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▶ 池田食研株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】凍結乾燥ブロックスープの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20240708BHJP
【FI】
A23L23/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020074406
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021159061
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隅 賢
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-162158(JP,A)
【文献】特開昭61-166386(JP,A)
【文献】特開平04-144638(JP,A)
【文献】特開平06-261717(JP,A)
【文献】特開平07-213248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
F26B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液とをトレーに充填して、凍結乾燥する凍結乾燥ブロックスープの製造方法であって、凍結乾燥機中で油脂を融解させ凍結乾燥物に吸収させて、乾燥前の固体状油脂部分を空洞とすると共に、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を付着させることを特徴とする、凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
【請求項2】
油脂に凝固点降下を起こす調味粉末を投入後、油脂融点以下に冷却して固体状とした固体状油脂を使用することを特徴とする、請求項1記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
【請求項3】
油脂を1重量部とした場合に、凝固点降下を起こす調味粉末を0.01~1.5重量部含む固体状油脂である、請求項1又は2記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
【請求項4】
原料全体を100重量%とした場合に、塩分を30重量%まで高めることができる、請求項1~3の何れか1項に記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
【請求項5】
空洞を有し、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を有する凍結乾燥ブロックスープであって、凍結乾燥ブロックスープ全体を100重量%とした場合に、食塩を10~50重量%含み、油脂を5~65重量%含む、凍結乾燥ブロックスープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥ブロックスープ及び該凍結乾燥ブロックスープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、凍結乾燥は、試料を凍結する予備凍結、凍結した試料から真空下で凍結水を昇華させる一次乾燥、一次乾燥後に、試料に影響のない温度まで加温して結合水を除去する二次乾燥という工程を経るが、溶解した物質の濃度が高い液体を試料とする場合は、凍結し難く、未凍結部分がある状態で凍結乾燥すると、凍結乾燥中に発泡が起こり、外観の低下や復元性の低下が引き起こされ製品価値が損なわれるため、凍結乾燥において、塩分等の凝固点に影響を与える物質を高含有させた凍結乾燥物を得ることは困難だった。また、氷がなくなった後の二次乾燥においては試料の品温が上昇するが、品温を上げれば上げる程乾燥効率が良くなるため、温度の影響を受けやすい試料の場合は、あまり温度を上げられず、乾燥に時間を要し乾燥効率の低下が避けられなかった。
【0003】
特許文献1では、澱粉質材料及び油脂材料を含む固形ペースト状部分と、それ以外の材料から成るスープ中間材料の凍結乾燥物部分とから成る、二重層構造の即席固形スープが知られており、実施例1には、常温で固体状態のやし硬化油を加熱融解し、これにポテトスターチ及び砂糖を混合して十分に練り合わせ、凍結乾燥用トレイに流入し、冷却して固化せしめ厚さ3mmのペースト状固形物層を形成し、その上に、材料を約180gの温水と混合したスープ中間材料を流延した後、常法に従って凍結乾燥して二重層構造体となることが記載されている。該固形スープは、油脂材料を含む固形ペースト状部分と、凍結乾燥部分とから成る二重層構造であり、凍結乾燥前後で油脂材料を含む固形ペースト状部分に変化はなく、凍結乾燥前も後も同じ形状である。これは常温で固体状態の油脂材料が、凍結乾燥中に融解していないことを示しており、よって従来技術では、油脂が融解しない温度に品温を抑える必要があったため乾燥に時間がかかり、乾燥効率が悪いという問題があったことに加え、固形ペースト状部分と凍結乾燥物部分とからなる二重層構造のため、溶解時に溶けむらが起こり、特に澱粉質材料を含むペースト部分が溶け難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-162158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、凝固点降下を起こす調味成分を多く含ませた凍結乾燥ブロックスープの製造を可能にすることで、調味成分と油脂とを多く含んだ味の濃いブロックスープを作ることが可能なため、スープ製品の幅を広げることができる一方、乾燥時のトレーサイズを小さくし、仕込み食数を増やして製造効率を上げることができ、さらに、凍結乾燥ブロック自体が小さくなることで、流通コストも下げることができ、1食あたりの製造コストを下げることが可能となる他、乾燥時に低い品温を維持する必要がないため、製造効率が落ちないことに加え、喫食時の溶解性に優れる凍結乾燥ブロックスープの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液とをトレーに充填して、凍結乾燥し、凍結乾燥機中で油脂を融解させ凍結乾燥物に吸収させて、乾燥前の固体状油脂部分を空洞とすると共に、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を付着させることで、調味成分を多く含ませた凍結乾燥ブロックスープが製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液とをトレーに充填して、凍結乾燥する凍結乾燥ブロックスープの製造方法であって、凍結乾燥機中で油脂を融解させ凍結乾燥物に吸収させて、乾燥前の固体状油脂部分を空洞とすると共に、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を付着させることを特徴とする、凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
[2]油脂に凝固点降下を起こす調味粉末を投入後、油脂融点以下に冷却して固体状とした固体状油脂を使用することを特徴とする、[1]に記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
[3]油脂を1重量部とした場合に、凝固点降下を起こす調味粉末を0.01~1.5重量部含む固体状油脂である、[1]又は[2]に記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
[4]原料全体を100重量%とした場合に、塩分を30重量%まで高めることができる、[1]~[3]の何れかに記載の凍結乾燥ブロックスープの製造方法。
[5]空洞を有し、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を有する凍結乾燥ブロックスープであって、凍結乾燥ブロックスープ全体を100重量%とした場合に、食塩を10~50重量%含み、油脂を5~65重量%含む、凍結乾燥ブロックスープ。
[6][1]~[4]の何れか記載の方法で得られる、[5]記載の凍結乾燥ブロックスープ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、凍結乾燥中に発泡することなく、凝固点降下を起こす調味成分を多く含ませた凍結乾燥ブロックスープを製造できるようになり、それによって調味成分と油脂とを多く含んだ味の濃いブロックスープを作ることが可能になるため、スープ製品の幅を広げることができる一方、乾燥時のトレーサイズを小さくでき、仕込み食数を増やして製造効率を上げることができ、さらに、凍結乾燥ブロック自体が小さくなることで、流通コストも下げることができ、1食あたりの製造コストを下げることが可能となる他、乾燥時に低い品温を維持する必要がないため、乾燥効率が落ちないことに加え、得られる凍結乾燥ブロックスープは、喫食時の溶解性に優れ、ダマも形成されない。また、空洞辺縁部で凝固点降下を起こす調味粉末が凍結乾燥物に付着して一体化した凍結乾燥ブロックスープとなっていることで、流通過程でも該粉末が凍結乾燥物からはがれ難く、一体化形状を保ち易い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液とをトレーに充填して、凍結乾燥する凍結乾燥ブロックスープの製造方法であって、凍結乾燥機中で油脂を融解させ凍結乾燥物に吸収させて、乾燥前の固体状油脂部分を空洞とすると共に、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末を付着させることを特徴とする、凍結乾燥ブロックスープの製造方法である。凝固点降下を起こす調味成分について、調味液中の該成分を凍結乾燥可能な範囲に抑える一方で、油脂側に保持させて凍結乾燥することで、凝固点降下を起こす調味成分を多く含ませた凍結乾燥ブロックスープの製造が可能である。
【0010】
本発明で用いる凝固点降下を起こす調味粉末は、食品に調味付けでき、凝固点降下を起こす水溶性粉末であれば特に限定されず、食塩、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸塩、グリシン等のアミノ酸、砂糖、糖アルコール等の甘味料、粉末酢、粉末醤油、粉末味噌、粉末だし、酵母エキス、植物又は動物エキス粉末等が例示でき、二種以上を使用してもよい。
【0011】
本発明で用いる油脂は、液体状態で調味粉末と混合し冷却固化後に該粉末を内包できる油脂であれば常温で液体でも固体でもよいが、融点が5℃以上の油脂が好ましく、10℃以上の油脂がより好ましく、20℃以上の油脂がさらに好ましく、前記温度以上の融点になるように二種以上の油脂を混合した油脂でもよい。常温で液体の油脂では、ごま油、コーン油、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、小麦胚芽油、椿油、ベニバナ油、ヤシ油、パーム核油、綿実油、ひまわり油、エゴマ油、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油等が例示でき、常温で固体の油脂では、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード、ヘット、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、ショートニング等が例示でき、バターやマーガリンの様な油脂を含む食品でもよく、硬化油、分別油、エステル交換油等でもよい。
【0012】
凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂は、前記調味粉末を前記油脂に投入した後、冷却して該調味粉末を含む固体状油脂とすればよいが、例えば、常温で液体の油脂は、該調味粉末を投入して混合した後、固化する温度まで冷却して、該調味粉末を含む固体状油脂とすることができ、常温で固体の油脂は、加熱融解後に該調味粉末を投入して混合した後、固化する温度まで冷却して、該調味粉末を含む固体状油脂とすることができる。該調味粉末は油脂中に含ませることができれば特に限定されないが、調味粉末含有量は油脂を1重量部とした場合に0.01~1.5重量部が好ましく、0.05~1.3重量部がより好ましく、0.1~1.0重量部がさらに好ましい。油脂中には、該調味粉末の他、香辛料、具材等調味粉末以外の固形物や脂溶性材料を含ませてもよいが、調味粉末を含めた油脂以外の材料の合計は、油脂を1重量部とした場合に0.01~1.5重量部が好ましく、0.05~1.3重量部がより好ましく、0.1~1.0重量部がさらに好ましく、澱粉質材料を含む場合は、油脂1重量部に対して、好ましくは0.5重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下、さらに好ましくは0.05重量部以下、特に好ましくは0.01重量部以下で、澱粉質材料は含まないのが最も好ましい。
【0013】
油脂の冷却は、油脂が固化する温度まで冷却すれば特に限定されず、油脂融点によって適宜設定できるが、好ましくは油脂融点の-5℃以下、より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-20℃以下で冷却するのがよい。
【0014】
凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂を、凍結乾燥で使用するトレーに充填する際の形状は、特に限定されないが、乾燥時のトレー形状によって大きさや形状を調整できる。該調味粉末を含む油脂を、予め、トレーとは別の容器に入れて冷却し固化させた後、細切したものをトレー充填するのが好ましく、例えば、ミンチ機、チョッパー、裁断機、粉砕機等により細切することができる。又は、油脂を冷却固化できる型を容器として用いて、型に該調味粉末を含む油脂を投入後、冷却して固化させたものを型から出してトレーに充填することもできる。充填する際の該調味粉末を含む固体状油脂の最大長は、乾燥時のトレーの大きさによって設定できるが、好ましくは0.5~60mm、より好ましくは1~40mm、更に好ましくは2~20mmである。
【0015】
本発明で用いる調味液は、スープとして喫食できる調味成分を含む凍結乾燥可能な液体であればよく、凍結乾燥できれば調味成分の濃度は特に限定されないが、凝固点降下を起こす調味成分は食塩濃度で7重量%未満が好ましく、6.5重量%以下がより好ましく、6.0重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が特に好ましく、4.5重量%以下が最も好ましく、食塩濃度は、食塩自体の濃度の他、食塩相当量の濃度も含む。調味液中には、賦形剤、香辛料、具材等を含ませることができる。該調味液は、凍結乾燥することにより、凍結乾燥物となる。
【0016】
本発明は、凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液とをトレーに充填して凍結乾燥することで、調味液部分の水分が昇華されて固体が形成されるとともに、乾燥終盤、つまり二次乾燥において、品温が上昇することで、凍結乾燥機中で油脂を融解させて凍結乾燥物に吸収させ、乾燥前の固体状油脂部分を空洞とすると同時に油脂中の該調味粉末が凍結乾燥物の空洞辺縁部に付着して一体化されることで、凍結乾燥ブロックスープを製造することができる。空洞の大きさは固体状油脂と同等の大きさで、好ましくは最大長が0.5~60mm、より好ましくは1~40mm、更に好ましくは2~20mmで、空洞辺縁部で該調味粉末が凍結乾燥物に付着することで、窪みに付着しているため、平らな表面に付着する場合に比べて、直接、物理的な力がかかり難いため、製造後の流通過程等で付着した調味粉末が凍結乾燥物からはがれ難く、一体化形状を保持できる。
【0017】
凝固点降下を起こす調味粉末を含む固体状油脂と調味液について、トレーに充填する順番は特に限定されないが、予備凍結により全体が凍結されるまで、油脂が固体状を保つ必要があるため、固体状油脂と接触する際の調味液の温度は油脂が融解しない温度とし、油脂融点によって適宜設定できるが、好ましくは油脂融点+5℃以下、同等以下又は-5℃以下、より好ましくは-10℃以下、さらに好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-20℃以下がよい。乾燥前に油脂が融解してしまうと、乾燥効率が悪くなることに加え、空洞ができないため、調味粉末が凍結乾燥物からはがれ易くなってしまう。
【0018】
凍結乾燥は、常法で行うことができ、溶液を凍結させ、減圧(真空)乾燥すればよく、乾燥開始時の品温は、-25~-10℃が好ましく、-20~-15℃がより好ましい。減圧時の密閉系内の気圧は、250Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましい。凍結乾燥機中で、油脂を融解させ凍結乾燥物に吸収させることができれば特に限定されず、一般的な凍結乾燥方法で達成できるが、二次乾燥における品温を油脂融点の5℃以上とするのが好ましく、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上とするのがよく、具体例としては、好ましくは40~80℃、より好ましくは45~70℃、さらに好ましくは50~60℃が例示できる。凍結乾燥における最終的な棚温度を、好ましく40~80℃、より好ましくは45~70℃、さらに好ましくは50~60℃に設定するとよい。二次乾燥において低い品温を維持する必要がないため、製造効率が落ちない。
【0019】
本発明の製造方法により、調味液の他、油脂中にも凝固点降下を起こす調味粉末を含ませることができるため、原料全体の調味成分を増やすことができ、好ましくは食塩(食塩相当量含む)を3~30重量%、より好ましくは5~25重量%、さらに好ましくは6~20重量%、特に好ましくは6.5重量%以上、最も好ましくは7重量%以上含ませることができ、原料全体の塩分含量を高めることができ、原料全体を100重量%とした場合に、好ましくは塩分を30重量%まで高めることができ、より好ましくは25重量%まで高めることができ、さらに好ましくは20重量%まで高めることができ、最終的に凝固点降下を起こす調味成分を高含有する凍結乾燥ブロックスープを製造できる。凍結乾燥ブロックスープ中に、食塩(食塩相当量含む)を好ましくは10~50重量%、より好ましくは15~50重量%、さらに好ましくは20~45重量%含ませることができ、凍結乾燥ブロックスープの塩分含量を高めることができる。尚、原料全体に占める油脂の体積は、45%以下が好ましく、3~40%がより好ましく、5~35%がさらに好ましい。凍結乾燥ブロックスープを100重量%とした場合に、油脂を好ましくは5~65重量%、より好ましくは10~63重量%、さらに好ましくは20~60重量%、特に好ましくは25~60重量%含ませることができる。
【0020】
本発明の凍結乾燥ブロックスープは、凍結乾燥物中に油脂を含み、空洞を有し、空洞辺縁部に凝固点降下を起こす調味粉末が付着して凍結乾燥物と一体化したブロック状の固形スープで、澱粉濃度の高いペースト状部分は存在せず、凍結乾燥物と、凝固点降下を起こす調味粉末及び油脂とからなる凍結乾燥ブロックスープのため、溶解性に優れ、また溶解時にダマも形成されにくく、お茶、お湯等で容易に溶解して喫食できる。
【0021】
本発明の凍結乾燥ブロックスープは、各種食品として利用でき、例えばオニオンスープ、コーンスープ、卵スープ、海藻スープ等の各種スープ、即席めん等のスープ、シチュー、カレー、お茶漬け、鍋の素等として利用できる。特に、高塩分のスープとして知られているチゲスープやサンラータン等の凍結乾燥ブロックスープも本発明の製造方法で調製可能である。
【実施例
【0022】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。乾燥用トレーについては別記がない限り67mm×38mm×22mmのものを使用した。
【0023】
[試験例1]
凝固点に影響を与える物質を高含有させると凍結乾燥中に発泡が起こり、うまく乾燥できないことが知られており、本試験では、凝固点降下を起こす調味成分として食塩を用い、凍結乾燥法における液中の塩分濃度の限界値を測定した。
フリーズドライの固形スープは、固形スープ容量が50mL程度で、熱湯を約160mL注いで喫食し、喫食時の塩分は1%前後であるのが一般的であるため、塩分濃度3%の調味液50mLを基本として、さらに塩分濃度を上げた調味液を準備して試験した。
【0024】
試験例1-1~1-4について、表1に記載の配合で混合した各調味液原料を、80℃達温後20℃以下に冷却して調味液とし、乾燥用トレーに充填して冷凍した後、常法にて凍結乾燥を行ない、各ブロックスープを得た。尚、凍結乾燥における最終的な棚温度は、50℃に設定した。
調味液原料中の各原料の割合を表1の括弧内に示し、調味液のBxを表1に記載すると共に、乾燥後のブロックスープ中の塩分、及び160mLの熱湯を添加した際の塩分を喫食時の塩分として算出し、表1に記載した。また、乾燥時の発泡の有無を記載した。
【0025】
【表1】
【0026】
調味液中の塩分濃度が3%では、乾燥時に発泡は見られなかったが、5%で一部発泡し、7%以上になると、完全に発泡し、調味液中の塩分濃度を7%以上とし、ブロックスープ中の塩分を高めるのは困難であることが分かった。
【0027】
[試験例2]
試験例1の結果から調味液の塩分濃度を5%未満に抑えつつ、原料全体に塩分を高含有させるため、低塩分濃度の調味液と、食塩を混合した固体原料とを使用して、凍結乾燥する方法でブロックスープを調製した。固体中の食塩が調味液中に溶解しないように、固体原料として油脂を使用した。
実施例1-1~1-3について、表2記載の各ラードを加熱融解後、固体原料の食塩を添加して混合し、10℃以下まで冷却して完全に固化させ、3~8mm角程度に破砕して、凍結乾燥用トレーに充填した。また、比較例1について、表2記載のラードを10℃以下で完全に固化させ、3~8mm角程度に破砕して、乾燥用トレーに充填した。表2記載の配合で混合した各調味液原料を、80℃達温後20℃以下に冷却して調味液とし、前記トレーに充填後、固体状油脂入り調味液の状態で冷凍し、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロックスープを得た。尚、凍結乾燥における最終的な棚温度は、50℃に設定した。
【0028】
調味液原料中の各原料の割合を表2の括弧内に示し、固体原料中のラードを1重量部とした場合の食塩の割合も別途括弧内に示した。また、調味液のBxを表2に記載すると共に、原料中の塩分及び油分を算出し、乾燥後のブロックスープ中の塩分及び油分を算出し、並びに160mLの熱湯を添加した際の塩分及び油分を喫食時の塩分及び油分として算出して、表2に記載した。また、乾燥時の発泡の有無を記載し、160mLの熱湯に溶解した際の溶解性についても記載した。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例1-1~1-3で得られた凍結乾燥ブロックスープは、ペースト状部分は存在せず、凍結乾燥前に存在していた油脂部分は、凍結乾燥中に融解して調味液の凍結乾燥物に吸収され、空洞となっており、空洞辺縁部に食塩が付着して凍結乾燥物と一体化していた。また、熱湯への溶解性は何れも良かった。
比較例1から分かるように、調味液中の塩分濃度が3.75%では、凍結乾燥時に発泡は起こらなかった。また、油脂を添加しても発泡は起こらず、油脂添加による凍結乾燥への影響は感じられなかった。また、実施例1-1~1-3より、調味液中の塩分濃度を3.75%に抑える一方で、油脂と食塩とを混ぜて固めた固体状油脂を使用すると、原料全体の塩分を14%まで上げても、凍結乾燥時には発泡は起こらず、ブロックスープ中の塩分を16%以上にできることが分かった。
【0031】
以上より、食塩を含ませた固体状油脂を使用することで、原料全体の塩分を高め、乾燥後のブロックスープ中の塩分を高めることができたことから、喫食時に、より塩分の多いスープを製造可能になり、高塩分のスープとして知られているチゲスープやサンラータン等、より多種類のスープを提供可能になった。また、凍結乾燥中に固体状油脂が融解しないように低い温度に品温を維持する必要はないため、乾燥効率が落ちることはなかった。
【0032】
また、調味液と固体状油脂とを混合して凍結乾燥するだけで、溶解性の良いブロックスープが得られ、さらにブロックスープに簡便に油脂を添加することができ、ブロックスープに熱湯を注ぐだけで、喫食時に別途油脂を添加しなくても、油脂を含むスープとすることができ、通常別添包装となっている油脂添加の煩雑性がなく、添加時の手等の汚れも防止できる。
【0033】
[試験例3]
ブロックスープが保持できる油脂の量を測定した。試験例3-1~3-4について、表3記載のラードを10℃以下で完全に固化させ、3~8mm角程度に破砕して、乾燥用トレーに充填した。表3記載の配合で混合した各調味液原料を、80℃達温後20℃以下に冷却して調味液とし、前記トレーに充填後、固体状油脂入り調味液の状態で冷凍し、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロックスープを得た。尚、凍結乾燥における最終的な棚温度は、50℃に設定した。
【0034】
調味液原料中の各原料の割合を表3の括弧内に示し、調味液のBxを表3に記載すると共に、原料中の油分、乾燥後のブロックスープ中の油分、並びに160mLの熱湯を添加した際の油分を喫食時の油分として算出し、表3に記載した。また、乾燥時の発泡の有無を記載し、ブロック回収後のトレー内の油脂によるべたつきを余剰油脂として記載した。
【0035】
【表3】
【0036】
得られたブロックスープは、何れも、凍結乾燥前に存在していた油脂部分が、凍結乾燥中に融解して調味液の凍結乾燥物に吸収され、空洞となっていた。試験例3-1は、ブロックスープの表面に空洞は認められなかったが、試験例3-2~3-4は、表面に空洞が認められ、原料中の油分が多くなるにつれ空洞が顕著となっていた。試験例2-4は、余剰油脂がやや有ったため、ブロックスープが保持できる油脂含量は、最大でブロックスープ全体の約65%程度と思われた。
【0037】
[比較例2]
調味粉末として市販の粉末スープ(株式会社創味食品製、脂質8%、2.5gあたりの食塩相当量:1.0g)を用いて、スープ一人分につき該粉末スープ2.5gを150mLの水と混合して喫食するのを基本として、4人分の凍結乾燥ブロックスープを製造することとした。
基本の凍結乾燥ブロックスープとして、表4の比較例2-1記載の原料を80℃達温後20℃以下に冷却して調味液とし、85mm×50mm×22mmのトレーに入れ、常法で凍結乾燥ブロックスープを製造した。さらに、同量の調味粉末で、容量が半分程度のトレー(67mm×38mm×22mm)を用いて小さいブロックスープを作るために、比較例2-2~2-4の原料で同様に凍結乾燥ブロックスープを製造した。尚、凍結乾燥における最終的な棚温度は、50℃に設定した。
【0038】
調味液原料中の各原料の割合を表4の括弧内に示し、また、調味液のBxを表4に記載すると共に、原料中の調味粉末及び油分を算出し、乾燥後のブロックスープ中の調味粉末及び油分を算出し、並びに600mLの熱湯を添加した際の調味粉末濃度及び油分を喫食時の調味粉末及び油分として算出して表4に記載し、さらに、調味粉末の食塩相当量から、調味液中、原料中及びブロックスープ中の各食塩相当量を算出して記載した。また、乾燥時の発泡の有無を記載し、600mLの熱湯に溶解した際の溶解性についても記載した。尚、発泡したものについて、熱湯への溶解は実施しなかった。
【0039】
【表4】
【0040】
比較例2-1では、凍結乾燥による発泡は見られず、溶解性が良好な通常の凍結乾燥ブロックスープが得られた。尚、調味液中の食塩相当量は4.2%だった。一方、比較例2-2~2-4では、トレーサイズを小さくしたことで、調味液中の食塩相当量が7.3%と高くなったため、凍結乾燥により発泡し、製品となり得る結乾燥ブロックスープが得られなかった。
【実施例2】
【0041】
比較例2-2~2-4で使用したトレーを用いて、比較例2と同量の調味粉末を含む凍結乾燥ブロックスープを本発明の方法で製造することとした。
表5記載のごま油、又はごま油と加熱融解したラードとの混合物に、固体原料の調味粉末を添加して混合し、-20℃程度まで冷却して完全に固化させ、最大長が40mm程度のブロック状にして、凍結乾燥用トレーに充填した。表5記載の配合で混合した調味液原料を、80℃達温後0℃以下に冷却して調味液とし、前記トレーに充填後、固体状油脂入り調味液の状態で冷凍し、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロックスープを得た。尚、凍結乾燥における最終的な棚温度は、50℃に設定した。
【0042】
調味液原料中の各原料の割合を表5の括弧内に示し、固体原料中の油脂を1重量部とした場合の調味粉末の割合を別途括弧内に示した。また、調味液のBxを表5に記載すると共に、原料中の調味粉末及び油分を算出し、乾燥後のブロックスープ中の調味粉末及び油分を算出し、並びに600mLの熱湯を添加した際の調味粉末濃度及び油分を喫食時の調味粉末及び油分として算出し、さらに、調味液中、原料中及びブロックスープ中の食塩相当量を算出して、表5に記載した。また、乾燥時の発泡の有無を記載し、600mLの熱湯に溶解した際の溶解性及び味についても記載した。尚、味は、比較例2-1を基準として、基準と比較した特徴を記載した。
【0043】
【表5】
【0044】
得られたブロックスープは、ペースト状部分は存在せず、凍結乾燥前に存在していた油脂部分は、凍結乾燥中に融解して調味液の凍結乾燥物に吸収され、空洞となっており、空洞辺縁部に調味粉末が付着して凍結乾燥物と一体化していた。また、熱湯への溶解性は何れも良く、味も比較例2-1に比べて濃厚だった。
比較例2では、原料中に食塩相当量として7.3%の調味粉末を含ませて製品となり得る凍結乾燥ブロックスープを得ることは困難だったが、実施例2-1~2-4に示した通り、調味粉末を含ませて固めた固体状油脂を使用して、調味液中の調味粉末濃度を抑えることで、原料全体の食塩相当量が7.3%であっても、凍結乾燥時には発泡は起こらず、溶解性の良いブロックスープ製品が得られることが分かった。さらに、ブロックスープ中に油脂を含ませることで、味へのマイナスな影響はなく、むしろ濃厚な味とすることができ、味を良くすることができることも分かった。
【0045】
以上より、調味粉末を含ませた固体状油脂を使用することで、原料全体の食塩濃度を高めることができ、乾燥時のトレーサイズを半分程度に小さくできることが分かった。つまり、乾燥時のトレーサイズを小さくできることにより、凍結乾燥において同じ棚面積であっても、仕込み食数を増やして製造効率を上げることが可能になった。