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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/06 20060101AFI20240708BHJP
   H02M 5/14 20060101ALI20240708BHJP
   H01F 30/12 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
H02M7/06 U
H02M5/14
H01F30/12 L
H01F30/12 C
H01F30/12 F
H01F30/12 N
H01F30/12 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020180816
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071714
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】雪田 和人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰訓
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-461(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0148900(US,A1)
【文献】特開平7-107745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/06
H02M 5/14
H01F 30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された前記低圧交流電力を整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、
前記多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2~第5巻線の4つの異なる3相の位相を生成する12相変圧器であり、
前記第2~第5巻線は何れもスター結線されて、前記第1~第5巻線は共通する鉄心に巻回されて成ると共に、
前記第3巻線は、前記第2巻線に対して極性が反転して、且つ前記第2巻線の0.73倍の巻数で前記鉄心に巻回されて成り、
前記第2巻線及び前記第3巻線の中性点同士が連結されている一方、前記第4巻線及び前記第5巻線は、前記第3巻線の途中の共通する所定の位置から分岐して形成され、
前記第2~第5巻線のそれぞれが異なる位相の3相電圧を出力して、12相の交流電力を出力し、
前記12相変圧器の2次側巻線の所定の部位から電力を取り出すことで、3相交流電力、単相3線交流電力のうち少なくとも一方の取り出しが可能であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された低圧交流電力を整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、
前記多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2巻線、第3巻線とを有する6相変圧器であり、前記第2巻線及び前記第3巻線は双方ともスター結線されて共通する鉄心に巻回されて成り、
前記第3巻線は、前記第2巻線に対して極性が反転して、且つ前記第2巻線の0.73倍の巻数で鉄心に巻回されて成ると共に、前記第2巻線及び前記第3巻線の中性点同士が連結され、
前記6相変圧器の2次側巻線の所定の部位から電力を取り出すことで、3相交流電力、単相3線交流電力のうち少なくとも一方の取り出しが可能であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
前記第2巻線の3相のうちの何れか1相を選択してその中間部位と、前記第2巻線の選択した相に対して180度反転した前記第3巻線の特定の相の特定部位と、前記中性点とから電力を取り出して、単相3線交流を出力することを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2巻線の3相の出力から低圧3相電力を出力し、更に前記中性点を中性極として取り出し、3相4線交流を生成することを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換装置。
【請求項5】
直流電力と交流電力の双方の出力部に電力制限回路を備え、
前記電力制限回路が、双方の合計電力が多相変圧器の容量を超えないよう制御することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧受電設備等に組み込まれる電力変換装置に関し、詳しくは高圧交流電力から直流電力を生成するのに加えて、低圧交流電力も生成して出力する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧受電電力から直流電力を生成する場合、変圧器により高圧を低圧に変換した後、AC/DCコンバータにより低圧交流電力を直流に変換する構成が広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。
また、AC/DCコンバータを使用しない方式として、例えば多相変圧器を使用して高圧の3相交流を低圧の多相交流に変換し、この多相交流を整流回路を用いて直流を生成する方式がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6747619号公報
【文献】特開2008-295155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記AC/DCコンバータを使用する構成は、降圧する変圧器に従来より使用している3相変圧器が使用でき、直流生成のために変圧器を変更する必要はないが、AC/DCコンバータから高周波ノイズが発生するため、その対策を講ずる必要があった。
一方、多相変圧器により降圧して出力される交流電力は、多相で生成されるため、整流回路で整流するだけでリップルの小さい直流電力を生成することが可能で、AC/DCコンバータを使用せずに済み、高周波ノイズが発生せず安心できた。
しかしながら、多相変圧器を使用する構成は、特許文献2に開示されているように、例えば2次側の結線が、デルタ結線とスター結線の2つの巻線の組を有しているため、単相交流電力を得るのは難しく別途変圧器を必要とした。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、AC/DCコンバータを使用すること無く直流電力を生成するために、多相変圧器を使用して多相の低圧交流電力を生成する構成としても、別途変圧器等を使用すること無く必要とする交流電力も生成できる電力変換装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された低圧交流電力を整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2~第5巻線の4つの異なる3相の位相を生成する12相変圧器であり、第2~第5巻線は何れもスター結線されて、第1~第5巻線は共通する鉄心に巻回されて成ると共に、第3巻線は、第2巻線に対して極性が反転して、且つ第2巻線の0.73倍の巻数で鉄心に巻回されて成り、第2巻線及び第3巻線の中性点同士が連結されている一方、第4巻線及び第5巻線は、第3巻線の途中の共通する所定の位置から分岐して形成され、第2~第5巻線のそれぞれが異なる位相の3相電圧を出力して、12相の交流電力を出力し、12相変圧器の2次側巻線の所定の部位から電力を取り出すことで、3相交流電力、単相3線交流電力のうち少なくとも一方の取り出しが可能であることを特徴とする。
この構成によれば、降圧する変圧器が整流回路のみでリップルの小さい直流を生成できる12相変圧器であっても、2次側の巻線はスター結線され、それらは共通する中性点を有するため中性点を基準に低圧交流電力を生成でき、単相3線等の低圧交流電力を取り出し易い。よって、別途変圧器を使用すること無く低圧交流電力を生成でき、低コストで直流に加えて低圧交流を出力できる。
【0007】
請求項2の発明は、高圧3相電力を多相変圧器を使用して低圧交流電力に変換し、変換された低圧交流電力を整流回路を使用して直流電力に変換する電力変換装置であって、多相変圧器が、1次側巻線を構成する第1巻線と、2次側巻線を構成する第2巻線、第3巻線とを有する6相変圧器であり、第2巻線及び第3巻線は双方ともスター結線されて共通する鉄心に巻回されて成り、第3巻線は、第2巻線に対して極性が反転して、且つ第2巻線の0.73倍の巻数で鉄心に巻回されて成ると共に、第2巻線及び第3巻線の中性点同士が連結され、6相変圧器の2次側巻線の所定の部位から電力を取り出すことで、3相交流電力、単相3線交流電力のうち少なくとも一方の取り出しが可能であることを特徴とする。
この構成によれば、降圧する変圧器が整流回路のみでリップルの小さい直流を生成できる6相変圧器であっても、2次側の巻線はスター結線され、それらは共通する中性点を有するため中性点を基準に低圧交流電力を生成でき、単相3線等の低圧交流電力を取り出し易い。よって、別途変圧器を使用すること無く低圧交流電力を生成でき、低コストで直流に加えて低圧交流を出力できる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、第2巻線の3相のうちの何れか1相を選択してその中間部位と、第2巻線の選択した相に対して180度反転した第3巻線の特定の相の特定部位と、中性点とから電力を取り出して、単相3線交流を出力することを特徴とする。
この構成によれば、別途変圧器を使用することなく、多相変圧器から単相3線交流電力を出力できる。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、第2巻線の3相の出力から低圧3相電力を出力し、更に中性点を中性極として取り出し、3相4線交流を生成することを特徴とする。
この構成によれば、別途変圧器を使用することなく、多相変圧器から3相4線交流電力を出力できる。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、直流電力と交流電力の双方の出力部に電力制限回路を備え、電力制限回路が、双方の合計電力が多相変圧器の容量を超えないよう制御することを特徴とする。
この構成によれば、多相変圧器が生成する直流電力と交流電力の双方の電力を監視するため、1つの変圧器で直流と交流の電力を生成しても、変圧器の容量を超えないよう制御できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、降圧する変圧器が12相変圧器であっても、また6相変圧器であっても、2次側の巻線はスター結線され、それらは共通する中性点を有するため中性点を基準に低圧交流電力を生成でき、単相3線等の低圧交流電力を取り出し易い。よって、別途変圧器を使用すること無く低圧交流電力を生成でき、低コストで直流に加えて低圧交流を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る電力変換装置の一例を示すブロック図である。
図2】多相変圧器を12相変圧器とした場合の電力変換装置の概略構成図である。
図3】12相変圧器の回路図である。
図4】12相変圧器の2次側巻線の個々の巻線のベクトル説明図である。
図5】12相変圧器の2次側の位相説明図である。
図6図5に示す第2巻線のR1-T1端子間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図7図5に示す第2巻線のR1端子と第4巻線のT3端子の間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図8図5に示す第2巻線のR1端子と第3巻線のR2端子の間の出力が負荷に印加される様子を示す説明図である。
図9】第3巻線から第4巻線及び第5巻線を引き出す位置を示すベクトル図である。
図10】12相変圧器から、直流電力に加えて単相2線交流を取り出す説明図であり、12相変圧器は2次側のベクトル図で示している。
図11】12相変圧器から、直流電力に加えて単相3線交流を取り出す説明図であり、12相変圧器はベクトル図で示している。
図12】12相変圧器から、直流電力に加えて3相3線交流を取り出す説明図であり、12相変圧器は2次側のベクトル図で示している。
図13】12相変圧器から、直流電力に加えて3相4線交流を取り出す説明図であり、12相変圧器は2次側のベクトル図で示している。
図14】多相変圧器を6相変圧器とした場合の電力変換装置の概略図であり、(a)は電力変換装置の構成図、(b)は6相変圧器の回路図を示している。
図15】6相変圧器の2次側端子電圧及び端子間電圧のベクトル説明図であり、(a)は第2巻線、第3巻線それぞれの相電圧、(b)は第2巻線の相間電圧と第2巻線及び第3巻線の間の同一相の線間電圧の関係を示している。
図16】6相変圧器の2次側出力の波形図である。
図17】6相変圧器から、直流電力に加えて単相2線交流を取り出す説明図であり、6相変圧器は2次側コイルのみで示している。
図18】6相変圧器から、直流電力に加えて単相3線交流を取り出す説明図であり、6相変圧器は2次側コイルのみ示している。
図19】6相変圧器から、直流電力に加えて3相3線交流を取り出す説明図であり、6相変圧器は2次側コイルのみ示している。
図20】6相変圧器から、直流電力に加えて3相4線交流を取り出す説明図であり、6相変圧器は2次側コイルのみ示している。
図21】電力変換装置の他の例を示し、直流電力及び低圧交流電力の双方に電力制限回路を備えた構成を示している。
図22】電力制限回路の制御の流れを示すフローチャートである。
図23】電力制限値の一例を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る電力変換装置の一例を示す概略構成図である。電力変換装置1は、多相変圧器3、多相変圧器3の出力を整流する整流回路4、多相変圧器から3相電力、単相電力を取り出して出力する低圧交流出力部5を備え、高圧受電設備を構成するキュービクル等に収容されて使用される。ここでは、3相3線交流出力部5a、3相4線交流出力部5b、単相3線交流出力部5cの3種類の交流電力が低圧交流出力部5から出力可能に構成されている。M1は直流出力、M2は交流出力を示している。
【0014】
多相変圧器3は、高圧3相電源10から受電した6600Vの高圧3相交流電力を、特定電圧の低圧交流電力に変換している。この多相変圧器3は、12相変圧器3a或いは6相変圧器3bが使用され、以下順に説明する。
【0015】
図2は、多相変圧器3に12相変圧器3aを使用した構成を示し、低圧12相の電圧を出力し、4つの3相全波整流回路を備えた整流回路4により個々の出力が全波整流される構成を示している。尚、平滑回路や開閉器等は省略している。
【0016】
図3図9は、12相変圧器3aの具体的構成を示す説明図であり、以下これらの図を参照して12相変圧器3aを具体的に説明する。
図3は構成図を示している。図3に示すように、12相変圧器3aは、1次側巻線L1を構成する第1巻線11、2次側巻線L2を構成する4つの巻線(第2巻線12、第3巻線13、第4巻線14、第5巻線15)を備えている。
何れの巻線も、入力される3相電力に対応する3つの巻回部(11a~11c、12a~12c、13a~13c、14a~14c、15a~15c)を有している。
【0017】
第1巻線11はデルタ結線され、3つの端子(Rin、Sin、Tin)に高圧の3相交流電力が接続される。
第2~第5巻線12,13,14,15は、全てスター結線されている(但し、後述するように、第4巻線14、第5巻線15は完全な形でのスター結線ではない)。以下、3相をR相、S相、T相として説明する。尚、第1巻線11はスター結線であっても良い。
【0018】
12相変圧器3aの2次側は、第2巻線12の出力端子R1,S1,T1、第3巻線13の出力端子R2,S2,T2、第4巻線14の出力端子R3,S3,T3、第5巻線15の出力端子R4,S4,T4を有し、全12端子を備えている。
第2巻線12と第3巻線13のスター結線された中性点Q同士は連結され、第3巻線13は第2巻線12に対して極性が反転するよう鉄心8に巻回されている。また、第4巻線14と第5巻線15は、第3巻線13の途中の同一点から分岐して形成され、第4巻線14と第5巻線15とは、第3巻線13と中性点Qが共通している。
【0019】
第4巻線14、第5巻線15は具体的に以下のように鉄心8に巻回されている。まず、第4巻線14の各相は次のように巻回されている。
R相巻線14aは、第3巻線13のR相巻線13aの途中から分岐して引き出され、1次側S相と共通の脚部鉄心8bに巻回されている。そして、先端が出力端子R3である。
S相巻線14bは、第3巻線13のS相巻線13bの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のT相(或いは第2巻線12のT相)と共通の脚部鉄心8cに巻回されている。そして、先端が出力端子S3である。
またT相巻線14cは、第3巻線13のT相巻線13cの途中から分岐して引き出され、1次側R相と共通の脚部鉄心8aに巻回されている。そして、先端が出力端子T3である。
【0020】
第5巻線15の各相は次のように巻回されている。R相巻線15aは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のR相巻線13aの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のT相(或いは第2巻線12のT相)と共通の脚部鉄心8cに巻回されている。そして、先端が出力端子R4である。
S相巻線15bは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のS相巻線13bの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のR相(或いは第2巻線12のR相)と共通の脚部鉄心8aに巻回されている。そして、先端が出力端子S4である。
またT相巻線15cは、第4巻線14と同一部位である第3巻線13のT相巻線13cの途中から分岐して引き出され、第1巻線11のS相(或いは第2巻線12のS相)と共通の脚部鉄心8bに巻回されている。そして、先端が出力端子T4である。
【0021】
図4は2次側巻線L2の個々の巻線のベクトル説明図であり、第2巻線12のR1相を基準に各相を示している。この図4に示すように、第2巻線12の3相の巻線12a,12b,12cは、入力される3相電力と同様にそれぞれ120度の位相差を有する電圧を出力端子R1,S1,T1から出力する。
そして第3巻線13の各巻線13a,13b,13cの位相は、この第2巻線12に対して上述したように正反対の極性を示し、出力端子R2,S2,T2の位相は、第2巻線12のR1,S1,T1の各相に対して180度の位相差を有している。尚、第2巻線12に対する第3巻線13の巻回数は、0.73倍(√3-1倍)となっている。
【0022】
また第4巻線14の第3巻線13から引き出した巻線14a,14b,14cの各出力端子R3,S3,T3の位相は、第2巻線12の各相と同位相の電圧を発生する。更に、第5巻線15の第3巻線13から引き出した巻線15a,15b,15cの各出力端子R4,S4,T4の位相は、第4巻線14と同様に第2巻線12の対応する各相の出力端子R1,S1,T1と同位相の電圧を発生する。
【0023】
図5は2次側の位相説明図で、第2巻線12のR1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相を示している。
図5に示すように、第2巻線12のR1端子とT1端子間の電圧絶対値及び位相に対して、第2巻線12のR1端子と第4巻線14のT3端子間の電圧絶対値は等しく、位相は15度遅れている。また、第2巻線12のR1端子と第3巻線13のR2端子間の電圧絶対値は等しく、位相は30度遅れている。更に、第2巻線12のR1端子と第5巻線15のS4端子間の電圧絶対値は等しく、位相は45度遅れている。
【0024】
図6図8は、図6に示す特定の相間電圧が負荷(直流グリッド)6に印加される様子を示す説明図であり、12相変圧器3aの出力電圧(ベクトルで示す)が整流回路4で整流されて負荷6に印加される様子を示している。
図6は第2巻線12のR1-T1端子間の出力が負荷6に印加される様子を示し、図7は第2巻線12のR1端子と第4巻線14のT3端子の間の出力が負荷6に印加される様子を示し、図8は第2巻線12のR1端子と第3巻線13のR2端子の間の出力が負荷6に印加される様子を示している。
このように、絶対値が等しい各相間電圧が整流されて負荷6に印加される。
【0025】
そして、このような各相の関係は、第2巻線12のS1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相、第2巻線12のT1端子の位相に対する第3巻線13,第4巻線14,第5巻線15の出力位相も同様であり、絶対値が等しい相間電圧が生成されて負荷6に印加される。
【0026】
図9は、第3巻線13から第4巻線14及び第5巻線15を引き出す位置を示すベクトル説明図であり、以下このベクトル図を参照して第4巻線14、第5巻線15を引き出す位置Xを具体的に説明する。尚、E1(Q-R1間の電圧)は第2巻線12の出力電圧を示している。
図9に示すR1-T3間の電圧(A+B)を例えば200Vとすると、R1-R2間の電圧も同様に200Vであり、電圧E1は200/√3=115.4Vとなる。
そして、 電圧A=電圧B/tan15°
また 電圧A=電圧B×3.723
であるため、電圧A=200-電圧Bを加味すると、
電圧A=200/(1+tan15°)=157.73V
となる。
【0027】
よって、
電圧B=200-電圧A=200-157.73=42.27V
R1-X間の電圧=A/cos15°=163.3V
R2-X間の電圧=(R1-R2間の電圧)-(R1-X間の電圧)=36.7V
となり、
Q-X間の電圧=(R1-X間の電圧)-(R1-Q間の電圧)
=163.3-115.46=47.83V
Q-R2間の電圧=200-(R1-Q間の電圧)
=200-115.46=84.54V
となる。
尚、電圧B=200-電圧A=42.27V
X-T3間の電圧=電圧B×√2=59.77V となる。
【0028】
これらの結果から、
(Q-X間の電圧)/(Q-R2間の電圧)=47.83/84.54=0.565
即ち、位置Xは、中性点(Q点)から56.5%の位置となる。
尚、2次側の各巻線を巻数比をみると、
第2巻線:第3巻線:第4巻線:第5巻線=1:0.73:0.52:0.52
となっている。
【0029】
このように、2次側を構成する第2~第5の4つの巻線のうち、第4巻線14と第5巻線15は、第3巻線13の途中の中性点から56.5%の位置から分岐させるため、2分の1を超える領域で肩代わりさせることができ、各相を単独で巻回形成するより巻回数を削減できる。よって、多相変圧器を小型化できる。
そして、第3巻線13による出力電圧は、第2巻線12の出力位相に対して180度反転した位相の電圧となり、第4巻線14による出力電圧の位相は、第2巻線12の同一相の出力に対して15度の位相差を生成する。更に、第5巻線15による出力電圧の位相は、第2巻線12の同一相の出力に対して15度の位相差を生成するし、第4巻線14に対して第2巻線12の同一相を挟んで30度の位相差を生成する。結果、12相の電圧を生成する。
また、12相の多相の低圧交流電力を生成して整流回路4により全波整流して直流電力を生成するため、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するAC/DCコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。よって、高周波スイッチングによるノイズが発生することがない。
【0030】
図10図13は、12相変圧器3aから、低圧交流電力を取り出す説明図であり、図10は直流電力に加えて単相2線交流を取り出す構成を示している。尚、12相変圧器3aをベクトル図で示している(図11~13も同様)。また、ここでは12相変圧器3aの第2巻線12のR,S,T各相が出力する交流電圧を136.8V(相間237V)として説明する。
図10に示すように、第2巻線12のR1端子を有する巻線12aの中性点Qから73%の部位F1と中性点Qとの間から電力を取り出すことで、100V電圧の単相2線交流を得ている。
【0031】
尚、第2巻線12はスター結線された3相から成るため、第2巻線12のS1端子を有する巻線12bの上述した比率の所定部位と中性点Qとから取り出しても良いし、第2巻線12のT1端子を有する巻線12cの所定部位と中性点Qとから取り出しても良い。
また、スター結線された第3巻線13の3相の何れかの相と中性点Qとの間から取り出しても良いが、第3巻線13の生成電圧は第2巻線12の0.73倍であるため、100V電圧の取り出し位置は巻線の途中ではなく端子位置となる。
【0032】
図11は、12相変圧器3aから、直流電力に加えて単相3線交流を取り出す構成を示している。図11では、第2巻線12のR1端子を備えた巻線12aの中性点Qから73%の部位F1と、第3巻線13のR2端子とを電圧極(第1電圧極,第2電圧極)として取り出し、中性点Qを中性極として取り出して、単相3線交流を得ている。
【0033】
図12は、12相変圧器3aから、直流電力に加えて3相3線交流を取り出す構成を示している。図12に示すように、第2巻線の各相の端子R1,S1,T1の生成電圧が136.8Vの3相電圧であるため、各相とも中性点Qから84.4%の位置F2の部位から取り出すことで相間電圧200Vの3相3線交流を生成できる。
【0034】
図13は、12相変圧器3aから、直流電力に加えて3相4線交流を取り出す構成を示している。図13に示すように、図12に示す3相3線の構成に加えて、中性点Qを中性極として電力を取り出すことで、3相4線交流を得ることができる。
【0035】
このように、12相変圧器3aから、直流電力と共に低圧交流電力も取り出すことができる。しかも、単相2線、単相3線、3相3線、3相4線の全ての形態を取り出すことができ、降圧する多相変圧器以外に変圧器を必要としないため、低コストで直流及び交流を生成できる。
そして、12相変圧器3aに、これら全ての低圧交流電力を取り出し可能とする結線をした低圧交流出力部5を配置すれば、図1に示す構成となる。
【0036】
図14は、多相変圧器3を6相変圧器とした場合の電力変換装置1の概略図であり、(a)は電力変換装置1の構成図、(b)は6相変圧器の回路図を示している。6相変圧器3bにより低圧6相の交流が出力され、2つの3相全波整流回路を備えた整流回路4により個々の出力が全波整流される構成を示している。尚、平滑回路や開閉器等は省略している。
図14(b)に示すように、6相変圧器3bは、1次側巻線L1を構成する第1巻線41、2次側巻線L2を構成する第2巻線42及び第3巻線43の3つの巻線を有している。何れも3相電力に対応するための3つの巻回部(41a~41c、42a~42c、43a~43c)を有し、スター結線されている。
【0037】
第1巻線41が高圧3相電源のR相、S相、T相の各相が接続されるRin,Sin,Tinの3端子(1次側端子)を備えている。第2巻線42は3つの出力端子(2次側端子)R1,S1,T1を有し、第3巻線43は3つの出力端子(2次側端子)R2,S2,T2を有している。第2巻線42に対して第3巻線43は、極性が反転するよう巻回され、共通の中性点Qを有している。
【0038】
各巻線41,42,43の巻回部(41a~41c、42a~42c、43a~43c)は、この鉄心48の3本の脚にそれぞれ巻回されている。但し、第3巻線43は第2巻線42に比べて巻回数が少なく、第2巻線42と第3巻線43とは1:(√3-1)の比で巻回されている。具体的に、第3巻線43は第2巻線42に比べて約0.73倍の巻数で巻回されている。
【0039】
図15は、このように巻回した6相変圧器3bの2次側6端子に発生する電圧のベクトル図を示し、(a)は各相の電圧、(b)は線間電圧を示している。図15(a)に示すように、第2巻線42から出力される3相の電圧VR1、VS1、VT1、及び第3巻線43から出力される3相の電圧VR2,VS2,VT2は、それぞれ120度の位相差を有しているが、第3巻線43の出力は第2巻線42との巻線比に比例して小さい。そのため、出力される電圧が巻き数比に比例した大きさとなる。
【0040】
そして、線間(相間)電圧は、図15(b)に示すように、R1端子-S1端子間の電圧VS1-R1の位相に対して、S1端子-S2端子間の電圧VS1-S2(VS1+VS2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。また、S1端子-T1端子間の電圧VT1-S1の位相に対して、T1端子-T2端子間の電圧VT1-T2(VT1+VT2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。更に、T1端子-R1端子間の電圧VR1-T1の位相に対して、R1端子-R2端子間の電圧VR1-R2(VR1+VR2)は30進相で発生し、且つ絶対値は等しい。
【0041】
図16は、このように各巻線を巻回した変圧器3bの出力電圧波形を示し、この出力電圧は全波整流する整流回路4で整流され、12相の電圧波形から成る直流が生成され、リップルの小さい直流電圧を得ることができる。
【0042】
このように、第1巻線41に加えて、2次側の電圧を生成する第2巻線42及び第3巻線43もスター結線するため、生成する電圧を一定にし易い。また、第3巻線43もスター結線されるため、従来のデルタ結線に比べて巻数を√3分の1減らすことができ、変圧器3bを小型にできる。
加えて、第2巻線42から出力される線間電圧の位相に対して、第2巻線42と第3巻線43の同一相間の線間電圧は30度の位相差を有して発生するため、6相の電圧を生成できる。そして、全波整流することで30度位相がズレた全12相の波形を生成することができる。
よって、6相の多相の低圧交流電力を生成して整流回路4により全波整流して直流電力を生成することで、リップルの小さい直流を生成でき、高周波で切り替え動作するコンバータを使用することなく安定した直流電力の生成が可能となる。よって、高周波スイッチングによるノイズが発生することがない。
【0043】
図17~20は、6相変圧器3bから直流に加えて低圧交流を取り出す構成を示している。但し、2次側巻線L2の各巻線の交流出力電圧を136.8Vとして説明する。
図17は直流に加えて単相2線交流を取り出す構成を示し、第2巻線42のR1端子を備えた巻線42aの中性点Qから73%の部位F3と中性点Qとの間から電力を取り出すことで、100V電圧の単相2線交流を得る。
【0044】
尚、第2巻線42はスター結線された3相から成るため、第2巻線42のS1端子を備えた巻線42bの中間部位と中性点Qとから取り出しても良いし、第2巻線42のT1端子を備えた巻線42cの上記割合の所定の部位と中性点Qとから取り出しても良い。更には、同様にスター結線された第3巻線43の3相の何れかの相の巻線の所定の部位と中性点Qとの間から取り出しても良い。但し、第2巻線42の出力電圧が136.8Vの場合、第3巻線43のその巻数から100Vであるため、100Vの電圧を得るには巻線の端子位置からの取り出しとなる。
【0045】
図18は、6相変圧器3bから直流電力に加えて単相3線交流を取り出す構成を示している。図18に示すように、第2巻線42のR1端子を備えた巻線12aの中性点Qから73%の部位F3と、第3巻線43のR2端子とを電圧極(第1電圧極,第2電圧極)として取り出し、中性点Qを中性極として取り出して、単相3線交流を得ている。尚、上記単相2線交流の取り出しと同様に、他の相の巻線を使用して生成しても良い。
【0046】
図19は、6相変圧器3bから直流電力に加えて3相3線交流を取り出す構成を示している。図19に示すように、第2巻線42の115.47Vの位置(中性点Qから84.4%の部位)F4から引き出すことで、R1,S1,T1の相間電圧200Vの3相3線交流を生成できる。
【0047】
図20は、6相変圧器3bから直流電力に加えて3相4線交流を取り出す構成を示している。図19に示す3相3線の構成に加えて、図20に示すように中性点Qから電力を取り出すことで、3相4線交流を得ることができる。
【0048】
このように、降圧する変圧器が6相変圧器3bであっても、2次側巻線L2はスター結線され、それらは共通する中性点Qを有するため中性点Qを基準に低圧交流電力を生成でき、単相3線等の低圧交流電力を取り出し易い。よって、別途変圧器を使用すること無く低圧交流電力を生成でき、低コストで直流に加えて低圧交流を出力できる。
【0049】
尚、交流電力の取り出しに際して、第2巻線12の出力電圧を136.8Vとして説明したが、これより高い電圧であれば、単相100V(単相3線)や3相200Vは2次側巻線L2の途中から取り出すことで得ることができる。
【0050】
図21は電力変換装置1の他の例を示し、直流電力及び低圧交流電力の双方の出力を制御する電力制限回路9を備えて、出力する直流と交流の合計電力が多相変圧器3の容量を超えないように監視する機能を付加した構成となっている。
電力制限回路9は、整流回路4から出力される直流電力を算出する直流電力演算部9a、多相変圧器3から出力される交流電力を算出する交流電力演算部9b、直流電路M1上に配置されて電力を制限する直流電力制限回路9c、低圧交流電路M2上に配置されて電力を制限する交流電力制限回路9d、直流電力制限回路9c及び交流電力制限回路9dの双方を制御する制御部9eを備えている。
【0051】
この制御部9eによる制御は、以下のように実施される。制御は直流電力優先制御、交流電力優先制御、均等制御の3通りがあるが、ここでは直流電力優先制御を中心に説明する。図22は、直流電力優先制御のフローを示し、このフローを参照して説明する。制御部9eは、まず直流電路M1の電圧/電流情報を入手して直流電力WDCを演算する(ST1(ステップ1))。次に低圧交流電路M2の電圧/電流情報を入手して交流電力WACを演算する(ST2)。尚、この演算順は逆でも良い。
【0052】
双方の電力を算出したら、合計した電力と多相変圧器3の定格容量を比較し(ST3)、算出した電力が定格容量より大きければ、交流電力を削減する制御を実施する。この削減制御は、例えば別途設置されている蓄電池(図示せず)から電力を供給させて多相変圧器3の負担を軽減させる等の制御となる。
一方、算出した電力が定格容量以下であれば、削減制御は実施せず、一定時間が経過したらST1に戻り新たな電力監視を実施する。
【0053】
尚、交流電力を優先する場合はST4で直流電力を一定量低減(或いは、一定割合低減)させることになる。また、均等制御の場合は、ST4で直流電力及び交流電力の双方を一定量低減(或いは、一定割合低減)させる制御を実施する。
【0054】
このように、多相変圧器3が生成する直流電力と交流電力の双方の電力を監視して出力電力を制御するため、1つの多相変圧器3で直流と交流の2種類の電力を生成しても、多相変圧器3の容量を超えないよう制御できる。
【0055】
図23は、12相変圧器3aを使用して直流/交流を生成する場合の負荷率の説明図であり、低圧交流出力が3相交流の場合を示している。このような負荷率を基に上記電力制御が行われる。例えば、負荷が交流負荷のみの場合は使用する巻線が第2巻線12のみであるため、第2巻線12のR1,S1,T1の各相を容量100%まで利用できることを示している。
一方、直流負荷のみの場合は、2次側3つの巻線13,14,15を使用するが、第2巻線12の容量の62,5%、第3~第5巻線13,14,15は12.5%の使用率で100%になる。12相変圧器3aが定格容量を超えないよう制御する場合、これらの数値を基に制御が成される。
【0056】
尚、ここでは12相変圧器3aの出力に対して電力制限回路9を設けた構成を示しているが、6相変圧器3bを使用する構成の場合も同様に電力制限回路9を設けて同様の制御を実施できる。
【符号の説明】
【0057】
1・・電力変換装置、3・・多相変圧器、3a・・12相変圧器、3b・・6相変圧器、4・・整流回路(全波整流回路)、5・・低圧交流出力部、5a・・3相3線出力部、5b・・3相4線交流出力部、5c・・単相3線交流出力部、8・・鉄心、9・・電力制限回路、10・・高圧3相電源、11・・第1巻線、12・・第2巻線、13・・第3巻線、14・・第4巻線、15・・第5巻線、41・・第1巻線、42・・第2巻線、43・・第3巻線、48・・鉄心、L1・・1次側巻線、L2・・2次側巻線、M1・・直流電路、M2・・低圧交流電路、Q・・中性点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図20
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図23