(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】結露のない超省エネ遮熱構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
E04B1/76 100D
E04B1/76 200B
E04B1/76 200D
(21)【出願番号】P 2024014119
(22)【出願日】2024-02-01
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512043360
【氏名又は名称】日本遮熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】野口 修平
(72)【発明者】
【氏名】野口 彩乃
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特許第7408204(JP,B1)
【文献】特許第5777079(JP,B1)
【文献】特開2007-231716(JP,A)
【文献】実開平01-138092(JP,U)
【文献】特開2010-144449(JP,A)
【文献】特開平11-216795(JP,A)
【文献】特開2014-148888(JP,A)
【文献】特開2007-170158(JP,A)
【文献】特開2010-222779(JP,A)
【文献】特許第2980883(JP,B2)
【文献】実開昭57-001216(JP,U)
【文献】特開平02-093228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/74 - 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装部材と、前記外装部材の内側に構築された内装部材と、前記外装部材と前記内装部材との間に形成された通気層と、を有する住宅建物に構築され、結露を防止する省エネ遮熱構造であって、
前記通気層内の前記外装部材の内側にアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の第一素材が設けられ、部屋を構成する内装部材の室内側
に直接かつ前記室内側の大気に面してアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の第二素材が設けられ、前記室内の床にアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の第三素材が設けられ、
前記通気層が、前記アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の第一素材の放射側に形成され、外気を前記通気層の吸気口から取り入れ、前記通気層の排出口から排出し、
前記通気層の吸気口や前記通気層の排出口に、形状記憶合金で構成されたスプリングを利用した開閉装置が設けられ、前記スプリングを前記外装部材の外部に露出して設け、前記開閉装置は、前記スプリングが外気温を感知することで開閉し、前記通気層を流れる空気の通気量が調整されることで、前記住宅建物内で発生する結露を防止する、
ことを特徴とする省エネ遮熱構造。
【請求項2】
前記外装部材と前記内装部材との間に合板が設けられ、前記合板の一方側は前記通気層に面し、前記合板の他方側にはビニールが設けられ、
前記室内の壁の結露及び壁内結露が発生することを防止する、
ことを特徴とする請求項1に記載の省エネ遮熱構造。
【請求項3】
屋根材と屋根下地材の間、二重屋根の間、二重に施工した野地板の間、前記外装部材と構造用合板の間、屋根や前記外装部材の室内側に、他の通気層が構築されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の省エネ遮熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根や外壁等外装材の室内側、及び大気側に面した内装材の表面の2カ所に遮熱材を施工し、断熱材を使用しなくても夏は涼しく、冬は暖かい環境を得る事ができる省エネ遮熱構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の外装材と内装材の間に、遮熱材を施工した遮熱工法は従来から施工されている(例えば、特許文献1)。また、建物の屋根や壁面の外側に、遮熱材を施工する遮熱工法も従来から施工されている。
【0003】
特許文献1に記載の省エネ構造は、外側部材と、外側部材の内側に設けられた内側部材と、外側部材と内側部材との間に形成された通気層とを有する二重の外装構造を有し、外側部材と内側部材との間に、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が設けられ、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の室内側に通気層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建物の外装材と内装材の間に、遮熱材を施工した遮熱工法は従来から施工されている。建物を出入する熱は、夏は屋外側から室内側に、冬は室内側から屋外側に移動する。即ち、熱移動は夏と冬で逆転する。又、全米の多くの機関から、建物を移動する熱の割合は輻射熱が75%、伝導熱が5%から7%、対流熱が18%から20%と報告されている。更に、輻射熱を阻止するには、反射率が高い遮熱材が有効であることは周知の事実である。従って、建物の断熱を考えるのであれば遮熱材が有効であり、年間を通して効果を発揮するには外装材と内装材の間に遮熱材を設ける事が良い方法と考えられてきた。
【0006】
遮熱材の性能は、反射率+放射率=100%で表示される。仮に、95%の反射率の遮熱材を使用すれば、放射率即ち阻止できない熱は僅か5%であるから微々たるものと考えられる。ところが、放射量は絶対温度の4乗に比例して増加するので、壁内という狭小空間では忽ち熱がこもる事になる。その結果、放射率は増加、逆に反射率は低下し壁内の断熱性能は低下する。更に、現在の建物は結露防止のため通気工法が義務化され、冬場の室内の熱は15%から50%排出されてしまうという報告もある。従って、冬は寒く、省エネ効果は非常に低い住宅と言わざるを得ない。
【0007】
一方、建物の屋根や壁面の外側に、遮熱材を施工する遮熱工法も従来から採用されている。建物の屋外側に遮熱材を施工するので、この工法は輻射熱の反射を利用する工法である。遮熱材は、アルミホイルを使用したものが多く、表面はピカピカしている鏡面である。これを屋外で使用すると、正しく太陽光が鏡に反射する様に広域に光を反射、人間の目を傷める原因となる。又、災害時救助に当たるヘリコプター等航空機に大きな障害となる事は言うまでもいない。
【0008】
現在、屋外で使用する遮熱材には、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の表面に輻射熱を良く透過する高透過樹脂層を着色し、乱反射層を形成してこれに対応している。しかしながら、この高透過樹脂層を形成することにより、反射率は5%から10%低下する。更に、前述同様遮熱材の放射側に伝達された熱が蓄熱すると、結果的に反射率も低下する。その結果、伝達熱の阻止率は30%程度になってしまう。又、今後建物の屋根には太陽光発電パネルを設置することが義務化される可能性が高い。太陽光発電パネルは、取り付けると20年間は設置しておく必要があり、耐久性能が短い工法は使用する事が難しくなる。
【0009】
そこで、本発明は、住宅建物の室内が、夏は涼しく、冬は暖かい環境を得る事ができる省エネ遮熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、外装部材と、外装部材の内側に構築された内装部材と、外装部材と内装部材との間に形成された通気層と、を有する住宅建物に構築され、結露を防止する。そして、この省エネ遮熱構造は、通気層内の外装部材の内側に第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が設けられ、部屋を構成する内装部材の室内側に第二アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、通気層が第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の放射側に形成され、通気層の吸気口から外気を取り入れ、通気層の排出口から排出することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、通気層の吸気口や通気層の排気口に、形状記憶合金を利用した開閉装置が設けられ、開閉装置は形状記憶合金が外気温を感知することで開閉し、通気層を流れる空気の通気量が調整されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、屋根材と屋根下地材の間、二重屋根の間、二重に施工した野地板の間、外壁と構造用合板の間、屋根や外壁の室内側に他の通気層が構築されていることを特徴とする請求項1に記載の省エネ遮熱構造。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、グラスウール等の断熱材を全く必要としない工法で構築することができ、壁の結露も壁内結露の発生を防止できる。そのため、住宅建物に本発明に係る省エネ遮熱構造を構築することで、人にも建物にも優しい環境となる。
【0015】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、建物の屋根や外装材の内側(室内側)に第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材及び部屋を構成する内装部材の室内側に第二アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材が設けることで、断熱材は全く使わなくても夏は涼しく冬は暖かい環境を得る事ができる。勿論、表面結露や壁内結露の発生が無く、しかもこの省エネ遮熱構造(システム)を維持するためには、空気、遮熱材、形状記憶合金で電気等のエネルギーを全く必要としないゼロエネルギーシステムである。
【0016】
本発明に係る省エネ遮熱構造は、夏場、室内の涼しさを維持できるため、エアコンの使用量が大幅に減少し、冷房病の方や冷え性の方には非常に住みやすい環境を提供することができる。また、本発明に係る省エネ遮熱構造は、住宅の建物全体が輻射熱を阻止していて、各部屋間の温度差が非常に小さくなり、脳卒中等の病気の削減につながる可能性がある。さらに、本発明に係る省エネ遮熱構造は、僅か数分で冷暖房効果が発揮されるため、無駄な電気代が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造を住宅建物の外壁に形成した際の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造の拡大図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造を屋根に形成した際の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造の開閉装置の形状記憶合金で構成される開閉部を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造の開閉装置の開閉を説明するための図である。(a)は閉状態を示し、(b)は開状態を示している。
【
図7】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造を屋根に形成した例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る省エネ遮熱構造に係る試験の測定位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係る結露のない超省エネ遮熱構造(以下、省エネ遮熱構造と記す。)を、
図1から
図5を参照し説明する。
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
住宅建物の断熱には、ガラス繊維を使用したグラスウール断熱材が多く使用されてきた。しかし、断熱材は蓄熱材であるから、寒さには効果的であるものの暑さ対策には効果を発揮できない。地球温暖化が急速に進む現在、住宅の夏場の暑さ対策が喫緊の課題である。
【0020】
住宅建物では、外装材と構造用合板等の間の通気層に空気を流す通気工法という工法が採用されている。夏場、屋外からの熱の多くは外装材に吸収されるが、その多くは通気層の空気に伝達され対流熱の形態をとって屋外に排出される。従って、室内側に伝達される熱量は大幅に削減され、室内環境は向上する。一方、冬場、室内の熱は屋外に向かって移動するが、その経路は内装クロス、石膏ボード、断熱材、透湿防水紙、通気層である。この時、透湿防水紙に伝達又は透過した熱は、通気層を通って屋外に放出されるが、同時に室内の湿気も排出される事になる。この放出される熱量は、室内暖房の15%から50%にもなると報告されている。従って、冬場の室内から放出される熱を如何に少なくするかも重要な問題である。
【0021】
エアコン等の冷暖房機器は、年々性能が向上していて省エネ効果は大きくなっている。しかしながら、本来はエアコン使用しなくても住める環境が好ましく、先ずは住宅建物に侵入する熱を削減する事が求められる。
【0022】
温暖化が急速に進み、電気は自然エネルギーを利用した地産地消の方向にある。中でも、太陽光発電パネルを屋根に取り付けることは喫緊の課題で有ると考えられる。太陽光発電パネルを、屋根に設置すると日蔭効果で省エネ効果が大きいと言われているが、これは間違いである。確かに、太陽光発電パネルを屋根に設置し、屋外側から見ると確かに日蔭になっている。当然、室内の屋根の下側は低温になる筈である。即ち、太陽光パネルの設置の有無により、屋根の下側に温度ムラが発生する。そうすると、熱は熱い方から冷たい方に移動の原則で、高温の屋根の下の空気は低温の屋根側に移動し、結果的に同じ温度になろうとする。太陽光発電パネルを設置したから涼しくなったと言う話はあまり聞かないのはこの為である。
【0023】
本発明に係る省エネ遮熱構造1は、
図1に示すように、外装部材2と、外装部材2の内側に構築された内装部材3と、外装部材2と内装部材3との間に形成された通気層4と、を有する住宅建物100に構築される。通気層4内の外装部材2の内側に第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6A(以下、第一高反射率素材6Aとも記す。)が設けられ、部屋3Aを構成する内装部材3の室内側に第二アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6B(以下、第二高反射率素材6Bとも記す。)が設けられている。この第二高反射率素材6Bは、少なくても部屋3Aの室内側(大気側)に位置する天井及び壁等の表面に設けられている。なお、外装部材2と内装部材3との間には断熱材は設けられていない。また、
図2及び
図3に示すように、内装部材3の外側には防水紙(防水層)8が設けられ、この防水紙8の外側に構造用合板7が設けられている。また、屋根材9の上には、棟換気材20が形成されている(
図1及び
図4)。
【0024】
本発明の超省エネ遮熱構造1では、外装部材2と内装部材3において、2つのアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6A,6B(6C)を取り付ける。また、本発明の超省エネ遮熱構造1では、屋根材9と内装部材3において、2つのアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6D,6B(C)を取り付ける。
【0025】
1つ目は、屋根9や外壁である外装部材2の内側であり、極力熱の影響を受け易い屋外側が好ましいが、屋根材9は屋根下地材に載せる様に設置する場合が殆どで、通気層4を作れる環境は極めて難しい。しかも、ここで言う通気層とは、原則、屋根材は軒から棟へ、外壁材は基礎部分から軒裏へ直線的に空気が流れる事が好ましい。従って、屋根材と屋根下地材の間の場合、屋根材を屋根下地材から浮かす必要があり屋根材取付け用の桟等の工夫が必要である。又、屋根材を浮かすと台風等の風から大きな浮力が加わるので、軒部から通気層4への空気流入口の大きさも工夫する必要がある。二重屋根は、瓦棒葺きとか縦葺等金属屋根を二重にするもので、屋根材が平板なので軽量で施工が極めて楽な工法である。寒冷地などでは、積雪の関係で瓦棒葺きが多く見受けられるが、本工法は保温性能が格段に上がるので室内の温度環境は大幅に向上する。屋根材と屋根下地材で通気層4を作ることができない場合は、屋根材を載せている屋根下地材を垂木などで二重にして通気層4を作る事でも問題は無い。外観は従来型とほぼ同じであるから、住宅などでは比較的取り組みやすい工法と言える。ただ、合板の間を空気が流れるので、風雨に対する対策が必要である。例えば、通気層4の下側合板には防水シートを施工する事、軒部の空気取り入れ口には風を遮る破風を取り付ける事、棟の排気部の風雨対策等は少なくても施工する必要がある。
この様にして作成した通気層4内に、第一高反射率素材6Aを取り付けるもので、これが1つ目で有る。
【0026】
2つ目の第二高反射率素材6Bは、部屋3Aの室内側に取り付ける。即ち、一般に施工されているビニールクロス等の代替品として使用する。後述するが、ここで使用するのは遮熱材の性能は落とさず、外観は現行のビニールクロスに似た遮熱クロスである。第二高反射率素材6Bを部屋3Aの室内側に取り付けるのは結露対策が大きな目的の一つであるから、第二高反射率素材6Bの施工位置は、少なくとも部屋3Aの室内の大気側に面する天井や壁面に施工する必要がある。とは言え、あくまでも内装材であるから、間仕切り壁等も含む各室内全体を施工する事が好ましい。
【0027】
床は、水平であるため基本的に通気層は作成しにくい事、室内への熱移動は伝導熱が多くその量が少ない事が特徴である。そこで、根太の下側全面に第三アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(第三高反射率素材)6Cを施工している。これによって、通気は出来無いが保温性の高い空気層が構築できる。更に、室内側から床に第三高反射率素材6Cを敷きこんでいる。勿論、人間が歩くので破損しやすい為、じゅうたんや人工芝等第三高反射率素材6Cを上に敷いて保護する。
【0028】
本発明の省エネ遮熱構造1は、通気層4が、第一高反射率素材6Aの放射側に形成され、通気層4の吸気口から外気を取り入れ、その外気は通気層4の排出口から排出される。
【0029】
遮熱材の性能は、反射率+放射率=100%となる。しかし、これはあくまで遮熱材の両面に反射空間があり、しかもその空間が大きい場合に成り立つ。又、放射量は絶対温度の4乗に比例すると言うステファンボルツマンの法則がある。これは、高反射率素材6A,6Bの放射側の温度が上昇すると、放射量が一気に増加することを意味する。一般的には、狭小空間が問題になるが、住宅建物100を構成する外装部材2と内装部材3との空間も狭く、この原理が反映される。この対応策は、放射側が昇温しない環境である事、或いは大空間に接している事である。住宅建物100では、夏の屋外からの輻射熱の影響が大きいので、本発明の省エネ遮熱構造1では、室内側を放射側と考えている。従って、原則、通気層4内に第一高反射率素材6Aを取り付けるが、その放射側である室内側に通気層4を設けている。通気層4は、下部の吸気口から外気を流入させ、その外気を上部の排出口から排出する自然対流方式で、余分な装置や電力等を必要としないのも大きな特徴である。
【0030】
一方、内装部材3の表面に設けられた第二高反射率素材6Bは、部屋3Aの室内という大きな空間に接しているので放射側が昇温する可能性は非常に低い。又、この空間はエアコン等の使用が可能なので、敢えてそれ以上の事をする必要はない。
【0031】
通気層4を流れる空気は、層流が好ましい。
図4に示すように、屋根9に通気層4を形成した場合は、屋根の形状や大きさ等で条件は変わるが、概ね30mmから100mm位の空間を設けることが好ましい。屋根9は、空気が浮力で上昇するので比較的層流ができやすいが、壁は胴縁等が有り乱流となりやすい。従って、胴縁が鉛直方向に取り付けられる横張サイデイング等を使用する事が好ましいが、難しい場合は胴縁に代わる空気の流れやすい部材を選んで使用する事が大切である。第四高反射率素材6Dが通気層4の間に配置される場合は、放射側だけでなく反射側にも通気層が出来る。この場合は、その両方を一緒に排出しても全く問題は無い。
【0032】
本発明に係る省エネ遮熱構造1は、通気層4の吸気口や通気層4の排気口に、形状記憶合金を利用した開閉装置5が設けられ、開閉装置5は形状記憶合金が外気温を感知することで開閉し、通気層4を流れる空気の通気量が調整される。
【0033】
本発明で使用する開閉装置5は、形状記憶合金を利用したスライド型の装置である。この開閉装置5は、
図5に示すように、基部10に四角形の複数の開口部11を有する2枚の長方形の金属板(スライド部材)12を重ね、そのうちの1枚の金属板12を形状記憶合金製のスプリング13が温度を感知して伸び縮みすることで、開口部11を開閉させるものである。
【0034】
具体的には、
図6(a)に示すように、冷えるとスプリング13が伸び、左右方向Xの右方に金属板12が移動し、開口部11は金属板12によって閉じられ、閉状態となる。一方、
図6(b)に示すように、所定の温度まで温まるとスプリング13が縮むため、左右方向Xの左方に金属板12が移動し、開口部11が開き、開状態となる。この性質を利用し、貫通孔11を開閉し、空気の出入りが調整される。
【0035】
屋根9や外壁2に通気層4を設けると、夏場の冷房効果は大きく省エネ効果は大きいが、冬場は逆に暖房効果を低減させ、結果的に省エネ効果はマイナスとなる。この冬場のマイナス効果を低減するのが形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5である。この開閉装置5で、通気層4の吸気口及び排出口を閉鎖する事により、通気層4内に静止空気層を形成し、住宅建物100を保温する事が出来る。
【0036】
現在使用している形状記憶合金は、18℃で全閉(閉状態)、28℃で全開(開状態)とする事が出来る。この開閉温度は、形状記憶合金の種類によって変更することができ、上記の温度に拘る必要はない。開閉装置5の開閉温度は、何処の温度を感知して作動させるかは非常に重要で、本発明に係る省エネ遮熱構造1では、形状記憶合金製のスプリング13が外気側に取りつけられているのが特徴である。仮に、形状記憶合金製のスプリング13が通気層4内にあるとする。真冬0℃の昼間に太陽光が屋根や外壁に当たり加熱すると通気層4内の温度が18℃以上に上昇し形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5が開状態となる。この結果、通気層4内の空気は流れ始めるが、室温は概ね22℃位なので室内の熱は継続的に通気層4に流れ込み、形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5は開状態が継続され、結果的に省エネ効果は少なくなる。形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5のもう一つの利点は、スプリング13が外気温を感知して作動するので電源は必要とせず、コントロール装置などを必要としないゼロエネルギーシステムを構築できることである。
【0037】
屋根9における開閉装置5の施工場所は、棟と軒の2カ所が好ましいが、場合によっては上部の棟部だけでも大きな効果は得られる。屋根9に1か所設置した場合、冬場に開閉装置5が閉状態になっていても、軒部から通気層4内へ風の吹き込みがある。その為、破風の意味も兼ねて軒部に下側を20mmから30mmカットした面戸を取付けている。この様にすると、風を遮る事が出来、比較的保温性が高まる。外壁における開閉装置5の施工場所は、風雨の影響を比較的受けにくい下側は基礎部分、上部は軒天の下側が好ましい。ただし、費用の関係で開閉装置5を1か所に設置したい場合、必ず軒部に取りつける。基礎部であると、通気層4内の熱が排出されてしまう為である。切妻屋根に設置する場合は、屋根の形状に沿って軒天の下側に取り付ければ良い。本発明では、形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5を使用しているが、外気温を感知して通気層4が開閉できれば良いので、回転羽式等形状や方法は問わない。
【0038】
高反射率素材6A,6Bは、その用途により種々の素材と組み合わされ遮熱材として使用され、その構成も種々ある。先ず最も重要なものはアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材で、本発明では反射率を高める為純度99.5%以上のアルミホイルを使用している。これにより、反射率98%位迄高める事が出来る。ただし、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材は7μmから30μmと薄いので、一般的には不織布やガラスクロス等とポリエステル素材等で熱溶着し強度を増して使用する。
又、アルミホイルは、金属と接触して使用すると電食が起こったり、酸やアルカリに弱い為、海の近くで使用すると腐食する可能性が高い。そこで、アルミホイルの表面に、輻射熱を良く透過する高透過樹脂の薄膜、所謂電食防止層が形成されている。
【0039】
屋根材9や外装部材2の室内側に使用する1つ目の高反射率素材6Aは、通常屋根材や外壁材に接着剤等で直接貼り付ける(直貼りする)ものが多い。この場合、一般的には、ガラスクロス+熱溶着層+アルミホイル+電食防止層で構成される片面アルミホイルのものが使われている。一方、現場施工や少量施工の場合は、両面テープを使用するので両面アルミホイルのもが使用される。この場合は、電食防止層+アルミホイル+熱溶着層+ガラスクロス+熱溶着層+アルミホイル+電食防止層等7層構造の遮熱材が使用されている。
何れの場合でも、放射性能を利用するので効果は同じである。
【0040】
部屋3Aの室内のビニールクロスの代替品として使用する第二高反射率素材6Bは、アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の表面に高透過樹脂を着色し乱反射構造にした物を使用する。見た目はビニールクロスと同等であるが、性能は遮熱材そのもので遮熱クロスとして使用している。勿論、高透過樹脂層があるので反射率は90%前後になるが、それでも現在のビニールクロス等と比較すると大きな違いである。部屋3Aの室内の施工は主として、既存のビニールクロスと同等の接着剤で可能であり、取付け方法も同じである。
【0041】
新築の住宅建物100では、
図7に示すように、金属の屋根材9の上に棟換気材20が取り付けられ、その上に棟包み部材21を設けられ、屋根材9と野地板22との間に通気層4が形成されている。この棟包み部材21と金属屋根材9との間に、形状記憶合金を利用した開閉装置5が設けられる。通気層4を流れる空気は、棟換気材20、開閉装置5を通過し、外部に排出される。棟換気材20を取り付けることで、湿気や熱を効率良く排出することができる。
【0042】
本発明に係る省エネ遮熱構造1を詳しく説明する。
【0043】
一般的に住宅建物は、ガラス繊維を使用したグラスウール断熱材等が多く使用されてきた。しかし、断熱材は蓄熱材であるから、寒さ対策には効果的であるものの暑さ対策には余り好ましくない。又住宅建物では、外装材の室内側に空気を流す通気工法という工法を採用されている。通気工法は、夏場の暑さ対策には効果的であるが、冬場は室内の熱を排出してしまい熱効率も悪く、寒い室内環境になっている事は否めない事実である。この工法を採用している理由は壁内結露対策で、室内の湿気を屋外に排出する事にある。本発明は、夏は暑く冬は寒い住宅を、逆に夏は涼しく冬は暖かい環境にする事、更に結露の発生しない構造にする事が目的である。
【0044】
本発明に係る省エネ遮熱構造1における屋根9や壁の外装部材2の室内側(内側)には、第一高反射率素材6Aが取り付けられている。又、この第一高反射率素材6の室内側には外気が流れる通気層4が設けられている。夏場、住宅建物に最も大きな熱を与える輻射熱は、屋根材や外壁材に吸収され室内側に伝達される。しかし、本発明の省エネ遮熱構造1を構築した住宅建物100では、屋根材9や外壁部材2の室内側に第一高反射率素材6Aが施工され、概ね95%を阻止する事が出来る。即ち、室内側である放射側には5%程度の放射に過ぎないという事になる。しかし、放射側は壁内という狭小空間にある。そうすると、放射量は絶対温度の4乗に比例するというステファンボルツマンの法則に則り、放射量が急速に増加し放射側の空間は忽ち高温になる。その結果、放射率が高まり、逆に反射率は低下する事になる。即ち、外装部材2(外壁)からの熱が室内に入り易くなる。
【0045】
本発明の省エネ遮熱構造1では、放射側に通気層4を設け、絶えず屋外の大気を取り込み冷却している。その結果、放射側は安定して低放射を維持する事が出来、室内側に伝達される熱は非常に少なくなる。
【0046】
冬、現状の住宅建物では、部屋3Aの室内の熱が通気層4を通って屋外に排出され、室内は寒く暖房効果は非常に悪くなっている。
【0047】
本発明の省エネ遮熱構造1では、通気層4の上部や下部の吸気口や排気口に、形状記憶合金を利用したスライド型の開閉装置5が設置されている。この開閉装置5は、外気温が18℃以下になると開口部11が全て閉状態となり、通気層4は静止空気状態になる。即ち、完全に部屋3Aの室内は空気層で保温されることになり、これ迄の様な冬場の寒さは解消される。
【0048】
一方、外気温28℃以上になると開口部11は全て開状態となり、外気が吸気口から通気層4内に吸気され、通気層4内は絶えず外気が流れることで、部屋3Aの温度が調整され、部屋3Aの室内を涼しい環境とする事が出来る。形状記憶合金は、夏冬の温度差を感知して作動の様に思えるが、実際は昼夜24時間作動し、省エネ効果が高いのはこの効果も大きい。尚、床は水平で通気層が取りにくい為、根太の下側に1つ目の遮熱材を施工することで、床全体を保温している。更に、室内側の床に直貼りで遮熱材を施工している。勿論、床面は人間が載って破損する可能性が高いので、表面にじゅうたんや人工芝を施工して2層構造としている。
【0049】
結露対策は以下の通りである。
本発明では、室内の内装下地である石膏ボードに貼るのはビニールクロス等ではなく、第二高反射率素材6Bの表面に、高透過樹脂を着色した乱反射構造の遮熱クロスである。この遮熱クロスは、見た目には粗従来のビニールクロスと同様であるが、反射素材はアルミホイルで有るから湿気を100%透過する事は無い。冬、室内の熱が屋外に向かって移動すると、湿気も同じ方向に移動し、ビニールクロスの表面で結露し、表面結露が発生する。一方、ビニールクロスを透過して壁内に移動し湿気は壁内で冷やされ、壁内結露が発生する。
【0050】
本発明では、ビニールクロスの代替で遮熱クロスを施工している。室内の熱が屋外側に向かっても、遮熱クロスは輻射熱を反射させるので表面温度が上昇し表面結露の発生を防止できる。又、遮熱クロスは100%湿気を透過させないので、室内の湿気が壁内に侵入する事は無く、冬型結露の発生が生じない。夏、屋外からの熱は室内のビニールクロスまで移動、ここで夏型結露が発生する。しかしながら、本発明の省エネ遮熱構造では、1つ目の第一高反射率素材6Aの効果が大きく、外気を取り入れて冷却する通気層4内の温度はそれ程上昇しない。従って、屋外から室内側に移動する温度は非常に低くなる。その結果、夏場の壁内結露の発生は殆どない。
【0051】
屋根に、太陽光発電パネルを設置しても日蔭効果は無いと冒頭記載している。即ち、太陽光発電パネルを設置したところと未設置の所では室内に温度ムラが生じ、熱移動が行われるからである。
【0052】
ところが本発明では、太陽光発電パネルは屋外側のアルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材の外側であり、太陽光発電パネルの二次輻射熱はここで阻止される。アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6Dは屋根全面に施工されている事、更にその室内側には通気層4があり、絶えず僅かな熱でも屋外に排出してしまうので、屋根下側全体に温度ムラが発生する事は無い。この様に、屋根に本発明の省エネ遮熱構造1を適用することで、夏は涼しく、冬は暖かく、結露発生のない住宅建物100を構築できる。更に、本発明の省エネ遮熱構造1を維持するためには、2つの遮熱材、冷却用の大気、形状記憶合金を使用した開閉装置5等だけで良く、新たなエネルギーを全く使用しないゼロエネルギー省エネ工法も大きな特徴である。
【0053】
[試験]
1KWの遠赤外線ヒーターの前に、住宅壁面構造の模型を載置し、夏場の室内へ移動する熱の検証を行った。壁面構造は、以下の順に構成されている。
全体の大きさは、16cm(幅)×20cm(高さ)×14、5cm(厚さ)
角波折板:厚み0.6mm、凹凸10mm
遮熱材:THB-FX 0.2mm 表面電食処理、不燃材、遮熱材は角波折板(角波金属板)に接着剤で直接貼り付けた。
通気層:20mm、上下開放状態
防水層:0.1mmビニール使用
構造用合板:12mm
柱、間柱:90mm、この空間は上部下部とも密封とした。
石膏ボード:12mm
遮熱材:遮熱クロス50(日本遮熱製、THB-SSW1 0.1mm)、遮熱材は石膏ボードに直接貼り付けた。
【0054】
角波折板の表面温度が85℃になる迄昇温し、温度測定を行った。温度測定の位置は、以下の通りである(
図8)。
(1)角波金属板のヒーター側表面
(2)通気層内(空気の温度)
(3)防水層(ビニール)の空気層側表面
(4)柱、間柱の空間(空気の温度)
(5)石膏ボードの柱側表面
(6)遮熱クロスの室内側表面
(7)室温
【0055】
【0056】
【0057】
試験結果を表1及び表2に示した。
【0058】
[考察]
(イ)外装材の室内側に遮熱材を施工すると、通常の外装材温度より5℃から6℃程度上昇する。本試験では、外装材の温度を85.2℃迄上昇させたが、この温度は一般の外装材温度が80℃程度と考えられる。
(ロ)外装材である金属角波板の温度を85.2℃迄上昇させても、(4)柱、間柱の空間(空気の温度)は僅か33℃で52.2℃も低下している。この時、室温は28.3℃でありその差は4.7℃、この温度では夏型結露の発生は無い。
(ハ)外装材である金属角波板の温度を85.2℃の時、通気層の空間の温度は51.1℃を予想したより高温で有った。これ位の高温度を想定するなら、もう少し通気層の幅を広げる必要があるかも知れない。
【0059】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 省エネ遮熱構造
2 外装部材(外壁)
3 内装部材(内壁)
3A 部屋
4 通気層
5 開閉装置
6A 第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(第一高反射率素材)
6B 第二アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(第二高反射率素材)
6C 第三アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(第三高反射率素材)
6D 第四アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材(第四高反射率素材)
7 構造用合板
8 防水紙(防水層)
9 屋根(屋根材)
10 基材
11 開口部
12 金属板(スライド部材)
13 スプリング
20 棟換気材
21 棟包み部材
22 野地板
100 住宅建物
X 左右方向
【要約】
【課題】住宅建物の室内が、夏は涼しく、冬は暖かい環境を得る事ができる省エネ遮熱構造を提供する。
【解決手段】省エネ遮熱構造1は、外装部材2と、外装部材2の内側に構築された内装部材3と、外装部材2と内装部材3との間に形成された通気層4と、を有する住宅建物100に構築される。この省エネ遮熱構造1では、通気層4内の外装部材3の内側に第一アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6Aが設けられ、部屋3Aを構成する内装部材3の室内側に第二アルミホイル等輻射熱に対して高反射率の素材6Bが設けられていることで、結露を防止することができる。
【選択図】
図1