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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】分散装置及び粉体供給部材
(51)【国際特許分類】
   B01F 35/71 20220101AFI20240708BHJP
   B01F 23/30 20220101ALI20240708BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240708BHJP
【FI】
B01F35/71
B01F23/30
B01F23/53
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020020915
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126598
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅見 圭一
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-182891(JP,A)
【文献】特開平08-229378(JP,A)
【文献】特開2004-189467(JP,A)
【文献】特開2016-172633(JP,A)
【文献】実開平03-094937(JP,U)
【文献】実開昭63-006040(JP,U)
【文献】特開2010-042376(JP,A)
【文献】特開2004-130281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 35/00 -35/95
B01F 21/00 -25/90
B65G 53/06 -53/14
H01M 4/04
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体と液体とドライガスとを混合し、キャビテーションと剪断力によって分散する撹拌混合部と、
前記撹拌混合部に前記粉体を供給する粉体供給部と、
前記粉体にドライガスを供給するドライガス発生部と、を備え、
前記粉体供給部の粉体保持部は、密閉可能であり、
前記粉体保持部と前記撹拌混合部とを接続する粉体供給配管に、前記ドライガス発生部からのドライガスを供給するガス供給配管を接続し、
前記粉体供給配管の内部には前記粉体供給部からの粉体排出管が設けられ、
前記ガス供給配管から流入した前記ドライガスを前記粉体排出管の外側を経由して前記粉体と合流することを特徴とする、分散装置。
【請求項2】
前記撹拌混合部は、内部が負圧状態であることを特徴とする、請求項1に記載の分散装置。
【請求項3】
粉体と液体とドライガスとを混合し、キャビテーションと剪断力によって分散する撹拌混合部に粉体を供給する粉体供給部材であって、
粉体を保持する粉体保持部と
粉体を排出するための粉体排出部と、を備え、
前記粉体保持部は、密閉可能であり、
前記粉体保持部と前記撹拌混合部とを接続する粉体供給配管に、ドライガス発生部からのドライガスを供給するガス供給配管を接続し、
前記粉体供給配管の内部には前記粉体排出部からの粉体排出管が設けられ、
前記ガス供給配管から流入した前記ドライガスを前記粉体排出管の外側を経由して前記粉体と合流することを特徴とする、粉体供給部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散装置及び粉体供給部材に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、粉体と液体の混合において、大気中の水分の影響を受ける粉体を適切に取り扱うことができる分散装置及び粉体供給部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体中への粉体の溶解や分散など、粉体と液体を混合することは、幅広い分野で行われている。この適用分野の一例としては、例えば、食品製造や化粧品製造のほか、工業製品の材料調製が挙げられる。
【0003】
粉体と液体の混合においては、特に、粉体と液体の混合物であるスラリーを調製する場合、混合時や混合後における粉体の凝集等、粉体の物性や状態の変化を抑制し、スラリーの品質維持・品質向上を行うことが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、固体電池用の電極材料(活物質合材)の製造方法として、活物質と固体電解質と導電材と分散媒を混合させる混合装置を用い、まず分散媒に固体電解質を分散させる第1の分散工程を行った後、活物質及び導電材を供給して分散させる第2の分散工程を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-169299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、凝集しやすい固体電解質と、活物質及び導電材とを分散媒に分散させるため、分散工程を2段階に分けることが記載されている。これにより、分散媒中で固体電解質が凝集することを抑制し、スラリー(活物質合材)の品質低下を抑制することが記載されている。
【0007】
一方、粉体と液体の混合において、粉体と液体の混合物(溶液又はスラリー)に求められる性質等によっては、大気中の水分による影響を受ける粉体を取り扱う必要が出てくる。特に、粉体と液体の混合物が、活物質などの機能性材料(粉体)と分散媒(液体)の混合物である二次電池の電極材料(電極スラリー)などの場合、機能性材料と水分が反応することで、機能性材料の変質や分解が生じ、混合後の電極スラリーの性能が劣化するだけでなく、有害ガスの発生が懸念される。
このため、混合後の混合物の性能維持及び向上、さらには混合作業時における安全性確保のためには、粉体と大気中の水分との反応を抑制することが必要となる。
【0008】
粉体と大気中の水分との反応を抑制するには、ドライルーム(又はグローブボックス)のような低湿度環境下で作業することが考えられる。しかし、特許文献1に記載されるような混合装置全体を低湿度環境下に配置すると、作業空間を確保するためにドライルームのサイズや個数などが増大し、イニシャルコスト及びランニングコストが増加するという問題がある。また、ドライルームのサイズが増大すると、ドライルーム内の環境を全て同一条件に維持することが困難になるという問題も生じる。
このため、装置全体をドライルームなどの低湿度環境下に配置することよりも簡便な手段を用い、粉体と大気中の水分との反応をより確実に抑制することが求められている。
【0009】
本発明の課題は、粉体と液体の混合において、混合前の粉体と大気中の水分との反応を抑制するために、粉体の保管時及び移送時において、粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することができる分散装置及び粉体供給部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、粉体と液体を混合する撹拌混合部に対し、粉体を供給する粉体供給部を設け、この粉体供給部にドライガスを供給するとともに、粉体供給部を密閉可能とすることで、粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断できることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の分散装置及び粉体供給部材である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の分散装置は、粉体と液体を混合する撹拌混合部と、撹拌混合部に粉体を供給する粉体供給部と、粉体供給部にドライガスを供給するドライガス発生部と、を備え、粉体供給部は、密閉可能であることを特徴とするものである。
本発明の分散装置によれば、粉体供給部を密閉可能とし、かつドライガスを供給することで、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することが可能となる。これにより、粉体の保管時や移送時において、装置全体を覆うようなドライルームを設けることなく、粉体が大気中の水分の影響を受けることを抑制し、混合後の混合物の性能維持及び向上、さらには混合作業時における安全性の確保を低コストで行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明の分散装置の一実施態様としては、撹拌混合部は、内部が負圧状態であるという特徴を有する。
この特徴によれば、撹拌混合部の内部が負圧状態であることにより、粉体供給部から撹拌混合部に粉体を供給する際、粉体は速やかに撹拌混合部側へ移動する。これにより、粉体の移送時において、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触をより確実に遮断することが可能となる。
【0013】
また、本発明の分散装置の一実施態様としては、粉体供給部は、内部が陽圧であるという特徴を有する。
この特徴によれば、粉体供給部の内部に外気が流入することを抑制することができる。これにより、粉体の保管時において、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触をより確実に遮断することが可能となる。
【0014】
また、本発明の分散装置の一実施態様としては、粉体供給部の内部の圧力を計測する圧力計と、圧力計により計測された圧力値に基づいて、ドライガス発生部からのドライガスの供給量を調整する制御部とを備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、粉体供給部内を、粉体と大気中の水分との接触を遮断することに適した環境下とすることが容易となるとともに、この環境を維持することも容易となる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の粉体供給部材は、粉体と液体を混合する撹拌混合部に粉体を供給する粉体供給部材であって、粉体を保持する粉体保持部と、ドライガスを導入するためのドライガス導入部と、粉体を排出するための粉体排出部と、を備え、粉体保持部は、密閉可能であることを特徴とするものである。
この粉体供給部材によれば、粉体供給部を密閉可能とし、かつドライガスを供給することで、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することが可能となる。これにより、粉体の保管時や移送時において、装置全体を覆うようなドライルームを設けることなく、粉体が大気中の水分の影響を受けることを抑制することが可能となる。さらに、この粉体供給部材を、粉体と液体の混合を行う既設の分散装置に適用することで、混合後の混合物の性能維持及び向上、さらには混合作業時における安全性の確保を低コストで行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粉体と液体の混合において、混合前の粉体と大気中の水分との反応を抑制するために、粉体の保管時及び移送時において、粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することができる分散装置及び粉体供給部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施態様の分散装置の構造を示す概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様の分散装置における粉体供給工程を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様の分散装置における粉体供給工程を示す別の概略説明図である。
図4】本発明の第2の実施態様の分散装置の構造を示す概略説明図である。
図5】本発明の第3の実施態様の分散装置の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る分散装置及び粉体供給部材を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する分散装置及び粉体供給部材については、本発明に係る分散装置及び粉体供給部材を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明における分散装置は、粉体と液体の混合を行う装置であればよく、混合に係る処理内容としては、液体中への粉体の溶解、あるいは液体中への粉体の分散のいずれであってもよい。したがって、本発明における分散装置により得られる混合物は、液体あるいはスラリーの形態となるものである。
また、本発明の分散装置は、粉体と液体の混合を利用する分野において広く適用することが可能である。このような分野の一例としては、例えば、食品製造や化粧品製造のほか、工業製品の材料調製が挙げられる。特に、水分の影響を受けやすい粉体(機能性材料)を取り扱うことが多い工業製品の材料調製に好適に用いることができる。
【0020】
本発明における粉体としては、大気中の水分の影響を受け、状態変化や化学変化が生じるものが挙げられる。例えば、吸湿性や潮解性の高い粉体や、水分による凝集や分解が生じやすい粉体などが挙げられる。
特に、本発明における粉体としては、二次電池の電極材料として知られている活物質(正極活物質及び負極活物質)や固体電解質、バインダーなどを用いることが挙げられる。電極材料として用いられる粉体は、大気中の水分と反応することがある。このとき、粉体の成分が分解するなどの化学反応が生じ、この粉体と液体を混合して得られた混合物が本来想定した機能・性質を損なうおそれや、有害ガスを発生するおそれがあることが知られている。したがって、粉体として電極材料として用いられる物質を用い、液体との混合を行う際に、本発明の分散装置及び粉体供給部材を適用することで、粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することによる効果を最大限に得ることが可能となる。
【0021】
本発明における液体としては、上述した粉体と混合し、混合物を形成するものであればよく、特に限定されない。例えば、液体としては、水のほか、非水系溶媒(無機・有機)などが挙げられる。液体の種類は、混合物として求められる機能や性質に応じ、粉体との組み合わせを鑑みて適宜選択することが可能である。
【0022】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様における分散装置の構造を示す概略説明図である。
分散装置1Aは、図1に示すように、撹拌混合部2と、粉体供給部3と、ドライガス発生部4とを備えている。なお、図1に示した分散装置1Aは、本実施態様における分散装置1Aの一例を示すものであり、図1に示す構成に限定されるものではない。
【0023】
本実施態様の分散装置1Aは、図1に示すように、粉体Pと液体Lとの混合を行う撹拌混合部2に対し、粉体Pを貯留した粉体供給部3から粉体Pを供給し、混合物Mを得るものである。このとき、粉体供給部3には、ドライガス発生部4が接続されており、粉体供給部3内にはドライガスが供給されるものである。なお、分散装置1Aで得られた混合物Mは、次工程の実施箇所やユースポイントに直接移送されるものであってもよく、保管タンク等に保管されるものであってもよい。
【0024】
(撹拌混合部)
撹拌混合部2は、粉体Pと液体Lの混合処理を行い、混合物Mを調製するためのものである。なお、本実施態様における撹拌混合部2は、粉体P及び液体Lを混合して、混合物Mを得るという処理を行う箇所を指しており、処理内容としては、液体Lに対する粉体Pの溶解や分散を包含しているものである。
【0025】
撹拌混合部2としては、例えば、撹拌機構を備えた空間内で撹拌混合を行うことができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。撹拌混合部2の構造の一例としては、例えば、図1に示すように、混合室20と、撹拌機構21と、液体Lを貯留する貯留タンク22と、液体Lを混合室20に供給する液体供給配管23と、混合室20における撹拌混合により得られる混合物Mを混合室20の外に排出する排出配管24とを備えるものが挙げられる。
【0026】
混合室20は、粉体Pと液体Lの撹拌混合を行う空間を形成するものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。混合室20は、1つの空間からなるものであってもよく、複数の空間を有するように区画されているものであってもよい。
【0027】
撹拌機構21は、混合室20内に供給された粉体Pと液体Lの撹拌混合を行うためのものであり、混合室20内に備えられるものである。
撹拌機構21の一例としては、一軸の撹拌翼、ブレード等の構造体を用い、撹拌混合を行う構成を備えるもの、超音波による分散を行う構成を備えるもの、プラネタリーミキサー、二軸混練機等を用い、剪断力による分散を行う構成を備えるもの、キャビテーションと剪断力によって分散を行う構成を備えるものなどを用いることが挙げられる。なお、粉体の過度な粉砕が生じにくいという観点から、キャビテーションと剪断力によって分散を行う構成を備えるものを用いることがより好ましい。キャビテーションと剪断力によって分散を行う構成としては、例えば、日本スピンドル製造株式会社製ジェットペースタ(登録商標)等、既に市販されている公知の構成などが挙げられる。
【0028】
また、撹拌混合部2としては、撹拌混合部2の内部が負圧となるものを用いることが好ましい。これにより、後述する粉体供給部3から供給される粉体Pは速やかに撹拌混合部2内に導入されるため、粉体Pと大気中の水分との接触をより確実に遮断することが可能となる。
撹拌混合部2の内部が負圧となるものとしては、例えば、混合室20内を減圧することができる構成を備えるものが挙げられる。このような構成の一例としては、混合室20内に直接減圧機構を設けることや、混合室20に液体Lを循環供給することで、混合室20内の負圧状態を形成することなどが挙げられる。なお、上述した撹拌機構21のうち、キャビテーションと剪断力によって分散を行うものは、キャビテーションを発生するための構成として混合室20内を負圧化することが含まれるため、本実施態様における撹拌混合部2として好適に用いることができる。
【0029】
貯留タンク22は、混合室20内に供給する液体Lを貯留するものである。貯留タンク22は、液体Lを貯留することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
【0030】
また、液体供給配管23は、貯留タンク22と混合室20とを接続し、液体Lを供給することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
なお、液体供給配管23は、混合室20と貯留タンク22との間で液体Lが循環可能となるように接続するものとしてもよい。これにより、撹拌機構21による撹拌混合の効率を向上させることが可能となる。特に、撹拌機構21としてキャビテーションを発生する構成を用いる場合、液体Lを循環可能とすることが好ましい。これにより、混合室20内の負圧状態を形成し、キャビテーションを発生させることが可能となる。
さらに、液体供給配管23を液体Lが循環可能となるように接続する場合、撹拌混合部2における粉体Pと液体Lの混合処理開始後は、混合物Mごと循環させるものとしてもよい。これにより、混合物Mの調製において作業効率の向上及び混合物Mの品質向上が可能となるという効果を得ることができる。
【0031】
混合室20で調製された混合物Mは、排出配管24を介して系外に排出される。図1に示すように、排出配管24は独立して設けられるものとするほか、液体供給配管23が循環可能に接続されている場合、液体供給配管23の一部を分岐させるものとすることなどが挙げられる。なお、系外に排出された混合物Mは、次工程の実施箇所やユースポイントに直接移送されるものであってもよく、混合物Mを保管する保管タンク等に保管されるものであってもよい。
【0032】
(粉体供給部(粉体供給部材))
粉体供給部3は、粉体Pを貯留し、粉体Pを撹拌混合部2に対して投入するものである。
【0033】
粉体供給部3の構造については、粉体Pを貯留するとともに密閉可能な構成を有し、ドライガス発生部4から供給されるドライガスGの導入が可能な構造であればよく、具体的な構造については特に限定されない。なお、本実施態様における密閉可能な構成とは、粉体供給部3内に対し、外気の流入を制限することができるものを指している。
【0034】
粉体供給部3の一例としては、例えば、図1に示すように、粉体Pを保持する粉体保持部30と、粉体Pを投入する粉体投入部31aと、粉体Pを排出する粉体排出部31bと、排出された粉体Pを撹拌混合部2に供給する粉体供給配管32と、を備えるものが挙げられる。また、粉体投入部31a側には、ドライガス発生部4から供給されるドライガスGを粉体保持部30内に導入するためのドライガス導入部33を設けている。そして、粉体供給配管32上には、シャッター34を設けており、シャッター34の開閉により、撹拌混合部2への粉体Pの供給を制御するものである。
【0035】
粉体保持部30は、粉体Pを貯留することができる形状、材質からなるものであればよく、特に限定されない。粉体保持部30の形状としては、例えば、円筒状や直方体状のほか、粉体投入部31aから粉体排出部31bに向かって断面積が小さくなるように側面が傾斜した形状のものなどが挙げられる。また、粉体保持部30の材質としては、外気の流入が制限できるとともに、粉体Pを貯留するための強度を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、鋼鉄などの金属のほか、プラスチックや布などの非金属を基材とした機能性シートなどを用いることが挙げられる。
【0036】
粉体保持部30の粉体投入部31a及び粉体排出部31bには、粉体保持部30を密閉可能とする構成を設けるものとする。このような構成としては、例えば、図1に示すように、粉体投入部31a及び粉体排出部31bにそれぞれ蓋部35a、35bを設け、蓋部35a、35bには封止手段36を設けることが挙げられる。封止手段36の一例としては、パッキンを用いたものや、ボルトやクランプなどによる固定を行うものなどが挙げられる。
また、粉体保持部30を密閉する他の構成としては、例えば、粉体保持部30自体を変形可能な材質で作製し、粉体保持部30の粉体投入部31a及び粉体排出部31b自体を閉口し、係止手段によって密閉するもの等が挙げられる。
【0037】
粉体供給部3の粉体保持部30内に、粉体Pを導入する手段としては、特に限定されない。例えば、粉体保持部30の粉体投入部31a側と粉体Pを保管する容器とを接続する配管を設け、連続的に導入することや、開放した粉体投入部31aへ粉体Pをバッチ式で直接導入することが挙げられる。
【0038】
本実施態様においては、後述するように、粉体保持部30に導入された粉体Pは、ドライガス発生部4からドライガスGが供給されることで、撹拌混合部2への供給前及び供給時において大気中の水分との接触が遮断されるものである。したがって、粉体Pを粉体保持部30内に導入する際に、特別な操作を必須とするものではない。
なお、粉体Pを粉体保持部30に導入する際にもドライガスGを供給するものとしてもよい。このとき、粉体保持部30をドライガスGによって陽圧状態として密閉することが好ましい。これにより、粉体保持部30内で粉体Pを保管(保持)している間についても、粉体保持部30の水分量を減少させるとともに外気の流入を抑制し、大気中の水分による粉体Pへの影響をより一層低減させることができる。
また、特に、粉体Pが大気中の水分からの影響を特に受けやすいものである場合、ドライルームやグローブボックス内で粉体Pを粉体保持部30に導入した後、密閉したものを撹拌混合部2やドライガス発生部4と接続するものとしてもよい。これにより、粉体Pと大気中の水分との接触をより確実に遮断することが可能となる。
【0039】
ドライガス導入部33は、ドライガス発生部4からのドライガスGを粉体保持部30内に導入することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、粉体保持部30と導通し、ドライガス発生部4のガス供給配管41を接続可能なジョイント構造を有する配管からなるものなどが挙げられる。また、ドライガス導入部33は、ガス供給配管41から脱着した際、封止可能な構造を設けることが好ましい。これにより、粉体保持部30内に外気が流入することを抑制することが可能となる。このような封止可能な構造としては、粉体投入部31aや粉体排出部31bと同様に蓋部と封止手段を設けるものとすることや、ドライガス導入部33に逆止弁を設けることなどが挙げられる。
【0040】
なお、粉体供給部3には、種々の付帯機構を設けるものとしてもよい。このような付帯機構としては、図1に示すように、粉体保持部30に安全弁37を設けることが挙げられる。後述するように、粉体保持部30内にはドライガス発生部4によるドライガスGが供給される。したがって、安全弁37を設けることで、粉体保持部30内が過圧状態となることを防ぐことが好ましい。また、付帯機構の他の例としては、例えば、粉体保持部30内の粉体Pの撹拌を行うための撹拌機構や、撹拌混合部2に対して粉体Pを定量供給するための定量供給機構などが挙げられる。
【0041】
(ドライガス発生部)
ドライガス発生部4は、ドライガスGを粉体供給部3に供給するためのものである。
ドライガス発生部4の構造については、上述した粉体供給部3にドライガスGの供給が可能な構造であればよく、具体的な構造については特に限定されない。なお、本実施態様におけるドライガスGとは、水分量の少ない気体であって、粉体Pとの反応が生じない気体を指すものであり、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスやネオンガスのような不活性ガスのほか、炭酸ガス、ドライエアーなどが挙げられる。また、ドライガスGとしては、大気圧下における露点温度が-40度以下のものを用いることが好ましく、露点温度-70度以下のものを用いることがより好ましい。これにより、粉体Pと大気中の水分との接触をより確実に遮断することが可能となる。
【0042】
ドライガス発生部4の一例としては、図1に示すように、ドライガス源40と、ドライガスGを粉体供給部3における粉体保持部30に供給するガス供給配管41を備えるものが挙げられる。また、ガス供給配管41は、ドライガス源40とドライガス導入口33を接続し、ドライガスGの供給量を制御するためのガス流量調節機構42を備えている。
【0043】
ドライガス源40は、ドライガスGの生成あるいは貯留が可能なものであれば特に限定されない。ドライガス源40としては、例えば、不活性ガスや炭酸ガスの高圧ガス容器を用いることや、水分を除去した空気を生成可能なドライエアー発生装置を用いることが挙げられる。なお、ドライエアー発生装置の具体的な構成は特に限定されず、公知のものを用いることが挙げられる。
【0044】
ガス供給配管41上に設けられるガス流量調節機構42は、ドライガスGの供給量を制御することができるものであればよく、例えば、流量弁やバルブのほか、ポンプなどの加圧手段が挙げられる。なお、ドライガス源40として高圧ガス容器を用いる場合、ガス流量調節機構42として、ポンプのような加圧手段を設ける必要はない。
【0045】
本実施態様の分散装置1Aにおける粉体供給工程について、図2及び図3に基づき説明する。
図2及び図3は、本実施態様の分散装置1Aにおける粉体供給工程を示す概略説明図である。図2及び図3における分散装置の構成は、図1に示した構成と同じである。なお、撹拌混合部2としては、液体Lの循環により負圧状態を生じさせる撹拌機構21を備えるものを例示している。また、図2及び図3中の矢印は、粉体P、液体L又はドライガスGの移動方向を示すものである。
【0046】
図2に示すように、あらかじめ粉体Pを貯留した粉体保持部30を備える粉体供給部3を、撹拌混合部2及びドライガス発生部4と接続し、シャッター34を閉じた状態で、撹拌混合部2を駆動して液体Lを循環させる。これにより、撹拌混合部2内の混合室20では負圧状態が生じることになる。
次いで、図3に示すように、シャッター34を開放すると、粉体供給部3内の粉体Pは粉体供給配管32を介して撹拌混合部2の混合室20に速やかに導入される。これにより、混合室20では粉体Pと液体Lの撹拌混合が行われ、混合物Mが調製される。
また、このとき、ドライガス発生部4のガス供給配管41上のガス流量調節機構42を制御し、粉体供給部3の粉体保持部30内にドライガスGを供給する。これにより、粉体供給部3内での粉体Pと大気中の水分との接触を遮断するとともに、粉体供給配管32を介し、粉体PはドライガスGごと撹拌混合部2の混合室20に供給されることになる。さらに、ガス流量調節機構42の制御により、ドライガスGを加圧状態で供給し、粉体保持部30内を陽圧にすることが好ましい。これにより、粉体Pの移送をさらに速やかに進行させることが可能となり、粉体Pと大気中の水分との接触をより確実に遮断することができるとともに、分散装置1全体としての駆動時間の短縮につながるという効果を奏する。
【0047】
以上の工程に基づき、粉体供給部3から粉体Pを撹拌混合部2に供給することで、粉体Pの保管時及び移送時において、大気中の水分との接触を容易に遮断することが可能となる。また、上記工程に基づき、粉体Pを撹拌混合部2に供給することで、負圧状態となっている撹拌混合部2においても、粉体Pの供給時に大気が撹拌混合部2に流入することがなく、液体L以外の水分を遮断した状態で混合物Mの調製を進行させることが可能となる。
【0048】
本実施態様における粉体供給部3に係る構成は、本発明に係る粉体供給部材として独立したものとすることができる。この粉体供給部材は、撹拌混合部を備える既設の分散装置に適用することができる。特に、粉体として大気中の水分と反応するものを取り扱う場合、既設の分散装置に対して、本発明における粉体供給部材(粉体供給部3)を適用し、ドライガスの導入を行うことにより、大掛かりな設備更新を伴うことなく、既設の分散装置の機能向上を図ることができる。
【0049】
以上のように、本実施態様の分散装置1Aにより、粉体供給部を密閉可能とし、かつドライガスを供給することで、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断することが可能となる。これにより、粉体の保管時や移送時において、装置全体を覆うようなドライルームを設けることなく、粉体が大気中の水分の影響を受けることを抑制し、混合後の混合物の性能維持及び向上、さらには混合作業時における安全性の確保を低コストで行うことが可能となる。
また、本実施態様の粉体供給部材により、既設の分散装置においても、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触を容易に遮断させることが可能となる。これにより、既設の分散装置において、大気中の水分による影響を受ける粉体を取り扱うための設備更新に係るコストを大幅に低減させることが可能となる。
【0050】
〔第2の実施態様〕
図4は、本発明の第2の実施態様の分散装置の構成を示す概略である。
第2の実施態様の分散装置1Bは、図4に示すように、第1の実施態様の分散装置1Aで示した粉体供給部3における粉体保持部30に、圧力計5を設けるとともに、圧力計5の値に基づき、ガス流量調節機構42を制御する制御部6を設けるものである。なお、図4中の一点破線は、入力又は制御可能に接続されていることを示している。また、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0051】
本実施態様の分散装置1Bは、粉体保持部30内の圧力を圧力計5により計測し、その計測した値に基づき、制御部6によってドライガスGの供給量を調節し、粉体保持部30内の圧力を調整するものである。これにより、粉体保持部30内が、粉体Pと大気中の水分との接触を遮断するのに適した圧力値から外れた状態を検知することが可能となる。また、制御部6により粉体保持部30内が適切な圧力値となるように圧力を調整することが可能となる。このため、粉体Pの適切な取り扱いについて迅速な判断及び対応が可能となる。また、圧力計5及び制御部6をデータ入力及び制御が可能となるように接続することで、粉体Pの保管や移送に係る管理を自動化することが可能となる。
【0052】
圧力計5は、粉体保持部30内の圧力を計測することができるものであればよく、特に限定されない。圧力計5の測定結果は、測定データとして制御部6に直接入力を可能とするものであってもよく、作業者が記録した測定結果を制御部6に手入力するものであってもよい。なお、粉体Pの取り扱いに係る作業を自動化するためには、圧力計5の測定結果は、データとして制御部6に対して直接入力可能とすることが好ましい。
【0053】
制御部6は、圧力計5の測定結果に基づき、ガス流量調節機構42を制御することができるものであればよく、具体的な構成については特に限定されない。制御部6としては、例えば、圧力計5の測定結果を入力する入力手段、入力された圧力計5の値が適切な範囲内にあるかどうかの判断を行う判断手段、及び、判断手段による判断結果に応じてガス流量調節機構42を制御し、ドライガスGの供給量を調整する調整手段を備えるものなどが挙げられる。なお、調整手段によるガス流量調節機構42の制御の一例としては、バルブの開度を決定して操作することや、ポンプの駆動力を調整すること等が挙げられる。
【0054】
以上のように、本実施態様の分散装置1Bは、粉体保持部内の圧力を計測する圧力計と、その値に応じてドライガスの供給量を調整する制御部を設けることで、粉体の適切な取り扱いについて迅速な対応が可能となる。また、粉体の保管や移送に係る管理自体を容易とするという効果も奏する。
【0055】
〔第3の実施態様〕
図5は、本発明の第3の実施態様の分散装置の構成を示す概略である。
第3の実施態様の分散装置1Cは、図5に示すように、第1の実施態様の分散装置1Aで示した粉体保持部30に設けたドライガス導入部33に代えて、粉体保持部30の粉体供給配管32とドライガス発生部4のガス供給配管41とを接続した粉体-ガス混合部38を設けるものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0056】
本実施態様の分散装置1Cは、粉体保持部30内で粉体PとドライガスGを接触させるのではなく、粉体-ガス混合部38を設け、粉体供給配管32から撹拌混合部2に粉体Pを供給する際に、粉体PとドライガスGが混合されるものである。このとき、粉体保持部30内は常圧の状態とし、粉体供給配管32内では粉体Pが大気中の水分の影響を受けることを抑制するとともに、ドライガスGによる粉体Pの移送を推進させるようにすることができる。ここで、第1の実施態様に示したように、粉体保持部30にドライガス導入部33を設けてドライガスGを供給した場合、粉体保持部30内が陽圧になることにより、粉体Pの移送効率が向上するが、粉体Pの移送に係る推進力が強過ぎると、撹拌混合部2への粉体供給量が多くなり過ぎるという状況が起こり得る。このとき、安定した撹拌混合処理が困難になってしまうという懸念がある。一方、本実施態様の分散装置1Cにおいては、粉体-ガス混合部38を設けることにより、粉体Pの移送における推進力が過大となることを抑制し、適切に制御することが容易となる。
【0057】
粉体-ガス混合部38は、粉体保持部30内から供給される粉体Pとガス供給配管41から供給されるドライガスGを混合することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
粉体-ガス混合部38としては、例えば、図5に示すように、粉体排出部31bの下方に粉体排出管39を設け、粉体排出管39を粉体供給配管32の内側に配置するとともに、粉体供給配管32とガス供給配管41とを接続することが挙げられる。このとき、粉体供給配管32内が二重構造となり、粉体Pが内側の配管(粉体排出管39)から排出され、その外側の配管(粉体供給配管32)からドライガスGが供給されて、粉体Pと混合される。また、図5に示すように、ガス供給配管41から供給されるドライガスGの気流が粉体Pの排出方向と平行となるように粉体排出管39とガス供給配管41を配置することが好ましい。これにより、粉体PとドライガスGの混合効率を高めるとともに、粉体Pの安定した移送を行うことが可能となる。
【0058】
本実施態様の分散装置1Cにおいては、粉体供給部3に粉体Pを導入する手段としては、ドライルームやグローブボックス内で粉体Pを粉体保持部30に導入した後、密閉したものを撹拌混合部2やドライガス発生部4と接続するものとすることが挙げられる。これにより、粉体保持部30内で粉体Pを保管(保持)している間についても、粉体保持部30に直接ドライガスGを供給することなく、外気の流入を抑制し、大気中の水分による粉体Pへの影響を低減させることができる。
また、本実施態様の分散装置1Cとしては、粉体保持部30に粉体Pを導入する際、粉体保持部30にドライガスGを供給する手段を設けるものとしてもよい。このとき、粉体保持部30内は略常圧となるようにドライガスGを供給することが好ましい。これにより、粉体保持部30内で粉体Pを保管(保持)している間において、大気中の水分による粉体Pへの影響を抑制するとともに、粉体供給時において粉体Pの移送に係る過大な推進力の発生を抑制することが可能となる。
【0059】
以上のように、本実施態様の分散装置1Cにより、粉体供給部における粉体の保持空間(粉体保持部)内ではなく、粉体を移送する配管(粉体供給配管)上にドライガスを供給する粉体-ガス混合部を設けることで、液体と混合する前の粉体と大気中の水分との接触を遮断することが可能となるとともに、粉体の移送に係る推進力を適切に制御することが容易となる。これにより、混合後の混合物の性能維持及び向上、さらには混合作業時における粉体供給量に係る制御を適切に行うことが容易となる。
【0060】
なお、上述した実施態様は、分散装置及び粉体供給部材の一例を示すものである。本発明に係る分散装置及び粉体供給部材は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る分散装置及び粉体供給部材を変形してもよい。
【0061】
例えば、本実施態様の分散装置において、ガス流量調節機構を制御する制御部を安全弁と制御可能に接続するものとしてもよい。これにより、粉体保持部内の圧力が過圧状態になった場合、より速やかに粉体保持部内の圧力を適切な範囲とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の分散装置及び粉体供給部材は、粉体と液体の混合を行う各種技術分野、例えば、食品製造、化粧品製造、工業製品の材料調製などにおいて利用することができる。特に、大気中の水分から影響を受ける粉体を取り扱う必要がある場合において、粉体と大気中の水分の接触を遮断して混合を行うことができる技術として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1A,1B,1C…分散装置、2…撹拌混合部、20…混合室、21…撹拌機構、22…貯留タンク、23…液体供給配管、24…排出配管、3…粉体供給部、30…粉体保持部、31a…粉体投入部、31b…粉体排出部、32…粉体供給配管、33…ドライガス導入部、34…シャッター、35a,35b…蓋部、36…封止手段、37…安全弁、38…粉体-ガス混合部、39…粉体排出管、4…ドライガス発生部、40…ドライガス源、41…ガス供給配管、42…ガス流量調節機構、5…圧力計、6…制御部、G…ドライガス、L…液体、M…混合物、P…粉体
図1
図2
図3
図4
図5