(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/028 20160101AFI20240708BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20240708BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240708BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240708BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240708BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
H02P29/028
H02P25/22
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2020029572
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】大島 忠介
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-106874(JP,A)
【文献】特開2015-161184(JP,A)
【文献】特開2017-146897(JP,A)
【文献】特開2017-175730(JP,A)
【文献】特開2018-153070(JP,A)
【文献】特開2005-210242(JP,A)
【文献】特許第2943991(JP,B2)
【文献】特開2010-012585(JP,A)
【文献】特開2020-078107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
H02P 25/22
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御系統からなり該制御系統ごとに設けた中央制御部によって電動モータを駆動するモータ制御装置であって、
前記複数の制御系統の第1の制御系統と第2の制御系統の前記中央制御部間における制御信号の通信を可能にする第1の通信手段と、
前記中央制御部間における異常監視信号の送受信を可能にする第2の通信手段と、
前記中央制御部と通信可能に構成されたCAN(Controller Area Network)通信部と、
前記制御信号と前記異常監視信号の通信状態に基づいて前記中央制御部間における通信故障の有無を判定する故障判定手段と、を備え、
前記故障判定手段は、前記第1の通信手段の停止、および前記CAN通信部のCAN通信の停止の有無に基づいて、前記中央制御部の動作クロック異常による故障が生じている制御系統を特定し、
前記故障判定手段により前記通信故障が判定された場合、前記第1の制御系統と前記第2の制御系統のうち正常動作している制御系統によって前記電動モータの駆動制御を継続するモータ制御装置。
【請求項2】
前記通信故障には、少なくとも前記中央制御部の故障、前記第1の通信手段と前記第2の通信手段を構成する通信用集積回路素子の故障、前記第1の通信手段の断線あるいは固着故障、前記第2の通信手段の断線あるいは固着故障、前記中央制御部の動作クロック異常による故障が含まれる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記故障判定手段は、前記中央制御部間において前記第1の通信手段による通信が停止し前記第2の通信手段による通信が正常の場合、前記中央制御部の動作クロック異常による故障、または前記第1の通信手段の断線あるいは固着故障と判定する請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記故障判定手段は、前記中央制御部間において前記第1の通信手段および前記第2の通信手段による通信が停止した場合、前記中央制御部の故障と判定する請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記故障判定手段は、前記中央制御部間において前記第1の通信手段による通信が正常で前記第2の通信手段による通信が停止した場合、前記第2の通信手段の断線あるいは固着故障と判定する請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記故障判定手段は、前記第1の通信手段による通信が停止した場合、あるいは前記第2の通信手段による通信が停止した場合、前記第1の制御系統に前記電動モータの駆動制御を委ねる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記通信故障が判定された場合、前記第1の制御系統と前記第2の制御系統のいずれか一方に前記電動モータの駆動制御を委ねる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記第1の制御系統側の前記CAN通信が停止した場合には該第1の制御系統による前記電動モータの駆動制御を停止し、前記第2の制御系統側の前記CAN通信が停止した場合には該第2の制御系統による前記電動モータの駆動制御を停止する請求項
1~5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記故障判定手段は、前記CAN通信が停止した制御系統とは別の制御系統側のCAN通信を使用して前記故障が生じている制御系統を特定する請求項
1~5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記第1の制御系統の中央制御部と前記第2の制御系統の中央制御部は起動時において個別に立ち上がり、これらの中央制御部が相互に通信ができるタイミングで待ち合せを行う請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記第1の通信手段は非同期通信によって前記制御信号を通信する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記第1の通信手段と前記第2の通信手段はそれぞれが2線の信号線からなる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記第1の通信手段と前記第2の通信手段は、前記信号線ごと、または前記通信手段ごとに電気的な絶縁を施すアイソレーション(Isolation)手段を有する請求項
12に記載のモータ制御装置。
【請求項14】
前記異常監視信号はウォッチドッグパルス信号である請求項1~
13のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
複数の制御系統ごとに設けた中央制御部を有し、車両の運転者のハンドル操作をアシストする電動パワーステアリング制御装置であって、
前記運転者の操舵を補助する電動モータと、
請求項1~
14のいずれか1項に記載のモータ制御装置により前記電動モータを駆動制御する手段と、を備える電動パワーステアリング制御装置。
【請求項16】
請求項
15に記載の電動パワーステアリング制御装置を備える電動パワーステアリングシステム。
【請求項17】
複数の制御系統からなり該制御系統ごとに設けた中央制御部と該制御系統ごとに設けた中央制御部によって電動モータを駆動するモータ制御装置における故障部位の特定方法であって、
前記中央制御部間において制御信号の通信を可能にする第1の通信手段による通信が停止し、前記中央制御部間における異常監視信号の送受信を可能にする第2の通信手段による通信が正常の場合、前記中央制御部の動作クロック異常による故障、または前記第1の通信手段の断線あるいは固着故障と判定する工程と、
前記中央制御部間において前記第1の通信手段および前記第2の通信手段による通信が停止した場合、前記中央制御部の故障と判定する工程と、
前記中央制御部間において前記第1の通信手段による通信が正常で前記第2の通信手段による通信が停止した場合、前記第2の通信手段の断線あるいは固着故障と判定する工程と、
前記第1の通信手段の停止およびCAN通信部のCAN通信の停止の有無に基づいて、前記中央制御部の動作クロック異常による故障が生じている制御系統を特定する工程と、
を備えるモータ制御装置における故障部位の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数系統のモータ制御回路からなる冗長構成を有する、例えば、電動パワーステアリング用のモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転化の進展に伴い、電子制御ユニット(Electronic Control Unit:ECU)の部品が故障しても自動運転の継続が求められ、例えば自動運転中の操舵装置(電動パワーステアリング装置)に関して、故障が発生しても操舵が継続できることが求められる。
【0003】
電動パワーステアリング装置は、電子制御ユニット(ECU)としてモータ制御装置によって構成されるが、安全上の要求等から故障検出が重要になる。そのため、例えば特許文献1の電子制御装置では、主マイクロコンピュータで周期的に実行されるタスクの実行周期の監視結果に基づく異常情報を、クロック監視用信号線、演算監視用信号線を介して、監視回路に設けた、主マイクロコンピュータのクロック異常を監視するクロック監視回路と、主マイクロコンピュータの演算回路の異常を監視する演算監視回路とに通信している。
【0004】
さらに電動パワーステアリング装置において、モータに設けた2組のコイル巻線を独立して駆動する2組のインバータ回路を備え、インバータ回路以外の制御回路を二重系にすることで、一方の系統の異常時(故障時)においても、正常に動作している他方の系統によってモータ制御を継続するという冗長構成が従来より知られている。
【0005】
例えば特許文献2は、2系統分の各電子部品を系統毎に独立して設け、2つの系統がすべて独立した2組の要素群から構成された完全二系統の冗長構成をとるとともに、複数のマイコン間での信号通信を可能にしたモータ制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5477654号公報
【文献】特開2019-4682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の電子制御装置では、メインマイコンの異常が検出されたとき、リセット信号を出力してメインマイコンを再起動させるか、あるいは、モータの駆動回路に対して、プリドライバの駆動許可信号をオフにしてプリドライバ駆動を停止している。そのため、故障時において操舵アシストを継続できないという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載のモータ制御装置は、マイコン間通信が異常の場合、自マイコンによるアシストを即時停止している。すなわち、マイコン間通信あるいは通信手段の異常時、停止判定部によって自マイコンの動作が停止されようとしていることが判定されたとき、自マイコンによるモータ駆動が停止される。よって、装置が冗長構成であっても、マイコン間通信の異常時には、一方の系統による縮退したアシスト継続が行われないというアシスト失陥が生じる。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数系統からなる冗長構成をとるモータ制御装置において制御部間の信号通信故障が生じた場合であってもモータ制御の継続を可能にするモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本願の例示的な第1の発明は、複数の制御系統からなり該制御系統ごとに設けた中央制御部によって電動モータを駆動するモータ制御装置であって、前記複数の制御系統の第1の制御系統と第2の制御系統の前記中央制御部間における制御信号の通信を可能にする第1の通信手段と、前記中央制御部間における異常監視信号の送受信を可能にする第2の通信手段と、前記中央制御部と通信可能に構成されたCAN(Controller Area Network)通信部と、前記制御信号と前記異常監視信号の通信状態に基づいて前記中央制御部間における通信故障の有無を判定する故障判定手段とを備え、前記故障判定手段は、前記第1の通信手段の停止、および前記CAN通信部のCAN通信の停止の有無に基づいて、前記中央制御部の動作クロック異常による故障が生じている制御系統を特定し、前記故障判定手段により前記通信故障が判定された場合、前記第1の制御系統と前記第2の制御系統のうち正常動作している制御系統によって前記電動モータの駆動制御を継続することを特徴とする。
【0011】
本願の例示的な第2の発明は、複数の制御系統ごとに設けた中央制御部を有し、車両の運転者のハンドル操作をアシストする電動パワーステアリング制御装置であって、前記運転者の操舵を補助する電動モータと、上記例示的な第1の発明に係るモータ制御装置により前記電動モータを駆動制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本願の例示的な第3の発明は、電動パワーステアリングシステムであって、上記例示的な第2の発明に係る電動パワーステアリング用モータ制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冗長構成のモータ制御装置で制御部間において信号通信故障が生じた場合、低コストで故障部位を特定し、特定した故障部位に応じたモータ制御を継続できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、電動パワーステアリング用のモータ制御ユニットを搭載した電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るモータ制御ユニットとしての電動パワーステアリング制御装置(EPS)の構成図である。
【
図3】
図3は、CPU間における相互の通信構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、モータ制御ユニットにおける制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、通信ICの異常として、TXDラインの故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【
図6】
図6は、通信ICの異常として、RXDラインの故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【
図7】
図7は、CPU-1の故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【
図8】
図8は、CPU-2の故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【
図9】
図9は、クロック異常(1)における故障対応処理を示すシーケンス図である。
【
図10】
図10は、クロック異常(2)における故障対応処理を示すシーケンス図である。
【
図11】
図11は、クロック異常(3)における故障対応処理を示すシーケンス図である。
【
図12】
図12は、第2系統のトルクセンサが故障した場合のモータ制御ユニットによる操舵アシスト制御を示す図である。
【
図13】
図13は、第1系統のトルクセンサが故障した場合のモータ制御ユニットによる操舵アシスト制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るモータ制御ユニットとしての電動パワーステアリング制御装置(EPS)を搭載した電動パワーステアリングシステムの概略構成である。
図1に示すように電動パワーステアリングシステム10は、モータ制御ユニットを構成する2つの制御系統に対応するモータ制御装置1a,1b、操舵部材であるステアリングハンドル2、ステアリングハンドル2に接続された回転軸3、ピニオンギア6、ラック軸7等を備える。
【0016】
回転軸3は、その先端に設けられたピニオンギア6に噛み合っている。ピニオンギア6により、回転軸3の回転運動がラック軸7の直線運動に変換され、ラック軸7の変位量に応じた角度に、そのラック軸7の両端に設けられた一対の車輪5a,5bが操舵される。
【0017】
回転軸3には、ステアリングハンドル2が操作された際の操舵トルクを検出するトルクセンサ9a,9bが設けられており、検出された操舵トルクはモータ制御ユニット1へ送られる。モータ制御ユニット1は、トルクセンサ9a,9bより取得した操舵トルク、車速センサ(不図示)からの車速等の信号に基づくモータ駆動信号を生成し、その信号を電動パワーステアリング用の電動モータ15に出力する。
【0018】
モータ駆動信号が入力された電動モータ15からは、ステアリングハンドル2の操舵を補助するための補助トルクが出力され、その補助トルクが減速ギア4を介して回転軸3に伝達される。その結果、電動モータ15で発生したトルクによって回転軸3の回転がアシストされることで、運転者のハンドル操作を補助する。
【0019】
次に、本実施形態に係るモータ制御ユニットについて説明する。
図2は、本実施形態に係るモータ制御ユニットとしての電動パワーステアリング制御装置(EPS)の構成図である。
図2に示すようにモータ制御ユニット1は、同一の構成要素(回路部品)を備えた2つの制御系統(モータ制御装置1a,1b)からなる冗長構成を有する。
【0020】
なお、冗長構成は2系統に限定されず、3系統、4系統といった多系統からなる冗長構成への展開も可能である。
【0021】
モータ制御装置1a,1bは互いに独立した第1系統および第2系統で構成され、それぞれが制御部(CPU)12a,12bを有する。モータ制御装置1a,1bは、2組の3相巻線(Ua,Va,Wa)15aと3相巻線(Ub,Vb,Wb)15bを同軸に設けた構成を有する電動モータ15と、これら2組の3相巻線それぞれに駆動電流を供給する2組のインバータ回路14a,14bとからなるダブルインバータ構成となっている。電動モータ15は、例えば3相ブラシレスDCモータである。
【0022】
電動モータ15には、3相巻線15a,15bそれぞれに対応させて、モータの回転子(ロータ)の回転位置を検出する回転センサ(角度センサ)11a,11bが搭載されている。回転センサ11a,11bからの出力信号は、それぞれ回転情報としてCPU12a,12bへ送信される。
【0023】
モータ制御装置1a,1bは、それぞれがセンサ類からのセンサ出力、駆動・制御信号等をもとに独立して電動モータ15を駆動する。ここでは、モータ制御装置1aと3相巻線15aを含む構成部分を第1系統、モータ制御装置1bと3相巻線15bを含む構成部分を第2系統とする。
【0024】
第1系統を構成するモータ制御装置1aは、その装置全体の制御を司る、例えばマイクロプロセッサからなる制御部(CPU)12a、CPU12aからの制御信号よりモータ駆動信号を生成し、FET駆動回路として機能するインバータ制御部13a、電動モータ15の3相巻線(Ua,Va,Wa)15aに駆動電流を供給するモータ駆動部であるインバータ回路14aを備える。
【0025】
第2系統を構成するモータ制御装置1bは、モータ制御装置1aと同様、その装置全体の制御を司る制御部(CPU)12b、CPU12bからの制御信号よりモータ駆動信号を生成し、FET駆動回路として機能するインバータ制御部13b、電動モータ15の3相巻線(Ub,Vb,Wb)15bに所定の駆動電流を供給するインバータ回路14bを備える。
【0026】
制御部(CPU)12a,12bは、それぞれクロック発振部16a,16bより出力された所定周波数の動作クロックに基づいて制御動作、演算動作等を実行する。なお、制御部(CPU)12a,12b内でクロック周波数を逓倍する構成としてもよい。
【0027】
モータ制御装置1a,1bのCPU12a,12bは、アイソレーションIC30(詳細は後述する)を介して、リアルタイムの相互通信が可能に構成されている。また、モータ制御装置1a,1bは、車両の各種情報を授受する車載ネットワーク(CAN)に接続されたCAN信号線(CAN通信バス)27H,27Lを介して、他の制御ユニット(ECU)との間でCANプロトコルによるデータ通信を行う。
【0028】
CAN信号線27H,27Lは、第1系統を構成するCAN-Hライン27Ha,CAN-Lライン27Laと、第2系統を構成するCAN-Hライン27Hb,CAN-Lライン27Lbからなる各々2線式の通信線である。
【0029】
インバータ回路14aには、供給電源に含まれるノイズ等を吸収して電源電圧を平滑する不図示のフィルタと電源リレーとを介して外部バッテリBTよりモータ駆動用の電源が供給される。同様にインバータ回路14bには、不図示のフィルタと電源リレーを介して、外部バッテリBTよりモータ駆動用の電源が供給される。
【0030】
インバータ回路14aは、電動モータ15の3相巻線(Ua,Va,Wa)15a各々に対応した半導体スイッチング素子(FET)からなるFETブリッジ回路である。また、インバータ回路14bは、電動モータ15の3相巻線(Ub,Vb,Wb)15b各々に対応した半導体スイッチング素子(FET)からなるFETブリッジ回路である。
【0031】
なお、これらのスイッチング素子(FET)はパワー素子とも呼ばれ、例えば、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子を用いる。
【0032】
イグニッションスイッチ(IG-SW)31は、その一端がバッテリBTに接続され、他端は電源部20a,20bそれぞれの電源管理部21a,21bに接続されている。IG-SW31の他端は、さらにIG電圧検出部24a,24bに接続されている。
【0033】
電源管理部21a,21bは、イグニッションスイッチ(IG-SW)31がONの場合、電源部20a,20bを起動する。電源部20a,20bは、バッテリBTより供給されたバッテリ電圧+Bを、所定の電圧(例えば、ロジックレベルの電圧+5V)に変換し、それを制御部(CPU)12a,12b、BT電圧監視部29a,29b、インバータ制御部13a,13b等の制御回路の動作電源として供給する。
【0034】
IG電圧検出部24a,24bは、イグニッション(IG)電圧値をAD変換し、変換後のデジタル電圧値を、第1系統と第2系統それぞれにおけるIG電圧の実電圧値として、CPU12a,12bに入力する。なお、IG電圧検出部24a,24bは、それぞれCPU12a,12b内に配置してもよい。
【0035】
バッテリ(BT)電圧監視部29a,29bは、バッテリBTのバッテリ電圧(+B)を入力してAD変換し、変換後のデジタル電圧値をバッテリ(BT)電圧値としてCPU12a,12bに入力する。また、バッテリ(BT)電圧監視部29は、バッテリ電圧値が規定電圧値以上か否か(制御回路等を動作可能にする電圧値を満たすかどうか)を判定する。
【0036】
図3は、CPU12a,12b間における相互の通信構成を示すブロック図である。
図3に示すようにCPU12a,12b間には、制御情報等を非同期でシリアル通信するための一対の通信ライン(TXD,RXDライン)と、WDP(ウォッチドッグパルス)信号をやり取りするための一対の通信ライン(WDP1,WDP2ライン)が設けられている。相互通信に要する信号線数を最小にして、安価な構成を実現できる。
【0037】
TXD,RXDラインを介した通信方式は、UART(Universal Asynchronous Receiver-Transceiver:汎用非同期送受信回路)であり、CPU12a,12b間におけるリアルタイムの相互通信が可能に構成されている。クロック同期方式に比べて、UARTにより信号線数の少ない構成とすることができる。
【0038】
図3に示すように、CPU12a,12b間を電気的に絶縁するアイソレーションIC30(
図1参照)は、TXD,RXDラインを電気的に絶縁するアイソレーションIC30aと、WDP1,WDP2ラインを電気的に絶縁するアイソレーションIC30bによって構成される。
【0039】
アイソレ-ションIC30a,30bは、上記の通信経路(TXD,RXDライン、WDP1,WDP2ライン)の入力側と出力側の電気的絶縁を保ったまま、高周波数信号を伝送可能な半導体回路素子である。アイソレ-ションIC30a,30bによって、相手系統への故障の伝播を防止できる。
【0040】
なお、
図3に示す例では、例えば共通原因故障を防ぐため、一対の通信ライン(TXD,RXDライン)と、一対の通信ライン(WDP1,WDP2ライン)それぞれに対応させて、チャンネル数が2のアイソレーションICを計2個、配置しているが、これに限定されない。例えば、チャンネル数が1のアイソレーションIC4個それぞれを、個別の通信ラインに配置してもよい。信号線ごとにアイソレーションICを配置することで、より複雑な故障判定(ダブルフェール等)が可能になる。
【0041】
次に、本実施形態に係るモータ制御ユニットの動作について説明する。
図4は、モータ制御ユニット1における制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0042】
電源部20a,20bが+5Vを生成してCPU12a,12bに電源が供給されると、
図4のステップS11において、OS起動処理を行う。すなわち、あらかじめ記憶部(不図示)に格納されたオペレーティングシステム(Operating System:OS)が起動され、モータ制御ユニット1の各系統の制御部(CPU)12a,12bによって、IG電圧検出部24a,24bによる電圧検出結果に基づいて、自系統のイグニッションスイッチの状態(IG状態)がIG-ONとなったことの確認、制御プログラム等が格納された記憶部(不図示)内のチェックサムの確認、CPU12a,12bの診断機能BIST(Built-In Self-Test)による自己診断、CPUが有する機能の初期化、不図示の外部ウォッチドッグ(WD)のリセット動作の確認等を行う。
【0043】
OS起動後のステップS12において、CPU12a,12b間でウォッチドッグ信号の送受信を行う。続くステップS13において、CPU12a,12b各々がCPU間通信を開始する。
【0044】
ステップS15において、各系統で初期診断シーケンスが開始される。そして、ステップS16において、初期診断Aとして、例えば、不図示の電流検出部によるインバータ回路の短絡故障の有無を診断する。
【0045】
各系統のCPUは、ステップS17において、相手系統の状態を判断する。相手系統が所定のフェールオペレーション状態に移行していると判断した場合、ステップS35において自系統の初期診断を停止する。
【0046】
相手系統がフェールオペレーション状態にない場合、各系統のCPUは、ステップS18において、相手系統のCPUとCPU間通信診断を開始する。ここでは、初期診断がある程度進んだところからCPU間通信診断を始めるため、上記初期診断Aの実行後であって、CPU間通信診断開始後のステップS19において、初期診断B(例えば、電動モータへの過電流の有無の判定)を行う。
【0047】
本実施形態に係るモータ制御ユニットでは、例えばクランキングによる電圧低下で他系統のみがリセットして、CPU間通信を成立できていない場合を考慮して、ステップS20において、少なくとも他系統がOSの再起動に必要なワースト時間の待合せを開始する。そして、続くステップS21において、各系統のCPUは、相手系統のCPUとCPU間通信が成立したか否かを判断する。
【0048】
CPU間通信は、例えば、UARTタイムアウト、UARTチェックサム異常、UARTアライブカウンタ異常等がなければ正常と判断する。ただし、例えばクランキングにより他系統がリセットし、UARTもWDも送信できていない場合を配慮して、UARTタイムアウトとWD異常が同時に発生したときには異常と見做さないようにしてもよい。
【0049】
系統間でのCPU間通信が成立しない場合(ステップS21でNO)、CPU12a,12bは、ステップS22において、UARTとWDの双方が未受信状態にあるか否かを判断する。UARTとWDのいずれかを受信した場合、ステップS23において、後述する故障モードの判定(故障診断)を行う。続くステップS25において、ステップS23で判定した故障モードに応じたフェールオペレーション(1)を実行する。フェールオペレーション(1)の詳細については後述する。
【0050】
一方、ステップS22において、UARTとWDの双方とも未受信と判断された場合、ステップS27において、オペレーティングシステム(OS)が起動されてから積み上げた時間の経過の有無を判定する。OSの起動に必要なワースト時間(例えば、200ms)が経過している場合には、上述した初期診断シーケンスに不具合があり、両系統による通信診断が不能(相手系統が故障)と判断して、ステップS29のフェールオペレーション(2)に移行し、自系統での制御を行う。
【0051】
積み上げのワースト時間が経過していない場合には(ステップS27でNO)、相手系統とのCPU間通信が成立している否かの判断処理(ステップS21)に戻る。
【0052】
ステップS21において、CPU間通信が成立していると判断された場合、ステップS28において、初期診断Cとして、例えば所定のセンサ類についてのオフセット診断を行う。そして、ステップS31において初期診断シーケンスを終了し、ステップS33において、通常の制御(操舵アシスト制御)を開始する。
【0053】
上記のように各系統が独自に立ち上がることでハンドシェイクのための予備通信線が不要となり、モータ制御ユニットを安価な構成にすることができる。
【0054】
また、ワースト時間を考慮して、初期診断シーケンスの途中においてCPU間通信診断を開始することで、CPU間通信の故障の有無を早期に把握できる。さらに、各系統が独自に起動した後、積み上げ時間の経過を考慮した制御を行うので、両系統が確実に通信ができているタイミングで待合せを行うことができる。
【0055】
次に、本実施形態に係るモータ制御ユニットにおけるCPU間通信の故障に対応した制御動作(故障対応処理)について説明する。なお、以下の説明では、CPU12a,12bをそれぞれCPU-1,CPU-2とし、インバータ制御部13aとインバータ回路14aをINV-1、インバータ制御部13bとインバータ回路14bをINV-2という。
【0056】
<通信IC異常の場合の故障対応処理>
図4に示すステップS23の故障診断、ステップS33における通常のアシスト制御の開始時およびその後のアシスト制御中、ステップS25,S29におけるフェールオペレーションおよびその後のフェールオペレーション中それぞれにおけるCPU間通信診断において、故障モードとして通信IC(アイソレ-ションIC30)の異常と判定された場合の故障対応処理について説明する。ここでの故障モードには、アイソレ-ションIC30の回路素子としての動作異常の他、TXDライン、RXDラインの断線あるいは固着故障が含まれる。
【0057】
図5は、通信ICの異常として、TXDラインの故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。また、
図6は、RXDラインの故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【0058】
図5に示すように、CPU間の通信経路であるTXDラインが故障し、他の通信経路であるRXDライン、WDP1,WDP2ラインが正常の場合、CPU-2は、ステップS41において、CPU-1からの情報が途絶えていることからCPU-1との通信異常を検知する。そして、ステップS43においてCPU-2は、通信異常を検知した旨をCPU-1へ通知し、ステップS45において、INV-2の動作を停止する。
【0059】
CPU-1は、CPU-2から上記の通信異常通知を受けて(ステップS43)、ステップS47において、上述したフェールオペレーション(1)として、INV-1によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。これは、2系統のうちの1系統によってモータ駆動を継続するアシスト制御である。
【0060】
一方、
図6に示すように、CPU間の通信経路であるRXDラインが故障し、他の通信経路であるTXDライン、WDP1,WDP2ラインが正常の場合、CPU-1は、ステップS51において、CPU-2からの情報が途絶えていることからCPU-2との通信異常を検知する。そして、CPU-1は、ステップS53において、通信異常を検知した旨をCPU-2へ通知する。
【0061】
CPU-2は、CPU-1との通信に異常があるとして、ステップS55においてINV-2の動作を停止する。これに対してCPU-1は、ステップS57において、上述したフェールオペレーション(1)として、INV-1によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。この場合も、2系統のうちの1系統によってモータ駆動を継続するフェールオペレーションが実行される。
【0062】
<CPU異常の場合の故障対応処理>
CPU間通信の故障モードとして、CPU自身の動作異常が判定された場合の故障対応処理について説明する。
【0063】
図7は、CPU-1の故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。また、
図8は、CPU-2の故障によりCPU間通信に異常が発生した場合の故障対応処理シーケンスの一例である。
【0064】
CPU-1の故障により、例えば、
図7に示すようにTXDラインからの信号出力が停止し、WDP1ラインからの信号出力も停止した場合、正常に動作しているCPU-2より、RXDライン、WDP2ラインによって通常の信号が伝送される。
【0065】
この場合、CPU-2は、相手CPU(CPU-1)からの制御情報が途絶え、CPU-1が動作しているか否かを示すウォッチドッグパルスWDP1がCPU-1から出力されないことから、ステップS61において、CPU-1の動作異常が発生したことを検知する。
【0066】
よって、CPU-1が故障した場合、CPU-2は、ステップS63において、上述したフェールオペレーション(1)として、INV-2によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。
【0067】
なお、CPU-1は、ステップS65において自身の異常を検知し、ステップS67において、INV-1の動作を停止する。
【0068】
CPU-2が故障した場合には、
図8に示すようにRXDラインからの信号出力が停止し、WDP2ラインからの信号出力も停止する。この場合、CPU-1は正常に動作しているので、TXDライン、WDP1ラインにより通常の信号が伝送される。
【0069】
CPU-1は、相手CPU(CPU-2)からの制御情報が途絶え、CPU-2が動作しているか否かを示すウォッチドッグパルスWDP2がCPU-2から出力されないことから、ステップS71において、CPU-2の動作異常の発生を検知する。
【0070】
よって、CPU-2が故障した場合には、CPU-1は、ステップS73において、上述したフェールオペレーション(1)として、INV-1によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。
【0071】
一方、CPU-2は、ステップS75において自身の異常を検知し、ステップS77においてINV-2の動作を停止する。
【0072】
なお、CPUの故障については、CPUの内部の設けたウォッチドックタイマ(WDT)あるいは外部ウォッチドッグタイマによって検出されたリセット動作異常あるいは出力演算部の動作異常、制御プログラム等に対するチェックサムの確認結果によるメモリ異常、CPUの診断機能BISTによって検出された異常、CPUのクロックモニタ機能で検出されたクロック異常等の検出結果を、正常動作しているCPUにCAN通信によって通知するようにしてもよい。
【0073】
<CPUクロック異常の場合の故障対応処理>
CPU間通信の故障モードとして、外部よりCPUに供給されるクロック信号の異常(CPUの動作クロックの異常)が判定された場合の故障対応処理について説明する。ここでは、
図2に示すモータ制御装置1aの車載ネットワーク(CAN)をCAN-1とし、モータ制御装置1bの車載ネットワーク(CAN)をCAN-2とする。また、クロック発振部16a,16bをそれぞれCLK-1,2とする。
【0074】
図9~
図11は、CPU-1に対してCLK-1より供給されるクロック信号に発生した異常(例えば、クロック周期のずれ)の程度に応じた故障対応処理を示す。
【0075】
<クロック異常(1)>
図9は、クロック異常(1)における故障対応処理を示すシーケンス図である。
図9は、CPU-1,2間におけるTXD,RXDライン、WDP1,WDP2ラインを介した通信は正常であるが、CAN-1とCPU-1間のCAN信号が停止してCAN-1の動作停止が検知され(ステップS81)、CAN-2が正常な場合の故障対応処理シーケンスである。
【0076】
上記のようにCPU間通信が正常であっても、高精度な動作クロックが要求されるCAN-1の動作が停止していることから、CPU-1は、ステップS83において、クロック発振部16a(CLK-1)から出力されてCAN-1等へ供給されるクロック信号に、クロック故障として例えば2%のずれが生じていると判断する。
【0077】
上記の場合、CPU-1がCAN-1の異常を検知しても、CLK-1とは独立したCLK-2の供給を受けるCAN-2は、CLK-1のクロック異常の影響を受けない。そのため、CAN-2は正常に動作するので、CPU-1は、RXDラインを介してCPU-2よりCAN情報を受信する(ステップS87)。
【0078】
上記のCAN情報によってCPU-1は、クロック異常(1)、すなわちクロック信号に例えば2%のずれがあっても、ステップS85において、INV-1によって通常の制御(100%のアシスト制御)を実行する。
【0079】
一方、CAN-2が正常であることから、CPU-2によって、ステップS88において、INV-2によって通常の制御(100%のアシスト制御)が実行される。
【0080】
<クロック異常(2)>
図10は、クロック異常(2)における故障対応処理を示すシーケンス図である。すなわち、
図10の故障対応処理シーケンスは、CPU-1,2間におけるTXD,RXDラインを介した通信が止まり、WDP1,WDP2ラインを介した通信が正常であっても、CAN-1とCPU-1間のCAN信号が停止してCAN-1の動作停止が検知され(ステップS91)、CAN-2が正常な場合に対応する。
【0081】
この場合、
図10において点線で示すように、TXD,RXDラインを介した通信が止まり、CAN-1の動作が停止していることから、CPU-1は、
図10のステップS92において、CLK-1から出力されるクロック信号に、クロック故障として例えば5%のずれが生じていると判断する。
【0082】
そして、CPU-1は、ステップS93において、CPU-2に送信しているWDP1を意図的に停止する。その後、CPU-1は、ステップS95において、INV-1の動作を停止する。
【0083】
一方、CPU-2は、上記のようにCPU-1からのWDP1が停止したことにより、ステップS97において、CPU間の通信異常とWDP1の異常を検知する。そこで、CPU-2は、ステップS99において、INV-2によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。
【0084】
<クロック異常(3)>
図11は、クロック異常(3)における故障対応処理を示すシーケンス図である。クロック異常(3)の場合、
図11において点線で示すように、TXD,RXDライン、およびWDP1ラインを介した通信が止まり、CAN-1とCPU-1間のCAN信号も止まってCAN-1の動作が停止する。
【0085】
一方、CLK-1とは独立したCLK-2の供給を受けるCAN-2は、CLK-1のクロック異常の影響を受けないため、CAN-2は正常に動作し、WDP2も正常である。
【0086】
上記の場合、CPU-1は、
図11のステップS101において、CLK-1から出力されるクロック信号に、クロック故障として例えば20%のずれが生じていると判断する。そして、CPU-1は、ステップS103においてINV-1の動作を停止する。
【0087】
なお、上記のようにクロックが20%ずれた場合、CPUのクロックモニタ機能でクロック異常を検知してリセットし、それによりCPU間通信とWDP信号の通信が停止するが、故障系統は、その通信停止前に自己の異常を検知している。
【0088】
一方、CPU-2は、CPU-1からの送信情報(TXD)が途絶え、ウォッチドッグパルスWDP1も出力されないことから、ステップS105において、CPU-1の異常を検知する。そこで、CPU-2は、ステップS107において、INV-2によって正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御を行う。
【0089】
CPU-2に対してCLK-2より供給されるクロック信号に例えば2%、5%、あるいは20%のずれが発生した場合の故障対応処理は、上述したCPU-1におけるクロック異常に対する故障対応処理と同様である。すなわち、クロック異常によりCAN-2の動作が止まり、CPU-1はINV-1によって正常時の50%のモータ出力を維持するアシスト制御を行う。
【0090】
よって、CLK-2より供給されるクロック信号に異常がある場合の故障対応処理については、それらの図示と説明を省略する。
【0091】
上述したCPU間通信の故障に対応した各故障対応処理において、正常時の50%のモータ出力を維持する操舵アシスト制御では、例えば、全系統が正常で100%の操舵アシストを行うときのモータの出力特性(特性曲線の傾き)と同一の傾きの特性を50%で制限した(リミットをかけた)出力特性でモータ制御を行う。
【0092】
こうすることで、故障対応時において最大50%までは通常時(正常時)のモータ出力でアシスト制御が可能となり、アシスト時に出力特性の傾きを変えることによる応答性の変化を回避できる。
【0093】
本実施形態に係るモータ制御ユニットにおいて、CPU間通信と直結しない、その他のセンサ類、例えばトルクセンサが故障した場合には、そのトルクセンサの属する系統を止めて他系統によるアシスト制御を行う、あるいは、他系統のトルクセンサで検知した情報に基づいて100%の操舵アシストを継続する。
【0094】
図12は、第2系統のトルクセンサが故障した場合のモータ制御ユニットによる操舵アシスト制御を示す図である。
図12(a)に示すようにトルクセンサに故障がない場合、第1系統のモータ制御装置1aにおいて、CPU12aによって指示トルクTq1をもとに演算された目標トルクTt1が、CPU間通信によって第2系統のモータ制御装置1bのCPU12bへ送信される。第2系統のモータ制御装置1bにおいても、CPU12bが、入力された指示トルクTq2より目標トルクTt2を演算する。
【0095】
この場合、第1系統のCPU12aは、目標トルクTt1を使用して電動モータ15を駆動制御し、第2系統のCPU12bは、CPU間通信によって第1系統から送信された目標トルクTt1と、CPU12bが演算して得た目標トルクTt2のいずれかを選択部で選択して、電動モータ15を駆動制御するアシスト制御を行う。
【0096】
一方、
図12(b)に示すように、第2系統のトルクセンサが故障した場合には、第1系統のモータ制御装置1aにおいてCPU12aは、入力された指示トルク(操舵トルク)Tqより演算した目標トルクTtを、CPU間通信によって第2系統のモータ制御装置1bのCPU12bへ送信する。
【0097】
これにより、第1系統は、自系統で算出した目標トルクTtに基づくトルク制御情報により電動モータ15を駆動制御し、第2系統は、第1系統で算出された目標トルクTtをそのままトルク制御情報として使用して、電動モータ15を駆動制御するアシスト制御を行う。
【0098】
図13は、第1系統のトルクセンサが故障した場合のモータ制御ユニットによる操舵アシスト制御を示す図である。
図13(a)は、
図12(a)と同様、トルクセンサに故障がない場合のモータ制御ユニットによる操舵アシスト制御を示す。
【0099】
図13(b)に示すように、第1系統のトルクセンサが故障した場合、第1系統のモータ制御装置1aにおいてCPU12aによる目標トルクの演算は行われない。よって、第2系統のモータ制御装置1bでは、CPU12bが、入力された指示トルクTq2より目標トルクTt2を演算する。その結果、第2系統のモータ制御装置1bによって、例えば、正常時の50%のモータ出力を維持するアシスト制御が行われる。
【0100】
以上説明したように本実施形態に係るモータ制御装置は、第1および第2の制御系統からなり、これら複数の制御系統ごとに設けた制御部(CPU)によって電動モータを駆動するモータ制御装置において、第1の通信手段を介した制御信号と第2の通信手段を介したウォッチドッグ信号それぞれの通信状態に基づいて、中央制御部間における通信故障が判定された場合、第1の制御系統と第2の制御系統のうち正常動作している制御系統によって電動モータのアシスト制御を継続する構成を有する。
【0101】
これにより、冗長構成をとるモータ制御装置において、複数の制御系統の制御部(CPU)間におけるCPU通信とウォッチドッグ信号(WDP)の送受信を併用して、CPU間通信が途絶えた場合でも相互に故障の監視が可能となる。
【0102】
そして、一方の制御系統が故障モードと判断されても、故障モード(故障箇所)に応じて、正常な他方の制御系統によって電動モータの駆動制御のアシストを継続して、確実にフェールオペレーション状態に移行できる。
【0103】
また、TXD,RXDラインおよびCAN通信部による通信停止の有無に基づいて、制御部(CPU)の動作クロック異常による故障が生じている制御系統を特定する構成とすることで、高精度な動作クロックが要求されるCAN通信をもとに、故障モード(故障箇所)の特定が容易になる。また、第1の通信手段による通信が停止した場合でも、CAN通信による故障特定が可能になる。
【0104】
例えば、電動パワーステアリング用モータ制御装置において、上述した冗長構成をとるモータ制御装置により電動モータを駆動制御する構成とすることで、一方の制御系統が故障しても、他方の制御系統によって電動モータを駆動制御して操舵アシストの継続が可能となる。
【0105】
また、例えば、上記の電動パワーステアリング用モータ制御装置を備えた電動パワーステアリングシステムにおいても、上記と同様、電動パワーステアリング制御装置の一つの制御系統に故障が発生しても、他方の制御系統によって操舵アシストを継続可能となる。
【0106】
本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。以下、変形例について説明する。
【0107】
<変形例1>
第1の通信手段(TXD,RXDライン)による通信が停止した場合、あるいは第2の通信手段(WDP1,WDP2ライン)による通信が停止した場合には、例えば、第1系統のモータ制御装置にアシスト制御を委ねるようにしてもよい。
【0108】
複数の制御系統のうち、いずれの制御系統が故障したことによる通信停止かの判定ができない場合、第1系統のモータ制御装置によるアシスト制御を行うことで、確実なフェールオペレーションを行える。また、複数の制御系統の一方を主系統、他方を従系統とした場合、故障時において主従何れかの制御系統によりアシスト制御(フェールオペレーション)を確実に行える。
【0109】
<変形例2>
車載ネットワーク(CAN)によるCAN通信が停止した制御系統とは別の制御系統側のCAN通信を使用して、故障が生じている制御系統を特定するようにしてもよい。これにより、動作が正常なCAN通信に持ち替えて故障モード(故障箇所)を特定することで、アシストを継続できる。
【符号の説明】
【0110】
1 モータ制御ユニット
1a,1b モータ制御装置
2 ステアリングハンドル
3 回転軸
4 減速ギア
6 ピニオンギア
7 ラック軸
9a,9b トルクセンサ
10 電動パワーステアリングシステム
11a,11b 角度センサ
12a,12b 制御部(CPU)
13a,13b インバータ制御部
14a,14b インバータ回路
15 電動モータ
15a,15b 3相巻線
16a,16b クロック発振部
19a,19b CANI/F
20a,20b 電源部
21a,21b 電源管理部
24a,24b IG電圧検出部
27H,27L CAN信号線
27Ha,27Hb CAN-Hライン
27La,27Lb CAN-Lライン
29a,29b バッテリ(BT)電圧監視部
30,30a,30b アイソレーションIC
31 イグニッションスイッチ(IG-SW)
BT バッテリ