(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】ロードビームを有するディスク装置用サスペンション
(51)【国際特許分類】
G11B 21/21 20060101AFI20240708BHJP
G11B 5/48 20060101ALI20240708BHJP
B21D 19/08 20060101ALI20240708BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G11B21/21 C
G11B5/48 D
B21D19/08 B
B21D24/00 H
(21)【出願番号】P 2020097086
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】暮林 壮介
(72)【発明者】
【氏名】三森 洋平
(72)【発明者】
【氏名】岩本 直己
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-225358(JP,A)
【文献】特開2011-023060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0106005(US,A1)
【文献】特開2012-216270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 21/21
G11B 5/48
B21D 19/08
B21D 22/00 - 26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロードビームとフレキシャとを有するディスク装置用サスペンションであって、
前記ロードビームが、
ロードビーム本体部と、
前記フレキシャと前記ロードビーム本体部とを互いに固定する溶接部と、
前記ロードビーム本体部の両側部に形成され、それぞれ前記ロードビーム本体部の長さ方向に延びる第1の曲げ部
を含み、前記ロードビーム本体部の厚さ方向に関して第1の方向に曲がる一対のフランジ曲げ部と、
前記フランジ曲げ部間に形成され
、前記第1の方向に曲がりかつ前記ロードビーム本体部の幅方向に延びる第2の曲げ部と、
前記溶接部を通って前記ロードビーム本体部の幅方向に延び、前記フランジ曲げ部に近付くにつれて
前記第1の方向とは反対側の第2の方向に反り上がる形状の第1の断面部と、
前記溶接部とは異なる位置を通
り前記第2の曲げ部に沿って前記幅方向に延び、
前記溶接部よりも前記ロードビームの前側に位置し、前記第1の断面部と比較して平坦に近い形状でかつ前記第1の断面部と比較して高低差が小さい第2の断面部と、
を具備したことを特徴とするディスク装置用サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロードビームを有するディスク装置用サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ等の情報処理装置にディスク装置が使用されている。ディスク装置は、スピンドルを中心に回転する磁気ディスクと、ピボット軸を中心に旋回するキャリッジなどを含んでいる。キャリッジのアームにディスク装置用サスペンションが設けられている。
【0003】
ディスク装置用サスペンションは、ベースプレートと、ロードビーム(load beam)と、ロードビームに沿って配置されたフレキシャ(flexure)などを備えている。フレキシャの先端付近に形成されたジンバル部に、スライダが設けられている。スライダには、ディスクに記録されたデータの読取りや書込み等のアクセスを行なうための素子が設けられている。従来のサスペンションの一例が特許文献1あるいは特許文献2に記載されている。
【0004】
前記ロードビームはステンレス鋼等の金属板からなる。ロードビームは、ほぼ平坦なロードビーム本体部と、ロードビーム本体部の両側部に形成された一対のフランジ曲げ部とを有している。一対のフランジ曲げ部はそれぞれロードビームの長さ方向に延びている。これらフランジ曲げ部は、ロードビームの両側部をそれぞれ第1の曲げ部において厚さ方向にほぼ直角に曲げることにより形成されている。特許文献3に記載されているように、フランジ曲げ部を有するワークをプレス成形したときにワークが長手方向に僅かに反ることも知られている。
【0005】
サスペンションの仕様によっては、前記ロードビームの長さ方向中間部に、ロードビームの幅方向に延びる第2の曲げ部が形成されることがある。第2の曲げ部はサグ(sag)曲げ部と称されることもある。第2の曲げ部は、前記ロードビームの長さ方向の中間部を厚さ方向に僅かな角度(たとえば数°程度)曲げることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2014/0268427号明細書
【文献】特開2003-151232号公報
【文献】特開2005-177790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記ロードビームを製造する際に、第1の金型セットによって前記フランジ曲げ部が形成される。そののち第2の金型セットによって前記第2の曲げ部が形成される。ロードビームは高い精度が要求されるが、曲げ加工されたロードビームの形状を鋭意検査したところ、改善すべき問題が見いだされた。
【0008】
たとえば一対のフランジ曲げ部を有するロードビームの幅方向に沿う断面を検査したところ、第2の曲げ部が形成される前は、ロードビームの形状に特に問題はなかった。しかし第2の曲げ部が形成されたのちは、フランジ曲げ部付近が反り上がる変形が生じていることがわかった。
【0009】
ロードビームのフランジ曲げ部付近が反り上がっていると、ロードビームの表面にフレキシャが配置されたアッセンブリ状態において不具合が生じる。たとえばロードビームとフレキシャとの間の距離が不均一となり、両者間に不均一な接触が生じる原因となる。このことはフレキシャのジンバル運動に悪影響を与えたり、フレキシャとロードビームとの摩擦により微小な金属粒子が生じることがあるため好ましくない。
【0010】
従って本発明の目的は、ロードビームの形状(特に幅方向の断面)が改善されたディスク装置用サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの実施形態は、ロードビームとフレキシャとを有するディスク装置用サスペンションであって、前記ロードビームが、ロードビーム本体部と、前記フレキシャと前記ロードビーム本体部とを互いに固定する溶接部と、前記ロードビーム本体部の両側部に形成されそれぞれ前記ロードビーム本体部の長さ方向に延びる第1の曲げ部を含み前記ロードビーム本体部の厚さ方向に関して第1の方向に曲がる一対のフランジ曲げ部と、前記フランジ曲げ部間に形成され前記第1の方向に曲がりかつ前記ロードビーム本体部の幅方向に延びる第2の曲げ部と、第1の断面部と、第2の断面部とを具備している。
【0012】
前記第1の断面部は、前記溶接部を通って前記ロードビーム本体部の幅方向に延び、前記フランジ曲げ部に近付くにつれて前記第1の方向とは反対側の第2の方向に反り上がる形状である。前記第2の断面部は、前記溶接部とは異なる位置を通り前記第2の曲げ部に沿って前記幅方向に延び、前記溶接部よりも前記ロードビームの前側に位置し、前記第1の断面部と比較して平坦に近い形状でかつ前記第1の断面部と比較して高低差が小さい。
【0013】
1つの実施形態に係る金型セットは、ダイと、パッドと、パンチとを具備している。前記ダイは、前記ワークの長さ方向の第1の部分を支持する。前記パッドは、前記ワークを前記ダイとの間で挟む加圧面を有している。前記パンチは、前記ダイと前記パッドとの間に前記ワークの前記第1の部分が挟まれた状態において、前記ワークの長さ方向の第2の部分を前記ワークの厚さ方向に加圧する。
【0014】
前記ダイは、前記ワークを支持する平坦な支持面と、第1の逃げ部と、第2の逃げ部とを有している。前記第1の逃げ部は第1の斜面からなり、前記第2の逃げ部は第2の斜面からなる。前記第1の斜面は、前記支持面の幅方向の一方の端から前記ダイの一方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる。前記第2の斜面は、前記支持面の幅方向の他方の端から前記ダイの他方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる。
【0015】
本実施形態の金型セットにおいて、前記パッドの前記加圧面の一方の側部付近に、前記第1の逃げ部と対向する第1の凸部を有し、前記加圧面の他方の側部付近に、前記第2の逃げ部と対向する第2の凸部を有してもよい。また前記ダイの先端部に、前記ダイの先端面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第3の斜面からなる第3の逃げ部を有してもよい。
【0016】
1つの実施形態に係るロードビームの製造方法は、前記金型セットによって前記第2の曲げ部を形成する。すなわち前記ダイと前記パッドとの間に前記ワークの前記第1の部分が挟まれた状態において、前記ダイの前記第1の斜面と前記ワークとの間に第1の隙間を形成し、前記ダイの前記第2の斜面と前記ワークとの間に第2の隙間を形成し、前記ワークの前記第2の部分を厚さ方向に加圧することにより、前記第2の曲げ部を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るロードビームの前記第1の断面部は、フランジ曲げ部に近付くにつれて反り上がる形状である。しかし第1の断面部は、溶接部を介してフレキシャが固定されるため、ロードビームとフレキシャとの間の距離が不安定になることが回避される。前記溶接部とは異なる位置を通る第2の断面部は、第1の断面部と比較して高低差が小さく平坦に近い形状である。このためロードビームとフレキシャとの間の距離がばらつくことが抑制され、フレキシャとロードビームとが不安定に接することが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図1に示されたディスク装置の一部の断面図。
【
図3】1つの実施形態に係るディスク装置用サスペンションの平面図。
【
図4】
図1に示されたサスペンションのロードビームの斜視図。
【
図5】
図4に示されたロードビームの幅方向に沿う断面の位置と高さとの関係を表した図。
【
図7】フランジ曲げ部が形成された前記ワークの斜視図。
【
図9】
図8に示された金型セットとワークの断面図。
【
図10】
図9中のF10-F10線に沿う金型セットの断面図。
【
図11】第2の実施形態に係る金型セットの一部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に1つの実施形態に係るロードビームを備えたディスク装置用サスペンション(これ以降は単にサスペンションと称す)について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1に示されたディスク装置(ハードディスク装置)1は、ケース2と、スピンドル3を中心に回転するディスク(磁気ディスク)4と、ピボット軸5を中心に旋回するキャリッジ6と、キャリッジ6を旋回させるポジショニング用モータ7とを有している。ケース2は図示しない蓋によって密閉される。
【0020】
図2は、ディスク装置1の一部を模式的に示した断面図である。キャリッジ6にアーム8が設けられている。アーム8の先端部にサスペンション10が取付けられている。サスペンション10の先端部付近に、磁気ヘッドを構成するスライダ11が設けられている。ディスク4が回転すると、ディスク4とスライダ11との間にエアベアリングが形成される。スライダ11には、ディスク4にデータを記録するための素子と、ディスク4に記録されたデータを読取るための素子とが設けられている。
【0021】
図3はサスペンション10の一例を示した平面図である。サスペンション10は、ベースプレート15と、ロードビーム16と、フレキシャ20などを含んでいる。フレキシャ20の先端部にスライダ11が配置されている。ベースプレート15のボス部15aは、キャリッジのアーム8(
図1と
図2に示す)に固定される。ロードビーム16はステンレス鋼の板からなる。
【0022】
図3に示されたようにフレキシャ20は、ロードビーム16に重なる部分21と、ベースプレート15の後方に延びるフレキシャテール22などを備えている。フレキシャテール22はテールパッド部22aを含んでいる。テールパッド部22aには、アンプ等の電子機器接続される端子(テール電極)25が配置されている。
【0023】
フレキシャ20は、ロードビーム16よりも薄いステンレス鋼の板からなるメタルベース30(
図3に一部を示す)と、メタルベース30に沿って配置された配線部31とを含んでいる。フレキシャ20のメタルベース30は、レーザスポット溶接等の溶接部32,33によってロードビーム16に固定されている。
【0024】
以下にロードビーム16の1つの実施形態について説明する。
図4に示されたロードビーム16は、ほぼ平坦なロードビーム本体部40と、ロードビーム本体部40の両側部に形成された第1の曲げ部41,42からなるフランジ曲げ部43,44と、ロードビーム本体部40の幅方向に延びる第2の曲げ部50とを含んでいる。
図4中の両方向矢印X1はロードビーム16の長さ方向を示し、両方向矢印Y1はロードビーム16の幅方向を示している。
【0025】
第1の曲げ部41,42からなるフランジ曲げ部43,44は、それぞれロードビーム16の長さ方向に延びている。第2の曲げ部50はロードビーム16の幅方向に延びている。第2の曲げ部50は、ロードビーム本体部40の長さ方向の中間部を、厚さ方向に曲げることにより形成されている。
【0026】
ロードビーム16の先端部51とロードビーム本体部40との間に、段差部52が形成されている。この明細書では、第2の曲げ部50を境に先端部51に近い側を「ロードビームの前側」と称し、先端部51から遠い側を「ロードビームの後側」と称すことがある。ロードビーム本体部40に開口部53が形成されている。
【0027】
図3に示されたように、ロードビーム16とフレキシャ20とは、レーザスポット溶接等の溶接部32,33によって互いに固定される。溶接部32,33は、一対のフランジ曲げ部43,44間に形成されている。
図4に示されたように溶接部32,33は、互いにロードビーム16の幅方向に距離L1だけ互いに離れている。しかも溶接部32,33は、第2の曲げ部50からロードビーム16の後側に距離L2だけ離れている。
【0028】
図5は、ロードビーム16の幅方向に沿う2か所の断面(第1の断面部55と、第2の断面部56)のそれぞれの高さを、検出器によって検出した結果を示している。
図5の横軸が幅方向の位置、縦軸が高さである。
【0029】
図5中の線A1は、
図4中のF1-F1線に沿う第1の断面部55の表面の高さを示している。第1の断面部55は溶接部32,33を通り、ロードビーム16の幅方向に延びている。
図5中の両方向矢印X2は開口部53に相当する領域であるため、高さは検出されていない。
【0030】
図5中に線A1で示されたように、第1の断面部55はフランジ曲げ部43,44に近付くにつれて反り上がる形状となっている。第1の断面部55は、第2の断面部56と比較して高低差が大きい。ロードビーム16とフレキシャ20とは、溶接部32,33を介して互いに固定される。このため第1の断面部55の高低差が大きくても、ロードビーム16とフレキシャ20との間の距離が不安定になることはない。
【0031】
図5中の線A2は、
図4中のF2-F2線に沿う第2の断面部56の表面の高さを示している。第2の断面部56は溶接部32,33とは異なる位置(溶接部32,33の前側)を通り、第2の曲げ部50に沿ってロードビームの幅方向に延びている。
【0032】
図5中に線A2で示されたように、第2の断面部56は、第1の断面部55と比較して高さの変化が小さく(2~3μm以内)、実質的に平坦となっている。このためロードビーム16とフレキシャ20とが互いに固定されたアセンブリ状態において、ロードビーム16とフレキシャ20との間の距離のばらつきが小さい。このためロードビーム16とフレキシャ20とが不安定に接触することが回避される。
【0033】
図5中の2点鎖線A3は、比較例のロードビームの断面(本実施形態の第2の断面部56に相当)の高さを示している。この比較例は、従来のダイを用いて第2の曲げ部50を曲げた場合である。
図5中の2点鎖線A3に示されたように、比較例の断面は、フランジ曲げ部43,44に近付くにつれて大きく反り上がり、反り上がりの高さが5μmを越えている。このためロードビームとフレキシャとが互いに固定されたアセンブリ状態において、ロードビームとフレキシャとの間の距離のばらつきが大きく、ロードビームとフレキシャとが不安定に接触することがある。
【0034】
以下に、本実施形態のロードビーム16を製造する際に用いる金型セット60と、ロードビーム16の製造方法について説明する。
図6は、ロードビーム16を製造する途中の中間成品(ワークWと称す)を示している。曲げ加工前のワークWは平坦である。ワークWの長さ方向は、ロードビーム16の長さ方向(
図5に両方向矢印X1で示す)に相当する。ワークWの幅方向は、ロードビーム16の幅方向(
図5に両方向矢印Y1で示す)に相当する。
【0035】
図7は、第1の曲げ加工によってフランジ曲げ部43,44が形成されたワークWを示している。第1の曲げ加工では、ワークWの両側部を金型によってほぼ直角に曲げることにより、第1の曲げ部41,42からなるフランジ曲げ部43,44が形成される。さらにロードビーム16の先端部51をプレスによって成形するとともに、段差部52が形成される。
【0036】
第2の曲げ加工では、フランジ曲げ部43,44を有するワークWの長さ方向の中間部を、以下に説明する金型セット60を用いて曲げることにより、第2の曲げ部50が形成される。ワークWは、第2の曲げ部50を境に、ロードビーム16の後側に相当する第1の部分W1と、ロードビーム16の前側に相当する第2の部分W2とを含んでいる。
【0037】
図8は、第2の曲げ部50を曲げる際に使用する金型セット60を示している。
図9は金型セット60とワークWの断面図である。
図10は、
図9中のF10-F10線に沿う金型セット60とワークWの断面図である。
【0038】
金型セット60は、ダイ61と、パッド62と、パンチ63(
図9に2点鎖線で示す)とを有している。ダイ61にワークWの第1の部分W1が載置される。パッド62はダイ61の上方に配置され、駆動機構によって上下方向に移動する。パッド62の下面側に加圧面65が形成されている。加圧面65は平坦であり、水平方向に延びている。
【0039】
第2の曲げ加工では、
図9と
図10に示されたように、ダイ61とパッド62との間でワークWの第1の部分W1が挟まれる。この状態のもとで、パンチ63が駆動機構によって矢印Z1(
図9に示す)で示す方向に移動することにより、ワークWの第1の部分W1と第2の部分W2との間に、第2の曲げ部50が形成される。
【0040】
ダイ61の上面は、水平方向に延びる平坦な支持面70と、支持面70の両側に形成された逃げ部71,72とを有している。第1の逃げ部71は第1の斜面73からなる。第1の斜面73は、ダイ61の一方の側面61aに沿って、ダイ61の前後方向に延びている。第2の逃げ部72は第2の斜面74からなる。第2の斜面74は、ダイ61の他方の側面61bに沿って、ダイ61の前後方向に延びている。
【0041】
第1の斜面73は、支持面70の幅方向の一方の端からダイ61の一方の側面61aに向かって下がり勾配となっている。すなわち第1の斜面73は、ダイ61の一方の側面61aに近付くにつれて、パッド62の加圧面65からの距離が大きくなるように傾斜している。第2の斜面74は、支持面70の幅方向の他方の端からダイ61の他方の側面61bに向かって下がり勾配となっている。すなわち第2の斜面74は、ダイ61の他方の側面61bに近付くにつれて、パッド62の加圧面65からの距離が大きくなるように傾斜している。
【0042】
図10に示すように第1の斜面73は、ダイ61の支持面70の一方の端から、一方の側面61aに向かって幅L3にわたり形成されている。第2の斜面74は、ダイ61の支持面70の他方の端から他方の側面61bに向かって、幅L4にわたり形成されている。これら斜面73,74のそれぞれの始点73a,74a(支持面70との境界)は、
図5に2点鎖線A3で示された比較例のロードビームの断面において、反りが大きくなり始める位置P1,P2付近が望ましい。
【0043】
第1の斜面73と第2の斜面74とは、それぞれ、ダイ61の側面61a,61bに近付くにつれて加圧面65からの距離が増加する弧形の曲面からなる。ただし斜面73,74は、それぞれ、支持面70からダイ61の側面61a,61bに向かって高さが直線的に小さくなるような斜面であってもよい。
【0044】
図10に示すように逃げ部71,72の深さL5,L6は、
図5に2点鎖線A3で示された比較例のロードビームの反り上がり量よりも大きい。逃げ部71,72の深さL5,L6は、ワークWの厚さT1(
図10に示す)よりも大きく、
図5に2点鎖線A3で示された比較例のロードビームの反り上がり量の2倍以上がよい。逃げ部71,72の幅L3,L4は、逃げ部71,72の深さL5,L6よりも大きい。逃げ部71,72の幅L3,L4は、たとえば逃げ部71,72の深さL5,L6の5倍から10倍である。
【0045】
図10に示されたように、ダイ61の支持面70とパッド62の加圧面65との間にワークWの第1の部分W1が挟まれると、第1の斜面73とワークWとの間に第1の隙間G1が形成される。また第2の斜面74とワークWとの間に第2の隙間G2が形成される。
【0046】
ワークWの第1の部分W1がダイ61とパッド62との間に挟まれた状態において、パンチ63(
図9に示す)が矢印Z1で示す方向に移動する。ワークWの第2の部分W2がパンチ63によってワークWの厚さ方向に加圧されることにより、ワークWの第2の部分W2が曲がる。こうして第1の部分W1と第2の部分W2との間に第2の曲げ部50が形成される。
【0047】
第2の曲げ部50が形成されたのち、パンチ63がワークWの第2の部分W2から離れる。パンチ63が第2の部分W2から離れると、ワークWは多少のスプリングバックによって元の形状に戻ろうとする。しかしワークWの第1の部分W1は、ダイ61の支持面70とパッド62の加圧面65との間で拘束されている。支持面70の両側に逃げ部71,72が形成されているため、フランジ曲げ部43,44の近傍は拘束されていない。このような状態のもとで第2の曲げ部50が形成されたのち、パンチ63がワークWから離れる。
【0048】
本実施形態の金型セット60のダイ61は、支持面70の両側に下がり勾配の斜面73,74からなる逃げ部71,72を有しているため、フランジ曲げ部43,44付近に隙間G1,G2が形成される。このような逃げ部71,72を有するダイ61を用いて第2の曲げ部50を形成したことにより、
図5に線A2で示されたように第2の断面部56がフランジ曲げ部付近で反り上がる現象を回避することができた。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のロードビーム16の製造方法は第1の曲げ工程と第2の曲げ工程とを含んでいる。
(1)第1の曲げ工程では、ワークWの両側部に第1の曲げ部41,42からなるフランジ曲げ部43,44を形成する。
(2)第1の曲げ加工が行われたのち、第2の曲げ加工が行われる。第2の曲げ加工では、フランジ曲げ部43,44が形成されたワークWの長さ方向の第1の部分W1を、ダイ61の支持面70とパッド62の加圧面65との間で挟む。ダイ61とパッド62との間にワークWが挟まれると、第1の逃げ部71とワークWとの間に第1の隙間G1が形成され、第2の逃げ部72とワークWとの間に第2の隙間G2が形成される。
(3)ダイ61とパッド62との間にワークWが挟まれた状態のもとで、ワークWの第2の部分W2をパンチ63によって厚さ方向に加圧することにより、第2の曲げ部50が形成される。その直後にパンチ63がワークWから離れる。
【0050】
図11は第2の実施形態に係る金型セット60Aを示している。本実施形態の金型セット60Aもダイ61Aとパッド62Aとを含んでいる。ダイ61Aの先端部、すなわち第2の曲げ部50を曲げる際の支点となる箇所に、第3の逃げ部80が形成されている。第3の逃げ部80の長さL7は、ワークの厚さの10倍以上である。第3の逃げ部80は第3の斜面81からなる。第3の斜面81はダイ61Aの幅方向に延びている。第3の斜面81は、ダイ61Aの支持面70からダイ61Aの先端面82に近付くにつれてパッド62Aの加圧面65からの距離が大きくなる。
【0051】
図11に示されたパッド62Aは、加圧面65の一方の側部付近に、第1の逃げ部71と対向する凸部90を有している。加圧面65の他方の側部付近に、第2の逃げ部72と対向する凸部91を有している。これらの凸部90,91は、逃げ部71,72の斜面73,74と対応した形状である。それ以外の構成と作用について、第2の実施形態の金型セット60Aは第1の実施形態の金型セット60(
図8から
図10に示す)と共通であるため、両者に共通の箇所に共通の符号を付して説明は省略する。
【0052】
なお本発明を実施するに当たり、サスペンションを構成するロードビームやフレキシャの具体的な形状や構成をはじめとして、金型セットを構成するダイやパッド、パンチ等を種々に変更して実施できることは言うまでもない。
[付記1]
ロードビーム用のワークを曲げるための金型セットは、
前記ワークの長さ方向の第1の部分を支持するダイと、
前記ワークを前記ダイとの間で挟む加圧面を有したパッドと、
前記ダイと前記パッドとの間に前記ワークの前記第1の部分が挟まれた状態において前記ワークの長さ方向の第2の部分を前記ワークの厚さ方向に加圧するパンチとを具備し、
前記ダイが、
前記ワークを支持する平坦な支持面と、
前記支持面の幅方向の一方の端から前記ダイの一方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第1の斜面からなる第1の逃げ部と、
前記支持面の幅方向の他方の端から前記ダイの他方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第2の斜面からなる第2の逃げ部と、
を有したことを特徴とするロードビームのための金型セットである。
前記金型セットにおいて、前記パッドの前記加圧面の一方の側部付近に、前記第1の逃げ部と対向する第1の凸部を有し、前記加圧面の他方の側部付近に、前記第2の逃げ部と対向する第2の凸部を有してもよい。
前記金型セットにおいて、前記ダイの先端部に、前記ダイの先端面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第3の斜面からなる第3の逃げ部を有してもよい。
[付記2]
ロードビームの製造方法は、
ロードビーム用のワークの両側部にそれぞれ前記ワークの長さ方向に延びる第1の曲げ部からなるフランジ曲げ部を形成し、
前記フランジ曲げ部が形成された前記ワークの長さ方向の第1の部分をダイとパッドとの間で挟み、
前記ワークの長さ方向の第2の部分を厚さ方向に加圧することにより、前記第1の部分と前記第2の部分との間に前記ワークの幅方向に延びる第2の曲げ部を形成するロードビームの製造方法において、
前記ダイが、前記ワークを支持する支持面と、前記支持面から前記ダイの一方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第1の斜面からなる第1の逃げ部と、前記支持面から前記ダイの他方の側面に近付くにつれて前記パッドからの距離が大きくなる第2の斜面からなる第2の逃げ部とを有し、
前記ダイと前記パッドとの間に前記ワークの前記第1の部分が挟まれた状態において、
前記ダイの前記第1の斜面と前記ワークとの間に第1の隙間を形成し、
前記ダイの前記第2の斜面と前記ワークとの間に第2の隙間を形成し、
前記ワークの前記第2の部分を厚さ方向に加圧することにより、前記第2の曲げ部を形成することを特徴とするロードビームの製造方法である。
【符号の説明】
【0053】
10…ディスク装置用サスペンション、16…ロードビーム、20…フレキシャ、32,33…溶接部、40…ロードビーム本体部、41,42…第1の曲げ部、43,44…フランジ曲げ部、50…第2の曲げ部、55…第1の断面部、56…第2の断面部、W…ワーク、W1…第1の部分、W2…第2の部分、60,60A…金型セット、61,61A…ダイ、61a…一方の側面、61b…他方の側面、62,62A…パッド、63…パンチ、65…加圧面、70…支持面、71…第1の逃げ部、72…第2の逃げ部、73…第1の斜面、74…第2の斜面、80…第3の逃げ部、81…第3の斜面、90,91…凸部。