(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101H
(21)【出願番号】P 2020145263
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】木▲瀬▼ 信和
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-288244(JP,A)
【文献】特開2014-193563(JP,A)
【文献】特開昭62-127256(JP,A)
【文献】特開平08-052892(JP,A)
【文献】特開2019-166824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向を向く主面と、前記主面につながり、かつ前記厚さ方向において前記主面が向く側に膨出する凸面と、を有する基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面および前記凸面の上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に接して形成され、かつ前記複数の発熱部に導通する配線層と、を備え、
前記凸面は、前記主面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記主面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、
前記副走査方向において互いに離れて位置する一対の端縁を有するとともに、前記頂面に接して形成されたグレーズ層をさらに備え、
前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の上に形成され
ており、
前記厚さ方向に沿って視て、前記一対の端縁の各々は、前記頂面と前記一対の傾斜面とのの境界よりも前記頂面の内方に位置する後退区間を含
み、
前記一対の傾斜面は、前記主面から前記頂面にかけて互いに近づくように傾斜しており、
前記一対の傾斜面の各々は、前記主面につながる第1領域と、前記頂面および前記第1領域につながる第2領域と、を含み、
前記主面に対する前記第2領域の傾斜角は、前記主面に対する前記第1領域の傾斜角よりも小である、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記凸面は、前記主走査方向に沿って延び
ており、
前記グレーズ層は、前記厚さ方向において前記頂面が向く側に膨出している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記厚さ方向および前記副走査方向の双方に沿った断面において、前記グレーズ層の周縁は曲線をなしている、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記グレーズ層の前記厚さ方向の寸法は、前記グレーズ層の前記副走査方向の中央において最も大である、請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記副走査方向において、前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の前記副走査方向の中央に位置する、請求項4に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記断面において、前記グレーズ層の周縁は、前記一対の端縁のいずれかにつながる縁端部を含み、
前記縁端部は、前記厚さ方向において前記頂面が向く側に凸状である曲線をなし、
前記断面において、当該端縁を通過する前記縁端部の接線の前記頂面に対する傾斜角は、前記一対の傾斜面の各々の前記主面に対する傾斜角よりも小である、請求項4または5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記グレーズ層は、ガラスを含む材料からなる、請求項1ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記基板は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、請求項1ないし7のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記主面、前記一対の傾斜面、および前記グレーズ層を覆う絶縁層をさらに備え、
前記抵抗体層は、前記絶縁層に接している、請求項
1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の一方側に位置しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の他方側に位置しており、
前記共通配線の一部は、前記一対の傾斜面のうち前記副走査方向の前記一方側に位置する傾斜面の上に形成されており、
前記複数の個別配線の各々の一部は、前記一対の傾斜面のうち前記副走査方向の前記他方側に位置する傾斜面の上に形成されている、請求項
9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
前記絶縁層、前記複数の発熱部、および前記配線層を覆う保護層をさらに備える、請求項
9または10に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッドと、
前記複数の発熱部に対向して配置されたプラテンローラと、を備える、サーマルプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッドと、当該サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタとに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板の材料にケイ素(シリコン)が用いられたサーマルプリントヘッドが開示されている。当該文献に開示されたサーマルプリントヘッドにおいて、基板は、主面と、主走査方向に延び、かつ主面から突出する凸部とを有する。当該文献の
図6などに示すように、複数の発熱部は、凸部の上において主走査方向に配列されている。このような構成によれば、印刷媒体を、複数の発熱部が配置された凸部に的確に接触させることができ、印字品質の向上が期待できる。一方で、印字エネルギー効率の改善という要望が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述の事情に鑑み、印字エネルギー効率の改善を図ることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法と、当該サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタとを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、厚さ方向を向く主面と、前記主面につながり、かつ前記厚さ方向において前記主面が向く側に膨出する凸面と、を有する基板と、主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面および前記凸面の上に形成された抵抗体層と、前記抵抗体層に接して形成され、かつ前記複数の発熱部に導通する配線層と、を備え、前記凸面は、前記主面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記主面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、前記副走査方向において互いに離れて位置する一対の端縁を有するとともに、前記頂面に接して形成されたグレーズ層をさらに備え、前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の上に形成され、前記厚さ方向に沿って視て、前記一対の端縁の各々は、前記頂面と前記一対の傾斜面とのの境界よりも前記頂面の内方に位置する後退区間を含むことを特徴としている。
【0006】
本発明の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、厚さ方向を向く主面と、前記主面につながり、かつ前記厚さ方向において前記主面が向く側に膨出する凸面と、を基材に形成する工程と、主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を、前記主面および前記凸面の上に形成する工程と、前記複数の発熱部に導通する配線層を、前記抵抗体層に接して形成する工程と、を備え、前記凸面は、前記主面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記主面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、前記主面および前記凸面を形成する工程と、前記抵抗体層を形成する工程と、の間に、グレーズ層を前記頂面に接して形成する工程をさらに備え、前記グレーズ層を形成する工程では、流動体であるグレーズ材料を前記頂面に供給した後、前記グレーズ材料を焼成することにより前記グレーズ層を形成することを特徴としている。
【0007】
本発明の第3の側面によって提供されるサーマルプリンタは、本発明の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドと、前記複数の発熱部に対向して配置されたプラテンと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法によれば、印字エネルギー効率の改善を図ることが可能となる。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの平面図であり、保護層を透過している。
【
図2】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の平面図である。
【
図5】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【
図7】
図3の部分拡大図であり、絶縁層、抵抗体層および配線層を透過している。
【
図8】
図3の部分拡大図であり、絶縁層、抵抗体層および配線層を透過している。
【
図10】
図1に示すサーマルプリントヘッドの変形例の部分拡大断面図である。
【
図11】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図12】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図13】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図16】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図17】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図18】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図19】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図20】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図21】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図22】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図23】本発明の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1~
図10に基づき、本発明の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA10について説明する。サーマルプリントヘッドA10は、後述するサーマルプリンタB10の主要部をなす。サーマルプリントヘッドA10は、要部および付随部により構成される。サーマルプリントヘッドA10の要部は、基板1、グレーズ層21、絶縁層22、抵抗体層3、配線層4および保護層5を備える。サーマルプリントヘッドA10の付随部は、配線基板71、ヒートシンク72、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、封止樹脂76およびコネクタ77を備える。ここで、
図1においては、理解の便宜上、保護層5を透過し、かつ複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、および封止樹脂76の図示を省略している。
図2および
図3においては、理解の便宜上、保護層5を透過している。
図7および
図8においては、理解の便宜上、
図3に対して絶縁層22、抵抗体層3および配線層4をさらに透過している。
図10の断面位置および大きさは、
図6のそれらと同一である。
【0013】
ここで、説明の便宜上、サーマルプリントヘッドA10の主走査方向を「x方向」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の副走査方向を「y方向」と呼ぶ。基板1の厚さ方向を「z方向」と呼ぶ。z方向は、x方向およびy方向の双方に対して直交している。以下の説明において、「z方向に沿って視て」とは、「厚さ方向に沿って視て」を指す。
【0014】
サーマルプリントヘッドA10においては、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10の要部をなす基板1は、ヒートシンク72に接合されている。さらに、配線基板71は、y方向において基板1の隣に位置する。配線基板71は、基板1と同じくヒートシンク72に固定されている。基板1の上には、抵抗体層3の一部をなし、かつx方向に配列された複数の発熱部31(詳細は後述)が形成されている。複数の発熱部31は、配線基板71に搭載された複数の駆動素子73により選択的に発熱する。複数の駆動素子73は、コネクタ77を介して外部から送信される印字信号にしたがって駆動する。
【0015】
さらに、本発明にかかるサーマルプリンタB10は、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10と、プラテンローラ79とを備える。サーマルプリンタB10において、プラテンローラ79は、感熱紙などの記録媒体を送り出すローラ状の機構である。プラテンローラ79が記録媒体を複数の発熱部31に押し当てることにより、当該複数の発熱部31が当該記録媒体に印字を行う。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79に代えて、ローラ状ではない機構を採用できる。当該機構は、平坦な面を有する。ここで、平坦な面には、小さい曲率を有する曲面が含まれる。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79のようなローラ状の機構と、当該機構とを含めて「プラテン」と呼ぶ。ここで、説明の便宜上、
図4において記録媒体の供給元の側(
図4における右側)を「上流側」と呼ぶ。
図4において記録媒体の排出先の側(
図4における左側)を「下流側」と呼ぶ。
【0016】
基板1は、
図1に示すように、z方向に沿って視てx方向に延びる帯状である。基板1は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素(Si)を組成とする単結晶材料を含む。
【0017】
図5に示すように、基板1は、主面11および裏面13を有する。基板1の結晶構造に基づく主面11および裏面13の面方位は、ともに(100)面である。主面11および裏面13は、z方向において互いに反対側を向く。
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、主面11がプラテンローラ79に対向し、かつ裏面13が配線基板71に対向する。基板1は、凸面12をさらに有する。凸面12は、主面11につながり、かつz方向において主面11が向く側に膨出している。凸面12は、x方向に沿って延びている。
【0018】
図6に示すように、凸面12は、頂面121、および一対の傾斜面122を有する。頂面121は、z方向において主面11から離れて位置し、かつ主面11に対して平行である。一対の傾斜面122は、y方向において互いに離れて位置する。一対の傾斜面122は、頂面121および主面11につながっている。一対の傾斜面122は、主面11から頂面121にかけて互いに近づくように主面11に対して傾斜している。主面11に対する一対の傾斜面122の各々の傾斜角αは、ともに同一である。
【0019】
図6に示すように、基板1には、凸部19が形成されている。凸部19は、主面11からz方向に膨出し、かつx方向に沿って延びている。凸面12は、凸部19の表面をなす。したがって、凸面12の構成は、凸部19の形状に基づいたものとなっている。
【0020】
グレーズ層21は、
図5に示すように、基板1の凸面12の頂面121に接して形成されている。グレーズ層21は、たとえば非晶質ガラスを含む。このため、グレーズ層21は、ガラスを含む材料からなる。グレーズ層21の線膨張係数は、基板1の線膨張係数と同程度である。
図6に示すように、グレーズ層21は、z方向において頂面121が向く側に膨出している。グレーズ層21は、凸面12の一対の傾斜面122には接していない。グレーズ層21のz方向の寸法Hは、グレーズ層21のy方向の中央において最も大である。
【0021】
図6に示すように、グレーズ層21は、一対の端縁211を有する。一対の端縁211は、基板1の凸面12の頂面121に接し、かつy方向において互いに離れて位置する。
図7および
図8に示すように、z方向に沿って視て、一対の端縁211の各々は、頂面121と、凸面12の一対の傾斜面122との境界123よりも頂面121の内方に位置する後退区間211Aを含む。
図7は、一対の端縁211の各々の全区間において、後退区間211Aが連続的に形成されている場合を示している。
図8は、一対の端縁211の各々の全区間または一部の区間において、後退区間211Aが断続的に形成されている場合を示している。後退区間211Aは、
図7および
図8の双方の場合を含む。頂面121と一対の傾斜面122との境界123のいずれかから後退区間211Aまでの距離d(
図7~
図9参照)は、0μmを超えて15μm以下である。
【0022】
図9に示すように、グレーズ層21は、周縁212を有する。周縁212は、z方向およびy方向の双方に沿った断面において、一対の端縁211を結び、かつz方向において頂面121が向く側に膨出したグレーズ層21の縁である。当該断面において、周縁212は曲線をなしている。当該断面において、周縁212は、一対の端縁211のいずれかにつながる縁端部212Aを含む。縁端部212Aは、z方向において基板1の凸面12の頂面121が向く側に凸状である曲線をなす。当該断面において、当該端縁211を通過する縁端部212Aの接線TLの頂面121に対する傾斜角βは、先述の傾斜角αよりも小である。
【0023】
絶縁層22は、
図6に示すように、基板1の主面11、基板1の凸面12の一対の頂面121、およびグレーズ層21を覆っている。絶縁層22により、基板1は、抵抗体層3および配線層4に対して電気絶縁されている。絶縁層22は、たとえば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原材料とした二酸化ケイ素(SiO
2)からなる。絶縁層22の厚さの例は、1μm以上15μm以下である。
【0024】
抵抗体層3は、
図5および
図6に示すように、基板1の主面11および凸面12の上に形成されている。抵抗体層3は、絶縁層22に接している。これにより、サーマルプリントヘッドA10において、絶縁層22は、基板1と抵抗体層3との間に挟まれた構成となっている。抵抗体層3は、たとえば窒化タンタル(TaN)からなる。抵抗体層3の厚さの例は、0.02μm以上0.1μm以下である。
【0025】
図2、
図3および
図6に示すように、抵抗体層3は、複数の発熱部31を含む。抵抗体層3において、複数の発熱部31は、配線層4から露出する部分である。複数の発熱部31に対して配線層4から選択的に通電されることによって、複数の発熱部31は、記録媒体を局所的に加熱する。複数の発熱部31は、x方向に配列されている。複数の発熱部31のうち、x方向において隣り合う2つの当該発熱部31は、互いに離れて位置する。複数の発熱部31は、グレーズ層21の上に形成されている。サーマルプリントヘッドA10においては、複数の発熱部31は、基板1の凸面12の頂面121の上方に形成されている。
図4に示すように、サーマルプリンタB10において、複数の発熱部31は、プラテンローラ79に対向している。y方向において、複数の発熱部31は、グレーズ層21のy方向の中央に位置する。
【0026】
図10は、サーマルプリントヘッドA10の変形例であるサーマルプリントヘッドA11を示す部分拡大断面図である。サーマルプリントヘッドA11においては、
図10に示すように、y方向において、複数の発熱部31は、グレーズ層21のy方向の中央と、グレーズ層21の一対の端縁211のうちの一方との間に位置する。y方向において、複数の発熱部31は、グレーズ層21の上方に位置し、かつ下流側にずれて位置する。y方向において、複数の発熱部31の上流側の端部は、グレーズ層21のy方向の中央の上方に位置してもよく、あるいは中央の上方から上流側または下流側のいずれかにずれて位置してもよい。
【0027】
配線層4は、
図5および
図6に示すように、抵抗体層3に接して形成されている。配線層4は、抵抗体層3の複数の発熱部31に通電するための導電経路をなしている。配線層4の電気抵抗率は、抵抗体層3の電気抵抗率よりも小である。配線層4は、たとえば銅(Cu)からなる金属層である。配線層4の厚さの例は、0.3μm以上2.0μm以下である。この他、配線層4は、抵抗体層3の上に積層されたチタン(Ti)層と、当該チタン層の上に積層された銅層との2つの金属層からなる構成でもよい。この場合のチタン層の厚さの例は、0.1μm以上0.2μm以下である。
【0028】
図2に示すように、配線層4は、共通配線41、および複数の個別配線42を含む。共通配線41は、抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。複数の個別配線42は、複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
図3に示すように、z方向に沿って視て、共通配線41と複数の個別配線42とに挟まれた抵抗体層3の複数の領域が、複数の発熱部31である。
【0029】
図2および
図3に示すように、共通配線41は、基部411、および複数の延出部412を有する。y方向において、基部411は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。基部411は、z方向に沿って視てx方向に延びる帯状である。複数の延出部412は、y方向において基板1の凸部19に対向する基部411の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の延出部412は、x方向に沿って配列されている。複数の延出部412の各々の一部は、基板1の一対の傾斜面122のうち、基部411に対向する当該傾斜面122の上に形成されている。したがって、共通配線41の一部は、一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。共通配線41においては、基部411から複数の延出部412を介して複数の発熱部31に電流が流れる。
【0030】
図2および
図3に示すように、複数の個別配線42の各々は、基部421および延出部422を有する。y方向において、基部421は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。複数の個別配線42の基部421は、x方向に対して千鳥配置となるように配列されている。詳細に説明すると、複数の個別配線42の基部421は、x方向にそれぞれ配列された2列の基部421を含む。2列の基部421の各々において、複数の基部421が等しいピッチp(ピッチpは第1方向xにおいて隣り合う2つの基部421の中心間距離)でx方向に沿って配列されている。2列の基部421のうち、上流側に位置する基部421の列と、下流側に位置する基部421の列とは、ピッチpの1/2の距離だけx方向にずれて配列されている。
【0031】
図2および
図3に示すように、延出部422は、y方向において基板1の凸部19に対向する基部421の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の個別配線42の延出部422は、x方向に沿って配列されている。複数の個別配線42の各々の延出部422は、基板1の一対の傾斜面122のうち、複数の個別配線42の基部421に対向する当該傾斜面122の上に形成されている。したがって、複数の個別配線42の各々の一部は、一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。複数の個別配線42の各々においては、複数の発熱部31のいずれかから延出部422を介して基部421に電流が流れる。z方向に沿って視て、複数の発熱部31の各々は、複数の個別配線42の延出部422のいずれかと、共通配線41の複数の延出部412のいずれかとに挟まれている。
図2および
図3に示す配線層4、および複数の発熱部31の構成は一例である。本発明における配線層4、および複数の発熱部31の構成は、
図2および
図3に示す構成に限定されない。
【0032】
保護層5は、
図5に示すように、基板1の主面11の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4とを覆っている。保護層5は、電気絶縁性を有する。保護層5は、ケイ素をその組成に含む。保護層5は、たとえば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素(Si
3N
4)および炭化ケイ素(SiC)のいずれからなる。あるいは、保護層5は、これらの物質のうち複数種類からなる積層体でもよい。保護層5の厚さの例は、1.0μm以上10μm以下である。サーマルプリンタB10において、記録媒体は、
図4に示すプラテンローラ79により複数の発熱部31を覆う保護層5の領域に押し当てられる。
【0033】
図5に示すように、保護層5には、配線開口51が設けられている。配線開口51は、z方向に保護層5を貫通している。配線開口51から、複数の個別配線42の基部421と、複数の個別配線42の延出部422の各々の一部とが露出している。
【0034】
配線基板71は、
図4に示すように、y方向において基板1の隣に位置する。
図1に示すように、z方向に沿って視て、複数の個別配線42は、y方向において抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線基板71との間に位置する。z方向に沿って視て、配線基板71の面積は、基板1の面積よりも大である。さらに、z方向に沿って視て、配線基板71は、x方向を長手方向とする矩形状である。配線基板71は、たとえばPCB基板である。配線基板71には、複数の駆動素子73、およびコネクタ77が搭載されている。
【0035】
ヒートシンク72は、
図4に示すように、基板1の裏面13と対向している。裏面13は、ヒートシンク72に接合されている。配線基板71は、ねじなどの締結部材によりヒートシンク72に固定されている。サーマルプリントヘッドA10の使用時において、抵抗体層3の複数の発熱部31から発生した熱の一部は、基板1を介してヒートシンク72に伝導される。ヒートシンク72に伝導された熱は、外部へと放熱される。ヒートシンク72は、たとえばアルミニウム(Al)からなる。
【0036】
複数の駆動素子73は、
図1および
図4に示すように、電気絶縁性を有するダイボンディング材(図示略)を介して配線基板71の上に搭載されている。複数の駆動素子73の各々は、種々の回路が構成された半導体素子である。複数の駆動素子73の各々には、複数の第1ワイヤ74の各々の一端と、複数の第2ワイヤ75の各々の一端とが接合されている。複数の第1ワイヤ74の他端は、複数の個別配線42の基部421に対して個別に接合されている。複数の第2ワイヤ75の各々の他端は、配線基板71に設けられ、かつコネクタ77に導通する配線(図示略)に接合されている。これにより、印字信号、制御信号、および抵抗体層3の複数の発熱部31に供給される電圧が、外部からコネクタ77を介して複数の駆動素子73に入力される。複数の駆動素子73は、これらの電気信号に基づき、複数の個別配線42に電圧を選択的に印加させる。これにより、複数の発熱部31が選択的に発熱する。
【0037】
封止樹脂76は、
図4に示すように、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75と、基板1および配線基板71の各々の一部とを覆っている。封止樹脂76は、電気絶縁性を有する。封止樹脂76は、たとえばアンダーフィルに用いられる黒色かつ軟質の合成樹脂である。この他、封止樹脂76は、黒色かつ硬質の合成樹脂でもよい。
【0038】
コネクタ77は、
図1および
図4に示すように、配線基板71のy方向の一端に搭載されている。コネクタ77は、サーマルプリンタB10に接続される。コネクタ77は、複数のピン(図示略)を有する。当該複数のピンの一部は、配線基板71において、複数の第2ワイヤ75が接合された配線(図示略)に導通している。さらに、当該複数のピンの別の一部は、配線基板71において、共通配線41の基部411に導通する配線(図示略)に導通している。
【0039】
次に、
図11~
図22に基づき、サーマルプリントヘッドA10の製造方法の一例について説明する。ここで、
図11~
図13、および
図16~
図22の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0040】
最初に、
図11および
図12に示すように、基材81に凸部19を形成する。
【0041】
まず、
図11に示すように、基材81を覆う第1マスク層891と、第1マスク層891の一部を覆う第2マスク層892とを形成する。基材81は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。基材81は、シリコンウエハである。z方向に対して直交する方向において、複数の基板1にそれぞれ相当する領域が複数個連なったものが、基材81に相当する。基材81は、第1面81Aおよび第2面81Bを有する。第1面81Aおよび第2面81Bは、z方向において互いに反対側を向く。基材81の結晶構造に基づく第1面81Aおよび第2面81Bの面方位は、ともに(100)面である。第1マスク層891は、第1面81Aおよび第2面81Bを覆うように形成される。第1マスク層891は、二酸化ケイ素からなる。第2マスク層892は、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆うように形成される。第2マスク層892は、窒化ケイ素からなる。第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域と、当該領域を覆う第2マスク層892には、z方向に貫通するマスク開口893が形成されている。
【0042】
第1マスク層891および第2マスク層892の形成にあたっては、まず、熱酸化法により第1面81Aおよび第2面81Bを覆う二酸化ケイ素の薄膜を形成する。次いで、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)により、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆う窒化ケイ素の薄膜を形成する。最後に、リソグラフィパターニングと、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)とにより、第1面81Aを覆う二酸化ケイ素の薄膜の領域の一部と、当該領域を覆う窒化ケイ素の薄膜の一部とを除去する。これにより、第1マスク層891および第2マスク層892が形成されるとともに、第1面81Aを覆う当該第1マスク層891の領域と、当該領域を覆う第2マスク層892とにマスク開口893が形成される。
【0043】
第1マスク層891として、第1面81Aおよび第2面81Bを覆う窒化ケイ素の薄膜を熱CVDによって形成してもよい。この場合には、リソグラフィパターニングと、反応性イオンエッチングとにより、第1面81Aにおいて第1マスク層891によって覆われた所定の領域と、その領域以外であって第1面81Aが露出する領域であるマスク開口893とが形成される。
【0044】
次いで、
図12に示すように、基材81に主面11および凸部19を形成する。主面11および凸部19は、
図11に示すマスク開口893で露出した第1面81Aの領域に対して、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより形成される。当該エッチングは、異方性である。最後に、フッ化水素酸(HF)を用いたウエットエッチングにより第1マスク層891および第2マスク層892を除去する。以上により、主面11および凸部19が基材81に形成される。さらに、基材81の第2面81Bは、裏面13となる。凸面12は、主面11につながり、かつ主面11からz方向に膨出している。凸部19は、主面11からz方向に膨出し、かつx方向に沿って延びている。凸部19は、凸面12を含む。第1マスク層891および第2マスク層892に覆われていた第1面81Aの領域が、凸面12の頂面121となる。さらに、主面11に対する凸面12の一対の傾斜面122の各々の傾斜角αは、ともに同一である。これは、凸部19が異方性エッチングにより形成されることに起因している。
【0045】
基材81に主面11および凸部19を形成した後、主面11を覆う二酸化ケイ素の薄膜を熱酸化法により形成してもよい。複数の第1ワイヤ74が個別に接合される複数の個別配線42の基部421には、金属層がめっきにより積層されることがある。当該二酸化ケイ素の薄膜は、めっきにより金属層を積層する際、当該金属層の異常成長を抑制する効果がある。
【0046】
次いで、
図13に示すように、グレーズ層21を基材81の凸面12の頂面121に接して形成する。グレーズ層21は、流動体であるグレーズ材料を頂面121に供給した後、当該グレーズ材料を焼成することにより形成される。当該グレーズ材料は、たとえばディスペンサにより吐出される。当該グレーズ材料は、非晶質ガラスなどのガラスを含む。当該グレーズ材料は、複数回にわたった重ね塗布をしてもよい。当該グレーズ材料は、焼成により収縮する。このため、
図14および
図15に示すように、グレーズ層21の一対の端縁211は、先述の後退区間211A(本製造方法の一例では
図7に示す場合)を含む構成となる。当該グレーズ材料の供給方法の他の例として、スクリーンを用いて当該グレーズ材料を頂面121に印刷する方法が挙げられる。
【0047】
次いで、
図16に示すように、基材81の主面11、基材81の凸面12の一対の傾斜面122、およびグレーズ層21を覆う絶縁層22を形成する。絶縁層22は、プラズマCVDによりオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原料ガスとして形成された二酸化ケイ素の薄膜を複数回にわたって積層させることによって形成される。
【0048】
次いで、
図17~
図20に示すように、抵抗体層3および配線層4を形成する。抵抗体層3は、x方向に配列された複数の発熱部31を含む。配線層4は、複数の発熱部31に導通する。さらに、配線層4を形成する工程では、共通配線41、および複数の個別配線42を形成する工程を含む。基材81において、共通配線41は、
図20に示す抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。基材81において、複数の個別配線42は、
図20に示す複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
【0049】
まず、
図17に示すように、基材81の主面11および凸面12の上に抵抗体膜82を形成する。抵抗体膜82は、絶縁層22の全面を覆うように形成される。抵抗体膜82は、スパッタリング法により窒化タンタルの薄膜を絶縁層22に積層させることによって形成される。
【0050】
次いで、
図18に示すように、抵抗体膜82の全面を覆う導電層83を形成する。導電層83は、スパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって抵抗体膜82に積層させることによって形成される。この他、導電層83の形成にあたっては、スパッタリング法によりチタンの薄膜を抵抗体膜82に積層させた後、当該チタンの薄膜に対してスパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって積層させる手法を採ってもよい。
【0051】
次いで、
図19に示すように、導電層83に対してリソグラフィパターニングを施した後、導電層83の一部を除去する。当該除去は、硫酸(H
2SO
4)および過酸化水素(H
2O
2)の混合溶液を用いたウエットエッチングにより行われる。これにより、共通配線41、および複数の個別配線42が、抵抗体膜82に接して形成される。したがって、本工程でもって配線層4の形成が完了する。さらに、基材81の凸面12の頂面121の上に形成された抵抗体膜82の領域が配線層4から露出する。
【0052】
次いで、
図20に示すように、抵抗体膜82および配線層4に対してリソグラフィパターニングを施した後、抵抗体膜82の一部を除去する。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、抵抗体層3が、基材81の主面11および凸面12の上に形成される。基材81の頂面121の上には、複数の発熱部31が現れる。
【0053】
次いで、
図21に示すように、基材81の主面11の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4を覆う保護層5を形成する。保護層5は、プラズマCVDにより窒化ケイ素の薄膜を積層させることによって形成される。
【0054】
次いで、
図22に示すように、z方向に貫通する配線開口51を保護層5に形成する。配線開口51は、保護層5に対してリソグラフィパターニングを施した後、保護層5の一部を除去することにより形成される。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、配線開口51から複数の個別配線42の一部(
図5に示す複数の個別配線42の基部421、および複数の個別配線42の延出部422の各々の一部)が露出する。複数の個別配線42の各々の一部であり、かつ配線開口51から露出する部分は、たとえばワイヤボンディングにより複数の第1ワイヤ74が個別に接合される基部421をなす。配線開口51から露出する複数の個別配線42の各々の部分(基部421を含む)には、めっきにより金などの金属層を積層してもよい。
【0055】
次いで、基材81をx方向およびy方向に沿って切断することにより、基材81を個片に分割する。これにより、基板1を含むサーマルプリントヘッドA10の要部が得られる。次いで、配線基板71に複数の駆動素子73、およびコネクタ77を搭載する。次いで、基板1の裏面13、および配線基板71をヒートシンク72に接合させる。次いで、配線基板71に対して複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75の接合を行う。最後に、基板1および配線基板71に対して、駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75を覆う封止樹脂76の形成を行う。以上の工程を経ることによって、サーマルプリントヘッドA10が得られる。
【0056】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作用効果について説明する。
【0057】
サーマルプリントヘッドA10は、基板1の凸面12の頂面121に接して形成されたグレーズ層21を備える。グレーズ層21は、y方向において互いに離れて位置する一対の端縁211を有する。抵抗体層3の複数の発熱部31は、グレーズ層21の上に形成されている。z方向に沿って視て、一対の端縁211の各々は、頂面121と、凸面12の一対の傾斜面122との境界123よりも頂面121の内方に位置する後退区間211Aを含む。
【0058】
一対の端縁211の各々が後退区間211Aを含むグレーズ層21は、
図13に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、基材81に凸面12を含む凸部19を形成した後に、液状のグレーズ材料を凸面12の頂面121に塗布した上で当該グレーズ材料を焼成することにより得られる。このような製造方法を採ることにより、焼成前の当該グレーズ材料には、頂面121と凸面12の一対の傾斜面122との境界123において表面張力が作用する。当該表面張力が作用することにより、グレーズ層21の形状(周縁212)のバラツキを抑制することができる。サーマルプリントヘッドA10がこのようなグレーズ層21を備えることにより、凸部19の形成規模を抑制しつつ、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触面積をより小とすることができる。さらに、グレーズ層21は、複数の発熱部31から発した熱を蓄える効果を発揮する。これらにより、サーマルプリントヘッドA10によれば、第1に、印字エネルギー効率の改善を図ることができる。第2に、複数の発熱部31によりなされる記録媒体への印字の品質を向上させることができる。第3に、基板1の上にグレーズ層21を効率よく形成するとともに、グレーズ層21の形状の精度向上を図ることが可能となる。
【0059】
グレーズ層21は、z方向において凸面12の頂面121が向く側に膨出している。この場合において、z方向およびy方向の双方に沿った断面において、グレーズ層21の周縁212が曲線をなしていることが望ましい。これにより、グレーズ層21の上に形成された複数の発熱部31、および配線層4の一部の各々の形状が、より滑らかなものとなる。このことは、複数の発熱部31によりなされる記録媒体への印字の品質の向上に寄与する。
【0060】
グレーズ層21のz方向の寸法H(
図6参照)は、グレーズ層21のy方向の中央において最も大である。さらに、y方向において、複数の発熱部31は、グレーズ層21のy方向の中央に位置する。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用の際、複数の発熱部31に対する記録媒体の接触が局所的なものとなる。このため、複数の発熱部31に起因した記録媒体の熱影響範囲が過度に拡がることが防止されるため、当該複数の発熱部31によりなされる記録媒体への印字の品質の向上に寄与する。
【0061】
z方向およびy方向の双方に沿った断面において、グレーズ層21の周縁212は、一対の端縁211のいずれかにつながる縁端部212Aを含む。縁端部212Aは、z方向において凸面12の頂面121が向く側に凸状である曲線をなす。
図9に示すように、当該断面において、当該端縁211を通過する縁端部212Aの接線TLの頂面121に対する傾斜角βは、凸面12の一対の傾斜面122の各々の主面11に対する傾斜角αよりも小である。このような構成は、
図13に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、液状のグレーズ材料に作用する表面張力が、グレーズ層21の形状の精度向上に適した作用状態となっていることの現れである。
【0062】
サーマルプリントヘッドA10において、共通配線41の一部と、複数の個別配線42の各々の一部とは、凸面12の一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。これにより、z方向に沿って視て、複数の発熱部31の各々のy方向の寸法をより小としつつ、サーマルプリントヘッドA10の使用の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触面積をさらに小とすることができる。したがって、サーマルプリントヘッドA10における発熱量を抑えつつ、記録媒体における印字の品質をさらに向上させることができる。
【0063】
基板1において、一対の傾斜面122は、主面11から頂面121にかけて互いに近づくように主面11に対して傾斜している。このような凸面12の形状は、
図12に示すサーマルプリントヘッドA10の製造工程において、異方性エッチングにより基材81に凸部19を形成することにより現れる。これは、基材81は、半導体材料からなることと、当該半導体材料がケイ素を組成とする単結晶材料を含むこととに起因する。
【0064】
サーマルプリントヘッドA10は、絶縁層22、複数の発熱部31、および配線層4を覆う保護層5を備える。これにより、複数の発熱部31、および配線層4が保護層5により保護されるとともに、サーマルプリントヘッドA10の使用の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の摩擦力を低減させることができる。
【0065】
サーマルプリントヘッドA10は、ヒートシンク72をさらに備える。基板1の裏面13は、ヒートシンク72に接合されている。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、複数の発熱部31から発した熱の一部を、基板1およびヒートシンク72を介して速やかに外部に放出させることができる。
【0066】
〔第2実施形態〕
図23および
図24に基づき、本発明の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA20について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図23の断面位置は、先述したサーマルプリントヘッドA10を示す
図5の断面位置と同一である。
【0067】
サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の凸面12の構成と、抵抗体層3の複数の発熱部31の構成とが、先述したサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0068】
図23および
図24に示すように、凸面12の一対の傾斜面122の各々は、第1領域122Aおよび第2領域122Bを含む。第1領域122Aは、基板1の主面11につながっている。第2領域122Bは、凸面12の頂面121、および第1領域122Aにつながっている。一対の傾斜面122の各々において、主面11に対する第2領域122Bの傾斜角α2は、主面11に対する第1領域122Aの傾斜角α1よりも小である。このような一対の傾斜面122は、
図12に示す工程と、
図13示す工程との間に、頂面121と一対の傾斜面122との境界123、およびそれらの近傍に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いたウエットエッチングを施すことにより形成される。
【0069】
図24に示すように、抵抗体層3の複数の発熱部31は、以下の態様により形成されている。第1に、y方向において、複数の発熱部31は、グレーズ層21の上方に位置し、かつ、下流側にずれて位置する。第2に、y方向において、複数の発熱部31の上流側の端部は、グレーズ層21のy方向の中央の上方に位置してもよく、あるいは中央の上方から上流側または下流側のいずれかにずれて位置してもよい。
【0070】
次に、サーマルプリントヘッドA20の作用効果について説明する。
【0071】
サーマルプリントヘッドA20は、基板1の凸面12の頂面121に接して形成されたグレーズ層21を備える。グレーズ層21は、y方向において互いに離れて位置する一対の端縁211を有する。抵抗体層3の複数の発熱部31は、グレーズ層21の上に形成されている。z方向に沿って視て、一対の端縁211の各々は、頂面121と、凸面12の一対の傾斜面122との境界123よりも頂面121の内方に位置する後退区間211Aを含む。サーマルプリントヘッドA20がこのようなグレーズ層21を備えることにより、凸部19の形成規模を抑制しつつ、サーマルプリントヘッドA20に対する記録媒体の接触面積をより小とすることができる。さらに、グレーズ層21は、複数の発熱部31から発した熱を蓄える効果を発揮する。これらにより、サーマルプリントヘッドA20によれば、第1に、印字エネルギー効率の改善を図ることができる。第2に、複数の発熱部31によりなされる記録媒体への印字の品質を向上させることができる。第3に、基板1の上にグレーズ層21を効率よく形成するとともに、グレーズ層21の形状の精度向上を図ることが可能となる。
【0072】
サーマルプリントヘッドA20においては、凸面12一対の傾斜面122の各々は、第1領域122Aおよび第2領域122Bを含む。第1領域122Aは、基板1の主面11につながっている。第2領域122Bは、凸面12の頂面121、および第1領域122Aにつながっている。一対の傾斜面122の各々において、主面11に対する第2領域122Bの傾斜角α2は、主面11に対する第1領域122Aの傾斜角α1よりも小である。本構成をとることにより、凸面12に沿って形成された配線層4の一部の形状が、より滑らかなものとなる。あわせて、凸面12に沿って形成された配線層4において、配線パターンの欠損、断線などの発生が抑制される。
【0073】
本発明は、先述した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0074】
本発明によって提供されるサーマルプリントヘッド、サーマルプリントヘッドの製造方法、およびサーマルプリンタの技術的構成について、以下に付記する。
[付記1]
厚さ方向を向く主面と、前記主面につながり、かつ前記厚さ方向において前記主面が向く側に膨出する凸面と、を有する基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面および前記凸面の上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層に接して形成され、かつ前記複数の発熱部に導通する配線層と、を備え、
前記凸面は、前記主面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記主面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、
前記副走査方向において互いに離れて位置する一対の端縁を有するとともに、前記頂面に接して形成されたグレーズ層をさらに備え、
前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の上に形成され、
前記厚さ方向に沿って視て、前記一対の端縁の各々は、前記頂面と前記一対の傾斜面とのの境界よりも前記頂面の内方に位置する後退区間を含むことを特徴とする、サーマルプリントヘッド。
[付記2]
前記凸面は、前記主走査方向に沿って延び、
前記グレーズ層は、前記厚さ方向において前記頂面が向く側に膨出している、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記3]
前記頂面と前記一対の傾斜面との境界のいずれかから前記後退区間までの距離は、0μmを超えて15μm以下である、付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記4]
前記厚さ方向および前記副走査方向の双方に沿った断面において、前記グレーズ層の周縁は曲線をなしている、付記2または3に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記5]
前記グレーズ層の前記厚さ方向の寸法は、前記グレーズ層の前記副走査方向の中央において最も大である、付記4に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記6]
前記副走査方向において、前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の前記副走査方向の中央に位置する、付記5に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記7]
前記副走査方向において、前記複数の発熱部は、前記グレーズ層の前記副走査方向の中央と前記一対の端縁のうちの一方との間に位置する、付記5に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記8]
前記断面において、前記グレーズ層の前記周縁は、前記一対の端縁のいずれかにつながる縁端部を含み、
前記縁端部は、前記厚さ方向において前記頂面が向く側に凸状である曲線をなし、
前記断面において、当該端縁を通過する前記縁端部の接線の前記頂面に対する傾斜角は、前記一対の傾斜面の各々の前記主面に対する傾斜角よりも小である、付記4ないし7のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記9]
前記グレーズ層は、ガラスを含む材料からなる、付記1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記10]
前記一対の傾斜面は、前記主面から前記頂面にかけて互いに近づくように傾斜している、付記1ないし9のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記11]
前記一対の傾斜面の各々は、前記主面につながる第1領域と、前記頂面および前記第1領域につながる第2領域と、を含み、
前記主面に対する前記第2領域の傾斜角は、前記主面に対する前記第1領域の傾斜角よりも小である、付記10に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記12]
前記基板は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、付記1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記13]
前記主面、前記一対の傾斜面、および前記グレーズ層を覆う絶縁層をさらに備え、
前記抵抗体層は、前記絶縁層に接している、付記1ないし12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記14]
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の一方側に位置し、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の他方側に位置し、
前記共通配線の一部は、前記一対の傾斜面のうち前記副走査方向の前記一方側に位置する当該傾斜面の上に形成され、
前記複数の個別配線の各々の一部は、前記一対の傾斜面のうち前記副走査方向の前記他方側に位置する当該傾斜面の上に形成されている、付記13に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記15]
前記絶縁層、前記複数の発熱部、および前記配線層を覆う保護層をさらに備える、付記13または14に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記16]
ヒートシンクをさらに備え、
前記基板は、前記厚さ方向において前記主面とは反対側を向く裏面を有し、
前記裏面は、前記ヒートシンクに接合されている、付記1ないし15のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記17]
付記1ないし16のいずれかに記載のサーマルプリントヘッドと、
前記複数の発熱部に対向して配置されたプラテンローラと、を備える、サーマルプリンタ。
[付記18]
厚さ方向を向く主面と、前記主面につながり、かつ前記厚さ方向において前記主面が向く側に膨出する凸面と、を基材に形成する工程と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を、前記主面および前記凸面の上に形成する工程と、
前記複数の発熱部に導通する配線層を、前記抵抗体層に接して形成する工程と、を備え、
前記凸面は、前記主面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記主面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、
前記主面および前記凸面を形成する工程と、前記抵抗体層を形成する工程と、の間に、グレーズ層を前記頂面に接して形成する工程をさらに備え、
前記グレーズ層を形成する工程では、流動体であるグレーズ材料を前記頂面に供給した後、前記グレーズ材料を焼成することにより前記グレーズ層を形成することを特徴とする、サーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記19]
前記グレーズ材料は、ガラスを含む、付記18に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記20]
前記基材は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、付記18または19に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記21]
前記主面および前記凸面を形成する工程では、異方性エッチングにより前記主面および前記凸面を形成する、付記20に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0075】
A10,A20:サーマルプリントヘッド
1:基板
11:主面
12:凸面
121:頂面
122:傾斜面
122A:第1領域
122B:第2領域
123:境界
13:裏面
17:凸部
21:グレーズ層
211:端縁
211A:後退区間
212:周縁
212A:縁端部
2:絶縁層
3:抵抗体層
31:発熱部
4:配線層
41:共通配線
411:基部
412:延出部
42:個別配線
421:基部
422:延出部
5:保護層
51:配線開口
6:下地層
61:下地層
62:本体層
71:配線基板
72:ヒートシンク
73:駆動素子
74:第1ワイヤ
75:第2ワイヤ
76:封止樹脂
77:コネクタ
79:プラテンローラ
81:基材
81A:第1面
81B:第2面
82:抵抗体膜
83:導電層
84:下地層
85:本体層
891:第1マスク層
892:第2マスク層
893:マスク開口
α,α1,α2,β:傾斜角
d:距離
p:ピッチ