IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ シチズンマシナリーミヤノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図1
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図2
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図3
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図4
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図5
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図6
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図7
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図8
  • 特許-加工装置、加工方法および切削工具 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】加工装置、加工方法および切削工具
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20240708BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20240708BHJP
   B23G 1/02 20060101ALI20240708BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
B23B1/00 D
B23G1/02 A
B23Q15/12 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019222601
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021092936
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宮 一彦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 新一
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-177415(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056526(WO,A1)
【文献】特開2008-254164(JP,A)
【文献】特開2002-066809(JP,A)
【文献】特表平11-514939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4093
B23B 1/00
B23G 1/02
B23Q 15/00
B23B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する多刃ツールを保持する刃物台と、前記ワーク保持手段と前記刃物台との相対移動によって前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に送り動作させる送り手段と、前記ワーク保持手段と前記刃物台とを前記ワークの径方向に相対的に往復振動させる振動手段と、前記ワークと前記多刃ツールとを相対的に回転させる回転手段とを備え、前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置されて該第1の切削刃の長さよりも短い第2の切削刃とを有しており、前記ワークと前記多刃ツールとを相対的に回転させながら前記加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工装置であって、
前記ワークの径方向への振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工と、前記ワークの径方向への振動を伴わずに前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記ネジ部分を形成する仕上げ加工とを行うように、前記送り手段、前記振動手段、および前記回転手段の動作を制御する制御部を備えている、加工装置。
【請求項2】
ワークと該ワークを切削加工する多刃ツールとを相対的に回転させながら、前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工方法であって、
前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置され、該第1の切削刃の長さよりも短い第2の切削刃とを有しており、
前記ネジ切り加工が、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工工程と、前記ワークの径方向への振動を伴わずに前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記ネジ部分を形成する仕上げ加工工程とを含んでいる、加工方法。
【請求項3】
ワークと該ワークを切削加工する多刃ツールとを相対的に回転させながら、前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工方法に用いられる切削工具であって、
前記ネジ切り加工が、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工工程と、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴わずに前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ネジ部分を形成する仕上げ加工工程とを含み
前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置され、前記溝加工工程および前記仕上げ加工工程の双方で使用される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置されて、前記溝加工工程でのみ使用される第2の切削刃とを有し、該第2の切削刃の長さが、前記第1の切削刃の長さよりも短く設定されている、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークのネジ切り加工を行う加工装置、加工方法および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チップを用いてワークの外周にネジ部分を形成する場合、チップの切削刃をワークの径方向に切り込み、ワークをその軸線方向に送りながらワークを軸線回りに回転させる。切削刃はネジ溝と同じ形状に形成されており、チップには、この切削刃を一つ設けたタイプのほか、切削刃を複数設けたタイプ(多刃ツールと称する)がある。例えば、特許文献1には、第1の切削刃と第2の切削刃が並んで配置された多刃ツールの構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭60-186103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の多刃ツールによれば、第1の切削刃が摩耗しても、直後の第2の切削刃が、第1の切削刃で切削できなかった箇所を切削し直すことができる。
しかしながら、この多刃ツールを用いた場合には、第1の切削刃が削った箇所を第2の切削刃が削ることになるので、ワークのネジ底面の加工精度が低下する場合があった。
【0005】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、ワークのネジ底面の加工精度が向上する多刃ツールを用いた加工装置、多刃ツールを用いた加工方法および複数の切削刃からなる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する多刃ツールを保持する刃物台と、前記ワーク保持手段と前記刃物台との相対移動によって前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に送り動作させる送り手段と、前記ワーク保持手段と前記刃物台とを前記ワークの径方向に相対的に往復振動させる振動手段と、前記ワークと前記多刃ツールとを相対的に回転させる回転手段とを備え、前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置されて該第1の切削刃の長さよりも短い第2の切削刃とを有しており、前記ワークと前記多刃ツールとを相対的に回転させながら前記加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工装置であって、前記ワークの径方向への振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工と、前記ワークの径方向への振動を伴わずに前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記ネジ部分を形成する仕上げ加工とを行うように、前記送り手段、前記振動手段、および前記回転手段の動作を制御する制御部を備えていることを特徴とする。
【0007】
第2に、ワークと該ワークを切削加工する多刃ツールとを相対的に回転させながら、前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工方法であって、前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置され、該第1の切削刃の長さよりも短い第2の切削刃とを有しており、前記ネジ切り加工が、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工工程と、前記ワークの径方向への振動を伴わずに前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記ネジ部分を形成する仕上げ加工工程とを含んでいることを特徴とする。
【0008】
第3に、ワークと該ワークを切削加工する多刃ツールとを相対的に回転させながら、前記ワークに対して前記多刃ツールを所定の加工送り方向に沿って相対的に送り移動させ、所定の螺旋状をなす同一の切削経路に沿って複数回に亘って前記ワークの径方向に切り込み加工を行うことで前記ワークにネジ部分を形成するネジ切り加工を行う加工方法に用いられる切削工具であって、前記ネジ切り加工が、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴って前記多刃ツールの第1の切削刃および第2の切削刃で前記ネジ部分を形成する溝加工工程と、前記ワークと前記多刃ツールとによる前記ワークの径方向への相対的な往復振動を伴わずに前記ワークの前記溝加工した箇所に接触して前記多刃ツールの第1の切削刃のみで前記ネジ部分を形成する仕上げ加工工程とを含み、前記多刃ツールが、前記加工送り方向に沿って並んで配置され、前記溝加工工程および前記仕上げ加工工程の双方で使用される第1の切削刃と、該第1の切削刃の後方に配置されて、前記溝加工工程でのみ使用される第2の切削刃とを有し、該第2の切削刃の長さが、前記第1の切削刃の長さよりも短く設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は以下の効果を得ることができる。
仕上げ加工では、第2の切削刃の刃先がワークのネジ底面に接触しないので、多刃ツールを用いてネジ切り加工を行う場合でも、加工精度の高いネジ部分を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る加工装置の概略を説明する図である。
図2】ワークと多刃ツールとの関係を説明する図である。
図3】多刃ツールを説明する図である。
図4】ネジ切り時系列動作(1パス目)を説明する図である。
図5】ネジ切り時系列動作(2パス目)を説明する図である。
図6】ネジ切り時系列動作(最終パス目)を説明する図である。
図7】工具軌跡(1パス目)を説明する図である。
図8】工具軌跡(2パス目)を説明する図である。
図9】工具軌跡(最終パス目)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の加工装置、加工方法および切削工具について説明する。図1に示すように、工作機械100は、主軸110と、刃物台130Aと、制御装置180とを備えている。工作機械100が本発明の加工装置に相当する。
主軸110の先端にはチャック120が設けられており、ワークWはチャック120を介して主軸110に保持されている。主軸110がワーク保持手段に相当する。主軸110は、主軸台110Aに回転自在に支持され、例えば主軸台110Aと主軸110との間に設けられた主軸モータ(例えばビルトインモータ)115の動力によって回転する。
【0012】
主軸台110Aは、Z軸方向送り機構160に設置される。
Z軸方向送り機構160は、ベッドと一体のベース161と、Z軸方向送りテーブル163をスライド自在に支持するZ軸方向ガイドレール162とを備えている。Z軸方向送りテーブル163が、リニアサーボモータ165の駆動によって、ワークWの回転軸線方向に一致する図示のZ軸方向に沿って移動すると、主軸台110AがZ軸方向に移動する。リニアサーボモータ165は可動子165aおよび固定子165bを有し、可動子165aはZ軸方向送りテーブル163側に設けられ、固定子165bはベース161側に設けられている。
【0013】
刃物台130Aには、ワークWを旋削加工するバイト等の切削工具130が装着され、刃物台130Aは、X軸方向送り機構150に設置される。
X軸方向送り機構150は、ベッドと一体のベース151と、X軸方向送りテーブル153をスライド自在に支持するX軸方向ガイドレール152とを備えている。X軸方向送りテーブル153が、リニアサーボモータ155の駆動によって図示のZ軸方向に対して直交するX軸方向に沿って移動すると、刃物台130AがX軸方向に移動する。リニアサーボモータ155は可動子155aおよび固定子155bを有し、可動子155aはX軸方向送りテーブル153側に設けられ、固定子155bはベース151側に設けられている。
【0014】
Y軸方向送り機構を工作機械100に設けてもよい。Y軸方向は図示のZ軸方向およびX軸方向に直交する方向である。Y軸方向送り機構は、Z軸方向送り機構160またはX軸方向送り機構150と同様の構造とすることができる。従来公知のようにX軸方向送り機構150とY軸方向送り機構の組み合わせにより、切削工具130をX軸方向に加えてY軸方向にも移動させることができる。
【0015】
Z軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150、Y軸方向送り機構は、リニアサーボモータを用いた例を挙げて説明したが、公知のボールネジとサーボモータを用いた構造としてもよい。
【0016】
主軸110の回転、Z軸方向送り機構160、X軸方向送り機構150等の移動は、制御部181で制御される。
制御部181は、CPUやメモリ等からなり、例えばROMに格納されている各種のプログラムやデータをRAMにロードし、このプログラムを実行する。これにより、プログラムに基づいて工作機械100の動作を制御できる。
【0017】
図1の例では、制御部181は、主軸モータ115を駆動してワークWを切削工具130に対して回転させ、Z軸方向送り機構160を駆動してワークWを切削工具130に対してZ軸方向に移動させる。また、X軸方向送り機構150を駆動して切削工具130をワークWに対してX軸方向に往復振動させ、同一の切削経路に沿って複数回に亘って螺旋状に切り込むことで、切削工具130によって、図2に示すようにワークWにネジ部分が切削加工される。
【0018】
切削工具130は、刃物台130Aに保持されるホルダー130Bを有し、ホルダー130Bの先端に、例えば外ネジ加工用のチップ131がネジ止めされている。
チップ131は、図3に示すように、角柱状に形成された工具本体132を有し、工具本体132の中央位置には貫通孔133が形成され、チップ131をホルダー130Bにクランプするためのネジが挿入される。工具本体132の外周には、例えば2枚で1組の切削刃(前刃141と後刃142)が形成される。前刃141が第1の切削刃に、後刃142が第2の切削刃に相当する。このようにチップ131が、複数枚の切削刃を有し、ワークWを切削加工する多刃ツールに相当する。なお、工具本体132の外周には、前刃141と後刃142が計3組設けられており、互いに等間隔で配置されている。
【0019】
前刃141と後刃142は、加工送り方向(図2のZ軸方向)に沿って並んで配置され、前刃141が後刃142よりも前方(Z軸の正方向:Z軸の矢印と同じ方向。以下同じ)に位置する。前刃141や後刃142は、加工するネジ溝と同じ形状に形成され、前刃141と後刃142との間隔は、加工するネジ部分のピッチに基づいて定められる。
また、前刃141と後刃142の刃先を図2のX軸の正方向(X軸の矢印と同じ方向。以下同じ)に向けて配置し、ワークWを図2のZ軸の負方向(Z軸の矢印とは逆の方向。以下同じ)に向けて送りながら、このワークWを図2に矢印で示すように、前刃141と後刃142の刃先との接触位置で図の奥側から手前側に向かうように回転させた場合、ワークWには右ネジが加工される。
【0020】
なお、ワークWに左ネジを加工する場合には、前刃141と後刃142の刃先を図2のX軸の負方向(X軸の矢印とは逆の方向。以下同じ)に向けて配置し、ワークWを図2のZ軸の負方向に向けて送りながら、このワークWを図2の矢印とは逆向きに回転させる。
【0021】
ワークWにネジ切り加工を行う場合、制御部181は、図4から図9で説明するように、一例として切り込み回数5とし、5回に亘って螺旋状に切り込み加工を行ってネジ部分を形成させる。切り込み回数は、ネジ部分を形成するまでの切り込み加工の回数である。
より具体的には、溝加工を例えば4回行った後、仕上げ加工を例えば1回行う。
まず溝加工は、ワークWの径方向への振動を伴って(ワークWに対してチップ131をX軸方向に往復振動させながら)ネジ部分を形成する工程であり、前刃141と後刃142の双方を使用する。
【0022】
図4図7は、溝加工の1パス目を説明する図である。
前刃141と後刃142の刃先をX軸の正方向に向けて配置し、後刃142が、Z=0の位置にあるときに加工時間を0secとする。この時点では、前刃141の刃先は図4のA点に、後刃142の刃先はa点に位置する。
ワークWが回転することで、相対的に刃先が図4のY軸の負方向(Y軸の矢印とは逆の方向。以下同じ)に移動するとともに、ワークWが図2のZ軸の負方向に送られることで刃先が図4のZ軸の正方向に移動する。前刃141と後刃142は、ワークWの径方向(X軸の正方向:紙面の奥側)に所定の前進量で移動(往動)した後、その反対方向に所定の後退量で移動(復動)する。図4図7は、ワークWの1回転における切削工具130の往復移動の回数を振動回数Dとすると、振動回数Dが3(回/r)の例である。
【0023】
詳しくは、後刃142は、図4のa点からb点に進んで工具軌跡t0を形成する。その際、後刃142は、a点からX軸の正方向に次第に押し込まれ、a点とb点の中間位置で切り込み深さが最も大きくなり、その後、b点に近づくに連れて切り込み深さが次第に小さくなってからb点に到達する。
相対的な刃先移動により、所定時間の経過後、後刃142は、工具軌跡t0のb点から工具軌跡t1のb点に移動する。
その後、後刃142は、工具軌跡t1のb点から同じt1のc点に向かう。その際も、後刃142は、b点からX軸の正方向に次第に押し込まれ、b点とc点の中間位置で切り込み深さが最も大きくなり、その後、c点に近づくに連れて切り込み深さが次第に小さくなってからc点に到達する。以降、後刃142は、工具軌跡t2、t3、t4、t5、t6・・・の順に進む。
【0024】
前刃141は、後刃142よりも1回り前のピッチの位置にある。このため、後刃142が工具軌跡t0に位置するときには、図4のA点からB点に進んで工具軌跡T0を形成する。その際、前刃141は、A点からX軸の正方向に次第に押し込まれ、A点とB点の中間位置で切り込み深さが最も大きくなり、その後、B点に近づくに連れて切り込み深さが次第に小さくなってからB点に到達する。相対的な刃先移動により、所定時間の経過後、前刃141は、工具軌跡T0のB点から工具軌跡T1のB点に移動する。その後、前刃141は、工具軌跡T1のB点から同じT1のC点に向かい、以降、前刃141は、工具軌跡T2、T3、T4、T5・・・の順に進む。
【0025】
1パス目では、後刃142がZ=0の位置にあるときに加工時間を0secとするため、縦軸をX軸座標(切込方向)、横軸をリード方向とした図7に示すように、後刃142の工具軌跡t0は、後刃主軸位相=0(度)の位置から切り込み加工が開始されるように往復振動し、後刃主軸位相=60(度)の位置でピークになって復動となり、後刃主軸位相=120(度)の位置で後刃142の刃先がワークWの外周面まで到達する。次いで、後刃142の工具軌跡t1は、後刃主軸位相=120(度)の位置から切り込み加工が開始されるように往復振動し、後刃主軸位相=240(度)の位置で後刃142の刃先がワークWの外周面まで到達する。
【0026】
一方、1パス目では、前刃141は、後刃142がZ=0の位置にあるときには後刃主軸位相=60(度)の位置にある。このため、前刃141の工具軌跡T0は、後刃主軸位相=60(度)の位置(前刃主軸位相=0(度)の位置)から切り込み加工が開始されるように往復振動し、後刃主軸位相=120(度)の位置(前刃主軸位相=60(度)の位置)でピークになって復動となり、後刃主軸位相=180(度)の位置(前刃主軸位相=120(度)の位置)で前刃141の刃先がワークWの外周面まで到達する。
【0027】
よって、図7に示すように、前刃141の工具軌跡と後刃142の工具軌跡が主軸位相(図7のグラフの横軸方向)でずれ、前刃141の工具軌跡と後刃142の工具軌跡に重複が発生する。後刃142の工具軌跡t0が前刃141の工具軌跡T0に含まれる工具軌跡の重複の期間は、既に前刃141(工具軌跡T0)によって切削済みであるため、後刃142(工具軌跡t0)がワークWを実質上切削しない空振り期間になり、ワークWに生じた切屑が分断されて切粉になる。以降、1パス目では、後刃142が復動時に前刃141の工具軌跡に達すると、切屑が分断される。
【0028】
図5図8は、2パス目の溝加工を説明する図である。
2パス目の切り込み量は1パス目と例えば同じ値に設定され、刃先をX軸の正方向に向けて配置した前刃141が、Z=0の位置にあるときに加工時間を0secとする。
前刃141は、工具軌跡T0からT1、T2、T3、T4、T5、T6・・・の順に進み、後刃142は、前刃141が工具軌跡T3のときにZ=0の位置にあり(工具軌跡t3で示す)、t4、t5、t6、t7、t8・・・の順に進む。
【0029】
2パス目では、前刃141がZ=0の位置にあるときに加工時間を0secとするので、図8に示すように、前刃141の工具軌跡T0は、前刃主軸位相=0(度)の位置から切り込み加工が開始されるように往復振動し、前刃主軸位相=60(度)の位置でピークになって復動となり、前刃主軸位相=120(度)の手前で1パス目の取り代(図中に破線で示す)に到達する。次いで、前刃141の工具軌跡T1は、前刃主軸位相=120(度)の位置から切り込み加工が開始されるように往復振動し、前刃主軸位相=240(度)の手前で1パス目の取り代に到達する。
【0030】
よって、図8に示すように、前刃141の工具軌跡と1パス目の取り代に重複が発生する。前刃141の工具軌跡T0が1パス目の取り代に含まれる工具軌跡の重複の期間は、前刃141(工具軌跡T0)がワークWを実質上切削しない空振り期間になり、ワークWに生じた切屑が分断される。
【0031】
一方、この2パス目では、後刃142は、前刃141が工具軌跡T3のときに、Z=0の位置にある(工具軌跡t3で示す)。このため、後刃142の工具軌跡t3は、前刃主軸位相=300(度)の位置(後刃主軸位相=0(度)の位置)から切り込み加工が開始されるように往復振動し、前刃主軸位相=0(度)の位置(後刃主軸位相=60(度)の位置)でピークになって復動となり、前刃主軸位相=60(度)の位置(後刃主軸位相=120(度)の位置)の手前で後刃142の刃先が前刃141の工具軌跡T3に到達する。
【0032】
よって、図8に示すように、前刃141の工具軌跡と後刃142の工具軌跡に重複が発生する。後刃142の工具軌跡t3が前刃141の工具軌跡T3に含まれる工具軌跡の重複の期間は、後刃142(工具軌跡t3)がワークWを実質上切削しない空振り期間になり、ワークWに生じた切屑が分断される。以降、2パス目では、前刃141が復動時に1パス目の取り代に達した場合や、後刃142が復動時に前刃141の工具軌跡に達すると、切屑が分断される。
【0033】
また、図示は省略するが、この溝加工では、3パス目では、例えば後刃142がZ=0の位置にあるときに加工時間を0secとし、4パス目では、例えば前刃141がZ=0の位置にあるときに加工時間を0secとする。そして、例えば3パス目と4パス目の切り込み量を変えており、3パス目の切り込み量を2パス目の切り込み量よりも小さな値に、4パス目の切り込み量を3パス目の切り込み量よりも小さな値にそれぞれ設定している。
【0034】
これにより、3パス目では、後刃142が2パス目の取り代に達した場合や、後刃142が前刃141の工具軌跡に達すると、切屑が分断される。また、4パス目では、前刃141が3パス目の取り代に達した場合や、後刃142が前刃141の工具軌跡に達すると、切屑が分断される。
【0035】
上記の溝加工はワークWの径方向への振動を伴うのに対し、仕上げ加工は、ワークWの径方向への振動を伴わずにネジ部分を形成する工程であり、前刃141のみを使用して後刃142は使用しない。このため、後刃142の長さは、前刃141の長さよりも短く設定されており、図3に示すように、後刃142の刃先は、前刃141の刃先よりもhだけ低い位置に設けられている。つまり振動を伴う溝加工の際は切込み量と振幅を調整することによって、前刃141と後刃142で加工を行い、振動を伴わない仕上げ加工の際には前刃141のみが加工を行うことになる。なお、制御部181が、振動波形の振幅を、仕上げ加工では後刃142の刃先をワークWのネジ底面に接触させない値に設定してもよい。振幅は、例えばワークWに対する実際の切削工具の切り込み量に対する比率(振幅切込み比率)によって設定できる。
【0036】
図6図9は、5パス目の仕上げ加工を説明する図である。
最後の5パス目の切り込み量は4パス目の切り込み量よりも小さな値に設定される。この5パス目では、ワークWの径方向に往復振動しないので、図9に示すように切り込み量が一定値になる。前刃141が、Z=0の位置にあるときに加工時間を0secとすると、前刃141の刃先は、図6に破線で示したネジ底面に接して進み、ワークWのネジ底面を切削する。
【0037】
このように、仕上げ加工では、後刃142の刃先がワークWのネジ底面に接触しないので、チップ131を用いてネジ切り加工を行う場合でも、加工精度の高いネジ部分を形成できる。
また、多刃のチップ131を用いれば、切削刃が1枚のタイプを用いた場合に比べて、パス回数を減らすことができ、加工時間を短くできる。さらに、前刃141が削っていない箇所を後刃142が削り、後刃142が削っていない箇所を前刃141が削るので、1刃あたりに生ずる切削抵抗が少なくなり、長寿命になる。
【0038】
図1では、主軸モータ115が回転手段に、Z軸方向送り機構160が、主軸110をZ軸方向(所定の加工送り方向)に移動させる送り手段にそれぞれ相当し、X軸方向送り機構150が、設定された振動波形に基づいて、切削工具130をX軸方向に往復振動させる振動手段に相当する例で説明した。しかし、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、振動手段をX軸方向送り機構150とは別に設置してもよい。また、切削工具130をZ軸方向に送る場合や、主軸110を回転停止させて切削工具130を回転させることもできる。
また、切削刃を2枚で構成した例について図を用いて説明したが、切削刃を3枚以上で構成してもよい。
【符号の説明】
【0039】
100 ・・・ 工作機械(加工装置)
110 ・・・ 主軸(ワーク保持手段)
110A ・・・ 主軸台
115 ・・・ 主軸モータ(回転手段)
120 ・・・ チャック
130 ・・・ 切削工具
130A ・・・ 刃物台
130B ・・・ ホルダー
131 ・・・ チップ(多刃ツール)
132 ・・・ 工具本体
133 ・・・ 貫通孔
141 ・・・ 前刃(第1の切削刃)
142 ・・・ 後刃(第2の切削刃)
150 ・・・ X軸方向送り機構(振動手段)
151 ・・・ ベース
152 ・・・ X軸方向ガイドレール
153 ・・・ X軸方向送りテーブル
154 ・・・ X軸方向ガイド
155 ・・・ リニアサーボモータ
155a ・・・ 可動子
155b ・・・ 固定子
160 ・・・ Z軸方向送り機構(送り手段)
161 ・・・ ベース
162 ・・・ Z軸方向ガイドレール
163 ・・・ Z軸方向送りテーブル
164 ・・・ Z軸方向ガイド
165 ・・・ リニアサーボモータ
165a ・・・ 可動子
165b ・・・ 固定子
180 ・・・ 制御装置
181 ・・・ 制御部
h ・・・ 前刃の刃先から後刃の刃先までの長さ
T0~T6・・・ 前刃の工具軌跡
t0~t8・・・ 後刃の工具軌跡
W ・・・ ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9