(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】血管収縮抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240708BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240708BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240708BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240708BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/28
A61P9/00
A61Q19/00
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2020025146
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紗弥香
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025736(JP,A)
【文献】特表2013-542715(JP,A)
【文献】J. Appl. Physiol.,2001年,Vol. 91,pp. 2407-2411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローマカミツレエキスを有効成分とし、血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇を抑制するための、血管収縮抑制剤。
【請求項2】
皮膚外用剤であることを特徴とする、請求項1に記載の血管収縮抑制剤。
【請求項3】
前記ローマカミツレエキスの含有量が、乾燥質量を基準として、0.00001~0.15質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の血管収縮抑制剤。
【請求項4】
化粧水、乳液及びクリームから選ばれる形態からなる、請求項1~3の何れかに記載の血管収縮抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管収縮抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の収縮は、生体の恒常性を保つために重要であり、神経系や内分泌系、免疫系が複雑に絡み合いながら機能している。血管の収縮は、末梢血管を収縮させる作用を持つ交感神経の伝達物質であるノルアドレナリンや、物理的あるいは化学的刺激匂い時手血管内皮細胞から分泌される血管収縮因子EDCF(endothelium-derived contracting factor)によって誘導される。
これらの因子によって、細胞内カルシウムイオン貯蔵部位からのカルシウムイオン放出、及び細胞外からのカルシウムイオン流入が誘導されることで、血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇する。その結果、血管平滑筋の収縮が生じ、血管全体が収縮する。
【0003】
血管収縮の促進因子であるエンドセリンは、血管収縮機構のシグナル経路に作用するペプチドであり、細胞内のカルシウムイオン濃度上昇を誘導する(非特許文献1及び2)。エンドセリンは、体の様々な場所で生理機能の維持の役割を担う一方で、病気の進展にも関与することが知られている。
そのため、エンドセリンの作用を抑制する成分の探索が行われており、様々なエンドセリン抑制剤が開示されている(特許文献1及び2)。
【0004】
ところで、薬用植物の一つであるローマカミツレの抽出物には、種々の生理作用があることが知られ、例えば、アルカリホスファターゼ抑制による腋消臭作用(非特許文献3)、鎮静作用及び抗アレルギー作用等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-302633号公報
【文献】特開2019-055917号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hirata Y.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,154(1988),pp.868-875
【文献】Yanagisawa M.et al.,Nature,Vol.332,31 March 1988,No.6163,pp.411-415
【文献】2006年6月1日付クラシエホールディングス株式会社(旧カネボウ株式会社)ニュースリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血管収縮機構のシグナル経路に作用する、新規の血管収縮抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究開発を行った結果、ローマカミツレエキスに、エンドセリンによる刺激に対する、血管平滑筋細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇を抑制する作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、ローマカミツレを有効成分とする、血管収縮抑制剤である。
本発明の血管収縮抑制剤は、血管平滑筋の収縮を抑制することで、血管収縮によって生じる、症状を予防又は改善する作用を有する。
【0010】
本発明の好ましい形態では、血管収縮抑制剤が皮膚外用剤である。
皮膚外用剤の形態とすることにより、塗布する部位を選択することで、血管収縮抑制効果を発揮する部位を任意に選択することができる。
【0011】
本願発明の好ましい形態では、前記ローマカミツレエキスの含有量が、乾燥質量を基準として、0.00001~0.15質量%である。
【0012】
本願発明の好ましい形態では、本願発明は、化粧水、乳液又はクリームの形態である。
本形態とすることで、容易に継続使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血管収縮抑制剤は、血管収縮機構に関わるシグナル経路に作用し、血管の収縮を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1における、ローマカミツレエキスを添加した場合の血管平滑筋細胞の撮影画像から算出された平均輝度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1>ローマカミツレエキスについて
本発明の血管収縮抑制剤は、ローマカミツレエキスを有効成分として含有することを特徴とする。
本発明で用いるローマカミツレエキスは、キク科(Asteraceae)、カマエメルム属(Chamaemelum)に属するローマカミツレ(Chamaemelum nobile)から抽出したエキスである。
本発明に配合するローマカミツレエキスの抽出部位は、特に限定されず、全草、葉、茎、花、実、根から選択される1種又は2種以上の部位を用いることができ、特に花を用いることが好ましい。
【0016】
抽出に際して、ローマカミツレ又はその乾燥物は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出は、常圧、若しくは加圧、減圧下で、室温、冷却又は加熱した状態で抽出溶媒に浸漬させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法並びにローマカミツレを圧搾して抽出物を得る圧搾法などが例示され、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行うこともできる。
【0017】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノール、イソプロピルアルコール及びブタノール等のアルコール類、1,3-ブタンジオール及びポリプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類から選択される1種又は2種以上が好適に例示でき、中でも1,3-ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0018】
浸漬させて抽出する場合、浸漬後は不溶物を濾過により除去した後、溶媒を減圧濃縮等により除去することができるが、凍結乾燥による除去が特に好ましい。溶媒を除去した粉末組成物は、このまま粉末の状態で使用しても良いが、しかる後に、水と酢酸エーテル、水とブタノール等の液液抽出や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィー等で分画精製しても良い。
【0019】
本発明の血管収縮抑制剤全量における、ローマカミツレエキスの含有量は、乾燥質量を基準として、好ましくは0.00001~0.15質量%であり、より好ましくは0.0001~0.1質量%であり、さらに好ましくは0.0005~0.05質量%である。
【0020】
本願発明の血管収縮抑制剤は、肌のくすみ、乾燥、シワ、シミ、及び肌荒れ等の血管の収縮に起因する肌の不調、片頭痛及び緊張型頭痛等の自律神経系の乱れに起因する頭痛、並びに高血圧症、肺高血圧症、心筋梗塞、動脈硬化、及び血管炎等の血管収縮に起因する疾患の予防、及び改善に用いることができ、特に皮膚外用剤としては、肌のくすみ、乾燥、シワ、シミ、及び肌荒れの改善に用いることができる。
【0021】
本願発明の血管収縮抑制剤は、肌の各症状に用いる場合には、皮膚外用剤であることが好ましい。
皮膚外用剤としては、化粧料、医薬部外品、医薬品などが好適に例示でき、日常的に使用できることから、化粧料、医用部外品がより好ましい。
本願発明の化粧料としては、ローション剤、乳化剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤等の形態に加工することができる。具体的には、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パック、ヘアクリーム、スプレー等が挙げられ、特に化粧水、乳液及びクリームが好適に例示できる。
また、本発明の血管収縮抑制剤は、皮膚外用剤として用いる場合、ローマカミツレエキス以外に、通常の皮膚外用剤で使用される任意成分を本発明の効果を損なわない限りにおいて任意に含有することができる。この様な任意成分として、各種有効成分、油性成分、界面活性剤、多価アルコール、増粘剤、粉体類及び紫外線吸収剤等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に、試験例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0023】
<試験例1>ローマカミツレエキスによる、血管平滑筋細胞におけるカルシウムイオン量の抑制
正常ヒト大動脈平滑筋細胞(HAMSC)を、Humedia-SG2培地(倉敷紡績株式会社製)で、37℃で6日間培養した。培養したHAMSCを、96ウェルガラスプレートに播種した後、24時間培養した。
培養後、乾燥質量換算で0.005%の濃度に希釈したローマカミツレエキスを、100μL/well添加し、さらに24時間培養した。培養後、培地を取り除き、DMSOに溶解した5μmol/Lカルシウム指示薬(Fluo-8、AATバイオクエスト社製)を、HBBS培地で1/1000希釈して、100μL/well添加し、37℃で40分間培養した。
培地を除いてHBBS培地で洗浄し、新たにHBBS培地を100μL/well添加し、37℃で15分間培養した。これに1nMのエンドセリン-1を添加して、カルシウムイオンの流入による細胞内カルシウムイオン濃度の変化を2分間測定した。細胞内カルシウムイオン濃度は、蛍光光度分析法により定量し、エンドセリン-1添加前と添加後の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇率(差)を評価した。
【0024】
図1に示す通り、エンドセリン-1を添加したサンプルは、エンドセリン-1が未添加であるサンプルと比してカルシウムイオン流入量が約1.8倍となった。一方、エンドセリン-1と共にローマカミツレエキスを加えたサンプルは、カルシウムイオンの流入が有意に抑制され、エンドセリン-1が未添加であるサンプルよりもカルシウムイオン流入量が減少した。
以上の結果から、ローマカミツレエキスは、エンドセリン-1刺激による血管平滑筋細胞のカルシウムイオン流入を抑制することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、血管収縮抑制作用を有する化粧料、医薬品等に応用できる。