(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】エモリエント性の局所消毒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/18 20060101AFI20240708BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20240708BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240708BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240708BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20240708BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240708BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240708BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240708BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240708BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240708BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240708BHJP
A61L 9/012 20060101ALI20240708BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K33/18
A61K9/00
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/72
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/32
A61K47/38
A61L9/01 B
A61L9/012
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2019524128
(86)(22)【出願日】2017-07-19
(86)【国際出願番号】 US2017042726
(87)【国際公開番号】W WO2018017645
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-24
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521323347
【氏名又は名称】アイ2ピュア・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケススラー,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】リッチンガー,デヴィッド・シー
(72)【発明者】
【氏名】ローズ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】シェロ,アンドリュー・エム
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】岩下 直人
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-185720(JP,A)
【文献】特開2005-306764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エモリエント性の抗微生物用組成物であって、
(a)プロピレングリコール、グリセロールまたはそれらの組合せからなる群から選択される有機キャリアー、および
(b)分子ヨウ素
を含み、全てのヨウ素種に対する分子ヨウ素の
重量比が、少なくとも70%であり、
前記組成物中の分子ヨウ素の蒸気圧が、(a)30mM酢酸緩衝液(pH4.5)中、又は(b)0.1M酢酸緩衝液(pH4.
5)中の分子ヨウ素の蒸気圧より少なくとも2桁の規模で低い、組成物(ただし、β-シクロデキストリンを含む組成物を除く)。
【請求項2】
分子ヨウ素の濃度が、10ppm~1000ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
全てのヨウ素種に対する分子ヨウ素の
重量比が、少なくとも90%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、アクリル酸のホモポリマー、アルコールエステル、ポリエチレングリコール(PEG)、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアールガム、トラガカント、アルギン酸、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される1つ以上のゲル化剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の粘度が、500~10,000センチポイズである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
モノメチルエーテル、アセテート、アミルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルスルホキシド、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、およびエタノールからなる群から選択される1種またはそれより多くの有機分子をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
乳酸、ミリスチン酸、ドデカン酸およびカプリル酸からなる群から選択される飽和脂肪酸をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
皮膚への適用のために製剤化された、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記皮膚への適用が、手指殺菌剤、クリーム、フォーム、ゲル、ローションまたは軟膏の剤形の形態でなされる、請求項8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる2016年7月21日付けで出願された米国仮特許出願第62/365,035号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般的に、低減された有効な蒸気圧を有する分子ヨウ素を含有するエモリエント性の局所組成物に関する。具体的な実施態様において、本組成物は、哺乳類組織に適用した後に、貯蔵条件下で、雰囲気への分子ヨウ素の損失を低減する。
【背景技術】
【0003】
抗生物質耐性は、世界的な問題である。抗生物質耐性の新しい形態は、国境をこえて、簡単に、そのうちの多くは驚くべき速度で国と国との間で蔓延する可能性がある。CDCは、米国では毎年、少なくとも200万人が、そのような感染を処置するように設計された抗生物質の1種またはそれより多くに耐性を有する細菌による重篤な感染症にかかることを報告している。米国では毎年、これらの抗生物質耐性感染症の直接的な結果として、少なくとも23,000人が死亡する。さらに多くの人が、抗生物質耐性感染症の合併症である他の状態によって死亡する。
【0004】
抗生物質耐性感染症は、すでに負担過剰な米国の健康管理制度に相当な回避可能なコストを追加する。ほとんどの場合、抗生物質耐性感染症は、長期および/または高価な処置を必要とし、入院を長引かせ、追加の診察や健康保険の使用を余儀なくさせ、抗生物質で容易に処置可能な感染症と比較してより重い能力障害や死をもたらす。米国経済に対する抗生物質耐性の全体的な経済的費用の概算は変動するが、1年当たり、直接的な健康管理費用が200億ドルもの高さ、生産性損失による社会への追加のコストが350億ドルもの高さに及ぶとされてきた。
【0005】
抗生物質の使用は、世界中で抗生物質耐性を引き起こす一つの最も重要な要因である。抗生物質は、なかでも特に、ヒトの薬で使用される最も一般的に処方される薬物である。しかしながら、ヒトに処方された全ての抗生物質の50%もが不要であるか、または処方されたままの状態では最適な有効性を示さない。抗生物質はまた、一般的に、疾患を予防する、制御する、および処置するため、さらには食物生産動物の成長を促進するために動物用の食物中にも使用されているが、これが問題をいっそう複雑化している。
【0006】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、S.Aureus)は、手術部位感染の主な原因であり、黄色ブドウ球菌感染のおよそ80%が患者自身の鼻の細菌叢によって引き起こされる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、病院で処置される急性細菌性皮膚および皮膚構造感染症(ABSSSI)の最も一般的な原因病原体である。現在のところ、MRSAは毎年、AIDSおよびHIV合併症より多くの人を死に至らしめる。
【0007】
分子ヨウ素は、MRSAに対して極めて有効であり、実質的にインビトロおよびインビボで証明された広域抗菌スペクトルの抗微生物性鼻用薬剤の利点を提供することが実証された。分子ヨウ素の活性は、一般的な細菌性および抗生物質耐性種の両方に対して効果的である。分子ヨウ素は、耐性菌株を生成しない。
【0008】
細菌、ウイルスおよび真菌などの病原体を哺乳動物から局所的に取り除くことは、衛生および医薬分野では確立された予防および治療的手順である。日々、患者の転帰を改善するための試みにおいて、局所的に病原体を排除するための多数の局所組成物、静脈内(IV)処置、デバイスおよび臨床的手順が使用されている。それにもかかわらず、鼻から伝染する黄色ブドウ球菌(MRSA)は効果的に対処されてこなかった。
【0009】
およそ3人に1人(33%)が鼻の中に黄色ブドウ球菌を保持し(htpp://www.cdc.gov/mrsa/tracking)100人に2人がMRSAを保持する。過去のいつかにMRSAキャリアーと同定された患者の研究において、91%の鼻のサンプルがMRSA陽性であり、これらの患者のほぼ25%が、鼻中にMRSAを有していたが、他の体のどの部位にもMRSAを有していなかった(Antimicrob. Agents Chemother. 2007年11月、51巻、1号、13880~3886)。鼻のコロニーからのMRSA排除に唯一承認された処置は、活性物質が抗生物質のムピロシンであるバクトロバン(Bactroban)(商標)である。2002年において、ムピロシン耐性の患者でみられる黄色ブドウ球菌のパーセントは、約18%と推測される(Antimicrob. Agents Chemother. 2007年11月、51巻、1号、13880~3886)。したがって、鼻から伝染するMRSAを排除するために抗生物質の使用を増加させることは、最適な長期戦略とはいえない。
【0010】
ヨウ素ベースの製剤は、例えば術前のカテーテル法、焼灼、穿刺、創傷ケアまたは局所感染などの多くの臨床症状において、表皮組織の消毒に使用される。これらのヨウ素ベースの製剤は、分子ヨウ素の殺菌活性のために、完全に分子ヨウ素に依存する(Hickeyら、J Pharm Pharmacol. 1997年12月;49(12):1195~9)。実際に、細菌は、有効な分子ヨウ素の濃度が1ppm未満になるように分子ヨウ素が高度に錯化している場合、10%ポリビニルピロリドン-ヨウ素(「PVP-I」)製剤中で長期間生存することができる(Favero MS. Infect Control. 1982年1月~2月;3(1):30~2)。分子ヨウ素が加水分解を受けたら、例えばヨウ化物、次亜ヨウ素酸、ヨウ化物、三ヨウ化物、ヨウ素酸イオンなどの他のヨウ素種が形成される製剤中でその存在を確実にするには、単に水性製剤に分子ヨウ素を添加するだけでは不十分である。
【0011】
文献で教示されたほとんど全ての局所ヨウ素組成物は、ヨードフォアをベースとするか(三ヨウ化物を界面活性剤と組み合わせて含有し、ヨウ化物および微量の分子ヨウ素と平衡状態である消毒剤の群のいずれか)または分子ヨウ素がヨウ化物と錯化している製剤である。これらの追加のヨウ素種(ヨウ化物、三ヨウ化物およびPVP-I)は、全身毒性の潜在的なリスクを増加させ、着色の一因となるが、抗微生物活性に寄与しない(これらは、分子ヨウ素を安定化させるために包含される)。ヨードフォアは、分子ヨウ素の着色と好ましくない感覚刺激的な特性を低減させるという意見は、データによって裏付けられ、公開されたデータと一致するが、これはルゴール液の場合である可能性がある。例えば、Duan Yら、J Hosp Infect. 1999年11月、43(3).219~29;米国特許第6,432,426号;および米国特許第6,261,577号を参照されたい。
【0012】
多くの局所ヨウ素ベース製剤は、当業界においてPVP-Iの開発から提案されてきた。例えば、米国特許第9,114,156号および米国特許第6,228,354号は、PVP-Iを含有するフィルム状のフィルム形成ポリマーを記載する。米国特許第7,147,873号は、分子ヨウ素とヨードフォアの両方を含有するフィルム状のフィルム形成ポリマーを教示する。米国特許第8,808,722号は、2.0重量%の最小濃度で存在するヨウ化物塩と組み合わせた滴定可能なヨウ素濃度0.1%~2%を含有する、分子ヨウ素/ヨードフォアの組合せから形成される錯化されたヨウ素の製剤を記載する。
【0013】
米国特許第8,840,932号は、分子ヨウ素とPVP-Iの両方を含有するフィルム形成性抗微生物性組成物を教示するが、その出願に記載の実施例のいずれにおいても分子ヨウ素は成分として包含されておらず、PVP-Iの非存在下で分子ヨウ素に安定な環境を提供するのに役立つと予想される条件も記載されていない。
【0014】
米国特許第5,922,314号は、エチルアルコール、カルボキシル化ポリアクリレート、架橋剤、接着促進剤、ヨウ素またはPVP-Iのいずれかであり得る活性抗微生物剤、プルロニックポリオール、ならびに分子ヨウ素および/またはPVP-Iを含む、抗微生物性フィルム形成組成物を教示する。‘341号特許は、「ヨウ素」の安定性の増加を教示するが、水性環境で分子ヨウ素を安定化させると予想される条件を教示しない。実際に、実施例1は、10%PVP-Iの非存在下における分子ヨウ素の安定性の欠如を実証する。具体的に言えば、この実施例の組成物Aとして開示された製剤は分子ヨウ素のみを含有しており、この製剤は、10%PVP-Iを含有する組成物と比較してほぼ50%のヨウ素が失われることを実証しており、利用可能なヨウ素の50%損失は、ほぼ対照に等しい。
【0015】
米国特許第5,370,815号および米国特許第5,227,161号には、酵素ベースの製剤中に純粋な分子ヨウ素を提供する局所抗微生物性組成物に関する有効な製剤アプローチが教示される。米国公報第20060280809号(取り下げ);米国特許第5,897,872号およびPCT公報WO2012177251号は、副鼻腔炎を処置するための鼻腔中でのPVP-Iの使用を教示する。米国特許第8,303,994号および米国特許第8,691,290号は、最終濃度が25ppmから約250ppmの範囲になるようにヨウ化物とヨウ素酸イオンとの反応から生成した分子ヨウ素をベースとする、鼻腔中に存在する病原体を致死させるための方法を教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第6,432,426号
【文献】米国特許第6,261,577号
【文献】米国特許第9,114,156号
【文献】米国特許第6,228,354号
【文献】米国特許第7,147,873号
【文献】米国特許第8,808,722号
【文献】米国特許第8,840,932号
【文献】米国特許第5,922,314号
【文献】米国特許第5,370,815号
【文献】米国特許第5,227,161号
【文献】米国公報第20060280809号
【文献】米国特許第5,897,872号
【文献】PCT公報WO2012177251号
【文献】米国特許第8,303,994号
【文献】米国特許第8,691,290号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Antimicrob. Agents Chemother. 2007年11月、51巻、1号、13880~3886
【文献】Hickeyら、J Pharm Pharmacol. 1997年12月;49(12):1195~9
【文献】Favero MS. Infect Control. 1982年1月~2月;3(1):30~2
【文献】Duan Yら、J Hosp Infect. 1999年11月、43(3).219~29
【発明の概要】
【0018】
本発明は、組織消毒を意図した分子ヨウ素を含有する組成物に関する。本明細書で教示される組成物は、侵襲的な手順の前に、罹患および/または死を引き起こすかまたはそのリスクがある病原体を排除するために、表皮および粘膜組織(例えば口腔組織、前鼻孔を含む鼻道、食道、および膣など)を準備することにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1A-1Cは、本発明の一実施態様に係る実施例4の結果を例示する。
【
図1B】
図1A-1Cは、本発明の一実施態様に係る実施例4の結果を例示する。
【
図1C】
図1A-1Cは、本発明の一実施態様に係る実施例4の結果を例示する。
【
図2A】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2B】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2C】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2D】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2C-2】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2D-2】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2E】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2F】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2G】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2H】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2I】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図2J】
図2A-2Jは、本発明の一実施態様に係る実施例5の結果を例示する。
【
図3A】
図3Aと3Bは、本発明の一実施態様に係る実施例6の結果を例示する。
【
図3B】
図3Aと3Bは、本発明の一実施態様に係る実施例6の結果を例示する。
【
図4A】
図4A-4Cは、本発明の一実施態様に係る実施例7の結果を例示する。
【
図4B】
図4A-4Cは、本発明の一実施態様に係る実施例7の結果を例示する。
【
図4C】
図4A-4Cは、本発明の一実施態様に係る実施例7の結果を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の簡潔な概要
本発明は、より具体的には、(1)標準気圧で分子ヨウ素の蒸気圧より少なくとも30%低い蒸気圧を有し;(2)標準気圧で100℃より高い沸点を有し;(3)分子ヨウ素を室温で少なくとも9ヶ月間安定化させる環境を提供する、エモリエント性の有機キャリアー分子をベースとする医薬的に許容される製剤を予期する。
【0021】
ヨウ素ベースの局所抗微生物剤は、臨床の場で広く使用される。分子ヨウ素は、ヨードフォア製剤中の唯一の殺菌性物質であるが、低い蒸気圧を有し、雰囲気に晒されている水性製剤に溶解させると迅速に雰囲気中に失われる。ヨードフォアは、低レベルの未結合(遊離)の分子ヨウ素を安定化させるものであり、それによって、結合した分子ヨウ素の蓄えを分子ヨウ素と平衡状態にある三ヨウ化物の形態で維持することにより病原体を不活化でき、ここでこれらの2つの化学種の相対濃度(三ヨウ化物/分子ヨウ素)は、およそ10,000/1である。
【0022】
ヨードフォアが哺乳類組織上に拡がると、その結果の適用されたヨードフォアの表面積対体積比は極めて高い。このように表面積対体積比が高ければ、いずれの遊離分子ヨウ素も極めて迅速に雰囲気に失われることになる。持続的な抗微生物バリアを提供することを謳ったフィルム形成性ヨードフォアが、開発されている。しかしながら、ヨードフォアからフィルムが形成されると、遊離分子ヨウ素は存在しなくなる。これらの例において、遊離分子ヨウ素は、(a)雰囲気中に失われるか、または(b)分子ヨウ素は限られた溶解性しかないため固体になり、次いで雰囲気に昇華するかのいずれかである。ヨードフォアで形成されたフィルムは、抗微生物活性を提供できるようになる前に、恐らく創傷の滲出物によって再溶解される必要がある。結果として、本組成物は、必然的に、遊離分子ヨウ素の放出を阻害すると予想される非常に高濃度のヨードフォアを有すると予想される。
【0023】
様々な実施態様において、局所ヨウ素ベース組成物であって、(a)典型的なヨードフォアで見出される濃度より10~400倍高い濃度で遊離分子ヨウ素を送達し、(b)エモリエント性であり;(c)分子ヨウ素が、それに匹敵する水性組成物が雰囲気に晒されたときより少なくとも一桁長く組成物中に残るように、分子ヨウ素の有効な蒸気圧を低くする、組成物が本明細書で提供される。
【0024】
様々な実施態様において、本出願で予期される組成物は、ヨードフォアと比較して、高濃度の遊離分子ヨウ素を哺乳類組織と長期間接触したまま維持することができる局所組成物を効果的に提供する。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明を以下でより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多くの様々な形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施態様に限定されると解釈されるべきではなく、むしろこれらの実施態様は、本開示が詳細で十分なものであり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるものになるように提供される。
【0026】
本明細書において引用された全ての公報、特許および特許出願は、上記または下記にかかわらず、別段の指定がない限り参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。同じ用語が、参照により本明細書に組み入れられた公報、特許、または特許出願と本発明の開示の両方で定義される場合、本発明の開示における定義が、優先的な定義を表す。特定のタイプの化合物、化学的性質などのそれらの説明に関して参照された公報、特許、および特許出願について、このような化合物、化学的性質などに関連する部分は、参照により本明細書に組み入れられる文書の一部である。
【0027】
本発明およびその好ましい実施態様をいっそう容易に理解しやすくするために、本明細書で使用される用語意味は、様々な用語の一般的な使用と以下の用語集または後続の説明で提供される他の用語の明示的な定義を考慮して、本明細書の文脈から明らかになると予想される。
【0028】
用語集
本明細書で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形の指示対象を包含することに留意されたい。したがって、例えば、「ゲル化剤」への言及は、単一のゲル化剤に加えて、数種の異なるゲル化剤を指し、「賦形剤」への言及は、単一の賦形剤に加えて、2種またはそれより多くの異なる添加剤を包含し、他も同様である。
【0029】
「任意選択の」または「任意選択で」は、その記載が状況が起こる場合と状況が起こらない場合を包含するように、それに続いて記載される状況が起こる場合もあるし、または起こらない場合もあることを意味する。
【0030】
用語「医薬的に許容される」は、存在物または成分に対して述べられる場合は、特定されたレベルで、またはレベルが特定されていない場合は、当業者により許容できることが公知のレベルで、患者において有意な有害な毒物学的作用を引き起こさないことである。本出願に記載された全ての成分は、医薬的に許容される。
【0031】
用語「分子ヨウ素」は、溶解しているか、懸濁されているか、または固体状態かにかかわらず、化学記号で表される二原子のヨウ素(CASレジストリ番号:7553-56-2)を指す。分子ヨウ素はまた、固体状態の場合、「元素ヨウ素」とも称される。
【0032】
用語「ヨウ化物」または「ヨウ化物アニオン」は、化学記号I-で表される化学種(CASレジストリ番号;20461-54-5)を指す。ヨウ化物アニオンの好適な対イオンとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどが挙げられる。
【0033】
用語「ヨウ素酸イオン」は、負電荷を有し、化学記号IO3で表されるヨウ素酸アニオンを指す。一般的に入手可能なヨウ素酸塩は、本発明のヨウ素酸イオンの好適な源として役立ち、一例としては、溶解しているかまたは固体状態であるかにかかわらず、ヨウ素酸ナトリウム(EC番号:231-672-5)、ヨウ素酸カリウム(EC番号:231-831-9)、およびヨウ素酸カルシウム(EC番号:232-191-3)が挙げられる。
【0034】
用語「錯化されたヨウ素」または「結合したヨウ素」は、本明細書で使用される場合、分子ヨウ素と、分子ヨウ素と結合して分子ヨウ素が病原体を致死できなくする他の化学種との混合物を指す。ヨウ化物および/またはポリビニルピロリドンなどの他の化学種に分子ヨウ素を錯化することは、分子ヨウ素の安定性を増加させるのに使用される製剤戦略である。最初に広く使用された錯化されたヨウ素の例は、ルゴール液であった。
【0035】
用語「ヨードフォア」は、本明細書で使用される場合、分子ヨウ素と、溶液中の遊離分子ヨウ素のレベルを低減させるのに役立つポリマーとの混合物を指す。ヨードフォアを形成するのに使用されるポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、N-ビニルラクタム、アクリレートおよびアクリルアミドのコポリマー、様々なポリエーテルグリコール、例えばノニルフェノールエトキシレートなど、ならびにそれらの組合せが挙げられる。ポビドンヨード(PVP-I)は、ヨードフォアであり、これは現状で、錯化されたヨウ素の最も一般的に使用される形態である。
【0036】
用語「ポリマー」は、本明細書で使用される場合、ホモポリマーおよびコポリマーを包含し、「コポリマー」は、2種またはそれより多くのタイプの重合性単量体のあらゆる長さのポリマー(オリゴマーなど)を包含し、それゆえにターポリマー、テトラポリマーなどが挙げられ、その例としては、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、またはシーケンシャルコポリマーなどを挙げることができる。
【0037】
サンプル中の「全てのヨウ素種」という用語は、形態に関わりなく、サンプル中の全てのヨウ素含有成分からの全ヨウ素を指す。
サンプル中の「全てのヨウ素種に対する分子ヨウ素の比率」という用語は、サンプル中の全てのヨウ素種からのヨウ素の濃度で割った、サンプル中の分子ヨウ素(I2)の比率を指す。
【0038】
用語「分子ヨウ素のための有機キャリアー」は、医薬的に許容される有機分子であって、分子ヨウ素が可溶性であり、分子ヨウ素と相互作用してその構造を変化させない、すなわち分子ヨウ素の安定性を支持するものを指す。2つの最も好ましい有機キャリアーは、プロピレングリコールおよびグリセリンである。
【0039】
用語「有機添加剤」は、本明細書で使用される場合、追加の特徴を追加するために、分子ヨウ素のための有機キャリアーと共に包含されていてもよい有機分子を指す。このような有機分子としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アミルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、ジメチルスルホキシド、1-プロパノールおよび2-プロパノールが挙げられる。
【0040】
用語「ゲル化剤」または「粘度増強剤」は、組成物の粘度を増加させるのに役立つ医薬的に許容される有機分子を指す。
用語「体温」は、処置中の哺乳類組織表面の温度を指す。例えば、正常な健康な皮膚の温度は、測定の位置や患者に応じて、32℃~34℃であり、鼻の粘膜内層の温度は、32.5℃~35℃である。
【0041】
用語「再溶解後の貯蔵寿命」は、分子ヨウ素が、二相または多相の製剤中で活性化/混合された後に望ましい範囲内である時間を指す。
用語「貯蔵寿命」は、通常の貯蔵条件下で好適なパッケージ中で製品を貯蔵し、それでもなお要求される活性の少なくとも90%を提供できる時間を指す。
【0042】
用語「有効量」は、本明細書では、臨床上興味のある病原体を不活化するのに必要な医薬配合物中の成分の濃度を意味するものとして使用される。正確な量は、様々な要因、例えば、医薬配合物の要素および物理特性、意図される適応症、意図される患者集団などによって左右されると予想され、当業者によって本明細書で提供される情報または方法に基づき決定することができる。
【0043】
用語「効能に必要な接触時間」は、本明細書では、組成物が、哺乳類組織と接触してから臨床的な有効性を達成するのに必要な最小の時間を意味するものとして使用される。
用語「患者」は、本発明に含有される教示の好適な実施態様の投与により処置され得る生物を指す。
【0044】
本明細書での組成物への言及における「通常の貯蔵条件」は、5~40℃の温度、10~90%の湿度、1気圧の圧力(ATM)、ならびにおよそ20%の酸素および80%の窒素を有する環境である。
【0045】
用語「pH制御剤」は、組成物または組成物の要素の有効なpHを制御する化学物質を指すものとする。好適なpH制御剤としては、炭酸塩、リン酸塩および酢酸塩、ギ酸塩、コハク酸塩、例えば、炭酸カルシウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0046】
用語「二相チャンバーのパッケージ」は、貯蔵条件下で製剤の要素を別々に保持するパッケージを指す。二相チャンバーのパッケージは、使用前に、製剤中の全ての成分を合わせる。二相チャンバーのパッケージという用語はまた、2つより多くのチャンバーを含有するパッケージも指す。
【0047】
用語「単相」および「二相」は、使用前に混合される単一の要素または2つの要素のいずれかからなる製剤で使用するための、本出願において予期されるパッケージング構造を指す。二相という用語はまた、2つより多くの相からなる製剤も指す。
【0048】
簡潔化する目的で、本明細書で引用される全ての特許および他の参考文献は、参照によりそれら全体が開示に組み入れられる。
ヨウ素ベースの消毒剤中の殺菌性の化学種は、分子ヨウ素である。分子ヨウ素は水性環境で不安定であるため、配合者は、ヨードフォアを使用して、分子ヨウ素または三ヨウ化物と結合する非常に高い濃度のヨウ化物/三ヨウ化物および有機分子と平衡状態で低い濃度の分子ヨウ素を提供してきた。それにより、活性物質、すなわち分子ヨウ素が、典型的には全ヨウ素種の0.1%未満の濃度で存在する製剤がもたらされる。臨界レベル未満の濃度の分子ヨウ素を含有するヨードフォアは、細菌で汚染される可能性があり、感染の伝播の原因になってきた。
【0049】
本出願で明らかになった活性物質は、分子ヨウ素である。本出願に記載された組成物中の全てのヨウ素種に対する分子ヨウ素の比率は、全てのヨウ素種の少なくとも80%であり、好ましくは少なくとも90%であり、最適には100%である。本出願において予期される製品中の分子ヨウ素の供給は、エモリエント性の有機キャリアー中の分子ヨウ素が溶解することによってなされる。液体中の純粋な分子ヨウ素を製剤化することに関連する1つの問題は、分子ヨウ素が雰囲気に失われる性質である。
【0050】
室温で気体を形成するヨウ素の唯一の形態は、分子ヨウ素である。分子ヨウ素は、25℃で0.3mm、38.7℃で1mmの蒸気圧を有する。標準気圧で、密封容器中、25℃で、最大394ppmのヨウ素を蓄積することができる。ヨウ素の蒸気は、粘膜に対して強い刺激性を有し、上気道および下気道系に有害作用を与える。ヨウ素蒸気の吸入は、流涙、胸苦しさ、咽頭痛、肺気流抵抗の増加、換気率の減少および頭痛を引き起こす可能性がある。ヒトは、0.1ppmで平静に作業でき、0.15~0.2ppmで困難さを伴い、0.3ppmおよびそれより高い濃度で耐えることができない。1.63ppmの濃度では、2分後に重度の目への刺激が観察されており、最も低い致死性の雰囲気濃度は、ラットの場合、80ppmで1時間である。許容される曝露限界は0.1ppm(NIOSH、OSHA)であるが、約0.9ppmのレベルに達するまで匂いは検出されないため、匂いが検出される前に炎症が起こる可能性がある。
【0051】
本出願に記載される2つの製剤方法は、本出願で予期される組成物に高濃度の分子ヨウ素を取り込むことを可能にする。第1の方法は、低い蒸気圧と、沸点が100℃より高い、分子ヨウ素を含有する非水性の有機キャリアーの使用である。本出願で明らかになった有機キャリアーの疎水性環境は、水と比較して、分子ヨウ素により高い親和性を有し、これは、分子ヨウ素の有効な蒸気圧を低減させ、雰囲気への分子ヨウ素の損失を低減する。
【0052】
分子ヨウ素の蒸気圧を低減するための第2の方法は、シクロデキストリンの使用であり、シクロデキストリンは、分子ヨウ素を中和しないが、分子ヨウ素が容易に逃げることができない封入の空洞を提供する。好ましいシクロデキストリンの使用は、本出願に記載される実施例で実証されるように、分子ヨウ素の蒸気圧を低減する。
【0053】
本出願の好ましいエモリエント性の有機キャリアーは、(a)分子ヨウ素の蒸気相の30%未満である蒸気相を有し、(b)100℃より高い温度で沸騰するものである。本出願の好ましいエモリエント性の有機キャリアーは、水の場合と同程度に多くの単位体積当たりの分子ヨウ素を少なくとも2時間可溶化することができる。これらの特徴の組合せは、水性組成物中の場合に予想される損失と比較して、表皮表面に適用されてからの分子ヨウ素の雰囲気への損失速度を実質的に低減させるのに役立つ。特定の使用に関して前記組成物からの分子ヨウ素の放出速度を増加させることが望ましい場合、本出願の好ましいエモリエント性の有機キャリアーは、適用前に、水と組み合わせてもよい。
【0054】
本出願で明らかになった好ましい製剤は、分子ヨウ素のためのエモリエント性の有機キャリアーとして、プロピレングリコールまたはグリセリンのいずれかを使用する。補助的な製品特徴を提供するために、本出願において予期される組成物中に、追加の有機キャリアーが包含されていてもよい。本出願により予期される組成物中に包含されることができる追加の有機キャリアーとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アミルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルスルホキシド、1-プロパノールおよび2-プロパノール、ジメチルスルホキシド、エタノール、イソプロパノール、エタノールなどが挙げられる。
【0055】
本発明では、様々なパッケージング構造が予期される。1つの構造において、製品は、単一の区画内に含有される。別の構造において、製品は、2つの別々の区画に含有され、これらは目的の哺乳類組織に適用する前に混合される。さらに別の構造において、製品は、3つの異なる区画または材料に含有され、これらは、目的の組織に適用する前に、互いに混合させるかまたは接触させる。多くの賦形剤は、活性物質が失われるにつれて商業的な流通機構に製品を置くのに十分な安定性を達成できなくなるほど分子ヨウ素の安定性を低減させることから、これらの様々なパッケージング構造は、製剤中に包含させることができる異なる賦形剤の数を増加させる。
【0056】
多区画のパッケージは、本出願に記載された局所組成物適用の直前に、水相を有機キャリアー相と混合することを可能にする。このような水相に、望ましい製剤の特徴を付与するために、水溶性ポリマー、ゲル化剤、芳香剤およびpH制御剤が取り込まれていてもよい。
【0057】
本発明の追加の要素としては、当業者周知の粘度強化剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー(ポリオキシプロピレンとポリオキシエチレンのコポリマー)、ウルトレッツ(Ultrez)30のような架橋アクリル酸のホモポリマー、カルボキシメチルセルロースまたはグアールガムなどが挙げられる。本明細書に記載される組成物の特定の実施態様にとって好ましい粘度は、100,000センチポイズ(cps)以下、より好ましくは50,000cps以下、さらにより好ましくは10,00cps以下、最も好ましくは500cps以下である。
【0058】
本発明の追加の要素としては、長期にわたり残る殺菌性活性を付与する不飽和脂肪酸が挙げられる。このような物質の代表例としては、乳酸、ミリスチン酸、1-モノラウリン、ドデカン酸(dodeconic)およびカプリル酸が挙げられる。乳酸(latic acid)およびカプリル酸は、プロピレングリコール中に直接取り込むことができ、他の不飽和脂肪酸は、使用前にプロピレングリコールまたはグリセリンと合わせた水相に取り込む必要がある。
【0059】
本発明の好ましい組成物は、鼻、前鼻孔、および膣円蓋などの湿った環境中でも独立的であり、10%ポビドン-ヨード液(パーデュー・フレデリック(Purdue Frederick)、コネチカット州ノーウォーク)などの典型的な殺菌剤より長い期間にわたりこれらの組織のいずれかの上に残る。「独立的な」組成物は、前鼻孔などの哺乳類組織上に載せたとき一定量の残留した分子ヨウ素を含む組成物であり、すなわち、0.25ミリリットル(mL)を綿棒で滴下し、分布が均等になるように鼻孔を穏やかに30秒マッサージして、存在する微生物の大部分を致死させた後でも(この致死は数分で起こる)、それらがまだ存在する組成物(患者が排出させたりまたは計画的もしくは不注意で製品を拭い去ったりしない限り)である。本明細書に記載される具体的な実施態様において、好ましい独立の組成物は、前鼻孔中に50分、より好ましくは滴下後少なくとも60分存在したままである。
【0060】
文献は、殺菌活性を強化するためにフィルムを形成するヨードフォア組成物を多数記載している。フィルムベースのヨードフォアに固有の製剤アプローチは、極めて低い濃度の分子ヨウ素を送達し、これを皮膚表面上で乾燥させ、前記フィルムが湿った環境と相互作用すると、恐らく一部の分子ヨウ素を放出する能力を有すると予想される、複雑なヨードフォア組成物を提供することである。分子ヨウ素は皮膚に吸収され、皮膚から少なくとも24時間ガス放出されることが実証された。加えて、吸収およびガス放出された分子ヨウ素の濃度は、皮膚に適用された分子の濃度に正比例する。本出願で考慮される特定の局所適用は、フィルム形成性局所ヨードフォア調製物で採用されるアプローチとは対照的に、皮膚に分子ヨウ素を含浸させることによって皮膚を活性な殺菌バリアに変換すると考えられる。
【0061】
適用されたら分子ヨウ素を効能に必要な時間にわたり製剤中に存在させ、次いでヨウ化物を形成することによって分子ヨウ素の消散を誘導する添加剤が同定されている。
皮膚、創傷、または粘膜組織で使用するための本発明の殺菌組成物の特に重要な特性は、迅速に、組織、特に皮膚上の細菌量を低減させる(例えば、天然の皮膚細菌叢を致死させる)能力である。本明細書に記載される発明の具体的な実施態様において、本組成物は、正常な皮膚細菌叢を、少なくとも1log(10倍)、より好ましくは少なくとも1.5log、最も好ましくは少なくとも2log低減させることが可能である。
【0062】
本発明は、長期間にわたり組織と接触し続けることができる高濃度の実質的に純粋な分子ヨウ素を含有するエモリエント性の組成物を提供することによって従来技術の限界を克服する。
【0063】
以下の実施例は、本出願の教示の例示であり、どのような形でも本発明への限定を意味しない。
【実施例】
【0064】
実施例1
ヨウ素結晶(アルファ・エイサー(Alfa Aesar);マサチューセッツ州ワードヒル;カタログ番号14248;ロット104Z003)を、ネジ蓋付きバイアル中の約50mLのプロピレングリコールに添加して、w/v(ヨウ素/有機キャリアー)で1mg/mLの比率を達成した。
【0065】
第2のネジ蓋付きバイアルを使用して、同等のグリセリン中の分子ヨウ素溶液を形成した。ボトルに撹拌子を入れ、テフロン(Teflon)張りのネジ式の上蓋を使用してボトルを密封した。2つのボトルを室温で14日間撹拌した。2つの飽和溶液からのアリコートを、それらそれぞれの有機キャリアーで、290nmで約1.0の光学密度を生じる濃度に希釈した。
【0066】
希釈された分子ヨード液それぞれの3.0mLのアリコートを定期的に引き出し、使い捨てのプラスチックキュベット(ブランド(Brand)7591 70)中に入れた。キュベットをLDPE蓋できつくキャップし、テフロン(PTFE)テープで覆い、雰囲気への分子ヨウ素の損失を防いだ。各サンプルでUV-VISスキャンを収集し、290nmおよび360nmでの吸光度を使用して、分子ヨウ素の安定性を時間の関数としてモニターした。サンプルを周囲条件で貯蔵した。
【0067】
4ヶ月の時間枠にわたり20タイムポイントをとり、吸光度値を平均した。平均から2標準偏差より大きいまたは小さい値を捨て、平均を再計算した。測定された初期値から10%の損失があった場合、サンプルを不安定とみなした。
【0068】
データから、分子ヨウ素は両方の有機キャリアー中で安定であったことが実証された。一例として、120日後、分子ヨウ素の損失は、プロピレングリコール中で6%未満、グリセリン中で5%未満であった。プロピレングリコールで得られた全てのデータポイントの標準偏差は、初期の光学密度の2%未満に等しく、それと同等のグリセリンにおける測定値は1.7%未満であった。
【0069】
実施例2
異なる有機溶媒中のヨウ素の安定性を、本明細書に記載される手順を使用して試験した。具体的には、ヨウ素結晶(アルファ・エイサー14248、ロット104Z003)を、以下の溶媒;USPグリセリン(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、ミズーリ州セントルイス;カタログ番号G2289)、プロピレングリコール(シグマ-アルドリッチ、ミズーリ州セントルイス;カタログ番号D1435)およびエタノール(シグマ-アルドリッチ、ミズーリ州セントルイス;カタログ番号792799-24X1PT)に1mg/mL濃度まで添加した。
【0070】
ボトル中に撹拌子を入れ、ボトルをキャップした。サンプルを室温で7~14日間撹拌した。得られた飽和溶液をろ過せずそのままにした。飽和溶液からのアリコートを、分光光度計において290nmおよび360nm波長で約1.0のODピークの高さを生じる濃度になるまで、それらそれぞれの溶媒で希釈した。
【0071】
上記の工程で決定されたヨウ素を添加したDMSOおよびエタノールの3mlのアリコートを、透明なISO認定の使い捨てプラスチックキュベット(ブランド7591 70)に入れた。キュベットをLDPE蓋できつくキャップし、テフロン(PTFE)テープで覆った。
【0072】
サンプルを、引き出しの中で、周囲条件で貯蔵した。分光光度計において、様々なタイムポイントで測定値を得た。60日目に、エタノールサンプルは、290nmおよび360nmでの光学密度により測定したところ、元の分子ヨウ素の20%より多くを失った。対照的に、グリセリン、プロピレングリコールおよびジメチルスルホキシドは、270日より後のタイムポイントでもまったく分子ヨウ素を失わなかった。
【0073】
実施例3
ヨウ素を酢酸緩衝液中に溶解させて、飽和溶液を作成した。具体的には、ヨウ素結晶(アルファ・エイサー14248、ロット104Z003)を、pH4.5の酢酸緩衝液に1mg/mLの濃度で添加した。ボトル中に撹拌子を入れ、ボトルをキャップした。サンプルを室温で7~14日間撹拌した。得られた飽和溶液をろ過せずそのままにした。
【0074】
異なる濃度のカルボキシメチルセルロース(シグマ・アルドリッチ、ミズーリ州セントルイス;カテゴリー番号419273-1006;ロット番号:MKBT6160V;CAS番号9004-32-4)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Moleular recipes.com;F50;X00096CD4N;カリフォルニア州マリナデルレイ)、ポロキサマー-188(アルファ・エイサー、マサチューセッツ州ワードヒル;カテゴリー番号:J66087;ロット番号:W24A018;CAS番号9003-11-6)、およびカーボポール・ウルトレッツ(Carbopol Ultrez)30(ルーブリゾール(Lubrizol)、オハイオ州クリーブランド、カテゴリー番号CBP1118;バッチ番号0101499333)を、上述したように調製された分子ヨウ素を含有する酢酸緩衝液のアリコートに添加した。最終的なサンプルは、5%CMC、5%HPMC、5%ポロキサマー-188、および0.5%のカーボポール・ウルトレッツ30を含有していた。得られたサンプルを、分光光度計(Spectra Max Plus 384 UV-Visスペクトロフォトメーター;モレキュラーデバイス(Molecular Devices)、カリフォルニア州サニーベール)に置き、290nmおよびA360nmでの光学密度が約1.0Aであったことを確認した。
【0075】
分子ヨウ素を含有する各ポリマー製剤のアリコート(3ml)を、透明なISO認定の使い捨てプラスチックキュベット(ブランド7591 70)に入れた。キュベットをLDPE蓋できつくキャップし、テフロン(PTFE)テープで覆い、サンプルを、引き出しの中で、周囲条件で貯蔵した。
【0076】
様々なタイムポイントにおいて、光学密度の測定値を290nmおよび360nmで得て、各サンプル中に残った分子ヨウ素の量を測定した。分子ヨウ素の90%より多くが、カルボキシメチルセルロースを含有するサンプル中で失われた。分子ヨウ素の30%より多くが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するサンプル中で失われた。5%ポロキサマー-188を含有するサンプルは、6時間で10%の分子ヨウ素の濃度の低減を示し、24時間で25%を超える低減を示した。他のポリマーとは対照的に、カーボポール・ウルトレッツ30は、9ヶ月より長く分子ヨウ素と相溶性であった。初期に分子ヨウ素の絶対濃度が約25%低減したが、損失は安定化したことから、このポリマーは、長期にわたり分子ヨウ素と組み合わせることができる。
【0077】
実施例4
アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン(γ-シクロデキストリン、カタログ番号C4892、シグマライフサイエンス(Sigma Life Sciences)、ロットSLBL4156V、CAS17465-86-0)、メチルベータシクロデキストリン、および2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン
以下のシクロデキストリン:α-(カタログ番号C4642、シグマライフサイエンス、ロット2XSLBK4630V、CAS10016-20-3)、β-(カタログ番号C4767、シグマライフサイエンス、ロットMKBV2085V、CAS7585-39-9)、γ-(カタログ番号C4892、シグマライフサイエンス、ロットSLBL4156V、CAS17465-86-0)、メチル-β-(カタログ番号C4555、シグマライフサイエンス、ロットWXBC0745V、CAS128446-36-6)、およびジヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(H107、シグマライフサイエンス、ロットWXBC0083V、CAS128446-35-5)を、分子ヨウ素との相溶性に関して試験した。
【0078】
これらのシクロデキストリンの溶液を、両方とも分子ヨウ素を含有する酢酸緩衝液またはプロピレングリコール中で以下のように調製した。シクロデキストリンの重さを量り、バイアルに添加した。次いで分子ヨウ素(アルファ・エイサー14248、ロット104Z003)の飽和溶液を、(a)30mM酢酸緩衝液(pH4.5);または(b)プロピレングリコールのいずれかで調製した。これらの溶液中のヨウ素の測定された濃度は、それぞれ112および672ppmであった。
【0079】
異なるシクロデキストリンの各溶液のアリコートを、50mMの最終的なシクロデキストリン濃度になるまでバイアルに添加した。酢酸緩衝液またはプロピレングリコール中に分子ヨウ素の飽和溶液のみを含有する対照バイアルも調製した。蓋の中にしっかりと取り付けられたヨウ素感受性紙のディスク(フルカ(Fluka)番号3725、ロットSZBF1310V)を、各バイアルのネジ式の上蓋に備え付けることによって、紙を蒸気相中にある分子ヨウ素と反応させると予想されるバイアル中の雰囲気に紙を晒した。
【0080】
1時間、6時間および24時間のタイムポイントで、ネジ式の上蓋の内部にある試験紙の色を検査し、撮影した。
図1A~1Cに、これらの結果を示す。
1時間で、酢酸緩衝液中の分子ヨウ素の対照サンプルがかなり色付いた。6時間で、同じ対照サンプルがほぼ100%黒色になった。24時間で観察された唯一の変化は紙の変色であったが、これは恐らくネジ蓋付きバイアルのネジ山で部分的に保護されたためである。
【0081】
1時間では、酢酸緩衝液中で調製されたシクロデキストリンサンプルのいずれにおいても色はほとんど生じなかった。6時間では、ベータおよびガンマシクロデキストリンのサンプル中で、分子ヨウ素の蒸気が明らかに検出された。24時間では、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンサンプル中で分子ヨウ素の蒸気が明らかに検出され、ベータおよびガンマシクロデキストリンのサンプル中の試験紙は濃く染色された。
【0082】
1時間および6時間では、プロピレングリコール中で調製されたシクロデキストリンサンプルにおいて色はほとんど生じなかった。24時間では、プロピレングリコール中で調製されたシクロデキストリンサンプルの全てにおける試験紙で、分子ヨウ素の蒸気を検出することができたが、プロピレングリコールサンプル中の色の強度は実質的に酢酸サンプル未満であった。
【0083】
観察されたデータから、α-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンは、水性環境で分子ヨウ素の蒸気圧を低減させることが示される。したがってこれらの物質は、分子ヨウ素の水性組成物を安定化させるのに使用することができる。
【0084】
この実験において、プロピレングリコールおよび分子ヨウ素の酢酸緩衝液中の分子ヨウ素を、対照として使用した。これらの2つの対照サンプルにおける試験紙の比較は、分子ヨウ素の蒸気圧を低減させるプロピレングリコールの能力を確立する。
【0085】
これらの2つのサンプルからの試験紙の強度の比較から、プロピレングリコールは、分子ヨウ素の蒸気圧を少なくとも2桁の規模で低減できることが示される。
この実験では、追加のグリセロール中分子ヨウ素の対照(1,120ppm)も用いられた。グリセロール中の分子ヨウ素に関する試験紙の色強度は、プロピレングリコールで観察された色強度と見た目で区別できなかった。
【0086】
実施例5
アルファシクロデキストリン(カタログ番号C4642、シグマライフサイエンス、ロット2XSLBK4630V、CAS10016-20-3)、ベータシクロデキストリン(カタログ番号C4767、シグマライフサイエンス、ロットMKBV2085V、CAS7585-39-9)、ガンマシクロデキストリン(カタログ番号C4892、シグマライフサイエンス、ロットSLBL4156V、CAS17465-86-0)、メチルベータシクロデキストリン、(カタログ番号C4555、シグマライフサイエンス、ロットWXBC0745V、CAS128446-36-6)および2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(カタログ番号H107、シグマライフサイエンス、ロットWXBC0083V、CAS128446-35-5)を、バイアルに量り入れた。
【0087】
プロピレングリコールまたは0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)のいずれかの中の飽和分子ヨウ素のアリコートをバイアルに添加して、最終的なシクロデキストリン濃度50mMを得た。サンプルを軽くボルテックスで混合して、シクロデキストリンを溶解させた。プロピレングリコールまたは0.1M酢酸緩衝液pH4.5のいずれかの中の飽和ヨウ素からなる対照バイアルを調製した。
【0088】
グリセリン中の分子ヨウ素の飽和溶液も調製し、この実験に含めた。分析ヨウ化カリウムデンプン紙(フルカ番号37215、ロットSZBF1310V)を丸く切り、バイアル上に蓋がネジ止めされたらその場に紙が保持されるようにして、それをバイアルのネジ式の上蓋の内部に置いた。
【0089】
図2A~2Jに、異なるタイムポイントで採取した、バイアル内部の雰囲気に晒した時間に対するデンプン紙の色を描写したデンプン紙の図を示す。機能上の仮説は、デンプン紙の色は、バイアル内部の雰囲気中の分子ヨウ素の濃度に対する曝露時間に比例することであった。
【0090】
バイアル内部の雰囲気中の分子ヨウ素の濃度は、液相中の溶解した分子ヨウ素の蒸気圧に比例する。純粋な酢酸緩衝液中の分子ヨウ素の蒸気圧は、全ての他の実験条件より高いことが予測され、すなわち酢酸バイアル中のデンプン紙は、他の実験処理より迅速に色の変換が起こることが予測された。データにより、これが正しいことが実証された。
【0091】
酢酸のみのバイアルのデンプン紙の着色は、5分もの速さで目で見て検出可能であり、4時間まで増加し続け、その時点でデンプン紙中の試薬が消費しつくされる。
注目すべきことに、48時間におけるグリセリン対照およびプロピレングリコール対照実験バイアルのデンプン紙の着色は、20分における酢酸対照バイアルの着色より低いかまたはそれに等しい。言い換えれば、これらの2つの溶媒中の分子ヨウ素の「有効な」相対的な蒸気圧は、水中の蒸気圧より2桁の規模で低い。
【0092】
酢酸対照と比較してより低いシクロデキストリンバイアルの色強度によって証明されたように、シクロデキストリンは、水性環境で、すなわち酢酸緩衝液で分子ヨウ素の蒸気圧を低減するようであった。しかしながら、一部のシクロデキストリンは、分子ヨウ素の蒸気圧を低減させることにおいて、さらに有効であった。例えば、α-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピルシクロデキストリンは、酢酸緩衝液中の分子ヨウ素の蒸気圧において最大の低減をもたらした。意外なことに、これらの3つのシクロデキストリンのうち、α-シクロデキストリンとメチル-β-シクロデキストリンのみが、2桁またはそれより大きい規模で分子ヨウ素の蒸気圧を低減した。
【0093】
分子ヨウ素の濃度を、これらの実験の開始時および終了時に滴定によって測定して、デンプン紙の色強度における低減が、シクロデキストリンによって誘導された分子ヨウ素のヨウ化物への還元に起因するのかどうかを決定した。γ-シクロデキストリンを除いてシクロデキストリンの全てに関して、0時間における初期に測定された分子ヨウ素の65%を超える量が48時間に存在した。
【0094】
単に対照バイアルの開閉だけで酢酸対照バイアル中の分子ヨウ素の約70%の損失を引き起こすため、これは初期の分子ヨウ素の著しく高い濃度であった。これらの観察から、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンは、水性環境で分子ヨウ素の蒸気圧を低減させるのに役立つ可能性があり、α-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリンおよびヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンが特に有効であり、メチル-β-シクロデキストリンおよびヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンが、最も有効であることが実証された。
【0095】
類似のシクロデキストリンによって誘導された蒸気圧の低減は、プロピレングリコールで観察されなかったが、これは、水中の分子ヨウ素とプロピレングリコール中の分子ヨウ素とで分配係数が異なることに起因する可能性がある。分子ヨウ素を安定化することにおいてグリセリンとプロピレングリコールの両方がどれだけ有効であるかを実証するために、これらの実験の開始時および終了時における滴定によって分子ヨウ素のレベルを測定した。48時間においてグリセリンサンプル中で検出された元の分子ヨウ素のパーセンテージは96.6%であり、プロピレングリコールの値は、バイアルの蓋を複数回開閉したにもかかわらず、94.5%であった。
【0096】
実施例6
分子ヨウ素をグリセリンおよびプロピレングリコール中に溶解させ、次いで試験して、これらの有機キャリアー中に溶解させた分子ヨウ素が、メチシリン耐性(MRSA)黄色ブドウ球菌株(MRSA TCH1516)を不活化するのに利用可能であるかどうかを決定した。
【0097】
生存可能なMRSA TCH1516を洗浄し、遠沈し、再懸濁し、標準的な方法の寒天プレート(コールパーマー(Cole Palmer)、イリノイ州ヴァーノンヒルズ:アイテム番号EW-14201-44)上に200uLの細菌を画線した。プレートの蓋を取り外し、プレートを37℃のインキュベーターに入れ、プレートの底部を上にしてプレート表面から全ての残留した水分を除去した。プレートをこの位置で1時間より長く維持して、細菌叢の表面を「乾燥」させた。
【0098】
次いでプレートをインキュベーターから取り出し、分子ヨウ素を含む20uLのキャリアーを細菌叢に適用した。蓋を再び寒天プレート上に置き、プレートをインキュベーターに戻して、厚い細菌叢が存在するようになるまで成長させた。
【0099】
図3Aで示されるように、プロピレングリコールキャリアーを受けたプレートは、952ppmの分子ヨウ素を含む20uLのプロピレングリコールを堆積させたその中心に透明な円があった。円のサイズが20μLの流体体積で被覆された表面積より有意に大きかったことから、ある程度の拡散が生じたことが示される。この組成物の殺菌能力が明らかに実証された。
【0100】
グリセリン-ヨウ素サンプルでも同等の結果が観察された。
図3Bで例示されているように、グリセリンの場合における細菌を致死させる面積は、プロピレングリコールサンプルで観察された面積より小さかったが、グリセリンサンプルにおける分子ヨウ素の濃度(516ppm)はプロピレングリコールキャリアーの場合の濃度の約半分であった。
【0101】
これらの実施例はいずれも、本出願で明らかになった好ましい有機キャリアー中に取り込まれた場合、分子ヨウ素は病原体を不活化する能力を有することを実証する。
実施例7
鼻の局所としての使用を意図した組成物のレオロジー特性は、重要な製剤の検討事項である。鼻腔中に抗微生物剤が一旦置かれれば、鼻腔中に存在する微生物を排除するその能力に影響を与え得るものは、その滞留時間である。結果として、本発明は、粘度強化剤を取り込んだ組成物を予期する。
【0102】
流体粘度は、本質的に、他の分子との衝突に起因する運動量の移動である。この方式で考えると、流体は、異なる状況に置かれた場合に異なる粘度を示すことは驚くべきことではなく、その万人に知られた一例がケチャップであり、その初期の流動に必要な見かけの粘度は、流動が進行してからの粘度より高い。
【0103】
粘度が測定される温度の正確な制御が可能なブルックフィールドDV2T粘度計を使用して、粘度を測定した。25℃で、プロピレングリコールに関して
図4Aで示されるようにスピンドル(CP-40またはCP-52)速度を系統的に上昇させ、次いで下降させることによって、ブルックフィールドDV2Tを、異なる剪断速度で測定された粘度にプログラムした。
【0104】
次いで、
図4Bで示されるように、各スピンドル速度での粘度測定値をプロットした。プロピレングリコールは、粘度が概ね剪断力とは無関係であり、剪断力が増加しても減少しても同一であるため、ニュートン流体のような挙動をとる。粘度値を曲線にフィッティングし、ゼロの剪断値に外挿して、最終的な粘度の推測値を得た。
【0105】
25℃および33℃におけるプロピレングリコールの粘度を計算したところ、59センチポイズ(cP)および95cP(センチポイズ)であった。鼻腔の内側における代表的な熱環境として、33℃の温度を選択した。粘度の対照として使用するために、既存の市販品(3M(商標)皮膚および鼻用殺菌剤;ポビドンヨード液5%w/w[0.5%の利用可能なヨウ素]USP)患者の手術前の皮膚製剤、カタログアイテム192401)の粘度を選択した。3M(商標)皮膚および鼻用殺菌剤製品の粘度を25℃および33℃で測定した。以下の表1にその結果を示す。
【0106】
【0107】
プロピレングリコール中にカーボポール・ウルトレッツ30ポリマー(ルーブリゾール社、オハイオ州クリーブランド)を含有するプロピレングリコールのいくつかの組成物を、PG中のウルトレッツ30の濃度を0.1%、0.2%、0.3%、0.4%および0.5%に増加させて調製した。
【0108】
1つのサンプルシリーズを分子ヨウ素なしで調製し、第2のシリーズを800ppmの分子ヨウ素を含有させて調製した。これらのサンプルの粘度を、上述したように、速度を段階的に上昇および下降させるプログラムを使用して測定した。結果を、オストワルドモデルに、すなわち応力対剪断速度曲線にフィッティングし、コンシステンシー定数を粘度として報告した。基礎データから、ウルトレッツ30サンプルにおいて非ニュートン粘度が実証された。結果から、ウルトレッツ30濃度が増加するにつれて、粘度が段階的に増加したことが示された。意外なことに、
図4Cで例示されるように、ウルトレッツ30の粘度プロファイルは、ヨウ素が存在しても存在していなくてもサンプルごとに異なっていた。
【0109】
以下の表2で例示されるように、データから、カーボポール・ウルトレッツ30は、鼻腔中に加えて他の哺乳類の表面への局所適用に好適な広範な粘度を提供する製剤を調製するのに使用できることが実証された。
【0110】
【0111】
実施例8
体重25~30グラム(雌)または30~35グラム(雄)の健康な10~12週齢のHsd:ICRマウスを、5匹の動物を含有するケージに格納し、餌と水を自由に摂取できるようにしてマウスに供給した。3つの処置レジメンのうち1つに動物を任意に割り振った。単一のケージ中の全てのマウスを同じ処置レジメンに割り振った。処置レジメンは、(a)グリセリン(陰性対照);(b)3M(商標)皮膚および鼻用消毒剤;および(c)グリセリン中の400ppm分子ヨウ素であった。別々の3日に実験を繰り返した。
【0112】
10E8CFU/mLのMRSA TCH1516を含有する懸濁液(10μL)を各鼻孔にピペットで入れてマウスを刺激した。24時間後、上述した3つの処置のうち1つを、それぞれのマウスの鼻孔(10μL)に適用した。マウスに処置を適用してから24時間後、マウスを安楽死させ、鼻腔を切り離した。リン酸緩衝塩類溶液(PBS)中で鼻孔を力強くボルテックスで混合し(10秒、3回)、PBSで連続希釈し、トッドヘヴィット寒天(THA)プレート上に3連で平板培養した。プレートを、室内雰囲気中で37℃で12時間インキュベートした。
【0113】
各処置グループにおける25匹のマウスの全てに3連プレートの計数を行い、合計75匹の平均値を得た。対照群中の25匹の動物のうち、合計6匹のマウスが極めて低い定着を示した(CFU/鼻腔<1,500)。対照グループにおける残りの19匹の動物における平均CFU/鼻腔は、11,051であった。3M(商標)皮膚および鼻用消毒剤および分子ヨウ素-グリセリン処置はどちらも、鼻腔中のMRSAを有意に減少させた。3M製品での平均のMRSAの減少は、2.15logであり、それと比較して分子ヨウ素では2.40logであった。
【0114】
平均の減少は、利益を受けた個々の患者の比率の評価を取り入れていないため、本出願における患者の臨床的な成功は、二項式の統計を使用してより正確に評価される。それゆえに、処置の成功を考察するために、最小の2対数減少値基準を適用した。このより適切な基準を使用して、3M製品は、25匹のマウスのうち9匹の失敗を示し、それと比較して、分子ヨウ素での失敗はわずか3匹であった。これは、3M製品と本明細書に記載される分子ヨウ素製品との間の統計学的に有意な差を実証する。