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特許7515913窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20240708BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
D21H27/00 D
D21H17/67
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022526295
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 CN2021123491
(87)【国際公開番号】W WO2022217870
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】202110402704.1
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】張慶華
(72)【発明者】
【氏名】郭鴻宇
(72)【発明者】
【氏名】▲ヅァン▼暁力
(72)【発明者】
【氏名】陳豊秋
(72)【発明者】
【氏名】程党国
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-049188(JP,A)
【文献】中国実用新案第210445653(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第111480877(CN,A)
【文献】韓国公開特許第2020-0088566(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第110629583(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109680540(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111549562(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
A24C1/00-5/60
A24D1/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般的なタバコ紙の製紙プロセスにおけるパルプ調製ステップ、ワイヤー載置・抄造ステップ、プレドライステップ、表面サイジングステップ、アフタードライステップ、カレンダリング・完成ステップを含む窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法であって、
前記パルプ調製ステップでは、具体的に、
(1)粗パルプの調製
0.05~0.1重量部のオレイン酸カリウム、0.1~0.2重量部のポリビニルアルコール及び5重量部の水を混合し、超音波条件で30min均一に攪拌してから、2hのエイジング後に沈殿物がなくなるまで濾過し、取得した混合溶液を15~25重量部の針葉樹パルプ、50~70重量部の広葉樹パルプと均一に混合して粗パルプを取得し、
(2)フィラーとの混錬
攪拌条件において、1~15重量部の窒化ホウ素及び20~50重量部の炭酸カルシウムフィラーを粗パルプに添加し、60℃まで昇温させて、十分に混ざり合うまで攪拌することで、ワイヤー載置・抄造用のパルプを取得する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記表面サイジングとは、サイジングマシンを用い、助剤としてのポリアクリルアミドをローラーサイジング方式でタバコ紙の表面にコーティングすることであり、助剤の使用量を1~3重量部とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールの数平均分子量の分布範囲は200~3000であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記窒化ホウ素粒子の平均粒径は12~16μmであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバコ紙製造の技術分野に属し、特に、窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙巻タバコの吸入温度は900℃にも達し、タバコ葉又はタバコ材料が高温条件下で燃焼及び熱分解により多くの有害物質を発生させる。そこで、紙巻タバコおいては、低タール・低有害性のものが発展の趨勢となっている。一方、非燃焼・加熱式(HnB)タバコ製品とは、特定の熱源を使用して、刻みタバコを主体とするタバコ芯を加熱する(500℃以下)ものであって、タバコ芯を燃焼させることなく加熱する新型のタバコ製品である。この技術を簡単に概括すると、ヒータで特製の「タバコスティック」を加熱することで、温度を350℃以下に制御する。こうすることで、タバコ内のニコチンや芳香族物質は放出しつつ、タバコの燃焼に伴う大量の有毒・有害物質の発生は回避可能となる。且つ、タバコの口当たりは保たれるため、喫煙者の使用に適しており、従来の紙巻タバコの代替品とすることで、タバコの弊害を低下させつつ、一定のタバコの特徴を消費者に体験させることができる。
【0003】
これに対し、一般的なタバコ紙は、加熱時の熱伝導率が低いため、タバコ芯内のニコチンや芳香族物質の放出に不利である。また、高温下で不安定となるため、その他の異臭を放出してシガレットの味わいに影響を及ぼす恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術の瑕疵を解消するために、窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙及びその製造方法を提供することである。当該タバコ紙は、高い熱伝導率を有しており、高温下で良好な難燃安定性を有する。また、高温下でタバコ紙の色はほぼ変化しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
技術的課題を解決するために、本発明における解決手段は以下の通りである。
【0006】
窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法を提供する。当該方法は、一般的なタバコ紙の製紙プロセスにおける粗パルプ調製ステップ、フィラー混錬ステップ、ワイヤー載置・抄造ステップ、プレドライステップ、表面サイジングステップ、アフタードライステップ、カレンダリング・完成ステップを含む。前記パルプ調製ステップは、具体的に以下を含む。
【0007】
(1)粗パルプの調製
0.05~0.1重量部のオレイン酸カリウム、0.1~0.2重量部のポリビニルアルコール及び5重量部の水を混合し、超音波条件で30min均一に攪拌してから、2hのエイジング後に沈殿物がなくなるまで濾過する。次に、取得した混合溶液を15~25重量部の針葉樹パルプ、50~70重量部の広葉樹パルプと均一に混合して粗パルプを取得する。
【0008】
(2)フィラーとの混錬
攪拌条件において、1~15重量部の窒化ホウ素及び20~50重量部の炭酸カルシウムフィラーを粗パルプに添加し、60℃まで昇温させて、十分に混ざり合うまで攪拌することで、ワイヤー載置・抄造用のパルプを取得する。
【0009】
本発明において、前記表面サイジングとは、サイジングマシンを用い、助剤としてのポリアクリルアミドをローラーサイジング方式でタバコ紙の表面にコーティングすることである。また、助剤の使用量を1~3重量部とする。
【0010】
本発明において、前記ポリビニルアルコールの分子量の分布範囲は200~3000である。
【0011】
本発明において、前記窒化ホウ素粒子の平均粒径は12~16μmである。
【0012】
本発明は、更に、非燃焼・加熱式タバコ紙の製造に用いられる窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有するパルプを提供する。当該パルプの原料配合には、0.05~0.1部のオレイン酸カリウム、0.1~0.2部のポリビニルアルコール、5部の水、15~25部の針葉樹パルプ、50~70部の広葉樹パルプ、1~15部の窒化ホウ素及び20~50部の炭酸カルシウムという重量部関係の各成分が含まれる。
【0013】
発明原理の説明:
一般的なタバコ紙の製紙プロセスは、通常、パルプ調製ステップ、ワイヤー載置・抄造ステップ、プレドライステップ、表面サイジングステップ、アフタードライステップ及びカレンダリング・完成ステップを含む。通常は、炭酸カルシウムをフィラーとしてパルプに直接添加することで、紙の白色度と靱性を調節する。
【0014】
しかし、本発明では、パルプ調製ステップを2段階に分割する。
【0015】
(1)粗パルプを調製する際に、針葉・広葉混合パルプにオレイン酸カリウム及びポリビニルアルコールを添加する。オレイン酸カリウムは、界面活性剤として粗パルプを安定させる作用を奏する。また、ポリビニルアルコールは、後続の昇温工程で十分に湿潤膨張可能であり、窒化ホウ素とともにパルプ繊維の網状構造の隙間に介在することで、紙の欠陥を減少させて、紙の強度を補強するとの作用を奏し得る。
【0016】
(2)粗パルプに窒化ホウ素及び炭酸カルシウムを添加して混錬し、パルプを取得する。六方晶窒化ホウ素(BN)は六方晶系に属し、物理及び化学的性質が最も安定した結晶である。且つ、グラファイトと類似する六角形の層状構造を有しており、耐高温、耐酸化性との特性を有する。また、窒化ホウ素は、各種電気・電子機器のクーリングフィラーとすることができる。この場合、熱伝導率は1~15W/mKにも達し、良好な熱伝導性を有するとともに、小型化、軽量化といった工程要求も満たし得る。よって、窒化ホウ素をタバコ紙に組み合わせることで、タバコ紙の熱伝導率を大幅に向上させられる。また、窒化ホウ素は燃焼抑制効果も有するため、高温(500℃)以下におけるタバコ紙の安定性が大幅に向上する。
【0017】
窒化ホウ素をタバコ紙に組み合わせる過程では、窒化ホウ素粒子とタバコ紙繊維の十分な分散及び混合を考慮せねばならない。フィラーをパルプに直接添加する従来のプロセスとは異なり、本発明ではフィラーの熱間混錬が関わっている。即ち、窒化ホウ素熱伝導性充填剤及び炭酸カルシウムフィラーをパルプに添加する際に60℃まで昇温させ、添加しながら攪拌することで、窒化ホウ素粒子とタバコ紙の繊維構造との微視的再構成を実現する。即ち、高温、機械的切断及び物理化学作用によって紙繊維を膨潤させて、可塑性を増大させる。当該窒化ホウ素は、当該プロセス条件において均一に分散し、繊維へ十分に浸入することで安定構造を形成する。これにより、紙繊維の熱伝導率を向上させるにあたり、品質制御が強化される。
【0018】
また、表面サイジング時に、本発明では助剤としてポリアクリルアミドを添加する。ポリアクリルアミド分子の一部の-CONH基は-COOHに加水分解されて、紙内の3価のアルミニウムイオン、カルシウムイオン等と架橋結合を形成する。これにより、紙表面に付着して、紙に良好な耐水性を持たせる。
【発明の効果】
【0019】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0020】
(1)炭酸カルシウム等のみをフィラーとして添加する一般的な紙と比較して、本発明では、窒化ホウ素粒子を熱伝導性充填剤として加え、紙の熱伝導率を向上させることから着手して、タバコ紙の安定性を効果的に向上させている。窒化ホウ素は、熱伝導性充填剤としては粒径が小さいため(平均粒径は12~16μm)、薄壁又は紙製品に応用して、いっそう高い排熱能力を付与することが可能である。
【0021】
(2)窒化ホウ素粒子は白色のため、タバコ紙の従来の白色度及び透明度が維持される。また、それだけでなく、窒化ホウ素の熱伝導率は金属酸化物等の熱伝導性充填剤よりも高いため、負荷レベルを相対的に低く維持することができ、製品を低コストに維持し得る。
【0022】
(3)混錬段階では、粗パルプを60℃まで昇温させて、フィラーを添加しながら攪拌することで、窒化ホウ素粒子とタバコ紙の繊維構造との微視的再構成を実現する。即ち、高温、機械的切断及び物理化学作用によって紙繊維を膨潤させて、可塑性を増大させる。窒化ホウ素は、当該プロセス条件において均一に分散し、繊維へ十分に浸入することで安定構造を形成する。これにより、紙繊維の熱伝導率を向上させるにあたり、品質制御が強化される。
【0023】
(4)タバコ紙の燃焼性能を調節することで、タバコ紙を刻みタバコの燃焼速度に合わせているため、特に、「非燃焼・加熱」タイプの紙巻タバコに適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、具体的実施例と比較例を組み合わせて、本発明につき更に詳細に説明する。実施例は、当業者に本発明をより全面的に理解させ得るが、何らかの方式で本発明を制限するものではない。
【0025】
窒化ホウ素熱伝導性充填剤を含有する非燃焼・加熱式タバコ紙の製造方法は、以下のステップを含む。
【0026】
(1)粗パルプの調製
0.05~0.1重量部のオレイン酸カリウム、0.1~0.2重量部のポリビニルアルコール及び5重量部の水を混合し、超音波条件で30min均一に攪拌してから、2hのエイジング後に沈殿物がなくなるまで濾過する。次に、取得した混合溶液を15~25重量部の針葉樹パルプ、50~70重量部の広葉樹パルプと均一に混合して粗パルプを取得する。
【0027】
(2)フィラーとの混錬
攪拌条件において、1~15重量部の窒化ホウ素及び20~50重量部の炭酸カルシウムフィラーを粗パルプに添加し、60℃まで昇温させて、十分に混ざり合うまで攪拌することで、ワイヤー載置・抄造用のパルプを取得する。
【0028】
(3)ワイヤーに載置して抄造する。
【0029】
(4)プレドライを行う。
【0030】
(5)表面サイジングを行う。
【0031】
サイジングマシンに1~3重量部のポリアクリルアミドを表面サイジング助剤として添加する。
【0032】
(6)アフタードライを行う。
【0033】
(7)カレンダリングを行い、完成させる。
【0034】
上記のステップ(3)~(4)、(6)~(7)は、一般的なタバコ紙の製紙プロセスにおける方法及びパラメータで操作すればよく、本発明での特別な要求はない。
【0035】
実施例1~3の関連データを表1に示す(表内のデータは対応成分の重量部である)。
【0036】
【表1】
【0037】
技術的効果の検証
箱型抵抗炉による加熱で、非燃焼・加熱式タバコ紙を300℃で5min焼いた場合の変色度合を観察及び評価した。
【0038】
【表2】
【0039】
本発明については本文中に詳細に記載しており、且つ、実施例部分では、例示によって本発明の具体的実施方案を説明した。ただし、本発明については各種の修正方案及び置換形式が可能である。また、理解すべき点として、本文は開示した具体的形式に本発明を限定することを意図しない。反対に、本発明は、添付の請求項で限定する本発明の本質及び範囲内に属する全ての修正方案、同等の方案及び置換方案をカバーする。