並びに水採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性化合物である金属有機構造体は、金属と有機配位子との相互作用により形成された、非常に大きな比表面積を有する構造体である。金属有機構造体は、MOF(Metal Organic Framework)、PCP(Porous Coordination Polymer)、多孔性金属錯体、又は多孔性配位高分子とも呼ばれている。本明細書では、これらを総称して「金属有機構造体」又は「MOF」という。金属有機構造体は、多量の流体を吸着できることが知られており、様々な分野で研究開発が進められている。
【0003】
例えば、MOFは空気中の水分を吸脱着できることから、乾燥地域や乾季における水不足を解消する手段として注目されている。MOFの温度が比較的低いとき、MOFは空気中の水分を吸着し、MOFの温度が比較的高いとき、MOFは吸着した水分を脱着する。特許文献1には、MOFを使用した水採取システムが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示される水採取システムでは、MOFペレットが、ヒートシンクのフィンの間に積層するように充填されている。ヒートシンクは、ペルチェ素子の高温側に取り付けられている。ファンを使用して、充填されたMOFに空気を送り込み、当該空気に含まれる水蒸気を吸着させる。水蒸気を十分に吸着すると、ペルチェ素子を使用してヒートシンクを加熱し、MOFの温度を上げる。温度の上がったMOFは、吸着した水蒸気を脱着する。脱着した水蒸気を、ペルチェ素子の低温側において凝縮させる。これにより、空気中の水蒸気から液化した水を採取できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/034008号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の水採取システムは、MOFペレット間及びMOFペレットとヒートシンク間での伝熱性が十分でなく、特に加熱時の水分の脱着性の点で改良の余地が残されている。本発明は、加熱時の水分の脱着性を向上させるなどにより、水の採取効率を高めた、水分の吸脱着器、脱着方法、水採取システム及び水採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
水の採取は、MOFに空気中の水蒸気を吸着及び脱着(吸脱着)させる工程と、脱着した水蒸気を凝縮して液化し採取する工程とを含む。本発明者は、MOFに水蒸気を吸脱着させる工程に着目し、吸脱着効率の向上を図った。鋭意研究の結果、以下に示す水分の吸脱着器を案出した。
【0008】
水分の吸脱着器は、伝熱板と、
粉末状の金属有機構造体を含み、前記伝熱板の一主面に接する層と、
前記層に接するように配置され、前記金属有機構造体の粉末を通過させず水蒸気を通過させる開口を複数有するメッシュと、を備える。
【0009】
粉末状のMOFの粒径は、数mm以上あるペレットの粒径よりも小さいため、比表面積が大きくなり、吸脱着効率が向上する。
【0010】
そして、MOFの粉末は伝熱板及びメッシュに接しており、これらとMOFの粉末との間の伝熱性が高いから、MOFが効率よく熱を受け取ることができ、水分の脱着性が向上する。メッシュは、MOFの粉末を通過させず水蒸気を通過させるため、MOFの粉末を含む層は、メッシュを介して水蒸気を吸着及び脱着できる。メッシュは、粉末状のMOFの全てを固着することなく、MOFの落下や偏在を抑制し、伝熱板に対して、粉末状のMOFを薄く均等に分散配置した状態を維持する。よって、水分の吸脱着効率を向上及び維持できる。
【0011】
前記伝熱板の前記一主面に凹部を有し、前記凹部に前記金属有機構造体が入り込んでいても構わない。これにより、伝熱板とMOFの粉末との接触面積を増加させて、伝熱板からMOFへの熱伝達効率を高める。熱伝達効率が高まると、MOFの水分の脱着効率が向上する。
【0012】
前記メッシュの一部分が前記凹部に入り込んでいても構わない。MOFの粉末とメッシュとの接触面積を増やして、MOFと接触する空気量を増加させる。これにより、MOFの水分の吸脱着効率が向上する。
【0013】
前記メッシュはカーボンメッシュを含んでも構わない。カーボンメッシュは熱伝導性に優れるため、MOFの昇温の均等性を高める。カーボンメッシュは水蒸気を吸収しにくいため、脱着した水蒸気がカーボンメッシュに奪われにくく、脱着後の水分の採取効率が向上する。
【0014】
前記金属有機構造体の一部は、前記伝熱板に接着剤で固定されていても構わない。接着剤に面するMOFの粉末の一部を接着することで、伝熱板とMOFの粉末との滑りを小さくする。これにより、MOFの流動性を低下させMOFの偏在を抑制する。
【0015】
本発明に係る水分の脱着方法は、前記吸脱着器に吸着された水分を脱着させる脱着方法であって、前記伝熱板の前記一主面に対向するもう一つの主面に対し、太陽光を照射させる工程を含む。
【0016】
本発明に係る水採取システムは、前記吸脱着器と、前記吸脱着器を配置可能な大きさを有し、かつ、内外の換気が可能な密閉容器と、を備える。内外の換気が可能な密閉容器は、例えば、開閉可能な蓋を有する。
【0017】
前記水採取システムは、前記密閉容器の内部の空間を冷却する冷却要素を備えても構わない。冷却要素とは、例えば、熱交換器やペルチェ素子である。
【0018】
本発明の水採取方法は、前記水採取システムを使用した、空間中の水分を採取する水採取方法であって、
前記密閉容器の前記蓋を開いて、前記金属有機構造体(MOF)に前記水分を吸着させる工程と、
前記密閉容器の前記蓋を閉じて、前記伝熱板の前記一主面に対向するもう一つの主面に太陽光を照射させて、前記金属有機構造体(MOF)が吸着した前記水分を脱着させる工程と、
脱着した前記水分を、前記冷却要素を使用して凝縮させて採取する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
水の採取効率を高めた、水分の吸脱着器及び脱着方法、水採取システム並びに水採取方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一実施形態の吸脱着器の断面図である。
図2A】伝熱板の断面図である。
図2B】伝熱板の斜視図である
図3図1のA1領域の拡大図である。
図4】メッシュ表面の部分拡大図である。
図5】MOFを有する伝熱板にメッシュを配置する様子を示す模式図である。
図6A】吸脱着器を有する水採取システムでの水の吸着方法を示す図である。
図6B】吸脱着器を有する水採取システムでの水の脱着方法及び凝縮方法を示す図である。
図7】第二実施形態の吸脱着器の断面図である。
図8図7のA2領域の拡大図である。
図9】第三実施形態の吸脱着器の断面図である。
図10A】比較形態の吸脱着器の断面図である。
図10B図10AのA3領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の水分の吸脱着器及び脱着方法、水採取システム並びに水採取方法につき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0022】
以下の説明においては、鉛直方向をZ方向、鉛直方向に対して直交する水平面内において互いに直交する二方向をX方向及びY方向とする。方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。+Z方向は重力方向である。
【0023】
<第一実施形態>
本発明に係る水分の吸脱着器の一例を、図1を参照しながら説明する。図1は、吸脱着器1の断面図である。吸脱着器1は、伝熱板2と、伝熱板2の一主面に接するとともに、粉末状のMOF3を含む層と、MOF3を含む層に接するように配置され、MOF3の粉末を通過させず水蒸気を通過させる開口を複数有するメッシュ4と、を有する。
【0024】
MOF3が粉末状のため、比表面積が大きく、吸脱着効率が向上する。そして、MOF3の粉末は、伝熱板2とメッシュ4に挟まれるように充填され、層状をなす。伝熱板2とMOF3の粉末とが接しているため、伝熱板2とMOF3の伝熱性が高く、MOF3が効率よく熱を受け取ることができ、水分の脱着性が向上する。メッシュ4とMOF3の粉末とが接しているため、メッシュ4とMOF3の伝熱性が高く、MOF3の温度のムラを小さくすることができ、水分の脱着性が向上する。
【0025】
メッシュ4は、MOF3の粉末を通過させず水蒸気を通過させる。そのため、MOF3の粉末を含む層は、メッシュを介して水蒸気を吸着及び脱着できる。よって、水分の吸脱着効率が高い。
【0026】
さらに、MOF3の粉末は、伝熱板2とメッシュ4に挟まれることで、以下に示す効果が得られる。図1に示すように、メッシュ4側を重力方向(+Z方向)に向くように吸脱着器1を配置する場合には、MOF3が伝熱板2から落下する(+Z方向に移動する)ことを防ぐ。
【0027】
MOF3の落下を防ぐには、MOF3の粉末を接着剤等で固着する方法もあるが、MOF3の粉末の全てを接着剤で固着すると、MOF3の比表面積の多くが接着剤に覆われてしまい、水分の吸脱着効率が低下してしまう。メッシュ4を設けることで、接着剤を使用せず(又は、接着剤の使用量を減らし)、水分の吸脱着効率の低下を抑制する。
【0028】
伝熱板2の溝底が水平面から傾斜するように、吸脱着器1を配置する場合には、メッシュ4を設けることで、傾斜に伴うMOF3の粉末の流動を防ぐ。吸脱着器1を搬送する場合には、メッシュ4を設けることで、搬送の振動に伴うMOF3の粉末の流動を防ぐ。粉末の流動を防ぐことで、伝熱板2上におけるMOF3の偏在を抑制できる。これにより、伝熱板2に対して、粉末状のMOF3を薄く均等に分散配置した状態を、維持する。
【0029】
以下に、吸脱着器1を構成する各部材の詳細について説明する。
【0030】
[伝熱板]
図2A及び図2Bを参照しながら伝熱板の詳細を説明する。図2Aは、図1に示した吸脱着器1のうち伝熱板2だけを示した図である。図2Bは、伝熱板2の斜視図である。伝熱板2は、XY方向に延びる主面を有し、Z方向に所定の厚みを有する部材である。本実施形態において、伝熱板2の表面(+Z方向側の主面)2aは凹凸構造を有し、裏面(-Z方向側の主面)2bは平坦な構造を有する。伝熱板2の裏面2bに光L1が照射されると(図1参照)、伝熱板2が光L1を吸収して熱に変換する。伝熱板2は、熱伝導率の高い材料(例えば、銅やアルミニウムを主に含む材料)で形成されているとよい。伝熱板2を構成する面のうち、少なくとも裏面2bが、光を吸収しやすい黒色であっても構わない。
【0031】
伝熱板2の表面2aには、Y方向に延びる複数の溝21を有する。隣り合う二つの溝21の間にフィン22を形成する。本実施形態において、溝21は、溝底21aに向かうほど(-Z方向に向かうほど)、溝幅W2が狭くなるように設計されている。しかしながら、溝幅W2がZ方向に一定をなすように設計しても構わない。伝熱板2として、電子部品等に使用される放熱板(ヒートシンク)を利用しても構わない。
【0032】
本実施形態の伝熱板2の各種寸法について説明する。図2Aを参照して、伝熱板2の高さH1は、1mm以上であるとよく、15mm以下であるとよい。高さH1は、好ましくは10mm以下であるとよい。溝21の深さ(フィン22の頂部22aから溝底21aまでの長さ)D1は、例えば1mm以上であるとよく、6mm以下であるとよい。フィン22の頂部22aの幅(X方向の厚み)W1は、0.5mm以上であるとよく、2mm以下であるとよい。溝21の入口における溝幅(X方向の隣り合うフィンの間隔)W2は、2.5mm以上であるとよく、6mm以下であるとよい。溝21のそれぞれの深さD1は溝ごとに統一されていても構わないし、溝ごとに異なっていても構わない。頂部22aの幅W1及び溝幅W2のそれぞれの大きさは、いずれも溝ごとに統一されていても構わないし、溝ごとに異なっていても構わない。
【0033】
本実施形態の伝熱板2は、フィン22はY方向にのみ延びるが、伝熱板2の変形例として、フィンがX方向及びY方向に延びた格子形状に形成されても構わない。逆に、溝21がX方向及びY方向に延びた格子形状に形成されても構わない。
【0034】
[金属有機構造体]
図3を参照しながら、金属有機構造体(MOF)を含む層の詳細を説明する。図3は、図1のA1領域の拡大図である。伝熱板2とメッシュ4との間に、MOF3の粉末で構成される層を有する。上述したように、MOF3は粉末状であるため、比表面積が大きく吸脱着効率が高い。MOF3の粉末それぞれの粒径の平均は、例えば100nm以上であるとよく、500nm以下であるとよい。
【0035】
本実施形態では、伝熱板2の溝21(凹部)にMOF3の粉末が入り込んでいる。伝熱板2は溝21を有するため、平坦な伝熱板に比べて表面積が大きくなっている。そのため、MOF3の粉末を溝21に入り込ませると、伝熱板2とMOF3との接触面積が拡大する。よって、伝熱板2からMOF3への熱伝達効率を高めることができ、MOF3の水分の脱着効率が向上する。
【0036】
ところで、金属有機構造体は、金属と有機リガンドとを含む構造体である。例えば、金属有機構造体の一つであるMOF-801と呼ばれる材料は、Zr6O4(OH)4(fumarate)6で示される金属有機構造体である(「fumarate」はフマル酸を指す)。この構造体は、結晶構造を形成するZrの錯体を有し、当該結晶構造中に多数の孔を有する。この孔は、水分子を蓄える容器として機能する。孔の平均粒径は、例えば、1.5nm以上であるとよく、10nm以下であるとよい。
【0037】
本発明において使用可能な金属有機構造体は、MOF-801だけではない。例えば、MOF-303、MIL-100Feや、UIO-67等と呼ばれる金属有機構造体でもよい。これらの金属有機構造体(MOF)も、MOF-801と金属及びその錯体は異なるものの、結晶構造中に、水分子を蓄える容器として機能する多数の孔を有する点は同じである。
【0038】
粉末状のMOFの平均粒径は、0.5μm以下であるとよく、好ましくは、0.3μm以下である。MOFの平均粒径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を使用して、MOFを球に見立てたときの径を粒径と定義し、異なる粒子の径を少なくとも5個測定した平均を求めることにより、得られる。
【0039】
MOF3は、低温において空気に含まれる水蒸気を吸着し、高温において水蒸気を脱着する。例えば、MOF-801の場合、室温付近(約25℃)の環境下では空気中に含まれる水を吸着し、65℃を超える環境下では吸着した水を脱着する。MOF-801は、低湿度の空気(例えば、湿度10%)からでも水を吸着できる。
【0040】
MOF3から水を脱着させるには、伝熱板2を使用してMOF3に熱を伝える。多量の水を脱着させるためには、多量のMOF3を配置することが望ましい。しかしながら、MOF3を含む層自体の熱伝導率は低い。また、MOF3を含む層が厚くなりすぎると、内部まで水蒸気の出入りが困難になる。したがって、MOF3を含む層の厚みT1(図3参照)を薄くして、MOF3の粒子それぞれの伝熱板2からの距離を短くするとよい。メッシュ4を用いることで、厚みT1を薄くできる。厚みT1は、溝底21aとメッシュ4との間の最近接距離で表される。厚みT1は、3mm以下であるとよく、2mm以下であると好ましい。
【0041】
[メッシュ]
本実施形態では、メッシュの一部分が、伝熱板2の溝21(凹部)に入り込んでいる。これにより、MOFの粉末とメッシュとの接触面積を増やして、MOFの粉末が空気と接触しやすくしている。これにより、空気中に含まれる水分の吸着効率と、水分の空気中への脱着効率が向上する。
【0042】
図4を参照しながら、メッシュ4の詳細構造について説明する。図4は、メッシュ4の表面の部分拡大図である。本実施形態において、メッシュ4は、経糸41と緯糸42とを交互に編むことにより形成され、経糸41と緯糸42に囲まれた開口43を有する。
【0043】
開口43の径(目開き)は、水蒸気が通過でき、かつ、MOF3の粉末が通過できない大きさを有する。本明細書において、開口43の径は、隣り合う経糸間の隙間の長さi1と、隣り合う間隔と緯糸間の隙間の長さi2とのうち、短い方の長さを指す。開口43の径は、50nm以上であるとよく、500nm未満であるとよい。
【0044】
図4では、経糸41はY軸方向に沿うように示され、緯糸42はX軸方向に沿うように示されているが、経糸41と緯糸42の向きは、特に限定されない。また、経糸41と緯糸42とを交互に編む織り方(平織)に限定されず、他の織り方でも構わない。また、用いたメッシュの目開きよりも小さくするため、メッシュを複数枚重ね合わせて用いても構わない。この場合、複数枚重ねることにより形成された開口の最小径は、50nm以上であるとよく、500nm未満であるとよい。
【0045】
なお、図示していないが、メッシュ4が伝熱板2から脱落したり、メッシュ4が伝熱板2に対してずれたりしないように、メッシュ4を伝熱板2に固定する留め具を使用して構わない。また、メッシュ4を固定するために、フィン22の頂部22aに接着剤を塗布し、フィン22の頂部22aとメッシュ4と接合しても構わない。
【0046】
本実施形態において、メッシュ4には、カーボンメッシュが用いられている。カーボンメッシュは炭素繊維を含む糸を編んで構成される。炭素繊維は熱伝導性に優れるため、MOF3の昇温の均等性を高める。また、炭素繊維は水蒸気を吸収しにくいため、メッシュ4がMOF3から出た水蒸気を取り込む量を低減できる。これにより、外部雰囲気へ放出される水蒸気の量が増加するため、水分の採取量が増加する。
【0047】
メッシュ4として、金属メッシュ(例えば、ステンレスメッシュ)や化学繊維メッシュ(例えば、ナイロンメッシュ、ポリエステルメッシュ、フッ素系樹脂メッシュなど)を使用しても構わない。
【0048】
メッシュ4は、経糸と緯糸とを編んで形成されなくてもよい。例えば、メッシュ4は、水分を透過する多数の孔を有する多孔質フィルム(シート)でも構わない。
【0049】
[吸脱着器の製造方法]
図5を参照しながら、吸脱着器1の製造方法の一例を説明する。図5は、MOF3を有する伝熱板2にメッシュ4を配置する様子を模式的に示している。はじめに、伝熱板2の表面を上向き(-Z方向)にして、溝21のそれぞれにMOF3の粉末を入れる。次に、伝熱板2の上にメッシュ4を配置し、図5で示される挿入具8の凸部81を、メッシュ4を介して伝熱板2の溝21に挿入する。凸部81は、溝21と嵌合可能な形状を有する。挿入具8が溝21に挿入されると、メッシュ4が凸部81の形状に沿って屈曲し、MOF3が、メッシュ4と伝熱板2との間に薄く拡がる。挿入具8を溝21から引き抜くと、メッシュ4は屈曲した形状を維持する。こうして、図1に示される吸脱着器1が完成する。
【0050】
[吸脱着方法と水採取方法]
吸脱着器1を使用した水の吸脱着方法及び水採取方法を示す。
【0051】
はじめに、図6Aを参照しながら、吸脱着器1を有する水採取システムと、水採取システムを使用したMOF3に水分を吸着させる工程を説明する。水採取システム10は、吸脱着器1と、吸脱着器1を内部に配置可能な大きさを有し、内外の換気が可能な筐体5と、筐体5の内部空間を冷却する冷却要素6と、を有する。
【0052】
吸脱着器1は、筐体5に、伝熱板2の裏面2bが外側を向き、伝熱板2の表面2aが内側を向くように取り付けられている。本実施形態において、内外の換気が可能な筐体5は、筐体5の一部が開閉可能な蓋5aを含んで構成されている。蓋5aを開き、不図示の送風機(ファン等)により、強制的に矢符Fi方向で示すように、筐体5外の空気を筐体5内へ流入させ、矢符Fo方向で示すように筐体5内空気を筐体5外へ流出させる。送風機を用いずに、筐体5外の、水分を含む空気を、筐体5内へと拡散させても構わない。吸脱着器1のMOF3は、筐体5の内部に導入された空気に含まれる水分を吸着する。
【0053】
次に、図6Bを参照しながら、水採取システムを使用して、MOF3が吸着した水分を脱着させる工程を説明する。蓋5aを閉じて、筐体5の内部を密閉空間にする。そして、水採取システム10の伝熱板2の裏面2bに光L1を照射して、伝熱板2及び筐体5の内部空間の温度を上昇させる。光L1は、省エネルギーの観点から太陽光を使用すると好ましいが、人工光を使用して構わない。太陽光を使用する場合には、裏面2bが上側(-Z方向側)に位置するように水採取システム10を配置すると、受光しやすい。また、レンズやミラーなどの光学部材を使用して、集光した光を裏面2bに照射しても構わない。
【0054】
変形例として、伝熱板2の温度を上昇させるために、光エネルギーに代えて(又は、光エネルギーと併用して)、温水や熱風等の高温流体の有する熱エネルギーを伝熱板2に与えても構わない。また、内外の換気が可能な密閉容器として、筐体5の一部が開閉可能な蓋5aを有する密閉容器を例示したが、他に、バルブ付き配管に接続された密閉容器を設け、バルブを開放することで、内外の換気を可能にした密閉容器等でも構わない。
【0055】
伝熱板2の温度が上昇すると、MOF3の温度が上昇し、吸着した水を脱着する。脱着した水は、水蒸気として筐体5の内部に放出されて筐体5の湿度が上昇する。
【0056】
続いて、図6Bを参照しながら、脱着した水分を凝縮させる工程を説明する。本実施形態において、この凝縮工程は、上述の脱着工程と並行して行う。水採取システム10は冷却要素6を有する。筐体5の内部に設けた冷却要素6の温度を降下させる。冷却により冷却要素6が露点温度を下回ると、冷却要素6の表面に結露して流下し、筐体5の底に溜まる。筐体5の底に溜まった水9は、例えば、図6Bに示されるバルブ7を開くことで、水を取り出し、採取できる。
【0057】
冷却要素6には、例えば、冷媒を導くように構成した熱交換器が使用できる。熱交換器に使用する冷媒には、ペルチェ素子やコンプレッサ等で人工的に冷却した流体や、天然の低温流体(例えば、水道水、河川の水や地下水など)を使用できる。また、冷却要素6として、冷媒を使用せずペルチェ素子等の冷却器で直接に筐体5の内部を冷却しても構わない。ペルチェ素子やコンプレッサ等の駆動源には、省エネルギーの観点から太陽電池や風水力発電等で得た自然エネルギーを使用しても構わない。
【0058】
水を脱着し凝縮させた後、蓋5aを開いて再び水を吸着する。このようにして、水の吸着と水の脱着及び採取とを繰り返すことで、雰囲気中の水蒸気を水として採取できる。この水採取システム及び水採取方法は、水の採取効率が高い。加えて、例えば、露点の下がっている夜間(例えば、日没後から日の出まで)に吸着させ、気温の上昇している昼間に脱着させるなどすれば、水採取に必要なエネルギーの使用を低減できるため、省エネルギーである。
【0059】
<第二実施形態>
水分の吸脱着器の第二実施形態について、図7を参照しながら説明する。以下に説明する以外の事項は、第一実施形態と同様に実施できる。第一実施形態で示した種々の変形例は、特に言及されないかぎり第二実施形態にも適用できる。第三実施形態も同様である。
【0060】
図7は、水分の吸脱着器20を示している。吸脱着器20は、表面2a(MOF3に接する面)が実質的に平坦な伝熱板2を有する。表面2aが実質的に平坦なので、吸脱着器20を製造する際、MOF3を均等に分散させやすく、MOF3の厚みの均一性を高めることができる。よって、吸脱着器20は局所的な吸着量のばらつきを小さくできる。
【0061】
本実施形態は、第一実施形態のようにメッシュ4を屈曲させなくてもよいため、屈曲させることが困難なメッシュ4も使用できる。また、第一実施形態で使用した凸部81の有する挿入具8を要しないため、メッシュ4を配置する工程が簡単になる。
【0062】
図8は、図7のA2領域の拡大図である。本実施形態では、図8に示すように、伝熱板2の表面2aとMOF3と間に接着剤11の層がある。伝熱板2の表面2aに接着剤11を塗布し、接着剤11に面するMOF3の粉末の一部(例えば、最も接着剤11に近い粒子のみ)を接着する。そうすると、伝熱板2の表面2aに固着したMOF3の粒子による凹凸が形成され、表面2aと固着されなかったMOF3の粉末との滑りを小さくする。これにより、MOF3の流動性を低下させMOF3の偏在を抑制する。また、MOF3の粉末の一部のみを接着剤11で接着するため、接着剤11の使用に伴うMOF3の吸脱着効率の低下を限られた範囲にまで抑制できる。接着剤11には、例えば、シリコーン系接着剤など、熱伝導性の優れた接着剤を用いるとよい。なお、接着剤11は、使用しなくても構わない。
【0063】
<第三実施形態>
水分の吸脱着器の第三実施形態について、図9を参照しながら説明する。吸脱着器30は、表面2a(MOF3に接する面)に小さな溝23(凹部)を有する。溝23の内部全体にMOF3が充填されている。溝23の深さD2は、例えば1mm以上であるとよく、2mm以下であるとよい。溝23の深さD2が浅いので、溝23内部全体にMOF3を充填しても、MOF3の粉末それぞれと溝23との距離が近いため、水分を効率よく脱着できる。さらに、第一実施形態のようにメッシュ4を屈曲させなくてもよいため、屈曲させることが困難なメッシュ4も使用できる。また、第一実施形態で使用した凸部81の有する挿入具8を要しないため、メッシュ4を配置する工程を単純にできる。
【0064】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、空気中の水分を吸脱着することについて述べたが、空気以外の気体に含まれる水分を吸脱着しても構わない。
【0065】
[実施例]
第一実施形態に示される吸脱着器1(図1)を水採取システム10(図6A及び図6B参照)に取り付けて、水の吸脱着及び採取を行った。吸脱着器1について、伝熱板2は図2A及び図2Bに示される形状を有し、高さH1が5mm、フィンの頂部の幅W1が1mm、入口における溝幅W2が4mmである。メッシュ4には、目開きが1μmのカーボンメッシュを使用した。MOF-801(粉末の平均粒径は、100nm)を伝熱板2の溝21に分散して投入し、図5の要領で吸脱着器1を形成した。本実施例では、伝熱板2とMOF3の粉末を接合する接着剤を使用していない。
【0066】
晴天の夜間、図6Aのように水採取システム10の蓋5aを開き、MOF3に大気中に含まれる水蒸気を吸着させた。なお、夜間の気温は、約9~13℃であった。翌朝、水採取システム10の蓋5aを閉じて密閉空間を形成し、昼間、太陽光を吸脱着器1の伝熱板2の裏面2bに照射して、水の脱着を行った。なお、昼間、放射温度計で伝熱板2の表面温度を測定したところ、伝熱板2の表面温度が75℃に到達したことを確認している。
【0067】
脱着に並行して、ペルチェ素子を使用した熱交換器を使用して、筐体内に設けた冷却要素を冷却し、吸脱着器1より放出された水蒸気を順次液化させた。一定時間経過後、液化した水を採取し、採取した水の重さを測定して水の容積に換算した。換算結果とMOFの量から、水採取効率を求めた。本明細書において、水採取効率は、MOF10g当たりに採取した水の量を表す。本実施例の水採取効率は、38ml/10gであった。
【0068】
[比較例]
図10A及び図10Bを参照しながら、比較例を示す。図10Aに示される吸脱着器100を水採取システム10(図6A及び図6B参照)に取り付けて、水の吸脱着及び採取を行った。吸脱着器100はメッシュを有していない。図10Bは、図10AのA3領域の部分拡大図である。図10Bに示されるように、MOF3が伝熱板2から落下しないように、MOF3の粉末の多くが接着剤11で伝熱板2に固着している。他の条件は、実施例と同じである。
【0069】
吸脱着器100を、実施例と同様の水採取システム10に取り付けて水採取を行った。採取した水の重さを測定した結果を利用して、上記実施例と同様に水採取効率を求めた。本比較例の水採取効率は、17ml/10gであった。
【0070】
実施例は、比較例よりも2倍以上の水採取効率を示した。この結果について考察する。比較例は、多くのMOF3の粉末が接着剤11に接することで、MOF3の表面にある水分の浸入する孔が接着剤11に塞がれて、吸脱着できる水分量が低下したと考えられる。実施例は接着剤を使用していないので、MOF3の水分の浸入する孔が接着剤に塞がれることはなく、吸脱着できる水分量は低下しない。加えて、メッシュ4を使用してMOF3を伝熱板2の近くに分散配置できたたため、MOF3と伝熱板2の伝熱性が向上し、特に水分の脱着の効率が向上したと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
1 :吸脱着器
2 :伝熱板
2a :表面
2b :裏面
4 :メッシュ
5 :筐体
5a :蓋
6 :熱交換器
7 :バルブ
8 :挿入具
9 :水
10 :水採取システム
11 :接着剤
20 :吸脱着器
21 :溝
22 :フィン
30 :吸脱着器
41 :経糸
42 :緯糸
43 :開口
81 :凸部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B