IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ 新日鉄住金エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図1
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図2
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図3
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図4
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図5
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図6
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図7
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図8
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図9A
  • 特許-岸壁構造および岸壁構造の構築方法 図9B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】岸壁構造および岸壁構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20240708BHJP
【FI】
E02B3/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020169645
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2021134655
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020031238
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】永尾 直也
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】中村 直志
(72)【発明者】
【氏名】松原 朋裕
(72)【発明者】
【氏名】山中 善行
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-194867(JP,A)
【文献】特開2021-063404(JP,A)
【文献】国際公開第2013/164885(WO,A1)
【文献】特開2004-197358(JP,A)
【文献】特開平04-343906(JP,A)
【文献】特開2010-285751(JP,A)
【文献】特開平06-346417(JP,A)
【文献】特開2005-282174(JP,A)
【文献】国際公開第2016/001997(WO,A1)
【文献】特開2021-167518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁と、
前記土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から前記壁面方向に交差する方向に配列され、継手で嵌合することによって互いに連結される少なくとも本の鋼管矢板を含む鋼管矢板列と
を備え、
前記鋼管矢板列の前記土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板は、支持杭構造体の少なくとも一部として機能する岸壁構造。
【請求項2】
背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁と、
前記土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から前記壁面方向に交差する方向に配列される少なくとも1本の鋼管矢板を含む鋼管矢板列と
を備え、
前記鋼管矢板列の前記土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板は、支持杭構造体の少なくとも一部として機能し、
前記鋼管矢板列は、前記土留壁に連結される第2の鋼管矢板と、前記第2の鋼管矢板に対して前記壁面方向に交差する方向に隣接し、前記第2の鋼管矢板に継手で嵌合することによって連結される少なくとも1本の第3の鋼管矢板とを含む岸壁構造。
【請求項3】
前記鋼管矢板列は、地盤に対して前記土留壁を挟んで海側に配置されている、請求項1または請求項2に記載の岸壁構造。
【請求項4】
前記支持杭構造体よりも海側に位置する控え杭構造体と、前記支持杭構造体を前記控え杭構造体に繋ぐ連結部材とをさらに備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項5】
前記支持杭構造体は、前記第1の鋼管矢板と、前記第1の鋼管矢板の頭部の外側に嵌合する第1のジャケットレグとを含み、
前記控え杭構造体は、控え杭と、前記控え杭の頭部の外側に嵌合する第2のジャケットレグとを含み、
前記連結部材は、前記第1のジャケットレグと前記第2のジャケットレグとの間に配置される第1の連結部材を含む、請求項4に記載の岸壁構造。
【請求項6】
前記第1の鋼管矢板の頭部では、隣接する鋼管矢板または前記土留壁との間に継手が形成されず、前記継手が形成されない部分に前記第1のジャケットレグが外側から嵌合する、請求項5に記載の岸壁構造。
【請求項7】
前記連結部材は、前記第1のジャケットレグを前記土留壁に繋ぐ第2の連結部材を含む、請求項5または請求項6に記載の岸壁構造。
【請求項8】
前記土留壁は、互いに連結された複数の鋼管矢板によって構成され、
前記岸壁構造は、前記複数の鋼管矢板のうちの1つの鋼管矢板の頭部の内側に嵌合する嵌合部材を含み、
前記第2の連結部材は前記第1のジャケットレグと前記嵌合部材との間に配置される、請求項7に記載の岸壁構造。
【請求項9】
前記鋼管矢板列は、前記土留壁と前記第1の鋼管矢板との間に配置される少なくとも1本の第4の鋼管矢板を含み、
前記第4の鋼管矢板の頭部は前記第2の連結部材から離隔している、請求項7または請求項8に記載の岸壁構造。
【請求項10】
前記鋼管矢板列に含まれる鋼管矢板同士で継手を嵌合させることによって囲まれる継手空間に前記鋼管矢板の周面からずれ止めが突出し、かつ前記継手空間に充填材が充填されている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項11】
前記土留壁は、互いに連結された複数の鋼管矢板によって構成され、前記鋼管矢板列の前記土留壁側の端部は前記区間の両端部に位置する鋼管矢板に連結される、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項12】
前記鋼管矢板列を構成する鋼管矢板、および前記土留壁を構成する鋼管矢板のそれぞれの頭部がコーピングによって固定される、請求項11に記載の岸壁構造。
【請求項13】
前記鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の根入れ深さは、前記土留壁の根入れ深さよりも浅い、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項14】
背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁を構築する工程と、
前記土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から前記壁面方向に交差する方向に、継手で嵌合することによって互いに連結される少なくとも本の鋼管矢板を配列して鋼管矢板列を構築する工程と、
前記鋼管矢板列の前記土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程と
を含む、岸壁構造の構築方法。
【請求項15】
背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁を構築する工程と、
前記土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から前記壁面方向に交差する方向に少なくとも1本の鋼管矢板を配列して鋼管矢板列を構築する工程と、
前記鋼管矢板列の前記土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程と
を含み、
前記第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程は、前記第1の鋼管矢板の頭部の外側に第1のジャケットレグを嵌合させる工程を含み、
前記第1のジャケットレグに連結部材を介して連結された第2のジャケットレグをガイドとして前記第1の鋼管矢板よりも海側に控え杭を打設する工程をさらに含む、岸壁構造の構築方法。
【請求項16】
背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁を構築する工程と、
前記土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から前記壁面方向に交差する方向に少なくとも1本の鋼管矢板を配列して鋼管矢板列を構築する工程と、
前記鋼管矢板列の前記土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程と
を含み、
第1のジャケットレグ、前記第1のジャケットレグよりも海側に位置する第2のジャケットレグ、および前記第1のジャケットレグを前記第2のジャケットレグに連結する連結部材を据え付ける工程と、
前記第2のジャケットレグをガイドとして控え杭を打設する工程と
をさらに含み、
前記第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程は、前記第1のジャケットレグをガイドとして前記第1の鋼管矢板を打設する工程を含む、岸壁構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁構造および岸壁構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岸壁構造では、海底面よりも深くまで打設された鋼製の土留め壁が背面土圧に抵抗する。土留め壁を構成する鋼材としては、地中への打設が容易であることから鋼矢板や鋼管矢板が一般的に用いられている。水深が大きくなる場合には、鋼矢板や鋼管矢板のみでは背面土圧に対する抵抗力が不足するため、背面に設置したタイロッド構造や、前面に設置した桟橋構造により、壁体頭部の水平力を支持して、背面土圧に抵抗する構造としている。護岸法線より前面に桟橋を増設する場合に、経済的に急速施工可能な工法として、前面の桟橋をジャケット構造にする方式が採用されているが、土留め壁は直接ジャケットで連結されるわけではなく、土留め壁に作用する背面土圧は、海側に構築されるジャケット構造に水平力のみ伝達される。そのため、土留め壁と桟橋それぞれで鋼材が必要になり、鋼材量が増加する結果、経済性が低下する傾向にあった。
【0003】
これに対して、特許文献1では、シート状の部材、例えば直線鋼矢板を用いて海側に凸なアーチ形状の土留め壁を構成する技術が提案されている。この場合、背面土圧は土留壁の水平方向の張力としてジャケット構造のレグまで伝達される。土留め壁の曲げ剛性ではなく張力を利用することによって、断面の増加や腹起し工の追加による鋼材量の増加を抑制しつつ、背面土圧に抵抗することが可能な鋼矢板壁を構築することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-194867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような鋼矢板壁の場合、土留壁から張力によって伝達される背面土圧にジャケット構造を含む支持構造のみで抵抗することになり、支持構造が負担する荷重が過大になる結果、支持構造の鋼材量が増大して経済的でないのに加えて、施工の難易度も高くなる。
【0006】
そこで、本発明は、鋼材量の増加を抑制しつつ、支持構造が負担する荷重を軽減することが可能な、岸壁構造および岸壁構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁と、土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から壁面方向に交差する方向に配列される少なくとも1本の鋼管矢板を含む鋼管矢板列とを備え、鋼管矢板列の土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板は、支持杭構造体の少なくとも一部として機能する岸壁構造。
[2]鋼管矢板列は、土留壁に連結される第2の鋼管矢板と、第2の鋼管矢板に対して壁面方向に交差する方向に隣接し、第2の鋼管矢板に継手で嵌合することによって連結される少なくとも1本の第3の鋼管矢板とを含む、[1]に記載の岸壁構造。
[3]鋼管矢板列は、地盤に対して土留壁を挟んで海側に配置されている、[1]または[2]に記載の岸壁構造。
[4]支持杭構造体よりも海側に位置する控え杭構造体と、支持杭構造体を控え杭構造体に繋ぐ連結部材とをさらに備える、[1]から[3]のいずれか1項に記載の岸壁構造。
[5]支持杭構造体は、第1の鋼管矢板と、第1の鋼管矢板の頭部の外側に嵌合する第1のジャケットレグとを含み、控え杭構造体は、控え杭と、控え杭の頭部の外側に嵌合する第2のジャケットレグとを含み、連結部材は、第1のジャケットレグと第2のジャケットレグとの間に配置される第1の連結部材を含む、[4]に記載の岸壁構造。
[6]第1の鋼管矢板の頭部では、隣接する鋼管矢板または土留壁との間に継手が形成されず、継手が形成されない部分に第1のジャケットレグが外側から嵌合する、[5]に記載の岸壁構造。
[7]連結部材は、第1のジャケットレグを土留壁に繋ぐ第2の連結部材を含む、[5]または[6]に記載の岸壁構造。
[8]土留壁は、互いに連結された複数の鋼管矢板によって構成され、岸壁構造は、複数の鋼管矢板のうちの1つの鋼管矢板の頭部の内側に嵌合する嵌合部材を含み、第2の連結部材は第1のジャケットレグと嵌合部材との間に配置される、[7]に記載の岸壁構造。
[9]鋼管矢板列は、土留壁と第1の鋼管矢板との間に配置される少なくとも1本の第4の鋼管矢板を含み、第4の鋼管矢板の頭部は第2の連結部材から離隔している、[7]または[8]に記載の岸壁構造。
[10]鋼管矢板列に含まれる鋼管矢板同士で継手を嵌合させることによって囲まれる継手空間に鋼管矢板の周面からずれ止めが突出し、かつ継手空間に充填材が充填されている、[1]から[9]のいずれか1項に記載の岸壁構造。
[11]土留壁は、互いに連結された複数の鋼管矢板によって構成され、鋼管矢板列の土留壁側の端部は区間の両端部に位置する鋼管矢板に連結される、[1]から[10]のいずれか1項に記載の岸壁構造。
[12]鋼管矢板列を構成する鋼管矢板、および土留壁を構成する鋼管矢板のそれぞれの頭部がコーピングによって固定される、[11]に記載の岸壁構造。
[13]鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の根入れ深さは、土留壁の根入れ深さよりも浅い、[1]から[12]のいずれか1項に記載の岸壁構造。
[14]背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁を構築する工程と、土留壁の壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部から壁面方向に交差する方向に少なくとも1本の鋼管矢板を配列して鋼管矢板列を構築する工程と、鋼管矢板列の土留壁とは反対側の端部に位置する第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程とを含む、岸壁構造の構築方法。
[15]第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程は、第1の鋼管矢板の頭部の外側に第1のジャケットレグを嵌合させる工程を含み、第1のジャケットレグに連結部材を介して連結された第2のジャケットレグをガイドとして第1の鋼管矢板よりも海側に控え杭を打設する工程をさらに含む、[14]に記載の岸壁構造の構築方法。
[16]第1のジャケットレグ、第1のジャケットレグよりも海側に位置する第2のジャケットレグ、および第1のジャケットレグを第2のジャケットレグに連結する連結部材を据え付ける工程と、第2のジャケットレグをガイドとして控え杭を打設する工程とをさらに含み、第1の鋼管矢板を支持杭構造体に組み込む工程は、第1のジャケットレグをガイドとして第1の鋼管矢板を打設する工程を含む、[14]に記載の岸壁構造の構築方法。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁と鋼管矢板列とが地盤に対してU字形の壁体として一体的に挙動するため、背面土圧に対して所望の曲げ剛性をもった岸壁構造を容易に構築することができる。また、背面土圧によって土留壁に生じる回転モーメントに対して、鋼管矢板列が受ける鉛直方向の地盤反力によって抵抗することができる。従って、鋼材量の増加を抑制しつつ、支持構造が負担する荷重を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図1に示された岸壁構造で利用可能な継手の例を示す図である。
図5図1に示された岸壁構造における土留壁の根入れ深さについて説明するための図である。
図6】本発明の第1の実施形態の実施例と、鋼管矢板列を含まない比較例との間で、有限要素法(FEM)によって総荷重に対する変位を算出した結果を示すグラフである。
図7】本発明の第1の実施形態の実施例について、鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の数を変化させた場合の壁体の荷重分担率をFEMによって算出した結果を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る岸壁構造の断面図である。
図9A】本発明の実施例に係る岸壁構造について、フレーム解析によって算出した変位量を比較して示す図である。
図9B】本発明の実施例に係る岸壁構造について、フレーム解析によって算出した変位量を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
図1は本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造の平面図であり、図2および図3はそれぞれ図1のII-II線およびIII-III線に沿った断面図である。図示されるように、岸壁構造1は、互いに連結された複数の鋼管矢板21によって構成される土留壁2と、所定の本数の鋼管矢板21ごとに連結され、土留壁2の壁面方向に交差する方向に配列される少なくとも1本の鋼管矢板を含む鋼管矢板列3と、鋼管矢板列3の土留壁2とは反対側の端部に位置する鋼管矢板31(第1の鋼管矢板)および鋼管矢板31の頭部の外側に嵌合するジャケットレグ42を含む支持杭構造体4とを含む。鋼管矢板列3は、地盤Gに対して土留壁2を挟んで海側に配置されている。
【0012】
本実施形態において、鋼管矢板列3の土留壁2とは反対側の端部に位置する鋼管矢板31は、ジャケットレグ42とともに支持杭構造体4の一部として機能する。図示された例において、鋼管矢板列3は、上記の鋼管矢板31に加えて、土留壁2に連結される鋼管矢板32(第2の鋼管矢板)と、鋼管矢板32に対して土留壁2の壁面方向に交差する方向に隣接し、鋼管矢板32に継手で嵌合することによって連結される鋼管矢板33(第3の鋼管矢板)とを含み、1か所あたり3本の鋼管矢板によって構成される。他の例では、鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の数がより少なくてもよい。例えば、土留壁2に連結される鋼管矢板32と、支持杭構造体の一部として機能する鋼管矢板31とが直接的に連結されることによって鋼管矢板列が構成され、中間的な鋼管矢板(第3の鋼管矢板)が含まれなくてもよい。あるいは、土留壁2に連結される鋼管矢板が支持杭構造体の一部として機能し(つまり、上記の例における鋼管矢板32と鋼管矢板31とが同じものであり)、鋼管矢板列が1本の鋼管矢板(第1の鋼管矢板)のみによって構成されてもよい。逆に、鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の数がより多くてもよく、その場合は中間的な鋼管矢板(第3の鋼管矢板)が2本以上含まれる。
【0013】
図示された例において、岸壁構造1は、支持杭構造体4よりも海側に位置する控え杭構造体5と、支持杭構造体4を控え杭構造体5に連結する連結部材である梁6とをさらに含む。控え杭構造体5は控え杭51および控え杭51の頭部の外側に嵌合するジャケットレグ52を含み、梁6はジャケットレグ42,52の間に配置される。
【0014】
本実施形態では、複数の鋼管矢板21が互いに連結されていることによって、土留壁2が地盤Gからの背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する。加えて、本実施形態では、鋼管矢板列3が土留壁の壁面方向の区間S1の両端部にそれぞれ連結されることによって、区間S1の鋼管矢板21と両側の鋼管矢板列3とが地盤Gに対してU字形の壁体W(鎖線で囲んで示す)として一体的に挙動する。壁体Wの断面二次モーメントは、例えば区間S1の鋼管矢板21のみで構成される壁体に比べて大きく、また鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板の数を、第1の鋼管矢板31は必須とし、必要に応じて第2の鋼管矢板32、さらには1または2以上の第3の鋼管矢板33を増やすことによって容易に増大させることができる。従って、本実施形態では、岸壁構造1の背面土圧に対する曲げ剛性を効果的に向上させることができる。
【0015】
なお、土留壁2では根入れ深さを深くして海底地盤から受ける受働土圧を確保することによって岸壁構造1の背面土圧に対する抵抗力が得られるが、鋼管矢板列3は岸壁構造1の背面土圧に抵抗する方向には受働土圧を受けず、主に鉛直方向の地盤反力によって背面土圧に抵抗する。従って、鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板の根入れ深さは、土留壁2、具体的には土留壁2を構成する鋼管矢板21の根入れ深さよりも浅くてもよい。
【0016】
ここで、図3に示されるように、支持杭構造体4において、ジャケットレグ42は鋼管矢板31の頭部の外側に嵌合する。鋼管矢板列3の土留壁2とは反対側の端部に位置する鋼管矢板31と隣接する鋼管矢板とは例えば後述するような継手によって連結されるが、ジャケットレグ42が外側に嵌合する鋼管矢板31の頭部では、隣接する鋼管矢板(鋼管矢板32、他の例では鋼管矢板33)または土留壁2(鋼管矢板列が1本の鋼管矢板によって構成される場合)との間に継手を形成せず、鋼管矢板31と隣接する鋼管矢板または土留壁との間に隙間を空けておくことによって、ジャケットレグ42の施工が容易になる。
【0017】
図4は、図1に示された岸壁構造で利用可能な継手の例を示す図である。図示された例において、鋼管矢板列3に含まれる2つの鋼管矢板の間の継手34は、一方の鋼管矢板の周面から突出する1対の雌側継手部材341と、他方の鋼管矢板の周面から突出する1対の雄側継手部材342とを含む。鋼管矢板同士で継手34を嵌合させることによって囲まれる継手空間、すなわち雌側継手部材341、雄側継手部材342およびそれぞれの鋼管矢板31と、鋼管矢板32または鋼管矢板33、21の周面によって囲まれる空間には、充填材343が充填される。具体的には、雌側継手部材341および雄側継手部材342は、例えば山形鋼で形成される。充填材343には、モルタル、セメント、またはコンクリートなどを用いることができる。このような継手によって、鋼管矢板同士の間で水平方向の圧縮荷重およびせん断荷重を伝達することができる。
【0018】
さらに、本実施形態では、継手34がずれ止め344A,344Bを有する。ずれ止め344A,344Bは、1対の雌側継手部材341の間、または1対の雄側継手部材342の間で鋼管矢板の周面から上記の継手空間に突出し、充填材343に定着することによって、鋼管矢板同士の間で鉛直方向のせん断荷重がより確実に伝達されるようにする。ずれ止め344A,344Bを配置することによって、鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板の間で鉛直方向のせん断による位置ずれが生じるのをより確実に防止し、鋼管矢板列3を一体的な壁体として挙動させることができる。なお、ずれ止め344A,344Bは、例えば図示されたように水平方向に延びるリブであってもよいし、点状に突出するビードのようなものであってもよい。
【0019】
上記のような継手34は、鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板同士の間に限らず、鋼管矢板31と土留壁2の鋼管矢板21との間に配置されてもよい。また、図示していないが、鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板、および土留壁2を構成する鋼管矢板21のそれぞれの頭部をコーピングによって固定することによって壁体Wの一体性を高めてもよい。
【0020】
図5は、図1に示された岸壁構造における土留壁の根入れ深さについて説明するための図である。本実施形態において、土留壁2を構成する鋼管矢板21の根入れ深さは、背面土圧、すなわち土留壁2が陸側の地盤Gから受ける主働土圧P1と、海底地盤から受ける受働土圧P2とがつりあう深さd1よりも深く設定することができる。また、土留壁の負担を増やして、支持構造が負担する荷重を軽減する考え方から、鋼管矢板21の根入れ深さは、土留壁2の頭部回りのモーメントがつりあう深さd2よりも深く設定することが望ましい。例えば、土留壁を自立構造と仮定した場合の曲げモーメント第1ゼロ点以上土留壁を根入れさせるという考え方もある。
【0021】
一方、鋼管矢板31を除く鋼管矢板列3は、鋼管矢板31に荷重を伝達する役割のため、根入れの必要がない。例えば、地盤面から1mから2mだけ根入れさせるという考え方もある。また継手も全長にわたって取り付ける必要もなく、地盤から突出している部分であっても、必要な部分のみ継手を取り付けて、継手が取りついていない部分を設けても良い。
【0022】
次に、本実施形態に係る岸壁構造の構築方法の例について概略的に説明する。まず、土留壁2の鋼管矢板21を互いに連結しながら順次打設する、次に、鋼管矢板列3の鋼管矢板を1本目は鋼管矢板21に連結しながら、2本目以降は鋼管矢板同士を互いに連結しながら順次打設する。例えば、土留壁2の全体を構成する鋼管矢板21の打設後に鋼管矢板列3の鋼管矢板が打設されてもよいし、上述した区間S1の鋼管矢板21の打設後に、他の区間の鋼管矢板21の打設と並行または前後して鋼管矢板列3の鋼管矢板が打設されてもよい。鋼管矢板列3の土留壁2とは反対側の端部に位置する鋼管矢板31は、例えば上記で図4を参照して説明したような継手を用いて隣接する鋼管矢板、または土留壁2に連結されるが、この場合、鋼管矢板31は隣接する鋼管矢板または土留壁2の鋼管矢板21との間で継手を嵌合させながら打設される。あるいは、先に鋼管矢板31を打設し、区間S1の端部に位置する鋼管矢板21と鋼管矢板31との間をつなぐように鋼管矢板列3の他の鋼管矢板の位置を調整しながら打設してもよい。
【0023】
鋼管矢板31の打設後に、ジャケットレグ42、梁6およびジャケットレグ52を含むジャケット構造体を鋼管矢板31に据え付け、さらにジャケットレグ52をガイドとして控え杭51を打設する。なお、他の例として、仮杭などを用いてジャケット構造体(ジャケットレグ42、梁6およびジャケットレグ52)を先行して据え付け、ジャケットレグ42,52をガイドとして鋼管矢板31および控え杭51をそれぞれ打設してもよい。上記のいずれかの工程によって、鋼管矢板列3の土留壁2とは反対側の端部に位置する鋼管矢板31が支持杭構造体4に組み込まれる。ジャケット構造体の上方には、岸壁のエプロン部分を構成する上部工(図示せず)が設置されてもよい。また、土留壁2の構築後に、土留壁2とは独立して鋼管矢板列3を構築することが可能であるため、既存の直線状の土留壁2の補強のために鋼管矢板列3を追加で施工して、本実施形態に係る岸壁構造1としてもよい。
【0024】
以上で説明したような本発明の第1の実施形態では、既に説明したように、背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁2と鋼管矢板列3とが地盤Gに対してU字形の壁体Wとして一体的に挙動する。壁体Wの断面二次モーメントは土留壁2単独の場合に比べて大きく、また鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板の数によって容易に調整できるため、背面土圧に対して所望の曲げ剛性をもった岸壁構造1を容易に構築することができる。また、背面土圧によって土留壁2に生じる回転モーメントに対して、鋼管矢板列3が受ける鉛直方向の地盤反力によって抵抗することができる。従って、本実施形態では、鋼材量の増加を抑制しつつ、支持構造が負担する荷重を軽減することができる。
【0025】
さらに、本実施形態では、鋼管矢板列3の鋼管矢板が土留壁を構成しないため、鋼管矢板31、32、33、21同士の間を必ずしも深さ方向の全長にわたって継手で連結する必要がない。従って、上述のように鋼管矢板列3の端部に位置する鋼管矢板31と隣接する鋼管矢板32、33または土留壁2との間で上方の部分には継手を形成せず、鋼管矢板31の周囲に隙間を空けておくことによってジャケットレグ42の施工を容易にすることができる。
【0026】
また、本実施形態では、土留壁2が背面土圧に対して曲げ抵抗力を有するために、土留壁2を構成する部材、すなわち鋼管矢板21も曲げ剛性を有する。このように曲げ剛性を有する部材で土留壁2を構成することによって、例えば各部材を地中に打設するときの曲がりを小さくすることができ、土留壁2の施工性が高くなる。
【0027】
なお、他の実施形態では、土留壁2と同様に背面土圧に対して曲げ抵抗力を有する土留壁として、例えば鋼矢板、H形鋼、または鉄筋コンクリートなどで構成される土留壁が用いられる。これらの土留壁についても、壁面方向の少なくとも一部の区間の両端部に鋼管矢板列3の鋼管矢板との連結構造を形成することによって、上記の第1の実施形態に係る岸壁構造1と同様の効果を得ることができる。
【0028】
図6は、上記で説明した本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造(実施例)と、鋼管矢板列を含まない比較例との間で、有限要素法(FEM)によって総荷重に対する変位を算出した結果を示すグラフである。以下で説明する実施例および比較例では、直径1100mm、管厚12mmの鋼管矢板を用いた。実施例では、鋼管矢板9本を互いに連結して幅10mの土留壁を構築し、土留壁の両端の鋼管矢板にそれぞれ、土留壁の壁面方向に直交する方向に配列される3本の鋼管矢板を含む鋼管矢板列を連結した。鋼管矢板列のうち、土留壁とは反対側の端部に位置する鋼管矢板は、ジャケットレグおよび梁を介して控え杭構造体に連結される。一方、比較例では、鋼管矢板9本を互いに連結して幅10mの土留壁を構築し、鋼管矢板列は配置せずに、土留壁の両端の鋼管矢板をジャケットレグおよび梁を介して控え杭構造体に連結した。実施例、比較例とも、土留壁および鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の頭部にはコーピングが施工され、鋼管矢板の間で鉛直方向の位置ずれは起きないものとした。
【0029】
実施例、比較例とも、陸側の地盤面は鋼管矢板の上端に一致し、陸側の地盤面を基準にした支持杭および控え杭の根入れ深さは46.3m、鋼管矢板の根入れ深さは32.5mとした。鋼管矢板の上端から海底までの距離は16.9mとした。ジャケットレグが取り付けられる鋼管矢板および控え杭の下端は鉛直方向の変位を生じないピン支点とし、土留壁の地中部分に作用する海側からの受働土圧を設定した。また、支持杭構造体のジャケットレグの長さは5.4mとした。以上のような条件下で、土留壁に作用する陸側からの主働土圧の総荷重と控え杭構造体の上端(桟橋肩部)に生じる変位との関係が、図6のグラフに示されている。グラフに示されるように、FEMによる計算の結果、土留壁と鋼管矢板列とによってU字形の壁体が構成される実施例では、土留壁のみによって直線状の壁体が構成される比較例に比べて、同じ総荷重に対する変位が約17%抑制されることがわかった。
【0030】
次に、本発明の実施形態における壁体の曲げ剛性向上の効果について検証する。表1に、実施例および2つの比較例における、断面あたりの鋼重と曲げ剛性EIの比を示す。なお、土留壁および鋼管矢板列の幅は、それぞれの両端の鋼管矢板の中心間の距離である。曲げ剛性EIおよび鋼重比は、実施例を1とする比で表されている。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例では土留壁と鋼管矢板列とによってU字形の壁体が構成されるのに対して、比較例では土留壁のみによって直線状の壁体が構成される。比較例1では壁体の曲げ剛性を向上させるために、実施例と同じ鋼管直径で管厚を製造限界(20mm)まで厚くしているが、曲げ剛性EIは実施例の0.14倍にとどまる。一方、比較例2では製造限界を考慮せず、鋼管直径(2000mm)、管厚(24mm)を極端に大きくすることで曲げ剛性EIを実施例と同水準にしているが鋼重比は実施例の1.96倍になり、製造上実用的でないのに加えて鋼材使用量の観点からも経済的ではない。
【0033】
図7は、上記で説明した本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造について、鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の数Nを変化させた場合の壁体、すなわち土留壁と鋼管矢板列とを合わせた構造体の荷重分担率を算出した結果を示すグラフである。土留壁について、上述したような十分な根入れ深さが確保されていれば、グラフに示されるように鋼管矢板列を構成する鋼管矢板の本数Nが多くなるほど荷重分担率は上昇する。土留壁と鋼管矢板列とを合わせた壁体の荷重分担率が上昇することによって、支持杭構造体および控え杭構造体が負担する荷重がより小さくなり、例えば支持杭の根入れ深さを浅くしたり、梁を含めた部材の鋼材量を小さくしたりすることができる。
【0034】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る岸壁構造の断面図である。本実施形態に係る岸壁構造1Aは、上記の第1の実施形態と同様の構成に加えて、土留壁2を構成する複数の鋼管矢板のうちの1つの鋼管矢板21の頭部の内側に嵌合する嵌合部材43(スタビングとも呼ばれる)を含む。この場合、梁6は、ジャケットレグ42,52の間に配置される部分(第1の連結部材)と、ジャケットレグ42と嵌合部材43との間に配置される部分(第2の連結部材)とを含む。既に述べたように、他の実施形態では例えば鋼矢板、H形鋼、または鉄筋コンクリートなどで構成される土留壁が用いられるが、これらの場合、土留壁に適宜の方法で連結され、ジャケットレグ42を土留壁に繋ぐ部分(第2の連結部材)を含む梁6が配置されてもよい。
【0035】
上記のような構造によって、支持杭構造体の一部として機能する鋼管矢板31に対する部材応力や曲げモーメントの集中を緩和することができる。土留壁2が受けた土圧が鋼管矢板列3のそれぞれの鋼管矢板に作用する圧縮力や鋼管矢板同士の間のせん断力によってのみ支持杭構造体4に伝達される場合、最終的に控え杭構造体5によって負担される力であっても鋼管矢板31からジャケットレグ42を介して梁6に伝達されるため、鋼管矢板31に作用する部材応力や曲げモーメントが大きくなりやすい。これに対して、上記の例のように梁6を用いて土留壁2が受けた土圧をジャケットレグ42,52に直接的に伝達する場合、控え杭構造体5によって負担される力は鋼管矢板31を経由することなく梁6に伝達されるため、鋼管矢板31に作用する部材応力や曲げモーメントを低減することができる。また、梁6が土留壁2まで延びることによって岸壁構造1Aの上面に平坦な基礎ができ、床版などの上部構造物を設置しやすくなる。
【0036】
さらに、鋼管矢板列3の鋼管矢板に作用する圧縮力や鋼管矢板同士の間のせん断力が低減されることによって、鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板(鋼管矢板32,33)や継手の設計も容易になる。具体的には、本実施形態において、土留壁2と鋼管矢板31との間に配置される鋼管矢板32,33は、頭部を梁6(第2の連結部材の部分)から離隔して配置することができる。これは、梁6が延びていない場合には鋼管矢板32,33の上部を介して土留壁2の土圧による大きな力が伝達されるために頭部を土留壁2や鋼管矢板31と同じ高さにする必要があるのに対し、梁6が土留壁2に連結される場合には梁6を介して力が伝達され、鋼管矢板32,33の頭部を梁6と同じ高さまで延ばす必要がないためである。鋼管矢板32,33の頭部は例えば鋼管矢板31よりも5m~6m低くすることが可能である。これによって鋼材量が節約されるのに加えて、鋼管矢板32,33を頭部まで地中に埋設することで、鋼部材が海岸近くで地表に露出される場合に必要な防食塗装を省略することができる。
【0037】
図9Aおよび図9Bは、本発明の第1および第2の実施形態に係る岸壁構造(例1および例2)について、フレーム解析によって算出した変位量を比較して示す図である。解析条件は以下のとおりである。土留壁2を構成する鋼管矢板21、および鋼管矢板列3を構成する鋼管矢板32,33は、直径1100mm、管厚16mm、長さ27.9m、根入れ深さ11mとした。バネ要素である継手の反力係数は、圧縮について49033kN/m、せん断について588397kN/mとした。支持杭構造体としても機能する鋼管矢板31は、直径1100mm、管厚12mm、長さ46.3m、根入れ深さ29.4mとした。ジャケットレグ42の長さは5.4mとし、鋼管矢板31にジャケットレグ42が嵌合する区間では管厚を50mmとして計算した。控え杭51は、直径1800mm、管厚30mm、鉛直方向での高さ46.6m、鉛直方向での根入れ深さ30.2mとした。ジャケットレグ52の鉛直方向での高さは14.3mとし、控え杭51にジャケットレグ52が嵌合する区間では管厚を54mmとして計算した。梁6には、HY800×400×16×32のH形鋼を用いた。また、ジャケットレグ42に近い梁6とジャケットレグ52の先端近くとが、直径1016mm、管厚12.7mmの鋼管を用いたブレースによって連結されるものとした。例1では梁6がジャケットレグ42よりも土留壁側には延長されないのに対して、例2では図8に示したように梁6がジャケットレグ42を越えて延長され、土留壁2に連結されるものとした。
【0038】
上記のような条件で、土留壁2の上端から深さ13.8mまでの領域に合計2340kNの土圧が作用するものとし、また岸壁構造の上面に上部構造物の自重および積載荷重で21.86kN/mの応力がかかるものとした。岸壁構造の上面は、例1では梁6および鋼管矢板32,33によって支持され、例2では梁6によって支持される。図9Aおよび図9Bは、それぞれ例1および例2の場合の変位量を色の濃さで表現するとともに、鉛直断面内での変位を20倍に拡大して示す図である。これらの図に示されるように、ジャケットレグ42と土留壁2とを梁6で連結した例2では、そうしない例1に比べて土留壁2および鋼管矢板列3の上部への変位量の集中が緩和され、変位が全体に分散して生じていることがわかる。例1では図9Aに矢印で示す位置で鋼管矢板31に156.2kN/mの最大曲げモーメントが発生したが、例2ではこれを78.3kN/mまで低減させることができた。
【0039】
さらに、上記の例1および例2に加えて、同じ条件で鋼管矢板32,33の頭部を梁6よりも低くした2つの例について、各部材の応力度(UC)を算出した。具体的には、鋼管矢板32,33の頭部を梁6よりも1m低くした例(例3)および同じく6m低くした例(例4)について解析を実施した。結果を表1に示す。なお、表中で「控え杭レグ」はジャケットレグ52を意味し、「支持杭レグ」はジャケットレグ42を意味する。「支持杭」は鋼管矢板31を意味する。また、「鋼管矢板」は、鋼管矢板列を構成する鋼管矢板32,33の中で最大の応力度を意味する。
【0040】
【表2】
【0041】
上記の表2に示された結果からわかるように、ジャケットレグを土留壁に連結することによって、支持杭(鋼管矢板31)および鋼管矢板列を構成する鋼管矢板(鋼管矢板32,33)にかかる応力を控え杭に分散させる効果が得られ、特に支持杭に生じる応力度を半分以上まで抑制することが可能である。この効果は、鋼管矢板の頭部を梁よりも低くした場合にも同様に得られる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1,1A…岸壁構造、2…土留壁、21…鋼管矢板、3…鋼管矢板列、31…鋼管矢板(支持杭)、32,33…鋼管矢板、34…継手、341…雌側継手部材、342…雄側継手部材、343…充填材、344A,344B…ずれ止め、4…支持杭構造体、42…ジャケットレグ、5…控え杭構造体、51…控え杭、52…ジャケットレグ、6…梁、S1…区間、W…壁体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B