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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】ガス分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/12 20060101AFI20240708BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/60 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20240708BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D71/82
B01D71/36
B01D71/26
B01D71/70 500
B01D71/50
B01D71/60
B01D71/64
B01D53/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020151511
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045753
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩
(72)【発明者】
【氏名】和田 真
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184139(JP,A)
【文献】特表2008-513337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61/00-71/82
C08J 7/00-18、9/00-42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、
を備え、
前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられ
前記クラスタは、前記多孔質基材の前記孔内に前記分離層の界面から200nm以下の深さまで設けられている
ことを特徴とするガス分離膜。
【請求項2】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、
を備え、
前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられ、
前記分離層は、凝集した複数の粒子を含有するものであり、
前記クラスタは、ガス透過性を有する高分子材料中に存在するものである
ことを特徴とするガス分離膜。
【請求項3】
前記多孔質基材は、10nm以上100nm以下の直径の孔を有している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス分離膜。
【請求項4】
前記多孔質基材の空隙率は、35%以上85%以下である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項5】
前記多孔質基材の厚さは、5μm以上50μm以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項6】
前記多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレン,ポリエチレン,ポリプロピレン、のうちの少なくとも一種の樹脂からなるものである
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項7】
前記分離層の厚さは、50nm以上500nm以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項8】
前記分離層及び前記クラスタの前記高分子材料は、固有微細孔性ポリマ,ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン),ポリジメチルシロキサン,ポリイミド,ポリカーボネート,ポリエチレンイミン、のうちの少なくとも一種からなるものである
ことを特徴とする請求項に記載のガス分離膜。
【請求項9】
前記分離層及び前記クラスタは、前記粒子が20質量%以上60質量%以下の割合で存在しているものである
ことを特徴とする請求項又はに記載のガス分離膜。
【請求項10】
前記クラスタ及び前記分離層の前記粒子は、無機材料からなる粒子核の表面に対して修飾基が複数連結した表面修飾粒子である
ことを特徴とする請求項2、8及び9のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【請求項11】
前記修飾基は、鎖状に延伸する有機分子である
ことを特徴とする請求項10に記載のガス分離膜。
【請求項12】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、
を備え、
前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられているガス分離膜の製造方法であって、
前記粒子及び前記高分子材料の原料を溶媒中に添加して混合攪拌して塗工液を作製し、
前記多孔質基材の一方面に前記塗工液を押し込むように塗布した後、
乾燥させることにより製造する
ことを特徴とするガス分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記塗工液は、前記溶媒の質量に対して前記高分子材料が2質量%以上5質量%以下の範囲の割合で混合されている
ことを特徴とする請求項12に記載のガス分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜及びその製造方法に関し、特に、窒素ガスと酸素ガスとを分離する場合や、窒素ガスと二酸化炭素ガスとを分離する場合等に適用すると、有効なものである。
【背景技術】
【0002】
複数種が混在するガスから特定種のガスを分離するガス分離膜としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものが知られている。このガス分離膜は、無機材料製の多孔質基材膜上に無機材料製の分離層を設けたものであり、分離層の表面粗さを10μm以下にしたり、分離層上に有機材料製の保護層を設けたり、分離層を多孔質基材膜に含浸させた含浸層を形成したりすることにより、ガスの透過性及び選択性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-167149号公報
【文献】特許第5626950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したようなガス分離膜においては、ガス分離性能をより向上させることが強く求められている。
【0005】
このようなことから、本発明は、ガス分離性能をより向上させることができるガス分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための、本発明に係るガス分離膜は、多孔質基材と、前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、を備え、前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられ、前記クラスタは、前記多孔質基材の前記孔内に前記分離層の界面から200nm以下の深さまで設けられていることを特徴とする。
また、前述した課題を解決するための、本発明に係るガス分離膜は、多孔質基材と、前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、を備え、前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられ、前記分離層は、凝集した複数の粒子を含有するものであり、前記クラスタは、ガス透過性を有する高分子材料中に存在するものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るガス分離膜の製造方法は、多孔質基材と、前記多孔質基材の一方面を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層と、を備え、前記多孔質基材の孔内には凝集した複数の粒子のクラスタが前記分離層に接するように設けられているガス分離膜の製造方法であって、前記粒子及び前記高分子材料の原料を溶媒中に添加して混合攪拌して塗工液を作製し、前記多孔質基材の一方面に前記塗工液を押し込むように塗布した後、乾燥させることにより製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るガス分離膜によれば、ガス分離性能をより向上させることができる。
また、本発明に係るガス分離膜の製造方法によれば、本発明に係るガス分離膜を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るガス分離膜の主な実施形態の概略構成を表す断面図である。
図2図1の粒子の概略構成図である。
図3】本発明に係るガス分離膜の実施例における試験体2の透過型電子顕微鏡写真である。
図4】試験体20の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るガス分離膜及びその製造方法の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
[主な実施形態]
本発明に係るガス分離膜及びその製造方法の主な実施形態を図1,2に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るガス分離膜100は、孔111を多数有する多孔質基材110と、多孔質基材110の一方面(図1中、上面)を被覆するように設けられてガス透過性を有する高分子材料からなる分離層120と、を備え、多孔質基材110の孔111内には凝集した複数の粒子131を有する粒子群のクラスタ130が分離層120に接するように設けられたものである。
【0013】
多孔質基材110は、シート形状をなす樹脂からなり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0014】
このような多孔質基材110は、厚さt1が、5μm以上50μm以下であると好ましく、15μm以上25μm以下であるとより好ましい。厚さt1が、5μm未満であると、薄くなり過ぎて内部に粒子131が入り込み難くなり、好ましくなく、50μmを超えると、厚くなり過ぎてガス透過性(透過速度)の低下を招き易く、好ましくない。
【0015】
また、多孔質基材110は、孔111の直径d1が、10nm以上100nm以下であると好ましい。直径d1が、10nm未満であると、小さくなり過ぎて内部に粒子131が入り込み難くなり、好ましくなく、100nmを超えると、大きくなり過ぎて内部を粒子131が通過し易くなり、好ましくない。
【0016】
さらに、多孔質基材110は、空隙率が、35%以上85%以下であると好ましい。空隙率が、35%未満であると、内部に入り込む粒子131が少なくなり過ぎて、好ましくなく、85%を超えると、内部に入り込む粒子131が多くなり過ぎて、好ましくない。
【0017】
分離層120は、シート形状をなす高分子材料からなり、例えば、固有微細孔性ポリマ(Polymer of Intrinsic Microporosity:PIM),ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)(PTMSP),ポリジメチルシロキサン(PDMS),ポリイミド(PI),ポリカーボネート(PC),ポリエチレンイミン(PEI)等を挙げることができる。なかでも、「PIM」が好ましく、特に、5,5’,6,6’-テトラヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビスインダンとテトラフルオロテレフタロニトリルとを反応させて得られる「PIM-1」がさらに好ましい。
【0018】
また、分離層120は、厚さt2が、50nm以上500nm以下であると好ましい。厚さt2が、50nm未満であると、薄くなり過ぎて欠陥を生じ易くなり、好ましくなく、500nmを超えると、厚くなり過ぎてガス透過性(透過速度)の低下を招き易くなり、好ましくない。
【0019】
クラスタ130は、多孔質基材110の孔111内に分離層120の界面から200nm以下の深さt3にまで設けられていると好ましく、特に100nm以下の深さt3にまで設けられているとより好ましい。深さt3が、200nmを超えると、ガス透過性(透過速度)の低下を招き易くなり、好ましくない。
【0020】
また、クラスタ130は、多孔質基材110の孔111の直径d1以下の大きさであると好ましい。直径d1よりも大きいと、多孔質基材110の孔111内に入り込み難くなり、ガス透過性(透過速度)の低下を招き易くなるため、好ましくない。
【0021】
クラスタ130の粒子131は、図2に示すように、無機材料からなる粒子核132の表面に対して修飾基133が複数連結した表面修飾粒子であると好ましい。修飾基133は、鎖状に延伸する有機分子であると好ましく、例えば、前記特許文献2に開示されている「ハイパーブランチ高分子」や「デンドリマー高分子」のように分岐しながら鎖状に延伸する有機高分子であると、非常に嵩高くなり、粒子核132の周囲に空間(ナノスペース)134を形成し易くなると共に、粒子131を凝集させ易くすることができるので、非常に好ましい。
【0022】
そして、分離層120は、凝集した複数の粒子131を含有し(図示省略)、クラスタ130は、ガス透過性を有する前述した高分子材料のマトリクス中に存在している(図示省略)。このような分離層120及びクラスタ130は、粒子131が20質量%以上60質量%以下の割合で存在していると好ましい。20質量%未満であると、凝集した粒子131の量が少なくなり過ぎて、好ましくなく、60質量%を超えると、凝集した粒子131が大きくなり過ぎて、好ましくない。
【0023】
このような構造をなす本実施形態に係るガス分離膜100は、粒子131及び前述した高分子材料の原料をテトラヒドロフラン(THF)等の溶媒中に添加して混合攪拌して塗工液を作製し、多孔質基材110の一方面に塗工液を押し込むように塗布した後、乾燥させることにより、容易に製造することができる。
【0024】
このとき、多孔質基材110に対する塗工液の押込圧が、0.1Pa/m以上0.4Pa/m以下であると好ましい。0.1Pa/m未満であると、多孔質基材110の孔111の内部に塗工液を十分な量で押し込み難くなって、好ましくなく、0.4Pa/mを超えると、多孔質基材110の孔111の内部に塗工液を押し込み過ぎてしまうおそれを生じるだけでなく、多孔質基材110を損傷してしまうおそれを生じるため、好ましくない。
【0025】
また、塗工液は、溶媒の質量に対して高分子材料が2質量%以上5質量%以下の範囲の割合で混合されていると好ましい。2質量%未満であると、分離層120が薄くなり易く、ガス分離性能の低下を招き易くなって、好ましくなく、5質量%を超えると、分離層120が厚くなり易く、ガス透過性(透過速度)の低下を招き易くなって、好ましくない。
【0026】
このようにして得られる本実施形態に係るガス分離膜100においては、異なる種類のガスが混合された混合ガス(例えば、窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスや、窒素ガスと二酸化炭素ガスとの混合ガス等)を分離層120側に流通させると共に、多孔質基材110側を減圧環境にすると、上記混合ガスが分離層120内へ入り込んで行く。
【0027】
分離層120内へ入り込んだ混合ガスは、分子サイズ等のガスの種類ごとに分離層120の内部を透過する速度が異なるため、各ガスの多孔質基材110までの透過時間に差を生じ、分離層120内で分離(濃縮)するようになる。
【0028】
分離層120内を透過して多孔質基材110まで到達したガスは、分離層120からクラスタ130の粒子131の修飾基133で形成されたナノスペース134内に入り込み、凝集する粒子131のナノスペース134間を通過して多孔質基材110の孔111内へ送り出され、多孔質基材110の外部で回収される。
【0029】
このとき、分離層120で分離(濃縮)されたガスは、クヌーセン拡散を生じる多孔質基材110の孔111内への入り込みに際し、クラスタ130を介することによって、分離層120からの脱離が速くなる。このため、本実施形態に係るガス分離膜100においては、分離層120内でのガスの透過を速めることができ、ガス透過性を大きく向上させることができる。
【0030】
したがって、本実施形態に係るガス分離膜100によれば、ガス分離性能(特に透過性)をより向上させることができる。そして、本実施形態に係るガス分離膜100の製造方法によれば、本実施形態に係るガス分離膜100を容易に製造することができる。
【0031】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、同一の粒子131及び高分子材料を用いた分離層120及びクラスタ130を備えたガス分離膜100の場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、互いに異なる粒子や高分子材料を適用した分離層及びクラスタを備えたガス分離膜を適用することも可能である。
【0032】
しかしながら、前述した実施形態のように、同一の粒子131及び高分子材料を用いた分離層120及びクラスタ130を備えたガス分離膜100であると、分離層120の形成とクラスタ130の形成とを同時に行うことができ、製造の容易化をさらに図ることができるので、非常に好ましい。
【0033】
また、前述した実施形態においては、粒子131を含有する分離層120を備えたガス分離膜100の場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、粒子131を含まない前述した高分子材料からなる分離層を備えたガス分離膜とすることも可能である。
【0034】
しかしながら、前述した実施形態のように、粒子131を含有する分離層120を備えたガス分離膜100であると、分離層120内のガスの透過速度をさらに速くすることができ、ガス分離性能(特に透過性)のさらなる向上をより図ることができるので、非常に好ましい。
【0035】
また、前述した実施形態においては、ガス透過性を有する前述した高分子材料のマトリクス中にクラスタ130が存在するガス分離膜100の場合について説明したが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、複数の粒子131を凝集させたクラスタを備えたガス分離膜であれば、前述した実施形態の場合と同様に利用することができる。
【0036】
しかしながら、前述した実施形態のように、ガス透過性を有する前述した高分子材料のマトリクス中にクラスタ130が存在するガス分離膜100であると、クラスタ130内のガスの透過速度を速くすることができ、ガス分離性能(特に透過性)をより向上させることができるので、非常に好ましい。
【実施例
【0037】
本発明に係るガス分離膜及びその製造方法の効果を確認するために行った実施例を説明するが、本発明は具体的に説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
[試験体の作製]
〈試験体1〉
粒子径15nmのシリカナノ粒子核の表面にシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン:APTES)を介して3,5-ジアミノ安息香酸を反応させることにより修飾基を設けた表面ハイパーブランチ修飾シリカナノ粒子(前記特許文献2参照)とPIM-1とを、THF溶媒中に添加して6時間攪拌混合して塗工液を作製した。このとき、溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が2質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が10質量%となるように調整した。
【0039】
次に、厚さ15μm,孔径50nm,空隙率55%のポリエチレン(PE)製の多孔質基材(320mm×320mm)をマルチコータ(松尾産業株式会社製「K404(品番)」)上に配置し、上記塗工液1.5mLを塗工圧(押込圧)0.19Pa/m、塗工速度3m/分で多孔質基材に塗工した後、乾燥させることにより、ガス分離膜の試験体1を作製した。
【0040】
〈試験体2〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が20質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体2を作製した。
【0041】
〈試験体3〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が2.5質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が40質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体3を作製した。
【0042】
〈試験体4〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が2.5質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が50質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体4を作製した。
【0043】
〈試験体5〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が60質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体5を作製した。
【0044】
〈試験体6〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が80質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体6を作製した。
【0045】
〈試験体7〉
厚さ20μm,孔径100nm,空隙率80~85%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質基材(320mm×320mm)を適用し、溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が4質量%となるように調整する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体7を作製した。
【0046】
〈試験体8〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が20質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体8を作製した。
【0047】
〈試験体9〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が30質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体9を作製した。
【0048】
〈試験体10〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が50質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体10を作製した。
【0049】
〈試験体11〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が60質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体11を作製した。
【0050】
〈試験体12〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が80質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体12を作製した。
【0051】
〈試験体13〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が3.5質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が50質量%となるように調整する以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体13を作製した。
【0052】
〈試験体14〉
厚さ10μm,孔径50nm,空隙率50~60%のPTFE製の多孔質基材(320mm×320mm)を適用した以外は、試験体13と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体14を作製した。
【0053】
〈試験体15〉
厚さ10μm,孔径10nm,空隙率35~40%のPTFE製の多孔質基材(320mm×320mm)を適用した以外は、試験体13と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体15を作製した。
【0054】
〈試験体16〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が3.5質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が0質量%、すなわち、粒子の添加を省略した以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体16を作製した。
【0055】
〈試験体17〉
粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が0質量%、すなわち、粒子の添加を省略した以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体17を作製した。
【0056】
〈試験体18〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が4.5質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が0質量%、すなわち、粒子の添加を省略した以外は、試験体7と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体18を作製した。
【0057】
〈試験体19〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が3質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が0質量%、すなわち、粒子の添加を省略した以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体19を作製した。
【0058】
〈試験体20〉
溶媒の質量に対するPIM-1の質量の割合が3質量%となるように調整すると共に、粒子とPIM-1との合計質量に対する粒子の質量割合が20質量%となるように調整して、さらに、塗工液を塗工圧(押込圧)0.1Pa/m未満で多孔質基材に塗工する以外は、試験体1と同一の条件とすることにより、ガス分離膜の試験体20を作製した。
【0059】
【表1】
【0060】
[評価]
〈透過型電子顕微鏡(TEM)〉
上記試験体2と上記試験体20とのTEM画像を撮影した。その結果を図3,4に示す。試験体2(塗工圧:0.19Pa)においては、図3からわかるように、分離層(厚さ:約400nm)に接するように多孔質基材の孔内にクラスタ(深さ:約190nm)が形成されていた。これに対し、試験体20(塗工圧:0.1Pa未満)は、図4からわかるように、分離層に粒子が存在するのみで多孔質基材の孔内にクラスタが形成されることはなかった。
【0061】
〈ガス透過性及びガス選択性〉
試験体1~20の一方面側及び他方面側を真空雰囲気にした後、試験体1~20の一方面側を酸素雰囲気又は窒素雰囲気にして、試験体1~20の一方面側から他方面側までガスを透過させ、一方面側と他方面側との圧力差がなくなるまでの時間を測定して、ガスの透過速度(透過量)を算出することにより、ガス透過性(透過度)を求めると共に、窒素ガスの透過量に対する酸素ガスの透過量の割合を算出することにより、ガス選択性を求めた。そして、これらの結果から、分離性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0062】
なお、表2において、透過性は、10000GPU以上を「◎」(優秀)、1000GPU以上10000GPU未満を「○」(良好)、300GPU以上1000GPU未満を「△」(可)、300GPU未満を「×」(不可)と判定した。また、選択性は、1.20以上を「◎」(優秀)、1.10以上1.20未満を「○」(良好)、1.00超1.10未満を「△」(可)、1.00以下を「×」(不可)と判定した。そして、透過性の判定と選択性の判定とで低い方の判定結果を分離性能の評価とした。
【0063】
【表2】
【0064】
表2からわかるように、試験体19(基材孔径「中」で粒子「無」)や試験体20(基材孔径「中」でクラスタ「無」)においては、高い選択性を示すものの、透過性が低く、分離性評価が不可となった。他方、試験体16~18(基材孔径「大」で粒子「無」)においては、高い透過性を示すものの、選択性が低く、分離性評価が不可となった。
【0065】
また、試験体1(基材孔径「中」で粒子量「小」)、試験体6(基材孔径「中」で粒子量「大」)、試験体7(基材孔径「大」で粒子量「小」)においては、高い透過性を示したものの、選択性が低く、分離性評価が不可となった。
【0066】
これに対し、試験体2~5(基材孔径「中」で粒子量「中」)、試験体8~12(基材孔径「大」で粒子量「中~大」)、試験体13~15(基材孔径「小~大」で粒子量「中」)においては、透過性及び選択性の両者共に満足し得る性能を発現し、分離性評価が可以上となった。
【0067】
よって、本発明に係るガス分離膜は、ガス分離性能をより向上できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るガス分離膜及びその製造方法は、窒素ガスと酸素ガスとを分離する場合や、窒素ガスと二酸化炭素ガスとを分離する場合等に適用すると、ガス分離性能をより顕著に向上させることができると共に、それを容易に製造することができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
100 ガス分離膜
110 多孔質基材
111 孔
120 分離層
130 クラスタ
131 粒子
132 粒子核
133 修飾基
134 空間(ナノスペース)
図1
図2
図3
図4