(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】容量制御弁
(51)【国際特許分類】
F04B 27/18 20060101AFI20240708BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
F04B27/18 B
F04B27/18 A
F16K31/06 305L
F16K31/06 305K
(21)【出願番号】P 2022527016
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019529
(87)【国際公開番号】W WO2021241478
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020090665
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大千
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】白藤 啓吾
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043186(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167912(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1835177(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/18
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
前記貫通孔の軸方向寸法は、前記弁体の最大ストローク量以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の容量制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の容量を可変制御する容量制御弁に関し、例えば、自動車の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機の吐出量を圧力に応じて制御する容量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機は、エンジンにより回転駆動される回転軸、回転軸に対して傾斜角度を可変に連結された斜板、斜板に連結された圧縮用のピストン等を備え、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御するものである。この斜板の傾斜角度は、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0003】
容量可変型圧縮機の連続駆動時において、容量制御弁は、制御コンピュータにより通電制御され、ソレノイドで発生する電磁力により弁体を軸方向に移動させ、吐出圧力Pdの吐出流体が通過する吐出ポートと制御圧力Pcの制御流体が通過する制御ポートとの間に設けられる主弁を開閉して容量可変型圧縮機の制御室の制御圧力Pcを調整する通常制御を行っている。
【0004】
容量制御弁の通常制御時においては、容量可変型圧縮機における制御室の圧力が適宜制御されており、回転軸に対する斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて吐出室に対する流体の吐出量を制御し、空調システムが目標の冷却能力となるように調整している。また、容量可変型圧縮機を最大容量で駆動する場合には、容量制御弁の主弁を閉塞して制御室の圧力を低くすることで、斜板の傾斜角度を最大とするようになっている。
【0005】
また、容量制御弁の制御ポートと吸入ポートとの間を連通させる補助連通路を形成し、起動時に容量可変型圧縮機の制御室の冷媒を制御ポート、補助連通路、吸入ポートを通して容量可変型圧縮機の吸入室へ排出するようにして、起動時に制御室の圧力を迅速に低下させることで、容量可変型圧縮機の応答性を向上させるものも知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5167121号公報(第7頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にあっては、起動時に流体排出機能に優れるものの、容量可変型圧縮機の連続駆動時において、補助連通路が連通しており制御ポートから吸入ポートに冷媒が流れ込むことから、冷媒循環量が多く、容量可変型圧縮機の運転効率が下がってしまう虞があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、起動時の流体排出機能を有しつつ運転効率が良い容量制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の容量制御弁は、
吐出圧力の吐出流体が通過する吐出ポート、吸入圧力の吸入流体が通過する吸入ポートおよび制御圧力の制御流体が通過する制御ポートが形成されたバルブハウジングと、
ソレノイドにより駆動される弁体、および前記吐出ポートと前記制御ポートとの間に設けられ前記弁体が接触可能な主弁座により構成される主弁と、
感圧室に配置される感圧体と、
前記弁体から前記感圧室に延び前記感圧体と共に感圧弁を構成する感圧弁部材とを備え、
前記弁体と前記感圧弁部材とに中間連通路が形成されており、前記感圧弁の開閉により前記制御ポートと前記吸入ポートとを前記中間連通路により連通させることが可能な容量制御弁であって、
前記感圧弁部材には、前記中間連通路に連通する貫通孔が形成されているとともに、規制手段により前記バルブハウジングに対して移動が規制され前記感圧弁部材に対して相対的にスライドし前記貫通孔を開閉する開閉部材が設けられている。
これによれば、通電状態で主弁を制御する際において規制手段によりバルブハウジングに対して移動が規制される開閉部材を感圧弁部材に対して相対的に閉方向にスライドさせて感圧弁部材の貫通孔の少なくとも一部を閉塞することで、制御ポートから吸入ポートへの流体の流れ込みを防ぐまたは少なくすることができる。一方、起動時および最大通電状態で主弁が閉じた際において開閉部材を感圧弁部材に対して相対的に開方向にスライドさせて感圧弁部材の貫通孔を通常制御時よりも大きく開放することで、制御ポートと吸入ポートを連通させることにより、制御圧力を素早く下げることができる。このようにして、容量可変型圧縮機の起動時の液冷媒の排出および運転効率を高めることができる。
【0010】
前記開閉部材は、前記感圧弁部材に対して相対的にスライド可能な環状部を有していてもよい。
これによれば、環状部は周方向に途切れることなく連続していることから、環状部により感圧弁部材の貫通孔を確実に閉塞することができる。
【0011】
前記規制手段は、前記開閉部材の移動を規制する弾性体を有していてもよい。
これによれば、弾性体の弾性変形によりバルブハウジングに対する開閉部材の移動を所定範囲内に規制することができるため、開閉部材の破損を防止することができる。
【0012】
前記弾性体は、前記開閉部材を互いに開方向と閉方向に押圧する一対のバネであってもよい。
これによれば、一対のバネにおけるバネ定数の違いにより開閉部材による感圧弁部材の貫通孔の開閉のタイミングを調整することができる。
【0013】
前記弾性体は、前記開閉部材を前記感圧弁部材の前記貫通孔よりも前記感圧体側に形成されるフランジ部に向けて押し付けていてもよい。
これによれば、開閉部材の閉位置を位置決めしつつ、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔の閉塞状態を確保することができる。
【0014】
前記規制手段は、前記開閉部材と当接するストッパを有していてもよい。
これによれば、開閉部材に対するストッパの当接位置を変えることで、弁体および感圧弁部材のストローク中における開閉部材による感圧弁部材の貫通孔の開放開始位置や開放量を変更することができ、これらの設定をしやすい。
【0015】
前記規制手段は、前記バルブハウジングに対する前記開閉部材の固定により前記開閉部材の移動を規制していてもよい。
これによれば、規制手段にバネ等が不要であり、構造を簡素化することができる。
【0016】
前記貫通孔の軸方向寸法は、前記弁体の最大ストローク量以下であってもよい。
これによれば、開閉部材を感圧弁部材に対して相対的にスライドさせることにより、貫通孔を全開させることができるため、広い流路断面積を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る実施例1の容量制御弁が組み込まれる斜板式容量可変型圧縮機を示す概略構成図である。
【
図2】実施例1の容量制御弁の非通電状態において主弁が開放され、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔が閉塞された様子を示す断面図である。
【
図4】実施例1の容量制御弁の通電状態において主弁が閉塞され、開閉部材が相対移動して感圧弁部材の貫通孔が開放された様子を示す拡大断面図である。
【
図5】本発明に係る実施例2の容量制御弁の非通電状態において主弁が開放され、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔が閉塞された様子を示す断面図である。
【
図6】実施例2の容量制御弁の通電状態、特に主副弁体の初動において、開閉部材が感圧弁部材に追従し、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔が閉塞された様子を示す断面図である。
【
図7】実施例2の容量制御弁の通電状態において主弁が閉塞され、開閉部材が相対移動して感圧弁部材の貫通孔が開放された様子を示す拡大断面図である。
【
図8】本発明に係る実施例3の容量制御弁の非通電状態において主弁が開放され、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔が閉塞された様子を示す断面図である。
【
図9】実施例3の容量制御弁の通電状態において主弁が閉塞され、開閉部材が相対移動して感圧弁部材の貫通孔が開放された様子を示す拡大断面図である。
【
図10】本発明に係る実施例4の容量制御弁の非通電状態において主弁が開放され、開閉部材により感圧弁部材の貫通孔が閉塞された様子を示す断面図である。
【
図11】実施例4の容量制御弁の通電状態において主弁が閉塞され、開閉部材が相対移動して感圧弁部材の貫通孔が開放された様子を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る容量制御弁を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る容量制御弁につき、
図1から
図4を参照して説明する。以下、
図2の正面側から見て左右側を容量制御弁の左右側として説明する。詳しくは、感圧体60が配置される紙面左側を容量制御弁の左側、ソレノイド80が配置される紙面右側を容量制御弁の右側として説明する。
【0020】
本発明の容量制御弁V1は、自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機Mに組み込まれ、冷媒である作動流体(以下、単に「流体」と表記する。)の圧力を可変制御することにより、容量可変型圧縮機Mの吐出量を制御し空調システムを目標の冷却能力となるように調整している。
【0021】
先ず、容量可変型圧縮機Mについて説明する。
図1に示されるように、容量可変型圧縮機Mは、吐出室2と、吸入室3と、制御室4と、複数のシリンダ4aと、を備えるケーシング1を有している。尚、容量可変型圧縮機Mには、制御室4と吸入室3とを直接連通する図示しない連通路が設けられており、この連通路には吸入室3と制御室4との圧力を平衡調整させるための固定オリフィスが設けられている。
【0022】
また、容量可変型圧縮機Mは、ケーシング1の外部に設置される図示しないエンジンにより回転駆動される回転軸5と、制御室4内において回転軸5に対してヒンジ機構8により傾斜可能に連結される斜板6と、斜板6に連結され各々のシリンダ4a内において往復動自在に嵌合された複数のピストン7と、を備え、電磁力により開閉駆動される容量制御弁V1を用いて、流体を吸入する吸入室3の吸入圧力Ps、ピストン7により加圧された流体を吐出する吐出室2の吐出圧力Pd、斜板6を収容した制御室4の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室4内の圧力を適宜制御することで斜板6の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストン7のストローク量を変化させて流体の吐出量を制御している。尚、説明の便宜上、
図1においては、容量可変型圧縮機Mに組み込まれる容量制御弁V1の図示を省略している。
【0023】
具体的には、制御室4内の制御圧力Pcが高圧であるほど、回転軸5に対する斜板6の傾斜角度は小さくなりピストン7のストローク量が減少するが、一定以上の圧力となると、回転軸5に対して斜板6が略垂直状態、すなわち垂直よりわずかに傾斜した状態となる。このとき、ピストン7のストローク量は最小となり、ピストン7によるシリンダ4a内の流体に対する加圧が最小となることで、吐出室2への流体の吐出量が減少し、空調システムの冷却能力は最小となる。一方で、制御室4内の制御圧力Pcが低圧であるほど、回転軸5に対する斜板6の傾斜角度は大きくなりピストン7のストローク量が増加するが、一定以下の圧力となると、回転軸5に対して斜板6が最大傾斜角度となる。このとき、ピストン7のストローク量は最大となり、ピストン7によるシリンダ4a内の流体に対する加圧が最大となることで、吐出室2への流体の吐出量が増加し、空調システムの冷却能力は最大となる。
【0024】
図2に示されるように、容量可変型圧縮機Mに組み込まれる容量制御弁V1は、ソレノイド80を構成するコイル86に通電する電流を調整し、容量制御弁V1における主弁50、副弁54の開閉制御を行うとともに、吸入圧力Psにより感圧弁53の開閉制御を行い、制御室4内に流入する、または制御室4から流出する流体を制御することで制御室4内の制御圧力Pcを可変制御している。
【0025】
本実施例において、主弁50は、弁体としての主副弁体51とバルブハウジング10の内周面から内径側に突出する断面視等脚台形状の環状凸部10cに形成された主弁座10aとにより構成されており、主副弁体51の軸方向左側の端面51aが主弁座10aに接離することで、主弁50が開閉するようになっている。副弁54は、主副弁体51と固定鉄心82の開口端面、すなわち固定鉄心82の軸方向左側の端面に形成される副弁座82aとにより構成されており、主副弁体51の軸方向右側の段部51bが副弁座82aに接離することで、副弁54が開閉するようになっている。感圧弁53は、感圧体60のアダプタ70と感圧弁部材52の軸方向左側の端面に形成される感圧弁座52aと構成されており、アダプタ70の軸方向右側の端面70aは感圧弁座52aに接離することで、感圧弁53が開閉するようになっている。
【0026】
次いで、容量制御弁V1の構造について説明する。
図2に示されるように、容量制御弁V1は、金属材料または樹脂材料により形成されたバルブハウジング10と、バルブハウジング10内に軸方向に往復動自在に配置された主副弁体51、感圧弁部材52と、吸入圧力Psに応じて主副弁体51、感圧弁部材52に軸方向右方への付勢力を付与する感圧体60と、バルブハウジング10に接続され主副弁体51、感圧弁部材52に駆動力を及ぼすソレノイド80と、後述する規制手段としての第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92によりバルブハウジング10に対して移動が規制される開閉部材90と、から主に構成されている。開閉部材90は、主弁50の開閉に伴い主副弁体51と感圧弁部材52が共に軸方向に往復動することにより、感圧弁部材52に対して相対的に軸方向に往復動可能になっており、その相対的な往復移動により吸入圧力Psとなる副弁室30と制御圧力Pcとなる感圧室40との間の流路を開閉するので、感圧弁部材52と共に制御室4の制御圧力Pcを後述する感圧弁部材52の貫通孔52dおよび中間連通路55を通して吸入室3に迅速にリリースするCS弁を構成しているともいえる。
【0027】
図2に示されるように、ソレノイド80は、軸方向左方に開放する開口部81aを有するケーシング81と、ケーシング81の開口部81aに対して軸方向左方から挿入されケーシング81の内径側に固定される略円筒形状の固定鉄心82と、固定鉄心82の内径側において軸方向に往復動自在、かつその軸方向左端部が主副弁体51と接続固定される駆動ロッド83と、駆動ロッド83の軸方向右端部に固着される可動鉄心84と、固定鉄心82と可動鉄心84との間に設けられ可動鉄心84を軸方向右方に付勢するコイルスプリング85と、固定鉄心82の外側にボビンを介して巻き付けられた励磁用のコイル86と、から主に構成されている。
【0028】
ケーシング81には、軸方向左側の内径側に軸方向右方に凹む凹部81bが形成されており、この凹部81bに対してバルブハウジング10の軸方向右端部が略密封状に挿嵌・固定されている。
【0029】
固定鉄心82は、鉄やケイ素鋼等の磁性材料である剛体から形成され、軸方向に延び駆動ロッド83が挿通される挿通孔82cが形成される円筒部82bと、円筒部82bの軸方向左端部の外周面から外径方向に延びる環状のフランジ部82dとを備え、円筒部82bの軸方向左側の内径側に軸方向右方に凹む凹部82eが形成されている。
【0030】
図2に示されるように、バルブハウジング10には、容量可変型圧縮機Mの吐出室2と連通する吐出ポートとしてのPdポート12と、容量可変型圧縮機Mの吸入室3と連通する吸入ポートとしてのPsポート13と、容量可変型圧縮機Mの制御室4と連通する制御ポートとしてのPcポート14と、が形成されている。
【0031】
バルブハウジング10は、その軸方向左端部に仕切調整部材11が略密封状に圧入されることにより有底略円筒形状を成している。尚、仕切調整部材11は、バルブハウジング10の軸方向における設置位置を調整することで、感圧体60の付勢力を調整できるようになっている。
【0032】
バルブハウジング10の内部には、Pdポート12と連通され主副弁体51の軸方向左側の端面51a側が配置される主弁室20と、Psポート13と連通され主副弁体51の背圧側、すなわち主副弁体51の軸方向右側の段部51bが配置される副弁室30と、Pcポート14と連通され感圧弁部材52、開閉部材90および感圧体60が配置される感圧室40と、が形成されている。
【0033】
また、バルブハウジング10の内部には、主副弁体51およびこの主副弁体51に挿嵌・固定された感圧弁部材52が軸方向に往復動自在に配置され、バルブハウジング10の内周面には、軸方向右端部に主副弁体51の外周面が略密封状態で摺接可能な小径のガイド孔10bが形成されている。さらに、バルブハウジング10の内部において、主弁室20と副弁室30は、主副弁体51の外周面とガイド孔10bの内周面により仕切られている。尚、ガイド孔10bの内周面と主副弁体51の外周面との間は、径方向に僅かに離間することにより微小な隙間が形成されており、主副弁体51は、バルブハウジング10に対して軸方向に円滑に相対移動可能となっている。
【0034】
図2に示されるように、感圧体60は、コイルスプリング62が内蔵されるベローズコア61と、ベローズコア61の軸方向右端部に設けられるアダプタ70と、から主に構成され、ベローズコア61の軸方向左側の端面は、仕切調整部材11に固定されている。
【0035】
また、感圧体60は、感圧室40内に配置されており、コイルスプリング62とベローズコア61によりアダプタ70を軸方向右方に移動させる付勢力によりアダプタ70の軸方向右側の端面70aを感圧弁部材52の感圧弁座52aに着座させるようになっている。また、アダプタ70は、中間連通路55における吸入圧力Psに応じて軸方向左方への力が付与されるようになっている。
【0036】
図2に示されるように、主副弁体51は、略円筒形状に構成され、その軸方向左端部には、フランジ付き円筒形状かつ側面視略砲台形状に構成される別体の感圧弁部材52が略密封状に挿嵌・固定されるとともに、その軸方向右端部には、駆動ロッド83が略密封状に挿嵌・固定されており、これらは共に軸方向に移動可能となっている。
【0037】
また、主副弁体51の外周面に形成される環状の溝のラビリンス効果により、主弁室20から副弁室30への流体の漏れを抑制することができるため、吐出室2からPdポート12を介して主弁室20に供給される吐出流体の吐出圧力Pdが維持されている。
【0038】
また、主副弁体51および感圧弁部材52の内部には、中空孔が接続されることにより軸方向に亘って貫通する中間連通路55が形成されている。尚、中間連通路55は、主副弁体51の軸方向右端部において径方向に貫通する複数の貫通孔51cを介して副弁室30と連通している。
【0039】
図2~
図4に示されるように、感圧弁部材52は、金属材料または樹脂材料により形成され、その軸方向右端部が主副弁体51と略密封状に挿嵌・固定され開閉部材90および第2コイルスプリング92が外嵌される円筒形状の基部52bと、基部52bの軸方向左端部の外周面から外径方向に延びアダプタ70の軸方向右側の端面70aと接離する感圧弁座52aが形成されるフランジ部52cと、を有するフランジ付き円筒形状かつ側面視略砲台形状に構成されている。尚、基部52bの軸方向左端部には、径方向に貫通し中間連通路55と連通する複数の貫通孔52dが設けられる。
【0040】
図2~
図4に示されるように、開閉部材90は、感圧弁部材52とは別の部材により形成され、感圧弁部材52の基部52bに外嵌される環状部としての円筒形状の基部90aと、基部90aの軸方向右端部の外周面から外径側に突出する環状の突出部90bと、を有している。尚、突出部90bは、環状に形成されるものに限らず、複数の突起が周方向に離れて配置されていてもよい。
【0041】
また、開閉部材90の基部90aの内周面は、感圧弁部材52の基部52bの外周面と摺動可能となっている。詳しくは、開閉部材90の基部90aの内周面と感圧弁部材52の基部52bの外周面との間は、径方向に僅かに離間することにより微小な隙間が形成されており、開閉部材90は、感圧弁部材52に対して軸方向に円滑に相対移動可能となっている。
【0042】
また、開閉部材90は、規制手段としての弾性体である第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92によりバルブハウジング10に対する移動が規制されている。
【0043】
詳しくは、第1コイルスプリング91は、開閉部材90に外嵌されており、その軸方向左側の端面は、バルブハウジング10の感圧室40における内周面から内径側に突出する断面視矩形状の環状受け部10dの軸方向右側の側面に当接し、その軸方向右側の端面は、開閉部材90の突出部90bの軸方向左側の側面に当接することにより、開閉部材90を感圧弁部材52の貫通孔52dを開放する開方向である軸方向右方に付勢している。また、第1コイルスプリング91は圧縮バネであり、円錐コイルバネにより構成されているため、開閉部材90に傾きや偏りが生じ、第1コイルスプリング91が径方向に変形しても、第1コイルスプリング91の内外の部品と干渉し難く、安定して保持することができる。
【0044】
また、第2コイルスプリング92は、開閉部材90の軸方向右側において感圧弁部材52の基部52bに外嵌されており、その軸方向左側の端面は、開閉部材90の基部90aの軸方向右側の端面90dに当接し、第2コイルスプリング92の軸方向右側の端面は、主副弁体51の軸方向左側の端面の内径部に当接することにより、開閉部材90を感圧弁部材52の貫通孔52dを閉塞する閉方向である軸方向左方に付勢している。また、第2コイルスプリング92は圧縮バネであり、等ピッチコイルバネにより構成されている。このように、第2コイルスプリング92は、感圧弁部材52の基部52bに外嵌され、感圧弁部材52の基部52bにガイドされるため、第2コイルスプリング92の径方向への移動・変形が生じ難くなっている。
【0045】
本実施例1における規制手段は、開閉部材90を互いに開方向と閉方向に押圧する一対のバネとしての第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92により構成されている。尚、第1コイルスプリング91のセット荷重は、第2コイルスプリング92の最大スプリング荷重よりも大きい。
【0046】
また、開閉部材90の基部90aの軸方向左側の端面90cは、感圧弁部材52に対して開閉部材90が軸方向左方に相対移動する感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞時(
図2および
図3参照)において、感圧弁部材52のフランジ部52cの軸方向右側の側面52eに当接している。これにより、開閉部材90による感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞時における開閉部材90の軸方向位置が決められている。
【0047】
さらに、感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞時において、開閉部材90の基部90aの端面90cは、第2コイルスプリング92の付勢力により感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに向けて押し付けられている。このとき、第1コイルスプリング91には、開閉部材90の突出部90bを介して第2コイルスプリング92のスプリング荷重が作用しているが、前述したように第1コイルスプリング91のセット荷重が第2コイルスプリング92の最大スプリング荷重よりも大きいため、第1コイルスプリング91は収縮せずセット長(取付長)の状態が維持される。
【0048】
尚、感圧弁部材52の貫通孔52dは、フランジ部52cの軸方向右側の側面52eよりも軸方向右側に形成されており、開閉部材90の基部90aの端面90cが感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに押し付けられた状態から貫通孔52dの軸方向左側の開口端の軸方向位置に相対移動するまでの間、開閉部材90が貫通孔52dに径方向に重畳し貫通孔52dが閉塞された状態が維持されるようになっている。
【0049】
また、
図3に示されるように、感圧弁部材52の貫通孔52dの軸方向寸法L1は、主副弁体51の最大ストローク量L2以下(L1≦L2)になっている。
【0050】
次いで、容量制御弁V1の動作、主に開閉部材90による感圧弁部材52の貫通孔52dの開閉機構の動作について通常制御時、起動時の順に説明する。
【0051】
先ず、通常制御時について説明する。通常制御時においては、容量制御弁V1のデューティ制御により、主弁50の開度や開放時間を調整してPdポート12からPcポート14への流体の流量を制御している。このとき、開閉部材90は、主副弁体51の軸方向の往復動に対して、第1コイルスプリング91が伸縮せず、第2コイルスプリング92のみが伸縮することにより、バルブハウジング10に対する移動が規制される。
【0052】
詳しくは、本実施例1の通常制御時においては、容量制御弁V1のデューティ制御により、主弁50の開度を調整するための主副弁体51のストロークは、主弁50の全開時において開閉部材90の基部90aの端面90cが感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに当接し押し付けられた状態(
図3参照)から貫通孔52dの軸方向左側の開口端の軸方向位置に相対移動するまでの範囲内に制御されることにより、開閉部材90が貫通孔52dに径方向に重畳し貫通孔52dが閉塞された状態が維持される。
【0053】
このように、通常制御時において、開閉部材90が感圧弁部材52の貫通孔52dを閉塞しているときには、制御室4、Pcポート14、感圧室40、貫通孔52d、中間連通路55、副弁室30、Psポート13、吸入室3への流路が形成されないため、制御室4から吸入室3への冷媒流出量が減少することにより、容量可変型圧縮機Mの運転効率を高めることができる。
【0054】
次に、起動時について説明する。容量可変型圧縮機Mを使用せずに長時間放置した後には、吐出圧力Pd、制御圧力Pc、吸入圧力Psは略均衡している。尚、説明の便宜上、図示を省略するが、容量可変型圧縮機Mが停止状態で長時間放置されることにより制御室4で高圧となった流体が液化することがあるが、このとき、中間連通路55内における高い吸入圧力Psにより、感圧体60が収縮してアダプタ70の軸方向右側の端面70aを感圧弁部材52の感圧弁座52aから離間させるように作動することにより、感圧弁53を開放させる。このように、例えば、起動時において吸入圧力Psが高い場合には、感圧弁53を開放させることにより、制御室4の液冷媒を中間連通路55を介して吸入室3に短時間で排出できるようになっている。
【0055】
容量制御弁V1は、非通電状態において、可動鉄心84がソレノイド80を構成するコイルスプリング85の付勢力や感圧体60を構成するコイルスプリング62とベローズコア61の付勢力により軸方向右方へと押圧されることで、駆動ロッド83、主副弁体51、感圧弁部材52が軸方向右方へ移動し、主副弁体51の軸方向右側の段部51bが固定鉄心82の副弁座82aに着座し副弁54が閉塞されるとともに、主副弁体51の軸方向左側の端面51aがバルブハウジング10の内周面に形成された主弁座10aから離間し、主弁50が開放されている(
図2および
図3参照)。このとき、開閉部材90は、前述したように第2コイルスプリング92の付勢力により感圧弁部材52に対して相対的に軸方向左方に位置し、感圧弁部材52の貫通孔52dは閉塞されている。
【0056】
容量可変型圧縮機Mを起動するとともに、容量制御弁V1を通電状態とすることで、ソレノイド80に電流が印加されることにより発生する電磁力により可動鉄心84が固定鉄心82へ向けて軸方向左側に引き寄せられ、可動鉄心84に固定された駆動ロッド83、主副弁体51、感圧弁部材52が軸方向左方へ共に移動し、感圧体60が軸方向左方に押圧されて収縮することにより、主副弁体51の軸方向右側の段部51bが副弁座82aから離間して副弁54が開放されるとともに、主副弁体51の軸方向左側の端面51aが主弁座10aに着座し、主弁50が閉塞される(
図4参照)。このとき、開閉部材90は、主副弁体51の軸方向左方への移動に対して、第1コイルスプリング91が収縮せず、第2コイルスプリング92のみが収縮することにより、バルブハウジング10に対する移動が規制され、感圧弁部材52に対して相対的に軸方向右方に移動し、感圧弁部材52の貫通孔52dは開放される。
【0057】
このように、起動時において、開閉部材90が感圧弁部材52の貫通孔52dを開放しているときには、貫通孔52dを介して感圧室40は中間連通路55と連通して流体が流れるようになっている(
図4において実線矢印で図示)。すなわち、開閉部材90が感圧弁部材52の貫通孔52dを開放させることにより、制御室4、Pcポート14、感圧室40、貫通孔52d、中間連通路55、副弁室30、Psポート13、吸入室3の順に流体を排出するための流路が形成されるため、制御室4の液化した流体を短時間で排出して起動時の応答性を高めることができる。また、開閉部材90は、起動時において、例えば前述したように吸入圧力Psにより感圧弁53が開放しない場合であっても、感圧弁部材52の貫通孔52dを開放させることにより、制御室4から中間連通路55を介して吸入室3に流体を排出するための流路を形成することができる。
【0058】
また、容量可変型圧縮機Mを最大容量で駆動する場合には、容量制御弁V1を最大デューティの通電状態とすることにより、主弁50が閉塞され、開閉部材90を感圧弁部材52に対して相対的に軸方向右方へ移動させて感圧弁部材52の貫通孔52dを開放しPcポート14とPsポート13とを連通させることができるため、制御圧力Pcを素早く低下させることができる。そのため、制御室4のシリンダ4a内におけるピストン7を速やかに可変でき、最大容量の状態を維持して運転効率を高めることができる。
【0059】
このように、容量制御弁V1の通常制御時には、感圧弁部材52の貫通孔52dを閉塞し、起動時および最大容量運転時には、感圧弁部材52の貫通孔52dを開放するように開閉部材90を感圧弁部材52に対して相対移動させることにより、容量可変型圧縮機Mの運転効率を高めることができる。
【0060】
また、本実施例1においては、規制手段としての弾性体である第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92により開閉部材90のバルブハウジング10に対する移動が規制されている。これによれば、例えば本実施例1の第1コイルスプリング91のセット荷重は、第2コイルスプリング92の最大スプリング荷重よりも大きく、正常時において第1コイルスプリング91が収縮することはないが、異常時において開閉部材90を軸方向左方に移動させる過剰な力が作用した場合には、第1コイルスプリング91を収縮させることにより、開閉部材90の軸方向左方への移動を許容し、バルブハウジング10に対する開閉部材90の移動を所定範囲内に規制することができるため、開閉部材90の破損を防止することができる。
【0061】
また、本実施例1における規制手段は、開閉部材90を互いに開方向と閉方向に押圧する一対のバネとしての第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92により構成されている。これによれば、第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92のバネ定数の違いにより開閉部材90による感圧弁部材52の貫通孔52dの開閉のタイミングを調整することができる。この場合の具体例については、実施例2において詳述する。
【0062】
また、規制手段としての第1コイルスプリング91は円錐コイルバネにより構成され、第2コイルスプリング92は感圧弁部材52の基部52bに外嵌される等ピッチコイルバネにより構成されている。これによれば、第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92の径方向の移動がそれぞれ規制されているため、第1コイルスプリング91および第2コイルスプリング92により軸方向両側から押圧される開閉部材90の傾きが抑えられ、感圧弁部材52に対して開閉部材90が円滑に摺動できるようになっている。
【0063】
また、開閉部材90と感圧弁部材52は、異なる材料により形成されていることが好ましく、摩擦抵抗が低減され、開閉部材90に対して感圧弁部材52が円滑に摺動できるようになっている。
【0064】
また、開閉部材90の基部90aの端面90cは、第2コイルスプリング92の付勢力により感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに向けて押し付けられているため、開閉部材90の閉位置を位置決めしつつ、感圧弁部材52の初動に対して開閉部材90の基部90aの端面90cが感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eから即座に離間することを防止し、開閉部材90により感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞状態を確保することができる。
【0065】
また、感圧弁部材52の貫通孔52dの軸方向寸法L1は、主副弁体51の最大ストローク量L2以下(L1≦L2)であるとともに、感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eから貫通孔52dの軸方向右側の開口端までの軸方向寸法が主副弁体51の最大ストローク量L2と略同一に構成されている。これによれば、開閉部材90を感圧弁部材52に対して相対的に軸方向右方に移動させることにより、感圧弁部材52の貫通孔52dを全開させることができるため、Pcポート14から吸入室3へ流体を排出するための流路断面積を広く確保できる。
【0066】
また、感圧弁部材52の貫通孔52dは、複数形成されているため、Pcポート14から吸入室3へ流体を排出するための流路断面積を広く確保することができる。また、複数の貫通孔52dは周方向に等配されているため、開閉部材90の感圧弁部材52に対する相対的なストロークを短くすることができる。
【0067】
また、開閉部材90は、感圧弁部材52の基部52bに対して外嵌され相対的にスライド可能な環状部としての基部90aを有しており、基部90aは周方向に途切れることなく連続しているため、基部90aにより感圧弁部材52の貫通孔52dを確実に閉塞することができる。
【0068】
また、本実施例1の開閉部材90は、感圧弁部材52の貫通孔52dを閉塞した状態において、基部90aの軸方向左端部が感圧弁部材52の貫通孔52dの軸方向左側の開口端よりも軸方向左方まで延びている。これによれば、感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに基部90aの軸方向左側の端面90cを当接させた状態から軸方向右方に相対的に所定距離以上スライドするまで感圧弁部材52の貫通孔52dが閉塞された状態を維持することができるため、振動等の外乱によって開閉部材90が僅かにスライドしても感圧弁部材52の貫通孔52dが閉塞された状態に維持される。そのため、容量制御弁V1は、外乱に強く、制御精度に優れる。
【0069】
尚、感圧弁部材52におけるフランジ部52cの側面52eに対する貫通孔52dの軸方向の形成位置や貫通孔52dの軸方向寸法を調整することにより、開閉部材90による感圧弁部材52の貫通孔52dの開閉のタイミングを調整するようにしてもよい。
【実施例2】
【0070】
実施例2に係る容量制御弁につき、
図5~
図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0071】
図5に示されるように、本実施例2の容量制御弁V2において、開閉部材290は、感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞時において、基部290aの軸方向左側の側面290cが感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eから軸方向右方に離間し、貫通孔52dの軸方向左側の開口端の軸方向位置に配置されている。
【0072】
また、本実施例2における規制手段としての弾性体である第1コイルスプリング291のバネ定数k3は、同じく規制手段としての弾性体である第2コイルスプリング292のバネ定数k2よりも大きく、かつ前記実施例1の第1コイルスプリング91のバネ定数k1よりも小さい(k1>k3>k2)。また、第1コイルスプリング291のセット荷重が主弁50の開放時における第2コイルスプリング292のスプリング荷重よりも小さく、かつ第1コイルスプリング291の最大スプリング荷重が第2コイルスプリング292の最大スプリング荷重よりも大きい。
【0073】
これによれば、容量制御弁V2の通常制御時、特に主副弁体51が主弁50の開弁位置から軸方向左方に移動する初動において、開閉部材290は、第1コイルスプリング291と第2コイルスプリング292が共に収縮することにより、感圧弁部材52に追従する。そして、主副弁体51が軸方向左方にストロークしていくにつれて、第1コイルスプリング291および第2コイルスプリング292の荷重が増加していき、第1コイルスプリング291のスプリング荷重が第2コイルスプリング292のスプリング荷重を上回ると、第1コイルスプリング291が収縮しなくなり、開閉部材290のバルブハウジング10に対する移動が開始される。
【0074】
詳しくは、通常制御時においては、容量制御弁V2のデューティ制御により、主弁50の開度を調整するための主副弁体51のストロークは、主弁50の全開時(
図5参照)から第1コイルスプリング291のスプリング荷重が第2コイルスプリング292のスプリング荷重を上回る軸方向位置に相対移動するまでの範囲に制御されることにより、開閉部材290が貫通孔52dに径方向に重畳し貫通孔52dが閉塞された状態が維持される(
図6参照)。
【0075】
また、容量制御弁V2の起動時および最大容量運転時には、開閉部材290は、主副弁体51の軸方向左方への移動に対して、第1コイルスプリング291のスプリング荷重が第2コイルスプリング292のスプリング荷重を上回り、第1コイルスプリング291が収縮せず、第2コイルスプリング292のみが収縮することによりバルブハウジング10に対する移動が規制され、感圧弁部材52に対して相対的に軸方向右方に移動し、感圧弁部材52の貫通孔52dは開放される。
【0076】
これによれば、容量制御弁V2の通常制御時には、感圧弁部材52の貫通孔52dを閉塞し、起動時および最大容量運転時には、感圧弁部材52の貫通孔52dを開放するように開閉部材290を感圧弁部材52に対して相対移動させることにより、容量可変型圧縮機Mの運転効率を高めることができる。
【0077】
また、第1コイルスプリング291は、円錐コイルバネにより構成され、非線形特性を有することから、一対のバネとしての第1コイルスプリング291と第2コイルスプリング292との荷重バランスを調整することにより開閉部材290による感圧弁部材52の貫通孔52dの開閉のタイミングを自由に調整することができる。
【0078】
尚、開閉部材290は、感圧弁部材52の貫通孔52dの閉塞時において、基部290aの側面290cを感圧弁部材52のフランジ部52cの側面52eに当接させることにより、軸方向右方に相対的に所定距離以上スライドするまで感圧弁部材52の貫通孔52dが閉塞された状態を確実に維持できるようにしてもよい。
【実施例3】
【0079】
実施例3に係る容量制御弁につき、
図8および
図9を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0080】
図8および
図9に示されるように、本実施例3の容量制御弁V3において、開閉部材390は、バルブハウジング310の感圧室40における内周面に圧入固定される規制手段としての環状のストッパ393に対して、突出部390bの軸方向左側の側面を当接させた状態で、規制手段としての弾性体であるコイルスプリング392によりストッパ393へ向けて軸方向左方に押し付けられることによりバルブハウジング310に対する移動が規制されている。
【0081】
また、突出部390bは、環状部としての円筒形状の基部390aの外周に複数の突起が周方向に離れて等配されることにより構成されており、通電状態で主弁50を制御する際において主弁50の開放により突出部390bを構成する突起の間を通してPdポート12からPcポート14へ流れる流体の流れが維持される(
図8参照)。尚、突出部390bは周方向に複数配置されていれば、等配されていなくてもよい。
【0082】
これによれば、開閉部材390に対するストッパ393の当接位置を変えることで、主副弁体51のストローク中における開閉部材390による感圧弁部材52の貫通孔52dの開放開始位置や開放量を変更することができ、これらの設定をしやすい。
【0083】
尚、開閉部材390の突出部390bは、環状に形成されるものであってもよいが、この場合、Pdポート12からPcポート14へ流れる流体の流れを維持するために、ストッパ393よりも内径側において突出部を軸方向に貫通する貫通孔を設けてもよい。
【実施例4】
【0084】
実施例4に係る容量制御弁につき、
図10および
図11を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0085】
図10および
図11に示されるように、本実施例4の容量制御弁V4において、開閉部材490は、感圧弁部材52の基部52bに外嵌される環状部としての円筒形状の基部490aを有しており、基部490aの外周面には周方向に延びる溝490bが形成されている。溝490bには、規制手段としての略C字状の固定部材493が挿嵌・固定されている。尚、固定部材493には、軸方向に貫通する貫通孔493aが周方向に複数等配されている。また、貫通孔493aは等配されていなくてもよい。
【0086】
開閉部材490は、固定部材493が挿嵌・固定された状態でバルブハウジング410の感圧室40内に圧入固定されることにより、バルブハウジング410に対する移動が規制されている。
【0087】
これによれば、固定部材493による固定によってバルブハウジング410に対する開閉部材490の移動が規制されるため、規制手段にバネ等が不要であり、構造を簡素化することができる。
【0088】
また、固定部材493には、Pdポート12とPcポート14とを連通する貫通孔493aが形成されているため、通電状態で主弁50を制御する際において主弁50の開放により略C字状の固定部材493の両端部の間における周方向の隙間だけでなく、貫通孔493aを通してPdポート12からPcポート14へ流れる流体の流れが維持される(
図10参照)。
【0089】
尚、本実施例4においては、開閉部材490が固定部材493を介してバルブハウジング410に固定されるものとして説明したが、これに限らず、開閉部材の外周面がバルブハウジングの内周面に直接固定されていてもよい。
【0090】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0091】
例えば、前記実施例では、開閉部材は、感圧弁部材に対して相対的に軸方向に往復動するものとして説明したが、これに限らず、例えば感圧弁部材に対して回転摺動しながら相対的に軸方向に往復動するものであってもよい。
【0092】
また、前記実施例では、開閉部材は、通常制御時において感圧弁部材52の貫通孔52dを完全に閉塞した状態を維持するものとして説明したが、これに限らず、開閉部材は通常制御時において貫通孔52dを僅かに開放させた状態、例えば貫通孔52dの軸方向の半分以上を閉塞した状態を維持するものであってもよい。
【0093】
また、前記実施例1,2では、規制手段を構成する第1コイルスプリング91,291が円錐コイルバネにより構成されるものとして説明したが、これに限らず、例えば第2コイルスプリングと同じ等ピッチコイルバネ等のバネにより構成されてもよい。また、規制手段としての弾性体は、コイル形状以外のバネであってもよい。
【0094】
また、前記実施例では、主副弁体と感圧弁部材とを別体で構成する例について説明したが、両者は一体に形成されていてもよい。
【0095】
また、感圧弁部材52は、基部52bとフランジ部52cとが別体に形成されていてもよい。
【0096】
また、容量可変型圧縮機Mの制御室4と吸入室3とを直接連通する連通路および固定オリフィスは設けなくてもよい。
【0097】
また、副弁54は設けなくともよく、主副弁体51の軸方向右側の段部51bは、軸方向の荷重を受ける支持部材として機能すればよく、必ずしも密閉機能は必要ではない。
【0098】
また、感圧室40はソレノイド80が設けられる主弁室20の軸方向右側に設けられるとともに、副弁室30は主弁室20の軸方向左側に設けられていてもよい。
【0099】
また、感圧体60は、内部にコイルスプリングを使用しないものであってもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 ケーシング
2 吐出室
3 吸入室
4 制御室
10 バルブハウジング
10a 主弁座
10c 環状凸部
10d 環状受け部
11 仕切調整部材
12 Pdポート(吐出ポート)
13 Psポート(吸入ポート)
14 Pcポート(制御ポート)
20 主弁室
30 副弁室
40 感圧室
50 主弁
51 主副弁体(弁体)
51c 貫通孔
52 感圧弁部材
52a 感圧弁座
52b 基部
52c フランジ部
52d 貫通孔
52e 側面
53 感圧弁
54 副弁
55 中間連通路
60 感圧体
70 アダプタ
70a 軸方向右側の端面
80 ソレノイド
90 開閉部材
90a 基部(環状部)
90b 突出部
90c 端面
90d 端面
91 第1コイルスプリング(規制手段,弾性体,一対のバネ)
92 第2コイルスプリング(規制手段,弾性体,一対のバネ)
290 開閉部材
291 第1コイルスプリング(規制手段,弾性体,一対のバネ)
292 第2コイルスプリング(規制手段,弾性体,一対のバネ)
390 開閉部材
390a 基部(環状部)
390b 突出部
392 コイルスプリング(規制手段,弾性体)
393 ストッパ(規制手段)
490 開閉部材
490a 基部(環状部)
490b 溝
493 固定部材(規制手段)
493a 貫通孔
M 容量可変型圧縮機
V1~V4 容量制御弁