(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】圧縮繊維構造材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 47/14 20060101AFI20240708BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C22C47/14
B22F3/02 P
B22F3/02 G
(21)【出願番号】P 2020187709
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019204478
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】中山 昇
(72)【発明者】
【氏名】常前 洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢幹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 崇
(72)【発明者】
【氏名】三村 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】小口 拓也
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104289717(CN,A)
【文献】特開2013-078556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/02
A61L 27/04
C22C 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温環境下で、容器に収容された所定量の金属繊維を所定の圧縮方向に圧縮しながら前記容器内の前記金属繊維の全体形状を前記圧縮方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行って、圧縮繊維構造材を成形する繰返し圧縮工程を備え
、
前記繰返し圧縮工程では、前記圧縮加工として、前記圧縮方向に直交する2個の平面の間で前記容器内の前記金属繊維の全体を挟んで圧縮する第1圧縮加工と、前記圧縮方向の一方側に膨らむ第1の凸面と前記圧縮方向の一方側に窪む第1の凹面との間で前記容器内の前記金属繊維の全体を挟んで圧縮する第2圧縮加工と、前記圧縮方向の他方側に膨らむ第2の凸面と前記圧縮方向の他方側に窪む第2の凹面との間で前記容器内の前記金属繊維の全体を挟んで圧縮する第3圧縮加工とを行うことを特徴とする圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項2】
前記繰返し圧縮工程では、前記第1圧縮加工と前記第2圧縮加工と前記第1圧縮加工と前記第3圧縮加工とをこの順番で繰り返し行うか、または、前記第1圧縮加工と前記第2圧縮加工と前記第3圧縮加工とを任意の順番で繰り返し行うことを特徴とする請求項
1記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項3】
前記繰返し圧縮工程では、成形される前記圧縮繊維構造材の空隙率に応じて前記金属繊維の圧縮力を変えることを特徴とする請求項1
または2記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項4】
前記金属繊維は、純チタンまたはチタン合金からなるチタン繊維であることを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項5】
前記繰返し圧縮工程前に所定量の前記金属繊維を前記容器に入れる収容工程を備え、
前記収容工程では、前記金属繊維以外の所定量の粉体または繊維を所定量の前記金属繊維と一緒に前記容器に入れることを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【請求項6】
前記繰返し圧縮工程後に行われる除去工程を備え、
前記除去工程で、前記粉体または前記繊維を除去することを特徴とする請求項
5記載の圧縮繊維構造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維を圧縮することで成形される圧縮繊維構造材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体親和性繊維を常温圧縮せん断加工して、薄板状の圧縮繊維構造材を成形する圧縮繊維構造材の製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の圧縮繊維構造材の製造方法では、生体親和性繊維として、チタン繊維等の金属繊維が用いられている。また、この製造方法では、常温および大気雰囲気中で、平均径が5~50μmでアスペクト比が20~500の生体親和性繊維に圧縮荷重とせん断荷重とを加えることで薄板状の圧縮繊維構造材を製造している。
【0003】
特許文献1に記載の圧縮繊維構造材の製造方法では、平均空孔径が60μm以上100μm以下で空隙率が25%以上50%以下の範囲となる薄板状の圧縮繊維構造材を製造することが可能となっている。すなわち、この圧縮繊維構造材の製造方法では、生体骨に近い機械的特性を持ち、骨芽細胞を増加させやすい薄板状の圧縮繊維構造材を製造することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の圧縮繊維構造材の製造方法では、所定の平均空孔径および空隙率を有する薄板状の圧縮繊維構造材を製造することが可能である。しかしながら、本願発明者の検討によると、特許文献1に記載の圧縮繊維構造材の製造方法では、厚さが1mm未満の薄板状の圧縮繊維構造材を製造することは可能であるが、厚さが1mmを大幅に超える厚みのある立体的な圧縮繊維構造材を製造することはできないことが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、所定の平均空孔径および空隙率を有する圧縮繊維構造材であって、厚みのある立体的な圧縮繊維構造材を製造することが可能となる圧縮繊維構造材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本願発明者は圧縮繊維構造材の種々の製造方法を検討した。その結果、本願発明者は、圧縮繊維構造材を製造する際に、常温環境下で、容器に収容された所定量の金属繊維を所定の圧縮方向に圧縮するのと同時に容器内の金属繊維の全体形状を圧縮方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行うことで、所定の平均空孔径および空隙率を有する圧縮繊維構造材であって、厚みのある立体的な圧縮繊維構造材を製造することが可能であることを知見するに至った。
【0008】
本発明の圧縮繊維構造材の製造方法は、かかる新たな知見に基づくものであり、常温環境下で、容器に収容された所定量の金属繊維を所定の圧縮方向に圧縮しながら容器内の金属繊維の全体形状を圧縮方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行って、圧縮繊維構造材を成形する繰返し圧縮工程を備え、繰返し圧縮工程では、圧縮加工として、圧縮方向に直交する2個の平面の間で容器内の金属繊維の全体を挟んで圧縮する第1圧縮加工と、圧縮方向の一方側に膨らむ第1の凸面と圧縮方向の一方側に窪む第1の凹面との間で容器内の金属繊維の全体を挟んで圧縮する第2圧縮加工と、圧縮方向の他方側に膨らむ第2の凸面と圧縮方向の他方側に窪む第2の凹面との間で容器内の金属繊維の全体を挟んで圧縮する第3圧縮加工とを行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の圧縮繊維構造材の製造方法では、繰返し圧縮工程において、常温環境下で、容器に収容された所定量の金属繊維を所定の圧縮方向に圧縮しながら容器内の金属繊維の全体形状を圧縮方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行って、圧縮繊維構造材を成形している。そのため、本発明の製造方法では、所定の平均空孔径および空隙率を有する圧縮繊維構造材であって、厚みのある立体的な圧縮繊維構造材を製造することが可能になる。
【0010】
本発明において、繰返し圧縮工程では、たとえば、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第1圧縮加工と第3圧縮加工とをこの順番で繰り返し行うか、または、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第3圧縮加工とを任意の順番で繰り返し行う。
【0011】
本発明において、繰返し圧縮工程では、成形される圧縮繊維構造材の空隙率に応じて金属繊維の圧縮力を変えることが好ましい。このように構成すると、繰返し圧縮工程での金属繊維の圧縮力を変えることで、空隙率の異なる様々な圧縮繊維構造材を製造することが可能になる。
【0012】
本発明において、金属繊維は、たとえば、純チタンまたはチタン合金からなるチタン繊維である。この場合には、優れた生体親和性、強度および耐食性を有する圧縮繊維構造材を製造することが可能になる。
【0013】
本発明において、圧縮繊維構造材の製造方法は、たとえば、繰返し圧縮工程前に所定量の金属繊維を容器に入れる収容工程を備え、収容工程では、金属繊維以外の所定量の粉体または繊維を所定量の金属繊維と一緒に容器に入れる。この場合には、異なる材料を組み合わせて、任意の位置に任意の機械的性質を備える圧縮繊維構造材を製造することが可能になる。
【0014】
本発明において、圧縮繊維構造材の製造方法は、繰返し圧縮工程後に行われる除去工程を備え、除去工程で、粉体または繊維を除去することが好ましい。このように構成すると、除去工程を行うことで、粉体または繊維の大きさに応じた大きさの空孔を圧縮繊維構造材の中に形成することが可能になる。すなわち、圧縮繊維構造材の中に形成される空孔径を制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の圧縮繊維構造材の製造方法で圧縮繊維構造材を製造すれば、所定の平均空孔径および空隙率を有する圧縮繊維構造材であって、厚みのある立体的な圧縮繊維構造材を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で製造される圧縮繊維構造材の平面図であり、(B)は、(A)に示す圧縮繊維構造材の側面図であり、(C)は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で使用される製造装置の構成を説明するための概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法を説明するための概略図である。
【
図3】本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法を説明するための概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で実際に製造された圧縮繊維構造材の機械的特性を示すグラフであり、(A)は、繰返し圧縮工程において金属繊維に加える圧縮応力と圧縮繊維構造材の空隙率との関係を示すグラフ、(B)は、繰返し圧縮工程において金属繊維に加える圧縮応力と圧縮繊維構造材の縦弾性係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
(圧縮繊維構造材の構成、および、圧縮繊維構造材の製造装置の構成)
図1(A)は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で製造される圧縮繊維構造材1の平面図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す圧縮繊維構造材1の側面図であり、
図1(C)は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で使用される製造装置3の構成を説明するための概略図である。
図2、
図3は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法を説明するための概略図である。
【0020】
本形態の圧縮繊維構造材の製造方法で製造される圧縮繊維構造材1は、金属繊維2が焼結されずに圧縮されて形成された構造材である。本形態の金属繊維2は、純チタンまたはチタン合金からなるチタン繊維である。金属繊維2の平均径は、たとえば、5~50μmであり、金属繊維2のアスペクト比は、たとえば、20~500である。圧縮繊維構造材1は、円柱状に形成されている。円柱状に形成される圧縮繊維構造材1の直径dは、たとえば、12mmであり、圧縮繊維構造材1の厚さ(高さ)tは、たとえば、12mmである。
【0021】
圧縮繊維構造材1は、生体骨に近い機械的特性を備えている。より具体的には、圧縮繊維構造材1は、皮質骨に近い機械的特性を備えている。圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は、たとえば、5~30GPaである。ただし、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は、5GPa未満であっても良いし、30GPaを超えていても良い。また、圧縮繊維構造材1の空隙率は、たとえば、5%以上50%以下となっており、圧縮繊維構造材1の平均空孔径は、たとえば、60μm以上100μm以下となっている。圧縮繊維構造材1の内部の空隙率は、圧縮繊維構造材1の全体において均一になっている。あるいは、圧縮繊維構造材1の箇所によって、圧縮繊維構造材1の内部の空隙率には差異がある。
【0022】
圧縮繊維構造材1の製造時には、製造装置3が使用される。製造装置3は、ダイ4と、ダイ4に固定される下パンチ5と、ダイ4に対して昇降する上パンチ6と、上パンチ6を昇降させる昇降機構(図示省略)とを備えている。ダイ4は、厚肉の円筒状に形成される上側ダイ7と、上側ダイ7を下側から支持する下側ダイ8とから構成されている。上側ダイ7は、円筒状に形成される上側ダイ7の軸方向と上下方向とが一致するように配置されている。
【0023】
下パンチ5および上パンチ6は、円柱状に形成されている。下パンチ5および上パンチ6は、下パンチ5および上パンチ6の軸方向と上下方向とが一致するように配置されている。下パンチ5の上端側部分は、上側ダイ7の下端側部分の内周側に配置されている。下パンチ5には、金属繊維2を圧縮する際の圧縮力を測定するための圧力センサ(ひずみゲージ)9が取り付けられている。上パンチ6は、上側ダイ7の内周側に上側から挿入可能となっている。昇降機構は、たとえば、油圧シリンダである。なお、昇降機構は、電動シリンダ等であっても良い。
【0024】
また、製造装置3は、
図3に示すように、金属繊維2を圧縮する際に下側から金属繊維2に接触する押圧具10~12と、金属繊維2を圧縮する際に上側から金属繊維2に接触する押圧具13~15とを備えている。押圧具10~15は、上側ダイ7の内周側に上側から挿入可能となっている。圧縮繊維構造材1を製造する際には、押圧具10~12のいずれか1つが上側ダイ7の内周側に上側から挿入された後、所定量の金属繊維2が上側ダイ7の内周側に上側から挿入され、その後、押圧具13~15のいずれか1つが上側ダイ7の内周側に上側から挿入される。
【0025】
上側ダイ7の内周側に挿入された押圧具10~12は、下パンチ5に載置されている。押圧具13~15の上面には、上パンチ6の下端面が当接可能となっている。本形態では、下パンチ5に載置される押圧具10~12と上側ダイ7とによって、所定量の金属繊維2が収容される容器17が構成されている。
【0026】
押圧具10、13は、円柱状に形成されている。押圧具10、13の外径は、上側ダイ7の内径よりもわずかに小さくなっている。押圧具10が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具10の下端面および押圧具10の上端面10aは、上下方向に直交する平面となっている。また、押圧具13が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具13の上端面および押圧具13の下端面13aは、上下方向に直交する平面となっている。
【0027】
押圧具11、12、14、15は、略円柱状に形成されている。押圧具11、12、14、15の外径は、押圧具10、13の外径と等しくなっている。押圧具11、12が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具11、12の下端面は、上下方向に直交する平面となっている。押圧具14、15が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具14、15の上端面は、上下方向に直交する平面となっている。
【0028】
押圧具11が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具11の上端面11aは、上側に膨らむ凸面となっている。具体的には、上端面11aは、円錐状の凸面となっており、上端面11aの縦断面の形状は、二等辺三角形状となっている。二等辺三角形状をなす上端面11aの断面の頂角は、たとえば、120°となっている。押圧具14が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具14の下端面14aは、上側に窪む凹面となっている。具体的には、下端面14aは、円錐状の凹面となっており、下端面14aの縦断面の形状は、二等辺三角形状となっている。二等辺三角形状をなす下端面14aの断面の頂角は、たとえば、120°となっている。
【0029】
押圧具12が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具12の上端面12aは、下側に窪む凹面となっている。具体的には、上端面12aは、円錐状の凹面となっており、上端面12aの縦断面の形状は、二等辺三角形状となっている。二等辺三角形状をなす上端面12aの断面の頂角は、たとえば、120°となっている。押圧具15が上側ダイ7の内周側に配置された状態では、押圧具15の下端面15aは、下側に膨らむ凸面となっている。具体的には、下端面15aは、円錐状の凸面となっており、下端面15aの縦断面の形状は、二等辺三角形状となっている。二等辺三角形状をなす下端面15aの断面の頂角は、たとえば、120°となっている。
【0030】
(圧縮繊維構造材の製造方法)
圧縮繊維構造材1は、所定量の金属繊維2を容器17に入れる収容工程と、収容工程後に、常温環境下で、容器17の中の金属繊維2を所定の圧縮方向に圧縮しながら容器17の中の金属繊維2の全体形状を圧縮方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行って、圧縮繊維構造材1を成形する繰返し圧縮工程とを備える製造方法によって製造される。本形態では、繰返し圧縮工程の圧縮加工において、容器17の中の金属繊維2を上下方向(鉛直方向)に圧縮しながら容器17の中の金属繊維2の全体形状を上下方向で変形させる。すなわち、本形態の上下方向は、圧縮方向である。
【0031】
収容工程および繰返し圧縮工程は、常温環境下で行われる。また、収容工程および繰返し圧縮工程は、大気雰囲気中で行われる。本明細書において、「常温」とは、積極的に加熱しないという意味であり、20℃~100℃程度の範囲を包含する意味で「常温」の文言を使用しているが、通常、常温は、20℃~80℃程度である。また、本明細書において、「大気雰囲気」とは、コントロールされていない雰囲気の意味であり、加圧も減圧もされていない空気雰囲気のことであるが、同様の雰囲気であれば、加圧や減圧を行っている空気雰囲気等も、大気雰囲気に含まれる。
【0032】
収容工程では、上側ダイ7の内周側に押圧具10を挿入して容器17を構成してから、所定量の金属繊維2を容器17に入れた後、押圧具13を上側ダイ7の内周側に挿入する(
図2参照)。
【0033】
収容工程後の繰返し圧縮工程では、まず、
図3(A)に示すように、上下方向に直交する2個の平面である押圧具10の上端面10aと押圧具13の下端面13aとの間で容器17の中の金属繊維2の全体を挟んで圧縮する第1圧縮加工を行う。すなわち、上端面10aと下端面13aとの間に容器17の中の金属繊維2の全体を配置した状態で上パンチ6を下側に移動させて、金属繊維2を円柱状に圧縮する。その後、上パンチ6を上側に移動させてから、押圧具13、金属繊維2および押圧具10をこの順番で上側ダイ7の内周側から抜き取る。
【0034】
その後、繰返し圧縮工程では、
図3(B)に示すように、上側ダイ7の内周側に、押圧具11、第1圧縮加工後の金属繊維2および押圧具14をこの順番で入れてから、上側に膨らむ凸面である押圧具11の上端面11aと、上側に窪む凹面である押圧具14の下端面14aとの間で容器17の中の金属繊維2の全体を挟んで圧縮する第2圧縮加工を行う。すなわち、上端面11aと下端面14aとの間に容器17の中の金属繊維2の全体を配置した状態で上パンチ6を下側に移動させて、金属繊維2を圧縮する。その後、上パンチ6を上側に移動させてから、押圧具14、金属繊維2および押圧具11をこの順番で上側ダイ7の内周側から抜き取る。
【0035】
第2圧縮加工を行うと、金属繊維2の上端面は、上側に膨らむ凸面となり、金属繊維2の下端面は、上側に窪む凹面となる。すなわち、第2圧縮加工を行うと、容器17の中の金属繊維2の全体形状が上下方向で変形する。具体的には、第2圧縮加工を行うと、円柱状の金属繊維2が上側に膨らむように変形する。そのため、第2圧縮加工を行うと、金属繊維2の内部に、圧縮力に加えてせん断力が作用する。なお、本形態の上端面11aは、第1の凸面であり、下端面14aは、第1の凹面である。
【0036】
その後、繰返し圧縮工程では、
図3(C)に示すように、上側ダイ7の内周側に、押圧具10、第2圧縮加工後の金属繊維2および押圧具13をこの順番で入れてから、上端面10aと下端面13aとの間で容器17の中の金属繊維2の全体を挟んで圧縮する第1圧縮加工を行う。その後、上パンチ6を上側に移動させてから、押圧具13、金属繊維2および押圧具10をこの順番で上側ダイ7の内周側から抜き取る。
【0037】
第2圧縮加工後に第1圧縮加工を行うと、上側に膨らむ凸面となっていた金属繊維2の上端面、および、上側に膨らむ凹面となっていた金属繊維2の下端面は、上下方向に直交する平面となる。すなわち、第2圧縮加工後に第1圧縮加工を行うと、容器17の中の金属繊維2の全体形状が上下方向で変形する。具体的には、第2圧縮加工後に第1圧縮加工を行うと、上側に膨らんでいた金属繊維2が円柱状に変形する。そのため、第2圧縮加工後に第1圧縮加工を行うと、金属繊維2の内部に、圧縮力に加えてせん断力が作用する。
【0038】
その後、繰返し圧縮工程では、
図3(D)に示すように、上側ダイ7の内周側に、押圧具12、第1圧縮加工後の金属繊維2および押圧具15をこの順番で入れてから、下側に窪む凹面である押圧具12の上端面12aと、下側に膨らむ凸面である押圧具15の下端面15aとの間で容器17の中の金属繊維2の全体を挟んで圧縮する第3圧縮加工を行う。すなわち、上端面12aと下端面15aとの間に容器17の中の金属繊維2の全体を配置した状態で上パンチ6を下側に移動させて、金属繊維2を圧縮する。その後、上パンチ6を上側に移動させてから、押圧具15、金属繊維2および押圧具12をこの順番で上側ダイ7の内周側から抜き取る。
【0039】
第3圧縮加工を行うと、金属繊維2の上端面は、下側に窪む凹面となり、金属繊維2の下端面は、下側に膨らむ凸面となる。すなわち、第3圧縮加工を行うと、容器17の中の金属繊維2の全体形状が上下方向で変形する。具体的には、第3圧縮加工を行うと、円柱状の金属繊維2が下側に膨らむように変形する。そのため、第3圧縮加工を行うと、金属繊維2の内部に、圧縮力に加えてせん断力が作用する。なお、本形態の上端面12aは、第2の凹面であり、下端面15aは、第2の凸面である。
【0040】
その後、繰返し圧縮工程では、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第1圧縮加工と第3圧縮加工とをこの順番で繰り返し行うとともに、最後に、第1圧縮加工を行って、圧縮繊維構造材1を成形する。このように、繰返し圧縮工程では、圧縮加工として、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第3圧縮加工とを行っている。
【0041】
繰返し圧縮工程では、成形される圧縮繊維構造材1の空隙率に応じて金属繊維2の圧縮力を変えている。金属繊維2を圧縮する際の圧縮力は、圧力センサ9の測定値に基づいて設定される。なお、繰返し圧縮工程の圧縮加工において、金属繊維2に加える圧縮応力(圧力)が比較的低い場合には、圧縮繊維構造材1の箇所によって、圧縮繊維構造材1の内部の空隙率に差異がある。具体的には、圧縮繊維構造材1の中心部の空隙率が、圧縮繊維構造材1の上下の両端部および外周部の空隙率に比べて高くなっている。すなわち、これらの場合には、圧縮繊維構造材1の内部の空隙率に差異があり、その特性により圧縮繊維構造材1は何らかの機能を持った機能性傾斜材となっている。また、繰返し圧縮工程の圧縮加工において、金属繊維2に加える圧縮応力が比較的高い場合には、圧縮繊維構造材1の内部の空隙率は、圧縮繊維構造材1の全体において均一になっている。
【0042】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、繰返し圧縮工程において、常温環境下で、容器17の中の金属繊維2を上下方向に圧縮しながら容器17の中の金属繊維2の全体形状を上下方向で変形させる圧縮加工を繰り返し行って、圧縮繊維構造材1を成形している。そのため、本形態では、所定の平均空孔径および空隙率を有する圧縮繊維構造材1であって、厚みのある立体的な圧縮繊維構造材1を製造することが可能になる。
【0043】
本形態では、繰返し圧縮工程において、成形される圧縮繊維構造材1の空隙率に応じて金属繊維2の圧縮力を変えている。そのため、本形態では、繰返し圧縮工程での金属繊維2の圧縮力を変えることで、空隙率の異なる様々な圧縮繊維構造材1を製造することが可能になる。また、本形態では、金属繊維2が純チタンまたはチタン合金からなるチタン繊維であるため、優れた生体親和性、強度および耐食性を有する圧縮繊維構造材1を製造することが可能になる。
【0044】
(実施例)
図4は、本発明の実施の形態にかかる圧縮繊維構造材の製造方法で実際に製造された圧縮繊維構造材1の機械的特性を示すグラフであり、(A)は、繰返し圧縮工程において金属繊維2に加える圧縮応力と圧縮繊維構造材1の空隙率との関係を示すグラフ、(B)は、繰返し圧縮工程において金属繊維2に加える圧縮応力と圧縮繊維構造材1の縦弾性係数との関係を示すグラフである。
【0045】
上述した圧縮繊維構造材の製造方法で圧縮繊維構造材1を実際に製造すると、
図4に示す機械的特性を有する圧縮繊維構造材1が製造された。この実施例では、チタン繊維である金属繊維2を5g使用して、圧縮繊維構造材1を製造した。金属繊維2は、株式会社日工テクノ製のチタン繊維であり、金属繊維2の平均径は、20μmである。また、この実施例では、繰返し圧縮工程において、内径が12mmとなっている上側ダイ7と、上端面11aの断面の頂角が120°となっている押圧具11と、下端面14aの断面の頂角が120°となっている押圧具14と、上端面12aの断面の頂角が120°となっている押圧具12と、下端面15aの断面の頂角が120°となっている押圧具15とを使用した。
【0046】
また、この実施例では、繰返し圧縮工程において、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第1圧縮加工と第3圧縮加工と第1圧縮加工との5回の圧縮加工をこの順番で行った。さらに、この実施例では、第1圧縮加工、第2圧縮加工および第3圧縮加工のそれぞれにおいて、300MPa、400MPa、500MPa、550MPa、850MPaの圧縮応力を金属繊維2に加えた。
【0047】
この実施例で製造された圧縮繊維構造材1の空隙率は、第1圧縮加工、第2圧縮加工および第3圧縮加工において金属繊維2に加える圧縮応力に応じて、
図4(A)に示すように変動した。この実施例では、空隙率が7~30%となっている圧縮繊維構造材1が製造された。なお、圧縮繊維構造材1の空隙率は、以下のように算出した。すなわち、まず、製造された圧縮繊維構造材1の体積と質量から圧縮繊維構造材1の密度を計算し、チタンの密度で圧縮繊維構造材1の密度を除することにより、圧縮繊維構造材1の相対的な密度を計算した。また、圧縮繊維構造材1の相対的な密度を1から引いた値の割合を圧縮繊維構造材1の空隙率とした。
【0048】
また、この実施例で製造された圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は、第1圧縮加工、第2圧縮加工および第3圧縮加工において金属繊維2に加える圧縮応力に応じて、
図4(B)に示すように変動した。この実施例では、金属繊維2に加える圧縮応力が300MPaのときに、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は約7GPaとなり、金属繊維2に加える圧縮応力が400MPaのときに、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は約11GPaとなり、金属繊維2に加える圧縮応力が500MPaのときに、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は約9GPaとなり、金属繊維2に加える圧縮応力が550MPaのときに、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は約10GPaとなり、金属繊維2に加える圧縮応力が850MPaのときに、圧縮繊維構造材1の縦弾性係数は約17GPaとなった。
【0049】
すなわち、この実施例では、縦弾性係数が約7~約17GPaとなっている圧縮繊維構造材1が製造された。皮質骨の縦弾性係数は、10~30GPaとなっている。そのため、この実施例から、第1圧縮加工、第2圧縮加工および第3圧縮加工において金属繊維2に加える圧縮応力を400~850MPaとすれば、製造された圧縮繊維構造材1の縦弾性係数を皮質骨の縦弾性係数と同程度にすることができることがわかった。なお、この実施例では、JISH7902「ポーラス金属の圧縮試験方法」に基づいた圧縮繊維構造材1の圧縮試験を行って、圧縮繊維構造材1の応力-ひずみ曲線を求めた後、圧縮繊維構造材1の応力-ひずみ曲線から圧縮繊維構造材1の縦弾性係数を算出した。
【0050】
(他の実施の形態)
上述した形態において、収容工程で、金属繊維2以外の所定量の粉体または繊維を所定量の金属繊維2と一緒に容器17に入れても良い。たとえば、収容工程で、所定量の純銅または銅合金の粉体、あるいは、所定量の純銅または銅合金の繊維を金属繊維2と一緒に容器17に入れても良い。この場合には、異なる材料を組み合わせて、任意の位置に任意の機械的性質を備える圧縮繊維構造材1を製造することが可能になる。
【0051】
また、上述した形態において、収容工程で、所定量の樹脂の粉体を所定量の金属繊維2と一緒に容器17に入れても良い。この場合には、たとえば、繰返し圧縮工程後に、樹脂の粉体を除去する除去工程が行われる。除去工程では、繰返し圧縮工程後の金属繊維2を、樹脂の融点を超える温度であって、かつ、金属繊維2の融点よりも大幅に低い温度で加熱して、金属繊維2を焼結させることなく、樹脂の粉体を溶かして除去する。この場合には、樹脂の粉体の大きさに応じた大きさの空孔を圧縮繊維構造材1の中に形成することが可能になる。すなわち、圧縮繊維構造材1の中に形成される空孔径を制御することが可能になる。
【0052】
また、上述した形態において、収容工程で、金属繊維2とは異なる種類の金属の所定量の粉体または繊維を所定量の金属繊維2と一緒に容器17に入れても良い。この場合には、たとえば、繰返し圧縮工程後に、金属の粉体または繊維を除去する除去工程が行われる。この場合であっても、金属の粉体または繊維の大きさに応じた大きさの空孔を圧縮繊維構造材1の中に形成することが可能になる。すなわち、圧縮繊維構造材1の中に形成される空孔径を制御することが可能になる。
【0053】
たとえば、収容工程で、所定量のマグネシウムの粉体を所定量の金属繊維2と一緒に容器17に入れても良い。この場合には、繰返し圧縮工程後の除去工程において、繰返し圧縮工程後の金属繊維2に含まれるマグネシウムの粉体を水に溶かして除去する。この場合には、マグネシウムの粉体の大きさに応じた大きさの空孔を圧縮繊維構造材1の中に形成することが可能になる。
【0054】
上述した形態において、金属繊維2は、チタン繊維以外のものであっても良い。たとえば、金属繊維2は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム繊維であっても良いし、純銅または銅合金からなる銅繊維であっても良いし、純鉄からなる鉄繊維であっても良い。また、上述した形態において、収容工程で2種類以上の金属繊維2が容器17に収容されても良い。
【0055】
上述した形態において、圧縮繊維構造材1は、円柱状以外の立体的な形状に形成されていても良い。また、上述した形態において、押圧具11の上端面11aおよび押圧具15の下端面15aは、円錐状以外の形状に形成された凸面であっても良い。また、上述した形態において、押圧具12の上端面12aおよび押圧具14の下端面14aは、円錐状以外の形状に形成された凹面であっても良い。
【0056】
上述した形態において、繰返し圧縮工程で、最初に第1圧縮加工を行った後、第2圧縮加工と第3圧縮加工とを交互に繰り返しで行っても良い。また、繰返し圧縮工程において、第1圧縮加工と第2圧縮加工と第3圧縮加工とを任意の順番で繰り返し行っても良い。また、上述した形態では、上下方向が金属繊維2の圧縮方向となっているが、水平方向が金属繊維2の圧縮方向となっていても良いし、上下方向と水平方向とに傾いた方向が金属繊維2の圧縮方向となっていても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 圧縮繊維構造材
2 金属繊維
10a 上端面(平面)
11a 上端面(第1の凸面)
12a 上端面(第2の凹面)
13a 下端面(平面)
14a 下端面(第1の凹面)
15a 下端面(第2の凸面)
17 容器