(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】量子ビット集積装置
(51)【国際特許分類】
H10N 60/12 20230101AFI20240708BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20240708BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
H10N60/12 C
G06F7/38 510
G06F7/38 610
G06F7/38 630
H01F6/06 110
(21)【出願番号】P 2020054169
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(73)【特許権者】
【識別番号】502147465
【氏名又は名称】ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】丸山 政克
(72)【発明者】
【氏名】池田 英生
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山上 達也
(72)【発明者】
【氏名】小湊 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】川田 豊
(72)【発明者】
【氏名】西元 善郎
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/212041(WO,A1)
【文献】特開昭64-010605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0071019(US,A1)
【文献】国際公開第2019/205810(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/011451(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/00-69/00
G06F 7/38
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ビットとなり、単環状に形成された複数の超伝導の単環部材と、
閉ループ状に形成された超伝導の閉ループ状部材とを備え、
前記単環部材は、前記閉ループ状部材の閉ループ内に配置され、
前記閉ループ状部材は、複数巻きのソレノイドコイルであり、
前記複数の単環部材は、前記ソレノイドコイルに、仮に電流を流すことにより生じ得る磁束線と結合するように配置され、
前記ソレノイドコイルの巻数は、前記複数の単環部材における個数以上である、
量子ビット集積装置。
【請求項2】
前記ソレノイドコイルの両端部は、超伝導体の半田部材で溶着され、超伝導接続される、
請求項
1に記載の量子ビット集積装置。
【請求項3】
量子ビットとなり、単環状に形成された複数の超伝導の単環部材と、
閉ループ状に形成された超伝導の閉ループ状部材とを備え、
前記単環部材は、前記閉ループ状部材の閉ループ内に配置され、
前記閉ループ状部材は、ソレノイドメインコイルと、前記ソレノイドメインコイルとで閉回路を構成し、前記ソレノイドメインコイルと同心に配置され、前記ソレノイドメインコイルの漏れ磁界を減少させるシールドコイルとを備えるコイルシステムであり、
前記複数の単環部材は、前記ソレノイドメインコイルの中心軸上における長手方向の中央に位置する内部空間に配置され、
前記コイルシステムは、前記コイルシステムに仮に電流を流すことにより前記ソレノイドメインコイル内に生じ得る磁束線が全て前記ソレノイドメインコイルの一端から外側へ回って、前記ソレノイドメインコイル内に戻る磁束線循環型である、
量子ビット集積装置。
【請求項4】
前記シールドコイルは、前記ソレノイドメインコイルにおける長尺方向の両端それぞれに配置され、前記ソレノイドメインコイルに対し逆巻きである第1および第2サブコイルを備え、
前記ソレノイドメインコイルおよび前記シールドコイルは、前記第1サブコイル、前記ソレノイドメインコイル、前記第2サブコイルおよび前記第1サブコイルの順で直列に接続されることで閉回路を構成する、
請求項
3に記載の量子ビット集積装置。
【請求項5】
前記ソレノイドメインコイルの巻数は、前記複数の単環部材における個数以上である、
請求項
3または請求項
4に記載の量子ビット集積装置。
【請求項6】
前記ソレノイドメインコイルに仮に電流を流した際に、前記内部空間の中央位置に生じる磁束密度をBとし、前記内部空間の周縁部の磁束密度をB+△Bとし、前記複数の単環部材における個数をmとし、前記ソレノイド
メインコイルの巻数をNとする場合に、前記内部空間における、前記ソレノイド
メインコイルの実電流に対する磁場均一性を、△B/B≦1/(N(mN)
1/2)とする、
請求項
3ないし請求項
5のいずれか1項に記載の量子ビット集積装置。
【請求項7】
前記ソレノイドメインコイルは、直列に接続された複数の部分コイルを備え、
前記ソレノイドメインコイルの線材は、単芯線または複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線であり、
前記複数の部分コイルは、唯一1本の線材による連続の巻線によって形成される、
請求項
3ないし請求項
6のいずれか1項に記載の量子ビット集積装置。
【請求項8】
前記ソレノイドメインコイルのコイル線材は、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線であり、 前記単環部材の直径をdとし、前記ソレノイドメインコイルの直径をDとし、前記ソレノイドメインコイルの巻数をNとし、前記多芯線の芯線数をnとする場合に、n×N≧(D/d)
2である、
請求項
3ないし請求項
7のいずれか1項に記載の量子ビット集積装置。
【請求項9】
前記コイルシステムのコイル線材の両端を接続することによって閉ループを形成する場合の接続部分に、常伝導状態と超伝導状態とを切り替えるスイッチ部を備える、
請求項
3ないし請求項
8のいずれか1項に記載の量子ビット集積装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子もつれを持つ複数の量子ビットを備える量子ビット集積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子もつれ(エンタングルメント)は、例えば、量子コンピュータ、量子通信および量子暗号等に応用される。例えば、超伝導材の単環(シングルリング、シングルループ)を量子ビットとする量子コンピュータでは、各量子ビット間の各単環で量子もつれを生じさせるために、各単環の間で磁束線を共有させて結合する必要がある。このため、複数の単環をアレイ状に配置することによって多量子ビット化すると、アレイ状に配置された複数の単環において、互いに隣接ないしは近接する単環同士の磁束線は結合し易いが、一方端の単環と他方端の単環同士は、距離が遠く、磁束を共有させて結合することが難しいため、多量子ビット化(大規模化)が難しい。そこで、非特許文献1では、各量子ビット間を別途設けた多数の常伝導のLC共振回路で磁気結合させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Hiroto Mukai,Akiyoshi Tomonaga,Jaw-Shen Tsai,“Superconducting Quantum Annealing Architecture with LC Resonators”,Journal of the Physcal Society of Japn,vol.88 Number 6(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記非特許文献1に開示された手法では、常伝導のLC共振回路に生じる熱ノイズのために、量子もつれに誤りを生じる虞があることから、ミリケルビン(mK)以下の極低温環境に当該装置を置く必要があり、それでも完全に防止できないため、誤り訂正技術が必須となり、実用化の課題となっている。また、前記非特許文献1に開示された手法は、量子ビットの個数が多くなるに従ってLC共振回路が指数関数的に複雑化してしまう。このため、前記非特許文献1に開示された手法でも、やはり多量子ビット化(大規模化)が難しい。全ての超伝導単環の量子ビットの間を、ノイズフリーで量子結合させることができる磁気的結合の方法が求められていた。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、多量子ビット化を可能にする量子ビット集積装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる量子ビット集積装置は、量子ビットとなり、単環状に形成された複数の超伝導の単環部材と、閉ループ状に形成された超伝導の閉ループ状部材とを備え、前記単環部材は、前記閉ループ状部材の閉ループ内に配置される。
【0007】
このような量子ビット集積装置は、閉ループ状部材が超伝導の閉ループであるためにコヒーレント状態となり、複数の単環部材を、閉ループ状部材の閉ループ内に配置するので、複数の単環部材それぞれが閉ループ状部材とで磁束線を共有することで、閉ループを仲立ちにして単環部材同士も安定的に量子もつれを生じさせることができる。このため、上記量子ビット集積装置は、多量子ビット化を可能にする。
【0008】
そして、上述の量子ビット集積装置において、前記閉ループ状部材は、複数巻きのソレノイドコイルであり、前記複数の単環部材は、前記ソレノイドコイルに、仮に電流を流すことにより生じ得る磁束線と結合するように配置され、前記ソレノイドコイルの巻数は、前記複数の単環部材における個数以上である。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記複数の単環部材は、前記ソレノイドコイルの中心軸上における長手方向の中央に位置する内部空間に配置される。
【0009】
このような量子ビット集積装置は、閉ループ状部材が複数巻きであるため、磁束線が多くなり、複数の単環部材と複数巻きのソレノイドコイルとで磁束線を共有し易くでき、より安定的に量子もつれを生じさせることができる。このため、上記量子ビット集積装置は、多量子ビット化を可能にする。
【0010】
他の一態様では、上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドコイルの両端部は、超伝導体の半田部材で溶着され、超伝導接続される。
【0011】
このような量子ビット集積装置は、前記ソレノイドコイルの両端部が超伝導体の半田部材で溶着され、超伝導接続されるので、コヒーレント状態が確保される。
【0012】
本発明の他の一態様にかかる量子ビット集積装置は、量子ビットとなり、単環状に形成された複数の超伝導の単環部材と、閉ループ状に形成された超伝導の閉ループ状部材とを備え、前記単環部材は、前記閉ループ状部材の閉ループ内に配置され、前記閉ループ状部材は、ソレノイドメインコイルと、前記ソレノイドメインコイルとで閉回路を構成し、前記ソレノイドメインコイルと同心に配置され、前記ソレノイドメインコイルの漏れ磁界を減少させるシールドコイルとを備えるコイルシステムであり、前記複数の単環部材は、前記ソレノイドメインコイルの中心軸上における長手方向の中央に位置する内部空間に配置され、前記コイルシステムは、前記コイルシステムに仮に電流を流すことにより前記ソレノイドメインコイル内に生じ得る磁束線が全て前記ソレノイドメインコイルの一端から外側へ回って、前記ソレノイドメインコイル内に戻る磁束線循環型である。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記内部空間は、仮に電流を流したときに生じ得る磁場電流がppmオーダーで均一であるように構造設計されたコイルシステムの内部空間である。
【0013】
このような量子ビット集積装置は、シールドコイルを備えるので、漏れ磁束を低減できる一方、外部からの磁束を遮蔽することができるため、ノイズを低減できる。
【0014】
他の一態様では、上述の量子ビット集積装置において、前記シールドコイルは、前記ソレノイドメインコイルにおける長尺方向の両端それぞれに配置され、前記ソレノイドメインコイルに対し逆巻きである第1および第2サブコイルを備え、前記ソレノイドメインコイルおよび前記シールドコイルは、前記第1サブコイル、前記ソレノイドメインコイル、前記第2サブコイルおよび前記第1サブコイルの順で直列に接続されることで閉回路を構成する。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルおよび前記シールドコイルは、超伝導材で直列に接続される。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルは、複数巻である。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルは、直列に接続された複数の部分コイルから構成される。好ましくは、上述の量子ビット集積装置において、前記シールドコイルは、前記ソレノイドメインコイルにおける長尺方向の両端の径方向外側にそれぞれに配置され、前記ソレノイドメインコイルの外径より所定の間隔が空くような内径を持ち、前記ソレノイドメインコイルに対し逆巻きである第1および第2サブコイルを備える。
【0015】
このような量子ビット集積装置は、シールドコイルの第1および第2サブコイルを、ソレノイドメインコイルにおける長尺方向の両端それぞれに配置するという簡単な構成で、ソレノイドメインコイルをシールドコイルでシールドできる。上記のようなコイルシステムは、医療用の超伝導MRI断面撮像マグネットとして現存している装置そのものであり、唯一異なる本発明の特徴は、実磁場を発生させるための実電流は、流さずに、永久電流モード運転(超伝導接続で閉ループを形成)することである。
【0016】
他の一態様では、これら上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルの巻数は、前記複数の単環部材における個数以上である。
【0017】
複数の単環部材に量子もつれを生じさせるためには、ソレノイドメインコイルに仮に流した電流により生じ得る磁束数が前記複数の単環部材で生じる磁束数以上である必要がある。上記量子ビット集積装置は、前記ソレノイドメインコイルの巻数が前記複数の単環部材における個数以上であるので、前記ソレノイドメインコイルで生じる磁束数が前記複数の単環部材で生じる磁束数以上となる確率が高くなり、より確実に前記複数の単環部材で量子もつれを生じさせることができる。
【0018】
他の一態様では、これら上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルに仮に電流を流した際に、前記内部空間の中央位置に生じる磁束密度をBとし、前記内部空間の周縁部の磁束密度をB+△Bとし、前記複数の単環部材における個数をmとし、前記ソレノイドメインコイルの巻数をNとする場合に、前記内部空間における、前記ソレノイドメインコイルの実電流に対する磁場均一性を、△B/B≦1/(N(mN)1/2)とする。△Bは、前記内部空間において、前記中央位置に対する前記周縁部の磁束密度の偏差である。
【0019】
このような量子ビット集積装置は、△B/B≦1/(N(mN)1/2)であるので、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0020】
他の一態様では、これら上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルは、直列に接続された複数の部分コイルを備え、前記ソレノイドメインコイルの線材は、単芯線または複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線であり、前記複数の部分コイルは、唯一1本の線材による連続の巻線によって形成される。好ましくは、多芯線の場合、1本の多芯線材を用い、シールドコイルの第1サブコイル、ソレノイドメインコイルにおける複数の部分コイル、前記シールドコイルの第2サブコイルの順に、ひと続きで巻き線加工することで、前記コイルシステムが形成される。
【0021】
このような量子ビット集積装置は、多芯線を用いる場合、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0022】
他の一態様では、これら上述の量子ビット集積装置において、前記ソレノイドメインコイルのコイル線材は、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線であり、前記単環部材の直径をdとし、前記ソレノイドメインコイルの直径をDとし、前記ソレノイドメインコイルの巻数をNとし、前記多芯線の芯線数をnとする場合に、n×N≧(D/d)2である。
【0023】
このような量子ビット集積装置は、n×N≧(D/d)2であるので、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0024】
他の一態様では、これら上述の量子ビット集積装置において、前記コイルシステムのコイル線材の両端を接続することによって閉ループを形成する場合の接続部分に、常伝導状態と超伝導状態とを切り替えるスイッチ部を備える。
【0025】
このような量子ビット集積装置は、スイッチ部を備えるので、量子もつれを生じさせるタイミングを制御できる。これは、本コイルシステムを、量子コンピュータとして用いる際の演算クロックの役割を果たす機能として必須なものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる量子ビット集積装置は、多量子ビット化(大規模化)を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【
図3】第2実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【
図4】第2実施形態の超伝導体および単環部材における磁束の状態密度分布を説明するための概念図である。
【
図5】第3実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【
図6】第3実施形態における量子ビット集積装置の作成方法を説明するための図である。
【
図7】第3実施形態における量子ビット集積装置における磁場の様子を説明するための図である。
【
図8】量子もつれの許容条件を説明するための図である。
【
図10】第1態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【
図11】前記第1態様における量子ビット集積装置の作用効果を説明するための図である。
【
図13】第2態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【
図14】前記第2態様の変形態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0029】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
図2は、量子ビットを説明するための図である。
図2Aは、1個の量子ビットとなる単環状の単環部材11の模式図を示し、
図2Bは、量子化された磁束(量子化磁束)を示す。
図2Bの横軸は、外部からかけた磁場の強度であり、その縦軸は、単環部材を貫く磁束の数である。古典的には、外部磁場に比例するはずだが、量子化されて階段状となる。
【0030】
第1実施形態における量子ビット集積装置Daは、例えば、
図1に示すように、複数の単環部材1(11-1、11-2)と、閉ループ状部材2aとを備える。
【0031】
単環部材11は、閉ループの単環(シングルリング、シングルループ)状に形成された超伝導体であり、量子ビットとなる。単環部材11は、例えば、非磁性、非誘電性および比導電性の基板上に形成された超伝導薄膜を微細加工することによって例えばμmオーダーの直径で形成できる。このような超伝導の単環部材11では、
図2Aに示すように、単環部材11の閉ループの中に生じる磁束(量子化磁束)Φは、
図2Bに示すように、単位量Φ
0で量子化されることが知られている。この単位量Φ
0は、プランク定数をhとし、光速をc(=2.998×10
8[m/s])とし、電子の電荷をe(=1.602×10
-19[C])とする場合、hc/(2e)で表される(Φ
0=hc/(2e))。単環部材11では、その閉ループのコヒーレンス状態が保持されている限り、前記磁束が量子化され、その寸法には依存せずにトポロジカルな量子化特性を、単環部材11は、持つ。
【0032】
閉ループ状部材2aは、単環部材11より大径で閉ループに形成された単環状の超伝導体である。閉ループ状部材2aは、単環部材11と同様に、前記基板上に形成された超伝導薄膜を微細加工することによって形成できる。
【0033】
そして、第1実施形態の量子ビット集積装置Daにおける複数の単環部材1は、
図1に示すように、前記閉ループ状部材2aの閉ループ内に配置される。そして、前記複数の単環部材1は、例えば、1次元または2次元のアレイ状に配置される。
【0034】
図1に示す例では、複数の単環部材1と閉ループ状部材2aとは、閉ループ状部材2aにおける閉ループの中心軸(前記閉ループの中心を通り閉ループ面に直交する軸)と、複数の単環部材1における各単環の各中心軸(前記単環の中心を通り単環面に直交する軸)とが互いに平行となるように、同一面上に、配置される。
【0035】
第1実施形態における量子ビット集積装置Daは、もちろん、これら複数の単環部材1および閉ループ状部材2aが超伝導状態となるように、図略の公知の常套手段の装置(構成)を備えている。なお、以下の量子ビット集積装置Db、Dc、DA、DBも同様であり、以下では、この記載を省略する。
【0036】
このような量子ビット集積装置Daは、閉ループ状部材2aが超伝導の閉ループであるためにコヒーレント状態となり、複数の単環部材1を閉ループ状部材2aの閉ループ内に配置するので、各単環部材11-1、11-2それぞれと閉ループ状部材2aとが磁束線を共有すると、Φ3=Φ1+Φ2という関係が生じる。ここで、Φ1、Φ2およびΦ3は、それぞれ、単環部材11-1、単環部材11-2および閉ループ状部材2aの各磁束である。この場合に、例えばΦ3=0のような、Φ3の拘束条件があることで、単環部材11-1と単環部材11-2とは、間接的に量子もつれの関係にならざるを得なくなる。このように、第1実施形態における量子ビット集積装置Daは、複数の単環部材1それぞれが閉ループ状部材2aとで磁束線を共有することで、閉ループを仲立ちにして単環部材同士1も安定的に量子もつれを生じさせることができる。このため、上記量子ビット集積装置Daは、多量子ビット化を可能にする。
【0037】
この閉ループ状部材2aと、複数の単環部材1とによる共有磁束線の合成則は、旧来のデジタル計算機におけるサムチェック式誤り訂正手法に似た動作をもたらす。単環部材11は、単量子磁束によってビットと持ち、熱ノイズに弱い。閉ループ状部材2aは、それらを合計した磁束線を共有し、コヒーレント状態となった超伝導体の中の複数のクーパー対電流がそれを担う。ここで、閉ループ状部材2aは、後述する複数巻かつ多芯線という工夫によって、状態密度を稼ぎ冗長にすることで、熱ノイズの耐性をもつことになり、この合計した磁束線は、頑強に拘束することが可能となる。すなわち、強制的なゼロサムチェック効果をもたらすことになる。このことは、閉ループ状部材2aや単環部材11の温度環境の断熱構造や冷却能力が緩和される工業的な利点をもたらす。
【0038】
なお、上述では、単環部材11は、2個であるが、3個以上でも同様である。
【0039】
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
図4は、第2実施形態の超伝導体および単環部材における量子磁束の状態密度分布を説明するための概念図である。
図4の紙面右側は、単環部材11における磁束(量子化磁束)の状態密度分布を示し、
図4の紙面左側は、閉ループ状部材2b(複数巻きのソレノイドコイル)における磁束の状態密度分布を示す。
【0040】
第2実施形態における量子ビット集積装置Dbは、例えば、
図3に示すように、複数の単環部材1(11-1、11-2)と、閉ループ状部材2bとを備える。
【0041】
閉ループ状部材2bは、第2実施形態では、複数巻きのソレノイドコイル2bである。ソレノイドコイル2bの両端部は、例えば、超伝導体の半田部材で溶着され超伝導接続される。これによりコヒーレント状態が確保される。なお、
図3では、作図の都合上、閉ループ状部材2bは、2回巻きであるが、後述するように、複数の単環部材1における個数以上の巻き数である。
【0042】
第2実施形態の量子ビット集積装置Dbにおける複数の単環部材1は、
図3に示すように、ソレノイドコイル2bに、仮に任意の電流を流すことにより生じ得る磁束線と結合するように配置される点を除き、第1実施形態の量子ビット集積装置Daにおける複数の単環部材1と同様であるので、その説明を省略する。複数の単環部材1は、例えば、
図3に示すように、ソレノイドコイル2bの中心軸上における長手方向の中央に位置する内部空間に配置されることで、ソレノイドコイル2bに、仮に任意の電流を流すことにより生じ得る磁束線と結合するように配置される。
【0043】
量子力学の回転対称性の特性から、N回巻きの閉ループ(閉回路)のソレノイドコイルにおける磁束は、単環の場合の磁束Φ
0に対して1/N倍となるが、磁束線は、N本生じるので、磁束の総量は、単環の場合と同量となる(Nは正の整数)。量子統計的には、超伝導体のソレノイドコイル2bで生じる磁束線が多いほど、磁束線は、単環部材11間で共有されるより、例えば、
図4に示すように、ソレノイドコイル2bで共有される確率が高くなると解釈される。複数の単環部材1に量子もつれを生じさせるために、ソレノイドコイル2bで生じる磁束数が複数の単環部材1で生じる磁束数以上である必要がある。このため、複数の単環部材1に量子もつれを生じさせるためには、ソレノイドコイル2bの巻き数Nは、多いほど、好ましい。この観点から、少なくとも、ソレノイドコイル2bの巻数Nは、前記複数の単環部材1における個数以上である(N≧m)。例えば、ソレノイドコイル2bの巻数Nは、前記複数の単環部材1における個数mの2倍以上であることが好ましい(N≧2×m)。このため、第2実施形態における量子ビット集積装置Dbは、閉ループ状部材2aが単環である第1実施形態における量子ビット集積装置Daに較べて、複数の単環部材1とソレノイドコイル2bとで磁束を共有し易くでき、より安定的に量子もつれを生じさせることができる。
【0044】
なお、上述では、単環部材11は、2個であるが、3個以上でも同様である。
【0045】
また、上述では、ソレノイドコイル2bの巻数Nを多くすることで、ソレノイドコイル2bで共有される磁束の確率が高められたが、ソレノイドコイル2bを、単芯線に代え、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線で形成することで、前記磁束の確率が高められてもよい。
【0046】
BCS理論によれば、超伝導の電流は、電子2つが金属格子を介して生じる引力で対をなしたクーパーペアが、あたかも粒子のように振る舞って生じる。前記クーパーペアは、スピン1のボーズ粒子として量子統計的に振る舞い、多数が同じ状態に凝集したコヒーレント状態となることができる。コヒーレント状態の身近な例として、光子(ボーズ粒子)が単一波長、同位相で光束を作るレーザ光線がある。超伝導の閉ループでは、クーパーペアの波動関数が、ループに沿って周回した位相が一致する条件から、量子状態がとびとびに離散化する。その電流によって生じる磁束線も量子化される。最低次の磁束が、単環部材11が作る量子ビットとして利用できる。
【0047】
単環部材11と同様に、超伝導のソレノイドコイル2bも、コヒーレント状態となり、順方向または逆方向の、また波数(位相振幅回数)が様々な状態のクーパーペア電流の波動関数が、重ね合わさった状態である。それら様々なクーパーペア電流(量子的な仮想電流)は、量子磁束線を生じる。 超伝導のソレノイドコイル2bと、その内部空間に配置された複数の単環部材1によって、量子磁束線を共有する。量子ゆらぎ電流によって誘起される磁束線が、ソレノイドコイル2bと単環部材11とで共有されるとは、古典電磁気学におけるLC共振回路と類似の現象とみなせる。古典的には、ソレノイドコイル2b、単環部材11、両者と同一の共振周波数を持つときに、お互いの磁束線を引込合う共振現象が起きる。場の量子論では、コヒーレント状態とは、共振周波数が“不確定”で、上述の周回境界条件を満たす複数の状態のすべてにおいて、共振条件が成立するという性質が解明されている。よって、コヒーレント状態の超伝導の閉じたソレノイドコイル2bで、単環部材11を取り囲むことによって、量子磁束線が共有され易い特性が生まれる。
【0048】
磁束線は、量子的(重ね合わせの)、仮想であっても、その分布や連続性は、古典電磁気学と同様であり、それらが、重ね合わせと見なせる。よって、単環部材11が作る磁束線の(自己循環の線を除き)合計が、ソレノイドコイル2bの磁束線数に一致しなければならない。ソレノイドコイル2bと複数の単環部材1が共有する、重ね合わせ状態の量子磁束の、どの経路が選ばれるかは、確率的に定まり、状態密度が大きい状態の存在確率が高い。よって、ソレノイドコイル2bと複数の単環部材11を共有する磁束線を優勢(大半)にするには、単環部材11の量子磁束の状態が各1つに対し、ソレノイドコイル2bは、巻数が多いほど、線材の芯数が多いほど、状態数が多いことが利用される。
【0049】
超伝導の量子状態は、熱雑音を受けやすく、量子ビットは、ミリケルビン以下の超極低温にしないと最低次の量子磁束はすぐに壊れてしまう。それに対し、ソレノイドコイル2bのコヒーレント状態は、状態間隔が狭いコヒーレント状態(状態が縮退)で、かつ多数巻きかつ多芯線の効果を利用することで、状態密度は、甚だ大きいために、多少の熱雑音に対して、冗長性を確保することができるため、通常の極低温(4°K)でも熱雑音の影響を受け難い。さらに、上述のソレノイドコイル2bと複数の単環部材1との磁束線の合成則制約は、熱雑音の影響を受け難いソレノイドコイル2bが、熱雑音に鋭敏な単環部材1に、通常デジタル計算機におけるサムチェックの役割を担い、システム全体として熱雑音に対する耐性を向上させる。
【0050】
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
図5Aは、斜視図であり、
図5Bは、一部断面図である。なお、
図5Bでは、スイッチ部3が省略されている。
図6は、第3実施形態における量子ビット集積装置の作成方法を説明するための図である。
図6Aは、多芯線線材を巻線機でコイルボビンに巻き回す様子を示し、
図6Bは、サブシールドコイルを180°反転させる様子を示す。
図7は、第3実施形態における量子ビット集積装置における磁場の様子を説明するための図である。
図5Bにおいて、細い二点鎖線は、磁束を示し、太い二点鎖線は、磁束密度の一定な等磁束密度線を示し、
図7において、二点鎖線は、太さにかかわらず、磁束を示す。
【0051】
第3実施形態における量子ビット集積装置Dcは、例えば、
図5に示すように、複数の単環部材1(11-11~11-33)と、閉ループ状部材2c(2c-1、2c-2)とを備える。
【0052】
閉ループ状部材2cは、ソレノイドメインコイル2c-1と、ソレノイドメインコイル2c-1とで閉回路を構成し、ソレノイドメインコイル2c-1と軸AXで同心に配置され、ソレノイドメインコイル2c-1の漏れ磁界を減少させるシールドコイル2c-2とを備える。
【0053】
ソレノイドメインコイル2c-1は、
図5に示す例では、直列に接続された7個の第1ないし第7サブメインコイル(部分コイルの一例)2c-11~2c-17を備える。第2実施形態で説明したように単環部材11間で共有されるより、ソレノイドメインコイル2c-1で共有される確率を高くするために、ソレノイドメインコイル2c-1の巻数Nは、前記複数の単環部材1における個数m以上である(N≧m)。例えば、ソレノイドメインコイル2c-1の巻数Nは、前記複数の単環部材1における個数mの2倍以上であることが好ましい(N≧2×m)。各サブメインコイル2c-11~2c-17は、それぞれ、例えば、単芯線の超伝導芯素線を1回巻いたコイルであってよく、あるいは、例えば、前記確率を高くするために、単芯線の超伝導芯素線を複数回巻いたコイルであってよく、あるいは、例えば、同様に前記確率を高くするために、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線を1回巻いたコイルであってよく、あるいは、例えば、同様に前記確率を高くするために、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線を複数回巻いたコイルであってよい。
【0054】
シールドコイル2c-2は、ソレノイドメインコイル2c-1における長尺方向の両端の径方向外側にそれぞれに配置され、ソレノイドメインコイル2c-1の外径より所定の間隔が空くような内径を持ち、ソレノイドメインコイル2c-1に対し逆巻きである第1および第2サブシールドコイル2c-21、2c-22を備える。各サブシールドコイル2c-21、2c-22は、それぞれ、例えば、単芯線の超伝導芯素線を1回以上巻いたコイルであって、単芯線の超伝導芯素線を複数回巻いたコイル、あるいは、複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線を複数回巻いたコイルであってよい。
【0055】
このような各サブメインコイル2c-11~2c-17および各サブシールドコイル2c-21、2c-22は、それぞれ、
図6Aに示すように、前記単芯線や前記多芯線をコイルボビンに巻線機で巻き回すことによって形成され、量子ビット集積装置Dcは、
図6Bに示すように、各サブシールドコイル2c-21、2c-22を180°反転することで作成される。
【0056】
そして、ソレノイドメインコイル2c-1およびシールドコイル2c-2は、第1サブシールドコイル2c-21、ソレノイドメインコイル2c-1(2c-11~2c-17)、第2サブシールドコイル2c-22および第1サブシールドコイル2c-21の順で、単芯線の場合には、超伝導材(例えば鉛(Pb)等の半田部材)による半田付け(溶着)で直列に接続されることで、または、唯一1本の線材による連続の巻き線によって形成されることで、多芯線の場合には必ず唯一1本の線材による連続の巻き線によって形成されることで、閉回路を構成する。第1ないし第7サブメインコイル2c-11~2c-17、第1サブシールドコイル2c-21および第2サブシールドコイル2c-22の各間には、位置合わせ(位置決め)のためのスペーサ等が挿入されて配置され、これらソレノイドメインコイル2c-1およびシールドコイル2c-2が固定されてよい。
【0057】
これらソレノイドメインコイル2c-1とシールドコイル2c-2とを備えるコイルシステムは、
図5Bに示すように、前記コイルシステムに仮に任意の電流を流すことによりソレノイドメインコイル2c-1内に生じ得る磁束線が全て前記ソレノイドメインコイル2c-1の一端から外側へ回って、前記ソレノイドメインコイル2c-1内に戻る磁束線循環型である。
【0058】
前記コイルシステムのコイル線材の両端を接続することによって閉ループを形成する場合の接続部分に、本実施形態では、
図5Aに示すように、第1および第2サブシールドコイル2c-21、2c-22を直列に接続する接続部分に、常伝導状態と超伝導状態とを切り替えるスイッチ部3を備える。一般に、超伝導状態は、超伝導材に流れる電流、超伝導材の磁場、および、超伝導材の温度の3要素が所定の各範囲内である場合でのみ生じる。このため、スイッチ部3は、第1および第2サブシールドコイル2c-21、2c-22を直列に接続する接続部分の超伝導材に対し、その電流、磁場および温度のうちの少なくとも1つを制御(調整)する。例えば、スイッチ部3は、第1および第2サブシールドコイル2c-21、2c-22を直接に接続する接続部分の超伝導材を加熱するヒータを備え、前記ヒータをオンして前記接続部分の超伝導材を加熱することで、超伝導状態から常伝導状体に切り替え、前記ヒータをオフして前記接続部分の超伝導材に対する加熱を停止することで、常伝導状態から超伝導状体に切り替える。
【0059】
第3実施形態の量子ビット集積装置Dcにおける複数の単環部材1は、
図5に示すように、ソレノイドメインコイル2c-1の内部空間に配置される点を除き、第1実施形態の量子ビット集積装置Daにおける複数の単環部材1と同様であるので、その説明を省略する。
【0060】
そして、例えば、
図7に示すように、ソレノイドメインコイル2c-1に仮に任意の電流を流した際に、ソレノイドメインコイル2c-1のコイルボア内における内部空間、例えば、ソレノイドメインコイル2c-1の中心軸上における長手方向の中央に位置する内部空間に、より広い磁場均一空間を形成するように、公知の常套手法により、これらソレノイドメインコイル2c-1およびシールドコイル2c-2における各形状、各巻数および各配置が最適化されることが好ましい。前記内部空間は、好ましくは、仮に電流を流したときに生じ得る磁場電流がppmオーダーで均一であるように構造設計されたコイルシステムの内部空間である。
【0061】
上記のようなコイルシステムは、医療用の超伝導MRI断面撮像マグネットとして現存している装置そのものであり、唯一異なる本実施形態の特徴は、実磁場を発生させるための実電流は、流さずに、永久電流モード運転(超伝導接続で閉ループを形成)することであり、仮に任意の実電流を流したとしたときに、単環部材1を配置する空間に均一な磁場が生じるようにコイル設計する手法は、共通であることから、本システムの製作実現性は、既に実証されているのである。
【0062】
前記複数の単環部材1は、例えば、非磁性、非誘電性および比導電性の基板上に形成された超伝導薄膜を微細加工することによって形成され、例えば、
図5Bに示すように、前記基板ごと、前記磁場均一の内部空間に配置されることが好ましい。なお、
図5Bには、前記基板の図示が省略されている。
【0063】
第3実施形態における量子ビット集積装置Dcは、ソレノイドメインコイル2c-1およびシールドコイル2c-2で閉回路を構成するためにコヒーレント状態となり、複数の単環部材1を、ソレノイドメインコイル2c-1の内部空間に配置するので、例えば
図7に示すように、複数の単環部材1とソレノイドメインコイル2c-1とで磁束線を共有でき、安定的に量子もつれを生じさせることができる。このため、上記量子ビット集積装置Dcは、多量子ビット化を可能にする。
【0064】
上記量子ビット集積装置Dcは、シールドコイル2c-2を備えるので、例えば
図7に示すように、コイルシステムの磁束線を閉じさせるために、外部への漏れ磁束を低減できる一方、外部からの磁束も遮蔽することができるため、外乱ノイズを低減できる。
【0065】
上記量子ビット集積装置Dcは、シールドコイル2c-2の第1および第2サブシールドコイル2c-21、2c-22それぞれを、ソレノイドメインコイル2c-1における長尺方向の両端それぞれに配置するという簡単な構成で、ソレノイドメインコイル2c-1をシールドコイル2c-2でシールドできる。
【0066】
上記量子ビット集積装置Dcは、スイッチ部3を備えるので、量子もつれを生じさせるタイミングを制御できる。上記量子ビット集積装置Dcが量子コンピュータ、量子通信および量子暗号等に応用される場合、スイッチ部3をオフすることで量子もつれを解消して複数の単環部材1それぞれに初期値として量子化磁束を書き込んだり、複数の単環部材1それぞれから量子化磁束を読み出したり等できる。スイッチ部3は、本コイルシステムを、量子コンピュータとして用いる際の演算クロックの役割を果たす機能として必須なものである。
【0067】
上記量子ビット集積装置Dcは、ソレノイドメインコイル2c-1の巻数Nが複数の単環部材1における個数m以上とする場合、ソレノイドメインコイル2c-1で生じる磁束数が複数の単環部材1で生じる磁束数以上となる確率が高くなり、より確実に複数の単環部材1で量子もつれを生じさせることができる。
【0068】
上記量子ビット集積装置Dcは、多芯線を用いる場合、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0069】
なお、上述の第3実施形態において、第3実施形態の量子ビット集積装置Dcは、ソレノイドメインコイル2c-1に仮に任意の所定の電流を流した際に、ソレノイドメインコイル2c-1のコイルボア内における内部空間の中央位置に生じる磁束密度をBとし、前記内部空間の周縁部の磁束密度をB+△Bとし、複数の単環部材1における個数をmとし、ソレノイドメインコイル2c-1の巻数をNとする場合に、前記内部空間における、前記ソレノイドメインコイル2c-1の実電流に対する磁場均一性を、△B/B≦1/(N(mN)1/2)とするように、構成されてもよい。△Bは、前記内部空間において、前記中央位置に対する前記周縁部の磁束密度の偏差である。このような量子ビット集積装置Dcは、△B/B≦1/(N(mN)1/2)であるので、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0070】
量子ビット集積装置Dcでは、量子ビット群となる複数の単環部材1を包含する、超伝導コイルとなるソレノイドメインコイル2c-1が、コヒーレント状態(クーパー対の個数が不定)であることが前提条件である。その条件が、前記量子ビット群を設置する空間に、磁束(線)の密度(~発生確率の密度)として映し出されると解釈した。「場の量子論」によれば、コヒーレント状態における量子(クーパーペア:ボーズ粒子)の平均値をNとすると、その標準偏差は、√N(~Poissom統計)の“ゆらぎ“が存在することから、磁束(線)の発生確率の密度ゆらぎも、同様の範囲内でなければ、量子もつれ(エンタングルメント)が生じないと仮定した。
【0071】
N回巻コイルは、最低N本の磁束を(平均的に)発生できるとすれば、その“ゆらぎ”は√N本、比にすると、√N/Nとなる。この“ゆらぎ比”から、前記量子ビット群を設置する空間の、磁束線の発生確率密度のゆらぎΔΦを求めると、N回巻きのソレノイドメインコイル2c-1の単位量Φ0/Nを掛けることによって、△Φ=√N/N×Φ0/N=Φ0/N√N)となる。この値と、単環部材11(量子ビット)の磁束Φ0との比は、△Φ/Φ0=1/(N√N)となる。仮に磁束線の発生確率密度の空間ゆらぎも、この範囲内であれば、前記量子ビット群を設置する空間に配置された単環部材11(量子ビット)は、ソレノイドメインコイル2c-1と結合して量子もつれを生じ、ソレノイドメインコイル2c-1を介して相互エンタングルメントができるものと考えた(ただし、ここでは、(時間ゆらぎ~空間ゆらぎ、という統計力学的アプリオリを用いた)。
【0072】
古典描像においては、(磁場分布) ⇔ (磁束線の空間密度)、という関係があるので(当然、量子描像はそれに漸近するはず)、仮にソレノイドメインコイル2c-1に実電流を流した場合の磁場分布(均一度)は、磁束の発生確率密度の分布(均一度)に相当するものと解釈でき、ソレノイドメインコイル2c-1に仮に任意の電流を流した際に、前記内部空間の中央位置に生じる磁束密度をBとし、前記内部空間の周縁部の磁束密度をB+△Bとする場合、△B/B≦△Φ/Φ0=1/(N√N)との条件不等式が得られる。
【0073】
一方で、量子ビット群(複数の単環部材1)の方も、コヒーレント状態にある量子ビット(単環部材11)が、磁束が湧き出す数に“ゆらぎ”があることを考慮する必要がある。前記量子ビット群を設置する空間に分布する各量子ビットは、その場所で感じる(磁束起因の)磁場によってエネルギーを持ってしまうので、量子ビットごとにその差があると、量子もつれを生じなくなってしまう。仮に(最大)すべての量子ビット(m個)に磁束が生じるとした場合、√m/m=1/√mの割合の“ゆらぎ”が存在するとすれば、磁場の空間ゆらぎも、それ以下である必要が出てくる。その効果も考慮すると、条件不等式は、△B/B≦△Φ/Φ0=(1/(N√N))×(1/√m)=1/(N(mN)1/2)となる。
【0074】
図8は、量子もつれの許容条件を説明するための図である。
図9は、多芯線の効果を説明するための図である。
図9Aは、単芯線のコイルの場合を示し、
図9Bは、多芯線の場合を示す。
【0075】
また、上述の第3実施形態において、第3実施形態の量子ビット集積装置Dcは、
図8に示すように、ソレノイドメインコイル2c-1のコイル線材が複芯線の超伝導芯素線から成る多芯線であり、単環部材11の直径をdとし、ソレノイドメインコイル2c-1の直径をDとし、ソレノイドメインコイル2c-1の巻数をNとし、上述の多芯線の芯線数をnとする場合に、n×N≧(D/d)
2であるように、構成されてもよい。このような量子ビット集積装置Dcは、n×N≧(D/d)
2であるので、より確実に量子もつれを生じさせることができる。
【0076】
ソレノイドメインコイル2c-1と、この内部空間に配置される複数の単環部材1とが、磁束線を共有する確率は、両者が互いに湧き出す磁束線の遭遇、連結する割合として見積もられた。ここで、巻数Nのソレノイドメインコイル2c-1超電導コイルから湧き出すN本の磁束線は、その内部空間に均一に分布すると仮定し、単環部材11の磁束線から湧き出る1本とが、遭遇して連結できるとすると、N/D2≧1/d2となり、したがって、N≧(D/d)2という条件が導かれる。
【0077】
図9に示すように、芯線数nの多芯線の場合、結合(連結)の可能性は、n倍になることいから、n×N≧(D/d)
2という上記条件が導かれる。
【0078】
より確実に量子もつれを生じさせるためには、多芯線を用い、巻数を多く、内部空間の径の小さい、ソレノイドメインコイル2c-1が好ましい。
【0079】
また、上述の第3実施形態において、2次元のアレイ状に配置された複数の単環部材1がソレノイドメインコイル2c-1の内部空間に単層で配置されたが、複数層で配置されてもよい。すなわち、複数の単環部材1は、単環面を揃えて3次元のアレイ状でソレノイドメインコイル2c-1の内部空間に配置されてもよい(単環面を互いに平行にした3次元のアレイ状でソレノイドメインコイル2c-1の内部空間に並置されてもよい)。
【0080】
次に、量子ビット集積装置の他の態様について説明する。
【0081】
(第1態様)
図10は、第1態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。
図11は、前記第1態様における量子ビット集積装置の作用効果を説明するための図である。
図11Aは、前記量子ビット集積装置の場合を示し、
図11Bは、比較例の場合を示す。
図12は、比較例の構成を説明するための図である。
【0082】
第1態様における量子ビット集積装置DAは、例えば、
図10に示すように、量子ビットとなる単環状の複数の単環部材1(11-1、11-2、11-3、・・・)と、前記複数の単環部材1に対して配置される超伝導体2Aとを備える。
【0083】
単環部材11は、第1実施形態の量子ビット集積装置Daにおける単環部材11と同様に、超伝導の閉ループであり、例えば、超伝導薄膜を微細加工することによって例えばμmオーダーの直径で形成できる。単環部材11では、その閉ループのコヒーレンス状態が保持されている限り、磁束が量子化され、その寸法には依存せずにトポロジカルな量子化特性を、単環部材11は、持つ。そして、前記複数の単環部材1は、第1態様では、1次元または2次元のアレイ状に配置される。
図10に示す例では、前記複数の単環部材1は、1次元のアレイ状に配置されている。
【0084】
超伝導体2Aは、第1態様では、アレイ状に配置された前記複数の単環部材1で形成される平面(アレイ面)と平行となるように配置された、超伝導の板状部材である。超伝導体2Aは、例えば、NbTi合金で形成される。超伝導体2Aは、前記平面の近傍に配置される。前記近傍とは、互いに隣接する単環部材11-k、11-(k+1)間の距離の、例えば1倍、2倍、3倍程度の距離をいう(k;任意の正の整数)。前記複数の単環部材1は、超伝導体2Aから離間されて配置される。
【0085】
第1態様における量子ビット集積装置DAは、超伝導体2Aのマイスナー効果によって外部からの磁束を遮蔽することができるため、前記外部からの磁束によるノイズを低減できる。その一方で、上記量子ビット集積装置DAは、前記超伝導体2Aのマイスナー効果によって磁束を弾き返すので、複数の単環部材1で磁束線を共有させて前記複数の単環部材1を結合させる空間をより広くできるため、多量子ビット化(大規模化)できる。
【0086】
例えば、
図12に示す、複数の単環部材1(11-11~11-33)を2次元のアレイ状に配置した比較例の装置Dcompでは、各単環部材11に生じる磁束線は、
図12や
図11Bに示すように、それぞれ磁気双極子様の分布となることから、各単環部材11間の磁気的な結合は、近接同士が強く、距離が離れるに従って弱くなる。このため、多量子ビット化すると、アレイ状に配置された複数の単環部材1において、一方端の単環部材11と他方端の単環部材11とは磁束線を共有させて結合することが難しくなってしまう。この結果、一方端の単環部材11と他方端の単環部材11とは、量子もつれを生じなくなってしまう。
【0087】
一方、第1態様における量子ビット集積装置DAは、
図11Aに示すように、上述の超伝導体2Aのマイスナー効果によって磁束を弾き返すので、単環部材11で生じた磁束を複数の単環部材1と超伝導体2aとの間の空間に閉じ込めることができる。この結果、上記量子ビット集積装置DAは、より離れた単環部材11に向かう磁束の強度を強くできるから、複数の単環部材1で磁束線を共有させて前記複数の単環部材1を結合させる空間をより広くできる。すなわち、量子もつれを生じさせる空間が、例えば比較例の装置Dcompの場合より広くなる。このため、上記量子ビット集積装置DAは、多量子ビット化できる。
【0088】
そして、第1態様における量子ビット集積装置DAは、板状部材の超伝導体2Aの上方に、複数の単環部材1をアレイ状に配置するという簡単な構成で、多量子ビット化できる。
【0089】
なお、第1態様における量子ビット集積装置DAにおいて、超伝導体2Aは、
図10に破線の○で示すように、複数(多数)の磁束のピン止め中心(常伝導体のα-Ti)を析出させたNbTi合金の板状部材であってもよい。このような超伝導体2Aは、第2種超伝導体のNbTi合金平板に、予め熱処理および圧延を繰り返し施すことによって形成される。この場合では、複数の単環部材1および多数の常伝導体のα-Tiを持つ超伝導体2aは、臨界温度以下に冷却される。このような構成では、仮に、外部から磁束が侵入した場合、前記ピン止め中心α-Tiでは、環状の超伝導電流が流れ、前記ピン止め中心α-Tiは、磁束を貫通して維持する能力を持つ。このため、前記複数の単環部材1と前記多数の常伝導体のα-Tiを持つ超伝導体2Aとの間で磁束を交換させることで、前記超伝導体2Aを介して、前記複数の単環部材1相互間での有意な量子もつれが担保できる。
【0090】
次に、別の態様について説明する。
(第2態様)
図13は、第2態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。第2態様における量子ビット集積装置DBは、例えば、
図13に示すように、量子ビットとなる単環状の複数の単環部材1(11-1、11-2、11-3、11-4、・・・)と、前記複数の単環部材1に対して配置される超伝導体2Bとを備える。
【0091】
超伝導体2Bは、第2態様では、中空な柱状部材である。例えば、超伝導体2Bは、厚さ4mmの純ニオブ(Nb)で円筒状に形成された空洞体である。
【0092】
第2態様の量子ビット集積装置DBにおける複数の単環部材1は、
図13に示すように、前記中空な柱状部材の内部空間に配置される点を除き、第1態様の量子ビット集積装置DAにおける複数の単環部材1と同様であるので、その説明を省略する。前記複数の単環部材1は、超伝導体2Bの内部空間に配置される。
【0093】
第2態様における量子ビット集積装置DBは、複数の単環部材1を超伝導体2Bの内部空間に配置するので、外部からの磁束をより遮蔽することができるため、前記外部からの磁束によるノイズをより低減できる。その一方で、上記量子ビット集積装置DBは、前記複数の単環部材1を超伝導体2Bの内部空間に配置するので、単環部材11で生じる磁束を前記内部空間に閉じ込めることができるから、より離れた単環部材11に向かう磁束の強度を強くできる。この結果、上記量子ビット集積装置DBは、複数の単環部材1で磁束を共有させて前記複数の単環部材1を結合させる空間をさらにより広くでき、より多量子ビット化できる。
【0094】
図14は、前記第2態様の変形態様における量子ビット集積装置の構成を説明するための図である。なお、上述の第2態様において、超伝導体2Bは、
図13に示す円筒状の空洞体に代え、例えば
図14に示すように、中空な楕円体部材であってもよい。
【0095】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0096】
Da~Dc 量子ビット集積装置
1 複数の単環部材
11(11-1、11-2、11-3、・・・) 単環部材
2a~2c 閉ループ状部材
2e-1 ソレノイドメインコイル
2e-2 シールドコイル