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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
A61M25/00 620
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020152911
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047161
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111523
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 良文
(72)【発明者】
【氏名】武村 和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-158588(JP,A)
【文献】特開2011-92435(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状の内層と、
前記内層の外周面に配置され、表面に凹部を有する素線を編組した編組体と、
前記内層及び前記補強体を覆うように設けられた外層と、を備え、
前記素線は、断面形状が角丸矩形であって、前記内層の外表面に配置され断面形状が前記内層に接する底面と、該底面とは反対側の上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ2つの側面と、を有し、
前記凹部の半数より多くは、前記素線の前記2つの側面に設けられ、
該凹部には前記内層及び前記外層のうちの少なくとも一方が入り込んでいる、
カテーテル。
【請求項2】
前記素線は、前記内層に接する底面と、該底面とは反対側の上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ2つの側面と、を有し、前記2つの側面には、前記底面及び前記上面に設けられたよりも深さが深い前記凹部が設けられている、請求項に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記素線は、V字溝形状の前記凹部を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記凹部は、前記素線の表面のうち少なくとも前記外層と接する面に設けられている、請求項1~のいずれか1項に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、チューブ状の内層と、内層の外周面に配置された補強体と、内層及び補強体を覆うように設けられた外層と、を備えたカテーテルが知られている。例えば、補強体として、剛性の異なる2種類の線材が網目状に編み込まれる編組により構成され、この2種類の線材は、同じ種類の線材について、内層に右巻き及び左巻きに対称に巻き付けられたもの、を備えたカテーテルが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-195847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カテーテルには、操作性の観点から、手技者がカテーテルに回転操作を加えたときのトルク伝達性が高いことが求められる。トルク伝達性を高める方法としては、補強体の剛性を高める方法が考えられるが、カテーテルに求められる柔軟性等を確保しようとすると、十分にトルク伝達性を高めることができないことがあった。このため、トルク伝達性をより高めることが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、カテーテルにおいてトルク伝達性を高めることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカテーテルは、
チューブ状の内層と、前記内層の外周面に配置された補強体と、前記内層及び前記補強体を覆うように設けられた外層と、を備え、
前記補強体は、表面に凹部を有する素線を備え、該凹部には前記内層及び前記外層のうちの少なくとも一方が入り込んでいる、
ものである。
【0007】
本発明のカテーテルでは、補強体は、表面に凹部を有する素線を備えており、この素線の凹部に内層及び外層のうちの少なくとも一方が入り込んでいる。このため、内層及び外層のうちの少なくとも一方と補強体の構成部材である素線とが、接触面積の増加やアンカー効果によってより強固に接着される。したがって、本発明のカテーテルによれば、トルク伝達性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】カテーテル10の構成を示した説明図。
図2】カテーテルシャフト12の層構造を示した説明図。
図3】カテーテルシャフト12の断面図。
図4図3のA部拡大図。
図5】素線32の斜視断面図。
図6】素線82の斜視断面図
図7】実施例の素線の断面写真。
図8】試験装置200の概略説明図。
図9】実施例及び比較例の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好適な一実施形態について、図面を用いて説明する。図1はカテーテル10の構成を示した説明図、図2はカテーテルシャフト12の層構造を示した説明図、図3はカテーテルシャフト12の断面図、図4図3のA部拡大図、図5は素線32の斜視断面図である。
【0010】
カテーテル10は、図1に示すように、カテーテルシャフト12と、カテーテルシャフトの基端に設けられたコネクタ14と、カテーテルシャフト12の先端に設けられた柔軟なチップ16と、を備えている。カテーテル10の全長は、例えば500~1200mmである。
【0011】
カテーテルシャフト12は、図2~4に示すように、チューブ状の内層20と、内層20の外周面に配置された編組体(補強体)30と、内層20及び編組体30を覆うように設けられた外層50と、を備えている。なお、図2では、カテーテルシャフト12の層構造を示すために、編組体30の一部及び外層50の一部を除去した状態を示したが、実際には、カテーテルシャフト12の全長にわたって内層20、編組体30及び外層50の3層構造となっている。内層20の内側には、ガイドワイヤや治療用カテーテルなどの器具を挿入するための空間であるルーメン18が形成されている。
【0012】
内層20は、樹脂製のチューブ状部材である。内層20に用いられる樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂であれば、ルーメン18に挿入する器具との摺動性が良好である。
【0013】
編組体30は、金属製の素線32を編み込んだ網目状の部材である。素線32は、図5に示すように、断面形状(長手方向に垂直な断面の形状)が角丸矩形の平線である。素線32は、厚みが幅よりも小さいことが好ましい。素線32の厚みは、例えば0.01~0.10mmである。素線32の幅は、例えば0.02~0.80mmである。素線32は、内層20に接する底面34と、底面34とは反対側の上面36と、底面34と上面36とをつなぐ2つの側面38と、を有している。なお、底面34は、全長にわたって内層20に接する必要はない。例えば、素線32どうしが交差している部分では、外層50側の素線32の底面34は内層20に接していない。編組体30は、形状および寸法が同じ単一の素線32で構成されていてもよいし、形状及び寸法の少なくとも一方が異なる2種以上の素線32で構成されていてもよい。
【0014】
素線32のうちの少なくとも一部は、図4,5に示すように、凹部40を表面に有している。ここでは、凹部40の形状は、開口部が丸くて底が曲面底である有底穴形状とした。凹部40は、例えば、半球状の凸部を有する型を用いた転写処理によって形成されたものである。凹部40には、内層20及び外層50のうちの少なくとも一方が入り込んでいる。ここでは、底面34の凹部40には内層20の樹脂が入り込んでおり、上面36及び2つの側面38の凹部40には外層50の樹脂が入り込んでいるものとした。
【0015】
素線32において、凹部40は、少なくとも素線32の側面38に設けられていることが好ましく、凹部40の半数より多くは、2つの側面38に設けられていることがより好ましい。手技者がコネクタ14を用いてカテーテル10に回転操作を加えたとき、カテーテル10では、素線32の底面34や上面36よりも側面38に大きな力が加わる。このため、より大きな力が加わる側面38に多くの凹部40を設けて接着力を高めることで、トルク伝達性を効率よく高めることができる。
【0016】
素線32において、2つの側面38には、底面34及び上面36に設けられたよりも深さが深い凹部40が設けられていることが好ましい。より大きな力が加わる側面38に深さが深い凹部40を設けて接着力を高めることで、トルク伝達性を効率よく高めることができる。凹部40の深さは、底面34や上面36に設けられている凹部40では、例えば素線の厚みの1/3~1/20であり、例えば0.0005~0.0333μmである。また、側面38に設けられている凹部40では、凹部40の深さは、例えば素線の幅の1/3~1/20であり、例えば0.001~0.011μmである。凹部40が深いほうが、内層20や外層50との接触面積を大きくできるため、接着力をより高めることができるが、凹部40が深すぎると、素線32の強度が低くなることがある。有底穴形状の凹部40の開口部は、例えば面積が0.000000785~0.003925μm2である。
【0017】
素線32に用いられる金属としては、例えば、SUS304やSUS316などのステンレス鋼やタングステン、ニッケルチタン合金などが挙げられる。編組体30は、一種の材質の素線32で構成されていてもよいし、2種以上の材質の素線32で構成されていてもよい。
【0018】
外層50は、樹脂で形成されている。外層50に用いられる樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンやこれらのエラストマーなどが挙げられる。外層50は、編組体30の網目31にも入り込んでいる。
【0019】
次に、カテーテル10に用いられるカテーテルシャフト12の製造例について説明する。カテーテルシャフト12は、例えば、芯材の表面に押出成形によりチューブ状の内層20を形成し、内層20の外周面に素線32を編み組みして編組体30を形成し、その上に押出成形により外層50を形成し、芯材を引き抜いて得られたものとしてもよい。芯材を引き抜くと、その部分にルーメン18が形成される。こうして得られたカテーテルシャフト12では、チューブになった状態で素線32と接触する内層20よりも、素線32と接触してから形状が固まる外層50の方が凹部40に入り込みやすい。このため、外層50と接する面に凹部40が設けられているのが望ましい。
【0020】
次に、カテーテル10の使用例について説明する。カテーテル10は、治療用カテーテル等を病変部に誘導することを目的に使用されるガイディングカテーテルである。カテーテル10は、先端側から血管に挿入され、医師等の手技者によって基端側で操作される。手技者は、カテーテル10が所望の位置に到達するように、カテーテル10を押したり引いたり回転させたりする。ここで、手技者がコネクタ14を操作してカテーテルに回転操作を加えると、その力は、主に、編組体30が編組体30の側面38に接する内層20や外層50を回転方向に押す挙動(図4の矢印P)によって、カテーテル10の先端側まで伝達される。また、力の一部は、編組体30が編組体30の底面32に接する内層20や編組体30の上面34に接する外層50を回転方向にせん断のような力で引っ張る挙動(図4の矢印S)によって、カテーテル10の先端側まで伝達される。こうして、編組体を介して内層20や外層50に力が伝達され、カテーテル10の先端側まで手技者による回転操作の力が伝達される。
【0021】
以上説明した本実施形態のカテーテル10では、編組体30は、表面に凹部40を有する素線32を備えており、この素線32の凹部40に内層20及び外層50のうちの少なくとも一方が入り込んでいる。このため、内層20及び外層50のうちの少なくとも一方と補強体30の構成部材である素線32とが、接触面積の増加やアンカー効果によって強固に接着される。したがって、本実施形態のカテーテル10によれば、トルク伝達性を高めることができる。
【0022】
また、補強体として編組体30を用いているため、トルク伝達性をより高めることができる。
【0023】
更に、内層20及び外層50は樹脂製であり、編組体30は金属製であるため、本発明を適用する意義が高い。というのも、一般に、樹脂は金属よりも柔らかいため、樹脂を介して金属に力を加えたり、金属を介して樹脂に力を加えたりすると、力の一部が樹脂の変形に使われてしまい、十分に力が伝わらないことがある。このため、内層20及び外層50が樹脂製であり、編組体30が金属製である場合に、内層20や外層50の樹脂と編組体30の金属とをより強固に接着して樹脂の変形を抑制する要請が高いからである。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0025】
例えば、上述した実施形態では、補強体としては、素線32を編み込んだ編組体30を例示したが、素線32と同様の素線を備えたものであれば特に限定されない。例えば、補強体は、素線を巻回したコイル体としてもよいし、素線をリング状部材に成形しカテーテルシャフト12の長手方向にリング状部材を配列したものとしてもよいし、カテーテルシャフト12の長手方向に平行に素線を配列したものとしてもよい。こうしたものでは、素線どうしが重なる部分がないため、編組体30を用いた場合に比して柔軟性を高めることができる。また、カテーテルシャフト12は、例えば、芯材の表面に押出成形によりチューブ状の内層20を形成し、内層20の外周面に素線を巻回してコイル体130を形成し、その上に押出成形により外層50を形成し、芯材を引き抜いて得られたものとしてもよい。
【0026】
上述した実施形態では、素線32を平線としたが、これに限定されず、丸線や角線など種々の形状の線材を素線として用いることができる。また、素線32の断面形状を角丸矩形としたが、これに限定されず、円、楕円、矩形、多角形などとすることができる。
【0027】
上述した実施形態では、凹部40の形状を、開口部が丸くて底が曲面底である有底穴形状としたが、こうしたものに限定されない。例えば、凹部40が有底穴形状の場合、開口部は丸のほか、楕円や多角形などでもよく、底は曲面底のほか平面底や尖り底などでもよい。また、凹部40の形状は、有底穴形状に限定されず、例えば、V字溝やU字溝、角溝、アリ溝などの溝形状としてもよい。このうち、V字溝形状では、比較的容易に形成できるとともに比較的大きなアンカー効果が期待できる。凹部40が溝形状の場合、凹部40は、素線32の長手方向に伸びるものとしてもよいし、素線32の長手方向に垂直な方向に伸びるものとしてもよいし、その他の方向に伸びるものとしてもよい。凹部40が溝形状の場合、凹部40の開口部は、例えば幅が0.0005~0.060μmである。溝の長さは特に限定されないが、図6に示したように素線82の長手方向に沿って素線82の幅よりも長い溝である方が好ましい。図6は、溝形状の凹部を有する素線の一例であり、V字溝形状の凹部90を備えた素線82の斜視断面図である。素線82は、底面84、上面86、2つの側面88の全てに、素線82の長手方向に伸びるV字溝形状の凹部90を有している。
【0028】
上述した実施形態では、凹部40としては、半球状の凸部を有する型を用いた転写処理によって形成されたものを例示したが、こうしたものに限定されない。例えば、凹部40は、ブラストやエッチングなどの粗化処理や、所望の形状の凸部を有する型を用いた転写処理などにより形成されたものとしてもよいし、切削加工などの機械加工により形成されたものとしてもよい。また、素線32の製造時に加工率を高めるなどして強制的にクラック(V字溝形状の凹部)を生じさせることにより形成されたものとしてもよい。
【0029】
上述した実施形態では、カテーテルシャフト12の全長にわたって内層20、編組体30及び外層50の3層構造となっているものとしたが、こうしたものに限定されない。例えば、カテーテルシャフト12の一部が内層20及び外層50の2層構造となっていてもよいし、カテーテルシャフト12の一部では内層20、編組体30及び外層50の3層構造となっており、その他の部分では内層20、コイル体及び外層50の3層構造となっていてもよい。
【0030】
上述した実施形態では、内層20及び外層50が樹脂製であり、編組体30を構成する素線32が金属製であるものとしたが、こうしたものに限定されない。例えば、素線32は、強化プラスチックなどの樹脂製のものとしてもよい。
【0031】
なお、本発明のカテーテルは、特に限定するものではないが、例えば以下のように構成することもできる。
【0032】
本発明のカテーテルにおいて、前記素線は、前記内層に接する底面と、該底面とは反対側の上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ2つの側面と、を有し、前記凹部の半数より多くは、前記2つの側面に設けられているものとしてもよい。手技者がカテーテルに回転操作を加えたとき、カテーテルでは、素線の底面や上面よりも側面に大きな力が加わる。このため、より大きな力が加わる側面に多くの凹部を設けて接着力を高めることで、トルク伝達性を効率よく高めることができる。
【0033】
本発明のカテーテルにおいて、前記素線は、前記内層に接する底面と、該底面とは反対側の上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ2つの側面と、を有し、前記2つの側面には、前記底面及び前記上面に設けられたよりも深さが深い前記凹部が設けられているものとしてもよい。より大きな力が加わる側面に深さの深い凹部を設けて接着力を高めることで、トルク伝達性を効率よく高めることができる。
【0034】
本発明のカテーテルにおいて、前記素線は、V字溝形状の前記凹部を有するものとしてもよい。V字溝形状の凹部を有するものでは、より大きなアンカー効果が期待できる。
【0035】
本発明のカテーテルにおいて、前記凹部は、前記素線の表面のうち少なくとも前記外層と接する面に設けられているものとしてもよい。カテーテルを製造する際、チューブ状の内層の表面に補強体を配置し、その後、押出成形などにより外層を形成することが多い。この場合、チューブになった状態で素線と接触する内層よりも、素線と接触してから形状が固まる外層の方が凹部に入り込みやすいため、外層と接する面に凹部が設けられているのが望ましい。
【実施例
【0036】
以下には、本発明のカテーテル10に用いるカテーテルシャフト12を具体的に作製した例について、実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例]
(試料の準備)
まず、編組体30に用いる素線32として、厚み0.030mmで幅0.100mmのステンレス製の平線と、厚み0.030mmで幅0.060mmのタングステン製の平線とを用意した。タングステン製の平線は、直径0.047mmの丸線を圧延したものであり、圧延時の圧力を調整することによりクラック(V字溝形状の凹部)を生じさせた(図7の破線部参照)。図7の素線は、断面が角丸矩形であり、底面には浅い凹部が1つあり、上面には凹部がなく、2つの側面にそれぞれ1つずつ底面の凹部よりも深い凹部を有していた。凹部の深さは最大で5.8μmであった。ステンレス製の平線の表面には凹部は存在しなかった。なお、図5では、凹部に内層や外層が入り込んでいないように見えるが、これは、内層や外層の樹脂が柔らかいため、観察試料の作成時(研磨時)に樹脂が削れたことによるものであり、実際には、凹部に内層や外層が入り込んでいる。
【0038】
次に、金属製の芯材の表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を押出成形してチューブ状の内層20を形成した。そして、用意した素線32から、ステンレス製の平線8本と、タングステン製の平線8本と、を用い、内層20の外周面に巻き付けながら編み込んで編組体30を形成した。続いて、内層20及び編組体30を覆うようにポリアミドエラストマー樹脂を押出成形して外層50を形成した。最後に芯材を内層20から引き抜いてカテーテルシャフト12を作製した。このカテーテルシャフト12から500mm長さの試料Sを切り出した。
【0039】
(トルク伝達性試験)
トルク伝達性試験には、図8に示す試験装置200を用いた。試験装置200は、下面に試料Sの一端が固定される入力側のロードセル210と、下面に試料Sの他端が固定される出力側のロードセル220と、水槽230と、を備えている。こうした試験装置200において、試料Sの一端を入力側のロードセル210に固定し、試料SをU字状に曲げて試料Sの他端を出力側のロードセル220に固定した。そして、入力側のロードセル210により試料Sの一端にトルクを加え、そのときの試料Sの他端に伝達されるトルクを、出力側のロードセルにより測定した。測定は、試料SのU字状に曲げられた部分を、水槽230に貯めた37℃程度の湯に浸漬した状態で行った。
【0040】
[比較例]
上述したステンレス製の平線に代えて厚み0.035mmで幅0.085mmのステンレス製の平線を用い、上述したタングステン製の平線に代えて直径0.047mmのタングステン製の丸線を用いた以外は、上述した実施例と同様に試料を作製し、トルク伝達性試験を行った。なお、ステンレス製の平線及びタングステン製の丸線の表面には凹部は存在しなかった。
【0041】
[試験結果]
図9にトルク伝達性試験の結果のグラフを示す。図9のグラフにおいて、横軸は入力側のロードセル210により試料Sの一端に加えられた入力トルクを示し、縦軸は出力側のロードセル220により測定された試料Sの他端における出力トルクを示す。なお、図9には、実施例の試料5本、比較例の試料3本の測定結果を示した。図9に示すように、比較例では、600mN・m程度の入力トルクを加えても、出力トルクは100mN・mに満たないのに対して、実施例では、200mN・m程度の入力トルクを加えただけで100mN・m程度の出力トルクが得られた。一般的には、素線32にクラックのような凹部40が存在すると、素線32の強度が低下するため、トルク伝達性も低下すると考えられるが、実際には、トルク伝達性が著しく向上した。以上より、実施例では、素線32の表面の凹部40に内層20や外層50が入り込んでいることにより、内層20や外層50と素線32とが、接触面積の増加やアンカー効果によってより強固に接着されて、トルク伝達性を高めることができたと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば、治療用カテーテル等を病変部に誘導することを目的に使用されるガイディングカテーテルに利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 カテーテル、12 カテーテルシャフト、14 コネクタ、16 チップ、18 ルーメン、20 内層、30 編組体、32,82 素線、34,84 底面、36,86 上面、38,88 側面、40,90 凹部、50 外層、200 試験装置、210 入力側ロードセル、220 出力側ロードセル、230 水槽、S 試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9