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特許7516014回転機構、減速機および回転機構の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】回転機構、減速機および回転機構の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/04 20060101AFI20240708BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20240708BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240708BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
F16C43/04
F16C33/46
F16C33/78 Z
F16C19/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019119462
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004659
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】古田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 和彦
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-035458(JP,A)
【文献】特開2016-166678(JP,A)
【文献】特開2019-035465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66,
33/72-33/82,35/00-39/06,
43/00-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーレースを有する内側部材と、
アウターレースを有し、前記内側部材と相対回転可能に設けられ、内周面に支持溝が形成された外側部材と、
前記インナーレースと前記アウターレースとの間に配置され複数の転動体を保持するとともに、前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に、前記支持溝に入り込むとともに前記複数の転動体が前記アウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持される被支持手段を有する保持器と、
を備え、
前記外側部材の内側に前記保持器を軸方向の外側から挿入できる回転機構。
【請求項2】
内側部材と、
前記内側部材と相対回転可能に設けられた外側部材と、
前記内側部材と前記外側部材との間に配置され複数の転動体を保持する保持器を有する軸受と、
前記内側部材と前記外側部材との間に介在するシール部材と、
前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に、前記複数の転動体が前記軸受のアウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持されて前記保持器を前記シール部材と前記軸受のアウターレースとの間に留める被支持手段と、
を備え、
前記外側部材の内側に前記保持器を軸方向の外側から挿入できる回転機構。
【請求項3】
前記シール部材は前記保持器よりも前記軸方向の外側に位置し、
前記内側部材は前記外側部材よりも前記軸方向の外側で径方向の外側に張り出したフランジ部を有し、
前記シール部材の内径は前記フランジ部の外径および前記保持器の外径よりも小さい
請求項2に記載の回転機構。
【請求項4】
内部に減速機構が配置され、内周面に支持溝が形成された外側部材と、
前記外側部材の内周側で前記外側部材の所定の軸線と同軸上に配置され前記外側部材と相対回転可能に設けられた内側部材と、
前記内側部材に設けられ前記外側部材よりも軸方向の外側で径方向の外側に張り出したフランジ部と、
前記内側部材と前記外側部材との間に配置され複数の転動体を保持する保持器を有する軸受と、
前記内側部材と前記外側部材との間に介在し前記保持器よりも前記軸方向の外側に位置し、前記フランジ部の外径および前記保持器の外径よりも小さい内径のシール部材と、
前記保持器に設けられ前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に前記支持溝に入り込むとともに前記軸受の前記転動体がアウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持される被支持手段と、
を備え、
前記外側部材の内側に前記保持器を前記軸方向の外側から挿入できる減速機。
【請求項5】
アウターレースまたはアウターレースを有する外側部材の内側に軸方向の外側から保持器を挿入して、前記外側部材の内周面に形成された支持溝に前記保持器の被支持部を引っ掛けることにより、転動体が前記アウターレースの転動面に接触する状態で前記保持器を支持する第1工程と、
前記第1工程の後にインナーレースを有する内側部材を前記外側部材の内周に配置する第2工程と、
を備える回転機構の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の回転機構の製造方法において、
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記内側部材と前記外側部材とをシールするシール部材を前記外側部材に取り付けるシール取付工程を備える
回転機構の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機構、減速機および回転機構の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減速機等の回転機構において、出力軸等の内側部材と、内側部材の外周側に配置され内側部材と相対回転可能に設けられたキャリア等の外側部材との間にころ軸受を配置する場合がある。ころ軸受としては、例えばインナーレースと、アウターレースと、インナーレースとアウターレースとの間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを保持する保持器とを備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-36327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ころ軸受は、インナーレースが装着された内側部材をアウターレースが装着された外側部材に組み付けることで、回転機構の所定位置で組み上げられる。この際、保持器が位置ずれする場合がある。
【0005】
そこで本発明は、保持器の位置ずれを抑制しつつ、軸受を組み上げることができる回転機構、減速機、および回転機構の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る回転機構は、インナーレースを有する内側部材と、アウターレースを有し、前記内側部材と相対回転可能に設けられ、内周面に支持溝が形成された外側部材と、前記インナーレースと前記アウターレースとの間に配置され複数の転動体を保持するとともに、前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に、前記支持溝に入り込むとともに前記複数の転動体が前記アウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持される被支持手段を有する保持器と、を備え、前記外側部材の内側に前記保持器を軸方向の外側から挿入できる。
【0007】
本発明の一態様に係る回転機構では、軸受のアウターレースが外側部材に装着され、インナーレースが内側部材に装着された状態で、内側部材を外側部材の内側に挿入することで内側部材を外側部材に組み付ける。この際、被支持手段によって保持器が所定位置に支持されているので、保持器が所定位置に支持されていない場合と比較して、保持器の位置ずれを抑制できる。したがって、保持器の位置ずれを抑制しつつ、軸受を組み上げることができる回転機構を提供できる。
【0010】
本発明の一態様に係る回転機構は、内側部材と、前記内側部材と相対回転可能に設けられた外側部材と、前記内側部材と前記外側部材との間に配置され複数の転動体を保持する保持器を有する軸受と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在するシール部材と、前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に、前記複数の転動体が前記軸受のアウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持されて前記保持器を前記シール部材と前記軸受のアウターレースとの間に留める被支持手段と、を備え、前記外側部材の内側に前記保持器を軸方向の外側から挿入できる
【0011】
本発明の一態様に係る回転機構では、軸受のアウターレースが外側部材に装着され、インナーレースが内側部材に装着された状態で、内側部材を外側部材の内側に挿入することで内側部材を外側部材に組み付ける。この際、被支持手段によって保持器がシール部材と軸受のアウターレースとの間に留まっているので、保持器がシール部材に干渉することを抑制できる。したがって、保持器の位置ずれを抑制しつつ、軸受を組み上げることができる回転機構を提供できる。
【0012】
上記態様の回転機構であって、前記シール部材は前記保持器よりも前記軸方向の外側に位置し、前記内側部材は前記外側部材よりも前記軸方向の外側で径方向の外側に張り出したフランジ部を有し、前記シール部材の内径は前記フランジ部の外径および前記保持器の外径よりも小さくてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る減速機は、内部に減速機構が配置され、内周面に支持溝が形成された外側部材と、前記外側部材の内周側で前記外側部材の所定の軸線と同軸上に配置され前記外側部材と相対回転可能に設けられた内側部材と、前記内側部材に設けられ前記外側部材よりも軸方向の外側で径方向の外側に張り出したフランジ部と、前記内側部材と前記外側部材との間に配置され複数の転動体を保持する保持器を有する軸受と、前記内側部材と前記外側部材との間に介在し前記保持器よりも前記軸方向の外側に位置し、前記フランジ部の外径および前記保持器の外径よりも小さい内径のシール部材と、前記保持器に設けられ前記内側部材を前記外側部材に組み付ける際に前記支持溝に入り込むとともに前記軸受の前記転動体がアウターレースの転動面に接触する状態で前記外側部材に支持される被支持手段と、を備え、前記外側部材の内側に前記保持器を前記軸方向の外側から挿入できる。
【0014】
本発明の一態様に係る減速機によれば、保持器の位置ずれを抑制しつつ、軸受を組み上げることができる。
【0015】
本発明の一態様に係る回転機構の製造方法は、アウターレースまたはアウターレースを有する外側部材の内側に軸方向の外側から保持器を挿入して、前記外側部材の内周面に形成された支持溝に前記保持器の被支持部を引っ掛けることにより、転動体が前記アウターレースの転動面に接触する状態で前記保持器を支持する第1工程と、前記第1工程の後にインナーレースを有する内側部材を前記外側部材の内周に配置する第2工程と、を備える。
【0016】
本発明の一態様に係る回転機構の製造方法によれば、保持器がアウターレースまたは外側部材から落下することを抑制しつつ、インナーレースを有する内側部材を外側部材の内周に配置する際に軸受を組み上げることができる。この際、保持器がアウターレースまたは外側部材に支持されているので、アウターレースに対する保持器の位置ずれが抑制される。したがって、保持器の位置ずれを抑制しつつ軸受を組み上げることができる。
【0017】
上記態様の回転機構の製造方法であって、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記内側部材と前記外側部材とをシールするシール部材を前記外側部材に取り付けるシール取付工程を備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の回転機構、減速機および回転機構の製造方法によれば、保持器の位置ずれを抑制しつつ、軸受を組み上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る減速機の半断面図である。
図2図1に示す減速機の断面の一部を拡大して示す図である。
図3】実施形態に係る減速機の組み立て方法を説明する図である。
図4】実施形態に係る減速機の組み立て方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る減速機1(回転機構)について添付の図面を参照して説明する。本実施形態の減速機1は、例えばロボットアームの関節部等に適用される偏心揺動型の歯車伝動装置である。
【0021】
減速機1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る減速機の半断面図である。
図1に示すように、減速機1は、出力軸としてのキャリア2(内側部材)と、キャリア2の外周側でキャリア2の中心軸線(軸線O)と同軸上に配置されたケース3(外側部材)と、図示しない入力軸の回転を減速してキャリア2に伝達する減速機構4と、キャリア2とケース3との間に配置された第1主軸受5、第2主軸受6およびオイルシール7(シール部材)と、を備える。減速機1は、入力軸をケース3に対して回転させ、入力軸の入力回転から減速した出力回転を得るように、ケース3とキャリア2とを軸線O回りに相対回転させる偏心揺動型の歯車伝動装置である。なお、以下の説明では、軸線Oに沿う方向を軸方向といい、軸線Oに直交して軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、以下の説明で用いる「軸方向の内側」はケース3の中心側を意味し、「軸方向の外側」はケース3の中心とは反対側を意味する。
【0022】
ケース3は、軸線Oを中心とする円筒状に形成されている。ケース3の内周面11は、複数のピン溝12aが形成された内歯部12と、第1主軸受5のアウターレース51(図2参照)を保持する第1アウターレース保持部13と、第2主軸受6のアウターレース61を保持する第2アウターレース保持部14と、オイルシール7を保持するシール部15と、を備える。
【0023】
内歯部12は、ケース3の内周面11における軸方向の中間部に形成されている。なお、本実施形態で用いる「中間」とは、対象の両端間の中央のみならず、対象の両端間の内側の範囲を含む意とする。複数のピン溝12aは、それぞれ軸方向に延びている。複数のピン溝12aは、周方向に等間隔に配置されている。各ピン溝12aには、円柱状の内歯ピン19が回転可能に保持されている。
【0024】
第1アウターレース保持部13および第2アウターレース保持部14は、内歯部12を挟んで互いに反対側に位置している。第1アウターレース保持部13および第2アウターレース保持部14は、それぞれ内歯部12に軸方向で隣接している。第1アウターレース保持部13は、内歯部12に対して軸方向の第1側に位置している。第1アウターレース保持部13は、軸線Oを中心として一定の内径で軸方向に延びている。第1アウターレース保持部13は、内歯部12のピン溝12aの底部よりも径方向の外側に位置している。第1アウターレース保持部13は、周方向および径方向に延びる段差面16を介して内歯部12に接続している。第2アウターレース保持部14は、内歯部12に対して軸方向の第2側に位置している。第2アウターレース保持部14は、軸線Oを中心として一定の内径で軸方向に延びている。第2アウターレース保持部14は、内歯部12のピン溝12aの底部よりも径方向の外方に位置している。本実施形態では、第2アウターレース保持部14の内径は、第1アウターレース保持部13の内径と等しい。第2アウターレース保持部14は、周方向および径方向に延びる段差面17を介して内歯部12に接続している。第2アウターレース保持部14は、ケース3の内周面11における軸方向の第2側の端部を含む。
【0025】
シール部15は、第1アウターレース保持部13を挟んで内歯部12とは反対側に位置している。シール部15は、第1アウターレース保持部13に軸方向で隣接している。シール部15は、軸線Oを中心として一定の内径で延びている。シール部15の内径は、第1アウターレース保持部13の内径よりも大きい。シール部15は、周方向および径方向に延びる段差面18を介して第1アウターレース保持部13に接続している。シール部15は、ケース3の内周面11における軸方向の第1側の端部を含む。
【0026】
キャリア2は、軸線Oを中心とする円筒状に形成されている。キャリア2は、ケース3の内側に配置されている。キャリア2は、ケース3から軸方向の両側に突出している。キャリア2は、第1キャリアブロック20と第2キャリアブロック30とに軸方向に分割可能に形成されている。第1キャリアブロック20は、キャリア2の内側に軸方向の第1側から挿入可能に形成されている。第2キャリアブロック30は、キャリア2の内側に軸方向の第2側から挿入可能に形成されている。第1キャリアブロック20および第2キャリアブロック30は、互いに締結されて一体化している。
【0027】
第1キャリアブロック20は、基部21と、複数の支柱部28(図1では1つのみ図示)と、を備える。基部21は、ケース3の内歯部12に対して軸方向で第1アウターレース保持部13と同じ側に配置されている。基部21は、軸線Oを中心とする円盤状に形成されている。基部21は、第1主軸受5を介してケース3に支持されている。
【0028】
基部21の外周面22は、第1主軸受5のインナーレース52(図2参照)を保持する第1インナーレース保持部23と、オイルシール7を保持するシール部24と、を備える。第1インナーレース保持部23の少なくとも一部は、ケース3の第1アウターレース保持部13に径方向で対向している。第1インナーレース保持部23は、軸線Oを中心として一定の外径で軸方向に延びている。第1インナーレース保持部23は、基部21の外周面22における軸方向の内側の端部を含む。シール部24は、ケース3のシール部15に径方向で対向している。シール部24は、第1インナーレース保持部23に軸方向で隣接している。シール部24の少なくとも一部は、第1インナーレース保持部23に対して軸方向の外側に位置している。シール部24は、軸線Oを中心として一定の外径で延びている。シール部24の外径は、第1インナーレース保持部23の外径よりも大きい。シール部24は、周方向および径方向に延びる段差面25を介して第1インナーレース保持部23に接続している。
【0029】
基部21は、軸方向の外側の端部にフランジ部26を備える。フランジ部26は、シール部24に軸方向で隣接し、シール部24を挟んで第1インナーレース保持部23とは反対側に位置している。フランジ部26の外周面は、シール部24よりも径方向の外側に張り出している。フランジ部26は、軸方向から見てケース3における軸方向でシール部15側の端部に重なっている。フランジ部26における軸方向の外側を向く面は、減速機1の出力を受け取る被駆動部が装着される装着面27とされている。装着面27には、被駆動部を締結するためのめねじが形成されている。
【0030】
複数の支柱部28は、基部21と一体的に設けられている。複数の支柱部28は、基部21から軸方向に突出している。複数の支柱部28は、ケース3の内歯部12の内側に位置している。複数の支柱部28は、周方向に等間隔で配置されている。
【0031】
第2キャリアブロック30は、軸方向においてケース3の内歯部12を挟んで第1キャリアブロック20の基部21とは反対側に配置されている。すなわち第2キャリアブロック30は、基部21に対して軸方向に間隔をあけて配置されている。第2キャリアブロック30は、第2主軸受6を介してケース3に支持されている。第2キャリアブロック30は、複数の支柱部28に対し、基部21とは反対側から取り付け可能に形成されている。具体的に、第2キャリアブロック30は、複数の支柱部28の突端部に締結され、第1キャリアブロック20と一体化している。
【0032】
第2キャリアブロック30の外周面31は、第2主軸受6のインナーレース62を保持する第2インナーレース保持部32を備える。第2インナーレース保持部32の少なくとも一部は、ケース3の第2アウターレース保持部14に径方向で対向している。第2インナーレース保持部32は、軸線Oを中心として一定の外径で軸方向に延びている。第2インナーレース保持部32は、第2キャリアブロック30の外周面31における軸方向の内側の端部を含む。第2インナーレース保持部32における軸方向の外側の端部には、周方向および径方向に延びる段差面33が接続している。
【0033】
第1キャリアブロック20の基部21と第2キャリアブロック30との隙間には、減速機構4の一部を構成する第1揺動歯車41および第2揺動歯車42が配置されている。第1揺動歯車41および第2揺動歯車42は、ケース3の内歯部12の内径よりも小さい外径を有する円盤状に形成されている。第1揺動歯車41および第2揺動歯車42は、キャリア2に対して揺動回転可能、かつキャリア2と同期して軸線O回りを自転可能になっている。第1揺動歯車41および第2揺動歯車42のそれぞれには、複数の支柱部28と同数の逃げ孔43が形成されている。各逃げ孔43には、支柱部28が1つずつ挿通されている。各逃げ孔43は、各支柱部28が第1揺動歯車41および第2揺動歯車42の揺動回転を妨げないように、支柱部28に対して充分に大きい内径に形成されている。第1揺動歯車41および第2揺動歯車42それぞれの外周面には、ケース3の複数の内歯ピン19に噛み合う外歯44が形成されている。第1揺動歯車41および第2揺動歯車42のそれぞれは、ケース3の複数の内歯ピン19の一部に噛み合いながら入力軸の駆動力を受けて揺動回転すると、キャリア2とともにケース3に対して軸線O回りを自転する。
【0034】
図2は、図1に示す減速機の断面の一部を拡大して示す図である。
図2に示すように、第1主軸受5は、円すいころ軸受である。第1主軸受5は、ケース3と第1キャリアブロック20の基部21との間に配置されている。第1主軸受5は、アウターレース51と、インナーレース52と、複数のころ53(転動体)と、保持器54と、を備える。
【0035】
アウターレース51は、軸線Oを中心とする円環状に形成されている。アウターレース51は、ケース3の第1アウターレース保持部13に嵌め合わされている。アウターレース51は、段差面16に軸方向の外側から接触している。アウターレース51には、軸線Oに対して傾斜した外転動面51aが形成されている。外転動面51aは、径方向の内側かつ軸方向の外側を向いている。
【0036】
インナーレース52は、アウターレース51と同軸の円環状に形成されている。インナーレース52は、第1キャリアブロック20の基部21の第1インナーレース保持部23に嵌め合わされている。インナーレース52は、段差面25に軸方向の内側から接触している。インナーレース52には、軸線Oに対して傾斜した内転動面52aが形成されている。内転動面52aは、アウターレース51の外転動面51aに対向している。内転動面52aは、径方向の外側かつ軸方向の内側を向いている。
【0037】
複数のころ53は、それぞれアウターレース51とインナーレース52との間に配置されている。複数のころ53は、周方向に等間隔に並んでいる。複数のころ53は、アウターレース51の外転動面51a上、およびインナーレース52の内転動面52a上を転動しながら軸線O回りを周回する。
【0038】
保持器54は、アウターレース51とインナーレース52との間に配置されている。保持器54は、複数のころ53を保持する。保持器54は、周方向に延びる第1環状部55および第2環状部56と、第1環状部55と第2環状部56とを接続する複数の接続部57と、を備える。第1環状部55は、保持器54における径方向の内側の端部に位置している。第1環状部55は、複数のころ53の一端面に沿って延びている。第2環状部56は、第1環状部55よりも軸方向の外側かつ径方向の外側に位置している。第2環状部56は、複数のころ53の他端面に沿って延びている。各接続部57は、軸方向から見て径方向に沿って延びている。複数の接続部57は、周方向に所定の間隔で並んでいる。各接続部57は、アウターレース51の外転動面51aとインナーレース52の内転動面52aとの間を延びて、第1環状部55と第2環状部56とを連結している。保持器54は、第1環状部55、第2環状部56、および隣り合う一対の接続部57によって囲われた各ポケットにころ53を1つずつ保持している。
【0039】
図1に示すように、第2主軸受6は、円すいころ軸受である。第2主軸受6は、ケース3と第2キャリアブロック30との間に配置されている。第2主軸受6は、アウターレース61と、インナーレース62と、複数のころ63と、保持器64と、を備える。
【0040】
アウターレース61は、軸線Oを中心とする円環状に形成されている。アウターレース61は、ケース3の第2アウターレース保持部14に嵌め合わされている。アウターレース61は、段差面17に軸方向の外側から接触している。インナーレース62は、アウターレース61と同軸の円環状に形成されている。インナーレース62は、第2キャリアブロック30の第2インナーレース保持部32に嵌め合わされている。インナーレース62は、インナーレース62と段差面33との間に介装されたスペーサに接触している。複数のころ63は、それぞれアウターレース61とインナーレース62との間に配置されている。複数のころ63は、周方向に等間隔に並んでいる。複数のころ63は、アウターレース61の転動面上、およびインナーレース62の転動面上を転動しながら軸線O回りを周回する。保持器64は、アウターレース61とインナーレース62との間に配置されている。保持器64は、複数のころ63を保持する。
【0041】
図2に示すように、オイルシール7は、ケース3と第1キャリアブロック20の基部21との間に介在している。オイルシール7は、軸線Oを中心とする円環状に形成されている。オイルシール7は、ケース3の内周面11および第1キャリアブロック20の基部21の外周面22の双方に全周にわたって密に接している。具体的に、オイルシール7は、第1主軸受5よりも軸方向の外側で、ケース3の内周面11および第1キャリアブロック20の基部21の外周面22の双方に接している。本実施形態では、オイルシール7は、ケース3の内周面11のシール部15と、第1キャリアブロック20の基部21の外周面22のシール部24に接している。オイルシール7は、内周部に第1キャリアブロック20の基部21の外周面22に接するリップ7aを備える。オイルシール7の内径は、フランジ部26の外径および第1主軸受5の保持器54の外径よりも小さい。
【0042】
減速機1は、第1主軸受5の保持器54を所定位置に支持可能な支持手段8をさらに備える。本実施形態における所定位置は、ケース3に対する保持器54の位置であって、保持器54に保持された複数のころ53がアウターレース51の外転動面51aに接触する状態での位置である。支持手段8は、ケース3に設けられた支持溝71と、保持器54に設けられた被支持部72(被支持手段)と、を備える。
【0043】
支持溝71は、ケース3の内周面11のうち、軸方向で第1主軸受5のアウターレース51とオイルシール7との間に形成されている。支持溝71は、第1アウターレース保持部13に形成されている。支持溝71は、周方向に延びている。支持溝71は、第1アウターレース保持部13の全周にわたって延びている。
【0044】
被支持部72は、第1主軸受5の保持器54の第2環状部56から径方向の外側に突出している。被支持部72は、第1主軸受5のアウターレース51よりも径方向の外側まで突出している。被支持部72は、第2環状部56の全周にわたって延びている。なお、被支持部72は、周方向の一部のみに設けられていてもよい。被支持部72における径方向の外側の端部は、支持溝71に入り込んでいる。被支持部72は、支持溝71に軸方向の内側から接触している。これにより、保持器54は、アウターレース51とインナーレース52との間に複数のころ53が挟まれていなくても所定位置に留まる。被支持部72は、案内面73を有する。案内面73は、被支持部72における径方向の外側の端部から径方向の内側かつ軸方向の内側に延びている。
【0045】
減速機1の組み立て方法について説明する。
図3および図4は、実施形態に係る減速機の組み立て方法を説明する図である。
図3に示すように、キャリア2をケース3に組み付ける際には、予めケース3に第1主軸受5のアウターレース51、複数のころ53、および保持器54とオイルシール7とを装着する。具体的に、以下の手順で装着する。まずアウターレース51をケース3の内周面11に装着する。次いで、複数のころ53を保持した保持器54を軸方向の外側からケース3の内側に挿入し、支持溝71に保持器54の被支持部72を引っ掛ける(第1工程)。これにより、保持器54が支持手段8によって所定位置でケース3に支持される。さらにオイルシール7をケース3の内側に挿入し、ケース3の内周面に装着する(シール取付工程)。また、キャリア2を第1キャリアブロック20と第2キャリアブロック30とに分割しておき、予め第1キャリアブロック20の基部21の外周面22に第1主軸受5のインナーレース52を装着する。
【0046】
続いて、図4に示すように、第1キャリアブロック20のフランジ部26における装着面27を下方に向けた状態で第1キャリアブロック20を作業台等に配置する。次いで、ケース3を第1キャリアブロック20に鉛直上方から接近させることにより、第1キャリアブロック20をケース3の内周に配置する(第2工程)。この際、第1主軸受5の保持器54は、支持手段8によって所定位置に支持され、オイルシール7とアウターレース51との間に留まっている。これにより、第1主軸受5が組み上げられるとともに、オイルシール7を介在した状態でケース3に第1キャリアブロック20が組み付けられ、さらにオイルシール7がケース3と第1キャリアブロック20との間に介在する。その後、ケース3の上方からケース3の内側に第2キャリアブロック30を挿入し、第2キャリアブロック30を第1キャリアブロック20に締結する。以上によりキャリア2がケース3に組み付けられる。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態の減速機1は、キャリア2の第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける際に所定位置に支持される被支持部72を有する第1主軸受5の保持器54を備える。この構成では、第1主軸受5のアウターレース51がケース3に装着され、インナーレース52が第1キャリアブロック20に装着された状態で、第1キャリアブロック20をケース3の内側に挿入することで第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける。この際、被支持部72によって保持器54が所定位置に支持されているので、保持器が所定位置に支持されていない場合と比較して、保持器54の位置ずれを抑制できる。したがって、保持器54の位置ずれを抑制しつつ、第1主軸受5を組み上げることができる減速機1を提供できる。
【0048】
ところで、従来のころ軸受は、ころおよび保持器がインナーレースに支持された状態で組み上げられる。しかしながら、ころ軸受の周辺の構造によっては、キャリア等の内側部材をケース等の外側部材に組み付ける際に保持器が他の部品に干渉する。このため、保持器が内側部材に支持された状態で内側部材を外側部材に組み付けることができない場合がある。
【0049】
本実施形態では、被支持部72は、ケース3に支持される。ここで、第1キャリアブロック20は、インナーレース52を装着可能とすべくインナーレース52の内側に挿入可能になっているので、インナーレース52よりも内径の大きい保持器54の内側に挿入可能である。よって、第1キャリアブロック20をケース3の内側に挿入する際に、ケース3に支持された保持器54が第1主軸受5以外の部品に干渉することを回避できる。したがって、保持器54の位置ずれを抑制しつつ、第1主軸受5を組み上げることができる。
【0050】
また、被支持部72によって、複数のころ53がアウターレース51の外転動面51aに接触する位置に保持器54が支持される。この構成によれば、第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける際に保持器54が変位しないので、保持器54の位置ずれをより確実に抑制できる。
【0051】
また、被支持部72は、第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける際に保持器54をオイルシール7とアウターレース51との間に留める。このため、第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける際に、保持器54がオイルシール7に干渉することを抑制できる。したがって、上述した効果を奏することができる。
【0052】
また、支持手段8は、ケース3および保持器54に形成されている。この構成によれば、新たな部品を設けることなく支持手段8を形成できる。よって、部品点数の増加を抑制できるとともに、部品点数の増加による製造性の悪化を抑制できる。したがって、減速機1の製造コストの増加を抑制できる。
【0053】
特に本実施形態では、支持手段8は、ケース3の内周面11に形成された支持溝71と、保持器54が有し支持溝71に入り込む被支持部72と、を備える。この構成によれば、被支持部72が支持溝71に引っ掛かることで、保持器54がケース3に支持される。したがって、簡易な構成で支持手段8を形成できる。
【0054】
また、オイルシール7の内径は、第1キャリアブロック20のフランジ部26の外径および第1主軸受5の保持器54の外径よりも小さい。この構成では、オイルシール7の内側にフランジ部26を通過させることができないので、ケース3に第1キャリアブロック20を組み付ける前にオイルシール7をケース3に装着する必要がある。また、オイルシール7の内側に保持器54を通過させることができないので、ケース3にオイルシール7を装着する前に保持器54をオイルシール7とアウターレース51との間に配置する必要がある。よって、ケース3に第1キャリアブロック20を組み付ける前に、保持器54をオイルシール7とアウターレース51との間に配置して支持手段8により支持させる必要がある。このため、上述した作用効果を得るのに好適な減速機1とすることができる。
【0055】
また、アウターレース51の外転動面51aは、軸方向の外側を向いている。アウターレースの転動面が軸方向の内側に向いている構成では、キャリアをケースに組み付ける前に保持器をケース側に支持させると、保持器にインナーレースが干渉するので、キャリアをケースに組み付けることができない。一方で本実施形態の構成では、第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける前にアウターレース51をケース3に装着して保持器54をケース3側に支持させることができる。よって、上述した作用効果を得るのに好適な減速機1とすることができる。
【0056】
本実施形態の減速機1の製造方法は、ケース3で保持器54を支持した後、第1キャリアブロック20をケース3の内周に配置する。この製造方法によれば、保持器54がケース3から落下することを抑制しつつ、第1キャリアブロック20をケース3の内周に配置する際に第1主軸受5を組み上げることができる。この際、保持器54がケース3に支持されているので、アウターレース51に対する保持器54の位置ずれが抑制される。したがって、保持器54の位置ずれを抑制しつつ第1主軸受5を組み上げることができる。
【0057】
また、ケース3で保持器54を支持した後、第1キャリアブロック20をケース3の内周に配置する前に、オイルシール7をケース3に取り付ける。このため、第1キャリアブロック20をケース3に組み付ける際に、保持器54がオイルシール7に干渉することを抑制できる。したがって、上述した効果を奏することができる。
【0058】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、第1主軸受5が円すいころ軸受であるが、これに限定されず、アンギュラ玉軸受であってもよい。
【0059】
また、上記実施形態の支持手段8は、複数のころ53がアウターレース51の外転動面51aに接触する位置に保持器54を支持する。しかしながら支持手段が保持器を支持する位置はこれに限定されない。支持手段は、複数のころ53がアウターレース51の外転動面51aに接触する位置から軸方向の外側にずれた位置に保持器を支持してもよい。この構成であっても、キャリアをケースに組み付ける際に保持器および複数のころはインナーレースによって押圧され、複数のころ53がアウターレース51の外転動面51aに接触する位置に保持器を移動させることができる。なお、支持手段は、キャリアをケースに組み付ける際に保持器を支持可能であればよく、キャリアがケースに組み付けられた状態で保持器を支持していなくてもよい。すなわち、第1主軸受が組み上げられた状態では、支持手段は保持器を支持していなくてもよい。
【0060】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…減速機 2…キャリア(内側部材) 3…ケース(外側部材) 5…第1主軸受(軸受) 7…オイルシール(シール部材) 26…フランジ部 51…アウターレース 52…インナーレース 53…ころ(転動体) 54…保持器 72…被支持部(被支持手段)
図1
図2
図3
図4