(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とCD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/505 20060101AFI20240708BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240708BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240708BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240708BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K31/505
A61K31/573
A61K39/395 N ZNA
A61P35/02
A61P43/00 111
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019527516
(86)(22)【出願日】2017-11-22
(86)【国際出願番号】 US2017063106
(87)【国際公開番号】W WO2018098348
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-06
(32)【優先日】2016-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512190767
【氏名又は名称】アセチロン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ACETYLON PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・クウェイル
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・スチュワート・ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】テル・ヒデシマ
(72)【発明者】
【氏名】ケネス・シー・アンダーソン
【合議体】
【審判長】光本 美奈子
【審判官】山村 祥子
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-504363(JP,A)
【文献】国際公開第2015/181641(WO,A1)
【文献】特表2016-532667(JP,A)
【文献】国際公開第2015/084905(WO,A1)
【文献】特表2014-524922(JP,A)
【文献】特表2013-529352(JP,A)
【文献】国際公開第2015/121454(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
Caplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療のための医薬組み合わせ物であって、
(a)
【化1】
または、薬学上許容できるその塩である化合物である、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)選択的阻害剤と、
(b)ダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩である、CD38阻害剤とを含み、
前記がんが、多発性骨髄腫またはリンパ腫である、医薬組み合わせ物。
【請求項2】
前記組み合わせ物がさらに、
(c)ポマリドミドまたは薬学上許容できるその塩
を含む請求項1に記載の医薬組み合わせ物。
【請求項3】
前記
ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)選択的阻害剤及び前記CD38阻害剤が同一製剤に存在する請求項1に記載の医薬組み合わせ物。
【請求項4】
前記組み合わせ物がさらに、1以上の薬学上許容できるキャリアを含む請求項3に記載の医薬組み合わせ物。
【請求項5】
前記
ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)選択的阻害剤及び前記CD38阻害剤が別々の製剤に存在する請求項1または2に記載の医薬組み合わせ物。
【請求項6】
前記組み合わせ物がさらに、デキサメタゾンを含む請求項1~5のいずれかに記載の医薬組み合わせ物。
【請求項7】
多発性骨髄腫またはリンパ腫の治療を必要とする対象にて多発性骨髄腫またはリンパ腫を治療するための組成物であって、
治療上有効な量の
(a)
【化2】
または薬学上許容できるその塩である化合物である、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)選択的阻害剤と、
(b)ダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを含む、組成物。
【請求項8】
さらに、治療上有効な量の
(c)ポマリドミドまたは薬学上許容できるその塩
を含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
さらに、治療上有効な量のデキサメタゾンを含む請求項7または8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、その内容が全体として参照によって本明細書に組み入れられる2016年11月23日に出願された米国仮特許出願番号62/425,980の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害はがん細胞の増殖停止を引き起こすことができる。しかしながら、全体的なHDACの阻害は有意な有害効果をもたらし、選択性のHDAC阻害のプロファイルが望ましい。
【0003】
HDAC6はクラスIIbのHDACであり、α-チューブリン及びHSP90を含む多数の細胞性タンパク質からアセチル基を取り外すことが知られている。HSP90の過剰アセチル化はER及びEGFRを含むその標的タンパク質を不安定化することが報告されている。HDAC6の阻害剤は種々のがん型で抗がん増殖活性を明らかにしている。HDAC6活性を遮断することは種々のメカニズムを介してがん細胞の増殖阻害を引き起こすことが示されている。
【0004】
がん患者にとって多数の治療選択肢があるにもかかわらず、有効でかつ安全な治療法の選択肢が引き続き必要である。特に、がん、特に現在の治療法に耐性である及び/または不応性であるがんを治療するまたは予防する有効な方法についての必要性がある。この必要性は本明細書に記載されているもののような併用療法の使用によって満たすことができる。
【発明の概要】
【0005】
本明細書で提供されているのは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とCD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物である。
【0006】
態様では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量のHDAC阻害剤または薬学上許容できるその塩とCD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物である。
【0007】
種々の実施形態では、組み合わせ物はさらに、サリドマイドまたはその類似体、または薬学上許容できるその塩から選択される化合物を含む。特定の実施形態では、化合物は、サリドマイド、ポマリドミド、及びレナリドミド、または薬学上許容できるそれらの塩から選択される。例となる実施形態では、化合物はポマリドミドである。
【0008】
種々の実施形態では、HDAC阻害剤はHDAC6-選択的阻害剤である。他の実施形態では、HDAC阻害剤は式I:
【化1】
のHDAC6阻害剤または薬学上許容できるその塩であり、
式中、
環Bはアリールまたはヘテロアリールであり;
R
1は、アリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれがOH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよく;
RはHまたはC
1-6-アルキルである。
【0009】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、環Bはアリールである。
【0010】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、R1はアリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれがハロによって任意で置換されてもよい。
【0011】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、式IのHDAC6阻害剤は
【化2】
または薬学上許容できるその塩である。
【0012】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、式IのHDAC6阻害剤は
【化3】
または薬学上許容できるその塩である。
【0013】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、CD38阻害剤は阻害性抗体である。例となる実施形態では、CD38阻害性抗体はダラツムマブである。
【0014】
種々の実施形態では、阻害性CD38抗体は、配列番号1のアミノ酸配列内でアミノ酸配列またはその一部を含む重鎖と配列番号6のアミノ酸配列内でアミノ酸配列またはその一部を含む軽鎖とを含む。別の実施形態では、CD38阻害性抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域またはその一部と、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域またはその一部とを含む。種々の実施形態では、重鎖は配列番号1のアミノ酸配列の誘導体または一部を含む。他の実施形態では、軽鎖は配列番号6のアミノ酸配列の誘導体または一部を含む。別の実施形態では、重鎖可変領域は配列番号3~5のアミノ酸配列またはその一部を含む3つのCDRを含む。別の実施形態では、軽鎖可変領域は配列番号8~10のアミノ酸配列またはその一部を含む3つのCDRを含む。
【0015】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、HDAC6阻害剤及びCD38阻害剤が同一製剤に存在する。医薬組み合わせ物の他の実施形態では、HDAC6阻害剤及びCD38阻害剤が別々の製剤に存在する。
【0016】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、HDAC6阻害剤が経口投与用の製剤に存在し、CD38阻害剤が静脈内投与用の製剤に存在する。
【0017】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、がんの治療を必要とする対象におけるがんの治療にて医薬組み合わせ物が使用される。別の実施形態では、がんの治療のための医薬製剤または薬物の製造のために医薬組み合わせ物が使用される。
【0018】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、がんは血液癌である。医薬組み合わせ物の他の種々の実施形態では、がんは、多発性骨髄腫、アミロイドーシス、形質細胞骨髄腫、くすぶり骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫及びホジキンリンパ腫から成る群から選択される。
【0019】
態様では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の本明細書で提供されている医薬組み合わせ物を対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療する方法である。方法の種々の実施形態では、がんは血液癌である。方法の他の種々の実施形態では、がんは、多発性骨髄腫、アミロイドーシス、形質細胞骨髄腫、くすぶり骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫及びホジキンリンパ腫から成る群から選択される。
【0020】
態様では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の本明細書で提供されている医薬組み合わせ物を対象に投与することを含む、抗体依存性細胞介在性の細胞障害性の上方調節を必要とする対象にて抗体依存性細胞介在性の細胞障害性を上方調節する方法である。
【0021】
態様では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の本明細書で提供されている医薬組み合わせ物を対象に投与することを含む、リンパ球の機能活性の上方調節を必要とする対象にてリンパ球の機能活性を上方調節する方法である。種々の実施形態では、リンパ球はナチュラルキラー細胞である。
【0022】
他の目的、特徴及び利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。本発明の精神及び範囲の範囲内での種々の変更及び修正が詳細な説明から当業者に明らかになるであろうから、詳細な説明及び具体例は説明のみのために与えられる。さらに、実施例は本発明の原理を明らかにする。
【0023】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、組み合わせ物はさらにデキサメタゾンを含む。
【0024】
方法の種々の実施形態では、方法はさらに治療上有効な量のデキサメタゾンを対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】(A、B)RPMI-8226(
図1A)及びMM.1S(
図1B)の多発性骨髄腫細胞におけるCD38の表面発現レベルに対する化合物A及び化合物Bの効果を示す棒グラフである。
【
図2】(A、B)H929多発性骨髄腫細胞における抗CD38抗体が誘導する抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性に対する漸増濃度の化合物Aの効果を示す棒グラフである。
【
図3】(A、B)自家設定での患者に由来する多発性骨髄腫細胞における抗CD38抗体が誘導する抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性に対する化合物Bの効果を示す棒グラフである。化合物B単独を対照として使用した。
【
図4】(A)Daudi細胞リンパ腫の腫瘍増殖の抑制に対する化合物Bとダラツムマブの組み合わせ処理の効果を示す折れ線グラフである。リンパ腫を溶媒(菱形)、IgG対照(四角形)、ダラツムマブのみ(三角形)、化合物Bとダラツムマブ(逆三角形)のいずれかで処理した。(B)部分応答(PR)及び完全応答(CR)の頻度を含む、ダラツムマブ単独(実線)と比べたDaudi細胞リンパ腫の腫瘍増殖の抑制に対する化合物Bとダラツムマブの組み合わせ処理(点線)の効果を示す折れ線グラフである。(C)投薬の完了後のDaudi腫瘍の退縮の頻度を示すグラフである。
【
図5】H929多発性骨髄腫細胞における抗CD38抗体が誘導する抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性に対するポマリドミドの効果を示す棒グラフである。
【
図6】H929多発性骨髄腫細胞における抗CD38抗体が誘導する細胞介在性の細胞傷害性に対するポマリドミドと組み合わせた化合物Bの効果を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で提供されているのは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とCD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物である。
【0027】
実施形態では、医薬組み合わせ物は、
(a)式I:
【化4】
のHDAC6阻害剤または薬学上許容できるその塩
(式中、
環Bは、アリールまたはヘテロアリールであり;
R
1はアリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれが、OH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよく;
RはHまたはC
1-6-アルキルである)と;
(b)CD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを含む。
【0028】
定義
本明細書で使用される特定の用語は以下に記載されている。本発明の化合物は標準の命名法を用いて記載される。定義されない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語はすべて本発明が属する当該技術の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
用語「アルキル」は、特定の実施形態では、それぞれ1~6の間のまたは1~8の間の炭素原子を含有する飽和で直鎖または分岐鎖の炭化水素部分を指す。C1-6-アルキル部分の例にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシルの部分が挙げられるが、これらに限定されず、C1-8-アルキル部分の例にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、ヘプチル、及びオクチルの部分が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル置換基における炭素原子の数は接頭辞「Cx-y」によって示すことができ、その際、xは置換基における炭素原子の数の最小であり、yは最大である。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「ハロ」または「ハロゲン」は単独でまたは別の置換基の一部として特に言及されない限り、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素の原子、好ましくは、フッ素、塩素、または臭素、さらに好ましくは、塩素を意味する。
【0031】
用語「アリール」は、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、イデニル、等を含むが、これらに限定されない縮合したまたは縮合しない1以上の芳香環を有する単環式または多環式の炭素環系を指す。一部の実施形態では、アリール基は6つの炭素原子を有する。一部の実施形態では、アリール基は6~10の炭素原子を有する。一部の実施形態では、アリール基は6~16の炭素原子を有する。実施形態では、C5-C7アルキル基が本明細書で提供されている。
【0032】
用語「ヘテロアリール」は少なくとも1つの芳香環を有する単環式または多環式(たとえば、二環式または三環式それ以上)の縮合または非縮合部分または環系を指し、その際、環形成原子の1以上は、たとえば、酸素、イオウ、または窒素のようなヘテロ原子である。一部の実施形態では、ヘテロアリール基は1~6の炭素原子を有し、さらなる実施形態では、1~15の炭素原子を有する。一部の実施形態では、ヘテロアリール基は、1つの環原子が酸素、イオウ、及び窒素から選択される5~16の環原子を含有し;0、1、2または3の環原子は酸素、イオウ、及び窒素から独立して選択される追加のヘテロ原子であり、残りの環原子は炭素である。ヘテロアリールには、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノキサリニル、アクリジニル、等が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態では、C4-C7ヘテロアリール基が本明細書で提供されている。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「薬学上許容できる塩」は、親化合物が既存の酸または塩基の部分をその塩形態に変換することによって修飾されている開示されている化合物の誘導体を指す。薬学上許容できる塩の例には、アミンのような塩基性残基の鉱物酸塩または有機酸塩;カルボン酸等のような酸性残基のアルカリ塩または有機塩が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬学上許容できる塩には、たとえば、非毒性の無機酸または有機酸から形成される親化合物の従来の非毒性塩が挙げられる。本発明の薬学上許容できる塩は、塩基性部分または酸性部分を含有する親化合物から従来の化学法によって合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離の酸または塩基の形態を化学量論的な量の適当な塩基または酸と、水中、または有機溶媒にて、または2つの混合物にて反応させることによって調製することができ;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好まれる。好適な塩のリストは、そのそれぞれが全体として参照によって本明細書に組み入れられるRemingtonのPharmaceutical Sciences,17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1985,p.1418及びJournal of Pharmaceutical Science,66,2(1977)にて見いだされる。
【0034】
用語「薬学上許容できる」は本明細書で使用されるとき、理に適った利益/リスクの比に見合って、過度の毒性、刺激、アレルギー反応及び他の問題の合併を伴わない、健全な医学的判断の範囲内で、温血動物、たとえば、哺乳類またはヒトの組織との接触に好適であるそれら化合物、物質、組成物及び/または剤形を指す。
【0035】
用語「固定した組み合わせ」、「固定用量」及び「同一製剤」は本明細書で使用されるとき、がんの治療に合わせて治療上有効である量の双方の治療剤を患者に送達するように製剤化された単一のキャリアまたはビヒクルまたは剤形を指す。単一ビヒクルは薬学上許容できるキャリアまたは賦形剤と共に作用物質のそれぞれの量を送達するように設計される。一部の実施形態では、ビヒクルは錠剤、カプセル剤、丸薬または貼付剤である。他の実施形態では、ビヒクルは溶液または懸濁液である。
【0036】
用語「固定されない組み合わせ」、「パーツのキット」及び「別々の製剤」は、有効成分、すなわち、HDAC6阻害剤及びCD38阻害剤が、別々の実体として特定の時間制限なしで同時に、付随してまたは順次、患者に投与されることを意味し、その際、そのような投与は、それを必要とする対象の体内にて2つの化合物の治療上有効なレベルを提供する。後者はカクテル療法、たとえば、3以上の有効成分の投与にも適用される。
【0037】
「経口剤形」には、経口投与のために処方されるまたはそれが意図される単位剤形が含まれる。本明細書で提供されている医薬組み合わせ物の実施形態では、HDAC6阻害剤(たとえば、化合物AまたはB)は経口剤形として投与される。
【0038】
用語「治療すること」または「治療」は本明細書で使用されるとき、対象にて少なくとも1つの症状を緩和する、軽減するもしくは和らげる治療、または疾患の進行の遅延を達成する治療を含む。たとえば、治療は疾病の1または幾つかの症状の軽減または、たとえば、がんのような疾病の完全な撲滅であることができる。
【0039】
用語「予防する」、「予防すること」または「予防」は本明細書で使用されるとき、予防される状態、疾患または疾病に関連する、またはそれが原因で生じる少なくとも1つの症状の予防を含む。
【0040】
本明細書で使用されるとき、がん患者を参照する際の治療剤に対する用語「耐性の」または「屈折性の」は、がんが治療剤に接触した結果、治療剤の効果に対して本質的な耐性または達成された耐性を有することを意味する。言い換えれば、がんは特定の治療剤に関連するケアの普通の標準に耐性である。
【0041】
本明細書で使用されるとき、「抗CD38ナイーブ」は、抗CD38抗体で以前治療されたことがない患者、対象またはがんを指す。
【0042】
治療剤の組み合わせ物の、用語「薬学上有効な量」、「治療上有効な量」または「臨床上有効な量」は、組み合わせ物で治療される疾病の臨床上観察できる兆候及び症状のベースラインを超える観察可能なまたは臨床上有意な改善を提供するのに十分な量である。
【0043】
用語「合わせて治療上活性がある」または「合わせた治療効果」は本明細書で使用されるとき、治療される温血動物、特にヒトにて、(好ましくは相乗的な)相互作用(合わせた治療効果)を依然として示すような時間間隔で治療剤が別々に(時系列で調整して、特に順序別に)与えられ得ることを意味する。これが本当かどうかは、とりわけ、化合物の血中レベルを追跡し、少なくとも特定の時間間隔の間、治療されるヒトの血中にて双方の化合物が存在することを示すことによって判定することができる。
【0044】
用語「対象」または「患者」は本明細書で使用されるとき、がんまたはがんに直接もしくは間接的に関与する疾病を患うまたはそれに冒されることが可能である動物を含むように意図される。対象の例には、哺乳類、たとえば、ヒト、類人猿、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット及びトランスジェニック非ヒト動物が挙げられる。実施形態では、対象は、ヒト、たとえば、がんを患っている、がんを患うリスクがある、またはがんを患う可能性があるヒトである。
【0045】
用語「comprising」及び「including」は言及されない限り、制約がない且つ非限定の意味で本明細書にて使用される。
【0046】
本発明を説明する文脈(特に以下のクレームの文脈)における用語「a」及び「an」及び「the」及び類似の参照は、本明細書で指示されない限りまたは文脈によって明瞭に否定されない限り、単数及び複数の双方を取り扱うように解釈されるべきである。化合物、塩、等について複数形態が使用される場合、これは単一の化合物、塩、等も意味するように解釈される。
【0047】
用語「約」または「およそ」は関連する主題領域で博識な人々によって一般に理解されるが、特定の状況では、所与の値または範囲の20%以内、10%以内または5%以内を意味することができる。或いは、生物系では特に、用語「約」は、ほぼ対数(すなわち、一桁)の範囲内または所与の値の2つの因子の範囲内を意味する。
【0048】
用語「相乗効果」は本明細書で使用されるとき、単独で投与される各薬剤の効果の単純な足し算よりも大きい、たとえば、式Iの化合物または薬学上許容できるその塩及びCD38阻害剤(たとえば、ダラツムマブ)のような2つの治療剤の、たとえば、がんまたはその症状の症候性の進行を遅らせる効果を生じる作用を指す。相乗効果は、たとえば、S字状-Emax方程式(Holford,N.H.G.及びScheiner,L.B.,Clin.Pharmacokinet.6:429-453(1981))、Loewe相加性の方程式(Loewe,S.及びMuischnek,H.,Arch.Exp.Pathol Pharmacol.114:313-326(1926))及び半有効方程式(Chou,T.C.及びTalalay,P.Adv.Enzyme Regul.22:27-55(1984))のような好適な方法を用いて算出することができる。上記で参照された各方程式を実験データに適用して相当するグラフを生成し、薬剤の組み合わせの効果を評価するのに役立てることができる。上記で参照された方程式に関連する相当するグラフはそれぞれ、濃度効果曲線、アイソボログラム曲線及び併用係数曲線である。本明細書で提供されている医薬組み合わせ物は、骨髄腫及び骨髄腫細胞株に関連した細胞増殖及び生存率に関連して相乗効果を示す (例えば、実施例7を参照のこと)。
【0049】
用語「組み合わせ物」、「治療組み合わせ物」、または「医薬組み合わせ物」は本明細書で使用されるとき、1つの単位剤形における固定した組み合わせ、または2以上の治療剤が時間間隔の範囲内で独立して、同時にまたは別々に投与されてもよい併用投与のための固定されない組み合わせ、またはパーツのキットのいずれかを指し、その際、特に、これらの時間間隔は組み合わせ相手が共同的効果、たとえば、相乗効果を示すことを可能にする。
【0050】
用語「併用療法」は本開示に記載されている治療状態または疾病を治療するための2以上の治療剤の投与を指す。そのような投与は、たとえば、固定した比の有効成分を有する単一製剤または各有効成分について別々の製剤(たとえば、カプセル剤及び/または静脈内製剤)における実質的に同時の方法でのこれら治療剤の同時投与を包含する。加えて、そのような投与は、近似的に同時にまたは異なる時間に順次または別々に各型の治療剤を使用することも包含する。有効成分が単一製剤としてまたは別々の製剤にて投与されるかどうかにかかわらず、治療の同一経過の一部として薬剤は同一患者に投与される。どんな場合でも、治療投薬計画は本明細書に記載されている状態または疾病を治療することにおいて有益な効果を提供するであろう。
【0051】
用語「ヒストン脱アセチル化酵素」または「HDAC」は、コアのヒストンにおけるリシン残基からアセチル基を取り外すので、凝縮クロマチン及び転写上サイレンス化したクロマチンの形成をもたらす酵素を指す。4つの群に分離される18の現在知られるヒストン脱アセチル化酵素がある。HDAC1、HDAC2、HDAC3、及びHDAC8を含むクラスIのHDACは、酵母のRPD3遺伝子に関係する。HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9、及びHDAC10を含むクラスIIのHDACは酵母のHda1遺伝子に関係する。サーチュインとしても知られるクラスIIIのHDACはSir2遺伝子に関係し、SIRT1-7を含む。HDAC11のみを含有するクラスIVのHDACはクラスI及びクラスIIのHDAC双方の特徴を有する。用語「HDAC」は特定されない限り、18の既知のヒストン脱アセチル化酵素のいずれか1以上を指す。
【0052】
用語「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤」(HDAC阻害剤、HDACi、HDIs)は本明細書で使用されるとき、ヒストン脱アセチル化酵素の少なくとも1つの活性を選択的に標的とする、低下させるまたは阻害する化合物を指す。
【0053】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤
本明細書で提供されているのは、式I:
【化5】
のHDAC6阻害剤(本明細書では「式Iの化合物」とも呼ぶ)または薬学上許容できるその塩を含む医薬組み合わせ物であり、
式中、
環Bはアリールまたはヘテロアリールであり;
R
1は、アリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれがOH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよく;
RはHまたはC
1-6-アルキルである。
【0054】
式Iの化合物の実施形態では、環Bはアリールである。種々の実施形態では、R1は、それぞれハロによって任意で置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールである。
【0055】
式Iの実施形態では、R1は、OH、ハロ、またはC1-6-アルキルによって置換されるアリールである。
【0056】
式Iの別の実施形態では、R1は、OH、ハロ、またはC1-6-アルキルによって置換されるC5-C7アリールである。
【0057】
式Iの別の実施形態では、R1は、OH、ハロ、またはC1-6-アルキルによって置換されるC4-C7ヘテロアリールである。
【0058】
式Iのさらに別の実施形態では、R1は、OH、ハロ、またはC1-6-アルキルによって置換されるフェニルである。
【0059】
式Iのさらに別の実施形態では、R1はハロによって置換されるフェニルである。
【0060】
式Iのさらに別の実施形態では、R1はクロロによって置換されるフェニルである。
【0061】
式Iの別の実施形態では、環BはC5-C7アリールである。
【0062】
式Iの別の実施形態では、環BはC4-C7ヘテロアリールである。
【0063】
式Iのさらに別の実施形態では、環Bはフェニルである。
【0064】
具体的な実施形態では、式Iの化合物は、表1に示すような化合物Aもしくは薬学上許容できるその塩、または化合物Bもしくは薬学上許容できるその塩である。
【表1】
【0065】
便宜上、式IのHDAC6阻害剤及びその塩の群をまとめて式Iの化合物と呼び、式Iの化合物への言及は別の方法ではその化合物または薬学上許容できるその塩のいずれかを指すことを意味する。
【0066】
式Iの化合物(たとえば、化合物A及びB)は既知のHDAC6阻害剤であり、その内容が全体として参照によって本明細書に組み入れられるPCT公開番号WO2011/091213に記載されている。
【0067】
化合物A及びBの調製は実施例1のように本明細書にも記載されている。好ましくは、化合物A及びBは遊離の塩基の形態である。
【0068】
CD38阻害剤
用語「CD38阻害剤」は本明細書で使用されるとき、膜貫通糖タンパク質であるCD38の少なくとも1つの活性を標的とする、低下させるまたは阻害する化合物を指す。CD38阻害剤の非限定例には、たとえば、ダラツムマブ(HuMax-CD38)、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)、または薬学上許容できるそれらの塩が挙げられる。
【0069】
調節異常のCD38に関連する疾患は、たとえば、種々のリンパ系腫瘍、特に多発性骨髄腫、AIDS関連リンパ腫、及び移植後リンパ増殖(Stevenson,G.T.,Mol.Med,12(11-12):345-346,Nov-Dec.2006)である。特定の実施形態では、CD38阻害剤はダラツムマブである。厳しく前治療した再発及び/または不応性の骨髄腫におけるダラツムマブを検討する臨床試験は完了している(Lonial,Sagar,et al.,The LancetVol.387,No.10027,p.1551-1560,9,April,2016)。さらに、ダラツムマブ(ダラザレックス(商標)としても知られる)は、プロテアソーム阻害剤及び免疫調節剤を含む少なくとも3つの治療経験がある、またはPI及び免疫調節剤に二重不応性である多発性骨髄腫患者の治療についてFDAによって認可されている(http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2015/761036s000lbl.pdf)。
【0070】
本明細書で提供されている医薬組み合わせ物にてCD38阻害剤のいずれかを使用することができる。例となる実施形態では、ダラツムマブが使用される。ダラツムマブのアミノ酸配列を表2に示す。
【表2】
【0071】
従って、医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、CD38阻害剤は、ダラツムマブ(HuMax-CD38)、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)、または薬学上許容できるそれらの塩から成る群から選択される。医薬組み合わせ物の実施形態では、CD38阻害剤はダラツムマブである。医薬組み合わせ物の実施形態では、CD38阻害剤はイサツキシマブである。医薬組み合わせ物の実施形態では、CD38阻害剤はMOR202である。
【0072】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、CD38阻害剤は、本明細書に記載されている抗体(たとえば、表2におけるMOR202、イサツキシマブ及びダラツムマブ抗CD38抗体)のいずれかの誘導体または一部である。たとえば、CD38阻害剤は、MOR202(MOR03087)、イサツキシマブ(SAR650984)、及びダラツムマブ(HuMax-CD38)、または薬学上許容できるそれらの塩の誘導体または断片である。特定の実施形態では、誘導体または断片は、本明細書に記載されている抗体と共通する区別できる構造(70~99%の類似性)及び類似の生物活性を共有する分子である。特定の実施形態では、誘導体または断片は本明細書に記載されているCD38阻害剤に対する70~75%、45~80%、80~85%、85~97%または97~99%の配列(すなわち、核酸及びアミノ酸)同一性を構成する。
【0073】
配列同一性を決定する方法は当該技術で既知である。同一性または相同性は、所与のクエリ配列の間での同一性の程度、たとえば、比較される対応する配列の残基と同一である抗体配列におけるヌクレオチド塩基またはアミノ酸残基の比率であってもよい。配列比較のための方法及びコンピュータプログラムは当該技術で利用でき、周知である。国際公開番号WO2007084385及びWO2012113863も参照のこと。
【0074】
可変領域は通常、抗体の一部を指し、一般に、特定の抗原についての特定の抗体の結合及び特異性で使用される軽鎖及び重鎖の一部(たとえば、成熟重鎖におけるアミノ末端のおよそ110~120のアミノ酸及び成熟軽鎖におけるアミノ末端のおよそ90~100のアミノ酸)を指す。配列における可変性は相補性決定領域と呼ばれる領域で濃縮されている一方で、可変ドメインにおけるさらに高度に保存された領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。
【0075】
特定の実施形態では、本発明のCD38阻害剤は、配列番号1によって表されるアミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性を有するアミノ酸配列によってコードされる重鎖を含む。本発明はまた、配列番号6によって表されるアミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖を含むCD38阻害剤にも関する。本発明はまた、配列番号7によって表されるアミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖を含むCD38阻害剤にも関する。種々の実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号1によって表されるアミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性を有するアミノ酸配列によってコードされる重鎖を含み、且つ配列番号6によって表されるアミノ酸配列との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の同一性を持つアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0076】
特定の実施形態では、重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、CD38に結合する相補性決定領域(CDR)を含む。Kabat,et al.,1987,Sequences of Proteins of Immunological Interest,National Institute of Health,Bethesda,Md.を参照のこと。重鎖可変領域については、超可変領域は、CDR1では31~35位のアミノ酸、CDR2では50~65位のアミノ酸、及びCDR3では95~106位のアミノ酸に及ぶ。軽鎖可変領域については、超可変領域は、CDR1では24~34位のアミノ酸、CDR2では50~56位のアミノ酸、及びCDR3では89~97位のアミノ酸に及ぶ。たとえば、米国特許第7,709,226B2号を参照のこと。
【0077】
これらCDRの正確な境界は様々な方式に従って異なって定義されている。Kabat(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)及び(1991))によって記載された方式は、抗体の任意の可変領域に適用できる明白な残基番号付け方式を提供するだけでなく、3つのCDRを定義する正確な残基の境界も提供している。これらのCDRはKabatのCDRと呼ばれてもよい。Chothia及び共同研究者ら(Chothia及びLesk(1987),J.Mol.Biol.196:901-917)ならびにChothia,et al.(1989),Nature,342:877-883)は、アミノ酸配列のレベルで大きな多様性を有するにもかかわらず、KabatのCDR内の特定の亜部分がほぼ同一のペプチド主鎖構成を採用することを見いだした。これらの亜部分はL1、L2及びL3またはH1、H2及びH3と名付けられ、その際、「L」及び「H」はそれぞれ軽鎖及び重鎖の領域を指す。これらの領域はChothiaのCDRと呼ばれてもよく、KabatのCDRと重複する境界を有する。KabatのCDRと重複するCDRを定義している他の境界はPadlan,(1995),FASEB J.9:133-139及びMacCallum,(1996),J.Mol.Biol.262(5):732-745によって記載されている。さらに他のCDRの境界の定義は、特定の残基または残基の群またはCDR全体さえもが抗原結合に有意に影響を及ぼさないという予測または実験的知見の観点で、短縮されてもよく、または伸ばされてもよいけれども、それらは上記の方式の1つに厳密に従わなくてもよいが、それにもかかわらず、KabatのCDRと重複するであろう。特定の実施形態はKabatまたはChothiaが定義したCDRを使用するが、本明細書で使用される方法はこれらの方式のいずれかに従って定義されたCDRを利用してもよい。たとえば、国際公開番号WO2016149368を参照のこと。
【0078】
特定の実施形態では、CD38阻害剤は、本明細書に記載されている抗体の相補性決定領域(CDR)の配列を含む。たとえば、CD38阻害剤は、本明細書に記載されている抗体、たとえば、ダラツムマブ及びイサツキシマブの範囲内で見いだされる1以上のCDR領域を含む結合ドメインを含む。特定の実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号1の重鎖アミノ酸配列内で見いだされる少なくとも1つのCDRを含む。特定の実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号1の重鎖アミノ酸配列内で見いだされるCDRを1つ、CDRを2つまたはCDRを3つ含む。特定の実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号1の重鎖アミノ酸配列内で見いだされる少なくとも1つのCDRを含む。特定の実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号6の軽鎖アミノ酸配列内で見いだされるCDRを1つ、CDRを2つまたはCDRを3つ含む。種々の実施形態では、本発明のCD38阻害剤は、配列番号1のアミノ酸配列内で見いだされる少なくとも1つのCDRとの少なくとも80%、85%、90%、95%または99%の同一性を有する少なくとも1つの重鎖CDRを含む。種々の実施形態では、本発明のCD38阻害剤は、配列番号6のアミノ酸配列内で見いだされる少なくとも1つのCDRとの少なくとも80%、85%、90%、95%または99%の同一性を有する軽鎖CDRを含む。
【0079】
本明細書で提供されているデータは、本明細書で提供されている併用療法(たとえば、HDAC6阻害剤とCD38阻害剤)が細胞介在性の細胞傷害性を誘導することを示している(たとえば、実施例5を参照のこと)。さらに本明細書で提供されている併用療法は、単剤のみのいずれかと比べてさらに有意な程度に抗腫瘍有効性を示す(たとえば、実施例7を参照のこと)。
【0080】
式Iの化合物及びCD38阻害剤は遊離の形態または薬学上許容できる塩の形態で投与することができる。
【0081】
治療方法
本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の本明細書で提供されている医薬組み合わせ物、すなわち、
(a)式I:
【化6】
のHDAC6阻害剤または薬学上許容できるその塩
(式中、
環Bは、アリールまたはヘテロアリールであり;
R
1はアリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれが、OH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよく;
RはHまたはC
1-6-アルキルである)と、
(b)CD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物を対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療するまたは予防する方法である。
【0082】
実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の本明細書で提供されている医薬組み合わせ物を対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療する方法である。
【0083】
本明細書で提供されている方法の具体的な実施形態では、HDAC6阻害剤は化合物Aまたは薬学上許容できるその塩であり;且つCD38阻害剤はダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩である。この実施形態の実施形態では、方法はさらにポマリドミドの投与を含む。この実施形態の実施形態では、方法はさらにポマリドミド及びデキサメタゾンの投与を含む。
【0084】
本明細書で提供されている方法の別の具体的な実施形態では、HDAC6阻害剤は化合物Bまたは薬学上許容できるその塩であり;且つCD38阻害剤はダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩である。この実施形態の実施形態では、方法はさらにポマリドミドの投与を含む。この実施形態の実施形態では、方法はさらにポマリドミド及びデキサメタゾンの投与を含む。
【0085】
本明細書で提供されている方法は固形腫瘍及び液性腫瘍の双方に使用することができる。さらに、腫瘍の型及び使用される特定の組み合わせ物に応じて、腫瘍容量の低下を得ることができる。本明細書で開示されている組み合わせ物はまた、腫瘍の転移拡散及び微小転移巣の増殖または発生を防ぐのにも適している。本明細書で開示されている組み合わせ物は予後不良の患者の治療に好適である。
【0086】
本明細書で提供されている方法の種々の実施形態では、がんは、血液癌(たとえば、リンパ腫、白血病または骨髄腫)である。さらなる実施形態では、がんはT細胞リンパ腫またはB細胞リンパ腫である。
【0087】
本明細書で提供されている方法のいずれかのさらなる実施形態では、がんは、多発性骨髄腫、アミロイドーシス、形質細胞骨髄腫、くすぶり骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫及びホジキンリンパ腫から選択される。
【0088】
方法の種々の実施形態では、がんは非固形腫瘍である。特定の実施形態では、がんは多発性骨髄腫である。
【0089】
種々の実施形態では、がんは少なくとも1つの以前の治療法による治療に対して耐性または不応性である。たとえば、がんが多発性骨髄腫である場合、骨髄腫は、サリドマイド、ポマリドミド、またはレナリドミド、または薬学上許容できるそれらの塩による治療に対して耐性または不応性であることができる。他の実施形態では、がんは抗CD38ナイーブである。
【0090】
一部の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤とを対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療する方法である。
【0091】
別の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の式IのHDAC阻害剤または薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、血液癌の治療を必要とする対象にて血液癌を治療する方法である。一部の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、血液癌の治療を必要とする対象にて血液癌を治療する方法である。
【0092】
別の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の式IのHDAC阻害剤または薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、白血病の治療を必要とする対象にて白血病を治療する方法である。一部の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、白血病の治療を必要とする対象にて白血病を治療する方法である。
【0093】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療するためのものである。この実施形態は、少ない治療量の化合物Aまたはダラツムマブを方法にて使用できるように相乗作用を示す。
【0094】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、血液癌の治療を必要とする対象にて血液癌を治療するためのものである。
【0095】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、白血病の治療を必要とする対象にて白血病を治療するためのものである。
【0096】
さらに別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Aまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量の、ダラツムマブ、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)、または薬学上許容できるそれらの塩から成る群から選択されるCD38阻害剤、または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療するためのものである。
【0097】
他の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療する方法である。
【0098】
一部の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と、ダラツムマブ、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)から成る群から選択される治療上有効な量のCD38阻害剤、または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む。
【0099】
一部の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、血液癌の治療を必要とする対象にて血液癌を治療する方法である。
【0100】
一部の実施形態では、本明細書で提供されているのは、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のCD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、白血病の治療を必要とする対象にて白血病を治療する方法である。
【0101】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象にてがんを治療するためのものである。この実施形態は、少ない治療量の化合物Bまたはダラツムマブを方法で使用できるように相乗作用を示す。
【0102】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、血液癌の治療を必要とする対象にて血液癌を治療するためのものである。
【0103】
別の実施形態では、方法は、治療上有効な量の化合物Bまたは薬学上許容できるその塩と治療上有効な量のダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩とを対象に投与することを含む、白血病の治療を必要とする対象にて白血病を治療するためのものである。
【0104】
たとえば、方法の一実施形態では、HDAC阻害剤が先ず投与され、CD38阻害剤がそれに続く。方法の別の実施形態では、CD38阻害剤が先ず投与され、HDAC阻害剤がそれに続く。
【0105】
方法の種々の実施形態では、方法はさらに、治療上有効な量のデキサメタゾンを対象に投与することを含む。
【0106】
本明細書で検討されている対象は通常ヒトである。しかしながら、対象は、治療が所望される任意の哺乳類であることができる。従って、本明細書に記載されている方法はヒト及び獣医の応用に適用することができる。
【0107】
方法の種々の実施形態では、方法はさらに、治療上有効な量の免疫調節剤を対象に投与することを含む。実施形態では、免疫調節剤はポマリドミドである。別の実施形態では、免疫調節剤はレナリドミドである。
【0108】
医薬組み合わせ物及び医薬組成物
本明細書で提供されているのは、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤とCD38阻害剤とを含む医薬組み合わせ物である。
【0109】
態様では、本明細書で提供されているのは、
(a)式I
【化7】
のHDAC6阻害剤または薬学上許容できるその塩
(式中、
環Bは、アリールまたはヘテロアリールであり;
R
1はアリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれが、OH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよい)と、
(b)CD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを含む医薬組み合わせ物である。
【0110】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、環Bはアリールである。
【0111】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、R1は、それぞれハロによって任意で置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールである。
【0112】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、式Iの化合物は化合物Aまたは薬学上許容できるその塩である。別の実施形態では、式Iの化合物は化合物Bまたは薬学上許容できるその塩である。
【0113】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、組み合わせ物はさらに、サリドマイドまたはその類似体、または薬学上許容できるその塩から選択される化合物を含む。他の実施形態では、化合物は、サリドマイド、ポマリドミド及びレナリドミド、または薬学上許容できるそれらの塩から選択される。例となる実施形態では、化合物はポマリドミドである。
【0114】
種々の実施形態では、CD38阻害剤は阻害性抗体である。実施形態では、CD38阻害剤は、配列番号1及び配列番号6から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む。実施形態では、CD38阻害剤はダラツムマブ、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)、または薬学上許容できるそれらの塩から成る群から選択される。特定の実施形態では、CD38阻害剤はダラツムマブまたはその生物同等物、または薬学上許容できるその塩である。
【0115】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、HDAC6阻害剤及びCD38阻害剤は同一製剤に存在する。或いは、HDAC6阻害剤及びCD38阻害剤は別々の製剤に存在する。
【0116】
種々の実施形態では、医薬組み合わせ物はがんの治療を必要とする対象にてがんを治療するのに使用するためのものである。
【0117】
実施形態では、本発明の組み合わせ物は、有効量のHDAC6阻害剤(すなわち、式Iの化合物)と有効量のCD38阻害剤とを含む併用療法を対象に投与することを含むがんの治療で使用される。好ましくは、これらの化合物は、併用した場合、有益な効果を提供する治療上有効な投与量で投与される。投与は、各成分の別々の投与を同時にまたは順次含むことができる。
【0118】
種々の実施形態では、医薬組み合わせ物はがんの治療のための薬物の調製で使用するためのものである。
【0119】
本明細書で提供されている医薬組み合わせ物は固形腫瘍及び液性腫瘍双方の増殖を阻害することもできる。さらに、腫瘍の型及び使用される特定の組み合わせ物に応じて、腫瘍容量の低下を得ることができる。本明細書で開示されている組み合わせ物はまた、腫瘍の転移拡散及び微小転移巣の増殖または発生を防ぐのにも適している。本明細書で開示されている組み合わせ物は予後不良の患者の治療に好適である。
【0120】
種々の実施形態では、がんは血液癌(たとえば、リンパ腫、白血病、または骨髄腫)である。さらなる実施形態では、がんはT細胞リンパ腫またはB細胞リンパ腫である。
【0121】
本明細書で提供されている医薬組み合わせ物のいずれかの実施形態では、がんは、多発性骨髄腫、アミロイドーシス、形質細胞骨髄腫、くすぶり骨髄腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫及びホジキンリンパ腫から選択される。
【0122】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、がんは非固形腫瘍である。特定の実施形態では、がんは多発性骨髄腫である。
【0123】
種々の実施形態では、がんは少なくとも1つの従来の治療法による治療に耐性または不応性である。他の実施形態では、がんまたは対象は抗CD38ナイーブである。
【0124】
医薬組み合わせ物の種々の実施形態では、組み合わせ物はさらに治療上有効な量の免疫調節剤を含む。実施形態では、免疫調節剤はポマリドミドである。別の実施形態では、免疫調節剤はレナリドミドである。
【0125】
本明細書で提供されているのはまた、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とCD38阻害剤とを含む医薬組成物である。
【0126】
本明細書で使用されるとき、用語「医薬組成物」は、哺乳類を冒す特定の疾患または状態を予防するまたは治療するために対象、たとえば、哺乳類またはヒトに投与される治療剤(複数可)を含有する混合物または溶液を指すように本明細書で定義されている。
【0127】
態様では、本明細書で提供されているのは、
(a)式I:
【化8】
のHDAC6阻害剤または薬学上許容できるその塩
(式中、
環Bは、アリールまたはヘテロアリールであり;
R
1はアリールまたはヘテロアリールであり、そのそれぞれが、OH、ハロ、またはC
1-6-アルキルによって任意で置換されてもよく;
RはHまたはC
1-6-アルキルである)と、
(b)CD38阻害剤または薬学上許容できるその塩とを含む医薬組成物である。
【0128】
組成物の実施形態では、環Bはアリールである。種々の実施形態では、R1はそのそれぞれがハロによって置換されるアリールまたはヘテロアリールである。
【0129】
組成物の別の実施形態では、HDAC6阻害剤は化合物Aまたは薬学上許容できるその塩である。組成物の別の実施形態では、HDAC6阻害剤は化合物Bまたは薬学上許容できるその塩である。
【0130】
医薬組成物の種々の実施形態では、CD38阻害剤は、阻害性抗体、たとえば、ダラツムマブ(HuMax-CD38)、イサツキシマブ(SAR650984)、及びMOR202(MOR03087)、または薬学上許容できるそれらの塩である。特定の実施形態では、CD38阻害剤はダラツムマブまたは薬学上許容できるその塩である。
【0131】
組成物の実施形態では、医薬組成物はさらに1以上の賦形剤を含む。本明細書で使用されるとき、用語「薬学上許容できる賦形剤」または「薬学上許容できるキャリア」には、当業者に知られるように(たとえば、RemingtonのPharmaceutical Sciences,18th Ed.Mack Printing Company,1990,pp.1289-1329を参照のこと)、任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(たとえば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬剤、薬剤安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、風味剤、染料、等、及びそれらの組み合わせが挙げられる。従来のキャリアが有効成分と不適合である限りを除いて、治療用組成物または医薬組成物におけるその使用が熟考される。
【0132】
医薬組成物は、約0.1%~約99.9%、好ましくは約1%~約60%の治療剤(複数可)を含有してもよい。
【0133】
腸内投与または非経口投与のための併用療法に好適な医薬組成物は、たとえば、糖衣錠、錠剤、カプセル剤、または坐薬またはアンプル剤のような単位剤形におけるものである。記載されない限り、これらは、たとえば、当業者に容易に明らかな種々の従来の混合、粉砕、直接圧縮、造粒、糖衣、溶解、凍結乾燥過程、融解造粒、または製造技術によって、それ自体既知の方法で調製される。各剤形の個々の用量に含有される組み合わせ相手の単位含量は、必要な有効量が複数の投与量単位の投与によって到達されてもよいので、それ自体有効量を構成する必要はないことが十分に理解されるであろう。
【0134】
投与/用量
本明細書で提供されている開示に従ってがんを治療する方法は、任意の順序で、合わせて治療上有効な量、好ましくは相乗的に有効な量、たとえば、1日投与量または間欠投与量での同時のまたは順次の(i)(a)遊離の形態または薬学上許容できる塩の形態でのHDAC6阻害剤の投与と、(ii)(b)遊離の形態または薬学上許容できる塩の形態でのCD38阻害剤の投与とを含むことができる。本明細書で提供されている医薬組み合わせ物の個々の組み合わせ相手は、治療の経過の間の異なる時間に別々に投与することができ、または分割したもしくは単一の組み合わせ形態で同時に投与することができる。従って、本明細書で提供されている方法は、同時治療または交互治療のそのような投薬計画すべてを含むと理解されるべきであり、用語「投与すること」はそれに応じて解釈されるべきである。式Iの化合物は単回用量または複数回用量にて1日当たり約10mg~約1000mg(約10mg~約500mgを含む)の量で経口投与することができる。従って、本明細書で提供されている治療の方法の実施形態では、式Iの化合物は、1日当たり約10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mg、250mg、260mg、270mg、280mg、290mg、300mg、310mg、320mg、330mg、340mg、350mg、360mg、370mg、380mg、390mg、400mg、410mg、420mg、430mg、440mg、450mg、460mg、470mg、480mg、490mg、または500mgの投与量で投与される。さらなる実施形態では、式Iの化合物は1日当たり20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、180mg、または200mgの投与量で投与される。
【0135】
医薬組み合わせ物の実施形態では、化合物Aは、600mg~3000mg(たとえば、約600、約800、約1000、約1200、約1400、約1600、約1800、約2000mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらなる実施形態では、化合物Aは600mg~2000mgの量である。医薬組み合わせ物の好まれる実施形態では、化合物Aは180mg~480mgの量である。
【0136】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物Aは、5mg~600mg(たとえば、約5、約25、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約600mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらに別の実施形態では、化合物Aは10mg~200mgである。
【0137】
医薬組み合わせ物の実施形態では、化合物Bは、600mg~3000mg(たとえば、約600、約800、約1000、約1200、約1400、約1600、約1800、約2000mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらなる実施形態では、化合物Bは600mg~2000mgの量である。医薬組み合わせ物の好まれる実施形態では、化合物Bは180mg~480mgの量である。
【0138】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物Bは、5mg~600mg(たとえば、約5、約25、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約600mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらに別の実施形態では、化合物Bは10mg~200mgである。
【0139】
医薬組み合わせ物の実施形態では、CD38阻害剤は、600mg~3000mg(たとえば、約600、約800、約1000、約1200、約1400、約1600、約1800、約2000mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらなる実施形態では、CD38阻害剤は600mg~2000mgの量である。
【0140】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、ダラツムマブは、5mg~600mg(たとえば、約5、約25、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約600mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらに別の実施形態では、ダラツムマブは10mg~200mgである。医薬組み合わせ物の実施形態では、ダラツムマブは、600mg~3000mg(たとえば、約600、約800、約1000、約1200、約1400、約1600、約1800、約2000mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらなる実施形態では、ダラツムマブは600mg~2000mgの量である。
【0141】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、ダラツムマブは、5mg~600mg(たとえば、約5、約25、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約600mg)の量である。医薬組み合わせ物のさらに別の実施形態では、ダラツムマブは10mg~200mgである。
【0142】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、ダラツムマブは5mg/kg~20mg/kg(たとえば、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg)の量である。
【0143】
本明細書で提供されている組み合わせ物で採用される組み合わせ相手のそれぞれの有効な投与量は、採用される特定の化合物または医薬組成物、投与の方式、治療される状態、及び治療される状態の重症度に応じて変化してもよい。従って、本発明の組み合わせ物の投与量投薬計画は、投与の経路及び患者の腎臓や肝臓の機能を含む種々の因子に従って選択される。
【0144】
毒性のない有効性が得られる本明細書で提供されている組み合わせ物の最適な比、個々の及び組み合わせた投与量、ならびに組み合わせ相手(たとえば、式Iの化合物とCD38阻害剤)の濃度は、標的部位に対する治療剤の利用率の動態に基づき、当業者に既知の方法を用いて決定される。
【0145】
医薬組み合わせ物の実施形態では、式Iの化合物のCD38阻害剤に対する比は700:1~1:40の範囲である。別の実施形態では、式Iの化合物のCD38阻害剤に対する比は2:1~1:2、たとえば、2:1、1:1、または1:2;170:1~150:1、たとえば、170:1、160:1または150:1;3:1~1:1、たとえば、3:1、2:1または1:1;4:1~1:1、たとえば、4:1、3:1、2:1または1:1;または30:1~10:1、たとえば、30:1、20:1または10:1の範囲である。
【0146】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物AのCD38阻害剤に対する比は700:1~1:40の範囲である。別の実施形態では、化合物AのCD38阻害剤に対する比は2:1~1:2、たとえば、2:1、1:1、または1:2;170:1~150:1、たとえば、170:1、160:1または150:1;3:1~1:1、たとえば、3:1、2:1または1:1;4:1~1:1、たとえば、4:1、3:1、2:1または1:1;または30:1~10:1、たとえば、30:1、20:1または10:1の範囲である。
【0147】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物BのCD38阻害剤に対する比は700:1~1:40の範囲である。別の実施形態では、化合物BのCD38阻害剤に対する比は2:1~1:2、たとえば、2:1、1:1、または1:2;170:1~150:1、たとえば、170:1、160:1または150:1;3:1~1:1、たとえば、3:1、2:1または1:1;または30:1~10:1、たとえば、30:1、20:1または10:1の範囲である。
【0148】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物Aのダラツムマブに対する比は700:1~1:40の範囲である。別の実施形態では、化合物Aのダラツムマブに対する比は2:1~1:2、たとえば、2:1、1:1、または1:2;170:1~150:1、たとえば、170:1、160:1または150:1;3:1~1:1、たとえば、3:1、2:1または1:1または30:1~10:1、たとえば、30:1、20:1または10:1の範囲である。
【0149】
医薬組み合わせ物の別の実施形態では、化合物Bのダラツムマブに対する比は700:1~1:40の範囲である。別の実施形態では、化合物Bのダラツムマブに対する比は2:1~1:2、たとえば、2:1、1:1、または1:2;170:1~150:1、たとえば、170:1、160:1または150:1;3:1~1:1、たとえば、3:1、2:1または1:1または30:1~10:1、たとえば、30:1、20:1または10:1の範囲である。
【0150】
実施形態では、本明細書で提供されている医薬組み合わせ物または医薬組成物またはその双方は相乗効果を示す。別の実施形態では、医薬組み合わせ物または医薬組成物は、HDAC阻害剤及びCD38阻害剤の一方または双方が単独で投与されると有効ではないが、その量が組み合わせで有効である投与量で投与される。
【0151】
1以上の成分の間での相乗的な相互作用を判定することにおいて、効果についての最適な範囲及び効果についての各成分の絶対用量範囲は、治療を必要とする患者への様々なw/w比の範囲及び用量にわたる成分の投与によって明確に測定されてもよい。ヒトについては、患者にて臨床試験を行う複雑さ及びコストが、相乗作用についての一次モデルとしての検査のこの形態の使用を実行困難にしてもよい。しかしながら、特定の実験における相乗作用の観察は他の種における効果を予測することができ、動物モデルの存在を利用して相乗効果をさらに定量してもよい。そのような試験の結果を使用して有効な用量比の範囲及び絶対用量及び血漿濃度も予測することができる。
【0152】
さらなる実施形態では、本明細書で提供されているのは、本発明の組み合わせ物を含む対象への投与のための相乗的な組み合わせ物であり、その際、各成分の用量範囲は好適な腫瘍モデルまたは臨床試験で示唆された相乗作用の範囲に相当する。
【0153】
組み合わせ相手のそれぞれの有効な投与量は、組み合わせ物にて他方の化合物(複数可)と比べて一方の化合物(複数可)のさらに頻繁な投与を必要としてもよい。従って、適当な投薬を可能にするために、包装された医薬品は、化合物の組み合わせ物を含有する1以上の剤形と、化合物の組み合わせ物の一方を含有するが、組み合わせ物の他方の化合物(複数可)を含有しない1以上の剤形とを含有してもよい。
【0154】
本発明の組み合わせ物で採用されている組み合わせ相手が単剤として市販されているような形態で適用される場合、本明細書で言及されない限り、その投与量及び投与の方式は各市販された薬剤の添付文書で提供されている情報に従うことができる。
【0155】
がんの治療のための各組み合わせ相手の最適な投与量は、既知の方法を用いて各個体について経験的に決定することができ、疾患の進展の程度;個体の年齢、体重、全身状態、性別及び食事;投与の時間及び経路;ならびに個体が服用している他の薬剤を含むが、これらに限定されない種々の因子に左右されるであろう。最適な投与量は当該技術で周知である日常の検査及び手順を用いて確立されてもよい。
【0156】
キャリア物質と組み合わせて単一剤形を作製してもよい各組み合わせ相手の量は、治療される個体及び投与の特定の方式に応じて変化するであろう。一部の実施形態では、本明細書に記載されているような作用物質の組み合わせ物を含有する単位剤形は、作用物質が単独で投与される場合通常投与される量の組み合わせの各作用物質を含有するであろう。
【0157】
投与の頻度は使用される化合物及び治療されるまたは予防される特定の状態に応じて変化してもよい。患者は一般に、当業者に精通するであろう、治療されるまたは予防される状態に好適なアッセイを用いて治療の有効性についてモニターされてもよい。
【0158】
本明細書で提供されているのはまた、がんの進行の遅延またはがんの治療にて使用するためのその同時投与、別々投与または順次投与についての指示書と一緒に、治療剤として本明細書で提供されている医薬組み合わせ物を含む商業包装である。
【0159】
本出願の全体を通して引用されている参考文献(資料参考文献。交付済み特許、公開された特許出願、及び同時係属特許出願)すべての内容は、参照によって全体として本明細書で明白に組み入れられる。定義されない限り、本明細書で使用されている専門用語及び科学用語はすべて当業者に共通して知られる意味を与えられる。
【実施例】
【0160】
以下の実施例は上記に記載されている本発明を説明する。しかしながら、それらは本発明の範囲を限定するようには決して意図されない。本発明の医薬組み合わせ物の有益な効果は当業者にそれ自体で知られる他の試験モデルによっても判定することができる。
【0161】
実施例1:2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物A)及び2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物B)の合成
I.2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物A)の合成
【化9】
中間体2の合成
DMF(100mL)におけるアニリン(3.7g,40ミリモル)と、化合物1(7.5g,40ミリモル)と、K
2CO
3(11g,80ミリモル)との混合物を脱気し、N
2のもとで120℃にて一晩撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、EtOAc(200mL)で希釈し、次いで飽和ブラインで洗浄した(200mL×3)。有機層を分離し、Na
2SO
4上で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、シリカゲルのクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=10/1)によって精製して白色固形物(6.2g、64%)として所望の生成物を得た。
【0162】
中間体3の合成
TEOS(200mL)における化合物2(6.2g,25ミリモル)と、ヨードベンゼン(6.12g,30ミリモル)と、CuI(955mg,5.0ミリモル)と、Cs2CO3(16.3g,50ミリモル)との混合物を脱気し、窒素でパージした。得られた混合物を140℃で14時間撹拌した。室温に冷却した後、残留物をEtOAc(200mL)で希釈した。シリカゲル[50g,水中(1500ml)でのNH4F(100g)のシリカゲル(500g,100-200メッシュ)への添加によって予備調製した]における95%EtOH(200mL)及びNH4F-H2Oを加え、得られた混合物を室温で2時間保持した。固化した物質を濾過し、EtOAcで洗浄した。濾液を乾燥するまで蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=10/1)によって精製し、黄色の固形物(3g、38%)を得た。
【0163】
中間体4の合成
化合物3(3.0g,9.4ミリモル)のEtOH(200mL)溶液に2NのNaOH(200mL)を加えた。混合物を60℃で30分間撹拌した。溶媒の蒸発の後、溶液を2NのHClで中和し、白色の沈殿物を得た。懸濁液をEtOAc(2×200mL)で抽出し、有機層を分離し、水(2×100mL)、ブライン(2×100mL)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を除去して茶色の固形物(2.5g、92%)を得た。
【0164】
中間体6の合成
化合物4(2.5g,8.58ミリモル)と、化合物5(2.52g,12.87ミリモル)と、HATU(3.91g,10.30ミリモル)と、DIPEA(4.43g,34.32ミリモル)との混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を濾過した後、濾液を乾燥するまで蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=2/1)によって精製して茶色の固形物(2g、54%)を得た。
【0165】
2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミドの合成
MeOH(50mL)及びDCM(25mL)における化合物6(2.0g,4.6ミリモル)、水酸化ナトリウム(2N,20mL)の混合物を0℃にて10分間撹拌した。ヒドロキシルアミン(50%)(10mL)を0℃に冷却し、混合物に加えた。得られた混合物を室温で20分間撹拌した。溶媒の除去の後、混合物を1MのHClで中和して白色の沈殿物を得た。粗生成物を濾過し、プレHPLCによって精製して白色の固形物(950mg、48%)を得た。
【0166】
II.合成経路1:2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物B)
【化10】
中間体2の合成
DMF(100mL)におけるアニリン(3.7g,40ミリモル)と、2-クロロピリミジン-5-カルボン酸エチル1(7.5g,40ミリモル)と、K
2CO
3(11g,80ミリモル)の混合物を脱気し、N
2のもとで120℃にて一晩撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、EtOAc(200mL)で希釈し、次いで飽和ブラインで洗浄した(200mL×3)。有機層を分離し、Na
2SO
4上で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、シリカゲルクロマトグラフィー(石油エーテル/EtOAc=10/1)によって精製して白色固形物(6.2g、64%)として所望の生成物を得た。
【0167】
中間体3の合成
DMSO(690mL)における化合物2(69.2g,1当量)と、1-クロロ-2-ヨードベンゼン(135.7g,2当量)と、Li2CO3(42.04g,2当量)と、K2CO3(39.32g,1当量)と、Cu(1当量,45μm)の混合物を脱気し、窒素でパージした。得られた混合物を140℃で36時間撹拌した。反応の後処理によって93%の収率で化合物3を得た。
【0168】
中間体4の合成
化合物3(3.0g,9.4ミリモル)のEtOH(200ml)溶液に2NのNaOH(200mL)を加えた。混合物を60℃で30分間撹拌した。溶媒の蒸発の後、溶液を2NのHClで中和して白色の沈殿物を得た。懸濁液をEtOAc(2×200mL)で抽出し、有機層を分離し、水(2×100mL)、ブライン(2×100mL)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を除去して茶色の固形物(2.5g、92%)を得た。
【0169】
中間体5の合成
この実施例の第I部における中間体6の合成に類似する手順を使用した。
【0170】
2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミドの合成
この実施例の第I部における2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミドの合成に類似する手順を使用した。
【0171】
III.合成経路2:2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物B)
【化11】
工程(1):化合物11の合成
2-クロロピリミジン-5-カルボン酸エチル(7.0Kgs)と、エタノール(60Kgs)と、2-クロロアニリン(9.5Kgs,2当量)と、酢酸(3.7Kgs,1.6当量)とを不活性雰囲気下で反応器に充填した。混合物を加熱して還流した。少なくとも5時間後、HPLC分析のために反応物から試料採取した。分析によって反応の完了が示されると混合物を70±5℃に冷却し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を加えた。次いで反応物を20±5℃に冷却し、混合物をさらに2~6時間撹拌した。得られた沈殿物を濾過し、エタノール(2×6Kgs)及びヘプタン(24Kgs)で洗浄した。50±5℃での減圧下で一定重量までケーキを乾燥させ、8.4Kgsの化合物11(81%の収率及び99.9%の純度)を生成した。
【0172】
工程(2):化合物3の合成
銅粉(0.68Kgs,1当量,<75ミクロン)と、炭酸カリウム(4.3Kgs,1.7当量)と、ジメチルスルホキシド(DMSO,12.3Kgs)とを反応器(容器A)に加えた。得られた溶液を120±5℃に加熱した。別の反応器(容器B)にて、化合物11(2.9Kgs)とヨードベンゼン(4.3Kgs,2当量)とのDMSO(5.6Kgs)溶液を40±5℃で加熱した。次いで混合物を2~3時間かけて容器Aに移した。HPLC分析が≦1%の化合物11が残っていると判定するまで、反応混合物を120±5℃にて8~24時間加熱した。
【0173】
工程(3):化合物4の合成
工程(2)の混合物を90~100℃に冷却し、精製水(59Kgs)を加えた。HPLCが≦1%の化合物3が残っていることを示すまで反応混合物を90~100℃で2~8時間撹拌した。反応器を25℃に冷却した。セライト、次いで0.2ミクロンのフィルターを介して反応混合物を濾過し、濾液を回収した。濾液をメチルt-ブチルエーテルで2回抽出した(2×12.8Kgs)。水性層を0~5℃に冷却し、次いで<25℃の温度を維持しながら、6Nの塩酸(HCl)でpH2~3に酸性化した。次いで反応物を5~15℃に冷却した。沈殿物を濾過し、冷水で洗浄した。減圧下にて45~55℃でケーキを一定重量まで乾燥させて90.3%のAUC純度で2.2kg(65%の収率)の化合物4を得た。
【0174】
工程(4):化合物5の合成
ジクロロメタン(40.3Kgs)と、DMF(33g,0.04当量)と、化合物4(2.3Kg)を反応フラスコに充填した。0.2μmのフィルターを介して溶液を濾過し、フラスコに戻した。<30℃にて30~120分かけて添加漏斗を介して塩化オキサリル(0.9Kgs,1当量)を加えた。次いで、反応の完了(化合物4≦3%)がHPLCによって確認されるまでバッチを<30℃で撹拌した。次に、ジクロロメタン溶液を濃縮し、残留塩化オキサリルを<40℃にて減圧下で取り除いた。HPLC分析が<0.10%の塩化オキサリルが残っていること示すと、濃縮物を新しいジクロロメタン(24Kgs)に溶解し、反応容器(容器A)に移し戻した。
【0175】
第2の容器(容器B)に7-アミノヘプタン酸メチル塩酸塩(化合物A1,1.5Kgs,1.09当量)と、DIPEA(2.5Kgs,2.7当量)と、4(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP,42g,0.05当量)と、DCM(47.6Kgs)を充填した。混合物を0~10℃に冷却し、温度を5℃~10℃で維持しながら容器Aにおける酸塩化物を容器Bに移した。その時点でHPLC分析が反応の完了(化合物4≦5%)を示す3~24時間、反応物を5~10℃で撹拌した。次いで混合物を1MのHCl溶液(20Kgs)、精製水(20Kgs)、7%重炭酸ナトリウム(20Kgs)、精製水(20Kgs)、及び25%塩化ナトリウム溶液(20Kgs)で抽出した。次いで<40℃にてジクロロメタンを真空蒸留し、イソプロピルアルコールで繰り返し追跡した。分析によって<1モル%のDCMが残っていることが示されると、混合物を徐々に0~5℃に冷却し、0~5℃で少なくとも2時間撹拌した。得られた沈殿物を濾過によって回収し、冷イソプロピルアルコール(6.4Kgs)で洗浄した。ケーキをフィルター上で4~24時間吸引乾燥させ、次いでさらに45~55℃にて減圧下で一定重量まで乾燥させた。95.9%のAUC純度法及び99.9重量%で2.2Kgs(77%の収率)が単離された。
【0176】
工程(5):化合物(I)の合成
ヒドロキシルアミン塩酸塩(3.3Kgs,10当量)及びメタノール(9.6Kgs)を反応器に充填した。得られた溶液を0~5℃に冷却し、温度を0~10℃で維持して25%のナトリウムメトキシド(11.2Kgs,11当量)をゆっくり充填した。いったん添加が完了すると、反応物を20℃で1~3時間混合し、濾過し、濾過ケーキをメタノール(2×2.1Kgs)で洗浄した。濾液(ヒドロキシルアミンを含まない塩基)を反応器に戻し、0±5℃に冷却した。化合物5(2.2Kgs)を加えた。反応が完了する(化合物5≦2%)まで反応物を撹拌した。混合物を濾過し、水(28Kgs)及び酢酸エチル(8.9Kgs)を濾液に加えた。6NのHClを用いてpHを8~9に合わせ、次いで濾過する前に3時間まで撹拌した。濾過ケーキを冷水(25.7Kgs)で洗浄し、次いで減圧下で一定重量まで乾燥させた。粗精製の固形化合物(I)を形態IV/パターンDであると判定した。
【0177】
粗精製の固形物(1.87Kgs)をイソプロピルアルコール(IPA、27.1Kg)に懸濁した。スラリーを75±5℃に加熱し、固形物を溶解した。溶液に化合物(I)(形態I/パターンA)の結晶で播種し、常温に冷却させた。得られた沈殿物を濾過の前に1~2時間撹拌した。濾過ケーキをIPA(2×9.5Kgs)ですすぎ、減圧下で45~55℃にて一定重量まで乾燥させ、85%の収率及び99.5%の純度(たとえば、表3のHPLC法によるAUC%)にて1.86kgの結晶性の白色固形物の化合物(I)を生じた。
【表3】
【0178】
実施例2:HDAC酵素アッセイ
化合物を最終濃度の50倍にDMSOで希釈することによって先ず化合物Bを調べ、10点の3倍連続希釈を作った。化合物をアッセイ緩衝液(50mMのHEPES、pH7.4、100mMのKCl、0.001%のTween-20、0.05%のBSA、20μMのTCEP)で最終濃度の6倍に希釈した。HDAC酵素(BPS Biosciences;San Diego,CAから購入した)をアッセイ緩衝液でその最終濃度の1.5倍に希釈した。0.05μMの最終濃度でのトリペプチド基質及びトリプシンは最終濃度の6倍でアッセイ緩衝液にて希釈した。これらの酵素で使用した最終的な酵素濃度は3.3ng/ml(HDAC1)、0.2ng/ml(HDAC2)、0.08ng/ml(HDAC3)及び2ng/ml(HDAC6)であった。使用した最終的な基質濃度は16μM(HDAC1)、10μM(HDAC2)、17μM(HDAC3)及び14μM(HDAC6)であった。5μLの化合物及び20μLの酵素を2つ組で黒色不透明の384穴プレートのウェルに加えた。酵素及び化合物を一緒に室温で10分間インキュベートした。5μLの基質を各ウェルに加え、プレートを60秒間振盪し、Victor2マイクロタイタープレートリーダーに入れた。蛍光の発生を60分間モニターし、反応の線形速度を算出した。4パラメータ曲線適合によるGraph Pad Prismを用いてIC50を決定した。化合物A及びBに関連するIC50については表1を参照のこと。
【0179】
実施例3:方法
細胞株
MM.1S、NCI-H929、RPMI8226及びU266の細胞株はアメリカンタイプカルチャーコレクション(Manassas,VA)から入手した。細胞株はすべて10%ウシ胎児血清(FBS、Sigma Chemical Co.,St.Louis、MO)、2μMのL-グルタミン、100U/mlのペニシリン、及び100μg/mlのストレプトマイシン(GIBCO、Grand Island、NY)を含有するRPMI-1640にて培養した。
【0180】
試薬
化合物A及び化合物BはAcetylon Pharmaceuticalsによって提供された。抗CD38抗体はAcetylon Pharmaceuticalsによって提供された。生体内での腫瘍異種移植試験については、ダラツムマブはCharles River Laboratoriesによって提供された。
【0181】
試験管内でのMM細胞株を用いた抗体依存性細胞介在性(ADCC)アッセイ
多発性骨髄腫細胞をカルセイン-AM(Invitrogen、2μg/mL/100万個の細胞)と共に37℃で30分間インキュベートした。洗浄の後、細胞を標的細胞に使用した。単核細胞はFicoll-paque密度遠心分離によって健常志願者の末梢血から得て、エフェクター細胞に使用した。標的細胞及びエフェクター細胞(E/T=15~20)の双方を3~4時間インキュベートし、培養上清を、490nmの励起フィルターと520nmの発光フィルターを用いた蛍光の測定に供した。特異的溶解の百分率は以下のように算出した、%特異的溶解=[実験の蛍光-自然発生の蛍光(エフェクターなし]/[完全な溶解(界面活性剤による100%の溶解)-自然発生の蛍光(エフェクターなし]×100。
【0182】
フローサイトメトリーに基づく生体外のADCCアッセイ
骨髄の吸引の後、赤血球の塩化アンモニウムに基づく溶解とそれに続くリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)による洗浄によって新鮮な骨髄単核細胞(MNC)を得た。ADCCアッセイについては、96穴プレートにおける完全培地にて化合物Aまたは化合物Bの存在下で細胞を速やかに抗CD38抗体(ダラツムマブ、1μg/mL)と共にインキュベートした。細胞を5%CO2にて37℃で72時間インキュベートした。BM MNCにおける初代MM細胞の生存率を近赤外(n-IR)生存率染料によって決定した。生存しているCD138+MM細胞をフローカウント蛍光球(Beckman Coulter,CA,USA)の存在下で数え、生存MM細胞の絶対数を決定した。次いで、以下の式:%溶解細胞=100-[(ダラツムマブの存在下での生存CD138+細胞の絶対数/対照抗体の存在下での生存CD138+細胞の絶対数)×100]を用いてダラツムマブが介在するADCCの比率を算出した。MNCの表現型分析は、CD138-PE/CD38-APC/n-IR-生存率(BioLegend,San Diego,CA,USA)を含有するモノクローナル抗体の単回5色の組み合わせを用いて行った。BM MNCにおける形質細胞は、CD138-PEとCD38の染色によって特定し、形質細胞上のCD38の発現を測定した(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)。インキュベートの後、2%BSAを含有するPBSで細胞を2回洗浄し、次いでFortessaサイトメーター(Becton Dickinson,Mountain View,CA)での解析のためにPBSに再浮遊させた。MM細胞株もいくつかの実験でこの方法に適用した。
【0183】
実施例4:化合物A及び化合物Bは多発性骨髄腫にてCD38の表面レベルを高める
多発性骨髄腫細胞におけるCD38の表面レベルに対する化合物A及び化合物Bの効果を判定するために、RPMI-8226細胞(
図1A)及びMM.1S細胞(
図1B)を種々の用量での化合物A及び化合物Bによって48時間処理した。CD38の表面レベルはFACS解析によって測定した。データは化合物A及び化合物Bの双方がCD38陽性細胞の比率を高めたことを示している。
【0184】
実施例5:化合物Aは抗CD38が誘導する抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性を高める
H929細胞における抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性に対する化合物Aの効果を判定するために、細胞を0.5μM~2μMの化合物Aと共に24時間インキュベートした。細胞をカルセイン-AMで染色し、20:1の比で末梢血単核細胞と共に3時間インキュベートした。化合物Aの濃度が上昇するにつれてパーセント細胞溶解(
図2A)及びパーセント増強(
図2B)が上昇した。同様に、H929細胞を0.1μMもしくは1μMでのポマリドミド及び/または0.25μM、0.5μMもしくは1μMでの化合物Aと共に48時間インキュベートし、その後、抗CD38抗体の有無にてエフェクター末梢血単核細胞と共に3時間インキュベートした。抗CD38が誘導する最大の抗体依存性細胞介在性の傷害性はポマリドミドと化合物Aとの組み合わせと共にインキュベートした細胞で観察された(
図5)。
【0185】
実施例6:化合物Bは自家設定での抗CD38Abが誘導するADCCを高める
自家設定における単核細胞のADCCに対する化合物Bの効果を判定するために、多発性骨髄腫患者の骨髄吸引物に由来する細胞を化合物B(0.5μM)の有無にて抗CD38抗体(0.5μM/mL)と共に72時間培養した。抗CD38抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性は化合物Bで処理した試料で上昇することが観察された(
図3A)。6人の患者の試料から平均の細胞傷害性(平均±SD)を算出した(
図3Bも参照のこと)。
【0186】
実施例7:化合物Bはダラツムマブと併用して抗腫瘍有効性を高める
化合物Bと抗CD38抗体の組み合わせの抗腫瘍有効性を判定するために、リンパ腫のマウスモデルにてダラツムマブを使用した。Daudi Burkittリンパ腫細胞をCB17SCIDマウスの皮下に埋め込み、腫瘍を形成させた。次いで、溶媒、非標的化IgG対照抗体と組み合わせた化合物B、ダラツムマブ単独、またはダラツムマブと組み合わせた化合物Bによる処理に対してマウスを無作為化した。化合物Bとダラツムマブによる組み合わせ処理は単剤のいずれかと比べて腫瘍増殖の大きな抑制を生じた(
図4A)。さらに、組み合わせ処理は腫瘍容積によって測定したとき、さらに大きな部分応答及び完全応答を生じた(
図4B)。個々の動物の腫瘍容積は投薬の完了の後でさえ高い比率の腫瘍の退縮を示した(
図4C)。
【0187】
実施例8:化合物Bは抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性を高める
H929細胞における抗CD38抗体依存性細胞介在性の細胞傷害性を用いたADCCに対するポマリドミドと組み合わせた化合物Bの効果を評価するために、H929細胞をカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で染色し、ポマリドミド(0.1μM)、化合物B(0.25、0.5、1μM)の存在下または非存在下でPBMCと共に72時間培養した。次いで細胞を抗CD38抗体(0.5μM)と共に3時間インキュベートした。細胞傷害性はフローサイトメトリーによって評価した。ポマリドミドと組み合わせた化合物BはADCCを高めた(
図6)。同様に、化合物Bは単独で、H929にて抗CD38抗体が誘導した細胞傷害性を高めた。