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特許7516022接合レンズ、レンズユニットおよびカメラモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】接合レンズ、レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240708BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240708BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20240708BHJP
【FI】
G02B7/02 B
G02B3/00 Z
G02B7/02 A
G02B7/02 Z
G03B30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019158142
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036301
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 和輝
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-133135(JP,A)
【文献】特開平05-019104(JP,A)
【文献】特開2019-056786(JP,A)
【文献】特開2019-012111(JP,A)
【文献】特開2011-099900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のレンズをその有効径以上にわたって塗布される接着剤により接合させて成る接合レンズであって、
前記接合レンズを構成する一方のレンズの凸面が他方のレンズの凹面に嵌合されることによって前記一対のレンズの接合面が形成され、これらのレンズの有効径の外側には、前記レンズの有効径を越えて流出する接着剤を保持するためのシボ加工に伴う凹凸が、前記レンズの有効径の範囲での曲率が延長した曲面である前記接合面の前記凹面に設けられることを特徴とする接合レンズ。
【請求項2】
一対のレンズをその有効径以上にわたって塗布される接着剤により接合させて成る接合レンズであって、
前記接合レンズを構成する一方のレンズの凸面が前記一方のレンズよりも大径の他方のレンズの凹面に嵌合されることによって前記一対のレンズの接合面が形成され、これらのレンズの有効径の外側には、前記レンズの有効径を越えて流出する接着剤を溜めるための段差状の接着剤溜まりが、前記接合面を形成する前記凹面から、該凹面の径方向外側へと延びて前記接合面を形成しない平面上にわたって設けられることを特徴とする接合レンズ。
【請求項3】
前記接着剤溜まりは、前記接合面の外周端縁付近で前記接合面を越えて延びていることを特徴とする請求項2に記載の接合レンズ。
【請求項4】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、このレンズ群が収容される鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記レンズ群が請求項1から3のいずれか1項に記載の接合レンズを含むことを特徴とするレンズユニット。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズユニットにより形成される像を受光する位置に撮像素子が配置されることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得る接合レンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そのようなレンズユニット100は、具体的には、例えば、図5に示されるように、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成する複数のレンズ、ここでは、第1のレンズ101、第2のレンズ102、第3のレンズ103、第4のレンズ104、および、第5のレンズ105がスペーサ150を介して積み重ねられるように鏡筒120内に組み込まれて成り、特に金属製の鏡筒120の場合には、その物体側の端部(図5において上端部)に締結固定部材としてキャップ123が螺着され、このキャップ123によってレンズ群Lの最も物体側に位置される前端レンズ101が鏡筒120の物体側の端部に固定され、それにより、レンズ群Lが鏡筒120内に光軸O方向で保持される。
【0004】
また、このような構成のレンズユニット100では、像側に位置される2つのレンズ、例えば第3および第4のレンズ103,104が互いに貼り合わされて成る接合レンズ200を構成する場合がある。そのような接合レンズ200を構成するレンズ103,104は、例えば図6に拡大して示されるように、物体側に位置される第3のレンズ103の像側に面する凸面103aが像側に位置される第4のレンズ104の物体側に面する凹面104aと嵌合されることにより組み付けられて、接着剤により固定される。
【0005】
より具体的には、このような接合レンズ200の凹凸嵌合による接着では、第4のレンズ104の研磨(研削)面である凹面104aの中心付近に接着剤が垂らされ、そのような接着剤塗布状態で、上側から第3のレンズ103をその研磨(研削)面である凸面103aが光軸O方向で第4のレンズ104の凹面104aと対向するように第4のレンズ104上に重ね合わせて、凸面103aと凹面104aとを嵌合させる。これにより、接着剤は、レンズ接合面140に沿ってレンズ103,104の有効径Rを越えて図7に示されるようにレンズ103,104同士の接合外周端縁(コバ部)130にまで至るように広がる(図7には、コバ部130にまで至るように広がってとどまる接着剤の部分が参照符号250で示されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-231993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、線膨張係数が異なる硝材から成る2つのレンズを貼り合わせた接合レンズでは、例えば高温(または低温)環境下に晒されるなどして温度が変化すると、これらの2つのレンズの膨張(収縮)量が異なることから、膨張(収縮)後のレンズの外径に差が生じる。このレンズ外径の差がレンズ接合面に加わる径方向の応力となり、特に温度変化が大きくなると、レンズ接合面に加わる応力も大きくなって、レンズに歪みが生じたり、レンズ接合面の接着剤層が応力に耐えきれなくなり、接着剤の周辺部から剥離が生じる現象、いわゆるバル切れが起こり得る(そのため、接合レンズが剥れる虞もある)。特に有効径Rの範囲内で接着剤の剥離が生じると、ゴースト現象が発生し得る。
【0008】
また、接合レンズを接着するための接着剤は、所望の光学特性を得るべくレンズの有効径R以上にわたって研磨面全体を覆って広がるように十分な量で塗布される必要がある。しかしながら、塗布される接着剤の量によっては、図7に示されるように接着剤250が第4のレンズ104のコバ部130に留まることなく、接着剤がコバ部130を超えてオーバーフローするように第4のレンズ104のフランジ部104bの平面104c上にわたって延在し、この平面部104c上に配置される他部品(図5の場合にはスペーサ150)と接着剤が干渉する虞がある。その場合には、他部品が傾くなどの不具合も生じ得る。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、レンズ同士を接着するための接着剤の剥離を防止できるとともに、レンズのコバ部を越える接着剤の必要以上のオーバーフローを規制できる接合レンズ、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、一対のレンズをその有効径以上にわたって塗布される接着剤により接合させて成る接合レンズであって、
前記一対のレンズの接合面にはこれらのレンズの有効径の外側にシボ加工が施され、前記レンズの有効径を越えて流出する接着剤をシボに伴う凹凸によって保持することを特徴とする。
【0011】
本発明の上記構成においては、レンズの有効径の外側の接合面にシボ加工が施され、レンズの有効径を越えて流出する接着剤がシボに伴う凹凸によって保持されるようになっているため、言い換えると、レンズの有効径を越えて延在する接着剤がシボに伴う凹凸に食い込むアンカー効果を得ることができるため、接合面が接着剤を保持しようとする保持力が高まり、接着強度が向上する。したがって、線膨張係数が異なる硝材から成る2つのレンズを貼り合わせて接合レンズを構成した場合であっても、温度変化に伴う膨張(収縮)後のレンズ外径差に起因してレンズ接合面に加わる径方向の応力に接着剤層が十分に耐え得るようになり、その結果、接着剤の剥離を防止でき、接着剤の剥離に伴う光学特性の悪化やレンズの剥がれ等の不具合を回避できる。また、このように接着剤がシボに伴う凹凸によって保持されれば、径方向外側への接着剤のそれ以上の流出を規制できるため、接着剤がレンズのコバ部(接合外周端縁)を超えてオーバーフローするような事態も回避でき、したがって、接着剤が接合レンズ周辺の他部品と干渉することも防止でき、それに伴う不具合も回避できる。
【0012】
なお、上記構成において、接合レンズを構成するレンズは、ガラスや樹脂等の任意の材料により形成され得るが、一般的には研磨(研削)により球面加工されるガラスレンズであり、また、正のパワーのレンズと負のパワーのレンズとの組み合わせなど、任意のレンズの組み合わせによって接合レンズを構成できる。また、上記構成において、シボ加工は、接合レンズを構成する一方のレンズのみに設けられてもよく、あるいは、両方のレンズに設けられても構わない。また、シボ加工は、接合面を形成するレンズの研磨(研削)面を粗面化(凹凸化)できればどのような処理形態であってもよく、例えば、レンズを研磨(研削)して球面加工する治具の外周部にヤスリ等の粗面化手段を付設し、レンズの研磨(研削)と同時に前記粗面化手段によりシボ加工を施すようにしてもよく、あるいは、ブラスト加工などの機械的な処理、凹凸転写処理、化学的な処理などによってシボ加工が実現されても構わない。また、上記構成において、レンズの「有効径」とは、周知のごとく、レンズの光軸上の無限遠物点から出てレンズを通過する平行光線束の直径のことであるが、その有効径の範囲は、接合レンズを含むレンズ群を有するレンズユニットの撮像センサ(撮像素子)に入射する光が通過するレンズ領域に対応し、撮像センサのサイズによって規定され得る。
【0013】
また、本発明は、一対のレンズをその有効径以上にわたって塗布される接着剤により接合させて成る接合レンズであって、
前記一対のレンズの接合面には、これらのレンズの有効径の外側に、前記レンズの有効径を越えて流出する接着剤を溜めるための段差状の接着剤溜まりが設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明の上記構成においては、レンズの有効径の外側の接合面に段差状の接着剤溜まりが設けられ、レンズの有効径を越えて流出する接着剤が接着剤溜まりで溜められて保持されるようになっている。したがって、線膨張係数が異なる硝材から成る2つのレンズを貼り合わせて接合レンズを構成した場合であっても、温度変化に伴う膨張(収縮)後のレンズ外径差に起因してレンズ接合面に加わる径方向の応力を接着剤溜まりに溜められる接着剤層の弾力によって吸収して緩衝することができ、その結果、そのような応力に伴う接着剤の剥離を防止でき、接着剤の剥離に伴う光学特性の悪化やレンズの剥がれ等の不具合を回避できる。また、このように接着剤が段差状の接着剤溜まりによって保持されれば、径方向外側への接着剤のそれ以上の流出も規制できるため、接着剤がレンズのコバ部(接合外周端縁)を超えてオーバーフローするような事態も回避でき、したがって、接着剤が接合レンズ周辺の他部品と干渉することも防止でき、それに伴う不具合も回避できる。
【0015】
なお、上記構成において、接着剤溜まりは、接合面の外周端縁付近に設けられることが好ましく、また、接合面を越えて延びていてもよい。この場合、接着剤溜まりは、接着剤を効果的かつ確実に溜めることができるように、光軸方向に沿って下側に位置される接合レンズの一方側のレンズの接合面に形成されることが好ましい。
【0016】
また、シボ加工または段差状の接着剤溜まりを伴う上記構成の接合レンズにおいて、接合面は、レンズの凹凸面の嵌合、レンズの平面同士の接合など、任意の形態の面同士の接合によって形成することができる。また、接合面は、シボ加工および段差状の接着剤溜まりの両方を伴っていてもよいが、光学設計上、レンズの有効径の外側にシボ加工を施すことができるに足る十分な接合面を確保できない場合もあり得るため、そのような場合に本発明の目的を達成するべくシボ加工の代わりに段差状の接着剤溜まりを接合面の外周端縁付近に設けることは有効である。
【0017】
また、本発明は、複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられたレンズ群と、このレンズ群が収容される鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記レンズ群が上記構成の接合レンズを含むことを特徴とする。
【0018】
この構成においても、接合レンズが前述した特徴的構成を備えるため、レンズ同士を接着するための接着剤の剥離を防止できるとともに、レンズのコバ部を越える接着剤の必要以上のオーバーフローを規制できる。
【0019】
また、本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えていることを特徴とする。
このような構成によれば、前述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レンズの有効径の外側の接合面に、シボ加工が施され、または、段差状の接着剤溜まりが設けられ、それにより、レンズの有効径を越えて流出する接着剤が、シボに伴う凹凸によって保持され、あるいは、接着剤溜まりで溜められて保持されるようになっているため、レンズ同士を接着するための接着剤の剥離を防止できるとともに、レンズのコバ部を越える接着剤の必要以上のオーバーフローを規制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係るレンズユニットの概略断面図である。
図2図1のレンズユニットのレンズ群を構成する接合レンズ(貼り合わせレンズ)のシボ加工部位の要部拡大図である。
図3図1のレンズユニットのレンズ群を構成する接合レンズ(貼り合わせレンズ)の変形例であり、段差状の接着剤溜まりが設けられた接合レンズの要部拡大図である。
図4図1のレンズユニットを備えるカメラモジュールの概略断面図である。
図5】従来のレンズユニットの概略断面図である。
図6図5の従来のレンズユニットのレンズ群を構成する接合レンズの側面図である。
図7図6のX部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、図1図7において複数のレンズについてはハッチングを省略している。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば金属製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16、および、第5のレンズ17から成る5つのレンズと、絞り部材22とを備えている。これらのレンズ13~17および絞り部材22は、レンズ14,15,16,17同士または絞り部材22とレンズ14,15とを光軸方向で隔てるスペーサ30を部分的に介して配設されている。
【0024】
また、絞り部材22は、本実施の形態では、第2のレンズ14と第3のレンズ15との間に位置されており、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0025】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、像側に位置される2つの第3および第4のレンズ15,16は接合レンズ(貼り合わせレンズ)40を構成している。また、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置される第1のレンズ13は、物体側に凸面を有するとともに像側に凹面を有する球面ガラスレンズであり、また、接合レンズ40を構成する第3および第4のレンズ15,16もガラスレンズであり、その他のレンズ14,17は樹脂レンズであるが、これに限定されない。また、本実施の形態において、鏡筒12は、前述したように金属製であるが、樹脂によって形成されても構わない。なお、これらのレンズ13,14,15,16,17の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0026】
鏡筒12の物体側端部12b(図1において上端部)には締結固定部材としての略円筒状のキャップ23が螺着されており、このキャップ23によって第1のレンズ13が鏡筒12の物体側端部12bに固定されている。具体的には、キャップ23は、その周側壁の内周面に形成された雌ネジ部23aが鏡筒12の物体側端部12bの外周面に形成された雄ネジ部12aに螺合されて、そのフランジ状の上端の径方向内側の周端縁部23bが第1のレンズ13の物体側に面する表面13cの外周縁部に形成された段差部13aに当て付けられており、このキャップ23が締め付けられることによって第1のレンズ13が物体側端部12bに固定されてレンズ群Lが鏡筒12内に光軸方向で保持される。
【0027】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられており、この内側フランジ部24とキャップ23との間で、レンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17,18,19と絞り部材22とが光軸方向で挟持されて保持される。
【0028】
また、第1のレンズ13の外周側面13bには、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13baが設けられ、この縮径部13baにシール部材として例えばOリング26が装着されている。このOリング26は、第1のレンズ13の外周側面13bと鏡筒12の物体側端部12bの内周面との間で径方向に圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部12bと第1のレンズ13との間を封止しており、これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。なお、鏡筒12の像側の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鍔状に設けられている。
【0029】
接合レンズ40を構成する本実施の形態の第3および第4のレンズ15,16は、ガラス材料を研削(研磨)により球面加工して成り、線膨張係数が互いに異なっている。具体的に、図2にも示されるように、第3のレンズ15は、その像側に面する表面が凸面15aとして形成されるとともに、その物体側に面する表面も凸面15bとして形成され、一方、第4のレンズ16は、その物体側に面する表面が凹面16aとして形成されるとともに、その像側に面する表面が凸面16bとして形成される。そして、第3および第4のレンズ15,16は、物体側に位置される第3のレンズ15の像側に面する凸面15aが像側に位置される第4のレンズ16の物体側に面する凹面16aと嵌合されることにより組み付けられて(貼り合わされて)接合面60を形成し、この接合面60に塗布される接着剤70(図2参照)により互いに接着固定される。また、第4のレンズ16は、第3のレンズ15よりも直径が大きく設定されるとともに、第3のレンズ15と貼り合わされた状態でその接合外周端縁(コバ部)90から径方向外側へと延びるフランジ部16cを有し、このフランジ部16cの上面を形成する平面16d上にスペーサ30の一端面が当接している。
【0030】
第3および第4のレンズ15,16同士を接着固定するための接着剤70は、所望の光学特性を得るべくレンズ15,16の有効径R以上にわたって研磨面全体を覆って広がるように十分な量で塗布されるようになっている。そのため、本実施の形態では、レンズ15,16同士を接着するための接着剤70の剥離を防止できるとともに、レンズ15,16のコバ部90を越える接着剤70の必要以上のオーバーフローを規制できるようにする手段が接合面60に設けられる。具体的に、本実施の形態において、そのような手段は、図2にも拡大して示されるように、レンズ15,16の有効径Rの外側であって、レンズ15,16の有効径Rの範囲での曲率が延長した曲面である接合面60に施されるシボ加工(図2には、シボ加工された部位が参照符号50で示される)によって設けられる。このようなシボ加工部位50は、レンズ15,16の有効径Rを越えて流出する接着剤70をシボに伴う凹凸によって保持するようになっている。
【0031】
なお、本実施の形態において、シボ加工部位50は、接合レンズ40を構成する一方の第4のレンズ16のみに設けられているが、両方のレンズ15,16に設けられても構わない。また、シボ加工部位50を形成するシボ加工は、接合面60を形成するレンズ16(15)の研磨(研削)面を粗面化(凹凸化)できればどのような処理形態であってもよく、例えば、レンズ16(15)を研磨(研削)して球面加工する治具の外周部にヤスリ等の粗面化手段を付設し、レンズ15(16)の研磨(研削)と同時に前記粗面化手段によりシボ加工を施すようにしてもよく、あるいは、ブラスト加工などの機械的な処理、凹凸転写処理、化学的な処理などによってシボ加工が実現されても構わない。
【0032】
図3には、レンズ15,16同士を接着するための接着剤70の剥離を防止できるとともに、レンズ15,16のコバ部90を越える接着剤の必要以上のオーバーフローを規制できるようにする手段の他の例が示される。図示のように、この例では、そのような手段が段差状の接着剤溜まり80として接合レンズ40Aに設けられる。この接着剤溜まり80は、レンズ15,16の有効径Rの外側でこれらのレンズ15,16の接合面60に設けられており、レンズ15,16の有効径Rを越えて流出する接着剤70を段部で溜めるようになっている。特に本実施の形態では、接着剤溜まり80が接合面60の外周端縁(コバ部90)付近で接合面60を若干越えて延びるように第4のレンズ16の凹面16a上から平面16d上にわたって形成されている。なお、レンズ15,16同士を接着するための接着剤70の量は、接合した際に有効径Rを越えて流出した接着剤が接着剤溜まり80を充填できる量あるいはそれを若干上回る量が好ましい。接着されたレンズ15,16が剥がれる際に、その起点となる位置に弾性力のある接着剤が存在することにより、温度変化に伴う膨張(収縮)後のレンズ外径差に起因してレンズ接合面60に加わる2つのレンズの径方向の応力の差を緩和する緩衝作用が得られ、剥がれを抑制することができる。
【0033】
図2または図3に示される以上のようなシボ加工部位50または接着剤溜まり80を伴うレンズ15,16同士の接合形態(凹凸嵌合による接着)では、第4のレンズ16の研磨(研削)面である凹面16aの中心付近に接着剤が垂らされ、そのような接着剤塗布状態で、上側から第3のレンズ15をその研磨(研削)面である凸面15aが光軸O方向で第4のレンズ16の凹面16aと対向するように第4のレンズ16上に重ね合わせて、凸面15aと凹面16aとを嵌合させる。これにより、接着剤は、レンズ接合面60に沿ってレンズ15,16の有効径Rを越えるように広がるが、図2および図3に示されるようにシボ加工部位50または接着剤溜まり80に少なくとも部分的に補足されてコバ部90を必要以上に越えて流出しないようになる。
【0034】
また、図4は、図1の構成を成すレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、このカメラモジュール300は、フィルタ99が装着された図1に係るレンズユニット11、すなわち、シボ加工部位50を伴う図2の接合レンズ40を含むレンズユニット11を有して構成されるが、接着剤溜まり80を伴う図3の接合レンズ40Aを含むレンズユニットを有して構成されても構わない。
【0035】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0036】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12cとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0037】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0038】
以上説明したように、前述した構成においては、レンズ15,16の有効径Rの外側の接合面60にシボ加工部位50または段差状の接着剤溜まり80が設けられ、レンズ15,16の有効径Rを越えて流出する接着剤70がシボに伴う凹凸または接着剤溜まり80によって保持されるようになっているため、レンズ15,16同士を接着するための接着剤70の剥離を防止できるとともに、レンズ15,16のコバ部90を越える接着剤70の必要以上のオーバーフローを規制できる。
【0039】
具体的には、図1および図2に示されるようなシボ加工部位50を伴う場合には、レンズ15,16の有効径Rを越えて延在する接着剤70がシボに伴う凹凸に食い込むアンカー効果を得ることができるため、接合面60が接着剤70を保持しようとする保持力が高まり、接着強度が向上する。したがって、線膨張係数が異なる硝材から成る2つのレンズを貼り合わせて接合レンズを構成する上記構成の場合であっても、温度変化に伴う膨張(収縮)後のレンズ外径差に起因してレンズ接合面60に加わる2つのレンズの径方向の応力の差を緩和する緩衝作用が得られるようになり、その結果、接着剤70の剥離を防止でき、接着剤70の剥離に伴う光学特性の悪化やレンズ15,16の剥がれ等の不具合を回避できる。また、このように接着剤70がシボに伴う凹凸によって保持されれば、径方向外側への接着剤70のそれ以上の流出を規制できるため、接着剤70がレンズ15,16のコバ部90を超えてオーバーフローするような事態も回避でき、したがって、接着剤70が接合レンズ40の周辺のスペーサ30等の他部品と干渉することも防止でき、それに伴う不具合も回避できる。
なお、レンズ接合面60にシボ面を形成した場合、光がシボ面を通過した際に乱反射しゴーストの発生要因となるが、接着剤と相性のいい墨塗を施すことにより抑制することができる。
【0040】
一方、図3に示されるような段差状の接着剤溜まり80を伴う場合には、レンズ15,16の有効径Rを越えて流出する接着剤70が接着剤溜まり80で溜められて保持されるようになる。したがって、線膨張係数が異なる硝材から成る2つのレンズを貼り合わせて接合レンズを構成する上記構成の場合であっても、温度変化に伴う膨張(収縮)後のレンズ外径差に起因してレンズ接合面60に加わる径方向の応力を接着剤溜まりに溜められる接着剤層の弾力によって吸収して緩衝することができ、その結果、そのような応力に伴う接着剤70の剥離を防止でき、接着剤70の剥離に伴う光学特性の悪化やレンズの剥がれ等の不具合を回避できる。また、このように接着剤70が段差状の接着剤溜まり80によって保持されれば、径方向外側への接着剤70のそれ以上の流出も規制できるため、接着剤70がレンズ15,16のコバ部90を超えてオーバーフローするような事態も回避でき、したがって、接着剤70が接合レンズ40Aの周辺のスペーサ30等の他部品と干渉することも防止でき、それに伴う不具合も回避できる。
【0041】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状は、前述した実施の形態に限定されない。また、前述した構成の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した構成のうちの1つから要素の一部が省かれてもよい。したがって、例えば、シボ加工部位50と接着剤溜まり80とを接合面60に別個に独立して設けるのではなく、接合面60にシボ加工部位50および接着剤溜まり80を同時に設けてもよい。
【符号の説明】
【0042】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13,14,15,16,17 レンズ
15a 凸面
16a 凹面
40,40A 接合レンズ
50 シボ加工部位
60 接合面
80 接着剤溜まり
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7