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特許7515836中性子線遮蔽石膏系建築用ボード、中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】中性子線遮蔽石膏系建築用ボード、中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/14 20060101AFI20240708BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240708BHJP
   G21F 1/04 20060101ALI20240708BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20240708BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240708BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C04B28/14
B28B1/30 101
G21F1/04
C04B24/22 A
C04B24/26 E
C04B24/18 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022526648
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2021020274
(87)【国際公開番号】W WO2021241707
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2020094834
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】櫛部 淳道
(72)【発明者】
【氏名】岡本 肇
(72)【発明者】
【氏名】乗物 丈巳
(72)【発明者】
【氏名】小田川 雅信
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108218371(CN,A)
【文献】特開2014-089127(JP,A)
【文献】特表2010-540292(JP,A)
【文献】特開2012-127725(JP,A)
【文献】特開2013-184853(JP,A)
【文献】特開2016-166739(JP,A)
【文献】特開昭51-028819(JP,A)
【文献】特開昭55-020209(JP,A)
【文献】石膏ボードハンドブック,一般社団法人石膏ボード工業会,2016年,p31,40,奥付(全3頁),https://www.gypsumboard-a.or.jp/handbook/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
B28B 1/00-1/54
G21F 1/00-3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏と、
前記石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下であるホウ素含有材料と、
前記石膏100質量部に対して0.05質量部以上2.0質量部以下の減水剤と、を含有し、
前記ホウ素含有材料が、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含み、
乾燥比重が0.65以上1.6以下であり、発熱性2級以上である中性子線遮蔽石膏系建築用ボード。
【請求項2】
前記ホウ素含有材料がコレマナイトであり、
前記減水剤が、ナフタレン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上である請求項1に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボード。
【請求項3】
前記ホウ素含有材料が炭化ホウ素であり、
前記減水剤が、ナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上である請求項1に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボード。
【請求項4】
第1の表面側と、前記第1の表面と反対側に位置する第2の表面側とに、表面材が配置されており、前記表面材がボード用原紙、ガラス繊維不織布、およびガラスマットから選択された1種である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボード。
【請求項5】
少なくとも焼石膏、ホウ素含有材料、減水剤、および水を含有する原料を混練し、石膏スラリーを形成する混練工程と、
前記石膏スラリーを成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を硬化させる硬化工程とを有し、
前記原料は、前記ホウ素含有材料を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有し、
前記原料は、前記減水剤を、二水石膏100質量部に対して0.05質量部以上2.0質量部以下の割合で含有し、
前記ホウ素含有材料が、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含み、
前記硬化工程後に得られる中性子線遮蔽石膏系建築用ボードは、乾燥比重が0.65以上1.6以下であり、発熱性2級以上である中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法。
【請求項6】
前記ホウ素含有材料がコレマナイトであり、
前記減水剤が、ナフタレン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上である請求項に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素含有材料が炭化ホウ素であり、
前記減水剤が、ナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上である請求項に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法。
【請求項8】
前記成形工程では、表面材の間に前記石膏スラリーを配置して成形し、
前記表面材がボード用原紙、ガラス繊維不織布、およびガラスマットから選択された1種である請求項から請求項のいずれか1項に記載の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線遮蔽石膏系建築用ボード、中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年医療現場において放射線治療が行われている。
【0003】
放射線治療施設においては、患者の患部に照射した放射線が放射線使用領域外に漏れ出ることを抑制するため、放射線使用領域を厚いコンクリート壁や、厚いコンクリートと鉄、鉛などの金属板とを組み合わせた壁などの壁材により区画している。このため、放射線治療用の装置を交換する場合などには、コンクリート壁等の壁材を取り壊し、装置を交換した後に再度壁を構築する必要があった。取り壊した壁材が放射線に汚染されている場合には、壁材の廃棄にも工数や、コストを要するという問題があった。
【0004】
そのため、従来から放射線を遮蔽する放射線遮蔽材料について各種検討がなされてきた。
【0005】
例えば特許文献1には、水と石膏とを含む放射線遮蔽材組成物により成形された乾式石膏ブロックを積み重ねて構築された放射線遮蔽壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2014-89127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された放射線遮蔽壁は、乾式石膏ブロックを積み重ねて形成する必要があり、さらなる取り扱い性の向上が求められていた。
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、本発明の一側面では、取り扱い性に優れた中性子線遮蔽石膏系建築用ボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の一形態によれば、石膏と、
前記石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下であるホウ素含有材料と、
前記石膏100質量部に対して0.05質量部以上2.0質量部以下の減水剤と、を含有し、
前記ホウ素含有材料が、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含み、
乾燥比重が0.65以上1.6以下である中性子線遮蔽石膏系建築用ボードを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、取り扱い性に優れた中性子線遮蔽石膏系建築用ボードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの説明図。
図2】本発明の実施形態における中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[中性子線遮蔽石膏系建築用ボード]
本実施形態の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの一構成例について説明する。
【0013】
本実施形態の中性子線遮蔽石膏系建築用ボード(以下、「建築用ボード」とも記載する)は、石膏と、ホウ素含有材料と、減水剤とを含有できる。
【0014】
本実施形態の建築用ボードは、上記ホウ素含有材料を、石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有できる。
【0015】
また、建築用ボードは、減水剤を、石膏100質量部に対して0.05質量部以上2.0質量部以下の割合で含有できる。
【0016】
ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0017】
建築用ボードは、乾燥比重が0.65以上1.6以下であることが好ましい。
【0018】
本実施形態の建築用ボードは、ボード形状、すなわち板状形状を有することができる。本実施形態の建築用ボードによれば、上述のようにボード形状を有するため、固定するのみで、放射線遮蔽壁として機能させることができる。従って、本実施形態の建築用ボードによれば、例えばブロック形状等を有し、積層して放射線遮蔽壁を形成する必要がある放射線遮蔽材と比較して、取り扱い性に優れる。
(1)含有成分
以下、まず本実施形態の建築用ボードが有する成分について説明する。
(1-1)石膏
本実施形態の建築用ボードは、上述のように石膏を含有できる。
【0019】
放射線の中でも特に遮蔽が困難とされる中性子線は、弾性散乱によるエネルギー吸収により遮蔽することが有効である。
【0020】
中性子線は、有するエネルギーの大きさに応じて、高速中性子、速中性子、および熱中性子などに分類できる。そして、上記中性子線のうち、速中性子は、そのエネルギー領域において吸収断面積の大きな水素との衝突によりエネルギーが減速する。このため、速中性子線を遮蔽する観点から、建築用ボードには、水素密度の高い材料を用いることが好ましい。石膏は水和水が水素を含有し、水素密度が高いため、本実施形態の建築用ボードが石膏を含有することで、該建築用ボードの中性子線遮蔽性能を高めることができる。
【0021】
石膏はさらに、成形性、硬化速度にも優れる。このため、本実施形態の建築用ボードが、石膏を含有することで、放射線遮蔽材料である本実施形態の建築用ボードを生産性良く製造できる。
(1-2)ホウ素含有材料
本実施形態の建築用ボードは、各種放射線に対する放射線遮蔽性能を向上させる目的で、ホウ素をさらに含むことができる。中性子線、特に熱中性子線領域のエネルギーを有する中性子線は、ホウ素の原子核に吸収される。このため、本実施形態の建築用ボードがホウ素を含有することで、建築用ボードの中性子線遮蔽性能を向上させることができる。
【0022】
以上のように、本実施形態の建築用ボードによれば、石膏およびホウ素を含むことで、中性子線、特に速中性子線、および熱中性子線を遮蔽できる。
【0023】
本実施形態の建築用ボードは、ホウ素を例えばホウ素含有材料として含有できる。ホウ素含有材料は、ホウ素を含有する材料であれば特に限定されないが、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0024】
本実施形態の建築用ボードにおいて、ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム等の上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上を含有できる。このため、ホウ素含有材料として、例えば水和水等をさらに含む上記化合物から選択された1種類以上の化合物を用いることもできる。また、ホウ素含有材料として、上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上を含む鉱物等を用いることもできる。具体的には、例えば、ホウ素含有材料がホウ酸カルシウムを含む場合、ホウ素含有材料としてコレマナイトを用いることもできる。また、ホウ素含有材料がホウ酸ナトリウムを含む場合、ホウ素含有材料として硼砂等を用いることもできる。なお、ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム等の上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上のみから構成することもできる。
【0025】
ホウ素含有材料は、中でもホウ酸カルシウム、および炭化ホウ素から選択された1種類以上を含むことがより好ましく、コレマナイト、および炭化ホウ素から選択された1種類以上を含むことがさらに好ましい。
【0026】
コレマナイトは、安定な材料であるため取り扱い性に優れ、安価であることから好適に用いることができる。また、炭化ホウ素は、特に安定な材料であり、取り扱い性に優れるため、好適に用いることができる。
【0027】
本実施形態の建築用ボードは、ホウ素含有材料を、石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有することが好ましく、3.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有することがより好ましい。
【0028】
なお、「石膏100質量部に対して」とは、二水石膏(CaSO・2HO)100質量部に対する割合を意味する。建築用ボード中においては通常、石膏は二水石膏となっている。建築用ボードは、石膏として二水石膏以外の石膏、例えば半水石膏等を含む場合も考えられるが、建築用ボードが含有する石膏成分は、全て二水石膏を形成しているとみなして、石膏100質量部に対するホウ素含有材料が含有するホウ素の量(割合)を求められる。後述する減水剤の場合も同様である。
【0029】
石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の質量の割合を1.0質量部以上とすることで、建築用ボードの中性子線遮蔽性能を十分に高めることができる。
【0030】
また、石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の質量の割合を120質量部以下とすることで、建築用ボードを製造する際に石膏スラリーを調製し易くでき、得られる建築用ボードの強度も十分に高めることができる。
(1-3)減水剤
本実施形態の建築用ボードは、流し込み成形法により製造できる。このため、放射線遮蔽材料を製造する際に従来用いられていた、押出成形法や抄造法により製造する場合と比較して、生産性良く製造を行うことができる。
【0031】
そして、流し込み成形法により建築用ボードを製造する場合、石膏スラリー中の石膏等の分散性を高め、流し込む石膏スラリーの流動性を向上させるため、減水剤を添加することが好ましい。
【0032】
減水剤は、特に限定されず、例えば石膏硬化体を製造する際に従来から用いられている減水剤を用いることができる。減水剤としては、例えばナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、リン酸系減水剤、およびビスフェノール系減水剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0033】
減水剤は、用いるホウ素含有材料に応じて選択することが好ましい。例えば、ホウ素含有材料としてコレマナイトを用いる場合、減水剤は、ナフタレン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0034】
また、ホウ素含有材料として炭化ホウ素を用いる場合、減水剤は、ナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0035】
ホウ素含有材料としてコレマナイトや、炭化ホウ素を用いる場合、それぞれ上記減水剤を用いることで、減水剤の使用量を抑制しつつ、石膏スラリーを容易に目的の粘度とすることができる。
【0036】
本実施形態の建築用ボードは、石膏100質量部に対して、減水剤を0.05質量部以上2.0質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0037】
なお、ここでも「石膏100質量部に対して」とは、二水石膏100質量部に対する割合を意味する。
【0038】
上記減水剤の含有割合を0.05質量部以上とすることで、建築用ボードを製造するための石膏スラリー中の石膏等の分散性を高め、石膏スラリーを所定の粘度とすることができる。このため、生産性良く製造できる建築用ボードとすることができる。
【0039】
また、上記減水剤の含有割合を2.0質量部より多くしても、石膏スラリーの粘度に大きな変化がない。このため、減水剤の含有割合を2.0質量部以下とすることで、建築用ボードの生産性を高めつつ、建築用ボードのコストを抑制できる。
(1-4)その他の成分
建築用ボードは、ここまで説明した石膏、ホウ素含有材料、および減水剤以外にも任意の成分を含有することができる。
【0040】
例えば、石膏スラリーを形成する際には泡を添加することもできる。このため、本実施形態の建築用ボードは、係る泡に起因する気泡を含むこともできる。気泡の含有量を調整することで、建築用ボードの乾燥比重を所望の範囲とすることができる。
【0041】
また、建築用ボードはその他に各種添加剤を含有することもできる。
【0042】
添加剤としては、澱粉、ポリビニルアルコール等の強度向上剤や、ガラス繊維等の無機繊維および軽量骨材、バーミキュライト等の耐火材、凝結調整剤、スルホコハク酸塩型界面活性剤等の泡径調整剤、シリコーンやパラフィン等の撥水剤等が挙げられる。
(2)建築用ボードの形状、物性について
(2-1)形状、構成
本実施形態の建築用ボードは、図1に模式的に示した斜視図のようにボード形状を有していればよく、その詳細な構成は特に限定されない。本実施形態の建築用ボードは、既述のように流し込み成形法により製造することが好ましいため、表面側にボード用原紙や、ガラス繊維不織布等の表面材を配置できる。
【0043】
このため、図1に示すように、本実施形態の建築用ボード10は、第1の表面101側と、第1の表面101と反対側に位置する第2の表面102側とに、表面材11が配置されていることが好ましい。表面材11としては、特に限定されず、製造する建築用ボードの種類に応じて選択できる。本実施形態の建築用ボード10は、例えば石膏ボード、ガラスマット石膏ボード、ガラス繊維不織布入石膏板から選択された1種とすることができる。このため、表面材11としては、例えばボード用原紙、ガラス繊維不織布、およびガラスマットから選択された1種が挙げられる。図1において表面材11は石膏コア12の最表面に配置した例を示しているが、係る形態に限定されない。表面材11は、石膏コア12内に一部または全体が埋設されるように配置されていてもよい。なお、石膏コア12は、既述の石膏と、ホウ素含有材料と、減水剤とを含む。
【0044】
本実施形態の建築用ボードの厚さTは特に限定されないが、例えば9.5mm以上25.0mm以下であることが好ましく、12.5mm以上25.0mm以下であることがより好ましい。建築用ボードの厚さTを9.5mm以上とすることで、石膏や、ホウ素含有材料の含有量を十分に多くし、中性子線遮蔽性能を発揮できる。また、建築用ボードの厚さTを25.0mm以下とすることで、取り扱い性能を特に高められる。
(2-2)乾燥比重
本実施形態の建築用ボードの乾燥比重は、0.65以上1.6以下であることが好ましく、0.65以上1.3以下であることがより好ましい。
【0045】
乾燥比重を0.65以上とすることで、含有する石膏の割合を十分に高め、中性子線遮蔽性能を高めることができる。乾燥比重を1.6以下とすることで、軽量な建築用ボードとすることができ、取り扱い性を特に高められる。また、乾燥比重を1.6以下とすることで、建築用ボードを製造する際に用いる石膏スラリーの粘度が過度に高くなることを抑制し、生産性を高めることができる。
【0046】
乾燥比重は、JIS A 6901(2014)で規定される比重の測定方法に基づいて測定、算出できる。
(2-3)発熱性
本実施形態の建築用ボードは、発熱性試験で発熱性2級以上、すなわち発熱性1級または発熱性2級であることが好ましい。ここでいう発熱性試験は、JIS A 6901(2014)の付属書Aに規定されている。発熱性1級、発熱性2級は、加熱時間終了時までの総発熱量が8MJ/m以下であり、加熱時間内に防火上有害な裏面まで貫通する亀裂、孔などがなく、加熱時間内に最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えない。発熱性1級は加熱時間が20分、発熱性2級は加熱時間が10分となる。
【0047】
建築基準法によって、建物の用途や規模により使用できる建築材料が限定されている。本実施形態の建築用ボードを発熱性2級以上とすることで、使用する建物が要求される内装制限にも適応することができるため、各種用途や規模の建物においても使用できる。建築用ボードは、例えば澱粉等の有機成分の添加量を調整することで、所定の発熱性の等級とすることができる。
[中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法]
本実施形態の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法について説明する。
【0048】
本実施形態の中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法(以下、「建築用ボードの製造方法」とも記載する)は以下の工程を有することができる。
【0049】
少なくとも焼石膏、ホウ素含有材料、減水剤、および水を含有する原料を混練し、石膏スラリーを形成する混練工程。
石膏スラリーを成形する成形工程。
成形工程で得られた成形体を硬化させる硬化工程。
【0050】
原料は、ホウ素含有材料を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有できる。
【0051】
また、原料は、減水剤を、二水石膏100質量部に対して0.05質量部以上2.0質量部以下の割合で含有できる。
【0052】
ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0053】
硬化工程後に得られる建築用ボードの乾燥比重は、0.65以上1.6以下であることが好ましい。
(1)製造工程について
以下、各工程について説明する。
(1-1)混練工程
混練工程では、焼石膏、ホウ素含有材料、減水剤、および水を含有する原料を混練できる。各原料について説明する。
(1-1-1)原料について
(A)焼石膏
焼石膏は硫酸カルシウム・1/2水和物ともいい、水硬性を有する無機組成物である。本実施形態の建築用ボードの製造方法で用いる焼石膏としては、天然石膏、副産石膏および排煙脱硫石膏等の単独若しくは混合した石膏を大気中、または水中(蒸気中を含む)で焼成して得られるα型、β型焼石膏のいずれかを単独で、もしくは両者の混合品を使用できる。本実施形態の石膏板の製造方法で用いる焼石膏は、焼石膏を得る際に微量に生成するIII型無水石膏を含んでいても問題ない。
【0054】
α型焼石膏は天然石膏等の二水石膏を、オートクレーブを用い、水中または水蒸気中で加圧焼成する必要がある。また、β型焼石膏は天然石膏等の二水石膏を大気中で常圧焼成することにより製造できる。
(B)ホウ素含有材料
ホウ素含有材料は、ホウ素を含有する材料であればいいが、上述のようにホウ酸カルシウム、炭化ホウ素、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウム、硼化カルシウムから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0055】
ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム等の上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上を含有できる。このため、ホウ素含有材料として、例えば水和水等をさらに含む上記化合物から選択された1種類以上の化合物を用いることもできる。また、ホウ素含有材料として、上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上を含む鉱物等を用いることもできる。具体的には、例えば、ホウ素含有材料がホウ酸カルシウムを含む場合、ホウ素含有材料としてコレマナイトを用いることもできる。また、ホウ素含有材料がホウ酸ナトリウムを含む場合、ホウ素含有材料として硼砂等を用いることもできる。なお、ホウ素含有材料は、ホウ酸カルシウム等の上記好適なホウ素含有材料の化合物から選択された1種類以上のみから構成することもできる。
【0056】
ホウ素含有材料は、中でもホウ酸カルシウム、および炭化ホウ素から選択された1種類以上を含むことがより好ましく、コレマナイト、および炭化ホウ素から選択された1種類以上を含むことがさらに好ましい。
【0057】
本実施形態の建築用ボードの製造方法において用いる原料は、ホウ素含有材料を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が1.0質量部以上120質量部以下となる割合で含有することが好ましい。
【0058】
二水石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の質量の割合を1.0質量部以上とすることで、得られる建築用ボードの中性子線遮蔽性能を十分に高めることができる。
【0059】
また、二水石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の質量の割合を120質量部以下とすることで、建築用ボードを製造する際に石膏スラリーを調製し易くでき、得られる建築用ボードの強度も十分に高めることができる。
【0060】
硬化工程で後述するが、原料が含有する焼石膏(半水石膏)は、建築用ボードを製造する過程で焼石膏から二水石膏へと変化する。従って、建築用ボードとした際に、二水石膏100質量部に対するホウ素や、後述する減水剤の割合が所定の値となるように、原料を調製する際にホウ素含有材料や、減水剤等を秤量し、添加することが好ましい。このため、ホウ素含有材料は、建築用ボードとした際の二水石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の質量の割合が上記範囲を充足するように添加することが好ましい。
【0061】
なお、原料が、例えばホウ素含有材料を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が10質量部となる割合で含有するとは、該原料が、ホウ素含有材料を、原料中の焼石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が約11.9質量部となるように含有することを意味する。これは、上記二水石膏100質量部に対する、ホウ素含有材料が含有するホウ素の量である10質量部、二水石膏の分子量172、および焼石膏の分子量145を用いて、10×172÷145により算出できる。
【0062】
ここではホウ素含有材料の場合を例に説明したが、減水剤に関しても同様のことが言える。
(C)減水剤
後述する成形工程では、石膏スラリーを流し込み成形法により成形できる。このため、石膏スラリー中の石膏等の分散性を高め、流し込む石膏スラリーの流動性を向上させるため、原料は減水剤を含むことが好ましい。
【0063】
減水剤は、特に限定されず、例えば石膏硬化体を製造する際に従来から用いられている減水剤を用いることができる。減水剤としては、例えばナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、メラミン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、リン酸系減水剤およびビスフェノール系減水剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0064】
減水剤は、用いるホウ素含有材料に応じて選択することが好ましい。例えば、ホウ素含有材料としてコレマナイトを用いる場合、減水剤は、ナフタレン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0065】
また、ホウ素含有材料として炭化ホウ素を用いる場合、減水剤は、ナフタレン系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤、リグニン系減水剤、およびメラミン系減水剤から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0066】
ホウ素含有材料としてコレマナイトや、炭化ホウ素を用いる場合、それぞれ上記減水剤を用いることで、減水剤の使用量を抑制しつつ、石膏スラリーを容易に目的の粘度とすることができる。
【0067】
本実施形態の建築用ボードの製造方法において原料は、二水石膏100質量部に対して、減水剤を0.05質量部以上2.0質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0068】
上記減水剤の含有割合を0.05質量部以上とすることで、石膏スラリー中の石膏等の分散性を高め、石膏スラリーを所定の粘度とすることができる。このため、生産性良く建築用ボードを製造できる。
【0069】
また、上記減水剤の含有割合を2.0質量部より多くしても、石膏スラリーの粘度に大きな変化がない。このため、減水剤の含有割合を2.0質量部以下とすることで、建築用ボードの生産性を高めつつ、建築用ボードのコストを抑制できる。
(D)水
焼石膏やホウ素含有材料等を混練して石膏スラリーとするため、原料は水を含有できる。石膏スラリーを形成する際の水の添加量は特に限定されるものではなく、要求される流動性や、得られる建築用ボードに要求される比重等に応じて任意の添加量とすることができる。
(E)その他の成分
石膏スラリーの原料は、ここまで説明した焼石膏、ホウ素含有材料、減水剤、および水以外にも任意の成分を含有することができる。
【0070】
例えば、石膏スラリーを形成する際には泡を添加することもできる。泡の添加量を調整することにより得られる建築用ボードの比重を所望の範囲とすることができる。
【0071】
石膏スラリーを形成する際に泡を添加する方法は特に限定されず、任意の方法により添加することができる。例えば予め発泡剤(起泡剤)を水(泡形成用の水)に添加し、空気を取り込みながら撹拌することで泡を形成し、形成した泡を、焼石膏や水(石膏スラリーの練水)と一緒に混合することにより、泡を添加した石膏スラリーを形成できる。または、焼石膏、ホウ素含有材料、減水剤、および水等を予め混合して形成した石膏スラリーに、形成した泡を添加することにより、泡を添加した石膏スラリーとすることもできる。
【0072】
泡を形成する際に使用する発泡剤としては特に限定されるものではないが、例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などが挙げられる。
【0073】
泡の添加量は特に限定されるものではなく、作製する建築用ボードに要求される比重に応じて任意に選択することができる。
【0074】
また、原料はその他に各種添加剤を含有することもできる。添加剤としては、例えば澱粉やポリビニルアルコール等の強度向上剤や、ガラス繊維等の無機繊維および軽量骨材、バーミキュライト等の耐火材、凝結調整剤、スルホコハク酸塩型界面活性剤等の泡径調整剤、シリコーンやパラフィン等の撥水剤等が挙げられる。
(1-1-2)混練工程の操作について
原料を混練し、石膏スラリーを調製する際、原料を構成する全ての成分を同時に混練してもよいが、混練を複数回に分けて実施することもできる。例えば、原料のうち固体成分を混合、混練して石膏組成物を形成した後、得られた石膏組成物に原料のうちの水等の液体成分を添加してさらに混練を行い、石膏スラリーとすることもできる。
【0075】
なお、原料を混練する手段は特に限定されるものではなく、例えばミキサー等を用いることができる。
(1-2)成形工程
成形工程では、混練工程で得られた石膏スラリーを、所望の形状に成形することができる。具体的には、例えば表面材の間に石膏スラリーを配置して成形できる。なお、表面材としては例えばボード用原紙、ガラス繊維不織布、およびガラスマットから選択された1種を用いることができる。
【0076】
そして、成形工程ではボード形状、すなわち板状形状に成形できる。
【0077】
ここで、建築用ボードとして石膏ボードを製造する際の混練工程、成形工程の構成例について図2を用いて説明する。図2は、石膏ボードを成形する装置の構成例を部分的かつ概略的に示す側面図である。
【0078】
図中右側から左側へと表面材である表面カバー原紙(ボード用原紙)211が、生産ラインに沿って搬送される。
【0079】
ミキサー22は、搬送ラインと関連する所定の位置、例えば、搬送ラインの上方または横に配置することができる。そして、単一のミキサー22において、石膏スラリーの原料である焼石膏と、ホウ素含有材料と、減水剤と、水と、場合によってはさらに各種添加剤とを混練し、石膏スラリーを製造できる。
【0080】
なお、既述のように、焼石膏等の固体は予め混合撹拌して混合物である石膏組成物としてからミキサー22に供給することもできる。
【0081】
また、必要に応じて泡を石膏スラリーの分取口221、222、223より添加し、泡の添加量を調整することにより任意の密度の石膏スラリーとすることもできる。例えば泡の添加量を調整することで、密度の異なる第1の石膏スラリー23と、第2の石膏スラリー24とを調製することができる。泡は分取口ではなく、ミキサー22に石膏スラリーの他の原料とともに供給することもできる。
【0082】
そして、得られた第1の石膏スラリー23を、送出管251、252を通じて、ロールコーター26の上流側で表面カバー原紙(ボード用原紙)211および裏面カバー原紙(ボード用原紙)212上に供給する。なお、上記上流側とは、表面カバー原紙211や裏面カバー原紙212の搬送方向における上流側を意味する。表面カバー原紙211および裏面カバー原紙212上の第1の石膏スラリー23は、それぞれ、ロールコーター26の延展部に至り、延展部で延展される。なお、ロールコーター26は、塗布ロール261、受けロール262、および粕取りロール263を有しており、これらのロールにより第1の石膏スラリー23は延展される。
【0083】
第1の石膏スラリー23の薄層が、表面カバー原紙211上に形成される。また、同様に第1の石膏スラリー23の薄層が、裏面カバー原紙212上に形成される。なお、図2ではロールコーター26を用いて第1の石膏スラリー23を表面カバー原紙211および裏面カバー原紙212に塗布する例を示しているが、係る形態に限定されるものではない。例えば、ロールコーター26を用いて第1の石膏スラリー23を表面カバー原紙211、または裏面カバー原紙212のいずれか一方のみに塗布してもよい。また、第1の石膏スラリー23を表面カバー原紙211の側端部のみに配置することもできる。
【0084】
表面カバー原紙211は、そのまま搬送され、裏面カバー原紙212は、転向ローラ27によって表面カバー原紙211の搬送ライン方向に転向される。そして、表面カバー原紙211および裏面カバー原紙212の両方は、成形機28に達する。ここで、表面カバー原紙211、裏面カバー原紙212の上に形成された薄層の間に、ミキサー22から管路253を通じて第2の石膏スラリー24が供給される。このため、表面カバー原紙211と、裏面カバー原紙212との間に、第1の石膏スラリー23により形成された層と、第2の石膏スラリー24により形成された層と、第1の石膏スラリー23により形成された層とが積層された連続的な積層体を形成できる。
【0085】
図2では1台のミキサー22により第1の石膏スラリー23と、第2の石膏スラリー24と、を製造した例を示したが、ミキサーを2台設け、各ミキサーで第1の石膏スラリー23と、第2の石膏スラリー24と、を製造してもよい。
【0086】
また、第1の石膏スラリーと、第2の石膏スラリーと、を用いる形態に限定されるものではなく、例えば一種類の密度の石膏スラリーを製造し、これをボード用原紙上に供給する形態であっても良い。
【0087】
具体的には例えば、連続して搬送される表面カバー原紙(ボード用原紙)上に所定の密度とした石膏スラリーを供給、堆積する。そして、当該石膏スラリーを巻き込むように下紙をその両端縁部にそれぞれつけられた刻線に沿って折り込む。この際、石膏スラリーの層の上に同速で搬送される裏面カバー原紙(ボード用原紙)を重ねる。次いで、石膏ボードの厚みと幅とを決定する成形機を通過させて成形する。以上の手順により石膏ボードを成形することもできる。
【0088】
なお、ここでは、建築用ボードとして石膏ボードを製造する場合を例に説明したが、係る形態に限定されない。例えば表面材であるボード用原紙をガラス繊維不織布(ガラスティッシュ)や、ガラスマット等に変更し、これを表面もしくは表面近くに埋没させるように配置する等して、各種建築用ボードを製造できる。
(1-3)硬化工程
次に、石膏スラリーを水和硬化させる硬化工程を実施できる。
【0089】
硬化工程は、石膏スラリー中の焼石膏(半水石膏)が、水和反応により二水石膏の針状結晶が生じて凝結、凝固することにより実施できる。このため、成形工程で形成した成形体内で、石膏スラリー中に含まれる焼石膏と水との間で反応し、焼石膏の水和反応が進行することにより硬化工程を実施することができる。
(1-4)その他の工程
また、本実施形態の建築用ボードの製造方法は、さらに必要に応じて、粗切断工程や、乾燥工程、裁断工程、積込工程等の任意の工程を設けることができる。
(1-4-1)粗切断工程
例えば上記成形工程の後、硬化工程の進行中または硬化工程が終了した後に、成形工程で成形した成形体を粗切断カッターにより粗切断する粗切断工程を実施してもよい。粗切断工程では粗切断カッターにより、成形工程で形成された連続的な成形体を所定の長さに切断することができる。
(1-4-2)乾燥工程
また、成形工程で成形した成形体、または粗切断工程で粗切断された成形体について余剰な水分を乾燥させる乾燥工程を実施できる。なお、乾燥工程には、硬化工程が終了した成形体を供給することができる。乾燥工程では乾燥機を用いて成形体を強制乾燥することにより実施できる。
【0090】
乾燥機により成形体を強制乾燥する方法は特に限定されるものではないが、例えば成形体の搬送経路上に乾燥機を設け、成形体が乾燥機内を通過することにより連続的に成形体を乾燥することができる。また、乾燥機内に成形体を搬入しバッチごとに成形体を乾燥することもできる。
(1-4-3)裁断工程、積込工程
またさらに、例えば成形体を乾燥した後に、所定の長さの製品に裁断する裁断工程や、得られた石膏硬化体、または石膏ボードをリフター等により積み重ね、倉庫内に保管したり、出荷したりするためにトラック等へ積み込む積込工程等を実施することができる。
(2)得られる建築用ボードの形状、物性について
既述の建築用ボードの製造方法によれば、既述の建築用ボードを製造できる。このため、既に説明した事項は説明を一部省略する。具体的には以下の特性を有することができる。
(2-1)形状、構成
得られる建築用ボードは、ボード形状を有していればよく、その詳細な構成は特に限定されないが、既述のように流し込み成形法により製造するため、表面側にボード用原紙や、ガラス繊維不織布等の表面材を配置できる。
【0091】
なお、表面材としては、例えばボード用原紙、ガラス繊維不織布、およびガラスマットから選択された1種が挙げられる。表面材は、石膏コアの最表面に配置してもよく、石膏コア内にその一部または全体が埋設されるように配置されていてもよい。
(2-2)乾燥比重
硬化工程後に得られる建築用ボードの乾燥比重は、0.65以上1.6以下であることが好ましく、0.65以上1.3以下であることがより好ましい。
【0092】
乾燥比重を0.65以上とすることで、含有する石膏の割合を十分に高め、中性子線遮蔽性能を高めることができる。乾燥比重を1.6以下とすることで、軽量な建築用ボードとすることができ、取り扱い性を特に高められる。また、乾燥比重を1.6以下とすることで、混練工程で調製する石膏スラリーの粘度が過度に高くなることを抑制し、生産性を高めることができる。
(2-3)発熱性
硬化工程後に得られる建築用ボードは、発熱性試験で発熱性2級以上であることが好ましい。
【0093】
得られる建築用ボードを発熱性2級以上とすることで、使用する建物が要求される内装制限にも適応することができるため、各種用途や規模の建物においても使用できる。例えば澱粉等の有機成分の添加量を調整することで、所定の発熱性の等級とすることができる。
【実施例
【0094】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)評価方法
ここではまず、以下の実験例で得られた石膏スラリー、および建築用ボードの評価方法について説明する。
(1-1)石膏スラリー
(粘度)
ブルックフィールド型粘度計(B型粘度計)を使用して、常温(25℃)にて測定した。
(1-2)建築用ボード
(乾燥比重)
乾燥比重は、JIS A 6901(2014)で規定される比重の測定方法に基づいて測定、算出した。
(厚さ)
厚さは、JIS A 6901(2014)で規定される厚さの測定方法に基づいて測定、算出した。
(圧縮強度)
オートグラフ(島津製作所製 型式:AG-10NKI)を用いて、作製した建築用ボードの圧縮強度を測定した。作製した建築用ボードを厚さ方向と垂直な面において、縦2cm×横2cmのサイズとなるように切り出して試験体とした。なお、各試験体の高さは、各建築用ボードの厚さと等しくなり、例えば以下の実験例1-1の場合、試験体の高さは作製した建築用ボードの厚さと同じ15mmとなる。そして試験体にかける荷重は3mm/minとした。
(発熱性試験)
発熱性試験は、JIS A 6901(2014)の付属書Aに従って実施した。
(中性子線遮蔽率)
各実験例で作製した組成の建築用ボードについて、縦20cm、横20cm、厚さ20cmの直方体の解析モデルを用いて、中性子線遮蔽性能を評価した。そして、上記解析モデルでの解析結果により得られた中性子線遮蔽性能から、以下の実験例で作製した建築用ボードの厚みを加味し、中性子線遮蔽率を算出した。
【0095】
解析モデルを用いた中性子線遮蔽性能の評価に当たっては、計算コードとして、PHITS(Particle and heavy ion transport code system)を用いた。なお、PHITSはver.3.02を用いた。
【0096】
解析の際の線種としては点線源の中性子線(25meV)を用いた。また、換算係数は、ICRP Publication 74に開示されているものを用いた。
(2)各実験例の条件、結果
以下の各実験例における建築用ボードの製造条件、手順、および結果について説明する。
【0097】
実験例1-1~実験例1-11、実験例2-1~実験例2-8が実施例、実験例1-12~実験例1-18、実験例2-9、実験例2-10が比較例となる。
[実験例1-1]
図2に示した装置を用いて建築用ボードとして石膏ボードを製造した。
【0098】
石膏ボードの作製手順について図2を用いて説明する。
(混練工程)
図2中右側から左側へと表面カバー原紙(ボード用原紙)211を、生産ラインに沿って連続的に搬送する。
【0099】
単一のミキサー22において、β型の焼石膏と、ホウ素含有材料であるコレマナイトと、ナフタレン系減水剤と、水を含有する原料を混合した。
【0100】
なお、本実験例や、以下に示す他の実験例において、原料を混合する際、得られる石膏ボードの乾燥比重が表1に示す値となるように、添加する水の量や、必要に応じて添加する泡の量を調整した。泡を添加する場合、泡は発泡剤(主成分:アルキルエーテル硫酸塩)を発泡して作製した。
【0101】
表1に示すように、原料は、コレマナイトを、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が5.6質量部となる割合で含有する。また、原料は、ナフタレン系減水剤を、二水石膏100質量部に対して、1.5質量部の割合で含有する。なお、得られた石膏ボードにおいても、各成分を同じ比率で含有することをICP発光分光分析によって確認できた。以下の他の実験例においても同様であった。
(成形工程)
そして、ミキサー22において得られた石膏スラリーについて、分取口221、222から送出管251、252を通じて、ロールコーター26の上流側で表面カバー原紙211および裏面カバー原紙(ボード用原紙)212上に供給した。
【0102】
表面カバー原紙211および裏面カバー原紙212上の第1の石膏スラリー23は、それぞれ、ロールコーター26の延展部に至り、延展される。第1の石膏スラリー23の薄層が、表面カバー原紙211上に形成される。また、同様に第1の石膏スラリー23の薄層が、裏面カバー原紙212上に形成される。
【0103】
表面カバー原紙211は、そのまま搬送され、裏面カバー原紙212は、転向ローラ27によって表面カバー原紙211の搬送ライン方向に転向される。
【0104】
そして、表面カバー原紙211および裏面カバー原紙212の両方は、成形機28に達する。ここで、ボード用原紙である表面カバー原紙211、および裏面カバー原紙212の上に形成された薄層の間に、第2の石膏スラリー24が、管路253を通じて供給される。
【0105】
そして、成形機28を通過することにより、表面カバー原紙211と、裏面カバー原紙212との間に、第1の石膏スラリー23、および第2の石膏スラリー24により形成された層が配置された連続的な積層体が形成される。この際、石膏ボードの厚みが15mmとなるように成形した。
(硬化工程)
得られた成形体、具体的には石膏スラリーは、搬送する過程で硬化させた。
(粗切断工程)
成形体は硬化すると共に図示しない粗切断カッターに至る。粗切断カッターにより、連続的な成形体を所定の長さの板状体に切断し、原紙で被覆された石膏を主体とする芯材からなる板状体である石膏ボードの半製品を形成した。
(乾燥工程)
粗切断した成形体は、図示しない乾燥機を通過させ、強制乾燥することで余分な水分を除去した。
(裁断工程)
乾燥工程後、所定の長さの製品に裁断して建築用ボードである石膏ボードを得た。
【0106】
得られた石膏ボードについて、既述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-2、実験例1-3]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有するコレマナイトの量を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が13.1質量部(実験例1-2)、1.4質量部(実験例1-3)となるように調整した。以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-4]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、添加する水の量等を調整し、得られる石膏ボードの比重が1.3となるように調整した点以外は実験例1-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-5、実験例1-6]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、0.8質量部(実験例1-5)、0.1質量部(実験例1-6)とした。また、添加する水の量等を調整することで、得られる石膏ボードの乾燥比重が0.9(実験例1-5)、0.65(実験例1-6)となるように調整した。以上の点以外は実験例1-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-7]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、ナフタレン系減水剤に替えてメラミン系減水剤を用いた点以外は、実験例1-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-8、実験例1-9]
成形工程で、製造する石膏ボードの厚さを表1に示す値となるようにした点以外は、実験例1-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-10]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、1.0質量部とした点以外は実験例1-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-11]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、減水剤としてメラミン系減水剤を用い、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、1.0質量部とした。以上の点以外は実験例1-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-12、実験例1-13]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有するコレマナイトの量を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が0.7質量部(実験例1-12)、132.3質量部(実験例1-13)となるように調整した。以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-14、実験例1-15]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、3.0質量部(実験例1-14)、0.02質量部(実験例1-15)とした。以上の点以外は実験例1-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-16~実験例1-18]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、減水剤としてメラミン系減水剤(実験例1-16)、リグニン系減水剤(実験例1-17)、ポリカルボン酸系減水剤(実験例1-18)をそれぞれ用いた。以上の点以外は実験例1-14と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-1]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、ホウ素含有材料として炭化ホウ素(BC)を用い、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、0.8質量部とした。以上の点以外は、実験例1-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-2、実験例2-3]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する炭化ホウ素の量を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が70.5質量部(実験例2-2)、118.0質量部(実験例2-3)となるように調整した。以上の点以外は、実験例2-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-4]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、2.0質量部とした点以外は実験例2-1と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-5]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、ナフタレン系減水剤に替えてポリカルボン酸系減水剤を用いた点以外は、実験例2-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-6]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、1.5質量部とした。また、混練工程で石膏スラリーを調製する際に、添加する水の量等を調整し、得られる石膏ボードの比重が1.5となるように調整した。以上の点以外は実験例2-5と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-7、実験例2-8]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、ナフタレン系減水剤に替えてリグニン系減水剤(実験例2-7)、メラミン系減水剤(実験例2-8)を用いた点以外は、実験例2-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-9]
混練工程で石膏スラリーを調製する際に、原料が含有する炭化ホウ素の量を、二水石膏100質量部に対して、含有するホウ素の量が313.2質量部となるように調整した。以上の点以外は、実験例2-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例2-10]
ナフタレン系減水剤に替えてポリカルボン酸系減水剤を用い、原料が含有する減水剤の量を、二水石膏100質量部に対して、1.5質量部とした。また、混練工程で石膏スラリーを調製する際に、添加する水の量等を調整し、得られる石膏ボードの比重が1.7となるように調整した。以上の点以外は、実験例2-1の場合と同様にして石膏ボードを製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

表1によると、実施例である実験例1-1~実験例1-11、実験例2-1~実験例2-8で製造した石膏ボードはいずれも中性子線遮蔽率が60%を超え、十分な中性子線遮蔽性能を有することを確認できた。
【0108】
これらの石膏ボードはいずれもボード形状、すなわち板状形状を有する。このため、固定するのみで、放射線遮蔽壁として機能させることができ、取り扱い性に優れることを確認できた。
【0109】
しかし、実験例1-12で製造した石膏ボードについては、ホウ素の含有量が十分ではないため、中性子線遮蔽率が26.71%と低くなることを確認できた。
【0110】
実験例1-13で製造した石膏ボードについては、ホウ素含有材料の含有量が多すぎたため、製造した石膏ボードは脆く、圧縮強度試験等を実施できなかった。
【0111】
実験例1-14、実験例1-16は、それぞれ同じ減水剤を用いた実験例1-1、実験例1-7と比較して、減水剤の含有量を倍にしたが、石膏スラリーの粘度は同程度になることを確認できた。すなわち、石膏ボードについて、減水剤の含有割合を2.0質量部より多くしても、石膏スラリーの粘度に大きな変化がないことを確認できた。このため、減水剤の含有割合を2.0質量部以下とすることで、建築用ボードの生産性を高めつつ、建築用ボードのコストを抑制できることを確認できた。
【0112】
ただし、実験例1-15においては、減水剤の含有量を0.02質量部と少なくしたため、石膏スラリーの粘度が高くなり、石膏ボードの形状に成形することが困難であった。
【0113】
実験例1-17、実験例1-18については、石膏スラリーの粘度が高くなり、石膏ボードの形状に成形することが困難であった。
【0114】
実験例2-9で製造した石膏ボードについては、ホウ素の含有量が多いため、中性子線遮蔽率が高くなると推認されるが、石膏等の配合割合が低下するため、得られた石膏ボードの圧縮強度が低くなり、実用に適しないことが確認できた。なお、石膏ボードの圧縮強度が低く実用に適しないため、中性子線遮蔽率については評価しなかった。
【0115】
実験例2-10については、比重を1.7にするため、水等の添加量を抑制したところ、石膏スラリーの粘度が150dPa・sよりも高くなり、石膏スラリーを混練することが困難であった。このため、石膏ボードを製造できなかった。
【0116】
以上に中性子線遮蔽石膏系建築用ボード、中性子線遮蔽石膏系建築用ボードの製造方法を、実施形態等で説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0117】
本出願は、2020年5月29日に日本国特許庁に出願された特願2020-094834号に基づく優先権を主張するものであり、特願2020-094834号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0118】
10 中性子線遮蔽石膏系建築用ボード
101 第1の表面
102 第2の表面
11 表面材
図1
図2