(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】走行支援方法及び走行支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20240708BHJP
B60W 30/12 20200101ALI20240708BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20240708BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240708BHJP
B60W 40/064 20120101ALI20240708BHJP
【FI】
B60W30/045
B60W30/12
B60W10/00 132
B60W10/20
B60W10/18
B60W40/064
(21)【出願番号】P 2020097074
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-271844(JP,A)
【文献】特開2019-055644(JP,A)
【文献】特開平07-105498(JP,A)
【文献】特開平08-016998(JP,A)
【文献】特開2005-178743(JP,A)
【文献】特開2001-010475(JP,A)
【文献】特開2010-058570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B62D 6/00- 6/10
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周囲の環境である周囲環境を認識し、
前記周囲環境に基づいて前記自車両の目標走行軌道を算出し、
前記目標走行軌道上の前記自車両の目標姿勢を算出し、
前記目標姿勢を実現するための要求ヨーモーメントを算出し、
前記自車両が走行する車線の車線境界を認識し、
前記自車両が前記車線境界を逸脱するまでの余裕距離である逸脱余裕距離を算出し、
操舵による第1ヨーモーメントと車輪制動による第2ヨーモーメントとを前記逸脱余裕距離に応じた配分比で配分して前記要求ヨーモーメントを発生させ、
前記逸脱余裕距離が短いほど前記第2ヨーモーメントの配分比をより高く
し、
前記逸脱余裕距離をxbとし、前記自車両の車速をvとし、路面の摩擦係数をμとし、重力加速度をgとするとき、κ=v
2
/(2×μ×g×xb)を前記第2ヨーモーメントの前記配分比として算出する、
ことを特徴とする走行支援方法。
【請求項2】
前記目標姿勢を実現する前輪横力を算出し、
前記前輪横力が前輪の摩擦限界を超えたために不足するヨーモーメントを、前記要求ヨーモーメントとして算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の走行支援方法。
【請求項3】
前記目標姿勢を実現する後輪横力を算出し、
前記後輪横力が後輪の摩擦限界を超えたために余剰となるヨーモーメントを打ち消すヨーモーメントを、前記要求ヨーモーメントとして算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の走行支援方法。
【請求項4】
自車両の周囲の物体を検出する物体センサと、
前記自車両の操向輪を操舵する操舵装置と、
前記自車両の車輪を制動する制動装置と、
前記物体センサの検出結果に応じて前記自車両の周囲の環境である周囲環境を認識し、前記周囲環境に基づいて前記自車両の目標走行軌道を算出し、前記目標走行軌道上の前記自車両の目標姿勢を算出し、前記目標姿勢を実現するための要求ヨーモーメントを算出し、前記自車両が走行する車線の車線境界を認識し、前記自車両が前記車線境界を逸脱するまでの余裕距離である逸脱余裕距離を算出し、操舵による第1ヨーモーメントと車輪制動による第2ヨーモーメントとを前記逸脱余裕距離に応じた配分比で配分して前記要求ヨーモーメントを発生するように前記操舵装置及び前記制動装置を制御し、前記逸脱余裕距離が短いほど前記第2ヨーモーメントの配分比をより高くするコントローラと、
を備え
、
前記逸脱余裕距離をxbとし、前記自車両の車速をvとし、路面の摩擦係数をμとし、重力加速度をgとするとき、κ=v
2
/(2×μ×g×xb)を前記第2ヨーモーメントの前記配分比として算出することを特徴とする走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法及び走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両に付与するヨーモーメントを操向輪の操舵と車輪の制動力とで発生させる走行制御システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の走行制御システムは、ステアリングシステムが正常状態にある場合には、操向輪の操舵によって目標ヨーモーメントを発生させる。このため、例えば車線境界付近で目標ヨーモーメントを発生させる場合であっても、自車両が減速しないため自車両が車線から逸脱するリスクは低減しない。
本発明は、車両にヨーモーメントを付与する際に自車両が車線から逸脱するリスクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る走行支援方法では、自車両の周囲の環境である周囲環境を認識し、周囲環境に基づいて自車両の目標走行軌道を算出し、目標走行軌道上の自車両の目標姿勢を算出し、目標姿勢を実現するための要求ヨーモーメントを算出し、自車両が走行する車線の車線境界を認識し、自車両が車線境界を逸脱するまでの余裕距離である逸脱余裕距離を算出し、操舵による第1ヨーモーメントと車輪制動による第2ヨーモーメントとを逸脱余裕距離に応じた配分比で配分して要求ヨーモーメントを発生させ、逸脱余裕距離が短いほど第2ヨーモーメントの配分比をより高くする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両にヨーモーメントを付与する際に自車両が車線から逸脱するリスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の走行支援装置の概略構成図である。
【
図2】(a)及び(b)は、実施形態の走行支援方法の一例の説明図である。
【
図3】実施形態の車体挙動制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1を参照する。自車両1は、自車両1の走行支援を行う走行支援装置10を備える。走行支援装置10による走行支援には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御や、運転者による自車両1の運転を支援する運転支援制御を含んでよい。
運転支援制御には、自動操舵、自動ブレーキ、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御など、自車両1の操舵装置、駆動装置、制動装置の少なくとも一つを制御する走行制御を含んでよい。
【0010】
走行支援装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース14と、ナビゲーション装置15と、通信装置16と、コントローラ17と、アクチュエータ18とを備える。図面において地図データベースを「地
図DB」と表記する。
物体センサ11は、自車両の周囲の物体を検出する。物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)など、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
【0011】
車両センサ12は、自車両1に搭載され、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、自車両1の走行速度(車速)を検出する車速センサ、自車両1が備える各タイヤの回転速度や回転量を検出する車輪センサ、自車両1の3軸方向の加速度(減速度を含む)を検出する3軸加速度センサ(Gセンサ)、操舵角(転舵角を含む)を検出する操舵角センサ、自車両1に生じる角速度を検出するジャイロセンサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ、自車両1のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0012】
測位装置13は、全地球型測位システム(GNSS)受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。GNSS受信機は、例えば地球測位システム(GPS)受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
【0013】
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶してよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。
【0014】
例えば、高精度地図は車線単位の情報として、車線基準線(例えば車線内の中央の線)上の基準点を示す車線ノードの情報と、車線ノード間の車線の区間態様を示す車線リンクの情報を含む。
車線ノードの情報は、その車線ノードの識別番号、位置座標、接続される車線リンク数、接続される車線リンクの識別番号を含む。車線リンクの情報は、その車線リンクの識別番号、車線の幅員、車線境界線の種類、車線の形状、車線区分線の形状、車線基準線の形状を含む。
【0015】
高精度地図は、車線単位のノード及びリンク情報を含むため、走行ルートにおいて自車両1が走行する車線を特定可能である。高精度地図は、車線の延伸方向及び幅方向における位置を表現可能な座標を有する。高精度地図は、3次元空間における位置を表現可能な座標(例えば経度、緯度及び高度)を有し、車線や上記地物は3次元空間における形状として記述されてもよい。
【0016】
ナビゲーション装置15は、測位装置13等により自車両1の現在位置を認識する。また、乗員の操作に応じて自車両1の目的地を設定し、地図データベース14の地図情報に基づいて現在位置から目的地までの道路単位の予定走行経路を演算する。
ナビゲーション装置15は、演算した予定走行経路の情報をコントローラ17へ出力する。また、ナビゲーション装置15は、演算した予定走行経路に従って乗員に経路案内を行う。
通信装置16は、自車両1の外部の通信装置との間で無線通信を行う。通信装置16による通信方式は、例えば公衆携帯電話網による無線通信や、車車間通信、路車間通信、又は衛星通信であってよい。
【0017】
コントローラ17は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含み、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
コントローラ17のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ17は、自動運転制御部20及び車体挙動制御部21として機能する。自動運転制御部20及び車体挙動制御部21の機能については後述する。
【0018】
なお、コントローラ17を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラは、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0019】
アクチュエータ18は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の操舵装置と、駆動装置と制動装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ18は、操舵アクチュエータと、アクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータを備える。
操舵アクチュエータは、自車両1の操向輪の操舵方向及び操舵量を制御する。操舵アクチュエータは、例えば、電動パワーステアリングシステムにおいて操舵補助力を付与する操舵補助モータであってもよく、ステアリングホイールと操向輪とが機械的に分離されたステアリングバイワイヤシステムにおいて操向輪を操舵する操舵モータであってもよい。
アクセル開度アクチュエータは、自車両1の駆動力を発生させる動力源である駆動装置(例えばエンジン、電動機)のアクセル開度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の制動装置の制動動作を制御する。
【0020】
次に、実施形態の走行支援装置10による走行支援制御の一例を説明する。上記のとおり、コントローラ17は、自動運転制御部20及び車体挙動制御部21として機能する。
なお、コントローラ17は、自動運転制御部20の機能と車体挙動制御部21の機能とを単一の電子制御ユニットで実現してもよく、複数の別体の電子制御ユニットで実現してもよい。
【0021】
自動運転制御部20は、物体センサ11の検出結果に応じて自車両1の周囲の環境である周囲環境を認識し、周囲環境に基づいて自車両1の目標走行軌道を算出する。
例えば、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御を実行する場合に自動運転制御部20は、周囲環境の認識結果と、自車両1の現在位置と、地図情報と、ナビゲーション装置15が演算した走行経路に基づいて、走行支援装置10により実行する運転行動を決定する。
このような運転行動には、例えば、自車両1の停止、一時停止、走行速度、減速、加速、進路変更、右折、左折、直進、合流区間や複数車線における車線変更、車線維持、追越、障害物への対応などの行動が含まれる。
【0022】
自動運転制御部20は、自車両1の現在位置及び姿勢と、自車両1の周囲環境と、地図情報とに基づいて、自車両1の周辺の経路や物体の有無を表現する経路空間マップと、走行場の危険度を数値化したリスクマップを生成する。自動運転制御部20は、経路空間マップ及びリスクマップに基づいて、自車両1の運転行動計画を生成する。自動運転制御部20は、生成した運転行動計画と、自車両1の運動特性、経路空間マップと、リスクマップとに基づいて、自車両1を走行させる目標走行軌道を算出する。
【0023】
さらに自動運転制御部20は、自車両1が目標走行軌道上を走行するために、自車両1に付与すべき目標横力Fyを算出して車体挙動制御部21に出力する。なお、自動運転制御部20は、目標走行軌道を車体挙動制御部21に出力し、車体挙動制御部21が目標横力Fyを算出してもよい。
【0024】
車体挙動制御部21は、自車両1に目標横力Fyを付与して自車両1が目標走行軌道上を走行するための自車両の目標姿勢、すなわち目標ヨー角を算出する。車体挙動制御部21は、目標姿勢を実現するための要求ヨーモーメントMrを算出する。
車体挙動制御部21は、アクチュエータ18を駆動して操舵装置及び制動装置を制御することにより要求ヨーモーメントMrを発生する。すなわち、自車両1の操向輪を操舵することにより、これに加えて又はこれに代えて、自車両1の左右の車輪に異なる制動力を付与することにより要求ヨーモーメントMrを発生させる。
【0025】
以下、操向輪を操舵することにより発生させるヨーモーメントを「第1ヨーモーメント」と表記し、左右の車輪に異なる制動力を付与することにより発生させるヨーモーメントを「第2ヨーモーメント」と表記することがある。
図2を参照する。実線2R及び2Lは、それぞれ自車両1が走行する車線の右側及び左側の車線境界を示し、破線3は自車両1の目標走行軌道を示し、参照符号4は自車両1の質点(例えば重心)を示し、一点鎖線5は質点4の移動方向を示す。
【0026】
いま、質点4の移動方向5における自車両1の現在位置(例えば質点4の位置)から車線境界2Rまでの距離xb、すなわち自車両1が車線境界2Rを逸脱するまでの余裕距離xbを「逸脱余裕距離」と表記する。
図2の(a)の走行シーンと
図2の(b)の走行シーンとを比較すると、
図2の(a)の逸脱余裕距離xbよりも
図2の(b)の逸脱余裕距離xbの方が短い。このため、
図2の(b)の走行シーンの方が、車線境界2Rを逸脱するリスクが高い。
したがって、この場合には操向輪の操舵による第1ヨーモーメントに代えて又は加えて、減速を伴う第2ヨーモーメントを発生させることが好ましい。
【0027】
例えば、自車両1の旋回に必要な横力が車輪の摩擦限界を超えた場合には、自車両1の挙動が不安定になり、旋回に必要なヨーモーメントが不足したり、又は余剰となる場合がある。すなわち、前輪横力が摩擦限界を超えると旋回に必要なヨーモーメントが不足し、後輪横力が摩擦限界を超えると余剰ヨーモーメントが発生する。
このような状況下では、不足ヨーモーメントを補うヨーモーメント、又は余剰モーメントを打ち消すヨーモーメントを、要求ヨーモーメントMrとして発生させることが好ましい。
【0028】
また、このように車輪横力が摩擦限界を超えた場合には自車両1の挙動が不安定になるため、自車両1が車線境界を逸脱するリスクが存在する。しかし、操舵による第1ヨーモーメントのみによって要求ヨーモーメントMrを発生しようとすると、車速は低下しないので車線境界2Rを逸脱するリスクが下がらない。
したがってこのような状況では、第1ヨーモーメントに代えて又は加えて、減速を伴う第2ヨーモーメントを発生させることが好ましい。
【0029】
そこで、実施形態の車体挙動制御部21は、自車両1が走行する車線の車線境界を認識し、自車両1が車線境界を逸脱するまでの余裕距離である逸脱余裕距離xbを算出する。
車体挙動制御部21は、操舵による第1ヨーモーメントと車輪制動による第2ヨーモーメントとを逸脱余裕距離xbに応じた配分比で配分して要求ヨーモーメントMrを発生させ、逸脱余裕距離xbが短いほど第2ヨーモーメントの配分比をより高くする。
【0030】
これにより、逸脱余裕距離xbがより短く車線境界を逸脱するリスクがより高い場合ほど、制動を伴う第2ヨーモーメントが要求ヨーモーメントMrに占める割合を大きくすることができる。
この結果、車速を低下させることができるので、自車両1が車線から逸脱するリスクを低減できる。
【0031】
続いて
図3を参照して、車体挙動制御部21の機能を詳しく説明する。以下、自車両1の操舵装置が前輪及び後輪の両方を操舵可能である場合、すなわち四輪操舵(4WS:4 Wheel Steering)が可能である場合について説明するが、後述するように二輪操舵(2WS:2 Wheel Steering)の操舵装置を備える場合についても同様に本発明を適用可能である。
【0032】
車体挙動制御部21は、目標ヨーモーメント算出部30と、車輪横力算出部31と、横力制限部32と、逸脱余裕距離算出部33と、配分部34と、加算器35及び36と、操舵角算出部37と、制動力算出部38を備える。
目標ヨーモーメント算出部30は、目標横力Fyに基づいて自車両1に付与すべき目標ヨーモーメントMtを算出する。
【0033】
例えば、目標ヨーモーメント算出部30は、自車両1に目標横力Fyが付与され目標走行軌道上を自車両1が走行する目標姿勢、すなわち目標ヨー角を算出してよい。目標ヨーモーメント算出部30は、自車両1の姿勢を目標姿勢とする目標ヨーモーメントMtを算出してよい。
または、目標ヨーモーメント算出部30は、自車両1の前後軸方向が目標走行軌道の接線方向となるように自車両の目標姿勢を算出し、自車両1の姿勢を目標姿勢とする目標ヨーモーメントMtを算出してよい。
【0034】
車輪横力算出部31は、目標横力Fyと目標ヨーモーメントMtとを自車両1に付与するのに要する前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrを算出する。例えば、自車両1の車両運動モデルに基づいて、前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrを算出してよい。
横力制限部32は、自車両1の前輪及び後輪に掛かる荷重と、自車両1が走行する走路の摩擦係数に基づいて自車両1の前輪及び後輪の摩擦限界を算出する。
【0035】
前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超える場合には、横力制限部32は前輪に発生させる目標横力を摩擦限界の値に限定して、前輪の摩擦限界の値を基本目標前輪横力Fyf0として出力する。前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超えない場合には、前輪横力Fyfをそのまま基本目標前輪横力Fyf0として出力する。
また、後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超える場合には、横力制限部32は後輪に発生させる目標横力を摩擦限界の値に限定して、後輪の摩擦限界の値を基本目標後輪横力Fyr0として出力する。後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超えない場合には、後輪横力Fyrをそのまま基本目標後輪横力Fyr0として出力する。
【0036】
ここで、前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超える場合には、基本目標前輪横力Fyf0及び基本目標後輪横力Fyr0をそれぞれ前輪及び後輪に発生させても、自車両1に発生するヨーモーメントが目標ヨーモーメントMtよりも小さくなる。すなわちヨーモーメントが不足する。
この場合に横力制限部32は、前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超えたために不足するヨーモーメントを要求ヨーモーメントMrとして算出して、配分部34へ出力する。
【0037】
一方で、後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超える場合には、基本目標前輪横力Fyf0及び基本目標後輪横力Fyr0をそれぞれ前輪及び後輪に発生させると、自車両1に発生するヨーモーメントが目標ヨーモーメントMtよりも大きくなる。すなわち余剰ヨーモーメントが発生する。
この場合に横力制限部32は、後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超えたために余剰となるヨーモーメントを打ち消すヨーモーメントを要求ヨーモーメントMrとして算出して、配分部34へ出力する。
【0038】
逸脱余裕距離算出部33は、自車両1の周囲の車線境界を認識した車線境界情報を自動運転制御部20から入力し、車線境界情報に基づいて逸脱余裕距離xbを算出する。
配分部34は、要求ヨーモーメントMrとして発生すべきヨーモーメント成分を、操舵による第1ヨーモーメントMb1と、車輪制動による第2ヨーモーメントMb2とに配分する。
【0039】
配分部34は、第1ヨーモーメントMb1と第2ヨーモーメントMb2との間の配分比を、逸脱余裕距離xbに応じて設定し、逸脱余裕距離xbが短いほど第2ヨーモーメントMb2の配分比をより高くする。
例えば、配分部34は、逸脱余裕距離xbと自車両1の車速vと路面の摩擦係数μと重力加速度gに基づいて、次式(1)で求められる第2ヨーモーメントMb2の配分比κを算出してよい。
κ=v2/(2×μ×g×xb) …(1)
【0040】
上式(1)で算出される配分比κは、0から1までの範囲の値となるように正規化されている。このため、配分部34は、第1ヨーモーメントMb1と第2ヨーモーメントMb2との間の配分比(Mb1:Mb2)を次式(2)のように設定する。
Mb1:Mb2=(1-κ):κ …(2)
【0041】
すなわち、配分部34は次式(3)及び(4)により第1ヨーモーメントMb1と第2ヨーモーメントMb2を算出する。
Mb1=(1-κ)×Mr …(3)
Mb2=κ×Mr …(4)
【0042】
配分部34は、自車両1の車両運動モデルに基づいて、自車両1に第1ヨーモーメントMb1を付与するのに要する前輪横力及び後輪横力を、それぞれ補正前輪横力Frf及び補正後輪横力Frrとして算出する。
加算器35及び36は、基本目標前輪横力Fyf0及び基本目標後輪横力Fyr0に補正前輪横力Frf及び補正後輪横力Frrをそれぞれ加算して、目標前輪横力Fyf1及び目標後輪横力Fyr1を算出する。
【0043】
操舵角算出部37は、目標前輪横力Fyf1及び目標後輪横力Fyr1をそれぞれ発生させる前輪及び後輪の目標操舵角を算出する。アクチュエータ18に含まれる操舵アクチュエータは、自車両1の前輪及び後輪の操舵角が目標操舵角となるように、前輪及び後輪を操舵する。
制動力算出部38は、自車両1に第2ヨーモーメントMb2を発生させる左右前輪及び左右後輪の各々の目標制動力を算出する。アクチュエータ18に含まれるブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の左右前輪及び左右後輪の各々の制動力が目標制動力となるように、自車両1の制動装置を制御する。
【0044】
(動作)
次に、
図4を参照して、実施形態の車両走行支援方法の一例を説明する。
ステップS1において自動運転制御部20は、物体センサ11の検出結果に応じて自車両1の周囲の環境である周囲環境を認識する。
ステップS2において自動運転制御部20は、周囲環境に基づいて自車両1の目標走行軌道を算出する。
ステップS3において自動運転制御部20は、自車両1が目標走行軌道上を走行するために、自車両1に付与すべき目標横力Fyを算出する。
【0045】
ステップS4において車体挙動制御部21の目標ヨーモーメント算出部30は、自車両1に目標横力Fyを付与して目標走行軌道上を自車両1が走行するための自車両1の目標姿勢を算出する。
ステップS5において目標ヨーモーメント算出部30は、自車両1の姿勢を目標姿勢とする目標ヨーモーメントMtを算出する。
【0046】
ステップS6において車輪横力算出部31は、自車両1に目標横力Fyと目標ヨーモーメントMtを付与するのに要する前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrを算出する
ステップS7において横力制限部32は、自車両1の前輪及び後輪に掛かる荷重と、自車両1が走行する走路の摩擦係数に基づいて自車両1の前輪及び後輪の摩擦限界を算出する。横力制限部32は、前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrを摩擦限界で制限して、基本目標前輪横力Fyf0及び基本目標後輪横力Fyr0を算出する。
【0047】
ステップS8において横力制限部32は、前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超えたために不足するヨーモーメント、又は後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超えたために余剰となるヨーモーメントを打ち消すヨーモーメントを、要求ヨーモーメントMrとして算出する。
ステップS9において逸脱余裕距離算出部33は、自動運転制御部20が認識した車線境界情報に基づいて逸脱余裕距離xbを算出する。
【0048】
ステップS10において配分部34は、要求ヨーモーメントMrとして発生すべきヨーモーメント成分を、操舵による第1ヨーモーメントMb1と、車輪制動による第2ヨーモーメントMb2とに配分する配分比κを算出する。
ステップS11において配分部34は、要求ヨーモーメントMrを配分比κで配分して、第1ヨーモーメントMb1及び第2ヨーモーメントMb2を算出する。
【0049】
ステップS12において配分部34は、自車両1に第1ヨーモーメントMb1を付与するのに要する補正前輪横力Frr及び補正後輪横力Frfを算出する。加算器35及び36は、基本目標前輪横力Fyf0及び基本目標後輪横力Fyr0に補正前輪横力Frr及び補正後輪横力Frfをそれぞれ加算して、目標前輪横力Fyf1及び目標後輪横力Fyr1を算出する。
【0050】
ステップS13において操舵角算出部37は、目標前輪横力Fyf1及び目標後輪横力Fyr1をそれぞれ発生させる前輪及び後輪の目標操舵角を算出する。制動力算出部38は、自車両1に第2ヨーモーメントMb2を発生させる左右前輪及び左右後輪の各々の目標制動力を算出する。
【0051】
ステップS14において、アクチュエータ18は、自車両1の前輪及び後輪の操舵角が目標操舵角となるように、前輪及び後輪を操舵する。また、自車両1の左右前輪及び左右後輪の各々の制動力が目標制動力となるように、自車両1の制動装置を制御する。
その後に処理は終了する。
【0052】
(変形例)
(1)上記説明では、自車両1が四輪操舵可能な操舵装置を備える場合について説明したが、本発明は、自車両1が前輪の操舵が可能な(すなわち二輪操舵可能な)操舵装置を備える場合についても適用可能である。
例えば、前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超える場合には、後輪の左右制動力を制御して第2ヨーモーメントMb2を発生することにより、不足したヨーモーメントを補う要求ヨーモーメントMrを発生させてよい。
また、後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超える場合には、前輪操舵による第1ヨーモーメントMb1と前輪制動による第2ヨーモーメントMb2とを発生することにより、余剰ヨーモーメントを打ち消す要求ヨーモーメントMrを発生させてよい。
【0053】
(2)上記説明では、前輪横力Fyf又は後輪横力Fyrが摩擦限界を超えた場合の不足モーメントを補うヨーモーメント又は余剰ヨーモーメントを打ち消すヨーモーメントを、要求ヨーモーメントMrとして発生させる場合について説明した。
これに代えて、自車両1の姿勢を目標姿勢とする目標ヨーモーメントMtを要求ヨーモーメントとしてもよい。
【0054】
すなわち、操舵による第1ヨーモーメントMb1と車輪制動による第2ヨーモーメントMb2とを逸脱余裕距離xbに応じた配分比で配分して目標ヨーモーメントMtを発生させ、逸脱余裕距離xbが短いほど第2ヨーモーメントMb2の配分比をより高くしてもよい。
【0055】
(実施形態の効果)
(1)自動運転制御部20は、自車両1の周囲の環境である周囲環境を認識して、周囲環境に基づいて自車両1の目標走行軌道を算出する。目標ヨーモーメント算出部30は、目標走行軌道上の自車両1の目標姿勢を算出する。
横力制限部32又は目標ヨーモーメント算出部30は、目標姿勢を実現するための要求ヨーモーメントMrを算出する。自動運転制御部20は、自車両1が走行する車線の車線境界を認識する。逸脱余裕距離算出部33は、自車両1が車線境界を逸脱するまでの余裕距離である逸脱余裕距離xbを算出する。
【0056】
配分部34と、加算器35及び36と、操舵角算出部37と、制動力算出部38と、アクチュエータ18は、操舵による第1ヨーモーメントMb1と車輪制動による第2ヨーモーメントMb2とを逸脱余裕距離xbに応じた配分比(1-κ):κで配分して要求ヨーモーメントMrを発生させる。配分部34は、逸脱余裕距離が短いほど第2ヨーモーメントMb2の配分比κをより高くする。
【0057】
これにより、逸脱余裕距離xbが短く、車線境界を逸脱するリスクが高い場合に、車速を低下させることができるので、自車両1が車線から逸脱するリスクを低減できる。例えば、車両の挙動が不安定になり、自車両1が車線から逸脱する可能性が発生した場合に、車速の低下により逸脱余裕時間を長くすることができるので、元の目標走行軌道に復元する可能性を高めることができる。
【0058】
また、車線境界を逸脱するリスクが低い場合には、操舵による第1ヨーモーメントMb1を発生させることで、車速を低下させることなく必要なヨーモーメントを得ることができる。
このように、逸脱余裕距離xbに応じて操舵による第1ヨーモーメントMb1と車輪制動による第2ヨーモーメントMb2を使い分けることにより、目標走行軌道に沿って走行しているうちから車両挙動が不安定になることに対して備えることができ、車両挙動が不安定になったとしても、事前に適切な制御を実行することで元の目標走行軌道に復帰させやすくなる。
【0059】
(2)車輪横力算出部31は、目標姿勢を実現する前輪横力Fyfを算出してよい。横力制限部32は、前輪横力Fyfが前輪の摩擦限界を超えたために不足するヨーモーメントを、要求ヨーモーメントMrとして算出してよい。
これにより、逸脱余裕距離xbが短いほどより高い配分比で第2ヨーモーメントMb2を配分して、車両挙動の安定化のための要求ヨーモーメントMrを発生させることができる。
【0060】
(3)車輪横力算出部31は、目標姿勢を実現する後輪横力Fyrを算出してよい。横力制限部32は、後輪横力Fyrが後輪の摩擦限界を超えたために余剰となるヨーモーメントを打ち消すヨーモーメントを、要求ヨーモーメントMrとして算出してよい。
これにより、逸脱余裕距離xbが短いほどより高い配分比で第2ヨーモーメントMb2を配分して、車両挙動の安定化のための要求ヨーモーメントMrを発生させることができる。
【0061】
(4)配分部34は、逸脱余裕距離xbと自車両1の車速と路面の摩擦係数とに基づいて配分比κを算出してよい。
これにより、第2ヨーモーメントMb2の配分比κを、0から1までの範囲の正規化された値として算出することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…自車両、10…走行支援装置、11…物体センサ、12…車両センサ、13…測位装置、14…地図データベース、15…ナビゲーション装置、16…通信装置、17…コントローラ、18…アクチュエータ、20…自動運転制御部、21…車体挙動制御部、30…目標ヨーモーメント算出部、31…車輪横力算出部、32…横力制限部、33…逸脱余裕距離算出部、34…配分部、35、36…加算器、37…操舵角算出部、38…制動力算出部