IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リガクの特許一覧

特許7515898制御装置、システム、方法およびプログラム
<>
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図1
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図2
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図3
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図4
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図5
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図6
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図7
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図8
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図9
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図10
  • 特許-制御装置、システム、方法およびプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】制御装置、システム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20240708BHJP
   G01T 1/36 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G01T1/17 F
G01T1/36 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021574544
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020048018
(87)【国際公開番号】W WO2021153107
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020011214
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110004107
【氏名又は名称】弁理士法人Kighs
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】作村 拓人
(72)【発明者】
【氏名】中江 保一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松下 一之
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-085479(JP,A)
【文献】特表2015-523554(JP,A)
【文献】特開2017-012593(JP,A)
【文献】特開2017-009504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 -1/16
1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器を制御し、測定結果を出力する制御装置であって、
X線を検出する複数の単位領域を有し、前記単位領域ごとに固有のHigh側およびLow側の波高弁別器により単一の検出されるX線のエネルギー範囲が特定されるX線検出器に対し、前記単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する設定部と、
X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得するデータ管理部と、
前記測定データを出力する出力部と、を備え、
前記設定部は、前記単位領域の集合ごとに、前記検出されるX線のエネルギー範囲として一定のエネルギー範囲を設定することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記設定部は、全領域において一定であるグローバル閾値に対し、単位領域ごとに、X線検出により入力される信号のゼロ点移動およびゲイン変更の少なくともいずれか一つを相対的に行なうことで、前記エネルギー範囲を設定することを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記X線検出器内のDA変換器の設定を変えることで前記ゼロ点移動を行なうことを特徴とする請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記X線検出器において互いに隣り合う単位領域が集合して形成され、
任意のサイズおよび形状を有する単数または複数の集合領域の各々に、前記エネルギー範囲を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記X線検出器は、移動に同期する撮影が可能であり、
前記設定部は、前記移動に同期する撮影における前記X線検出器の移動方向に垂直なラインごとに、各エネルギー範囲を割り振り、
前記出力部は、前記設定されたエネルギー範囲ごとに再構成された全検出領域の計数値を出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、複数種類のエネルギー範囲のそれぞれを、受光面上の各単位領域に分散されるように設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記エネルギー範囲の全種類の単位領域を一つずつ含む繰り返し単位領域が周期的に繰り返すように設定することを特徴とする請求項6記載の制御装置。
【請求項8】
前記X線検出器を有するX線測定装置と、
請求項1から請求項6のいずれかに記載の制御装置と、を備えることを特徴とするX線測定システム。
【請求項9】
異なるエネルギーのX線を同時に測定する方法であって、
X線を検出する複数の単位領域を有し、前記単位領域ごとに固有のHigh側およびLow側の波高弁別器により単一の検出されるX線のエネルギー範囲が特定されるX線検出器に対し、前記単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定するステップと、
前記X線検出器を用いてX線測定を行なうステップと、
前記X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得するステップと、
前記測定データを出力するステップと、を含み、
前記エネルギー範囲の設定時には、前記単位領域の集合ごとに、前記検出されるX線のエネルギー範囲として一定のエネルギー範囲を設定することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記X線検出器は、2次元検出器であり、
前記検出のステップでは、試料に特定波長のX線を照射して散乱されたX線を前記X線検出器で検出することで、回折X線と蛍光X線とを同時に検出することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記X線検出器は、2次元検出器であり、
前記検出のステップでは、試料に白色X線を照射して散乱されたX線を前記X線検出器で検出することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
X線検出器を制御し、測定結果を出力するプログラムであって、
X線を検出する複数の単位領域を有し、前記単位領域ごとに固有のHigh側およびLow側の波高弁別器により単一の検出されるX線のエネルギー範囲が特定されるX線検出器に対し、前記単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する処理と、
X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得する処理と、
前記測定データを出力する処理と、をコンピュータに実行させ、
前記エネルギー範囲の設定時には、前記単位領域の集合ごとに、前記検出されるX線のエネルギー範囲として一定のエネルギー範囲を設定することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線測定装置を制御し、測定結果を出力する制御装置、これを備えるシステム、X線を測定する方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異なるエネルギーのX線検出を伴う実験が行われている(非特許文献1参照)。非特許文献1記載の実験では、分散方向と集束方向に区画された結晶を有する多結晶発光分光装置で試料からの蛍光をスペクトル分解している。この実験で、Si(111)結晶は、Kα領域の測定に使用され、Si(220)結晶は、Kβおよび原子価からコア領域の測定に使用されるが、用途に応じてそれぞれ測定を行なう必要がある。
【0003】
また、固定されたエネルギー閾値を有する検出器のDA変換器と増幅器の組み合わせによりゼロ点調整を行なう技術が知られている(特許文献1参照)。同様の検出器について各ピクセルの特性を記憶しておき、入力された測定条件に応じて補正テーブルを生成し、補正テーブルを用いて、測定されたX線強度データを補正する技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/077218号
【文献】国際公開第2016/063586号
【非特許文献】
【0005】
【文献】”Probing Transient Valence Orbital Changes with Picosecond Valence-to-Core X-ray Emission Spectroscopy”, Anne Marie March, Tadesse A. Assefa, Christina Boemer, Christian Bressler, Alexander Britz, Michael Diez, Gilles Doumy, Andreas Galler, Manuel Harder, Dmitry Khakhulin, Zoltan Ne meth, Matya s Pa pai, Sebastian Schulz, Stephen H. Southworth, Hasan Yavas, Linda Young, Wojciech Gawelda, and Gyorgy Vanko, THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY C 2017, 121, 2620-2626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の非特許文献1に記載される実験では、区画された受光領域のそれぞれで異なるエネルギーのX線を測定する必要がある。しかしながら、異なるエネルギーのX線を測定しようとすると、それぞれのエネルギーに対して別個の測定が必要になり、測定全体に膨大な時間を要する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする制御装置、システム、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の制御装置は、X線検出器を制御し、測定結果を出力する制御装置であって、X線検出器の単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する設定部と、X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得するデータ管理部と、前記測定データを出力する出力部と、を備え、前記設定部は少なくとも2つ以上の単位領域において、異なるエネルギー範囲を設定することを特徴としている。これにより、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする。
【0009】
(2)また、本発明の制御装置は、前記設定部が、全領域において一定であるグローバル閾値に対し、単位領域ごとに、X線検出により入力される信号のゼロ点移動およびゲイン変更の少なくともいずれか一つを相対的に行なうことで、前記エネルギー範囲を設定することを特徴としている。これにより、設定されたグローバル閾値を固定したままゼロ点およびゲインの調整により相対的に見掛け上の閾値を変えて、それぞれのエネルギー範囲を設定できる。
【0010】
(3)また、本発明の制御装置は、前記設定部が、前記X線検出器内のDA変換器の設定を変えることで前記ゼロ点移動を行なうことを特徴としている。これにより、DA変換器の機能を利用してゼロ点移動を可能にできる。
【0011】
(4)また、本発明の制御装置は、前記設定部が、前記X線検出器において互いに隣り合う単位領域が集合して形成され、任意のサイズおよび形状を有する単数または複数の集合領域の各々に、検出されるエネルギー範囲を設定することを特徴としている。これにより、同じ試料に対して同時に複数のエネルギー範囲のデータを取りたいときに高い効率で測定できる。
【0012】
(5)また、本発明の制御装置は、前記X線検出器が、移動に同期する撮影が可能であり、前記設定部が、前記移動に同期する撮影における前記X線検出器の移動方向に垂直なラインごとに、各エネルギー範囲を割り振り、前記出力部が、前記設定されたエネルギー範囲ごとに再構成された全検出領域の計数値を出力することを特徴としている。このようにして得られたデータを再構成することで各位置について複数のエネルギー範囲の計数を効率的に取得できる。
【0013】
(6)また、本発明の制御装置は、前記設定部が、複数種類のエネルギー範囲のそれぞれを、受光面上の各単位領域に分散されるように設定することを特徴としている。これにより、位置分解能を犠牲にしても複数種類のエネルギー範囲のデータを同時にスチル測定で取得できる。
【0014】
(7)また、本発明の制御装置は、前記設定部が、前記エネルギー範囲の全種類の単位領域を一つずつ含む繰り返し単位領域が周期的に繰り返すように設定することを特徴としている。これにより、簡易な構成で複数種類のエネルギー範囲のデータを同時にスチル測定で取得できる。
【0015】
(8)また、本発明のシステムは、前記X線検出器を有するX線測定装置と、上記(1)から(6)のいずれかに記載の制御装置と、を備えることを特徴としている。このように、制御装置によるX線測定装置の制御がなされることで、複数のエネルギー範囲の計数を同時に測定したいという要求に対応できる。
【0016】
(9)また、本発明の方法は、異なるエネルギーのX線を同時に測定する方法であって、X線検出器の単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定するステップと、前記X線検出器を用いてX線測定を行なうステップと、前記X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得するステップと、前記測定データを出力するステップと、を含み、前記エネルギー範囲の設定時には、少なくとも2つ以上の単位領域において、異なるエネルギー範囲を設定することを特徴としている。これにより、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする。
【0017】
(10)また、本発明の方法は、前記X線検出器が、2次元X線検出器であり、前記検出のステップでは、試料に特定波長のX線を照射して散乱されたX線を前記X線検出器で検出することで、回折X線と蛍光X線とを同時に検出することを特徴としている。これにより、X線回折測定をしつつ、蛍光X線分析をすることができ、さらに効率的に実験を行なうことができる。
【0018】
(11)また、本発明の方法は、前記X線検出器が、2次元検出器であり、前記検出のステップでは、試料に白色X線を照射して散乱されたX線を前記X線検出器で検出することを特徴としている。これにより、通常ならスキャン範囲に限界がある場合でもスキャン測定したのと同様の測定ができる。
【0019】
(12)また、本発明のプログラムは、X線検出器を制御し、測定結果を出力するプログラムであって、X線検出器の単位領域ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する処理と、X線測定の結果、単位領域ごとに前記設定されたエネルギー範囲の計数値を測定データとして取得する処理と、前記測定データを出力する処理と、をコンピュータに実行させ、前記エネルギー範囲の設定時には、少なくとも2つ以上の単位領域において、異なるエネルギー範囲を設定することを特徴としている。これにより、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のX線測定システムの構成を示す概略図である。
図2】本発明のX線検出器の構成を示す概略図である。
図3】ピクセル毎になされる信号の調整を示す概略図である。
図4】本発明の制御装置の構成を示すブロック図である。
図5】第1実施形態のX線測定方法を示すフローチャートである。
図6】複数のピクセルに対する補正前のプロファイルを示すグラフである。
図7】(a)~(c)Trim-DACによるゼロ点調整を示すグラフである。
図8】第2実施形態のX線測定方法を示すフローチャートである。
図9】第2実施形態のX線検出器の設定を示す概略図である。
図10】第3実施形態のX線測定方法を示すフローチャートである。
図11】第3実施形態のX線検出器の設定を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[第1実施形態]
(X線測定システムの構成)
図1は、X線測定システム10の構成を示す概略図である。図1に示すように、X線測定システム10は、X線測定装置50および制御装置200を備えている。X線測定装置50は、測定により計数値の分布したデータを取得する。制御装置200は、X線測定装置50を制御するとともに、取得されたデータを処理する。X線測定装置50および制御装置200の詳細は、後述する。
【0024】
(X線測定装置の構成)
X線測定装置50は、X線照射部60、試料支持部70、駆動部80およびX線検出器100を備えている。X線照射部60は、X線源および光学機器を備えており、試料Sに対してX線を照射する。光学機器には、スリット、反射器等が挙げられる。X線源は、例えば、MoまたはCuのようなターゲットを用い、特性X線または白色X線を取り出せる。複数種類のX線源を用い、同時に測定することも可能である。X線照射部60の配置に応じてX線照射方向の調整が可能である。
【0025】
試料支持部70は、試料Sを支持する。試料支持部70は、準備時および測定時に試料Sの姿勢を調整できる。駆動部80は、例えばステッピングモータのような駆動力の発生部とその伝達機構で構成される。制御装置200からの指示により駆動部80が動作することで、X線照射部60、試料支持部70およびX線検出器100の位置調整が可能になる。駆動部80は、測定時にX線検出器100を2θ方向に移動させることも可能である。
【0026】
X線検出器100は、受光面105でX線を受光し、条件を満たすX線の計数値を取得する。これにより、試料Sで散乱されたX線を検出できる。なお、X線検出器100は、1次元検出器であってもよいが、2次元検出器であることが好ましい。X線検出器100の詳細は、後述する。
【0027】
(X線検出器の構成)
図2は、X線検出器100の構成を示す概略図である。図2では、説明の簡略化のためコンデンサ等の受動素子等は省略されている。X線検出器100は、フォトン・カウンティング型の半導体検出器であり、2次元のデータバッファ機能を有する。X線検出器100は、X線を検出し、検出データをフレームごとに外部へ転送する。
【0028】
図2に示すように、X線検出器100は、センサ110、読み出し回路120、メモリ150および転送回路160を備えている。なお、図2では便宜上一つのセンサ110および読み出し回路120に対する構成、すなわち一つのピクセル(単位領域)に対応する回路構成を示している。しかし、実際には、X線検出器100は、各ピクセルに対して単一のメモリ150および転送回路160を共有し、図2に示すものと同様の複数のセンサ110および読み出し回路120を備えている。なお、「単位領域」は、独立してX線を検出可能な最小の制御可能な設定領域を意味し、基本的には最小のセンサ要素であるピクセルやストリップがこれに該当する。ただし、単位領域が複数のセンサ要素を含んでいてもよい。
【0029】
センサ110は、露光によりX線の光子が検出されたときにパルスを発生させる。センサ110は、受光面105に入射するX線束の強度を、面情報として検出できる。読み出し回路120は、パルスの読み出しの機能を有し検出回路130およびカウンタ141、142を備えている。
【0030】
検出回路130は、パルスがグローバル閾値より高いか否かを判定し、高い場合には電圧信号としてカウンタ141、142へ送出する。カウンタ141、142は、送出された電圧信号を計数し出力できる。メモリ150は、計数値をカウンタ141、142から読み出し記憶する。メモリ150は、整列していないデータを実空間配置へ変換し、後段へデータの転送を可能にする。
【0031】
パルスの判定に用いるグローバル閾値は、検出器全体で一定に設定される。転送回路160は、メモリ150に記憶された計数値を制御装置200へ転送する。
【0032】
検出回路130は、前段の増幅器131、後段の増幅器133、ゲイン設定電圧の供給源g1、ゲイン調整用の前段のDA変換器132、後段のDA変換器134、閾値電圧の供給源t1、ゼロ点調整用のDA変換器135、137およびHigh側およびLow側の波高弁別器136、138を備えている。
【0033】
増幅器131、133は、2段に分けられている。前段の増幅器131は、センサ110で生じた電流信号を増幅する。前段の増幅器131は、例えば電荷増幅回路である。前段のDA変換器132は、増幅された入力信号を補正する。後段の増幅器133は、前段のDA変換器132により補正された信号を増幅する。後段の増幅器133は、例えば波形整形増幅回路である。後段のDA変換器134は、後段の増幅器133により増幅された電荷信号を補正する。
【0034】
増幅器131、133の各々の出力側には、オフセット補正を目的とする2つのDA変換器132、134(ゲイン設定電圧の供給源g1)が接続され、その出力はアナログ加算される。ゲイン調整は、増幅器133のゲインを調整するDA変換器132により行われ、増幅器133に入力された信号がDA変換器132で設定されたゲインで増幅される。この回路は、LOW側とHIGH側で共通である。このようにゲイン調整に使うDA変換器132は、Gain-DACと呼ばれる。なお、DA変換器135、137は、ゼロ点調整に用いられ、Trim-DACと呼ばれる。
【0035】
一方、ゼロ点調整は、波高弁別器136、138に接続されるDA変換器135、137により行われ、波高弁別器136、138に入力された信号のゼロ点がDA変換器135、137からの値により変化する。これらは、LOW側とHIGH側とで別々の回路として構成される。なお、ゼロ点調整とは、増幅器の出力信号のDCレベルを調整することを意味する。
【0036】
なお、グローバル閾値は、波高弁別器136、138に入力されるデジタル信号(供給源t1)によりLOW側とHIGH側とに分けて設定できる。グローバル閾値は、グローバル設定のため、全領域において、LOW側とHIGH側それぞれで固定されている。一方、エネルギー閾値は、結果として、波高弁別器136、138に入力される入力信号のゲインやゼロ点を調整することにより相対的に調整される。エネルギー範囲については、LOW側またはHIGH側のみ、またはLOW側とHIGH側の両方のエネルギー閾値を設定することで設定される。
【0037】
DA変換器132、134およびDA変換器135、137は、通常は、全ピクセルに対して一定にグローバル設定された閾値に対して入力された信号のばらつきを一律に調整するために用いられる。図3は、ピクセル毎になされる信号の調整を示す概略図である。図3において横軸は各ピクセルを示し、縦軸はエネルギーを示している。図3に示すように、4つのDA変換器で、ピクセル毎にゲインとゼロ点を調整することで、ピクセル毎のばらつきをなくしてグローバル閾値より高いか否かを判定できる。
【0038】
X線検出器100では、ピクセル毎に設けられるゲイン用のDA変換器132、134およびゼロ点調整用のDA変換器135、137を流用し、これらのいずれか若しくは両方を用いることで、エネルギー閾値を変更できる。この仕組みを応用することでのピクセル110ごとに異なるエネルギー閾値を設定することが可能である。
【0039】
それぞれの増幅器の増幅度およびDA変換器のオフセット値は、制御装置200からの設定により与えられる。なお、ピクセル110毎にエネルギー閾値を設定するには、上記のように一様性補正のために設けられた既存のTrim-DACを流用することが効率上好ましいが、新たにTrim-DACの機能を有する回路を設けてもよい。また、既存の回路内に電力供給用に設けられたドライバを流用して同様の機能を実現してもよい。また、Gain-DACについても既存のGain-DACを流用することが効率上好ましいが、新たにGain-DACの機能を有する回路を設けてもよい。
【0040】
なお、増幅器131、133は、電流増幅回路で構成され、DA変換器132、134は、電流出力型であってもよい。これにより、読み出しセルの大きさに制限がある中でも効果的に信号を補正できる。DA変換器は電流出力型であることが好ましい。電流出力型のDA変換器は回路構成が簡単であるため、特に微小な読み出しセルの中で回路部品を構成する場合には向いている。その場合には、さらに増幅器131、133自体も電流増幅回路とすることにより、途中に電流と電圧との変換回路を設けることなく、増幅器131、133の出力におけるアナログ加算を行なうことができる。ただし、変換回路を設け、電圧信号に変換してから上記のアナログ加算を行なってもよい。
【0041】
それぞれHigh側およびLow側の波高弁別器136、138は、閾値電圧の供給源t1によって決まる閾値により、後段のDA変換器134の出力信号を弁別する。カウンタ141、142は、それぞれHigh側およびLow側において弁別された信号を計数する。閾値電圧の供給源t1は、グローバル設定であり、すべてのピクセルに対して共通である。
【0042】
(制御装置の構成)
図4は、制御装置200の構成を示すブロック図である。制御装置200は、例えばPCのようなプロセッサとメモリを備えた装置(コンピュータ)であり、プログラムを実行することでX線測定装置50を制御し、得られたデータを処理し、測定結果を出力する。制御装置200は、入力部210、設定部220、設定情報管理部230、データ管理部250、再構成部260および出力部270を備えている。
【0043】
入力部210は、マウスやキーボード等の入力装置から入力される情報を受け付ける。例えば、X線測定の種別やそれに応じた各ピクセルに対するエネルギー範囲の設定方法を指定する情報を受け付けることができる。
【0044】
エネルギー範囲を設定する際には、グローバル閾値の存在が前提となる。グローバル閾値とは、波高弁別器のグローバル設定のために設けられ、固定の値である。そのため、各検出回路は、センサからのパルス高さが、全ピクセルで共通となるグローバル閾値より高いか否かを判定することになる。これに対し、エネルギー閾値とは、センサから出力されるパルスのゲインやゼロ点をピクセル毎に変えることで、グローバル閾値に対し相対的に変わる実質的な閾値である。そして、一つのピクセルに対しLOW側とHIGH側のエネルギー閾値を設定することで、ピクセル毎にエネルギー範囲を設定できる。なお、グローバル閾値として一つの値しかない場合は、ピクセル毎に一つのエネルギー閾値の設定により下限を設定することでエネルギー範囲を設定できる。エネルギー閾値は、測定者が入力部210を介して直接に入力してもよいし、測定種別などに応じ、メモリ内に事前に用意されたテーブルや計算式等から自動入力がなされてもよい。
【0045】
設定部は、X線検出器の単位領域(ピクセル)ごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定し、少なくとも2つ以上の単位領域において、異なるエネルギー範囲を設定する。設定部220は、X線検出器100のピクセルごとに、検出されるX線のエネルギー範囲をX線測定の種別に応じた特定の範囲に設定することが好ましい。これにより、複数のエネルギー範囲の計数の同時測定を可能にする。
【0046】
設定部220は、グローバルに設定された一定の閾値(グローバル閾値)に対し、ピクセル毎にゼロ点移動(オフセット補正)およびゲイン(増幅度)の変更の少なくともいずれか一つを行うことで、上記の通りエネルギー範囲を設定する。これにより、グローバル設定の閾値が全ピクセル共通のままゼロ点およびゲインの調整により相対的に閾値を変えて、それぞれのエネルギー範囲を設定できる。
【0047】
設定部220は、X線検出器100内のDA変換器132、134の設定を変えることでゼロ点の移動を行なう。ここの場合、既存のTrim-DACの機能を利用でき、簡易な構成で複数のエネルギー範囲の計数の同時測定が可能になる。
【0048】
設定部220は、X線検出器100において互いに隣り合うピクセルが集合して形成される集合領域ごとに、検出されるエネルギー範囲を設定することができる。これにより、同じ試料Sに対して同時に複数のエネルギー範囲のデータを測定できる。
【0049】
集合領域は、最小単位として1ピクセルであってもよく、複数ピクセルからなるラインやブロック(矩形)単位であってもよく、最大単位として全領域であってもよい。また、集合領域は、全領域を区分けしたものであってもよいし、全領域中の所定部分のみが集合領域であってもよい。また、集合領域は、全領域にわたって1種類でなくともよく、複数種類の大きさや形状等を有してもよい。すなわち、集合領域は、任意のサイズおよび形状を有する単数または複数の領域であってもよい。なお、集合領域は、1ピクセルから全領域のピクセルまでになりうるが、エネルギー閾値の調整は集合領域ごとでなく、ピクセル単位で行なわれる。なお、特定の集合領域は、同じエネルギー閾値を持ち、スチル測定における繰り返し単位領域とは異なる。
【0050】
設定情報管理部230は、X線測定装置50に対して適用された設定情報を記憶し管理する。設定情報管理部230は、要求に応じて再構成部260へ管理された設定情報を出力する。
【0051】
データ管理部250は、X線測定の結果、ピクセルごとに設定されたエネルギー範囲の計数値を取得し、その計数値をエネルギーのゼロ点および閾値に対応付けて測定データとして管理する。
【0052】
再構成部260は、適用された設定情報を用いて、取得された測定データを再構成する。具体的には、得られた計数値を設定されたエネルギー範囲におけるものとして収集し、各エネルギー範囲に対して画像データを構成する。これにより、例えば、エネルギー範囲が同一の集合領域についての計数値の分布を算出することができる。このように再構成は、基本的に各エネルギー範囲で管理した計数値を出力することを意味するが、用途に応じて取得したままの測定データを読み出して出力することも含む。
【0053】
出力部270は、X線測定の種別に応じた形式で測定データを出力する。例えば、エネルギー範囲が同一の集合領域ごとに計数値の分布を出力する。これにより、受光面の区画された領域ごとに特定のエネルギー範囲の計数値の分布を測定したい場合には、一度の測定で必要な複数のエネルギーの測定可能となるため、効率の高い測定が可能になる。
【0054】
(X線測定方法)
上記のように構成されたX線測定システム10を用いて、異なるエネルギーのX線を同時に測定する方法を説明する。図5は、X線測定方法を示すフローチャートである。まず、ユーザはX線測定装置50に試料Sを設置する(ステップS11)。例えば、同一試料に対し一方の領域で回折されたKα線を測定し、他方の領域でKβ線を測定したいときに、ユーザは制御装置200に対して測定種別と測定領域を指定する(ステップS12)。
【0055】
制御装置200は、ユーザの指定を設定情報に変換し、その設定情報によりX線検出器100のピクセルごとに、検出X線のエネルギー範囲を設定する(ステップS13)。例えば、設定情報としては、X線検出器100を固定したスチル測定、かつ受光面の領域ごとのエネルギー範囲の情報である。X線検出器100は、設定に応じて増幅器またはDA変換器によりゼロ点調整する。ゼロ点調整の詳細については後述する。
【0056】
ユーザは、制御装置200に対して測定開始を指示し、制御装置200からの指示によりX線測定装置50は、X線検出器100を用いてX線測定を行う(ステップS14)。制御装置200は、X線測定の結果、ピクセルごとに設定されたエネルギー範囲の計数値を取得し、測定データとして管理する。
【0057】
制御装置200は、取得された計数値の測定データを管理し、再構成する(ステップS15)。例えば、受光面の各領域のエネルギー範囲を算出し、計数値と対応付ける。そして、X線測定の目的に応じた形式で測定データを出力する(ステップS16)。例えば、特定のエネルギー範囲の領域の計数値の分布を一つの画面で表示し、他のエネルギー範囲の領域の計数値の分布を別の画面で表示することができる。
【0058】
(ゼロ点調整)
上記のように、増幅度およびオフセット値が適切に設定されることでゼロ点調整がなされる。
【0059】
図6は、複数のピクセルに対する補正前のプロファイルを示すグラフである。ここでいう「補正」とは、ピクセル毎のばらつきの補正を指す。各ピクセルで受光するX線による波高にはばらつきがある。しかし、図6に示すように、いずれのピクセルに対しても一律にLow側およびHigh側の閾値が設定されることで所望のピークを検出できる。この一律の閾値は、グランドに対する一定電圧で決まるグローバル設定である。
【0060】
図7(a)~(c)は、Trim-DAC回路によるゼロ点調整を示すグラフである。グラフの横軸は、グローバル閾値、縦軸は計数値を示している。図7(a)~(c)に示す例では、Trim-DACによるゼロ点の位置の変化を視覚的に示すため、グローバル閾値を0から512まで変化させて取得した波形が、Trim-DACの値が0、10、20の場合に移動していく様子を示している。なお、各図において単位としてLSB(Least Significant Bit)を記載しているが、Trim-DAC回路における1ビットと、波高弁別器の閾値を設定する信号の1ビットとでは、1ビットにおける実際の信号の変化量が異なる。
【0061】
図7(a)は、ゼロ点調整のトリム値がv0の場合のグラフを示している。これに対し、図7(b)は、10だけゼロ点調整によりトリムすることで、相対的にエネルギー閾値を上げている(すなわち、ゼロ点を下げている)。また、図7(c)は、20だけゼロ点調整し、相対的にエネルギー閾値をさらに上げている(すなわち、さらに下げている)。このようにして、検出回路130でのゼロ点調整できる。
【0062】
図7(a)~(c)に示す例において、例えば、グローバル閾値を400として、Trim値を調整した場合を考える。図7(a)に示す例ではエネルギー閾値が-4keVとなる。図7(b)に示す例では-エネルギー閾値が1.2keVとなる。図7(c)に示す例ではではエネルギー閾値が+1keVとなる。このようにして、ピクセル毎にエネルギー閾値を変えることができる。
【0063】
[第2実施形態]
第1実施形態はスチル測定に適しているが、TDI(Time Delay Integration)測定に代表される移動に同期した撮影を行うべき場合もある。本実施形態においてもX測定装置および制御装置の構成は同様であるが、測定方法が異なる。
【0064】
(TDIスキャンを利用したX線測定方法)
図8は、TDI測定を用いたX線測定方法を示すフローチャートである。まず、ユーザはX線測定装置に試料を設置する(ステップS21)。例えば、ある領域について複数のエネルギー範囲のそれぞれでX線を検出したいときに、ユーザは制御装置200に対して測定種別と測定領域を指定する(ステップS22)。
【0065】
制御装置200は、ユーザの指定を設定情報に変換し、その設定情報によりX線検出器100のピクセルごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する(ステップS23)。例えば、設定情報としては、TDI測定、かつラインごとのエネルギー範囲の情報である。X線検出器100は、設定に応じて増幅器またはDA変換器によりゼロ点調整する。
【0066】
X線検出器100のTDIスキャンを行う場合、TDIスキャンにおけるX線検出器100の移動方向に垂直なラインごとに、各エネルギー範囲をピクセルに割り振る。
【0067】
ユーザは、制御装置200に対して測定開始を指示し、制御装置200からの指示によりX線検出器100を移動させつつX線測定を行なう(ステップS24)。制御装置200は、X線測定の結果、ピクセルごとに設定されたエネルギー範囲の計数値を取得し、測定データとして管理する。
【0068】
制御装置200は、取得された計数値の測定データを管理し、再構成する(ステップS25)。例えば、ピクセルおよびエネルギー範囲のそれぞれに対し計数値と対応付ける。そして、設定されたエネルギー範囲ごとに全検出領域の計数値を再構成する。エネルギー範囲ごとに計数値の分布を各画面に出力する。このようにしてX線測定の目的に応じた形式で測定データを出力する(ステップS26)。
【0069】
(TDIスキャンを利用する具体例)
各エネルギー範囲をピクセルに割り振る場合、X線測定装置50においてTDI測定を設定し、スキャン方向に垂直なライン(ピクセル列)ごとに実質的な閾値を決める。図9は、X線検出器100の設定を示す概略図である。図9に示す例では、受光面105におけるライン111ごとのにエネルギー範囲が、4.0~4.1keV、4.1~4.2keV、4.2~4.3keV…と設定されている。例えば、775ラインのすべてについてそれぞれ異なるエネルギー範囲を設定する場合には、775通りのエネルギー範囲のX線検出画像を得ることができる。このように設定し、TDIスキャンを行なうことで、同一角度に対して複数のエネルギー範囲の測定データを取得できる。このような測定は、仮想的なMCAの測定といえる。
【0070】
なお、上記の例を応用すれば、ライン毎に異なるエネルギー範囲を設定し、この設定に基づきエネルギープロファイルを構築することができる。さらに、その結果を用いてKαとKβ線を特定し、エネルギープロファイルからKβ線を除去することができる。エネルギー範囲を細かく設定すればするほど、細かいエネルギープロファイルを得ることができ、精度高くKβ線を除去できる。
【0071】
上記の例では、撮影手法としてTDIスキャンを用いているが、移動に同期した撮影であれば撮影手法はTDIスキャンに限定されない。TDIスキャンに代えて、所定ライン分(例:1ライン分)をスキャン方向に揺動させたり、検出領域のセンターを中心とした回転方向に揺動させたりしてもよい。
【0072】
[第3実施形態]
第1実施形態では、受光面の特定の領域ごとに検出できるエネルギー範囲を変えて測定を行うが、広い範囲で異なるエネルギー範囲の測定を同時に行なうこともできる。本実施形態においてもX測定装置および制御装置の構成は同様であるが、測定方法が異なる。
【0073】
(複数色のスチル測定によるX線測定方法)
図10は、複数色のスチル測定によるX線測定方法を示すフローチャートである。まず、ユーザはX線測定装置50に試料Sを設置する(ステップS31)。例えば、広い範囲で所定の複数のエネルギー範囲のそれぞれでX線を検出したいたときに、ユーザは制御装置200に対して測定種別と測定領域を指定する(ステップS32)。
【0074】
制御装置200は、ユーザの指定を設定情報に変換し、その設定情報によりX線検出器100のピクセルごとに、検出されるX線のエネルギー範囲を設定する(ステップS33)。例えば、設定情報としては、スチル測定、かつ測定したい領域の情報である。X線検出器100は、設定に応じて増幅器またはDA変換器によりゼロ点調整する。
【0075】
このとき、設定部220は、複数種類のエネルギー範囲のそれぞれを、検出器内の各ピクセルに分散されるように設定することが好ましい。これにより、複数種類のエネルギー範囲のデータを同時にスチル測定で取得できる。ただし、ある程度位置分解能は犠牲になる。なお、上記の「分散」は均一になされることが好ましい。「均一」は、規則正しく配置される場合だけでなく、ランダムに配置される場合も含む。
【0076】
ユーザは、制御装置200に対して測定開始を指示し、制御装置200からの指示によりX線測定装置50は、X線検出器100を固定してX線測定を行なう(ステップS34)。制御装置200は、X線測定の結果、ピクセルごとに設定されたエネルギー範囲の計数値を取得し、測定データとして管理する。
【0077】
制御装置200は、取得された計数値の測定データを管理し、再構成する(ステップS35)。例えば、ピクセルおよびエネルギー範囲のそれぞれに対し計数値と対応付ける。そして、出力部270は、所定のエネルギー範囲が設定されたピクセルごとに全検出領域の計数値を再構成する。その場合、例えば、位置情報は犠牲になるものの複数の波長のX線の回折像を同時に得られる。X線測定の目的に応じた形式としてエネルギー範囲ごとに全検出領域の計数値の分布を各画面に出力する(ステップS36)。
【0078】
(複数色のスチル測定の具体例)
設定部220は、エネルギー範囲の全種類のピクセルを一つずつ含む繰り返し単位領域が周期的に繰り返すように各ピクセルのエネルギー範囲を設定することが好ましい。図11は、X線検出器の設定を示す概略図である。
【0079】
図11に示す例では、それぞれ所定のエネルギー範囲が設定された4つのピクセル110a~110d(4色)を繰り返し単位115として、各ピクセルのエネルギー範囲が設定されている。これにより、簡易な構成で複数種類のエネルギー範囲のデータを同時にスチル測定で取得できる。上記の例では、4つのピクセルが繰り返し単位を構成しているが、9つのピクセル(9色)で繰り返し単位を構成してもよい。また、このような規則性がなくてもよく、複数種類のピクセルをランダムな配置で設定してもよい。
【0080】
[第4実施形態]
上記の実施形態によれば、エネルギー範囲ごとに全検出領域の計数値の分布を各画面に出力することができるが、各ピクセルの位置についてエネルギーの分布を出力することもできる。これらの2種類の出力方法を利用し、検出のステップで、試料に特定波長のX線を照射して散乱されたX線をX線検出器で検出することで、回折X線と蛍光X線とを同時に検出できる。このような方法は、例えばTDIスキャンを用いた測定において応用できる。
【0081】
[第5実施形態]
上記の実施形態では、特性X線または白色X線のいずれを用いるかを特に限定していないが、白色X線を用いることで、狭いスキャン範囲でk空間における広い範囲の解析データを得ることができる。この場合には、スキャン範囲が狭いため、経時的な実験を効率よく行なうことができる。結晶の回折条件は、2dsinθ=nλであるため、一定のλで測定するよりλを変更して測定できれば、θの変動可能な範囲制限されるような対象に対してもk空間で広い範囲の回折像を得ることができる。
【0082】
例えば、白色X線をX線源として用いることで、通常ならスキャン範囲に限界がある場合でもスキャン測定したのと同様の結果を得ることができる。したがって、特性X線を用いた場合には難しいIn-situ実験等を行なうことができる。
【0083】
以上の実施形態については、制御装置200が単一の装置として構成されていているが、一部機能や構成をクラウド上に設けたシステムとして構成されていてもよい。また、制御装置200の機能をX線検出器100内の回路として設けてもよい。また、上記の実施形態では、全領域共通でグローバル閾値を設定しているが、グローバル閾値を有さず、単位領域毎にエネルギー閾値を設定できる構成であってもよい。
【0084】
なお、本国際出願は、2020年1月27日に出願した日本国特許出願第2020-011214号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2020-011214号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0085】
10 X線測定システム
50 X線測定装置
60 X線照射部
70 試料支持部
80 駆動部
100 X線検出器
105 受光面
110 センサ(ピクセル)
110a~110d ピクセル
111 ライン
115 繰り返し単位
120 読み出し回路
130 検出回路
131、133 増幅器
132、134、135、137 DA変換器
t1 閾値電圧の供給源
g1 ゲイン設定電圧の供給源
136、138 波高弁別器
141、142 カウンタ
150 メモリ
160 転送回路
200 制御装置
210 入力部
220 設定部
230 設定情報管理部
250 データ管理部
260 再構成部
270 出力部
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11