(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】紙容器
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240708BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240708BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240708BHJP
B29C 55/16 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/12
B32B27/36
B29C55/16
(21)【出願番号】P 2020150720
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】313016820
【氏名又は名称】興人フィルム&ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】清田 基
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-161536(JP,A)
【文献】特開2012-171094(JP,A)
【文献】特開2016-104565(JP,A)
【文献】特開2003-266512(JP,A)
【文献】特開2011-016231(JP,A)
【文献】特開2012-012039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
B29C 55/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる紙容器であって、
該二軸延伸ポリエステル系フィルム層がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、
該二軸延伸ポリエステル系フィルム層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であ
り、
電子レンジを用いて700W×15分間加熱した紙容器の開口部の周縁部と、加熱していない紙容器の開口部の周縁部とを重ね合わせた際、該重ね合わせ部分に生じたずれや隙間が3mm未満であることを特徴とする紙容器。
【請求項2】
前記二軸延伸ポリエステル系フィルム層が、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の紙容器。
【請求項3】
前記繊維質材料からなる基材層がクラフト紙である、請求項1に記載の紙容器。
【請求項4】
前記繊維質材料からなる基材層がパルプである、請求項1に記載の紙容器。
【請求項5】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるポリブチレンテレフタレート系溶融体を押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して未延伸原反を生成する工程、
当該未延伸原反を縦横それぞれ2.7倍乃至4.0倍同時二軸延伸して二軸延伸ポリエステル系フィルムを生成する工程、
当該二軸延伸ポリエステル系フィルムを繊維質材料からなる基材の表面に被着して積層
体を生成する工程、並びに
当該積層体を紙容器形状に成形する工程を含む、
請求項1に記載の紙容器の製造方法。
【請求項6】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるポリブチレンテレフタレート系溶融体を押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して未延伸原反を生成する工程、
当該未延伸原反を縦横それぞれ2.7倍乃至4.0倍同時二軸延伸して二軸延伸ポリエステル系フィルムを生成する工程、
繊維質材料からなる基材を紙容器形状に成形する工程、並びに
前記二軸延伸ポリエステル系フィルムを前記紙容器形状の基材の表面に被着する工程を含む、紙容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な紙容器に関して、さらに詳しくは、耐熱性、熱成形性及び成形安定性に優れる二軸延伸ポリエステル系フィルムを含む紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストア、デパート、スーパー等の食品売場では、トレー、カップ、丼容器、弁当容器等の食品容器内に、惣菜、麺類、サラダ等の食品が詰められて売られている。このような食品容器は、食品を収納する容器本体と、容器本体を密封する蓋体とで構成されており、一般に、容器本体は、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、フィラー入りポリプロピレン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、耐熱発泡ポリスチレン、非晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、A-PET)、結晶化ポリエチレンテレフタレート(以下、C-PET)等の熱可塑性プラスチックからなる基材を真空、圧空、または真空-圧空成形機で熱成形して製造されている(特許文献1)。また、シートの薄膜化、成形容器本体の剛性の向上及び衝撃や屈曲による割れ防止を目的に、熱可塑性プラスチックからなる基材に各種延伸フィルムを貼り合わせた積層タイプが主流となっている。
【0003】
ところで、近年、コンビニエンスストア等で購入した食品を、食品容器に収納された状態でそのまま電子レンジで温めることが日常的に行なわれているが、食品を食品容器ごと電子レンジで温めると、油分を含む食品は150℃ぐらいまで温度が上昇する場合があり、また、油分を含まない食品であっても、例えばレトルト食品においては、120℃乃至135℃のレトルト殺菌に耐え得る高い耐熱性が要求されていた。さらに、耐熱性とともに重要な特性として、真空及び圧空法等での優れた熱成形性(深絞り成形性及び成形安定性)、及び得られた成形容器本体の高い剛性が挙げられ、上記特性を満足する成形容器、及びそれらに用いられる熱成形用シートの開発が求められていた。
【0004】
前述した優れた耐熱性と熱成形性を有する熱成形用シート、及び得られる成形容器本体の剛性の向上について、これまで種々の方法が提案されている。特許文献2では、A-PETシートを再延伸、再熱処理することにより結晶化させて耐熱性を向上させる方法が提案されている。また特許文献3では、C-PETシートの熱成形性を向上させるべく、エラストマーを添加し軟質化する方法が提案されている。さらには、特許文献3、特許文献4及び特許文献5では、積層タイプにおいて、基材に貼り合わせる延伸フィルムとして、高剛性で成形性に劣る二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの代替として、ポリエチレンテレフタレート、または共重合ポリエチレンテレフタレートに他ポリエステル成分やエラストマーをブレンドして柔軟性を向上させた二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いる方法が提案されている。さらに、特許文献6では、物性バランスの良好なチューブラー法による二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムと熱可塑性樹脂とを貼り合わせたシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-329972号公報
【文献】特開2007-331831号公報
【文献】特開2002-37993号公報
【文献】特開2002-179892号公報
【文献】特開2002-321277号公報
【文献】特許5825800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、耐熱性と熱成形性の両特性を同時に満足するにはA-PETやC-PETシートの改良のみでは不十分であり、また薄膜化や容器本体の剛性の向上、割れ防止の点でも限界があった。また、積層タイプにおいて、熱可塑性プラスチックからなる基材に貼り合わせる延伸フィルムとして、柔軟性を向上させた二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いて成形性を向上させる方法は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと比べると一定レベルの改善は見られるものの、深絞り成形や複雑な容器形状を成形する場合には必ずしも十分に満足する特性が得られず、またテンター法による二軸延伸フィルム故にフィルム物性のバランスの点でも十分では無く、改良の余地があった。チューブラー法によって物性バランスを改良させた場合は、熱成形性は向上し、容器形状は概ね良好となるが、金型形状の再現度としては改良の余地があり、さらに、熱可塑性樹脂からなる容器では、電子レンジ等での加熱により、形状を維持できずに僅かに歪み、容器としての見栄えを損ねたり、篏合蓋が嵌りにくくなったりする虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる紙容器において、当該二軸延伸ポリエステル系フィルムとして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなる、フィルム物性のバランスに優れた二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いることにより、耐熱性及び形状維持性が極めて良好な紙容器を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は下記[1]乃至[6]の紙容器及び紙容器の製造方法を提供する。[1]繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる紙容器であって、該二軸延伸ポリエステル系フィルム層がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、該二軸延伸ポリエステル系フィルム層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であることを特徴とする紙容器。
[2]前記二軸延伸ポリエステル系フィルム層が、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする上記[1]に記載の紙容器。
[3]前記繊維質材料からなる基材層がクラフト紙である、上記[1]に記載の紙容器。[4]前記繊維質材料からなる基材層がパルプである、請求項1に記載の紙容器。
[5]ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるポリブチレンテレフタレート系溶融体を押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して未延伸原反を生成する工程、当該未延伸原反を縦横それぞれ2.7倍乃至4.0倍同時二軸延伸して二軸延伸ポリエステル系フィルムを生成する工程、当該二軸延伸ポリエステル系フィルムを繊維質材料からなる基材の表面に被着して積層体を生成する工程、並びに
当該積層体を紙容器形状に成形する工程を含む、紙容器の製造方法。
[6]ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるポリブチレンテレフタレート系溶融体を押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して未延伸原反を生成する工程、当該未延伸原反を縦横それぞれ2.7倍乃至4.0倍同時二軸延伸して二軸延伸ポリエステル系フィルムを生成する工程、繊維質材料からなる基材を紙容器形状に成形する工程、並びに
前記二軸延伸ポリエステル系フィルムを前記紙容器形状の基材の表面に被着する工程を含む、紙容器の製造方法。
また、本発明の好ましい態様の1つとして、
[1’]繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる紙容器であって、
該二軸延伸ポリエステル系フィルム層がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、
該二軸延伸ポリエステル系フィルム層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であり、
電子レンジを用いて700W×15分間加熱した紙容器の開口部の周縁部と、加熱していない紙容器の開口部の周縁部とを重ね合わせた際、該重ね合わせ部分に生じたずれや隙間が3mm未満であることを特徴とする紙容器、及び
[5’]ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるポリブチレンテレフタレート系溶融体を押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して未延伸原反を生成する工程、
当該未延伸原反を縦横それぞれ2.7倍乃至4.0倍同時二軸延伸して二軸延伸ポリエステル系フィルムを生成する工程、
当該二軸延伸ポリエステル系フィルムを繊維質材料からなる基材の表面に被着して積層体を生成する工程、並びに
当該積層体を紙容器形状に成形する工程を含む、[1’]に記載の紙容器の製造方法
が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の紙容器は、耐熱性に優れ、且つ形状維持性を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】チューブラー同時二軸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
(二軸延伸ポリエステル系フィルムの原料)
本発明の二軸延伸ポリエステル系フィルムに用いられる主原料は、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステル系樹脂組成物であれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としての1,4-ブタンジオール、二塩基酸成分としてのテレフタル酸を主成分としたホモタイプが好ましい。また、最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリエステル系樹脂組成物のうち、融点200℃乃至250℃、IV値1.10dl/g乃至1.35dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点215℃乃至225℃、IV値1.15dl/g乃至1.30dl/gの範囲のものが特に好ましい。
【0012】
また、本発明の二軸延伸ポリエステル系フィルムに用いられるポリエステル系樹脂組成物には、ポリエチレンテレフタレート樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂に対して30質量%以下の範囲で適宜配合することが可能であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂を配合することによりポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化を適度に抑制することが可能となり、得られる延伸フィルムの柔軟性は増し、その結果、熱成形性が格段に向上する。配合するポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としてのエチレングリコール、二塩基酸成分としてのテレフタル酸を主成分としたホモタイプが特に好ましい。最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリエチレンテレフタレート樹脂のうち、融点240℃乃至265℃、IV値0.55dl/g乃至0.90dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点245℃乃至260℃、IV値0.60dl/g乃至0.80dl/gの範囲のものが特に好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%より多く配合すると、延伸フィルム、または未延伸原反の剛性が高くなり過ぎて、結果として熱成形性の低下や原反割れに伴う延伸不調が発生する虞がある。なお、本発明の所期の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤及び結晶化促進剤等の添加剤を含有してもよい。また、用いるポリエステル系樹脂ペレットは加熱溶融時の加水分解による粘度低下を避けるため、加熱溶融前に水分率が0.05wt%以下、好ましくは0.01wt%以下になるように十分予備乾燥を行った上で使用するのが好ましい。
【0013】
(ポリブチレンテレフタレート系未延伸原反の製造方法)
本発明の二軸延伸ポリエステル系フィルムを安定的に製造するには、延伸前未延伸原反の結晶化を極力抑制する必要があり、押出されたポリブチレンテレフタレート系溶融体を冷却して製膜する際、該溶融体の結晶化温度領域をある速度以上で冷却する、すなわち原反冷却速度が重要な因子となる。その原反冷却速度は200℃/秒以上、好ましくは250℃/秒以上、特に好ましくは350℃/秒以上であり、高い冷却速度で製膜された未延
伸原反は極めて低い結晶状態を保っているため、延伸時のバブルの安定性が飛躍的に向上する。さらには高速での製膜も可能になることから、生産性も向上する。冷却速度が200℃/秒未満では、得られた未延伸原反の結晶性が高くなり延伸性が低下するばかりでなく、極端な場合には延伸バブルが破裂し、延伸が継続しない虞がある。
【0014】
原反製膜方式は、前記原反冷却速度を満たす方法であれば特に限定されるものでは無いが、急冷製膜の点では内外直接水冷式がもっとも適している。その内外直接水冷式による原反製膜法の概要を以下に説明する。まず、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は210℃乃至280℃の温度に設定された押出機によって溶融混練され、Tダイ製膜の場合は、シート状の溶融樹脂を水槽に浸漬することにより内外とも直接水冷する。一方、環状製膜の場合は、押出機に下向きに取り付けられた環状ダイより下方に押し出され、溶融管状薄膜が成形される。
【0015】
次に環状ダイに連結されている冷却マンドレルに導かれ、冷却マンドレル各ノズルから導入された冷却水が溶融管状薄膜の内側に直接接触して冷却される。同時に、冷却マンドレルと組み合わせて使用される外部冷却槽からも冷却水が流され、溶融管状薄膜の外側にも冷却水が直接接触して冷却される。内部水、及び外部水の温度は30℃以下が好ましく、急冷製膜の観点では20℃以下が特に好ましい。30℃より高くなると、原反の白化や冷却水の沸騰による原反外観不良等を招き、延伸も徐々に困難になる。
【0016】
(二軸延伸ポリエステル系フィルムの製造方法)
ポリブチレンテレフタレート系未延伸原反は、25℃以下、好ましくは20℃以下の雰囲気温度に保ちつつ延伸ゾーンまで搬送する必要があり、当該温度管理下では滞留時間に関係無く、製膜直後の未延伸原反の結晶性を維持することが出来る。この延伸開始点までの結晶化制御は、前記未延伸原反の製膜技術とともに、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の二軸延伸を安定して行う上で重要なポイントと言える。
【0017】
同時二軸延伸法は、例えばチューブラー方式やテンター方式が挙げられるが、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法が特に好ましい。
図1はチューブラー法同時二軸延伸装置の概略図である。延伸ゾーンに導かれた未延伸原反1は、一対のニップロール2間に挿通された後、中に空気を圧入しながらヒーター3で加熱するとともに、延伸終了点に冷却リング4よりエアーを吹き付けることにより、チューブラー法によるMD(流れ方向)、及びTD(垂直方向)同時二軸延伸フィルム7が得られる。延伸倍率は、延伸安定性や得られたOPBT系フィルムの強度物性、透明性、及び厚み均一性を考慮すると、MD、及びTDそれぞれ2.7倍乃至4.0倍の範囲であることが好ましい。延伸倍率が2.7倍未満である場合、得られる二軸延伸ポリエステル系フィルムの引張強度や衝撃強度が不十分となる虞があり、好ましくない。また4.0倍超の場合、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生するため、延伸加工時に破断やパンクが頻繁に発生し、安定的に生産出来ない虞がある。延伸温度は、40℃乃至80℃の範囲が好ましく、特に好ましくは45℃乃至65℃である。前述した高い冷却速度で製造した未延伸原反は、結晶性が低いため、比較的低温域の延伸温度で安定して延伸可能である。80℃を超える高温延伸では、延伸バブルの揺れが激しくなり、大きな延伸ムラが発生して厚み精度の良好なフィルムは得られない虞がある。一方、40℃未満の延伸温度では、低温延伸による過度な延伸配向結晶化が発生し、フィルムの白化等を招き、場合によって延伸バブルが破裂し延伸継続困難となる虞がある。このように二軸延伸加工を施すことにより、特に強度物性が飛躍的に向上し、かつ異方性が少ない二軸延伸ポリエステル系フィルムを得ることが出来る。
【0018】
得られた二軸延伸ポリエステル系フィルムを熱ロール方式またはテンター方式、あるいはそれらを組み合わせた熱処理設備に任意の時間投入し、180℃乃至240℃、特に好ましくは190℃乃至210℃で熱処理を行うことにより、熱寸法安定性に優れた二軸延
伸ポリエステル系フィルムを得ることができる。熱処理温度が240℃よりも高い場合は、ボーイング現象が大きくなり過ぎて幅方向での異方性が増加する、または結晶化度が高くなり過ぎるため強度物性が低下してしまう虞がある。一方、熱処理温度が180℃よりも低い場合は、フィルムの熱寸法安定性が大きく低下するため、ラミネートや印刷加工時にフィルムが縮み易くなり、実用上問題が生じる虞がある。
【0019】
二軸延伸ポリエステル系フィルムの厚みは、特に制限されるものでは無いが、一般コンバーティングフィルムとして用いる場合は5μm乃至50μm、好ましくは10μm乃至20μmである。
【0020】
二軸延伸ポリエステル系フィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における引張破断強度は、いずれも170MPa以上であることが好ましく、185MPa以上であることがさらに好ましい。引張破断強度がいずれも170MPa以上であることにより、安定した熱成形性の確保、及び成形容器本体の剛性の向上による耐衝撃性や屈曲性、突刺し等による割れ防止、及び二次加工適性等の性能が格段に向上する。引張破断強度が170MPaより小さい場合、熱成形性、及び得られた成形品の剛性の点で不十分である虞があり、好ましくない。さらに、異方性を小さくするためには、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下に調整することが好ましく、特に好ましくは1.3以下である。一方、引張破断伸度は50%以上150%以下であり、好ましくは70%以上150%以下である。150%より大きい、あるいは50%より小さい場合、印刷やポリエステル系基材と貼り合わせる際の張力により、フィルムの破断や伸び等が発生しやすくなる虞があり、好ましくない。このような特性をもつフィルムは、上述した製造方法により安定して得られる。
【0021】
(紙容器の構成)
本発明の紙容器は、繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる。当該繊維質材料としては、デッドホールド性が良好なものであればよく、例えば、クラフト紙、パルプ及びボール紙等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、クラフト紙またはパルプである。
また、上記繊維質材料の厚みは、特に限定されない。
また、本発明の紙容器の製造において、二軸延伸ポリエステル系フィルムを繊維質材料からなる基材の表面に被着して積層体を生成し、当該積層体を紙容器形状に成形する場合、その方法は特に限定されないが、熱成形によって行うことが好ましい。
また、本発明の紙容器の製造において、二軸延伸ポリエステル系フィルムを紙容器形状に成形した基材の表面に被着する場合、その方法は特に限定されないが、熱成形によって行うことが好ましく、真空成型によって行うことがさらに好ましい。
【0022】
本発明の紙容器には、二軸延伸ポリエステル系フィルム表面にグラビア印刷、フレキソ印刷及びオフセット印刷といった既知の印刷方法により印刷を施して用いることも出来る。
【実施例】
【0023】
以下に実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
<実施例1>(二軸延伸ポリエステル系フィルム(二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(OPBT)系フィルム)の製造)
140℃で5時間熱風乾燥機にて乾燥したポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット(ホモタイプ、融点=224℃、IV値=1.26dl/g)を押出機中、シリンダー及びダイ温度210℃乃至275℃の各条件で溶融混練して溶融管状薄膜を環状ダイより下方に押し出した。引き続き、冷却マンドレルの外径を通しカラプサロールで折り畳んだ後、
引取ニップロールにより1.2m/minの速度で製膜引取りを行った。溶融管状薄膜に直接接触する冷却水の温度は内側、外側ともに20℃であり、原反冷却速度は416℃/秒であった。未延伸原反の折径は143mmであり、ポリブチレンテレフタレート樹脂中にはあらかじめ滑剤としてステアリン酸マグネシウムを1000ppm添加した。以上の条件で製膜した未延伸原反1を20℃の雰囲気中でニップロール2まで搬送し、
図1に示す構造のチューブラー同時二軸延伸装置にて縦横同時二軸延伸を行った。延伸倍率はMDが3.0倍、TDが2.8倍であり、延伸温度は60℃であった。次に、この二軸延伸フィルム7を熱ロール式、及びテンター式熱処理設備にそれぞれ投入し、210℃で熱処理を施すことにより二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムを得た。なお、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムの厚みは15μmであった。
【0024】
(原反冷却速度の測定方法)
前記原反冷却速度は下記に示した式により算出した。溶融薄膜、及び原反温度は接触式の放射温度計にて測定した。また、冷却開始点は溶融薄膜が冷却水、または冷却装置に接触する部分、冷却終了点は未延伸原反の温度が30℃に到達する部分をいう。
原反冷却速度(℃/秒)=(冷却開始点直前の溶融薄膜温度-冷却終了点の原反温度)(℃)/(冷却開始点~冷却終了点間距離)(m)×冷却開始点~冷却終了点間の原反の通過速度(m/秒)
【0025】
(熱成形性の評価方法)
二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムを含む積層体の熱成形性を評価した。具体的には、まず得られた二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムのいずれか一方の面に、クラフト紙を配置し、ドライラミネートすることにより積層体を得た。得られた積層体を上下の金型を有する加熱プレス機に導入し、口径100mm×底部径50mm×深さ5mmの紙皿状の紙容器を得た。成形に際しては、積層体を100℃に予熱し、130℃に設定した上下の金型の間に導入し、上型を下降させ、所定のクリアランスとしてから2秒間保持することにより絞り成形工程を終了した。成形終了後、同じ大きさの冷却用金型に容器を移動し、10秒間冷却固定して本発明の紙容器を完成した。なお、熱成形性は以下のように目視にて評価した。
◎: 金型形状通りに成形できる。
○: 金型形状通りに概ね成形できるが、わずかな歪みがある。
×: 金型形状通りに成形できない、または成形過程で成形容器の割れが発生する。
【0026】
(耐熱性の評価方法)
得られた紙容器について、電子レンジによる耐熱性試験を行った。評価方法は、紙容器の中に食用油を1g入れて電子レンジを用いて700W×15分間加熱した後、白化の有無を目視にて確認した。電子レンジで加熱した直後の食用油の温度は、接触式の放射温度計にて測定した結果165℃であった。耐熱性は以下の基準により評価した。
◎: 紙容器本体の白化が全く無い。
〇: 紙容器本体の白化がわずかに見られるが、実用上問題が無い。
×: 紙容器本体の明確な白化が見られる。
【0027】
(形状維持性の評価方法)
前記耐熱性評価後の紙容器の開口部と、耐熱試験を実施していない同一の条件で作成した紙容器の開口部を重ね合わせ、以下の基準により形状維持性を評価した。
◎: 開口部の重ね合わせ部分に生じたずれや隙間が1mm未満である。
〇: 開口部の重ね合わせ部分に生じたずれや隙間が1mm以上、3mm未満である。
×: 開口部の重ね合わせ部分に生じたずれや隙間が3mm以上である。
【0028】
(フィルムの引張破断強伸度の評価方法)
得られたフィルムの引張破断強伸度は、オリエンテック製-テンシロン(RTC-1210-A)を使用し、試料幅15mm、チャック間100mm、引張速度200mm/minの条件で、0℃(MD)方向/45°方向/90°(TD)方向/135°方向の4方向についてそれぞれ測定を行った。各方向での引張破断強度、破断伸度、及び4方向の引張破断強度は、応力-ひずみ曲線に基づいて算出し、得られた値のうち最大値と最小値の比を表1に示した。
【0029】
<実施例2及び実施例3、比較例1及び比較例2>
実施例1において、延伸倍率を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0030】
<実施例4乃至実施例7、比較例3>
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を表1に記載した配合率で配合した原料を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0031】
<実施例8>
実施例1で使用したものと同じ二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムにドライラミネート接着剤を塗布し、乾燥させた。一方、パルプモールド容器(口径×100mm×底面径×50mm×深さ15mm)を準備し、金型下部から真空引きすることができる真空成型機に置き、その上に接着剤層が容器側を向くように二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムをセットし、100℃で加熱しながら真空引きし、容器内側にポリブチレンテレフタレート系フィルムを密着させた紙容器を得た。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0032】
<比較例4>
実施例1において、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムに変えて、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績製、E5100、厚み12μ)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0033】
<比較例5>
実施例1において、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムをラミネートせず、A-PETシート(アテナ工業(株)製、厚み0.4mm)単独で使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
<比較例6>
実施例8において、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムに変えて、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績製、E5100、厚み12μ)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0035】
表1に示すように、繊維質材料からなる基材層と二軸延伸ポリエステル系フィルム層との二層を含む積層体からなる紙容器において、該二軸延伸ポリエステル系フィルム層がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30質量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、該二軸延伸ポリエステル系フィルム層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下である、二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いた実施例1乃至実施例7の紙容器は、優れた耐熱性と熱成形性を有し、形状維持性に優れることが分かった。
【0036】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の二軸延伸ポリエステル系フィルムを含む紙容器は、熱成形性が良好かつ耐熱性が高く、形状維持性に優れるため、弁当容器、トレー、丼容器他、多様な形状の容器としてもっとも好適に用いることが出来る。さらには、未延伸フィルムと比べて薄膜である延伸フィルムによる減容化と天然由来の素材とで、従来よりも環境負荷の少ない容器を提案できる。
【符号の説明】
【0038】
1 未延伸原反
2 ニップロール
3 ヒーター
4 冷却リング
5 ガイドロール
6 ニップロール
7 二軸延伸フィルム