(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】インサート軸受及びその製造方法、インサート軸受に適した焼結軸受、インサート焼結部品及びその製造方法、インサート焼結部品に適した焼結部品
(51)【国際特許分類】
F16C 35/02 20060101AFI20240708BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20240708BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20240708BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240708BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20240708BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
F16C35/02 Z
F16C33/14 Z
F16C17/02 Z
B29C45/14
B22F5/00 C
B22F7/08 Z
(21)【出願番号】P 2020005806
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019036260
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】竹添 真一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 秀男
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-096200(JP,A)
【文献】特開2016-011740(JP,A)
【文献】特開平09-193192(JP,A)
【文献】特開2015-098921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26,33/00-33/28,
35/00-39/06,43/00-43/08
B29C 45/00-45/24,45/46-45/63,
45/70-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末成形により焼結軸受を形成する焼結軸受形成工程と、前記焼結軸受の外周部に外装部品を一体化したインサート軸受を形成するインサート成形工程とを有し、
前記焼結軸受形成工程では、前記焼結軸受の外周部に、両端部よりも外径が大きい大径部を形成するとともに、該大径部の外周面に軸方向に沿って溝又は突条を形成しておき、
前記インサート成形工程では、前記焼結軸受の両端部における先端部の外周面をインサート成形金型の内周面に周方向に沿って当接させた状態として、前記両端部の基端部及び前記大径部の周囲を前記インサート成形金型により間隔をあけて覆って前記焼結軸受の外周部にキャビティを形成する型組み工程と、該型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有することを特徴とするインサート軸受の製造方法。
【請求項2】
焼結軸受と、該焼結軸受の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、前記焼結軸受の外周部に、両端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、該大径部の外周部に軸方向に沿う溝又は突条が形成されており、前記外装部品は、前記焼結軸受の両端部における先端部を除く基端部及び前記大径部を埋設する形状に形成されていることを特徴とするインサート軸受。
【請求項3】
前記溝又は突条は、前記大径部の全長にわたって形成されていることを特徴とする請求項2記載のインサート軸受。
【請求項4】
前記溝又は突条は、前記大径部の一端面から長さ方向の途中まで形成されていることを特徴とする請求項2に記載のインサート軸受。
【請求項5】
前記両端部に前記大径部に向けて漸次外径が拡大するテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のインサート軸受。
【請求項6】
粉末成形により焼結部品を形成する焼結部品形成工程と、前記焼結部品の外周部に外装部品を一体化したインサート焼結部品を形成するインサート成形工程と、を有し、
前記焼結部品形成工程では、前記焼結部品の先端に向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成された少なくとも一方の端部を除く領域の外周部に溝又は突条を形成するとともに、
前記インサート成形工程では、前記一方の端部の外周面をインサート成形金型の凹部のテーパ状に形成された内周面に周方向に沿って当接させた状態として、前記一方の端部を除く領域の前記溝又は突条の周囲を前記インサート成形金型により間隔をあけて覆って前記焼結部品の外周部にキャビティを形成する型組み工程と、該型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有し、
前記型組み工程では、前記焼結部品の前記端部のテーパ面と前記インサート成形金型の前記凹部のテーパ面とを嵌合させることを特徴とするインサート焼結部品の製造方法。
【請求項7】
焼結部品と、該焼結部品の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、
前記焼結軸受の前記外周部に両端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部には、該大径部の外周面に軸方向に沿う前記溝又は前記突条、及び前記大径部の半径方向に沿う前記溝又は前記突条の少なくともいずれかが形成されており、
前記外装部品は、前記両端部の先端部を除く基端部及び前記大径部を埋設する形状に形成されていることを特徴とするインサート焼結部品。
【請求項8】
前記溝又は突条は、前記大径部の外周面の全長にわたって前記軸方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項
7に記載のインサート焼結部品。
【請求項9】
前記溝又は突条は、前記大径部の一端面から長さ方向の途中まで前記軸方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項
7に記載のインサート焼結部品。
【請求項10】
前記少なくとも一方の端部に前記大径部に向けて漸次外径が拡大するテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項
7に記載のインサート焼結部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軸受と外装部品とを一体化したインサート軸受及びその製造方法、インサート軸受に適した焼結軸受、インサート焼結部品及びその製造方法、インサート焼結部品に適した焼結部品に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結軸受は、焼結体の内部にあらかじめ潤滑油を含浸させておき、軸の回転によるポンプ作用と摩擦熱による熱膨張により油をしみ出させて摩擦面を潤滑することができ、無給油で長期間使用できることから、自動車や家電製品、音響機器等の回転軸の軸受として広く採用されている。
このような焼結軸受を自動車等の構造体に組み込むために、インサート成形により筐体等の外装部品と一体化することが行われる。この場合、焼結軸受にラジアル荷重とスラスト荷重が作用するため、外装部品に対する回転と軸方向の脱落との両方の移動を防止する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1では、焼結軸受(焼結部品)の外周面において互いに軸方向に一致しない位置に、その両端面からそれぞれの端面にかかり軸方向に沿ってその途中まで延びる有底溝を形成したものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品(外装部品)を一体に成形すると、有底溝内に樹脂が入り込んだ状態となるため、回転止めと軸方向の脱落防止ができると記載されている。
また、特許文献2では、焼結軸受(焼結部品)の外周面に、軸方向に延びる溝部と、周方向に延びる拡径部とが形成され、溝部が拡径部の周方向の延びを分断している形態のものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品を一体に成形すると、溝部内に樹脂が入り込むことにより、樹脂部品に対して焼結軸受が回転止めされるとともに、拡径部が樹脂部分に食い込むように一体化されることにより、焼結軸受の軸方向へ抜け止めがなされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-159720号公報
【文献】特開2003-193113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような焼結軸受等の焼結部品を樹脂部品にインサート成形する場合、成形用金型内に配置した焼結部品の外周部に空間(キャビティ)を形成し、そのキャビティ内に溶融樹脂を射出して充填する。このとき、樹脂部品により焼結部品の外周部が覆われるようにするために、焼結部品の両端面を成形用金型に当接させた状態でその外周面の周囲にキャビティが形成される。
しかしながら、キャビティ内に充填される溶融樹脂には射出圧が作用するため、焼結部品と成形用金型との当接面に溶融樹脂が入り込んで、焼結部品の両端面に薄い樹脂膜を形成するおそれがある。焼結部品の両端面に樹脂膜が形成されると、外観を損なうだけでなく、他部品と干渉するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、焼結軸受等の焼結部品の少なくとも一方の端面に膜を形成することなく、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により一体化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインサート軸受の製造方法は、粉末成形により焼結軸受を形成する焼結軸受形成工程と、前記焼結軸受の外周部に外装部品を一体化したインサート軸受を形成するインサート成形工程とを有し、
前記焼結軸受形成工程では、前記焼結軸受の外周部に、両端部よりも外径が大きい大径部を形成するとともに、該大径部の外周面に軸方向に沿って溝又は突条を形成しておき、
前記インサート成形工程では、前記焼結軸受の両端部における先端部の外周面をインサート成形金型の内周面に周方向に沿って当接させた状態として、前記両端部の基端部及び前記大径部の周囲を前記インサート成形金型により間隔をあけて覆って前記焼結軸受の外周部にキャビティを形成する型組み工程と、該型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有する。
【0008】
本発明のインサート軸受は、焼結軸受と、該焼結軸受の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、前記焼結軸受の外周部に、両端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、該大径部の外周部に軸方向に沿う溝又は突条が形成されており、前記外装部品は、前記焼結軸受の両端部における先端部を除く基端部及び前記大径部を埋設する形状に形成されている。
【0009】
このインサート軸受に適した焼結軸受としては、外周部に、両端部よりも外径が大きい大径部を有し、該大径部の外周面に軸方向に沿って溝又は突条が形成されている。
【0010】
本発明によれば、焼結軸受と樹脂部品等の外装部品とが焼結軸受の溝又は突条により回転止めされるとともに、大径部により軸方向に抜け止めされた状態で一体化しており、また、焼結軸受の両端部における先端部を除き、両端部の基端部及び大径部を埋設する形状に形成されるので、焼結軸受の両端部の端面が外装部品の材料により膜状に覆われることが防止される。
【0011】
焼結軸受の一つの実施態様として、前記溝又は突条は、前記大径部の全長にわたって形成されている。あるいは、前記溝又は突条は、前記大径部の一端面から長さ方向の途中まで形成されていてもよい。
【0012】
焼結軸受の一つの実施態様として、前記両端部に前記大径部に向けて漸次外径が拡大するテーパ部が形成されていてもよい。
インサート成形工程において、焼結軸受の両端部の外周面にインサート成形金型の内周面が当接するが、テーパ部にインサート成形金型が当接するため、インサート成形金型との間に隙間が生じにくい。したがって、溶融材料の充填時の圧力による溶融材料の漏れを確実に防止することができる。
【0013】
本発明のインサート焼結部品の製造方法は、粉末成形により焼結部品を形成する焼結部品形成工程と、前記焼結部品の外周部に外装部品を一体化したインサート焼結部品を形成するインサート成形工程と、を有し、
前記焼結部品形成工程では、前記焼結部品の少なくとも一方の端部を除く領域の外周部に溝又は突条を形成するとともに、
前記インサート成形工程では、前記一方の端部の外周面をインサート成形金型の内周面に周方向に沿って当接させた状態として、前記一方の端部を除く領域の前記溝又は突条の周囲を前記インサート成形金型により間隔をあけて覆って前記焼結部品の外周部にキャビティを形成する型組み工程と、該型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有する。
【0014】
本発明のインサート焼結部品は、焼結部品と、該焼結部品の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、前記焼結部品の少なくとも一方の端部を除く領域の外周部に溝又は突条が形成されており、前記外装部品は、前記焼結部品の前記一方の端部の先端部を除く領域の外周部を埋設する形状に形成されている。
【0015】
このインサート焼結部品に適した焼結部品は、少なくとも一方の端部を除く領域の外周部に溝又は突条が形成されている。
【0016】
本発明によれば、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とが焼結部品の溝又は突条により回転止めされるとともに、一体化しており、また、焼結部品の少なくとも一方の端部における先端部を除き、外周部を埋設する形状に形成されるので、焼結部品の少なくとも一方の端面が外装部品の材料により膜状に覆われることが防止される。
【0017】
インサート焼結部品の一つの実施態様としては、前記焼結部品は、焼結軸受からなり、前記焼結軸受の前記外周部に前記一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部には、該大径部の外周面に軸方向に沿う前記溝又は前記突条、及び前記大径部の半径方向に沿う前記溝又は前記突条の少なくともいずれかが形成されているとよい。
【0018】
また、インサート焼結部品の一つの実施態様としては、前記大径部は、前記外周部の前記焼結部品の両端部を除く領域に形成され、前記外装部品は、前記両端部の先端部を除く基端部及び前記大径部を埋設する形状に形成されているとよい。
【0019】
本発明の焼結軸受は、少なくとも一方の端部を除く領域の外周部に前記少なくとも一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成され、前記大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は突条、及び前記大径部の一端面に半径方向に沿う前記溝又は突条の少なくともいずれかが前記大径部に形成されている。
【0020】
焼結軸受の一つの実施態様としては、前記溝又は突条は、前記大径部の外周面の全長にわたって前記軸方向に沿って形成されている。あるいは、前記溝又は突条は、前記大径部の一端面から長さ方向の途中まで前記軸方向に沿って形成されていてもよい。
【0021】
焼結軸受の一つの実施態様としては、前記少なくとも一方の端部に前記大径部に向けて漸次外径が拡大するテーパ部が形成されているとよい。
この場合、インサート成形工程において、焼結軸受の少なくとも一方の端部の外周面にインサート成形金型の内周面が当接するが、テーパ部にインサート成形金型が当接するため、インサート成形金型との間に隙間が生じにくい。したがって、溶融材料の充填時の圧力による溶融材料の漏れを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、焼結軸受等の焼結部品と外装部品とが焼結部品の溝又は突条により回転止めされるとともに、一体化しており、また、焼結部品の少なくとも一方の端面に外装部品の材料による膜を形成することなく、焼結部品と外装部品とを射出成形により一体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態のインサート軸受を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のインサート軸受に用いられている焼結軸受の斜視図である。
【
図4】
図2の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図5】第1実施形態のインサート軸受の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】成形工程で成形体を形成している状態を示す縦断面図である。
【
図7】矯正工程において、左半分が焼結体を矯正している状態、右半分が矯正金型から焼結体を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図8】射出成形工程において、型締め工程後の状態を示す縦断面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図11】
図9の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図12】矯正工程の第2矯正において、左半分が焼結体を矯正している状態、右半分が矯正金型から焼結体を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図15】
図13の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図16】矯正工程において、左半分が焼結体を矯正している状態、右半分が矯正金型から焼結体を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図17】本発明の第4実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の縦断面図である。
【
図18】
図17の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図19】本発明の第5実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の縦断面図である。
【
図20】
図19の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図21】射出成形工程において、型締め工程後の状態を示す縦断面図である。
【
図22】本発明の第6実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の縦断面図である。
【
図23】
図22の焼結軸受を軸方向の一方側から視た端面図である。
【
図24】本発明の第7実施形態のインサート軸受の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図25】
図24のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図26】
図24のインサート軸受の製造方法における射出成形工程の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【
図27】本発明の第8実施形態のインサート軸受の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図28】
図27のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図29】本発明の第9実施形態のインサート軸受の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図30】
図29のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図31】本発明の第10実施形態のインサート軸受の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図32】
図31のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【
図33】本発明の第11実施形態のインサート軸受の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図34】
図33のインサート軸受に用いられる焼結軸受の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の各実施形態は、焼結軸受に樹脂部品を射出成形によって一体化する実施形態である。したがって、本発明の外装部品は実施形態では樹脂部品であり、インサート成形工程は射出成形工程である。
なお、以下の各実施形態では、焼結部品として焼結軸受を例示し、インサート焼結部品としてインサート焼結軸受を例示して説明する。
【0025】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態のインサート軸受について説明する。なお、第1実施形態から後述する第6実施形態までの実施形態では、インサート軸受に用いられる焼結軸受の外周部の略中央に大径部が設けられ、この大径部が焼結軸受の両端部より外径が大きい例について説明する。
このインサート軸受1は、
図1に示すように、金属粉末の焼結体により形成された筒状の焼結軸受10と、この焼結軸受の外周部に一体に成形された樹脂部品20(本発明の外装部品に相当)とを有している。
焼結軸受10は、
図2~
図4に示すように、中心に軸受孔11が貫通状態に形成されており、両端部12よりも軸方向中間部分の外径が大きい段付き形状に形成されている。この実施形態では、小径の両端部12は同じ外径、同じ長さ(高さ)に形成されており、中間位置の大径部13は、両端部12を除く長さ(高さ)に形成される。
【0026】
また、大径部13の外周部には、その一端から軸方向の途中位置まで延びる溝14が周方向に間隔をおいて複数形成されている。実施形態では、大径部13の長さ(高さ)の半分より短い10本の溝14が36°間隔で形成されている。これら溝14は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が凸円弧面により大径部13の外周面に繋がる形状である。
また、この実施形態では、大径部13の軸方向の中間位置に半径方向に突出する凸条15が周方向に沿って形成されている。
【0027】
一方、樹脂部品20は、例えば、この焼結軸受10が取り付けられる自動車部品や家電製品の筐体や機械部品等の一部を構成する外装部品であり、
図1に示すように、焼結軸受10の外周部に、両端部12の先端部をそれぞれ露出させ、両端部12の基端部(付け根の部分)及び大径部13を埋設させるように設けられている。すなわち、樹脂部品20において、焼結軸受10の外周部に軸受保持部21が一体に固定され、該軸受保持部21は、焼結軸受10の全体高さよりも小さい高さに形成され、焼結軸受10の両端部12の軸方向の途中位置から大径部13の全体を埋設している。したがって、大径部13の両端面は軸受保持部21により覆われた状態である。符号22は他の部分と連結されるブラケットを示す。
【0028】
このように形成されたインサート軸受1を製造する方法(インサート焼結部品の製造方法)について説明する。
このインサート軸受1を製造する場合、
図5のフローチャートに示すように、まず粉末成形により焼結軸受10を形成する焼結軸受形成工程(焼結部品形成工程)と、焼結軸受形成工程で形成された焼結軸受10を射出成形金型(本発明のインサート成形金型に相当)内に配置し、射出成形により、焼結軸受10の外周部に一体に樹脂部品20を形成する射出成形工程(本発明のインサート成形工程に相当)とを経て、製造される。以下、工程順に詳述する。
【0029】
<焼結軸受形成工程>
焼結軸受形成工程は、焼結軸受10となる成形体10´を形成する成形工程、成形体10´を焼結して焼結体(図示略)を形成する焼結工程、その焼結体を矯正する矯正工程(サイジング工程)とを有する。
【0030】
(成形工程)
成形体10´を形成するための成形金型40は、
図6に示すように、円形の貫通孔41が形成されたダイ42と、その貫通孔41内に配置されるコアロッド43との間に、外側から第1上側パンチ44と第1下側パンチ45、第2上側パンチ46と第2下側パンチ47が、それぞれ上下組をなすように設けられている。これらパンチ44~47はコアロッド43を中心とする同心円の筒状に形成される。
【0031】
そして、ダイ42とコアロッド43、及び第1下側パンチ45、第2下側パンチ47により形成した空間内に粉末を充填し、これを上下の各パンチ44~47で圧縮することにより、成形体10´を形成する。このとき、両第2パンチ46,47間の距離よりも両第1パンチ44,45間の距離を小さくすることにより、外周部に大径部13´を形成した段付き形状の成形体10´が形成される。また、コアロッド43により軸受孔11´が貫通状態に形成される。
【0032】
(焼結工程)
得られた成形体10´を加熱して粉末を焼結させ、焼結体を形成する。
【0033】
(矯正工程)
焼結体を矯正金型50により矯正(サイジング)する。この矯正工程は、外形を最終寸法に仕上げつつ、大径部13の外周部に溝14を形成する。
この矯正に用いられる矯正金型50は、成形金型40と類似した構成であり、
図7に示すように、円形の貫通孔51が形成されたダイ52と、その貫通孔51内に配置されるコアロッド53との間に、外側から第1上側パンチ54と第1下側パンチ55、第2上側パンチ56と第2下側パンチ57が、それぞれ上下組をなすように設けられている。これらパンチ54~57はコアロッド53を中心とする同心円の筒状に形成される。
【0034】
また、第1下側パンチ55の上端部に、溝14を形成するための凸部58が形成されている。そして、両第1パンチ54,55、両第2パンチ56,57により焼結体を軸方向に加圧しながらダイ52とコアロッド53との間に押し込むことにより、焼結体を矯正する。この場合、第1上側パンチ54と第1下側パンチ55とは、焼結体の大径部の外周面を高さ方向の中間位置まで矯正する。このため、矯正後の焼結体(焼結軸受)10は、大径部13の外周部に溝14とともに、高さ方向の中間位置に周方向に沿う凸条15が形成される。
【0035】
<射出成形工程>
以上のようにして形成した焼結軸受10を射出成形工程により樹脂部品20と一体成形する。この射出成形工程は、焼結軸受10の外側にキャビティ61を形成した状態で射出成形金型60内に配置する型締め工程(本発明の型組み工程に相当)と、そのキャビティ61内に樹脂部品となる溶融樹脂(本発明の溶融材料に相当)を射出する射出工程(本発明の充填工程に相当)とを有する。
【0036】
<型締め工程>
射出成形金型60は、
図8に示すように、固定型62と可動型63とを有し、これら固定型62と可動型63との間に焼結軸受10が保持され、その焼結軸受10の外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ61が形成される。焼結軸受10は、その両端部の長さ方向の途中位置までが固定型62及び可動型63の凹部64,65内に嵌合状態に保持されることにより、凹部64,65の内周面が焼結軸受10の両端部12の外周面に全周にわたって当接している。キャビティ61は、焼結軸受10の外周を囲むように形成された軸受保持空間66と、この軸受保持空間66に連通部67が連通している。キャビティ61の軸受保持空間66内には、焼結軸受10の大径部13と、大径部13付近の両端部12の基端部(付け根の部分)とが露出している。そして、そのキャビティ61に、溶融樹脂が供給されるスプルー68がゲート69を介して接続され、スプルー68に溶融樹脂を射出するためのプランジャー(図示略)が接続される。
【0037】
<射出工程>
図8に示すように型締めした射出成形金型60のキャビティ61内に溶融樹脂を射出する。このとき、キャビティ61内には射出圧が作用するが、固定型62と可動型63との凹部64,65に焼結軸受10の両端部12における先端部が嵌合状態に配置され、この両端部12の先端部がキャビティ61内に露出していないので、射出圧は焼結軸受10の両端部12における先端部を除く外面に作用する。このため、焼結軸受10の両端面には溶融樹脂が漏れ出ることはない。万一、焼結軸受10と金型60との当接面間に溶融樹脂が侵入するとしても、焼結軸受10の両端部12の外周面においてわずかに漏れることがある程度である。
【0038】
したがって、このインサート軸受1は、
図1に示すように、焼結軸受10の両端部12における先端部を除く大径部13を含む中央部分が樹脂部品20により囲まれており、焼結軸受10と樹脂部品20とが溝14により回転止めされるとともに、大径部13により軸方向に抜け止めされた状態で一体化している。そして、従来技術で述べたような焼結軸受の両端面に樹脂膜が形成されないため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。
【0039】
[第2実施形態]
図9~
図11は第2実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受100を示している。この実施形態の焼結軸受100は、第1実施形態の焼結軸受10に設けられていた大径部13の凸条15をなくしたものである。なお、この第2実施形態以降の各実施形態において、第1実施形態と共通する要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
この第2実施形態では矯正工程を2回に分けて行われる。すなわち、1回目の矯正において第1実施形態で述べた方法により大径部13の外周部に溝14を形成する(第1矯正)。この第1矯正で大径部13の外周部には溝14とともに凸条15も形成される。この凸条15を2回目の矯正で除去する(第2矯正)。この第2矯正では、ダイの内周面を円筒面に形成しておき、この円筒面により大径部13の外周面を矯正して、大径部13の外周面を円筒面に仕上げる。
【0040】
図12は、この第2矯正時に用いられる矯正金型70を示している。この矯正金型70は、円形の貫通孔71が形成されたダイ72と、その貫通孔71内に配置されるコアロッド73との間に、外側から第1上側パンチ74と第1下側パンチ75、第2上側パンチ76と第2下側パンチ77が、それぞれ上下組をなすように設けられている。ただし、第1矯正で用いられる矯正金型50(
図7参照)と異なり、円筒状のダイ72の内周面が大径部13の外周面を形成し、第1下側パンチ75の上端は大径部13の端面に当接する。
この第2矯正の後、第1実施形態の場合と同様にして射出成形することにより、焼結軸受100の両端部12における先端部を除く大径部13を含む中央部分を樹脂部品20(
図1参照)により囲って一体化したインサート軸受(図示略)を得ることができる。
【0041】
このインサート軸受も、第1実施形態と同様、焼結軸受100と樹脂部品20とが溝14により回転止めされるとともに、大径部13により軸方向に抜け止めされた状態で一体化しており、かつ、焼結軸受100の両端面に樹脂膜が形成されないため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。
【0042】
[第3実施形態]
図13~
図15は第3実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受101を示している。この実施形態の焼結軸受101は、大径部13の外周部に、軸方向に沿う複数の溝141が大径部13の両端面まで大径部13の全長にわたって形成されている。
この焼結軸受101を製造する場合、焼結軸受工程の成形工程、焼結工程の後、矯正工程で
図16に示す矯正金型80を用いる。この矯正金型80は、円形の貫通孔81が形成されたダイ82と、その貫通孔81内に配置されるコアロッド83との間に、外側から第1上側パンチ84と第1下側パンチ85、第2上側パンチ86と第2下側パンチ87が、それぞれ上下組をなすように設けられている。この場合、ダイ82の貫通孔81の内周面に軸方向に沿って貫通する複数の凸条88が周方向に間隔をおいて形成されており、第1上側パンチ84及び第1下側パンチ85の外周部に、ダイ82の凸条88をスライド自在に嵌合する溝部89が周方向に間隔をおいて形成されている。
【0043】
この矯正金型80に焼結体を配置して矯正することにより、大径部13の外周部に溝141が周方向に間隔をおいて形成される。
この焼結軸受101により形成したインサート軸受も、他の実施形態と同様、焼結軸受101と樹脂部品20とが溝141により回転止めされるとともに、大径部13により軸方向に抜け止めされた状態で一体化され、かつ、焼結軸受101の両端面に樹脂膜が形成されないため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。
【0044】
[第4実施形態]
図17及び
図18は第4実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受102を示している。この実施形態の焼結軸受102は、第3実施形態と同様に、焼結軸受102の大径部13に、軸方向に沿う複数の溝142が大径部13の両端面まで大径部13の全長にわたって形成されているが、この実施形態の場合は、第3実施形態の溝141に比べて、溝142の横断面積が大きいので、これら溝142を矯正工程ではなく成形工程で形成する。
【0045】
つまり、図示は省略するが、成形金型が第3実施形態の矯正金型80のように構成されており、ダイの貫通孔の内周部に軸方向に沿って貫通する複数の凸条が周方向に間隔をおいて形成され、第1下側パンチ及び第1上側パンチの外周部に、ダイの凸条をスライド自在に嵌合する溝部が周方向に間隔をおいて形成されている。このダイの凸条により、成形体の大径部の外周部に溝142が形成される。
そして、大径部13の外周部に溝142を形成した成形体について、焼結工程、矯正工程を経て焼結軸受102を形成し、その大径部13を囲むように射出成形して、樹脂部品20と一体化することにより、インサート軸受が製造される。
【0046】
[第5実施形態]
図19及び
図20は第5実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受103を示している。この実施形態の焼結軸受103は、両端部121がストレートの円筒状ではなく、大径部131から両端に向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成されている。この両端部(テーパ部)121のテーパ面の勾配θは例えば15°(テーパ角として30°)に形成されている。また、大径部131に形成される溝143は大径部131の長さ方向の途中まで形成されており、開放状態の先端は、テーパ面(大径部131の端面)に形成されている。また、大径部131の高さ方向の中央位置には周方向に沿って凸条15が形成される。
【0047】
この焼結軸受103は、第1実施形態と同様の焼結軸受形成工程により形成される。両端部121のテーパ面は成形工程時に形成されるが、勾配θが小さい場合には、矯正工程で形成してもよい。射出成形工程では、
図21に示す射出成形金型600により、型締め工程において、固定型62及び可動型63の凹部641,651の内周面が焼結軸受103の両端部121と同じ角度のテーパ面に形成されており、この凹部641,651に焼結軸受103の両端部121がテーパ嵌合することにより、固定型62と可動型63とが型締めされる。
【0048】
この型締め状態では、焼結軸受103の両端部121のテーパ面と射出成形金型600の凹部641,651のテーパ面とが嵌合しているので、第1実施形態のようにストレートの円筒面どうしの当接状態に比べて、テーパ面間に溶融樹脂が入り込みにくく、両端面はもちろん、両端部121の外周面(テーパ面)における樹脂漏れも確実に防止することができる。
なお、大径部131の中間位置に形成される凸条15は、第2実施形態のように、矯正工程を2回に分けて行って、2回目の矯正で除去するようにしてもよい。
【0049】
[第6実施形態]
図22及び
図23は第6実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受104を示している。この実施形態の焼結軸受104は、第5実施形態の焼結軸受103と同様、両端部121が大径部131から両端に向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成されている。このテーパ面の勾配は例えば15°(テーパ角30°)に形成されている。また、大径部131に形成される溝144は、大径部131の全長にわたって形成されており、開放状態の両端は、それぞれテーパ面に形成されている。
【0050】
なお、図示は省略するが、第6実施形態の焼結軸受よりも溝の横断面積を
図18に示す溝142のように大きくして、溝の形成を矯正工程ではなく、成形工程で行うようにしたもの、等も可能である。
【0051】
[第7実施形態]
第7実施形態から後述する第11実施形態までの実施形態では、インサート軸受に用いられる焼結軸受の外周部の一方の端部を除く領域に大径部が設けられ、この大径部が焼結軸受の一方の端部より外径が大きい例について説明する。
図24は第7実施形態のインサート軸受1A(インサート焼結部品)の一部(焼結軸受105の半分及び樹脂部品20Aの一部)の縦断面を示しており、
図25はインサート軸受1Aに用いられる焼結軸受105を示している。なお、
図24では、インサート軸受け1Aの一部のみを示しているが、全体の形状は、
図1に示した形状と同じである。
この実施形態の焼結軸受105は、第1~第6実施形態の焼結軸受10,101~104とは異なり、大径部135を有しており、この大径部135は、他方の端部123まで延びている。つまり、大径部135の端面と他方の端部123の端面とは同一平面状に位置し、連続した状態となっている。
【0052】
焼結軸受105は、一方の端部122の先端部(端部122の端面に連続する側の端部)を除く領域の外周部が樹脂部品20Aにより埋設されている。つまり、樹脂部品20Aは、焼結軸受105の外周部に、一方の端部122の先端部を露出させ、一方の端部122の基端部(付け根の部分)及び大径部135を埋設している。すなわち、樹脂部品20Aにおいて、焼結軸受105の外周部に軸受保持部21Aが一体に固定され、該軸受保持部21Aは、焼結軸受105の全体高さと略同じ高さに形成され、焼結軸受105の一方の端部122の軸方向の途中位置から大径部13の全体を埋設している。したがって、大径部13の両端面は軸受保持部21により覆われた状態である。
【0053】
また、焼結軸受105の一方側の端部122は、大径部135から端部122に向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成されている。このテーパ面の勾配は、例えば15°(テーパ角30°)に形成されている。また、大径部135に形成される溝145は、大径部131の全長にわたって形成されており、開放状態の両端は、それぞれテーパ面に形成されている。なお、この溝145の形状等は、
図13に示した溝141と略同じである。
【0054】
このようなインサート軸受1Aの製造方法は、上記第1実施形態の焼結軸受10の製造方法と略同じであるが、型締め工程及び射出成型工程に用いられる射出成形金型の形状が一部異なっている。以下詳しく説明する。
図26は、インサート軸受1Aの製造方法における射出成形工程の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【0055】
射出成形金型60Aは、
図26に示すように、固定型62Aと可動型63Aとを有し、これら固定型62Aと可動型63Aとの間に焼結軸受105が保持され、その焼結軸受105の外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ61Aが形成される。焼結軸受105は、一方の端部122の長さ方向の途中位置までが固定型62Aの凹部64A内に嵌合状態に保持されることにより、凹部64Aの内周面が焼結軸受105の一方の端部122の外周面に全周にわたって当接している。また、他方の端部123の端面には、可動型63Aの内面から突出する突出部65Aの端面が当接している。キャビティ61Aは、焼結軸受105の外周を囲むように形成された軸受保持空間66と、この軸受保持空間66に連通部67が連通している。キャビティ61の軸受保持空間66内には、焼結軸受10の大径部135の外周面及び端面、大径部135付近の一方の端部122の基端部(付け根の部分)が露出している。そして、そのキャビティ61に、溶融樹脂が供給されるスプルー68がゲート69を介して接続され、スプルー68に溶融樹脂を射出するためのプランジャー(図示略)が接続される。
【0056】
そして、型締めした射出成形金型60Aのキャビティ61A内に溶融樹脂を射出する。このとき、キャビティ61A内には射出圧が作用するが、固定型62Aと可動型63Aとの凹部64に焼結軸受105の一方の端部122における先端部が嵌合状態に配置されるとともに、他方の端部123が突出部65Aに当接している。このように一方の端部122の先端部がキャビティ61内に露出していないので、射出圧は焼結軸受105の端部122における先端部を除く外面に作用する。このため、焼結軸受105の端部122の端面には溶融樹脂が漏れ出ることはない。万一、焼結軸受105と金型60との当接面間に溶融樹脂が侵入するとしても、焼結軸受105の端部122の外周面においてわずかに漏れることがある程度である。
【0057】
したがって、このインサート軸受1Aは、
図24に示すように、焼結軸受105の一方の端部122における先端部を除く領域(大径部13の外周面及び両端面)が樹脂部品20Aにより囲まれており、焼結軸受105と樹脂部品20Aとが溝145により回転止めされるとともに、大径部135により軸方向に抜け止めされた状態で一体化している。そして、従来技術で述べたような焼結軸受の両端面に樹脂膜が形成されないため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。
【0058】
[第8実施形態]
図27は第8実施形態のインサート軸受1B(インサート焼結部品)の一部を拡大して示しており、
図28はインサート軸受1Bに用いられる焼結軸受106を示している。この実施形態の焼結軸受106は、
図27及び
図28に示すように、上記第7実施形態と同様に大径部135を有しており、この大径部135に形成される溝の形状のみ上記第7実施形態の焼結軸受106と異なる。なお、この第8実施形態以降の各実施形態において、第7実施形態と共通する要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
【0059】
この焼結軸受106の大径部135に形成される溝146は、
図27及び
図28に示すように、大径部135の長さ(高さ)の半分より短い10本の溝146が、大径部135の一方の端部122側の端面側に36°間隔で形成されている。これら溝146は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が凸円弧面により大径部135の外周面に繋がる形状である。なお、この溝146の形状等は、
図2に示した溝14と略同じである。
【0060】
[第9実施形態]
図29は第9実施形態のインサート軸受1C(インサート焼結部品)を示しており、
図30はインサート軸受1Cに用いられる焼結軸受107を示している。この実施形態の焼結軸受107は、
図29及び
図30に示すように、上記第7実施形態と同様に大径部135を有しており、この大径部135に形成される溝の形状のみ上記第7実施形態の焼結軸受106と異なる。
【0061】
この焼結軸受107の大径部135に形成される溝147は、
図29及び
図30に示すように、大径部135の長さ(高さ)の半分より短い10本の溝146が、大径部135の他方の端部123側の端面側に36°間隔で形成されている。これら溝147は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が凸円弧面により大径部135の外周面に繋がる形状である。なお、この溝147の形状等は、
図10に示した溝14と略同じである。
【0062】
[第10実施形態]
図31は第10実施形態のインサート軸受1D(インサート焼結部品)を示しており、
図32はインサート軸受1Dに用いられる焼結軸受108を示している。この実施形態の焼結軸受108は、
図31及び
図32に示すように、上記第7実施形態と同様に大径部135を有しており、この大径部135に形成される溝の形状のみ上記第7実施形態の焼結軸受106と異なる。
【0063】
この焼結軸受108の大径部135に形成される溝148は、
図31及び
図32に示すように、大径部135の一方の端部122側の端面に形成されている。この溝148は、90°間隔で4本形成され、大径部135の上記端面の半径方向に延びる形状である。これら溝148は、その最深部が平面に形成され、最深部から上側に向かうにしたがって漸次拡径する傾斜面を有している。
【0064】
[第11実施形態]
図33は第11実施形態のインサート軸受1E(インサート焼結部品)を示しており、
図34はインサート軸受1Eに用いられる焼結軸受109を示している。この実施形態の焼結軸受109は、
図33及び
図34に示すように、上記第10実施形態と同様に大径部135を有しており、この大径部135に形成される溝の位置のみ上記第10実施形態の焼結軸受108と異なる。
【0065】
この焼結軸受109の大径部135に形成される溝149は、
図33及び
図34に示すように、大径部135の一方の端部122とは反対側の端面に形成されている。この溝149は、90°間隔で4本形成され、大径部135の上記端面の半径方向に延びる形状である。この大径部135の端面は、他方の端部122の端面と一致しているが、溝149は、他方の端部122の端面には浸食していない。つまり、溝149は、大径部135の範囲内において半径方向に延びている。なお、溝148の形状は、上記溝148と同じである。
【0066】
これら第10実施形態及び第11実施形態では、溝148,149を大径部135の端面に形成することとしたが、この場合においても、溝148,149の周囲に樹脂部品20Aが埋設されているので、上記各実施形態と同様の効果を奏することができる。 つまり、大径部135に形成される溝部は、大径部135の外周面に形成されてもよいし、端面に形成されてもよく、大径部135の外周面及び端面のいずれにも形成されていてもよい。
【0067】
その他、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態では、大径部に溝を形成したが、溝に代えて軸方向に沿う突条を形成してもよい。また、これら溝や突条は、周方向に間隔をおいて複数形成するのがよいが、1本のみ形成したものでもよい。
さらに、外装部品を樹脂部品により構成し、射出成形によってインサート成形する実施形態としたが、外装部品をアルミニウム合金等の金属部品とし、鋳造によってインサート成形するものにも本発明を適用することができる。その場合、鋳型(インサート成形金型)内に焼結部品を配置して型組みし(型組み工程)、その周囲のキャビティに金属部品となる溶融金属(溶融材料)を充填する(充填工程)ことにより、焼結軸受と金属部品の外装部品とが一体化する。
【0068】
上記実施形態では、焼結部品として焼結軸受を例示し、インサート焼結部品としてインサート軸受を例示したが、これに限らない。例えば、焼結部品は、バルブシートやブッシュ等であってもよい。つまり、本発明は、焼結軸受に限らず、焼結部品であれば適用でき、この焼結部品を外装部品で一体化した全ての製品に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1,1A,1B,1C,1D,1E インサート軸受(インサート焼結部品)
10,100,101,102,103,104,105,106,107,108,109 焼結軸受(焼結部品)
10´ 成形体
11 軸受孔
12,121 端部
122 端部(一方の端部)
123 端部(他方の端部)
13,131,135 大径部
14,141,142,143,144,145,146,147,148,149 溝
15,88 凸条
20 樹脂部品(外装部品)
21 軸受保持部
40 成形金型
50,70,80 矯正金型
60,60A,600 射出成形金型(インサート成形金型)
61,61A キャビティ
62,62A 固定型
63,63A 可動型
64,64A,65,641,651 凹部
65A 突出部
66 軸受保持空間