(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】クリプトール炉及びそれを備える電熱式キューポラシステム
(51)【国際特許分類】
F27B 1/09 20060101AFI20240708BHJP
C21B 11/10 20060101ALI20240708BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20240708BHJP
F27B 1/21 20060101ALI20240708BHJP
F27B 1/20 20060101ALI20240708BHJP
F27D 7/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
F27B1/09
C21B11/10
F27D7/02 Z
F27B1/21
F27B1/20
F27D7/00 Z
(21)【出願番号】P 2023515333
(86)(22)【出願日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2023008398
【審査請求日】2023-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599137769
【氏名又は名称】有限会社 ベイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】浦山 基郎
(72)【発明者】
【氏名】浦山 大介
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特許第7253857(JP,B1)
【文献】特開昭59-225283(JP,A)
【文献】特開平11-152502(JP,A)
【文献】特開平09-280750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/09
F27B 1/21
F27B 1/20
F27B 14/00-14/20
C21B 11/10
F27D 7/00
F27D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形の炉殻の内部に炉体耐火物を設け、前記炉殻の内側に給電端子部が配され、前記炉
体耐火物及び前記給電端子部の内側にクリプトール粒を充填してクリプトール粒域とする
クリプトール炉であり、
前記クリプトール粒域の上方に、溶解原料を装入する原料装入部が配置され、
前記給電端子部は、前記クリプトール粒域の外周に接触する電極板と、一端部が前記電
極板に結合され他端部が前記炉殻の外側に突出している給電ロッドと、を有し、
さらに、前記クリプトール粒域を通って上方に排出されるように、前記給電ロッドを用
いてガスを供給する、ガス供給手段が設けられ
、
前記ガス供給手段が、前記給電ロッドの内部に設けられたガス通路を含むことを特徴とする、
クリプトール炉。
【請求項2】
筒形の炉殻の内部に炉体耐火物を設け、前記炉殻の内側に給電端子部が配され、前記炉
体耐火物及び前記給電端子部の内側にクリプトール粒を充填してクリプトール粒域とする
クリプトール炉であり、
前記クリプトール粒域の上方に、溶解原料を装入する原料装入部が配置され、
前記給電端子部は、前記クリプトール粒域の外周に接触する電極板と、一端部が前記電
極板に結合され他端部が前記炉殻の外側に突出している給電ロッドと、を有し、
さらに、前記クリプトール粒域を通って上方に排出されるように、前記給電ロッドを用
いてガスを供給する、ガス供給手段が設けられ
、
前記炉殻には、前記給電ロッドが通過する開口が設けられ、前記給電ロッドが前記開口に絶縁物を介して取り付けられていることを特徴とする、
クリプトール炉。
【請求項3】
前記給電端子部を複数備え、
複数の前記給電端子部が、前記炉殻の内側に所定の角度間隔で配されている、
請求項1
または2記載のクリプトール炉。
【請求項4】
前記給電端子部を3つ備え、
3つの前記給電端子部が、前記炉殻の内側に120°間隔で配されている、
請求項1
または2記載のクリプトール炉。
【請求項5】
前記ガス供給手段は、
前記給電端子部に設けられ前記炉殻と前記電極板との間に空隙部を形成する支え枠と、
前記ガス通路と、
前記電極板に設けられ前記空隙部から前記クリプトール粒域に前記ガスを供給する複数
の小孔と、を有する、
請求項1記載のクリプトール炉。
【請求項6】
前記ガス供給手段は、
前記給電端子部に設けられ前記炉殻と前記電極板との間に空隙部を形成する支え枠と、
前記給電ロッドに設けられ前記空隙部にガスを供給するガス通路と、
前記電極板に設けられ前記空隙部から前記クリプトール粒域に前記ガスを供給する複数
の小孔と、を有する、
請求項
2記載のクリプトール炉。
【請求項7】
前記ガスは、酸化性ガス以外のガスである、
請求項1または2記載のクリプトール炉。
【請求項8】
前記ガスは、N2やArガスの不活性ガス、またはH2ガスの還元性ガスである、
請求項1
または2記載のクリプトール炉。
【請求項9】
前記クリプトール粒域は、鉛直上方から見て、中央の円形状粒域と、その周囲に120
°間隔で放射状に設けられた3つの扇形状粒域とを有し、
前記電極板は、断面円弧状であり、
前記各扇形状粒域の半径方向外方の端面に前記電極板が接触している、
請求項
4記載のクリプトール炉。
【請求項10】
前記クリプトール粒域の下側に溶湯受が設けられ、
前記溶湯受が、前記クリプトール粒域の中央部分の下側に配置されクリプトール粒を保
持する本体受部と、前記本体受部より半径方向外方に延び溶融物を外部に排出する出湯樋
部とを有する、
請求項1
または2記載のクリプトール炉。
【請求項11】
前記溶湯受の本体受部を貫通してアース電極が設けられている、
請求項
10記載のクリプトール炉。
【請求項12】
前記電極板は、それぞれ前記各扇形状粒域の、半径方向外方の端面に対して、端面全体
を覆うように設けられている、
請求項
9記載のクリプトール炉。
【請求項13】
前記本体受部は、貫通孔を有する周回壁部が設けられた皿形状であり、
前記出湯樋部は、通路を有する樋状であり、
前記本体受部の周回壁部の内部が、前記貫通孔を通じて、前記出湯樋部の通路に接続さ
れている、
請求項
10記載のクリプトール炉。
【請求項14】
前記クリプトール粒には、
コークスからなるクリプトール粒、黒鉛からなるクリプトール粒のいずれかが含まれる
、
請求項1
または2記載のクリプトール炉。
【請求項15】
前記クリプトール粒域において、
前記円形状粒域に、コークスからなるクリプトール粒が含まれ、
前記扇形状粒域に、黒鉛からなるクリプトール粒が含まれる、
請求項
9記載のクリプトール炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリプトール炉及びそれを備える電熱式キューポラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来国内外を問わず、鋳鉄鋳物の製造に用いられる溶解炉としては、連続溶解炉としてキューポラと、バッチ式溶解炉であるアーク炉や誘導炉が主に用いられている。これらの炉の中で、キューポラは原料溶解の熱源としてのコークスが用いられるため、コークス燃焼の際、地球温暖化の原因となるCO2ガスを大量に発生し、現在世界的目標である生産活動の脱CO2ガス化行動の阻害要因として強く指摘されている。
【0003】
この理由により鋳物業界ではキューポラを誘導式電気炉に置き換える方向に進みつつあるが、キューポラと誘導炉では原料の相違や溶解から鋳造までの生産方式の相違などのため、溶解炉のみでなく、その前後の設備の変更も必要になり、多大の資金と時間を投下しなければならない。
【0004】
ところで、溶解炉には、アーク炉や誘導炉の他に、炭素や黒鉛を素材とするクリプトール粒の集合体に、交流電流を通してクリプトール粒の接触抵抗によるジュール熱によって発生する高熱を利用する、単相電流による単相クリプトール炉が知られている。また、このような単相クリプトール炉が改良され、三相交流を用いた三相クリプトール炉も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そして、発明者らは、上記のクリプトール炉についてさらに研究を進め、クリプトール粒ベッド部に熱エネルギーの搬送媒体としてガスを供給することで、クリプトール粒ベッド部の均熱性を確保することができる三相クリプトール炉を開発し、先に出願している(特願2022-180233号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の発明者らは、クリプトール炉についてさらに研究を進め、クリプトール粒ベッド部に熱エネルギーの搬送媒体としてガスを供給することで、クリプトール粒ベッド部の均熱性を確保することができるクリプトール炉を開発した。本発明の1の目的は、クリプトール粒域の均熱性を確保することができるクリプトール炉を提供することにある。
【0008】
また、上述のように、従来のキューポラではコークス燃焼の際にCO2が大量に発生する。また、従来のキューポラを誘導式電気炉に置き換える場合、設備の変更も必要になり、多大の資金と時間を投下しなければならない。
【0009】
この課題を解決するため、従来型のキューポラの基本構造は変えず、部分的改造によってコークスの使用量を大幅に減らすことができる電熱式キューポラという新型キューポラとすることが考えられる。
【0010】
そして、発明者らは、上記したクリプトール炉の原理をキューポラに利用することで、これらの課題を解決できると考えた。
【0011】
すなわち、従来のキューポラでは、炉の最下部にベッドコークスと言われるコークスのみを大量に充填した部分があり、そこに空気を吹き込みながらコークスを燃焼させて原料を溶解していることころ、上記のクリプトール炉の原理を利用して、熱エネルギーの搬送媒体としてガスを用いることで、クリプトール粒域の均熱性を確保できるとともに、燃焼によるCO2の発生を抑えながらも、効率よく原料の溶解を可能にすることできると考えた。
【0012】
本発明の前記したクリプトール炉を用いた電熱式キューポラシステムは、ベッドコークスに電熱エネルギーを投入し、そのエネルギーをキャリアガスに乗せてベッドコークス上部に存在する溶解原料を溶解させるという仕組みを基本構造とするもので、CO2ガスの発生を抑えた電熱式キューポラシステムを提供することを1の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の態様に係るクリプトール炉は、筒形の炉殻の内部に炉体耐火物を設け、前記炉殻の内側に給電端子部が配され、前記炉体耐火物及び前記給電端子部の内側にクリプトール粒を充填してクリプトール粒域とするクリプトール炉であり、前記クリプトール粒域の上方に、溶解原料を装入する原料装入部が配置され、前記給電端子部は、前記クリプトール粒域の外周に接触する電極板と、一端部が前記電極板に結合され他端部が前記炉殻の外側に突出している給電ロッドとを有し、さらに、前記クリプトール粒域を通って上方に排出されるように、前記給電ロッドを用いてガスを供給する、ガス供給手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、クリプトール粒域に熱エネルギーの搬送媒体としてのガス(キャリアガス)が給電ロッドを利用して供給され、クリプトール粒域の均熱性が確保され、そのキャリアガスによってクリプトール粒域で発生した熱エネルギーが上方に搬送され、クリプトール粒域上方の、装入された溶解原料が効率よく加熱される。
【0015】
また、このクリプトール炉は、前記給電端子部を複数備え、複数の前記給電端子部が、前記炉殻の内側に所定の角度間隔で配されていることが望ましい。このようにすれば、炉殻内のクリプトール粒に複数方向から給電できるので、炉殻内の電熱エネルギーがより均一化され、溶解原料の加熱の効率が上がる。
【0016】
また、このクリプトール炉は、3つの前記給電端子部が前記炉殻の内側に120°間隔で配されている。このようにすれば、例えば3つの給電端子部を配する場合に、120°間隔で配することで、炉殻内のクリプトール粒への給電の均一性が上がる。
【0017】
また、このクリプトール炉は、前記ガス供給手段が、前記給電端子部に設けられ前記炉殻と前記電極板との間に空隙部を形成する支え枠と、前記給電ロッドに設けられ前記空隙部にガスを供給するガス通路と、前記電極板に設けられ前記空隙部から前記クリプトール粒域に前記ガスを供給する複数の小孔とを有することが望ましい。
【0018】
また、このクリプトール炉は、前記ガスが酸化性ガス以外のガス、すなわち非酸化性ガスが好ましく、不活性ガス又は還元性ガスであることが望ましい。不活性ガスとしては、例えば窒素やアルゴン、ヘリウムなど、還元性ガスとしては、例えば水素などが想定される。なお、これに用いるガスは、非酸化性ガスであれば利用できると考えられる。
【0019】
また、このクリプトール炉は、前記クリプトール粒域が、鉛直上方から見て、中央の円形状粒域と、その周囲に120°間隔で放射状に設けられた3つの扇形状粒域とを有し、前記電極板は、断面円弧状であり、前記各扇形状粒域の、半径方向外方の端面に前記電極板が接触していることが望ましい。
【0020】
また、このクリプトール炉は、前記クリプトール粒域の下側に、溶湯受が設けられ、前記溶湯受が、前記クリプトール粒域の中央部分の下側に配置されクリプトール粒を保持する本体受部と、前記本体受部より半径方向外方に延び溶融物を外部に排出する出湯樋部とを有すること、前記溶湯受の本体受部を貫通して、アース電極が設けられていることが望ましい。
【0021】
また、このクリプトール炉は、さらに前記電極板が、それぞれ前記各扇形状粒域の、半径方向外方の端面に対して、端面全体を覆うように設けられていることが望ましい。
【0022】
また、このクリプトール炉は、前記本体受部が、貫通孔を有する周回壁部が設けられた皿形状であり、前記出湯樋部は、通路を有する樋状であり、前記本体受部の周回壁部の内部が、前記貫通孔を通じて、前記出湯樋部の通路に接続されていることが望ましい。
【0023】
また、このクリプトール炉は、前記クリプトール粒に、コークスからなるクリプトール粒、黒鉛からなるクリプトール粒のいずれかが含まれることが好ましい。すなわち、導電性のある原料からなるクリプトール粒を用いることが好ましく、導電性の高い原料を用いることがより好ましい。なお、導電性を有していれば、例えば炭化ケイ素など、コークスや黒鉛以外の材料を用いることも想定できる。
【0024】
また、このクリプトール炉は、前記クリプトール粒域において、前記円形状粒域に、コークスからなるクリプトール粒が含まれ、前記扇形状粒域に、黒鉛からなるクリプトール粒が含まれることが望ましい。このようにすれば、比抵抗の小さな黒鉛粒を用いた扇形状粒域の発熱量を小さくし、比抵抗の大きなコークス粒を用いた円形状粒域の発熱力を大きくすることができ、全体として効率のよい発熱粒域を構成することができる。
【0025】
本発明の一の態様に係る電熱式キューポラシステムは、電熱式のキューポラシステムであって、溶解炉の下部にクリプトール粒ベッド部と、前記クリプトール粒ベッド部にキャリアガスを供給するガス供給手段とを備え、電熱エネルギーを前記キャリアガスに乗せて投入し、前記クリプトール粒ベッド部上に存在する溶解原料を溶解させることを特徴とすることを特徴とする。
【0026】
このようにすれば、クリプトール粒ベッド部に熱エネルギーの搬送媒体としてのガス(キャリアガス)が供給され、クリプトール粒ベッド部の均熱性が確保され、そのキャリアガスによってクリプトール粒ベッド部で発生した熱エネルギーが上方に搬送され、クリプトール粒ベッド部上方の、装入された溶解原料が効率よく加熱される。
【0027】
また、この電熱式キューポラシステムは、前記溶解炉から排出される前記キャリアガスを回収して、キャリアガスを循環使用するガス循環手段をさらに備えることを特徴とする。
【0028】
このようにすれば、ガス循環手段によって、使用したキャリアガスを回収して再びキャリアガスとして循環使用することができる。これにより、使用後にキャリアガスに残存する熱エネルギーを無駄なく利用することができるとともに、コストを抑えることもでき、環境にも配慮することができる。
【0029】
また、この電熱式キューポラシステムは、前記ガス循環手段が、入口側にダストフィルターを有し前記キャリアガスを循環させるブロワを有するようにすれば、ダストフィルターによって、ダストを多く含むガスが、ブロワの入口側をそのまま通過するのが回避される。
【0030】
また、この電熱式キューポラシステムは、前記ブロワが、ルーツブロワで、前記ダストフィルターの上流側にガスクーラーが設けられているようにすれば、定風量が確保され、ガスクーラーによって冷却されるので、高温ガスであっても使用できる。
【0031】
また、従来型キューポラでは、溶解原料を連続投入するため、炉頂部は開放状態となっているため、コークスベッド部より吹き込まれた循環キャリアガスは、炉頂部で外気に触れ、酸素ガスを含む外気がキャリアガス中に混入することになる。
【0032】
これを防止するために、溶解炉の下部にクリプトール粒ベッド部が設けられ、前記クリプトール粒ベッド部に、電熱エネルギーをキャリアガスに乗せて投入し、前記クリプトール粒ベッド部上に存在する溶解原料を溶解させるものであり、前記溶解炉に設けられ前記クリプトール粒ベッド部上に溶解原料を装入する原料装入手段を備え、前記原料装入手段が、外気の混入を遮断した状態での装入を可能とする断続装入式であることが望ましい。このようにすれば、酸素ガスを含む外気がキャリアガス中に混入することが回避される。
【0033】
この場合、前記前記原料装入手段は、蓋が開閉可能に設けられ原料が投入される原料投入シュートと、前記原料投入シュート内部をシュート上部室とシュート下部室とに分割する遮断弁と、前記シュート上部室を排気する排気ポンプと、前記シュート上部室からの排気と前記シュート上部室への循環ガスの導入とを切り替える電磁弁手段とを備えるようにすれば、簡単な構造とすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一の態様のクリプトール炉によれば、クリプトール粒域の均熱性を確保して、溶解原料を効率よく加熱することができる。
【0035】
また、本発明の一の態様の電熱式キューポラシステムによれば、CO2ガスの発生を抑えることが可能である。また、別の態様においては、ガス循環手段を備えることにより、使用したキャリアガスを回収し、再びキャリアガスとして循環使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係る三相クリプトール炉の概略構造を示す断面図である。
【
図3】電極端子部を示し、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【
図4】前記三相クリプトール炉の、電気系の回路図である。
【
図5】三相交流の負荷抵抗の結線形の他の例を示す図である。
【
図6】(a)(b)はそれぞれ二枚の電極端子板に挟まれた状態で扇形状粒域(クリプトール粒域)の抵抗値を計算するための説明図である。
【
図7】クリプトール粒域を鉛直上方から見た図である。
【
図9】1相分のクリプトール粒域の示す模式図である。
【
図10】本発明に係る一実施形態に係る電熱式キューポラシステムの概略構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る一実施形態について説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。下記の実施形態は三相クリプトール炉を例に説明するが、三相以外の複数相のクリプトール炉としてもよく、単相クリプトール炉に本発明を適用することも可能である。
【0038】
<1.クリプトール炉>
図1は、本発明に係る三相クリプトール炉の概略構造を示す断面図、
図2は、
図1のA-A線における断面図である。
【0039】
図1に示すように、三相クリプトール炉1は、円筒形の炉殻2の内部に断熱ボード7A,7B及び炉体耐火物3が設けられ、炉殻2の内側であって炉床に近い部分に3つの給電端子部4が120°間隔で配置されている。
【0040】
炉体耐火物3及び給電端子部4の内側は、クリプトール粒を充填してクリプトール粒域5とされ、それらの上側に、排気筒6が設けられている。排気筒6の内部に断熱ボード7C及び排気筒耐火物8(耐火断熱煉瓦)が設けられ、中央に、溶解原料Mを装入する原料装入口9Aが設けられている。
【0041】
なお、本実施形態では、一例として黒鉛を原料とするクリプトール粒を用いているが、コークスや炭化ケイ素を原料とするクリプトール粒を用いることも可能である。例えば、コークスは黒鉛よりも安価であり、設備が大型化した場合などはコスト面でのメリットが大きい。また、円形状粒域などに炭化ケイ素を用いることで、溶解原料が鉄鋼の場合などに溶鋼への加炭を防ぐことが可能となる。
【0042】
クリプトール粒域5は、鉛直上方から見て、中央の円形状粒域5Aと、その周囲に120°間隔で放射状に設けられ中央に向かって徐々に幅が狭くなる3つの扇形状粒域5Bとを有する。そして、扇形状粒域5Bの間には、扇状の炉体耐火物3がそれぞれ配置され、扇形状粒域5Bの上側にも炉殻2の上端まで炉体耐火物3が設けられている。
【0043】
また、円形状粒域5Aの上方中央に対応して原料装入口9Bが設けられている。原料装入口9Bは、円形状粒域5Aとほぼ同径で、原料装入口9Aより大径となっている。
【0044】
各給電端子部4は、クリプトール粒域5の外周に接触する断面円弧状の電極板10(内径R、高さH、半径角60°)と、一端部が電極板10に結合され他端部が炉殻2の外側に突出している給電ロッド11とを有する。そして、電極板10は、それぞれ、各扇形状粒域5Bの、半径方向外方の端面に対して、端面全体を覆うように設けられ、前記端面全体に接触している。
【0045】
炉体耐火物3及び各給電端子部4の内側は、電極板10の高さとほぼ同じ高さまでクリプトール粒が充填され、クリプトール粒域5となっている。なお、給電ロッド11は、炉殻2に設けた開口に絶縁物14を介して取り付けられている。また、断熱ボード7Aは、半径方向内方に向かって電極板10付近まで延びる厚さを有する。
【0046】
また、クリプトール粒域5の下側に、溶湯受12が設けられている。溶湯受12は、高温耐火物からなり、クリプトール粒域5の中央部分である円形状粒域5Aの下側に配置される皿形状の本体受部12Aと、本体受部12Aより半径方向外方に延び溶融物を外部に排出する樋形状の出湯樋部12Bとを有する。
【0047】
本体受部12Aの周回壁部12Aaに貫通孔12Abが設けられ、その貫通孔12Abを通じて、本体受部12Aの内部と出湯樋部12Bの通路部分とが連通している。本体受部12A内にもクリプトール粒が充填され、円形状粒域5Aの一部となっている。そして、クリプトール粒域5内を滴下してくる溶湯を集めやすいように円形状粒域5Aとほぼ同じ外径を有し、下方に突出する筒状部を含む皿形状となっている。
【0048】
これにより、クリプトール粒域5内を滴下してくる溶湯を本体受部12Aで受け、出湯樋部12Bを介して外部に排出するようになっている。
【0049】
溶湯受12の本体受部12Aを貫通して、黒鉛製のアース電極13が設けられ、三相電流の安定化が図られている。13aはアース電極端子である。
【0050】
各給電端子部4は、
図1及び
図3に示すように、電極板10、給電ロッド11のほか、炉殻2と電極板10との間に、閉空間である空隙部Sを形成する支え枠15と、給電ロッド11に設けられ空隙部Sに熱エネルギーの搬送媒体としてのガス(キャリアガス)を供給するガス通路11aと、電極板10に設けられ空隙部Sからクリプトール粒域5にキャリアガスを供給する複数の小孔10aとを有する。16は給電ケーブルである。
【0051】
各給電端子部4では、給電ロッド11からガス通路11aを通じて支え枠15の空隙部S内にキャリアガスが供給され、そのキャリアガスが、電極板10に設けられた多数の小孔10aより扇形状粒域5Bに供給される。その後、キャリアガスは、中央の円形状粒域5Aに向かって流れて互いに衝突し、それから上方に向かって流れ、排気筒6を通じて排出されるようになっている。
【0052】
このように、クリプトール粒域5を通って溶解原料Mに向かって上方に排出されるようにキャリアガスを、給電ロッド11(ガス通路11a)を用いて供給するキャリアガス供給手段が構成されている。
【0053】
三相クリプトール炉1の回路は
図4に示すように構成され、受電キュビクル21から単相変圧器22を介して各給電端子部4に接続されてなり、三相の低圧大電流の交流電流を炉1に供給すると、内部に充填されたクリプトール粒(クリプトール粒域5)が発熱し、高温が発生する。なお、三相交流の負荷抵抗T1は、スター結線形を用いているが、
図5に示すように、デルタ結線形の負荷抵抗T2とすることも可能である。
【0054】
このような本発明に係る炉は、クリプトール粒領域の容積が、従来の炉(特開昭59-225283号公報参照)に比べて大きくすることができるので、投入された電力が同じであれば、発生する高温体の温度は低くなる。これは、鉄・銅・アルミニウム合金のように融点の低い金属の溶解に適しており、一般の生産炉への適用が容易である。
【0055】
また、生産炉として使用されるものであるから、500kVA以上の大型変圧器を用いるが、クリプトール粒の抵抗値は非常に小さいものであるため、変圧器の二次側出力電圧は小さく、二次電流は大きくなる。二次電流が30kVA以上となると、変圧器の二次側導体の交流インピーダンスを極力小さくする必要があり、二次側導体長をできるだけ小さくしなければならない。そのために、トランスは単相電圧器3台に分けて電極端子部のすぐ近くに配置しているのである。
【0056】
(二枚の電極端子板に挟まれた扇状クリプトール粒域の抵抗値について)
続いて、クリプトール粒域5の電気抵抗について説明する。
図6(a)(b)に示すように、高さHの扇形状粒域51の内側と外側に金属製の電極板52,53を設け、電極板52,53間に交流電圧を印加すると、電極板52,53間に交流電流が流れるが、そのときの電極板52,53間の交流抵抗を求める。扇形状粒域51の中心点Oから半径aの位置にある厚さΔaの弧状部分を想定すると、この弧状部分の抵抗値ΔRは、下記の数式1で表すことができる。
【0057】
【0058】
Δaを極限まで小さくした場合のΔRをdRとすると、下記の数式2のようになる。
【0059】
【0060】
したがって、電極板52,53間の総抵抗Rは、dRをa1からa2まで積分したものであるから、下記の数式3のようになる。
【0061】
【0062】
供給されたキャリアガスはクリプトール粒域5(円形状粒域5A,扇形状粒域5B)で発生したジュール熱を吸収して高温となるが、そのときの温度は次の数式4によって与えられる。
【0063】
【0064】
例えばキャリアガスをArガスとし、それぞれの値をEg=30kW、η=0.8、Vg=60Nm3/h、γg=1.784kg/Nm3、Cp=0.522kJ/kg℃とすれば、下記の数式5となる。
【0065】
【0066】
この高温ガスの保有熱量により、円形状粒域5Aの上部に置かれた被溶融原料の加熱及び溶解が行なわれる。つまり、給電端子部4より供給された不活性ガスが、クリプトール粒域5で発生する熱エネルギーの搬送媒体(キャリアガス)となっている。なお、キャリアガスは原料の加熱及び溶解に使用された後、ガス冷却器や集塵機を経て回収すれば、給電端子部4から供給するキャリアガスとして再使用することができ、非常に経済的である
。
【0067】
(高さHの円形粒域に三相交流電量を流した場合の抵抗値について)
図7に示すように、クリプトール粒域5の円形状粒域5Aの直径をDとすると、他の寸法は次の数式6のようになる。
【0068】
【0069】
r2の値はどのように決めてもよいが、ここでは0.7Dとする。
【0070】
そして、三相炉であるから,3つの電極板10から三相交流電流がクリプトール粒域5の扇形状粒域5B内に流れ込むことになり、このクリプトール粒域5(厚さH)が三相負荷抵抗になる。
【0071】
図8において、R1部、R3部、それらの間のR2部の3つのゾーンを想定する。この3つのゾーンを合わせたものは、太線で囲まれたクリプトール粒域とほとんど重なっている。したがって、R1,R2,R3それぞれのゾーン抵抗値が得られれば、クリプトール粒域の抵抗値Rは,3つの抵抗値を足したもので近似できるので、この3つの抵抗値を求めることにする。そして、R1に、前述した数3の式を適用すると、次の数式7によって表すことができる。
【0072】
【0073】
R3についても同様に表すと、次の数式8のようになる。
【0074】
【0075】
R2の部分については、このままの形状では抵抗値を求めるのは困難なので、0.8L
×0.8Bの長方形のゾーンに置き換えて抵抗値を求める(
図9参照)。
【0076】
【0077】
上式において、θ1=60°=π/3,θ2=90°=π/2であるから、これを代入すると数式10となり、Rを求めることができる。
【0078】
【0079】
この式では、Dの値を含まないことに注目すべきである。円形のクリプトール粒域の直径Dは、炉の大きさを決める基礎となる基準円直径であるが、三相交流負荷抵抗Rは、Dの大きさと無関係に、クリプトール粒域の高さHとクリプトール粒の比抵抗ρによって決まることが分かる。
【0080】
上記炉によれば、中央部のクリプトール粒域を円形にして給電端子部4よりの三相の電極電流が、扇形状粒域5Bを通じて円形状粒域5Aに拡散して流れることによって粒域全体が発熱域となっている。クリプトール粒域5の大きさに見合った電流を供給することによって発生する高温を自由に設定できるため、設備の大きさに限界はなく、いくらでも大形の高温発生炉にすることが可能である。よって、溶融温度が1000℃~1800℃くらいの金属や金属酸化物の生産炉に適している。
【0081】
電極端子として黒鉛電極棒ではなく、断面円弧状の金属製電極板10を用い、その電極板10の内側にクリプトール粒域5(扇形状粒域5B)を設けた構造とすることで、電極板10とクリプトール粒域5(扇形状粒域5B)との接触部の面積を大きくして、その部分に発生する接触抵抗による発熱をできるだけ小さくなるようにしている。給電端子部4の電力損失を小さくすることができ、炉設備の大型化も容易になる。
【0082】
このように給電端子部4があまり高温にならないので、水冷化の必要はなく、キャリアガスによる冷却(空冷)で対応できる。よって、本発明に係る三相クリプトール炉は、次のような効果を発揮する。
【0083】
(i)中央部のクリプトール粒域の均熱性を確保する。
給電端子部4からクリプトール粒域5に向かってArガスやN2ガスのような不活性ガスをキャリアガスとして供給するので、クリプトール粒域5内で発生する局所的な不均一発熱が平準化されて、クリプトール粒域5全体に亘っての均熱性が確保され、溶解原料Mが効率よく加熱される。
【0084】
(ii)クリプトール粒域5への投入電力とキャリアガスのバランスによってキャリアガスの出口温度を自由に変えることができる。クリプトール粒域5に投入された電力は、炉体構造に由来する熱損失を除いてほとんどの熱エネルギーはキャリアガスに吸収される。したがって、投入電力を一定とした場合、ガスの出口温度はガスの流量に反比例して変化するので、ガス流量によってガスの出口温度を自由に制御できる。
【0085】
(iii)燃焼によるCO2ガスが発生しない。
燃焼によるCO2ガスが発生しないので、脱炭素を実現する生産設備となる。従来、生産現場で使用されている竪型の連続溶解炉(例えば、キューポラなど)では高温を得るためにコークス燃焼を利用しているので、CO2ガスが大量に発生するが、本発明に係る電熱式キューポラにすれば、鋳物の生産現場における脱CO2ガス化に大きく貢献することができる。
【0086】
(iv)始動・停止が容易である。
熱源として電力のみを使用しているので、一般の電気炉と同じく炉の始動・停止が容易である。コークス、重油、ガスなどの石化燃料を用いる連続溶解炉は、始動の際、炉況が安定するのに時間がかかる場合が多いが、本発明炉では、始動の際に、始動電流を短時間クリプトール粒域に供給するだけで高温安定状態が得られるので、生産現場における作業性が非常によくなる。
【0087】
<2.電熱式キューポラシステム>
次に、前記した三相クリプトール炉を溶解炉として備える電熱式キューポラシステムについて説明する。
図10は、本発明に係る一実施形態である電熱式キューポラシステムを示す概略図である。
【0088】
図10に示すように、電熱式キューポラシステム100は、溶解炉として前記した
図1に示す三相クリプトール炉1を利用したものである。そして、三相クリプトール炉1の下部には、クリプトール粒ベッド部となるクリプトール粒域5が設けられ、クリプトール粒域5に電熱エネルギーをキャリアガスに乗せて投入し、クリプトール粒域5上に存在する溶解原料Mを溶解させるものである。
【0089】
また、三相クリプトール炉1の上部には、ガスがたまる空間が設けられているとともに、クリプトール粒域5上に溶解原料を装入する原料装入手段103が設けられている。また、三相クリプトール炉1の上部にある空間に循環ガス排出口部112が設けられていて、循環ガス排出口部112から排出されるキャリアガスを回収して循環使用するガス循環手段104が設けられている。
【0090】
このガス循環手段104は、循環ガス排出口部112と給電端子部4とを繋ぐもので、その途中にキャリアガスを循環させるブロワ104aを有し、このブロワ104aの入口側にダストフィルター104bが設けられている。ブロワ104aはモータ104cによって駆動されるルーツブロワで、ダストフィルター104bの上流側にガスクーラー104dが設けられる。
【0091】
ここで、ガス循環手段104のなかで中心となるのはガス循環用のブロワ104aであるが、このブロワとしては、定風量が確保しやすいルーツブロワが、本システムにおいては最適である。しかし、一般的なルーツブロワは割と繊細な構造しており、ダストを多く含むガスをそのまま通過させることができないので、ブロワ104aの入口側にダストフィルター104bが設けられている。
【0092】
ダストフィルター104bの構造材質によっては高温ガスに適用できない場合があるので、三相クリプトール炉1の炉頂から排出されるキャリアガスを、ガスクーラー104dを通過させることで冷却するようにしているのである。ガスクーラーとしては空冷式、水冷式など多種のクーラーがあるが、本システム用として最適なものを選定すればよい。
【0093】
原料装入手段103は、外気の混入を遮断した状態での装入(投入)を可能とする断続装入式である。そして、
図11に示すように、原料装入手段103は、蓋105を有し、炉頂部に設けられた原料投入シュート106と、原料投入シュート内部を、シュート上部室106Aとシュート下部室106Bとに仕切る遮断弁107と、シュート上部室106Aを排気する排気ポンプ108と、シュート上部室106Aからの排気とシュート上部室106Aへの循環ガスの導入とを切り替える電磁弁手段109とを備える。
【0094】
原料投入シュート106は、上部が、原料が投入されるすり鉢状に形成されている一方、下部は円筒状で、その下端部が排気筒6中央の空洞部である原料装入口9A内に挿入されている。なお、蓋105は第1エアシリンダ110Aによって開閉され、遮断弁107は第2エアシリンダ110Bによって開閉される。
【0095】
また、電磁弁手段109は、シュート上部室106Aに排気ポンプ108を接続する第1通路111Aに設けられる第1電磁開閉弁109Aと、循環ガス排出口部112を第1通路111Aに接続する第2通路111Bに設けられる第2電磁開閉弁109Bとを有する。
【0096】
そして、溶解原料を投入する際には,まず、原料投入シュート106の蓋105を開き、遮断弁107を閉じた状態で一定量の原料をシュート上部室106Aに投入する。次いで、蓋105を閉じ、第2電磁弁109Bを閉じ、第1電磁弁109Aを開いてシュート上部室106Aを密閉状態にする。
【0097】
それから、排気ポンプ108を作動させ、シュート上部室106A内にある外気を、例えば100kPaになるまで排出する。その後、第1電磁弁109Aを閉じ、第2電磁弁109Bを開いて、シュート上部室106A内に、循環ガス排出口部112から循環ガスを導入する。そして、遮断弁107を開いて原料を炉内に装入する。
【0098】
このような一連の操作を、一定間隔をおいて断続的に繰り返し、外気の混入を防止しながら、原料を炉内に断続的に装入する。つまり、外気の混入を遮断した状態での装入を可能とする断続装入式となっている。
【0099】
三相クリプトール炉1は、
図1に示すように、円筒形の炉殻2の内部に断熱ボード7A,7B及び炉体耐火物3が設けられ、炉殻2の内側であって炉床に近い部分に3つの給電端子部4が120°間隔で配置されている。
【0100】
炉体耐火物3及び給電端子部4の内側は、クリプトール粒が充填されてクリプトール粒ベッド部となるクリプトール粒域5が構成され、それらの上側に、排気筒6が設けられている。排気筒6の内部に断熱ボード7C及び排気筒耐火物8(耐火断熱煉瓦)が設けられ、中央に、溶解原料Mを装入する原料装入口9Aが設けられている。
【0101】
クリプトール粒域5は、
図2に示すように、鉛直上方から見て、中央の円形状粒域5Aと、その周囲に120°間隔で放射状に設けられ中央に向かって徐々に幅が狭くなる3つの扇形状粒域5Bとを有する。そして、扇形状粒域5Bの間には、扇状の炉体耐火物3がそれぞれ配置され、扇形状粒域5Bの上側にも炉殻2の上端まで炉体耐火物3が設けられている。
【0102】
また、円形状粒域5Aの上方中央に対応して原料装入口9Bが設けられている。原料装入口9Bは、円形状粒域5Aとほぼ同径で、原料装入口9Aより大径となっている。
【0103】
各給電端子部4は、クリプトール粒域5の外周に接触する断面円弧状の電極板10(内径R、高さH、半径角60°)と、一端部が電極板10に結合され他端部が炉殻2の外側に突出している給電ロッド11とを有する。そして、電極板10は、それぞれ、各扇形状粒域5Bの、半径方向外方の端面に対して、端面全体を覆うように設けられ、前記端面全体に接触している。
【0104】
炉体耐火物3及び各給電端子部4の内側は、電極板10の高さとほぼ同じ高さまでクリプトール粒が充填され、クリプトール粒ベッド部であるクリプトール粒域5となっている。なお、給電ロッド11は、炉殻2に設けた開口に絶縁物14を介して取り付けられている。また、断熱ボード7Aは、半径方向内方に向かって電極板10付近まで延びる厚さを有する。
【0105】
また、クリプトール粒域5の下側に、溶湯受12が設けられている。溶湯受12は、高温耐火物からなり、クリプトール粒域5の中央部分である円形状粒域5Aの下側に配置される皿形状の本体受部12Aと、本体受部12Aより半径方向外方に延び溶融物を外部に排出する樋形状の出湯樋部12Bとを有する。
【0106】
本体受部12Aの周回壁部12Aaに貫通孔12Abが設けられ、その貫通孔12Abを通じて、本体受部12Aの内部と出湯樋部12Bの通路部分とが連通している。本体受部12A内にもクリプトール粒が充填され、円形状粒域5Aの一部となっている。そして、クリプトール粒域5内を滴下してくる溶湯を集めやすいように円形状粒域5Aとほぼ同じ外径を有し、下方に突出する筒状部を含む皿形状となっている。
【0107】
これにより、クリプトール粒域5内を滴下してくる溶湯を本体受部12Aで受け、出湯樋部12Bを介して外部に排出するようになっている。
【0108】
溶湯受12の本体受部12Aを貫通して、黒鉛製のアース電極13が設けられ、三相電流の安定化が図られている。13aはアース電極端子、16は給電ケーブルである。
【0109】
各給電端子部4は、
図3に示すように、電極板10、給電ロッド11のほか、炉殻2と電極板10との間に、閉空間である空隙部Sを形成する支え枠15と、給電ロッド11に設けられ空隙部Sに熱エネルギーの搬送媒体としてのキャリアガスを供給するガス通路11aと、電極板10に設けられ空隙部Sからクリプトール粒域5にキャリアガスを供給する複数の小孔10aとを有する。
【0110】
各給電端子部4では、給電ロッド11からガス通路11aを通じて支え枠15の空隙部S内にキャリアガスが供給され、そのキャリアガスが、電極板10に設けられた多数の小孔10aより扇形状粒域5Bに供給される。その後、キャリアガスは、中央の円形状粒域5Aに向かって流れて互いに衝突し、それから上方に向かって流れ、排気筒6を通じて排出されるようになっている。
【0111】
このように、クリプトール粒域5を通って溶解原料Mに向かって上方に排出されるようにキャリアガスを、給電ロッド11(ガス通路11a)を用いて供給するキャリアガス供給手段が構成されている。
【0112】
ここで、電熱式キューポラの内部で電気エネルギーを熱エネルギー変換する方式として、カーボン系クリプトール粒の接触抵抗を利用しているが、この熱エネルギーを原料装入するための搬送媒体として用いるキャリアガスは、カーボン系クリプトール粒を消化させないため、非酸化性のガスを含まないことが絶対に必要である。また、キャリアガスは千数百度の高温において分解したりイオン化したりしないような高温安定性を持つことも必要である。
【0113】
これらの要件を満たすガスとしては、例えば、Arガス又はN2ガスが用いられる。これらのガスは通常の生産現場において容易に入手できるものでキャリアガスとしては最適であるが、価格が比較的高価であるため、システム内で循環使用することとし、キャリアガス供給手段を設けている。
【0114】
また、三相クリプトール炉1は、
図10に示すように、受電キュビクル121から単相変圧器122を介して各給電端子部4に接続されてなり、三相の低圧大電流の交流電流を炉1に供給すると、内部に充填されたクリプトール粒(クリプトール粒域5)が発熱し、高温が発生する。なお、三相交流の負荷抵抗は、スター結線形を用いているが、デルタ結線形とすることも可能である。
【0115】
このような三相クリプトール炉1は、クリプトール粒領域の容積が、従来の炉(特開昭59-225283号公報参照)に比べて大きくすることができるので、投入された電力が同じであれば、発生する高温体の温度は低くなる。これは、鉄・銅・アルミニウム合金のように融点の低い金属の溶解に適しており、一般の生産炉への適用が容易である。
【0116】
また、生産炉として使用されるものであるから、500kVA以上の大型変圧器を用いるが、クリプトール粒の抵抗値は非常に小さいものであるため、変圧器の二次側出力電圧は小さく、二次電流は大きくなる。二次電流が30kVA以上となると、変圧器の二次側導体の交流インピーダンスを極力小さくする必要があり、二次側導体長をできるだけ小さくしなければならない。そのために、トランスは単相電圧器3台に分けて給電端子部4のすぐ近くに配置しているのである。
【0117】
そして、炉殻2の中央部分を円形にして給電端子部4よりの三相の電極電流が、扇形状粒域5Bを通じて円形状粒域5Aに拡散して流れることによって粒域部全体が発熱域となっている。クリプトール粒域5の大きさに見合った電流を供給することによって発生する高温を自由に設定できるため、設備の大きさに限界はなく、いくらでも大形の高温発生炉にすることが可能である。よって、溶融温度が1000℃~1800℃くらいの金属や金属酸化物の生産炉に適している。
【0118】
電極端子として黒鉛電極棒ではなく、断面円弧状の金属製電極板10を用い、その電極板10の内側にクリプトール粒域5(扇形状粒域部5B)を設けた構造とすることで、電極板10とクリプトール粒域(扇形状粒域部5B)との接触部の面積を大きくして、その部分に発生する接触抵抗による発熱をできるだけ小さくなるようにしている。給電端子部4の電力損失を小さくすることができ、炉設備の大型化も容易になる。
【0119】
このように給電端子部4があまり高温にならないので、水冷化の必要はなく、キャリアガスによる冷却(空冷)で対応できる。よって、このような三相クリプトール炉1は、
(i)中央部のクリプトール粒域の均熱性を確保できる。つまり、給電端子部4からクリプトール粒域5に向かってArガスやN2ガスのような不活性ガスをキャリアガスとして供給するので、クリプトール粒域5内で発生する局所的な不均一発熱が平準化されて、クリプトール粒域5全体に亘っての均熱性が確保され、溶解原料Mが効率よく加熱される。
【0120】
(ii)クリプトール粒域5への投入電力とキャリアガスのバランスによってキャリアガスの出口温度を自由に変えることができる。即ち、クリプトール粒域5に投入された電力は、炉体構造に由来する熱損失を除いてほとんどの熱エネルギーはキャリアガスに吸収される。したがって、投入電力を一定とした場合、ガスの出口温度はガスの流量に反比例して変化するので、ガス流量によってガスの出口温度を自由に制御できる。
【0121】
(iii)燃焼によるCO2ガスが発生しないので、脱炭素を実現する生産設備となる。従来、生産現場で使用されている竪型の連続溶解炉(例えば、キューポラなど)では高温を得るためにコークス燃焼を利用しているので、CO2ガスが大量に発生するが、本発明に係る電熱式キューポラにすれば、鋳物の生産現場における脱CO2ガス化に大きく貢献することができる。
【0122】
以上のように構成すれば、溶解に使用する原料が銑鉄や鋳鉄の戻り屑のように、炭素含有量の高い材料のみを使用する場合は、原理的にCO2ガスを発生しない。
【0123】
ただ、原料コスト削減のため鉄屑を使用する場合は、加炭材として原料の中にコークスを使用しなければならず、そのコークスの一部が原料の中に含まれる酸化鉄の酸素と結合してCO2ガスが発生し、キャリアガスの中に混入する。しかし、その割合は従来型のキューポラに比べると非常に小さいので、ガス循環手段中にCO2ガス除去装置を設けることで解決できる。
【0124】
電熱式キューポラでは、投入電力とキャリアガス流量とのバランスによって、溶解温度をある範囲内で自由に制御できる。
【0125】
電熱式キューポラも電気炉の一種である。よって全ての電気炉の特徴である炉の始動・停止が容易であるし、炉の運転時間の長短も自由に設定できる。
【0126】
キューポラ内部で電気エネルギーを熱エネルギー変換する方式として、三相クリプトール炉(特願2022-180233号参照)の原理を採用しているが、この原理の適用は炉の大きさとは無関係である。よって,電熱式キューポラに適用する場合も、設備の大小にかかわらず、どのようなサイズの炉にも実施することができる。
【0127】
<3.その他の実施形態>
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更が可能である。
【0128】
上記した実施形態では、キャリアガスとして不活性ガスのArガス又はN2ガスを用いていたが、これ以外の不活性ガスや還元性ガスを用いることもできる。H2ガスのような還元性ガスを用いることで、溶解原料が鉄鉱石のような金属酸化物の場合に、原料の還元溶融を行うことも可能である。なお、キャリアガスとしては、酸化性ガス以外のガス、非酸化性ガスであれば利用できると考えられる。
【0129】
また、上記した実施形態では、一例として黒鉛を原料とするクリプトール粒を用いたが、コークスや炭化ケイ素を原料とするクリプトール粒を用いることも可能である。例えば、クリプトール粒域5において、円形状粒域5Aに、コークスからなるクリプトール粒が含まれ、扇形状粒域5Bに、黒鉛からなるクリプトール粒が含まれるようにできる。コークスは黒鉛よりも安価であり、設備が大型化した場合などはコスト面でのメリットが大きい。また、円形状粒域部などに炭化ケイ素を用いることで、溶解原料が鉄鋼の場合などに溶鋼への加炭を防ぐことが可能となる。したがって、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
1 三相クリプトール炉
2 炉殻
3 炉体耐火物
4 給電端子部
5 クリプトール粒域
5A 円形状粒域
5B 扇形状粒域
6 排気筒
7A,7B 断熱ボード
8 排気筒耐火物
9A,9B 原料装入口
10 電極板
10a 小孔
11 給電ロッド
11a ガス通路
12 溶湯受
12A 本体受部
12Aa 周回壁部
12Ab 貫通孔
12B 出湯樋部
13 アース電極
13a アース電極端子
14 絶縁物
15 支え枠
16 給電ケーブル
100 電熱式キューポラシステム
103 原料装入手段
104 ガス循環手段
104a ブロワ
104b ダストフィルター
104c モータ
104d ガスクーラー
105 蓋
106 原料投入シュート
106A シュート上部室
106B シュート下部室
107 遮断弁
108 排気ポンプ
109 電磁弁手段
110A,110B エアシリンダ
111A,111B 通路
112 循環ガス排出口部
M 溶解原料
S 空隙部
【要約】
【課題】 クリプトール粒域の均熱性を確保する。
【解決手段】 円筒形の炉殻2の内部に炉体耐火物3を設け、3つの給電端子部4を炉殻2の内側に120°間隔で配置し、炉体耐火物3及び給電端子部4の内側にクリプトール粒を充填してクリプトール粒域5とする。クリプトール粒域5の中央上方から、溶解原料Mを装入する。給電端子部4は、クリプトール粒域5の外周に接触する断面円弧状の電極板10と、一端部が電極板10に結合され他端部が炉殻2の外側に突出している給電ロッド11とを有する。さらに、クリプトール粒域5を通って溶解原料Mに向かって上方に排出されるようにキャリアガスを、給電ロッド11を用いて供給するキャリガス供給手段が設けられている。
【選択図】
図1