(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】エンジン油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/04 20060101AFI20240708BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20240708BHJP
C10M 171/00 20060101ALI20240708BHJP
C10M 171/02 20060101ALI20240708BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240708BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20240708BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240708BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20240708BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240708BHJP
【FI】
C10M171/04
C10M145/14
C10M171/00
C10M171/02
C10N20:02
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N30:04
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2020124282
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江尻 慎志
(72)【発明者】
【氏名】赤松 篤
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】端本 健
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119787(JP,A)
【文献】特開2017-171864(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043333(WO,A1)
【文献】"Evonik's VISCOPLEX additives and VISCOBASE base oils for automotive applications",[online],EVONIK INDUSTRIES AG,2017年,[令和6年3月12日検索], インターネット<URL: https://www.oil-club.ru/forum/applications/core/interface/file/attachment.php?id=277444>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系基油及び合成油系基油から選択される少なくとも1種であり、100℃動粘度が4.3mm
2/s以上5.5mm
2/s以下であり、かつNOACK蒸発量が13.5質量%以下である基油と、
重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であり、
せん断安定性試験の一つであるディーゼルインジェクタ法(ASTMD6278-17)により測定されたデータに基づき、下記式(B)により計算されるSSIが15以下のポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、
下記式(1)で表されるコーキング係数が60未満であ
り、油温100℃・せん断速度10
6
/sにおける高温高せん断粘度が7.0mPa・s以下であり、かつ、油温150℃・せん断速度10
7
/sにおける高温高せん断粘度が2.8mPa・s以下であり、
SAE J300-2015に規定されるSAE粘度グレードが、0W-30又は5W-30である、エンジン油組成物。
コーキング係数=A×(TG/100)×(TG/100) 式(1)
TG(%):エンジン油組成物を、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量。
A(mg):エンジン油組成物
300mLに対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキング物の量。
式(B):
SSI=100×(KV100
新油
-KV100
せん断安定性試験後油
)/(KV100
新油
-KV100
基油
)
式(B)中、KV100
新油
、KV100
せん断安定性試験後油
、及びKV100
基油
は、それぞれ、新油、せん断安定性試験後油、及び基油が示す100℃動粘度を表す。
100℃動粘度(KV100)は、JISK-2283-2000(ASTMD445-19)により測定された100℃における動粘度を意味する。
【請求項2】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の含有量が、有効成分換算でエンジン油組成物100質量部に対して、1.0質量%以上2.4質量%以下である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題への対応として、大型商用車用のディーゼルエンジンなどのエンジン機関については、CO2排出量削減及び排出ガス規制への対応の両方が求められている。そのため、最新のエンジンには、ダウンサイジング又はターボ高効率化といった技術が採用されている。
【0003】
ディーゼルエンジン等に使用されるエンジンオイル(即ち、エンジン油組成物)についても、信頼性だけではなく燃費向上への貢献が求められている。燃費向上のためには、エンジンオイルを低粘度化することが有効であるが、最新エンジンに適合させるためには、飛散量の抑制及び耐コーキング性の確保が必要であった。
【0004】
エンジン油組成物において、飛散量の抑制及び耐コーキング性を確保するためには、高粘度基油やポリブテンといった高粘度基材を配合することが有効である。
【0005】
例えば、特許文献1には、基油(A)と、少なくともイソブテン由来の構成単位を有し、かつ数平均分子量が500~10,000であるポリオレフィン(B)0.5~10質量%とを含み、硫酸灰分が0.7質量%を超え1.2質量%以下である4サイクルエンジン用潤滑油組成物が開示されている。
【0006】
また、燃費向上のためには、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)などの有機モリブデン化合物を摩擦調整剤として配合することで、油膜条件が過酷な部位において金属間摩擦係数を低減する技術が知られており、省燃費型のエンジンオイルにおいて幅広く適用されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、100℃における動粘度3.5~4.0mm2/s、粘度指数130以上、芳香族分1.0質量%未満の鉱油系基油に、(A)100℃の動粘度が30~60mm2/sのポリ-α-オレフィン、(B)エステル化合物、(C)有機モリブデン化合物をモリブデン含量で0.03~0.12質量%、(D)塩基価250~500mgKOH/gの金属系清浄剤、(E)ホウ素を含有しないコハク酸イミド、及び(F)ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン含量で0.05~0.08質量%を含有することを特徴する内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6569146号公報(特許請求の範囲)
【文献】特許第5453139号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エンジンオイルにおいて、高粘度基材を単に配合することでは、高温高せん断粘度を悪化させることに繋がり、燃費性能を悪化させてしまうという課題がある。
また、有機モリブデン化合物を配合した省燃費型のエンジンオイルは、オイル劣化の進行に伴い有機モリブデン化合物が酸化防止剤として機能することで消耗し易い、燃焼生成物であるススがオイル中へ混入することによって摩擦低減効果が失われ易いといった欠点があり、省燃費効果の持続性に課題がある。
また、既述のとおり、省燃費性に着目したエンジン油組成物においては、デポジット(「コーキング物」とも称される。)の生成抑制、即ち、耐コーキング性の改善が望まれるところ、耐コーキング性の優れたエンジン油組成物は、未だ提供されるに至っていない。
【0010】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、省燃費性を有し、かつ、耐コーキング性に優れたエンジン油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような実情の中で、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、所定の条件を満たす基油及び粘度指数向上剤を含有し、かつ所定のコーキング係数を示すエンジン油組成物により、上記課題が解決できることを見出すに至った。
【0012】
本開示のエンジン油組組成物は、以下の実施態様を含む。
<1> 鉱油系基油及び合成油系基油から選択される少なくとも1種であり、100℃動粘度が4.3mm2/s以上5.5mm2/s以下であり、かつNOACK蒸発量が13.5質量%以下である基油と、
重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であり、SSIが15以下のポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、
下記式(1)で表されるコーキング係数が60未満である、エンジン油組成物。
コーキング係数=A×(TG/100)×(TG/100) 式(1)
TG(%):エンジン油組成物を、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量。
A(mg):エンジン油組成物に対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキング物の量。
【0013】
<2> 上記ポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の含有量が、有効成分換算でエンジン油組成物100質量部に対して、1.0質量%以上2.4質量%以下である、<1>に記載のエンジン油組成物。
【0014】
<3> 油温100℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度が7.0mPa・s以下であり、かつ、油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度が2.8mPa・s以下である、<1>又は<2>記載のエンジン油組成物。
【0015】
<4> SAE J300-2015に規定されるSAE粘度グレードが、0W-30又は5W-30である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のエンジン油組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、省燃費性を有し、かつ、耐コーキング性に優れたエンジン油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示に係るにエンジン油組成物について詳細に説明する。以下に記載する説明は、代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示に係るエンジン油組成物は、そのような実施形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において「ポリアルキル(メタ)アクリレート」とは、アクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル、及び/又は、それらの両方に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0019】
<エンジン油組成物>
本開示に係るエンジン油組成物は、
鉱油系基油及び合成油系基油から選択される少なくとも1種であり、100℃動粘度が4.3mm2/s以上5.5mm2/s以下であり、かつNOACK蒸発量が13.5質量%以下である基油と、
重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であり、SSIが15以下のポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、を含有し、
下記式(1)で表されるコーキング係数が60未満である。
コーキング係数=B×(A/100)×(A/100) 式(1)
A:潤滑油組成物を、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量。
B:潤滑油組成物に対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキング物の量。
【0020】
本開示に係るエンジン油組成物は、省燃費性を有し、かつ、耐コーキング性に優れる。本開示に係るエンジン油組成物が、省燃費性を有し、かつ、耐コーキング性に優れる理由は、所定の性状を有する基油と粘度指数向剤とを組み合わせたことで低粘度であることと、コーキング物生成の指標となるコーキング係数が所定の範囲であることにより、省燃費性と優れた耐コーキング性との双方が達成されるためと推測している。なお、エンジン油組成物が低粘度であるとは、SAE J300-2015に規定されるSAE粘度グレードが、5W-30以下の粘度グレードであることを指標とする。
【0021】
(1)基油
本開示に係るエンジン油組成物は、鉱油系基油及び合成油系基油から選択される少なくとも1種であり、100℃動粘度が4.3mm2/s以上5.5mm2/s以下であり、かつNOACK蒸発量が13.5質量%以下である基油(以下、「特定基油」とも称する)を含有する。
【0022】
特定基油としては、鉱物油系基油又は合成油系基油であり、かつ、上記の100℃動粘度及びNOACK蒸発量を示す基油であれば、エンジン油組成物に通常用いられる基油から制限なく選択することができる。特定基油としては、鉱油系基油及び合成油系基油から選択された1種を単独であってもよく、鉱物油系基油及び合成油系基油から選択された2種以上を組み合わせた混合油であってもよい。
【0023】
鉱物油系基油としては、様々な製造法により得られたものが挙げられる。
鉱油系基油としては、例えば、原油の潤滑油留分を、溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。また、鉱油系基油としては、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋又は水素化脱蝋等の処理を施して高度に精製されたパラフィン系鉱油(即ち、高粘度指数鉱油系潤滑油基油)などをであってもよい。
【0024】
合成油系基油としては、例えば、メタン等の天然ガスを原料として合成されるイソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、ジアルキルジエステル類、ポリオール類、アルキルベンゼン類、ポリグリコール類、フェニルエーテル類などが挙げられる。
【0025】
特定基油の100℃動粘度は、4.3mm2/s以上5.5mm2/s以下であり、より好ましくは4.3mm2/s以上5.0mm2/s以下であり、最も好ましくは4.3mm2/s以上4.6mm2/s以下である。
【0026】
本開示において、基油の動粘度は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)により測定される値である。
【0027】
基油の100℃動粘度が、4.3mm2/s未満である場合、基油の蒸発特性が劣ることから、エンジン油組成物の実用性能を確保できない傾向となる。一方、基油の100℃動粘度が5.5mm2/sを超える場合、エンジン油組成物の粘度が必要以上に上昇し、省燃費効果を十分に発現することができない傾向となる。
【0028】
特定基油の好ましい粘度指数は、115以上であることが好ましく、より好ましくは120以上である。上記の粘度指数を示す基油を用いることにより、エンジン油組成物の粘度特性が向上し、かつ、清浄性を高めることができる。
【0029】
本開示において、基油の粘度指数は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)により測定される値である
【0030】
なお、基油の動粘度及び/又は粘度指数についてカタログ値が確認できる場合には、カタログ値を採用する。
【0031】
特定基油としては、米国石油協会(API)の基油分類で、グループII基油(即ち、硫黄分0.03質量%以下、飽和分90質量%以上、及び、粘度指数80以上120未満の性状を有する基油)とグループIII基油(即ち、硫黄分0.03質量%以下、飽和分90質量%以上、及び粘度指数120以上の性状を有する基油)とを混合して、上記性状に調整した混合油を使用することができる。特定基油としては、グループIII以上に分類される基油を用いることが好ましく、グループIII基油を用いることがより好ましい。
【0032】
本開示に係るエンジン油組成物が含有する基油は、%CPが72~90、%CNが10~28、かつ%CAが2.0以下であることが好ましく、%CPが75~88、%CNが12~25、かつ%CAが0.5以下であることがさらに好ましい。
【0033】
特定基油において、%CPを72以上、%CNを28以下、かつ%CAを2.0以下とすることで、高い酸化安定性と優れた粘度特性を有するエンジン油組成物となる傾向にある。また、特定基油において、%CPを90以下、かつ%CNを10以上とすることで、エンジン油組成物における各種添加剤の溶解性と優れた低温粘度特性とを両立できるため好ましい。
【0034】
なお、ここでいう%CP、%CN、及び%CAとは、それぞれ、パラフィン炭素数、ナフテン炭素数、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率のことを意味する。
%CP、%CN、及び%CAは、ASTM D3238-17aに規定の「n-d-m環分析法」に基づいて求めることができる。
【0035】
特定基油は、JIS K 2256-2013「アニリン点試験方法」に準拠して測定されるアニリン点が、110℃~130℃であることが好ましい。
【0036】
アニリン点を110℃以上とすることで、高粘度指数を示す基油としやすいため好ましい。また、アニリン点を130℃以下とすることで、添加剤の溶解性を確保しやすい傾向を示す基油となるため好ましい。さらに、エンジン機関に用いられるゴム系のシーリング材料との適合性などを確保する観点からは、アニリン点を適切な範囲にすることが好ましく、この観点からも、アニリン点は110℃~130℃であることが好ましい。
【0037】
特定基油のNOACK蒸発量は、13.5質量%以下であり、好ましくは13.0質量%以下である。特定基油のNOACK蒸発量が13.5質量%以下であることで、高温時(すなわち、エンジン駆動時)における基油の蒸発を抑制することができ、コーキング物の生成を抑えることが可能となる。NOACK蒸発量の下限値は特に限定されない。NOACK蒸発量の下限値は、本開示に係る効果とコストとを勘案して適宜設定することができる。NOACK蒸発量は、例えば、6.0質量%であってもよい。
【0038】
NOACK蒸発量は、ASTM D 5800-19に準拠して測定された基油の蒸発損失量(質量%)を意味する。
【0039】
(2)粘度指数向上剤
本開示に係るエンジン油組成物は、重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であり、SSIが15以下のポリアルキル(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(以下、「特定粘度指数向上剤」とも称する。)を含有する。換言すると、本開示において、特定粘度指数向上剤とは、重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であるポリアルキル(メタ)アクリレートを有効成分として含み、SSI(せん断安定性指数:Shear Stability Index)値が15以下の粘度指数向上剤を意味する。
【0040】
粘度指数向上剤の有効成分とは、エンジン油組成物に含有させることで粘度指数向上効を発揮する成分を指す。粘度指数向上剤が、有効成分以外に包含しうる成分としては、希釈油、等が挙げられる。本開示において特定粘度指数向上剤の有効成分は、重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であるポリアルキル(メタ)アクリレートである。
【0041】
粘度指数向上剤が特定粘度指数向上剤であることは、重量平均分子量(Mw)が450,000以上700,000未満であるポリアルキル(メタ)アクリレートが、エンジン油組成物に含有されていること、及び、エンジン油組成物が、せん断安定性試験の一つであるディーゼルインジェクタ法(ASTM D 6278-17)により求められる粘度低下率15%以下を示すこと、が確認されることにより判断される。
粘度低下率は、下記式(A)により計算される。
式(A):
粘度低下率(%)=100×(KV100新油-KV100せん断安定性試験後油)/KV100新油
式(A)中、KV100新油及びKV100せん断安定性試験後油は、それぞれ、新油及びせん断安定性試験後油が示す100℃動粘度を表す。
100℃動粘度(KV100)は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)により測定された100℃における動粘度を意味する。
【0042】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、熱分解GC/MS等の分析手段は、エンジン油組成物が特定粘度指数向上剤を含有することを推認するための手段として用いることができる。
【0043】
本開示に係るエンジン油組成物は、特定粘度指数向上剤を1種のみ含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。
【0044】
特定粘度指数向上剤の含有量が、有効成分換算でエンジン油組成物100質量部に対して、1.0質量%以上2.4質量%以下であることが好ましい。特定粘度指数向上剤の含有量が上記の範囲であると、エンジン油組成物の粘度指数及び粘度特性をより向上させ、優れた省燃費性能を発現できるため好ましい。
【0045】
特定粘度指数向上剤の含有量は、本開示に係るエンジン油組成物の効果を最大限発現させる観点から、有効成分量換算でエンジン油組成物100質量部あたり1.0質量%以上2.4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.2質量%以上2.2質量%以下であり、最も好ましくは1.4質量%以上2.0質量%以下である。
【0046】
本開示において、特定粘度指数向上剤の重合平均分子量(Mw)とは、有効成分として含まれるポリアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)であり、450,000~700,000であり、好ましくは500,000~600,000である。
【0047】
重量平均分子量(Mw)が、450,000未満であると、特定基油との組み合わせにおいて、十分な粘度指数向上効果が得られず、高い省燃費性能が得られない。一方、重量平均分子量(Mw)が、700,000を超えると、粘度指数向上剤が含むポリマー分子のせん断安定性が十分に発揮されず、実機に使用した際において、エンジン油組成物がせん断による粘度低下を起こしてしまい、耐摩耗性又は耐焼付き性が低下する傾向がある。
【0048】
本開示において「重量平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。測定条件及び装置は以下のとおりである。
測定装置:Shodex GPC-101
カラム:Shodex GPC LF-804(カラムの本数:3本)
検出器:RI(示差屈折検出器)
温度40℃
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1mL/min
試料濃度:1.0mass%/vol%
試料注入量:100μL
【0049】
なお、特定粘度指数向上剤が含むポリアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)についてカタログ値が確認できる場合には、カタログ値を採用する。
【0050】
特定粘度指数向上剤のSSIは15以下である。
SSIとは、せん断安定性指数(Shear Stability Index)の略称であり、ASTM D 6022-19に規定されている。
SSIは、せん断安定性試験の一つであるディーゼルインジェクタ法(ASTM D 6278-17)により測定されたデータに基づき、下記式(B)により計算される。
式(B):
SSI=100×(KV100新油-KV100せん断安定性試験後油)/(KV100新油-KV100基油)
式(B)中、KV100新油、KV100せん断安定性試験後油、及びKV100基油は、それぞれ、新油、せん断安定性試験後油、及び基油が示す100℃動粘度を表す。
100℃動粘度(KV100)は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)により測定された100℃における動粘度を意味する。
【0051】
SSIが大きいほど、粘度指数向上剤が含むポリマーは、エンジン油組成物に対して付与されたせん断に対して不安定となり分解されやすい。
【0052】
特定粘度指数向上剤としては、市販品を用いてもよい。
【0053】
本開示に係るエンジン油組成物は、上述した特定粘度指数向上剤に加え、目的に応じて、本開示に係る効果が得られる範囲において、その他の粘度指数向上剤を組み合わせて含有することもできる。
【0054】
その他の粘度指数向上剤としては、内燃機関用の潤滑油に通常用いられる公知の粘度指数向上剤が挙げられる。その他の粘度指数向上剤の例としては、オレフィンコポリマー類、ポリイソブチレン類、ポリアルキルスチレン類、スチレン-ブタジエン水素化共重合体類、スチレン-イソプレン水素化共重合体類、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体類、及びそれらに分散基を含有するポリマーが挙げられる。なお、スチレン-ブタジエン水素化共重合体類とは、スチレン-ブタジエン共重合体類を水素化して、残存している二重結合を飽和結合に変えたポリマーを意味する。スチレン-イソプレン水素化共重合体類とは、スチレン-イソプレン共重合体類を水素化して、残存している二重結合を飽和結合に変えたポリマーを意味する。
【0055】
特定粘度指数向上剤とその他の粘度指数向上剤とを併用するに際しては、特定粘度指数向上剤から選択れる1又は2種以上と、上記のその他の粘度指数向上剤から選択される1種又は2種以上とを組み合わせて用いればよい。
【0056】
しかしながら、その他の粘度指数向上剤を必要以上に添加することは、本開示のエンジン油組成物が発揮する高い省燃費効果及び優れた耐コーキング性、並びに、せん断安定性を低下させることがある。そのため、その他の粘度指数向上剤を含有する場合には、その他の粘度指数向上剤の含有量総量は、特定粘度指数向上剤の含有量よりも少なく、かつ、有効成分量換算で、特定粘度指数向上剤の好ましい含有量として上記した範囲を超えない範囲内であることが好ましい。
【0057】
粘度指数向上剤の含有量が過剰である場合、粘度指数は向上する一方で、エンジン油組成物の粘度が必要以上に上昇する傾向があり、省燃費性能が得られない可能性がある。また、粘度指数向上剤の過剰な含有は、耐コーキング性の悪化を招くことがある。このような観点から、本開示に係るエンジン油組成物の効果の発現が容易に得られる観点から、粘度指数向上剤の含有量を上記の好ましい含有量の範囲内としてエンジン油組成物を調製することが好ましい。
【0058】
本開示に係るエンジン油組成物は、上記の粘度指数向上剤に加え、更に、必要に応じて、種々の添加剤を含有することができる。
【0059】
(3)コハク酸イミド系分散剤
本開示に係るエンジン油組成物は、コハク酸イミド系分散剤を含有することができる。コハク酸イミド系分散剤としては、例えば下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるコハク酸イミド系分散剤等を用いることができる。また、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるコハク酸イミドをホウ素変性させたものを使用することもできる。
【0060】
【0061】
一般式(1)及び一般式(2)において、R1及びR3は、各々独立に、アルキル基又はアルケニル基を表し、R2は、各々独立に、アルキレン基を表す。nは、1~10の整数を表す。
【0062】
コハク酸イミド系分散剤としては、一般式(1)及び一般式(2)で表されるコハク酸イミド系分散剤から選択される1種以上と一般式(1)及び一般式(2)のコハク酸イミド系分散剤をホウ素変性させた化合物から選択される1種以上を1種以上とを併用してもよい。
【0063】
コハク酸イミド系分散剤の含有量に特に制限はないが、一般的に、コハク酸イミド系分散剤は極めて粘性が高く、エンジン油組成物の粘度特性に影響を与えることから、高い省燃費性能を維持する観点からは、その含有量は、コハク酸イミド系分散剤の含有に期待される効果が得られる最小限に留めることが望ましい。
【0064】
(4)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
本開示に係るエンジン油組成物は、摩耗防止性能の観点から、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有することが好ましい。
【0065】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するアルキル基は、第一級アルコールに由来するもの、第二級アルコールに由来するもの、あるいはそれらをともに有するもののいずれであってもよい。アルキル基の炭素数に特に制限はないが、摩耗防止性能の観点からは、3~12の範囲であることが好ましい。
【0066】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、エンジン油組成物の全量に対し、リン換算で、好ましくは0.01質量%~0.20質量%であり、より好ましくは0.031質量%~0.14質量%である。
【0067】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量が0.01質量%以上である場合、期待する摩耗防止性が十分に得られる傾向がある。一方、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量が、0.20質量%以下である場合、その分解産物から生成する硫酸などによるエンジン油組成物の酸化安定性の低下が効果的に抑制されることから好ましい。
【0068】
(5)金属型清浄剤
本開示に係るエンジン油組成物は、金属型清浄剤を含有することができる。
金属型清浄剤としては、例えば、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属スルホネート及びアルカリ土類金属フェネートが挙げられる。
【0069】
金属型清浄剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。例えば、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属スルホネート及びアルカリ土類金属フェネートを用いる場合であれば、これら3種の成分から選択される1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて2種又は3種を併用してもよい。省燃費性能の観点からは、金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属サリシレートが好ましい。
【0070】
金属型清浄剤の含有量は、十分な清浄性の確保及び排ガス後処理装置への悪影響をより効果的に回避する観点から、アルカリ土類金属として0.05質量%~0.4質量%が好ましく、より好ましくは0.15質量%~0.3量%である。
【0071】
(6)酸化防止剤
本開示に係るエンジン油組成物は、酸化防止剤を含有することができる。
酸化防止剤の例としては、フェノール系の酸化防止剤、アミン系の酸化防止剤、及び有機モリブデン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用して用いてもよい。また、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及び有機モリブデン系酸化防止剤を用いる場合であれば、これらの3種の各成分は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
フェノール系の酸化防止剤としては2、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールなどのアルキルフェノール類、4、4’-メチレンビス-(2、6-ジ-t-ブチルフェノール)などのビスフェノール類、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’、5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物が挙げられる。アミン系の酸化防止剤としては、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物が挙げられる。有機モリブデン系の酸化防止剤としては、モリブデンアミンなどの有機モリブデン化合物が挙げられる。
【0073】
酸化防止剤の含有量は、エンジン油組成物全量に対し、好ましくは0.05質量%~5.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%~3.0質量%である。
【0074】
(7)摩擦調整剤
本開示に係るエンジン油組成物は、境界潤滑域の摩擦低減効果の観点から、摩擦調整剤を含有することによって、さらに省燃費性能を向上させることができる。
摩擦調整剤としては、有機モリブデン化合物及び無灰型摩擦調整剤が挙げられる。
【0075】
有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブテンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート、モリブテン酸アミン化合物、モリブデン長鎖脂肪族アミン化合物などが挙げられる。
モリブデン化合物の含有量は、エンジン油組成物中の金属モリブデン濃度として、100質量ppm以上1,200質量ppm以下であることが好ましい。
【0076】
無灰型摩擦調整剤としては、長鎖脂肪族アミン、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪族アルコール、脂肪族アミンと脂肪酸のアミド化合物、及び脂肪族ポリグリセリルエーテル類などが挙げられる。
無灰型摩擦調整剤の好ましい含有量は、エンジン油組成物の全量に対して、好ましくは500質量ppm~5質量%であり、より好ましくは1,000質量ppm~4質量%であり、さらに好ましくは3,000質量ppm~3質量%である。
【0077】
本開示に係るエンジン油組成物に、摩擦調整剤(例えば、上記の有機モリブデン化合物と無灰型摩擦調整剤)を含有させる場合、これらの摩擦調整剤は、単独で使用してもよいし、必要に応じて複数を組み合わせて使用してもよい。ただし、前述のように、ディーゼルエンジンに、本開示に係るエンジン油組成物を適用する場合においては、有機モリブデン化合物では、混入するススの影響で満足な効果が発揮できない場合があるため、無灰型摩擦調整剤を含有することが望ましい。
【0078】
(8)その他の添加剤
本開示に係るエンジン油組成物は、上記した成分の他に、さらに各種の添加剤を含有することができる。具体的には、エンジン油組成物は、金属不活性化剤、さび止め剤、流動点降下剤、泡消剤など、エンジン油性能を付与するのに効果的な添加剤を必要に応じて含有することができる。
なお、一つの添加剤が、2以上の機能を奏するものであってもよい。
【0079】
<エンジン油組成物の調製方法>
本開示に係るエンジン油組成物の調製方法は、特に制限されず、特定基油、特定粘度指数向上剤、及び、必要に応じて添加する上記の各種成分を適宜混合すればよい。各成分の混合順序は、特に限定されるものではない。
【0080】
<コーキング係数>
本開示に係るエンジン油組成物は、下記式(1)で表されるコーキング係数が60未満である。
コーキング係数=A×(TG/100)×(TG/100) 式(1)
TG(%):エンジン油組成物を、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量。
A(mg):エンジン油組成物に対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキング物の量。
【0081】
既述のとおり、最新エンジン(特にディーゼルエンジン)への適合の観点から、エンジン油組成物には飛散量の抑制及び耐コーキング性の確保が求められている。かかる観点から、本開示に係るエンジン油組成物は、上記の式(1)で表されるコーキング係数を満たすことを要する。
コーキング係数は、エンジン内に飛散したオイル(エンジン油組成物)がコーキング物となったときの量を推定する指標となる数値であり、2種の試験により得たTG(%)及びA(mg)の測定値を、A×(TG/100)×(TG/100)に代入し、少数点以下第1位で四捨五入した算出値を、本開示ではコーキング係数と呼称している。
【0082】
コーキング係数が小さいエンジン油組成物ほどエンジン中でコーキング物を生じさせにくく、最新エンジンへの適合性もよいと判断できる。本開示に係るエンジン油組成物のコーキング係数は、耐コーキング性の観点から、60未満であり、40以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0083】
-TG(%)-
式(1)において、TGは、エンジン油組成物を、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量(%)を示す。
エンジン中へのオイル(エンジン油組成物)の飛散は、一般的に、オイルそのものの蒸発性と相関があると考えられており、蒸発量の多いものほどエンジン内へのオイルの飛散量が多いとされる。
かかる観点から、本開示に係るコーキング係数の算出に際しては、実際のエンジン中の状況を鑑み、熱天秤を用いて、280℃で45分間、加熱した際の蒸発量(%)を算出する。
具体的な試験方法は、後述の実施例において記載する。
【0084】
-A(mg)-
式(1)において、Aは、エンジン油組成物に対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキング物の量(mg)を示す。
エンジン中に飛散したオイルは、その全てがコーキング物に変化するわけではない。オイル中に含まれる添加剤の組み合わせにより生じるコーキング物の量は異なる。潤滑油における耐コーキング性については、一般的に、パネルコーキング試験(Federal Test Method Std. 791-3462)により評価されている。
かかる観点から、本開示に係るコーキング係数の算出に際しては、実際のエンジン中の状況を鑑みて、パネル温度を280℃、オイル温度を90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒)を測定条件として、パネルコーキング試験を実施する。
具体的な試験方法は、後述の実施例において記載する。
【0085】
<エンジン油組成物の性状>
[粘度性状]
本開示に係るエンジン油組成物は、十分な省燃費性能を得る観点から、粘度性状を特定の範囲内に調整することが好ましい。
【0086】
エンジン油組成物の粘度指数は、150~300の範囲内であることが好ましく、160~270であることがより好ましく、170~250であることがさらに好ましく、180~240であることが最も好ましい。
【0087】
粘度指数が150以上であることで、油温が低い条件でのエンジン油組成物の粘度の上昇が効果的に抑制され、十分な省燃費性能を得ることができる。一方、粘度指数が300以下であることで、粘度指数向上剤の含有量を過剰にせず、省燃費性能をより向上させることができる他、コストアップの抑制、ピストン清浄性の維持もより良好となる。
【0088】
[動粘度]
エンジン油組成物の40℃における動粘度(JIS-K-2283-2000(ASTM D445-19))は、通常は、10mm2/s~70mm2/sであればよく、好ましくは20mm2/s~60mm2/sであり、より好ましくは30mm2/s~55mm2/sである。
【0089】
エンジン油組成物の100℃での動粘度(JIS-K-2283-2000(ASTM D445-19))は、通常は、5.6mm2/s~12.5mm2/sであればよく、好ましくは8.5mm2/s~11.5mm2/sであり、より好ましくは9.3mm2/s~11.0mm2/sであり、特に好ましくは9.7mm2/s~10.8mm2/sである。
【0090】
[高温高せん断粘度]
エンジン油組成物の高温高せん断粘度は、油温100℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度が、好ましくは7.0mPa・s以下であり、より好ましくは6.8mPa・s以下であり、さらに好ましくは6.5mPa・s以下であり、最も好ましくは6.3mPa・s以下である。
【0091】
また、油温150℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度は、高負荷エンジンに要求される高い油膜保持性を考慮して、2.6mPa・s以上であることが好ましく、2.8mPa・s以上であることがより好ましく、2.9mPa・s以上であることが最も好ましい。油温150℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度の上限値は、例えば、3.5mPa・sであってもよい。
【0092】
油温100℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度、及び、油温150℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度とは、ASTM D4683-17に記載の方法より測定された高温高せん断粘度を意味する。油温100℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度の下限値は、例えば、5.5mPa・sであってもよい。
【0093】
エンジン油組成物の高温高せん断粘度が、上記の範囲内になるように基油と粘度指数向上剤とを組み合わせてエンジン油組成物の粘度を調整することによって、油膜環境が苛酷な高負荷エンジンにおいても優れた省燃費効果が期待できる。
【0094】
また、省燃費性能をより一層向上させる観点からは、上記の高温高せん断粘度に加えて、油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度が2.8mPa・s以下であることが好ましく、2.7mPa・s以下であることがより好ましく、2.6mPa・s以下であることがさらに好ましく、2.5mPa・s以下であることが最も好ましい。油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度の下限値は、例えば、2.0mPa・sであってもよい。
【0095】
油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度を上記好ましい値にすることで、エンジン油組成物の省燃費性能をより一層向上させることができる。
【0096】
省燃費性能を向上させる観点から、本開示に係るエンジン油組成物の好適な態様の一つは、油温100℃・せん断速度106/sにおける高温高せん断粘度が7.0mPa・s以下であり、油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度が2.8mPa・s以下である態様である。
【0097】
油温150℃・せん断速度107/sにおける高温高せん断粘度とは、PCS Instruments社製USV(The Ultra Shear Viscometer)を用いて、油温150℃・せん断速度1.0×107/sの条件において測定された高温高せん断粘度を意味する。
【0098】
[SAE粘度グレード]
本開示に係るエンジン油組成物は、SAE J300に規定されるエンジン油のSAE粘度グレードが、0W-30又は5W-30であることが好ましい。
【0099】
SAE粘度グレードが、0W-30又は5W-30であることで、高負荷エンジンに要求される油膜保持性を維持しながら、省燃費効果を最大限発現することが可能になる。エンジン油組成物の調製時の粘度調整に際しては、これらのSAE粘度グレードに適合するよう、その含有成分の配合量を調整することが望ましい。
【0100】
[硫酸灰分]
エンジン油組成物において金属含有添加剤量の指標となる硫酸灰分は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5%質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、最も好ましくは1.1質量%以下である。硫酸灰分値が上記の範囲内であることで、排出ガス後処理装置への適合性が良好であり、過剰な灰分がピストン周辺へ堆積する可能性を効果的に抑制できる。
【0101】
なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS-K-2272-1998に規定された試験方法によって得られる値を意味する。
【0102】
<用途>
本開示に係るエンジン油組成物は、種々のエンジン機関に適用できる。エンジン機関としては、ガソリンエンジン機関、ディーゼルエンジン機関、ガスエンジン機関等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本開示に係るエンジン油組成物が好ましく適用されるエンジン機関は、ガソリンエンジン機関又はディーゼルエンジン機関である。特に高負荷で使用されピストン周辺の熱負荷が相対的に高いディーゼルエンジン機関において、本開示に係るエンジン油組成物は好適に使用できる。
【実施例】
【0103】
次に、本開示に係るエンジン油組成物について、実施例及び比較例により、さらに詳細に説明する。ただし、本開示に係るエンジン油組成物は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
以下に示す実施例及び比較例では、後述する<基油及び添加剤>の欄に示す、基油、粘度指数向上剤、及び、その他の添加剤を、表1に示す配合量にて混合してエンジン油組成物を得た。
なお、表1中の「質量%」は、エンジン油組成物の全質量を基準とした質量%を意味する。表1中の組成欄に記載される「-」は、該当する成分を配合していないことを示す。
【0105】
各エンジン油組成物は、すべてSAE粘度グレードにおける0W-30又は5W-30の要求を満たし、かつ、国内ディーゼルエンジン油規格であるJASO DH-2規格の要求であるASTM D6278-07記載のせん断試験後油の100℃動粘度の値が9.3mm2/s以上になるよう調製されたものである。
【0106】
また、150℃・せん断速度1×106における高温高せん断粘度は、いずれのエンジン油組成物についても、3.0mPa・s以上となるよう調製した。
【0107】
また、各実施例・比較例の調製にあたっては、省燃費性能への影響を考慮し、粘度指数向上剤の配合量は上記の条件を満たす上で最低限の量になるよう配慮した。
【0108】
<基油及び添加剤>
(1)基油A(特定基油)
水素化分解系の鉱油系基油(グループIII基油)
100℃動粘度:4.6mm2/s、NOACK蒸発量:12.7%
(2)基油B
水素化分解系の鉱油系基油(グループIII基油)
100℃動粘度:4.2mm2/s、NOACK蒸発量:13.9%
(3)粘度指数向上剤A(特定粘度指数向上剤)
有効成分:ポリアルキル(メタ)アクリレート(重量平均分子量=540,000)、SSI:13
(4)粘度指数向上剤B
有効成分:ポリアルキル(メタ)アクリレート(重量平均分子量=440,000)、SSI:19
(5)その他の添加剤
粘度指数向上剤A及びB以外の粘度指数向上剤、摩耗防止剤、分散剤、金属型清浄剤、摩擦調整剤、フェノール型酸化防止剤、流動点降下剤、シリコーン系消泡剤を含む。
粘度指数向上剤A及びB以外の粘度指数向上剤としては、スチレン-イソプレン水素化共重合体類を有効成分量として0.3質量%となる量にて用いた。
【0109】
<評価方法>
実施例及び比較例で得たエンジン油組成物に対して、下記の項目(1)~(9)に示す評価試験を行った。試験方法は次のとおりである。
さらに、項目(7)で得られた「TG(%)」及び項目(8)のパネルコーキング試験で得られたコーキング物量「A(mg)」により、コーキング係数を算出した。
【0110】
(1)SAE粘度グレード
SAE J300によって規定される粘度グレードを判定した。
(2)動粘度
JIS K 2283(ASTM D445)に従い、40℃および100℃での動粘度と粘度指数の測定を実施した。
(3)粘度指数
JIS K 2283(ASTM D2270)に従い算出した。
(4)温度100℃、せん断速度1×106/sにおける高温高せん断粘度
ASTMD6616-07に従って測定した。
(5)温度150℃、せん断速度1×106/sにおける高温高せん断粘度
ASTM D4683に従って測定した。
(6)温度150℃、せん断速度1×107/sにおける高温高せん断粘度
PCS Instruments社製USV(The Ultra Shear Viscometer)を利用して測定した。
【0111】
実施例1のエンジン油組成物は、上記の項目(1)~項目(6)が、既述した好ましい範囲を満たしている。このことは、実施例1のエンジン油組成物が、省燃費性に優れたエンジン油組成物であることを示している。
【0112】
(7)TG(%)
実施例及び比較例のエンジン油組成物について、熱天秤を用いて、280℃で45分間加熱した際の蒸発量の測定を以下のとおり行った。
測定装置としては、日立ハイテクサイエンス製STA7200を用いた。
直径5.2mm、深さ2.5mmの容器に、測定対象とするオイル(エンジン油組成物)を1mL入れた。オイルを入れた容器を測定装置に静置し、空気雰囲気中で室温から280℃まで10K/minで昇温させ、280℃で45分間の温度保持を行った。試験開始から45分で蒸発量がほぼ飽和したことから、その時点での蒸発量(%)を算出した。
【0113】
(8)パネルコーキング試験(A(mg)の測定)
エンジン油組成物に対して、パネルコーキング試験(測定条件:パネル温度280℃、油温90℃、試験時間3時間(on15秒/off45秒))を行って測定したコーキグ物の量を測定した。測定方法は、以下のとおりである。
スプラッシャを備えた試験用機((株)離合社製、PANEL COKING TESTER)に、測定対象とするオイル(エンジン油組成物)を300mL入れ、アルミ製パネルを上部に取り付けた。オイルを90℃、パネルを280℃で加熱し、その温度に達した時点でスプラッシャを1000rpmで回転させてオイルをパネルにはね掛けた。オイルのはね掛け15秒、45秒停止のサイクルで3時間実施した。その後アルミパネルに付着した成分の質量(mg)を測定した。
(9)エンジン試験(高温連続300時間)
日野自動車製A09Cエンジン(気筒容積8.9L、最高出力(ネット) 265kW/1800rpm)を用いエンジンベンチ試験を実施した。試験条件は定格出力での300hr連続運転とした。試験後に各部品、ターボやCCVなどの補機へのデポジット付着有無及び状態を目視で確認し、以下の基準により評価した。「A」であることで、エンジン試験をクリアしたものと判断する。
-評価基準-
A:コーキング物(デポジット)が確認されなかった。
B:コーキング物(デポジット)が確認された。
【0114】
【0115】
表1に示されるとおり、特定基油及び特定粘度指数向上剤を含有し、式(1)で表されるコーキング係数を満たす実施例1のエンジン油組成物は、エンジン試験をクリアしており、耐コ-キング性に優れることがわかる
一方、比較例1のエンジン油組成物は、エンジン試験をクリアできず、耐コ-キング性に劣ることがわかる。
【0116】
以上から明らかなように、本開示に係るエンジン油組成物により、初めて優れた耐コーキング性が実現できることが判明した。