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▶ ユニバーシティ オブ マイアミの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】疼痛を管理するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240708BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20240708BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240708BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240708BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20240708BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20240708BHJP
   C12N 15/869 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K38/43
A61K35/76
A61P25/04
C12N15/60
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020501283
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018042122
(87)【国際公開番号】W WO2019014615
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】62/532,182
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514155153
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マイアミ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ロイ レビット
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド ゼット.ジュアン
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】Gerald Z. Zhuang et al.,Carbonic Anhydrase-8 Regulates Inflammatory Pain by Inhibiting the ITPR1-Cytosolic Free Calcium Pathway,PLoS ONE,2015年,Vol.10、No.3,e0118273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K48/00
A61K38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象において疼痛を処置または予防するための医薬組成物であって、炭酸アンヒドラーゼ8(CA8)の断片をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含有し、当該発現ベクターが当該対象中で発現して当該CA8の断片を産生するように設計され、当該CA8の断片をコードする核酸が、配列番号34(CA8-202)、配列番号13(CA8-204)、配列番号32(CA8-204C)、又は配列番号33(CA8-204G)の核酸配列を有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記発現ベクターが、ウイルスベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクター、又は単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記炭酸アンヒドラーゼ8の断片をコードする核酸配列が、CMVプロモーター、TrkAプロモーター、TrkBプロモーター、TrkCプロモーター、Nav1.9プロモーター、Nav1.7プロモーター、Nav1.8プロモーター、NMDAプロモーター、アドビリンプロモーター、CGRPプロモーター、5HTプロモーター、NK1プロモーター、ASIC3プロモーター、NPYプロモーター、およびNF200プロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記疼痛が、神経因性疼痛、侵害受容性疼痛、又は炎症性疼痛である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が:
(a)前記対象の後根神経節に投与する;
(b)関節内注射を介して前記発現ベクターを投与する;
(c)前記発現ベクターを経口投与する;
(d)前記発現ベクターを三叉神経節に投与する;
(e)末梢神経注射を介して前記発現ベクターを投与する;
(f)疼痛が生じる部位にカテーテルを介して前記発現ベクターを投与する;
(g)疼痛が生じる部位に針を介して前記発現ベクターを投与する;
ためのものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記発現ベクターを投与するための画像解析の使用を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記炭酸アンヒドラーゼ8の断片が、配列番号30(CA8-204Cまたは配列番号31(CA8-204G)のアミノ酸配列を有する、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
助成金の開示
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成番号DE022903の下で米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本発明におけるある特定の権利を有する。
【0002】
本発明は、疼痛を処置または予防するための材料および方法に関する。
【0003】
電子的に提出された資料の参照による組込み
本出願は、本開示の別個の部分として、その全体が参照により組み込まれるコンピュータ可読形式の配列表(ファイル名:51774A_Seqlisting.txt、サイズ:73,7002バイト、2018年7月13日作成)を含む。
【背景技術】
【0004】
持続的な疼痛には、医療費が年間約6500億ドルかかり、生産性が喪失される。2012年に実施された米国国民健康調査では、ほぼ5000万人の米国人成人がひどい慢性疼痛または激しい疼痛に罹患していると推定された。2015年8月18日の米国疼痛学会の公式見解は、americanpainsociety.org/about-us/press-room/nih-study-shows-prevalence-of-chronic-or-severe-pain-in-u-s-adultsにおいて認められた。他の研究では、疼痛の負担が大きめであることが示唆されている。
【0005】
現に利用可能な慢性疼痛の処置は、ほとんどの患者が不適切に処置されたままであるという不利な点と関係している。例えば、現行の局所麻酔薬は、感覚と運動の完全な遮断により短時間作用し、運動不能になる。モルヒネを含むオピオイド薬は、例えば術後および慢性疼痛の状態のための主要な処置である。慢性の非癌性疼痛を処置する上での長期的なオピオイドの使用は、過去数十年にわたって劇的に増加してきており、オピオイドの乱用、耐性および依存が主な公衆衛生の懸念事項である。実際、オピオイド投与の副作用(例えば、耐性、薬物依存/嗜癖、呼吸抑制、便秘、吐き気、掻痒症、鎮静、気分変動)は、オピオイドの治療可能性を制限し、好適な代替物の欠如は、オピオイドの過剰使用、乱用、および生命を脅かす合併症の流行をもたらしてきた。米国では、2007年のオピオイド乱用への処方費用だけで約557億ドルと推定された。この費用のほぼ半分は、職場の費用(例えば、生産性の損失)、45%が医療費(例えば、乱用の処置)、9%が刑事裁判費用に属していた。Birnbaum et al.,Pain medicine 2011;12:657-67。
【0006】
疼痛の薬剤へかなりの量の研究が注力されたにもかかわらず、オピオイドの使用と関係する有害作用を最小化(または回避)しながら鎮痛を提供するという治療選択肢についての必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、必要とする対象(例えば、ヒト)において疼痛を処置または予防する方法を提供する。一態様において、本方法は、対象に、炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11をコードする核酸配列を含む発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクター)を投与することを含み、そのため、該核酸が発現されて、炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11を産生する。代替的に、発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクター)は、カルボキシルアンヒドラーゼ8または炭酸アンヒドラーゼ8断片をコードする核酸配列を含む。炭酸アンヒドラーゼのヒトおよびマウスの版が企図される(CA8/Car8,CA8/Car8断片,CA10/Car10および/またはCA11/Car11)。炭酸アンヒドラーゼのヒト版(例えば,CA8,CA8断片,CA10および/またはCA11)に関する本明細書の記載は、マウス版(Car8、Car8断片、Car10、および/またはCar11)にも当てはまることは認識されることになる。炭酸アンヒドラーゼ8(CA8ヒトまたはCar8マウス)の断片をコードする核酸配列は、炭酸アンヒドラーゼ8コード配列の最初の3つのエキソンを含む(かまたはそれらから本質的になる、またはそれらからなる)。任意選択的に、炭酸アンヒドラーゼ8の断片をコードする核酸配列は、伸長エキソン3と保持イントロンとを備えた最初の3つのエキソンを含む代替転写物CA8-204である。様々な態様において、炭酸アンヒドラーゼは、ITPR1活性化(pITPR1)およびITPR1を介した細胞内カルシウム放出のアンタゴニストである。
【0008】
様々な態様において、疼痛は神経因性疼痛、癌性疼痛、または炎症性疼痛である。様々な態様において、本方法は、発現ベクターを対象の後根神経節に投与すること、または関節内注射、皮内送達、もしくは口腔内送達を介して発現ベクターを投与することを含む。
【0009】
前述の概要は、本発明のすべての態様を定義することを意図したものではなく、追加の態様は、発明を実施するための形態などの他のセクションで記載される。文書全体は、統一された開示として関連することを意図しており、この文書の同じ文、または段落、またはセクションで特徴の組み合わせが合わせて見られない場合でも、本明細書に記載される特徴のすべての組み合わせが企図されることを理解されたい。さらに、本発明は、追加の態様として、上記で具体的に言及される変形例よりも範囲が狭い本発明のすべての実施形態を含む。「a」または「an」で記載または請求される本発明の態様に関して、文脈がより限定された意味を明確に要求しない限り、これらの用語は「1つ以上」を意味することを理解されたい。セット内の1つ以上として記載される要素に関して、セット内のすべての組み合わせが企図されることを理解されたい。本発明の態様が特徴を「含む」として記載される場合、実施形態も特徴「からなる」または「から本質的になる」と企図される。
【0010】
出願人(複数可)は、本明細書に添付された特許請求の範囲の全範囲を発明したが、本明細書に添付された特許請求の範囲は、他者の先行技術を範囲内に包含することを意図しない。したがって、特許請求の範囲内の法定の先行技術が特許庁、または他の団体もしくは個人によって出願人に通知された場合、出願人(複数可)は、適用される特許法に基づいて修正権を行使して、そのような特許請求の範囲の主題を再定義して、そのような法定の先行技術または法定の先行技術の明らかな変形例をそのような特許請求の範囲から明確に除外する権利を留保する。そのような修正された特許請求の範囲によって定義される本発明の変形例も、本発明の態様として意図される。本出願の全体から、本発明の追加の特徴および変形例が当業者には明らかであり、そのような特徴のすべては、本発明の態様として意図される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】相対的pITPR1密度(図1A)、相対的V5密度(図1B)、および相対的pITPR1密度(図1C)を示す棒グラフである。HEK293細胞におけるCar10/CA10の過剰発現は、ホルスコリン誘導性ITPR1リン酸化(pITPR1)を阻害する。HEK293細胞に、マウス(Car10)およびヒト(CA10)を発現するAAV-V5ベクターをトランスフェクトした。ウェスタンブロット分析は、ホルスコリンが用量依存的な様式でpITPR1レベルを増加させることを実証している(図1A)。V5-Car10およびV5-CA10ベクターのトランスフェクション後、ウェスタンブロット法でV5タグを使用してCA10およびCar10タンパク質の過剰発現を実証した(図1B)。Car10およびCA10の過剰発現は、HEK293細胞における1マイクロモル濃度のホルスコリン刺激に応答してITPR1のリン酸化を低減させた(図1C)。N=6であり、データは平均±平均の標準誤差として提示される**P<0.01、***P<0.001、一元配置分散分析。
図1B】相対的pITPR1密度(図1A)、相対的V5密度(図1B)、および相対的pITPR1密度(図1C)を示す棒グラフである。HEK293細胞におけるCar10/CA10の過剰発現は、ホルスコリン誘導性ITPR1リン酸化(pITPR1)を阻害する。HEK293細胞に、マウス(Car10)およびヒト(CA10)を発現するAAV-V5ベクターをトランスフェクトした。ウェスタンブロット分析は、ホルスコリンが用量依存的な様式でpITPR1レベルを増加させることを実証している(図1A)。V5-Car10およびV5-CA10ベクターのトランスフェクション後、ウェスタンブロット法でV5タグを使用してCA10およびCar10タンパク質の過剰発現を実証した(図1B)。Car10およびCA10の過剰発現は、HEK293細胞における1マイクロモル濃度のホルスコリン刺激に応答してITPR1のリン酸化を低減させた(図1C)。N=6であり、データは平均±平均の標準誤差として提示される**P<0.01、***P<0.001、一元配置分散分析。
図1C】相対的pITPR1密度(図1A)、相対的V5密度(図1B)、および相対的pITPR1密度(図1C)を示す棒グラフである。HEK293細胞におけるCar10/CA10の過剰発現は、ホルスコリン誘導性ITPR1リン酸化(pITPR1)を阻害する。HEK293細胞に、マウス(Car10)およびヒト(CA10)を発現するAAV-V5ベクターをトランスフェクトした。ウェスタンブロット分析は、ホルスコリンが用量依存的な様式でpITPR1レベルを増加させることを実証している(図1A)。V5-Car10およびV5-CA10ベクターのトランスフェクション後、ウェスタンブロット法でV5タグを使用してCA10およびCar10タンパク質の過剰発現を実証した(図1B)。Car10およびCA10の過剰発現は、HEK293細胞における1マイクロモル濃度のホルスコリン刺激に応答してITPR1のリン酸化を低減させた(図1C)。N=6であり、データは平均±平均の標準誤差として提示される**P<0.01、***P<0.001、一元配置分散分析。
【0012】
図2】HEK293細胞におけるAAV-V5-Car10およびAAV-V5-CA10の過剰発現が(Fura-2(340/380比)によって示されるような1μMのATP誘導性細胞質カルシウム放出(y軸)を阻害したことを示す棒グラフである。カルシウム画像解析データは、car10およびCA10タンパク質の過剰発現が、空ベクター対照と比較したとき、HEK293細胞における1μMのATP誘導性細胞質カルシウム放出を阻害することを実証した。car10およびCA10の過剰発現は、遊離カルシウム放出を有意に阻害した(P<0.001)。N=4カバーガラスおよび試料1個あたり合計200個の細胞**P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による。
【0013】
図3】様々な試験日数(x軸)における足引込め潜時(秒)(y軸)を示す棒グラフであり、V5-Car10およびV5-CA10の遺伝子移入が結果として、カラギーナン炎症性疼痛マウスモデルにおける熱による痛覚過敏抑制を生じることを実証している。C57BL/6Jマウスにおける生理塩類溶液、AAV8-なし、AAV8-V5-Car10ウイルス粒子およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子(それぞれ1.06E14個のウイルス粒子および1.66E14個のウイルス粒子)の坐骨神経注射を介したV5-Car10およびV5-CA10の過剰発現後の熱応答。基礎熱潜時は、AAV8-V5-Car10ウイルス粒子およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子の注射後15日間増加したが、生理塩類溶液の後または空ベクターを含有するウイルス粒子の後では増加しなかった。16日後の終わりにカラギーナンの注射後、生理塩類溶液およびAAV8-なしを含有するウイルス粒子は、基線熱潜時からの有意な低減を示した。しかしながら、AAV8-V5-Car10注射群およびAAV8-V5-CA10注射群は、基線と差がなかった(N=8。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni事後検定による)。
【0014】
図4】様々な試験日数(x軸)における足引込め潜時(秒)(y軸)を示す棒グラフであり、V5-Car10およびV5-CA10の遺伝子移入が結果として、完全フロイントアジュバント(CFA)慢性炎症性疼痛マウスモデルにおける熱による痛覚過敏抑制をもたらすことを実証している。生理塩類溶液、AAV8-なし、AAV8-V5-Car10ウイルス粒子、およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子(それぞれ1.06E14個のウイルス粒子および1.66E14個のウイルス粒子)の坐骨神経注射後の熱応答を示す。AAV8-V5-Car10ウイルス粒子およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子の注射後15日間、基礎熱潜時は増加したが、生理塩類溶液の後または空ベクターを含有するウイルス粒子の後では増加しなかった。16日後の終わりのCFA注射の後(熱潜時を測定した後)、すべての群で基線からの有意な低減があった。24日後から開始して、AAV8-V5-Car10注射群およびAAV8-V5-CA10注射群は鎮痛を示した(基線を上回る熱による潜時、ウイルス注射15日後および16日後と同様)を示したのに対し、対照群はCFA注射前と変わらなかった。(N=8。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni事後検定による)。
【0015】
図5】様々な試験日数(x軸)における足引込め潜時(秒)(y軸)を示す棒グラフであり、V5-Car10およびV5-CA10の遺伝子移入が神経因性(Chung)マウス疼痛モデルにおける機械的痛覚過敏を予防することを実証している。C57BL/6Jマウスにおける生理塩類溶液、AAV8-なし、AAV8-V5-Car10ウイルス粒子およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子(それぞれ1.06E14個のウイルス粒子および1.66E14個のウイルス粒子)の坐骨神経注射後の機械的引込め閾値を示す。AAV8-V5-Car10は、ウイルス注射12日後に基線を上回る機械的引込め閾値(鎮痛)を増加させ、これは、19日後の脊髄神経結紮にもかかわらず22日後まで維持された。他の群においては、引込め閾値の同様の増加はなかった。(N=8。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による)。
【0016】
図6】モルヒネが与えられた(腹腔内投与)(x軸)およそ30分での足引込め潜時(秒)(y軸)との関連性を示す棒グラフである。塩類溶液と比較したとき、10、30、および60mg/kgの用量で延長は有意であった。
【0017】
図7】60kgのヒトにおける足引込め潜時(秒)(x軸)とモルヒネ等価経口用量(投与およそ30分後に評価される腹腔内投与、データは、相対変換を用いてヒトの等価の投薬に外挿される)(y軸)との関連性を示すグラフである。V5-Car10およびV5-CA10の移入後の足引込め潜時の延長は、ヒトの経口等価用量と比較した場合、図2図5に記載されるように、これらのマウスモデルにおいて顕著な鎮痛を生じさせる。
【0018】
図8】CA10をコードするアミノ酸配列(配列番号9)である。
【0019】
図9】CA10-203をコードするヌクレオチド配列(配列番号12)である。
【0020】
図10】CA8断片であるCA8-204をコードするヌクレオチド配列(配列番号13)である。
【0021】
図11】様々な試験日数(x軸)における足引込め潜時(秒)(y軸)を示す棒グラフであり、神経因性(Chung)マウス疼痛モデルにおけるV5-CA8WT(左の棒=脊髄神経結紮後CA8WT、右の棒=脊髄神経結紮後CA8WT)およびV5-CA8MT(CA8MTはタンパク質を不安定にし、プロテアソームによる急速な分解をもたらすS100P点突然変異を表す;Turkmen S,et al.,PLoS Genet 5,e1000487)(中央の棒=脊髄神経結紮後CA8MT)の発現の鎮痛効果を実証している。C57BL/6JマウスにおけるAAVウイルス粒子(およそ1.0×1014個のウイルス粒子)の坐骨神経注射後の機械的引込め閾値を示す。AAV8-V5-CA8WTは、投与後7日間、機械的引込め閾値を、基線(鎮痛)を上回って増加させ、3日後の脊髄神経結紮にもかかわらず38日後まで維持された。AAV8-V5-CA8MTをコードする発現ベクターの投与後に、同様の引込め閾値の増加はなかった。(N=8。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による)。この試験結果は驚くべきものである。まず,CA8がマウスITPR1標的に対して機能するかどうかは不明であった。これらのデータは、ヒトのタンパク質がマウスの細胞/組織において機能すること、ならびに本明細書で記載するインビトロでのバイオアッセイを使用して、CA鎮痛性ペプチドおよび変異体の薬力学的特性を検査することができることを示している。さらに、神経因性疼痛は、炎症性疼痛とは異なる機序から生じると考えられている。その上、炎症性疼痛に十分に作用する薬剤は、神経因性疼痛モデルにおいて痛覚過敏抑制または異痛抑制を生じない。驚くべきことに,CA8は、神経因性疼痛を予防および処置する上で有効である。
【0022】
図12A】NBL細胞において定量的PCRによって測定される、CA8コード配列の最初の3つのエキソンによってエンコードされたCA8断片、すなわち選択的スプライス断片「CA ALT G」(SNP rs6471859における「G」対立遺伝子)、および野生型CA8「CA ALT C」(SNP rs6471859についてのC対立遺伝子)の遺伝子発現を示す棒グラフである。野生型CA8は通常スプライスし、NBL細胞はCA8の最初の3つのエキソンによってエンコード化されたこの断片を、ほぼ独占的に産生する。SNP rs6471859における「G」対立遺伝子の発現は、選択的スプライシングをもたらし、NBL細胞内にイントロンが保持された拡張エキソン3を有するCA8-204産物はほぼまったく検出不可能である。したがって、CA8の最初の3つのエキソンによってエンコードされる本質的にすべてのCA8転写物およびタンパク質断片は、NBL細胞内で産生され、安定している。
図12B】このCA8断片(最初の3つのエキソンのみによってエンコードされる)がNBL細胞でのATP刺激性カルシウム放出を阻害することを実証する棒グラフである。野生型CA8(SNP rs6471859についてのC対立遺伝子)は通常スプライスし、野生型遺伝子産物のこの断片はNBL細胞内で産生される。SNP rs6471859における「G」対立遺伝子の発現は、選択的スプライシングをもたらし、CA8-204タンパク質の産生はNBL細胞内で最小限である。この断片は、CA8-201(野生型タンパク質、左の棒)を発現するベクターまたは「C」対立遺伝子によって生成された切断型CA8断片(右の棒)を発現するベクターと比較して、これらの細胞内での阻害を媒介しない。
【0023】
図13A】定量的PCRによって測定したHEK293内でのCA8断片の発現を示す棒グラフである。SNP rs6471859における「G」対立遺伝子の発現は、これらの細胞内での選択的スプライシングをもたらし、HEK293細胞内でイントロンが保持された拡張エキソン3を有するCA8-204産物を産生する(左の棒)。HEK293細胞内で、検出可能な野生型CA8(SNP rs6471859のC対立遺伝子)は本質的に存在せず、該細胞は、CA8の最初の3つのエキソンに対応する断片を産生する。したがって、HEK293細胞内での本質的にすべてのベクター発現は、CA8-204代替転写産物である。
図13B】CA8-204がHEK293細胞内でのATP刺激性カルシウム放出を阻害することを実証する棒グラフである。SNP rs6471859における「G」対立遺伝子を発現するベクターは、HEK293細胞内で認められるCA8-204タンパク質の選択的スプライシングおよび産生をもたらし、野生型CA8(CA8-201)を発現するベクターおよび「C」対立遺伝子によってコードされる断片を発現するベクターと比較して、ATP誘導性カルシウム放出を阻害する。
【0024】
図14】CA8送達のための例示的なHSV発現ベクターの線図である。TrkAp-CA8-Flag、Nav1.7p-CA8-204-Flag、Nav1.8p-CA8-204-Flag、および(非表示の)Tet-Advillin-CA8-204-Flag)カセットをICP4遺伝子座に組み込むことができる。基本のベクターは、任意選択的に、ICP0、ICP4 IE調節遺伝子、ジョイント領域、ICP27、ICP47、ICP22 IE遺伝子「TAATGARAT」、およびUL41 vhs遺伝子が削除されている。gB:N/T突然変異が存在する場合があり(様々な実施形態において、細胞侵入を増強する)、BAC配列は遺伝子間領域内のloxP部位の間に位置する。また、ベクターコンストラクトは、CA8断片の送達に好適である。
【0025】
図15】CA8送達のための例示的なHSV発現ベクターの図である。TrkAp-CA8-Flag、Nav1.7p-CA8-Flag、Nav1.8p-CA8-Flag、および(非表示)Tet-アドビリン-CA8-FlagカセットをICP4遺伝子座に組み込むことができる。基本のベクターは、ICP0、ICP4 IE調節遺伝子、ジョイント領域、ICP27、ICP47、ICP22 IE遺伝子「TAATGARAT」、およびUL41 vhs遺伝子が削除されている。gB:N/T突然変異は細胞侵入を増強し、BAC配列は遺伝子間領域内のloxP部位の間に位置する。
【0026】
図16】CA10バイオ治療送達のための例示的なHSV発現ベクターの線図である。TrkAp-CA10-Flag、Nav1.7p-CA10-Flag、Nav1.8p-CA10-Flag、および(非表示の)Tet-アドビリン-CA10-Flagカセットの線図を、ICP4遺伝子座に組み込むことができる。基本のベクターは、ICP0、ICP4 IE調節遺伝子、ジョイント領域、ICP27、ICP47、ICP22 IE遺伝子「TAATGARAT」、およびUL41 vhs遺伝子が削除されている。gB:N/T突然変異は細胞侵入を増強し、BAC配列は遺伝子間領域内のloxP部位の間に位置する。
【0027】
図17】CA11送達のための例示的なHSV発現ベクターの線図である。また、誘導性プロモーターシステムを表すTrkAp-CA11-Flag、Nav1.7p-CA11-Flag、Nav1.8p-CA11-Flag、および(非表示の)Tet-アドビリン-CA11-Flagカセットを、ICP4遺伝子座に組み込むことができる。基本のベクターは、ICP0、ICP4 IE調節遺伝子、ジョイント領域、ICP27、ICP47、ICP22 IE遺伝子「TAATGARAT」、およびUL41 vhs遺伝子が削除されている。gB:N/T突然変異は細胞侵入を増強し、BAC配列は遺伝子間領域内のloxP部位の間に位置する。
【0028】
図18】様々な用量のNGF(1、10、100ng/mL)(x軸)に応じた、NBL細胞内でのNGF誘導性細胞内カルシウム放出(y軸)を示す棒グラフである。また、HEK293細胞は、細胞内カルシウム放出の増加とともにNGFに応答する(データ非表示)。
【0029】
図19】NBL細胞内でのNGF誘導性細胞内カルシウム放出(y軸)が、野生型CA8の過剰発現によってほぼ完全であるが、CA8の突然変異体の過剰発現によってそうなることがないことを示す棒グラフである。また、ATP誘導性細胞内カルシウム放出は、CA10の過剰発現によって阻害される(データ非表示)。
【0030】
図20】NBL細胞内での選択的ITPR1阻害剤2-APBによるNGF誘導性細胞内カルシウム放出の遮断を示す棒グラフである。したがって、NBL細胞内でのNGFシグナル伝達は、ほぼ独占的にITPR1を経てであり、このITPR1選択的阻害剤によってほぼ完全に阻害される。また、2-APBによる同様の阻害は、HEK293細胞内でも観察された(データ非表示)。
【0031】
図21A】5HT-3受容体プロモーターの概略図およびマウス配列(配列番号14)とヒト配列(配列番号15)の比較である(Journal of Neuroscience 15,August 1998,18(16)6186-6194)。
【0032】
図21B】5HT-3受容体プロモーター配列(配列番号16)を提供する。
【0033】
図22】NPY-Y1受容体プロモーター-エキソン1Aの配列(配列番号17)を提供する(JBC Vol.270,No.45,Issue of November 10,pp.27272-27276,1995)。
【0034】
図23】NPY-Y1受容体プロモーター-エキソン1Bの配列(配列番号18)を提供する(JBC Vol.270,No.45,Issue of November 10,pp.27272-27276,1995)。
【0035】
図24】NPY-Y1受容体プロモーター-エキソン1Cの配列(配列番号19)を提供する(JBC Vol.270,No.45,Issue of November 10,pp.27272-27276,1995)。
【0036】
図25A】マウス(配列番号20)、ラット(配列番号21)、およびヒト(配列番号22)のNav1.8プロモーターSCN10Aの配列を提供する(J Neurochem.2008 August;106(3):1209-1224)。
【0037】
図25B】ヒトNav1.8プロモーターSCN10Aの配列(配列番号23)を提供する。
【0038】
図26】Nav1.7プロモーターSCN9Aの配列(配列番号24)を提供する。
【0039】
図27A】ヒトTrk-Aプロモーターの配列(配列番号25)を提供する(J.Biol.Chem.1998,273:39-44)。潜在的なDNA結合タンパク質結合部位は、箱形で標識されている。
【0040】
図27B】Trk-Aプロモーターの配列を提供する(配列番号26)。
【0041】
図28】アドビリンプロモーターの配列(配列番号27)を提供する。
【0042】
図29】CGRP受容体プロモーターの配列(配列番号28)を提供する。
【0043】
図30】GRIN3Aプロモーターの配列(配列番号29)を提供する。
【0044】
図31】炎症性疼痛動物モデルにおけるCA断片CA8204Cの遺伝子移入が鎮痛過形成抑制を生じたことを示すグラフである。
【0045】
図32】炎症性疼痛動物モデルにおけるCA断片CA8204Gの遺伝子移入が鎮痛過形成抑制を生じたことを示すグラフである。
【0046】
図33】免疫沈降(IP)およびウェスタンブロット法(WB)の検出によって実証されるように、RYR1がCA10(Car10)に結合することを示すゲルを描いている。
【0047】
図34A】ゲルであり、Car10およびCA10がホルスコリン誘導性pITPR1を阻害したことを示す棒グラフを提供する。図34Aは、未処理の対照(ホルスコリンなし)についての結果を提供する。図34Bは、1μMホルスコリンを用いた処理からの結果を提供する。
図34B】ゲルであり、Car10およびCA10がホルスコリン誘導性pITPR1を阻害したことを示す棒グラフを提供する。図34Aは、未処理の対照(ホルスコリンなし)についての結果を提供する。図34Bは、1μMホルスコリンを用いた処理からの結果を提供する。
【0048】
図35】HEK293細胞におけるV5-Car10およびV5-CA10の発現がATP誘導性細胞質カルシウム放出を阻害することを示す棒グラフである。
【0049】
図36】NBL細胞における5HT誘導性RYR依存性カルシウム放出がリアノジンによって阻害されることを示す棒グラフである。
【0050】
図37】NBL細胞におけるV5-Car10およびV5-CA10の過剰発現が、50μMの5HT誘導性細胞質カルシウム放出を阻害することを示す棒グラフである。
【0051】
図38】pCMV-N-flag-CA8-204およびpCMV N-flag-CA8-204の構造を示す。
【0052】
図39】pAAV-flag-CA8-204(ALT G)およびpAAV-flag-CA8-204(ALT C)の構造を示す。
【0053】
図40】NBL細胞におけるカルシウム放出(Ca2+Fura2画像解析)のCA8-204の阻害を示す。
【0054】
図41A】HEK293細胞(図41A)およびNBL細胞(図41B)におけるCA8 ALT(G)(CA8-204およびCA8 ALT(C)(CA8-204)の差次的組織発現を示す。
図41B】HEK293細胞(図41A)およびNBL細胞(図41B)におけるCA8 ALT(G)(CA8-204およびCA8 ALT(C)(CA8-204)の差次的組織発現を示す。
【0055】
図42】CA8-204断片およびCA8-204断片の組織発現が変化することを示すグラフである。
【0056】
図43】CA8-204断片が、NBL細胞内でのATP刺激性カルシウム放出を阻害することを示す。
【0057】
図44】CA8-204ペプチド断片またはCA8-204ペプチド断片が、HEK293細胞またはNBL細胞において選択的に発現するように28kDaまたは26kDaであることを示すゲルである。
【0058】
図45】CA8 204が、pITPR1のホルスコリン誘導性リン酸化を阻害することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
様々な態様において、本開示は、安全かつ有効な鎮痛を提供する材料および方法に関する。本開示は、炭酸アンヒドラーゼ10(CA10(ヒト)およびCar10(齧歯類))が、例えば、慢性神経因性および炎症性疼痛モデルにおいて鎮痛を生じ、痛覚過敏予防することを示す最初の開示である。少なくとも一態様において、材料および方法は、運動および他の感覚機能に最小限に干渉しながら疼痛を緩和し、それによって、オピオイド使用についての必要性を最小化しながら、生活の質を改善する。
【0060】
一態様において、本開示は、疼痛を処置または予防する必要のある対象において疼痛を処置または予防する方法を提供する。該方法は、対象に、炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11をコードする核酸配列を含む発現ベクターを投与することを含み、そのため、該核酸が発現されて、対象において炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11を産生する。代替的な実施形態において、該方法は、対象に、炭酸アンヒドラーゼ8の断片をコードする核酸配列を含む発現ベクターを投与することを含み、そのため、該核酸が発現されて、対象において該断片を産生する。炭酸アンヒドラーゼ8の断片をコードする核酸配列は、CA8の最初の3つのエキソンを含み、任意選択的にCA8断片をコードする核酸配列は、本明細書に記載されるCA8-204である。様々な実施形態において、発現ベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0061】
本発明の態様を以下でさらに記載する。セクションの見出しの使用は、単に読みやすくするためのものであり、それ自体を制限することを意図したものではない。文書全体は、統一された開示と見なされることを意図しており、本明細書に記載される特徴のすべての組み合わせが企図されることを理解されたい。
【0062】
炭酸アンヒドラーゼ
炭酸アンヒドラーゼ10(CA10)は、炭酸アンヒドラーゼ(CA)スーパー遺伝子ファミリーのメンバーであり、触媒として不活性である3つのCAアイソフォームのうちの1つである。CA10は中心的な炭酸アンヒドラーゼモチーフを保持しているが、酵素活性に重要な触媒亜鉛配位残基を欠いている。CA10の機能は、以前は不明のままであるであった。配列比較により、ヒト(Homo sapiens)、ラット(Rattus norvegicus)、およびマウス(Mus musculus)のCA10タンパク質間で100%の同一性が、ならびにゼブラフィッシュ(Danio rerio)とアミノ酸レベルで90%の同一性が明らかになった。ヒトCA10をコードする9つの転写産物があり、結果として7つの機能的アイソフォームになる。ヒトCA10の核酸およびアミノ酸の配列は、Genbank受入番号NM_020178(配列番号3)、NP_064563(配列番号4)、NM_001082534(配列番号5)、NP_001076003(配列番号6)、NM_001082533(配列番号7)およびNP_001076002(配列番号8)に記載されており、ヒトCA10のアミノ酸配列は、UniProtKB Q9NS85(配列番号9)においても提供されている。
【0063】
様々な態様において、発現ベクターは、配列番号2と少なくとも90%の同一性(例えば、少なくとも95%の同一性または100%の同一性)を含むペプチドをコードする核酸配列を含む。様々な態様において、発現ベクターは、配列番号1と少なくとも90%の同一性(例えば、少なくとも95%または100%の同一性)を有する核酸配列を含む。本明細書で使用される場合、「少なくとも90%の同一性」および同様の用語は、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%などの90%~100%の任意の整数を包含する。また、「少なくとも¥[パーセンテージ]の同一性」という用語は、同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数をヌクレオチドまたはアミノ酸の総数で除算した数以上である任意のパーセンテージを包含する(¥[少なくともパーセンテージの同一性]≧¥[同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数]]/¥[ヌクレオチドまたはアミノ酸の総数])。2つ以上の配列の整列されたアミノ酸(またはヌクレオチド)の同一性パーセントの計算は、当技術分野でよく理解されており、既知のコンピュータープログラムを使用して従来どおり判定される。例えば、配列同一性パーセントを判定するための2つ以上の配列の整列は、国立バイオテクノロジー情報センターのウェブサイトで入手可能な、BLAST(基本的なローカル整列検索ツール)プログラムに組み込まれているAltschul et al.(Nucleic Acids Res.,25:3389-402(1997))によって記載されているアルゴリズムを使用して任意選択的に実行される。遺伝子産物は、鎮痛またはITPR1活性化のアンタゴニスト(pITPR1)およびITPR1仲介性細胞内カルシウム放出など、少なくとも1つの炭酸アンヒドラーゼ(CA10)活性を呈する。
【0064】
CA8とCA10との間のかなりの配列の相違にもかかわらず、CA10およびCar10が本明細書に記載される活性(例えば、鎮痛)を示すことは驚くべきことである。CA10のアミノ酸配列は、他のCAアイソザイムとの全体のパーセント同一性が25~57%であるとともに、CA11との最高パーセント同一性を実証している。具体的には、CA10(NP_001076003.1)は、アミノ酸レベルでCA8(NP_001308766.1)と約33%の同一性しか呈さない。実際、CA10は、アミノ酸レベルでCA8または他のファミリーメンバーと比較してCA11に最もよく似ており、CA10はCA11と58%、CA8と33%の配列同一性を実証している。CA10には、3つの亜鉛リガンド結合ヒスチジン残基のうちの2つが欠けており、CA酵素活性の欠如が示唆されている。CA11はまた、亜鉛-リガンド結合部位を欠いており、酵素活性の欠如を示唆している。CA8と同様に、CA10は、ITPR1のホルスコリン誘導性リン酸化(pITPR1)を阻害することが認められ、ATP誘導性ITPR1は、HEK293細胞およびNBL細胞における細胞内カルシウム放出を媒介した。CA8は、IP3リガンド結合およびITPR1の活性化の、細胞内カルシウム放出をもたらすアロステリック阻害剤であると考えられている。ITPR1活性化のアロステリック阻害は、以前はITPR1とのCA8の結合に依存すると考えられていた(Hirota J,et al.,Biochem J 372,435-441)。CA8とは異なって対照的に、CA10およびCar10は、等電点-ウェスタンにおいてITPR1を結合しない。驚くべきことに、ITPR1との結合がないにもかかわらず、CA10/Car10およびCA8-204は、ITPR1活性化(pITPR1)およびATP誘導性細胞内カルシウム放出を阻害し、顕著な鎮痛をインビボで生じる。
【0065】
様々な態様において、発現ベクターは、CA8断片をコードする核酸配列を含む。該核酸配列は、CA8(またはCar8)コード配列の最初の3つのエキソンを含む(または該エキソンからなる)。任意選択的に、CA8断片をコードする核酸配列は、CA8-204であり、その配列は、図10において本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、CA8断片は、CA8-204Cであり、その核酸配列は、配列番号32に明らかにされている(アミノ酸配列は、配列番号30に明らかにされている)。いくつかの実施形態において、CA断片は、CA8-204Gであり、その核酸配列は、配列番号33に明らかにされている(アミノ酸配列は、配列番号31に明らかにされている)。いくつかの実施形態において、CA-8断片は、CA8-202(配列番号34)またはCA-203(配列番号35)である。様々な態様において、発現ベクターは、本明細書に記載のCA8-204核酸配列と少なくとも90%の同一性(例えば、少なくとも95%または100%の同一性)を有する核酸配列を含む。本明細書で使用される場合、「少なくとも90%の同一性」および同様の用語は、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%などの90%~100%の任意の整数を包含する。エキソン1~3を含むCA8断片の核酸配列は、配列番号1として提供される。エキソン1~5を含むCA8断片の核酸配列は、配列番号35として提供される。エキソン1~8を含むCA8断片の核酸配列は、配列番号34として提供される。CA11のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号10および配列番号11として提供されている。本明細書に記載の配列のうちのいずれかの発現産物は、鎮痛またはITPR1活性化のアンタゴニスト(pITPR1)およびITPR1媒介性細胞内カルシウム放出などの少なくとも1つの炭酸アンヒドラーゼ活性を呈する。
【0066】
CA8、CA10、およびCA11に関する材料および方法の説明は、マウスにも適用される(タンパク質版はCar8、Car10、およびCar11であり、本開示の様々な態様における使用が企図される。
【0067】
発現ベクター
「ベクター」または「発現ベクター」は、宿主細胞に導入するための核酸(DNAまたはRNA)を含む任意のタイプの遺伝子コンストラクトである。様々な実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクター、すなわち、核酸送達ビヒクルとして機能することができるウイルスゲノムの全部または一部を含むウイルス粒子である。また、関心対象の遺伝子産物をコードする外来性核酸(複数可)を含むウイルスベクターは、組換えウイルスベクターと称される。当技術分野で理解されるであろうように、いくつかの文脈において、「ウイルスベクター」という用語(および同様の用語)は、ウイルスカプシドの非存在下でのベクターゲノムを指すために使用され得る。本開示の文脈で使用するためのウイルスベクターには、例えば、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)系ベクター、パルボウイルス系ベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)系ベクター、AAV-アデノウイルスキメラベクター、およびアデノウイルス系ベクターが含まれる。これらのウイルスベクターはいずれも、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d edition,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley&Sons,New York,N.Y.(1994)、Coen D.M,Molecular Genetics of Animal Viruses in Virology,2nd Edition,B.N.Fields(editor),Raven Press,N.Y.(1990)およびこれらに引用されている参考文献に記載されている標準的な組換えDNA技術を使用して調製することができる。さらに、Gatewayクローン形成(Hartley et al.,Genome Res 2000,10:1788-1795)および/または「組換え工学」システム(Copeland et al.,Nat Rev Genet 2001,2:769-779)を用いた標的ゲノム領域の相同組換え媒介性クローン形成および操作の応用を用いた5‘および3’調節配列を含む遺伝子全体を含む、ヒトおよび他の宿主種由来の大型ゲノムコード配列を使用してウイルスベクターを調製することができる。
【0068】
様々な実施形態において、異なるカルボキシルアンヒドラーゼペプチドの前駆体をコードするDNAが提供される無作為または半無作為ライブラリーが開発される。このようなライブラリーには、数百以上の異なる配列を含有することができる。様々な態様において、カルボキシルアンヒドラーゼペプチドの前駆体をコードするDNAの配列が異なっている数千以上(少なくとも1000または少なくとも10,000)の異なる発現カセットは、ライブラリーを構成する。このようなライブラリーは、最初に1つ以上の所望の特徴を有するペプチドの前駆体(例えば、CA8、CA10またはCA11に類似するカルボキシルアンヒドラーゼペプチドの前駆体)をコードする無作為または半無作為オリゴヌクレオチドの集団を生成することにより構築することができる。次に、このオリゴヌクレオチドの集団をカセット骨格内へとクローン化することができる(すなわち、プレプロタンパク質シグナル配列および任意選択的なバイオマーカーとインフレームで)。
【0069】
無作為または半無作為ライブラリーを構築するための方法の例では、GATEWAY(商標)ステム(Invitrogen,Carlsbad,Calif.)を採用する。GATEWAY(商標)システムでは、ccdBは負の選択可能マーカーとして使用され、存在する場合、バクテリア細胞を殺滅する。ccdBは、改変されたラムダインテグラーゼによって実施される部位特異的組換えを通じて、無作為または半無作為配列によって置き換えられる。GATEWAY(商標)技術において、ccdB感受性およびccdB耐性という2つの細菌株が使用される。ccdB含有プラスミドは、ccdB耐性菌内で増殖し、精製される。次に、このプラスミドは、インビトロ組換えに使用される。組換え産物は、インビトロ組換え中にccdB遺伝子が目的の遺伝子によって置き換えられたプラスミドについて選択するccdB感受性細菌へと転換される。ccdBを置き換えることによって、クローン形成およびライブラリー構築の背景が劇的に低減または排除され、遺伝子の出入りまたは様々なプラスミドの自由な移動が可能となる。出発点として、基本のプラスミドは、ccdBの非常に限定された数の遺伝子型が利用可能である、ccdBの毒性効果に耐性がある細菌内で成長する。本開示の脈絡においてGATEWAY(商標)技術を採用するために、大型ウイルスベクターシステムを使用して、大型DNA(BACなど)への形質転換に適した細菌株を改変して、ccdBに対する非感受性を与える遺伝子を発現させる。好ましい株は、BACの増殖および操作において使用されるDH10B細菌株に由来し、非常に大型のDNAによる形質転換の傾向を増加させる突然変異(fhuA::IS2)も有している。
【0070】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、HSV系ベクターである。HSVは、ヒトを含む哺乳類に感染する、封入された正二十面体の二本鎖DNAウイルスである。野生型HSVは、最終分化した非分裂細胞と分裂細胞との両方で感染および複製する。HSVベクターの利点は、ウイルスが潜在的な段階に入り、結果として長期のDNA発現をもたらす能力である。さらに、HSVは、感覚神経に優先的に感染し、しばしば免疫監視から逃れ、中枢神経系/末梢神経系には拡散せず、優れた逆行性輸送(例えば、皮内、関節内、または末梢神経)を呈する。さらに、HSVは、Gatewayおよび/または組換え工学技術を使用して、大型のゲノムインサートを可能にする。HSVの配列は、ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=nucleotide&list_uid-s=9629378&dopt=GenBank&term=hsv-1&qty=1で入手可能である。
【0071】
任意選択的に、HSVベクターは複製欠除であり、例えば、複製またはパッケージングに不可欠な少なくとも1つのHSV遺伝子が非機能性にされる(変異または削除)。例えば、複製欠除HSVベクターは、HSVゲノムの初期領域、最初期領域、または後部領域の1つ以上の遺伝子機能を欠くことがある。様々な態様において、HSVベクターは「増殖欠除」であり、ウイルス複製に不可欠な複数の遺伝子機能が破壊されていることを意味する。例えば、増殖欠除ベクターは、HSVゲノムの初期、最初期、および後期のうちの2つ以上に由来する遺伝子機能を欠いていることがある。HSVベクターは任意選択的に、ICP0、ICP4、ICP22、ICP27、ICP47、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される機能的な最初期遺伝子を欠いており、例えば、機能的ICP0、ICP4、ICP22、ICP27、およびICP47遺伝子を欠いている(任意選択的に、欠失によって非機能性にされる)。また、HSVベクターなどのウイルスベクターから非必須遺伝子を除去して、外来性DNAの大きな断片を収容することができる。例えば、HSVベクターは本質的に、HSVゲノム全体を欠く可能性がある。この点において、ベクターは、好ましくは、ウイルスの逆方向末端反復配列(ITR)および/またはパッケージングシグナルを含むが、これらの構成要素は本開示のすべての態様において必要とされるわけではない。任意選択的に、1つ以上のプロモーターまたはウイルスITRおよびパッケージングシグナルは未処置のままである(すなわち、HSVアンプリコン)。
【0072】
CA10(もしくはCar10)またはCA11(もしくはCar11)をコードするヌクレオチドは、任意選択的に、削除されたネイティブウイルス遺伝子の配列を置き換える(任意選択的に、ベクターを複製欠除にする)。CA8(もしくはCar8)またはCA8断片(もしくはCar8断片)をコードするヌクレオチドは、任意選択的に、削除されたネイティブウイルス遺伝子の配列を置き換える(例えば、ベクターを複製欠除にする)。
【0073】
HSVベクターは、複数のゲノムセグメントの欠失により複製欠除になったとき、スペーサー要素を任意選択的に含み、単独複製欠除HSVベクターにより達成されるものと同様の補完細胞株においてウイルス成長を提供する。スペーサー要素は、所望の長さでありかつ所望の鎮痛性炭酸アンヒドラーゼ分子をコードする、任意の核酸の1つまたは複数の配列を含むことができる。スペーサー要素の配列は、HSVゲノムに関してコードされるかまたは非コードであることができ、ネイティブまたは非ネイティブであることができるが、欠除領域に対する複製必須機能(複数可)を回復しない。さらに、欠除HSV領域のいずれかまたはすべてにおいてスペーサー要素を含むことは、大型インサートについてのHSVベクターの容量を減少させることになる。
【0074】
様々な実施形態において、HSVベクターは、すべてのIE遺伝子について機能的に欠失している複製欠除HSV(rdHSV)ベクターである。追加のIE遺伝子を削除する利点には、ニューロンおよび他の細胞型の毒性を低減することが含まれるが、これに限定されない。代表的なベクター骨格の構造は、例えば、在留絶縁体/染色質境界要素(CTRLまたはCTCF)による発生サイレンシングに対して保護された潜伏期(LAT)遺伝子座における2つの選択された部位に挿入された導入遺伝子カセットを含む。これらの要素は、HSV LAP2プロモーターとともに、長期発現を用意する。ウイルスUL50-UL51遺伝子間領域に挿入された導入遺伝子カセットに隣接する異所性絶縁体の配置は、初代ヒト細胞のこの遺伝子座からの長期にわたる導入遺伝子発現も増強する。好適なベクターの系の単なる例として、高力価に達するHSVベクターの増殖は、Cre組換えによりベクターコンストラクト中に存在する阻害BAC配列を除去するICP4/ICP27/Cre発現U2OS細胞株を使用して実証された。
【0075】
HSVベクターの異なる領域の欠失は、宿主の免疫応答を変える可能性があることを理解されたい。特に、異なる領域の欠失は、HSVベクターによって生じる炎症応答を低減させることができる。さらに、HSVベクターのタンパク質コートは、野生型タンパク質コートに対する中和抗体によって認識されるHSVベクターの能力または不能を減少させるように改変することができる。
【0076】
基本のベクター、補完細胞、および工学技術は、Gateway導入プラスミド内の次のプロモーター、すなわち、感覚ニューロン特異的Nav1.8(例えば、ナトリウムチャネル)、ニューロン特異的Nav1.7(例えば、ナトリウムチャネル)、高親和性神経成長因子受容体(TrkA)、体性感覚特異的アドビリンCA8駆動因子、および非特異的構成CMVプロモーターからの鎮痛を促進するために、CA10(もしくはCar10)、CA11(もしくはCar11)、CA8(もしくはCar8)、および/またはCA8断片(もしくはCar8断片)の長期発現のための安全なベクターを生成することができる。テトラサイクリン応答性プロモーターなどの誘導性プロモーター配列もまた、本開示の文脈において適切である。HSVベクターを使用してヒト治療薬を送達する利点には、免疫不全の宿主においてでさえ、明確な組織特異性、免疫応答の欠如、潜在的な再活性化の欠如が含まれる。
【0077】
様々な態様において、HSVベクターはHSV潜伏関連転写物(LAT)インスレーターを含む。
【0078】
HSV系のベクターは、例えば、米国特許第5,837,532号、第5,846,782号、第5,849,572号、および第5,804,413号、ならびに国際特許公開番号第WO91/02788号、第WO96/04394号、第WO98/15637号、および第WO99/06583号を参照されたく、これらは全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
本開示の文脈での使用のためのHSVベクターの例は、拡張されたICP4またはICP27欠失、好ましくは両方を含む。「拡張された」欠失とは、HSVベクターが、相同配列の産生に使用される補完細胞株と比較して、相同配列の遺伝子座のいずれかまたは両方に相同配列を含まないことを意味する。望ましくは、ウイルスには、ICP4またはICP27(または両方)のコード配列またはプロモーター配列が残っていない。好ましくは、ICP27の欠失はUL55遺伝子座にも広がり、望ましくは両方の遺伝子が欠失している。したがって、本開示の文脈における使用のためのウイルスは、補完細胞株において使用されるICP4、ICP27およびUL55遺伝子に対するウイルス相同性が存在しないように、これらの遺伝子において拡張された欠失を含む。望ましくは、ベクターは、補完細胞株において採用されるものに対するいかなる相同のDNA配列も含まない(例えば、異なる調節配列およびポリアデニル化配列を使用してでさえ)。
【0080】
本開示の文脈において、HSV系のベクター以外のベクターを使用することができることは理解されるであろう。例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルスベクターは、本開示の方法および組成物における使用に好適である。このようなベクターの構築は、当業者に知られている(例えば、米国特許第4,797,368号、第5,691,176号、第5,693,531号、第5,880,102号、第6,210,393号、第6,268,213号、第6,303,362号および第7,045,344号を参照されたい)。非ウイルス法も遺伝子送達に利用することができ、これにはプラスミドの遺伝子銃適用が含まれるが、それに限定されない(例えば、本明細書に記載の1つ以上のカルボキシルアンヒドラーゼの前駆体をコードする非ウイルス発現ベクター)。遺伝子送達の別の非ウイルス法は、電気穿孔法である。代替的な移植可能な細胞株を操作して、所望のペプチド(またはライブラリー)を産生することができる。
【0081】
様々な態様において、ウイルスベクターは、AAVベクターである。AAVは、人間の疾患を引き起こすことが知られていないDNAウイルスであり、これによって、それが望ましい遺伝子療法の選択肢となる。AAVゲノムは、repおよびcapの2つの遺伝子で構成されており、DNA複製およびウイルスパッケージングのための認識シグナルを含む逆方向末端反復配列(ITR)が隣接している。AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(すなわち、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)との同時感染、またはヘルパー遺伝子の発現を必要とする。療法用核酸の投与に使用されるAAVベクターは、典型的には、親ゲノムの大部分が削除されているため、ITRのみが残存するが、これは必須ではない。AAV repタンパク質を送達すると、必要に応じて、AAV ITRを含むAAVベクターをゲノムの特定の領域に組み込むことができる。統合されたAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞の成長または形態の変化を示さない。したがって、AAVベクターからの療法因子の長期発現は、持続性および慢性疾患の治療に有用であり得る。AAVベクターは、任意選択的にAAVタイプ1、AAVタイプ2、AAVタイプ3(タイプ3Aおよびタイプ3Bを含む)、AAVタイプ4、AAVタイプ5、AAVタイプ6、AAVタイプ7、AAVタイプ8、AAVタイプ9、AAVタイプ10、またはAAVタイプ11に基づいている。AAVのゲノム配列、ならびにITR、Repタンパク質、およびカプシドサブユニットの配列は、当技術分野で知られている。例えば、国際特許公開番号第WO00/28061号、同第WO99/61601号、同第WO98/11244号、ならびに米国特許第6,156,303号、Srivistava et al.(1983)J Virol. 45:555、Chiorini et al(1998)J Virol.71:6823、Xiao et al(1999)J Virol.73:3994、Shade et al(1986)J Virol.58:921、およびGao et al(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA99:11854を参照されたい。
【0082】
発現ベクターは、典型的には、作動可能に連結されたコード配列の転写および翻訳に必要な様々な核酸配列を含む。例えば、発現ベクターは、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、エンハンサーなどを含み得る。本開示のベクターは、好ましくは、CA10(もしくはCar10)またはCA11(もしくはCar11)コード配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。様々な態様において、本開示のベクターは、好ましくは、CA8(もしくはCar8)またはCA8断片(もしくはCar8断片)コード配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む。「作動可能に連結された」は、プロモーターなどの制御配列が別の核酸配列に対して正しい位置および向きにあり、核酸配列にその効果(例えば、転写の開始)を及ぼすことを意味する。プロモーターは、それが作動可能に連結される核酸配列に対してネイティブまたは非ネイティブであり得、特定の標的細胞型に対してネイティブまたは非ネイティブであり得、プロモーターは、様々な態様において、構成性プロモーター、組織特異的プロモーター、または誘導性プロモーターであり得る(例えば、Tetオン/オフ要素、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、またはメタロチオネインプロモーターを含むプロモーターの系)。例えば、様々な実施形態において、鎮痛性ペプチド産生の産生を誘導または停止するための小分子の使用を可能にする誘導性プロモーターの系が採用される。プロモーターの例としては、感覚ニューロン特異的プロモーター(Nav1.8プロモーターなど)、体性感覚特異的プロモーター(アドビリンプロモーターなど)、p175プロモーター、またはTrkA(神経成長因子受容体)プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。他のプロモーターには、TrkB、TrkC、Nav1.7、CGRP、ASIC3、NPY、NK1、5HT、GRIN3A、またはNF200プロモーターが含まれるが、これらに限定されない。本明細書では、様々なプロモーターの配列の非限定例を図21A~30として提供する。
【0083】
任意選択的に、ウイルスのコートまたはカプシド(すなわち、粒子表面)は、ウイルスの向性を調整するために改変される。例えば、ウイルスのある血清型のゲノムは、例えば、免疫応答を回避するために、異なる血清型のウイルスのカプシド内にパッケージングすることができる。代替的に(または加えて)、カプシドの構成要素は、例えば、結果として得られるベクターによって形質導入される細胞型を拡張するか、望ましくない細胞型の形質導入を(全体的にまたは部分的に)回避するか、または所望の細胞型の形質導入効率を改善するために改変され得る。例えば、形質導入効率は、一般に、対照(すなわち、未修正の適合ウイルスベクター)を参照することによって判定される。形質導入効率の改善は、例えば、所定の細胞型の形質導入率の少なくとも約25%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、100%の改善をもたらし得る。所望の場合、カプシドは、肝細胞または生殖細胞などの非標的組織に効率的に形質導入しないように改変され得る(例えば、所望の標的組織(複数可)の形質導入の50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下のレベル)。
【0084】
疼痛
「疼痛」は、一般に、持続期間、原因、および/または身体の患部の観点から説明される。本発明は、神経因性疼痛(例えば、体性感覚神経系の病変または疾患により開始または発症する疼痛)、炎症性疼痛(例えば、炎症性メディエーターによる侵害受容性疼痛経路の活性化および/または感作により発症する疼痛)、および/または侵害受容性疼痛(例えば、組織の傷害または損傷によって発症する疼痛)を含むあらゆるタイプの疼痛の治療を含む。多くの疼痛障害また疼痛事故は簡単に分類することができず、これらの一般的なクラスと重複する態様または特徴を伴うことがある。また、疼痛は、体内の位置に関して分類され、体性痛は、体表または筋骨格組織の痛覚受容体の活性化から結果として生じるのに対し、内臓痛は内臓で感じられ、通常、胸部、骨盤、または腹部の痛覚受容体の活性化によって発症する。
【0085】
神経因性疼痛は、実際の神経損傷があるときに発生する。一次求心性体性感覚神経は、末梢の感覚神経を表し、脊髄後角の二次ニューロンとやりとりする。二次体性感覚神経は、脊髄を脳幹および三次ニューロンに接続する。外傷(例えば、損傷、手術、毒性曝露、癌、および/または代謝性もしくは感染性の疾患)はすべて、体性感覚経路を損傷し、自発痛を発症する可能性がある。神経因性疼痛は、灼熱感、チクチク感、電撃感、もしくは刺痛感として現れることがあり、または穿刺、穿孔(piercing)、切断、もしくは穿孔(drilling)を含むさらに重症の感覚と関係していることがある。この種類の疼痛は通常、周波数および強度の波で発生し、通常は身体の一部または全体に拡散する。神経因性疼痛状態の例としては、脊髄損傷媒介性疼痛、中枢性疼痛症候群(例えば、神経系内の病変によって発症する)、閉じ込め症候群による末梢神経損傷と関係する疼痛(例えば、手根管症候群、肘部管症候群、または足根管症候群)多発性硬化症、線維筋痛症、帯状疱疹、ウイルス関連神経障害、有痛性外傷性単神経障害、多発ニューロパチー、糖尿病性神経障害、術後疼痛症候群(例えば、乳房切除後症候群、開胸術後症候群、幻痛)、および複合性局所疼痛症候群(例えば、反射性交感神経性ジストロフィーおよび灼熱痛)が挙げられるが、これらに限定されない。神経因性疼痛の原因は多数あり、例えば、化学物質への曝露(例えば、化学療法)、外傷(例えば、切断、椎間板ヘルニア、または脊髄損傷)、放射線への曝露、代謝性疾患、感染、および癌が含まれる。
【0086】
侵害受容性疼痛は、身体組織の損傷によって発症し、普通、鋭い、痛む、またはズキズキする痛みとして説明される。この種類の疼痛は、良性の病理学的特性から、または増殖して癌部位の近くの他の身体部分を密集させる腫瘍もしくは癌細胞による可能性がある。また、侵害受容性疼痛は、骨、筋肉、もしくは関節に広がる癌、または器官もしくは血管の閉塞によって発症する場合がある。侵害受容性疼痛は、例えば、関節炎性疼痛(関節リウマチまたは変形性関節症など)および炎症誘発性内臓痛(例えば、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群IBSなどと関係する疼痛)を含む炎症と関係している場合がある。侵害受容性疼痛の例としては、例えば、捻挫、骨折、熱傷、こぶ、打撲傷、炎症(例えば、感染、外傷、または関節障害に起因する炎症)または閉塞による疼痛、および筋膜痛(筋肉または腱の異常なストレスを示す場合がある)が挙げられる。癌性疼痛は、侵害受容性または神経因性である可能性がある。
【0087】
様々な態様において、本方法は、例えば、長期の持続的な疼痛、慢性疼痛、突破性疼痛、亜急性疼痛、急性疼痛、および癌性疼痛の処置を含む。急性疼痛は、一般に、個別の身体損傷(例えば、炎症、手術、骨折、頭痛、捻挫、挫傷、熱傷、または化学物質への曝露)に対する限られた生理学的応答である。急性疼痛は、一般に、3~6か月間続く。慢性疼痛は、個別の身体損傷からの治癒に期待されるであろうよりも長く、例えば、3か月超持続する。慢性疼痛は、背部痛、神経損傷(脊髄損傷を含む)を発症する外傷(例えば、手術または創傷)、筋膜痛、関節炎、癌関連疼痛、神経因性疼痛、および線維筋痛症などの傷害と関係している。いくつかの実施形態において、疼痛は、慢性疼痛に重なる急性疼痛を包含し、ここで急性疼痛の急速発症が、持続的な慢性疼痛に重なる。
【0088】
疼痛を処置すること(すなわち、低減すること、軽減すること、抑制すること、または緩和すること)または予防することを必要とする対象における疼痛を処置または予防する上での有効性は、任意の好適な方法を使用して判定される。動物モデルでは、鎮痛有効性は、例えば、尾部引込め検査、尾部フリック検査、蜂毒検査、カプサイシン検査、または尾部クリップ検査を使用して測定される。動物疼痛モデルは、当技術分野で十分に特徴付けられており、例えば、Lariviere et al.,Pain 97(2002)75-86に記載されている。ヒトでは、処置の有効性(または必要性)は、例えば、疼痛スコア、再投薬までの時間、および生活の質の測定値を使用して監視または判定される。疼痛強度の数値評価(例えば、McCaffery et al.,(1989),Pain:Clinical manual for nursing practice,Mosby St.Louis,MOを参照されたい)または疼痛を軽度、中等度、もしくは重度と分類する言語評価尺度を確立するために、いくつかのツールが臨床設定で使用される。被験者による疼痛評価(強度、頻度)の低減、活動を再開する能力、睡眠能力の増加、および鎮痛剤の必要性の低減は、鎮痛の指標である。
【0089】
本開示は、疼痛を処置することを必要とする対象における疼痛を処置する方法を提供する。疼痛を「処置する」ために、対象の疼痛を100%除去する必要はない。痛覚または症状のいかなる減少も、対象における有益な生物学的効果を構成する。様々な態様において、本方法は、疼痛の重篤度(これらの状態に一般的に使用される他の薬物および/または療法の必要性および/または量(例えば、曝露)を低減することを含み得る)、持続時間、および/または頻度を低減する。疼痛を「予防する」ために、痛覚を完全に排除する必要はなく、疼痛または関係する症状の発症の任意の減衰もしくは遅延が企図される。この点において、任意選択的に、発現ベクターは、疼痛の発症前に対象に予防として投与される。
【0090】
本開示の様々な実施形態は、痛みを伝達する体性感覚神経(例えば、Nav1.7;Nav1.8;Nav1.9; Trk-A;5HTなど)を標的にして安全に鎮痛を生じさせることを可能にする。本方法は、いくつかの態様において、他の非経口(抗NGF)またはイオンチャネル阻害剤と関係した望ましい体性感覚および/または運動機能の無差別な喪失など、望ましくないオフターゲット効果を最小化または回避する。任意選択的に、発現ベクターは、ウイルスカプシド(例えば、ウイルス粒子)内に含まれ、CA10およびCA11(またはCA8)の長期発現を可能にし、長期管理に現に必要な繰り返しの侵襲的介入の必要性を最小化することができる。
【0091】
本開示はさらに、疼痛の処置または予防を必要とする対象の疼痛の処置または予防における炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11(もしくは炭酸アンヒドラーゼ8)をコードする核酸配列を含む発現ベクターの使用、炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11(もしくは炭酸アンヒドラーゼ8)をコードする核酸配列を含む発現ベクターの、疼痛を処置または予防することを必要とする対象の疼痛を処置または予防するための医薬品の調製における使用、および疼痛の処置または予防を必要とする対象の疼痛の処置または予防における使用のための、炭酸アンヒドラーゼ10または炭酸アンヒドラーゼ11(もしくは炭酸アンヒドラーゼ8)をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する。
【0092】
鎮痛スクリーニング
本開示はさらに、1つ以上の鎮痛薬候補ペプチドをコードする複数の遺伝子移入ベクターを含むストックを提供する。ストックは、ベクターの任意の所望の力価を有することができ、通常、ウイルスベクターの脈絡においてプラーク形成単位(pfu)で測定される。通常、ストックは、約10pfu/ml~約10pfu/mlを有する。いくつかの実施形態において、ストックは、均質である。いくつかの実施形態において、候補鎮痛ペプチド(複数可)(またはその前駆体)をコードするDNA配列は、ストック内のベクター間で異なる。様々な実施形態において、ストック内のベクター間で候補鎮痛ペプチド(複数可)(またはその前駆体)をコードするそれぞれのDNA配列は、無作為または半無作為ペプチドライブラリーを規定する。任意選択的に、DNA配列は、カルボキシルアンヒドラーゼペプチドの前駆体をコードする。
【0093】
本開示は、所望の鎮痛特性を有するペプチドを検出するための方法を提供する。本明細書に記載の発現ベクターの集団は、コードされたペプチドの発現に好適な条件下で宿主細胞の集団に導入される(例えば、NBL細胞またはHEK293細胞として)。次に、1つ以上の宿主細胞が、所望の鎮痛特性を表す所望の効果についてアッセイされる。必要に応じて、Car8/CA8について本明細書に記載されているものなど、陽性および/または陰性対照薬と比較して、宿主細胞(複数可)がアッセイされる。対照薬は、所望の効果を落とすことが知られている薬剤(陽性対照)または所望の効果を呈さないことが知られている薬剤(陰性対照)であり得る。任意選択的に、本方法は、所望の鎮痛特性を実証するペプチドをコードするDNA配列を推定することをさらに含む。
【0094】
宿主細胞(複数可)は、インビボまたはインビトロであり得る。インビトロ適用の場合、アッセイは、任意選択的に、所望の薬力学および/または鎮痛効果についてのハイスループットスクリーニングを促進することができる複数ウェルプレート(例えば、96ウェルプレート)において実施される。このような適用では、ライブラリーからの発現ベクターは、任意選択的に、1個のウェルあたり1ベクター未満の計算力価でウェルに導入され(通常、1個のウェルあたり約0.5ベクター)、複数のベクターが細胞にトランスフェクトされるかまたは感染することになる統計的確率を最小化する。いくつかの実施形態において、発現ベクターはウイルスベクターであり、他の実施形態において、発現ベクターはプラスミドまたはファージである。しかしながら、プラスミドまたはファージ(例えば、BAC)にウイルスゲノムが含まれる場合、ウェル内の細胞はウイルス粒子を産生することになる。代替的に、(それぞれのDNA配列およびプロモーターを含む)ウイルスゲノムを含むBACシステムを使用して、より多数の細胞を形質転換し、ウイルス粒子をレスキューすることができる。次に、得られたウイルス粒子をアッセイに使用することができる。例えば、無作為または半無作為ライブラリーを保持するHSV骨格を含む約10,000個のBACを6ウェルディッシュの宿主細胞に導入する場合、約24時間後に約100,000個のウイルス粒子を収集することができる。これらはアッセイに採用することができる。望ましくは、ライブラリーのすべてのメンバーがアッセイ中である尤度を増加させるために、約30,000個のウイルス粒子(元のベクター数の約3倍)を使用する必要がある。アッセイされることになる所望の効果は、アポトーシス、ITPR1活性化およびカルシウム放出の拮抗作用、またはこの細胞シグナル伝達経路の他の態様など、任意の好適に測定可能な効果であり得る。例示的なアッセイおよび方法論は、実施例において提供されており、実施例は、制限しているものと解釈されるべきではない。
【0095】
いくつかの実施形態において、宿主細胞はインビボ(すなわち、動物モデル)であり、これは、アッセイされることになる所望の効果が本質的に挙動的であるときに特に好適である。例えば、鎮痛効果は、例えば、外部刺激または医学的状態によってもたらされる痛覚過敏または異痛の減少を含み得る。このような実施形態において、ライブラリーは、ベクターの複数の無作為ストック(この各々が実質的に相同である)にクローン増殖され、それぞれのストックが疼痛の動物モデルに導入され得る。次に、動物の疼痛応答を減少させる該ストック由来のベクターDNAを配列決定して、コードされた鎮痛ペプチドを識別することができる。
【0096】
製剤、投与レジメン
様々な態様において、発現ベクターは、生理学的に許容される(すなわち、薬理学的に許容される)担体、緩衝剤、賦形剤、または希釈剤を含む組成物(例えば、医薬組成物)で提供される。任意の好適な生理学的に許容可能な(例えば、薬学的に許容可能な)担体を本開示の文脈内で使用することができ、そのような担体は当技術分野で周知されている。担体の選択は、部分的に、本組成物が投与される特定の部位、および本組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定されるだろう。本組成物はまた、宿主細胞への発現ベクターの取り込みを促進する薬剤も含むことができる。好適な組成物製剤には、水性および非水性溶液、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を血液と等張にする溶質を含有し得る等張無菌溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁液が含まれる。本組成物は、アンプルおよびバイアルなどの単位用量または複数用量の密封容器で提供でき、例えば、使用する直前に水などの無菌液体担体を追加することのみを必要とする凍結乾燥された(凍結乾燥)状態で保存され得る。CA8、CA8断片、CA10またはCA11をコードする発現ベクターを含む組成物は、一態様において、組成物の使用に関する指示を提供する包装材料とともに容器内に配置される。一般に、そのような指示には、試薬濃度、ならびにある特定の実施形態において、本組成物を再構成するのに必要になり得る賦形剤成分または希釈剤(例えば、水、生理食塩水、またはPBS)の相対量を説明する具体的な表現が含まれる。
【0097】
様々な実施形態において、発現ベクターは、脂質小胞に取り込まれ(任意選択的に取り込みを増強する)、またはナノ粒子の形態で提供される(例えば、タンパク質、脂質、炭水化物、またはこれらの組み合わせを用いた組込みによる)。物理的衝撃を利用して、細胞によるベクターの取り込みを増加させることができる。任意選択的に、発現ベクターには化学物質系形質導入エンハンサーが提供される。形質導入エンハンサーの例としては、ポリプレックス技術が含まれ、この中で、正に帯電したDNAを陰イオン性脂質および中性脂質と組み合わせてポリプレックスを構築し、取り込みを増強する。ポリプレックスは、発現単位についての化学送達複合体の別の形態を表す。一般的に、ポリプレックスは、陽イオン性ポリマーからなり、作製は、イオン相互作用および自己集合に基づいている。別の例である陽イオン性リポソームは、細胞膜と相互作用してエンドサイトーシスを経た取り込みを増強する。トランスフェクション効率を改善するために、DOPEなどの電気的中性の脂質を添加して、細胞質への放出を増強し、リソソーム分解を回避する。別の実施形態において、リポソームの代替としてポリマーソームが使用される。ポリマーソームは、リポソームよりも安定しており、機械的に強く、貯蔵寿命が長い傾向にあるリポソーム(脂質二重層を有する小胞)の合成版である。エンドソーム溶解剤には、取り込み中に作られたエンドサイトーシス小胞からのナノ粒子の脱出を促進する不活化アデノウイルスが含まれる。
【0098】
毒性が低く、運搬能力が高く、作製が容易なため、ポリカチオン性ナノ粒子は、有利な実施形態である。ポリエチレンイミンおよびキトサンは、発現ベクターの送達に好適な高分子担体である。他のポリカチオン性担体には、ポリ(ベータ-アミノエステル)およびポリホスホルアミダートが含まれる。デンドリマーは、発現単位の細胞ターゲティングを支援する上で有用な球状の、非常に分岐した高分子である。
【0099】
一実施形態は、カチオン性デンドリマーの使用を含む。これらの分子は、自然にDNAまたはRNAなどの負に帯電した遺伝材料を引き付け、この複合体は、エンドサイトーシスを介して標的細胞内に取り込まれる。近年、デンドリマーは、速度および加工時間を削減する動態駆動化学を使用して製造されてきた。「プリオスター」デンドリマーは、DNAまたはRNAを含む様々な発現単位を保有し、毒性をほとんどまたはまったく伴わずに高い効率で標的細胞に効率的にトランスフェクトすることができる。
【0100】
金、シリカ、酸化鉄、リン酸カルシウムなどの無機ナノ粒子は、核酸を標的細胞に送達する別の化学的手段を表す。無機ナノ粒子の利点には、安定した長期保存、低コストの製造、最小限の免疫原性、および微生物の攻撃に対する耐性が含まれる。ナノサイズの無機粒子(例えば、500nm未満、好ましくは250nm未満、最も好ましくは100nm未満)は、所望の場合、形質導入を増強するための別の選択肢を表す。ナノ粒子は、DNAまたはRNAを効率的にトラップし、分解することなくエンドソームからの脱出を可能にする。
【0101】
ペプチド導入ドメイン(PTD)とも呼ばれる細胞透過性ペプチドは、細胞膜を効率的に通過する一方で、様々な発現単位に共有結合または非共有結合し、細胞への進入を促進する短鎖ペプチド(40アミノ酸未満)である。PTDは、局在化ペプチド配列を組み込むことにより、外来性核酸を特定の細胞小器官に放出するように構築することができる。
【0102】
発現単位を標的細胞に送達するいくつかの周知の物理的方法には、電気穿孔法、ソノポレーション(膜をキャビテーションして発現単位への進入をより高める超音波周波数)、マグネトフェクション(発現単位は、磁石を用いた標的細胞への進入を増強する磁気粒子と複合体形成する)、および流体力学的方法の使用が含まれる。
【0103】
様々な実施形態において、発現ベクターは、感染性ウイルス粒子(カプシド、一本鎖または二本鎖のDNA、RNA、または必要なペプチド(複数可)をコードできる他の核酸を含む)を表すウイルスカプシド(ウイルス粒子)に組み込まれ、このことは、潜在的な感染と安定した長期鎮痛ペプチド産生とを支援するのに有利である。ペプチド発現は細胞内であり、鎮痛または痛覚過敏抑制を生じる方法でニューロンの興奮性および機能に影響を与えることができる。
【0104】
発現ベクター(例えば、ウイルス粒子)は、対象に何らかの改善または利益を提供する、すなわち対象の疼痛の感覚または知覚を低下または抑制するのに十分な量および場所で投与される。状況に応じて、発現ベクターを含む組成物は、体腔に適用もしくは点滴され、標的組織に直接適用され、および/または循環系に導入される。例えば、様々な状況において、発現ベクターを含む組成物を静脈内、腹腔内、口腔内、管腔内(例、膀胱、胆嚢、胆管、膵管、または副鼻腔)、筋肉内、眼内、経角膜、動脈内、門脈内、病巣内、皮内、関節内、ニューロン内、神経節内、神経節周囲、皮内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、吸入(例えば、上気道および/または下気道)、経腸、経膣、または経直腸手段によって送達することが望ましいだろう。様々な態様において、発現ベクターは膵管に直接投与され、これは、例えば、膵癌または膵炎と関係する疼痛を処置するのに有用である)。様々な態様において、発現ベクターは三叉神経節に投与される。所望の場合、発現ベクターは、目的の領域に供給する動脈内または静脈内投与を介して局所的に投与される。様々な態様において、本明細書に記載の発現ベクターは、末梢体性感覚神経に直接的にまたは間接的に投与される。一実施形態において、投与経路は、後根神経節、他の神経節もしくは体性感覚ニューロン、または脊髄への直接投与(例えば、注射または注入)を包含する。任意選択的に、発現ベクターは、関節内注射または末梢(例えば、坐骨)神経注射を介して投与される。様々な態様において、発現ベクターは、関節内挿入により投与され、例えば、罹患した関節炎の関節に供給する体性感覚神経を鎮静させることによって、慢性侵害受容性疼痛を処置する。他の実施形態において、発現ベクターは、マイクロカテーテルを介して、または内視鏡を使用して直接可視化して、様々な腔、管、洞、または器官に投与される。他の実施形態は、疼痛の領域への発現ベクターの局在化を促進するための針の使用を含む。例えば、本開示は、カテーテルまたは針を使用して疼痛が生じる部位(例えば、器官、または関節などの他の身体部位)への発現ベクターの投与を企図する。さらに他の実施形態は、例えば、蛍光透視法、超音波、CTまたはMRIを使用して発現ベクターの沈着を誘導するための画像解析の使用を含む。さらなる実施形態は、胃または上部消化管の劣化を回避することによって、皮内経路を介した腸への発現ベクターの送達を促進する製剤の使用を含む。
【0105】
様々な態様において、腸溶性コーティング封入を使用して、胃酸による分解および発現ベクターの不活性化を防ぐことができる。製剤は、発現ベクターを包む腸溶性ポリマーとしてEudragit L30D-55を使用して開発された腸溶性コーティング顆粒で構成されるカプセルの組込みを含んでもよい。カプセル製剤の最適化は、酸性培地中で2時間インキュベーション、およびpH6.8の緩衝液中で1時間の崩壊時間の後に最多生ベクター数を実証するEudragit L30D-55を使用した最適な保護コーティングで達成されることができる。カプセル内のEudragit L30D-55の保護量は、胃液耐性と相関している。ベクター、トウモロコシデンプン、ラクトース一水和物、ポリビニルピロリドンで構成され、12.5%(m/V)のEudragit L30D-55でコーティングされた顆粒からカプセルを調製したとき、人工胃液に対する保護特性が観察される。他のコーティングを使用して、ゼラチンカプセル上でおよびDRcaps(登録商標)上でも市販のポリマーEUDRAGIT(登録商標)L100-55の腸溶性保護特性を提供することができる。さらに他の腸溶性コーティングには、例えば、有効な遅延放出、胃の保護、および軽度~中等度の酸感受性を有する化合物の保護を可能にするポリマー配合物を組み込んだVcaps(登録商標)(Lonza)腸溶性コーティングカプセル、ならびに非常に酸感受性である小分子および大分子に腸溶性保護を提供するポリマー配合物を組み込んだenTRinsic Drug Delivery Technologyが含まれる。
【0106】
また、不安定なベクターに胃耐性を提供するさらに他の実施形態は、腸溶性ポリマー系を他の剤形に加えることによって得ることができる。錠剤、ミニ錠剤、ペレット剤および顆粒剤(普通、カプセルシェルに充填されている)は、他で言及されているポリマーを利用した最も一般的な腸溶性剤形である。
【0107】
様々な態様において、発現ベクターは、末梢神経(例えば、坐骨、大腿、眼窩下、三叉、顔面、または肩甲上)に注射されるか、または神経節内注射を介して注射される。他の実施形態において、発現単位は、環状であり、ヌクレアーゼ破壊に対して耐性があるむき出しの一本鎖または二本鎖DNA発現単位であり得る。他の実施形態において、より良い吸収のために、ベクターを脂質小胞に組み込むことができる。さらに他の実施形態は、ナノ粒子としてタンパク質、脂質、炭水化物分子、またはこれらの組み合わせに組み込まれる一本鎖または二本鎖DNA発現単位を含む。さらに他の実施形態は、標的細胞への物理的な進入方法を含む。例示的な実施形態は、標的細胞への発現ベクター進入の取り込みを増強するための化学的方法の使用を含む。他の実施形態は、標的細胞への発現ベクターの取り込みの増強のための物理的、化学的、および生物学的方法の組み合わせを利用する。
【0108】
代替的に、本組成物は、膜、スポンジまたは本組成物が吸収もしくはカプセル化された別の適切な材料の移植を介して局所的に投与される。移植デバイスが使用される場合、一態様において、デバイスは、好適な組織に移植され、発現ベクターの送達は、例えば、拡散、徐放性ボーラス、または継続投与を介する。
【0109】
特定の対象に対する特定の投与レジメンは、投与される療法薬の量、投与経路、ならびに任意の副作用の原因および程度に部分的に依存するであろう。本開示に従って対象(例えば、ヒトなどの哺乳類)に投与される量は、合理的な時間枠にわたって所望の応答に影響を及ぼすのに十分でなければならない。対象における疼痛を処置または予防する方法の様々な実施形態において、CA8(もしくはCar8)、CA8(もしくはCar8)断片(CA8-204、CA8-204、CA8-204、CA8-202およびCA8-203)、CA10(もしくはCar10)またはCA11(もしくはCar11)をコードする発現ベクターは、鎮痛を誘発する量で投与される。言い換えると、投与される組成物の用量は、疼痛を低減、軽減、抑制、または緩和するのに十分である。10~1015個の導入単位(例えば、10~1012個の形質導入単位)、あるいは、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、もしくは1015、またはそれより多数の導入単位(例えば、約1010または1012個の導入単位など、少なくとも約10、10、10、1010、1011、1012、1013または1014個の導入単位)のゲノム等価力価のウイルス粒子の例示的な用量。いくつかの状態では、長期にわたる処置が必要であり、これは、経時的な複数回投与を伴っても伴わなくてもよい。発現単位の点で定量的PCR(qPCR)を用いてインビトロで定量することができるゲノム等価物におけるベクターの等価用量は、10~1015である(発現単位とは、本明細書に記載の1つのペプチドを生成することができる個別の遺伝単位である)。様々な態様において、用量は、10~1012発現単位、または少なくとも約10、10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014または1015発現単位以上(例えば、約1010または1012など、少なくとも約10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014発現単位)。
【0110】
適宜、CA8、CA8断片(CA8-204、CA8-204、CA8-204、CA8-202およびCA8-203を含む)、CA10またはCA11(もしくはそれらのマウス版)をコードする核酸を含む発現ベクターは、他の物質(例えば、治療薬)および/または他の治療様式と併用投与され、追加の(もしくは補強された)生物学的効果を達成する。この態様には、発現ベクターおよび1つ以上の追加の好適な薬剤(複数可)の同時投与(すなわち、実質的に同時投与)および非同時投与(すなわち、重複するかどうかにかかわらず、任意の順序での異なる時間での投与)が含まれる。ある特定の態様において、異なる成分は、同じかまたは別々の組成物で、かつ同じかまたは異なる投与経路で投与されることが理解されよう。
【0111】
本開示のさらなる態様によると、本発明の任意の他の態様による使用または方法が提供され、この中で、CA8,CA8断片(CA8-204、CA8-204、CA8-204、CA8-202およびCA8-203を含む)、CA10またはCA11ベクターは、疼痛管理に有用な1つ以上の薬剤と組み合わせて、別々に、順次、または同時に投与される。さらなる薬剤の例としては、オピオイド鎮痛薬(例えば、モルヒネ、ヒドロモルホン、オキシモルホン、フェンタニル、コデイン、ジヒドロコデイン、オキシコドン、またはヒドロコドン)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えば、アスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、またはシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害剤)、鎮静薬(例えば、バルビツール酸系鎮静薬)、筋弛緩薬、抗うつ薬、抗てんかん薬(例えば、カルバマゼピン、またはバルプロ酸)、追加の麻酔薬、およびコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
このように一般的に記載される本発明は、例示として提供され、本発明を限定することを意図しない以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるであろう。
【実施例
【0113】
実施例1
本実施例は、炭酸アンヒドラーゼ8(CA8ヒト遺伝子記号、Car8げっ歯類オルソログ)、炭酸アンヒジラーゼ10(CA10ヒト遺伝子記号、Car10げっ歯類オルソログ)および炭酸アンヒドラーゼ11(CA11ヒト遺伝子記号、Car11げっ歯類オルソログ)が、ITPR1サイトソルの遊離カルシウムシグナル伝達経路を調節することを実証する。ITPRは、炎症性疼痛挙動において重要な役割を担っているITPRからのイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)シグナル伝達分子および細胞内カルシウム放出を発生させる向代謝性受容体活性化から生じるシグナルを伝達すると考えられている。Zhuang et al.,PLoS One,2015。本明細書で初めて記載されたデータは、CA8/Car8)、CA8/Car8断片(CA8-204を含む)、CA10/Car10、およびCA11/Car11が、ITPR1カルシウム放出チャネルのIP3活性化、細胞内カルシウム放出を阻害するように、驚くべきことに、細胞内カルシウム放出を阻害することにより治療用鎮痛薬(例えば、モルヒネおよびクロニジン)に対する鎮痛応答を阻害するように、さらにこれらのCAペプチドがモデルにおいて顕著な鎮痛を生じ、かつ慢性神経因性疼痛を処置または予防するように機能することを示す。また驚くべきことに、CA8/Car8断片(CA8-204を含む)およびCA10/Car10はITPR1に結合しない(共免疫沈降によって実証)が、CA8(Car8)ペプチドとは明確に対照的に、CA8/Car8断片(CA8-204を含む)およびCA10/Car10ペプチドの細胞内過剰発現は、ホルスコリンおよびATP刺激性細胞内カルシウム放出に応答してITPR1活性化(リン酸化)を阻害する。
【0114】
さらに、本明細書で提供されるデータは、CA8の過剰発現が、ほぼ完全な2-APBによって示されるように、ITPR1を経てNBL細胞内でほぼ排他的にシグナル伝達する神経成長因子(NGF)を選択的に阻害することを初めて実証する。また、CA8は、NGF誘導性ITPR1活性化(pITPR1)、細胞内カルシウム放出を阻害する。驚くべきことに、また、CA8(Car8)DRGの過剰発現は、脊髄神経(SNL)根損傷後の慢性神経因性疼痛を予防しおよび治療することが実証されている。以下の実施例は、DRG CA8(Car8)およびCA10(Car10)の導入ならびにCA8(Car8)およびCA10(Car10)タンパク質の過剰発現がITPR1活性化(例えば、Ser-1755におけるpITPR1)を下方調節し、細胞内カルシウム放出を阻害することを確立する。驚くべきことに、CA8タンパク質とCA10(Car10)タンパク質の間のアミノ酸相同性が欠如しているにもかかわらず、CA8タンパク質およびCA10(Car10)タンパク質はまた、慢性炎症性および神経因性疼痛モデル(脊髄神経結紮(SNL))における機械的異痛および熱痛覚過敏を予防する坐骨神経注射後に顕著な鎮痛を生じさせる。
【0115】
モルヒネは、細胞内カルシウムの放出を惹起することによって鎮痛を生じさせる。本明細書で提供されるデータは,CA過剰発現がNBL細胞におけるモルヒネ誘導性ITPR1媒介カルシウム放出を阻害することを実証する。具体的には、これらのデータは、DRG Carレベルがモルヒネおよびクロニジンの最大半量の鎮痛応答に関連していることを示す。より高いCarの発現は、モルヒネおよびクロニジンの最大半量のより高い鎮痛用量と関係している(Levitt et al.,2017)。これらのデータは,CAがクロニジンおよびモルヒネに対する用量応答を右に移行する鎮痛耐性を誘発する可能性があることを初めて示唆し(例えば、同じ量の鎮痛応答を生じるためにはより多量の用量の鎮痛薬が必要とされる)、これらの効果は細胞内カルシウム放出の阻害と関連している。このことは、モルヒネが、鎮痛応答を生じるために細胞内カルシウム放出を必要とすることを考慮すると、予期せぬことである。したがって、オピオイドおよびクロニジン鎮痛応答に必要とされるカルシウム調節経路を阻害することによって侵害受容性疼痛を生じる代わりに,CAが顕著な鎮痛を生じさせることは驚くべきことである。
【0116】
材料および方法
動物:すべての実験と手順は、意識のある動物の実験的疼痛に関する研究者のための現行の指針によって行われ、マイアミ大学の動物管理使用委員会によって承認された。体重20~35グラムの雄の成C57BL/6マウスをJackson Laboratories(Bar Harbor,ME)から取得し、食物および水を自由に摂取できるホームケージ環境内で維持した。動物を、湿度およい温度が制御されたウイルス/抗原非含有施設内で12時間ごとの明暗周期において飼育した。動物を、手術前に7日間順化させ、検査前に実験装置に慣れさせた。
【0117】
ウイルスコンストラクトの生成:例として、マウスまたはヒトのV5-Car10またはV5-CA10タンパク質を発現するアデノ随伴ベクターを生成する方法を説明する。Car10(マウス)およびCA10(ヒト)cDNAをATCCから購入した。これらの遺伝子産物を、Eppendorf Recycler勾配(Model5331)により増幅し、pcDNA3.1/V5-HisA(Invitrogen(商標)Life Technologies,Carlsbad,CA)のBamHI制限部位とXhoI(NEB)制限部位の間で、順方向プライマー:TTTGGATCCGCCACCATGGCT-GACCTGAGCTTCATTGおよび逆方向プライマー:TTTCTCGAGCTGAAAGGCCGCTCGGA-TGを使用してクローン形成した。次に、V5-Car10またはV5-CA10コンストラクトをpcDNA3.1/V5-HisAから増幅し、AAV Helper-Free System(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)ヘルパーフリーシステムの1つの成分であるpAAV-MCSベクターのBamHI制限部位とBglII制限部位の間に、順方向プライマー:CTCGGATCCGCCACCATGGCおよび逆方向プライマー:CTCGGATCCGCCA-CCATGGCを用いてクローン形成した。
【0118】
組換えAAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10ウイルス粒子を産生した。手短に言えば、ベクタープラスミド、およびパッケージングプラスミドAAV8 733(5)およびpHelper(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)を、リン酸カルシウム沈殿法を使用して、70%コンフルエンスでHEK293細胞内へ同時トランスフェクトした。細胞を37℃および5%COで48時間インキュベートした。48時間後、細胞を収集し、細胞からAAV粒子を放出するために3回凍結解凍した。Benzonase(登録商標)Nuclease(Sigma)処理の30分後、低速の遠心分離によって粗ライセートを清澄化した。上清をOptiSeal(商標)チューブ(Beckman Coulter)内の不連続イオジキサノール段階勾配に負荷し、Type70Tiローター(Beckman Coulter)内で69,000rpm(350,000g)、18℃で1時間遠心分離した。AAV粒子を含む画分を収集し、AKTA FPLCシステム(GE Healthcare)を使用して、5mlのHiTrapカラム(GE Healthcare)でのカラムクロマトグラフィーによってさらに精製した。溶離緩衝液(20mMのトリス、215mMのNaCl、pH8.0)を使用して、約25mLをカラムから溶離し、AAV粒子を濃縮し、Amicon Ultra-15 50K濃縮装置(Millipore)を使用してHBSS(Invitrogen)中で200μlに緩衝液交換した。次に、精製されたAAV粒子を、qPCR法を使用して、ゲノム含有量(発現単位)について滴定した。1mLあたり1~3×1014個のGC(ゲノムコピー)の範囲の力価を得た。
【0119】
細胞培養およびトランスフェクション:ヒトニューロン由来(例えば、NBL)、ヒト非ニューロン由来(例えば、HEK293)細胞、または分散したげっ歯類初代DRG細胞を使用することができる。HEK293細胞(カタログ番号CRL-1573 ATCC Manassas,VA)を、10%ウシ胎児血清FBS(カタログ番号16140 ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(カタログ番号15140 ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM-Glutamax カタログ番号0566、Invitrogen)中で培養した。細胞を6ウェルプレートに1ウェルあたり1.0×10個の密度で播種した。翌日、リポフェクタミンLTX試薬およびプラス(カタログ番号15338 ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を介して、細胞にプラスミドをトランスフェクトした。各トランスフェクションについて、2μgのAAV2-ITR(対照)、AAV2-V5-Car10、またはAAV2-V5-CA10ベクターを使用した。本明細書に記載の本開示の様々な実施形態において、AAV2が、採用されたウイルスベクターではない状況下では2μgの発現ベクター(陽性対照および陰性対照を含む)であった。
【0120】
発現ベクター(アデノ随伴AAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10ベクター)の坐骨神経注射:マウスをケタミン、キシラジンおよびアセプロマジンカクテル(VEDCO,Saint Joseph,MO)の腹腔内注射により麻酔した。坐骨神経曝露後、約1.5μlのAAV8-なしのウイルス粒子(1.36E13個のウイルス粒子、SL100832 SignaGen Laboratories Rockville,MD)、AAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10(それぞれ、1.06E14個のウイルス粒子および1.66E14個のウイルス粒子)を35ゲージのNanofil針(World Precision Instruments,Sarasota,FL)を使用して坐骨神経に注射した。坐骨の注射部位は、第3指の先端からおよそ45mmとした。
【0121】
炎症性痛覚過敏モデル:マウスは、滅菌0.9%生理食塩水中の1%カラギーナン(カタログ番号22049 Sigma,St Louis,MO)2.5mg/mlまたは滅菌0.9%生理食塩水中の完全フロイントアジュバント(CFA)(カタログ番号F5881 Sigma,St Louis,MO)0.5mg/mlを左側後肢足へと30μlの皮内注射を受けた。Fehrenbacher et al.,Curr Protoc Pharmacol.2012;Chapter 5:Unit 54。
【0122】
神経因性疼痛モデル:まず、末梢ニューロパチーの誘発のために、ケタミン、塩酸キシラジンおよびアセプロマジン(VEDCO,Saint Joseph,MO)の腹腔内注射によってマウスを麻酔した。次に、前述の手順を使用して、脊髄神経の緊密結紮(マウスモデルの左L5)を行った。Kim et al.,Pain.1992;50(3):355-363。
【0123】
挙動検査:熱感度および機械的感度をそれぞれ、Hargreaves検査およびvon Freyフィラメント閾値計算により測定した。例えば、Boyce-Rustay et al.Methods Mol Biol.2010;617:41-55、Hargreaves et al.,Pain.1988;32(1):77-88、およびChaplan et al.,J Neurosci Methods.1994;53(1):55-63を参照されたい。検査は、日光のような照明のある静かな部屋で行った。盲検研究者がデータを収集する前に1週間、挙動する部屋および装置に動物を少なくとも60分間慣らした。熱感度検査は、一定温度(30℃)のガラス板上にプラスチックボックスを置いたIITC Plantar Analgesia Meter装置(IITC Life sciences,Woodland Hills,CA)を使用して行った。マウスの足底表面を、足引込め誘導への放射熱のビームに曝露した。潜在的な負傷を防ぐために、最長20秒をカットオフ値として、基線潜時を5~9秒に調整した。高強度光線の開始から足の引込めまでの秒単位の潜時を、足の引込め潜時として定義した。足引込め潜時を確立するために、2つの連続した検査を平均した。機械的感度検査は、高床メッシュの上に置かれた倒立プラスチック製箱の中で行った。マウス後足を、各後足の足底表面に対して垂直に提示される、対数的に増分する剛性を備えた一連のvon Freyフィラメント(Stoelting Co,Wood Dale,IL)のうちの1つで1~2秒間押下し、アップダウン法を用いて50%の閾値を判定した。
【0124】
薬力学(カルシウム放出のバイオアッセイ):15mmのカバーガラス(カタログ番号72228 Electron Microscopy Sciences,Hatfield,PA)をポリ-D-リジン(Sigma)でコーティングした後、ラミニンおよび1×105個の細胞を各カバーガラス上に播種した。24時間後、前述のように細胞にAAV2-ITR、AAV2-V5-Car10、またはAAV2-V5-CA10ベクターをトランスフェクトした。AAV2が採用されない実施形態において、他の発現ベクター(ウイルスベクターを含む)を使用する。Fura-2AM(カタログ番号F1221 ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)をDMSO(50μl中50μg)および1%プルロン酸-127(カタログ番号P2443 Sigma,St Louis,MO)中にストック溶液として溶解した。播種の48時間後、細胞に、125mM NaCl、2mM MgCl、4.5mM KCl、10グルコース、20mM HEPES、2mM CaCl2、pH7.4.25を含有する標準的なCa+2緩衝液中に暗所で室温で45分間、2μM Fura-2AM色素を負荷した。色素負荷後、カバーガラスをCa+2緩衝液で洗浄した。画像解析およびATP刺激実験のために、カバーガラスをLeica DMI6000B顕微鏡上の記録チャンバー(カタログ番号QR-42LP Warner Instruments Hamden,CT)に入れ、125mM NaCl、4mM MgCl、4.5mM KCl、10mMグルコース、20mM HEPES、pH7.4を含有するCa+2非含有緩衝液で室温(約22℃)で灌流した。Fura-2AMのレシオメトリー画像解析について、励起光を超高速波長スイッチャーでフィルター処理して、340nmおよび384nmの波長を提供し、高速デジタルカメラ(Leica DFC365FX)で捕捉した。ITPR1チャネルの活性化を、1μM ATP(Sigma,St Louis,MO)の適用を介して達成した。データの取得および加工は、LAXSソフトウェアを使用して行った。視野にわたる目的の領域を選択し、各フレームでの平均画素数強度を測定した。データを、蛍光強度と時間の比としてプロットし、その後、相対尺度に変換した。
【0125】
免疫沈降:50μlの磁気ビーズ(Invitrogen)を1μgのpITPR1抗体とともに4℃で45分間インキュベートした。上清を捨て、ビーズを結合緩衝液で洗浄した。200~400μgの試料タンパク質を添加し、4℃で4時間ビーズとともにインキュベートした。次に、タンパク質複合体を洗浄緩衝液で3回洗浄し、SDS試料緩衝液で溶離した。次に、試料を70℃で10分間加熱し、Car10についてウェスタンブロット分析に供した。また、本明細書に記載の方法は、Car8,CA8,CA8断片(CA8-204)、CA10、Car11およびCA11に関しての使用に好適である。
【0126】
免疫組織化学(IHC):HEK293細胞をカバーガラス1枚あたりの密度でポリ-L-リジン/ラミニン被覆カバーガラスに播種し、24時間後に細胞にそれぞれCar10、CA10または空ベクターをトランスフェクトした。細胞を37℃でさらに96時間培養した後、ホルスコリン1μM(F6886 Sigma,St.Louis,MO)で5分間処理し、次に4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、0.1%Triton X-100で10分間透過処理し、1%ウシ血清アルブミン(BSA、sigma)で1時間ブロッキングした。次に、細胞を抗pITPR1(カタログ番号8548s cell signaling technology)、抗Car10(カタログ番号SAB1102286 Sigma,St Louis,MO)、抗V5(カタログ番号R960 Invitrogen)、抗ITPR1(カタログ番号8568 Cell Signaling technology)抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、細胞を対応する二次抗体(1:200)とともに室温で1時間、暗所でインキュベートした。カバーガラスを乾燥させ、Dapi(カタログ番号P36931 Life Technologies)を含む蛍光封入剤を使用してスライドに固定した。抗Car8、抗CA8、抗CA8断片(CA8-204)、抗CA10、抗Car11および抗CA11抗体を使用するIHC法も企図されることは理解されよう。
【0127】
統計分析:データを平均±平均の標準誤差(SEM)として表し、2群比較の場合はStudentのt検定、1つの分散を用いた多重比較(3群以上)の場合はBongrttoniの事後検定を用いた一元配置分散分析、2つの分散を用いた多重比較(3群以上)の場合はBonferroniの事後検定を用いた二元配置分散分析により、統計的有意について分析した。すべてのデータ解析およびグラフィックスは、GraphPadPrism5.0ソフトウェア(GraphPad Inc,San Diego,CA)を使用して行った。
【0128】
薬力学:ウイルスコンストラクトの電気生理学的特性の影響のバイオアッセイ(インビトロでのニューロンの興奮性の低減の検証):ニューロンおよび他のトランスフェクト細胞を、室温(20~25℃)で、パッチクランプ技術の電流クランプ穿孔ホールセル設定で試験する。アンホテリシンBによって穿孔が得られ、十分な電流クランプ記録を確保すると同時に、試験されることになっている各細胞集団において未処置のサイトソルカルシウム濃度および適切なサイトゾソシグナル伝達装置を維持する。前述のように、パッチマイクロピペット(抵抗値3~6M)を引っ張り、研磨する。Sarantopoulos C,et al.,J Neurosci Methods.2004;139(1):61-8、Sarantopoulos C,et al.,Reg Anesth Pain Med.2002;27(1):47-57、Kawano T,et al.,Mol Pain.2009;5:12、Sarantopoulos CD,et al.,Brain Res.2007;1132(1):84-99、Hogan QH,et al.,Pain.2000;86(1-2):43-53。記録には、Multiclamp 700Bアンプを使用し(Axon Instruments,Foster,CA,USA)、変換機(DigiData1440A;Axon Instruments)を使用して信号をデジタル化する。解析にはpCLAMPソフトウェア(Axon Instruments)を使用する。前述のように、細胞外Tyrode液および内部ピペット液を使用して、細胞全体の電流クランプ記録を行う。興奮性パラメータを、発現パラメータによって分類された細胞の群間で比較する。発現パターン(例えば、TrkAまたはNav1.8の正および負)、サイズ(大型対小型DRG体性感覚ニューロン)、および興奮性が異なる細胞集団からの記録は、使用するウイルスベクターに応じて異なる。以下のパラメータ、すなわち(1)基線で少なくとも3分間記録した安静時膜電位(RMP)および自発的電気活動(自発的活動電位(AP)数(スパイク数/分))を群間で比較する。安定した記録が少なくとも1分間確立された後、さらなる比較のためのRMPを判定する。静止電位が-45mVよりも脱分極しているニューロンは、大きな漏れ電流を示しているため却下する。(2)APを、電流注入による閾値を超えた刺激に応答して惹起する。電流の閾値は、単形性のAPが引き起こされるまで順次の25pAの段階的な増分によって判定され、各閾値が記録されることになる。次に、APは単一の2ミリ秒超の閾値電流パルスによって惹起され、(APおよび後過分極(AHP)の両パラメータを測定するために)500ミリ秒続くその後の記録で捕捉される。(3)RMP、ピークAP振幅、AP閾値、および閾値でのAP持続時間を含む群間で、ならびに5%および50%の振幅で、APの特徴が測定されおよび比較される。AP閾値を、脱分極相の急激な上昇の開始時に測定する。また、APを、水平方向の時系列線がこのAP閾値から引かれた地点から、下行する再分極相がこの線を交差する地点まで測定する。AP振幅を、RMPからAPピークまで測定する。APの持続時間を、RMPからAPピークまでの5%の電圧、およびRMPからピークまでの50%の電圧の中点で判定する。また、APの大きさを、曲線下面積として表す。AHP振幅を、RMPからAHP相の最も過分極したレベルまで測定する。AHP持続時間を、RMPへの50%および90%回復を表す地点で測定する。また、AHPの大きさを曲線下面積として表す。基電流(APを惹起する脱分極200ミリ秒パルスの段階的に漸増する一連の最小電流振幅として判定される)、および細胞が単一のAPを生じるかまたは繰り返し発火するかのいずれかである基電流のAPスパイク発生のパターンの少なくとも2倍の電流注入工程中のAPスパイク発生のパターンを含む、細胞興奮性に関する他の2つの測定値を使用する。
【0129】
HSV TrkAおよびNav1.8プロモーターは頑強な長期レポーター発現を駆動する:ウイルスは、インビトロでの逆行性輸送を介してDRG細胞体にのみ到達する。これらはrdHSVであるので、近くの神経膠細胞、または局所注射部位に突出していない他のDRG細胞に感染させることはできない。30日以上の後、げっ歯類においてLAT遺伝子座およびICP4の両遺伝子座から強い発現を観察する。ICP4遺伝子座は経時的に増加するので、発現カセット(TrkAp-CA、Nav1.8p-CA、Advillinp-CAなど)のための部位として選択した。例えば、ニューロンにおける十分な発現が実証されていない場合、または発現が経時的に減少する場合、発現カセットをLAT遺伝子座に再配置することができる。
【0130】
薬物動態:用量応答および組織特異性(インビボでの構造的および機能的検証):鎮痛および運動機能の検査には、機械的疼痛(von Frey)、熱痛(Hargreaves)、および非反射性の感覚機能および運動機能(自動測定を用いた自発的ホイール走の測定:ホイール走行の距離/時間、ホイール走行の時間、および歩間距離)の測定が含まれる。アッセイ条件につき18匹の未処置の雄C57BL/6Jマウスを使用する。鎮痛応答の初回の時間経過を、14日後まで隔日で監視し、次に28日後(寿命終了点)まで毎週監視する。臨床安全性評価を、各マウスの基線でおよび毎週行う(例えば、体重、全身の外観、摂餌量、血圧、体温)。制限されたニューロン発現を、qPCR(局所)および免疫組織化学(IHC)(細胞のサブタイプ)を使用して、皮膚、末梢神経、DRGおよび後角(DH)におけるこれらの予備試験と同様に評価する。
【0131】
投与経路の評価:様々な態様において、発現ベクターは直接的な坐骨神経および大腿神経(SFN)または関節内(IA)注射を介して投与される。これらの経路を使用して達成される生物学的応答を、皮内投与を使用して達成される応答と比較する。直接的な坐骨神経への注射は、腰部DRGの導入によって顕著な鎮痛を達成する。主要な関節の感覚神経支配は、直接的なIA注射を経てアクセスできる。DRG導入は、このアプローチを用いて達成され、臨床専門家による迅速な採用、アクセスの容易さ、およびすべての疾患に影響される皮膚分節の潜在的に適切なウイルス感染性を提供する。ラジオ波焼灼療法による直接的な末梢神経ブロックは、いくつかの主要な関節(例えば、膝ブロックを介した膝、肩甲上神経ブロックを介した肩)についての従来の技術を使用して代替手段として容易に達成され、他の関節の疼痛緩和のための末梢神経ブロックは実行不可能ではない(例えば、顎関節、股関節、足首、肘、手首など)。目下、顎関節症(TMJ)の疼痛を処置する選択肢は非常に限られており、本明細書に記載の発現ベクターの関節内注射は、症状の制御のための変形療法を表す。
【0132】
すべての測定は、処置に対してマスクされた個体によるものである。動物は、群に無作為に割り当てられる。アッセイは、当日のおよそ同じ時刻に実施される。定期的な臨床安全性評価が行われる(例えば、体重、全身の外観、摂餌量、脈拍、血圧、体温)。SFNおよびIAへの注射ならびに一連の希釈(最大1万倍)に最高到達用量(PFU)が使用され、すべての発現ベクターについての後続パラメータが最適化される。18匹の未処置の雄C57BL/6Jマウス/群が使用される。鎮痛応答は、14日後まで隔日で、その後は28日後(寿命終了時)まで毎週監視する(鎮痛、機械的および熱誘発応答に対する痛覚過敏抑制、自動自発走行ホイール(ホイール走行距離/時間、ホイール走行時間、ホイール走行速度、ストライド)。さらに、基線および毎週の臨床安全性評価を各マウスで行う(例えば、体重、全身の外観、摂餌量、血圧、体温など)。ニューロン発現の制限を、QPCR(局所)およびIHC(二重染色を用いた細胞サブタイプ)を使用して、末梢神経、DRGおよびDHで評価する。また、直接的なDRG導入は、経椎間孔硬膜外注射を使用して達成することができる。
【0133】
薬力学:鎮痛および痛覚過敏抑制のバイオアッセイ:慢性炎症性および慢性神経因性疼痛モデルの両方を採用する。これらの試験には、CFAに対する保護(予防)試行(疼痛の前に注射された発現ベクター)、ならびにSNLおよびOAに対する保護および処置試行(神経損傷が発生し、経時的に評価された後に発現ベクターを注射する)が含まれる。直接的な坐骨神経注射は、SNLモデルの慢性神経因性疼痛を予防しおよび処置する(図7を参照されたい)。機序と関連する短期および長期の予備的な安全性試験およびオフターゲット毒性は、2つのモデルで実施することができる。すべての測定値は、処置に対してマスクされた記録された個体である。動物は、群に無作為に割り当てられる。アッセイは、当日のおよそ同じ時刻に実施されることになる。臨床病理学的特性、目視検査、器官重量、および組織病理学的特性を評価することになっており、CA8,CA8-204、CA10、CA11、ITPR1、pITPR1を、DRG、脊髄、CSFおよび血液を使用して測定することになる。DRGのニューロンおよび神経膠のアポトーシスを検討する。有効性評価に加えて、臨床安全性評価を行う(例えば、体重、全身の外観、摂餌量、血圧、体温)。応答の時間経過に基づいて、可能な限り「処置」設計を採用する。直接的な神経「ブロック」アプローチは、慢性頭痛、三叉神経痛、および他の頭蓋顔面痛障害を含む様々な疼痛障害に潜在的に適用可能である。所望の場合、特定のモデルおよび潜在的な臨床応用に基づいて経路を変更する。例えば、IA経路は、特にTMJDと関連している。この技術はマウスでは難しいので、膝OAモデルは代用として採用することができ、その理由は、これが実行可能であるとともに、慢性的な広く認められる臨床状態であるからである。TMJDのような進行性OAは、一般に非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)に耐性のある安静時疼痛(すなわち、自発性または神経因性疼痛)を引き起こす可能性があり、それゆえ、神経因性疼痛および侵害受容性疼痛の両方を特徴とする。この点において、マウスの関節骨溶解、軟骨侵食、ならびに関連する触覚および熱過敏症による体重支持の非対称性を惹起するOAの十分に確立されたヨード酢酸一ナトリウム(MIA)関節内注射モデルが有用である。このモデルでは、自発痛がジクロフェナク、TRPV1およびTRPA1アンタゴニストでは緩和されないが、関節内リドカインでは完全に緩和されることが以前に示されていた。このモデルでは、Nav1.8特異的LALA(Navは、リドカインおよび他の短時間作用型局所麻酔薬の標的である)を媒介する発現ベクターのIA注射が有効であることになる。
【0134】
プロモーター:本明細書に記載の試験の脈絡において有用なプロモーター配列には、CA8,CA8断片(CA8-204など)、CA10、CA11、ならびにCar8、Car10およびCar11を含む非ヒトオルソログを含むCA発現配列の発現を駆動するためのTrkB、TrkC、Nav1.9、他のNav遺伝子プロモーター、NMDAプロモーター、アドビリン、CGRP、5HT、NK1、ASIC3、NPYまたはNF200が含まれるが、これらに限定されない。
【0135】
結果
V5-Car10およびV5-CA10タンパク質の過剰発現は、インビトロでのホルスコリン誘導性pITPR1を阻害する。本明細書に記載の結果は、例えば、IP3リガンドに対するITPR1の応答を増強するリン酸化によるITPR1の活性化(pITPR1)の調節に及ぼすCar10の効果を検討するための薬力学的バイオアッセイの使用を実証する。HEK293細胞に、Car10およびCA10を過剰発現するAAV8-V5ベクター、空ベクターおよび対照としてのビヒクルをトランスフェクトした。外来性と内在性のCA10/Car10発現を区別するために、V5配列をCar10またはCA10のC末端領域に挿入した。ウェスタンブロット分析により、ホルスコリンは用量依存的様式でpITPR1レベルを増加させることが実証された(図1A)。V5タグを使用して、V5-Car10およびV5-CA10ベクターのトランスフェクション後にタンパク質の過剰発現を検出した(図1B)。Car10およびCA10の過剰発現は、HEK293細胞内ホルスコリン誘導性ITPR1リン酸化を低減させたのに対し、空ベクターはITPR1リン酸化を変化させなかった(図1C)。
【0136】
IHCを使用すると、空ベクター(AAV-なし)をトランスフェクションした後、1μMホルスコリンに応答してHEK293細胞でpITPR1の増加が観察されたが、V5-Car10およびV5-CA10のトランスフェクション後、pITPR1の増加はなかった。これらのデータは、Car10およびCA10がHEK293細胞のSer-1755での調節ドメインのリン酸化を阻害するのに十分であり、ITPR1活性化およびIP3誘導性カルシウム放出に重要であることを実証する。
【0137】
V5-Car10およびV5-CA10の過剰発現は、インビトロでのATP誘導性遊離カルシウム放出を阻害する:ITPR1は、カルシウム、カルモジュリン、ATP、および炭酸アンヒドラーゼ8(Car8)などの細胞内調節因子に応答する「調節」ドメインを含む、機能的に異なるドメインを含んでいる。ATPは、活性化濃度のIP3およびカルシウムの存在下でチャネルの開口確率を増加させることにより、ITPR1依存性カルシウム放出を増加させる。ITPR1活性化のCar8媒介性阻害およびATP媒介性カルシウム放出には、この調節ドメインへの結合が必要であると考えられている。それゆえ、CA8断片(例えば、CA8-204)、Car10およびCA10がITPR1およびpITPR1に結合する能力を検討した。HEK293細胞のホルスコリン刺激の前後に、ITPR1およびpITPR1を含むV5タグに対する抗体を用いた各タンパク質の共免疫沈降を行った。ウェスタンブロット法は、CA8-204、Car10、およびCA10がITPR1に結合しないことを示す。驚くべきことに、ITPR1活性化(例えば、pITPR1)を査定する機能的バイオアッセイでは、これらのタンパク質の共免疫沈降により、これらの非結合タンパク質がすべて、ITPR1活性化を阻害することを示し、pITPR1の低減を示す。
【0138】
FLAG-CA8-204(データ非表示)、V5-Car10およびV5-CA10の過剰発現がATP誘導性カルシウム放出を阻害することができるかどうかをさらに検討するため、これらのコンストラクトおよびリアルタイム細胞内カルシウム濃度が基線でおよびATP刺激に応答して測定された場合、HEK293細胞に各々を感染させた(図2)。ATPは、カルシウム放出およびサイトソル遊離カルシウムレベルの増加を用量依存的様式で刺激した。AAV-なしトランスフェクション後の細胞質遊離カルシウムレベルは、HEK293細胞の基線と比較して1μMのATPに応答して増加した。対照的に、遊離カルシウム濃度は、AAV-FLAG-CA8-204、AAV-V5-Car10およびAAV-V5-CA10をトランスフェクションした後、基線およびAAV-V5-CA8と比較して1μMのATPに応答して変化しなかった。これらのデータは、CA8-204、Car10およびCA10がITPR1の活性化を阻害し、それによりこれらの細胞内のATP刺激性細胞質遊離カルシウムレベルを低減させることができることを実証する。
【0139】
Car10およびCA10坐骨神経遺伝子療法は鎮痛を生じ、炎症性疼痛挙動を抑制する:注射15日後まで対照と比較すると、C57BL/6マウスにおける坐骨神経注射後に、AAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10は両方とも、鎮痛を生じさせる(基線からの熱潜時の増加)。(熱検査後の)16日後のカラギーナンの足底内注射は、17日後および18日後に生理食塩水およびAAV8-なし対照群で急性熱過敏症を生じさせた。しかしながら、AAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10は両方とも、16日後のカラギーナン注射後に過敏症を示さなかった(基線を下回る熱潜時)。鎮痛は、18日後以降にAAV8-V5-Car10群およびAAV8-V5-CA10群の両方で再発し、27日後まで維持された。対照群では同様の所見は観察されなかった。図3を参照されたい。
【0140】
同様に、AAV8-V5-Car10およびAAV8-V5-CA10は両方とも、完全フロイントアジュバント(CFA)慢性炎症性疼痛マウスモデルにおけるウイルス注射後の15日後まで、対照と比較して、C57BL/6マウスにおける坐骨神経注射後に鎮痛を生じさせる(基線からの熱潜時の増加)。16日後(熱検査後)のCFAの足底内注射は、17~19日後にすべての群で急性熱過敏症を生じさせた。AAV8-V5-Car10群およびAAV8-V5-CA10群は両方とも、24日後までに回復するようであり、CFA注射前の16日後に観察されたのと同様に、34日後まで鎮痛を実証した。図4を参照されたい。
【0141】
Car10遺伝子療法は、鎮痛を生じ、神経因性疼痛挙動を抑制する:神経因性疼痛の予防における本開示のウイルスベクターの投与の効果を、Chungマウスモデルを使用して検討した。Chaplan et al.,J Neurosci Methods.1994;53(1):55-63。AAV8-V5-Car10は、19日後の脊髄神経結紮にもかかわらず、12日後から22日後に機械的引込め閾値で鎮痛応答を生じた。いかなる他の群においても、同様の引込め閾値の増加はなかった(図5)。
【0142】
考察
本明細書に記載するデータは、(1)インビトロでのCA8断片(CA8-204)、CA10、およびCar10タンパク質の過剰発現が、ホルスコリンに応答してSer-1755でのITPR1の調節ドメインのリン酸化を阻害すること、(2)CA8断片(CA8-204)、CA10、およびCar10の過剰発現が、インビトロでのATP刺激性細胞内カルシウム放出を阻害すること、(3)炎症性および神経因性疼痛モデルを使用した、C57BL/6Jマウスへの坐骨神経注射を介した侵害受容器へのAAV8-V5-CA10およびAAV8-V5-Car10の遺伝子移入は、顕著な鎮痛を生じ、痛覚過敏抑制を予防すること、を初めて実証する。これらの発見は、CA8断片(CA8-204)、CA10、およびCar10が侵害受容および疼痛に重要なITPR1サイトソル遊離カルシウムシグナル伝達経路を調節することを初めて確立する。
【0143】
CA10は、軟骨細胞の調節を含む他の機能に関与している可能性がある。CA10発現の喪失は潜在的に、ITPR1サイトソル遊離カルシウムシグナル伝達経路の調節不全を経て軟骨芽細胞腫の形成につながる可能性がある。それゆえ、軟骨芽細胞腫の処置は、ウイルスベクターを使用したCA10、CA8、またはCA8断片の過剰発現によって得られる可能性がある。
【0144】
変形性関節症(OA)は、軟骨の劣化を特徴とする。Akkiraju et al.,J Dev Biol.2015;3(4):177-192。また、興味深いことに、韓国人集団におけるコピー数変異体(CNV)とOA易罹患性の間の近年のゲノム規模の関係で、OAとCA10の間の強い関係が実証された。Moon et al.,BMC Musculoskelet Disord.2015;16:76。さらに、Mori et al.は、CA8およびCA10の一塩基多型と、日本人女性の骨粗鬆症と関係する脊椎骨および大腿骨の骨無機質密度(BMD)の間の遺伝的関係を説明した。Mori et al.,J Bone Miner Metab.2009;27(2):213-216。これらの研究者は、CA8およびCA10遺伝子座の遺伝的変異体が、これらのおよび潜在的に他の女性の骨粗鬆症の重要な決定因子である可能性があることを示唆した。これらの関連性がより広範な集団において当てはまる場合、CA8およびCA10遺伝子座の機能的変異体がOA疾患の重症度、疼痛、および障害と関係しているかどうかを検査することは合理的であろう。その上、ITPR1サイトソル遊離カルシウムシグナル伝達経路の役割を検査することと、CA8、CA10、およびCA11の機能的変異体が破骨細胞および軟骨細胞の調節においてITPR1媒介性カルシウム放出に異なる影響を与え、それによって骨粗鬆症および変形性関節症に異なる影響を与える可能性があるかどうかを検査することとは適切であるようだ。
【0145】
最後に、精神保健障害はしばしば慢性疼痛と共存する。トリヌクレオチド反復伸長は、脆弱X症候群、ハンチントン病、筋緊張性ジストロフィーおよび脊髄小脳性運動失調の遺伝率と関係している。Akkiraju et al.,J Dev Biol.2015;3(4):177-192。さらに、不安定な反復は、統合失調症および双極性障害にも関与している。Vincent et al.,Psychiatr Genet.2016;26(4):156-165。その後の研究では、精神疾患のシグナルの多くは、染色体13q21.33、17q21.33-q22、および18q21.2に大きな反復を有する3つの領域から発生していることが示されている。17qトリヌクレオチド伸長は、CA10遺伝子のイントロン内にある。Vincent et al.,上述、Ikeuchi et al.,Genomics.1998;49(2):321-326。本明細書に記載のCA10のついての新たな潜在的な役割を考慮すると、この不安定なトリヌクレオチド反復と変形性関節症、骨粗鬆症、慢性疼痛状態を含む、CA10の機能的変異体による機能喪失と、これらの罹患個体におけるCA10過剰発現の使用の間の関連性を、これらの障害を処置するために本明細書に記載の組成物および方法を用いて再検討する価値がある。
【0146】
要約すると、本実施例は、疼痛を処置するためのCA8,CA8断片(CA8-204)断片、およびCA10をコードするウイルスベクターのPK/PDバイオアッセイおよび動物モデルの有用性ならびに投与経路を実証する。特に、これらのデータは、本明細書に記載の材料および方法が鎮痛を生じ、炎症性疼痛および神経因性疼痛のいずれも抑制することを確立する。
【0147】
実施例2
以下の実施例は、本明細書に記載のCA8断片をコードするアデノ随伴ウイルスベクター(AAV8-FLAG-CA8204C(CA8204C)およびAAV8-flag-CA8204G(CA8204G)の投与が、臨床的に関連する動物モデルであるカラギーナン炎症疼痛モデルにおいて鎮痛痛覚過敏抑制を生じることを実証する。
【0148】
pAAV-flag-CA8-204(ALT G)およびpAAV-flag-CA8-204(ALT C)の構築。プライマーを含むSalI部位およびKpnI部位は、SNP rs6471859で「G」または「C」を持つ完全長の選択的スプライシング変異体(CA8-204)を構築するために設計された。pAAV-MCS発現コンストラクトを右側に示す(右側にベクターマップ)。図39を参照されたい。
【0149】
足引込め熱潜時を基線およびウイルスベクター投与(坐骨神経注射(SN))および/またはカラギーナン注射(左足)の後の様々な日に測定した。投与の7日後、AAV8-FLAG-CA8204C(CA8204C)またはAAV8-FLAG-CA8204G(CA8204G)のSN注射を受けたマウス(1群あたりn=8個体)(1.5μl、1×1013ゲノムコピー/ml)は、AAV8-V5-CA8 WT(CA8 WT)(陽性対照)およびAAV8-V5-CA8 MT(CA8変異体)(陰性対照)を投与したマウスと比較して、足の引込め潜時が増加した。ウイルスベクター投与の15日後に、カラギーナン注射を受けた後、CA8 MT(陰性対照)群のマウスは、16~18日後に著しく足の引込めが低減したことを示し、カラギーナンによって誘発された炎症性疼痛から回復し損ねていることを示した。しかしながら、CA8 WT、CA8204G、CA8204Cの両群のマウスは、足の引込めの潜時の増強を実証し、CA8 WT、CA8204G、CA8204Cによって提供される痛覚過敏抑制の保護を示す(N=8、****P<0.0001***P<0.001、二元配置分散分析統計群検定GraphPad)。図31および図32を参照されたい。
【0150】
実施例3
本実施例は、共免疫沈降により実証されるように、CA10がRYRおよびpRYRに結合することを実証する。リポフェクタミン(LTX)を使用して、NBL細胞にAAV-V5-CA10およびAAV-V5-Car10をトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に細胞タンパク質を抽出した。
【0151】
結合を検出するために、免疫沈降法(IP)およびウェスタンブロット法(WB)を利用した。ウサギ抗RYR1をIPに使用し、ニワトリ抗V5をWB分析に使用した。IPタンパク質の約1/10をWBに使用して、WBでV5標識CA10またはCar10を示した。Bアクチンを負荷対照として使用した。CA33とRYRとの共免疫沈降を確立する図33を参照されたい。CA10とITPR1で同様の結果を得た。
【0152】
また、これらのデータは、CA10がRYR1およびRYR3への結合を経てRYR依存性カルシウム放出をおそらく調節する可能性があることを初めて示唆している。
【0153】
実施例4
本実施例は、V5-CA10タンパク質の過剰発現がホルスコリン誘導性pITPR1をインビトロで阻害することを実証する。
【0154】
IP3リガンドに対するITPR1の応答を増強するITPR1リン酸化(pITPR1)の調節におけるCA10の役割を検討するために、HEK293細胞にAAV8-V5-CA10ベクターをトランスフェクトした。空ベクターを用いたトランスフェクションまたはビヒクルの適用は、対照として機能した。組織または細胞株における未処置のタンパク質の外来性発現と内在性発現を区別するために、V5配列をCA10のC末端領域に挿入した。細胞を核についてDAPIまたはpITPR1で染色し、融合させた。
【0155】
V5タグを使用して、AAV-V5-CA10(およびマウスV5-Car10コードベクター)のトランスフェクション後にタンパク質の過剰発現を、ウェスタンブロット分析を使用して観察した(図34A)。CA10およびCar10の過剰発現は、HEK293細胞におけるホルスコリン誘導性ITPR1リン酸化を低減したのに対し、空ベクターはpITPR1レベルを変化させなかった(図34B)。これらの実験は、インビトロでのNBL細胞におけるCA10(およびマウスCar10)の過剰発現が、ホルスコリンに応答してSer-1755でのITPR1の調節ドメインのリン酸化を阻害することを示す。
【0156】
実施例5
以下の実施例は、CA10の過剰発現が疼痛メディエーターに応答したITPR1およびRYR媒介性カルシウム放出を阻害することを実証する。驚くべきことに、本明細書に記載の試験は、NBL細胞において、5HT媒介性RYR依存性カルシウム放出がリアノジンによってほぼ完全に阻害されることを実証する。その上、また、NBL細胞におけるV5-CA10の過剰発現は、5HT媒介性カルシウム放出を阻害することが観察された。それゆえ、NBL細胞における5HT媒介性シグナル伝達は、主にRYRを経ているようである。
【0157】
次に、HEK293細胞におけるV5-Car10およびV5-CA10の過剰発現は、ATP誘導性の細胞質カルシウム放出を阻害することが判明した。Fura2カルシウム画像解析データは、Car10およびCA10タンパク質の過剰発現が、空ベクター対照と比較したとき、HEK293細胞において1μMのATPへのITPR1媒介性細胞質カルシウム放出を阻害することを実証した(P<0.001)。(N=4枚のカバーガラスおよび1個の試料あたり合計200個の細胞**P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による。)図35を参照されたい。
【0158】
また、NBL細胞における5HT誘導性RYR依存性カルシウム放出はリアノジンによって阻害されることが判明した。Fura2カルシウム画像解析データは、NBL細胞での50μM 5HT誘導性細胞質カルシウム放出が、ビヒクル対照と比較したとき、リアノジンによって用量依存的様式で有意に阻害されることを実証した(P<0.001)。(N=4枚のカバーガラスおよび1個の試料あたり合計200個の細胞 **P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による)。図36を参照されたい。
【0159】
これらの発見は、CA10が侵害受容および疼痛挙動に重要なITPR1サイトソル遊離カルシウムシグナル伝達経路を調節することを示唆する。さらに、本データは、5HTがリアノジンによってほぼ完全に阻害されるカルシウム放出を刺激することを示しており、ITPR1ではなくRYRを経るセロトニンを示唆する。
【0160】
次に、NBL細胞でのV5-Car10およびV5-CA10の過剰発現は、50μMの5HT誘導性細胞質カルシウム放出を阻害することが判明した。図37を参照されたい。Fura2カルシウム画像解析データは、NBL細胞での50μM 5HT誘導性細胞質カルシウム放出が、ビヒクル対照と比較したとき、10nMリアノジンによってほぼ完全に阻害されることを実証した(P<0.001)。さらに、NBL細胞での5HT誘導性細胞質カルシウム放出はまた、空ベクター対照と比較したとき、NBL細胞でのV5-Car10およびV5-CA10タンパク質の過剰発現によって阻害された(P<0.001)。(N=4枚のカバーガラスおよび1個の試料あたり合計200個の細胞 **P<0.01、***P<0.001、二元配置分散分析に続くBonferroni検定による)。
【0161】
実施例6
pCMV-N-flag-CA8-204およびpCMV N-flag-CA8-204の構築。SalI部位とKpnI部位とを含むプライマーを、rs6471859 SNPでの「G」を有する完全長の代替変異体(CA8-204)をpCMV-N-flagベクター(Clontech)内へ構築するために設計した。部位特異的突然変異誘発(Invitrogen)を利用して、rs647859に「C」対立遺伝子を有するエキソン3で終わる新規の断片を生成するpCMV-N-flag-CA8-204を構築した。図38を参照されたい。
【0162】
HEK293細胞におけるカルシウム放出のCA8-204阻害(Ca2+Fura2画像解析)。pCMV-N-flag-CA8-204(1,695bp)、pCMV-N-flag-CA8-204、AAV2-V5-CA8WT(陽性対照)、または空ベクター(陰性対照)をトランスフェクトしたHEK293細胞。(n=6、各実験のカバーガラスの数、実験の数=3、P値<0.001、3群間の比較は、Tukeyの多重比較検定によって実施した(GraphPad Prism Software)。図40を参照されたい。
【0163】
HEK293細胞およびNBL細胞におけるCA8 ALT(G)およびCA8 ALT(C)の差次的組織発現。rs6471859での「G」対立遺伝子を有する代替バリアントpCMV-FLAG-N CA8 ALTG(CA8-204のbp1417)またはpCMV-FLAG-N CA8 ALTC(rs6471859の「C」対立遺伝子)を用いたトランスフェクション後の(a)HEK293細胞および(b)ニューロン細胞(NBL)からの定量的RT-PCR(リアルタイムPCR,Applied Biosystems)。それぞれのベクターの量を、ベータアクチン(ACTB)遺伝子産物を使用して正規化した。使用したプライマーを、CA8-204の3’UTR領域を網羅するように設計した。HK細胞は、変異体rs6471859のC遺伝子型を有する検出可能なCA8-002転写物を発現しない。N=3、実験数=3(統計分析はGraphPad Prism Softwareを使用して行った、**=p値<0.001、***=p値<0.0001、一元配置分散分析を適用した後、Tukey群比較行った。図41Aおよび図41Bを参照されたい。
【0164】
CA8-204およびCA8-204断片は、変化する組織発現を示す。HEK 293(非ニューロン細胞)およびNBL(ニューロン細胞)に、CA8-204およびCA8-204転写産物を発現するベクターをトランスフェクトし、SyBrグリーン(AB)を使用する定量的RT-PCR(QPCR)(Applied Biosystems)に供し、ベータアクチンを内部対照として用いて正規化した。プライマーを、これらの細胞株で選択的に発現するCA8-204およびCA8-204配列の3’UTR領域に隣接するように設計した。本発明者らは、各断片の発現を指令する細胞特異的スプライシング因子と一致して、CA8-204が主としてNBL細胞において発現し、CA8-204が主としてHEK293細胞において発現するCA8断片スプライシングおよび発現の顕著な差を観察する。(N=4、***P値<0.001、一元配置分散分析を適用した後にTukeyの事後検定が続いた)。図42を参照されたい。
【0165】
CA8-204断片は、NBL細胞でのATP刺激性カルシウム放出を阻害する。NBL細胞に、CA8-204、CA8-201(CA8野生型陽性対照)または空ベクター(陰性対照)を発現するヌクレオチドインサートを有するベクターをトランスフェクトし、1μMのATPを細胞内カルシウム放出のための刺激因子として用いて、カルシウム画像解析(Fura2,Leica Micro Systems)に供した。CA8-204およびCA8-201は、インビトロでのNBL細胞のCa2+放出を阻害することができた。CA8-204によるカルシウム放出の阻害は、CA8-201(野生型完全長転写産物/ペプチド)の阻害を超過した。対照的に、空ベクター(陰性対照)は、本アッセイではカルシウム放出を阻害し損ねた。(N=6、***P<0.001、一元配置分散分析による統計分析、Tukeyの事後検定を経た群比較、GraphPad Prism)。図43を参照されたい。
【0166】
CA8-204またはCA8-204ペプチド断片は、HEK293細胞またはNBL細胞で選択的に発現する28kDaまたは26kDaである。タンパク質を、flag-CA8-204、flag-CA8-204、またはV5-CA8-201(野生型完全長CA8)転写産物のいずれかを発現するベクターをトランスフェクトされたHEK293細胞(中央)またはNBL細胞(右)から抽出し、同じゲル上で泳動し、抗flag抗体または抗V5抗体のいずれかで免疫ブロット法を行った。HEK293細胞では28kDaでflag-CA8-204ペプチド断片のみを検出し、NBL細胞では26kDAでflag-CA8-204ペプチド断片のみを検出した。免疫ブロット法の後にデータを融合させた。データをベータアクチン(対照)で正規化した。図44を参照されたい。
【0167】
CA8204 は、pITPR1のホルスコリン誘導性リン酸化を阻害する。HEK293細胞にCA8WT、CA8204 または空ベクター(ビヒクル)を含むベクターをトランスフェクトした。ビヒクルを陰性対照として使用した。データを、ビンキュリンを内部対照として正規化した。図45を参照されたい。
【0168】
本明細書で言及されるすべての出版物、特許、および特許出願は、各々の個別の出版物または特許出願が参照によって組み込まれることが具体的かつ個別に示されるように、参照によって本明細書に組み込まれる。前述の発明は、理解を明確にするために、例示および実施例によってある程度詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲の意図または範囲から逸脱することなく、本発明の教示に照らして、それらに対するある特定の変更および修正が可能であることは当業者には容易に明らかである。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
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図21A
図21B
図22
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図25A
図25B
図26
図27A
図27B
図28
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図30
図31
図32
図33
図34A
図34B
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41A
図41B
図42
図43
図44
図45
【配列表】
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