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特許7516050フライ食品用バッターミックス、フライ食品、およびフライ食品の作製方法
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  • 特許-フライ食品用バッターミックス、フライ食品、およびフライ食品の作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】フライ食品用バッターミックス、フライ食品、およびフライ食品の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20240708BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240708BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020000377
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021108549
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】506009453
【氏名又は名称】オルガノフードテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 健未
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118819(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110946172(CN,A)
【文献】International Journal of Biological Macromolecules 133(2019) 1156-1163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類とアマシードガムとを含み、
前記アマシードガムの含有量は、前記穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲であることを特徴とするフライ食品用バッターミックス。
【請求項2】
穀粉類を含むフライ食品用バッターミックスに用いられ、アマシードガムを含み、
前記アマシードガムの含有量が前記穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲となるように用いられることを特徴とするバッターミックス用添加剤。
【請求項3】
請求項1に記載のフライ食品用バッターミックスと水とを含むことを特徴とするフライ食品用バッター液。
【請求項4】
請求項1に記載のフライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液が具材に付着されて調理されたことを特徴とするフライ食品。
【請求項5】
請求項1に記載のフライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液を具材に付着させる工程を含むことを特徴とするフライ食品の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ食品用バッターミックス、そのフライ食品用バッターミックスを用いたフライ食品、およびフライ食品の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷら、パン粉付けフライ、唐揚げ等のフライ食品の作製において、バッター液を調製するためにバッターミックスが用いられることがある。バッターミックスは、主に小麦粉や澱粉等を含み、バッター液は、バッターミックスと水とを混合して得られる。例えば、バッター液を畜肉類、魚介類、野菜類等の具材に付着させて、油ちょうすることにより、フライ食品が得られる。
【0003】
例えば、特許文献1には、日本産小麦品種由来の小麦粉を45質量%以上含み、さらにプロテアーゼおよびアミラーゼを含む、揚げ物用バッターミックスが記載されている。
【0004】
フライ食品用のバッターミックスでは、小麦粉や澱粉に増粘剤としてグァーガムが一般的に添加されているが、バッター液の耐熱性や粘度の安定性が乏しいため、キサンタンガムを使用したり、グァーガムとキサンタンガムを併用したりしている。しかし、キサンタンガムのみでは得られるフライ食品の食感が悪く、グァーガムとキサンタンガムを併用すると相乗効果によって、得られるバッター液が具材に均一に付着しにくいという問題があった。
【0005】
したがって、粘度の経時変化、具材への付着性が良好であり、フライ食品に用いた場合に食感が良好であるバッター液を調製するためのバッターミックスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特許出願公開第2018/070506号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、粘度の経時変化、具材への付着性が良好であり、フライ食品に用いた場合に食感が良好であるバッター液を調製するためのフライ食品用バッターミックス、そのフライ食品用バッターミックスを用いたフライ食品、およびフライ食品の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、穀粉類とアマシードガムとを含み、前記アマシードガムの含有量は、前記穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲である、フライ食品用バッターミックスである。
【0009】
本発明は、穀粉類を含むフライ食品用バッターミックスに用いられ、アマシードガムを含み、前記アマシードガムの含有量が前記穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲となるように用いられる、バッターミックス用添加剤である。
【0010】
本発明は、前記フライ食品用バッターミックスと水とを含む、フライ食品用バッター液である。
【0011】
本発明は、前記フライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液が具材に付着されて調理されたフライ食品である。
【0012】
本発明は、前記フライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液を具材に付着させる工程を含む、フライ食品の作製方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、粘度の経時変化、具材への付着性が良好であり、フライ食品に用いた場合に食感が良好であるバッター液を調製するためのフライ食品用バッターミックス、そのフライ食品用バッターミックスを用いたフライ食品、およびフライ食品の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2(右)、比較例3(左)のバッター液の具材への付着性を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<フライ食品用バッターミックスおよびバッターミックス用添加剤>
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスは、穀粉類とアマシードガムとを含む。本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスは、さらにグァーガムを含んでもよい。
【0017】
本実施形態に係るバッターミックス用添加剤は、穀粉類を含むフライ食品用バッターミックスに用いられ、アマシードガムを含む。
【0018】
本発明者らは、穀粉類に増粘剤としてアマシードガムを添加したバッターミックスによって、粘度の経時変化、具材への付着性が良好であり、フライ食品に用いた場合に食感が良好であるバッター液が得られることを見出した。また、穀粉類に増粘剤としてアマシードガム単品を添加したバッターミックスによって、耐熱性が良好なバッター液が得られることを見出した。
【0019】
アマシードガムは、アマ科アマ(Linum usitatissimum LINNE)の種子から得られたものであり、多糖類を主成分とするものである。
【0020】
グァーガムは、グァー(Cyamopsis tetragonolobus Taubert)の種子から得られたものであり、多糖類を主成分とするものである。
【0021】
穀粉類としては、穀粉、でん粉等が挙げられる。
【0022】
穀粉としては、植物の種子から得られる穀粉であればよく、特に制限はない。例えば、強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉等の小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、そば粉、とうもろこし粉、エンドウマメ粉、大豆粉等が挙げられ、風味、食感、加工適性、市場の流通量等の点から、小麦粉が好ましい。
【0023】
でん粉は、食品の製造に一般に用いられるものであればよく、例えば、小麦粉でん粉、えんどうでん粉、緑豆でん粉、馬鈴薯でん粉、タピオカでん粉、米でん粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘蔗でん粉、およびこれらの加工デンプン(例えば、リン酸架橋でん粉、アルファ化でん粉、酸化でん粉、油脂加工でん粉等)等が挙げられる。
【0024】
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスにおいて、アマシードガムの含有量は、例えば、穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲であり、0.05~5質量%の範囲であることが好ましい。アマシードガムの含有量が穀粉類に対して0.01質量%未満であると、バッター液の粘度が十分に発現しない場合があり、10質量%を超えると、得られるフライ食品の歯切れが悪くなったり、ヌメりが生じたりして、食感が悪くなる場合がある。
【0025】
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスにおいて、グァーガムを含む場合、グァーガムの含有量は、例えば、穀粉類に対して0.01~10質量%の範囲であり、0.05~5質量%の範囲であることが好ましい。グァーガムを含む場合にグァーガムの含有量が穀粉類に対して0.01質量%未満であると、バッター液の粘度が十分に発現しない場合があり、10質量%を超えると、具材と衣との間にヌメリが生じて、食感が悪くなる場合がある。
【0026】
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスは、穀粉類、アマシードガムの他に、粉末油脂、ショートニング、微粉パン粉、セルロース、食塩、糖類、香辛料、膨脹剤、乳化剤、調味料、香辛料抽出物、香料、サイリウムシードガム、カラギナン、メチルセルロース、カードラン、酵素、pH調整剤等の他の成分を含んでもよい。
【0027】
他の成分の含有量は、特に制限はないが、例えば、穀粉とでん粉の合計量に対して、0~50質量%の範囲である。
【0028】
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスは、例えば、室温(20℃±5℃)で、穀粉類と、アマシードガムと、必要に応じてグァーガムと、他の成分とを混合することによって得られる。
【0029】
本実施形態に係るフライ食品用バッターミックスの形態は特に制限されず、例えば、顆粒状、粉末状等のいずれの形態であってもよい。
【0030】
<フライ食品用バッター液>
本実施形態に係るフライ食品用バッター液は、上記フライ食品用バッターミックスと水とを含む。
【0031】
水としては、特に制限はないが、水道水、純水、軟水、硬水等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係るフライ食品用バッター液は、上記フライ食品用バッターミックス、水の他に、卵、牛乳、油、乳化油脂、pH調整剤等の他の成分を含んでもよい。
【0033】
本実施形態に係るフライ食品用バッター液は、例えば、室温(20℃±5℃)で、上記フライ食品用バッターミックスに水を加え、または水に上記フライ食品用バッターミックスを加え、混合することによって得られる。上記フライ食品用バッターミックスと水とを混合する前、または混合した後に必要に応じて他の成分を混合してもよい。
【0034】
本実施形態に係るフライ食品用バッター液において、上記フライ食品用バッターミックス100質量部と水180質量部または水200質量部とを混合し、室温(20℃±5℃)で、ハンドミキサーで1分30秒撹拌して作製したバッター液の作製直後の粘度(12℃)に対する15分後の粘度(15℃)の変化率が±20%以内であることが好ましく、±10%以内であることがより好ましい。この粘度の変化率が、±20%を超えると、衣の付着率が大きく変化する場合がある。粘度は、B型粘度計No.3ローター(30rpm)を用いて測定することができる。
【0035】
本実施形態に係るフライ食品用バッター液において、上記フライ食品用バッターミックスの含有量は、例えば、水に対して20~100質量%の範囲であり、33~67質量%の範囲であることが好ましい。フライ食品用バッターミックスの含有量が水に対して20質量%未満であると、衣と具材との結着性が著しく悪化する場合があり、100質量%を超えると、得られるフライ食品の食感が著しく悪くなる場合がある。
【0036】
他の成分の含有量は、特に制限はないが、例えば、穀粉とでん粉の合計量に対して、0~50質量%の範囲である。
【0037】
<フライ食品およびフライ食品の作製方法>
本実施形態に係るフライ食品は、上記フライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液が具材に付着されて調理された食品である。
【0038】
本実施形態に係るフライ食品の作製方法は、上記フライ食品用バッターミックスと水とを含むバッター液を具材に付着させる工程を含む。さらに、バッター液が付着された具材を調理する工程を含む。
【0039】
フライ食品としては、上記バッター液を具材に付着させて、油ちょうしたり、焼いたりして調理して得られるものであればよく、特に制限はないが、天ぷら、パン粉付けフライ、唐揚げ、コロッケ、フライドチキン、ナゲット、アメリカンドック、カレーパン等の揚げものや、油ちょうせずにオーブン等で焼いた焼き豚カツ、焼きメンチカツ、焼きコロッケ等が挙げられる。
【0040】
フライ食品に用いられる具材としては、特に制限はないが、牛、豚、鶏、馬、羊、アヒル、七面鳥等の畜肉類、エビ、イカ、タコ、カニ、アジ、サケ、カキ、白身魚等の魚介類、ナス、玉ねぎ、にんじん、ピーマン、ごぼう、じゃがいも、アスパラ等の野菜類、チーズ等の乳製品、ハム、ソーセージ等の食肉加工品、コロッケのパテ等が挙げられる。具材には、上記バッター液を付着させる前に、必要に応じて醤油、香辛料等の調味料等で下味を付けてもよい。具材には、上記バッター液を付着させた後に、パン粉、霰、揚げ玉等を付着させてもよい。
【実施例
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1、比較例1,2>
[バッター液の作製]
表1に示す組成で各材料を混合し、室温(20℃±5℃)で、ハンドミキサーで1分30秒撹拌して、コーンスターチ系のバッター液を作製した。
【0043】
[バッター液の粘度測定]
バッター液作製直後、室温(20℃±5℃)静置15分後、30分後、45分後、60分後の粘度をB型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-10型)No.3ローター(30rpm)を用いて20℃で測定した。粘度(単位:mPa・s)の測定結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
比較例1のバッター液は、実施例1、比較例2のバッター液に比べて粘度の経時変化が大きかった。
【0047】
[耐熱性評価]
バッター液作製後、室温(20℃±5℃)静置15分後に上記方法で粘度を測定し、その後、40℃のインキュベーターに1時間保管後に粘度を測定し、40℃1時間経過後粘度/15分後粘度(%)を算出して、バッター液の耐熱性を下記基準で評価した。結果を表3に示す。
〇:40℃1時間経過後粘度/15分後粘度が74%以上
△:40℃1時間経過後粘度/15分後粘度が68%以上74%未満
×:40℃1時間経過後粘度/15分後粘度が68%未満
【0048】
【表3】
【0049】
比較例1のバッター液は、実施例1、比較例2のバッター液に比べて耐熱性に劣っていた。
【0050】
[コロッケでの食感比較]
すりつぶしたジャガイモと豚挽肉とを混合し、成形したコロッケのパテに、作製15分後のバッター液、生パン粉を付け、-60℃で40分間冷凍した後、-20℃で一晩以上(15時間)冷凍した。冷凍庫から取り出して、175℃で7分間油ちょうを行った。常温(20℃)で2時間保管後に官能評価を行った(9名のパネラー)。官能評価の結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
比較例2のバッター液を用いた場合、実施例1、比較例1のバッター液を用いた場合に比べて、ひきのある歯切れの悪い食感であった。
【0053】
[付着性評価]
豚ロース肉をバッター液に漬け、トング等で液を切らずに引き上げたときの外観を目視で観察し、付着性を評価した。
【0054】
実施例1、比較例1,2のいずれのバッター液も、ほぼ均一に付着し、付着性は良好であった。
【0055】
<実施例2、比較例3,4>
[バッター液の作製]
表5に示す組成で各材料を混合し、室温(20℃±5℃)で、ハンドミキサーで1分30秒撹拌して、油脂加工でん粉系のバッター液を作製した。
【0056】
[バッター液の粘度測定]
バッター液作製直後、室温(20℃±5℃)静置15分後、30分後、45分後、60分後の粘度をB型粘度計No.3ローター(30rpm)を用いて20℃で測定した。粘度の測定結果を表6に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
実施例2、比較例3のバッター液は、いずれも粘度の経時変化は小さかった。
【0060】
[耐熱性評価]
バッター液作製直後に上記方法で粘度を測定し、その後、40℃のインキュベーターに1時間保管後に粘度を測定し、40℃1時間経過後粘度/作製直後粘度(%)を算出して、バッター液の耐熱性を下記基準で評価した。結果を表7に示す。
〇:40℃1時間経過後粘度/作製直後粘度が74%以上
△:40℃1時間経過後粘度/作製直後粘度が68%以上74%未満
×:40℃1時間経過後粘度/作製直後粘度が68%未満
【0061】
【表7】
【0062】
実施例2、比較例4のバッター液の耐熱性は、同等であった。これより、アマシードガムにグァーガムを併用すると、アマシードガム単品に比べて耐熱性がやや劣ることがわかった。
【0063】
[コロッケでの食感比較]
実施例1、比較例1,2と同様にしてコロッケでの食感比較を行った。
【0064】
比較例3のバッター液を用いた場合、実施例2のバッター液を用いた場合に比べて、ややひきがある食感であった。
【0065】
[付着性評価]
実施例1、比較例1,2と同様にして付着性を評価した。結果を図1に示す。
【0066】
比較例3のバッター液を用いた場合に比べて、実施例2のバッター液を用いた場合の方がほぼ均一に具材へバッター液が付着していた。
【0067】
以上の結果をまとめて、表8、表9に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
このように、実施例のバッターミックスを用いることによって、得られるバッター液の粘度の経時変化、具材への付着性が良好であり、フライ食品に用いた場合に食感が良好であった。
図1